本発明の実施形態において、前記動力伝達装置は、変速機を備えている。この変速機における変速比は、「入力側の回転部材の回転速度/出力側の回転部材の回転速度」である。この変速比におけるハイ側は、変速比が小さくなる側である高車速側である。変速比におけるロー側は、変速比が大きくなる側である低車速側である。例えば、最ロー側変速比は、最も低車速側となる最低車速側の変速比であり、変速比が最も大きな値となる最大変速比である。
また、前記動力源は、例えば燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の機関である。又、前記車両は、前記動力源として、このエンジンに加えて、又は、このエンジンに替えて、電動機等を備えていても良い。広義には、前記電動機は前記機関に含まれる。
図1は、本発明が適用される車両10に備えられた動力伝達装置12の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、エンジン14と第1回転機MG1と第2回転機MG2とを備えている。動力伝達装置12は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース16内において共通の軸心上に直列に配設された、電気式無段変速部18及び機械式有段変速部20等を備えている。電気式無段変速部18は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン14に連結されている。機械式有段変速部20は、電気式無段変速部18の出力側に連結されている。又、動力伝達装置12は、機械式有段変速部20の出力回転部材である出力軸22に連結された差動歯車装置24、差動歯車装置24に連結された一対の車軸26等を備えている。動力伝達装置12において、エンジン14や第2回転機MG2から出力される動力は、機械式有段変速部20へ伝達され、その機械式有段変速部20から差動歯車装置24等を介して車両10が備える駆動輪28へ伝達される。尚、以下、トランスミッションケース16をケース16、電気式無段変速部18を無段変速部18、機械式有段変速部20を有段変速部20という。又、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。又、無段変速部18や有段変速部20等は上記共通の軸心に対して略対称的に構成されており、図1ではその軸心の下半分が省略されている。上記共通の軸心は、エンジン14のクランク軸、後述する連結軸34などの軸心である。
エンジン14は、駆動トルクを発生することが可能な動力源として機能する機関であって、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン14は、後述する電子制御装置90によって車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等のエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン14の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。本実施例では、エンジン14は、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく無段変速部18に連結されている。
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられた蓄電装置としてのバッテリ54に接続されており、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々の出力トルクであるMG1トルクTg及びMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、又、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ54は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。
無段変速部18は、第1回転機MG1と、エンジン14の動力を第1回転機MG1及び無段変速部18の出力回転部材である中間伝達部材30に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構32とを備えている。中間伝達部材30には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。無段変速部18は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式無段変速機である。第1回転機MG1は、エンジン14の回転速度であるエンジン回転速度Neを制御可能な回転機であって、差動用回転機に相当する。第2回転機MG2は、駆動トルクを発生することが可能な動力源として機能する回転機であって、走行駆動用回転機に相当する。車両10は、走行用の動力源として、エンジン14及び第2回転機MG2を備えたハイブリッド車両である。動力伝達装置12は、動力源の動力を駆動輪28へ伝達する。尚、第1回転機MG1の運転状態を制御することは、第1回転機MG1の運転制御を行うことである。
差動機構32は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸34を介してエンジン14が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構32において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
有段変速部20は、中間伝達部材30と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機としての機械式変速機構、つまり無段変速部18と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する機械式変速機構である。中間伝達部材30は、有段変速部20の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材30には第2回転機MG2が一体回転するように連結されているので、又は、無段変速部18の入力側にはエンジン14が連結されているので、有段変速部20は、動力源(第2回転機MG2又はエンジン14)と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機である。中間伝達部材30は、駆動輪28に動力源の動力を伝達する為の伝達部材である。有段変速部20は、例えば第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路56内のソレノイドバルブSL1−SL4等から各々出力される調圧された係合装置CBの各係合圧としての各係合油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量である係合トルクTcbが変化させられることで、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
有段変速部20は、第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材30、ケース16、或いは出力軸22に連結されている。第1遊星歯車装置36の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置38の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
有段変速部20は、複数の係合装置のうちの何れかの係合装置である例えば所定の係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。つまり、有段変速部20は、複数の係合装置の何れかが係合されることで、ギヤ段が切り替えられるすなわち変速が実行される。有段変速部20は、複数のギヤ段の各々が形成される、有段式の自動変速機である。本実施例では、有段変速部20にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、有段変速部20の入力回転部材の回転速度である有段変速部20の入力回転速度であって、中間伝達部材30の回転速度と同値であり、又、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度Nmと同値である。AT入力回転速度Niは、MG2回転速度Nmで表すことができる。出力回転速度Noは、有段変速部20の出力回転速度である出力軸22の回転速度であって、無段変速部18と有段変速部20とを合わせた全体の変速機である複合変速機40の出力回転速度でもある。複合変速機40は、エンジン14と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機である。
有段変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)−AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。図2の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。すなわち、図2の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。図2において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部20のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。
有段変速部20は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(すなわち運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。例えば、有段変速部20の変速制御においては、係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。本実施例では、例えばAT2速ギヤ段からAT1速ギヤ段へのダウンシフトを2→1ダウンシフトと表す。他のアップシフトやダウンシフトについても同様である。
図3は、無段変速部18と有段変速部20とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図3において、無段変速部18を構成する差動機構32の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部20の入力回転速度)を表すm軸である。又、有段変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸22の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構32のギヤ比(歯車比ともいう)ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置36,38の各歯車比ρ1,ρ2に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数Zs/リングギヤの歯数Zr)に対応する間隔とされる。
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速部18の差動機構32において、第1回転要素RE1にエンジン14(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材30と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン14の回転を中間伝達部材30を介して有段変速部20へ伝達するように構成されている。無段変速部18では、縦線Y2を横切る各直線L0,L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
又、有段変速部20において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材30に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材30に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース16に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース16に選択的に連結されている。有段変速部20では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1,L2,L3,L4,LRにより、出力軸22における「1st」,「2nd」,「3rd」,「4th」,「Rev」の各回転速度が示される。
図3中の実線で示す、直線L0及び直線L1,L2,L3,L4は、少なくともエンジン14を動力源として走行するハイブリッド走行が可能なハイブリッド走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構32において、キャリアCA0に入力されるエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクである反力トルクが正回転にてサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=−(1/ρ0)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。このとき、第1回転機MG1は正回転にて負トルクを発生する発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ54に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ54からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
図3に図示はしていないが、エンジン14を停止させると共に第2回転機MG2を動力源として走行するモータ走行が可能なモータ走行モードでの共線図では、差動機構32において、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、モータ走行モードでは、エンジン14は駆動されず、エンジン回転速度Neはゼロとされ、MG2トルクTmが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。ここでのMG2トルクTmは、正回転の力行トルクである。
図3中の破線で示す、直線L0R及び直線LRは、モータ走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このモータ走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。車両10では、後述する電子制御装置90によって、複数のATギヤ段のうちの前進用のロー側のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用のMG2トルクTmが第2回転機MG2から出力させられることで、後進走行を行うことができる。ここでは、前進用のMG2トルクTmは正回転の正トルクとなる力行トルクであり、後進用のMG2トルクTmは負回転の負トルクとなる力行トルクである。このように、車両10では、前進用のATギヤ段を用いて、MG2トルクTmの正負を反転させることで後進走行を行う。前進用のATギヤ段を用いることは、前進走行を行うときと同じATギヤ段を用いることである。尚、ハイブリッド走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、モータ走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
動力伝達装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と中間伝達部材30が連結された第3回転要素RE3としてのリングギヤR0との3つの回転要素を有する差動機構32を備えて、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式変速機構としての無段変速部18が構成される。中間伝達部材30が連結された第3回転要素RE3は、見方を換えれば第2回転機MG2が動力伝達可能に連結された第3回転要素RE3である。つまり、動力伝達装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された差動機構32と差動機構32に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とを有して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される無段変速部18が構成される。無段変速部18は、入力回転部材となる連結軸34の回転速度と同値であるエンジン回転速度Neと、出力回転部材となる中間伝達部材30の回転速度であるMG2回転速度Nmとの比の値である変速比γ0(=Ne/Nm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。
例えば、ハイブリッド走行モードにおいては、有段変速部20にてATギヤ段が形成されたことで駆動輪28の回転に拘束されるリングギヤR0の回転速度に対して、第1回転機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、キャリアCA0の回転速度つまりエンジン回転速度Neが上昇或いは下降させられる。従って、ハイブリッド走行では、エンジン14を効率の良い運転点にて作動させることが可能である。つまり、ATギヤ段が形成された有段変速部20と無段変速機として作動させられる無段変速部18とで、無段変速部18と有段変速部20とが直列に配置された複合変速機40全体として無段変速機を構成することができる。
又は、無段変速部18を有段変速機のように変速させることも可能であるので、ATギヤ段が形成される有段変速部20と有段変速機のように変速させる無段変速部18とで、複合変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、複合変速機40において、エンジン回転速度Neの出力回転速度Noに対する比の値を表す変速比γt(=Ne/No)が異なる複数のギヤ段を選択的に成立させるように、有段変速部20と無段変速部18とを制御することが可能である。本実施例では、複合変速機40にて成立させられるギヤ段を模擬ギヤ段と称する。変速比γtは、直列に配置された、無段変速部18と有段変速部20とで形成されるトータル変速比であって、無段変速部18の変速比γ0と有段変速部20の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat)となる。
模擬ギヤ段は、例えば有段変速部20の各ATギヤ段と1又は複数種類の無段変速部18の変速比γ0との組合せによって、有段変速部20の各ATギヤ段に対してそれぞれ1又は複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段−模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段−模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段−模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。複合変速機40では、出力回転速度Noに対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度Neとなるように無段変速部18が制御されることによって、あるATギヤ段において異なる模擬ギヤ段が成立させられる。又、複合変速機40では、ATギヤ段の切替えに合わせて無段変速部18が制御されることによって、模擬ギヤ段が切り替えられる。
図1に戻り、車両10は、エンジン14、無段変速部18、及び有段変速部20などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置90を備えている。よって、図1は、電子制御装置90の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置90による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、出力回転速度センサ62、MG1回転速度センサ64、MG2回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、ブレーキペダルセンサ71、ステアリングセンサ72、ドライバ状態センサ73、Gセンサ74、ヨーレートセンサ76、バッテリセンサ78、油温センサ79、車両周辺情報センサ80、GPSアンテナ81、外部ネットワーク通信用アンテナ82、ナビゲーションシステム83、運転支援設定スイッチ群84、シフトポジションセンサ85など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne、車速Vに対応する出力回転速度No、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、AT入力回転速度NiであるMG2回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量としてのアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、ブレーキペダルの踏力に対応する、運転者によるブレーキペダルの踏込操作の大きさを表すブレーキ操作量Bra、車両10に備えられたステアリングホイールの操舵角θsw及び操舵方向Dsw、ステアリングホイールが運転者によって握られている状態を示す信号であるステアリングオン信号SWon、運転者の状態を示す信号であるドライバ状態信号Drv、車両10の前後加速度Gx、車両10の左右加速度Gy、車両10の鉛直軸まわりの回転角速度であるヨーレートRyaw、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、係合装置CBの油圧アクチュエータへ供給される作動油すなわち係合装置CBを作動させる作動油の温度である作動油温THoil、車両周辺情報Iard、GPS信号(軌道信号)Sgps、通信信号Scom、ナビ情報Inavi、自動運転制御やクルーズ制御等の運転支援制御における運転者による設定を示す信号である運転支援設定信号Sset、車両10に備えられたシフトレバーの操作ポジションPOSshなど)が、それぞれ供給される。
運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量は、例えばアクセルペダルなどのアクセル操作部材の操作量であるアクセル操作量であって、車両10に対する運転者の出力要求量である。運転者の出力要求量としては、アクセル開度θaccの他に、スロットル弁開度θthなどを用いることもできる。
ドライバ状態センサ73は、例えば運転者の表情や瞳孔などを撮影するカメラ、運転者の生体情報を検出する生体情報センサなどのうちの少なくとも一つを含んでおり、運転者の視線や顔の向き、眼球や顔の動き、心拍の状態等の運転者の状態を取得する。
車両周辺情報センサ80は、例えばライダー、レーダー、及び車載カメラなどのうちの少なくとも一つを含んでおり、走行中の道路に関する情報や車両周辺に存在する物体に関する情報を直接的に取得する。前記ライダーは、例えば車両10の前方の物体、側方の物体、後方の物体などを各々検出する複数のライダー、又は、車両10の全周囲の物体を検出する一つのライダーであり、検出した物体に関する物体情報を車両周辺情報Iardとして出力する。前記レーダーは、例えば車両10の前方の物体、前方近傍の物体、後方近傍の物体などを各々検出する複数のレーダーなどであり、検出した物体に関する物体情報を車両周辺情報Iardとして出力する。前記ライダーやレーダーによる物体情報には、検出した物体の車両10からの距離と方向とが含まれる。前記車載カメラは、例えば車両10のフロントガラスの裏側に設けられた、車両10の前方を撮像する単眼カメラ又はステレオカメラであり、撮像情報を車両周辺情報Iardとして出力する。この撮像情報には、走行路の車線、走行路における標識、及び走行路における他車両や歩行者や障害物などの情報が含まれる。
運転支援設定スイッチ群84は、自動運転制御を実行させる為の自動運転選択スイッチ、クルーズ制御を実行させる為のクルーズスイッチ、クルーズ制御における車速を設定するスイッチ、クルーズ制御における先行車との車間距離を設定するスイッチ、設定された車線を維持して走行するレーンキープ制御を実行させる為のスイッチなどを含んでいる。
GPS信号Sgpsは、GPS(Global Positioning System)衛星が発信する信号に基づく地表又は地図上における車両10の位置を示す自車位置情報を含んでいる。
通信信号Scomは、例えばサーバや道路交通情報通信システムなどの車外装置であるセンタとの間で送受信された道路交通情報など、及び/又は、前記センタを介さずに車両10の近傍にいる他車両との間で直接的に送受信された車車間通信情報などを含んでいる。前記道路交通情報には、例えば道路の渋滞、事故、工事、所要時間、駐車場などの情報が含まれる。前記車車間通信情報は、例えば車両情報、走行情報、交通環境情報などを含んでいる。前記車両情報には、例えば乗用車、トラック、二輪車などの車種を示す情報が含まれる。前記走行情報には、例えば車速V、位置情報、ブレーキペダルの操作情報、ターンシグナルランプの点滅情報、ハザードランプの点滅情報などの情報が含まれる。前記交通環境情報には、例えば道路の渋滞、工事などの情報が含まれる。
ナビ情報Inaviは、例えばナビゲーションシステム83に予め記憶された地図データに基づく道路情報や施設情報などの地図情報などを含んでいる。前記道路情報には、市街地道路、郊外道路、山岳道路、高速自動車道路すなわち高速道路などの道路の種類、道路の分岐や合流、道路の勾配、制限車速などの情報が含まれる。前記施設情報には、スーパー、商店、レストラン、駐車場、公園、車両10を修理する拠点、自宅、高速道路におけるサービスエリアなどの拠点の種類、所在位置、名称などの情報が含まれる。上記サービスエリアは、例えば高速道路で、駐車、食事、給油などの設備のある拠点である。
ナビゲーションシステム83は、ディスプレイやスピーカ等を有する公知のナビゲーションシステムである。ナビゲーションシステム83は、GPS信号Sgpsに基づいて、予め記憶された地図データ上に自車位置を特定する。ナビゲーションシステム83は、ディスプレイに表示した地図上に自車位置を表示する。ナビゲーションシステム83は、目的地が入力されると、出発地から目的地までの走行経路を演算し、ディスプレイやスピーカ等で運転者に走行経路などの指示を行う。
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、外部ネットワーク通信用アンテナ82、ホイールブレーキ装置86、操舵装置88、情報周知装置89など)に各種指令信号(例えばエンジン14を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を各々制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、通信信号Scom、ホイールブレーキによる制動トルクを制御する為のブレーキ制御指令信号Sbra、車輪(特には前輪)の操舵を制御する為の操舵制御指令信号Sste、運転者に警告や報知を行う為の情報周知制御指令信号Sinfなど)が、それぞれ出力される。
ホイールブレーキ装置86は、車輪にホイールブレーキによる制動トルクを付与するブレーキ装置である。ホイールブレーキ装置86は、運転者による例えばブレーキペダルの踏込操作などに応じて、ホイールブレーキに設けられたホイールシリンダへブレーキ油圧を供給する。このホイールブレーキ装置86では、通常時には、ブレーキマスタシリンダから発生させられる、ブレーキペダルの踏力に対応した大きさのマスタシリンダ油圧が直接的にブレーキ油圧としてホイールシリンダへ供給される。一方で、ホイールブレーキ装置86では、例えばABS制御時、横滑り抑制制御時、車速制御時、自動運転制御時などには、ホイールブレーキによる制動トルクの発生の為に、各制御で必要なブレーキ油圧がホイールシリンダへ供給される。上記車輪は、駆動輪28及び不図示の従動輪である。
操舵装置88は、例えば車速V、操舵角θsw及び操舵方向Dsw、ヨーレートRyawなどに応じたアシストトルクを車両10の操舵系に付与する。操舵装置88では、例えば自動運転制御時などには、前輪の操舵を制御するトルクを車両10の操舵系に付与する。
情報周知装置89は、例えば車両10の走行に関わる何らかの部品が故障したり、その部品の機能が低下した場合に、運転者に対して警告や報知を行う装置である。情報周知装置89は、例えばモニタやディスプレイやアラームランプ等の表示装置、及び/又はスピーカやブザー等の音出力装置などである。前記表示装置は、運転者に対して視覚的な警告や報知を行う装置である。音出力装置は、運転者に対して聴覚的な警告や報知を行う装置である。
電子制御装置90は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ54の充電状態を示す値としての充電状態値SOC[%]を算出する。又、電子制御装置90は、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電状態値SOCに基づいて、バッテリ54のパワーであるバッテリパワーPbatの使用可能な範囲を規定する充放電可能電力Win,Woutを算出する。充放電可能電力Win,Woutは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能電力としての充電可能電力Win、及びバッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能電力としての放電可能電力Woutである。充放電可能電力Win,Woutは、例えばバッテリ温度THbatが常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbatが低い程小さくされ、又、バッテリ温度THbatが常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbatが高い程小さくされる。又、充電可能電力Winは、例えば充電状態値SOCが高い領域では充電状態値SOCが高い程小さくされる。又、放電可能電力Woutは、例えば充電状態値SOCが低い領域では充電状態値SOCが低い程小さくされる。
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、運転制御手段すなわち運転制御部91、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部92、及びハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部93を備えている。
運転制御部91は、車両10の運転制御として、運転者の運転操作に基づいて走行する自律運転制御と、運転者の運転操作に因らず車両10の運転制御を自動的に行うことで走行する自動運転制御、例えば運転者により入力された目的地や地図情報などに基づいて自動的に目標走行状態を設定し、その目標走行状態に基づいて加減速と操舵とを自動的に行うことで走行する自動運転制御とを行うことが可能である。前記自律運転制御は、運転者の運転操作による自律運転にて走行する運転制御であり、運転者の運転操作による手動運転にて走行する手動運転制御である。その自律運転は、アクセル操作、ブレーキ操作、操舵操作などの運転者の運転操作によって車両10の通常走行を行う運転方法である。前記自動運転制御は、自動運転にて走行する運転制御である。その自動運転は、運転者の運転操作(意思)に因らず、各種センサからの信号や情報等に基づく電子制御装置90による制御により加減速、制動、操舵などを自動的に行うことによって車両10の走行を行う運転方法である。
運転制御部91は、運転支援設定スイッチ群84における自動運転選択スイッチにおいて自動運転が選択されていない場合には、自律運転モードを成立させて自律運転制御を実行する。運転制御部91は、有段変速部20やエンジン14や回転機MG1,MG2を各々制御する指令をAT変速制御部92及びハイブリッド制御部93に出力することで自律運転制御を実行する。
運転制御部91は、運転者によって運転支援設定スイッチ群84における自動運転選択スイッチが操作されて自動運転が選択されている場合には、自動運転モードを成立させて自動運転制御を実行する。具体的には、運転制御部91は、運転者により入力された目的地や燃費優先度や車速や車間距離等の各種設定と、GPS信号Sgpsに基づく自車位置情報と、ナビ情報Inavi及び/又は通信信号Scomに基づく、カーブ等の道路状態や勾配や高度や法定速度等の前記地図情報、インフラ情報、及び天候等と、車両周辺情報Iardに基づく走行路の車線、走行路における標識、走行路における他車両や歩行者などの情報とに基づいて、自動的に目標走行状態を設定する。運転制御部91は、設定した目標走行状態に基づいて加減速と制動と操舵とを自動的に行うことで自動運転制御を行う。この加減速は車両10の加速と車両10の減速とであり、ここでの減速には制動を含めても良い。
運転制御部91は、前記目標走行状態として、目標ルート及び目標進路、実際の車間距離などに基づく安全マージンを考慮した目標車速、目標車速や走行抵抗分などに基づく目標駆動トルク又は目標加減速度などを設定する。上記走行抵抗は、例えば予め運転者によって車両10に設定された値、車外との通信により取得された地図情報や車両諸元に基づく値、又は、走行中に勾配や実駆動量や実前後加速度Gx等に基づいて演算された推定値などが用いられる。運転制御部91は、目標駆動トルクが得られるように、有段変速部20やエンジン14や回転機MG1,MG2を各々制御する指令をAT変速制御部92及びハイブリッド制御部93に出力する。目標駆動トルクが負値の場合すなわち制動トルクが必要な場合は、エンジン14によるエンジンブレーキトルク、第2回転機MG2による回生ブレーキトルク、及びホイールブレーキ装置86によるホイールブレーキトルクのうちの少なくとも一つのブレーキトルクが車両10に作用させられる。例えば、運転制御部91は、利用可能な範囲でホイールブレーキトルクを演算し、目標駆動トルクが得られるように、そのホイールブレーキトルクを作用させる為のブレーキ制御指令信号Sbraをホイールブレーキ装置86に出力する。加えて、運転制御部91は、設定した目標走行状態に基づいて前輪の操舵を制御する為の操舵制御指令信号Ssteを操舵装置88に出力する。
以下に、通常走行による自律運転制御の場合を例示して、AT変速制御部92及びハイブリッド制御部93による制御を具体的に説明する。
AT変速制御部92は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば図4に示すようなATギヤ段変速マップを用いて有段変速部20の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部20の変速制御を実行する。AT変速制御部92は、この有段変速部20の変速制御では、有段変速部20のATギヤ段を自動的に切り替えるように、ソレノイドバルブSL1−SL4により係合装置CBの係合解放状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば車速V及び要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標上に、有段変速部20の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。ここでは、車速Vに替えて出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動力Frdemに替えて要求駆動トルクTrdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。上記ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、実線に示すようなアップシフトが判断される為のアップシフト線、及び破線に示すようなダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。
ハイブリッド制御部93は、エンジン14の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ52を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン14、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。ハイブリッド制御部93は、予め定められた関係である例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで駆動要求量としての駆動輪28における要求駆動力Frdem[N]を算出する。前記駆動要求量としては、要求駆動力Frdemの他に、駆動輪28における要求駆動トルクTrdem[Nm]、駆動輪28における要求駆動パワーPrdem[W]、出力軸22における要求AT出力トルク等を用いることもできる。尚、自動運転制御における目標駆動トルクは、自律運転制御における要求駆動トルクと同意である。
ハイブリッド制御部93は、バッテリ54の充放電可能電力Win,Wout等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン14を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgとを出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン14のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度NgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、又、指令出力時のMG2回転速度NmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
ハイブリッド制御部93は、例えば無段変速部18を無段変速機として作動させて複合変速機40全体として無段変速機として作動させる場合、エンジン最適燃費点等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとなるように、エンジン14を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速部18の無段変速制御を実行して無段変速部18の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の複合変速機40の変速比γtが制御される。
ハイブリッド制御部93は、例えば無段変速部18を有段変速機のように変速させて複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば模擬ギヤ段変速マップを用いて複合変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部92による有段変速部20のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部18の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように車速Vに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは、車速Vの全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定領域で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。このように、ハイブリッド制御部93は、エンジン回転速度Neを有段変速のように変化させる変速制御が可能である。複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTrdemが比較的大きい場合に、複合変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。
ハイブリッド制御部93は、走行モードとして、モータ走行モード或いはハイブリッド走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部93は、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、モータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値以上となるハイブリッド走行領域にある場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。図4の一点鎖線Aは、車両10の走行用の動力源を、少なくともエンジン14とするか、第2回転機MG2のみとするかを切り替える為の境界線である。すなわち、図4の一点鎖線Aは、ハイブリッド走行とモータ走行とを切り替える為のハイブリッド走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図4の一点鎖線Aに示すような境界線を有する予め定められた関係は、車速V及び要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標で構成された動力源切替マップの一例である。尚、図4では、便宜上、この動力源切替マップをATギヤ段変速マップと共に示している。
ハイブリッド制御部93は、要求駆動パワーPrdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。モータ走行モードは、エンジン14を停止した状態で第2回転機MG2により駆動トルクを発生させて走行する走行状態である。ハイブリッド走行モードは、エンジン14を運転した状態で走行する走行状態である。前記エンジン始動閾値は、エンジン14を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
ハイブリッド制御部93は、エンジン14の運転停止時にハイブリッド走行モードを成立させた場合には、エンジン14を始動する始動制御を行う。ハイブリッド制御部93は、エンジン14を始動するときには、第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを上昇させつつ、エンジン回転速度Neが点火可能な所定回転速度以上となったときに点火することでエンジン14を始動する。すなわち、ハイブリッド制御部93は、第1回転機MG1によりエンジン14をクランキングすることでエンジン14を始動する。
ここで、自動運転制御から自律運転制御への切替えが必要となった際、運転者の状態を検出し、自動運転制御を解除しても良いと判定した場合、自動運転制御から自律運転制御へ切り替えることつまり自動運転制御を解除することが考えられる。しかしながら、運転者の状態を検出するドライバ状態センサ73等に異常があった場合又はドライバ状態信号Drvに基づいた運転者の状態を誤って認識した場合などには、自動運転制御を解除しても良いと誤判定する可能性がある。この場合、自動運転制御から自律運転制御への復帰時に運転者が適切に対応できない可能性がある。
そこで、電子制御装置90は、自動運転制御から自律運転制御へ復帰する際に、自律運転制御へ復帰することへの同意を運転者に求める。自動運転制御から自律運転制御へ復帰することとは、自動運転制御から自律運転制御へ切り替えることである。電子制御装置90は、運転者による同意があった場合は、自律運転モードを成立させて、自動運転制御から自律運転制御へ復帰する。電子制御装置90は、運転者による同意がない場合は、自動運転制御において退避モードを成立させて、できるだけ安全な場所に退避走行する。これにより、検出した運転者の状態に基づく自動運転制御を解除しても良いか否かの判定における誤判定が無くなり、自動運転制御を使える走行シーンが増える。
運転者による同意は、運転者による所定操作により為される。つまり、運転者による所定操作により、自律運転制御への切替えに同意したという応答が為される。前記所定操作は、自律運転制御への切替えに同意したという応答を行う応答手段であり、例えばステアリングホイールが握られたこと、シフトレバーがD操作ポジションに操作されたことなどの予め定められたマニュアル操作である。D操作ポジションは、複合変速機40の自動変速制御を実行して前進走行を可能とする複合変速機40のDポジションを選択する前進走行操作ポジションである。電子制御装置90は、ステアリングオン信号SWonに基づいてステアリングホイールが握られたことを判定する。電子制御装置90は、操作ポジションPOSshに基づいてシフトレバーがD操作ポジションに操作されたことを判定する。
ところで、応答手段がステアリングホイールを握ることであればそのような操作は容易である。その為、運転者又は助手席に座っている子供等の他の搭乗者がステアリングホイールに少し触れただけでは、自律運転制御への切替えに同意したという応答を行ったとみなさないことが好ましい。その為、自動運転制御から自律運転制御への切替えに同意したという運転者による所定操作に基づく応答の有無の誤判断を抑制することが望まれる。
電子制御装置90は、自動運転制御から自律運転制御への切替えに同意したという運転者による所定操作に基づく応答の有無の誤判断を抑制するという制御機能を実現する為に、更に、状態判定手段すなわち状態判定部94、通知手段すなわち通知部96、応答判断手段すなわち応答判断部97、及び認識時間設定手段すなわち認識時間設定部98を備えている。
状態判定部94は、自動運転制御から自律運転制御へ切り替える必要があるか否かを判定する。例えば、高速道路の出口が自動運転制御における目的地である場合は、高速道路の出口からは自律運転制御に切り替える必要がある。このような場合、状態判定部94は、目的地となる高速道路の出口に近づいたら、自動運転制御から自律運転制御へ切り替える必要があると判定する。或いは、状態判定部94は、今後何らかの原因で安全に自動運転を継続することが難しくなると予測した場合には、自動運転制御から自律運転制御へ切り替える必要があると判定する。
通知部96は、状態判定部94により自動運転制御から自律運転制御へ切り替える必要があると判定された場合には、すなわち自動運転制御から自律運転制御へ切り替える際には、自律運転制御への切替えに同意したという応答を運転者に求める通知Nを行う。この通知Nは、例えば自律運転制御への復帰の通知を含んでおり、又、自律運転制御への復帰に同意したことを前記所定操作を行うことで応答することを求める通知を含んでいる。通知部96は、このような通知Nを運転者に対して視覚的及び/又は聴覚的に行う為の情報周知制御指令信号Sinfを情報周知装置89へ出力する。
運転者の覚醒状態の度合である覚醒度が小さい場合、すなわち運転者が自動運転中に寝ていたり、眠気があるような状態の場合、通知Nを早めにすれば退避走行へ移行してしまうまでに通知Nへ応答できる確率が増加する。通知部96は、図5に示すように、運転者の覚醒度が小さい程、通知Nを開始するタイミングを早くする。これにより、自律運転制御に切替え可能なシチュエーションが増える。状態判定部94は、ドライバ状態センサ73からのドライバ状態信号Drv等に基づいて運転者の覚醒度を判断する。
自動運転制御から自律運転制御に切り替えるべき地点までの道路状況が混雑しているか空いているかによってその地点に到達するまでに要する時間が変わる。例えば、高速道路の出口が自動運転制御における目的地であるときに、高速道路の出口まで渋滞している場合は、高速道路の出口に到達するまでの時間が長くされるので、通知Nを開始するタイミングを遅くすることで、自動運転制御の実行時間を長くとることができる。通知部96は、図6に示すように、自律運転制御へ復帰する地点までの道路状況が混雑している程、通知Nを開始するタイミングを遅くする。これにより、運転者が通知Nへ応答するまでの時間的余裕が増え、通知Nへ応答できる確率が増加する。状態判定部94は、通信信号Scom等に基づいて自律運転復帰までの道路状況を判断する。
応答判断部97は、運転者による複数種類の所定操作のうちの何れかの所定操作が所定の認識時間以上連続して為されたか否かに基づいて通知Nへの応答の有無を判断する、すなわち自律運転制御への復帰に同意したか否かを判断する。前記所定の認識時間は、運転者が通知Nへ応答したと判断できる為の時間、すなわち自律運転制御への復帰の同意を認識するまでの時間であり、認識時間設定部98により所定操作の種類毎に設定される。本実施例では、自律運転制御への復帰の同意を認識するまでの時間を、同意認識時間と称する。
認識時間設定部98は、所定操作の種類毎に同意認識時間を設定する。例えば、認識時間設定部98は、図7に示すように、応答手段の難易度が易しい程、同意認識時間を長くする。つまり、認識時間設定部98は、所定操作が簡単な操作である程長くなるように所定操作の種類毎に同意認識時間を設定する。応答手段の難易度は、応答手段毎に予め定められている。例えば、応答手段がステアリングホイールを握ることであれば、応答手段の難易度は容易である。これにより、簡単な操作である程、同意認識時間が長くされ、誤認識が抑制される。又、応答手段の難易度には、操作に掛かる時間の長短も含まれる。又、応答手段の違いによって1回の操作に掛かる時間の長さが異なる場合があること、同じ応答手段を繰り返す回数が異なれば操作全体に掛かる時間の長さが異なることを勘案すれば、同意認識時間には、操作回数の概念を含めても良く、所定操作が簡単な操作である程多くなるように自律運転制御への復帰の同意を認識するまでの操作回数が設定される。例えば、ボタンやスイッチを押すような簡単な操作では、2回以上の複数回押さないと応答したことにならないようにされる。
運転制御部91は、応答判断部97により運転者が自律運転制御への復帰に同意したと判定された場合には、自律運転モードを成立させて自動運転制御から自律運転制御に切り替える。この際、運転制御部91は、通知Nへの応答後から予め定められた一定時間は自動運転制御での走行状態を維持しても良い。これにより、エンジン回転速度Neの吹き上がりや変速ショックを抑制することができる。このような効果を得られ易くする為に、運転制御部91は、この一定時間における自動運転制御での走行状態では、運転者のアクセル開度θaccによらず、通知Nへの応答直前における自動運転制御での走行状態を継続する。この走行状態は、例えばエンジン回転速度Ne、MG2回転速度Nm、ATギヤ段などである。
運転制御部91は、応答判断部97により運転者による自律運転制御への復帰の同意がないと判定された場合には、退避モードを成立させて、できるだけ安全な場所に退避走行する。例えば、運転制御部91は、自動運転制御から自律運転制御に切り替えるべき地点まで応答判断部97により復帰の同意がないと判定された場合には、通信信号Scomやナビ情報Inavi等に基づいて退避走行させるときの目的地を設定する。運転制御部91は、設定した退避走行させるときの目的地に基づいて自動運転制御を行い、車両10をその目的地へ移動させて停車させる。退避走行させるときの目的地としては、例えば高速道路におけるサービスエリア、車両10周辺の駐車場、十分な幅を有する路側帯などである。
図8は、電子制御装置90の制御作動の要部すなわち自動運転制御から自律運転制御への切替えに同意したという運転者による所定操作に基づく応答の有無の誤判断を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。図9は、図8のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例である。
図8において、先ず、状態判定部94の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、自動運転制御から自律運転制御へ切り替える必要があるか否かが判定される。このS10の判断が肯定される場合は通知部96の機能に対応するS20において、自律運転制御への切替えに同意したという応答を運転者に求める通知Nが行われる。次いで、応答判断部97の機能に対応するS30において、運転者による通知Nへの応答の有無が判断される、すなわち運転者が自律運転制御への復帰に同意したか否かが判断される。このS30の判断が肯定される場合は運転制御部91の機能に対応するS40において、自動運転制御から自律運転制御に切り替えられる。上記S30の判断が否定される場合は運転制御部91の機能に対応するS50において、退避走行が行われる。上記S10の判断が否定される場合は運転制御部91の機能に対応するS60において、自動運転制御が継続させられる。
図9は、運転者が通知Nへ応答した後、自律運転制御を開始するまでに一定時間ラップ期間を設定した場合の実施態様の一例を示している。図9において、t1時点は、自動運転制御の実行中に自律運転制御への切替えに同意したという応答を運転者に求める通知Nが開始された時点を示している。t2時点は、運転者による通知Nへの応答が有ったと判断された時点を示している。t2時点後直ぐには自律運転制御には切り替えられず、ラップ期間の終了後に自律運転制御に切り替えられる(t3時点参照)。ラップ期間中は、例えば運転者のアクセル開度θaccによらず、エンジン回転速度Ne、MG2回転速度Nm、ATギヤ段の各走行状態が、ラップ期間直前の自動運転制御での走行状態のままで継続させられる。これにより、エンジン回転速度Neの吹き上がりや変速ショックが軽減させられる。
上述のように、本実施例によれば、運転者による複数種類の所定操作のうちの何れかの所定操作が、所定操作の種類毎に設定された所定の認識時間以上連続して為されたか否かに基づいて、自動運転制御から自律運転制御への切替えに同意したという応答の有無が判断されるので、同意したという応答を意図したものでないような操作ではその応答が有ると判断され難くされ得る。よって、自動運転制御から自律運転制御への切替えに同意したという運転者による所定操作に基づく応答の有無の誤判断を抑制することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、無段変速部18は、差動機構32の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により差動作用が制限され得る変速機構であっても良い。又、差動機構32は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であっても良い。又、差動機構32は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。又、差動機構32は、エンジン14によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車に第1回転機MG1及び中間伝達部材30が各々連結された差動歯車装置であっても良い。又、差動機構32は、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、回転機、駆動輪が動力伝達可能に連結される機構であっても良い。
また、前述の実施例において、動力源の動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置に設けられた変速機として、複合変速機40を例示したが、この態様に限らない。例えば、前記変速機としては、無段変速部18のような電気式の無段変速機又は有段変速部20のような遊星歯車式の自動変速機でも良いし、又は、同期噛合型平行2軸式自動変速機、その同期噛合型平行2軸式自動変速機であって入力軸を2系統備える公知のDCT(Dual Clutch Transmission)、ベルト式の無段変速機等の公知の機械式の無段変速機などの自動変速機であっても良い。又、エンジンによる発電電力及び/又はバッテリから供給される電力で駆動される回転機の動力のみが動力伝達装置を介して駆動輪へ伝達される車両では、この動力伝達装置は変速機を備えていなくても良い。要は、動力源と動力伝達装置とを備えた車両であれば、本発明を適用することができる。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。