以下、図1〜図10を用いて、本発明の実施形態に係る車両用乗員拘束装置10について説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UP、矢印OUTは、車両の前方向(進行方向)、上方向、幅方向の外方をそれぞれ示している。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両左右方向(車幅方向)の左右、車両上下方向の上下を示すものとする。
(構成)
図1及び図2に示されるように、本実施形態に係る車両用乗員拘束装置10は、サイドエアバッグ装置12と、インサイドエアバッグ装置14と、制御装置16とを備えている。サイドエアバッグ装置12及びインサイドエアバッグ装置14は、車両用シート18のシートバック20に搭載されている。先ず、車両用乗員拘束装置10の全体構成について説明し、その後に本実施形態の要部について説明する。
上記の車両用シート18は、車室内の左側に配置されており、左ハンドル車の運転席、又は右ハンドル車の助手席とされている。なお、この車両用シート18が車室内の右側に配置される場合、本実施形態とは左右対称の構成になる。車両用シート18のシートバック20の下端部は、図示しない周知のリクライニング機構を介してシートクッション22の後端部に連結されている。また、シートバック20の上端部には、ヘッドレスト24が連結されている。この車両用シート18の前後方向、左右方向(幅方向)及び上下方向は、車両の前後方向、左右方向(幅方向)及び上下方向と一致している。
なお、図1及び図2では、実際の乗員の代わりに衝突試験用のダミーP1、P2が車両用シート18に着座している。ダミーP1は、国際統一側面衝突ダミー(World Side Impact Dummy:WorldSID)のAM50型(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。ダミーP2は、国際統一側面衝突ダミーのAF05型(米国人成人女性の5パーセンタイル)である。
ダミーP1、P2は、側面衝突試験法で定められた着座姿勢で車両用シート18の正規の位置に着座しており、車両に対するシートクッション22の前後位置、及びシートクッション22に対するシートバック20の傾斜角度は、上記の着座姿勢に対応した基準設定位置に調整されている。以下、ダミーP1を「AM50ダミーP1」と称し、ダミーP2を「AF05ダミーP2」と称する場合と、ダミーP1、P2を「乗員P」と称する場合とがある。
シートバック20は、骨格部材である金属製のシートバックフレーム26と、シートバックフレーム26に被せられた図示しないシートバックパッド(クッション材)と、シートバックパッドを覆ったシート表皮28と、を備えている。シートバックフレーム26は、シートバック20の車両幅方向外側の側部(サイドサポート部)20A内に設けられた外サイドフレーム30と、シートバック20の車両幅方向内側の側部(サイドサポート部)内に設けられた内サイドフレーム(何れも図示省略)と、を備えている。
さらに、シートバックフレーム26は、外サイドフレーム30と内サイドフレームとの上端部同士をシート幅方向に繋ぐ図示しないアッパフレームと、外サイドフレーム30と内サイドフレームとの下端部同士をシート幅方向に繋ぐ図示しないロアフレームと、を備えている。上記の外サイドフレーム30は、本発明における「サイドフレーム」に相当する。なお、以下の説明では、上記の側部20Aを「外サイド部20A」と称する。
外サイドフレーム30は、サイドフレーム本体32と、反力プレート34とによって構成されている。サイドフレーム本体32は、側壁部32Aと前フランジ部32Bと後フランジ部32Cとを備えており、シートバック20の平断面視でシート幅方向内側に開口した断面略U字状をなしている。なお、前述した内サイドフレームは、サイドフレーム本体32と左右対称の形状に形成されている。
側壁部32Aは、シートバック20の平断面視でシート前後方向に延びている。前フランジ部32Bは、側壁部32Aの前端からシート幅方向内側かつシート前方側へ延びており、先端部がシート後方側へ斜めに屈曲している。後フランジ部32Cは、側壁部32Aの後端からシート幅方向内側かつシート後方側へ延びており、先端部がシート前方側へ斜めに屈曲している。この後フランジ部32Cは、前フランジ部32Bよりもシート幅方向の寸法が大きく設定されており、前フランジ部32Bよりもシート幅方向内側へ延びている。
反力プレート34は、例えば金属板が曲げ加工されて形成されたものであり、車幅方向から見てシートバック20の上下方向を長手とする長尺状に形成されると共に、シートバック20の平断面視で断面略J字状に形成されている。具体的には、この反力プレート34は、サイドフレーム本体32の側壁部32Aに対して車幅方向内側から重ね合わされた板状の固定部34Cと、固定部34Cの後端部から車幅方向内側へ延びる板状の内側延出部34Bと、内側延出部34Bの車幅方向内側端部から車両前方側かつ車幅方向外側へ斜めに延びる板状の反力付与部34Aとを備えている。
固定部34Cは、溶接、ボルト締結等の手段によって側壁部32Aに固定されている。反力付与部34Aは、サイドフレーム本体32よりも車両前方側へ延びており、シートバック20の平断面視で車両前方側へ向かうほど車両幅方向外側へ向かうように傾斜している。この反力付与部34Aの車幅方向内側面は、後述するインサイドエアバッグ52に対して膨張展開時に反力を付与する反力面34A1とされている。そして、サイドフレーム本体32の車幅方向外側で外サイド部20A内には、サイドエアバッグ装置12が配設されており、反力付与部34Aの車幅方向内側で外サイド部20A内には、インサイドエアバッグ装置14が配設されている。
<サイドエアバッグ装置12の構成>
図1〜図3、図5〜図9に示されるように、サイドエアバッグ装置12は、サイドエアバッグ36(図3及び図4では図示省略)と、インフレータである第1インフレータ38とを備えている。サイドエアバッグ36は、本実施形態では、所謂シングルチャンバタイプのサイドエアバッグとされている。このサイドエアバッグ36は、例えばナイロン系又はポリエステル系の布材を略矩形状(略長円形状)に切り出して形成された1枚の基布40が二つ折りにされ、外周縁部を縫製部T1(図5〜図9参照)において縫製されることにより袋状に形成されている。なお、図1及び図2では、基布40の符号及び縫製部T1の図示を省略している。
なお、サイドエアバッグ36の製造方法は上記に限らず適宜変更可能である。例えば2枚の基布が互いに重ね合わされて外周縁部を縫製されることによりサイドエアバッグ36が製造される構成にしてもよい。また例えば、自動織機による袋織り工法(所謂OPW製法)によってサイドエアバッグ36が製造される構成にしてもよい。この点は、後述するインサイドエアバッグ52においても同様である。
このサイドエアバッグ36は、通常時には、第1インフレータ38と共に図3及び図4に示される第1エアバッグモジュール42とされ、外サイド部20A内に収納されている。この第1エアバッグモジュール42では、サイドエアバッグ36(図3及び図4では図示省略)が蛇腹折り、ロール折り等の所定の折り畳み方で折り畳まれると共に、容易に破断するラップ材44で包まれている。
第1インフレータ38は、所謂シリンダータイプのインフレータであり、円柱状に形成されている。この第1インフレータ38は、サイドフレーム本体32の側壁部32Aのシート幅方向外側(車幅方向外側)に配置されており、軸線方向がシートバック20の上下方向に沿う姿勢でサイドエアバッグ36内の後端部に収容されている。第1インフレータ38の外周部からは、シート幅方向内側へ向けて上下一対のスタッドボルト38A(図3及び図5参照)が突出している。これらのスタッドボルト38Aは、サイドエアバッグ36の基布40及び側壁部32Aを貫通しており、各スタッドボルト38Aの先端側にはナット46が螺合している。これにより、第1インフレータ38がサイドフレーム本体32に締結固定(所謂側面締め)されると共に、サイドエアバッグ36が第1インフレータ38を用いてサイドフレーム本体32に取り付けられている。
第1インフレータ38の上端部又は下端部には、第1インフレータ38の周方向に並んだ複数のガス噴出口(図示省略)が形成されており、第1インフレータ38が作動(起動)した際には、複数のガス噴出口からガスが放射状に噴出される。これにより、サイドエアバッグ36の内部にガスが供給され、サイドエアバッグ36が外サイド部20Aの車両前方側へ膨張展開し、乗員Pと車室側部(ここでは図3に示されるサイドドアのドアトリム48及びBピラーガーニッシュ50)との間に介在する。このサイドエアバッグ36の膨張展開の際には、外サイド部20Aの前縁部においてシート表皮28に設けられた図示しない縫製部が開裂し、サイドエアバッグ36の前部側が外サイド部20Aのシート前方側へ突出する構成になっている。なお、図4〜図9では、ドアトリム48及びBピラーガーニッシュ50の図示を省略している。
このサイドエアバッグ36は、図1及び図2に示されるように膨張展開状態を側方から見た場合に、シートバック20の上下方向に沿って長尺な略矩形状(略長円形状)を成すように形成されており、乗員Pの肩部S、胸部C、腹部B及び腰部Wを車幅方向外側から拘束可能とされている。このサイドエアバッグ36の膨張展開時の内圧の最大値は、例えば40kPa〜80kPaの範囲内に設定されている。
<インサイドエアバッグ装置14の構成>
図1、図2、図4、図6〜図9に示されるように、インサイドエアバッグ装置14は、インサイドエアバッグ52(図4では図示省略)と、インフレータである第2インフレータ54とを備えている。サイドエアバッグ36は、本実施形態では、所謂シングルチャンバタイプのサイドエアバッグとされている。このインサイドエアバッグ52は、例えばナイロン系又はポリエステル系の布材を略矩形状(略長円形状)に切り出して形成された1枚の基布56が二つ折りにされ、外周縁部を縫製部T2(図6参照)において縫製されることにより袋状に形成されている。なお、図1及び図2では、基布56の符号及び縫製部T2の図示を省略している。
このインサイドエアバッグ52は、通常時には、第2インフレータ54と共に図4に示される第2エアバッグモジュール58とされ、外サイド部20A内に収納されている。この第2エアバッグモジュール58では、インサイドエアバッグ52(図4では図示省略)が蛇腹折り、ロール折り等の所定の折り畳み方で折り畳まれると共に、容易に破断するラップ材60で包まれている。なお、以下の説明において、インサイドエアバッグ52に関して記載する前後上下の方向は、インサイドエアバッグ52が膨張展開した状態での方向を示すものであり、シートバック20の前後上下の方向と一致している。
第2インフレータ54は、所謂シリンダータイプのインフレータであり、円柱状に形成されている。この第2インフレータ54は、インサイドエアバッグ52内の後端部に収容されており、軸線方向がシートバック20の上下方向に沿う姿勢で配置されている。第2インフレータ54の外周部からは、シート幅方向外側へ向けて上下一対のスタッドボルト54A(図4及び図6参照)が突出している。これらのスタッドボルト54Aは、インサイドエアバッグ52の基布56及び反力付与部34Aを貫通しており、各スタッドボルト54Aの先端側にはナット62が螺合している。これにより、第2インフレータ54が反力付与部34Aに締結固定されると共に、インサイドエアバッグ52が第2インフレータ54を用いて反力付与部34Aに取り付けられている。
第2インフレータ54の上端部又は下端部には、第2インフレータ54の周方向に並んだ複数のガス噴出口(図示省略)が形成されており、第2インフレータ54が作動(起動)した際には、複数のガス噴出口からガスが放射状に噴出される。これにより、インサイドエアバッグ52の内部にガスが供給され、インサイドエアバッグ52が外サイド部20A内で膨張展開する。
このインサイドエアバッグ52は、図1及び図2に示されるように膨張展開状態を側方から見た場合に、シートバック20の上下方向に沿って長尺な略矩形状(略長円形状)を成すように形成されている。このインサイドエアバッグ52は、乗員Pの肩部S及び胸部Cの後部(肩甲骨及びその周辺部)を車幅方向内側へ押圧する(車幅方向外側から拘束する)ように構成されている。なお、図1〜図9においては、仮想線で示されるシートバック20が、サイドエアバッグ36及びインサイドエアバッグ52の膨張展開前の形状で図示されているが、インサイドエアバッグ52は、外サイド部20Aを車幅方向内側及び車両前方側へ膨らませつつ、外サイド部20A内で膨張展開する構成になっている。
このインサイドエアバッグ52の内圧は、サイドエアバッグ36の内圧よりも高圧で且つ200kPa以下に設定されている。具体的には、インサイドエアバッグ52の内圧の最大値は、例えば150kPa〜200kPaの範囲内に設定されている。また、このインサイドエアバッグ52の内容積(容量)は、サイドエアバッグ36の内容積よりも十分に小さく設定されている。但し、このインサイドエアバッグ52は、肩部S及び胸部Cの後部を車幅方向内側へ押圧することにより、乗員Pの上半身を車幅方向内側へ移動させる程度の内容積を有している。
このインサイドエアバッグ52は、車両用シート18に着座したAM50ダミーP1(図1参照)の胴体に設けられた6つのリブR1、R2、R3、R4、R5、R6のうち下から2番目のリブR5よりも車両上方側の領域で、且つ車両用シート18に着座したAF05ダミーP2(図2参照)における肩部S及び胸部Cの前後方向中央よりも車両後方側の領域に膨張展開するように構成されている。これにより、AM50ダミーP1又はAF05ダミーP2と同等の体格を有する乗員が車両用シート18に着座している場合、当該乗員の上半身において相対的に耐性値が高い肩甲骨及びその周辺部がインサイドエアバッグ52によって車幅方向内側へ押圧される構成になっている。なお、上記の「肩甲骨及びその周辺部」は、乗員の第1胸椎から第12胸椎までの高さの範囲内に位置する部位である。
以下、膨張展開したインサイドエアバッグ52と、AM50ダミーP1及びAF05ダミーP2との位置関係について詳細に説明する。なお、以下の説明では、AM50ダミーP1及びAF05ダミーP2の胴体に設けられたリブR1、R2、R3、R4、R5、R6を、上から順番に「肩リブR1」、「胸上リブR2」、「胸中リブR3」、「胸下リブR4」、「腹上リブR5」、「腹下リブR6」と称する場合がある。肩リブR1は、AM50ダミーP1及びAF05ダミーP2の肩部Sに設けられており、胸上リブR2、胸中リブR3及び胸下リブR4は、AM50ダミーP1及びAF05ダミーP2の胸部Cに設けられており、腹上リブR5及び腹下リブR6は、AM50ダミーP1及びAF05ダミーP2の腹部Bに設けられている。
図1に示されるように、インサイドエアバッグ52は、膨張展開状態を車幅方向から見た場合に、AM50ダミーP1の肩リブR1に対して上部が重なると共に、AM50ダミーP1の胸下リブR4に対して下縁部が重なるように形成されている。また、図2に示されるように、インサイドエアバッグ52は、膨張展開状態を車幅方向から見た場合に、AF05ダミーP2の肩リブR1に対して上下方向中間部が重なると共に、AF05ダミーP2の胸中リブR3に対して下縁部が重なるように形成されている。
また、図2に示されるように、インサイドエアバッグ52は、膨張展開状態を車幅方向から見た場合に、AF05ダミーP2の胸上リブR2及び胸下リブR4の前後方向中央を通る仮想線Lに対して、前縁部が車両後方側に位置するように形成されている。さらに、図2に示されるように、インサイドエアバッグ52は、AF05ダミーP2の頭部H(詳細には顎の下端)よりも車両下方側の領域に膨張展開するように構成されている。なお、ダミーP2の胸部Cの前後方向中央(図2の仮想線L参照)は、ダミーP1の胸部Cの前後方向中央よりも車両後方側に位置している。また、膨張展開したインサイドエアバッグ52は、車幅方向視において、後部が反力プレート34と重なるように配置されている。
<制御装置16の構成>
前述した第1インフレータ38及び第2インフレータ54には、図1及び図2に示されるように、ECU(Electronic Control Unit)64が電気的に接続されている。このECU64には、側面衝突を検知する側突センサ66が電気的に接続されている。ECU64及び側突センサ66は、制御装置16を構成している。側突センサ66としては、例えば、フロントサイドドア及びリヤサイドドア内に配設された圧力センサ又は加速度センサ(ドア内センサ)と、Bピラー内及びCピラー内に配設された加速度センサ(ピラー内センサ)とが適用されている。
上記のECU64は、側突センサ66からの信号に基づいて車両の側面衝突を検知した際には、第1インフレータ38に先行して第2インフレータ54を起動させる。そして、第2インフレータ54を起動させてから予め設定されたディレイ時間が経過した時点で、第1インフレータ38を起動させる構成になっている。これにより、インサイドエアバッグ52がサイドエアバッグ36に先行して外サイド部20A内で膨張展開する構成になっている。なお、側突ECU64に側面衝突を予知(予測)する衝突予知センサ(プリクラッシュセンサ)が電気的に接続されている場合には、衝突予知センサからの信号に基づいて側突ECU64が側面衝突を予知した際に第2インフレータ54及び第1インフレータ38が起動される構成にしてもよい。また、衝突予知センサからの信号に基づいて第2インフレータ54を起動させ、側突センサ66からの信号に基づいて第1インフレータ38を起動させてもよい。上記の衝突予知センサとしては、例えばミリ波レーダやステレオカメラなどを適用することができる。
<本実施形態の要部>
次に、本実施形態の要部について説明する。本実施形態では、前述したインサイドエアバッグ52には、膨張展開状態で反力付与部34Aの反力面34A1に対して車幅方向に対向する部位に、ベントホール53(排気孔)が形成されている。このベントホール53は、本実施形態では円形に形成されており、直径が例えば10φ〜50φの範囲内に設定されている。このベントホール53によって、インサイドエアバッグ52の内部と外部とが連通されている。なお、ベントホール53の形状は、円形に限らず、適宜変更可能である。例えば、インサイドエアバッグ52の上下方向を長手とする長円形に形成された構成にしてもよい。
このベントホール53は、インサイドエアバッグ52の上部かつ後部に形成されており、インサイドエアバッグ52の膨張展開状態では、第2インフレータ54の車両上方側に位置するように設定されている。なお、本実施形態において、インサイドエアバッグ52の上部は、膨張展開状態のインサイドエアバッグ52を上部と下部とに二分割した場合における上部である。また、本実施形態において、インサイドエアバッグ52の後部は、膨張展開状態のインサイドエアバッグ52を前部と後部とに二分割した場合における後部であり、外サイドフレーム30に近くに配置される部位である。
上記のベントホール53は、図1のAM50ダミーP1及び図2のAF05ダミーP2のように、車両用シート18の正規の位置に着座している乗員P(以下、「正規着座乗員P」と称する)が、側面衝突の衝撃によって車幅方向外側へ変位することにより閉塞される構成になっている。具体的には、図7に矢印Dで示されるように、正規着座乗員P(図7ではAF05ダミーP2は図示省略)が、側面衝突の衝撃によって車両用シート18に対して車幅方向外側へ相対変位すると、膨張展開したインサイドエアバッグ52が正規着座乗員Pによって反力面34A1に押し付けられる。この際には、インサイドエアバッグ52におけるベントホール53の形成部位が反力面34A1に押し当てられる。これによりベントホール53が閉塞される構成になっている。
また、本実施形態では、図8に示されるように車両用シート18の非正規の位置に着座した乗員P3(以下、「非正規着座乗員P3」と称する)がシートバック20の外サイド部20Aに対して車両前方から凭れている状態、または図9に示されるように正規着座乗員P及び非正規着座乗員P3が存在しない状態でインサイドエアバッグ52が膨張展開した場合、ベントホール53が閉塞されない構成になっている。つまり、図8及び図9に示される状態では、インサイドエアバッグ52が前述のように反力面34A1に押し付けられないため、ベントホール53が閉塞されず、開放された状態となる。そして、ベントホール53の開放状態では、インサイドエアバッグ52内に供給されたガスが、外サイド部20A内に排気される構成になっている(図8及び図9の矢印G参照)。外サイド部20A内に排気されたガスは、例えばシートバック20の下端部に形成された図示しない開口部からシートバック20の外側へ排気される。
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
上記構成の車両用乗員拘束装置10では、ECU64は、側突センサ66からの信号に基づいて側面衝突を検知すると、第1インフレータ38に先行して第2インフレータ54を作動させる。これにより、車両用シート18のシートバック20の外サイド部20A内で外サイドフレーム30の車幅方向内側に配設されたインサイドエアバッグ52が、第2インフレータ54からガス供給を受け、外サイド部20A内で膨張展開する。
また、ECU64は、第2インフレータ54を作動させてから予め設定されたディレイ時間が経過すると、第1インフレータ38を作動させる。これにより、シートバック20の外サイド部20A内で外サイドフレーム30の車幅方向外側に配設されたサイドエアバッグ36が、第1インフレータ38からガス供給を受けて膨張展開する。膨張展開したサイドエアバッグ36は、正規着座乗員Pと車室側部との間に介在する。
ここで、本実施形態では、膨張展開したインサイドエアバッグ52は、外サイドフレーム30に設けられた反力面34A1から車幅方向内側への反力を受けつつ正規着座乗員Pを車幅方向内側へ押圧する。この際には、側面衝突の衝撃によって車両用シート18に対して車幅方向外側へ相対変位する正規着座乗員Pによって、インサイドエアバッグ52が反力面34A1に押し付けられる。このインサイドエアバッグ52には、反力面34A1に対して車幅方向に対向する部位に、インサイドエアバッグ52の内外を連通させたベントホール53が形成されている。このベントホール53が上記の押し付けによって閉塞されることにより、ベントホール53からのガスの排気が制限され、インサイドエアバッグ52の内圧が保持される。その結果、正規着座乗員Pがインサイドエアバッグ52により高い拘束力で拘束(保護)される。
一方、非正規着座乗員P3がシートバック20の外サイド部20Aに対して車両前方から凭れている状態でインサイドエアバッグ52が膨張展開した場合、インサイドエアバッグ52が上述のように反力面34A1に押し付けられない。このため、ベントホール53が閉塞されず、開放された状態となる。その結果、ベントホール53からのガスの排気が許容され、インサイドエアバッグ52の内圧が低下する。これにより、非正規着座乗員P3がインサイドエアバッグ52から受ける負荷を簡単な構成で低減することができる。
なお、図10には、本実施形態における上述した作用効果がフローチャートにより簡潔に示されている。このように、本実施形態によれば、側面衝突時における正規着座乗員Pの効果的な保護と、非正規着座乗員P3の負荷低減とを簡単な構成で両立することができる。
また、本実施形態では、ベントホール53がインサイドエアバッグ52の上部に形成されているため、側面衝突の衝撃によって車両用シート18に対して車幅方向外側へ相対変位する正規着座乗員Pによって、ベントホール53が閉塞され易くなる。つまり、上記の相対変位は、正規着座乗員Pの上半身が腰部Wを中心として車幅方向外側へ変位(回転)する形態となる。この場合、正規着座乗員Pの上半身において、上部側の変位が下部側の変位よりも大きくなる。このため、本実施形態のようにインサイドエアバッグ52の上部にベントホール53が形成されている場合、インサイドエアバッグ52の下部にベントホール53が形成されている場合よりも、インサイドエアバッグ52におけるベントホール53の形成部位が反力面34A1に押し付けられ易くなり、ベントホール53が閉塞され易くなる。
また、本実施形態では、ベントホール53がインサイドエアバッグ52の後部に形成されているため、シートバック20の外サイド部20Aに対して車両前方から凭れている非正規着座乗員P3に対して、ベントホール53から排気されるガスの影響を少なくすることができる。また、インサイドエアバッグ52の前部にベントホール53が形成されている場合、車両前方側へ膨張展開するインサイドエアバッグ52の展開挙動が、ベントホール53からのガスの排気によって不安定になる可能性があるが、本実施形態ではこれを回避できる。
さらに、本実施形態では、インサイドエアバッグ52は、正規着座乗員Pの腹部Bよりも車両上方側に膨張展開し、正規着座乗員Pの上半身において相対的に耐性値が高い肩部S及び胸部Cの後部(肩甲骨及びその周辺部)を車幅方向内側へ押圧する。この際には、正規着座乗員Pの上半身において相対的に耐性値が低い腹部Bがインサイドエアバッグ52によって車幅方向内側へ押圧されることが回避される。これにより、相対的に耐性値が高い肩甲骨及びその周辺部に合わせて、インサイドエアバッグ52の内圧を高く設定することが可能になる。その結果、正規着座乗員Pをインサイドエアバッグ52によって効果的に車幅方向内側(衝突箇所とは反対側)へ移動させることが可能になる。しかも、正規着座乗員Pは、インサイドエアバッグ52に遅れて膨張展開するサイドエアバッグ36により更に車幅方向内側へ押圧されるので、正規着座乗員Pの車幅方向内側への移動が促進され、正規着座乗員Pの車幅方向内側への移動量が増加する。これにより、正規着座乗員Pの保護性能を向上させることができる。
また、インサイドエアバッグ52によって押圧される正規着座乗員Pの肩甲骨は、正規着座乗員Pの上半身において側方へ張出した部位であり、インサイドエアバッグ52からの押圧力が入力され易い。しかも、正規着座乗員Pの肩甲骨は、正規着座乗員Pの上半身の上部に位置しているため、正規着座乗員Pの上半身を、腰部Wを中心として車幅方向内側へ移動させる際に、より小さい力で大きく移動させることができる。したがって、正規着座乗員Pの肩甲骨は、インサイドエアバッグ52によって押圧する箇所として適している。
また、本実施形態では、インサイドエアバッグ52は、車両用シート18に着座したAF05ダミーP2の頭部Hよりも車両下方側の領域に膨張展開するように構成されている。このため、AF05ダミーP2と同等の小柄な乗員が車両用シート18に着座している状態でインサイドエアバッグ52が膨張展開した場合に、当該乗員の頭部がインサイドエアバッグ52から負荷を受けないようにすることができる。
また、本実施形態では、インサイドエアバッグ52は、前述したように、サイドエアバッグ36よりも高圧に膨張展開する。このインサイドエアバッグ52の内圧は、できるだけ高く設定する方が、正規着座乗員Pの上半身を車幅方向内側へ移動させる効果が高くなる。但し、インサイドエアバッグ52の内圧が200kPaを超える場合、インサイドエアバッグ52によって押圧される正規着座乗員Pの肩甲骨の耐性値を上回る可能性がある。特に、車両用シート18に着座しているのがAF05ダミーP2と同等の小柄な乗員の場合、インサイドエアバッグ52の内圧が200kPaを超えないようにすることが好ましい。
この点、本実施形態では、インサイドエアバッグ52の内圧が200kPa以下に設定されているので、正規着座乗員Pの上半身を適切に車幅方向内側へ移動させることができる。なお、車両用シート18に着座しているのが、AM50ダミーP1と同等又はそれより大柄な体格の乗員の場合、インサイドエアバッグ52の内圧を最大で240kPa程度まで増加させることが可能な場合もある。
また、本実施形態では、外サイドフレーム30は、インサイドエアバッグ52が取り付けられると共に、インサイドエアバッグ52に対して膨張展開時に車幅方向外側から反力を付与する板状の反力付与部34Aを有している。この反力付与部34Aは、シートバック20の平断面視で車両前方側へ向かうほど車両幅方向外側へ向かうように傾斜している。
ここで、上記の反力付与部34Aがインサイドエアバッグ52と一緒に配設される高さは、正規着座乗員Pの肩甲骨と同等の高さであり、シートバック20の外サイド部20Aの上部側である。シートバックの外サイド部20A(側部)では、一般に下部側よりも上部側においてパッド材の厚みが小さくなる。この点、本実施形態では、反力付与部34Aが上記のように傾斜しているので、当該反力付与部34Aに取り付けられた膨張展開前のインサイドエアバッグ52(図4に示される第2エアバッグモジュール58参照)に対して乗員側(車幅方向内側)に位置するパッド材の厚みを確保し易くなる。その結果、反力付与部34Aによって正規着座乗員Pの座り心地が悪化することを防止又は抑制できる。
<実施形態の補足説明>
なお、本実施形態では、ベントホール53がインサイドエアバッグ52の上部かつ後部に形成された構成にしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、例えばベントホール53がインサイドエアバッグ52の下部かつ後部に形成された構成にしてもよい。また例えばベントホール53がインサイドエアバッグ52の上部又は下部における前後方向中央部に形成された構成にしてもよい。但しその場合、反力付与部34Aを車両前方側へ延長する必要がある。
また、本実施形態では、インサイドエアバッグ52は、正規着座乗員Pの腹部Bよりも車両上方側に膨張展開し、正規着座乗員Pの肩部S及び胸部Cの後部を車幅方向内側へ押圧する(拘束する)構成にしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、インサイドエアバッグ52は、正規着座乗員Pの肩部S、胸部C及び腹部Bの後部を拘束するものでもよいし、正規着座乗員Pの胸部C及び腹部Bの部位の後部を構成するものでもよい。
また、本実施形態では、サイドエアバッグ36とインサイドエアバッグ52とが別体に形成されると共に、別々のインフレータ(第1インフレータ38及び第2インフレータ54)から個別にガスを供給される構成にしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、サイドエアバッグとインサイドエアバッグとが一体の袋体として形成されると共に、二段式のインフレータ(所謂デュアルステージインフレータ)によってサイドエアバッグ及びインサイドエアバッグにそれぞれガスを供給する構成にしてもよい。上記二段式のインフレータは、互いに個別に点火される2つのガス発生器を備え、1つ目のガス発生器を点火後、所定時間経過後に2つ目のガス発生器を点火させる構成のものである。
また、本実施形態では、外サイドフレーム30に設けられた反力付与部34Aが、シートバック20の平断面視で車両前方側へ向かうほど車両幅方向外側へ向かうように傾斜した構成にしたが、本発明はこれに限るものではない。
また、本実施形態では、外サイドフレーム30が、サイドフレーム本体32と、当該サイドフレーム本体32に取り付けられた反力プレート34とによって構成され、当該反力プレート34に反力付与部34Aが設けられた構成にしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、反力付与部34Aがサイドフレーム本体32と一体に形成された構成(サイドフレーム本体32の一部が反力付与部34Aとされた構成)にしてもよい。
また、本実施形態では、サイドエアバッグ36が所謂シングルチャンバタイプとされた構成にしたが、本発明はこれに限らず、サイドエアバッグの構成は適宜変更可能である。例えば、サイドエアバッグが、膨張展開状態で車両前後方向に並ぶ2つのチャンバに仕切られた所謂前後2チャンバタイプとされた構成にしてもよい。
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。