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JP2018188394A - リン酸化Smurf2を認識する抗体、該抗体を含む癌の診断剤、並びに該抗体を使用した癌の治療剤のスクリーニング方法 - Google Patents

リン酸化Smurf2を認識する抗体、該抗体を含む癌の診断剤、並びに該抗体を使用した癌の治療剤のスクリーニング方法 Download PDF

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JP2018188394A JP2017092898A JP2017092898A JP2018188394A JP 2018188394 A JP2018188394 A JP 2018188394A JP 2017092898 A JP2017092898 A JP 2017092898A JP 2017092898 A JP2017092898 A JP 2017092898A JP 2018188394 A JP2018188394 A JP 2018188394A
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JP2017092898A
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栄一 檜井
Eiichi Hii
栄一 檜井
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Kanazawa University NUC
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Kanazawa University NUC
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Abstract

【課題】癌を診断できる抗体を提供することを解決すべき課題とした。【解決手段】Smurf2タンパク質のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化の程度(強度)が、癌組織において、正常組織に比べて異なることを見出したことにより、本発明を完成した。【選択図】なし

Description

本発明は、リン酸化Smurf2を認識する抗体、該抗体を含む癌の診断剤、並びに該抗体を使用した癌の治療剤のスクリーニング方法に関する。
(細胞外シグナル制御キナーゼ5)
細胞外シグナル制御キナーゼ5(Extracellular signal-regulated kinase 5;Erk5)は、Erk1/2、c-Jun アミノ末端キナーゼ及びp38を含む、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)ファミリーに属する。Erk5は、MAPK/Erkキナーゼ-5(Mek5)により特異的にリン酸化されて、活性化される。Erk1及びErk2は、アイソフォーム特異的な効果(Erk1及びErk2それぞれに固有の効果)の報告はされているが、高度の類似性を示し、また、機能的に同等であると考えられている(非特許文献1)。
Erk5は、2つのプロリンリッチ領域及び1つの核局在化シグナルをコードする、固有のC末端伸長により、他のErk酵素よりも大きな分子量(Erk1/2の約2倍)を有する(非特許文献2、非特許文献3)。マウスの遺伝学研究は、「軟骨細胞分化の連続的段階の制御による骨格発達において、Erk1/2経路が、本質的な役割を果していること」を示している(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)。さらに、Erk1/2 MAPK経路におけるシグナル分子における突然変異が、ヌーナン(Noonan)症候群、コステロ(Costello)症候群及びcardio-facio-cutaneous症候群を含む、多くのヒト骨格障害(骨形成障害)を引き起こすことを明らかにした(非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。
(先行特許文献)
本発明の先行特許文献として、以下を例示することができる。
特許文献1は、「個体の血液中のBMP−1イソ型のプロファイルを確定すること、および該プロファイルを種々の欠損および障害に関連したBMP−1イソ型の標準血液プロファイルと比較することを含む、個体の骨または軟組織における欠損または障害を診断する方法」を開示している。
特許文献2は、「骨または軟骨障害を診断し、および/または検出するための方法であって、試験試料中のポリペプチドの発現レベルが前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体と試験試料を接触すること、および前期試験試料に対する前期抗体の結合を測定することによって測定される方法」を開示している。
特許文献3は、「女性の爪を検体とし、エストロゲン受容体発現遺伝子、LDL受容体関連タンパク5発現遺伝子、及びI型コラーゲン発現遺伝子の少なくとも1つの発現遺伝子における塩基置換を検出することを特徴とする、骨粗鬆症、骨形成不全症、又は骨密度形成不良症の発症リスクを診断する方法」を開示している。
しかしながら、特許文献1〜3は、本発明のリン酸化Smurf2を認識する抗体、該抗体を含む癌の診断剤、並びに該抗体を使用した癌の治療剤のスクリーニング方法を開示又は示唆していない。
Current Opinion in Cell Biology 9, 180-186 (1997) EMBO Rep 7, 782-786 (2006) The Journal of biological chemistry 280, 2659-2667 (2005) Molecular and cellular biology 29, 5843-5857 (2009) Journal of bone and mineral research : the official journal of theAmerican Society for Bone and Mineral Research 30, 765-774 (2015) Biochem Soc Trans 42, 1584-1589 (2014) Annu Rev Genomics Hum Genet 14, 355-369 (2013) Science 311, 1287-1290 (2006) Nature medicine 12, 283-285 (2006)
特表2009−544286 特表2012−506551 特開2010−246424
本発明は、癌を診断できる抗体を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者は、これまでの知見及び下記の実施例により、Smurf2タンパク質のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化の程度(強度)が、ヒト癌患者の癌組織において、正常組織に比べて異なることを見出した。
より詳しくは、Smurf2のN末端から249番目のリン酸化スレオニンの周辺アミノ酸配列(活性部位)を抗原として抗体を作製し、該抗体がSmurf2のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化を特異的に認識できることを確認して、さらに、該抗体により、グリオーマ細胞のSmurf2タンパク質のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化強度が、正常細胞のリン酸化検出強度と比較して、低いことを確認した。
以上により、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.リン酸化Smurf2を認識する抗体又は抗体断片。
2.Smurf2のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化を認識する前項1に記載の抗体又は抗体断片。
3.下記の群より選択されるポリペプチドを抗原とする前項1又は2に記載の抗体又は抗体断片。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加されたアミノ酸配列で表されるポリペプチド
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと95%以上の相同性を有するポリペプチド
4.Smurf2のアミノ酸配列のうち、RTHLHXPPDLPEGYC(配列番号1:配列中のXは、リン酸化したスレオニンを示す)からなる領域を、エピトープとして認識する前項1〜3のいずれか1に記載の抗体又は抗体断片。
5.Smurf2のRTHLHXPPDLPEGYC(配列番号1:配列中のXは、リン酸化したスレオニンを示す)に相当するアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として非ヒト動物に免疫感作して作製された前項1〜4のいずれか1に記載の抗体又は抗体断片。
6.前記Smurf2が、ヒトのSmurf2である前項1〜5のいずれか1に記載の抗体又は抗体断片。
7.前項1〜6のいずれか1に記載の抗体又は抗体断片を含む癌の診断剤。
8.前記癌が、神経膠腫又は白血病である前項7に記載の診断剤。
9.前項1〜6のいずれか1に記載の抗体又は抗体断片を用いた癌の治療剤のスクリーニング方法。
10.以下の工程を含む前項9に記載の癌の治療剤のスクリーニング方法:
(1)癌組織由来の細胞に治療剤候補物質を添加して培養する工程;
(2)培養前及び培養後の細胞から調製した各試料について、前項1〜6のいずれか1に記載の抗体又は抗体断片を用いたリン酸化シグナル強度を比較する工程;及び
(3)培養前よりも培養後のシグナル強度を増強又は抑制させる効果を有する治療剤候補物質を癌の治療剤として選択する工程。
本発明では、癌の診断に使用できるSmurf2のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化を特異的に認識する抗体を提供することができた。
実施例1における抗原ペプチド配列の設計の概要。 実施例2におけるウェスタンブロッティングの結果。(1)は抗体1、(2)は抗体2を示す。レーンAは無刺激で培養したヒトグリオーマ細胞サンプル、レーンBはTGF−β刺激を与えて培養したヒトグリオーマ細胞サンプルを示す。なお、矢印は非特異的結合シグナルを示す。 実施例3におけるウェスタンブロッティングの結果。IB:p−Smurf2は1次抗体として抗リン酸化Smurf2抗体を用いた検出結果、IB:β−actinは1次抗体として抗β−アクチン抗体を用いた検出結果を示す。脳組織は正常ラット脳組織由来細胞サンプル、C6 gliomaはC6細胞サンプルを示す。
(本発明の対象)
本発明の対象は、リン酸化Smurf2を認識する抗体、該抗体を含む癌の診断剤、並びに該抗体を使用した癌の治療剤のスクリーニング方法である。
(Smurf2:Smad−specific E3 ubiquitin ligase 2)
本明細書において、単に「Smurf2」と表記する場合、哺乳動物のSmurf2、好ましくはヒトSmurf2を意味する。
本発明者らは、Smurf2について、これまでに以下の知見を得ている。
Smurf2は、Mek/Erk5/Smurf2/Smad/Sox9カスケードによる骨格形成(軟骨形成)の制御において、重要な役割を有する。
Smurf2は、骨格形成{特に中足骨、中手骨及び基節骨を含む、骨区画(bone compartment)}において重要な役割を有するErk5により、N末端から249番目のスレオニン(Thr249)を直接リン酸化される。
該リン酸化を通じてSmadタンパク質のプロテアソーム分解の加速により軟骨形成を制御する。Smadタンパク質は、間葉細胞における軟骨形成の主要な転写因子であるsex−determining region Y−type high−mobility group box protein 9(Sox9)の発現を転写的に活性化する。Sox9は、in vivo及びin vitroでErk5依存性の骨格形成及び軟骨形成の重要な媒介物質である。
(リン酸化Smurf2)
本発明において、「リン酸化Smurf2」とは、少なくとも1のアミノ酸がリン酸化されたSmurf2タンパク質を包含し、好ましくはN末端から249番目のスレオニンがリン酸化されたSmurf2タンパク質を包含する。
「リン酸化Smurf2の検出」(Smurf2のリン酸化の検出)とは、コントロールと比較して低いこと又は高いことを指標とする。より詳しくは、Smurf2のN末端から249番目のスレオニンがリン酸化されていない又はリン酸化されている(コントロールと比較して低い又は高い)ことを指標とする。
(癌)
本発明において、「癌」とは、特に限定されないが、神経膠腫(グリオーマ)、星細胞腫、毛様細胞性星細胞腫、胚芽異形成性神経上皮腫瘍、乏突起膠腫、上衣腫、多形神経膠芽腫、混合膠腫、髄芽腫、網膜芽細胞腫、神経芽細胞腫、胚細胞種、奇形腫、神経節膠腫、神経節細胞腫、中枢神経節細胞腫、原始神経外胚葉性腫瘍(PNETすなわち、髄芽腫、髄上皮腫、神経芽種、網膜芽細胞腫、上衣芽腫など)、松果体組織にでききた腫瘍(松果体細胞腫や松果体芽腫など)、上衣細胞腫、脈絡叢腫瘍、原発不明の神経皮腫瘍(大脳神経膠腫症、星状芽細胞腫など)、神経膠芽腫、脳腫瘍、前立腺腫瘍、乳癌、食道癌、結腸直腸癌、腎明細胞癌、肺癌、胃癌、大腸癌、皮膚癌、中枢神経系腫瘍、卵巣癌、メラノーマ、膵臓癌、扁平上皮癌、白血病及び髄芽腫等が挙げられるが、好ましくは神経膠腫、白血病である。良性又は悪性の新生物も、癌の範囲内にあるとみなされる。
(Smurf2タンパク質)
Smurf2タンパク質は、以下の態様を含む。
(1)Smurf2タンパク質(http://www.uniprot.org/uniprot/Q9HAU4:アクセッション番号Q9HAU4)のアミノ酸配列の保護化誘導体、糖鎖修飾体、アシル化誘導体、又はアセチル化誘導体
(2)Smurf2タンパク質のアミノ酸配列と90%(又は、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質
(3)Smurf2タンパク質のアミノ酸配列において、100〜10個、50〜30個、40〜20個、10〜5個、5〜1個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているアミノ酸配列を有するタンパク質
(Smurf2遺伝子)
Smurf2遺伝子は、以下の態様を含む。
(1)Smurf2タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子
(2)Smurf2タンパク質のアミノ酸配列において、1〜20(又は、1〜15、1〜10、1〜7、1〜5、1〜3)個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているポリペプチドをコードする遺伝子
(3)Smurf2タンパク質のアミノ酸配列と90%(又は、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)以上の相同性を有するポリペプチドをコードする遺伝子
(抗リン酸化Smurf2抗体)
本発明の抗リン酸化Smurf2抗体(以後、「本発明の抗体」と略称する場合がある)は、以下の通りである。
(1)リン酸化Smurf2を認識する抗体又は抗体断片。
(2)Smurf2のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化を認識する抗体又は抗体断片。
(3)下記の群より選択されるポリペプチドを抗原とする抗体又は抗体断片。
(A)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド
(B)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加されたアミノ酸配列で表されるポリペプチド
(C)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと95%以上の相同性を有するポリペプチド
(4)Smurf2のアミノ酸配列のうち、RTHLHXPPDLPEGYC(配列番号1:配列中のXは、リン酸化したスレオニンを示す)からなる領域を、エピトープとして認識する抗体又は抗体断片。
(5)Smurf2のRTHLHXPPDLPEGYC(配列番号1:配列中のXは、リン酸化したスレオニンを示す)に相当するアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として非ヒト動物に免疫感作して作製された抗体又は抗体断片。
(6)ヒトのSmurf2のリン酸化を認識する抗体又は抗体断片。
(本発明の抗体の特性)
本発明の抗体の一実施例では、下記実施例2及び3により、Smurf2の249番目のスレオニンのリン酸化を特異的に認識することを確認している(参照:図2、3)。
加えて、本発明の抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一価抗体、二重特異性抗体、ヘテロコンジュゲート抗体、多重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化(特にCDR移植)抗体、脱免疫化抗体又はキメラ抗体、一本鎖抗体(例えばscFv)、Fab抗体断片(フラグメント)、F(ab’)抗体断片、Fab発現ライブラリにより産生される抗体断片、ダイアボディ又はテトラボディ(Holliger P. et al., 1993)、ナノボディ、抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本発明の抗体に対する抗Id抗体を含む)、及び上記のもののいずれかのエピトープ結合断片を含んでもよい。さらに、本発明の抗体は、自体公知の方法により、ヒト化抗体にすることができる。
(被験者由来生体試料)
本発明において、被験者とは、哺乳類全般(ヒト、ネコ、イヌ、ウマを含む)を含み、さらに、健常者、癌の患者、該癌の疑いがある人、該癌が将来発生する人も含む。
生体試料は、Smurf2の遺伝子及び/又はタンパク質が含まれていれば特に限定されないが、間葉細胞、幹細胞、生検試料、iPS細胞、初代培養細胞、血液、血液成分(血清、血漿、血球など)、唾液、尿、髄液、涙液、汗、毛髪、組織由来の成分を含む。
なお、間葉細胞とは、間葉系に属する細胞(骨細胞、心筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞など)へ分化しうる能力を有し、かつ自己複製能力を有する細胞として定義される。加えて、間葉細胞の取得方法は、自体公知の方法を利用することができ、被験者の骨髄、脂肪組織、胎盤組織、臍帯組織、歯髄等の組織から取得できる。
(指標)
本発明の「指標」とは、癌患者と癌患者でない人(健常者)を区別するための被験者由来生体試料のSmurf2のリン酸化の値を意味する。
例えば、被験者由来生体試料の「Smurf2のリン酸化の値」において、予め設定した「Smurf2のリン酸化の値」以下(又は以上)の場合には、癌が今後発症する、現在発症している又は進行している(可能性があること)を判定できる。
Cut off(カットオフ)値の設定方法としては、癌を有さない人(健常者)由来の生体試料中のSmurf2のリン酸化の値の平均値から算出する。通常、予め決定したcut off値の標準偏差の90%以上(又は90%以下)、好ましくは80%以上(又は80%以下)、より好ましくは70%以上(又は70%以下)、さらに好ましくは60%以上(又は60%以下)、最も好ましくは50%以上(又は50%以下)の場合には、癌を有さない(又は癌を有する)と判定できる。
また、別のcut off値の設定方法としては、癌歴のない被験者において、被験者由来生体試料の各数値に基づき、市販の統計解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成し、最適な感度及び特異度を求める。例えば、一次スクリーニング等の目的では感度が高い方を優先し、精査目的では特異度が高くなるようなカットオフ値を設定することが可能である。
{本発明の抗体作製に使用する免疫原(抗原)}
本発明の抗体を産出させるための免疫原として、Smurf2のアミノ酸配列の全部又は一部を含むペプチドを用いることができる。
本発明者らは、これまでに骨格形成(軟骨形成)の制御において、Smurf2のN末端から249番目のスレオニンがリン酸化されることを特定している(参照:図1)。そこで、本発明者らは、Smurf2のN末端から249番目のリン酸化スレオニン周辺配列を含む、下記のアミノ酸配列を設計した。
RTHLHXPPDLPEGYC(配列番号1):配列中のXは、リン酸化したスレオニンを示す。
よって、好ましくは、以下のアミノ酸配列を含むペプチドを免疫原として使用することができる。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加されたアミノ酸配列で表されるポリペプチド
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと95%(又は、96%、97%、98%、99%)以上の相同性を有するポリペプチド
なお、免疫原となるペプチドの作製は、遺伝子工学的手法、化学合成、および無細胞タンパク質合成により実施できる。ペプチドは、作製された後に、さらに精製して用いることができる。
また、ペプチドの精製および/または分離は、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種分離操作方法により実施できる。分離操作方法として、硫酸アンモニウム沈殿、限外ろ過、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーおよび透析法等の公知の方法を例示できる。これら方法は単独でまたは適宜組合せて使用できる。
(免疫方法)
上記の免疫原となる精製したペプチド又は部分ペプチドを、リン酸緩衝液(PBS)などの適当な緩衝液中に溶解又は懸濁したものを抗原液として使用する。抗原液は通常抗原物質を50〜500 μg/mL程度含む濃度に調製すればよい。また、ペプチド単独だけでは抗原性が低い場合には、アルブミンやキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などの適当なキャリアータンパク質に架橋して用いることができる。
当該抗原で免疫感作する動物(被免疫動物)は、マウス、ラット、ハムスター、ウマ、ヤギ、ウサギなどが例示される。好ましくはウサギである。
上記被免疫動物の抗原への応答性を高めるため、前記抗原溶液をアジュバントと混合して投与することができる。ここで使用可能なアジュバントは、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、Ribi(MPL)、Ribi(TDM)、Ribi(MPL+TDM)。百日咳ワクチン(Boredetella pertussis vaccine)、ムラミルジペプチド(MDP)、アルミニウムアジュバント(ALUM)、およびこれらの組合せが例示されるが、初回免疫時にFCA、追加免疫時にFIAやRibiアジュバントを使用する組合せが特に好ましい。
免疫方法は、使用する抗原の種類やアジュバント混合の有無などにより、注射部位、スケジュールなどを適宜変化させることができるが、例えば、被免疫動物としてマウスを用いる場合は、アジュバント混合抗原液0.05〜1ml(抗原物質10〜200μg)を腹腔内、皮下、筋肉内または(尾)静脈内に注射し、初回免疫から約4〜21日毎に1〜4回追加免疫を行い、さらに約1〜4週間後に最終免疫を行う。抗原量を多くして腹腔内注射することで、当該抗原溶液を、アジュバントを使用せずに投与することもできる。
例えば、抗原として合成ペプチドを用い、被免疫動物としてウサギを用いる場合は、合成ペプチド1mgを腹腔内、皮下又は筋肉内静脈内に注射し、初回免疫から約2週間毎に1〜4回追加免疫を行い、さらに約1週間後に全血採取を行う。
抗体価は追加免疫の約5〜10日後に採血して調べる。抗体価の測定は、後述の抗体価アッセイに準じ、通常行われる方法で行うことができる。最終免疫より約3〜5日後、該免疫動物から脾細胞を分離して抗体産生細胞を得る。
(ポリクローナル抗体の作製)
ポリクローナル抗体は、自体公知またはそれに準じる方法に従って製造することができる。
例えば、抗原自体、または抗原がペプチドの場合には当該ペプチドとキャリアータンパク質との複合体をつくり、温血動物、例えばウサギ(New Zealand Rabbit)に免疫を行ない、免疫動物から本発明の抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造することができる。
ポリクローナル抗体は、Smurf2のN末端から249番目のリン酸化スレオニン周辺配列を含むアミノ酸配列、好ましくはRTHLHXPPDLPEGYC(配列番号1:配列中のXは、リン酸化したスレオニンを示す)を持つ部分ペプチドを自体公知の方法により合成し、この部分ペプチドを抗原として用いることにより作製することができる。
ポリクローナル抗体は、免疫された温血動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、例えば抗体価アッセイを自体公知の方法により行えばよい。具体的には、Smurf2発現用HEK細胞もしくはSmurf2発現用HEK細胞由来のタンパク質を抗原とし、IC(免疫細胞化学)、IF(免疫蛍光法)、IHC(免疫組織化学)染色法により、結合活性を有する抗体産生細胞を選別することができる。ポリクローナル抗体の分離精製は、自体公知の方法により行うことができる。例えば、免疫グロブリンの精製法として従来既知の硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムを用いた塩析による分画法、ポリエチレングリコール(PEG)分画法、エタノール分画法、DEAEイオン交換クロマトグラフィー法、ゲル濾過法、アフィニティークロマトグラフィー法などを応用することで、容易に達成される。さらに、モノクローナル抗体が、IgGである場合には、プロテインA結合担体を用いたアフィニティークロマトグラフィー法により精製することが可能であり、簡便である。
他の製造方法として、例えば大腸菌ファージの表面に、抗体断片を提示した、いわゆるコンビナトリアル抗体ライブラリーを構築し、バイオパニングにより抗体をスクリーニングして所望の抗体を得ることができる。この場合は、動物への免疫作業を介さずに、所望の抗体をスクリーニングすることができる。
また、リン酸化Smurf2、又はSmurf2のN末端から249番目のスレオニン(Thr249)のリン酸化を認識するポリクローナル抗体の選択は、例えば次のような手法により確認することができる。上記の抗血清を、Smurf2発現用HEK細胞集団と、Smurf2を発現していないHEK細胞集団と反応させた後、標識2次抗体と反応させて、フローサイトメータで測定する。抗体と反応させていないSmurf2発現用HEK細胞の強度より高い強度で、かつ、Smurf2を発現していないHEK細胞集団より高い強度の蛍光域に含まれるものを、リン酸化Smurf2、又はSmurf2のN末端から249番目のスレオニン(Thr249)のリン酸化を特異的に認識できる抗体として選別することが可能である。
(モノクローナル抗体の作製)
モノクローナル抗体(以下、「MoAb」と略する場合がある)は、自体公知の方法、例えばケーラーとミルシュタインの方法(Kohler G, Milstein C. Continuous cultures of fused cells secretingantibody of predefined specificity. Nature 256, 495−497 (1975).)にしたがって作製することができる。
例えば、免疫動物から抗体産出細胞を含む組織(例えば、脾臓又はリンパ節)を回収し、該抗体産出細胞と自体公知の腫瘍細胞(例えば、骨腫瘍細胞)とを融合させることによってハイブリドーマを作製し、次いでハイブリドーマをクローン化した後、所望の抗体を産出しているハイブリドーマを選別し、このハイブリドーマの培養液から抗体を回収する。
骨髄腫細胞として、マウス、ラット、ヒトなど由来のものが使用され、例えばマウスミエローマP3X63−Ag8、P3X63−Ag8−U1、P3NS1−Ag4、SP2/o−Ag14、P3X63−Ag8.653などの株化骨髄腫細胞が例示される。骨髄腫細胞には免疫グロブリン軽鎖を産生しているものがあり、これを融合対象として用いると、抗体産生細胞が産生する免疫グロブリン重鎖とこの軽鎖とがランダムに結合することがあるので、特に免疫グロブリン軽鎖を産生しない骨髄腫細胞、例えばP3X63−Ag8.653やSP2/o−Ag14などを用いることが好ましい。
抗体産生細胞と骨髄腫細胞とは、同種動物、特に同系統の動物由来であることが好ましい。骨髄腫細胞の保存方法は自体公知の手法に従って行えばよく、例えばウマ、ウサギもしくはウシ胎児血清を添加した一般的な培地で継代培養したものについて凍結により保存される。また細胞融合には対数増殖期の細胞を用いるのが好ましい。
(ハイブリドーマの作製)
抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを作製する方法は、ポリエチレングリコール(PEG)を用いる方法、センダイウイルスを用いる方法、電気融合装置を用いる方法などが例示される。例えばPEG法の場合、約30〜60%のPEG(平均分子量1,000〜6,000)を含む適当な培地または緩衝液中に脾細胞と骨髄腫細胞を1〜10:1、好ましくは5〜10:1の混合比で懸濁し、温度約25〜37℃、pH6〜8の条件下で、約30秒〜3分間程度反応させればよい。反応終了後、細胞を洗浄しPEG溶液を除いて培地に再懸濁し、マイクロタイタープレート中に播種して培養を続ける。
融合操作後の細胞は選択培地で培養して、ハイブリドーマの選択を行う。選択培地は、親細胞株を死滅させ、融合細胞のみが増殖しえる培地であり、通常ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)培地が使用される。ハイブリドーマの選択は、通常融合操作の1〜7日後に、培地の一部、好ましくは約半量を選択培地と交換し、さらに2、3日毎に同様の培地交換を繰り返しながら培養することにより行う。顕微鏡観察によりハイブリドーマのコロニーが生育しているウェルを確認する。
生育しているハイブリドーマが所望の抗体を産生しているかどうかを知るには、培養上清を採取して抗体価アッセイを自体公知の方法により行えばよい。
さらに限界希釈法、軟寒天法、蛍光励起セルソーターを用いた方法などにより単一クローンを分離する。
ハイブリドーマが産生する抗体の免疫グロブリンサブクラスは、該ハイブリドーマを一般的な条件で培養し、その培養上清中に分泌された抗体を市販の抗体クラス・サブクラス判定用キットなどを用いて分析することにより知ることができる。
(モノクローナル抗体の取得方法)
ハイブリドーマからのMoAbの取得方法は、必要量やハイブリドーマの性状などによって適宜選択することができる。例えば、該ハイブリドーマを移植したマウス腹水から取得する方法、細胞培養により培養上清から取得する方法などが例示される。マウス腹腔内で増殖可能なハイブリドーマであれば、腹水から数mg/mLの高濃度のMoAbを得ることができる。インビボで増殖できないハイブリドーマは細胞培養の培養上清から取得する。
細胞培養によるMoAbの取得は、抗体産生量はインビボより低いが、マウス腹腔内に含まれる免疫グロブリンや他の夾雑物質の混入が少なく、精製が容易であるという利点がある。
抗体を、ハイブリドーマを移植したマウス腹腔内から取得する場合、例えば、予めプリスタン(2, 6, 10, 14−テトラメチルペンタデカン)などの免疫抑制作用を有する物質を投与したBALB/cマウスの腹腔内へハイブリドーマ(約10個以上)を移植し、約1〜3週間後に貯留した腹水を採取する。異種ハイブリドーマ(例えばマウスとラット)の場合には、ヌードマウス、放射線処理マウスを使用することが好ましい。
細胞培養上清から抗体を取得する場合、例えば、細胞維持に用いられる静置培養法の他に、高密度培養方法又はスピンナーフラスコ培養方法などの培養法を用い、当該ハイブリドーマを培養し抗体を含有する培養上清を得る。
腹水や培養上清からのMoAbの精製は、自体公知の方法により行うことができる。例えば、免疫グロブリンの精製法として従来既知の硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムを用いた塩析による分画法、ポリエチレングリコール分画法、エタノール分画法、DEAEイオン交換クロマトグラフィー法、ゲル濾過法などを応用することで、容易に達成される。
さらに、MoAbが、マウスIgGである場合には、プロテインA結合単体又は抗マウスイムノグロブリン結合単体を用いたアフィニティークロマトグラフィー法により精製することが可能であり、簡便である。
本発明において、「複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加された」とは、2個以上から20個以下のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたことをいう。この複数個のアミノ酸は、好ましくは2個以上から10個以下、より好ましくは2個以上から7個以下、更により好ましくは2個以上から5個以下である。また、この改変されたアミノ酸配列は、配列番号に記載のアミノ酸配列との相同性が、例えば約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、更により好ましくは約98%以上であるのがよい。
欠失、置換、付加又は挿入等の変異を導入する手段は自体公知であり、例えばウルマー(Ulmer)の技術(K. M. Ulmer,「Science」1983年, 第219巻,p.666-671)を利用できる。このような変異の導入において、該改変されたアミノ酸を含むポリペプチドの基本的な性質(物性、機能又は免疫学的活性等)を変化させないという観点から、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互置換は容易に想定される。さらに、これら利用できるポリペプチドは、その構成アミノ基又はカルボキシル基等を、例えばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない程度に改変が可能である。
(癌の診断剤)
本発明の癌の診断剤(以後、「本発明の診断剤」と略する場合がある)は、上述した本発明の抗体を有効成分として含む。
さらに、目的に応じて、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、液剤、注射剤(液剤、懸濁剤)または遺伝子療法に用いる形態などの各種の形態に、常法にしたがって調製することができる。
加えて、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤及び賦形剤も含むことができる。その他、安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、界面活性剤、及びpH調整剤等を適宜使用することもできる。
本発明者らは、これまでの知見及び下記の実施例により、Smurf2タンパク質のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化の程度(強度)が、ヒト癌患者の癌組織において、正常組織に比べて異なることを見出した。
このことから、癌患者の癌組織において、Smurf2タンパク質のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化を特異的に認識する抗体を用いた検出強度が、正常組織の検出強度と比較して低く又は高くなると考えられる。
さらに、Smurf2のN末端から249番目のリン酸化スレオニンの周辺アミノ酸配列(活性部位)を抗原として抗体を作製し、該抗体がSmurf2のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化を特異的に認識できることを確認して、さらに、該抗体により、グリオーマ細胞のSmurf2タンパク質のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化強度が、正常細胞のリン酸化検出強度と比較して、低いことを確認した。
よって、本発明の診断剤は、癌の診断に使用することができる。
被験者由来生体試料において、Smurf2タンパク質のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化を特異的に認識する抗体での検出シグナルが、正常組織と比較して低い場合、該被験者由来生体試料は癌組織由来の試料であると決定できる。
加えて、血液試料から調製した細胞、より好ましくは血液試料から調製した単核球において、Smurf2タンパク質のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化を特異的に認識する抗体での検出シグナルが、正常組織と比較して低い場合、該血液試料は癌組織由来の血液試料であると決定できる。
Smurf2タンパク質のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化を特異的に認識する抗体での検出シグナルが、正常組織と比較して低いか否かの判断は、正常組織や健常人由来の血液試料との比較により実施することができる。
(本発明の癌の診断方法)
本発明の診断剤を用いた癌の診断方法は、以下の方法に従って診断することができる。
被験者由来生体試料として、癌を有する疑いのある被験者、又は、癌患者から得た、生検組織若しくは血液試料から調製した細胞又は血液試料から調製した単核球を用いる。
被験者由来生体試料は、特に制限されず、例えば、血液、血液試料から調製された単核球、細胞、尿、唾液、髄液、生検組織または剖検材料などの生体生物由来の試料を例示できる。
本発明の診断剤を用いて、公知の方法により、被験者由来生体試料及び正常組織由来の対照試料における、N末端から249番目のスレオニンがリン酸化されたSmurf2タンパク質を検出し、より詳しくはリン酸化程度を測定する。
検出方法としては、特に限定されないが、例えば、ウェスタンブロッティングにより検出できる。より詳しくは、被験者由来生体試料及び正常組織由来の対照試料を可溶化し、ポリアクリルアミドSDS−PAGEで泳動分離し、ニトロセルロース膜に転写する。ニトロセルロース膜上のリン酸化Smurf2タンパク質を、1次抗体として本発明の診断剤を、2次抗体として、例えばHRP標識抗体等の化学標識抗体を用いた化学発光法により検出する。
被験者由来生体試料及び正常組織由来の対照試料で得られた検出シグナルのシグナル強度を比較し、被験者由来生体試料におけるシグナル強度が、対照試料におけるシグナル強度よりも弱い(低い)又は強い(高い)とき、被験者由来生体試料を得た被験者は、癌を有すると診断(判定)する。
(癌の治療剤のスクリーニング方法)
本発明の抗体は、癌の治療剤のスクリーニング方法に用いることができる。
癌の治療剤のスクリーニング方法は、Smurf2のリン酸化(特に、Smurf2のN末端から249番目のセリンがリン酸化)を促進又は抑制させる試験化合物を選択することを対象とする。
より詳しくは、試験化合物を癌組織由来の細胞に添加することで、本発明の抗体を用いたリン酸化のシグナル強度を増強又は抑制させる効果を有する該試験化合物をスクリーニングする。例えば、ある試験化合物がリン酸化のシグナル強度を増強させた場合には、該試験化合物は癌の治療剤になる。また、例えば、ある試験化合物がリン酸化のシグナル強度を抑制させた場合には、該試験化合物は癌の治療剤になる。
加えて、前記スクリーニング方法は、例えば、以下の工程を含む:
(1)癌組織由来の細胞に治療剤候補物質を添加して培養する工程;
(2)培養前及び培養後の細胞から調製した各試料について、本発明の抗体又は抗体断片を用いたリン酸化シグナル強度を比較する工程;及び
(3)培養前よりも培養後のシグナル強度を増強又は抑制させる効果を有する治療剤候補物質を癌の治療剤として選択する工程。
検出は、ウェスタンブロッティング等の自体公知の方法により行うことができる。検出シグナル強度は、検出シグナル像を目視により比較してもよいし、画像解析機器を用いて、シグナル強度を定量化した数値を比較してもよい。
加えて、上記のスクリーニング方法において、以下の測定方法を使用することができるが、特に限定されない。
1)RT-PCR法
2)免疫ブロット法
3)SAGE
4)抗体を使用した免疫沈降法
5)プルダウン法
6)ELISA
7)ウエスタンブロット法(ウェスタンブロッティング)
8)ハイブリダイゼーション
9)フローサイトメトリー
10)比重遠心法
11)細胞の染色標本
12)組織の染色標本
(治療剤候補物質)
上記スクリーニングで使用する治療剤候補物質としては任意の物質を使用することができる。治療剤候補物質の種類は特に限定されず、個々の低分子合成化合物(例えばsiRNA)でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。
治療剤候補物質はまた、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー又はコンビナトリアルライブラリーでもよい。化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー及びコンビナトリアルライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
(抗リン酸化Smurf2抗体の作製)
以下の方法により、抗リン酸化Smurf2抗体を作製した。
(抗原ペプチドの合成)
リン酸化Smurf2のN末端から249番目のリン酸化したスレオニン付近の配列から、抗原ペプチド配列{RTHLHXPPDLPEGYC(配列番号1):配列中のXは、リン酸化したスレオニンを示す}を設計した(参照:図1)。
(ポリクローナル抗体の作製)
GenScript社に依頼し、設計した抗原ペプチド配列からウサギ(New Zealand Rabbit)ポリクローナル抗体(以下、抗リン酸化Smurf2抗体と称する)を作製した。2匹のウサギ由来のポリクローナル抗体(抗体1、抗体2)を得た。
(ウェスタンブロッティングによる抗体の特異性評価1)
以下の方法により、実施例1で作製した抗リン酸化Smurf2抗体(抗体1、抗体2)のリン酸化Smurf2に対する特異性を評価した。より詳しくは、Smurf2のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化を特異的に認識するか否かを評価した。
(1)グレードIVのヒトグリオーマ細胞を、DMEM/F-12 medium培地中で、20 ng/mLのTGF(transforming growth factor)−β添加(TGF−β刺激)又は無添加(無刺激)の条件で、37℃、3時間培養した。
(2)培養後、遠心によりPBS緩衝液で洗浄した。
(3)PBS緩衝液を除き、lysis buffer (10mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.5 mM EDTA, 10 mM NaF, 1% Nonidet P-40, pH 7.4)緩衝液を加え、細胞を懸濁した。
(4)氷上で5分静置後、遠心により上清を分離した。分離した上清を回収し、細胞ライセート(可溶化液)を得た。
(5)タンパク質定量はBradford法(Bradford,1976)に従い、Bio−RadのProtein Assay kitを用いた。γ−グロブリン溶液0、5、10、15、20mg/mLを検量線に、精製水で10倍希釈した細胞ライセート10 μLと精製水で5倍希釈したDye Reagent(Bio−Rad)490 μLを混合し、室温で反応させた。595 nmの吸光度をBiotrak II plate reader(GE Healthcare Bio−Sciences社製)を用いて測定した。
(6)(5)の定量結果に基づき、細胞ライセートをSDS緩衝液でタンパク質量が10 μg/レーンとなるように調製し、10%ポリアクリルアミドSDS−PAGEで泳動分離し、ニトロセルロース膜に転写した。
(7)ニトロセルロース膜上のリン酸化Smurf2タンパク質を自体公知のウェスタンブロッティング法により検出した。1次抗体として、抗リン酸化Smurf2抗体(希釈倍率1:2000)を、2次抗体として、HRP標識抗ウサギIgG抗体(HRP−anti−rabbit IgG、Cell Signaling Technology社製)(希釈倍率1:4000)を用いた。
より詳しくは、タカラバイオ社のウェスタンブロッティング実験ハンドブック([online]、2014年8月、タカラバイオ株式会社、[平成29年3月14日検索]、〈http://www.takara-bio.co.jp/goods/catalog/pdf/western2.pdf〉)の方法に準じて、化学発光法で検出した。
ウェスタンブロッティングの結果を図2に示す。
図2から明らかなように、抗体1(図2の(1))及び抗体2(図2の(2))の双方において、TGF−β刺激を与えて培養した細胞(図2のB)では、約80kDaのリン酸化Smurf2のバンドシグナルが、無刺激で培養した細胞(図2のA)と比較して弱かった。
このことから、TGF−β刺激によりグリオーマ細胞のリン酸化Smurf2の脱リン酸化、より詳しくはリン酸化Smurf2タンパク質のN末端から249番目のリン酸化したスレオニンの脱リン酸化が促進されることを確認できた。
よって、本発明の抗リン酸化Smurf2抗体は、ヒトグリオーマ細胞のSmurf2のN末端から249番目のリン酸化したスレオニンのリン酸化(脱リン酸化)を特異的に検出・測定できることを確認した。
また、抗体1及び抗体2の双方において、上記のSmurf2の脱リン酸化を特異的に検出・測定できることを確認したが、特に抗体2においては、非特異的結合シグナルが検出されなかったため、以降の実施例では抗体2を使用した。
(ウェスタンブロッティングによる抗体の特異性評価2)
以下の方法により、実施例1で作製した抗リン酸化Smurf2抗体(抗体2)のリン酸化Smurf2に対する特異性を評価した。
(1)ラットグリオーマ細胞(C6細胞)を、aMEM培地中で、37℃、3時間培養した。
(2)培養後の細胞を、遠心によりPBS緩衝液で洗浄した。
(3)PBS緩衝液を除き、lysis buffer (10mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.5 mM EDTA, 10 mM NaF, 1% Nonidet P-40, pH 7.4)緩衝液を加え、細胞を懸濁した。
(4)氷上で5分静置後、遠心により上清を分離した。分離した上清を回収し、C6細胞ライセートを得た。
(5)正常ラット(系統名:Wistar)から摘出した脳約100 mgにlysis buffer (10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.5 mM EDTA, 10 mM NaF, 1% Nonidet P-40,pH 7.4)緩衝液を加え、ホモジナイザーを用いてホモジナイズし、氷上で1時間インキュベートした。その際、15分間に1回激しく撹拌した。遠心分離後、上清を回収し、正常ラット脳組織由来細胞ライセートを得た。
(6)タンパク質定量は、実施例2の方法に準じて測定した。
(7)(6)の定量結果に基づき、C6細胞ライセート及び正常ラット脳組織由来細胞ライセートを、それぞれSDS緩衝液でタンパク質量が10 μg/レーンとなるように調製し、10%ポリアクリルアミドSDS−PAGEで泳動分離し、ニトロセルロース膜に転写した。
(8)ニトロセルロース膜上のリン酸化Smurf2タンパク質を自体公知のウェスタンブロッティング法により検出した。1次抗体として、抗リン酸化Smurf2抗体(希釈倍率1:3000)を、2次抗体として、HRP標識抗ウサギIgG抗体(HRP−anti−rabbit IgG、Cell Signaling Technology社製)(希釈倍率1:4000)を用いた。
(9)ウェスタンブロッティングのポジティブコントロールとして、ニトロセルロース膜上のβ−アクチンタンパク質を検出した。1次抗体として、抗β−アクチン抗体(sc−47778、Santa Cruz社製)(希釈倍率1:2000)を、2次抗体として、HRP標識抗マウスIgG抗体(HRP−anti−mouse IgG、Cell Signaling Technology社製)(希釈倍率1:4000)を用いた。
ウェスタンブロッティングの結果を図3に示す。
図3から明らかなように、C6細胞では、1次抗体として抗リン酸化Smurf2抗体を用いたウェスタンブロッティング像において、約80 kDaのリン酸化Smurf2のバンドシグナル強度が、正常ラット脳組織由来細胞と比較して弱かった。一方、1次抗体として抗β−アクチン抗体を用いたウェスタンブロッティング像において、約40 kDaのβ−アクチンのバンドシグナル強度が、正常ラット脳組織由来細胞と比較して同等であった。
このことから、抗リン酸化Smurf2抗体でのシグナル強度の違いは、サンプル濃度に由来するものではなく、リン酸化Smurf2タンパク質の量によることが明らかになった。すなわち、抗リン酸化Smurf2抗体がリン酸化Smurf2を特異的に検出できることを確認した。
また、本発明の抗リン酸化Smurf2抗体により検出されるリン酸化Smurf2のシグナル強度について、健常者由来の正常組織サンプルと被験者由来の生体組織サンプルとを比較することにより、Smurf2のリン酸化の程度を判定できること、判定されたSmurf2のリン酸化の程度から癌の有無を判定(診断)できることを確認した。
よって、本発明の抗リン酸化Smurf2抗体は、リン酸化Smurf2の検出をすることにより、組織(特に、神経組織)における癌の有無、さらには癌の進行度を検出できる。
(癌の治療剤候補物質のスクリーニング)
以下の方法により、癌の治療剤候補物質のスクリーニングを行う。
スクリーニング対象の治療剤候補物質としては、化合物ライブラリーを使用する。
(1)癌組織由来の細胞に治療剤候補物質を添加して培養する。
(2)培養前及び培養後の細胞から細胞ライセートを調製する。
(3)各細胞ライセートから泳動用試料を調製し、ポリアクリルアミドSDS−PAGEで泳動分離し、ニトロセルロース膜に転写する。
(4)ニトロセルロース膜上のリン酸化Smurf2タンパク質を自体公知のウェスタンブロッティング法により検出する。1次抗体として抗リン酸化Smurf2抗体を、2次抗体としてHRP標識抗ウサギIgG抗体を用いる。
(5)本発明の抗体を用いたリン酸化シグナル強度を比較する。
培養前と比較して培養後の細胞由来試料における抗リン酸化Smurf2抗体による検出シグナル強度を強める又は弱める効果を有する治療剤候補物質を、癌の治療剤若しくは治療剤候補物質として選択することができる。
(総論)
本実施例により、以下の知見を得た。
(1)本実施例の抗体は、N末端から249番目のスレオニンがリン酸化したリン酸化Smurf2を検出できる(Smurf2のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化を認識することができる)。
(2)本実施例の抗体は、Smurf2のリン酸化の程度を測定することができる。
(3)本実施例の抗体は、Smurf2のリン酸化の程度から癌の有無、さらには癌の進行度を判定できる。
(4)TGF−β刺激によりグリオーマ細胞のリン酸化Smurf2の脱リン酸化、より詳しくはリン酸化Smurf2タンパク質のN末端から249番目のリン酸化したスレオニンの脱リン酸化が促進される。
本発明は、癌を診断できる抗体を提供することができる。

Claims (10)

  1. リン酸化Smurf2を認識する抗体又は抗体断片。
  2. Smurf2のN末端から249番目のスレオニンのリン酸化を認識する請求項1に記載の抗体又は抗体断片。
  3. 下記の群より選択されるポリペプチドを抗原とする請求項1又は2に記載の抗体又は抗体断片。
    (1)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド
    (2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加されたアミノ酸配列で表されるポリペプチド
    (3)配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと95%以上の相同性を有するポリペプチド
  4. Smurf2のアミノ酸配列のうち、RTHLHXPPDLPEGYC(配列番号1:配列中のXは、リン酸化したスレオニンを示す)からなる領域を、エピトープとして認識する請求項1〜3のいずれか1に記載の抗体又は抗体断片。
  5. Smurf2のRTHLHXPPDLPEGYC(配列番号1:配列中のXは、リン酸化したスレオニンを示す)に相当するアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として非ヒト動物に免疫感作して作製された請求項1〜4のいずれか1に記載の抗体又は抗体断片。
  6. 前記Smurf2が、ヒトのSmurf2である請求項1〜5のいずれか1に記載の抗体又は抗体断片。
  7. 請求項1〜6のいずれか1に記載の抗体又は抗体断片を含む癌の診断剤。
  8. 前記癌が、神経膠腫又は白血病である請求項7に記載の診断剤。
  9. 請求項1〜6のいずれか1に記載の抗体又は抗体断片を用いた癌の治療剤のスクリーニング方法。
  10. 以下の工程を含む請求項9に記載の癌の治療剤のスクリーニング方法:
    (1)癌組織由来の細胞に治療剤候補物質を添加して培養する工程;
    (2)培養前及び培養後の細胞から調製した各試料について、請求項1〜6のいずれか1に記載の抗体又は抗体断片を用いたリン酸化シグナル強度を比較する工程;及び
    (3)培養前よりも培養後のシグナル強度を増強又は抑制させる効果を有する治療剤候補物質を癌の治療剤として選択する工程。
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