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JP2019081985A - 嵩高糸 - Google Patents

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JP2019081985A
JP2019081985A JP2017210919A JP2017210919A JP2019081985A JP 2019081985 A JP2019081985 A JP 2019081985A JP 2017210919 A JP2017210919 A JP 2017210919A JP 2017210919 A JP2017210919 A JP 2017210919A JP 2019081985 A JP2019081985 A JP 2019081985A
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剛志 柴田
Tsuyoshi Shibata
剛志 柴田
正人 増田
Masato Masuda
正人 増田
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Abstract

【課題】合成繊維からなる嵩高糸であり、優れた嵩高性や圧縮回復性に加え、羽毛に近似したソフト(柔軟)でしなやかな風合いを有し、軽量で体に沿いやすく保温性に優れた中綿素材としての使用に適した嵩高糸の提供。【解決手段】ループを形成する鞘糸1と、鞘糸との交錯により実質的に鞘糸1を固定する芯糸2から構成され、鞘糸1が部分的に切断することなく連続的なループを形成している嵩高糸であり、鞘糸1に異形度1.5以上の異形断面繊維が20%以上含まれている嵩高糸。好ましくは異形断面繊維が扁平断面繊維である嵩高糸。好ましくは嵩高糸を構成する繊維の単糸繊度が3.0dtex以上であり、鞘糸に中空率10%以上の中空断面繊維が混在している、嵩高糸。【選択図】図1

Description

本発明は、優れた嵩高性を有しながら低荷重で柔軟変形する、ソフトでしなやかな羽毛に類似する特性を有した嵩高糸に関するものであり、詰め物体用の中綿素材に適用した場合には優れた保温性と風合いを発揮するものである。
合成繊維の新技術は、天然素材の模倣をモチベーションのひとつとして技術革新がなされてきたといっても過言でなく、天然素材の複雑な構造形態に由来した機能を発現させるために、様々な技術的提案がなされている。
天然羽毛は、そのバランスに優れた特性から布団や枕などの寝装寝具や防寒具等の衣料品などといった幅広い製品に用いられており、高機能中綿としての確固たる地位を築いている。一方、合成繊維ならではの機能性や安定供給が訴求点となる合繊中綿に関しても、多くの技術提案があるが、嵩高性や圧縮回復性といった力学特性と、羽毛独特の柔軟な風合いを両立することは困難なものであり、天然羽毛と見間違う程度の模倣を達成した例は数少ない。
そこで、合成繊維において、優れた中綿素材である羽毛の特徴を付与するべく、上記の課題克服に向けた取り組みがなされている。
特許文献1では、収縮率の異なる繊維を流体加工し、熱処理を施すことで、芯となる繊維に他方繊維がループ上に突出したポリエステル複合糸条が開示されている。
特許文献2では、流体噴射加工で鞘糸、芯糸をオーバーフィードしながら交絡させ、鞘糸に芯糸をからみつかせた構造のスパンライク加工糸が開示されている。加工糸を構成する繊維には、中空異形断面糸が用いられており、布帛とした場合に嵩高性を有し、かつ軽量で柔らかさを発現する素材が得られる。
特許文献3では、供給速度を変更した2種類の糸条をノズル内で直接高圧エアーを吹き付けることより、2種類の糸条を単糸毎に開繊・撹乱して交絡処理を施し、供給速度の高い側の糸条からなるループを形成させた嵩高糸が開示されている。特許文献3では、特許文献1や特許文献2の技術と比べて嵩高く、中綿素材として用いることができる嵩高性が得られる。
また、本出願人らは特許文献4において、3次元的な捲縮構造を有する鞘糸、および該鞘糸との交錯で鞘糸を固定している芯糸からなり、前記鞘糸が、実質的に破断しておらず、連続的にループを形成している、合成繊維からなる嵩高糸を提案している。特許文献4は、特許文献3よりも大ループ形状を有しながらも嵩高糸間での絡み合い等が抑制され、嵩高性および圧縮回復性に優れ、かつ中綿素材として用いた場合に異物感が少なく、柔軟な風合いを有したものである。
特開平03−119133号公報 特開2002−38346号公報 特開2012−67430号公報 特許第6103157公報
特許文献1では、ループとなる繊維に異形断面繊維を用いることで、嵩高性に加えて、柔らかさを発現させることができるものの、加工糸形態は従来の交絡糸に近似したものであり、中綿素材として使用するには嵩高性が不十分なものであった。
特許文献2では、鞘糸及び/又は芯糸が、フィラメントの長手方向に独立した二つの中空部を有するメガネ型の断面形状を用いることで、布帛にした場合に軽量で保温性に優れ、且つ柔軟な風合いを発現するものであるが、特許文献1と同様に、加工糸形態は従来の交絡糸に近似したものであり、中綿素材として使用するには嵩高性が不十分であった。
特許文献3における嵩高糸は、形成できるループの大きさがノズル形状に左右されるため、自立できるループのサイズが制限され、嵩高性に限界があった。また、自立ループの根元が混繊交絡によって固定されており、当該固定点が中綿としたときの異物感や硬い触感の原因となりやすく、嵩高性と柔軟でしなやかな風合いの両立という点で不十分なものであった。
特許文献4における嵩高糸は前述したように、大ループ形状を有しながらも嵩高糸間での絡み合い等が抑制され、嵩高性および圧縮後の復元性(圧縮回復性)に優れ、かつ中綿素材として用いた場合に異物感が少なく、柔軟な風合いを有したものである。しかしながら、更にソフト(柔軟)でしなやかな風合いを発現させるためには、低荷重で柔軟に圧縮変形する圧縮率特性の付与が求められるものであった。
すなわち、嵩高性や圧縮回復性に加え、低荷重での圧縮率特性に優れ、詰め物体に適用した場合には、小さな抵抗感で、接触物を包み込みながら大きく圧縮変形し、荷重解放時には緩慢に回復変形するといった羽毛のようにソフト(柔軟)でしなやかな風合いを発揮する中綿素材が求められていた。
上記目的は以下の手段により達成される。
(1)ループを形成する鞘糸と、鞘糸との交錯により実質的に鞘糸を固定する芯糸から構成され、鞘糸が部分的に切断することなく連続的なループを形成している嵩高糸であり、鞘糸に異形度1.5以上の異形断面繊維が20%以上含まれていることを特徴とする嵩高糸。
(2)異形断面繊維が扁平断面繊維であることを特徴とする(1)記載の嵩高糸。
(3)嵩高糸を構成する繊維の単糸繊度が3.0dtex以上であることを特徴とする(1)または(2)のいずれかに記載の嵩高糸。
(4)鞘糸に中空率10%以上の中空断面繊維が混在していることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の嵩高糸。
(5)(1)から(4)のいずれかに記載の嵩高糸を少なくとも一部に含む繊維製品。
本発明の嵩高糸は、嵩高性を担うループを形成する鞘糸に異形度1.5以上の異形断面繊維を20%以上含むことにより、異形断面の長軸方向への反発感によって初期の嵩高維持と圧縮後の荷重解放時における優れた形態復元性(圧縮回復性)を発現しつつも、圧縮時には異形断面の短軸方向に屈曲方向を揃えながら変形することによって大きな圧縮変形量(圧縮率)を有し、低荷重でも容易に圧縮変形し、かつ緩慢に回復変形するループ構造が芯糸を中心に放射状に形成された嵩高糸となる。
このため、従来の課題である嵩高性や圧縮回復性とを有しつつ、羽毛のようにソフト(柔軟)でしなやかな風合い特性の両立が可能となり、本発明の嵩高糸を中綿として用いた詰め物体は、軽量や保温性といった基本特性に優れることに加え、柔軟でしなやかな風合いと接触物を包み込むように変形するため、軽量性に優れた布団や防寒用アウター等の繊維製品への加工に適したものである。例えば、本発明の嵩高糸による詰め物体を布団とした場合には、体と布団との空隙を無くし、外気の流入を防ぐことになるため、保温性を更に高めることができ、優れた保温用詰め物体を提供することができる。
本発明の嵩高糸の一例の概略側面図 加工糸中心線測定方法を説明するための模擬図 異形断面繊維の異形度の算出方法を説明するための模擬図 本発明の嵩高糸の製造方法の一例を模式的に示す概略工程図 本発明の製造方法に用いるサクションノズルを説明するための概略側面図 本発明の嵩高糸に用いる中空断面繊維用紡糸口金の吐出孔を説明するための概略断面図
以下、本発明を望ましい実施形態とともに詳述する。
本発明の嵩高糸はマルチフィラメントを加工して得られるものであり、嵩高糸および嵩高糸製造への途中の材料を「加工糸」と表現することがある。
本発明の嵩高糸は合成繊維により構成されていることが好適である。
ここで言う合成繊維とは、高分子ポリマーからなる繊維であり、溶融紡糸や溶液紡糸などで製造した熱可塑性ポリマーからなる繊維を採用することができる。該繊維は、単独繊維であっても繊維断面に2成分以上ポリマーが配置された複合繊維であっても良い。
これ等の繊維を構成する熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートあるいはその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性ポリウレタンなどの溶融成形可能なポリマーが挙げられる。これ等の熱可塑性ポリマーの中でも、ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは、結晶性を有し、比較的高い融点を有しているため、後加工等における熱処理工程及び実使用(クリーニングなど)の際に比較的高い温度で加熱された場合でも嵩高糸が劣化やヘタリを起こすことなく好適な例として挙げられる。この耐熱性という観点では、特にポリマーの融点が165℃以上であると好ましい。
これらの熱可塑性ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲で酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤を含んでいても良い。
本発明の嵩高糸は、ループを形成している鞘糸(図1の1)と、当該鞘糸と交錯することで鞘糸を固定している芯糸(図1の2)から構成される。
本発明の嵩高糸の構造を図1及び図2に示された加工糸の例示を用いて説明する。
本発明の芯糸は、鞘糸と交錯することにより鞘糸からなるループを固定する軸となるため、加工糸の中心に存在する。すなわち、図2に示した一対の糸道ガイド4の間に定長で加工糸を糸かけした場合の糸道ガイド4を結んだ直線を加工糸中心線3とした場合に、この加工糸中心線3からの距離5が0.6mmまでの範囲に存在するものである。
本発明の鞘糸は、加工糸の中心から外層に向けて放射状にループを形成して存在するものであり、芯糸と交錯することによってループが自立し、加工糸の嵩高性を担う嵩高構造部を構成するものである。鞘糸からなるループが自立して外層に突出しているほど加工糸の嵩高性が高まることは言うまでもないが、本発明においては、図2に示した加工糸中心線3から鞘糸からなるループの頂点までの距離5、すなわちループの大きさは1.0mm以上であることが好適である。
ここで言うループの大きさとは、一対の糸道ガイド4に定長で糸掛けした嵩高糸を側面から観察し、この観察した画像から測定する。無作為に選んだ1本の嵩高糸について、嵩高糸に形成されている10個以上のループが観察できるように撮影し、画像中のループ10個で加工糸中心線3からループ頂点までの距離5を測定する。この作業を嵩高糸1本について画像撮影を計10箇所行い、嵩高糸1本あたり合計100個のループの大きさを、ミリメートル単位で小数点第2位までを測定する。この数値の平均値を算出し、小数点第2位以下を四捨五入した値を嵩高糸におけるループの大きさとした。
本発明において、ループを形成する鞘糸は実質的に破断されていない、特にループの途中で実質破断していないことが好ましい。これは、嵩高性を担うループが途中で破断せずに、不要な絡み合いを起こさないことで、本発明の特長である低荷重においても大きな圧縮変形量が得られることにつながり、中綿として使用した場合に、非常に柔軟でありながらも形態復元性(圧縮回復性)に優れ、かつ緩慢な回復変形挙動の発現に対しても優れた特長を示すからである。
ここで言うループの破断の判定は、鞘糸および芯糸からなる加工糸1本から無作為に選出した10箇所において、それぞれ芯糸と鞘糸の交錯点から次の交錯点まで(すなわちひとつのループ)が加工糸の長手方向に10箇所以上確認できる倍率で撮影、観察して判定する。該撮影画像10枚において、各々10個のループについて嵩高糸1ミリメートル当たりの鞘糸の破断点をカウントする。カウントされたループの破断点を平均し、小数点第2位を四捨五入することでループの破断点(個/mm)とした。ここで計100個のループの平均で、破断点が0.2個/mm以下であることが本発明の言う鞘糸が実質的に破断していない状態を指す。係る範囲であれば、糸端が自由になった鞘糸が加工糸内に存在しないため、本発明の効果を良好に発揮することができる。また、中綿として用いた場合の側地からの繊維の吹き出しが起こりにくく、側地から突出した繊維に引っかかる等の使用時の不快感を抑制するとともに、製品の嵩高性保持に対しても有効に作用する。
本発明の目的を達成するためには、嵩高糸を構成する鞘糸に異形度1.5以上の異形断面繊維を20%以上含むことが必要である。
ここで言う異形度とは、単繊維の断面を2次元的に撮影し、その画像から、単繊維断面に外接する真円の径を外接円径とし、内接する真円の径を内接円径として、異形度=外接円径÷内接円径から、小数点以下2桁までを求める。ここで言う外接円とは図3の6、内接円とは図3の8であり、無作為に抽出した10本の繊維について異形度を測定し、それぞれの画像での測定値の単純な数平均値を求め、小数点第2位を四捨五入した値を本発明で言う異形度とした。
本発明の嵩高糸は、断面形状の異形度が1.5以上の異形断面繊維が鞘糸の少なくとも一部を構成することで、嵩高糸中の空隙が大きくなり、重量当たりの嵩高性に優れることは言うまでもないが、特に荷重を付与した際の変形挙動に特長がある。すなわち、異形断面を有した鞘糸は放射状にランダムに自立できる低荷重時には、芯糸に固定されることによりループ形状を保ちながら、嵩高糸の排除体積を維持するものの、高荷重時には、鞘糸の断面形状によってその変形方向を鞘糸全体で揃えながら、かつ断面の短軸方向へ柔軟に屈曲することとなる。このため、小さな抵抗感で、接触物を包み込みながら大きく圧縮することが可能となり、従来の合繊中綿では得られなかったソフトでしなやかな触感が得られることとなる。一方、荷重から解放した場合、従来の嵩高糸では、単糸ループの剛性による反発性を主として利用して比較的短時間で元の嵩高形態に復元するものであったが、本発明の嵩高糸では、異形断面繊維の長軸方向への反発性と、屈曲時とは逆に回復方向を不均一化しながら元のランダムに自立した状態に戻る特性を利用しているため、緩やかにループ形状に復元するという、従来の嵩高糸には無い、緩慢な回復変形挙動を示し、最終的には元あった優れた嵩高性を発現することとなる。
以上のような圧縮時および回復時の特徴的な変形挙動は、芯糸に異形度を持った鞘糸が旋回して巻きつくことでループ形状を形成する本発明の嵩高糸ならではの現象であり、天然羽毛の有する柔軟な変形挙動を合繊中綿で発現させるために、本発明者等が鋭意検討した結果、発見した現象に基づくものである。
前述の通り、小さな抵抗感で、接触物を包み込みながら大きく圧縮するという本発明の嵩高糸の特徴を明確にするため、本発明においては、嵩高糸の圧縮率評価で通常採用される負荷荷重(6.0g/cm2)よりも低い荷重(3.0g/cm2)を負荷することにより、低荷重における圧縮率特性の評価を実施した。
このような特徴的な現象をより顕著に発現させるためには、低荷重時の排除体積および高荷重時の変形性という観点から、鞘糸の異形度を高めるほど好適である。このため、異形度が2.0以上であること好ましく、異形度が3.0以上であることは、より好ましい範囲として挙げることができ、かかる範囲では、天然羽毛に見られる接触物を柔軟に包み込みながら変形する本発明の特長を際立たせることができる。柔軟な圧縮変形という観点では、異形度はより高めるほうが好適ではあるが、後述する鞘糸の製糸安定性および流体加工性を考慮すると、本発明の異形度の実質的な上限は10.0である。
本発明で用いる異形断面繊維は、該異形度が1.5以上あれば、扁平、三角、Y、多葉等のいずれの断面形状でも良いが、鞘糸を扁平断面とした場合には、鞘糸断面に明確な異方性が出ることから、荷重を付与した際には、鞘糸の変形方向が揃いやすく、ソフトに変形できる等の本発明の効果をより際立たせるという観点から好ましいのである。また、扁平断面繊維を採用した場合には、断面の異形度をつけやすく、更には、この異形度により変形挙動を簡易に制御できるという利点もある。
本発明において、断面形状の異形度が1.5以上の異形断面繊維が鞘糸総数に対して20%以上含まれることが必要である。この割合を制御することにより、嵩高糸の基本特性のバランスを調整することもでき、ソフト(柔軟)でしなやかな風合いを顕著に発現させる観点で、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上とすることが好適である。
ここで言う鞘糸に含まれる異形断面繊維の割合は、嵩高糸の長手方向に1cmの範囲を1箇所として、側面から観察した時にループを形成している鞘糸を1箇所から10本抽出し、抽出した単繊維断面を観察して、異形断面繊維の本数をカウントする。この操作を嵩高糸の長手方向にランダムに選択した10箇所で実施し、抽出した単糸数合計100本中に含まれる異形断面繊維の本数を求めて、割合を算出するものである。
本発明の嵩高糸において、芯糸および鞘糸に異形断面繊維以外の繊維を混在させる場合には、中空断面繊維が好ましく中空率10%以上の中空断面繊維であることが好ましい。軽量性という観点から、中空断面繊維が好適であることは言うまでもないが、芯糸による嵩高糸の形態保持性や鞘糸が形成するループの突出という観点で剛性に優れる中空断面繊維が好適なのである。
ここで言う中空率とは、繊維中に材料が存在していない部分の体積率であり、以下の方法で測定することができる。すなわち、鞘糸または芯糸の横断面が観察できるように切削した後、その繊維断面を走査電子顕微鏡(SEM)にて10本以上の中空断面繊維の断面が観察できる倍率で撮影する。撮影した画像から無作為に選定した10本の中空断面繊維を抽出し、画像処理ソフトを用いて繊維及び中空部分の円相当径を測定し、そこから中空部の面積比率を算出して求める。
ここで、1画像で観察できる中空断面繊維が10本未満の場合は、観察される中空断面繊維の全数を抽出し、中空部の面積比率を算出して求める。以上の操作を撮影した10画像について行い、10画像の平均値を本発明の中空断面繊維の中空率とする。
中空断面繊維が丸断面の場合には、簡便な中空率の評価方法として以下の方法がある。
中空断面繊維の側面を顕微鏡等の拡大手段で観察し、その画像から丸断面換算の繊維径を測定する。この繊維径と繊維の素材の密度から、中空でない繊維としたときの繊度に対する実測した繊度との比率を中空率として算出することも可能である。
中空率は、本発明の目的である軽量・保温性という観点では、本発明の嵩高糸がより空気を含んでいることが好適であり、中空率が20%以上であることがより好ましい。係る範囲であれば、嵩高糸を束で持った際により良好な軽量性を実感することもできる。また、熱伝導率が低い空気を内部に、より多く有していることを意味するため、更に保温性を高めることができる。この中空率の値は高いほど保温性が高まる傾向にあるが、中空部が潰れることなく安定的に本発明の嵩高糸を取り扱うことのできる範囲として、本発明の中空率の実質的な上限は50%である。
本発明の嵩高糸は、芯糸および鞘糸が適度な剛性を有した繊維により構成されていることが好適であり、嵩高糸を構成する合成繊維の単糸繊度は3.0dtex以上であることが好ましい。
ここで言う繊度とは、求めた繊維径、フィラメント数および密度から算出した値、または繊維の単位長さの重量を複数回測定した単純な平均値から、10000m当たりの質量を算出した値を意味する。
本発明の嵩高糸を中綿として用いる場合には、繰り返し圧縮および回復等の変形を加えられることとなるため、構成するフィラメントは適度な剛性を有することがよく、単糸繊度が6.0dtex以上であることがより好ましい。鞘糸の単糸繊度に関しては、本発明の特徴に寄与する圧縮変形量を大きくするために、鞘糸ループを大きくして圧縮される前の初期嵩高を高めることが有効であり、上記の観点を推し進めると、鞘糸に用いる原糸の単糸繊度に関しては、9.0dtex以上とすることがさらに好ましい。
本発明の嵩高糸の形態効果をより顕著にさせるためには、芯糸及び鞘糸の糸長差を考慮することが好適であり、芯糸に対する鞘糸の糸長差は、10〜100倍であることが好ましい範囲として挙げることができる。
ここで言う糸長差は、デジタルマイクロスコープ等によって嵩高糸を2次元的に観察できる倍率で撮影した画像を用い、評価することができる。嵩高糸から無作為に選出した10箇所において、各々の芯糸及び鞘糸の長さをミリメートル単位で小数点第2位までを測定する。それぞれの画像において、鞘糸長さを芯糸長さで除することでそれぞれの糸長差を算出し、嵩高糸の10箇所の単純平均の小数点第2位以下を四捨五入した値を糸長差とする。なお、該糸長差は後述する製造方法において、芯糸及び鞘糸のサクションノズルへの供給速度比に相当し、この速度を調整することで所望の糸長差で嵩高構造を設計することが可能であり、簡易的にはこれを各糸長差と見なすこともできる。
ここで、嵩高性は、一般的に単位質量あたりの糸束体積にて判定されるため、嵩高糸の質量の小さいほうが有利となる。本発明の嵩高糸においては、ループを形成する鞘糸が嵩高糸としての質量の大半を占めるため、鞘糸の質量を小さくしながらも嵩高構造を維持できることが良い。この点で、芯糸に対する鞘糸の糸長差は10〜70倍であることがより好ましい。また、流体加工に引き続いて実施する後加工の工程通過性等の観点から、ループの大きさが揃っているほうが、工程ロール等への引っ掛かりを抑制できる。このため、芯糸に対する鞘糸の糸長差は、20〜50倍とすることがさらに好ましい。
本発明の嵩高糸において、鞘糸ループの耐ヘタリ性、嵩高性の維持という観点では、鞘糸ループの基点となる芯糸との交錯点は、繊維軸方向に適度な周期で存在することが好適である。このため、本発明においては、芯糸と鞘糸の交錯点は、芯糸の繊維軸方向1mmあたり1.0個/mmから30.0個/mmで存在することが好ましい。係る範囲であれば、鞘糸からなるループがそれぞれ自立した構造を形成し、嵩高構造の形態安定を担保する周期でループが存在していることを意味する。この観点を推し進めると、該交錯点は5.0個/mmから15.0個/mmで存在することがより好ましい。ここで、芯糸および鞘糸の判別、交錯点や単位長さあたりのループの個数を嵩高糸の糸長手方向に連続的に評価するには、光電型の毛羽検知装置を活用することができる。例えば、光電型毛羽測定機(TORAY FRAY COUNTER)を用い、糸速度10m/分、走行糸張力0.1cN/dtexの条件で、加工糸中心線からの距離0.6mmならびに1.0mmを評価することにより可能である。
本発明の嵩高糸において、嵩高糸を合糸した際の嵩高糸間の絡み合いを抑制する観点から、繊維間静摩擦係数が0.3以下であることが好ましい。ここで言う繊維間静摩擦係数とは、レーダー式摩擦係数試験機により、JIS L1015(2010年)「化学繊維ステープル試験方法」の「摩擦係数」に記載された方法に準じて測定するものである。なお、当該JISはステープルを目的としているため、測定にあたっては開繊等の前作業を行うことを規定しているが、本発明での測定では、開繊等の処理は行わず、嵩高糸を円筒スライバーに平行に並べることで評価できる。
本発明の嵩高糸の効果を高めるためには、圧縮および回復の繰り返しによる鞘糸ループの絡み合いの発生、中綿として用いた場合の洗濯による中綿の偏り発生を抑制するという観点から、繊維間静摩擦係数は低い方が好適であり、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることが特に好ましい。
本発明の嵩高糸は、繊維巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、わた、ファイバーボール、コード、パイル、織編、不織布など多様な繊維構造体とし、様々な繊維製品とすることが可能である。ここで言う繊維製品は、一般衣料から、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品などの生活用途やフィルター、有害物質除去製品などの環境・産業資材用途に使用することができる。特に本発明の嵩高糸は、優れた嵩高性や圧縮回復性と、低荷重でも高い圧縮率特性およびソフト(柔軟)でしなやかな風合いを兼ね備えたものであり、中綿として使用することが好適である。中綿は側地に充填されることから、本発明の嵩高糸を数本から数十本合糸した糸束とすることや、不織布などのシート状物にすることにより、充填時のハンドリング性に優れた素材を提供することができる。
以下、本発明の嵩高糸の製造方法の一例を説明する。
本発明の嵩高糸に用いられる繊維は、熱可塑性ポリマーを公知の方法により溶融紡糸して繊維化した合成繊維を用いればよい。
本発明の嵩高糸は、鞘糸に異形度1.5以上の異形断面繊維を20%以上含むものであればよく、芯糸や鞘糸に用いる合成繊維の断面形状に関して、いずれの形状を有するものであっても良い。紡糸口金における吐出孔の形状を変更することで、一般的な丸断面、三角断面、Y型、八葉型、偏平型などや多葉型や中空型など不定形なものにすることができ、単独のポリマーからなる単成分繊維や、2種類以上のポリマーからなる複合繊維であっても良い。
次に、紡糸して得られた繊維から嵩高糸を製造する方法の一例を説明する。
ここで例示する嵩高糸の製造方法は、大きく2つの工程からなる。第1工程が流体により芯糸と鞘糸とを交錯させ、鞘糸からなるループを形成させる嵩高加工工程である。第2工程が嵩高加工された糸条を熱処理することにより、嵩高糸の構造を固定する熱処理工程である。
本発明の嵩高糸の製造方法の一例を、図4の概略工程図および図5のサクションノズルの概略側面図に基づいて説明する。この第1工程では、原料となる合成繊維17、18はニップローラなどを有した供給ローラ16により規定量引き出され、圧空の噴射が可能なサクションノズル9によって、芯糸及び鞘糸として吸引される。
このサクションノズルでは、ノズルから噴射する圧縮空気の流量は、供給ローラからノズルに挿入する糸条が必要最低限の張力を有し、供給ローラからノズルの間及びノズル内で糸揺れ等を起こさず安定的に走行する流量を噴射することが好適である。この流量は、使用するサクションノズルの孔径により最適量が変化するが、糸張力を付与でき、後述するループの形成が円滑にできる範囲としては、ノズル内での気流速度が100m/s以上であることが目安となる。この気流速度の上限値の目安は、700m/s以下とすることであり、係る範囲であれば、過剰に噴射された圧空により、走行糸条が糸揺れ等を起こすことなく、安定的にノズル内を走行することになる。
また、このサクションノズル内での加工糸の撹乱、開繊を予防するという観点から、圧縮空気の噴射角度19は、走行糸条に対して60°未満で噴射する推進ジェット流とすることが好ましい。これは高い生産性で、鞘糸によるループ形成を均質に行うことができるからである。当然、走行糸条に対して90°に流体を噴射する垂直ジェット流による加工でも本発明の嵩高糸を製造することは不可能ではないが、垂直方向からのジェット流噴射によるノズル内での走行糸条の開繊、及び単糸同士の絡み合いを抑制するという観点から推進ジェット流による加工が好ましい。この推進ジェット流による加工は、垂直ジェット流の場合に形成しやすいアーチ型の小ループが短周期で形成することも抑制できる。
本発明の嵩高糸の繊維構成においては、垂直ジェット流で加工した場合、芯糸および鞘糸が混繊交絡することとなり、本発明の嵩高糸に近い形態を形成することは不可能ではないが、ループの糸切れや折れ曲がりを防ぐことが非常に困難である。そのため、本発明においては、推進ジェット流を用いた加工が適しており、中綿として使用した場合の製品欠陥や嵩高性不足につながる鞘糸ループの糸切れや折れ曲がりが抑制された嵩高糸を形成することが可能となるものである。
本発明の嵩高糸に必要となる鞘糸ループを安定して形成するには、サクションノズル内で撹乱や開繊を施さないことが好適である。一桁本数から二桁本数の糸からなるマルチフィラメントをノズル内では開繊させずに走行させるという観点では、圧縮空気の噴射角度が、走行糸条に対して45°以下であることがより好ましい。また、ノズル外でループを形成させる点では、ノズル直後の噴射気流の安定性及び推進力が高いことが好適であり、この観点から、噴射角度が走行糸条に対して20°以下であることが特に好ましい。
本発明の嵩高糸の製造に用いる上記サクションノズル条件は、糸条を開繊させることなくノズル内を走行させることが可能であり、導入する糸条の本数を増やした場合にもノズル内で糸条の絡まりは抑制できる。本発明の嵩高糸は、鞘糸に異形断面繊維を20%以上含むものであり、流体加工直前で異形度の異なる繊維を合糸供給する場合にも好適である上、さらにフィード糸条本数を増やした場合の加工にも適用できる。そのため、異形断面繊維の割合調整を容易に実施することが可能である。
本発明の目的を達成する嵩高糸の嵩高加工工程を多錘化し、合糸まで連続して製造するにあたり、多数存在するパラメータを緻密に制御する必要が生じる。嵩高加工工程を多錘化した場合には、錘毎に嵩高糸の嵩高性が異なるものになるという可能性があるため、後述するノズル外の気流制御を活用した手法を採用することが、品質の安定性を確保し易くなるため好適である。
次に、圧縮空気が付与された糸条をノズル外で旋回させ、鞘糸ループを形成させる工程となる。これはノズルから噴射されたある位置で供給された糸を旋回させることで、本発明の目的を達成するループを形成するというコンセプトを着想したものであり、気流速度と糸速度の比(気流速度/糸速度)が100〜5000にある場合に、前記嵩高構造の形成が達成されやすくなる。
ここでの気流速度とは、サクションノズル出口から走行糸条とともに噴射された気流の速度を意味する。気流速度はノズル吐出口の断面積と圧縮空気の流量により制御可能である。また、糸速度は、サクションノズルを出た後に、糸を引き取る引取ローラ12の周回速度等により制御することが可能である。
鞘糸の旋回力は、気流速度と糸速度の速度比に依存して増減するため、芯糸との交錯点による鞘糸ループの固定を強固にする場合には、この速度比を5000に近づければよいし、交錯点を緩慢にしたい場合には逆に100に近づければよく、本発明の嵩高糸を用いる用途に合わせて適宜調整すればよい。この速度比は、例えば、圧縮空気の流量を間歇的に変化させ、あるいは引取ローラの速度を変動させることで、交錯点の周期に変化を持たせることも可能である。
この旋回力が発現するのは、随伴していた気流が走行糸条を離脱したところである。そこで糸道を変更する旋回点10を配置する。具体的には、バーガイド等で糸道を変更することで良く、糸条を規定の速度で引き取ることにより、芯糸に旋回した鞘糸が芯糸との交錯点を起点にループを形成する。この旋回を起こすためのスペースとノズルから噴射された気流の拡散を利用した鞘糸の振動によるほぐれを得るという観点から、走行糸条の旋回点は、ノズル吐出口から離れた位置にあることが好適である。ただし、本発明の嵩高糸を製造するために適したノズル−旋回点間の距離は噴出した気流速度により変化するものである。気流の拡散とのバランスで適度な周期で芯糸と鞘糸との交錯点を形成させるために、ノズル−旋回点間の距離は、噴出気流が適度な旋回力を保つことができる1.0×10−5〜1.0×10−3秒間走行する間に旋回点10が存在することが好ましく、2.0×10−5〜5.0×10−4秒間走行する間に旋回点10が存在することがより好ましい。
この旋回点の位置を調整することで、芯糸に対する鞘糸の旋回数、及び交錯点の周期を制御することもできる。
鞘糸からなるループが形成された嵩高糸11は、引取ローラ12で引き取られ、形態固定や3次元的な捲縮を発現させる等の目的で、一旦巻き取った後あるいは嵩高加工に引き続いて熱処理を施すことが好ましい。図4においては、嵩高加工に引き続き熱処理を行う加工工程を例示している。この熱処理は、例えばヒータ13によって行うものである。熱処理温度は、加工糸を構成する繊維に使用するポリマーのうち、結晶化温度が最も低いポリマーの結晶化温度±30℃がその目安となる。この温度範囲での処理であれば、ポリマーの融点から処理温度が離れているため、加工糸を構成する繊維間で融着して硬化した箇所はなく、異物感がなく、良好な触感を損ねることはない。この熱処理工程に用いるヒータは一般的な接触式あるいは非接触式のヒータを採用することができ、熱処理前の嵩高性や鞘糸の劣化抑制という観点では、非接触式のヒータの使用が好ましい。ここで言う非接触式のヒータとは、スリット型ヒータやチューブ型ヒータ等の空気加熱式ヒータ、高温蒸気により加熱するスチームヒータ、輻射加熱を利用したハロゲンヒータやカーボンヒータ、マイクロ波ヒータ等が該当する。
ここで加熱効率という観点から、輻射加熱を利用したヒータが好ましい。加熱時間に関しては、例えば、結晶化が進み加工糸を構成する繊維の繊維構造の固定、加工糸の形態固定及び鞘糸の捲縮発現が完了するための時間等を考慮することになり、処理温度及び時間を求められる特性に応じて調整するのがよい。熱処理工程が完了した加工糸はデリバリーローラ14を介して速度を規制し、張力制御機能を具備したワインダ15で巻き取ればよい。この巻き形状に関しては、特に限定されるものではなく、いわゆるチーズ巻きやボビン巻きとすることが可能である。また、最終的な製品への加工を考慮して、複数本を予め合糸し、トウとすることやそのままシート化することも可能である。
本発明の嵩高糸は、熱処理工程前後でシリコーン系油剤を均一に付着させることが好ましい。ここで付着させるシリコーンは、熱処理などによって適度にシリコーンを架橋させることで、鞘糸及び芯糸にシリコーンの皮膜を形成させると良い。ここで言うシリコーン系油剤とは、ジメチルポリシロキサン、ハイドロジエンメチルポリシロキサン、アミノポリシロキサン、エポキシポリシロキサン等が例示され、これらを単独または混合して使用できる。また、嵩高糸の表面に均一に皮膜を形成するために、シリコーン付着の目的を損なわない範囲で、油剤に分散剤、粘度調整剤、架橋促進剤、酸化防止剤、防燃剤及び静電防止剤を含有させることができる。このシリコーン系油剤は無溶剤でも、溶液や水性エマルジョンの状態でも使用することもできる。油剤の均一付着という観点では、水性エマルジョンを使用することが好ましい。シリコーン系油剤は、油剤ガイド、オイリングローラまたはスプレーによる散布を利用して、質量比で嵩高糸に対して0.1〜5.0%付着できるように処理することが好適である。その後任意の温度及び時間で乾燥し、架橋反応させることが好ましい。このシリコーン系油剤は、複数回に分けて付着させることも可能であり、同じ種類のシリコーンあるいは種類の異なるシリコーンを分けて付着さて、強固なシリコーン皮膜を積層させることも好適である。前述した処理により、嵩高糸にシリコーンの皮膜を形成させることで、嵩高糸の滑り性、風合いが増し、本発明の効果を更に引き立たせることができる。
以下実施例を挙げて、本発明の嵩高糸およびその効果について具体的に説明する。
実施例および比較例では、下記の評価を行った。
A.繊度
繊維の100mの質量を測定し、100倍することで繊度を算出した。これを10回繰り返し、その単純平均値の小数点第2位を四捨五入した値をその繊維の繊度(dtex)とした。単糸繊度とは、繊度をその繊維を構成するフィラメント数で除することにより、算出した。この場合も、小数点第2位を四捨五入した値を単糸繊度とした。
B.繊維断面の異形度(異形度)
嵩高糸のループを形成する鞘糸部分から繊維を抜き出し、剃刀によって繊維軸と垂直方向に切断して、その切断面を(株)日立ハイテクノロジーズ製走査電子顕微鏡SU1510により撮影した。この画像から異形断面繊維の画像を抽出し、該繊維の切断面に外接する真円の径を外接円径とし、さらに、内接する真円の径を内接円径として、下記の式から異形度を求めた。
異形度=(繊維断面の外接円径)/(繊維断面の内接円径)
これをランダムに抽出した異形断面繊維10本について求め、その平均の小数点以下2桁目を四捨五入して小数点以下1桁目まで求めた値を異形度とした。
C.ループの大きさ、破断の有無
試料となる糸にたるみが出ないように0.01cN/dtexの荷重をかけ、図2に例示されるように定長で一対の糸道ガイド4に糸掛けする。糸掛けした嵩高糸の側面を(株)キーエンス製マイクロスコープVHX−2000にて糸束の全幅を観察できる倍率で撮影した。この画像について、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて、加工糸中心線3からのループ頂点までの距離5を測定した。この作業を加工糸1本について画像を計10箇所撮影し、ミリメートル単位で小数点第2位までを測定する。この数値の平均値を算出し、小数点第2位を四捨五入した値を嵩高糸におけるループの大きさ(mm)とした。
前記と同じ10画像において、各々10個のループについて加工糸1ミリメートル当たりのループの破断点をカウントし、平均値の小数点第2位を四捨五入した値をループの破断点(個/mm)とした。ここで破断点が0.2個/mm未満のものは、鞘糸が実質破断していない(各実施例、比較例の説明ならびに各表においては「無し」と記載)、0.2個/mm以上のものは、破断有り(各実施例、比較例の説明および各表においては「有り」と記載)と評価した。
D.嵩高性
加工糸を500m以上巻き付けたドラムをクリールに仕掛け、ドラムの断面方向に糸を解舒し、電子天秤上に設置した容器に振り落として嵩高糸10gを計量した。計量した嵩高糸を内径が15cmの円筒容器に入れ、円筒内の断面積に対して0.15g/cmとなるよう重量調整した円形板を嵩高糸の上に載せ、1分間放置した後の嵩高糸の高さを測定し、小数点以下1桁目までを読み取って嵩高糸の高さL0とした。この高さから下記の式より、単位重量当たりの嵩高糸の体積(=嵩高性)を算出し、小数点以下1桁目を四捨五入して整数値とした。
嵩高性(cm/g)=円筒内の断面積×L0/嵩高糸の重量 。
E.圧縮率および圧縮後の回復率(回復率)
嵩高性評価と同様に、嵩高糸の高さL0を測定し、これを初期高さとした。次いで、3.0g/cmとなるよう円形板上に荷重を追加し、この荷重を負荷してから1分後の高さを圧縮高さL1とした。さらに、追加荷重を外して0.15g/cmの荷重に戻してから5分後の高さを圧縮回復高さL2とした。これらの測定高さは、いずれも小数点以下1桁目まで読み取り、下記の式より嵩高糸の圧縮率および圧縮後の回復率を算出した。圧縮率および回復率は小数点以下1桁目を四捨五入して整数値とした。
圧縮率(%)=(L0−L1)/(L0)×100
回復率(%)=(L2−L1)/(L0−L1)×100 。
F.触感(嵩高糸の基本触感)
風合い評価で用いた試料を握った時の触感から、下記の4段階で評価した。
◎:嵩高性及び柔軟性に優れ、異物感を感じない優れた触感
○:嵩高性及び柔軟性を有した良好な触感
△:嵩高性は有するものの、異物感を感じるやや不良な触感
×:嵩高性がなく、異物感を感じる不良な触感。
G.風合い評価(ソフト(柔軟)でしなやかな風合い評価)
加工糸を500m以上巻き付けたドラムをクリールに仕掛け、ドラムの断面方向に糸を解舒しながら検尺機を用いて巻き形態とすることで10mの糸カセを作製した。この糸カセの一箇所を固定して風合い評価用の試料を作製し、試料を手でゆっくりと圧縮した時の指を包み込むような圧縮変形挙動と、手を離した時の回復時の戻りの柔らかさ(緩慢な回復変形挙動)から、下記の4段階で評価した。
◎(優) :しなやかでソフト(柔軟)性に優れた風合い
○(良) :しなやかでソフト(柔軟)性が良好な風合い
△(可) :しなやかでソフト(柔軟)性を感知できる風合い
×(不可):しなやかでソフト(柔軟)性に乏しい風合い(反発感) 。
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(PET:IV=0.65dl/g、結晶化温度=150℃)を290℃で溶融後、ギアポンプで計量し、紡糸パックに流入させ、孔径φ0.30mmの吐出孔が同心円状に配置された紡糸口金から吐出した。吐出された糸条に20℃の冷却風を20m/minの流れで片側から吹き付けて冷却固化後、紡糸油剤を付与し、紡糸速度1500m/minで未延伸糸を巻き取った。引き続き、巻き取った未延伸糸を90℃と140℃に加熱したローラ間で延伸速度800m/minで延伸した単糸繊度7.0dtexの繊維を芯糸および鞘糸とした。
同じく、ポリエチレンテレフタレートを公知の扁平断面繊維用スリット部を有する口金から吐出し、吐出された糸条に20℃の冷却風を20m/minの流れで片側から吹き付けて冷却固化後、紡糸油剤を付与し、紡糸速度1500m/minで未延伸糸を巻き取った。引き続き、巻き取った未延伸糸を90℃と140℃に加熱したローラ間で延伸速度800m/minで延伸した単糸繊度7.0dtexの扁平断面繊維を得た。この扁平断面繊維の異形度は3.0であった。
前記扁平断面繊維を鞘糸の50%の割合となるよう合糸混合しながら供給し、芯糸および鞘糸を図4に例示される工程にて、芯糸を供給ローラ速度50m/min、鞘糸を供給ローラ速度1000m/minとして、サクションノズルに供給した。サクションノズルでは走行糸条に対して20°で気流速度400m/sとなるように圧空を噴射し、芯糸と鞘糸がノズル内で交錯しないように随伴気流とともにノズルから噴出させた。ノズルから噴射した糸条を気流と共に1.0×10−4秒間走行させ、セラミックガイドを利用して糸道を変更し、鞘糸からなるループを形成した嵩高糸を50m/minのローラで引き取った。連続して、ローラを介して該加工糸をチューブヒータに導き、150℃の加熱空気で10秒間熱処理し、嵩高糸の形態をセットした。該嵩高糸は、チューブヒータ後に設置された張力制御式巻取り機により、50m/minでドラムに巻き取った。
実施例1では鞘糸からなるループが外周方向に平均で23mm突出した嵩高糸が得られた。また、鞘糸は破断箇所が見られない連続したループを形成したものであった(破断箇所:0.0個/mm)。
引き続き、嵩高糸にポリシロキサンが濃度8wt%で含まれたシリコーン系油剤を、最終的なポリシロキサン付着量が嵩高糸に対して1wt%になるようにスプレーで均一に散布し、140℃の温度で20分間熱処理して本発明の嵩高糸を採取した。
該嵩高糸は、嵩高性が418cm/g、圧縮率が93%、回復率が92%であり、大きな変形量を有し、基本特性として嵩高部の回復性にも優れるものであった。また、握った際の触感は非常に柔らかく、圧縮時の包み込まれるような触感と柔軟な回復挙動を有しており、ソフトでしなやかな風合いに優れたものであった(風合い:◎)。結果を表1に示す。
実施例2〜4
扁平断面繊維用スリット部の孔長を変更することにより、異形度を変更したこと以外は、全て実施例1に従実施した。
実施例2は、異形度を1.5としたものであり、実施例1と比較して異形度が小さくなったことで、圧縮率がわずかに低下したものの、嵩高性はほぼ同等を維持しており、ソフトでしなやかな風合いが良好なものであった(風合い:○)。
実施例3は、異形度を5.0としたものであり、実施例1と比較して異形度が大きくなったことで、嵩高性および圧縮率に優れた素材が得られた。また回復性にも優れており、異物感等の違和感なく、ソフトでしなやかな風合いに優れたものであった(風合い:◎)。
実施例4は、異形度を8.0としたものであり、実施例3と同様に異形度が大きくなったことで、嵩高性および圧縮率に優れた素材が得られた。また回復性にも優れており、異物感等の違和感なく、ソフトでしなやかな風合いに優れたものであった(風合い:◎)。結果を表1に示す。
実施例5
公知のY断面繊維用スリットを有する紡糸口金を用い、実施例1と同様にして単糸繊度7.0dtexのY断面繊維を得た。このY断面繊維の異形度は2.6であり、鞘糸に50%の割合で混合し、実施例1と同様にして嵩高糸を得た。得られた嵩高糸は、実施例1と同様、嵩高性および圧縮率が良好なものであった。また、回復性にも優れており、ソフトでしなやかな風合いが良好なものであった(風合い:○)。結果を表1に示す。
実施例6
公知の十字断面繊維用スリットを有する紡糸口金を用い、実施例1と同様にして単糸繊度7.0dtexの十字断面繊維を得た。この十字断面繊維の異形度は2.1であり、鞘糸に50%の割合で混合し、実施例1と同様にして嵩高糸を得た。得られた嵩高糸は、実施例1と同様に、嵩高性および圧縮率が良好なものであった。回復性は実施例1と比較してわずかに低下したものの、ソフトでしなやかな風合いが良好なものであった(風合い:○)。結果を表1に示す。
実施例7
図6に例示されるような3つのスリット(幅0.1mm)が同心円状に配置された中空断面繊維用吐出孔から中空率30%となるように吐出し、実施例1と同様にして単糸繊度7.0dtexの中空丸断面繊維を得た。この中空丸断面繊維を芯糸および鞘糸として用いたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。得られた嵩高糸は、実施例1と比較して嵩高性に優れ、圧縮率が良好なものであった。また、回復性も良好であり、回復速度が速くなったものの、実施例1と同様、ソフトでしなやかな風合いに優れたものであった(風合い:◎)。結果を表1に示す。
実施例8〜10
扁平断面繊維の混合割合を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
実施例8は、扁平断面繊維の混合割合を20%としたものであり、鞘糸中の異形断面繊維の割合が低下したことにより、実施例1と比較して圧縮率が低下した。一方、基本特性としての触感は柔軟であり、圧縮時の包み込まれるような変形と、緩慢な回復の傾向が見られ、ソフトでしなやかな風合いが感知できる程度のものであった(風合い:△)。結果を表2に示す。
実施例9は、扁平断面繊維の混合割合を30%としたものであり、鞘糸中の異形断面繊維の割合が低下したことにより、実施例1と比較して圧縮率がわずかに低下したものの、回復性は良好であり、ソフトでしなやかな風合いが良好なものであった(風合い:○)。結果を表2に示す。
実施例10は、扁平断面繊維の混合割合を70%としたものであり、実施例1と比較して圧縮率に優れた素材が得られた。また回復性も良好であり、圧縮量が大きいことから非常に柔らかく、ソフトでしなやかな風合いに優れるものであった(風合い:◎)。結果を表2に示す。
実施例11、12
芯糸、鞘糸および扁平断面繊維の単糸繊度をそれぞれ表2に示すように変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
実施例11は、単糸繊度を3.0dtexとしたものであり、実施例1と比較して、ループの大きさが小さくなり、嵩高性が若干低下したものの、圧縮率(評価:○)と回復率(評価:○)に優れたものであった。また、単糸繊度が小さくなったことにより、実施例1よりもさらに柔軟な触感を発現し、ソフトでしなやかな風合いに優れたものであった(風合い:◎)。結果を表2に示す。
実施例12は、単糸繊度を10.0dtexとしたものであり、実施例1と比較して、ループの大きさが大きく、高い嵩高性を示した。圧縮率(評価:○)および回復率(評価:○)にも優れたものであり、単糸繊度が大きいことによって特に回復速度が速くなった。また、ソフトでしなやかな風合いが良好なものであった(風合い:○)。結果を表2に示す。
比較例1
繊維の構成を芯糸1と鞘糸の2成分としたこと以外は、実施例1に従い実施した。
比較例1は、2成分からなる嵩高糸であり、鞘糸ループ自体は大きく、嵩高性は良好であったが、圧縮率が低いものであった。このため、触感については異物感なく柔軟な基本特性を有していたが、手で圧縮した時には抵抗感を感じるものであり、また元の形態への回復が早く、実施例1と比較するとソフトでしなやかな風合いが乏しい(反発感がある)ものであった(風合い:×)。結果を表3に示す。
1 鞘糸
2 芯糸
3 加工糸中心線
4 糸道ガイド
5 加工糸中心線からループ頂点までの距離
6 異形断面繊維の外接円
7 異形断面繊維
8 異形断面繊維の内接円
9 サクションノズル
10 旋回点
11 嵩高糸
12 引取ローラ
13 ヒーター
14 デリバリーローラ
15 ワインダ
16 供給ローラ
17 芯糸
18 鞘糸
19 圧空の噴射角度
20 スリット状吐出孔

Claims (5)

  1. ループを形成する鞘糸と、鞘糸との交錯により実質的に鞘糸を固定する芯糸から構成され、鞘糸が部分的に切断することなく連続的なループを形成している嵩高糸であり、鞘糸に異形度1.5以上の異形断面繊維が20%以上含まれていることを特徴とする嵩高糸。
  2. 異形断面繊維が扁平断面繊維であることを特徴とする請求項1に記載の嵩高糸。
  3. 嵩高糸を構成する繊維の単糸繊度が3.0dtex以上であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の嵩高糸。
  4. 鞘糸に中空率10%以上の中空断面繊維が混在していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の嵩高糸。
  5. 請求項1から請求項4のいずれかに記載の嵩高糸を少なくとも一部に含む繊維製品。
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