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JP2018102282A - トリプトファンシンターゼβサブユニット遺伝子が導入された形質転換体及びその処理物、形質転換体の処理物の製造方法、並びに形質転換体の処理物を用いたL−カルボシステインの製造方法 - Google Patents

トリプトファンシンターゼβサブユニット遺伝子が導入された形質転換体及びその処理物、形質転換体の処理物の製造方法、並びに形質転換体の処理物を用いたL−カルボシステインの製造方法 Download PDF

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JP2018102282A JP2016256051A JP2016256051A JP2018102282A JP 2018102282 A JP2018102282 A JP 2018102282A JP 2016256051 A JP2016256051 A JP 2016256051A JP 2016256051 A JP2016256051 A JP 2016256051A JP 2018102282 A JP2018102282 A JP 2018102282A
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dna
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JP2016256051A
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周 中久保
Shu Nakakubo
周 中久保
高橋 均
Hitoshi Takahashi
均 高橋
友則 秀崎
Tomonori Hidesaki
友則 秀崎
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Mitsui Chemicals Inc
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Mitsui Chemicals Inc
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Abstract

【課題】形質転換体を用いて、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを立体選択的かつ効率的に製造することを可能とする。
【解決手段】Moorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼβサブユニットをコードする遺伝子を宿主細胞に導入した形質転換体、及びその処理物、該形質転換体の処理物の製造方法、並びに該形質転換体の処理物を用いたL−カルボシステインの製造方法を提供する。
【選択図】なし

Description

本開示は、トリプトファンシンターゼβサブユニット遺伝子が導入された形質転換体及びその処理物、該形質転換体の処理物の製造方法、並びに該形質転換体の処理物を用いたL−カルボシステインの製造方法に関する。
L−カルボシステインは上気道炎、急性気管支炎、気管支喘息などの疾患における去痰薬として使用されている。
L−カルボシステインを製造する方法として、モノクロロ酢酸とL−シスチンもしくはL−システインとを反応させる化学的な合成方法が知られている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、これらの製造方法は、原料のモノクロロ酢酸が有害な物質であるため、安全性の確保のための措置を要するという問題がある。
一方、モノクロロ酢酸を使用しない別の製造方法として、トリプトファンシンターゼの作用によりL−セリンとチオグリコール酸からL−カルボシステインを生合成する方法が報告されている。たとえば、特許文献3では、エシェリヒア・コリ(大腸菌)より精製された純粋なトリプトファンシンターゼを用いて、L−セリンとチオグリコール酸からL−カルボシステインを生成している。しかし、酵素を精製するには煩雑な操作が必要となり、経済的でない。このため、実用上の観点からは改善の余地がある。
特開平1−193245号公報 特開平7−267922号公報 特開昭58−187198号公報
本開示は、L−カルボシステインの立体選択的かつ効率的な製造が可能な、トリプトファンシンターゼβサブユニット遺伝子が導入された形質転換体及びその処理物、該形質転換体の処理物の製造方法、並びに該形質転換体の処理物を用いたL−カルボシステインの製造方法を提供することを課題とする。
本開示によれば、以下が提供される。
<1> 以下の(1)〜(3)に記載のDNAのうち少なくとも1つが導入された形質転換体。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列に、アミノ酸残基の欠失、アミノ酸残基の付加及びアミノ酸残基の置換のうち少なくとも1つを行ったアミノ酸配列を有し、欠失したアミノ酸残基数、付加されたアミノ酸残基数及び置換されたアミノ酸残基数の合計が1〜30個であり、かつL−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<2> 前記導入されたDNAが、以下の(4)〜(7)に記載のDNAのうち少なくとも1つである、<1>に記載の形質転換体。
(4)配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有するDNA;
(5)配列番号2に記載のヌクレオチド配列において、ヌクレオチドの欠失、ヌクレオチドの付加及びヌクレオチドの置換のうち少なくとも1つを行ったヌクレオチド配列を有し、欠失したヌクレオチドの数、付加されたヌクレオチドの数及び置換されたヌクレオチドの数の合計が1〜60個であり、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(6)配列番号2に記載のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を有し、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(7)配列番号2に記載のヌクレオチド配列と80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<3> 前記形質転換体の宿主細胞が大腸菌の細胞である、<1>又は<2>に記載の形質転換体。
<4> <1>〜<3>のいずれか一項に記載の形質転換体の処理物の存在下でL−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを生成させる工程を含む、L−カルボシステインの製造方法。
<5> 前記形質転換体の処理物が、前記形質転換体を加熱処理することにより得られたものである、<4>に記載の製造方法。
<6> 前記形質転換体の加熱処理の温度が55℃以上90℃以下である、<5>に記載の製造方法。
<7> <1>〜<3>のいずれか一項に記載の形質転換体を処理することを含む、形質転換体の処理物の製造方法。
<8> 前記処理が加熱処理である<7>に記載の製造方法。
<9> <7>又は<8>に記載の製造方法により得られる、形質転換体の処理物。
本開示によれば、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを効率的かつ高光学純度で製造することができる。
上述のとおり特許文献3に記載のL−カルボシステインの製造では、精製した酵素を用いており、酵素を精製するのに煩雑な操作が必要となっていた。これに対して、本発明者等は酵素を純粋な状態に精製しなくても、酵素を生産した微生物を用いてL−カルボシステインを製造することが可能かどうかについて検討を行った。その結果、本発明者等は、一般的なトリプトファンシンターゼ遺伝子で宿主細胞を形質転換して、得られた形質転換体を用いてL−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとを基質にL−カルボシステインを製造させた場合、得られたL−カルボシステインの光学純度が十分には高くないことを見いだした。より具体的には、医薬品用途に用いられるL−カルボシステインは高光学純度が要求されるが、上記の方法で合成したL−カルボシステインの光学純度は満足のいくものではなかった。L体選択性は高いことが知られているトリプトファンシンターゼを用いた酵素反応であるにも関わらず、光学純度が低下した理由は、宿主細胞が元々保有する別の酵素(内性酵素)の働きによりD−カルボシステインが副生したためであると考えられる。このような、L−カルボシステインの生物的プロセスによる生産における、光学純度の低下は、本発明者等が初めて見いだしたものである。
この、光学純度の低下という問題に対して、本発明者等は、D−カルボシステインを合成する内性酵素を選択的に熱失活させ、L−カルボシステイン合成反応において光学純度を向上させることを目的に、L−カルボシステイン合成反応の前に、形質転換体を加熱により前処理することを検討した。しかしながら、実際に加熱による前処理を実施したところ、加熱による前処理により形質転換体のD−カルボシステイン合成活性は低下するものの、トリプトファンシンターゼが担うL−カルボシステイン合成活性も著しく低下し、効率的なL−カルボシステイン製造が困難であることが明らかとなった。
以上の研究により、本発明者等は、一般的なトリプトファンシンターゼ遺伝子が導入された形質転換体を用いてL−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを製造しようとしても、L−カルボシステインの製造効率と立体選択性とを両立させることは困難であることを見いだした。
しかしながら、本発明者等は鋭意研究の結果、驚くべきことに、Moorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼβサブユニットをコードする遺伝子を宿主細胞に導入した形質転換体を熱処理して形質転換体の処理物を得て、該処理物を用いてL−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを生産させた場合、立体選択的かつ効率的にL−カルボシステインが得られることを発見した。これは、該特定のトリプトファンシンターゼβサブユニットの有する高い熱安定性及びL−カルボシステイン合成活性のためと考えられる。
以下、実施形態について詳細に説明する。
<形質転換体>
本開示によれば、以下の(1)〜(3)に記載のDNAのうち少なくとも1つが宿主細胞に導入された形質転換体が提供される。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して、アミノ酸残基の欠失、アミノ酸残基の付加及びアミノ酸残基の置換のうち少なくとも1つを行ったアミノ酸配列を有し、欠失したアミノ酸残基数、付加されたアミノ酸残基数及び置換されたアミノ酸残基数の合計が1〜30個であり、かつL−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
本開示によれば、また、以下の(4)〜(7)に記載のDNAのうち少なくとも1つが宿主細胞に導入された形質転換体も提供される。
(4)配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有するDNA;
(5)配列番号2に記載のヌクレオチド配列に対して、ヌクレオチドの欠失、ヌクレオチドの付加及びヌクレオチドの置換のうち少なくとも1つを行ったヌクレオチド配列を有し、欠失したヌクレオチドの数、付加されたヌクレオチドの数及び置換されたヌクレオチドの数の合計が1〜60個であり、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(6)配列番号2に記載のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を有し、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(7)配列番号2に記載のヌクレオチド配列と80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
以下、形質転換体の詳細について説明する。
1.導入するDNA
形質転換体を作製するために宿主細胞に導入するDNAとしては、上述の(1)〜(7)を挙げることができる。以降の説明では、導入の対象となる、(1)〜(7)のDNAを本開示に係るDNAともいう。なお、本開示において「導入」とは、細胞外からDNAを細胞内に取り込ませることをいう。例えば、所望のDNAを組み込んだベクター(例えばプラスミド)を細胞外から細胞内に取り込ませることができる。言い換えると、所望のDNAを導入した細胞とは、外来性(exogenous)である所望のDNAを含む細胞(組換え菌)であるともいうことができる。
配列番号1はMoorella thermoaceticaから得られたトリプトファンシンターゼのβサブユニット(GenBanak accession number YP_430193)のアミノ酸配列であり、配列番号2はその遺伝子のヌクレオチド配列である。
細菌のトリプトファンシンターゼはα2β2の四量体であり、βサブユニット単独ではその活性が1/10以下となることが知られている。一方、本開示では、Moorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼのβサブユニットが単独でも高いL−カルボシステイン合成活性を有し、αサブユニットを共発現させなくともL−カルボシステインの効率的な製造に利用可能であることを見出した。本開示に係る製造方法においては、Moorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼのβサブユニット遺伝子のみを導入することにより得られる形質転換体を用いてもよいが、Moorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼのβサブユニットとMoorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼのαサブユニットを共発現する形質転換体を用いてもよい。
なお、本開示において、「Moorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼのβサブユニット」とは、Moorella thermoaceticaから得られた配列番号1で表されるβサブユニットだけでなく、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性(本明細書中では、L−カルボシステイン合成活性ともいう)を保持する程度に改変を加えたアミノ酸配列を有するその変異体も含む概念である。また、本開示においてはDNAの一方の鎖状の配列に焦点を当てて説明が行われるが、そのような説明においても、DNA鎖は一本鎖の状態でなければならないわけではなく、その相補鎖と共に二本鎖を形成した状態で存在してよい。
本開示において、「トリプトファンシンターゼ」は、L−カルボシステイン合成活性を有していればよく、構成するサブユニットはβサブユニット単独であってもよく、αサブユニットとβサブユニットを含む複合体を形成していてもよい。そのような複合体は、α2β2の複合体であってもよい。
本開示における「L−カルボシステイン合成活性」とは、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する活性のことを言う。
L−カルボシステインは一般名であり、S−カルボキシメチル−L−システインと呼ばれることもある。L−カルボシステインの構造を以下に示す。
本明細書中の、ヌクレオチドの欠失、付加又は置換は、部位特異的変異導入法により実施することができる。部位特異的変異導入法については、(Nucleic Acid Res., 10, pp. 6487 (1982); Nucleic Acid Res., 13, pp. 4431 (1985); Methods in Enzymol., 100, pp. 448(1983); Molecular Cloning 2ndEdt., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989); PCR A Practical Approach IRL Press pp. 200 (1991); Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley &;Sons (1987-1997); Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 79, pp. 6409 (1982); Gene, 34, 315 (1985); Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 82, pp.488 (1985))などを参照できる。アミノ酸残基の欠失、付加又は置換は、元々のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を、該欠失、付加又は置換後のアミノ酸配列に対応するヌクレオチド配列へと、部位特異的変異導入法を用いて変更することにより、行うことができる。
上記(2)のDNAにおいて、欠失、付加又は置換されるアミノ酸残基の数は特に限定されないが、部位特異的変異導入法により欠失、付加又は置換できる程度の数であることが好ましく、例えば1〜数十個であってもよく、1〜30個であってもよく、1〜20個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよく、1〜3個であってもよく、1個又は2個であってもよく、1個であってもよい。(2)のDNAにおいては、アミノ酸残基欠失、アミノ酸残基付加及びアミノ酸残基置換のうちいずれかのみを含んでいてもよく、アミノ酸残基欠失、アミノ酸残基付加及びアミノ酸残基置換のうち2つ以上を含んでいてもよく、アミノ酸残基欠失、アミノ酸残基付加及びアミノ酸残基置換のうち全てを含んでいてもよい。なお、欠失、付加及び置換のうち2つ以上が含まれている場合は、上記のアミノ酸残基数の範囲は、欠失したアミノ酸残基数、付加されたアミノ酸残基数及び置換されたアミノ酸残基数の合計数を指す。
欠失したアミノ酸残基数は1〜30個であってもよく、1〜20個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよく、1〜3個であってもよく、1個又は2個であってもよく、1個であってもよい。付加したアミノ酸残基数は1〜30個であってもよく、1〜20個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよく、1〜3個であってもよく、1個又は2個であってもよく、1個であってもよい。置換したアミノ酸残基数は1〜30個であってもよく、1〜20個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよく、1〜3個であってもよく、1個又は2個であってもよく、1個であってもよい。
また、上記(3)のDNAとして記載のとおり、本開示においては、配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを用いることができる。ここで、前記配列同一性は、95%以上であってもよく、97%以上であってもよく、98%以上であってもよく、99%以上であってもよい。
アミノ酸配列及びヌクレオチド配列の配列同一性は、FASTA programやBLAST program(いずれもデフォールトパラメータ)などを用いて、例えば、インターネット上で求めることができる。
上記(1)〜(3)のDNAにおいて、そのDNA配列は所望のアミノ酸配列中の各アミノ酸残基に対応するコドンを用いて求めることができる。アミノ酸残基の種類によっては、縮重により複数のコドンが対応する場合もあるが、その場合はどのコドンを用いてもよい。ただし、宿主細胞内において高効率で発現させる観点からは、宿主細胞における使用頻度がより高いコドンを用いることが好ましい。
(5)のDNAにおいて、欠失、付加又は置換されるヌクレオチドの数は特に限定されないが、部位特異的変異導入法により欠失、付加又は置換できる程度の数であることが好ましく、例えば1〜数十個であってもよく、1〜60個であってもよく、1〜40個であってもよく、1〜20個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよく、1〜3個であってもよく、1個又は2個であってもよく、1個であってもよい。(5)のDNAにおいては、ヌクレオチド欠失、ヌクレオチド付加及びヌクレオチド置換のうちいずれか(例えばヌクレオチド置換)のみを含んでいてもよく、ヌクレオチド欠失、ヌクレオチド付加及びヌクレオチド置換のうち2つ以上を含んでいてもよく、ヌクレオチド欠失、ヌクレオチド付加及びヌクレオチド置換のうち全てを含んでいてもよい。なお、欠失、付加及び置換のうち2つ以上が含まれている場合は、上記のヌクレオチド数の範囲は、欠失したヌクレオチド数、付加されたヌクレオチド数及び置換されたヌクレオチド数の合計数を指す。
欠失したヌクレオチドの数は1〜60個であってもよく、1〜40個であってもよく、1〜20個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよく、1〜3個であってもよく、1個又は2個であってもよく、1個であってもよい。挿入したヌクレオチドの数は1〜60個であってもよく、1〜40個であってもよく、1〜20個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよく、1〜3個であってもよく、1個又は2個であってもよく、1個であってもよい。置換したヌクレオチドの数は1〜60個であってもよく、1〜40個であってもよく、1〜20個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよく、1〜3個であってもよく、1個又は2個であってもよく、1個であってもよい。欠失や挿入はフレームシフトを伴わないことが好ましい。
また、(6)のDNAにおいて、ストリンジェントな条件でのハイブリダイゼーションとは以下のようにして行うことができる。
ハイブリダイゼーションでは、配列番号2に記載のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列又はその部分配列からなるDNAをプローブとして、対象とするDNAに対してハイブリダイゼーションを行い、ストリンジェントな条件下で洗浄後にプローブが対象とする核酸に有意にハイブリダイズしているかを確認する。プローブの長さは例えば連続した20ヌクレオチド以上、好ましくは50ヌクレオチド以上、さらに好ましくは100ヌクレオチド以上、さらに好ましくは200ヌクレオチド以上を用いることができる。配列番号2に記載のヌクレオチド配列と同じヌクレオチド長を有し、全長に渡って相補的なDNAをプローブとして用いることも好ましい。ハイブリダイゼーションのための条件とは、特定のハイブリダイゼーションシグナルを検出するために当業者が一般的に用いている条件を例示できる。好ましくは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とストリンジェントな洗浄条件を意味する。例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mlニシン精子DNAを含む溶液中でプローブとともに55℃で一晩保温するという条件等が挙げられる。ついでフィルターを0.2×SSC中42℃で洗浄するなどを例示することができる。ストリンジェントな条件としては、フィルターの洗浄工程における0.1×SSC、50℃の条件であり、更にストリンジェントな条件としては、同工程における0.1×SSC、65℃の条件を挙げることができる。
(7)のDNAにおいては、配列番号2に記載のヌクレオチド配列との配列同一性は80%以上であり、例えば85%以上であってもよく、90%以上であってもよく、95%以上であってもよく、97%以上であってもよく、98%以上であってもよく、99%以上であってもよい。このような変異の中には、コドンの縮重のためにアミノ酸残基の変化をもたらさないサイレントな変異が含まれていてもよい。
上記の(2)、(3)及び(5)〜(7)に記載の程度の、配列上の差異が含まれている場合であっても、コードされるトリプトファンシンターゼβサブユニットはL−カルボシステインの立体選択的かつ効率的な製造が可能である。(2)、(3)及び(5)〜(7)のいずれかのDNAにコードされるトリプトファンシンターゼβサブユニットは、0.05mM ピリドキサールリン酸(PLP)を含む100mMリン酸緩衝液(pH8.0)における70℃30分の熱処理の後に残存するL−カルボシステイン合成活性が熱処理前の80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましい。L−カルボシステイン合成活性は、650mMのL−セリン、50mMのチオグリコール酸アンモニウム及び0.025mMのピリドキサールリン酸を含む50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)0.5mLに、酵素液0.5mLを加え、45℃で30分間反応させ、生成したL−カルボシステインの量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定することで測定できる。活性は、1分間あたりのL−カルボシステインの生成量により評価できる。
(2)、(3)及び(5)〜(7)のいずれかのDNAにコードされるトリプトファンシンターゼβサブユニットは、熱処理前のL−カルボシステイン合成活性が、同じ質量の配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するβサブユニットが熱処理前に有するL−カルボシステイン合成活性に対して70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがより好ましい。
なお、(1)〜(3)のDNAにおいては、(1)〜(3)の各々に規定されたアミノ酸配列のN末端及びC末端のうち少なくとも一方にシグナル配列を有していてもよいし有していなくてもよい。シグナル配列の長さは3〜70アミノ酸残基であってもよく、5〜50アミノ酸残基であってもよく、10〜40アミノ酸残基であってもよい。同様に、(4)〜(7)のDNAにおいても、各々に規定されたヌクレオチド配列の5’末端及び3’末端の少なくとも一方に、シグナル配列をコードするヌクレオチド配列をさらに有していてもよい。この付加的なヌクレオチド配列の長さは9〜210ヌクレオチド長であってもよく、15〜150ヌクレオチド長であってもよく、30〜120ヌクレオチド長であってもよい。シグナル配列の例としてはOmpAシグナル配列などがある。
なお、Moorella thermoaceticaから得られたトリプトファンシンターゼのαサブユニットのアミノ酸配列は配列番号10に記載のアミノ酸配列であり、その遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号11で表される配列である。Moorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼのβサブユニットと組み合わせて用いることができるMoorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼのαサブユニットのアミノ酸配列は、配列番号10に記載のアミノ酸配列に限らず、Moorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼのβサブユニットと組み合わせて用いることでL−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有する範囲内で、以下のような改変を有するアミノ酸配列であってもよい。
具体的には、Moorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼのαサブユニットのアミノ酸配列は、配列番号10に記載のアミノ酸配列に対して、アミノ酸残基の欠失、アミノ酸残基の付加及びアミノ酸残基の置換のうち少なくとも1つを行ったアミノ酸配列であって、欠失したアミノ酸残基数、付加されたアミノ酸残基数及び置換されたアミノ酸残基数の合計が1〜30個であるアミノ酸配列であってもよい。欠失、付加又は置換されるアミノ酸残基の数は特に限定されないが、例えば、1〜30個であってもよく、1〜20個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよく、1〜3個であってもよく、1個又は2個であってもよく、1個であってもよい。Moorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼのαサブユニットのアミノ酸配列は、配列番号10に記載のアミノ酸配列と比較して、アミノ酸残基欠失、アミノ酸残基付加及びアミノ酸残基置換のうちいずれかのみを含んでいてもよく、アミノ酸残基欠失、アミノ酸残基付加及びアミノ酸残基置換のうち2つ以上を含んでいてもよく、アミノ酸残基欠失、アミノ酸残基付加及びアミノ酸残基置換のうち全てを含んでいてもよい。なお、欠失、付加及び置換のうち2つ以上が含まれている場合は、上記のアミノ酸残基数の範囲は、欠失したアミノ酸残基数、付加されたアミノ酸残基数及び置換されたアミノ酸残基数の合計数を指す。
欠失したアミノ酸残基数は1〜30個であってもよく、1〜20個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよく、1〜3個であってもよく、1個又は2個であってもよく、1個であってもよい。付加したアミノ酸残基数は1〜30個であってもよく、1〜20個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよく、1〜3個であってもよく、1個又は2個であってもよく、1個であってもよい。置換したアミノ酸残基数は1〜30個であってもよく、1〜20個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよく、1〜3個であってもよく、1個又は2個であってもよく、1個であってもよい。
また、Moorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼのαサブユニットのアミノ酸配列は、配列番号10に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。前記配列同一性は、95%以上であってもよく、97%以上であってもよく、98%以上であってもよく、99%以上であってもよい。
また、Moorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼのαサブユニットをコードするヌクレオチド配列は、配列番号11に記載のヌクレオチド配列に限定されず、配列番号11に記載のヌクレオチド配列に対して以下のような改変を加えた改変配列であってもよい。具体的には、Moorella thermoacetica由来トリプトファンシンターゼのαサブユニットをコードするヌクレオチド配列は、配列番号11に記載のヌクレオチド配列に対して、ヌクレオチドの欠失、ヌクレオドの付加及びヌクレオチドの置換のうち少なくとも1つを行ったヌクレオチド配列であって、欠失したヌクレオチドの数、付加されたヌクレオチドの数及び置換されたヌクレオチドの数の合計が1〜60個であり、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であってもよく、配列番号11に記載のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列であってもよく、配列番号11に記載のヌクレオチド配列と80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列であってもよい。ここで、欠失、付加及び置換の程度の例や好ましい範囲、ストリンジェントな条件、並びに配列同一性の程度や好ましい範囲については、上記(5)〜(7)のDNAの説明において説明した事項を、配列番号2を配列番号11と読み替えて適用できる。
2.導入のためのベクター
宿主細胞に導入する本開示に係るDNAは、例えばベクターに組み込まれた状態で宿主細胞に導入することができる。前記宿主細胞に導入するDNAを含むベクターを、以降の説明では本開示に係る組換えDNAと称する。
本開示に係る組換えDNAは、本開示に係るDNA((1)〜(7)に記載のDNAのうちの少なくとも1つ)をベクターに組込むことにより得ることができる。ベクターはファージベクターでもプラスミドでもよい。
クローニングする際のベクターとしては、宿主細胞内で自律的に増殖し得るファージ又はプラスミドから遺伝子組換え用として構築されたものが適している。ファージとしては、例えばEscherichia coliを宿主細胞とする場合にはLambda gt10、Lambda gt11などが例示することができる。また、プラスミドとしては、例えばEschenchia coliを宿主細胞とする場合には、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(Boehringer Mannheim社製)、pKK233−2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX−1(Promega社製)、pQE−8、pQE−30(QIAGEN社製)、pBluescriptII SK(+)、pBluescriptII SK(−)(Stratagene社製)、pET−3(Novagen社製)、pUC18、pSTV28、pSTV29、pUC118(宝酒造社製)等を例示することができる。
ベクターは、本開示に係るDNAを転写させるためのプロモーターを有していてもよい。プロモーターとしては、宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PSEプロモーター等の、Escherichia coliやファージ等に由来するプロモーターを挙げることができる。またtacプロモーター、lacT7プロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。更にバチルス属細菌中で発現させるためにNpプロモーター(特公平8−24586号公報)なども用いることができる。
ベクターは、リボソーム結合配列を含んでいてもよい。リボソーム結合配列としては、宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよいが、シャイン−ダルガノ(Shine−Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18ヌクレオチド)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。
転写及び翻訳を効率的に行うため、タンパク質のN末端は発現ベクターのコードする別のタンパク質のN末端部分に融合されていてもよい。
目的とするタンパク質の発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子直下に転写終結配列を配置することが望ましい。
クローニングの際、前記のようなベクターを、挿入DNAの切断に使用した制限酵素で切断してベクターDNA断片を得ることができるが、必ずしも該DNAの切断に使用した制限酵素と同一の制限酵素を用いる必要はない。該DNA断片とベクターDNA断片とを結合させる方法は、公知のDNAリガーゼを用いる方法であればよく、例えば該DNA断片の付着末端とベクターDNA断片の付着末端とのアニーリングの後、適当なDNAリガーゼの使用により該DNA断片とベクターDNA断片との組換えDNAを作製する。必要に応じて、アニーリングの後、微生物等の宿主細胞に移入して生体内のDNAリガーゼを利用し組換えDNAを作製することもできる。
本開示に係る組換えDNAを宿主細胞に導入するには、Sambrook,J.,et.al.,”Molecular Cloning A Laboratory Manual, 3rd Edition”,Cold Spring Harbor Laboratory Press,(2001)等に記載されている分子生物学、生物工学及び遺伝子工学の分野において公知の一般的な方法を利用することができる。例えばコンピテントセルを用いる方法や、エレクトロポレーションを用いる方法が挙げられる。
3.形質転換体の作製及び利用
本開示に係る形質転換体は、本開示に係るDNA又は本開示に係る組換えDNAを含む形質転換体である。
形質転換体作製に使用する宿主細胞としては、組換えDNAが安定かつ自律的に増殖可能で、さらに外来性DNAの形質が発現できるものであればよい。宿主細胞は、微生物の細胞であることが好ましい。前記微生物の細胞は、真核生物(例えば酵母)の細胞であっても、原核生物の細胞であってもよい。宿主細胞の例として大腸菌(Escherichia coli)の細胞が挙げられるが、特に大腸菌の細胞に限定されるものではなく、エシェリヒア属細菌の細胞、枯草菌(Bacillus subtilis)などのバチルス属細菌の細胞、シュードモナス属細菌などの細菌類の細胞、サッカロミセス属、ピキア属、カンジダ属などの酵母類の細胞、アスペルギルス属などの糸状菌類の細胞などが使用できる。
宿主細胞に組換えDNAを移入する方法としては、例えば宿主細胞が大腸菌の場合には、カルシウム処理によるコンピテントセル法やエレクトロポレーション法などが用いることができる。このようにして得られた形質転換体は、培養されることにより、多量のトリプトファンシンターゼのβサブユニットを安定に生産することができる。
本開示に係るDNAを保有する組換えDNAは、形質転換体から取り出すことができ、他の微生物に移入させることも可能である。また、本開示に係るDNAを保有する組換えDNAを鋳型として用いて、PCRによりトリプトファンシンターゼのβサブユニットをコードするDNA断片を増幅し、制限酵素等で処理した後、他のベクターDNA断片と結合させ、宿主細胞に移入することも容易に実施できる。
培地としては、炭素源、窒素源、無機物及びその他の栄養素を適量含有する培地ならば、合成培地又は天然培地のいずれでも使用できる。培養は前記培養成分を含有する液体培地中で、振とう培養、通気攪拌培養、連続培養又は流加培養などの通常の培養方法を用いて行うことができる。
培養条件は、培地の種類、培養方法により適宜選択すればよく、宿主細胞が生育しL−カルボシステイン合成活性を有するタンパク質を産生できる条件であれば特に制限はない。
例えば、好気条件下でpHは6以上8以下、温度は25℃以上40℃以下の範囲内でpHと温度を適切に制御しながら培養した場合、培養に必要な時間は48時間以内である。
形質転換体が産生したトリプトファンシンターゼのβサブユニットは、培養物中の形質転換体を含む培養液をそのまま採取して利用することもできる。また、得られた培養物から濾過又は遠心分離などの手段により形質転換体を採取して利用することもできる。採取した形質転換体を機械的方法又はリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また必要に応じてEthylenediaminetetraacetic acid(EDTA)等のキレート剤及び又は界面活性剤を添加してトリプトファンシンターゼのβサブユニットを可溶化し、溶液として分離採取することができる。
<形質転換体の処理物>
前記形質転換体を処理することにより、形質転換体の処理物を得ることができる。形質転換体の処理方法としては、L−カルボシステイン合成活性を大幅に低減させず、かつ形質転換体の内性D−カルボシステイン合成活性を低減又は消失させることにより形質転換体によるL−カルボシステイン合成についての立体選択性を向上させることが可能であればどのような方法でも構わない。具体的には、加熱処理、有機溶媒処理、酸処理又はアルカリ処理などの方法を挙げることができる。また、これら2つ以上の方法を組み合わせて行うこともできる。
一実施形態では、前記処理はタンパク質変性処理である。本開示に係るDNAにコードされるトリプトファンシンターゼは、立体構造が安定しているため、タンパク質変性処理を行っても活性の減少割合が内性D−カルボシステイン合成活性の減少割合よりも小さく、形質転換体によるL−カルボシステイン合成についての立体選択性がタンパク質変性処理により向上する。
加熱処理の条件としては、たとえば、10分間〜6時間程度、攪拌しながら、55℃〜90℃、好ましくは60℃〜85℃、より好ましくは65℃〜80℃で保温する方法が挙げられる。加熱処理の温度は、55℃〜90℃でもよく、60℃〜85℃でもよく、65℃〜85℃でもよく、70℃〜80℃でもよい。また、加熱処理の時間は、15分間〜2時間であってもよく、20分間〜1時間であってもよい。加熱処理が、L−カルボシステイン合成活性が失われない範囲で行われる限りは、より高い温度及び/又はより長い時間の加熱処理によって、光学活性はより向上しうる。
また、加熱処理時に、ピリドキサールリン酸(以下、PLPと呼ぶことがある)を添加することによりトリプトファンシンターゼβサブユニットの酵素活性が更に安定化することがある。ピリドキサールリン酸の処理液中の濃度としては通常、0.01mM〜100mM、好ましくは0.01mM〜10mMである。
前記処理物の存在下で、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとを反応させることにより、D−カルボシステインの副生を抑制しながら効率よくL−カルボシステインを製造することができる。
前記処理物は、処理された形質転換体の細胞を含む培養液の形態であっても、濾過又は遠心分離などの手段により採取された処理済み形質転換体の形態であっても、機械的方法又はリゾチームなどの酵素的方法による形質転換体の破壊物の形態であっても、必要に応じてEDTA等のキレート剤及び又は界面活性剤を添加してトリプトファンシンターゼのβサブユニットを可溶化した溶液の形態であってもよい。
前記処理物は、必要なL−カルボシステイン合成活性を有しつつも、D−カルボシステインの合成活性が抑制あるいは失活している。前記処理物は、酵素の単離プロセスを経て得られる精製トリプトファンシンターゼとは異なる。また、本開示に係るDNAがコードする特定のトリプトファンシンターゼβサブユニットとは異なる、一般的なトリプトファンシンターゼを発現する細胞に対して前記処理を行った場合、L−カルボシステイン合成活性は大きく損なわれる。従って、本開示に係る処理物は、このような一般的なトリプトファンシンターゼを発現する細胞の処理物とも異なる。
<L−カルボシステインの製造方法>
前記形質転換体処理物の存在下でL−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとを反応させることによりL−カルボシステインを製造することができる。
L−カルボシステインの製造は、pH6.0〜9.0、温度20〜70℃で振盪、もしくは攪拌条件下で行うのが好ましい。反応開始時もしくは反応途中において、反応液のpHを6.0〜9.0に維持するためアルカリを使用することができる。反応液に添加するアルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の他、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、リン酸二カリウム、リン酸二ナトリウム、ピロリン酸カリウム、アンモニアなど水に溶解して、液性を塩基性とするものであればよい。なお、pHは6.5〜8.5であってもよい。また、温度は25℃〜60℃であってもよい。
上記製造は、例えば、空気雰囲気下で行ってもよく、脱酸素雰囲気下で行ってもよい。脱酸素雰囲気は、不活性ガスによる置換、減圧、沸騰やこれらを組み合わせることにより達成できる。少なくとも、不活性ガスによる置換、即ち、不活性ガス雰囲気を用いるのが好適である。上記不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、炭酸ガス等を挙げることができ、好ましくは窒素ガスである。
形質転換体処理物の使用量は、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとの反応が十分に進行すれば特に制限されないが、通常L−セリン1gに対して少なくても10unit、好ましくは50unit以上のL−カルボシステイン合成活性となる量を添加することが望ましい。形質転換体処理物の添加時期は、反応開始時に一括で添加しても構わないし、反応中に分割して又は連続して添加しても構わない。
反応液中のL−セリンの濃度は、100mM以上であり、好ましくは0.5M以上2.5M以下である。L−セリンの添加時期は、反応開始時に一括添加しても、反応の進行に伴い分割して又は連続して添加してもよい。
チオグリコール酸はチオグリコール酸の塩の形態で使用することもできる。たとえば、チオグリコール酸ナトリウムもしくはチオグリコール酸アンモニウムが挙げられる。チオグリコール酸若しくはその塩の濃度は、100mM以上であり、好ましくは0.5M以上2.5M以下である。チオグリコール酸若しくはその塩の添加時期は反応開始時に一括添加しても、反応の進行に伴い分割して又は連続して添加してもよい。
トリプトファンシンターゼはPLP依存性の酵素であり、反応液にはPLPを添加するのが好ましい。反応液中のPLPの濃度としては通常、0.01mM〜100mM、好ましくは0.01mM〜10mMである。
反応液の媒体としては、水もしくは水性媒体、有機溶媒又は水もしくは水性媒体と有機溶媒の混合液が用いられる。水性媒体としては、例えばリン酸緩衝液、HEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N−エタンスルホン酸)緩衝液、トリス[トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン]塩酸緩衝液等の緩衝液が用いられる。有機溶媒としては反応を阻害しないものであればいずれでもよく、例えばアセトン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、キシレン、メタノール、エタノール、ブタノール等が用いられる。
以下、実施形態を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、L−カルボシステイン及びD−カルボシステインは高速液体クロマトグラフィーにより定量した。定量のための分析条件及び、酵素活性の測定方法は次のとおりである。
(1)L−カルボシステインの光学純度の定量のための分析条件
(1) の分析は主に、L−カルボシステインの光学純度の測定を目的とする。光学純度は(1)に示す分析条件下で得られたクロマトグラムにおけるL−カルボシステインのピークと、D−カルボシステインのピークのピーク面積値から(L−カルボシステイン−Dカルボシステイン)/(L−カルボシステイン+D−カルボシステイン)の比の値(鏡像体過剰率:e.e.)として算出した。
カラム;CROWNPAK CR(+) 5μm、4.0×150mm(商品名、株式会社ダイセル)
カラム温度;25℃
ポンプ流速;0.2ml/min
溶離液;HClO aq.(pH1.5)/メタノール=85/15(v/v)
HClO aq.(pH1.5):約60%HClO(和光純薬工業)6g
をイオン交換水で1Lに希釈し、約70%HClOでpH1.5に調整
検出;UV240nm
(2)L−カルボシステインの定量のための分析条件
(2) の分析は主に、酵素活性又は反応収率の測定を目的とする。反応収率は、(2)に示す分析条件下で得られたクロマトグラムにおけるL−カルボシステインのピークのピーク面積値から算出した。具体的には既知量のL−カルボシステインのクロマトグラムからL−カルボシステイン量とピーク面積値との間の検量線を作成し、測定対象のサンプル中のL−カルボシステイン量を検量線を参照して求めた。反応収率(モル収率)は、測定対象のサンプル中のL−カルボシステインのモル数の、反応に用いたL−セリンのモル数に対する比の値として求めることができる。
カラム;Inertsil ODS−3 5μm、4.6×250mm(商品名、ジーエルサイエンス株式会社)
カラム温度;50℃
ポンプ流速;1.0ml/min
溶離液;3mmol/lヘプタンスルホン酸ナトリウム水溶液(pH2.05、リン酸にて調整):アセトニトリル=100:1(v/v)
検出;UV240nm
(3)L−カルボシステイン合成活性の測定方法
650mMのL−セリン、50mMのチオグリコール酸アンモニウム及び0.025mMのピリドキサールリン酸を含む50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)0.5mLに、菌体懸濁液もしくは菌体処理液を適度に希釈し超音波破砕した酵素液を0.5mL加え、45℃で30分間反応させた。
生成したL−カルボシステインの量を上記(2)の分析条件に従ってHPLCにて測定し、L−カルボシステイン合成活性を測定した。活性の単位としては、1分間に1μmolのL−カルボシステインを生成する活性を1unitとした。
(比較例1)
(Escherichia coliから得られたトリプトファンシンターゼのβサブユニット及びαサブユニットをコードする遺伝子の取得)
Escherichia coli MG1655(ATCC700926)を50mlのLB培地に接種した。30℃で一夜培養した後、集菌し、リゾチーム1mg/mlを含む溶菌液で溶菌した。溶菌液をフェノール処理した後、通常の方法によりエタノール沈殿によりDNAを沈殿させた。生じた染色体DNAの沈殿は、ガラス棒に巻き付けて回収した後、洗浄し、PCRに用いた。
PCR用のプライマーには、Escherichia coli MG1655から得られたトリプトファンシンターゼのβサブユニット遺伝子(GenBanak accession number b1261)及びαサブユニット遺伝子(GenBanak accession number b1260)に基づいて設計した配列番号3及び4に示すヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。これらのプライマーは、5’末端付近にそれぞれEcoRI及びBamHIの制限酵素認識配列を有する。
前記染色体DNA5ng/μl及びプライマー各5μMを含むPCR反応液を用いて、変性:96℃、1分間、アニーリング:55℃、30秒間、伸長反応:68℃、2分間からなる反応サイクルを、30サイクルの条件でPCRを行った。
PCR反応産物及びプラスミドpUC18(宝酒造(株))を、EcoRI及びBamHIで消化し、ライゲーション・ハイ(商品名;東洋紡(株))を用いて連結した後、得られた組換えプラスミドを用いて、Escherichia coli DH5αを形質転換した。前記形質転換処理後の大腸菌を、アンピシリン(Am)100μg/ml及びX−Gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトシド)を含むLB寒天培地で培養し、Am耐性で且つ白色コロニーとなった形質転換株を得た。このようにして得られた形質転換株よりプラスミドを抽出した。プラスミドに挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を通常のヌクレオチド配列の決定法に従い確認した。配列番号5に示すヌクレオチド配列からなるEscherichia coliから得られたトリプトファンシンターゼのβサブユニット遺伝子及びαサブユニット遺伝子を含む発現プラスミドをpEcTrpBAと命名した。本発現プラスミドにはプロモーターの下流にβサブユニット遺伝子、αサブユニット遺伝子の順でDNA断片が挿入されていた。
(形質転換体の作製)
pEcTrpBAを用いてEscherichia coli DH5αを通常の方法で形質転換し、得られた形質転換体をDH/pEcTrpBAと命名した。
形質転換体を2Lのバッフル付き三角フラスコにAm100μg/mlを含むLB培地400mLに接種し、30℃にてOD660が0.5になるまで培養し、IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)をその濃度が1mMとなるように添加し、更に16時間振盪培養した。培養液を13000rpmで10分間遠心分離し、得られた菌体を5mLの0.05mM PLPを含む100mMリン酸緩衝液(pH8.0)に懸濁し、菌体懸濁液を得た。該菌体懸濁液の必要量に応じて、培養するフラスコの数を増やした。
(比較例2)
(形質転換体の熱処理)
比較例1で得られた形質転換体の懸濁液を、表1に示す温度で30分間保温することで熱処理を行った。
前記熱処理後の菌体懸濁液を用いて、L−カルボシステイン合成活性を測定した。熱処理を行っていない菌体懸濁液のL−カルボシステイン合成活性に対する熱処理後の菌体懸濁液のL−カルボシステイン合成活性の比をパーセントで表した値である酵素活性残存率を表1に示す。熱処理後の菌体懸濁液のことを、以後、菌体処理液ともいう。
表1に示された結果から、比較例1で得られた形質転換体DH/pEcTrpBAは熱処理によって大幅にL−カルボシステイン合成活性を失うことが分かる。
(比較例3)
(DH/pEcTrpBAを用いたL−カルボシステインの合成反応)
水25gにL−セリン6.65g、チオグリコール酸ナトリウム7.6g、ピリドキサールリン酸一水和物5.25mgを加え溶解させ、40%NaOH水溶液でpH7.45に調整したのち、水で40gにメスアップして基質溶液を得た。該基質溶液に比較例1で得た菌体懸濁液もしくは比較例2で得た菌体処理液を10g添加し反応を開始した。添加した菌体懸濁液もしくは菌体処理液を表2に示す。反応液を攪拌し、10%NaOH水溶液でpH7.45に制御しながら、55℃にて24時間反応を行った。結果を表2にまとめて示した。
反応収率は添加したL−セリンに対する、生成したL−カルボシステインのモル収率で示した。
無処理の菌体懸濁液を用いた場合は、L−カルボシステインの光学純度が84%e.e.と低かった。一方、菌体懸濁液に60℃および70℃で熱処理を施して得られた菌体処理液を用いた場合には、L−カルボシステインの光学純度は90%以上に向上したが、反応収率は47%以下と大幅に低下した。
(実施例1)
(Moorella thermoaceticaから得られたトリプトファンシンターゼのβサブユニットをコードする遺伝子の取得)
American Type Culture Collection (ATCC)からMoorella thermoacetica ATCC39073の染色体DNAを購入した。
PCR用のプライマーには、Moorella thermoaceticaから得られたトリプトファンシンターゼのβサブユニット遺伝子(GenBanak accession number Moth_1337)に基づいて設計した配列番号6及び7に示すヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。これらのプライマーは、5’末端付近にそれぞれEcoRI及びBamHIの制限酵素認識配列を有する。
前記染色体DNA5ng/μl及びプライマー各5μMを含むPCR反応液を用いて、変性:96℃、1分間、アニーリング:55℃、30秒間、伸長反応:68℃、1分12秒間からなる反応サイクルを、30サイクルの条件でPCRを行った。
PCR反応産物及びプラスミドpUC18(宝酒造(株))を、EcoRI及びBamHIで消化し、ライゲーション・ハイ(商品名;東洋紡(株))を用いて連結した後、得られた組換えプラスミドを用いて、Escherichia coli DH5αを形質転換した。前記形質転換処理後の大腸菌を、アンピシリン(Am)100μg/ml及びX−Gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトシド)を含むLB寒天培地で培養し、Am耐性で且つ白色コロニーとなった形質転換株を得た。このようにして得られた形質転換株よりプラスミドを抽出した。プラスミドに挿入されたDNA断片のヌクレオチド配列を通常のヌクレオチド配列の決定法に従い確認した。配列番号2に示すMoorella thermoaceticaから得られたトリプトファンシンターゼのβサブユニット遺伝子を含む発現プラスミドをpMtTrpBと命名した。
(形質転換体の作製)
pMtTrpBを用いてEscherichia coli DH5αを通常の方法で形質転換し、得られた形質転換体をDH/pMtTrpBと命名した。
形質転換体を2Lのバッフル付き三角フラスコにAm100μg/mlを含むLB培地400mLに接種し、30℃にてOD660が0.5になるまで培養し、IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)をその濃度が1mMとなるように添加し、更に16時間振盪培養した。培養液を13000rpmで10分間遠心分離し、得られた菌体を5mLの0.05mMPLPを含む100mMリン酸緩衝液(pH8.0)に懸濁し、菌体懸濁液を得た。該菌体懸濁液の必要量に応じて、培養するフラスコの数を増やした。
(実施例2)
(形質転換体のL−カルボシステイン合成活性の比較)
比較例1で得られた形質転換体の懸濁液及び実施例1で得られた形質転換体の懸濁液を用いて、上記(3)L−カルボシステイン合成活性の測定方法に従ってL−カルボシステイン合成活性を測定した。活性値は乾燥菌体重量あたりで算出した。比較例1の形質転換体DH/pEcTrpBAの乾燥菌体重量あたりのL−カルボシステイン合成活性を100とすると、実施例1の形質転換体DH/pMtTrpBの乾燥菌体重量あたりのL−カルボシステイン合成活性は160であった。
(実施例3)
(形質転換体の熱処理)
比較例1及び実施例1で得られた形質転換体の懸濁液を、表3に示す温度で30分間保温することで熱処理を行った。
前記の熱処理後の菌体懸濁液(菌体処理液)を用いて、L−カルボシステイン合成活性を測定した。熱処理を行っていない菌体懸濁液のL−カルボシステイン合成活性に対する熱処理後の菌体懸濁液(菌体処理液)のL−カルボシステイン合成活性の比をパーセントで表した値である酵素活性残存率を表3に示す。
表3に示された結果から、実施例1で得られた形質転換体DH/pMtTrpBは熱処理を経てもL−カルボシステイン合成活性を高い残存率で保持することが分かる。
(実施例4)
(DH/pMtTrpBを用いたL−カルボシステインの合成反応)
水25gにL−セリン6.65g、チオグリコール酸ナトリウム7.6g、ピリドキサールリン酸一水和物5.25mgを加え溶解させ、40%NaOH水溶液でpH7.45に調整したのち、水で40gにメスアップして基質溶液を得た。該基質溶液に実施例1で得た菌体懸濁液もしくは実施例3で得た菌体処理液を10g添加し反応を開始した。添加した菌体懸濁液もしくは菌体処理液を表4に示す。反応液を攪拌し、10%NaOH水溶液でpH7.45に制御しながら、55℃にて24時間反応を行った。結果を表4にまとめて示した。
反応収率は添加したL−セリンに対する、生成したL−カルボシステインのモル収率で示した。
無処理の菌体懸濁液を用いた場合は、L−カルボシステインの光学純度が86%e.e.と低かった。一方、菌体懸濁液に60℃、65℃、70℃、75℃、又は80℃で熱処理を施して得られた菌体処理液を用いた場合には、L−カルボシステインの光学純度は93%e.e.以上に向上した。また、反応収率は74%以上であった。
表4に示された結果から、実施例1で得られた形質転換体DH/pMtTrpBを熱処理した処理物は、酵素タンパク質の精製を経ることなく、L−カルボシステインを立体選択的にかつ効率的に合成できることが分かる。反応収率も良好であった。
(実施例5)
(Moorella thermoaceticaから得られたトリプトファンシンターゼのβサブユニット及びαサブユニットをコードする遺伝子の取得)
PCR用のプライマーには、Moorella thermoaceticaから得られたトリプトファンシンターゼのβサブユニット遺伝子(GenBanak accession number Moth_1337)及びαサブユニット遺伝子(GenBanak accession number Moth_1336)に基づいて設計した配列番号6及び8に示すヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。これらのプライマーは、5’末端付近にそれぞれEcoRI及びHindIIIの制限酵素認識配列を有する。
前記Moorella thermoacetica ATCC39073の染色体DNA5ng/μl及びプライマー各5μMを含むPCR反応液を用いて、変性:96℃、1分間、アニーリング:55℃、30秒間、伸長反応:68℃、1分12秒間からなる反応サイクルを、30サイクルの条件でPCRを行った。
得られたPCR反応産物を用い、PCR反応産物及びプラスミドpUC18(宝酒造(株))の消化を、EcoRI及びHindIIIで行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で、配列番号9に示すMoorella thermoaceticaから得られたトリプトファンシンターゼのβサブユニット遺伝子及びαサブユニット遺伝子を含む発現プラスミドpMtTrpBAを得た。本発現プラスミドにはプロモーターの下流にβサブユニット遺伝子、αサブユニット遺伝子の順でDNA断片が挿入されていた。
(形質転換体の作製)
pMtTrpBAを用いて、Escherichia coli DH5αを通常の方法で形質転換し、得られた形質転換体をDH/pMtTrpBAと命名した。
DH/pMtTrpBAの菌体懸濁液を実施例1と同様の方法で調製した。
(実施例6)
(DH/pMtTrpBAを用いたL−カルボシステインの合成反応)
DH/pMtTrpBの代わりにDH/pMtTrpBAを用いた以外は、実施例4と同様の方法でL−カルボシステインの合成反応を行った。結果を表5に示した。
反応収率は添加したL−セリンに対する、生成したL−カルボシステインのモル収率で示した。
無処理の菌体懸濁液を用いた場合は、L−カルボシステインの光学純度が84%e.e.と低かった。一方、菌体懸濁液に60℃、70℃又は75℃で熱処理を施して得られた菌体処理液を用いた場合には、L−カルボシステインの光学純度は91%e.e.以上に向上した。また、反応収率は86%以上であった。
表5に示された結果から、実施例5で得られた形質転換体DH/pMtTrpBAを熱処理した処理物は、酵素タンパク質の精製を経ることなく、L−カルボシステインを立体選択的にかつ効率的に合成できることが分かる。反応収率も良好であった。

Claims (9)

  1. 以下の(1)〜(3)に記載のDNAのうち少なくとも1つが導入された形質転換体。
    (1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA;
    (2)配列番号1に記載のアミノ酸配列にアミノ酸残基の欠失、アミノ酸残基の付加及びアミノ酸残基の置換のうち少なくとも1つを行ったアミノ酸配列を有し、欠失したアミノ酸残基数、付加されたアミノ酸残基数及び置換されたアミノ酸残基数の合計が1〜30個であり、かつL−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
    (3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
  2. 前記導入されたDNAが、以下の(4)〜(7)に記載のDNAのうち少なくとも1つである、請求項1に記載の形質転換体。
    (4)配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有するDNA;
    (5)配列番号2に記載のヌクレオチド配列にヌクレオチドの欠失、ヌクレオチドの付加及びヌクレオチドの置換のうち少なくとも1つを行ったヌクレオチド配列を有し、欠失したヌクレオチドの数、付加されたヌクレオチドの数及び置換されたヌクレオチドの数の合計が1〜60個であり、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
    (6)配列番号2に記載のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を有し、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
    (7)配列番号2に記載のヌクレオチド配列と80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、L−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを合成する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
  3. 前記形質転換体の宿主細胞が大腸菌の細胞である、請求項1又は請求項2に記載の形質転換体。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の形質転換体の処理物の存在下でL−セリンとチオグリコール酸及びその塩のうち少なくとも1つとからL−カルボシステインを生成させる工程を含む、L−カルボシステインの製造方法。
  5. 前記形質転換体の処理物が、前記形質転換体を加熱処理することにより得られたものである、請求項4に記載の製造方法。
  6. 前記形質転換体の加熱処理の温度が55℃以上90℃以下である、請求項5に記載の製造方法。
  7. 請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の形質転換体を処理することを含む、形質転換体の処理物の製造方法。
  8. 前記処理が加熱処理である、請求項7に記載の製造方法。
  9. 請求項7又は請求項8に記載の製造方法により得られる、形質転換体の処理物。
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