以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下に説明する各図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。また、本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
<複合粒子>
まず、図1,2に基づいて、複合粒子5について説明する。図1に示すように、複合粒子5は、粒状をなす少なくとも一種類の樹脂3を含み、粒状の樹脂3の表面に、繊維であるセルロース繊維を微細化した微細繊維である微細化セルロース繊維(セルロースナノファイバ:CNF)1により構成された微細繊維層である被覆層を有し、樹脂3と微細化セルロース繊維1とが結合して不可分の状態となったものである。
前記複合粒子5は、図2に示すように、微細化セルロース繊維1の分散液4に粒状となって分散している樹脂3の表面(界面)に微細化セルロース繊維1が吸着することによって、作製される。
<機能性複合粒子>
続いて、本実施形態に係る機能性複合粒子6について説明する。図3,4は、微細化セルロース繊維1と樹脂3とを用いた複合粒子5に、抗菌性や抗カビ性などの機能性を有する機能性材料である有機化合物や無機微粒子などにより構成される機能成分である抗菌・抗カビ成分2を含ませた機能性複合粒子6の概略図である。
機能性複合粒子6には、抗菌性や抗カビ性などの機能性を有する機能性材料である有機化合物や無機微粒子などにより構成される機能成分である抗菌・抗カビ成分2が含まれている。機能性複合粒子6に抗菌・抗カビ成分2を含ませる方法としては、本発明を逸脱しない限りにおいて何れの方法を適用することが可能である。
たとえば、図4に示すように、微細化セルロース繊維1の表面に抗菌・抗カビ成分2を吸着させることが挙げられる。このような機能性複合粒子6は、図5に示すように、微細化セルロース繊維1の分散液4中で微細化セルロース繊維1に抗菌・抗カビ成分2を先に吸着させることにより、複合粒子5を形成する手法で作製することができる(詳しくは後述する「第二の実施形態」参照)。
また、図6に示すように、複合粒子5を分散させた溶媒中で抗菌・抗カビ成分2を微細化セルロース繊維1の表面に吸着や析出させることにより固定化する手法で作製することもできる(詳しくは後述する「第三の実施形態」参照)。
また、図3に示すように、樹脂3の内部に抗菌・抗カビ成分2を含有させることも挙げられる(詳しくは後述する「第一の実施形態」参照)。このような機能性複合粒子6は、樹脂3の内部に抗菌・抗カビ成分2を予め混合しておくことにより、抗菌・抗カビ成分2を含ませることが容易にできる。
また、機能性複合粒子6は微細化セルロース繊維1によって安定化され、球状となることが特徴である。詳細には、球状の樹脂3の表面に微細化セルロース繊維1からなる被覆層が比較的均一な厚みで形成された様態となる。被覆層の平均厚みは、複合粒子5を包埋樹脂で固定したものをミクロトームで切削して走査型電子顕微鏡観察を行い、画像中の機能性複合粒子6の断面像における被覆層の厚みを画像上で100箇所ランダムに測定し、平均値を取ることで算出できる。
また、機能性複合粒子6は比較的揃った厚みの被覆層で均一に被覆されていることが特徴であり、具体的には上述した被覆層の厚みの値の変動係数は0.5以下となることが好ましく、0.4以下となることがより好ましい。
なお、本実施形態における微細化セルロース繊維1は特に限定されないが、結晶表面にイオン性官能基を有しており、当該イオン性官能基の含有量が、セルロース1g当たり0.1mmol以上5.0mmol以下であることが好ましい。
さらに、微細化セルロース繊維1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であることが好ましい。具体的には、微細化セルロース繊維1は繊維状であって、数平均短軸径が1nm以上1000nm以下、数平均長軸径が50nm以上であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の5倍以上であることが好ましい。また、微細化セルロース繊維1の結晶構造は、セルロースI型であることが好ましい。
<機能性複合粒子の製造方法(第一の実施形態)>
次に、本発明に係る機能性複合粒子の製造方法の第一の実施形態について説明する。
本実施形態に係る機能性複合粒子の製造方法は、セルロース繊維を溶媒中で解繊して得られる微細化セルロース繊維1の分散液を得る工程(第1A工程)と、抗菌・抗カビ成分2と樹脂3との混合物と上記分散液とを混合することにより、当該混合物を微細化セルロース繊維1で被覆した機能性複合粒子6のエマルションを得る工程(第2A工程)と、エマルションから機能性複合粒子6を取り出す工程(第3A工程)とを具備する。
上記機能性複合粒子6は、第2A工程において分散体として得られる。さらに第3A工程において溶媒を除去することにより乾燥固形物として得られる。溶媒の除去方法は特に限定されず、例えば遠心分離法やろ過法によって余剰の水分を除去し、さらにオーブンでの熱乾燥や風乾することで乾燥固形物として得ることができる。
この際、得られる乾燥固形物は膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。この理由としては、定かではないものの、微細化セルロース繊維1の分散液4から溶媒を除去すると、微細化セルロース繊維1同士が強固に凝集して膜化することが一般に知られているが、機能性複合粒子6を含む分散液4の場合、微細化セルロース繊維1が表面に固定化された球状の機能性複合粒子6であることから、溶媒を除去しても微細化セルロース繊維1同士が凝集することなく、機能性複合粒子6間の点と点で接するのみであるため、その乾燥固形物は肌理細やかな粉体として得られるからと考えられる。
このように本実施形態に係る機能性複合粒子6は肌理細やかな粉体として利用可能である。この際、用いる微細化セルロース繊維1の結晶表面にイオン性官能基が導入されていると、複合粒子5の表面にイオン性官能基が選択的に配置されることになり、浸透圧効果により複合粒子5間に溶媒が侵入しやすくなり分散安定性がより向上するため好ましい。
以下に、各工程について、詳細に説明する。
《第1A工程》
第1A工程はセルロース繊維を溶媒中で解繊して微細化セルロース繊維1の分散液4を得る工程である。
まず、各種セルロース繊維を溶媒中に分散し、懸濁液とする。
懸濁液中のセルロース繊維の濃度としては0.1%以上10%未満が好ましい。0.1%未満であると、溶媒過多となり生産性を損なうため好ましくない。10%以上になると、セルロース繊維の解繊に伴い懸濁液が急激に増粘し、均一な解繊処理が困難となるため好ましくない。
懸濁液の作製に用いる溶媒としては、水を50%以上含むことが好ましい。懸濁液中の水の割合が50%未満になると、後述する、セルロース繊維を溶媒中で解繊して微細化セルロース繊維1の分散液4を得る工程において、微細化セルロース繊維1の分散が阻害され易くなる。
また、水以外に含まれる溶媒としては親水性溶媒が好ましい。親水性溶媒については特に制限はないが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。必要に応じて、セルロース繊維や生成する微細化セルロース繊維1の分散性を上げるために、懸濁液のpH調整を行うと好ましい。
pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
続いて、懸濁液に物理的解繊処理を施して、セルロース繊維を微細化する。物理的解繊処理の方法としては特に限定されないが、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突などの機械的処理が挙げられる。
このような物理的解繊処理を行うことで、懸濁液中のセルロース繊維が微細化され、その構造の少なくとも一辺をナノメートルオーダーとした微細化セルロース繊維1の分散液4を得ることができる。また、このときの物理的解繊処理の時間や回数により、得られる微細化セルロース繊維1の数平均短軸径および数平均長軸径を調整することができる。
上記のようにして、その構造の少なくとも一辺をナノメートルオーダーにまで微細化した微細化セルロース繊維1の分散体(微細化セルロース繊維1の分散液4)を得ることができる。得られた分散液4は、そのまま、または希釈や濃縮等を行って、樹脂3に被覆層として用いることができる。
また、微細化セルロース繊維1の分散液4は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、セルロースおよびpH調整に用いた成分以外の他の成分を含有してもよい。上記他の成分としては、特に限定されず、複合粒子5の用途等に応じて、公知の添加剤のなかから適宜選択できる。
具体的には、アルコキシシラン等の有機金属化合物またはその加水分解物、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸化物等が挙げられる。
通常、微細化セルロース繊維1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であるため、本実施形態に係る製造方法に用いる微細化セルロース繊維1としては、以下に示す範囲にある繊維形状のものが好ましい。すなわち、微細化セルロース繊維1の形状としては、繊維状であることが好ましい。また、繊維状の微細化セルロース繊維1は、短軸径において数平均短軸径が1nm以上1000nm以下であると好ましく、2nm以上500nm以下であるとさらに好ましい。
ここで、数平均短軸径が1nm未満であると、微細化セルロース繊維1が高結晶性の剛直な構造となり難く、機能性複合粒子6を成型しても、内容物の樹脂3を安定して被覆することが難しくなってしまう。他方、数平均短軸径が1000nmを超えると、サイズが大きくなり過ぎて、エマルションが安定化し難くなってしまい、得られる機能性複合粒子6のサイズや形状を制御することが難しくなってしまう。
また、数平均長軸径においては特に制限はないが、数平均短軸径の5倍以上であると好ましい。数平均長軸径が数平均短軸径の5倍未満であると、機能性複合粒子6のサイズや形状を十分に制御することが難しくなってしまう。
なお、微細化セルロース繊維1の数平均短軸径は、透過型電子顕微鏡や原子間力顕微鏡での観察により100本の繊維の短軸径(最小径)を測定し、その平均値として求められる。一方、微細化セルロース繊維1の数平均長軸径は、透過型電子顕微鏡や原子間力顕微鏡での観察により100本の繊維の長軸径(最大径)を測定し、その平均値として求められる。
微細化セルロース繊維1の原料として用いることができるセルロース繊維の種類や結晶構造も特に限定されない。具体的には、セルロースI型結晶からなる原料としては、例えば、木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースを用いることができる。
さらには、セルロースII型結晶からなるレーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロースも用いることができる。材料調達の容易さから、木材系天然セルロースを原料とすることが好ましい。木材系天然セルロースとしては、特に限定されず、針葉樹パルプや広葉樹パルプ、古紙パルプなど、一般的にCNFの製造に用いられるものを適用することができる。精製および微細化のしやすさから、針葉樹パルプが好ましい。
さらにセルロース繊維は化学改質されていることが好ましい。より具体的には、セルロース繊維の結晶表面にイオン性官能基が導入されていることが好ましい。セルロース繊維の結晶表面にイオン性官能基が導入されていることによって浸透圧効果でセルロース繊維の結晶間に溶媒が浸入しやすくなり、セルロース繊維の微細化が進行しやすくなるためである。
セルロース繊維の結晶表面に導入されるイオン性官能基の種類や導入方法は特に限定されないが、カルボキシ基やリン酸基が好ましい。セルロース繊維の結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基が好ましい。
セルロース繊維の結晶表面にカルボキシ基を導入する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、高濃度のアルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させてカルボキシメチル化を行うことにより得ることができる。また、オートクレーブ中でガス化させたマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースとを直接反応させてカルボキシ基を導入することも可能である。
さらには、水系の比較的温和な条件で、可能な限り構造を保ちながら、アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い、TEMPOをはじめとするN−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法を適用することも可能である。カルボキシ基導入部位の選択性および環境負荷低減のためにはN−オキシル化合物を用いた酸化がより好ましい。
ここで、N−オキシル化合物としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシラジカル)、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、等が挙げられる。そのなかでも、反応性が高いTEMPOが好ましい。N−オキシル化合物の使用量は、触媒として適切な量であり、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して0.01〜5.0質量%程度である。
N−オキシル化合物を用いた酸化方法としては、例えば木材系天然セルロース繊維を水中に分散させ、N−オキシル化合物の共存下で酸化処理する方法が挙げられる。このとき、N−オキシル化合物とともに、共酸化剤を併用することが好ましい。この場合、反応系内において、N−オキシル化合物が順次共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩が生成し、上記オキソアンモニウム塩によりセルロース繊維が酸化される。
この酸化処理によれば、温和な条件でも酸化反応を円滑に進行させることができ、カルボキシ基の導入効率を向上させることができる。酸化処理を温和な条件で行うと、セルロース繊維の結晶構造を容易に維持できるようになる。
共酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、酸化反応を推進することが可能であれば、いずれの酸化剤も用いることができる。入手の容易さや反応性から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。上記共酸化剤の使用量は、酸化反応の促進が可能な量であり、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロース繊維の固形分に対して1〜200質量%程度である。
また、N−オキシル化合物および共酸化剤とともに、臭化物およびヨウ化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物をさらに併用することも可能である。これにより、酸化反応をさらに円滑に進行させることができ、カルボキシ基の導入効率を向上させることができる。
このような化合物としては、臭化ナトリウムまたは臭化リチウムが好ましく、コストや安定性から、臭化ナトリウムであると、より好ましい。化合物の使用量は、酸化反応の促進が可能な量であり、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロース繊維の固形分に対して1〜50質量%程度である。
酸化反応の反応温度は、4〜80℃であると好ましく、10〜70℃であるとより好ましい。4℃未満であると、試薬の反応性が低下し反応時間が長くなってしまい、あまり好ましくない。他方、80℃を超えると、副反応を促進し易くなって、試料の低分子化を引き起こし易くなり、微細化セルロース繊維1が高結晶性の剛直な構造となり難く、良好な機能性複合粒子6を得ることが難しくなってしまう。
また、酸化処理の反応時間は、反応温度、所望のカルボキシ基量等を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、通常、10分〜5時間程度である。
酸化反応時の反応系のpHは特に限定されないが、9〜11が好ましい。pHが9以上であると、反応を効率良く進めることができる。pHが11を超えると、副反応が進行し易くなり、試料の分解が促進されてしまうおそれがある。また、酸化処理においては、酸化が進行するにつれて、カルボキシ基が生成することにより系内のpHが低下してしまうため、酸化処理中、反応系のpHを9〜11に保つことが好ましい。反応系のpHを9〜11に保つ方法としては、pHの低下に応じてアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
N−オキシル化合物による酸化反応は、反応系にアルコールを添加することにより停止させることができる。このとき、反応系のpHは上記の範囲内に保つことが好ましい。添加するアルコールとしては、反応をすばやく終了させるためメタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量のアルコールが好ましく、反応により生成される副産物の安全性などから、エタノールが特に好ましい。
酸化処理後の反応液は、そのまま微細化工程に供することも可能であるが、N−オキシル化合物等の触媒や不純物等を除去するために、反応液に含まれる酸化セルロース繊維を回収し、洗浄液で洗浄すると好ましい。酸化セルロース繊維の回収は、ガラスフィルターや20μm孔径のナイロンメッシュを用いたろ過等の公知の方法により実施できる。酸化セルロース繊維の洗浄に用いる洗浄液としては純水が好ましい。
得られたTEMPO酸化セルロース繊維に対し解繊処理を行うと、3nmの均一な繊維幅を有する微細化セルロース繊維1が得られる。微細化セルロース繊維1を機能性複合粒子6の原料として用いると、その均一な構造に由来して、得られる機能性複合粒子6の粒径も均一になり易い。
以上のように、本実施形態で用いられる微細化セルロース繊維1は、原料のセルロース繊維を酸化する工程と、酸化されたセルロース繊維を微細化して分散液化する工程と、によって得ることができる。また、微細化セルロース繊維1に導入するカルボキシ基の含有量としては、0.1mmol/g以上5.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下であると、より好ましい。この範囲であると、機能性複合粒子6の組成物として用いた際、機能性複合粒子6の分散安定性を向上させることができる。
ここで、カルボキシ基量が0.1mmol/g未満であると、セルロースミクロフィブリル間に浸透圧効果による溶媒進入作用が働き難くなるため、セルロースを微細化して均一に分散させることが難くなってしまう。また、5.0mmol/gを超えると、化学処理に伴う副反応によるセルロース繊維の低分子化が生じ易くなるため、微細化セルロース繊維1が高結晶性の剛直な構造をとり難くなってしまい、良好な機能性複合粒子6を得ることが難しくなってしまう。
≪第2A工程≫
第2A工程は、抗菌性や抗カビ性を有する有機化合物又は無機微粒子から構成される抗菌・抗カビ成分2と樹脂3との混合物と前記分散液4とを混合することにより、当該混合物を微細化セルロース繊維1で被覆した機能性複合粒子6のエマルションを得る工程である。
具体的には第1A工程で得られた微細化セルロース繊維1の分散液4に抗菌・抗カビ成分2と樹脂3との混合物を添加し、分散させ、さらに分散された抗菌・抗カビ成分2と樹脂3との混合物の表面を微細化セルロース繊維1によって被覆し、エマルションとする工程である。
樹脂3と抗菌・抗カビ成分2との混合物を分散させる方法としては特に限定されないが、一般的な分散処理、例えば各種ホモジナイザー処理や機械攪拌処理を用いることができ、具体的には高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、万能ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突、ペイントシェイカーなどの機械的処理が挙げられる。また、複数の機械的処理を組み合わせて用いることも可能である。
例えば超音波ホモジナイザーを用いる場合、第1A工程にて得られた微細化セルロース繊維1の分散液4に対し抗菌・抗カビ成分2と樹脂3との混合物を添加して混合溶媒とし、混合溶媒に超音波ホモジナイザーの先端を挿入して超音波処理を実施する。超音波ホモジナイザーの処理条件としては特に限定されないが、例えば周波数は20kHz以上が一般的であり、出力は10W/cm2以上が一般的である。処理時間についても特に限定されないが、通常10秒から1時間程度である。
上記超音波処理により、微細化セルロース繊維1の分散液4中に抗菌・抗カビ成分2と樹脂3との混合物が分散してエマルション化が進行し、表面に微細化セルロース繊維1が吸着する。
エマルションの構造は、光学顕微鏡での観察により確認することができる。機能性複合粒子6の粒径サイズは特に限定されないが、通常0.1μm〜1000μm程度である。
エマルションの構造において、抗菌・抗カビ成分2と樹脂3との混合物の表面に形成される微細化セルロース繊維1の被覆層の厚みは特に限定されないが、通常3nm〜1000nm程度である。微細化セルロース繊維1の被覆層の厚みは、例えばクライオTEMを用いて計測することができる。
第2A工程で用いることができる樹脂3の種類としては、ポリマーの単量体であって、その構造中に重合性の官能基を有し、常温で液体であって、水と相溶せず、重合反応によってポリマー(高分子重合体)を形成できるものであれば特に限定されない。重合性モノマーは少なくとも一つの重合性官能基を有する。重合性官能基を一つ有する重合性モノマーは単官能モノマーとも称する。また、重合性官能基を二つ以上有する重合性モノマーは多官能モノマーとも称する。
重合性モノマーの種類としては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系モノマー、ビニル系モノマーなどが挙げられる。また、エポキシ基やオキセタン構造などの環状エーテル構造を有する重合性モノマー(例えばε−カプロラクトン等)を用いることも可能である。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」の表記は、「アクリル」と「メタクリル」の両方を含むことを示し、「(メタ)アクリレート」の表記は、「アクリレート」と「メタクリレート」との両方を含むことを示す。
単官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−アダマンタンおよびアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレートなどのアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
2官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ−ルジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2−ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε−カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
単官能のビニル系モノマーとしては例えば、ビニルエーテル系、ビニルエステル系、芳香族ビニル系、特にスチレンおよびスチレン系モノマーなど、常温で水と相溶しない液体が好ましい。
単官能ビニル系モノマーのうち(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロデシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
また、単官能芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロペニルトルエン、イソブチルトルエン、tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレンなどが挙げられる。
多官能のビニル系モノマーとしてはジビニルベンゼンなどの不飽和結合を有する多官能基が挙げられる。常温で水と相溶しない液体が好ましい。
例えば多官能性ビニル系モノマーとしては、具体的には、(1)ジビニルベンゼン、1,2,4−トリビニルベンゼン、1,3,5−トリビニルベンゼン等のジビニル類、(2)エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−プロピレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート類、(3)トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート類、(4)エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ジプロピレングリコールジアクリレート、1,4−ジブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキシレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2−ビス(4−アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート類、(5)トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチロールエタントリアクリレート等のトリアクリレート類、(6)テトラメチロールメタンテトラアクリレート等のテトラアクリレート類、(7)その他に、例えばテトラメチレンビス(エチルフマレート)、ヘキサメチレンビス(アクリルアミド)、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートが挙げられる。
例えば官能性スチレン系モノマーとしては、具体的には、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン、ビス(ビニルフェニル)ブタン等が挙げられる。
また、これらの他にも重合性の官能基を少なくとも1つ以上有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができ、特にその材料を限定しない。
上記重合性モノマーは単独又は2種類以上を組み合わせて用いることが可能である。
第2A工程において用いることができる微細化セルロース繊維1の分散液4と樹脂3との重量比については特に限定されないが、微細化セルロース繊維1の分散液4の100質量部に対し、樹脂3が1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。樹脂3が1質量部未満となると、機能性複合粒子6の収量が低下するため好ましくなく、50質量部を超えると、樹脂3を微細化セルロース繊維1で均一に被覆することが困難となり好ましくない。
また、樹脂3には予め重合開始剤を含ませることも可能である。一般的な重合開始剤としては有機過酸化物やアゾ重合開始剤などのラジカル開始剤が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えばパーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシエステルなどが挙げられる。
アゾ重合開始剤としては、例えば、2,2−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル−2,2−アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4−アゾビス(4−シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、2,2−アゾビス(2−メチルブチルアミド)、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2−メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、2,2−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
第2A工程において用いることができる重合性モノマーと重合開始剤との重量比については特に限定されないが、通常、重合性モノマー100質量部に対し、重合性開始剤が0.1質量部以上であることが好ましい。重合性モノマーが0.1質量部未満となると、重合反応が充分に進行せずに複合粒子5の収量が低下するため好ましくない。
また、第2A工程で用いることができる樹脂3としては、既存の樹脂を各種溶媒に溶解させた、溶解樹脂液滴を適用することも可能である。例えば微細化セルロース繊維1の分散液4への相溶性が低い溶媒に既存の樹脂を溶解させて溶解液とし、前述のように超音波ホモジナイザー等による機械処理を加えながら微細化セルロース繊維1の分散液4に前記溶解液を添加することによって、エマルションとして安定化させると好ましい。
具体的な樹脂としては、例えばセルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースアセテート誘導体、キチン、キトサン等の多糖類、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリ乳酸類;ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル類、ポリカプロラクトン、カプロラクトンとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリカプロラクトン類、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリヒドロキシブチレート類、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等の脂肪族ポリエステル類、ポリアミノ酸類、ポリエステルポリカーボネート類、ロジン等の天然樹脂等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。
また、前記樹脂を溶解させる溶媒としては、微細化セルロース繊維1の分散液4への相溶性の低い溶媒が好ましい。水への溶解度が高い場合、溶解樹脂液滴相から水相へ溶媒が容易に溶解してしまい、粒子化が難しくなってしまう。一方で、水への溶解性がない溶媒の場合、溶解樹脂液滴相から水相へ溶媒が移動することができず、エマルションが得られなくなってしまう。
具体的には、20℃における水1Lへの溶解量は、500g以下が好ましく、300g以下であると、より好ましい。また、前記溶媒の沸点は、90℃以下が好ましい。沸点が90℃より高い場合、前記溶媒よりも先に微細化セルロース繊維1の分散液4が蒸発し易くなり、エマルションを得ることが困難となってしまう。前記溶媒としては、具体的にはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどが挙げられる。
さらに、第2A工程においては、樹脂3として、溶媒を用いずに樹脂そのものを溶融させた溶融樹脂を適用することも可能である。例えば常温で固体の樹脂を溶融させて液体(溶融液)とし、前述のように超音波ホモジナイザー等による機械処理を加えながら、樹脂が溶融状態を維持できる温度まで加熱した前記分散液4に前記溶融液を添加することによって、当該分散液4中でエマルションとして安定化させると好ましい。
また、樹脂3には、抗菌・抗カビ成分2を含むことが好ましい。抗菌・抗カビ成分2は、一種類はもちろんのこと、異なる二種類以上の成分を含ませることも可能である。種類には特に限定はなく、一般的に抗菌剤や抗カビ剤として使用される化合物を使用することができる。
具体的には、有機化合物のものとしては、メチル=(E)-2-{2-[6-(2-シアノフェノキシ)ピリミジン-4-イルオキシ]フェニル}-3-メトキシアクリラート、N-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)アニリン、4-(2,2-ジフルオロ-1,3-ベンゾジオキソール-4-イル)ピロール-3-カルボニトリル、オルトフェニルフェノール、ビフェニル、1-[2-(アリルオキシ)-2-(2,4-ジクロロフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(別名:1-[β-(アリルオキシ)-2,4-ジクロロフェネチル]-1H-イミダゾール)、1,2-チアゾール-3-オン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、2,4,5,6-テトラクロロ-1,3-ベンゼンジカルボニトリル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-メシルピリジン、メチル N-(1H-ベンツイミダゾール-2-yl)カーバメート、2-(ジクロロ-フルオロメチル)スルファニルイソインドール-1,3-ジオン、1-(ジヨードメチルスルホニル)-4-メチルベンゼン、10,10'-オキシビス-10H-フェノキシアルシン、3,4',5-トリブロモサリチルアニリド、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾールなどが挙げられる。また、無機微粒子のものとしては、白金、金、銀、カルシウムなどが挙げられる。
樹脂3に含まれる抗菌・抗カビ成分2の含有量としては、機能性複合粒子6全体に対する重量比率が1%以上80%以下であることが好ましい。抗菌・抗カビ成分2の割合が1%未満であると、抗菌性や抗カビ性の機能性を十分に得にくくなってしまい、80%を超えると、機能性複合粒子6から脱落してしまったり、機能性複合粒子6の形態が十分に維持できなくなったりする可能性がある。
樹脂3に抗菌・抗カビ成分2を含有させる方法は、特に限定されない。たとえば、樹脂3に抗菌・抗カビ成分2を直接混合することや、溶媒に抗菌・抗カビ成分2を先に分散させた後、当該溶媒に樹脂3を混合することが可能である。
また、樹脂3を各種溶媒に溶解させた、溶解樹脂液滴を適用する場合、樹脂3を溶解させる溶媒中に抗菌・抗カビ成分2を予め分散させておくことや、樹脂3を溶解させる溶媒と異なる溶媒に抗菌・抗カビ成分2を分散させた後、樹脂3を溶解させた溶媒に混合することや、樹脂3を溶解させた溶媒(溶解樹脂)中に抗菌・抗カビ成分2を混合することが可能である。
また、溶媒を用いずに樹脂そのものを溶融させた溶融樹脂を適用する場合、抗菌・抗カビ成分2を予め分散させた溶媒を溶融樹脂に混合することや、溶媒を用いずに抗菌・抗カビ成分2を溶融樹脂の液滴に直接混合することが可能である。
≪第3A工程≫
第3A工程は、エマルションから機能性複合粒子6を取り出す工程である。
樹脂3を固体化する方法については特に限定されず、用いた重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類等によって適宜選択可能であるが、例えば懸濁重合法が挙げられる。
具体的な懸濁重合の方法についても特に限定されず、公知の方法を用いて実施することができる。例えば第2A工程で作製された、重合開始剤を含む樹脂3が微細化セルロース繊維1によって被覆され安定化したエマルションを攪拌しながら加熱することによって実施することができる。攪拌の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができ、具体的にはディスパーや攪拌子を用いることができる。
また、攪拌せずに加熱処理のみを行うことも可能である。加熱時の温度条件については重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類等によって適宜設定することが可能であるが、20℃以上150℃以下が好ましい。20℃未満であると、重合の反応速度が低下するため好ましくなく、150℃を超えると、微細化セルロース繊維1が変性する可能性があるため好ましくない。重合反応に供する時間は重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類等によって適宜設定することが可能であるが、通常1時間〜24時間程度である。
また、重合反応は電磁波の一種である紫外線照射処理によって実施することが可能である。また、電磁波以外にも電子線などの粒子線を用いることも可能である。重合反応において酸素阻害が生じる場合、反応系内の雰囲気を不活性ガスに置換したり、微細化セルロース繊維1の分散液4中の酸素を除去したりすると、好ましい。
また、樹脂3を固体化する方法については特に限定されない。例えば樹脂3を溶媒に溶解した溶解樹脂液滴を用いた場合、微細化セルロース繊維1の分散液4中でエマルションが形成された後、前述のように水への溶解性の低い溶媒が経時的に水相へ次第に拡散して行くことにより、溶解樹脂を析出させて粒子として固体化させることができる。
また、例えば樹脂3を加熱して液体化した溶融樹脂液滴を用いた場合、微細化セルロース繊維1の分散液4中でエマルションが形成された後、該エマルションを冷却することにより、溶融樹脂液滴を粒子として固体化することができる。
上述の工程を経て、樹脂3と抗菌・抗カビ成分2とが微細化セルロース繊維1によって被覆された球状の機能性複合粒子6を得ることができる。
なお、機能性複合粒子6を作製する際、分散液4中に多量の水と機能性複合粒子6の被覆層の形成に寄与せずに遊離した微細化セルロース繊維1とが混在した状態となっていることから、作製した機能性複合粒子6を分散液4中から回収して精製する必要がある。回収方法や精製方法としては、遠心分離による洗浄またはろ過洗浄が好ましい。
遠心分離による洗浄方法としては公知の方法を用いることができ、具体的には遠心分離によって機能性複合粒子6を沈降させて上澄みを除去し、水とメタノールとの混合溶液に再分散することを繰り返し、最終的に遠心分離によって得られた沈降物から残留溶媒を除去して機能性複合粒子6を精製回収することができる。
ろ過洗浄についても公知の方法を用いることができ、例えば孔径0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製メンブレンフィルターを用いて水とメタノールとで吸引ろ過を繰り返し、最終的にメンブレンフィルター上に残留したペーストからさらに残留溶媒を除去して機能性複合粒子6を精製回収することができる。
残留溶媒の除去方法は特に限定されず、風乾やオーブンなどの簡便な熱乾燥にて実施することが可能である。こうして得られた機能性複合粒子6を含む乾燥固形物は上述のように膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。
得られた機能性複合粒子6から成る粉体は、表面に結合した微細化セルロース繊維1に由来した特性を有していることから、公知の種々のセルロース改質方法を利用して改質することが可能である。例えば、微細化セルロース繊維1の結晶表面にイオン性官能基を有する場合、末端アミノ化ポリエチレングリコール鎖を導入する方法や、4級アルキルアンモニウム塩を導入する方法等を適用して、疎水化変換することが可能である。
このように疎水化処理することにより、クロロホルムやトルエンなどの低極性の有機溶媒中でも高い分散安定性を発揮することができる。
また、機能性複合粒子6に含まれる抗菌・抗カビ成分2の量は、GC−MS、EGA−MS、TOF−SIMS、IRなど公知の分析方法により確認することができる。特に、GC−MSでは抗菌・抗カビ成分2に由来するピークを機能性複合粒子6から検出し易く、ピーク面積より成分量を容易に算出することができるので、抗菌・抗カビ成分2の評価方法として好適である。
なお、本発明における取り扱いが容易な新たな抗菌・抗カビ性を付与した機能性複合粒子の形態は、前記機能性複合粒子6を含む組成物であれば特に限定されるものではない。
<機能性複合粒子の製造方法(第二の実施形態)>
次に、本発明に係る機能性複合粒子の製造方法の第二の実施形態について説明する。本実施形態に係る機能性複合粒子6の製造方法は、第一の実施形態と同様に微細化セルロース繊維1の分散液4を得る工程(第1A工程)と、前記分散液4と抗菌・抗カビ成分2とを混合することにより、微細化セルロース繊維1に抗菌・抗カビ成分2を吸着させる工程(第2Ba工程)と、前記分散液4と樹脂3とを混合することにより、抗菌・抗カビ成分2を吸着させた微細化セルロース繊維1で樹脂3を被覆した機能性複合粒子6のエマルションを得る工程(第2Bb工程)と、エマルションから機能性複合粒子6を取り出す工程(第3A工程)とを具備する。
第2Ba工程においては、微細化セルロース繊維1の分散液4中に抗菌・抗カビ成分2を添加して5℃〜90℃の範囲で撹拌することにより、微細化セルロース繊維1の表面に抗菌・抗カビ成分2を吸着させる。この際、5℃以下であると、微細化セルロース繊維1が凝集し、後の工程でエマルションを形成し難くなってしまうため好ましくない。また、90℃以上であると、微細化セルロース繊維1の分散液4中の濃度が不安定となって凝集し易くなるため好ましくない。
微細化セルロース繊維1と混合する抗菌・抗カビ成分2の混合量としては、微細化セルロース繊維1に対する重量比率が1%以上200%以下であることが好ましい。抗菌・抗カビ成分2の割合が1%未満であると、抗菌性や抗カビ性の機能性を十分に得にくくなってしまい、200%を超えると、樹脂3から微細化セルロース繊維1が脱落してしまったり、機能性複合粒子6の形態が十分に維持できなくなったりする可能性がある。
このような抗菌・抗カビ成分2を吸着した微細化セルロース繊維1を用いて、第一の実施形態の製造方法の第2A工程の場合と同様に、樹脂3を被覆してエマルションを形成する(第2Bb工程)。そして、第一の実施形態の製造方法の第3A工程と同じく、エマルションから機能性複合粒子6を取り出して得ることができる。
<機能性複合粒子の製造方法(第三の実施形態)>
次に、本発明に係る機能性複合粒子の製造方法の第三の実施形態について説明する。本実施形態に係る機能性複合粒子6の製造方法は、第一の実施形態と同様に微細化セルロース繊維1の分散液4を得る工程(第1A工程)と、前記分散液4と樹脂3とを混合することにより、当該樹脂3を微細化セルロース繊維1で被覆した複合粒子5のエマルションを得る工程(第2C工程)と、エマルションから複合粒子5を取り出す工程(第3C工程)と、複合粒子5に抗菌・抗カビ成分2を吸着させて機能性複合粒子6を得る工程(第4C工程)とを具備する。
つまり、本実施形態に係る製造方法は、第一の実施形態に係る製造方法の第2A工程において、抗菌・抗カビ成分2を混合せず(第2C工程)、生成した複合粒子5を前記第3A工程と同様にしてエマルションから取り出してから(第3C工程)、複合粒子5に抗菌・抗カビ成分2を吸着させる(第4C工程)のである。
前記第4C工程は、第3C工程で得られた複合粒子5を任意の溶媒に分散させ、抗菌・抗カビ成分2と混合する。たとえば、溶媒に複合粒子5を分散させた後、当該溶媒に抗菌・抗カビ成分2を添加することや、抗菌・抗カビ成分2を予め溶解させた溶媒に複合粒子5を添加することにより、複合粒子5と抗菌・抗カビ成分2とを混合することができる。
このとき、系内の固形分濃度は30%以下であることが好ましい。30%を超えると、粘度が上昇して、抗菌・抗カビ成分2を均一に被覆した機能性複合粒子6を得ることが難しくなってしまう。
また、前記第4C工程は、5℃〜90℃の範囲で撹拌することにより、微細化セルロース繊維1の表面に抗菌・抗カビ成分2を吸着させて機能性複合粒子6を作製すると好ましい。5℃以下であると、凝集物を生じ易く、機能性複合粒子6を単離し難くなってしまうため好ましくない。他方、90℃以上であると、分散液4中の機能性複合粒子6の濃度が不安定となって凝集物を生じ易くなるため好ましくない。
微細化セルロース繊維1と混合する抗菌・抗カビ成分2の混合量としては、複合粒子5に対する重量比率が1%以上50%以下であることが好ましい。抗菌・抗カビ成分2の割合が1%未満であると、抗菌性や抗カビ性の機能性を十分に得にくくなってしまい、50%を超えると、微細化セルロース繊維1が抗菌・抗カビ成分2を過剰に担持してしまい、後の工程での加工性に難点を生じ易くなるため好ましくない。
なお、第4C工程において、機能性複合粒子6を作製する際、分散液4中に多量の水と機能性複合粒子6に吸着していない遊離した抗菌・抗カビ成分2とが混在した状態となっていることから、作製した機能性複合粒子6を精製して回収する必要がある。回収方法や精製方法としては、遠心分離による洗浄またはろ過洗浄が好ましい。
遠心分離による洗浄方法としては公知の方法を用いることができ、具体的には遠心分離によって機能性複合粒子6を沈降させて上澄みを除去し、水とメタノールとの混合溶液に再分散することを繰り返し、最終的に遠心分離によって得られた沈降物から残留溶媒を除去して機能性複合粒子6を精製回収することができる。
ろ過洗浄についても公知の方法を用いることができ、例えば孔径0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製メンブレンフィルターを用いて水とメタノールとで吸引ろ過を繰り返し、最終的にメンブレンフィルター上に残留したペーストからさらに残留溶媒を除去して機能性複合粒子6を精製回収することができる。
<機能性複合粒子6を利用するプラスチック成型体およびその製造方法>
本実施形態に係るプラスチック成型体は、前記機能性複合粒子6を含むことにより、抗菌性や抗カビ性が付与されたプラスチック組成物として提供される。使用される微細化セルロース繊維1の結晶表面にイオン性官能基が導入されていると、機能性複合粒子6の表面にイオン性官能基が配置されることより、機能性複合粒子6同士が電気的に反撥し合うため、機能性複合粒子6をプラスチック組成物中でも凝集させることなく、均一に分散させることができる。
前記プラスチック組成物を構成するプラスチックとしては、なんら制限はなく、例えばアクリル系樹脂、アルキド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ブロックイソシアネート、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース系樹脂などが挙げられる。また、これらのディスパージョン、エマルション、ミクロゲル等の形態であっても適用可能である。さらに、重合性モノマーや重合性オリゴマーなど重合体を形成しうる化合物や架橋剤等により架橋構造を形成しうる化合物を含むことも可能である。
成型方法としては、プラスチックの原料となるペレットや紛体と機能性複合粒子6との混合物を混錬し、溶融しながら押し出し成型する方法や、プラスチックの原料を溶解した溶液に機能性複合粒子6を混合し、これをキャストや塗工して製膜する方法等が挙げられる。いずれの成型方法でも、200℃以下の温度で加工することが好ましい。200℃を超えると、微細化セルロース繊維1や抗菌・抗カビ成分2が分解し易くなり、機能性の低下を引き起こし易くなってしまうため好ましくない。
また、フィルム状や板状に成型したプラスチックの表面に、機能性複合粒子6を含むコーティング液をコーティングしたり、機能性複合粒子6そのものを圧着したりすることにより、抗菌性や抗カビ性を付与したプラスチック組成物を得ることができる。
このような本実施形態に係るプラスチック成型体は、機能性複合粒子6に含まれる抗菌・抗カビ成分2に由来して良好な抗菌性や抗カビ性を発揮する。このように抗菌・抗カビ成分2を樹脂3の表面や内部に固定することにより、抗菌性や抗カビ性を持続的に発揮できる新規なプラスチック成型体を提供することができる。
以下、本発明に係る実施例を詳細に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の各例において、「%」は、特に断りのない限り、重量百分率(w/w%)を示す。
[実施例1(第一の実施形態)]
<セルロースナノファイバー(CNF)分散液を得る工程(第1A工程)>
≪木材セルロースのTEMPO酸化≫
セルロース繊維70gを蒸留水3500gに懸濁し、蒸留水350gにTEMPOを0.7g、臭化ナトリウムを7g溶解させた溶液を加え、20℃まで冷却した。ここに2mol/L、密度1.15g/mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液450gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。系内の温度は常に20℃に保ち、反応中のpHの低下は0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpH10に保ち続けた。
セルロースの重量に対して、水酸化ナトリウムの添加量の合計が3.50mmol/gに達した時点で、約100mLのエタノールを添加し反応を停止させた。その後、ガラスフィルターを用いて蒸留水によるろ過洗浄を繰り返し、酸化セルロース繊維を得た。
≪セルロース繊維のカルボキシ基量測定≫
上記TEMPO酸化で得た酸化セルロース繊維を固形分重量で0.1g量りとり、1%濃度で水に分散させ、塩酸を加えてpHを2.5とした。その後0.5M水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により、カルボキシ基量(mmol/g)を求めた。結果は1.6mmol/gであった。
≪セルロース繊維の解繊処理≫
上記TEMPO酸化で得たセルロース繊維10gを990gの蒸留水に分散させ、ジューサーミキサーで30分間微細化処理し、濃度1%のCNF分散液を得た。CNF分散液を光路長1cmの石英セルに入れ、分光光度計(島津製作所社製、「UV−3600」)を用いて分光透過スペクトルの測定を行ったところ、660nmで91%の透過率であり、CNF分散液は高い透明性を示した。また、CNF分散液に含まれるCNFの数平均短軸径は3nm、数平均長軸径は1110nmであった。
<エマルションを作製する工程(第2A工程)>
次に、重合性モノマーであるジビニルベンゼン(以下、「DVB」という。)100gに対し、重合開始剤である2、2−アゾビス−2、4−ジメチルバレロニトリル(以下、「ADVN」という。)を10g溶解させた。さらに抗菌・抗カビ成分としてメチル N−(1H−ベンツイミダゾール−2−yl)カーバメート20gを加えてスターラーで撹拌した。
得られたDVB/ADVN/抗菌・抗カビ成分の混合溶液全量を、濃度1%のCNF分散液400gに対し添加したところ、DVB/ADVN/抗菌・抗カビ成分混合溶液とCNF分散液とはそれぞれ透明性の高い状態で2層に分離した。
次に、上記2層分離した状態の混合液における上層の液面から超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、1〜数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
<微細化セルロース繊維で被覆された機能性複合粒子6を得る工程(第3A工程)>
エマルション分散液を、ウォーターバスを用いて70℃の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、重合反応を実施した。8時間処理後に上記分散液を室温まで冷却した。重合反応の前後で分散液の外観に変化はなかった。得られた分散液に対し、遠心力75,000gで5分間処理することにより、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、さらに孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水とメタノールとで繰り返し洗浄した。
こうして得られた精製・回収物を1%濃度で再分散させ、粒度分布計(日機装株式会社製、「NANOTRAC UPA−EX150」)を用いて粒径を評価したところ平均粒径2.1μmであった。次に精製・回収物を風乾し、さらに室温25度にて真空乾燥処理を24時間実施したところ、肌理細やかな乾燥粉体(機能性複合粒子6)が得られた。
<機能性複合粒子6を含むプラスチック成型体の製造>
機能性複合粒子6の乾燥体100gとポリスチレン樹脂(PSジャパン社製、「HF77」)のペレット900gとを混合し、二軸混練押し出し成型機にて200℃で膜厚が30μmとなるように押し出し成型し機能性複合粒子6を複合したプラスチック成型体(フィルム)を得た。
<機能性複合粒子6を含むプラスチック成型体の均一性>
得られたプラスチック成型体(フィルム)に対して、機能性複合粒子6の分布の均一性を目視評価し、機能性複合粒子6が均一に分布しているものを「〇」、機能性複合粒子6が凝集しているものを「×」とした。試験結果は表1に示した。
<抗菌性の評価>
クロコウジカビ(Aspergillus niger)、アオカビ(Penicil lium citrinum)、クロカビ(Cladosporium cladospo rioides)の混合菌106 個を、前記機能性複合粒子6を複合したプラスチック成型体に植菌して37℃ にて培養した。10日後の時点で生菌数を測定し、菌数がゼロとなったものを「〇」、ゼロとならなかったものを「×」とした。試験結果は表1に示した。
[実施例2(第一の実施形態)]
実施例1におけるポリスチレン樹脂に代えて、ABS樹脂(DENKA社製、「GR-0500」)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件により、機能性複合粒子6を複合したプラスチック成型体(フィルム)を作製した。そして、実施例1と同様に各種評価を実施した。
[実施例3(第一の実施形態)]
実施例1におけるポリスチレン樹脂に代えて、塩化ビニル樹脂(リケンテクノス社製、「HFV9883P」)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件により、機能性複合粒子6を複合したプラスチック成型体(フィルム)を作製した。そして、実施例1と同様に各種評価を実施した。
[実施例4(第二の実施形態)]
実施例1で得られた濃度1%のCNF分散液500g中に抗菌・抗カビ成分としてメチル N−(1H−ベンツイミダゾール−2−yl)カーバメート5gを添加して25℃で10時間撹拌することにより微細化セルロース繊維1の表面に抗菌・抗カビ成分2を吸着させる(第2Ba工程)。
次に、100gのDVBに対し、ADVNを10g溶解させた。得られたDVB/ADVNの混合溶液全量を、抗菌・抗カビ成分を吸着させた濃度1%のCNF分散液400gに対し添加したところ、DVB/ADVN混合溶液とCNF分散液とはそれぞれ透明性の高い状態で2層に分離した。以下、実施例1と同様に操作することにより、機能性複合粒子6のエマルション分散液を作製する(第2Bb工程)。
そして、実施例1と同様に操作することにより、エマルション分散液から機能性複合粒子6を取り出して精製回収した(第3A工程)。得られた機能性複合粒子6の粒径を評価したところ平均粒径2.5μmであった。
続いて、実施例1と同様にして、機能性複合粒子6を複合化したプラスチック成型体(フィルム)を作製して、実施例1と同様に各種評価を実施した。
[実施例5(第三の実施形態)]
100gのDVBに対し、ADVNを10g溶解させてスターラーで撹拌した。次に、実施例1で得られた濃度1%のCNF分散液400gに対して上記DVB/ADVN混合溶液を添加して混合し、実施例1と同様な操作を行うことにより、エマルション分散液を得る(第2C工程)。
続いて、実施例1と同様な操作を行うことにより、得られたエマルション分散液から肌理細やかな乾燥粉体(複合粒子5)を得る(第3C工程)。
そして、得られた複合粒子5を固形分濃度1%となるように水に100g分散させ、メチル N−(1H−ベンツイミダゾール−2−yl)カーバメート20gと混合した。25℃で10時間撹拌することで複合粒子5の表面に抗菌・抗カビ成分2を吸着させることにより、機能性複合粒子6を作製する(第4C工程)。
上記分散液中には、多量の水と機能性複合粒子6に吸着していない遊離した抗菌・抗カビ成分2とが混在した状態となっている。そのため、遠心分離によって機能性複合粒子6を沈降させて上澄みを除去し、水とメタノールとの混合溶媒に再分散する操作を5回繰り返し、最終的に遠心分離によって得られた沈降物から残留溶媒を自然乾燥にて除去して機能性複合粒子6を精製回収した。粒径を評価したところ平均粒径2.5μmであった。
そして、実施例1と同様にして、機能性複合粒子6を複合したプラスチック成型体(フィルム)を作製して、実施例1と同様に各種評価を実施した。
[実施例6(第一の実施形態)]
実施例1で得られた機能性複合粒子6を塗工量が4.5gとなるようにポリスチレンフィルム(30μm厚、1m2)上にスプレーコーティングし、100℃で10分乾燥させた後、180℃のホットプレートで1分間圧着させることにより、機能性複合粒子6を複合したプラスチック成型体(フィルム)を得た。そして、実施例1と同様に各種評価を実施した。
[実施例7(第二の実施形態)]
実施例4で得られた機能性複合粒子6を使用して、実施例6と同様な操作により、機能性複合粒子6を複合したプラスチック成型体(フィルム)を得た。そして、実施例1と同様に各種評価を実施した。
[実施例8(第三の実施形態)]
実施例5で得られた機能性複合粒子6を使用して、実施例6と同様な操作により、機能性複合粒子6を複合したプラスチック成型体(フィルム)を得た。そして、実施例1と同様に各種評価を実施した。
[比較例1]
ポリスチレン樹脂(PSジャパン社製、「HF77」)のペレットを二軸混練押し出し成型機にて200℃で膜厚が30μmとなるように押し出し成型しプラスチック成型体(フィルム)を得た。
[比較例2]
ABS樹脂(DENKA社製、「GR-0500」)のペレットを二軸混練押し出し成型機にて200℃で膜厚が30μmとなるように押し出し成型しプラスチック成型体(フィルム)を得た。
[比較例3]
塩化ビニル樹脂(リケンテクノス社製、「HFV9883P」)のペレットを二軸混練押し出し成型機にて200℃で膜厚が30μmとなるように押し出し成型しプラスチック成型体(フィルム)を得た。
[比較例4]
実施例1において、「CNF分散液を得る工程」の「木材セルロースのTEMPO酸化」を省略することにより、機能性複合粒子6を作製した。得られた機能性複合粒子6の平均粒径は150μmであった。そして、この機能性複合粒子6を複合したプラスチック成型体(フィルム)を実施例1と同様にして作製した。
[評価結果]
上記実施例1〜8および比較例1〜4の評価結果を各種条件と併せて表1に示す。
表1からわかるように、本発明に係る実施例1〜8は、機能性複合粒子6を均一に分散させて、フィルムに抗菌性を付与できることが確認された。他方、機能性複合粒子6を含有していない比較例1〜3は、抗菌性がまったく認められなかった。また、TEMPO酸化処理をしていないCNF繊維を用いた複合粒子の比較例4においては、機能性複合粒子6が粗大となったため、均一性に難点を生じ、高い抗菌性を発揮し得なかった。
以上のことから、本発明に係る機能性複合粒子を含むフィルムは、抗菌性フィルムとして有効であることが明らかとなった。