本明細書中に記載される、多重エマルジョン核酸増幅と呼ばれる方法およびシステムにより、生体系内に含有される核酸が、核酸増幅技術、例えばPCRで検出される配列に基づいて、検出、定量化、および/またはソートされ得る。核酸は、浮遊性であってもよいし、粒子、ウイルス、および細胞を含む生物構造体または非生物構造体内に含有されていてもよい。核酸として、例えばDNAまたはRNAが挙げられ得る。本開示の方法を実行するのに用いられるシステムおよび装置もまた提供される。
本発明をより詳細に説明する前に、本発明は、記載される特定の実施形態に限定されず、したがって勿論、変化し得ることが理解されるべきである。また、本明細書中で用いられる専門用語は、特定の実施形態のみを説明することを目的としており、限定することは意図されていないことも理解されるべきである。というのも、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることとなるからである。
値の範囲が提供される場合、文脈上、そうでないとする明確な指示がない限り、当該範囲の上限と下限との間に入る値もまたそれぞれ、下限の単位の10分の1まで、具体的に開示されていると理解される。明示される範囲内の明示されるあらゆる値または間に入るあらゆる値と、明示される当該範囲内の明示される他のあらゆる値または間に入る他のあらゆる値との間のより狭い範囲がそれぞれ、本発明内に包含される。当該より狭い範囲の上限および下限は、当該範囲内に独立して含まれても除外されてもよく、より狭い範囲内に限界の一方もしくは双方が含まれ、またはどちらも含まれない範囲もまたそれぞれ、明示される範囲内の具体的に除外されるあらゆる限界に従って、本発明内に包含される。明示される範囲が、限界の一方または双方を含む場合、これらの含まれる限界の一方または双方を除外する範囲もまた、本発明に含まれる。
そうでないと定義されない限り、本明細書中で用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものに類似する、またはこれと等価のあらゆる方法および材料が、本発明の実行または試験に用いられ得るが、一部の潜在的かつ例示的な方法および材料が、次に記載され得る。本明細書中で言及される全ての刊行物は、参照によって本明細書中に組み込まれて、引用された刊行物に関連して、方法および/または材料が開示かつ説明される。本開示は、矛盾がある場合において、組み込まれた刊行物のあらゆる開示に優先することが理解される。
本明細書中で、そして添付の特許請求の範囲中で用いられるように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上、そうでないとする明確な指示がない限り、複数の指示対象を含むことが留意されなければならない。ゆえに、例えば、「微小滴(a microdroplet)」への言及は、複数のそのような微小滴を含み、「多重エマルジョン微小滴(the multiple−emulsion microdroplet)」への言及は、1つまたは複数の多重エマルジョン微小滴への言及を含む、等である。
さらに、特許請求の範囲は、あってもなくてもよいあらゆる要素を除外するように作成されている場合があることが留意される。したがって、この記述は、特許請求の範囲の要素、または「否定的な」限定の使用の記載に関連して、「単独で」、「のみ」等の排他的な専門用語の使用について、先行詞として機能することが意図される。
本明細書中で考察される刊行物は、その開示についてのみ、本出願の出願日以前に提供される。さらに、提供される刊行日は、実際の刊行日と異なる場合があり、独立して確認される必要がある場合がある。そのような刊行物が、本開示の明確な、または潜在的な定義または開示と矛盾する定義または開示を述べ得る場合において、本開示の定義が優先する。
本開示を読めば即座に当業者に明らかとなるように、本明細書中に記載され、かつ示される個々の実施形態はそれぞれ、本発明の範囲または趣旨を逸脱しない範囲で、他のいくつかの実施形態の何れかの特徴から容易に分離され得、またはこれと組み合わされ得る不連続な構成要素および特徴を有する。列挙されたあらゆる方法が、列挙された事象の順序で実行されてもよいし、論理的に可能である他のあらゆる順序で実行されてもよい。
方法
先に要約されるように、本開示の態様は、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを用いた、生体サンプル由来の成分の検出および/またはソートの方法を含む。態様は、細胞、例えば正常な哺乳類細胞(例えば、非腫瘍細胞)、腫瘍細胞、例えば循環腫瘍細胞(CTC)、または微生物細胞の検出、定量化、および/または遺伝子型分析の方法を含む。目的のさらなる実施形態は、細胞のPCRベースの検出および/またはソーティング、ウイルス粒子のPCRベースの検出および/またはソーティング、ならびに核酸の異質集団由来の核酸のPCRベースの検出および/またはソーティングを含む。
本明細書中で用いられる用語「生体サンプル」は、種々の源から得られる種々のサンプル型を包含し、当該サンプル型は、生体材料を含有する。例えば、当該用語は、哺乳類の対象、例えばヒト対象から得られる生体サンプル、および食物、水、または他の環境の源その他から得られる生体サンプルを含む。当該定義は、生体起源の血液サンプルおよび他の液体サンプル、ならびに固形組織サンプル、例えば生検標本もしくは組織培養体、またはそれに由来する細胞、およびその後代を包含する。当該定義はまた、入手後にあらゆる方法で、例えば試薬による処理、可溶化、またはある成分、例えばポリヌクレオチドの富化によって操作されたサンプルを含む。用語「生体サンプル」は、臨床サンプルを包含し、そしてまた、培養体中の細胞、細胞上澄み、細胞溶解物、細胞、血清、血漿、生体液、および組織サンプルを含む。「生体サンプル」として、個体から得られた細胞、例えば、細菌細胞または真核生物細胞;生体液、例えば血液、脳脊髄液、精液、唾液等;胆汁;骨髄;皮膚(例えば皮膚生検);および抗体が挙げられる。
本明細書中でより完全に記載されるように、種々の態様において、主題の方法は、そのような生体サンプル由来の種々の成分を検出するのに用いられ得る。目的の成分として、細胞(例えば、循環細胞および/または循環腫瘍細胞)、ウイルス、ポリヌクレオチド(例えばDNAおよび/またはRNA)、ポリペプチド(例えばペプチドおよび/またはタンパク質)、および生体サンプル中に存在し得る他の多くの成分が挙げられるが、これらに必ずしも限定されない。
本明細書中で用いられる「ポリヌクレオチド」または「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドモノマーの線状ポリマーを指し、互換的に用いられ得る。ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドは、種々の構造的構成の何れかを有することができ、例えば、一本鎖、二本鎖、または双方の組合せであり、そしてより高次の分子内または分子間の二次/三次構造、例えば、ヘアピン、ループ、三本鎖領域その他を有する。ポリヌクレオチドは典型的に、サイズが、「オリゴヌクレオチド」と通常呼ばれる場合の少数の単量体単位、例えば5〜40から、数千単量体単位にまで及ぶ。ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、一連の文字(大文字または小文字)、例えば「ATGCCTG」によって表される場合は常に、文脈からそうでないことが示されない、または明らかでない限り、ヌクレオチドが左から右に5’→3’の順であること、そして「A」はデオキシアデノシンを表し、「C」はデオキシシチジンを表し、「G」はデオキシグアノシンを表し、「T」はチミジンを表し、「I」はデオキシイノシンを表し、「U」はウリジンを表すことが理解されよう。特に明記しない限り、専門用語および原子ナンバリング規則は、StrachanおよびRead、Human Molecular Genetics 2(Wiley−Liss、New York、1999)に開示されるものに従うこととなる。
本明細書中で互換的に用いられる用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、あらゆる長さのアミノ酸のポリマー形態を指す。NH2は、ポリペプチドのアミノ末端に存在する遊離アミノ基を指す。COOHは、ポリペプチドのカルボキシル末端に存在する遊離カルボキシル基を指す。標準的なポリペプチド命名法を踏まえて、J.Biol.Chem.、243(1969)、3552〜3559が用いられる。
ある態様において、正常な細胞または腫瘍細胞、例えばCTCを含む細胞を計数および/または遺伝子型分析する方法が提供される。そのような方法の特徴が、マイクロフルイディクスの使用である。
先に要約されるように、本開示の方法は一般に、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中での核酸増幅に続く、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの検出および/またはソーティングを含む。図1は、本開示の一部の実施形態に従うツーステップ乳化を介した二重エマルジョン形成を示す概略図を示す。パネルAは、不混和性相中混和性相の一重エマルジョン、例えば、油中水または水中油の一重エマルジョンの形成を概略的に表す。パネルBは、不混和性相中混和性相の一重エマルジョンの再注入後の、混和性相中不混和性相中混和性相の二重エマルジョン、例えば、水中油中水の二重エマルジョンまたは油中水中油の二重エマルジョンの形成を概略的に表す。図1において別々の構成要素として表されているが、一重エマルジョン小滴メーカーおよび二重エマルジョン小滴メーカーが、開示される装置、方法、およびシステムの一部の実施形態において、単一のマイクロフルイディック装置内で流体工学的に連結された構成要素として提供され得ることに留意すべきである。二重エマルジョン微小滴の形成後、二重エマルジョン微小滴は、その後の核酸増幅のために収集される。そのような核酸増幅は、マイクロフルイディック装置、例えば、一重エマルジョン小滴メーカーおよび二重エマルジョン小滴メーカーの1つもしくは複数を備えるマイクロフルイディック装置の核酸増幅領域において、または別個の核酸増幅装置において「オフチップ」で、起こり得る。
これ以外にも、二重エマルジョン微小滴の形成後、二重エマルジョン微小滴は、脱濡れ条件に供されて、GUVが形成され、その中で二重エマルジョンの不混和性相流体が殻から除去されて、界面活性剤の膜が取り残されて、小さな不混和性相の小滴が膜の外側に付着し得る。
図2は、図1に示されるツーステップ乳化を介した二重エマルジョン形成の、より詳細な実施形態を示す概略図を示す。図2、パネルAは、PCR試薬および核酸が、水性流体内に入れられて、マイクロフルイディック装置のフローチャンネル中に導入される実施形態を示す。一重エマルジョン小滴メーカーは、水性流体と不混和性である流体、例えば油を導入して、PCR試薬および核酸を含有する一重エマルジョン微小滴を形成する。その後、一重エマルジョン微小滴は、マイクロフルイディック装置の第2のフローチャンネル中に再注入される(パネルB)。二重エマルジョン小滴メーカーは、水性流体と混和性である流体、例えば水を、適切な界面活性剤、例えばデタージェントと共に導入して、PCR試薬および核酸を含有する二重エマルジョン微小滴を形成する。図2において別々の構成要素として表されているが、一重エマルジョン小滴メーカーおよび二重エマルジョン小滴メーカーが、開示される装置、方法、およびシステムの一部の実施形態において、単一のマイクロフルイディック装置内で流体工学的に連結された構成要素として提供され得ることに留意すべきである。二重エマルジョン微小滴の形成後、二重エマルジョン微小滴は、その後のPCR増幅のために収集される。そのようなPCR増幅は、マイクロフルイディック装置、例えば、一重エマルジョン小滴メーカーおよび二重エマルジョン小滴メーカーの1つもしくは複数を備えるマイクロフルイディック装置に一体化されたサーマルサイクラーにおいて、または別個のサーマルサイクラーにおいて「オフチップ」で、起こり得る。
これ以外にも、二重エマルジョン微小滴の形成後、二重エマルジョン微小滴は、脱濡れ条件に供されて、二重エマルジョンの不混和性相流体が殻から除去されて、界面活性剤の膜が取り残されて、小さな不混和性相の小滴が膜の外側に付着し得る。
サーマルサイクラーがマイクロフルイディック装置に一体化される実施形態について、PCR試薬を含有する多重エマルジョン微小滴またはGUVが、PCRに有効な条件下で小滴をインキュベートするチャンネル中に流されてよい。例えば、適切な条件は、65℃および95℃に維持された種々の温度帯を蛇行するチャンネル中に多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを流すことによって、達成され得る。多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが温度帯を通って移動するにつれ、PCRに必要とされる温度が繰り返される。PCR反応の間、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが核酸(これを検出するように選択プライマーが設計されている)を含有するならば、増幅が開始される。この特定のPCR産物の存在は、例えば、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの蛍光を切り替える(turn)蛍光出力によって、検出され得る。ゆえに、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、蛍光降下の存在を検出するために、例えばフローサイトメトリを用いて、スキャンされ得る。ある態様において、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVはまた、例えば、目的の滴を回収するのに小滴ソーティングを用いて、ソートされ得る。ゆえに、現在の開示の命名法を用いて、先に記載されるステップは、「マイクロフルイディック制御下で」実行される。すなわち、ステップは、1つもしくは複数のマイクロフルイディック装置で、または1つもしくは複数のマイクロフルイディック装置で少なくとも部分的に実行される。
本明細書中に記載される方法に従う一重エマルジョン微小滴中の生体サンプル由来の成分の初期の封入が、あらゆる好都合な手段によって達成されてよい。また、目的の封入アプローチとして、流体力学的にトリガーされる滴形成、およびLinkら、Phys.Rev.Lett.92、054503(2004)によって記載されるものが挙げられるが、これらに限定されない。この文献の開示は、参照によって本明細書中に組み込まれる。
本開示の特定の方法の特徴は、細胞中に存在する特定のオリゴヌクレオチドおよび/または遺伝子、例えばオンコジーンの存在を検出するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)ベースアッセイの使用である。目的のPCRベースアッセイの例として、定量PCR(qPCR)、定量蛍光PCR(QF−PCR)、多重蛍光PCR(MF−PCR)、単細胞PCR、PCR−RFLP/リアルタイム−PCR−RFLP、ホットスタートPCR、ネステッドPCR、インサイチュポロニーPCR、インサイチュローリングサークル増幅(RCA)、ブリッジPCR、ピコタイターPCR、エマルジョンPCR、および逆転写酵素PCR(RT−PCR)が挙げられるが、これらに限定されない。他の適切な増幅法として、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写増幅法、自家持続配列複製法、標的ポリヌクレオチド配列の選択的増幅法、コンセンサス配列プライムポリメラーゼ連鎖反応(CP−PCR)、任意プライムポリメラーゼ連鎖反応(AP−PCR)、縮重オリゴヌクレオチドプライムPCR(DOP−PCR)、および核酸ベース配列増幅(NABSA)が挙げられる。
PCRベースアッセイは、特定の遺伝子、例えば特定のオンコジーンの存在を検出するのに用いられてよい。そのようなアッセイでは、目的の各遺伝子に特異的な1つまたは複数のプライマーが、各細胞のゲノムと反応する。当該プライマーは、特定の遺伝子に特異的な配列を有するので、細胞のゲノムに相補的である場合にのみハイブリダイズして、PCRを開始することとなる。目的の遺伝子が存在し、かつプライマーがマッチするならば、遺伝子の多くのコピーが生じる。特定の遺伝子が存在するかを判定するために、PCR産物は、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの液体をプロービングするアッセイを通して、例えば、SybrGreenまたは臭化エチジウムのようなインターカレート色素で溶液を染色することによって、固体基板、例えばビーズ(例えば、磁気ビーズまたは蛍光ビーズ、例えばLuminexビーズ)にPCR産物をハイブリダイズすることによって、または分子間反応、例えばFRETを通して検出することによって、検出され得る。これらの色素、ビーズ等はそれぞれ、「検出成分」の例であり、核酸増幅産物、例えばPCR産物の有無を検出するのに用いられるあらゆる成分を指すのに、本明細書中で広く、そして一般的に用いられる用語である。
これらの基本的なアプローチのいくつかの変形が、以下でより詳細に概説されることとなる。
多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中の細胞(例えば腫瘍細胞)の検出
主題の方法の態様は、生体サンプル中の1つまたは複数の細胞または細胞サブセット(例えば腫瘍細胞)の存在を検出することを含む。そのような方法は、例えば、細胞を多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入するステップであって、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、不混和性の殻によって囲まれている第1の混和性相流体を含み、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、第2の混和性相キャリア流体内に位置を定められる、ステップと;多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中での細胞の溶解をもたらすのに十分な条件に供するステップと;核酸増幅に阻害効果を及ぼす1つまたは複数の物質を不活化し、または取り除くのに十分な条件に、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを供するステップと;核酸増幅試薬を多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に導入するステップと;多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを、存在する場合に標的核酸の増幅をもたらすのに十分な増幅条件に供するステップと;存在する場合に、標的核酸の増幅に由来する増幅産物を検出するステップとを含んでよい。
生体サンプル(例えば全血)は、あらゆる好都合な手段を用いて、対象から回収され得る。生体サンプルは、例えば、プロセシングステップ、例えば遠心分離、濾過等を用いて、細胞以外の成分を取り除くように処理されてよい。所望される場合、細胞は、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に封入される前に、1つまたは複数の抗体および/またはプローブで染色されてよい。
また、1つまたは複数の溶解剤が、細胞が破裂させられ得る条件下で、細胞を含有する多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えられることによって、ゲノムが放出され得る。溶解剤は、細胞が多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に封入された後に、加えられてよい。あらゆる好都合な溶解剤、例えばプロテイナーゼKまたは細胞毒素が使用されてよい。特定の実施形態において、細胞は、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に、デタージェント、例えばトリトンX100および/またはプロテイナーゼKを含有する溶解バッファと共封入されてよい。細胞が破裂させられ得る特定の条件は、用いられる特定の溶解剤に応じて変わることとなる。例えば、プロテイナーゼKが溶解剤として組み込まれるならば、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、約37〜60℃に約20分間加熱されて、細胞が溶解し得、プロテイナーゼKは細胞タンパク質を消化することができ、その後、約95℃に約5〜10分間加熱されて、プロテイナーゼKを不活化することができる。
ある態様において、細胞溶解はまた、またはその代わりとして、溶解剤の添加を含まない技術に依存してもよい。例えば、溶解は、細胞の貫通、剪断、摩滅その他をもたらすように種々の幾何学的形状部分を使用し得る機械的技術によって達成されてよい。音響技術等の他のタイプの機械的破壊が用いられてもよい。さらに、細胞を溶解させるのに熱的エネルギーが用いられてもよい。細胞溶解をもたらすあらゆる好都合な手段が、本明細書中に記載される方法に使用されてよい。
検出されることになる各遺伝子および/または遺伝的マーカー、例えばオンコジーン用のプライマーが、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に導入されてよい。それゆえに、ある態様において、種々の遺伝子および/または遺伝的マーカー、例えば全てのオンコジーン用のプライマーが、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に同時に存在することによって、多重アッセイを実現することができる。多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、温度サイクルを受けるので、標的細胞、例えば癌細胞を含有する多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、PCRを経ることとなる。これ以外にも、等温核酸増幅法、例えば、ループ媒介等温増幅法(LAMP)、鎖置換増幅法(SDA)、ヘリカーゼ依存性増幅法(HDA)、およびニッキング酵素増幅反応(NEAR)が利用されてよい。ゲノム中に存在するオンコジーンおよび/または遺伝的マーカーに対応するプライマーのみが、増幅を誘導して、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中の当該オンコジーンおよび/または遺伝的マーカーの多くのコピーを生じさせることとなる。当該増幅産物の存在の検出は、種々の方法によって、例えばFRETを用いることによって、インターカレート色素で染色することによって、またはビーズに付着させることによって、達成され得る。多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、光学的にプロービングされて、増幅産物が検出され得る。一部の実施形態において、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの光学的プロービングは、初期の集団中に存在する腫瘍細胞を計数すること、および/または各腫瘍細胞中に存在するオンコジーンの同定を可能にすることを含んでよい。
主題の方法は、生体サンプルが、目的の特定の細胞、例えば腫瘍細胞を含有するか否かを判定するのに用いられ得る。ある態様において、主題の方法は、生体サンプル中に存在する目的の細胞、例えば腫瘍細胞の数を定量化することを含んでよい。生体サンプル中に存在する目的の細胞、例えば腫瘍細胞の数の定量化は、少なくとも部分的に、増幅産物が検出された多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの数に基づき得る。例えば、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、微小滴の大部分が、0または1つの細胞を含有すると予想される条件下で生産されてよい。1つの細胞も含有しない多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、本明細書中でより完全に記載される技術を用いて、取り除かれ得る。先に概説されるPCRステップを実行した後に、増幅産物を含有すると検出された多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの総数が計数されて、生体サンプル中の目的の細胞、例えば腫瘍細胞の数が定量化されてよい。ある態様において、当該方法はまた、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの総数を計数して、目的の細胞、例えば腫瘍細胞である、生体サンプル由来の細胞の割合またはパーセンテージを判定することを含んでもよい。
一部の実施形態において、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中への増幅試薬の導入は、第2の混和性相キャリア流体中に増幅試薬を導入することを含み、増幅試薬は、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの第2の混和性相キャリア流体から、不混和性の殻を通って、第1の混和性相流体中に拡散する。
多重エマルジョン微小滴および/またはGUVをソートして、微小滴破裂を介して、例えば、本明細書中により詳細に記載される化学的手段、電気的手段、または機械的手段により、内容物を回収することによって、目的の細胞および/または細胞物質は回収され得る。本明細書中に記載されるものを含む、種々の適切なソーティング技術および関連する装置が、増幅産物を含有する多重エマルジョン微小滴および/またはGUVをソートし、かつ分離するのに利用され得る。
多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中の核酸検出
本明細書中で考察されるように、開示される方法は、種々の生体サンプル由来の、目的の核酸、例えばDNAまたはRNAの検出に用いられる。そのような方法は、例えば、核酸および増幅試薬を、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入するステップであって、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、不混和性の殻によって囲まれている第1の混和性相流体を含み、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、第2の混和性相キャリア流体内に位置を定められる、ステップと;多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを、核酸の増幅をもたらすのに十分な増幅条件に供するステップと;核酸の増幅に由来する増幅産物を検出するステップとを含んでよい。一部の実施形態において、第2の混和性相キャリア流体は、緩衝水性相キャリア流体であり、一部の実施形態において、第1の混和性相流体および第2の混和性相流体は、同じである。増幅条件は、PCR条件、例えば、RT−PCR条件、または等温増幅条件、例えば、ループ媒介等温増幅(LAMP)条件、鎖置換増幅(SDA)条件、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)条件、およびニッキング酵素増幅反応(NEAR)条件であってよい。
目的の核酸は、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVをソートして、微小滴破裂を介して、例えば、本明細書中により詳細に記載される化学的手段、電気的手段、または機械的手段により、内容物を回収することによって、回収され得る。本明細書中に記載されるものを含む、種々の適切なソーティング技術および関連する装置が、増幅産物を含有する多重エマルジョン微小滴および/またはGUVをソートし、かつ分離するのに利用され得る。
一態様において、標的核酸配列を富化する方法が提供され、当該方法は、核酸を含むサンプルを、複数の多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入するステップと;ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)試薬および複数のPCRプライマーを、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に導入するステップと;PCR増幅がPCR増幅産物を生じさせるのに十分な条件下で多重エマルジョン微小滴および/またはGUVをインキュベートするステップであって、複数のPCRプライマーは、それぞれが、標的核酸配列によって含まれる1つまたは複数のオリゴヌクレオチドにハイブリダイズする1つまたは複数のプライマーを含み、PCR増幅産物は、完全な標的核酸配列を含まない、ステップと;インキュベート前に、またはインキュベート後に、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に検出成分を導入するステップと;検出成分の検出によってPCR増幅産物の有無を検出するステップであって、検出成分の検出とは、PCR増幅産物および標的核酸配列の存在を示す、ステップと;検出成分の検出に基づいて、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVをソートするステップであって、存在する場合に、PCR増幅産物および標的核酸配列を含む多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを、PCR増幅産物および標的核酸配列を含まない多重エマルジョン微小滴および/またはGUVから分離する、ステップと;存在する場合に、標的核酸配列の富化プールを提供するために、ソートされた多重エマルジョン微小滴および/またはGUVから核酸配列をプールするステップとを含む。これらのステップの1つまたは複数が、マイクロフルイディック制御下で実行され得る。
先の方法は、例えば、PCRで検出可能なサブ配列の存在に基づいた、不均一系からのDNA分子の富化を可能にする。DNA分子は短くてもよいし(例えば、何百ベース)、長くてもよい(例えば、メガベース以上)。サンプルは、標的分子が微小滴内でデジタル的に検出される(すなわち、各微小滴が0または1の標的分子を含有する)ように、微小滴内に封入され得る。その後、微小滴は、例えば蛍光に基づいて、ソートされて、標的分子が回収され得る。本方法は、DNAフラグメントの異質サンプルにおいて、例えばメガベースの長さの順に、大きなゲノム領域を富化するのに用いられ得る。
先の方法は、DNAを増幅するPCRを実行する必要なしに、配列決定に十分な量のDNAを回収することを可能にする。例えば、PCRが、目的の配列またはエピジェネティック因子を保存せず、または必要とされる長さ(例えば、ロングレンジPCRの実際的な限界は、>約10kbである)の配列を回収することができない場合に、増幅フリーのDNAサンプル調製物が有用である。
先の方法の別の用途は、エピジェネティック配列決定用にDNAを富化することである。DNA上のエピジェネティックマークは、PCRによって保存されないので、配列決定には、宿主の核酸に由来する非増幅DNAが必要とされる。先の方法により、PCRを実行する必要なしに、配列決定に十分な量のDNAが得られるので、エピジェネティックマークを保存することができる。
先の方法は、標的核酸の長さが、ロングレンジPCRの実際的な限界を超える場合に、例えば、核酸が約10kbよりも大きい場合に、および/またはDNA上のエピジェネティックマークを保存することが所望される場合に、特に有用性がある。一部の実施形態において、富化されることになる標的核酸は、長さが約100kbよりも大きく、例えば、長さが約1メガベースよりも大きい。一部の実施形態において、富化されることになる標的核酸は、長さが約10kbから約100kb、約100kbから約500kb、または約500kbから約1メガベースである。
増幅および/または精製の後、今後の分析用に、化学的手段および浸透圧手段の双方を用いて、エマルジョンが壊されてよい。例えば、等容量の1H,1H,2H,2H−パーフルオロ−1−オクタノールが、精製サンプルに加えられて、ピペッティングまたはボルテックスにより混合されてよい。その後、結果として生じた混合液は平衡し得、水性層が、さらなる分析用に溶出されてよい。同様に、過剰の精製水が、ソート後のサンプルに加えられて、混合されて、数時間室温でインキュベートされてよい。その後、結果として生じた混合液は、目的の精製サンプルについて、直接分析され得る。
PCR
先に要約されるように、本発明の方法を実行する際に、細胞中、または核酸の異質サンプル中に存在する、目的の特定の核酸、例えば、目的の遺伝子および/または遺伝的マーカー、例えば、オンコジーンの存在を検出するのに、PCRベースアッセイが用いられる。そのようなPCRベースアッセイの条件は、様々に変化してよい。
例えば、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えられ得るPCRプライマーの数は、変わり得る。用語「プライマー」は、複数のプライマーを指してよく、そして、天然に存在するかに拘らない、精製された制限消化物のような、または合成的に生産されたオリゴヌクレオチドを指し、これは、核酸鎖に相補的であるプライマー伸長産物の合成が触媒される条件下に置かれた場合に、相補鎖に沿う合成開始点として機能することができる。そのような条件として、適切なバッファ(「バッファ」は、補因子であり、またはpH、イオン強度その他に影響を及ぼす置換基を含む)中での、そして適切な温度での、4つの異なるデオキシリボヌクレオシド三リン酸、および重合誘導剤、例えばDNAポリメラーゼまたは逆転写酵素の存在が挙げられる。プライマーは好ましくは、増幅における最大効率のために、一本鎖である。
本明細書中で用いられる核酸配列の相補体は、核酸配列とアラインされた場合に、一方の配列の5’末端が、他方の3’末端と対形成されるような「逆平行の結合」であるオリゴヌクレオチドを指す。相補性は、完全である必要はない;安定した二本鎖は、ミスマッチした塩基対を含有してもよいし、マッチしない塩基を含有してもよい。核酸技術の当業者であれば、実験に基づいて、例えばオリゴヌクレオチドの長さ、オリゴヌクレオチド中のシトシン塩基およびグアニン塩基のパーセント濃度、イオン強度、ならびにミスマッチした塩基対の出現率を含む、いくつかの変数を考慮して、二本鎖安定性を判定することができる。
多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えられ得るPCRプライマーの数は、約1から約500プライマー以上、例えば、約2から100プライマー、約2から10プライマー、約10から20プライマー、約20から30プライマー、約30から40プライマー、約40から50プライマー、約50から60プライマー、約60から70プライマー、約70から80プライマー、約80から90プライマー、約90から100プライマー、約100から150プライマー、約150から200プライマー、約200から250プライマー、約250から300プライマー、約300から350プライマー、約350から400プライマー、約400から450プライマー、約450から500プライマー、または約500プライマー以上に及んでよい。
これらのプライマーは、1つまたは複数の目的の遺伝子、例えばオンコジーン用のプライマーを含有してよい。目的の遺伝子用の、加えられるプライマーの数は、約1から500プライマー、例えば、約1から10プライマー、約10から20プライマー、約20から30プライマー、約30から40プライマー、約40から50プライマー、約50から60プライマー、約60から70プライマー、約70から80プライマー、約80から90プライマー、約90から100プライマー、約100から150プライマー、約150から200プライマー、約200から250プライマー、約250から300プライマー、約300から350プライマー、約350から400プライマー、約400から450プライマー、約450から500プライマー、または約500プライマー以上であってよい。目的の遺伝子およびオンコジーンとして、BAX、BCL2L1、CASP8、CDK4、ELK1、ETS1、HGF、JAK2、JUNB、JUND、KIT、KITLG、MCL1、MET、MOS、MYB、NFKBIA、EGFR、Myc、EpCAM、NRAS、PIK3CA、PML、PRKCA、RAF1、RARA、REL、ROS1、RUNX1、SRC、STAT3、CD45、サイトケラチン、CEA、CD133、HER2、CD44、CD49f、CD146、MUC1/2、およびZHX2が挙げられるが、これらに限定されない。
そのようなプライマーおよび/または試薬は、1つのステップにおいて、または複数のステップにおいて、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えられてよい。例えば、プライマーは、2つ以上のステップ、3つ以上のステップ、4つ以上のステップ、または5つ以上のステップにおいて、加えられてよい。プライマーが1つのステップにおいて加えられるか複数のステップにおいて加えられるかを問わず、プライマーは、溶解剤の添加後、溶解剤の添加前、または溶解剤の添加と同時に、加えられてよい。溶解剤の添加の前後に加えられる場合、PCRプライマーは、溶解剤の添加とは別個のステップにおいて加えられてよい。
プライマーが多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えられると、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、PCRを可能にする条件下でインキュベートされ得る。多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、プライマーを加えるのに用いられたのと同じマイクロフルイディック装置でインキュベートされてもよいし、別個の装置でインキュベートされてもよい。ある実施形態において、PCR増幅を可能にする条件下での多重エマルジョン微小滴および/またはGUVのインキュベーションは、細胞を封入し、かつ溶解させるのに用いられるものと同じマイクロフルイディック装置で実行される。多重エマルジョン微小滴および/またはGUVのインキュベーションは、種々の形態をとってよい。ある態様において、PCRミックスを含有する多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、PCRに有効な条件下で微小滴をインキュベートするチャンネル中に流されてよい。チャンネル中に多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを流すのに、PCRに有効な温度に維持される種々の温度帯を蛇行するチャンネルを伴ってよい。そのようなチャンネルは、例えば、2つ以上の温度帯を循環してよく、少なくとも1つの温度帯は、約65℃に維持され、少なくとも1つの温度帯は、約95℃に維持される。多重エマルジョン微小滴および/またはGUVがそのような温度帯を通って移動するにつれ、PCRに必要とされる温度が繰り返される。温度帯の正確な数、および各温度帯の温度は、所望のPCR増幅を達成するように、当業者によって容易に決定され得る。
他の実施形態において、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVをインキュベーションするのに、Megadroplet Arrayの使用を伴ってよい。そのような装置では、チャンネル(例えばPDMSチャンネル)中にインデントされる何百、何千、または何百万ものトラップのアレイが、サーマルシステム上に置かれる。チャンネルは、加圧されることによって、ガスが逃げるのを妨げることができる。マイクロフルイディックチャンネルの高さは、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの直径よりも小さくて、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに、平らなパンケーキ形状をとらせる。多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが、占有されていないインデント上を流れると、より下位の、エネルギー的により有利な曲率半径をとって、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVをトラップ中に完全に引き入れる力が生じる。多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを最密に充填して流すことによって、アレイ上の全てのトラップが占有されることが確実にされる。装置全体は、ヒータを用いてサーマルサイクルにかけられてよい。
ある態様において、ヒータとして、Peltierプレート、ヒートシンク、および制御コンピュータが挙げられる。Peltierプレートは、印加電流を制御することによって、室温を上回る、または下回るチップの加熱または冷却を可能とする。制御され、かつ再現性がある温度を確実にするために、コンピュータが、一体化された温度プローブを用いてアレイの温度を監視することができ、そして必要に応じて加熱冷却するための印加電流を調整することができる。金属(例えば銅)プレートにより、均一な加熱、および冷却サイクル中の余熱の放散が可能となり、約1分未満で約95℃から約60℃にまで冷却することができる。
本発明の方法はまた、1つまたは複数のプローブを、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに導入することを含んでもよい。核酸に関して本明細書中で用いられる用語「プローブ」は、標的核酸中の配列と二本鎖構造体を形成する標識オリゴヌクレオチドを指し、これは、プローブ中の少なくとも1つの配列の、標的領域中の配列との相補性に起因する。一部の実施形態において、プローブは、ポリメラーゼ連鎖反応を開始させるのに用いられる配列に相補的な配列を含有しない。加えられるプローブの数は、約1から500プローブ、例えば、約1から10プローブ、約10から20プローブ、約20から30プローブ、約30から40プローブ、約40から50プローブ、約50から60プローブ、約60から70プローブ、約70から80プローブ、約80から90プローブ、約90から100プローブ、約100から150プローブ、約150から200プローブ、約200から250プローブ、約250から300プローブ、約300から350プローブ、約350から400プローブ、約400から450プローブ、約450から500プローブ、または約500プローブ以上であってよい。プローブは、1つまたは複数のプライマーの添加の前に、添加に続いて、または添加の後に、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に導入されてよい。目的のプローブとして、TaqMan(登録商標)プローブが挙げられるが、これに限定されない(例えば、Holland,P.M.;Abramson,R.D.;Watson,R.;Gelfand,D.H.(1991).「Detection of specific polymerase chain reaction product by utilizing the 5’−3’ exonuclease activity of Thermus aquaticus DNA polymerase.」PNAS,88(16):7276〜7280に記載される)。
ある実施形態において、RT−PCRベースアッセイは、細胞中に存在する、目的の特定の転写物、例えばオンコジーンの存在を検出するのに用いられ得る。そのような実施形態において、本明細書中に記載されるPCRを実行するのに用いられる試薬に加えて、cDNA合成に必須の逆転写酵素および他のあらゆる試薬が、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えられる(一括して、「RT−PCR試薬」と呼ぶ)。RT−PCR試薬は、本明細書中に記載される何れかの適切な方法を用いて、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えられる。RT−PCR用の試薬が多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えられると、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、本明細書中に記載されるように、逆転写を可能にする条件に続いてPCRを可能にする条件下でインキュベートされてよい。多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、RT−PCR試薬を加えるのに用いられたのと同じマイクロフルイディック装置でインキュベートされてもよいし、別個の装置でインキュベートされてもよい。ある実施形態において、RT−PCRを可能にする条件下での多重エマルジョン微小滴および/またはGUVのインキュベーションは、細胞を封入し、かつ溶解させるのに用いられるものと同じマイクロフルイディック装置で実行される。
ある実施形態において、RT−PCRまたはPCR用に多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えられる試薬としてさらに、RT−PCR産物またはPCR産物を検出することができる蛍光DNAプローブが挙げられる。あらゆる適切な蛍光DNAプローブが用いられ得、SYBR Green、TaqMan(登録商標)、Molecular Beacons、およびScorpionプローブが挙げられるが、これらに限定されない。ある実施形態において、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えられる試薬として、複数のDNAプローブ、例えば、2つの蛍光DNAプローブ、3つの蛍光DNAプローブ、または4つの蛍光DNAプローブが挙げられる。複数の蛍光DNAプローブの使用により、単回反応でのRT−PCR産物またはPCR産物の同時測定が可能となる。
ダブルPCR
稀な転写物を増幅させるために、本明細書中に記載される第1のステップのRT−PCRまたはPCR反応を経た多重エマルジョン微小滴および/またはGUVがさらに、第2のステップのPCR反応にかけられてよい。一部の実施形態において、第1のステップのRT−PCRまたはPCR反応を経た第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが、酵素(例えばDNAポリメラーゼ)、DNAプローブ(例えば蛍光DNAプローブ)、およびプライマーが挙げられるがこれらに限定されないさらなるPCR試薬を含有する第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入されてから、第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが破裂される。ある実施形態において、さらなるPCR試薬を含有する第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、第1のステップのRT−PCRまたはPCR反応を経た微小滴よりも大きい。このことは有益であり得る。なぜなら、例えば、これにより第2のステップのPCRに対して阻害的となり得る細胞成分の希釈が可能となるからである。第2のステップのPCR反応は、第1のステップの反応を実行するのに用いられるものと同じマイクロフルイディック装置で実行されてもよいし、異なるマイクロフルイディック装置で実行されてもよい。
一部の実施形態において、第2のステップのPCR反応に用いられるプライマーは、第1のステップのRT−PCRまたはPCR反応に用いられるものと同じプライマーである。他の実施形態において、第2のステップのPCR反応に用いられるプライマーは、第1のステップの反応に用いられるプライマーとは異なる。
デジタルPCR
本明細書中に記載される方法および装置は、例えばデジタルPCRを用いて、核酸を定量化するのに用いられてよい。デジタルPCRにおいて、サンプルがコンパートメント内に隔離される場合に、ほとんどのコンパートメントが0または1つの標的分子を封入するように、溶液由来の標的核酸が希釈される。しかし、多くの場合、モデル化され得ることを条件として、より高いローディング率が用いられてよい。また、標的核酸の増幅に十分な試薬が、コンパートメント内に含まれて、コンパートメントは、増幅に適した条件に供される。コンパートメントは、種々の構造を有することができ、基板内に作製されるマイクロウェルまたは単一のエマルジョン小滴が挙げられる。また、例えば、多重エマルジョン微小滴、例えば、本開示の二重エマルジョンおよび/またはGUVとして形成されてもよい。そのような一部の実施形態において、サンプルは、二重エマルジョン内に区画されて、二重エマルジョンは増幅にかけられる。標的を含有する小滴は増幅を経る一方で、標的を含有しない小滴は増幅を経ないので、核酸増幅産物を産出しない。検出成分が含まれるならば、標的を含む二重エマルジョンは、検出可能なシグナルで満たされて、例えばイメージングドロポメトリまたはフロードロポメトリによって、同定され得る。そのようなデジタルPCRを実行するのに二重エマルジョンを用いる強力な利点は、二重エマルジョンが、分配されたサンプルと混和性である水性キャリア相中に懸濁され得るので、市販のフローサイトメータおよび蛍光活性化細胞ソーター(FACS)を用いて容易に検出され得、および/またはソートされ得ることである。
本明細書中に記載されるように、これにより、サンプルからの標的実体の富化が可能となり、このことは、ソーティングが容易に達成されない他の方法では可能でない。開示される方法は、ほとんどの場合、蛍光性であり、かつ増幅を経たことで少なくとも単一の標的核酸を含有した二重エマルジョンの画分を計数することによって、溶液中の核酸を定量化するのに用いられ得る;確率論的な理由で、または、例えば、増幅反応の特異性に干渉するゴミまたは他の混入物の封入のために、偽増幅が生じるおそれがある。また、TaqManプローブ、分子ビーコン、SYBR、および他の種類の検出成分が含まれてもよく、これにより、標的内の異なる核酸配列の増幅を同時に検出するための多重光学スペクトルを用いることができ、または、複数の標的が、同じ二重エマルジョン中に封入されることで、場合によっては有利となり得る。
核酸の長さの測定
本明細書中に記載される方法および装置は、溶液中の核酸の長さ分布を測定するのに用いられ得る。これは、標的核酸の全長に沿った既知の距離の異なる領域にて、標的核酸にアニールするプローブ配列を設計することによって、達成され得る。その後、プローブは、標的核酸と混合されて、多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョンおよび/またはGUV内に区画されてよい。各多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、例えば、既知の距離だけ離れた、標的上の2つの異なる領域の存在のシグナルを出す2つのプライマーおよびプローブのセットを含有してよい。これは、プローブの異なる組合せについて、異なる対が、標的の異なる距離および異なる領域をプロービングするように繰り返されてよい。サンプルは、所望される場合、増幅、分析、およびソーティングにかけられてよい。分析において、当業者であれば、プローブの一方のみが関わるような増幅を経ている多重エマルジョン微小滴および/またはGUVがある一方で、例えば、他方のプローブのみが関わるように増幅している多重エマルジョン微小滴および/またはGUVもあることを見出すであろう。このことは、これらの多重エマルジョン微小滴および/またはGUVにおいて、一方のタイプがプローブのまさに一方のための領域を含む一方で、他方のタイプが他方のプローブの領域を含有することを示唆している。この集団において、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVはまた、双方のプローブが関わるような増幅を経ている場合もあり、これは、その中の標的核酸が双方の領域を含有したことを示す。同懸濁液において、勿論、増幅を経ないことでおそらく標的領域を含有しないものに加えて、それぞれ3つのタイプの小滴の測定可能な画分を含む、多数の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVがあることとなる。このデータは、溶液中の核酸の長さを推測するのに用いられ得る。
例えば、溶液中の核酸が、分子全体として大部分が無傷であるならば、増幅を経た小滴の大部分は、プローブおよびプライマーの双方のセットが関わるような増幅を示すこととなるので、混合シグナルを示すこととなる。対照的に、核酸標的が高度にフラグメント化されているならば、ほとんどの検出事象は、一方または他方のプローブによることとなり、双方のプローブによる例はごく稀である。プローブ間の距離が既知であり得るので、当業者であれば、溶液中の分子の長さおよびフラグメント化を推定することができる。このプロセスが、異なる領域を標的とし、および/またはそれらの間の距離が異なる様々なプローブセットで繰り返されて、標的核酸のフラグメント化をより完全に特徴付けることができる。
多重エマルジョン微小滴および/またはGUVにおけるMESA
本明細書中に記載される方法は、標的核酸の配列分析のためのマイクロフルイディック富化(MESA)を実行するのに用いられ得る。これは、標的核酸を多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入して、それらの小滴中で増幅を実行することで、小滴が標的配列を含有する場合に蛍光シグナルを発する方法を用いることによって、達成される。その後、これらの小滴がソートされることによって、ソートされたプールにおいて核酸が富化され得る。反応はまた、所望される場合、複数の異なるサブ配列を含有する分子間で分化するように、マルチプレックス化されてよい。増幅はまた、配列決定を可能にするように、ソーティングの前に、ソーティングと同時に、またはソーティングの後に、ソートされる核酸を増幅させるのに用いられてよい。
本アプローチの重要な利点は、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中で増幅される領域が、「検出領域」として単純に用いられ得ることである。アンプリコンは、配列決定にかけられる分子を含む必要はない。その代わりとして、標的分子が多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に存在する場合に当該領域がシグナルを出すので、分子全体が下流分析のために回収され得る。これは強力である。なぜなら、効率的に増幅されるにはあまりに大きな核酸ですら、下流分析のために回収され得るからである。例えば、今までのところまだ発見されていない微生物において、重要な生物学的経路、例えば、シグナル伝達カスケードの一部と考えられる遺伝子が存在すると仮定する。目的は、この経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子を回収して、配列決定し、かつ研究することができるようにすることである。これは、既存の富化方法を用いて容易に達成され得ない。なぜなら、知られていない微生物は、特異的に培養することができず、加えて、配列の大部分が未知である経路は、経路全体を引き抜くにはあまりに小さい個々の遺伝子の他は、プローブがハイブリダイズする配列を知ることができないために、ハイブリダイゼーションプローブを用いて精製され得ないからである。しかしながら、これは、本明細書中に記載されるMESA法を用いて達成され得る。
一部の実施形態において、標的由来の核酸は、経路全体を内部に閉じ込めるほど十分大きなサイズ、例えば、何十もしくは何百キロベース、またはメガベース以上の長さのフラグメントにフラグメント化されてよい。経路がフラグメント内に存在するならば、既知の遺伝子を含有する可能性がある。ほとんどが標的を含有しないフラグメント化された核酸は、本明細書中に記載される技術にかけられて、大部分が経路を含有しないので増幅を示さない多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョンおよび/またはGUVが生じる一方で、稀な滴が経路を含有して、増幅を経る。その後、例えば、蛍光により明るい二重エマルジョンをFACSソートすることによって、ポジティブな小滴は回収され得る。その後、これらは、さらなる操作、例えば、必要に応じて、特異的増幅および非特異的増幅、デジタルPCRまたは定量PCRによる定量化、ならびにDNA配列決定にかけられ得る。他の富化戦略に勝るMESAの強力な利点は、最大で全ゲノムのサイズですらある、非常に大きな核酸が、何百もの塩基対のほんの何十と短い、既知の配列に基づいて検出され、かつ回収され得ることである。他の富化方法論はほとんど、配列についてのそのような限られた情報量を用いて、異質プールからそのような大きな核酸配列を富化する能力を有していない。
当該方法はまた、個々のゲノムのDNA配列を同定するのに用いられてもよい。この実施形態において、標的由来の核酸は、フラグメント化されて、PCR試薬、および目的のDNA配列に特異的なプライマーと共に、多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョンおよび/またはGUV内に封入されてよい。増幅の後、ポジティブ多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、FACSを用いて、個々のコンパートメント、例えばウェルプレートアレイ中にソートされ得る。その後、個々のコンパートメントが、さらなる操作、例えば特異的増幅または非特異的増幅にかけられてよい。その後、生じたアンプリコンは、次世代シーケンシング技術用の、またはサンガー配列決定法に直接用いられる材料としてのライブラリを作成するのに用いられてよい。本技術は、例えば、個々の患者において見出されるレトロウイルス集団、例えばHIVにおける遺伝的差異を同定するように設計された方法に有用であろう。
先で考察されるように、本明細書中に記載される方法は、デジタルPCR、および関係する、配列分析のためのマイクロフルイディック富化(MESA)に用いられ得る。一部の実施形態において、核酸、ウイルス、細胞、粒子その他を含むサンプルが、マイクロフルイディック二重乳化を用いて、二重エマルジョン内に分配される。二重エマルジョン小滴は、リザーバ、例えばPCRチューブ中に収集されて、サーマルサイクリング等の増幅に適した条件下でインキュベートされる。等温法、例えばMDA、MALBAC、LAMPその他が用いられてもよい。標的核酸を含有する小滴と、標的核酸を含有しない小滴との間で蛍光の差異を誘導するために、蛍光リポータが小滴内に含まれてもよいし、キャリア相に加えられてもよい。
例えば、Sybr greenが、二重エマルジョン中に分配されるように、キャリア相に加えられてよい。二本鎖DNAの存在下でSybrがかなり蛍光性になるので、増幅を経た小滴は、経ていない小滴よりも蛍光でより明るくなることとなる。サンプル中の標的分子の数を定量化するために、小滴は、フローサイトメトリ分析にかけられてもよいし、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)にかけられてもよい(図14)。
フローサイトメータ中を小滴が流れるにつれ、そのサイズおよび蛍光に関する情報が記録され得る。標的分子が限界希釈にてロードされる例において、標的分子を含有することで蛍光性であると検出されることとなる小滴もあれば、標的分子を含有しないことで薄暗いと検出されることとなる小滴もある(図14、左下に示される)。明るい〜薄暗い小滴の画分は、ポアソン分布に従って、元のサンプルにおける標的分子の出発濃度を推定するのに用いられ得る。蛍光に基づいて小滴をソートするのにFACSを用いることによって、標的分子を含有する二重エマルジョンを回収することが、そして二重エマルジョンを壊すことによって、標的分子を回収することが可能である。これは、核酸の大きな異質集団をスクリーニングして、標的配列を選択的に回収するのに用いられ得る。
多重エマルジョン微小滴および/またはGUVのPCR活性化細胞ソーティング(PACS)
MESA技術は、溶液からの裸の核酸の富化を可能にするが、類似のアプローチが、実体の内部、例えば細胞、ウイルス、胞子、粒子その他の内部に含有される核酸に利用されてよく、当該プロセスは、大部分が同じである。例えば、標的核酸を含む実体は、先に記載されるように、多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョンおよび/またはGUV内に封入されて、標的核酸を増幅するのに十分な条件に供され得る。その後、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、増幅に基づいてソートされて、標的を有する実体が回収され得る。
この技術を実体、とりわけ膜または保護殻を有する実体に利用する場合の重要な考慮点は、特異的検出が生じる増幅に核酸がアクセス可能でなければならないことであり、これは特殊な手順を必要とする場合がある。例えば、実体は、核酸を放出する剤、例えばプロテアーゼ、リゾチーム、デタージェント、強塩基その他と共に、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入されてよい。実体はまた、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入されてから、溶解剤を含有する溶液中に浸漬されてもよく、これにより、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを通して殻が分割されて溶解が誘導され得る。実体はまた、例えば、溶解剤中に浸漬され得るゲル粒子内に封入されてもよい。その後、実体の核酸を含有するであろう当該ゲル粒子は、増幅手順を介して、検出のための多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入されてよい。ゲルは、例えば、核酸をトラップする一方で試薬がゲルを通して拡散することを可能にするほど細孔サイズが十分に大きくなることを確実にすることによって、またはアガロースを用いる場合のように、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの加熱直後に溶融するのを可能とすることによって、溶解または増幅反応を阻害しないように選択されてよい。また、所望される場合、ゲルは官能化されて、普通であればゲルから漏出して検出不能となり得る所望の細胞化合物、例えばRNA分子を付着する。標的核酸への増幅試薬のアクセスを可能にするために実施され得るさらに別の手順は、電流を用いて細胞、ウイルス、粒子その他を溶解させるものである。というのも、これらが多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に封入されることになるからである。これは、例えば、電流が流れるチャンネル中に細胞を流すことによって達成され得、これにより、細胞膜中に孔が生じて、例えば、細胞溶解を促進させることができる。
生細胞PCR活性化細胞ソーティング(PACS)
これまでに記載された、多重エマルジョン、例えば二重エマルジョン、PCR、およびソーティングの、細胞への利用は、溶解、およびほとんどの場合、生物の死を含んだ。しかしながら、アプローチを修飾して、本明細書中に記載される方法を用いることによって、生きた、無傷の細胞を回収することも可能である。これは、例えば、細胞内容物が封入多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に漏出するような条件下で多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に生細胞を封入する一方、細胞の生存率を維持することによって、達成され得る。これは、例えば、電流が流れるチャンネル中に細胞をも流すことによって可能であり、これにより、細胞膜中に孔形成を誘導することができ、かつ細胞溶解物の漏出が可能となる。細胞がこのチャンネルを出て行く場合、漏出した溶解物が依然として細胞周りに存在したまま、細胞の膜は、裏面を密閉(seal back up)し得る。層流条件について、これは、細胞周りの溶解物が、細胞と共に流れて、同じコンパートメント、例えば多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入されるように実行され得る。また、細胞核酸の増幅または他の細胞成分の検出に適した試薬が含まれてもよく、細胞周りの溶解物は、小滴内にある場合、試薬と相互作用することができる。反応は、蛍光シグナルを発するように設計されてよく、これにより、標的細胞を含有する小滴は、ソーティングを介して回収されることが可能となり、そして細胞の生きた回収が可能となる。これは技術の強力な使用方法である。なぜなら、PACSの利益(配列バイオマーカー、例えば分子およびRNAに基づいて、細胞間で分化する能力)を実現する一方で、細胞寿命を維持して、他の反応および分析が実行され得るからである。
質量分析活性化細胞ソーティング(MS−ACS)
本明細書中に記載される方法は、一部の実施形態において、多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョンおよび/またはGUV内に反応を区画して、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内の反応産物を検出して、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVをソートする能力に依存して、当該産物に基づいて特定の実体を回収し、かつ適切な分析を実行する。酵素によるアッセイ、例えばPCR等の多くのアッセイタイプが、異なる実体間、例えば細胞間そしてウイルス間で分化するように実行され得る。しかしながら、場合によっては、酵素による技術は、目的の分析物を検出することができない場合がある。この場合、他の方法、例えば分光法が実施されてよい。非常に強力な検出法が質量分析であり、これは、高感度かつ一般的であるためである。しかしながら、質量分析の限界は、それが、分析するサンプルを破壊する破壊技術であることである。目的が情報の回収のみであるならば、これは許容可能であるかもしれない。しかし、場合によっては、通常、質量スペクトロメータによって破壊されることとなるシステムからさらに物質を回収することが所望される。
本明細書中に記載される方法を用いて、質量分析が、サンプルを分析する一方で、なおサンプルの回収を可能にするのに用いられ得る。例えば、経路に関与するタンパク質を発現する細胞を同定することが目的であると仮定する。細胞は、多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョンおよび/またはGUV中にロードされて培養されて、各多重エマルジョン微小滴および/もしくはGUV内に多く存在し得、および/または経路の産物、例えば、分子、化合物その他を産生し得、これらが多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを満たすこととなる。その後、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの一部を分割することとなる装置中に流されて、細胞または細胞分泌物から物質の一部が捕捉され得、これが破壊的質量分析にかけられ得る。その後、他の部分がソートされ得る。質量スペクトロメータは、サンプリングされた一部における化合物を分析するのに用いられ得、この情報は、小滴の姉妹部分をソートする方法を決定するのに用いられ得る。この方法を用いて、非常に高感度かつ一般的な質量分析を用いて細胞を特異的にソートする一方で、全細胞または全細胞溶解物を回収することが可能である。
コロニーの増殖および溶解
細胞を多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョンおよび/またはGUV内に封入する能力は、生体、例えば細胞およびウイルスを培養するのに有用である。例えば、細胞が単一の、共有される容量内で増殖されるならば、細胞間の競合により、集団を引き継ぐ特定の細胞が生じ得、これがいくらかの培養時間後の大部分の細胞を含む。多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に細胞を区画して培養することによって、競合が制御および/または軽減され得る。さらに、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの透過性は、特定の分子が通過することができる一方、他のものが通過できないようにセットされ得る。これにより、例えば、増殖にとって重要なシグナリング分子または他の分子が、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの殻を自由に通過して、培養条件をより良好に制御することができる。
デジタルELISA
一部の実施形態において、開示される方法および装置は、デジタルELISA手順を用いてサンプル中のエピトープを定量化するのに用いられ得る。一部の実施形態において、例えば、固形基板、例えば平らな基板表面またはビーズの表面に結合するエピトープが、酵素触媒で標識された親和性試薬と追加的に結合し得る。サンプルは、結合していない親和性試薬および酵素を取り除くために、洗浄されてよい。その後、標識エピトープまたはその部分は、種々のやり方で溶液中に放出され得る。簡略化のために、酵素触媒は、化学的に、または、例えば熱もしくは光を加えることにより分解することができる結合を介して、親和性試薬に結合し得る。これ以外にも、親和性試薬とエピトープとの相互作用が壊されてもよいし、エピトープと基板との相互作用が壊されてもよい。結合がビーズ上で起こるならば、ビーズは、洗浄ステップの後に溶液中に懸濁されることによって、酵素触媒が懸濁されてよい。その後、懸濁された酵素触媒は、多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョンおよび/またはGUV内に、酵素触媒を検出するのに十分な試薬、例えば酵素触媒が蛍光産物に変換し得る基質と共に、封入され得る。その後、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、触媒反応に適した条件下でインキュベートされて、触媒が存在する場合に大量の反応産物を含有する多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが、そして触媒が存在しない場合に少量の反応産物を含有する多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが、生じ得る。その後、蛍光多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの数は、薄暗い多重エマルジョン微小滴および/またはGUVと比較して定量化されて、サンプル中に存在する触媒分子の数の測定が実現され得る。その後、この情報は、元のサンプル中のエピトープの濃度を推測するのに用いられ得る。
これはまた、本明細書中に記載されるマルチプレックス化法を用いて、結合後のサンプルを洗浄する必要なく、達成され得る。例えば、同じ標的を検出する2つの抗体が、サンプル中に導入されてよく、それぞれが、異なる触媒で標識されている。その後、サンプルは、多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョンおよび/またはGUV内に封入されてよい。標的が存在する場合には、標的は、多くの場合において、典型的な「サンドイッチ」ELISAで起こるように、双方の抗体によって結合されるはずであるが、この場合以外は、分子は基板に結合するのではなく溶液中に自由に拡散する。結果として、先の例の場合のように、時折抗体の1つのみを含有する、または双方の抗体を含有する多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが生じることとなり、これらが、小滴中の触媒反応の存在を監視することによって検出され得る。ほとんどの小滴が空であるように希釈が適切に制御されるならば、双方の触媒産物の存在を、小滴中に存在する標的に帰する一方で、触媒産物の1つのみの存在を、結合していない抗体におそらく対応させることが可能であるはずである。ダブルポジティブ小滴の画分を定量化することによって、洗浄手順を実行する必要なく、溶液中の標的の画分を推定することが可能である。
マルチプレックス化
主題の方法のある実施形態において、複数のバイオマーカーが、特定の細胞について検出かつ分析され得る。検出されるバイオマーカーとして、1つまたは複数のタンパク質、転写物、および/もしくは細胞のゲノム中の遺伝的サイン、またはそれらの組合せが挙げられ得るが、これらに限定されない。標準的な蛍光ベースの検出により、同時に調べられ得るバイオマーカーの数は、各多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内で独立して視覚化され得る蛍光色素の数に限られ得る。ある実施形態において、特定の多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内で個々に検出され得るバイオマーカーの数は、増大され得る。例えば、これは、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの異なる部分への色素の分離によって、達成され得る。特定の実施形態において、色素およびプローブ(例えば、核酸または抗体プローブ)が結合したビーズ(例えばLUMINEX(登録商標)ビーズ)が、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入されて、分析されるバイオマーカーの数が増大され得る。別の実施形態において、蛍光偏光が、単細胞用の様々なバイオマーカーについて、より多数の検出可能シグナルを達成するのに用いられ得る。例えば、蛍光色素が、種々のプローブに付着されてよく、そして多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが、異なる偏光条件下で視覚化されてよい。このように、同じ着色色素が、単一の細胞について異なるプローブ標的にシグナルを提供するように利用され得る。固定細胞および/または透過性細胞(以下でより詳細に考察される)の使用もまた、マルチプレックス化のレベルの増大を可能にする。例えば、標識抗体は、細胞成分に局所的なタンパク質標的を標的とするのに用いられ得る一方、標識PCRおよび/またはRT−PCR産物は、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内で遊離している。これにより、同じ色の色素が、抗体に、そしてRT−PCRによって生産されるアンプリコンに用いられ得る。
多重エマルジョン微小滴を含む微小滴、およびその生成
本開示の方法を実行する際に、微小滴、例えば多重エマルジョン微小滴の組成および性質は、変化してよい。例えば、ある態様において、界面活性剤が微小滴を安定化させるのに用いられ得る。したがって、微小滴は、界面活性剤安定化エマルジョン、例えば界面活性剤安定化一重エマルジョンまたは界面活性剤安定化二重エマルジョンを含んでよい。微小滴内で所望の反応を実行させ得る、あらゆる好都合な界面活性剤が用いられ得る。他の態様において、微小滴は、界面活性剤または粒子によって安定化しない。
用いられる界面活性剤は、いくつかの因子、例えばエマルジョンに用いられる油相および水性相(または他の適切な不混和性相、例えば、適切なあらゆる疎水相および親水相)によって決まる。例えば、フルオロカーボン油に水性小滴を用いる場合、界面活性剤は、親水性ブロック(PEG−PPO)および疎水性フッ化ブロック(Krytox(登録商標)FSH)を有してよい。しかしながら、油が切り替えられて炭化水素油となるならば、例えば、界面活性剤はその代わりとして、界面活性剤ABIL EM90のように、疎水性炭化水素ブロックを有するように選択されるであろう。界面活性剤を選択する際に、界面活性剤の選択に考慮され得る所望の特性として、以下の1つまたは複数が挙げられ得る:(1)界面活性剤は、粘度が低い;(2)界面活性剤は、装置を構築するのに用いられるポリマーと不混和性であるので、装置を膨張させない;(3)生体適合性である;(4)アッセイ試薬は、界面活性剤中に可溶性でない;(5)界面活性剤は、ガスが出入りし得るという点で有利なガス溶解度を示す;(6)界面活性剤は、PCRに用いられる温度(例えば95℃)よりも沸点が高い;(7)エマルジョン安定性である;(8)界面活性剤は、所望のサイズの滴を安定化させる;(9)界面活性剤は、キャリア相中に可溶性であるが、小滴相中に可溶性でない;(10)界面活性剤は、蛍光特性が限られている;そして(11)界面活性剤は、広範な温度にわたって、キャリア相中に可溶性であるままである。
イオン界面活性剤を含む他の界面活性剤もまた想定され得る。また、他の添加物が、微小滴を安定化させるのに油中に含まれてもよく、35℃を超える温度にて小滴安定性を増大させるポリマーを含む。
本明細書中に記載される微小滴は、エマルジョンとして、例えば不混和性相キャリア流体(例えば、フルオロカーボン油または炭化水素油)中に分散した水性相流体として調製され得、またはその反対もあり得る。特に、本開示の多重エマルジョン微小滴は、二重エマルジョン、例えば、水性相キャリア流体中に分散した不混和性相流体中の水性相流体;四層エマルジョン、例えば、水性相キャリア流体中に分散した不混和性相流体中、水性相流体中、不混和性相流体中の水性相流体;その他として提供され得る。マイクロフルイディックチャンネル(またはその上のコーティング)の性質、例えば、親水性または疎水性は、マイクロフルイディックワークフローにおける特定の点にて利用されることになるエマルジョンのタイプと適合するように選択されてよい。例えば、親水性チャンネルが、二重エマルジョンステージと関連させて利用され得るが、一方で疎水性チャンネルが、一重エマルジョンステージに利用され得る。
一重エマルジョンは、以下でより詳細に記載されるマイクロフルイディック装置を用いて、生成され得る。マイクロフルイディック装置は、大きさが極めて均一である小滴からなるエマルジョンを形成することができる。微小滴生成プロセスは、2つの不混和性流体、例えば油および水をジャンクション中にポンプ輸送することによって、達成され得る。ジャンクション形状、流体特性(粘度、界面張力その他)、および流量は、生成される微小滴の特性に影響するが、特性の比較的広い範囲について、制御された均一なサイズの微小滴が、T−ジャンクションおよびフローフォーカシングのような方法を用いて、生成され得る。微小滴サイズを変えるために、不混和性の液体の流量が変えられてよい。なぜなら、T−ジャンクションおよびフローフォーカス方法論について、特性の特定の範囲にわたって、微小滴サイズは、総流量および2つの流体流量の比率によって決まるからである。マイクロフルイディック法によりエマルジョンを生成するために、2つの流体が、通常、2つの入口リザーバ(シリンジ、圧力チューブ)中にロードされてから、所望の流量を生成するように、必要に応じて(シリンジポンプ、圧力レギュレータ、重力その他を用いて)加圧される。これは、装置を通して流体を所望の流量にてポンプ輸送するので、所望のサイズおよび量の微小滴が生成される。
二重エマルジョンが、以下でより詳細に記載されるマイクロフルイディック装置を用いて生成され得る。二重エマルジョンとして、小滴内に含有される小滴が挙げられる。二重エマルジョンの特に有用な種類として、水性小滴が挙げられ、これは、わずかにより大きな油小滴内に封入され、これ自体は、キャリア水性相中に分散されている。二重エマルジョンは有用である。なぜなら、構造体の内側の「コア」は、溶解した溶質または生体物質のような、活性がある化合物を含有するために用いられて、油殻を囲むことによって外部環境から保護され得るからである。二重エマルジョンは、ツーステッププロセスおよびワンステッププロセスでこれを生成するものを含む、いくつかのマイクロフルイディック技術を用いて生成され得る。二重エマルジョンのマイクロフルイディック生成の利益は、一重エマルジョンのマイクロフルイディック生成と同じであり、二重エマルジョン寸法(内側、そして外側の小滴サイズ)は、広範囲にわたって制御され得、かつ微小滴は、均一性の程度が高く形成され得ることである。
マイクロフルイディクスでの二重エマルジョンの生成は、一重エマルジョンの生成よりも困難である。なぜなら、関連する長さスケール(10〜100μm)にて、界面特性および濡れ特性が、不活発な特性よりも優位を占めるからである。したがって、封入相に利用される流体は、チャンネルの濡れ特性によって決まる。例えば、チャンネルが親水性であるならば、水性相はチャンネル壁を濡らして、油を置き換える傾向があることによって、油相を封入し、かつ水中油エマルジョンを生成することとなる。他方、チャンネルが疎水性であるならば、水は壁を回避して、油によって封入されて、油中水エマルジョンが生じることとなる。装置のこの本来の傾向を克服して特定のエマルジョン極性を、その濡れに基づいて形成することは、困難となり得る。水中油中水エマルジョンの生成は、2つの濡れ領域(一領域において油中水小滴を形成するために疎水性であり、別の領域において水中油小滴を生成するために親水性である)を有し、または領域の少なくとも1つにおいて装置の本来の濡れ特性を克服するように設計されている装置を用いて、達成され得る。
二重エマルジョンは、空間的にパターン化された濡れを用いて形成され得る。濡れ制御小滴形成を用いて二重エマルジョンを生成するために、空間的にパターン化されて濡れている装置が利用され、または異なって濡れている2つの装置が連続して利用される。これは、W/O/W二重エマルジョンについて、一般に、W/Oエマルジョンが最初に生成されてから、当該エマルジョンがO/Wエマルジョン中に封入されるからである。これを達成するために、第1のフローフォーカス小滴ジェネレータが、濡れが疎水性となるように官能化され得るので、水および油が導入される場合に、W/O小滴が自然に生成されることとなる。その後、この装置は、親水性であるように官能化された第2のフローフォーカス装置中に注がれ得、この中に第2の水性相が導入され得る。これは、第2の水性相内に、内側に水性小滴を封入する油相を封入して、第1の水性小滴を封入する油小滴を生成することとなり、これが二重エマルジョンである。逆の極性、O/W/O二重エマルジョンを形成するために、第1のフローフォーカス装置は、(O/Wを形成するために)親水性であるように官能化され、そして第2のフローフォーカス装置は、(W/Oを形成するために)疎水性であるように官能化されることとなる。より高次のオーダーの多重エマルジョン、例えば三層エマルジョンおよび四層エマルジョンもまた、濡れが交互であるさらなる小滴ジェネレータを加えることによって、生成され得る。T−ジャンクションのような様々な小滴生成幾何構造が用いられてもよい。
二重エマルジョンは、同軸フローフォーカシングにより形成され得る。濡れベースの二重乳化は、多くの様々な組成物の多重エマルジョンを形成するのにロバストであり、かつ有効であるが、これに対する欠点は、濡れ性を空間的にパターン化するのに、困難となり得るさらなる作製ステップが必要となり、そして再現性が引き下げられることである。ゆえに、濡れ性が均一である装置において二重エマルジョンを形成する方法は、作製を単純化するので、有益である。これを達成する一方法が、三次元同軸フローフォーカシング幾何構造を利用するものであり、これは、たとえ封入相になるのが本来の傾向であるとしても、封入されるようにチャンネル壁から濡れ相を剪断するものである。例えば、これは、小さな開口部を通してジャンクション中に濡れ相を注入すると同時に、(通常、濡れ性のために、第1の相を封入することにはならない)キャリア相を、第1の相を囲んで封入するように注入することによって、達成され得る。それゆえに、封入相がチャンネルの濡れ性によって決定される濡れベースの小滴生成と対照的に、本様式において、封入相は、ジャンクションの幾何構造、および流体が注入される向きによって、決定される。
幾何学的制御法によるツーステップ二重乳化は、二重エマルジョンを形成するのに利用され得る。幾何学的に制御されたツーステップ二重乳化において、第1の小滴生成ジャンクションが、その濡れ(例えば疎水性)を介して、一重エマルジョン(例えばW/O)を形成するのに用いられる。その後、この装置は、同軸フローフォーカシングジャンクション中に注がれ、この中で、小滴を封入する濡れ相は、それ自体が、幾何学的制御効果により、第3の相(例えばW)内に封入されて、二重エマルジョン(例えばW/O/W)が生成する。
サンプル材料および/または試薬、例えば核酸および/または増幅試薬(例えばPCR増幅試薬)の封入は、マイクロフルイディック法および非マイクロフルイディック法を含むいくつかの方法を介して達成され得る。マイクロフルイディック法の文脈において、利用され得るいくつかの技術があり、ガラスマイクロキャピラリ二重乳化、または濡れ性がパターン化された装置における連続した小滴生成を用いた二重乳化が挙げられる。マイクロキャピラリ技術は、ノズルを通る同軸フローフォーカシングを介して小滴に分割されるように誘導される不混和性相の同軸ジェットを生じさせることによって、小滴を形成する。しかしながら、このアプローチの潜在的な不利点は、装置が一般に、一緒にアラインかつ接着されているマイクロキャピラリチューブから作製されることである。滴形成ノズルは何十ミクロンのスケールであるので、キャピラリのアラインメントにおける小さな誤りですら、装置不全の原因となるおそれがある。対照的に、空間的にパターン化された小滴生成ジャンクションにおける連続した滴形成は、リソグラフ的に作製された装置内で達成され得、これにより、多くの数を構築または生成する一方で、寸法の均一性を維持するのがより簡単になる。そのような装置の例が、本明細書中に記載されている。しかしながら、場合によっては、これらの装置の平面的な性質は、二重エマルジョンを生成するのに理想的でないかもしれない。なぜなら、別々の相は全て、装置に入る一方で、チャンネル壁と接触して、濡れ性が、適切な位置での適切な相の取込み(engulfment)を可能にするように注意深くパターン化されることを必然的に伴う。これは、装置が作製するのをより困難にするおそれがあり、そして場合によっては、濡れ特性が装置にとって最適化されない液体の乳化を妨げるおそれがある。したがって、一部の実施形態において、本開示は、キャピラリの最もよい属性、およびリソグラフ的に作製される装置を組み合わせる方法、および関連する装置を提供する。
例えば、一部の実施形態において、幾何学的制御法による同時二重乳化が利用され得る。そのような方法は、本明細書中で「Mジャンクション二重乳化」法と呼ぶ場合がある。この方法論は、ツーステップ幾何学的制御法に類似する。但し、3つ全ての相が導入されるジャンクションは1つしかなく、そして内側の小滴および外側の小滴が、おおよそ同じ、または正確に同じ時間に形成されることを除く。この方法において、内側相(例えばW)が、小さなチャンネルを通して、幾何学的に制御された小滴ジェネレータ中に注入され、そして第2の相(例えばO)が、第1のチャンネルと同じ高さであり、またはそれよりも高い、その側面に位置する2つの他のチャンネルを介して注入される。チャンネル壁は、第2の相(疎水性)を好むので、これにより内側相は、第2の相によって囲まれ、かつ第2の相内に封入されることとなる。しかし、小滴を形成するように壊される必要はまだない。また、第3の相(例えばW)は、ジャンクション中に同時に導入されるので、幾何学的制御を介して、これが第2の相を封入する。これが二重ジェット構造体を生産し、第1の相(例えばW)は、第2の相(例えばO)内に封入されて、これはそれ自体が第3の相(例えばW)内に封入される。その後、二重ジェットは、共フロー小滴生成および同軸フローフォーカシングを含むいくつかの方法を介して、二重エマルジョンに壊され得る。流量、チャンネル寸法、濡れ性、および流体特性は全て、相の封入を制御し、かつ二重エマルジョンの小滴サイズを調整するように調整され得る。
一部の実施形態において、ジャンクションにて結合する5つの入力チャンネルを備える装置が、リソグラフィ法を用いて作製され得る。装置は、側面に位置する2つの(中間)チャンネル間の内側チャンネルが、両側のチャンネルよりも高さが低くなるように設計されている。また、内側チャンネルおよび2つの中間チャンネルは、ジャンクションにて2つの外側チャンネルに結合し、これらは内側チャンネルおよび2つの中間チャンネルのそれぞれよりも高さが高く、そしてこれらから、二重エマルジョン用の流体キャリアが導入される。その後、二重エマルジョンに形成されることになる3つの相は、封入される内側相が、中心の、最も低い入口から導入され、そして中間殻流体が、側面に位置する2つの(中間)チャンネルから導入されるように、装置中に導入される。キャリア流体は、全てのチャンネルが結合されるジャンクションにて、2つの外側チャンネルから導入される。チャンネルの幾何構造に起因して、内部流体は、中間流体内に被包されることとなり、これはそれ自体がキャリア流体内に被包されることとなる。これは、マイクロキャピラリ装置で観察されるものに類似した二重ジェットを生成することとなる。二重ジェットの組成物は、二重エマルジョン、例えば水/油/水、油/油/水、油/水/油その他を形成することができるあらゆる相となり得る。さらに、流体の向き、したがって二重エマルジョンの構造は、チャンネル壁に対する流体の固有の濡れ特性に強く応じて決まるのではなく、装置内で順序づけられる向きに応じる。内部流体は、一般に、二重エマルジョンの内側小滴を形成することとなる一方、側面に位置する側部チャンネル内の流体は、殻を形成することとなり、そして外側チャンネル内の流体は、キャリアを形成することとなる。
例示的な装置において、中間流体チャンネルは、内側流体チャンネルの高さと同じであってもよいし、同高さよりも低くてもよいし、高くてもよい。一般に、中間チャンネルが内側チャンネルよりも高さが高いことが好ましく、これは、交差ジャンクションにおける中間流体によって、内側流体の被包を促進する。なぜなら、内側流体は、高さがより高い側部チャンネルによってさらに囲まれるからである。同軸ゲットが形成された後、例えば、プラギングベースの小滴生成、締付部を押し通る同軸フロー、または気泡でトリガーされる小滴生成等の種々の方法を用いて小滴に分割されるように誘導され得る。また、小滴は、二重エマルジョンの幾何学的崩壊を用いて、部分に分割されて、より小さな小滴が形成され得る。
本明細書中に記載される二重エマルジョンを生成するのに用いられ得るマイクロフルイディック装置の「M−ジャンクション」部分の概略図が、図3〜図5に示される。内側流体チャンネル、中間流体チャンネル、および外側流体チャンネルが示されている。
多重エマルジョン、例えば二重エマルジョンが形成された後、これに更なる操作が実行されて、この特性を修飾することができる。例えば、多くの二重エマルジョン製剤において、二重エマルジョンの殻は、特定の分子を透過させ、当該分子は二重エマルジョン中に、または二重エマルジョンから受動的に拡散し得る。これは例えば、二重エマルジョン内の環境を調整するのに用いられ得る。同様に、二重エマルジョンの内側小滴は、例えば、溶媒をその中に、またはそこから拡散させることによって、縮小も拡大もし得る。例えば、高濃度の塩を含むバッファ中に二重エマルジョンを分散させることによって、水性相流体は、内側小滴および外側キャリア相の浸透性が対等になる(その点にて、小滴サイズは一定状態になるであろう)まで、二重エマルジョンから拡散するように誘導され得る。これは、過剰の溶媒を加え、または取り除くことによって、内側小滴のサイズを変更するのに、または代わりに、二重エマルジョン内に含有される試薬を濃縮もしくは希釈するのに用いられ得る。
二重エマルジョンの殻はまた、例えば、水中油中水二重エマルジョンの場合、殻から過剰な疎水相を取り除くための溶媒抽出等の技術を用いて、修飾され得る。これは、二重エマルジョンにおいて、例えば、脱濡れまたは他の現象を介した、脂質小胞、ポリマーソーム、またはコロイドソームへの移行等の他の変化を誘導することができる。気泡もまた、二重エマルジョン中に、例えば、内側小滴内に、または中間の封入相内に、導入され得る。空気を膨張させ、かつ圧縮する能力もまた、所望される場合、例えば、一部の実施形態において、二重エマルジョンのサイズまたは二重エマルジョン殻の厚さを増大させ、または引き下げるのに利用され得る。中間相内の気泡は、例えば、システムの圧力を引き下げることによって膨張し得、内側小滴に力を及ぼすこととなり、これは例えば、別の構造体、例えばポリマーソームまたは小胞への移行を誘導するのに用いられ得る。
巨大単ラメラ小胞(GUV)
二重エマルジョンは一般に、エマルジョン内のエマルジョン(すなわち、第2の不混和性相の液体小滴内に含有される液体小滴)に言及する。これは、界面活性剤によって安定化し得るが、重要なことに、中間相の「殻」は、自由選択の界面活性剤に加えて、液体相を含む。殻の容量が引き下げられるにつれ、コア流体が界面活性剤分子の薄い膜内に封入され、二重エマルジョンは小胞様構造体に比べ小滴内小滴にそれほど似なくなる。二重エマルジョンは、そのような「小胞」を、脱濡れ移行を経ることによって形成するのに用いられ得る。この中で、中間液体相流体が殻から除去されるが、界面活性剤層は維持されて、水性コアを含む小胞が生じ、界面活性剤分子の薄い層がこれを囲み、そして元は殻であった小さな油小滴がこれに付着する。
脱濡れを起こす二重エマルジョンの傾向は、様々な溶液および界面活性剤の特性、とりわけ、様々な相の、互いに対する界面張力によって決まる。フッ化油、PEG−Krytox(登録商標)界面活性剤、Jeffamine(登録商標)(ポリエーテルアミン)−Krytox(登録商標)界面活性剤、およびプルロニックを含む水性製剤が、キャリア相に加えられる場合、二重エマルジョンおよび小胞を形成することができると思われ、これらは双方とも95℃を超えても熱安定性である。Krytox(登録商標)流体は、官能性末端基と組み合わされた、ヘキサフルオロプロピレンオキシドベースのフッ化合成油である。Tween(登録商標)20(ポリソルベート20)およびSpan(登録商標)80(ソルビタンモノオレエート)等の他の界面活性剤が、PEG、アルギネート、グリセロール等の増粘剤と共に、またはこれらなしで利用されて、二重エマルジョンからのGUV形成が誘導され得る。
界面活性剤、ならびに熱安定性の二重エマルジョンおよびGUV
特定のいかなる理論に縛られることも意図しないが、熱安定性の二重エマルジョンおよび/またはGUVの調製は、標準的なPCR反応と関連するような高い温度に耐えることができる膜または二重エマルジョン界面を形成することができる界面活性剤の使用に依存することが提唱される。これを達成する一方法は、小滴の界面にて、または膜構成内に組み立てられる場合に、界面から界面活性剤を取り除く(または膜を壊す)のに必要とされるエネルギーが、kTによって与えられ得るよりも高くなるように、分子量が比較的高い界面活性剤を用いることであり得る。
熱安定性の二重エマルジョンおよび/またはGUVを提供するのに利用され得る例示的な界面活性剤として、PEG−PFPE(ポリエチレングリコール−パーフルオロポリエーテル)ブロックコポリマー、例えばPEG−Krytox(登録商標)(例えば、Holtzeら、「Biocompatible surfactants for water−in−fluorocarbon emulsions」、Lab Chip、2008、8、1632〜1639参照、この開示は参照によって本明細書中に組み込まれる)を含む「生体適合性の」界面活性剤、ならびに油相におけるイオン性Krytox(登録商標)および水性相におけるJeffamine(登録商標)(ポリエーテルアミン)(例えば、DeJournetteら、「Creating Biocompatible Oil−Water Interfaces without Synthesis:Direct Interactions between Primary Amines and Carboxylated Perfluorocarbon Surfactants」、Anal.Chem. 2013、85(21):10556〜10564参照、この開示は参照によって本明細書中に組み込まれる)を含む界面活性剤がある。更なる、および/または代わりの界面活性剤が用いられてもよいが、安定した界面を形成することを条件とする。ゆえに、多くの適切な界面活性剤は、分子量が高いブロックコポリマー界面活性剤(PEG−Krytox(登録商標)等)となろう。これらの例として、フッ化分子および溶媒が挙げられるが、非フッ化分子も同様に利用され得る可能性がある。
したがって、一部の実施形態において、本開示には、熱安定性の二重エマルジョンを提供し、例えば、不混和性の液体(例えば、油および界面活性剤)によって封入される混和性の液体(例えば、核酸およびPCR試薬)が挙げられ、これは次に、第2の混和性の液体(例えば、1%Pluronic F−56および10%PEG35K)内に封入される。当該二重エマルジョンは、生物学的反応、例えばPCR、RT−PCR、タンパク質−タンパク質相互作用研究その他の実行に用いるのに適している
エマルジョン、特に二重エマルジョンを形成する場合の考慮点は、これが二重エマルジョンのままであり、かつ破裂も合体もしないように安定化させることである。これは、多くの場合、安定化剤、例えば界面活性剤を用いて達成される。しかしながら、場合によっては、極端に安定した二重エマルジョンを生じさせることが有利であり得る。本明細書中に記載される方法において、これは、例えば、架橋し得る中間相(被包相)、例えば、ポリジメチルシロキサンのようなポリマーゲル相を用いることによって、達成され得る。これ以外にも、界面活性剤はそれ自体が、例えば、架橋基が生じることによって、互いと架橋し得る。この基は、界面活性剤の疎水性尾部上に、または代わりに、親水性頭部上に存在し得る。これは、界面活性剤を互いに架橋し得、または代わりに、架橋が、水性相由来の試薬、例えば、重合、共有結合その他を誘導する分子の添加によって誘導され得る。また、抗体またはビオチン−ストレプトアビジンのような生体分子が、界面活性剤−界面活性剤架橋を生じさせるのに用いられ得る。
界面を架橋するのが、二重エマルジョン殻を熱安定にする別の方法である。例えば、そのような架橋は、油相を架橋することによって、または膜小胞を架橋することによって、達成され得る。先で考察されるように、界面を架橋する一方法は、生体分子、例えばストレプトアビジンを用いる。例えば、Krytox(登録商標)ポリマーの頭部基が、複数のビオチンでビオチン化されてよい。その後、ストレプトアビジンが、水性相に加えられることによって、様々なKrytox(登録商標)ポリマーを相互に架橋して、架橋された殻を水/油界面に生じさせる。その後、当該殻は、水中に直接分散されてもよいし、所望される場合、二重エマルジョンとして封入されてもよい。
微小滴、多重エマルジョン微小滴、およびGUVへの試薬の添加
主題の方法を実行する際に、いくつかの試薬が、1つまたは複数のステップ(例えば、約2ステップ、約3ステップ、約4ステップ、もしくは約5ステップまたはそれ以上のステップ)で、微小滴に加えられる必要があり得る。試薬を微小滴に加える手段は、いくつかの方法において、例えば、微小滴の乳化ステージに応じて変わってよく、例えば、様々なアプローチが、多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョン微小滴と比較して、一重エマルジョン微小滴への試薬の添加に利用可能であり得る。目的のアプローチとして、Ahnら、Appl.Phys.Lett.88、264105(2006);Priestら、Appl.Phys.Lett.89、134101(2006);Abateら、PNAS、2010年11月9日、107巻45号19163〜19166;およびSongら、Anal.Chem.、2006、78(14)、4839〜4849頁に記載されるものが挙げられるが、これらに限定されない。これらの開示は、参照によって本明細書中に組み込まれる。
例えば、試薬は、試薬を含有する第2の微小滴に微小滴を溶け込ませることを含む方法によって、一重エマルジョン微小滴に加えられ得る。第2の微小滴内に含有される試薬は、あらゆる好都合な手段によって加えられてよく、具体的には、本明細書中に記載されるものが挙げられる。当該微小滴は、第1の微小滴に溶け込んで、第1の微小滴および第2の微小滴の双方の内容物を含む微小滴を生じさせ得る。
1つまたは複数の試薬がまた、またはその代わりとして、液滴合一および/またはピコインジェクション等の技術を用いて、一重エマルジョン微小滴に加えられ得る。液滴合一において、標的微小滴が、標的微小滴に加えられることになる試薬を含有する微小滴と一緒に流され得る。2つの微小滴は、互いに接触するが、他の微小滴に触れないように、流され得る。その後、これらの微小滴は、電界を印加する電極または他の手段を通過し得、電界は、微小滴を不安定にして一緒に溶け込むようにし得る。
ピコインジェクションにおいて、標的微小滴が、加えられることになる試薬を含有するチャンネルを通り越えて流され得、そこで試薬は高圧にされる。しかしながら、界面活性剤の存在に起因して、電界の非存在下で、微小滴は、注入されることなく通り越えて流れることとなる。なぜなら、微小滴をコーティングする界面活性剤は、流体が入るのを妨げ得るからである。しかしながら、電界が微小滴に印加されるならば、インジェクタを通過するにつれ、試薬を含有する流体は、微小滴中に注入されることとなる。微小滴に加えられる試薬の量は、いくつかの異なるパラメータによって、例えば注入圧および流れる滴の速度を調整すること、電界のオン/オフを切り替えること等によって、制御され得る。
他の態様において、1つまたは複数の試薬がまた、またはその代わりとして、一緒に2つの微小滴を溶け込ませることに、または液体を微小滴中に注入することに依存しない方法によって、一重エマルジョン微小滴に加えられ得る。むしろ、1つまたは複数の試薬が、試薬を非常に小さな滴の流れに乳化するステップと、これらの小さな滴を標的微小滴に溶け込ませるステップとを含む方法によって、微小滴に加えられ得る。そのような方法は、本明細書中で「多重滴合一による試薬添加」と呼ぶ。当該方法は、標的微小滴のサイズと比較して、加えられることになる滴のサイズが小さいために、小さな滴は、標的微小滴よりも速く流れて、これの後ろに集まることとなるという事実を利用する。その後、この集まりは、例えば電界を印加することによって、溶け込み得る。このアプローチはまた、またはその代わりとして、異なる流体の小さな滴の、共に流れるいくつかの流れを用いることによって、多重試薬を微小滴に加えるのに用いられ得る。小さな標的微小滴の有効な溶込みを可能にするために、標的微小滴を含有するチャンネルよりも小さな滴を形成すること、そしてまた標的微小滴を注入するチャンネルの、電界を印加する電極からの距離を、標的微小滴に「追いつく」ような時間を小さな滴に与えるほど十分に長くすることが重要である。このチャンネルがあまりに短いならば、全ての小さな滴が、標的微小滴と溶け込むことにはならず、所望の量の試薬よりも少量しか加えられ得ない。これは、電界の大きさを増大させることによって、ある程度補正され得、より遠く離れている滴が溶け込み得る傾向がある。同じマイクロフルイディック装置で小さな滴を形成することに加えて、滴はまた、またはその代わりとして、別のマイクロフルイディック滴メーカーを用いて、またはホモジェナイゼーションの後に、これを、標的微小滴を含有する装置中に注入して、オフラインで形成され得る。
したがって、ある態様において、試薬を小滴の流れに乳化するステップであって、小滴が微小滴のサイズよりも小さいステップと;小滴を微小滴と一緒に流すステップと;小滴を微小滴に溶け込ませるステップとを含む方法によって、試薬が微小滴に加えられる。小滴の流れ中に含有される小滴の直径は変動して、微小滴の直径の約75%以下に及んでよく、例えば、流れる小滴の直径は、微小滴の直径の約75%以下、微小滴の直径の約50%以下、微小滴の直径の約25%以下、微小滴の直径の約15%以下、微小滴の直径の約10%以下、微小滴の直径の約5%以下、または微小滴の直径の約2%以下である。ある態様において、流れる複数の小滴、例えば2つ以上、3つ以上、4つ以上、または5つ以上の小滴が、微小滴と溶け込み得る。そのような溶込みには、あらゆる好都合な手段によって達成され得、流れる小滴を微小滴に溶け込ませるのに有効である電界を印加することによるものが挙げられるが、これに限定されない。
先に記載される方法の変形として、流体はジェット噴射され得る。すなわち、加えられることになる流体を、流れる小滴に乳化するのではなく、この流体の長いジェットが形成されて、標的微小滴と一緒に流され得る。その後、これらの2つの流体は、例えば電界を印加することによって、溶け込み得る。結果として膨らみを有するジェットが生じ、微小滴は、溶込み前に、レイリー・プラトー不安定性により、おおよそ標的微小滴のサイズの小滴に自然に壊れ得る。いくつかの変形が考えられる。例えば、1つまたは複数の剤、例えばゲル化剤および/または界面活性剤が、ジェット噴射流体に加えられて、ジェット噴射するのをより容易にし得る。さらに、連続流体の粘度もまた、Utadaら、Phys.Rev.Lett.99、094502(2007)に記載されるように、ジェット噴射を可能にするように調整され得る。この開示は、参照によって本明細書中に組み込まれる。
他の態様において、溶液中に溶解される電解質を利用することによって、注入流体それ自体を電極として用いる方法を用いて、1つまたは複数の試薬が加えられ得る。
別の態様において、加えられることになる試薬(「標的試薬」)を含有する滴の内部に、試薬が加えられることになる微小滴(すなわち「標的微小滴」)を被包することによって、初期の時点にて形成された微小滴に試薬が加えられる。ある実施形態において、二重エマルジョンを形成するために、適切な疎水相、例えば油の殻内に標的微小滴を最初に封入することによって、そのような方法が実行される。その後、二重エマルジョンは、標的試薬を含有する微小滴によって封入されて、三層エマルジョンが形成される。その後、標的滴を、標的試薬を含有する滴と組み合わせるために、二重エマルジョンには、電界を印加すること、微小滴界面を不安定にする化学物質を加えること、締付部および他のマイクロフルイディック幾何構造中に三層エマルジョンを流すこと、機械的撹拌または超音波を利用すること、温度を上げ下げすること、または磁界によって引き寄せられた場合に二重エマルジョン界面を破裂させることができる磁気粒子を微小滴内に封入することによるものが挙げられるが、これらに限定されない適切なあらゆる方法を用いて、押し破られる。
先に記載される、試薬を微小滴に加える方法の態様が、国際PCT出願国際公開第2014/028378号に、より詳細に記載されている。この出願の開示は、その全体が全ての目的について、参照によって本明細書中に組み込まれる。
試薬を微小滴に加える先の方法は、一重エマルジョン微小滴への試薬の添加に適し得る一方、先の方法の1つまたは複数は、多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョン微小滴および/またはGUVへの直接的な試薬の添加に適し得ない。これは、例えば、そのような方法が、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの構造を破壊することとなるのならば、正しいかもしれない。しかしながら、先の方法は、試薬を一重エマルジョン微小滴に加えてから、これを封入して多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを形成するのに用いられ得る。したがって、試薬を多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加える更なる方法が、以下に記載される。例えば、一部の実施形態において、核酸増幅産物を検出可能に標識するように設計された検出可能な標識、および/または核酸増幅産物を生産するように設計された核酸増幅試薬等の試薬を混和性相キャリア流体に加えることによって、試薬が多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えられ得、試薬は、混和性相キャリア流体から、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの不混和性の殻を通って、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの第1の混和性相流体中に拡散する。
一部の実施形態において、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが、第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVであり、核酸増幅試薬を第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加える方法が、核酸、例えば標的核酸を、第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入することと、増幅試薬および第1の多重エマルジョン微小滴を、第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入することと、第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを破裂させることによって、核酸を増幅試薬と接触させることとを含む。
一部の実施形態において、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが、第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVであり、核酸増幅試薬を第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加える方法が、核酸増幅試薬を第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入することと、核酸、例えば標的核酸、ならびに第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを、第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入することと、第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを破裂させることによって、核酸を増幅試薬と接触させることとを含む。
一部の実施形態において、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが、第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVであり、適切な方法が、第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを、試薬を含む第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入することによって、試薬を第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えることと、第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内の第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを破裂させて、試薬を第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの内容物と接触させることとを含む。
一部の実施形態において、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが、第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVであり、適切な方法が、試薬を含む第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを、第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入することによって、試薬を第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えることと、第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内の第1の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを破裂させて、試薬を第2の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの内容物と接触させることとを含む。
PCR産物の検出
主題の方法を実行する際に、核酸増幅産物、例えばPCR産物が検出され得る方法は、異なってよい。例えば、目的が単純に、集団内に存在する特定の細胞型、例えば腫瘍細胞の数を計数することであるならば、これは、SybrGreen、または他のあらゆる染料および/またはインターカレート染料が、各多重エマルジョン微小滴および/またはGUVに加えられる単純なバイナリアッセイを用いることによって達成され得るので、特徴を明らかにする遺伝子、例えばオンコジーンが存在し、かつPCR産物が生産される場合、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、蛍光性になることとなる。蛍光の変化は、蛍光偏光に起因し得る。検出成分として、インターカレート染料(例えばSybrGreen)の使用が挙げられ得る。
種々の異なる検出成分が、主題の方法を実行する際に用いられ得、当該技術において知られている蛍光色素を用いることを含む。蛍光色素は典型的に、フルオレセインおよびその誘導体;ローダミンおよびその誘導体;シアニンおよびその誘導体;クマリンおよびその誘導体;Cascade Blueおよびその誘導体;Lucifer Yellowおよびその誘導体;BODIPYおよびその誘導体等のファミリーに分割され得る。例示的なフルオロフォアとして、インドカルボシアニン(C3)、インドジカルボシアニン(C5)、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、Texas Red、Pacific Blue、Oregon Green 488、Alexa Fluor 355、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor−555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、JOE、Lissamine、Rhodamine Green、BODIPY、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、カルボキシフルオレセイン(FAM)、フィコエリトリン、ローダミン、ジクロロローダミン(dRhodamine)、カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)、カルボキシ−X−ローダミン(ROX)、LIZ、VIC、NED、PET、SYBR、PicoGreen、RiboGreen等が挙げられる。フルオロフォアおよびその使用の記載は、他のいろいろな場所において見出され得、R.Haugland、Handbook of Fluorescent Probes and Research Products、第9版(2002)、Molecular Probes、Eugene、Oreg.;M.Schena、Microarray Analysis(2003)、John Wiley & Sons、Hoboken、N.J.;Synthetic Medicinal Chemistry 2003/2004 Catalog、Berry and Associates、Ann Arbor、Mich.;G.Hermanson、Bioconjugate Techniques、Academic Press(1996);およびGlen Research 2002 Catalog、Sterling、VA.がある。
他の態様において、特に、目的が、存在する核酸、例えばオンコジーンをさらに特徴付けることであるならば、更なる試験が必要とされ得る。例えば、多重アッセイの場合、これは、光出力を、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVにおいて増幅される遺伝子のどれかと関連させることによって、達成され得る。代わりのアプローチは、例えばインターカレートされた染色による、バイナリ出力を用いて、どの多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが何らかのオンコジーンを有するかを判定することとなる。その後、これらがソートされて、これらの微小滴および/またはGUVが回収され得るので、これらがどのオンコジーンを含有するかを判定するためにより詳細に分析され得る。そのような微小滴および/またはGUV中に存在するオンコジーンを判定するために、マイクロフルイディック技術または非マイクロフルイディック技術が用いられ得る。非マイクロフルイディック技術を用いて、オンコジーンを含有すると同定された微小滴および/またはGUVが、ウェルプレート上のウェル中に入れられてよく、そこでより大容量に希釈されて、マルチプレックスPCR反応中に生じたPCR産物の全てを放出することとなる。その後、このウェル由来のサンプルが、他のウェル中に移され得、各ウェルの中に、1つのオンコジーン用のプライマーが加えられることとなる。その後、これらのウェルは、温度サイクルを受けてPCRが開始されることとなり、その位置にて、インターカレート染料が加えられて、マッチするオンコジーンおよびプライマーを有するウェルが明るくなるであろう。
したがって、主題の方法を実行する際に、成分が、例えば蛍光の変化に基づいて、検出され得る。ある態様において、蛍光の変化は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に起因する。このアプローチにおいて、5’プライマーはクエンチャ色素を有し、かつ3’プライマーは蛍光色素を有する、特別なプライマーセットが用いられ得る。これらの色素は、末端上でも中間でも、プライマー上のどこに配置されてもよい。プライマーは相補的であるため、溶液中で二本鎖として存在することとなるので、互いに近接することとなって、蛍光色素の放射が、クエンチャ色素によってクエンチされることとなり、溶液は暗く見える。PCRの後、これらのプライマーは、長いPCR産物中に組み込まれることとなるので、互いから遠く離れることとなる。これにより、蛍光色素が発光することとなって、溶液は蛍光性になる。それゆえに、特定のオンコジーンが存在するかを検出するために、当業者は、蛍光色素の波長にて、微小滴および/またはGUVの強度を測定することができる。異なるオンコジーンが存在するかを検出するために、これは、異なるプライマーについて異なって着色される色素でなされるであろう。これにより、微小滴および/またはGUVは、細胞中に存在するオンコジーンのプライマーに対応する全ての波長にて蛍光性となるであろう。
ソーティング
本開示の方法を実行する際に、1つまたは複数のソーティングステップが使用され得る。目的のソーティングアプローチとして、膜バルブ、分岐チャンネル、表面音響波、および/または誘電泳動の使用を含むアプローチが挙げられるが、これらに必ずしも限定されない。目的の分類アプローチとしてさらに、Agrestiら、PNAS 107巻、9号、4004〜4009によって記載されるものが挙げられる;この開示は、参照によって本明細書中に組み込まれる。所望の特性を有する、または有していないメンバーの混合物を含有する集団が、所望の特性を有していないメンバーを取り除くことによって富化されることによって、所望の特性を有する富化集団を生産することができるという点で、ソーティングによって集団が富化され得る。
ソーティングは、本明細書中に記載される何れかのステップの前または後に利用され得る。さらに、2回以上のソーティングステップが、微小滴、例えば、一重エマルジョン微小滴、多重エマルジョン微小滴、および/またはGUVの集団に利用され得、例えば、約2回以上、約3回以上、約4回以上、または約5回以上その他のソーティングステップである。複数のソーティングステップが適用される場合、ステップは、1つまたは複数の方法(例えば、異なる特性に基づくソーティング、異なる技術を用いるソーティング等)が、実質的に同一であっても異なってもよい。
1つまたは複数の特性に基づいて、微小滴がソートされ得る。目的の特性として、サイズ、粘度、質量、浮力、表面張力、導電率、電荷、磁気、蛍光、および/または1つもしくは複数の成分の有無が挙げられるが、これらに限定されない。ある態様において、ソーティングは、微小滴中の細胞の有無に少なくとも部分的に基づき得る。ある態様において、ソーティングは、例えば、蛍光PCR増幅産物の検出によって示されるような、核酸増幅産物、例えばPCR増幅産物の有無の検出に少なくとも部分的に基づき得る。
微小滴ソーティングは、例えば、細胞が存在しない微小滴を取り除くのに、使用され得る。封入は、細胞が存在しない大多数の微小滴を含む、1つまたは複数の微小滴をもたらし得る。そのような空の微小滴がシステム内に残っているならば、他の何らかの微小滴として処理されることとなり、その間の試薬および時間が無駄になろう。最高の速度および効率を達成するために、これらの空の微小滴は、微小滴ソーティングで取り除かれることになる。例えば、滴メーカーは、細胞の非存在下で、8μmの滴が形成されるように、ドリッピングからジェット噴射への移行に近づくように作動し得る;対照的に、細胞が存在する場合、フロー中で生じる撹乱は、ジェットの崩壊を誘発して、直径25μmの滴を形成することとなる。ゆえに、装置は、空の8μmの滴、および単細胞を含有する25μmの滴の二分散集団を生産し得、これはその後、例えば流体式ソーターを用いて、サイズによってソートされて、より大きな、単細胞を含有する滴のみが回収され得る。
目的のパッシブソーターとして、流体式ソーターが挙げられ、これは、小さな微小滴および大きな微小滴の、マイクロフルイディックチャンネル中での様々な移動の仕方に基づいて、サイズに従って、様々なチャンネル中に微小滴をソートするものである。また、バルクソーターにも関心が持たれ、この単純な例として、重力場において異なる質量の微小滴を含有するチューブがある。チューブを遠心分離し、撹拌し、および/または振盪することによって、より浮揚性のあるより軽い微小滴が、コンテナの上部に向けて自然に移動することとなる。磁気特性を有する微小滴は、磁気特性を有する微小滴が、特性の大きさに従って自然に移動することとなる磁界をコンテナに印加することによる点以外は類似したプロセスにおいてソートされ得る。主題の方法に用いられるパッシブソーターはまた、フロー特性に基づいて多数の微小滴を同時にソートすることとなる比較的大きなチャンネルを備えてもよい。
また、ピコインジェクションが、一重エマルジョン微小滴の電気特性を変えるのに用いられ得る。これは、例えば、イオンを加えることによって微小滴の導電率を変えるのに用いられ得、導電率はその後、例えば誘電泳動を用いて、微小滴をソートするのに用いられ得る。これ以外にも、ピコインジェクションはまた、微小滴、例えば滴を帯電させるのに用いられ得る。これは、帯電している微小滴中に流体を注入して、注入後、微小滴が帯電することによって、達成され得る。これは、帯電していたり帯電していなかったりする微小滴のコレクションを生産することとなり、帯電した微小滴はその後、帯電量に基づいて方向が変わることとなる電界の領域中を流れることによって、抽出され得る。異なる量の液体を注入することによって、ピコインジェクションを調整することによって、または固定された注入容量について異なる電荷を注入するように電圧を調整することによって、微小滴上の最終電荷は調整されて、電荷が異なる微小滴が生産され得る。これらはその後、電界領域において量が異なることによって方向が変わることとなり、異なるコンテナ中にソートされ得る。
フローサイトメトリ(FC)が、本明細書中に記載される方法の何れかにおいて、オンチップ微小滴ソーティングに代わるものとして利用されてよい。そのような方法、および当該方法の実行に利用され得る装置が、LimおよびAbate、Lab Chip、2013、13、4563〜4572に記載されている;この開示は、その全体が全ての目的について、参照によって本明細書中に組み込まれる。簡潔に、微小滴は、例えば、本明細書中に記載される分割およびピコインジェクションのような技術を用いて、形成かつ操作されて、一重エマルジョンが生じ得る。その後、一重エマルジョンは、例えば、本明細書中に、またはLimおよびAbate、Lab Chip、2013、13、4563〜4572に記載される1つまたは複数の装置を用いて、二重乳化されて、例えば、本明細書中に記載される多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが提供され得る。その後、二重エマルジョンは、FC、例えばFACSを介して分析され得る。
FC分析に適した二重エマルジョンおよび/またはGUVを形成するのに利用され得る装置、ならびにその特性評価および用途が、図1、図2、図6、および図8〜図12を参照して、本明細書中でより詳細に記載される。FACSを介したソーティングを含む実施形態用のワークフロースキームが、図6に示されている。
本開示の方法および装置を用いて生成された多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョンおよび/またはGUVは、例えば、酵素を伴う反応、例えばPCRを含む種々の内包型の化学的反応および生物学的反応を行うのに用いられ得る。多くの場合、反応の結果は、検出に関心が持たれ得る産物であり得る。また、様々なレベルの産物、または複数の産物の組合せを有する多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを回収することにも関心が持たれ得る。これは、本発明を用いて、種々の方法で達成され得る。例えば、反応物が、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVリアクタ中に分配されて、異なる多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが異なるレベルに反応して、異なる最終産物濃度を有し得る。その後、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、例えば、分光技術、例えば光学イメージングまたは蛍光イメージング、フローサイトメトリ、ラマン分光法、質量分析その他を用いて、調べられ得る。これらの方法、またはそれらの組合せは、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中の様々な化合物の濃度を判定するのに用いられ得る。これらの方法は、例えば、二重エマルジョンの場合にマイクロフルイディックベースのソーティングまたはフローサイトメトリを用いて、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVをソートする機構と組み合わされ得る。ポジティブに、およびネガティブにソートされた多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの内容物は、これらのソートされたプールの異なる特性を同定するために分析され得る。
さらに、場合によっては、例えば、ポジティブにソートされた各小滴の更なる詳細な個々の分析を可能にする更なる研究のために、個々のポジティブにソートされた小滴を、隔離されたウェル中にロードすることが所望され得る。非限定的な例として、本開示の方法および装置は、特定の核酸配列を含有するウイルスを調べるために用いられ得る。異質集団由来のウイルスが、例えば、多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョンおよび/またはGUV中に、標的核酸の溶解および増幅に十分な試薬と共にロードされ得る。その後、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、フローサイトメトリにより分析かつソートされて、標的核酸の増幅を経た全ての小滴が検出かつ回収され得る。これらの小滴は、例えば、単一のポジティブプールにソートされ得、またはウェルプレートアレイ上のウェル中に個々にソートされ得る。これらは、所望される場合、アレイ上の各ウェルが、全て同じであってもよいし、異なる増幅標的を示してもよい、ポジティブ事象の所望の組合せを有するように、特定のグループ内にロードされてもよい。その後、ソートされた小滴は、更なる分析、例えば質量分析または次世代シーケンシングにかけられ得る。
プール分析事例において、ポジティブコンテナ中にロードされた全細胞由来の核酸は、一緒に混合されて、全体として分析されることとなる。しかしながら、単一の小滴をウェル中にロードすることによって、各ウェルの内容物は、例えば、プールまたは配列決定の前に各ウェル内で核酸をバーコード化することによって、個々に分析され得る。これにより、例えば、標的種の単一ウイルスゲノムの溶解が、標的種を検出するだけでなく、個々のゲノムを回収することも可能にするので、同じ種の異なるメンバー間の比較が得られ得る。そのような分析は、メタゲノミクス等の種々の用途に、またはウイルス多様性を研究するのに有用である。
本発明の一部の実施形態において、検出に用いられる増幅に加えて、標的分子を増幅して、例えば、ソートされた標的核酸への更なる分析を可能にすることが所望される。例えば、一部の用途において、標的は、配列決定に所望される核酸を含むであろうが、標的によって提供される核酸の量は、配列決定を可能にするには小さ過ぎるであろう。この場合には、特異的PCRまたは非特異的多置換増幅等の増幅手順が、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVのソーティング前または後に、利用され得る。例えば、比較的小さな線状ゲノムを有するウイルス、例えばポリオまたはHIVの場合、ソーティング前または後にPCRが実行されて、ソーティング後に各ゲノムの十分なコピーが提供されて、配列決定分析が可能となる。例えば、個々のゲノムが、小滴内に封入されて、ゲノムの全体または一部の増幅にかけられ得る。この反応と同時に、またはその後に、更なる増幅が実行されて、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内のゲノムが同定され得、そしてこの情報に基づいて、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVがソートされ得る。標的核酸の多数のコピーを今では含有する、これらのソートされた二重エマルジョンは、その後、後続の分析に、より容易にかけられ得る。
これ以外にも、個々のゲノムが封入されて、検出増幅にかけられて、例えば、各ポジティブ多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが、完全長の標的核酸の1コピーのみ、および多数の小さな検出領域アンプリコンを含有するようにされ得る。これらのアンプリコンに基づいて、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、各ポジティブソーティング事象について、標的ゲノムの1つの完全長コピーを提供するプールとして回収され得る。配列決定ライブラリを調製するために、これらのポジティブゲノムは、その後、特異的であり、かつ所望される領域に隣接するプライマーを有するPCR、または代わりに、ゲノムの全体を増幅する非特的方法、例えば多置換増幅法(MDA)または多アニーリングおよびルーピングベースの増幅サイクル法(multiple annealing and looping based amplification cycles:MALBAC)を用いて増幅され得る。また、ポジティブ多重エマルジョン微小滴および/またはGUVがプールされないならば、例えば、ポジティブ多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが、ウェルプレートアレイ中にソートされてから、特異的であり、かつ所望される領域に隣接するプライマーを有するPCRを用いた増幅にかけられるならば、生じた個々のアンプリコンは、サンガー配列決定用の材料として、直接用いられ得る。
開示される方法および装置の強力な利点は、多数の独立した、隔離された反応を実行してから、種々の分光技術を利用して、反応産物を検出し、かつ所望の反応を経た特定のリアクタを回収するためにソートする能力である。開示される方法の性能に起因し得る課題は、場合によっては、更なる分析に所望されるポジティブ事象が、非常に稀であるおそれがあることである。例えば、開示される方法が、所望のウイルスが非常に低いレベルで存在する、大きな、多様なウイルスプールにおいて、特定のウイルスを検出するのに用いられるならば、特定のウイルスを回収するために、多数の個々のウイルスが分析される必要があり得る。そして、種の複数の例を回収することが所望されるならば、より一層多数の総ウイルスが分析される必要があり得る。開示される方法で実行され、かつソートされ得る反応の数は有限であるので、確実に検出するには標的があまりに稀である例が存在するおそれがある。
ある例において、本開示の方法は、極端に稀な事象を回収するティアードソーティングプロセスに用いられ得、各ソーティングラウンドが、富化係数を与える。サンプルにソーティングを何度も実行することによって、サンプルは標的について富化され得るので、総富化は、個々の富化の全ての乗法の積になる。例えば、本開示のシステムが多くとも100万個の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを生成し、分析し、かつソートすることできると仮定する。理想的な条件下で、これは、例えば、10億個中1個に存在する事象が、システムの短絡的な使用により、検出される可能性が低いことを意味する。しかしながら、ティアードソーティングを実行して、各ソーティングラウンドでの標的を富化することによって、そのような稀な事象は回復され得る。
例えば、第1のラウンドでは、試験用の100億個の実体が、100万個の多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に隔離されて、各多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが、約10,000個の実体を含有するようにされ得る。標的実体が10億個中1個に存在するならば、そのようなサンプルにおいて、標的を含有することでポジティブであるのは、多くとも10個の多重エマルジョン微小滴および/またはGUVとなろう。これらはソートされることとなり、それぞれが10,000個の実体を提供して、所望される10個が混合されている総数100,000個の実体が産出される。この富化が十分であり得る場合もあるが、100%の純度にまでさらに富化することすら所望される場合もあり得る。この場合、ティアードソーティングアプローチが用いられ得、例えば、10個の小滴中の1個が1つの実体を含有するように、100,000個の実体が100万個の小滴中にロードされ、ローディングはポアソン分布に従う。この例では、標的についてポジティブであると判定される大部分の小滴は、その標的実体のみを含有することとなるが、ポアソンローディングのランダムな性質に起因して、一部は、ポジティブなものと偶然共封入されたネガティブなオフターゲット実体を含有することもあろう。
100万個の小滴が分析されてソートされる場合、ここでも10個が、標的実体を含有すると判定され、そしてソーティングにより回収されることとなり、標的についてほぼ完全に純粋である、高度に富化された集団が提供される。さらに富化するために、ソーティングの更なるラウンドが実行され得る。ティアードソーティングの倍率は、この場合、最終富化が、個々の富化の乗法の積となることである。例えば、方法が1ラウンドで最大10^3倍富化することができるならば、同サンプルに2回ソーティングを実行することによって、最終富化は10^3×10^3=10^6倍となり、一方、もう1回のラウンドにより、例えば、10^9倍の最終富化が実現されることとなる。さらに、富化は、ユーザの所望に応じて、各ラウンドで類似しても異なってもよい。例えば、関係が少数である第1のラウンドが、例えば、10^3倍の富化を実現するのに用いられ得、その後、より集約的なラウンドが、10^6倍の富化を実行するのに用いられ得ると、ここでも10^9倍の最終富化が得られる。これらの値は、必要に応じて、特定の用途について最適化するように調整され得るが、ティアードソーティング法は一般に、富化倍率が有限であろうと、大規模な集団から極端に稀な事象を富化することができる非常に強力な利点を提供する。
開示されるPCR活性化ソーティングによる富化法を用いる場合、各富化が成功し、かつ溶液中の標的の濃度が増大することを確実にすることを特別に考慮する必要はなくてよい。例えば、大きな集団中の非常に稀なウイルスを検出することが目的であるならば、第1のラウンドでは、ウイルスゲノム中の特定の配列に対して、増幅プライマーが生じ得る。これが、ソーテッドチャンバ中に収集されることとなる領域の多くのコピーを産出することとなる。この同領域が更なるソーティングラウンドに用いられるならば、より初期のラウンドの産物アンプリコンが検出されてソートされることとなり、多数のポジティブ事象が、大きな富化を達成する方法の倍率を衰退させることとなる。この例では、後のラウンドにおけるプライマーは、より初期のラウンド由来の増幅産物を検出しないように修飾され得る。これは、例えば、後のラウンドにおけるプライマーが、初期のラウンドにおいて用いられる領域を越えたところから増幅することで、初期のラウンド由来の産物が、後のラウンドで増幅され得ない、ネステッドPCRアプローチを用いることを含むいくつかの方法で、達成され得る。これ以外にも、完全に異なった領域、例えば同じ遺伝子の異なる部分、または異なる遺伝子の全体が、後のラウンドにおいて標的とされ得る。これらの方法の組合せもまた、高度に富化されたサンプルを達成するのに用いられ得る。
適切な対象および/またはサンプル
主題の方法は、種々の異なる対象からとられる生体サンプルに利用され得る。多くの実施形態において、対象は「哺乳類」または「哺乳綱」であり、これらの用語は、食肉目(例えば、イヌおよびネコ)、齧歯目(例えば、マウス、モルモット、およびラット)、および霊長目(例えば、ヒト、チンパンジー、およびサル)を含む、哺乳綱に該当する生物を記載するのに広く用いられる。多くの実施形態において、対象はヒトである。主題の方法は、双方の性別の、そしてあらゆる成長ステージ(すなわち、新生児、乳児、少年少女、青年期、成人)のヒト対象に利用され得、ある実施形態において、ヒト対象は、少年少女、青年期、または成人である。本発明は、ヒト対象に利用され得る一方で、主題の方法はまた、他の動物対象(すなわち、「非ヒト対象」)、例えば、以下に限定されないが、鳥類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、家畜、およびウマに実行され得ることが理解されるべきである。したがって、本開示に従う評価が必要なあらゆる対象が適していることが理解されるべきである。
さらに、適切な対象として、症状、例えば癌と診断された対象、およびそのように診断されなかった対象が挙げられる。適切な対象として、1つまたは複数の癌の臨床像を示している対象、および示していない対象が挙げられる。ある態様において、対象は、1つまたは複数の因子、例えば家族の病歴、化学物質曝露および/または環境曝露、遺伝的突然変異(例えば、BRCA1および/またはBRCA2突然変異)、ホルモン、感染体、放射線曝露、ライフスタイル(例えば、食事および/または喫煙)、1つまたは複数の他の疾患症状の存在等のために、癌を発病するリスクがあり得る対象であってよい。
先でより完全に記載されるように、生体サンプルの種々の異なるタイプが、そのような対象から得られ得る。ある実施形態において、全血が対象から抽出される。必要に応じて、全血は、主題の方法を実行する前に、例えば遠心分離、分画、精製等によって処理されてよい。対象から抽出される全血サンプルの容量は、100mL以下であってよく、例えば、約100mL以下、約50mL以下、約30mL以下、約15mL以下、約10mL以下、約5mL以下、または約1mL以下である。
本明細書中で提供される主題の方法および装置は、固定細胞および生きた細胞の双方と適合する。ある実施形態において、主題の方法および装置は、生きた細胞で実行される。他の実施形態において、主題の方法および装置は、固定細胞で実行される。細胞サンプルの固定により、サンプルは、下流分析に干渉し得る小さな分子および脂質を抽出するために洗浄され得る。さらに、細胞の固定および透過化処理により、細胞は、表面タンパク質および細胞内タンパク質用の抗体で染色され得る。本明細書中に記載される核増幅法と組み合わされて、そのような染色は、高いレベルのマルチプレックス化を達成するのに用いられ得る。なぜなら、抗体は細胞サンプルに局在化する一方で、核増幅産物は多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に遊離しているからである。そのような構成により、同じ色の色素が、抗体に、および核酸増幅によって生産されるアンプリコンに用いられ得る。細胞を固定するのに適したあらゆる方法が用いられ得、これにはホルムアルデヒド、メタノール、および/またはアセトンを用いた固定が挙げられるが、これらに限定されない。
多重エマルジョン微小滴および/またはGUVにおける通常の反応
本明細書中に開示される方法および装置は一般に、区画された多数の反応、ならびに、種々の検出法、例えば分光法、化学的技術、生物学的技術、配列決定その他を用いた、それらの反応のその後のリーディングおよびソーティングの実行を促進する。反応として、生体分子なしで実行される有機反応もしくは無機反応、または生体分子および/もしくは細胞に関わる反応、例えば酵素反応、例えばPCRを含み得る。反応はまた、細胞材料または細胞ベースの抽出物を含み得、生きた細胞を用いることなくDNA、RNA、およびタンパク質を発現することができる転写抽出物および翻訳抽出物を含む。これは、生物学的合成用途に用いられ得、例えば、活性経路のスクリーニングを含む。
例えば、1つまたは複数のタンパク質によって実行される経路が、多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョンおよび/またはGUV内に、1つまたは複数の経路タンパク質を発現することができる無細胞抽出物と共に封入される核酸によって、コードされ得る。また、経路の試験を可能にするアッセイ構成要素が含まれ得る。経路活性およびアッセイの測定値に基づいて、リアクタは、特に所望される経路を偶然封入した多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを回収するようにソートされ得る。ソーティングの後、それらが分析、増幅等されて、プロセスが続けられて、スクリーニングが実行され得、または代わりに、指向性進化が実行され、かつ経路配列の増強が生じ得る。
多重エマルジョン微小滴および/またはGUVにおける反応はまた、偏りがより小さな配列決定ライブラリの生成を含む核酸操作等の用途に、または特定の形状を有する分子を組み合わせるために、用いられ得る。例えば、特定の遺伝子配列を発現する細胞が、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入されてから、本開示の方法にかけられて、配列を増幅して連結して、更なる用途において分析または使用され得る単一分子を生成することができる。例えば、細胞としてヒト抗体生成細胞が挙げられるならば、細胞の重鎖および軽鎖に対応する遺伝子は、相互に連結して、分析され得る単一分子が生じ得、対形成する重鎖および軽鎖を検出することができ、または抗体様分子、例えばscFvもしくはFabを生成することができる。
酵素結合プローブによるタンパク質またはDNAの検出
本明細書中に記載される方法および装置は、異質溶液中の実体を検出かつソートする種々の方法に用いられ得る。これまで記載された実施形態はこれを、多重エマルジョン微小滴、例えば二重エマルジョンおよび/またはGUVにおいて実行される核酸増幅を用いて達成するものもあるが、本開示によって可能にされる他の方法もある。例えば、開示される方法および装置が核酸を検出するのに用いられる場合、これは、例えば、個々の核酸実体を多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入してから、標的核酸に特異的なプライマーによる増幅にかけて、標的アンプリコンを検出してから、増幅に基づいてソートすることによって、達成され得る。しかしながら、他の検出可能なシグナルが、他の手段を用いて、例えば親和性試薬を標的に結合することによって、生じ得る。例えば、標的が核酸であるならば、標的に特異的であり、存在する場合、標的にハイブリダイズし得るプローブが、合成され得、当該プローブは、色素で、または場合によっては触媒、例えば酵素ベースの触媒または非酵素ベースの触媒で、標識され得る。当該プローブによって結合された標的は、結合していないプローブを取り除くために精製にかけられ得、残る物質は、本明細書中に記載される方法を用いて、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入され得る。
触媒結合プローブの場合、触媒用の基質もまた、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に含まれ得る。この例では、標的を含有する多重エマルジョンは、プローブが結合することとなるので、触媒を含むこととなり、基質の触媒反応および産物の生成が起こり、これは、例えば、蛍光性であり得る。これにより、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは経時的に、蛍光産物で充填されることとなる。対照的に、空である、またはオフターゲット分子を含有する多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、触媒を含有することとはならず、産物が生成しないので、検出可能なシグナルを発しない。そのようなアプローチの結果生じるのは、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの大きなコレクションであり、これらは、蛍光であるものもあれば薄暗いものもあるので、蛍光の封入多重エマルジョン微小滴および/またはGUVをソートすることによって、標的の回収が可能になる。この手順はまた、親和性試薬、例えば抗体が結合し得る他の種類の標的、例えば、生体分子、ウイルス、細胞その他に利用され得る。この場合、親和性試薬は、例えば、触媒と結合して、核酸プローブによって結合された核酸標的について先に記載された手順が実行されるであろう。
これらの双方の例において、洗浄が実行されて、結合していない触媒が取り除かれ得、当該触媒は、もし洗浄されなければ、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV内に封入されて、偽陽性をもたらすこととなる。しかしながら、結合していない触媒を取り除く洗浄が所望されず、または可能でないならば、代わりのアプローチとして、例えば、ポジティブ事象を同定するために2つのシグナルの局在化が用いられる多重アッセイを用いることがあろう。例えば、溶液中にある核酸標的を検出することが目的であるならば、標的上の2つの異なる配列用のプローブが合成され得、当該プローブは、それぞれに異なる触媒が結合しており、これが例えば、蛍光産物を産出する反応を実行する。一実施形態において、異なる触媒についての蛍光産物は、色が異なり得、例えば、一方が緑色の蛍光産物を、そして他方が赤色の蛍光産物を与える。プローブは、平常通り、標的に結合し得る。この場合、多くの結合していないプローブが溶液中に存在することとなる一方、大部分の例において、第1のタイプの触媒に相当するプローブは、触媒が異なる第2のプローブには、これら双方が同じ標的核酸に結合しない限り、物理的に結合することはない。
溶液はまた、必要に応じて、高濃度でのハイブリダイゼーションを実行するために希釈され得る。その後、あらゆる所定の小滴等容量の溶液が、1つのプローブのみ、または双方のプローブが結合した標的を含有することとなるように、濃度が引き下げられ得る。その後、この溶液は、触媒用の基質と共に封入され、インキュベートされ、検出され、かつソートされ得る。この実施形態において、多くの多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが、赤色の触媒または緑色の触媒のみを含有することとなるが、他のものは、赤色および緑色の双方(標的に結合されている)を含有することとなる。これにより、標的核酸を含有する小滴は、触媒しか含有しないものとは、双方の波長にて蛍光を発する小滴を、洗浄する必要なく検出することによって、区別され得ることとなる。
ここでも、双方の触媒の結合していないプローブが、同じ小滴内に偶然共封入される場合に偽陽性が生じ得るが、これは、この事象が標的の存在よりも実質的に稀であることを確実にするほど十分に溶液を希釈することによって軽減され得るので、同定されるダブルポジティブ多重エマルジョン微小滴および/またはGUVはほとんどの場合、標的の存在を伴い得る。異なる種類の親和性試薬、例えば抗体のような結合分子を用いる類似の技術が、細胞またはタンパク質のような他の種類の標的に利用され得、当該親和性試薬にはここでも、反応性が異なる触媒その他が結合し得る。
癌の検出
本開示に従う方法はまた、癌を検出する方法に関する。そのような方法は、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に、対象由来の生体サンプルから得られたオリゴヌクレオチドを封入するステップであって、少なくとも1つのオリゴヌクレオチドが、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に存在する、ステップと;ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)試薬、検出成分、および複数のPCRプライマーを、多重エマルジョン微小滴および/またはGUV中に導入して、PCR増幅がPCR増幅産物を生産し得る条件下で、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVをインキュベートするステップであって、複数のPCRプライマーは、それぞれが1つまたは複数のオンコジーンにハイブリダイズする1つまたは複数のプライマーを含む、ステップと;検出成分の検出によってPCR増幅産物の有無を検出するステップであって、検出成分の検出は、PCR増幅産物の存在を示す、ステップとを含んでよい。
1つまたは複数のオンコジーンに相当する1つまたは複数のPCR増幅産物の検出は、対象が癌を有することを示し得る。微小滴に加えられる特定のオンコジーンは、様々であり得る。ある態様において、オンコジーンは、特定の型の癌、例えば、乳癌、結腸癌等に特異的であり得る。
さらに、主題の方法を実行する際に、成分が検出されることになる生体サンプルは、変わってよく、検出が試みられる特定の型の癌に、少なくとも部分的に基づいてよい。例えば、ある例において、対象が乳癌を有するかを判定することが所望されるならば、乳房組織が生体サンプルとして用いられ得る、等である。癌を検出する方法を実行する際に、本明細書中に記載される通常のステップへの何らかの変形がなされてもよく、例えば、加えられ得るプライマーの数、試薬が加えられる方法、適切な対象等が作られる。
装置
先で示されるように、本発明の実施形態は、マイクロフルイディック装置を使用する。本発明のマイクロフルイディック装置は、様々な点で特徴付けられ得る。ある実施形態において、例えば、マイクロフルイディック装置は、少なくとも1つの「マイクロ」チャンネルを有する。そのようなチャンネルは、少なくとも1つの断面寸法が約ミリメートル以下(例えば、約1ミリメートル以下)であってよい。当業者であれば、ある用途について、この寸法が調整され得ることを理解するであろう;一部の実施形態において、少なくとも1つの断面寸法は、約500マイクロメートル以下である。一部の実施形態において、ここでも出願が許容するように、断面寸法は約100マイクロメートル以下(またはさらに約10マイクロメートル以下、さらに時折約1マイクロメートル以下)である。断面寸法は、中心線フローの方向にほぼ直角をなすものであるが、フロー方向を変える傾向がある肘部または他の形状部分を通るフローに直面する場合、稼働中の断面寸法は、フローと厳密に直角をなす必要がないことが理解されるべきである。一部の実施形態において、マイクロチャンネルが2つ以上の断面寸法、例えば矩形断面の高さおよび幅、または楕円断面の長軸および短軸を有し得ることも理解されるべきである。これらの寸法の何れも、ここで示されるサイズと比べられ得る。本発明で使用されるマイクロチャンネルは、2つの寸法が肉眼で見て不均衡であり得る(例えば、矩形断面が、約100〜200マイクロメートルの高さを、そして約センチメートル以上の幅を有する)ことに留意されたい。勿論、ある装置が、2本以上の軸の大きさについて非常に類似している、または同一ですらあるチャンネル(例えば、断面が矩形、または環状であるチャンネル)を使用してもよい。
一部の実施形態において、本発明のマイクロフルイディック装置は、マイクロファブリケーション技術を用いて作製される。そのような技術は、集積回路(IC)、微小電気機械装置(MEMS)、ディスプレイ装置等を作製するのに一般的に使用される。マイクロファブリケーションのタイプの内、マイクロフルイディック装置の作製において小さな寸法パターンを生じさせるために使用され得るプロセスとして、フォトリソグラフィ(X線リソグラフィ、e−ビームリソグラフィその他が挙げられる)、自己アライン堆積およびエッチング技術、異方性堆積およびエッチングプロセス、自己集合マスク形成(例えば、疎水性親水性コポリマーの層の形成)その他がある。
上記のものを鑑みて、本明細書中に記載される仕組みおよび設計特徴の一部は、より大きな装置およびシステムに縮尺を上げられ得、ミリメートル、またはさらにセンチメートルのスケールのチャンネル断面に達するチャンネルを使用する装置およびシステムを含むことが理解されるべきである。ゆえに、一部の装置およびシステムを「マイクロフルイディックである」と記載する場合、当該記載は、ある実施形態において、幾分大きなスケール装置にも等しく当てはまることが意図される。
マイクロフルイディック「装置」に言及する場合、1つまたは複数のチャンネル、リザーバ、ステーションその他が、モノリシックであってもモノリシックでなくてもよい連続した基板を共有する単一の実体を表すことが一般に意図される。マイクロフルイディック「システム」は、1つまたは複数のマイクロフルイディック装置、および関連する流体接続、電気的接続、制御/論理特徴その他を備え得る。マイクロフルイディック装置の態様として、1つまたは複数の流体フロー経路、例えば、本明細書中で考察される寸法を有するチャンネルの存在が挙げられる。
ある実施形態において、本発明のマイクロフルイディック装置は、液体培地の連続したフローを提供する。マイクロフルイディック装置内のチャンネル中を流れる流体は、多くの興味深い特性を示す。典型的には、無次元レイノルズ数は極端に低くて、常に層流のままであるフローが生じる。さらに、このレジームにおいて、合流する2つの流体が容易に混合することはなく、拡散のみが、2つの化合物の混合を駆動し得る。
本発明への使用に適したマイクロフルイディック装置の構成要素の種々の特徴および例が、次に記載されることとなる。
基板
マイクロフルイディックシステムに用いられる基板は、流体輸送に必須の要素が与えられている支持体である。基本構造は、モノリシックであってもよいし、積層されていてもよいし、そうでなければ区分されていてもよい。一般的に、基板は、(必要に応じて)分子ライブラリおよび試薬用の導管として機能する1つまたは複数のマイクロチャンネルを備える。また、入力ポート、出力ポート、および/またはフロー制御を補助する形状部分を備え得る。
ある実施形態において、基板の選択は、装置の用途および設計に依存してよい。基板材料は一般に、種々の操作条件との適合性について選択される。所定の材料についてのマイクロファブリケーションプロセスにおける制限もまた、適切な基板を選択する際の関連する考慮点である。有用な基板材料として、例えば、ガラス、ポリマー、シリコン、金属、およびセラミックスが挙げられる。
ポリマーは、マイクロフルイディック装置にとっての標準的な材料である。なぜなら、コスト効率が良く、かつ生産量が高いからである。ポリマーは、その成形挙動に従って3つのカテゴリ:熱可塑性ポリマー、エラストマポリマー、およびデュロ可塑性ポリマーに分類され得る。熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度超にてある形状に成形され得、この形状は、ガラス転移温度未満に冷却された後に保持されることとなる。エラストマポリマーは、外力が加わると直ぐに伸縮され得るが、外力が取り除かれると、元の状態に戻ることとなる。エラストマは、その分解温度に達する前に溶融しない。デュロ可塑性ポリマーは、温度がその分解温度に達する少し前に軟化するので、その最終形状にキャストされる必要がある。
本発明のマイクロ加工される装置に用いられ得るポリマーには、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリスチレン(PS)、およびポリスルホン(PSU)がある。ポリマーの化学的特性および物理的特性は、マイクロフルイディック装置でのポリマーの使用を制限する可能性がある。具体的には、ガラスと比較して、化学物質、エージング、機械的安定性、およびUV安定性に対する耐性が低いほど、特定の用途へのポリマーの使用を制限する可能性がある。
基板材料として用いられ得るガラスは、ある操作条件下で特定の利点を有する。ガラスは、ほとんどの液体および気体に対して化学的に不活性であるので、プラスチックを溶解させる傾向がある特定の溶媒を使用する用途に特に適している。さらに、その透明な特性により、光学的検出またはUV検出について、ガラスは特に有用となる。
表面処理および表面コーティング
表面修飾は、マイクロフルイディック装置の機能的機構(例えばフロー制御)を制御するのに有用であり得る。例えば、流体種をチャンネル壁に吸着させないことが、または生体成分の検出のために表面に抗体を付着させることが、有利であり得る。
ポリマー装置は特に、疎水性である傾向があるので、チャンネルのローディングが困難である場合がある。また、ポリマー表面の疎水性の性質により、電気浸透流(EOF)の制御が困難となる。ポリマー表面をコーティングする一技術が、チャンネル表面への高分子電解質多重膜(PEM)の塗布である。PEMは、陽性の高分子電解質および陰性の高分子電解質の溶液で交互に連続的にチャンネルを満たすことを含み、これにより多重膜が静電結合を形成し得る。層は典型的にはチャンネル表面に結合しないが、長期保存した後でもチャンネルを完全にカバーし得る。ポリマー表面上に親水性層を塗布する別の技術は、チャンネルの表面へのポリマーのUVグラフトを含む。表面をUV照射に曝すと同時に装置をモノマー溶液に供することによって、第1のグラフト部位、基部が、表面に生じる。モノマーは反応して、反応部位に共有結合するポリマーを形成する。
ガラスチャンネルは一般に、高いレベルの表面電荷を有することによって、タンパク質を吸着させ、おそらく分離プロセスを妨害する。一部の状況において、ポリジメチルシロキサン(PDMS)および/または界面活性剤のコーティングをガラスチャンネルに塗布することが有利であり得る。表面吸着を遅らせるのに使用され得る他のポリマーとして、ポリアクリルアミド、グリコール基、ポリシロキサン、グリセログリシドキシプロピル、ポリ(エチレングリコール)、およびヒドロキシエチル化ポリ(エチレンイミン)が挙げられる。さらに、電気浸透装置が、装置の内側の条件(例えばpH)を操作することによって大きさが調整可能である、電荷を帯びたコーティングを有することが、有利である。コーティングは正にも負にも帯電し得るため、フローの方向もまた、コーティングに基づいて選択され得る。
また、特殊なコーティングが、チャンネル表面上に特定の種を固定するために塗布され得る(このプロセスは当業者によって「表面の官能化」として知られている)。例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)表面が、アミンでコーティングされて、種々の官能基または標的の付着が促進され得る。これ以外にも、PMMA表面が、酸素プラズマ処理プロセスを通して親水性にされ得る。
装置は、表面の化学的性質を修飾するために、化学物質および/またはガス状の物質で処理され得る。一時的な疎水性チャンネルジャンクション、例えば、1つまたは複数の小滴形成ジャンクションを生じさせるために、装置は、高温にて長期間インキュベートされてよい。永続的な修飾を加えるために、装置は、Aquapelで処理されてよい。当該修飾は、油中水小滴、例えば微小滴の作成を促進することとなる。対照的に、一時的な親水性チャンネルジャンクション、例えば、1つまたは複数の小滴形成ジャンクションを生じさせるために、ジャンクションは、酸素プラズマに供されてよい。より永続的な修飾を加えるために、チャンネルジャンクションは、Vickersら、Anal.Chem、2006、78(21)、7446〜7452頁に記載される溶媒を用いて、抽出されてよい。当該修飾は、水性相によって油中水小滴が引きちぎられ易くするので、二重エマルジョン小滴形成を促進することとなる。
エマルジョンの生成にマイクロフルイディック装置を用いる場合、チャンネル壁の濡れ性を調整することが必須である場合がある。しかしながら、チャンネルの濡れ性の修飾は、更なる装置作製ステップ、例えば化学的パターニングまたはUVパターニングを必要とし、困難となり得る。一部の実施形態において、本明細書中に記載される方法は、チャンネルの濡れ性を備えたマイクロフルイディック装置の容易な作製に用いられ得る。例えば、ある実施形態において、チャンネルを有するマイクロフルイディック装置は、特定のチャンネルが他のチャンネルよりも大量のプラズマ酸化を受けるように、処理され得る。
例えば、装置の入口を、例えばテープで封鎖し、かつ装置の出口を開いたままにすることによって、疎水性の第1の小滴メーカーおよび親水性の第2の小滴形成ジャンクションを用いてツーステッププロセスで二重エマルジョンを生成する装置が作製され得る。その後、当該装置は、酸素プラズマ処理にかけられ得る。出口が開いているので、反応性の酸素イオンは出口チャンネル中に拡散し、これを処理して親水性にすることとなる。これは、チャンネルの出口近くで、大量の酸素プラズマをもたらすので、親水性壁をもたらすこととなるが、開いた出口から離れた、チャンネルのさらに上流では、酸素はさらに拡散することとなり、より低い量に終わることとなる。これにより、プラズマ量は、チャンネルの長さの全体にわたって徐々に変わることとなり、出口では大量であり、出口から遠くなる(封鎖された入口のほぼ全てを含む)につれ少量となる。プラズマ酸化がチャンネルの濡れ性を修飾するならば、これは、二重エマルジョンを生成する必要に応じて、出口近くの濡れ性が親水性であり、さらに離れると疎水性である、空間的にパターン化された濡れ性を達成するのに用いられ得る。
例えば、プラズマ酸化されていない表面と比較して、プラズマ酸化されている表面の異なる反応性を利用することによって、装置の化学的特性を修飾する、類似した方法が用いられ得る。例えば、本明細書中に記載される方法を用いて、チャンネルは、空間的にパターン化されたプラズマ酸化量が与えられ得る。その後、チャンネルは、例えば、装置の酸化部分または非酸化部分に選択的に反応する試薬で満たされることによって、他の領域ではなく特定の領域において反応し得る。これは、新規の部分をチャンネル表面に付着させることによって、化学的特性、例えば濡れ性を増強させ、または新しい表面特性を生じさせるのに用いられ得る。また、種々のタイプの形状部分、例えば断面が狭い、長いチャンネル、設計サイズが異なるギャップを有するポストその他が、プラズマ量を誘導かつ調整するのに用いられ得る。
拡散プラズマ酸化が制限された、空間の濡れ性パターニング
濡れ性をパターン化する一般的な方法は、高い程度の空間制御、例えば化学的処理の光活性化重合およびフロー制限により、チャンネルの表面特性を修飾することができる方法に依存する。しかしながら、当該方法は複雑であり、装置とアラインされることになる光パターンの高度な制御、または流量の注意深い制御が必要となる。官能化疎水性ポリマー装置を親水性にする一方法が、プラズマ酸化によるものであり、これは、水−油接触角度が>90度であるPDMSの通常疎水性の濡れを、完全な濡れ(接触角度0度)に変換することが示された。プラズマプロセスが利用される空間制御によって、プラズマ酸化を用いて濡れ性を空間的に制御することが可能となり得る。
プラズマ酸化は、酸化されることになるチャンネルの表面近くで酸素ガスイオンを発生させる能力に依存する;ガス拡散が装置の特定の領域に制限されるならば、当該領域を処理する一方で、他の領域を未処理のままにすることが可能であろう。これを達成する一方法が、大気に開かれている2つのリザーバを、リザーバ間のガス拡散が比較的遅い、長い抵抗チャンネルによって連結するものである。例えば第1の入口をテープのようなバリアで密閉することによって、第1のリザーバが大気に開かれ、かつ第2のリザーバが閉じられているならば、分子のみが、第2のリザーバを第1のリザーバに連結しているチャンネルを介して、第2のリザーバ中に拡散することができるが、これは比較的遅いであろう。これにより、プラズマ酸化により濡れ性を空間的にパターン化する方法が実現される。第1の入口が開かれ、かつ第2の入口がテープで密閉された装置は、プラズマ酸化器中に入れられる。チャンバは、標準的な酸素プラズマ処理の場合のように、空にされて、純粋な酸素でフラッシュされる。これにより、装置内に当初からあるガスは、純粋な酸素で置換され得る。その後、プラズマはオンに切り替えられて、酸素ガスをイオン化して、表面と結合するラジカルを生成して、表面を酸化させる。反応を続けるために、リザーバ内のガスに、新鮮な酸素が補充され得る。これが、開いた入口に連結されている第1のリザーバついて迅速に起こる一方、第2のリザーバにおける補充はかなり遅い。なぜなら、新鮮な酸素は、長い連結チャンネルを介して第2のリザーバに入るしかできないからである。その結果、第1のチャンバは、第2のチャンバよりも速く酸化する;処理時間が適切に制御されるならば、これにより第1のチャンバは親水性にされ得るが、第2のチャンバは疎水性のままであり、濡れ性が空間的にパターン化された装置が生じる。バルブおよび他の方法が、拡散速度および経路を制御するように実行されて、特性が制御されたパターンを生成することができる。
プラズマ酸化により空間的にパターン化された濡れ性は、二重乳化に利用され得る。酸素プラズマ空間濡れ性パターニングを用いて、二重乳化装置を官能化することが可能である。これを達成するために、装置は最初に、プラズマ処理中の酸素拡散を制限することとなる、比較的長くて狭いチャンネルを介して連結される2つの小滴ジェネレータを含有するように設計される。W/O/W二重エマルジョンについて、第1のジャンクションは疎水性で、第2のジャンクションは親水性であり得る。PDMSを含むほとんどのポリマーは元々疎水性であり、酸素プラズマ処理により親水性にされるので、第2のジャンクションのみ処置される必要がある。したがって、第1の小滴ジェネレータの入口は密閉されて、第2の小滴ジェネレータの入口および装置の出口は開いたままにされる。その後、装置はプラズマ処理されて、第2のジャンクションを優先して処理して親水性にし、そして第1のジャンクションは疎水性のままにされる。この方法の一不利点として、濡れ性が、比較的長い、塗布された経路の全体にわたって、親水性から疎水性に変換されることとなることがあり得る。しかしながら、これは、単純であり、多数の装置の平行パターニングに拡張可能であり、そしてロバストかつ再現性があるパターンを与える。
マイクロフルイディック要素
マイクロフルイディックシステムは、いくつかのマイクロチャンネル、バルブ、ポンプ、リアクタ、ミキサ、および他の構成要素を含有し得る。これらの構成要素の一部、ならびにそれらの一般的な構造および寸法が、以下で考察される。
種々のタイプのバルブが、本発明のマイクロフルイディック装置におけるフロー制御に用いられ得る。これらとして、パッシブバルブおよび逆止弁(膜、フラップ、二弁(bivalvular)、リークその他)が挙げられるが、これらに限定されない。これらのバルブを通る流量は、バルブの種々の物理的特徴、例えば、表面積、フローチャンネルのサイズ、バルブ材料その他に依存する。バルブはまた、マイクロフルイディック装置の設計中に考慮されるべきである、関連する、操作上の、かつ製造上の利点/不利点を有する。
他のマイクロフルイディック構成要素と同様に、マイクロポンプは、製造上の制約下にある。ポンプ設計における典型的な考慮点として、気泡、詰まりの処理、および耐久性が挙げられる。現在入手可能なマイクロポンプとして、電動等価ポンプ(electric equivalent pump)、固定ストローク微小変位蠕動マイクロメンブレン、および逆止弁が一体化されたポンプが挙げられるが、これらに限定されない。
マクロ装置は、試薬を混合するのに振盪および撹拌等の乱流力に依存する。比較として、そのような乱流力は、マイクロ装置において実質的に達成可能でない;マイクロフルイディック装置における混合は一般に、拡散により達成される。拡散による混合は遅く、非効率になり得るので、ミクロ構造体は多くの場合、混合プロセスを増強するように設計されている。当該構造体は、流体領域間の界面表面積を増大させることによって拡散を加速するように、流体を操作する。ある実施形態において、マイクロフルイディックミキサが使用される。そのようなミキサは、本発明のマイクロフルイディック分離装置の上流に提供され得る(場合によっては、一体化される)。
マイクロミキサは、2つの一般的なカテゴリ:アクティブミキサおよびパッシブミキサに分類され得る。アクティブミキサは、フロー領域にアクティブ制御を及ぼすことによって(例えば圧力勾配、電荷量その他を変えることによって)機能する。パッシブミキサは、エネルギーの入力を必要とせず、「流体力学」(例えば圧力)のみを用いて流体フローを一定の速度で駆動する。パッシブミキサの一例は、2つのフロー流を、プレートによって分離される互いの上部に積み重ねることを含む。フロー流は、分離プレートが取り除かれると、互いに接触する。2つの液体の積重ねは、接触面積を増大させ、かつ拡散長さを短くすることによって、拡散プロセスを増強する。熱管理が必要であるならば、混合装置および反応装置が伝熱系に連結され得る。マクロヒートエキスチェンジャと同様に、マイクロ熱交換が、並流、対向流、または交差流の何れかのフロースキームを有し得る。マイクロフルイディック装置はしばしば、チャンネルの幅および深さが約10μmから約10cmである。共通のチャンネル構造が、長いメイン分離チャンネル、および、バッファ、サンプル、または廃棄物の何れかのリザーバで終結する3つのより短い「分枝」サイドチャンネルを備える。分離チャンネルは、数センチメートル長であり得、3つのサイドチャンネルは通常、数ミリメートル長しかない。勿論、マイクロフルイディック装置の実際の長さ、断面積、形状、および枝の設計は、他の設計考慮点、例えばスループット(フロー抵抗によって決まる)、速度プロファイル、滞留時間その他と同じように、用途によって決まる。
本明細書中に記載されるマイクロフルイディック装置には、ピコインジェクション、液滴合一、選択的小滴融合、および小滴ソーティングが挙げられるが、これらに限定されない、本明細書中に記載される方法の特定のステップを実行するための電界ジェネレータを備え得る。ある実施形態において、電界は、金属電極を用いて発生する。特定の実施形態において、電界は、液体電極を用いて発生する。ある実施形態において、液体電極は、導電性の液体(例えば、塩水またはバッファ)で満たされ、かつ電界が所望されるマイクロフルイディック装置内に位置する液体電極チャンネルを備える。特定の実施形態において、液体電極は、電源または高電圧増幅器を用いて通電される。一部の実施形態において、液体電極チャンネルは、導電性の液体が液体電極チャンネルに加えられ得るような入口ポートを備える。そのような導電性の液体は、例えば、液体で満たしたチューブを入口ポートに連結し、かつ加圧することによって、液体電極チャンネルに加えられ得る。特定の実施形態において、液体電極チャンネルはまた、チャンネルから導電性の液体を放出するための出口ポートを備える。特定の実施形態において、液体電極は、本明細書中に記載されるマイクロフルイディック装置のピコインジェクション、液滴合一、選択的小滴融合、および/または小滴ソーティングの態様に用いられる。液体電極は、例えば、電界の印加を介して注入されることになる材料が帯電していない場合に、用いられ得る。
本明細書中に記載される液体電極はまた、本明細書中で考察される特定のマイクロフルイディック装置の用途以外の利用性もある。例えば、液体電極は、金属電極が一般に用いられる種々の装置に利用され得る。また、液体電極は、可撓性の装置、例えば、体に装着されるように設計されている装置、および/または操作の結果として撓まなければならない装置に用いるのに、特によく適し得る。
ある実施形態において、入力マイクロチャンネル、対形成マイクロチャンネル、および/またはピコインジェクションマイクロチャンネルの1つまたは複数とのジャンクションの直ぐ下流のマイクロフルイディック装置チャンネルの1つまたは複数の壁は、1つまたは複数のリッジを備える。マイクロチャンネルの壁におけるそのようなリッジは、適切な相、例えば、適切な疎水性相(例えば油)の層をトラップすることによって、不混和性相、例えば水性相が、マイクロチャンネルの壁に触れる(これは、チャンネル壁の濡れを引き起こすおそれがある)のを防止するように構成される。そのような濡れは、所望され得ない。というのも、予測できない滴形成の原因となり得、および/または流体が滴間を移動して、混入の原因となり得るからである。ある実施形態において、リッジは、より高い流量比R(Qaq/Qsum)での滴の形成を可能にする。
ある実施形態において、マイクロフルイディック装置のマイクロチャンネル(例えば、入力マイクロチャンネル、対形成マイクロチャンネル、ピコインジェクションマイクロチャルネン、および/またはこれらのチャンネルの1つまたは複数の上流または下流のフローチャンネル)の1つまたは複数の幅は、100ミクロン以下、例えば、90ミクロン以下、80ミクロン以下、70ミクロン以下、60ミクロン以下、50ミクロン以下、例えば、45ミクロン以下、40ミクロン以下、39ミクロン以下、38ミクロン以下、37ミクロン以下、36ミクロン以下、35ミクロン以下、34ミクロン以下、33ミクロン以下、32ミクロン以下、31ミクロン以下、30ミクロン以下、29ミクロン以下、28ミクロン以下、27ミクロン以下、26ミクロン以下、25ミクロン以下、20ミクロン以下、15ミクロン以下、または10ミクロン以下である。一部の実施形態において、先のマイクロチャンネルの1つまたは複数の幅は、約10ミクロンから約15ミクロン、約15ミクロンから約20ミクロン、約20ミクロンから約25ミクロン、約25ミクロンから約30ミクロン、約30ミクロンから約35ミクロン、約35ミクロンから約40ミクロン、約40ミクロンから約45ミクロン、約45ミクロンから約50ミクロン、約50ミクロンから約60ミクロン、約60ミクロンから約70ミクロン、約70ミクロンから約80ミクロン、約80ミクロンから約90ミクロン、または約90ミクロンから約100ミクロンである。
ある実施形態において、1つまたは複数のリッジのそれぞれの基部は、約10ミクロンから約20ミクロンの長さ、例えば、約11から約19ミクロンの長さ、約12から約18ミクロンの長さ、約13から約17ミクロンの長さ、約14から約16ミクロンの長さ、または約15ミクロンの長さである。
ある実施形態において、1つまたは複数のリッジのそれぞれのピークは、幅が約1から約10ミクロン、例えば、約1から約9ミクロン、約2から約8ミクロン、約3から約7ミクロン、約4から約6ミクロン、または約5ミクロンである。ある実施形態において、1つまたは複数のリッジのそれぞれのピークは、幅が約1ミクロンから約2ミクロン、約2ミクロンから約3ミクロン、約3ミクロンから約4ミクロン、約4ミクロンから約5ミクロン、約5ミクロンから約6ミクロン、約6ミクロンから約7ミクロン、約7ミクロンから約8ミクロン、約8ミクロンから約9ミクロン、または約9ミクロンから約10ミクロンである。
ある実施形態において、1つまたは複数のリッジのそれぞれの高さは、約5ミクロンから約15ミクロン、例えば、約6ミクロンから約14ミクロン、約7ミクロンから約13ミクロン、約8ミクロンから約12ミクロン、約9ミクロンから約11ミクロン、または約10ミクロンである。
ある実施形態において、1つまたは複数のリッジのそれぞれの基部の、1つまたは複数のリッジのそれぞれの高さに対する比率は、約1.0:0.75から約0.75:1.0である。ある実施形態において、1つまたは複数のリッジのそれぞれの基部の、1つまたは複数のリッジのそれぞれのピークの幅に対する比率は、約1.0:0.5から約1.0:0.1、例えば、約1.0:0.2から、約1.0:0.3から、または約1.0:0.4から約1.0:0.1である。
ある実施形態において、1つまたは複数のリッジのそれぞれの基部の、1つまたは複数のリッジのそれぞれの高さに対する、そして1つまたは複数のリッジのピークの幅に対する比率は、約1:0.75:0.5である。
ある実施形態において、本明細書中に記載されるチャンネルに、チャンネル壁に沿ってある距離だけ延びる複数のリッジが提供される。この距離は、例えば、約50ミクロンから約500ミクロン、例えば、約50ミクロンから約450ミクロン、約100ミクロンから約400ミクロン、約150ミクロンから約350ミクロン、約200ミクロンから約300ミクロン、または約250ミクロンであってよい。ある実施形態において、チャンネル壁に沿ってある距離だけ延びる複数のリッジが提供され得、チャンネル壁に沿う距離対チャンネルの幅の比率は、約10:1から約1:2、例えば、約10:1、約9:1、約8:1、約7:1、約6:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1:1、または約1:2である。
先で考察される種々の寸法の1つまたは複数が、特定の用途に適切なように、拡大または縮小されてよく、例えば、先の寸法のそれぞれが、適切なように、2、5、10倍、またはそれ以上、拡大または縮小されてよい点が留意されるべきである。
一部の実施形態において、1つまたは複数のチャンネルジャンクション、例えば1つまたは複数の小滴形成ジャンクション、例えばピコインジェクタジャンクションは、「ステップダウン」構造を含み、ピコインジェクタジャンクションの、そしてピコインジェクタジャンクションの下流のフローチャンネルの部分は、ピコインジェクタジャンクションの上流のフローチャンネルの部分よりも広い。このステップダウン構造は、小滴が引きちぎられ易くするので、小滴形成を促進する。ステップサイズは、形成されることになる小滴の所望のサイズに基づいて選択され得、ステップが大きいほど大きな小滴が生じる。そのような構造はまた、ピコインジェクタから小滴中への注入後の、ピコインジェクタからの材料のドリッピングを回避する一助となり得る。一部の実施形態において、ピコインジェクタジャンクションの、そしてピコインジェクタジャンクションの下流のフローチャンネルの幅は、ピコインジェクタジャンクションの直ぐ上流のフローチャンネルの幅よりも約5%から約50%広く、例えば、約5から約10%広く、約10から約20%広く、約20から約30%広く、約30から約40%広く、または約40から約50%広い。
一部の実施形態において、1つまたは複数のチャンネルジャンクション、例えば、1つまたは複数の小滴形成ジャンクションは、酸素プラズマで処理される。この処理は、PDMSの本来の疎水性を一時的に変えることとなり、水性相による油中水小滴が引きちぎられ易くするので、二重エマルジョン小滴の形成を促進する。Vickersら、Anal.Chem、2006、78(21)、7446〜7452頁に記載されるような溶媒抽出を用いて、修飾が「永続的に」され得る。
一部の実施形態において、同軸フローフォーカシング装置は、本明細書中に記載される方法に関連した使用に適した二重エマルジョンを調製するのに利用され得る。装置は、一重エマルジョン滴が最密に充填されて導入される、例えばおおよそ50μmの高さであるチャンネルを備えてよい;最密に充填することで、間隙にある油が最小限に抑えられて、薄い殻で覆われた二重エマルジョンの形成が可能になる。二重乳化ジャンクションは、一重エマルジョンチャンネルよりも高くて広いチャンネルを備える;水性キャリア流体が、図8〜図11に示されるように、Y字形状のチャンネル中に導入される。一重エマルジョンチャンネルは、キャリア相チャンネル内の中心に、水平垂直方向に置かれる;水性キャリア相が十分な速度で導入される場合、この幾何構造は、図8〜図11に示されるように、一重エマルジョンを封入している油が、壁から浮き上がって、流れる水性相中に懸濁する「円錐体」を形成することを確実にする。この非平面の幾何構造により、一様に疎水性である装置内での二重エマルジョンの形成が可能になる。
円錐体の下流は、図8の概略図に示されるように、チャンネル内の締付け中心に、水平垂直方向に置かれる。この形状部分により、薄い殻で覆われた二重エマルジョンの、1つのコアだけによる形成が可能となる:円錐体が締付部中に延びるにつれ、流れ込むキャリア相によって流体力学的にフォーカシングされる;これにより、図8に示されるように、円錐体の先端から個々の滴を引き裂くのに十分な剪断が生じる。締付部がなければ、二重エマルジョンはおそらく、多重コアを含有することとなる。
マイクロフルイディック装置によって多重エマルジョン微小滴および/またはGUVを生成するには、多くの場合、必要な溶液を装置中に必要な流量で注入するための、1つまたは複数のポンプの使用を含む。ポンプは大きく、電力を必要とし、そして、正確な流量を操るためのコントローラと、多くの場合一体化される必要があり得る。場合によっては、ポンプを用いずに小滴、特に二重エマルジョンを生成することが所望されてよい。例えば、本明細書中に記載される方法を用いて、ポンプを用いずに、一重エマルジョンも、二重エマルジョンを含む多重エマルジョンも生成することが可能である。
そのような一部の実施形態において、中を通る流体流量が、特定の圧力について制御されるように、チャンネル寸法がセットされる装置が作製され得る。例えば、特定の流体をチャンネル中によりゆっくり流すことが所望されるならば、チャンネルは長くされても狭められてもよく、これにより、流体力学的抵抗が増大するので、圧力降下がチャンネル中で同じであるため、流量が引き下げられる。流体力学的抵抗の、チャンネル径(〜D^−4)およびチャンネル長(〜L)への強い依存性により、チャンネル寸法の幾何学的制御を用いて、一定の圧力降下について、広範囲にわたって流量を調整することが可能である。これはその後、例えば、圧縮空気により、空気圧力ポンプまたはリザーバを用いて、出口に対して入口を加圧することによって、装置チャンネルの全体にわたって圧力降下を生じさせる方法と組み合わされ得る。これ以外にも、出口圧力は、吸引真空の適用を介して引き下げられて、入口から出口までの圧力降下が生じ得る。
圧力降下を生じさせる別の方法が、重力位置エネルギーを用いるものである。例えば、一方法は、装置の入口にて、流体の高さを、出口と比較して高くするものである。また、他の二重エマルジョン形成幾何構造、例えば、ガラスキャピラリ幾何構造、濡れ性パターニングによるツーステップおよびワンステップの形成、ならびにより高次の多重エマルジョンの生成用に構成された幾何構造も用いられ得る。
作製方法
マイクロファブリケーションプロセスは、基板に用いられる材料のタイプおよび所望される生産量に応じて異なる。小量生産またはプロトタイプ用の作製技術として、LIGA、粉末ブラスティング、レーザーアブレーション、機械的加工、放電加工、フォトフォーミングその他が挙げられる。マイクロフルイディック装置の大量生産技術は、リソグラフィ複製プロセスを用いても、マスターベースの複製プロセスを用いてもよい。シリコン/ガラスから基板を作製するリソグラフィプロセスとして、半導体装置の作製に一般的に用いられる湿式エッチング技術およびドライエッチング技術の双方が挙げられる。典型的には、射出成形およびホットエンボシングが、プラスチック基板の大量生産に用いられる。
ガラス、シリコン、および他の「硬質」材料(リソグラフィ、エッチング、堆積)
リソグラフィ技術、エッチング技術、および堆積技術の組合せが、ガラス、シリコン、および他の「硬質」材料からマイクロ管およびマイクロキャビティを形成するのに用いられ得る。先の技術に基づく技術は一般的に、0.1〜500マイクロメートルのスケールの装置の作製に利用される。
現在の半導体作製プロセスに基づくマイクロファブリケーション技術は一般に、クリーンルームにおいて実行される。クリーンルームのクオリティは、1立方インチにつき<4μmの大きさの粒子の数によって分類される。MEMSマイクロファブリケーション用の典型的なクリーンルームのクラスは、1000〜10000個である。
ある実施形態において、フォトリソグラフィがマイクロファブリケーションに用いられ得る。フォトリソグラフィでは、基板上に堆積したフォトレジストが、光マスクを通して光源に曝される。従来のフォトレジスト法は、最大10〜40μmの高さの構造を可能にする。より高い構造が必要とされるならば、最大1mmの高さとなるより厚いフォトレジスト、例えばSU−8またはポリイミドが用いられ得る。
マスク上のパターンを、フォトレジストで覆われた基板に移した後に、基板は、湿式プロセスまたはドライプロセスを用いてエッチングされる。湿式エッチングでは、基板(マスクによって保護されない領域)は、液体相において化学的攻撃に曝される。エッチングプロセスに用いられる液体試薬は、エッチングが等方性であるか異方性であるかによって決まる。等方性エッチングは、一般に酸を用いて、三次元構造、例えば球形キャビティをガラスまたはシリコン内に形成する。異方性エッチングは、高度に塩基性の溶媒を用いて、平坦な表面、例えばウェルおよび管を形成する。シリコンへの湿式異方性エッチングにより、斜めのチャンネルプロファイルが生じる。
ドライエッチングは、気体相またはプラズマ相において、イオンによって基板を攻撃することを含む。ドライエッチング技術は、矩形のチャンネル断面および任意のチャンネル経路を生じさせるのに用いられ得る。使用され得る、物理的、化学的、物理化学的(例えばRIE)、および阻害剤により物理化学的な種々のタイプのドライエッチングが挙げられる。物理エッチングは、イオンを用いて、電界により加速させて基板の表面に衝突させることで、構造体を「エッチングする」。化学エッチングは、電界を使用して、化学種を基板の表面に移動させ得る。その後、化学種は、基板の表面と反応して、空隙および揮発性種を生産する。
ある実施形態において、堆積がマイクロファブリケーションに用いられる。堆積技術が、金属、絶縁体、半導体、ポリマー、タンパク質、および他の有機物質の層を生じさせるのに用いられ得る。ほとんどの堆積技術は、2つの主なカテゴリ:物理蒸着(PVD)および化学蒸着(CVD)の1つに該当する。PVDの1アプローチでは、基板標的が、保持気体(例えば蒸発によって生産され得る)と接触する。気体中の特定の種が、標的の表面に吸着して、堆積物を構成する層を形成する。マイクロエレクトロニクス作製業界で一般的に用いられる別のアプローチでは、堆積することになる材料を含有する標的が、アルゴンイオンビームまたは他の適切なエネルギー源を用いてスパッタリングされる。その後、スパッタリングされた材料は、マイクロフルイディック装置の表面上に堆積する。CVDでは、標的と接触している種が、表面と反応して、対象に化学結合する成分を形成する。他の堆積技術として:スピンコーティング、プラズマ溶射、プラズマ重合、ディップコーティング、キャスティング、およびラングミュア−ブロジェット膜堆積が挙げられる。プラズマ溶射では、直径が最大100μmの粒子を含有する微粉末が、キャリアガス中に懸濁される。粒子を含有する混合液は、プラズマジェットによって加速されて、加熱される。溶融した粒子は、基板上に飛び散って凍結し、高密度のコーティングが形成される。プラズマ重合は、有機蒸気を含有するプラズマからポリマー膜(例えばPMMA)を生産する。
マイクロチャンネル、マイクロキャビティ、および他の形状部分が、ガラス基板またはシリコン基板中にエッチングされると、エッチングされた形状部分は通常、マイクロフルイディック装置が「防水である」ことを確実にするために、密閉される。密閉する場合、全ての表面が互いに接触するように、接着が施され得る。密閉プロセスは、ガラス−シリコン、ガラス−ガラス、またはシリコン−シリコン間の結合用に開発されたような融合技術を含み得る。
陽極接合が、ガラスをシリコンに結合させるのに用いられ得る。電圧がガラスとシリコン間に印加されて、システムの温度は、表面の密閉を誘導するように高められる。電界および高温が、ガラス中のナトリウムイオンの、ガラス−シリコン界面への移動を誘導する。ガラス−シリコン界面中のナトリウムイオンは、シリコン表面と高度に反応性であり、表面間の固体化学結合を形成する。用いられるガラスのタイプは理想的に、シリコンに近い熱膨張係数を有するべきである(例えばPyrex Corning 7740)。
融着が、ガラス−ガラス密閉またはシリコン−シリコン密閉に用いられ得る。基板同士は最初に、高い接触力を加えることによって、一緒に押し付けられてアラインされる。一旦接触すると、原子の引力(主にファンデルワールス力)が基板をまとめて保持するので、炉中に入れられて、高温にてアニールされ得る。材料に応じて、用いられる温度は約600から1100℃に及ぶ。
ポリマー/プラスチック
いくつかの技術が、本発明の実施形態に従って、プラスチック基板をマイクロ機械加工するのに使用され得る。これらとして、レーザーアブレーション、ステレオリソグラフィ、酸素プラズマエッチング、粒子ジェットアブレーション、およびマイクロ電食がある。これらの技術のいくつかが、他の材料(ガラス、シリコン、セラミックスその他)を同様に成形するのに用いられ得る。
マイクロフルイディック装置の複数のコピーを生産するために、複製技術が使用される。そのような技術は最初に、複製されることになるパターンを含有するマスターまたは鋳型インサートを作製することを含む。マスターはその後、ポリマー複製プロセスによりポリマー基板を大量生産するのに用いられる。
複製プロセスでは、鋳型に含有されるマスターパターンは、ポリマー構造体上に複製される。ある実施形態において、ポリマーおよび硬化剤のミックスが、高温下で鋳型上に注がれる。ミックスを冷却した後に、ポリマーに鋳型のパターンが入った後、鋳型から取り出される。これ以外にも、プラスチックは、鋳型インサートを含有する構造体中に注入され得る。マイクロインジェクションでは、液体状態に加熱されたプラスチックが、鋳型中に注入される。分離および冷却の後、プラスチックは鋳型の形状を保持する。
シリコンベースの有機ポリマー、PDMS(ポリジメチルシロキサン)が、マイクロフルイディック構造体を形成する成形プロセスに使用され得る。その弾性特性のため、PDMSは、約5から500μmのマイクロチャンネルによく適している。PDMSの特定の特性が、マイクロフルイディックの目的に特に適している:
1)光学的に透明であるので、フローの視覚化が可能である;
2)適切な量の網状化剤(reticulating agent)と混合された場合のPDMSは、マイクロフルイディック連結を「防水」に維持するのを容易にするエラストマクオリティを有する;
3)膜を用いるバルブおよびポンプが、PDMSで作製され得る。これは、その弾性のためである;
4)無処理のPDMSは疎水性であり、酸素プラズマによる表面の酸化後に、または強塩基中への浸漬後に、一時的に親水性となる;酸化PDMSは、その表面がそれ自体、酸素プラズマに供される限り、それ自体で、ガラス、シリコン、またはポリエチレンに付着する。
5)PDMSは、気体を透過させる。液体によるチャンネルの充填は、管内に気泡がある場合ですら、容易にされる。なぜなら、気泡が材料から押し出されるからである。しかし、これはまた、非極性の有機溶媒も透過させる。
マイクロインジェクションは、広範なマイクロフルイディック設計に使用されるプラスチック基板を形成するのに用いられ得る。このプロセスでは、液体プラスチック材料が最初に、真空下および加圧下で、プラスチックのガラス転移温度よりも高い温度にて、鋳型中に注入される。その後、プラスチックは、ガラス転移温度未満に冷却される。鋳型を取り外した後に生じたプラスチック構造体は、鋳型のネガティブパターンを有する。
さらに別の複製技術が、ホットエンボシングであり、そこでは、ポリマー基板およびマスターが、ポリマーのガラス転移温度、Tg(PMMAまたはPCについて、およそ100〜180℃である)を越えて加熱される。その後、エンボシングマスターは、予め設定された圧縮力で基板に対してプレスされる。その後、システムは、Tg未満に冷却されてから、鋳型と基板が分離される。
典型的に、ポリマーは、特にミクロ構造体が高いアスペクト比および垂直な壁を含有する場合に、鋳型ツールからの分離と同時に最も高い物理力に供される。ポリマーミクロ構造体への損傷を回避するように、基板および鋳型ツールの材料特性が考慮され得る。これらの特性として:側壁粗さ、側壁角度、エンボシングマスターと基板間の化学界面、および温度係数が挙げられる。エンボシングツールの高い側壁粗さは、ポリマーミクロ構造体に損傷を与えるおそれがある。なぜなら、分離プロセス中のツールと構造体間の摩擦力に、粗さが寄与するからである。摩擦力がポリマーの局所的な引張り強度よりも大きいならば、ミクロ構造体は破壊され得る。ツールと基板間の摩擦は、垂直壁を有するミクロ構造体において重要となり得る。マスターと基板間の化学界面もまた、重要となり得る。エンボシングプロセスはシステムを高温に曝すので、マスター−基板界面中に化学結合が形成され得る。この界面結合が、分離プロセスに干渉するおそれがある。ツールと基板との熱膨張係数の差異により、更なる摩擦力が生じ得る。
種々の技術を使用して、先で言及される複製プロセスによりプラスチック構造体を複製するのに用いられるパターンを含有する鋳型、エンボシングマスター、および他のマスターが形成され得る。そのような技術の例として、LIGA(以下に記載される)、アブレーション技術、および種々の他の機械的加工技術が挙げられる。また、類似の技術が、マスク、プロトタイプ、およびマイクロフルイディック構造体を小量で生じさせるのに用いられ得る。鋳型ツールに用いられる材料として、金属、金属合金、シリコン、および他の硬質材料が挙げられる。
ミクロ構造体を基板上に直接、またはマスクの使用を介して形成するのに、レーザーアブレーションが使用され得る。この技術は、典型的には赤外線と紫外線間の波長を有する、精密誘導レーザーを用いる。レーザーアブレーションは、ガラス基板および金属基板上で、そしてポリマー基板上で実行され得る。レーザーアブレーションは、固定されたレーザービームに対して基板表面を通すように移動させて、または固定された基板に対してビームを移動させて、実行され得る。種々のマイクロウェル、管、および高アスペクト構造体が、レーザーアブレーションで作製され得る。
ステンレス鋼等のある材料は、非常に耐久性のある鋳型インサートを作製し、マイクロ機械加工されて、10μmの範囲にまで小さくされた構造体が形成され得る。マイクロ機械加工用の種々の他のマイクロ機械加工技術が存在し、これにはμ放電加工(μ−EDM)、μミリング、焦束イオンビームミリングが挙げられる。μ−EDMは、材料を処理する際に、三次元構造体の作製を可能にする。μ−EDMでは、電極(陰極ツール)とワークピース(陽極)間で発生する高周波放電によって、材料が取り除かれる。ワークピースおよびツールは双方とも、誘電流体中に沈められる。この技術は、比較的粗い表面を生産するが、材料および幾何構造体に関して、可撓性を提供する。
電気メッキが、例えばニッケル合金から、複製鋳型ツール/マスターを作製するのに使用され得る。プロセスは、フォトリソグラフィステップで始まり、電気メッキについて定義された構造体にフォトレジストが用いられる。電気メッキされることになる領域は、レジストを含まない。アスペクト比が高く、かつ粗さ要求事項が低い構造体について、LIGAが、電気メッキ形態を生産するのに用いられ得る。LIGAは、Lithographic(リソグラフィ)、Galvanoformung(電気メッキ)、Abformung(成形)のドイツ語の頭字語である。LIGAの1アプローチでは、厚いPMMA層が、シンクロトロン源からのX線に曝される。LIGAによって生じる表面は、粗さが低く(およそ10nm RMS)、生じたニッケルツールは、ほとんどのポリマーについて、表面の化学的性質が良好である。
ガラス装置およびシリコン装置と同様に、ポリマーマイクロフルイディック装置は、機能的になり得る前に閉じられなければならない。マイクロフルイディック装置用の結合プロセスにおける共通の問題として、チャンネルの封鎖およびチャンネルの物理的パラメータの変化が挙げられる。積層が、プラスチックマイクロフルイディック装置を密閉するのに用いられる一方法である。一積層プロセスでは、溶融接着層(典型的には5〜10μm)でコーティングされたPETホイル(約30μm)が、ミクロ構造体上に、加熱ローラでロールされる。このプロセスによって、蓋ホイルが、チャンネルプレート上に密閉される。いくつかの研究グループは、界面での重合による結合を報告しており、これによって構造体は加熱されて、力が両側に加えられて、チャンネルが閉じる。しかし、加わる力が過剰であり、ミクロ構造体に損傷を与えるおそれがある。可逆的結合技術および不可逆的結合技術の双方が、プラスチック−プラスチック界面およびプラスチック−ガラス界面について存在する。可逆的密閉の一方法は、最初に、PDMS基板およびガラスプレート(またはPDMSの第2のピース)をメタノールで徹底的にリンスすることと、乾燥させる前に表面を互いに接触させることとを含む。その後、ミクロ構造体は、65℃のオーブン内で10分間、乾燥される。クリーンルームはこのプロセスに必要とされない。不可逆的密閉が、最初にピースをメタノールで徹底的にリンスしてから、窒素流で別々に乾燥させることによって、達成される。その後、2つのピースは、空気プラズマクリーナ内に置かれて、高電力にて約45秒間、酸化される。その後、基板は互いに接触して、不可逆的密閉が自発的に形成される。
他の利用可能な技術として、レーザー溶接および超音波溶接が挙げられる。レーザー溶接において、レーザーによって生じる熱によりポリマーが相互に結合する。この方法は、マイクロポンプの作製に用いられてきた。超音波溶接は、一部の用途に使用され得る別の結合技術である。
本明細書中に記載される核酸増幅技術は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅技術に関して頻繁に記載される一方、そのような記載は限定することが意図されない点が留意されるべきである。ある実施形態において、非PCR増幅技術が使用され得、例えば、種々の等温核酸増幅技術;例えば、リアルタイム鎖置換増幅(SDA)、ローリングサークル増幅(RCA)、および多置換増幅(MDA)がある。したがって、技術的に実行可能な場合はいつでも、1つまたは複数の適切な非PCR増幅技術、例えば、1つまたは複数の等温核酸増幅技術が、本明細書中に記載されるPCR増幅技術の1つまたは複数と置換されてよい。
PCR増幅モジュールに関して、そのようなモジュールに、少なくとも、核酸を増幅するための構築ブロック(例えば、十分な濃度の4つのヌクレオチド)、プライマー、ポリメラーゼ(例えばTaq)、および適切な温度制御プログラムを提供することが必須となろう。ポリメラーゼおよびヌクレオチド構築ブロックは、増幅モジュールへの外部ポートを介して提供される、または上流の源から提供されるバッファ溶液中に、与えられ得る。ある実施形態において、ソーティングモジュールに提供されるバッファ流は、核酸増幅用の全原料の一部を含有する。特にPCRについて、高い反応効率を達成するために、反応混合液の正確な温度制御が極めて重要である。オンチップ熱制御の一方法は、定義された位置のモジュールの内側で流体を加熱するのに電極が用いられるジュール加熱である。流体導電率が、電力制御用の温度フィードバックとして用いられ得る。
ある態様において、PCRミックスを含有する多重エマルジョン微小滴および/またはGUVは、PCRに有効な条件下で小滴をインキュベートするチャンネル中に流され得る。チャンネル中に微小滴を流すのに、PCRに有効な温度に維持される種々の温度帯を蛇行するチャンネルが関与し得る。そのようなチャンネルは、例えば、2つ以上の温度帯を循環してよく、少なくとも1つの温度帯は、約65℃に維持され、少なくとも1つの温度帯は、約95℃に維持される。微小滴がそのような温度帯を移動するにつれ、PCRに必要とされる温度が循環する。温度帯の正確な数、および各温度帯の温度は、所望のPCR増幅を達成するように、当業者によって容易に決定され得る。
他の実施形態において、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVをインキュベートするのに、Megadroplet Arrayの使用が関与し得る。そのような装置では、アレイがチャンネルからなり、チャンネル天井には、直径約25μmの何百万もの環状トラップが入り込んでいる。分配プレートを用いて、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVがトラッピングチャンネル中に分配される(大きなチャンネルが、トラッピングチャンネルの入口に連結している)。トラッピングチャンネルと比較して分配チャンネルのサイズが大きいために(多重エマルジョン微小滴および/またはGUVのトラッピングチャンネルの高さおよび幅が約15×100μmしかないのと比較して、分配チャンネルは約100×500μmである)、分配チャンネルの流体力学的抵抗は、トラッピングチャンネルよりも約1500倍低い;このことが、トラッピングチャンネルの充填開始前に、分配チャンネルが多重エマルジョン微小滴および/またはGUVで満たされて、トラッピングチャンネル中への多重エマルジョン微小滴および/またはGUVの分配すら可能にすることを確実にする。滴がトラッピングチャンネル中に流れ込む場合、わずかにパンケーキ形状になる。なぜなら、チャンネルの鉛直高さは、滴よりも15μmまたは10μm低いからである。多重エマルジョン微小滴および/またはGUVがトラップに近づくと、その界面は、より大きな、エネルギー的により有利な曲率半径をとる。その表面エネルギーを最小限に抑えるように、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVはトラップを完全に満たして、最も低い、エネルギー的に最も有利な平均半径曲率をとることが可能となる。トラップが多重エマルジョン微小滴および/またはGUVによって占有された後、他のいかなる多重エマルジョン微小滴および/またはGUVも入ることができない。なぜなら、トラップは、1つの多重エマルジョン微小滴および/またはGUVのみにフィットする大きさであるからである;更なる多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが下流に流れを変えて、直面した第1の空のトラップを占有する。最密充填エマルジョンを用いてアレイが満たされるので、全てのトラップは、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVによって占有されることとなる。なぜならこれが、低いフロー条件下でエネルギー的に最も有利な状態であるからである。小滴アレイが満たされた後、油が注入されて過剰な滴が取り除かれて、アレイはサーマルサイクルにかけられて画像化される。
装置のトラップを満たすのに種々の異なる方法が用いられ得る。例えば、浮力効果および遠心分離を用いて、装置を地球の重力場に対して反転させることによって、トラップを充填し、そして空にすることもできる。というのも、小滴密度が、フルオロカーボンキャリア油の63%であるからである。すなわち、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVが油相よりも重いならば、ウェルは、装置の「床」中にインプリントされ得るので、エマルジョンがその上に流されると、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVはウェル中に沈むこととなる。エマルジョンの流量は最適化するように調整され得、滴サイズは、ウェルとおおよそ同じサイズにされることとなるので、ウェルは一度に単一の滴にのみフィットし得る。他の態様において、多重エマルジョン微小滴および/またはGUVはまた、またはその代わりとして、ウェルのない大きなチャンバ内に保存され得る。
装置は、Peltierプレート、ヒートシンク、および制御コンピュータからなるヒータを用いて、サーマルサイクリングを達成し得る。Peltierプレートは、印加電流をコントロールすることによって、室温を超えて、または室温未満にチップを加熱および/または冷却することができる。制御され、かつ再現性がある温度を確実にするために、コンピュータは、一体化した温度プローブを用いてアレイの温度を監視して、必要に応じて加熱冷却するように印加電流を調整する。金属(例えば銅)プレートが、均一に加熱し、かつ過剰な熱を冷却サイクル中に放散することができ、1分の履行下で95℃から60℃までの冷却を可能とする。微小滴を画像化するために、ある実施形態は、スキャナベッドを組み込んでよい。ある態様において、スキャナベッドは、Canoscan 9000Fスキャナベッドである。
標的成分から核酸を効果的に増幅させるために、マイクロフルイディックシステムは、増幅モジュールにサンプルを提供する前に、遊離核酸に細胞溶解モジュールまたはウイルスタンパク質コート破壊モジュールを提供することを含み得る。細胞溶解モジュールは、細胞溶解をもたらす化学的、熱的、および/または機械的手段に依存し得る。細胞膜は脂質二重層からなるので、界面活性剤を含有する溶解バッファが、脂質膜を可溶化することができる。典型的には、溶解バッファは、外部ポートを介して溶解チャンバに直接導入されることとなるので、細胞は、ソーティングまたは他の上流のプロセス中に、早期に溶解されない。細胞小器官の完全性が必須である場合、化学的溶解法が不適切である場合がある。剪断および摩耗による細胞膜の機械的崩壊が、ある用途において適切である。機械的技術に基づく溶解モジュールが、モジュールに入る細胞の貫通、剪断、侵食その他をもたらすような種々の幾何学形状部分を使用してよい。他のタイプの機械的破壊、例えば音響技術もまた、適切な溶解物を産出し得る。さらに、熱エネルギーもまた、細胞、例えば細菌、酵母、および胞子を溶解させるのに用いられ得る。加熱により細胞膜は破壊されて、細胞内物質が放出される。マイクロフルイディックシステムにおける細胞分画を可能にするために、溶解モジュールもまた、動電学的技術またはエレクトロポーレーションを使用し得る。エレクトロポーレーションは、原形質膜における変化を誘導して膜貫通能を破壊する外部電界の印加によって、細胞膜に一時的または永続的な孔を生じさせる。マイクロフルイディックエレクトロポーレーション装置において、膜は永久的に破壊され得、細胞膜の孔は、放出される所望の細胞内物質を放出するように維持され得る。
本開示の例示的な非限定的態様
先に記載される本主題の、実施形態を含む態様が、単独でも、1つまたは複数の他の態様もしくは実施形態と組み合わされても、有益であり得る。前述の記載を制限することがない、1〜69の番号を付した、本開示の非限定的な態様が、以下に記載される。本開示を読めば当業者に明らかなように、個々に番号を付した各態様が用いられてもよいし、先行する、または後に続く、個々に番号を付した態様の何れかと組み合わされてもよい。これは、態様のそのような全組合せを支持することが意図されており、以下に明示的に記載される態様の組合せに限定されない:
1.核酸および増幅試薬を、多重エマルジョン微小滴内に封入するステップであって、前記多重エマルジョン微小滴が、不混和性の殻によって囲まれている第1の混和性相流体を含み、前記多重エマルジョン微小滴が、第2の混和性相キャリア流体内に位置を定められる、ステップと;
前記多重エマルジョン微小滴を、前記核酸の増幅をもたらすのに十分な増幅条件に供するステップと;
前記核酸の前記増幅に由来する増幅産物を検出するステップと
を含む核酸増幅方法。
2.前記第2の混和性相キャリア流体が、緩衝水性相キャリア流体である、1に記載の方法。
3.前記第1の混和性相流体および前記第2の混和性相流体が、同じである、1に記載の方法。
4.前記多重エマルジョン微小滴を増幅条件に供するステップが、前記多重エマルジョン微小滴をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件に供するステップを含む、1から3の何れか一つに記載の方法。
5.前記多重エマルジョン微小滴を増幅条件に供するステップが、前記多重エマルジョン微小滴を等温増幅条件に供するステップを含む、1から3の何れか一つに記載の方法。
6.前記等温増幅条件が、ループ媒介等温増幅(LAMP)、鎖置換増幅(SDA)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、およびニッキング酵素増幅反応(NEAR)から選択される、5に記載の方法。
7.増幅後の前記増幅産物を検出可能に標識するステップを含む、1から6の何れか一つに記載の方法。
8.前記増幅試薬が、検出可能に標識されたプライマーおよび/またはプローブを含む、1から6の何れか一つに記載の方法。
9.前記増幅産物を蛍光標識で検出可能に標識するステップと、前記多重エマルジョン微小滴を、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を介してソートするステップとを含む、1から8の何れか一つに記載の方法。
10.前記第2の混和性相流体の組成を調整することによって前記第1の混和性相流体の組成を調整するステップを含む、1から9の何れか一つに記載の方法。
11.検出可能な標識を前記第2の混和性相キャリア流体に加えることによって、前記増幅産物を検出可能に標識するステップを含み、前記検出可能な標識が、前記第2の混和性相キャリア流体から、前記不混和性の殻を通して、前記第1の混和性相流体中に拡散する、1から10の何れか一つに記載の方法。
12.前記多重エマルジョン微小滴が、第2の多重エマルジョン微小滴であり、前記封入するステップが、前記核酸を第1の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記増幅試薬および前記第1の多重エマルジョン微小滴を、前記第2の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記第1の多重エマルジョン微小滴を破裂させることによって、前記核酸を前記増幅試薬と接触させるステップとを含む、1から11の何れか一つに記載の方法。
13.前記多重エマルジョン微小滴が、第2の多重エマルジョン微小滴であり、前記封入するステップが、前記増幅試薬を第1の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記核酸および前記第1の多重エマルジョン微小滴を、前記第2の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記第1の多重エマルジョン微小滴を破裂させることによって、前記核酸を前記増幅試薬と接触させるステップとを含む、1から11の何れか一つに記載の方法。
14.前記多重エマルジョン微小滴が、第1の多重エマルジョン微小滴であり、前記方法が、試薬を前記第1の多重エマルジョン微小滴に加えるステップを含み、前記加えるステップが、前記第1の多重エマルジョン微小滴を、前記試薬を含む第2の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記第2の多重エマルジョン微小滴内の前記第1の多重エマルジョン微小滴を破裂させて、前記試薬を前記第1の多重エマルジョン微小滴の内容物と接触させるステップとを含む、1から11の何れか一つに記載の方法。
15.前記多重エマルジョン微小滴が、第2の多重エマルジョン微小滴であり、前記方法が、試薬を前記第2の多重エマルジョン微小滴に加えるステップを含み、前記加えるステップが、前記試薬を含む第1の多重エマルジョン微小滴を、前記第2の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記第2の多重エマルジョン微小滴内の前記第1の多重エマルジョン微小滴を破裂させて、前記試薬を前記第2の多重エマルジョン微小滴の内容物と接触させるステップとを含む、1から11の何れか一つに記載の方法。
16.標的核酸を含有することが疑われる複数の核酸を、増幅試薬と共に、複数の多重エマルジョン微小滴内に封入して、各多重エマルジョン微小滴が、その中に封入された増幅試薬および0または1つの核酸を含むようにするステップであって、各多重エマルジョン微小滴が、不混和性の殻によって囲まれている第1の混和性相流体を含み、各多重エマルジョン微小滴が、第2の混和性相キャリア流体内に位置を定められる、ステップと;
前記多重エマルジョン微小滴を、存在する場合に前記標的核酸の増幅をもたらすのに十分な増幅条件に供するステップと;
存在する場合に、前記標的核酸の前記増幅に由来する増幅産物を検出するステップと
を含む核酸増幅方法。
17.前記第2の混和性相キャリア流体が、緩衝水性相キャリア流体である、16に記載の方法。
18.前記第1の混和性相流体および前記第2の混和性相流体が、同じである、16に記載の方法。
19.前記多重エマルジョン微小滴を増幅条件に供するステップが、前記多重エマルジョン微小滴をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件に供するステップを含む、16から18の何れか一つに記載の方法。
20.前記多重エマルジョン微小滴を増幅条件に供するステップが、前記多重エマルジョン微小滴を等温増幅条件に供するステップを含む、16から18の何れか一つに記載の方法。
21.前記等温増幅条件が、ループ媒介等温増幅(LAMP)、鎖置換増幅(SDA)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、およびニッキング酵素増幅反応(NEAR)から選択される、20に記載の方法。
22.存在する場合に、増幅後の前記増幅産物を検出可能に標識するステップを含む、16から21の何れか一つに記載の方法。
23.前記増幅試薬が、検出可能に標識されたプライマーおよび/またはプローブを含む、16から21の何れか一つに記載の方法。
24.存在する場合に前記増幅産物を蛍光標識で検出可能に標識するステップと、存在する場合に、前記標的核酸を含有する多重エマルジョン微小滴を同定するために、前記多重エマルジョン微小滴を、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を介してソートするステップとを含む、16から23の何れか一つに記載の方法。
25.前記第2の混和性相キャリア流体の組成を調整することによって前記第1の混和性相流体の組成を調整するステップを含む、16から24の何れか一つに記載の方法。
26.検出可能な標識を前記第2の混和性相キャリア流体に加えることによって、存在する場合に前記増幅産物を検出可能に標識するステップを含み、前記検出可能な標識が、前記第2の混和性相キャリア流体から、前記不混和性の殻を通して、前記第1の混和性相流体中に拡散する、16から25の何れか一つに記載の方法。
27.前記多重エマルジョン微小滴が、第2の多重エマルジョン微小滴であり、前記封入するステップが、前記複数の核酸を複数の第1の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記増幅試薬および前記第1の多重エマルジョン微小滴を、前記第2の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記第2の多重エマルジョン微小滴内で前記第1の多重エマルジョン微小滴を破裂させることによって、前記核酸を前記増幅試薬と接触させるステップとを含む、16から26の何れか一つに記載の方法。
28.前記多重エマルジョン微小滴が、第2の多重エマルジョン微小滴であり、前記封入するステップが、前記増幅試薬を第1の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記複数の核酸および前記第1の多重エマルジョン微小滴を、前記第2の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記第2の多重エマルジョン微小滴内で前記第1の多重エマルジョン微小滴を破裂させることによって、前記核酸を前記増幅試薬と接触させるステップとを含む、16から26の何れか一つに記載の方法。
29.前記多重エマルジョン微小滴が、第1の多重エマルジョン微小滴であり、前記方法が、試薬を前記第1の多重エマルジョン微小滴に加えるステップを含み、前記加えるステップが、前記第1の多重エマルジョン微小滴を、前記試薬を含む第2の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記第2の多重エマルジョン微小滴内の前記第1の多重エマルジョン微小滴を破裂させて、前記試薬を前記第1の多重エマルジョン微小滴の内容物と接触させるステップとを含む、16から26の何れか一つに記載の方法。
30.前記多重エマルジョン微小滴が、第2の多重エマルジョン微小滴であり、前記方法が、試薬を前記第2の多重エマルジョン微小滴に加えるステップを含み、前記加えるステップが、前記試薬を含む第1の多重エマルジョン微小滴を、前記第2の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記第2の多重エマルジョン微小滴内の前記第1の多重エマルジョン微小滴を破裂させて、前記試薬を前記第2の多重エマルジョン微小滴の内容物と接触させるステップとを含む、16から26の何れか一つに記載の方法。
31.核酸および増幅試薬の混和性相流体溶液を、マイクロフルイディック装置のチャンネル内に流すステップと;
核酸および増幅試薬の前記混和性相流体溶液を、不混和性相流体と接触させるステップであって、核酸および増幅試薬の前記混和性相流体溶液を、前記不混和性相流体と接触させることで、前記不混和性相流体によって囲まれている混和性相微小滴が形成される、ステップと;
前記不混和性相流体によって囲まれている前記混和性相微小滴を、マイクロフルイディック装置のチャンネル内に流すステップと;
前記不混和性相流体によって囲まれている前記混和性相微小滴を、混和性相キャリア流体と接触させるステップであって、前記不混和性相流体によって囲まれている前記混和性相微小滴を、前記混和性相キャリア流体と接触させることで、多重エマルジョン微小滴が形成され、各多重エマルジョン微小滴が、前記不混和性相流体によって囲まれている混和性相微小滴を含み、前記不混和性相流体が、前記混和性相キャリア流体によって囲まれている、ステップと;
前記多重エマルジョン微小滴を、核酸の前記混和性相流体溶液中に存在する場合に標的核酸の増幅をもたらすのに十分な増幅条件に供するステップと;
核酸の前記混和性相流体溶液中に存在する場合に、前記標的核酸の前記増幅に由来する増幅産物を検出するステップと
含む核酸増幅方法。
32.前記混和性相キャリア流体が、緩衝水性相キャリア流体である、31に記載の方法。
33.前記混和性相流体溶液の前記混和性相流体および前記混和性相キャリア流体が、同じである、31に記載の方法。
34.前記多重エマルジョン微小滴を増幅条件に供するステップが、前記多重エマルジョン微小滴をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件に供するステップを含む、31から33の何れか一つに記載の方法。
35.前記多重エマルジョン微小滴を増幅条件に供するステップが、前記多重エマルジョン微小滴を等温増幅条件に供するステップを含む、31から33の何れか一つに記載の方法。
36.前記等温増幅条件が、ループ媒介等温増幅(LAMP)、鎖置換増幅(SDA)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、およびニッキング酵素増幅反応(NEAR)から選択される、35に記載の方法。
37.増幅後の前記増幅産物を検出可能に標識するステップを含む、31から36の何れか一つに記載の方法。
38.前記増幅試薬が、検出可能に標識されたプライマーおよび/またはプローブを含む、31から36の何れか一つに記載の方法。
39.前記増幅産物を蛍光標識で検出可能に標識するステップと、前記多重エマルジョン微小滴を、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を介してソートするステップとを含む、31から38の何れか一つに記載の方法。
40.前記混和性相キャリア流体の組成を調整することによって前記混和性相流体溶液の組成を調整するステップを含む、31から39の何れか一つに記載の方法。
41.検出可能な標識を前記混和性相キャリア流体に加えることによって、前記増幅産物を検出可能に標識するステップを含み、前記検出可能な標識が、前記混和性相キャリア流体から、前記不混和性相流体を通して、前記混和性相流体溶液中に拡散する、31から40の何れか一つに記載の方法。
42.前記多重エマルジョン微小滴が、第1の多重エマルジョン微小滴であり、前記方法が、試薬を前記第1の多重エマルジョン微小滴に加えるステップを含み、前記加えるステップが、前記第1の多重エマルジョン微小滴を、前記試薬を含む第2の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記第2の多重エマルジョン微小滴内の前記第1の多重エマルジョン微小滴を破裂させて、前記試薬を前記第1の多重エマルジョン微小滴の内容物と接触させるステップとを含む、31から41の何れか一つに記載の方法。
43.前記多重エマルジョン微小滴が、第2の多重エマルジョン微小滴であり、前記方法が、試薬を前記第2の多重エマルジョン微小滴に加えるステップを含み、前記加えるステップが、前記試薬を含む第1の多重エマルジョン微小滴を、前記第2の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記第2の多重エマルジョン微小滴内の前記第1の多重エマルジョン微小滴を破裂させて、前記試薬を前記第2の多重エマルジョン微小滴の内容物と接触させるステップとを含む、31から41の何れか一つに記載の方法。
44.核酸および増幅試薬の混和性相流体溶液を、マイクロフルイディック装置のチャンネル内に流すステップと;
核酸および増幅試薬の前記混和性相流体溶液を、不混和性相流体と接触させるステップであって、核酸および増幅試薬の前記混和性相流体溶液を、前記不混和性相流体と接触させることで、前記不混和性相流体によって囲まれている混和性相微小滴が形成され、各混和性相微小滴が、その中に封入された増幅試薬および0または1つの核酸を含む、ステップと;
前記不混和性相流体によって囲まれている前記混和性相微小滴を、マイクロフルイディック装置のチャンネル内に流すステップと;
前記不混和性相流体によって囲まれている前記混和性相微小滴を、混和性相キャリア流体と接触させるステップであって、前記不混和性相流体によって囲まれている前記混和性相微小滴を、前記混和性相キャリア流体と接触させることで、多重エマルジョン微小滴が形成され、各多重エマルジョン微小滴が、前記不混和性相流体によって囲まれている混和性相微小滴を含み、前記不混和性相流体が、前記混和性相キャリア流体によって囲まれている、ステップと;
前記多重エマルジョン微小滴を、核酸の前記混和性相溶液中に存在する場合に標的核酸の増幅をもたらすのに十分な増幅条件に供するステップと;
核酸の前記混和性相溶液中に存在する場合に、前記標的核酸の前記増幅に由来する増幅産物を検出するステップと
を含む核酸増幅方法。
45.前記混和性相キャリア流体が、緩衝水性相キャリア流体である、44に記載の方法。
46.前記混和性相流体溶液の前記混和性相流体および前記混和性相キャリア流体が、同じである、44に記載の方法。
47.前記多重エマルジョン微小滴を増幅条件に供するステップが、前記多重エマルジョン微小滴をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件に供するステップを含む、44から46の何れか一つに記載の方法。
48.前記多重エマルジョン微小滴を増幅条件に供するステップが、前記多重エマルジョン微小滴を等温増幅条件に供するステップを含む、44から46の何れか一つに記載の方法。
49.前記等温増幅条件が、ループ媒介等温増幅(LAMP)、鎖置換増幅(SDA)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、およびニッキング酵素増幅反応(NEAR)から選択される、48に記載の方法。
50.増幅後の前記増幅産物を検出可能に標識するステップを含む、44から49の何れか一つに記載の方法。
51.前記増幅試薬が、検出可能に標識されたプライマーおよび/またはプローブを含む、44から49の何れか一つに記載の方法。
52.前記増幅産物を蛍光標識で検出可能に標識するステップと、前記多重エマルジョン微小滴を、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を介してソートするステップとを含む、44から51の何れか一つに記載の方法。
53.前記混和性相キャリア流体の組成を調整することによって前記混和性相流体溶液の組成を調整するステップを含む、44から52の何れか一つに記載の方法。
54.検出可能な標識を前記混和性相キャリア流体に加えることによって、前記増幅産物を検出可能に標識するステップを含み、前記検出可能な標識が、前記混和性相キャリア流体から、前記不混和性相流体を通して、前記混和性相流体溶液中に拡散する、44から53の何れか一つに記載の方法。
55.前記多重エマルジョン微小滴が、第1の多重エマルジョン微小滴であり、前記方法が、試薬を前記第1の多重エマルジョン微小滴に加えるステップを含み、前記加えるステップが、前記第1の多重エマルジョン微小滴を、前記試薬を含む第2の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記第2の多重エマルジョン微小滴内の前記第1の多重エマルジョン微小滴を破裂させて、前記試薬を前記第1の多重エマルジョン微小滴の内容物と接触させるステップとを含む、44から54の何れか一つに記載の方法。
56.前記多重エマルジョン微小滴が、第2の多重エマルジョン微小滴であり、前記方法が、試薬を前記第2の多重エマルジョン微小滴に加えるステップを含み、前記加えるステップが、前記試薬を含む第1の多重エマルジョン微小滴を、前記第2の多重エマルジョン微小滴内に封入するステップと、前記第2の多重エマルジョン微小滴内の前記第1の多重エマルジョン微小滴を破裂させて、前記試薬を前記第2の多重エマルジョン微小滴の内容物と接触させるステップとを含む、44から54の何れか一つに記載の方法。
57.核酸の混和性相流体溶液を、マイクロフルイディック装置のチャンネル内に流すステップと;
核酸の前記混和性相流体溶液を不混和性相流体と接触させるステップであって、核酸の前記混和性相流体溶液を前記不混和性相流体と接触させることで、前記不混和性相流体によって囲まれている混和性相微小滴が形成されるステップと;
前記不混和性相流体によって囲まれている前記混和性相微小滴を、マイクロフルイディック装置のチャンネル内に流すステップと;
前記不混和性相流体によって囲まれている前記混和性相微小滴を、増幅試薬を含む混和性相キャリア流体と接触させるステップであって、前記不混和性相流体によって囲まれている前記混和性相微小滴を、増幅試薬を含む前記混和性相キャリア流体と接触させることで、多重エマルジョン微小滴が形成され、各多重エマルジョン微小滴が、前記不混和性相流体によって囲まれている混和性相微小滴を含み、前記不混和性相流体が、前記混和性相キャリア流体によって囲まれ、増幅試薬が、前記混和性相キャリア流体から、前記不混和性相流体を通して、前記混和性相微小滴中に拡散する、ステップと;
前記多重エマルジョン微小滴を、核酸の前記混和性相流体溶液中に存在する場合に標的核酸の増幅をもたらすのに十分な増幅条件に供するステップと;
核酸の前記混和性相流体溶液中に存在する場合に、前記標的核酸の前記増幅に由来する増幅産物を検出するステップと
を含む核酸増幅方法。
58.細胞を多重エマルジョン微小滴内に封入するステップであって、前記多重エマルジョン微小滴が、不混和性の殻によって囲まれている第1の混和性相流体を含み、前記多重エマルジョン微小滴が、第2の混和性相キャリア流体内に位置を定められる、ステップと;
前記多重エマルジョン微小滴を、前記多重エマルジョン微小滴中での前記細胞の溶解をもたらすのに十分な条件に供するステップと;
前記多重エマルジョン微小滴を、核酸増幅に阻害効果を及ぼす1つまたは複数の物質を不活化しまたは取り除くのに十分な条件に供するステップと;
核酸増幅試薬を前記多重エマルジョン微小滴中に導入するステップと;
前記多重エマルジョン微小滴を、存在する場合に標的核酸の増幅をもたらすのに十分な増幅条件に供するステップと;
存在する場合に、前記標的核酸の前記増幅に由来する増幅産物を検出するステップと
を含む核酸増幅方法。
59.前記増幅試薬を前記多重エマルジョン微小滴中に導入する前記ステップが、前記増幅試薬を前記第2の混和性相キャリア流体中に導入するステップを含み、前記増幅試薬が、前記第2の混和性相キャリア流体から、前記不混和性の殻を通して、前記第1の混和性相流体中に拡散する、58に記載の方法。
60.前記多重エマルジョン微小滴が、複数の細胞を含まない、58に記載の方法。
61.存在する場合に前記増幅産物を蛍光標識で検出可能に標識するステップと、前記多重エマルジョン微小滴を、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を介してソートするステップとを含む、58から60の何れか一つに記載の方法。
62.第1の混和性相流体中の細胞を、マイクロフルイディック装置のチャンネル内に流すステップと;
前記第1の混和性相流体を、不混和性相流体と接触させるステップであって、前記第1の混和性相流体を前記不混和性相流体と接触させることで、前記細胞を含み、かつ前記不混和性相流体によって囲まれている混和性相微小滴が形成される、ステップと;
前記不混和性相流体によって囲まれている前記混和性相微小滴を、マイクロフルイディック装置のチャンネル内に流すステップと;
前記不混和性相流体によって囲まれている前記混和性相微小滴を、第2の混和性相流体と接触させるステップであって、前記不混和性相流体によって囲まれている前記混和性相微小滴を、前記第2の混和性相流体と接触させることで、前記不混和性相流体によって囲まれている前記混和性相微小滴を含む多重エマルジョン微小滴が形成され、前記不混和性相流体が、前記第2の混和性相流体によって囲まれている、ステップと;
前記多重エマルジョン微小滴を、前記多重エマルジョン微小滴中での前記細胞の溶解をもたらすのに十分な条件に供するステップと;
前記多重エマルジョン微小滴を、核酸増幅に阻害効果を及ぼす1つまたは複数の物質を不活化しまたは取り除くのに十分な条件に供するステップと;
核酸増幅試薬を前記多重エマルジョン微小滴中に導入するステップと;
前記多重エマルジョン微小滴を、存在する場合に標的核酸の増幅をもたらすのに十分な増幅条件に供するステップと;
存在する場合に、前記標的核酸の前記増幅に由来する増幅産物を検出するステップと
を含む核酸増幅方法。
63.前記増幅試薬を前記多重エマルジョン微小滴中に導入する前記ステップが、前記増幅試薬を前記第2の混和性相流体中に導入するステップを含み、前記増幅試薬が、前記第2の混和性相流体から、前記不混和性相流体を通して、第1の混和性相流体中に拡散する、62に記載の方法。
64.前記多重エマルジョン微小滴が、複数の細胞を含まない、62に記載の方法。
65.存在する場合に前記増幅産物を蛍光標識で検出可能に標識するステップと、前記多重エマルジョン微小滴を、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を介してソートするステップとを含む、62から64の何れか一つに記載の方法。
66.混和性相流体を含むサンプル受入れチャンネルと;
前記サンプル受入れチャンネルと流体連通する一重エマルジョン小滴メーカーであって、不混和性相キャリア流体を含む1つまたは複数のチャンネルを備え、前記不混和性相キャリア流体を、前記混和性相流体と接触させて、一重エマルジョン小滴を形成する一重エマルジョン小滴メーカーと;
前記一重エマルジョン小滴メーカーと流体連通する二重エマルジョン小滴メーカーであって、混和性相キャリア流体を含む1つまたは複数のチャンネルを備え、前記混和性相キャリア流体を、前記一重エマルジョン小滴と接触させて、二重エマルジョン小滴を形成する二重エマルジョン小滴メーカーと;
前記二重エマルジョン小滴メーカーと流体連通するサーマルサイクラーであって、前記二重エマルジョン小滴を受け入れて、前記二重エマルジョン小滴をサーマルサイクルにかける、サーマルサイクラーと
を備えるマイクロフルイディック装置。
67.検出器を備え、前記検出器が、前記二重エマルジョン小滴における核酸増幅産物の有無を検出する、64に記載のマイクロフルイディック装置。
68.前記サーマルサイクラーと流体連通するマイクロフルイディックソーターを備える、66または68に記載のマイクロフルイディック装置。
69.64から68の何れか一つに記載のマイクロフルイディック装置、および蛍光活性化細胞ソーター(FACS)を備えるシステムであって、前記FACSが、前記二重エマルジョン小滴を受け入れて、前記二重エマルジョン小滴における核酸増幅産物の有無に基づいて前記二重エマルジョン小滴をソートする、システム。
先に記載される開示から理解され得るように、本開示は多種多様な用途を有する。したがって、以下の実施例は、本発明を達成し、かつ用いる手順の完全な開示および記載を当業者に提供するために提案され、発明者らが発明とみなすものの範囲を制限することが意図されるものでもないし、以下の実験が、実行される全実験または唯一の実験であると述べることが意図されるものでもない。当業者は、本質的に類似した結果が得られるように、種々の重要でないパラメータが変更または修飾され得ることを、容易に認識するであろう。ゆえに、以下の実施例は、本発明を達成し、かつ用いる手順の完全な開示および記載を当業者に提供するために提案され、発明者らが発明とみなすものの範囲を制限することが意図されるものでもないし、以下の実験が、実行される全実験または唯一の実験であると述べることが意図されるものでもない。用いられる数字(例えば、量、温度その他)に関する精度を確実にする努力がなされたが、実験の誤りおよび偏りがいくらか占めているはずである。特に明記しない限り、部および重量部、分子量は、重量平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力はほぼ気圧である。標準的な略語が用いられ得、例えば、bp、塩基対;kb、キロベース;pl、ピコリットル;sまたはsec、秒;min、分;hまたはhr、時間;aa、アミノ酸;nt、ヌクレオチド;等である。
実施例1:二重エマルジョンPCRを用いた核酸の検出
材料および方法
標準的なフォトリソグラフィ技術をポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)に用いて、マイクロフルイディックチップを作製した。マスターを生産するために、SU−8フォトレジスト(Microchem)の層をシリコンウエハー上にスピン塗布(spun onto)してから、マイラーマスク(Fineline Imaging)下でBlakray装置からのUV光に曝した。その後、ウエハーを、ホットプレート上で95℃にて1分間焼いてから、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中で現像した。その後、11:1の比率で混合したPDMSポリマーおよび架橋剤を、マスター上に注いで、75℃にて4時間焼いた。その後、装置をマスターから剥がして、0.75mmの生検コア針を用いて孔を開けた。その後、装置を酸素プラズマ処理後にガラススライドに結合させた。装置チャンネルを疎水性にするために、Aquapelをチャンネル中にフラッシュしてから、装置を65℃にて20分間オーブン内で焼いた。フォトレジストの厚さを25μmに維持し、フローフォーカシングジャンクションでのチャンネル幅を20μmにした。
熱溶解した大腸菌由来のDNA分子、2%ポリエチレングリコール6K(Invitrogen)、2%Tween(登録商標)−20、TolA検出プライマー、およびPCR Master Mix(Phusion HF Flex 2x MM)を含む混合液を調製した。以下のプライマーを1μMの使用濃度にて用いた:TolAフォワード5’−GTTGATTCAGGTGCGGTAGTT−3(配列番号1)、TolAリバース5’−GCCTGCTGTTCCTTCATCTT−3’(配列番号2)。HFE−7500油を裏に満たした1mlシリンジ中に、混合液をロードした。
20μmノズルを備える平らなフローフォーカシング装置中に、混合液を400μLhr−1にて導入した。生体適合性のフッ化界面活性剤を2重量%にて加えたHFE−7500フッ化油を含むキャリア油相を、400μLhr−1にて導入した。生体適合性の界面活性剤として、PEG600、または、Krytox(登録商標)FSHに結合した類似の分子量の分子が挙げられ得る。これ以外にも、Krytox(登録商標)のイオン形態を油相に、Jeffamine(登録商標)を水性相に加えて、界面にてイオン結合を生成して、二重エマルジョン小胞を安定化させることができる。
これらの流量および装置寸法を用いて、直径約25μmの単分散一重エマルジョンを生成した。1mLポリカーボネートシリンジ中に一重エマルジョン滴を収集して、2分間クリームを生じさせた。二重エマルジョン微小滴を生成するために、25μmノズルを備える別の平らなフローフォーカシング装置中に、クリーム状にした一重エマルジョンを200μLhr−1の流量にて導入した。同時に、キャリア水性相を、400μLhr−1にて導入した。キャリア相を、10%ポリエチレングリコール(分子量35K)で濃くすると、この流量においてより高い剪断速度が可能になり、二重乳化が向上し得る。キャリア相はまた、Pluronic F−68を1重量%含有し、生成される二重エマルジョンが安定化した。
二重エマルジョン微小滴をPCRチューブ中に収集し、3000rpmにて5分間遠心分離して濃縮した。その後、1×HFデタージェントフリーバッファおよび1%Pluronic F−68中に再懸濁させた。この懸濁液を、以下の条件を用いたT100サーモサイクラー(Bio−Rad)でサーマルサイクルにかけた:95℃10分、ならびに95℃10秒、55℃30秒および72℃15秒の35サイクル。その後、二重エマルジョン微小滴を、3000rpmでの遠心分離によって濃縮してから、1×SYBRグリーン(Invitrogen)溶液中に再懸濁させて、画像化した。
結果
先に記載する二重エマルジョンPCRについての画像化結果を、図7に示す。標的分子の初期ローディングがランダムであったので、少なくとも1つの標的分子が播種された、蛍光性の二重エマルジョン微小滴もあれば、標的を欠き、蛍光性でないものもある。蛍光統計量をポアソン分布にフィットさせることによって、多重封入を修正して、正確な標的分子濃度を得ることが可能であった。これらのデータは、二重エマルジョン微小滴が25μmにて熱安定であり、デジタルPCRに利用され得ることを示す。
実施例2:二重エマルジョンのFACS分析の仮想実施例
FACSを介して、二重エマルジョン微小滴をソートすることができる。そのようなソーティングについての例示的な条件は、以下の通りである:二重エマルジョン微小滴をPBSにより1:1の比率で希釈して、FACSAria IIu(BD Biosciences)による分析用の12×75mm丸底チューブに移す。PBSをシース流体として用い、事象を、200事象s−1に相当する流量でランする。事象記録の間、サイトメータを4℃の温度に維持して、チューブを300rpmの速度にて回転させる。FITCプローブおよびTaqManプローブの検出のために、488nmのレーザー、および505nm低域フィルターを備える530±30nmの帯域フィルターを連続的に通過させた放射で、FITC−BSAプローブおよびTaqManプローブを励起する。
実施例3:巨大単ラメラ小胞(GUV)中でのPCRを介した核酸検出の仮想実施例
熱安定フェムトリットルGUVのマイクロフルイディック生成およびFACSソーティングの実証
巨大単ラメラ小胞(GUV)は、混和水性相中に懸濁する膜結合水性流体の嚢である。GUVは、小滴のように、試薬を封入することができるので、生体反応用の区画として機能し得る。膜の化学的性質に応じて、GUVは、選択的に透過性にされ得るので、DNAおよびRNAのような巨大分子はトラップされるが、ヌクレオチドおよびATPのような小さな分子は、膜を自由に通過することができる。この選択的な透過性により、GUV内の反応は、エマルジョン小滴内の反応よりも効率的になり得る。なぜなら、反応が進行するにつれ、新しい試薬が中に拡散し得るからでる。しかしながら、GUV内で反応を実行するにあたっての課題は、GUVが脆弱であることである。GUVは、少数の分子層の膜からなり、機械ストレスまたは熱により容易に破裂するおそれがある厚さである。GUV内でPCRを実行するために、最大95℃に達して繰り返されるサーマルサイクリングに耐えることができる膜組成が同定されなければならない。GUVの使用により、リアクタは、デジタルドロップレットPCRに用いられるものよりもかなり小さくされて、試薬が節約され得、スループットが増大し得、かつより多くの反応が可能になることとなる。これにより次は、dPCRの感度が増大することとなり、より高い精度でDNAを検出かつ定量化することができる。
分子およびPCR試薬を、マイクロフルイディック装置中に導入して、GUV中にロードする。分子の濃度は、平均して、10個のGUVの1つが単分子を含有して、他が空であるように固定する。水性相中に懸濁するGUVを遠心分離して濃縮し、上澄みを取り除き、反応に必須の試薬を含有するPCRバッファを加える。その後、GUVを、PCRマシン内でサーモサイクルにかける。サーモサイクリングの間、単分子を含有するGUVは増幅を経るが、空のGUVが増幅を経ることはない。用いる検出方法に応じて、PCRプローブに付着した非クエンチング色素によって、またはSYBRグリーンのようなインターカレート色素をコア中に拡散させて、アンプリコンを染色することによって、GUVの蛍光を増幅させる。この点によって、GUVは、FACS定量化およびソーティングに直ぐに使える。サーモサイクルにかけたGUVを、再度濃縮して、FACSバッファ中に再懸濁させる。FACSの間、全てのGUVを、前方の散乱および側方の散乱を用いて検出し、そして同時に、PCR色素に適切なチャンネルの蛍光値を監視する。FACSは、蛍光性であるGUVの割合を記録して、元の溶液中の標的DNAの濃度の測定値を与え、そしてソーティングがオンにされれば、特定のゲート制御パラメータ内に入るGUVをソートする。懸濁液をパーフルオロオクタノールと混合して、ボルテックスすることによって、ソートしたGUVを破裂させて、核酸調製物を用いて、元の標的分子を回収し、かつアンプリコンを捨てる。
GUVを生成するマイクロフルイディック法。最初に二重エマルジョンを生成してから、脱濡れを経るように二重エマルジョンを誘導することによって、GUVが生じることとなる。脱濡れの際、二重エマルジョンの不混和性相、例えば油が、殻から除去されて、界面活性剤の膜が残り、小さな不混和性相の小滴が、膜の外側に付着する。結果として生じるGUVのサイズは、GUVを生む二重エマルジョンのサイズによって支配される:二重エマルジョンが単分散であるならば、生じるGUVも同様に単分散である。予備実験において、直径10μmにまで小さくされた、極端に単分散の二重エマルジョン(図11)を生成する能力を実証した。当該二重エマルジョンは、同じサイズの単分散GUVを形成するのに用いることができる。
GUVの100kHz生産を達成するような、マイクロフルイディックノズルサイズの同定。GUVのマイクロフルイディック生成において、GUVが小さくなるほど、生産率は上がる。したがって、数時間で10億個の生成を可能にするサイズを同定するために、GUV生産を監視して修飾することとなる。同軸フローフォーカシングおよびプラギングベースの生成において、GUVサイズは、剪断ノズルの寸法および幾何構造によって決まる。したがって、100kHzにて5μmのGUVを形成するのに適切な、様々なノズル寸法および幾何構造を試験することとなる。図11に示す、二重エマルジョンを10μmにまで小さくすることを示した同軸フローフォーカシング装置を利用することとなる。この装置は、単純であり、二重エマルジョンをワンステッププロセスで迅速に形成し、そしてまた、濡れ性パターニングを必要としないので、作製を容易にするという利点を有する。同軸フローフォーカシングが適切でなければ、平らな、濡れ性がパターン化された装置におけるフローフォーカシングを試験することとなり、これは、単分散二重エマルジョンを生成することが示された(図12)。この方法では、マイクロフルイディックチャンネルは、ある領域において疎水性であるように空間的にパターン化されて、油中水性エマルジョンの形成が可能となり、他では親水性にされて、油小滴中の水性小滴の封入、および水中油中水の二重エマルジョンの生成が可能となる。この方法の主な利点は、二重エマルジョンが、より少量のキャリア流体により生成されて、コスト効率をより良くし得ることである。しかしながら、同軸フローフォーカシングと同じくらい迅速に小滴を生産することはできない。なぜなら、プラギングベースの小滴生成に限られる一方で、同軸フローフォーカシングは、かなり速いジェット噴射レジームにおいて作動し得るからである。
100kHzにて熱安定性GUVを生産するための、必要に応じた化学配合の調整。必要に応じて、様々な界面活性剤(例えば、Tween(登録商標)20、Span(登録商標)80、Pluronicその他)および/または様々な増粘剤(例えば、PEG、アルギネート、グリセロールその他)をキャリア相内に含めることによって、GUVの殻およびキャリア相の配合を調整することとなる。界面活性剤は注意深く選択するべきである。なぜなら、GUVの生成率および安定性に影響を及ぼすからである。キャリア相の粘度もまた、界面活性剤にマッチするように選択すべきである。なぜなら、小滴生成プロセスにおいて、サイズおよび率が、キャピラリ数によって決まり、これはそれ自体、流体の界面張力(ゆえに、界面活性剤)およびキャリア相の剪断率(ゆえに、増粘剤)によって決まるからである。一旦適切なノズル幾何構造を同定したら、おそらく機能することになる組合せとして、本発明者らのフッ化ポリエーテルPEG界面活性剤において結合していないカルボキシレートを保護するために、キャリア相内にPluronic界面活性剤を、内側相内にTween(登録商標)およびJeffamine(登録商標)を、そしてキャリア相内に、高分子量PEG、BSA、およびグリセロールを含む増粘剤を含むものがある。エマルジョンの化学的性質を、40μmのGUVよりも曲率が高い5μmのGUVについて最適化するように調整する必要があり得る。これは、親水性−疎水性ブロックのサイズが異なり、そして添加物がキャリア相内に含まれる界面活性剤を合成することによって、なされ得る。
熱安定性GUVを生成するための、更なるブロックコポリマー界面活性剤の同定。熱安定性小胞を生成するために、水性相中の小胞中にアセンブルする場合、溶融温度が高いブロックコポリマー界面活性剤を試験することとなる。小胞膜の溶融温度は、キャリア相中の溶解度によって決まり、溶解度は次に、化学的性質および分子量によって決まる。したがって、高分子量のフッ化界面活性剤を試験することとなる。当該界面活性剤として、疎水性−親水性ブロックについて、分子量が変わる、ヘキサフルオロプロピレンエポキシド−ポリエチレングリコール界面活性剤のフルオリン末端キャップドホモポリマーが挙げられることとなる。当該ブロックの相対分子量は重要である。なぜなら、小胞膜上の分子の幾何構造および充填を決定し、次に、脱濡れ、溶融温度、および最も安定な自然な膜曲率に影響するからである。ヘキサフルオロプロピレンエポキシドブロックについて6,000〜10,000の、そしてPEGブロックについて600〜800の分子量が、熱安定性GUVの40μmの直径を与えるのに効果的である。当該量は、PEGブロックをより小さくすることによって、かなり小さな5μmのGUVを安定化させるのに、変えられる必要があり得る。広範な分子量のヘキサフルオロプロピレンエポキシド(Krytox)およびPEG(Jeffamine)が市販されている。界面活性剤の幾何構造に影響し、かつGUVの熱安定性およびサイズに影響を与え得る、ポリエチレンオキシドによってキャップされていないPEGブロックを試験することとなる。BSAおよび他のタンパク質を含む、精製を介して取り除くのが困難である界面活性剤の不完全な合成由来の使い残しのダングリングカルボキシレートに結合する添加物の使用を試験することとなる。
GUVの最大FACS検出およびソーティングの測定。GUVは、水性相中に分散する水性流体の膜結合嚢である。ゆえに、FACSにおいて、GUVは、組成およびサイズが細胞と類似し、細胞のように見える。結果として、GUVのFACSソーティングは、細胞のソーティングと同一であり、機器またはプロセスに修飾を加えることなく、あらゆる市販のシステムに実行することができる。FACSがGUVをソートする場合、ソーティング率は、フロー注入率およびGUV濃度によって決まる。40μmのGUVは、最大流量(75psi、FACSAria)でFACS分析することができ、ソーティングを無傷で乗り切る。これは、5μmのGUVについても同様に正しいことが予想される。なぜなら、崩壊に対するGUVのロバスト性が、そのラプラス圧力、p=2λ/r(式中、rはGUV半径である)によって決まり、これは、GUVが小さくなるにつれ、1/rのように、増大するからである。5μmのGUVが当該率でFACSソートされ得ることが確認されることとなり、もしソートされ得ないならば、異なる配合を試験して、剪断に対する抵抗が増大するものを同定することとなる。ソーティング率をさらに一層上げるために、サンプルを濃縮してよい。40μmのGUVを遠心分離で濃縮してから、適切な量のFACSバッファを加えることによって、使用濃度に再懸濁させることができる。より小さな5μmのGUV(より小さな重力質量によりスピンダウンするのがより難しくなり得る)の遠心分離を経た濃度を試験することとなる。調整するパラメータは、スピン速度および時間となろう。超遠心分離を経た濃度を試験してもよい。GUVキャリア相の粘度は、変動することとなる。なぜなら、重力の、粘性抵抗に対する比率、mg/ηvによって、沈降速度が支配されるからである。40μmのGUVは遠心分離を容易に乗り切るので、5μmのGUVも同様に乗り切ることとなると予想される。なぜなら、そのより高いラプラス圧力が、当該GUVを剪断および圧縮力に対してより一層ロバストにするはずであるからである。達成される最大充填密度は、おそらく、64%であり、これは、ランダムに最密充填された球について、移行を妨害することとなる。この密度を超えると、懸濁液は、おそらくFACSノズルを詰まらせる弾性率を有することとなる。
ソーティングエラー率の特徴付け。FACSのソーティング率を上げるためにサンプルがより濃縮されるにつれ、2つのGUVが同時に入る確率が上がる。結果的に、GUVの一方がソーティングについてフラグを立てられるならば、他方もまたソートされることとなる。これを支配する統計が、ポアソン分布によって説明され、サンプル密度が増大するにつれ、ポジティブソーティングエラーが増大することとなると予測する。この現象を監視することとなり、エラープロセスをモデル化するためにキュー統計を用いることとなる。キャリア相中の増粘剤、GUV間の相互作用、および妨害効果によりフローが非ニュートン性となるにつれ、モデルが壊れることとなると予想される。したがって、モデルの妥当性を試験するために、そしてソーティング率の絶対最大値はどれか、そしてエラー率がシステムパラメータとどのように比例するかを判定するために、これらのパラメータを変えることとなる。
非常に稀なポジティブGUVを高度に富化するための、ティアードソーティングの実行。FACSソーティングエラーの大部分が、2つ以上のGUVの、ソーター中への同時の侵入に由来するので、ほとんどのソーティングエラーはポジティブエラーである:ほぼ全てのポジティブGUVが回収されるが、多くのネガティブGUVも回収される。このタイプのソーティングエラーは、目的の集団を連続的に富化するティアードソーティングで対処することができる(amenable to)。例えば、ソーティングラウンドあたり100×の保存的富化のために、10億個のGUVを、約3時間以内にソートして、1000万個のGUVを産出することができ、ポジティブが100×富化される。ソーティングを1kHzに減速すると、ほぼ完璧なソーティング結果となり、残存する1000万個のGUVを、更なる3時間以内にソートして、本質的に純粋なポジティブGUV溶液を回収することができる。ティアードソーティングを用いて、数十億の集団中の数十のポジティブGUVを、約6時間のソーティングで検出かつ回収することが可能であるはずである。これにより、開示される方法は、多様な集団において極端に低い存在量で存在する分子、ウイルス、または細胞を検出かつ回収するのに有用となるであろう。
ウェル中への単一のGUVのFACSソーティング。GUVをFACSによって細胞として、細胞のように処理するので、GUVをウェル中に個々にソートすることができる。これを達成する方法を試験して、最適化することとなる。GUVをパーフルオロオクタノールで破裂させることができ、そして以下に記載する方法を用いて、本発明者らは、GUV−PCR中に生じた混入アンプリコンを取り除くことができるはずである。この時点の後、分子を非特異的方法(MDA、MALBAC)で増幅させて、アンプリコンをバーコード化して、バーコード化したリードを配列決定することができる。これにより、染色体と同じくらい大きな分子の回収および配列決定が可能となるはずであり、そのような分子の数は、FACSロードされ得るウェルの数(例えば1プレートあたり384個)、および利用可能な配列決定能力量によってのみ制限される。これは、大きくて多様な集団をスクリーニングして、稀な分子、ウイルス、または真核生物細胞を同定、回収、かつ配列決定するのに有益であろう。
水性小滴に対するGUV−PCRおよびベンチマーク効率の最適化および特徴付け
小滴のサイズが引き下げられるにつれ、その内側で実行される反応の効率は下がる。反応阻害は、2つの因子の結果である:小滴が小さくなるにつれ、直径の三乗でその容量が引き下げられ、小滴のサイズが半分になると、容量は1/8になる。容量のこの急速な引下げは、非常に小さな小滴について、試薬を制限することができることを意味する。阻害の別の源は、小滴の油−水界面が、その両親媒性組成により、酵素を変性させ得ることである。小滴が小さくなるにつれ、表面対容量の比率が上がるので、界面阻害はより多く見られるようになる。これらの理由で、直径5μm未満の小滴を生成することが可能であるにしても、ほとんどの小滴ベースの反応についての実際的な下限は、約50μmである。リアクタサイズを5μmに引き下げること(容量の1000×引下げ)を可能にするためには、小滴よりも高い生体適合性を与えるGUV配合を同定するために、諸GUV配合を試験することとなる。これにより、同じ容量の試薬で、1000×を超える反応の性能が可能となるであろう。
5μmのGUVにおけるPCRの最適化。5μmのGUVを生成して、その安定性およびPCR効率に及ぼす様々な化学的配合の影響を判定することとする。GUV中でのPCRを実行するために、BRAF遺伝子を含有する既知の濃度のプラスミドを分散させて、1滴あたり平均0.1個存在するようにし、この滴は、DNAポリメラーゼ、dNTPs、PCRバッファ、および遺伝子の数百塩基フラグメントを増幅する予め設計されたプライマーを有する。Qubit 2.0蛍光測定器を用いて、初期のプラスミド濃度を蛍光定量的に判定することとなる。その後、GUVをサーモサイクルにかけて、SYBRグリーンをキャリア相に加え、これがGUV膜を通って化学的に分配されて、増幅を経たGUVを特異的に染色することとなる。GUV−PCR効率を定量化するために、GUVを画像化して、蛍光性である画分、ならびにエンドポイント値の平均および標準偏差を測定することとなる。小滴反応に対するこのプロセスの効率をベンチマークに照らして評価するために、この実験を、QXl00デジタルドロップレットPCRマシン(Bio−Rad)で繰り返すこととなる。QXl00コントロール実験由来のGUVおよび小滴を、パーフルオロオクタノールで破裂させて、DNAを回収し、ゲル電気泳動および蛍光測定法で分析して、収量を推定することとなる。このワークフローを、全ての混合組合せについて実行することとなる。これはマルチパラメータ最適化であるので、混合組成物を小滴蛍光統計およびDNA収量に関連させるアレイフォーマット内に全てのデータを保存して、重回帰の使用により最適混合組合せを予測することができ、これらを独立して試験することとなる。
GUV安定性およびPCR効率に及ぼす添加物の影響の調査。界面活性剤のカルボキシレート基に結合することで、界面への酵素吸着を抑制することができるポリエーテルアミンを含む、既知のエマルジョン安定化剤およびPCR添加物を試験して、GUV−PCRに及ぼす影響を調査することとなる;これは、GUVにおける反応効率を著しく上げるはずである。また、Jeffamine(登録商標)ED−600、ED−900、およびED−2003を、界面活性剤に対して0.1、1、および10のモル比にて試験することとなる。また、ウシ血清アルブミン(BSA)を試験することとなり、これは、両親媒性界面に吸着して、酵素を変性から保護する生体適合性の「皮膚」を生成する。0.5、1、および2(w/v)%のBSA濃度を、PCRミックス中で試験することとなる。また、キャリア相を、様々な濃度のdNTP(200μMで開始)およびMgCl2(1.5mM)で補うこととなり、これらはGUV中に化学的に分配されて、試薬が反応によって消費されるにつれ、効率を向上させ得る。
小胞膜を通る化学的分配の特徴付け、およびこれを制御する方法の同定。GUV膜の透過性を調査して、これを弱める方法を同定することとなる。DNAおよびタンパク質のような巨大分子は、GUV内に適切に封入されて残存するが、SYBRグリーンのような小分子は、経時的にGUV中に拡散することができる。様々な分子量のFITC−デキストラン(5、10、20、30、40、50kDa)を利用して、膜透過性を、温度、小分子サイズ、および化学的特性の関数として特徴付けることとなる。低分子量のスケールにて、キサンチンファミリー色素(フルオレセイン、ローダミン)、シアニンファミリー色素(インドカルボシアニン、オキシカルボシアニン)、およびクマリン誘導体(4−ヒドロキシクマリン)を利用することとなる。これらの結果を、フルオレセインの放出プロファイルと、比較可能な濃度にて比較することとなる。これらの分子についての透過性を特徴付けた後、40μmのGUV内へのSYBRの分配速度を大いに減速させる、キャリア相への5(w/v)%BSAの添加を含む、透過性を弱める様々な方法を試験することとなる。また、より小さなタンパク質オバルブミン、β−カゼイン、およびt4遺伝子タンパク質32を、様々な濃度にて試験することとなる。タンパク質に加えて、ポリマー(Jeffamine(登録商標)ED−600、ED−900、およびED−2003)を、界面活性剤に対して0.1、1、および10のモル比にて、調査することとなる。また、アミンで官能化され得、かつPEGのような線状ポリマーよりも適切に疎水性界面を保護する巨大な樹枝状ポリマーを形成することが示されているポリエチレングリコール(Dow)を調査することとなる。
PCRをマルチプレックス化する方法の探究。マルチプレックスTaqMan PCRは、2つ以上の配列が単一のサンプル内で相関しなければならない用途に有益である。GUV−PCRにより、同じ染色体上での突然変異のマッピング、または遺伝子の特定の組合せを有する微生物の同定が可能となり、2つばかりの例を命名することとなる。マルチプレックスTaqMan PCRは、異なるスペクトルの色素でTaqManプローブを標識する能力に依存して、いくつかの領域の増幅が、分光測光技術により同時に測定され得る。TaqMan PCRは、フルオロフォアおよびクエンチャで標識されたプローブ、および付随するプライマーセットを利用する。増幅の間、プローブは、プライマー間の領域にアニールして、特定のDNAポリメラーゼの5’−3’エキソヌクレアーゼ活性によって切断される;切断によりフルオロフォアが放出されて、蛍光を発することができ、増幅の光学的読出しが実現する。コントロールとしてQX100(マルチプレックス一重エマルジョンPCRについて確認されている商品)を用いて、TaqManプローブを設計して試験することとなる。プラスミドpUC19における3つの非重複領域を標的として、増幅効率を、Stratagene Mx3005p qPCRマシンで測定することとなる。確認後、プローブをQX100で再試験して、デジタルフォーマットで同様に機能することを確認することとなる;これは重要な試験である。なぜなら、従来のqPCRで有効であるプローブが、ドロップレットPCRにおいて必ずしも十分に実行されるわけでないからであり、これによれば、DNA濃度の正確な測定を実現しない異質エンドポイント蛍光値が与えられる。プローブセットが小滴フォーマット内で十分に実行されないならば、認識配列を修飾した新しいプローブセットを試験することとなる。小滴フォーマットにおいて一部のプローブが他のプローブよりも効果的であり、プローブ供給会社は一般に、これらのフォーマットについて、それらのDNAの仕様を書かないので、プローブセットを確認する方法は、ドロップレットPCR実験によるしかない。それでもやはり、2〜3の試みにおいて特定の領域用の良好なプローブセットを同定することが、一般に可能である。
Molecular Beacon。Molecular Beaconは、ハイブリダイゼーションのエントロピーを増大させるための二次構造の使用に起因して、TaqManのような線状プローブよりもハイブリダイゼーション特異性が高いPCRプローブである。当該プローブは、ヘアピンループおよび幹構造を含み、幹の末端上にリポーターおよびクエンチャを有する。TaqManのように、PCRによりリポーターおよびクエンチャは分離して、蛍光を増大させる。当該プローブの他の利点は、エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを必要とせず、そしてまた、反応を通して無傷のままであることで、PCRの終了時に巨大分子のみがGUV内に適切に保持されることである。TaqMan実験のように、pUC19の3つの領域を、異なるプローブを用いて標的として、全てのプローブを、GUV内での試験前に、qPCRおよびドロップレットPCRで確認することとなる。
スコーピオンプローブ。Molecular Beaconのように、スコーピオンプローブは、色素−クエンチャ分離を利用して、増幅下で蛍光を発する二標識ヘアピンループプローブである。しかしながら、この約25ヌクレオチドプローブは、折畳みを広げてから、ループ領域がアンプリコンの標的領域に結合する。この戦略の利点は、プローブがアンプリコンに結合したままであるので、ここでも巨大分子構造体の一部を、GUV内に適切に制限することとなることである。また、酵素によるヘアピンの切断が必要とされず、そしてプローブがプライマーアンプリコンの一部であるので、反応は、Molecular BeaconまたはTaqMan PCRよりも効率的である傾向がある。Molecular BeaconおよびTaqMan実験のように、3つの重複しないプローブセットをpUC19に試験することとなる。
GUVを破裂させる方法の最適化。GUVの主な利点の1つが、個々のDNA分子のFACSソーティングを、デジタルPCRで検出できるようにすることである。これを完全に利用するために、下流の配列決定のためにGUVから分子を確実に回収する方法が必要である。予備実験では、1:1(v/v)のHFE−7500およびパーフルオロオクタノールからなるバッファによる40μmのGUVの破裂制御を実証した。この破壊バッファは、過フッ化二重層膜を可溶化することによってGUVを破裂させる。GUV破裂は自然界での化学作用であるので、5μmのGUVにも等しく適切に機能することとなると予想される。これが正しくなく、5μmのGUVの破裂がより困難であることが見出されるならば、ビーズビーティングによる50Hzでの高剪断均質化および20〜100kHzでの超音波処理を用いて、1μmのフィルターを通してGUVを流すことを含む、破裂を高める機械的方法を試験することとなる。予備実験でGUVを破裂することを示した、高圧交流場を印加したフロースルーマイクロフルイディックチャンネルの使用を試験してもよい。これらの方法を、界面活性剤のPEG部分を可溶化するクロロホルムを加えることを含めた、GUVを不安定化させるように設計された化学的技術と組み合わせてもよい。また、GUVを破砕また破裂させることがそれぞれ示された、高張液または低張液の添加を介した浸透圧ショックの使用を試験することとなる。必要に応じて試験することができるさらに別のアプローチが、高pHおよび低pHの使用であり、これらはエマルジョンを破裂させるのに効果的であることが示された。
回収したDNAからGUV−PCRアンプリコンを取り除くプロトコルの開発。予備実験では、>1メガベースの標的分子がデジタルPCRを乗り切ることを、qPCR、DNA配列決定、およびゲル電気泳動によって確認した。しかしながら、プロセスの終わりで、当該標的分子は、GUV内の何千もの短いアンプリコンと混合されることとなる。ソーティング後のこれらのアンプリコンは、配列決定前に取り除かれるべきであるDNA混入物を表す。試験システムとして、pUC19の一領域を、dTTPの代わりにdUTPを用いて増幅するので、GUV−PCRで生成される全てのアンプリコンはチミンの代わりにウラシルを有することとなる。その後、これらのアンプリコンを、ウラシルDNAグリコシラーゼを用いて選択的に消化し、これは、ウラシルとその糖との間のN−グリコシド結合の加水分解を触媒するものであるので、ウラシルを欠く元の標的分子のみを残すことができる。代わりの方法として、ビオチン化プライマーを用いて、ストレプトアビジン結合アガロースビーズによりアンプリコンを選択的に取り除くことができるようにするものがあろう。qPCRを用いて、精製後の混入アンプリコンの濃度を推定することとなる。
10億回を超えるデジタルGUV−PCRを実行することによる、競合プラットフォームよりも1000×高い感度の実証、およびFACSによるポジティブ分子の回収
この実験の目的は、GUV−PCRを用いて、商業的に最もよい選択肢よりも1000×高い感度でDNAを定量化することができることを実証すること、そしてまた、FACSソーティングにより分子を選択的に回収する能力を実証することである。原理証明を示すため、合成DNAサンプルおよび患者サンプルをスクリーニングすることとなる。患者サンプルスクリーニングの目標は、GUV−PCRが、既存の商業的な産物、および公開されている小滴技術よりも低い濃度での、かつ高い精度での癌DNAの検出を可能にすることを示すことであろう。この実施例は、限定することを意図していない:修飾のない同じワークフローを利用して、他の源(胎児、病原体)由来の血液中のDNAを検出し、大きくて多様なゲノムフラグメントライブラリをスクリーニングして、目的の領域を富化し、染色体をソートし、そして培養フリーの方法で、生来の生態環境中で培養できないウイルスおよび微生物を回収することができる。
合成DNAスパイクイン実験。スパイクイン実験を実行して、極端に稀なDNA変異体を検出かつ回収するGUV−PCRの有用性を実証することとなる。BRAFの稀な突然変異対立遺伝子、プロトオンコジーンを、稀な分子モデルとして用いることとなる。BRAFのこの変異体、V600Eを、pUC19ベクター中にクローニングすることとなる。野生型BRAFもまた、背景分子を提供するために、pUC19中にクローニングすることとなる。サーマルサイクリング直後に突然変異対立遺伝子を有するGUVのみが蛍光を発するようにして変異体を検出するように、プローブを設計することとなる。BRAFのこれらの2つの変異体用のプラスミドでエレクトロコンピテント大腸菌を形質転換した後に、DNAを抽出して、Qubit蛍光測定器で定量化することとなる。プレ増幅することなくソートしたDNAを形質転換して、ソートしたわずか10個の分子を回収するプロトコルを開発した。これを用いて、2つのDNA調製物中のプラスミド分子の分子濃度を算出することとなる。これらの数を用いて、突然変異型対野生型のスパイクインを、10−9から10−4にて調製することとなる。5μmのGUVのマイクロフルイディック生成により予想されるスループットに基づいて、0.1のポアソンローディングについて、1億個中にわずか1個存在するいくつかの突然変異体を検出してソートすることが可能であるはずである。サーマルサイクル後、GUVを50kHzの割合にてFACSに供することとなり、約5時間以内で10億個のGUVのソーティングを可能にする。ソートされたGUVを、先で考察したプロトコルを用いて破裂させて、qPCRを用いて、元の鋳型に対するアンプリコンの相対量を定量化することとなる。突然変異対立遺伝子の富化を確認するために、PCR増幅に続くTOPO−TAベクター中へのクローニング、大腸菌中への形質転換、DNA調製、およびサンガー配列決定を実行することとなる。このプロセスを、スパイクイン比、DNA濃度、GUVロード比、およびFACSパラメータを変えて繰り返して、アプローチの感度ならびに稀な分子の検出およびソーティングの限界を特徴付けることとなる。
慢性骨髄性白血病の患者から得た血液中のBcr/abl転写物の検出、回収、および配列決定。慢性骨髄性白血病(CML)の患者の大部分は、第9染色体および第22染色体の長腕の転座を有し、これがc−ablオンコジーンを染色体9q34から染色体22q11上のBCR遺伝子に転位させる。この融合は、CMLの疾患進行を監視するための特異的マーカーを提供する。qPCR技術が現在、このマーカーを検出するために用いられているが、DNAが非常に低い濃度で存在する場合に、多くの状況、特に疾患の初期において、感度および精度が制限されて監視が妨げられる。この実験では、この診断用途についてのGUV−PCRの有用性を実証することとなり、1000×低い濃度での当該癌マーカーの検出、ならびにポジティブ分子の直接のソーティングによる回収および配列決定すら可能となる。骨髄サンプルを患者および他の非罹患ドナーから得ることとなる。RNAをQiagen由来のキットで抽出して、Qubit蛍光測定器で定量化して、Quantitect Reverse Transcriptionキットによる逆転写にかけることとなる。プライマーは、融合される場合にのみ、Bcr/abl転写物を増幅することとなる。総cDNAを、本明細書中で考察するように、PCR試薬と共に封入して、GUVワークフローおよびFACSソーティングを実行して、総bcr/abl分子の絶対定量化を実現することとなる。FACSAriaを用いて、384−ウェルプレート上のウェル中に、ポジティブGUVを個々にFACSソートして、GUVを破裂させ、bcrおよびablに特異的なプライマーで配列を増幅することとなる。結果として生じたPCR産物を、TOPO−TAベクター中にクローニングして、エレクトロコンピテント大腸菌中に形質転換して、抽出されたDNAをサンガー配列決定して、患者におけるBcr/abl融合の統計量(すなわち、b2/a2、b3/a2その他)を定量化することとなる。
実施例4:ハンド圧力ポンプを用いた二重エマルジョンの受動的生成の仮想実施例
ハンドポンプ、例えばシリンジによって加える一定の圧力を用いて、二重エマルジョンを受動的に生成することができる。この方法のために、入口リザーバに、二重乳化されることになる溶液をロードして、入口を圧力保持容器内で密閉する。大気に開放されるように出口を保つ。その後、入口圧力リザーバ内の空気を、量の制御によって圧縮して、入口に連結されたリザーバのピストン、例えばシリンジを圧縮することによって、装置を通して制御される圧力および圧力差を生じさせる。この圧力差が、二重乳化機を通して流体をポンプ輸送して、二重エマルジョン小滴が生じる。
所望される二重エマルジョンの適切な形成を確実にするように、チャンネル寸法、流体特性、および加える圧力を選択することができる。圧力リザーバの容量は、装置および入口と比較して大きくなり得、かつ圧縮容量は機械的ロックまたは目盛線を用いて制御され得るので、この方法は、安定した、長命の、かつ制御された加圧、および二重エマルジョンの生成を可能にする。
実施例5:二重エマルジョン生産用の装置の調製
単一装置二重エマルジョン生産用のマスターを生産するために、SU−8フォトレジストの層を、シリコンウエハー上にスピン塗布してから、マイラーマスクの存在下でUV光に曝した。その後、ウエハーを135℃にて1分間焼いた。SU−8フォトレジストの第2の層を、露出したPDMS上にスピン塗布して、第2のマイラーマスクの存在下でUV光に曝してから、95℃にて1分間焼いた。その後、ウエハーを、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート中で現像した。その後、11:1の比率で混合したPDMSポリマーおよび架橋剤を、マスター上に注いで、75℃にて4時間焼いた。その後、装置をマスターから剥がして、0.75mmの生検コア針を用いて孔を開けてから、酸素プラズマ処理し、PDMSの層に結合させた。装置チャンネルを疎水性にするために、PDMSチップを75℃にて2日間インキュベートした。チャンネル寸法は、第1の入口が15×15μmであり、第2のジャンクションが30×30μmであった。第2のジャンクションにて親水性ジャンクションを生じさせる一方で、第1のジャンクションにて疎水性クオリティを維持するために、油入口および水性入口を封鎖する一方、第2の水性入口および出口を曝したままにする。その後、装置を2分間、酸素プラズマで処理した。表面の化学的性質のより永続的な修飾をもたらすために、装置を、Vickersら、Anal.Chem、2006、78(21)、7446〜7452頁に記載されるように、酸素プラズマで処理する前に、溶媒で処理してよい。
実施例6:単一装置二重エマルジョン調製を用いた、二重エマルジョン中でのDNAの増幅および検出
実施例5および以下に記載する方法に従って調製した、単一装置二重エマルジョン調製装置を用いて、ラムダファージに由来するDNA分子を増幅し、かつ分析した。
材料および方法
ラムダファージに由来するDNA分子を、体系的に2倍希釈した。ラムダファージDNA希釈物、4%ポリエチレングリコール6K、4%Tween−20、ラムダ検出プライマー、およびPCR Master Mixを含む混合液を調製した。以下のプライマーを1μMの使用濃度にて用いた:5’−CTTTGAATGCTGCCCTTCTTC(配列番号3)および5’−CAGATAACCATCTGCGGTGATA(配列番号4)。
HFE−7500油を裏に満たした1mlシリンジ中に、混合液をロードした。20μmノズルを備える平らなフローフォーカシング装置中に、混合液を90μLhr−1にて導入した。生体適合性のフッ化界面活性剤を2重量%にて加えたHFE−7500フッ化油を含む不混和性相を、80μLhr−1にて導入した。Pluronic F−68を1%、同様にTween−20を4%、そしてPEG35Kを10%含有するキャリア相を、250μLhr−1にて導入した。二重エマルジョンを、0.2mL PCRチューブ内に収集した。
結果として生じた二重エマルジョンを、以下の条件を用いてインキュベートした:95℃2分、ならびに95℃30秒、60℃1.5分および72℃20秒の40サイクル。サイクルにかけたエマルジョンを、l×SYBRグリーンで処理した。染色されたエマルジョンを、FACS Aria2上に注入し、そこでネガティブコントロールと比較してポジティブ蛍光を判定した。
結果
核酸標的分子を定量化するのに効果的な二重エマルジョンデジタルドロップレットPCR(3DPCR)について、蛍光性である小滴の割合は、溶液中の標的分子の濃度に応じて増減するはずであり、蛍光小滴の画分の測定値を用いて、分子の元の濃度を推測することができる。これを例示するために、核酸の3つのサンプルを、標的分子の様々な濃度、0、50、および250pgにて生成した(図15)。図14に表すように、サンプルを3DPCR分析にかけて、明視野および蛍光モードで画像化した(図15)。予想されるように、蛍光小滴の割合は、標的の濃度が増大するにつれ、増大した。この発見を定量化するために、小滴をFACS機器でスキャンした。二重エマルジョンは、FACS上で強く散乱する比較的大きな対象物である。結果として、データを用いて、各事象について、前方の散乱の関数として、測定された側方の散乱をプロットする場合、小さな散乱対象物の大きな集団(おそらく油の小滴および微粒子である)、および大きな散乱事象のより小さな集団(二重エマルジョンであり、図15の右において赤色のゲート制御集団中に現れる)の多様な集団が観察される、。PCR前、二重エマルジョンの全てが薄暗く、PCRポジティブであると定義される蛍光閾値を下回るが、サーマルサイクリング後、二重エマルジョンの画分が明るい蛍光で現れ、閾値を上回ることが観察された。結果として、標的濃度が増大すると、ポジティブ小滴の集団が現れ(緑色の点、図15、右)、ポジティブ小滴の画分は、標的濃度が高いと増大した。
FACSデータを用いて、ポジティブ小滴およびネガティブ小滴の正確な画分を、様々な、既知の標的濃度のサンプルについて測定することができる。この画分を、標的濃度の関数としてプロットすると、図13に示すように、3〜4桁にわたっておおよそ線形であり、小滴ローディングのポアソン分布に基づいて予想される比率とよく一致する。これは、FACSを用いてポジティブ二重エマルジョン小滴の画分を測定することによって、標的分子の濃度を正確に推定することができることを示している。
FACS機器は、超高速にて蛍光実体をソートする更なる能力を有する(100kHzの最大ソーティング速度を報告した機器もある)。3DPCRと組み合わせると、異質サンプルから標的分子を富化するのに効果的な方法が提供される。このアプローチにより、単一の標的分子のソーティングは、サンプル中の全ての標的分子を回収して、標的でない分子を捨てることができる。これを例示するために、特定の濃度にて標的分子を含むサンプルを生成した。この濃度にて、図16の上部に示すように、ポジティブ二重エマルジョンの稀な例が、薄暗い二重エマルジョンのかなり大きな集団中に混合されて観察された。しかしながら、二重エマルジョンをFACSソートした後、ポジティブ事象の収集コンテナが、ほぼ全て蛍光である小滴を有する一方、ネガティブ事象用のコンテナが、ほぼ全て薄暗い小滴を有することが観察された(図16)。これは、PCRと組み合わせた場合に、MESA富化を実行するためのDNA分子の配列特異的ソーティングを可能にする蛍光に基づいて、FACSを用いて、3DPCR小滴をソートすることが可能であることを実証した。
実施例7:ゲノムサイズ分布を測定するために二重エマルジョン内での多重デジタルPCRを用いる仮想実施例
サンプルのゲノムサイズ分布を、二重エマルジョン内でのマルチプレックスデジタルPCR反応で測定することができる。通常、ゲノムに沿って間隔を空けた領域についてTaqmanプローブを設計する。ゲノムの一端部上のプローブは、第1の色の色素を有し、他のTaqmanプローブは全て、第2の色素を有する。マルチプレックスデジタルPCR反応を、二重エマルジョン内、例えば本明細書中で記載されるように調製した二重エマルジョン内で、全てのプローブ対ごとに実行する。プローブ間の距離の関数として、Taqmanプローブの各対についてダブルポジティブ二重エマルジョン小滴の数を比較することによって、サンプルのゲノムサイズ分布を測定することができる。
特定の実施例として、ラムダファージサンプルのサイズ分布を評価するようにTaqmanプローブを設計することができる。第1の色素(例えばCy5)で標識した第1のTaqmanプローブを、ゲノムの一端部にハイブリダイズするように設計し、第2の色素(例えばFAM)で標識した更なるTaqmanプローブを、ゲノムにまたがる種々の更なる点にハイブリダイズするように設計する。
二重エマルジョンを、単一装置内で調製する。PCRミックス、例えばPlatinum Multiplex Master Mix、プライマー、および標的DNAを、フッ化界面活性剤を有するHFEによって最初に封入し、これを次に、PEG、Tween、Pluronic S−68、KCl、MgCl2を含有する第2の水性層によって封入する。エマルジョンを、KClおよびMgCl2を含有するPCR反応容器内に収集する。その後、当該反応容器を、PCR増幅用に直接サイクルにかける。デジタルPCRサンプルを、Taqmanプローブ対ごとに調製する。例えば、約48.5kb長のラムダファージゲノムについて、1kbにてハイブリダイズする第1のプローブ、および4kb、18kb、35kb、および46kbにてハイブリダイズする残りのプローブで、4つの別々のデジタルPCR反応液を調製することとなる:
1.1kbでのCy5プローブと、4kbでのFAMプローブ
2.1kbでのCy5プローブと、18kbでのFAMプローブ
3.1kbでのCy5プローブと、35kbでのFAMプローブ
4.1kbでのCy5プローブと、46kbでのFAMプローブ
二重エマルジョンを、PCRミックス用に特定したサイクリングパラメータに従ってサーモサイクルにかけ、サンプルを三反復試験した。蛍光顕微鏡を用いて、サーモサイクルにかけた二重エマルジョン小滴を画像化することができる。二重エマルジョン小滴の4つの集団を定義可能である:シグナルのない空の小滴、一方のTaqmanプローブ由来のシグナルを有する小滴、他方のTaqmanプローブ由来のシグナルを有する小滴、および双方のTaqmanプローブ由来のシグナルを有する小滴。これらの4つの集団に分類される小滴の数を、画像化分析ソフトウェアを用いて定量化する。顕微鏡検査および画像化分析を用いる代わりとして、マイクロフルイディック検出器またはFACSを用いて、二重エマルジョン小滴蛍光を分析することができる。
二重エマルジョン小滴が双方の標識Taqmanプローブについてポジティブであるならば、ゲノムサンプルは無傷であり、双方のTaqmanプローブによって標的とされるゲノム領域を含有した。同様に、二重エマルジョン小滴が一方のTaqmanプローブのみについてポジティブであるならば、その封入されたサンプルはフラグメント化されており、他方のプローブによって標的とされるゲノム領域を含有しなかった。
ダブルポジティブ二重エマルジョン小滴の画分を、ゲノム上のプローブ間の距離の関数としてプロットする。サンプルが完全に無傷であるならば、ポジティブである小滴は全て、Taqmanプローブがゲノムに沿ってどれだけ間隔を空けているかに関係なく、双方のTaqmanプローブについてポジティブであることとなる。サンプルがある程度のフラグメント化または分解を有するならば、Taqmanプローブ間の距離が増すにつれ、ダブルポジティブ二重エマルジョン小滴の数は減少することとなる。より広範囲にわたって分解しているサンプルは、プローブ間の距離の増大に応じて、ダブルポジティブ小滴の数が、より大幅に低下することとなる。この方法を用いて、DNAサンプルおよびRNAサンプルのゲノムサイズ分布を測定するのに、マルチプレックスデジタルPCRを用いることができる。
実施例8:ヒトゲノムDNA由来のHIVプロウイルスの富化のための二重エマルジョンMESA
FACSによりウイルスゲノムをソートする能力の例示として、ラムダウイルスを、様々な濃度でサンプル中にロードする実験を実行して、各サンプルを、MESAおよびFACSを用いてソートした(図17)。強く散乱する小滴の、異なった集団を観察した(図17、上部)。大きな散乱事象にゲート制御して、側方の散乱対蛍光強度の関数としてプロットした場合、図17、下部のパネルに示すように、ラムダを欠くネガティブ集団はポジティブ事象をもたらさなかった一方、1マイクロリットルあたり62.5コピーを有する集団はポジティブ事象をもたらし、1マイクロリットルあたり250コピーのサンプルはさらに多いポジティブ事象をもたらした。これは、3DPCR/MESAを用いて、溶液中のウイルスゲノムを検出することができること、検出が定量的であること、そして機器のソーティング能力を用いることによって、ウイルスゲノムを回収することが可能であるはずであることを実証した。
本明細書中に記載するMESA方法論は、配列決定分析用の標的核酸を富化する強力な方法を提供する。オリゴハイブリダイゼーションキャプチャのような他の方法と比較して、MESAは、はるかに大きな分子(メガベース)を、または、細胞もしくはウイルス内であるならば、ゲノム全体さえをも特異的に回収するために、はるかに小さい情報(例えば、既知の配列の<100bp)を用いる。これを示すために、MESAを用いて、抗レトロウイルス(ART)療法を経た感染個体内のプロウイルスHIVレパートリを配列決定した。ARTが首尾よく処置された患者は、多くの場合、感染の徴候がほとんどない。なぜなら、ウイルスが多数複製することが予防されているからである。これに対応して、患者のT細胞は、1000細胞に1個の割合でしか感染され得ない。これは、富化もPCR増幅もなく、1つのHIVプロウイルスのゲノム配列を回収するには、約1000ヒトゲノム相当のDNAの配列決定を必要とすることを意味する(多くの場合、ひどく高コストである)。他方では、1000個ばかりのHIV変異体のレパートリの配列決定は、100万を超えるヒトゲノム当量のDNAの配列決定を必要とすることとなり、これは非実用的である。ヒトゲノムDNAからプロウイルスを富化する方法は、多くの場合、効果がない。なぜなら、ウイルスのゲノムは小さく、ヒトゲノム内の未知の位置に組み込まれ、そして極めて低いレベルにて存在するからである。また、PCR富化は、欠失を含有する短いゲノムを選択的に増幅する傾向がある。これらは、生物学的関連性がある可能性が低い。なぜなら、対応するウイルスは多くの場合、欠陥があるからである。
MESAは、感染個体内のHIVプロウイルスレパートリを得る方法を提供する。この実験では、図18に示すように、HIV内の4つの異なる遺伝子、gag、pol、env、および3’LTRの領域に特異的なプライマーセットを生成した。gagプローブおよびenvプローブを、MESAソーティングに用い、polプローブおよび3’LTRプローブを、富化の下流qPCR確認用に取っておいた。HIVがそのような極端に低いレベルにて存在するので、ソートされる必要がある核酸分子の数は極端に多い。例えば、2000個のヒトT細胞中1個という控え目な感染率では、1000個のHIVゲノムを回収するために、ゲノムを100kb分子にフラグメント化して、約120,000,000,000,000個の分子をソートしなければならないこととなる。現在の生産量が約10,000,000個の小滴であるので、約12,000個のゲノムフラグメントを、各二重エマルジョン中にロードする必要があり、それらの1つがプロウイルスゲノムを含有し得る。1000個全ての予想されるポジティブ小滴を回収するための数時間のソーティング後、約12,000,000個の100kb分子を回収した。そこには、HIVが約0.008%存在すると推定される。これは、出発濃度と比較して、約10,000×の富化であるが、依然として比較的低い。配列決定を実用的にするために、第2の富化を実行する。この時、第1のMESA由来のソートした出力を引き継いでランして、1000万個の各小滴が平均して1.2個の分子を含有するように希釈した。数時間ソートして、約1200個の100kb分子を回収した。これらの回収した分子のうち、83%がプロウイルスゲノムを含有し、サンプルがさらに10,000×富化されることとなると予想される。
多重MESAソートを立て続けに実行する富化パワーには、代償が伴う。これは、たとえ大量の材料を初めに用いるとしても、非常に少ない材料しか終わりに回収されないので、多くの場合ナノグラム量を必要とする材料を、直接配列決定することが可能でないということである。この問題に対処するために、ソートした材料を、非特異的多重置換増幅(MDA)を用いて増幅した。これには100kb分子が良好な基質であり、正確な増幅に至る。これにより、配列決定ライブラリを生成するのに十分な材料の生産が可能となる。
二重MESAソートおよびポストソートMDAの結果を定量化するのに、qPCR分析を利用した。サンプルを4つの反応液に分割した。それぞれ100倍希釈して、gag、pol、env、または3’LTR用のプライマーセットの1つと組み合わせた(図19)。また、プロウイルスが10コピー存在すると予想されるような濃度で、元の非富化ヒトゲノムDNAからなる比較サンプルを生成した。100×希釈は、MESAソートしたサンプルと比較サンプルとが同じDNA濃度であることを確実にし、測定したCt値と、ソートしたサンプル中のプロウイルスのコピー数との直接的な関係を認めている。qPCR分析を実行して、MESAソートしたサンプルが、15〜20サーマルサイクル間で増大する一方、標準が、30サーマルサイクル程度で増大することが見出された。これは、約12.5サイクルの平均Ctシフトに相当し、これは、100×希釈と組み合わせた場合、出発濃度に対して105〜107倍の富化に相当する。これは、特に同じサンプルに順次実行した場合、MESAを用いて、標的配列を含有する核酸を高度に富化することができることを実証している。
一般的な利用性を示すために、当該プロセスを、サンプルからT4ウイルスを富化するのに用いた(図20)。標準的な一重エマルジョンデジタルPCR(図20、パネルA)のように、デジタルドロップレット蛍光を3DPCRで観察した(図20、パネルB)。しかしながら、3DPCRに用いる二重エマルジョンの強力な利点は、図20、パネルCに示すように、小滴をFACSでソートすることによってポジティブ小滴を回収することができることである。ここでも、大きな分散物のクリアな集団が観察され、これは二重エマルジョンであり(図20、パネルD)、二重エマルジョンの強度ヒストグラムをプロットした場合、図20、パネルEに示すように、薄暗い小滴の大集団および蛍光小滴のより小さな集団(10.6%)を有する二峰性であった。ラムダウイルスおよびHIVについてのデータと組み合わせて、これらの結果は、ウイルス配列、およびPCRアッセイで検出可能な他のあらゆる配列を含有する核酸を富化するMESAの一般的な利用性を実証している。
先の記載は単に、本発明の原理を説明するだけのものである。当業者であれば、本明細書中で明示的に記載されも示されもしないが、その趣旨および範囲内に含まれる、本発明の原理を具体化する種々の配置を考案することができるのは明白である。さらに、本明細書中で列挙される全ての実施例、および条件を示す文言は、本発明の原理を、そのような具体的に列挙した実施例および条件に限らずに理解するよう読者を補助することが主に意図される。さらに、本発明の原理、態様、および実施形態、ならびにそれらの具体的な実施例を本明細書中で列挙する全ての記述は、その構造的均等物および機能的均等物の双方を包含することが意図される。さらに、そのような均等物として、現在既知の均等物および将来開発される均等物の双方、すなわち、構造に関係なく、同じ機能を実行するよう開発されたあらゆる要素を含むことが意図される。したがって、本発明の範囲は、本明細書中に示され、かつ記載される例示的な実施形態に限られることは意図されない。むしろ、本発明の範囲および趣旨は、添付の特許請求の範囲によって具体化される。