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JP2017518373A - スタフィロコッカス・アウレウス感染疾患の予防または治療用組成物 - Google Patents

スタフィロコッカス・アウレウス感染疾患の予防または治療用組成物 Download PDF

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JP2017518373A JP2017515649A JP2017515649A JP2017518373A JP 2017518373 A JP2017518373 A JP 2017518373A JP 2017515649 A JP2017515649 A JP 2017515649A JP 2017515649 A JP2017515649 A JP 2017515649A JP 2017518373 A JP2017518373 A JP 2017518373A
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Abstract

細胞壁タイコ酸結合ペプチドグリカン(WTA−PGN)を活性成分として含有する組成物、該組成物を用いるスタフィロコッカス・アウレウス感染病の予防または治療方法、および該組成物にて活性成分として使用され得る可溶性WTA−PGNの調製方法が提供される。本発明の組成物は、抗原−抗体反応に起因するオプソニン貪食作用、および感染の初期段階でのT細胞の活性化に起因する好中球介在性食作用により、スタフィロコッカス・アウレウス感染病の予防または治療に効果的に使用され得る。

Description

本発明は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)感染病を予防または治療するための組成物、より具体的には活性成分として細胞壁タイコ酸結合ペプチドグリカン(以下、WTA−PGNという)を含む組成物に、該組成物を用いるスタフィロコッカス・アウレウス感染病の予防または治療方法に、およびその組成物の活性成分として使用され得る可溶性WTA−PGNの調製方法に関する。
スタフィロコッカス・アウレウスは、ヒトの皮膚、軟組織および血流にて重度の感染症を惹起し得る(Lowy FD, The New England journal of medicine, 339: 520-532, 1998)。さらには、スタフィロコッカス・アウレウスは、メチシリン、β−ラクタム系抗生物質に対して耐性であるメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)菌株に修飾され得る。かかるMRSA感染症は治療が困難であり、予後不良であって、そのために大きな社会問題となる。特に、市中感染型MRSA(CA−MRSA)は、入院していない子供等が発症し、従来の院内感染型MRSA(HA−MRSA)と相まってその治療を困難なものとする。近年、米国で広まったUSA300のMRSA菌株は子供または免疫不全の人々において重篤な疾患を誘発し、かくしてMRSA感染症に対して予防または治療効果のある新規なワクチンの開発が必要とされる。
外国人研究者により開発されたスタフィロコッカス・アウレウスに対するワクチン候補は臨床試験にて予後は良好であったが、それらはすべて臨床試験をパスできず、よってスタフィロコッカス・アウレウスに対して臨床的に効果的なワクチンはこれまで開発されていない。
最近の研究は、体液性免疫と細胞性免疫の両方がスタフィロコッカス・アウレウスのワクチンとして機能するのに不可欠であり、ここで体液性免疫は特定のワクチン候補物質に特異的な血清抗体を産生することによりオプソニン貪食作用を促進し、細胞性免疫は好中球を動員し、MRSA感染症の初期段階でT細胞媒介のIL−17Aを産生することによって食作用を促進するものであり、そしてT細胞の活性化による食細胞のエフェクター機能の促進がスタフィロコッカス・アウレウスの感染からの保護を提供し得ることを示唆した。さらには、外国人研究者はスタフィロコッカス・アウレウス感染がマウス実験にてメモリーγδ−T細胞の数を増やすことができ、それによりその感染に拮抗する保護作用が示されることを報告した(J.Immunol., 192 (8):3697-3708, 2014)。この結果は、スタフィロコッカス・アウレウスへの暴露が、αβ−T細胞と同様の様式で、γδ−T細胞の記憶応答を誘発し、IL−17Aを産生するメモリーγδ−T細胞の誘発がスタフィロコッカス・アウレウスに拮抗する強い宿主保護作用を示し得ることを示唆する。しかしながら、これまで、スタフィロコッカス・アウレウスのどの物質がかかる保護作用を示すのかについては分かっていなかった。
グラム陰性菌と異なり、スタフィロコッカス・アウレウスなどのグラム陽性菌の細胞壁は、主に、ペプチドグリカン(PGN)、細胞壁タイコ酸(WTA)、リポタイコ酸(LTA)および莢膜多糖類(CP)を含む、4種の成分からなる。
宿主の生体防御タンパク質により侵入病原体を迅速に認識すること、および補体系などの先天性免疫を選択的に免疫化することによって病原体を速やかに除去することは極めて重要な反応である。しかし、宿主においてインビボ防御タンパク質により認識される細菌のリガンド物質は明確には同定されておらず、そのために病原体により惹起される感染病を保護および治療には困難がある。
特に、スタフィロコッカス・アウレウスの細胞壁成分である、WTA、LTA、PGN、CPなどのリガンドは、ほとんどが、複雑な構造を有する糖重合体であり、他の物質と一緒に精製され、そのために単一の材料として単離/精製するのは困難である。さらには、細胞壁の種々の成分は外部に曝されるため、成分のうちのいずれの成分が宿主のインビボ防御タンパク質のリガンドとして作用する可能性があるかを同定するのは容易ではない。
本発明の発明者らは、WTA−PGNをスタフィロコッカス・アウレウスの特定の変異菌株から単離し、そのWTA−PGNがスタフィロコッカス・アウレウス感染に拮抗して初期のインビボ免疫応答の誘発能を有する宿主のインビボ防御タンパク質のリガンドとして機能し、かくしてスタフィロコッカス・アウレウス感染症の予防および治療にて効果的であり得ることを確かめた。
従って、本発明の目的はスタフィロコッカス・アウレウス感染病を予防または治療するための組成物を提供することである。
スタフィロコッカス・アウレウス感染病を該組成物を用いて予防または治療する方法を提供することが本発明のもう一つ別の目的である。
組成物の活性成分として用いることのできる可溶性WTA−PGNの製造方法を提供することも本発明のさらにもう一つ別の目的である。
上記の目的を達成するために、本発明は、WTA−PGNを活性成分として含む、スタフィロコッカス・アウレウス感染病の予防または治療用組成物を提供する。
また、本発明は、スタフィロコッカス・アウレウス感染病の予防または治療方法であって、その予防または治療を必要とする対象に上記の組成物を投与することを含む方法を提供する。
さらには、本発明は、可溶性WTA−PGNの調製方法であって、
(1)リポタンパク質ジアシルグリセロールトランスフェラーゼ(lgt)遺伝子およびO−アセチルトランスフェラーゼ(oatA)遺伝子が野生型スタフィロコッカス・アウレウスから欠失されている二重変異の菌株を得る工程;
(2)二重変異の菌株を破壊し、その破壊した菌株から不溶性WTA−PGNを得る工程;
(3)不溶性WTA−PGNをβ−溶菌酵素で処理する工程;
(4)工程(3)における酵素処理産物から可溶性WTA−PGNを含むフラクションを得る工程;
(5)可溶性WTA−PGNを含むフラクションをリゾチームまたはムタノリシンで処理する工程;および
(6)工程(5)における酵素処理産物から可溶性WTA−PGNを得る工程
を含む、方法を提供する。
本発明の上記の目的および特徴は、本発明の以下の記載から、下記に示される個々の添付図面と併せて考慮した場合にさらに明らかになるであろう。
スタフィロコッカス・アウレウスの細胞壁の構造を示す模式図である。
RN4220Δlgt/Δoat変異の菌株から可溶性WTA−PGN、可溶性WTA、および可溶性PGNを個々に得る方法を示すフローチャートである。
不溶性WTA−PGNをβ−溶菌酵素で処理した後にハイトラップ(HiTrap)−Qカラムで分離された不溶性WTA−PGNの溶出パターン(A)および溶出フラクションのゲル移動度(B);ならびにβ−溶菌酵素で処理したWTA−PGNをリゾチームで処理した後にハイトラップ−Qカラムにより分離されたWTA−PGNの溶出パターン(C)およびゲル移動度(D)を示す。
セファクリル(Sephacryl)S−200HRカラムで分離されたWTA−PGNの溶出パターン(A)およびゲル移動度(B);ならびにWTA−PGNをマウスに腹腔内注射した際のIL−17Aの産生量を定量した結果(C)を示す。
第1逆相カラムで分離されるWTA−PGNの溶出パターン(5A)およびゲル移動度(5B);第2逆相カラムで分離されるWTA−PGNの溶出パターン(5C)およびゲル移動度(5D);ならびにWTA−PGNをマウスに腹腔内注射した際に誘発されるIL−17Aの産生量を定量した結果(5E)を示す。
不溶性WTA−PGNをトリクロロ酢酸(TCA)で処理した後にハイトラップ−Qカラムで分離されたWTA−PGNの溶出パターン(A)およびゲル移動度(B)を示す。
ハイトラップ−Qカラムで分離された可溶性PGNの溶出パターンを示す。
トヨパール(Toyopearl)HW55Sカラムにより分離された可溶性PGNの溶出パターンを示す。
WTA−PGNおよびWTAの各々の、27%PAGEおよび硝酸銀染色(A)、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(B)、およびホスファートおよびGlcNAcの残存量(C)を示す。
γδ T細胞誘発の初期免疫応答(細胞性免疫)および記憶免疫応答を観察するために、WTA、PGNおよびWTA−PGNで3回腹腔内免疫付与に供し、そしてMRSA(USA300)感染に付すタイム・スケジュールを示す。
PBS、WTA−PGN、およびWTAとPGNの混合物の各々を、様々な濃度および時間で、腹腔内注射することで誘発されるマウス内でのIL−17A(11A)およびIL−1β(11B)の産生を示す。
WTA−PGNを注射した後のIL−17A、IL−1βおよびIL−10の経時的な産生を示す。
PBSおよびWTA−PGNの注射後にフローサイトメトリー分析によって解析されるIL−17Aの産生能を有するγδ T細胞の分布割合を示す。
PBSおよびWTA−PGNの注射後にCD4およびCD8T細胞が介在するIL−17Aの産生を示す。
PBS、WTA−PGN、およびWTAとPGNの混合物で処理した野生型およびVγ2/4−/−マウスにおけるIL−17A産生(15A)およびIL−1β産生(15B)を示す。
PBS、WTA、PGN、およびWTA−PGNで予め処理した各マウスにおいて、USA300菌株を感染させることで誘発されるIL−17A(16A)、IL−1β(16B)、IL−23(16C)、IFNγ(16D)およびIL−10(16E)の産生を示す。
WTA−PGNで予め処理したマウスのγδ T細胞でのCD44およびCD27、記憶γδ T細胞マーカーの発現(17A);およびこれらの記憶γδ T細胞におけるIL−17Aの発現レベル(17B)を示す。
PBS、WTA−PGN、PGNおよびWTAで予め処理した各マウスにおける記憶γδ T細胞でのIL−17Aの発現であって、FACSにより測定される細胞内IL−17Aの産生量(18A)およびELISAにより測定される細胞外IL−17Aの産生量(B)を示す。
WTAで予め処理した後のCD4、CD8、およびγδ T細胞でのIL−17Aの発現を示す。
記憶γδ T細胞を産生する時点でのγδ TCRの部分集合の集団の分化結果を示す。
WTA−PGNで予め処理したマウスの、およびWTA−PGNで予め処理されていないマウスの樹状細胞でのIL−23発現を示す。
PBS、WTA、PGNおよびWTA−PGNで予め処理した後にUSA300菌株に感染したマウスの臓器形状および腹膜内での膿瘍形成の画像を示す。
USA300感染の後に、WTA−PGNの免疫付与に供することで記憶γδ T細胞が誘発された、マウスの生存を示す。
WTA−PGNの免疫付与に供した後にメチシリン感受性スタフィロコッカス・アウレウス(MSSA)(エス・アウレウス(S.aureus)NRS184菌株)に感染したマウスでの膿瘍の形状(24A)および体積(24B)を示す。
WTA−PGNの免疫付与に供した後にMRSAに感染したNZWウサギでの皮膚膿瘍の形成の有無(25A)、真皮壊死(dermonecrosis)の面積、および膿瘍の体積(25C)を示す。
WTA−PGNの免疫付与に供した後のNZWウサギ(A)およびモルモット(B)での皮膚膿瘍の形成の有無、真皮壊死の面積、および膿瘍の体積を示す。
MRSA感染の後にWTA−PGNの免疫付与に供したモルモットの腹膜での膿瘍および溶血の画像を示す。
WTA−PGNの免疫付与に供した各々の野生型マウス、TLR−9遺伝子欠損のマウス、およびカスパーゼ(Caspase)−1遺伝子欠損のマウスでのIL−17A(28A)およびIL−1β(28B)の産生を示す。
WTA−PGNで予め処理した後に得られるマウスのマクロファージ、樹状細胞、およびγδ T細胞でのIL−17A(29A)、IL−1β(29B)、IL−23(29C)およびIFNγ(29D)の発現を示す。
WTA−PGN注射により誘発される野生型マウスおよびNLRP3遺伝子欠損のマウスにおける遺伝子発現の特徴を示す(30A〜30J)。
抗IgG産生による体液性免疫応答を観察するのに各マウスの尾静脈にてMRSA USA300で感染させた、WTA、PGN、およびWTA−PGNの免疫付与に供したマウスで実験するタイムスケジュールを示す。
WTAおよびWTA−PGNの各々で免疫付与に供したマウスでの抗IgGの産生量を示す。
USA300細胞に1週間感染させた後に、WTA、PGNおよびWTA−PGNの各々での免疫付与に供したマウスの体重の変化を示す。
WTA、PGNおよびWTA−PGNの各々での免疫付与に供したマウスの腎臓の画像、ならびに細菌負荷(CFU)を示す。図34Aは(i)PBS、(ii)WTAおよび(iii)WTA−PGNの各々での免疫付与に供したマウスの腎臓の画像を示し、図34Bは(i)PBS、(ii)WTAおよび(iii)WTA−PGNの各々での免疫付与に供したマウスの腎臓に存在するMRSA菌株のCFU(腎臓1g当たりのCFU)を示す。
WTA、PGNおよびWTA−PGNの各々での免疫付与に供した後に血流を通してMRSA(USA300)に感染させたマウスの腎臓での組織病理学的画像を示す。
下記において、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。以下の実施例は、発明の範囲を限定することなく、本発明をさらに詳しく説明するものとする。
以下、本発明にて使用される用語を定義する。
本明細書にて使用される「細胞壁タイコ酸(WTA)」なる語は、スタフィロコッカス・アウレウス(エス・アウレウス)の細胞壁の成分の1つであり、N−アセチルマンノサミン−(β−1,3)−N−アセチルグルコサミンと、グリセロリン酸の反復単位およびリビトールリン酸の反復単位とからなる糖ポリマーをいう。
本明細書にて使用される「ペプチドグリカン」なる語は、ステムペプチドが結合により連結されるN−アセチルムラミン酸(MurNAc)とN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)の反復糖ポリマーをいう。
本明細書にて使用される「細胞壁タイコ酸の結合したペプチドグリカン(WTA−PGN)」なる語は、細胞壁タイコ酸とペプチドグリカンが共有結合した構造をいい、本発明においては、「WTA−PGN」と区別することなく使用される。
本発明は、WTA−PGNを活性成分として含有する、スタフィロコッカス・アウレウス感染病の予防または治療用の組成物を提供する。
本発明の具体的な実施態様において、WTA−PGNは、下記の一般式1:
[式中、nは10〜50の整数であり;mは1〜3の整数であり;AはN−アセチルマンノサミン(ManNAc)であり;BはN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)であり;OおよびPは、各々独立して、0〜5の整数であり;R〜Rは、各々独立して、ヒドロキシ、テトラペプチドまたはペンタペプチドであり;およびRはヒドロキシまたはN−アセチルムラミン酸(MurNAc)である]
で示されてもよい。
本発明のもう一つ別の具体的な実施態様において、WTA−PGNは上記の一般式1で示されてもよく、ここでnは10〜50の整数であり;mは1〜3の整数であり;AはN−アセチルマンノサミン(ManNAc)であり;BはN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)であり;OおよびPは、各々独立して、0〜5の整数であり;R〜Rは、各々独立して、ヒドロキシ、テトラペプチドまたはペンタペプチドであり;RはヒドロキシまたはN−アセチルムラミン酸(MurNAc)であり;そしてAとBは相互にβ位で結合している。
本発明のさらにもう一つ別の具体的な実施態様において、WTA−PGNは上記の一般式1で示されてもよく、ここでnは35〜45の整数であり;mは3であり;AはN−アセチルマンノサミン(ManNAc)であり;BはN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)であり;OおよびPは、各々独立して、0〜3の整数であり;R〜Rは、各々独立して、ヒドロキシ、テトラペプチドまたはペンタペプチドであり;RはヒドロキシまたはN−アセチルムラミン酸(MurNAc)である。
本発明のさらにもう一つ別の具体的な実施態様において、WTA−PGNは上記の一般式1で示されてもよく、ここでnは40であり;mは3であり;AはN−アセチルマンノサミン(ManNAc)であり;BはN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)であり;OおよびPは、各々独立して、0〜5の整数であり;RおよびRは、各々独立して、テトラペプチドであり;Rはヒドロキシ、テトラペプチドまたはペンタペプチドであり;RはヒドロキシまたはN−アセチルムラミン酸(MurNAc)である。
本発明のさらにもう一つ別の具体的な実施態様において、WTA−PGNは上記の一般式1で示されてもよく、ここでnは40であり;mは3であり;AはN−アセチルマンノサミン(ManNAc)であり;BはN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)であり;OおよびPは、各々独立して、0〜5の整数であり;RおよびRは、各々独立して、テトラペプチドであり;Rはヒドロキシ、テトラペプチドまたはペンタペプチドであって、そのテトラペプチドは−A−A−A−Aであり、その内のAはAlaまたはGlyであり、AはGluまたはAspであり、AはLys、ArgまたはHisであり;およびAはAlaまたはGlyであり;ならびにRはヒドロキシまたはN−アセチルムラミン酸(MurNAc)である。
本発明のさらにもう一つ別の具体的な実施態様において、WTA−PGNは上記の一般式1で示されてもよく、ここでnは40であり;mは3であり;AはN−アセチルマンノサミン(ManNAc)であり;BはN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)であり;OおよびPは、各々独立して、0〜5の整数であり;RおよびRは、各々独立して、テトラペプチドであり;Rはヒドロキシ、テトラペプチドまたはペンタペプチドであり、そのテトラペプチドは−(L−Ala)−(D−Glu)−(L−Lys)−(D−Ala)であり;RはヒドロキシまたはN−アセチルムラミン酸(MurNAc)である。
本発明のさらにもう一つ別の具体的な実施態様において、WTA−PGNのR〜Rのいずれかがもう一つ別のWTA−PGNのR〜Rのいずれかと架橋を形成してもよく、かくしてWTA−PGNは2つのWTA−PGNが一緒に連結する二量体の形態で存在してもよい。
本発明の組成物はスタフィロコッカス・アウレウス感染病の予防または治療に用いられてもよく、スタフィロコッカス・アウレウス感染病を誘発するスタフィロコッカス・アウレウスは、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)、メチシリン感受性スタフィロコッカス・アウレウス(MSSA)または病原性スタフィロコッカス・アウレウスであってもよい。
スタフィロコッカス・アウレウス感染病の例として、軟部組織感染症、化膿性関節炎、化膿性骨髄炎、中耳炎、肺炎、肺血症、急性呼吸器感染症、カテーテル関連感染症、術後感染症、菌血症、心内膜炎および食中毒が挙げられてもよいが、それらに限定されない。
本発明の組成物は、WTA−PGNの他に、医薬的に許容される担体、希釈体、および/またはアジュバントをさらに含んでもよい。
本発明の組成物は、医薬的に許容される担体、希釈体、および/またはアジュバントをさらに含有してもよい。
本発明の組成物中に使用される担体は、投与方法および経路、ならびに標準的な薬物組成物に基づいて決定されてもよい。例えば、担体は、キャリアタンパク質(すなわち、ウシ血清アルブミン(BSA)、オボアルブミン(OVA)、ヒト血清アルブミン(HSA)、およびキーホールリンペットヘミシアニン(KLH))、可溶化剤(すなわち、エタノール、ポリソルベート、およびクレモホールEL(登録商標))、等張剤、保存剤、酸化防止剤、賦形剤(すなわち、ラクトース、澱粉、結晶セルロース、マンニトール、マルトース、リン酸水素カルシウム、軽質無水ケイ酸、および炭酸カルシウム)、結合剤(すなわち、澱粉、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、およびアラビアガム)、滑沢剤(すなわち、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油等)、および溶解剤(すなわち、ラクトース、マンニトール、マルトース、ポリソルベート、マクロゾール、ポリオキシエチレン、および硬化ヒマシ油)であってもよい。必要に応じて、グリセリン、ジメチルアセトアミド、70%乳酸ナトリウム、界面活性剤または塩基性材料(すなわち、水酸化ナトリウム、エチレンジアミン、エタノールアミン、炭酸水素ナトリウム、アルギニン、メグルミン(登録商標)、およびトリスアミノメタン)が含有されてもよい。具体的には、抗原性を高めるために、本発明のワクチン組成物は、キャリアタンパク質として知られるKLH溶液(Calbiotec、125mg/mL 50%グリセロール溶液)と組み合わされてもよい。
本発明に係る組成物に使用される希釈剤は、投与方法および経路、ならびに実際の標準薬の組成物に基づいて選択される。希釈剤の例として、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、および炭酸水素塩溶液が挙げられる。
本発明に係る組成物に使用されるアジュバントは、投与方法および経路、ならびに実際の標準薬の組成物に基づいて選択される。アジュバントの例として、コレラ毒素、イー・コリの易熱性エンドトキシン(LT)、リポソーム、および免疫刺激複合体(ISCOM)が挙げられる。
投与経路は、スタフィロコッカス・アウレウスに感染した危険のある投与されるべき対象の年齢、体重、性別および一般的健康状態に応じて変化してもよい。しかし、投与は経口投与および非経口投与(例えば、静脈内投与、動脈内投与および局所投与)のいずれでなされてもよく、好ましくは非経口投与である。
経口および非経口投与用の処方型、ならびにその製造方法は当業者に知られている。経口および非経口投与用の処方型は、慣用的方法により、例えば、上記される医薬的に許容される担体と混合することにより調製され得る。経口投与用の処方型の例として、溶剤、錠剤、顆粒、散剤またはカプセルなどの固形剤または液剤を挙げることができる。非経口投与用の処方型の例として、溶剤、懸濁液、軟膏、クリーム、坐剤、点眼剤、点鼻剤、および点耳剤を挙げることができる。本発明の製剤を持続的に放出するために、生分解性ポリマー(例えば、ポリ−D,L−ラクチド−コ−グリコリドまたはポリグリコリド)をバルク基剤に添加してもよい(例えば、米国特許第5,417,986号、第4,675,381号および第4,450,150号を参照のこと)。経口投与の場合、矯味矯臭剤および着色剤を添加してもよい。その使用に適する医薬担体、希釈剤、および医薬的に必要な材料は、Remington’s Pharmaceutical Sciencesに記載される。
本発明に係る組成物の投与量は、アジュバントの種類、投与方法および頻度、ならびに所望の効果に応じて決定されてもよく、その用量は、一般に、成人で各投与に付きWTAを1μg〜100mgの量とすることができる。必要に応じて、投与を数回行うこともできる。例えば、組成物を最初に投与してから、補充を目的として、組成物を再び一定の間隔で3回投与することもできる。1回目と2回目の補充のための組成物は、選択的に、同じ処方を用いて、各々、8週目から12週目に、および16週目から20週目に投与されてもよい。
さらには、本発明は、対象におけるスタフィロコッカス・アウレウス感染病の予防または治療方法であって、上記した組成物をその必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
上記されるように、スタフィロコッカス・アウレウス感染病は、本発明に係る組成物を投与し、それにより対象にてオプソニン貪食作用および食作用を同時に誘発することで予防または治療され得る。
本発明の方法は、該組成物を投与してから24時間以内に、対象にてγδ−T細胞の数、IL−17Aの産生量、およびIL−1βの産生量を増やすことができる。さらには、本発明の方法は、該組成物を投与して12時間後に、対象においてIL−10の産生量を増やすこともできる。
さらには、本発明は、可溶性の細胞壁タイコ酸結合ペプチドグリカン(WTA−PGN)の調製方法であって、
(1)リポタンパク質ジアシルグリセロールトランスフェラーゼ(lgt)およびO−アセチルトランスフェラーゼ(oatA)遺伝子が野生型スタフィロコッカス・アウレウスから欠失されている二重変異菌株を得;
(2)二重変異の菌株を破壊し、その破壊した菌株から不溶性WTA−PGNを得;
(3)不溶性WTA−PGNをβ−溶菌酵素で処理し;
(4)工程(3)における酵素処理産物から可溶性WTA−PGNを含むフラクションを得;
(5)可溶性WTA−PGNを含むフラクションをリゾチームまたはムタノリシンで処理し;および
(6)工程(5)における酵素処理産物から可溶性WTA−PGNを得ること
を含む、方法を提供する。
以下、本発明に係る可溶性WTA−PGNの調製方法を詳細に記載する。
本発明の方法において、工程(1)では、リポタンパク質ジアシルグリセロールトランスフェラーゼ(lgt)とO−アセチルトランスフェラーゼ(oatA)遺伝子が野生型スタフィロコッカス・アウレウスから欠失されている二重変異の菌株を得る。
工程(1)において得られた二重変異の菌株、すなわち、リポタンパク質ジアシルグリセロールトランスフェラーゼ(lgt)とO−アセチルトランスフェラーゼ(oatA)遺伝子を欠いたΔlgtΔoatAは、lgt遺伝子を欠くためにリポタンパク質の汚染の可能性がほとんどなく、かくして同じ材料からより純度の高いWTA−PGNを容易に得ることができる。加えて、工程(1)にて使用される二重変異の菌株はoatA遺伝子を欠くためにPGNのMurNAc残基にアセチル基がなく、かくして上記にて産生されるWTA−PGNは工程(2)にてリソスタフィンまたはβ−溶菌酵素により容易に分解され得る。
二重変異の菌株は、野生型スタフィロコッカス・アウレウス、例えばメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)、メチシリン感受性スタフィロコッカス・アウレウス(MSSA)または病原性スタフィロコッカス・アウレウスより昔から知られている一般的な変異誘発により得ることができる。例えば、二重変異の菌株は、リポタンパク質ジアシルグリセロールトランスフェラーゼ(lgt)遺伝子の欠失しているT363菌株(Nakayama Mら、Journal of Immunology 189: 5903-591, 2012)、およびエリスロマイシン耐性があり、O−アセチルトランスフェラーゼ(oatA)遺伝子の欠失しているT0003菌株(Park KHら、Journal of Biological Chemistry 285, 27167-27175, 2010)をファージ80を媒介体として用いて形質転換することにより調製されてもよい。
本発明の方法において、工程(2)では、二重変異の菌株を破壊し、その破壊した菌株から不溶性WTA−PGNを得る。
工程(2)は、参考文献[Park KHら、Journal of Biological Chemistry 285, 27167-27175, 2010;Jung DJら、Journal of Immunology 2012, 189: 4951-4959, 2012]に記載の方法を参考にして行われてもよい。
例えば、工程(2)は、工程(1)で得られた二重変異の菌株を培養し、その培養体から不溶性WTA−PGNを取得することを含んでもよい。
本発明の方法において、工程(3)では、不溶性WTA−PGNをβ−溶菌酵素で処理する。
β−溶菌酵素は、工程(2)で得られる不溶性WTA−PGNのMurNAc残基において存在するステムペプチドをつなぐペンタグリシン((Gly))架橋を分解し、それで不溶性WTA−PGNを可溶性WTA−PGNに変換する役割を果たす。
β−溶菌酵素は商業的に入手可能であるか、あるいは参考文献[Liら. Journal of Biochemistry 122, 772-778, 1997]に記載の方法に従って単離かつ精製されてもよい。β−溶菌酵素の例として、リソスタフィンが挙げられるが、それに限定されない。
工程(3)は、工程(2)で得られる不溶性WTA−PGNを緩衝溶液に懸濁させ、β−溶菌酵素を添加し、30ないし40℃の温度で10時間ないし14時間攪拌しながらそれらを反応させることにより行われてもよい。
本発明の方法において、工程(4)では、工程(3)の酵素処理産物から可溶性WTA−PGNを含有するフラクションを得る。
上記の工程において、β−溶菌酵素処理の産物を高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)に通してフラクションを得、可溶性WTA−PGNを含有するフラクションを上記のフラクションより選択する。
可溶性WTA−PGNを含有するフラクションは、工程(3)の酵素処理産物をHPLCに通すことで得ることができる。HPLCに通すことで得られるフラクションの中で、可溶性WTA−PGNを含有するフラクションはPAGEまたは硝酸銀染色法により確認され得る。
HPLC精製にて使用され得るカラムの例として、WTAのリビトールリン酸のアニオンに結合するアニオン交換樹脂である、ハイトラップQ(HiTrap-Q)(GE Healthcare)が挙げられるが、それに限定されるものではない。
本発明の方法において、工程(5)では、可溶性WTA−PGNを含有するフラクションをリゾチームまたはムタノリシンで処理する。
上記において使用されるリゾチームまたはムタノリシンは、WTA−PGNにおけるPGNのMurNAcおよびGlcNAc間の結合を破壊し、それによりポリマーPGNをオリゴマーPGNに変換しうる。
工程(5)は、工程(3)にて得られる可溶性WTA−PGNを緩衝液に懸濁させ、リゾチームまたはムタノリシンを添加し、30℃ないし40℃で10時間ないし14時間攪拌することによりなされてもよい。
本発明の方法において、工程(6)では、工程(5)の酵素処理産物から可溶性WTA−PGNを得る。
可溶性WTA−PGNは、工程(5)の酵素処理産物をHPLCに通すことにより得られ得る。
上記の工程において、リゾチームまたはムタノリシン酵素処理の産物をHPLCに通してフラクションを得、可溶性WTA−PGNを含有するフラクションを上記のフラクションより選択する。上記のフラクションの選択は、各フラクションをマウスに腹腔内注射した後に産生されるIL−17Aの量に基づいてなされてもよい。
HPLC精製にて使用され得るカラムの例として、ハイトラップQ(GE Healthcare)が挙げられるが、それに限定されるものではない。
本発明に係る可溶性WTA−PGNの調製方法は、工程(6)の後にWTA−PGNのさらなる精製をさらに含んでもよい。
WTA−PGNのさらなる精製は、ゲル濾過クロマトグラフィーまたは逆相液体クロマトグラフィーによりなされうる。
本発明の具体的な実施態様において、工程(6)にて調製される可溶性WTA−PGNは、セファクリル(Sephacryl)S−200HRカラムを用いるゲル濾過クロマトグラフィーによるか、シンメトリー・シールド(Symmetry Shield)(登録商標)RP18カラムを用いる逆相液体クロマトグラフィーによりさらに精製されてもよい。
本発明のもう一つ別の具体的な実施態様において、工程(6)にて調製される可溶性WTA−PGNは、セファクリルS−200HRカラムを用いるゲル濾過クロマトグラフィーと、シンメトリー・シールド(登録商標)RP18カラムを用いる逆相液体クロマトグラフィー(2回)とによりさらに精製されてもよい。
クロマトグラフィーに通すフラクションは、マウスに腹腔内注射した後に産生されるIL−17Aの量に基づいて選択されてもよい。
本発明は、下記の実施例にてさらに記載かつ説明されるが、それは本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1:WTA誘導体を取得するための菌株の調製
WTA−PGNを単離するために、エス・アウレウスT384菌株(RN4220ΔlgtΔoatA二重変異株)が参考文献[Kazue Takahashiら、Plos One 8: e69739, 2013]に記載の方法に従って調製された。
簡単に言えば、エス・アウレウスT384菌株は、リポタンパク質ジアシルグリセロールトランスフェラーゼ(lgt)遺伝子の欠失しているT363菌株(Nakayama Mら、Journal of Immunology 189: 5903-591 , 2012)、およびエリスロマイシン耐性があり、O−アセチルトランスフェラーゼ(oatA)遺伝子の欠失しているT0003菌株(Park KHら、Journal of Biological Chemistry 285, 27167-27175, 2010)をファージ80を媒介体として用いて形質転換することにより調製された。該菌株は、lgt遺伝子が欠失しているためにリポタンパク質を汚染することなく、WTA、WTA−PGN、およびPGNを単離するのに使用することができ、その単離されたPGNはoatA遺伝子が欠失していることからPGN MurNAc残基の6位にある酸素にアセチル基が存在しないためにリゾチームによって容易に分解され得る。
実施例2:可溶性WTA−PGNの単離および精製
不溶性WTA−PGNは、実施例1にて調製されたΔlgt/ΔoatA変異株より得られ、可溶性WTAはその不溶性WTA−PGNより単離して精製された(図2を参照のこと)。
<2−1>不溶性WTA−PGN誘導体の単離および精製
不溶性WTA−PGNは、参考文献[Park KHら、Journal of Biological Chemistry 285, 27167-27175, 2010;Jung DJら、Journal of Immunology 2012, 189: 4951-4959, 2012]に記載の方法を修飾することにより単離かつ精製された。
具体的には、実施例1のΔlgtΔoatA変異株をインキュベーターを用いて培養し、得られた細菌細胞を回収した。回収した細菌細胞(10mL)を20mMクエン酸緩衝液(pH4.5;30mL)に懸濁させ、その内の50μLを400倍に希釈し、分光光度計を用いてOD600nmが0.8となるように調節した。次に、20mMクエン酸緩衝液(pH4.7)を除去するのに、その得られた懸濁液を高速遠心分離機を用いて4℃で5分間10,000rpmの速度で遠心分離に付した。その後で、細菌ペレットを1M NaCl(pH4.5;30mL)を添加した20mMクエン酸緩衝液に懸濁させ、その懸濁液をガラスビーズ(12g)を含有する6個のステンレス製の破壊ボトルにアリコートして分けた。その破壊ボトルを、その各々のボトルの容積が20mLになるように、1M NaCl(pH4.7;20mL)を添加した20mMクエン酸緩衝液で洗浄した。過熱を防止するのに、破壊されるボトルを氷上で保管し、細菌を破壊する2分間の工程および氷上で保管する2分間の工程を7回繰り返した。その破壊菌を新たな50mLの管に移し、高速遠心分離機を用いて4℃で15分間3,000rpmの速度で遠心分離に付した。次に、上清を50mLの円錐管に移し、高速遠心分離機を用いて4℃で10分間15,000rpmの速度で遠心分離に付した。そのペレットを20mMのクエン酸緩衝液(pH4.7;10mL)に懸濁させ、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含有する20mMクエン酸緩衝液(pH4.7;10mL)に添加し、最終SDS濃度を0.5%に調整した。得られた懸濁液を60℃に保持した定温の水浴にて30分間の熱処理に供し、4℃で5分間15,000rpmの速度で遠心分離に付し、得られた上清を取り除いた。アニオン性界面活性剤のSDSで処理した後、ペレットの色が青くなる現象が観察された。SDSを除去するために、それを20mMのクエン酸緩衝液(pH4.7;20mL)に懸濁させ、高速遠心分離機を用いて20℃で5分間15,000rpmの速度で遠心分離に付し、上清を除去した。ペレットを1M NaClを含有する20mMクエン酸緩衝液(pH4.7;30mL)で洗浄した。残りのSDSを完全に除去するために、該ペレットを注射水に懸濁させ、それを30℃に加熱し、20℃で5分間15,000rpmの速度で遠心分離に付した。ペレットに注射水を加え、震盪した時に、泡が発生しなくなるまで、洗浄を繰り返した。泡のない状態のペレットを注射水(10mL)に懸濁させ、室温で10分間保存した。沈んでいるガラスビーズが移動しないようにしながら、上清を新たな50mLの管に移し、20℃で5分間15,000rpmの速度で遠心分離に付してペレットを調製した。凍結乾燥のために、該ペレットを注射水(15mL)に懸濁させ、−80℃で凍結させ、凍結乾燥させて不溶性WTA−PGNを得た。
<2−2>β−溶菌酵素の調製
不溶性WTA−PGNから可溶性WTA−PGNを調製するのに使用されるβ−溶菌酵素を調製するのに、参考文献[Liら、Journal of Biochemistry 122, 772-778, 1997]に記載の方法を参照した。
最初に、粗製品のアクロモペプチダーゼ(5g)を10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0;500mL)に溶かし、4℃で15分間15,000rpmの速度で遠心分離に付した。その上清を10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)と平衡にした後、上清をCM−セファロース・ファースト・フロー(CM-Sepharose Fast Flow)カラム(3cm(長さ)x18cm(幅))に負荷し、つづいて0.5M NaClの濃度まで線形勾配に供することによりそれを溶出させた。溶出した溶液の吸光度を280nmで測定し、溶菌活性を示すフラクションを集めて濃縮した。その濃縮サンプルをセファクリルS−100(Sephacryl S-100)カラム(1.6cm(長さ)x87cm(幅))において200mM NaClを含有する10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)を用いてサイズ排除クロマトグラフィーに供した。濾液の吸光度を280nmで測定し、溶菌活性を示すフラクションを集めて濃縮した。そのフラクションのうち、β−溶菌酵素のフラクションは、Liら(1997)の結果に基づいて選択された。次に、β−溶菌酵素は、スーパーデックス−75(Superdex-75)カラム(1cmx30cm)において200mM NaClを含有する10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)を用いてサイズ排除クロマトグラフィーに供することにより得られた。
こうして得られたβ−溶菌酵素の溶菌活性または溶解活性は、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)(ATCC9341)を、あるいはPGN懸濁液および不溶性スタフィロコッカス・アウレウスより誘導されるカラムフラクションを培養することにより確かめられた。Procise(登録商標)プロテインシークエンサー(カタログ番号491−0、Applied Biosystems、Stafford、TX、USA)によりN−末端配列を分析した結果、そのN−末端配列はS−P−N−G−L−L−Q−F−P−Fであることが確認され、電気泳動分析の結果、約25kDaの分子量を有する単結合が観察され、こうして得られるβ−溶菌酵素がβ−溶菌酵素であることをこのように確認した。
<2−3>可溶性WTA−PGNの精製
[1]β−溶菌酵素処理およびHPLC
実施例<2−1>にて凍結乾燥させた不溶性WTA−PGNを20mMトリス−HCl(pH7.0)に100mg/10mLの割合で懸濁させ、遠心分離により上清を取り除く工程を3回繰り返し、その上清のpHが7.0であることを確認した。次に、その不溶性WTA−PGNを、ブラッドフォード法により定量したβ−溶菌酵素と、350μgのβ−溶菌酵素/100mgのWTA−PGNの割合で混合し、それらを180rpmの速度で攪拌しながら、37℃のインキュベータにて12時間にわたって反応させた。次に、反応物を60℃で定温の水浴中に10分間入れ、酵素を不活性化し、4℃で10分間15,000rpmの速度で遠心分離に付し、上清を得た。その上清を0.45μmのフィルターに通し、濾液を20mMトリス−HCl(pH7.0)で平衡にしたハイトラップQカラムに負荷し、1M NaClを線形勾配で含有する20mMトリス−HCl(pH7.0)で溶出した。図3Aに示されるように、溶出の結果として、合計で3本のピークを得た。各ピークをA,BおよびCと名付け、27%PAGEを行った(図3B)。その中で、電気泳動にて硝酸銀で染色された番号1のフラクションをアセトンで沈殿させ、凍結乾燥させて可溶性WTA−PGNを得た。
[2]リゾチーム処理およびHPLC
凍結乾燥させたWTA−PGN(100mg)を20mMのトリス−HCl(pH7.0;10mL)に溶かし、リゾチーム(カタログ番号62970、Sigma-Aldrich Co. LLC., Saint Louis, MO, USA;1.25mg)と混合し、37℃のインキュベータにて、180rpmの速度で攪拌しながら12時間反応させた。次に、反応物を60℃の一定温度の水浴中に10分間置き、酵素を不活性化して上清を得た。上清を0.45μmのフィルターに通し、その濾液を20mMトリス−HCl(pH7.0)で平衡にしたハイトラップQカラムに負荷し、1M NaClを線形勾配で含有する20mMトリス−HCl(pH7.0)で溶出した。溶出の結果として、図3Cに示されるように、合計で4本のピークを得た。そのピークをアセトンで沈殿させ、次に電気泳動に供した(図3D)。その内、番号3および4のフラクションは電気泳動にて硝酸銀で染色され、それを集め、凍結乾燥に付して可溶性WTA−PGNを得た。
[3]セファクリルS−200HRカラムを用いるWTA−PGNの精製
単離したWTA−PGNをセファクリルS−200HRカラムでさらに精製した。この工程にて、HPLC装置(805 MANOMETRIC MODULE、811C DYNAMIC MIXER、305 PUMP、306 PUMP、151 UV/VIS Detector、Gilson、USA)およびセファクリルS−200HRの25μm〜75μm(カタログ番号17−0584−01、GE Healthcare Life Sciences, England)カラムを用いた。
上記にて単離した、可溶性WTA−PGN(53.5mg)を蒸留水(400μL)に溶かし、HPLCインジェクターに加えた。試料を溶出する前に、セファクリルS−200HRカラムをHPLCインジェクターに接続し、蒸留水で洗浄して平衡状態にし、実験の間の不純物の流入による誤差を防止するために、UV検出装置が安定するまで、溶媒をカラムの中に0.3mL/分の流速で流し、感度2、10.0秒間のピーク幅、および220nmのUV吸光度とした。UV値が安定化したならば、インジェクターを負荷モードに変更することにより試料をゆっくりと注入し、溶出の開始に応じてインジェクターを注入モードに変更し、それによりカラムに流し込み、溶出液を得た。該工程は平衡化の工程と同じ条件で行われた。溶出の結果として、図4Aに示されるように、合計で4本のピーク(A、B、CおよびD)が同定された。図4Bに示されるように、ピークをPAGE解析に付した結果、可溶性WTA−PGNがピークB、CおよびDに存在することが確かめられた。
こうして得られた4本のピークを、各々、凍結乾燥させ、それをマウスの腹膜に注射した。結果として産生されたIL−17Aの量を比較し、ピークBが最も活性の高いことが判明し(図4C)、それでピークBをその後の実験にて用いた。
[4]C18逆相カラムを用いるWTA−PGNの精製
単離したWTA−PGNをC18逆相カラムによりさらに精製した。HPLC装置(805 MANOMETRIC MODULE、811C DYNAMIC MIXER、305 PUMP、306 PUMP、151 UV/VIS Detector、Gilson, USA)、シンメトリー・シールド(Symmetry Shield)(登録商標)RP18(5μm、4.6mmx250mm)カラム(カタログ番号186000112、Waters, Ireland)およびエムエフ(MF)(登録商標)膜フィルター0.45μm(カタログ番号HAWP04700、Merck、Germany)を用いた。さらには、スピード・バク(Speed Vac)(カタログ番号CVE−100、EYELA, Japan)、エバポレーター(Evaporator)カタログ番号CCA−1110、EYELA, Japan)および凍結乾燥装置(カタログ番号FDU−2200、EYELA, Japan)を用いた。
C18逆相カラムを用いてWTA−PGNを精製するためには、セファクリルSー200カラムで分離されるフラクションB(図4を参照のこと)を3mgの量で固定相溶媒(200μL)に溶かし、試料として用いた。流速は1mL/分であり、UV吸光度を202nmで測定した。試料を1の感度および40℃のカラム温度の条件下で負荷した。移動相の濃度勾配を0%で10分間、41.7%で25分間、100%で2分間、そして100%で10分間に設定することにより溶出を行った。溶出の結果として、図5Aに示されるように、6本のピーク(A〜F)が同定された。そのピークをPAGE解析に供し、その結果を図5Bに示す。溶出した各々のピークのpHを1Mトリス−HClで約pH6.5ないし7.5の中性pHに調整し、エバポレータを用いて300μLに濃縮し、冷アセトン(900μL)と混合し、氷上で1時間沈殿させた。得られた沈殿物を15,000rpmの遠心分離に4℃で25分間供してペレットを回収し、残りのアセトンをスピード・バク(speed vac)により乾燥させ、蒸留水(20μL)に溶かし、ついで凍結乾燥させた。
各フラクション(2mg)をC18カラムに再び負荷することによりそれを再度分離し、それによりさらに精製されたA、B、C、DおよびEフラクションを得た(図5C)。ピークをPAGE分析に供し、結果を図5Dに示す。さらには、A、B、C、DおよびEのフラクションを、各々20μgの量で、マウスの腹腔に注射した。注射して6時間後に誘発されるIL−17Aの量をELISAにより定量し、その結果を図5Eに示す。図5Eに示されるように、フラクションCが最も多い量のIL−17Aを有することが判明し、そのようなフラクションCをその後に実験に使用した。
実施例3:可溶性WTAの精製
WTAの精製のために、不溶性WTA−PGN(80mg)を20mMのクエン酸緩衝液(80mg)(pH4.5;19mL)に懸濁させ、トリクロロ酢酸(100mg/mL;1mL)に添加し、5mg/mLの最終濃度とした。懸濁液を180rpmで攪拌しながら、30℃のインキュベータで12時間反応させ、次に10,000rpmの遠心分離に4℃で10分間供した。上清を50mLの管に移し、アセトンで1時間にわたって沈殿させ、15,000rpmの遠心分離に4℃で25分間供した。得られたペレットを1.5mLのマイクロ遠心分離管の移し、アセトンを除去して20mMのトリス−HCl緩衝液(pH7.0;1mL)に懸濁させた。
次に、その得られた懸濁液をハイトラップQカラムを用いるHPLCに供した。あらゆるラインおよびカラムを緩衝液A(20mMトリス−HCl(pH7.0)の緩衝液)で洗浄し、感度1の下で検出し、220nmでの吸光度を測定するように検出装置を設定して平衡状態にした。負荷用の試料を0.45μmのフィルターを通して濾過して負荷した。試料がハイトラップQカラムに結合しうるように流速は0.5mL/分に設定され、そのハイトラップQカラムを洗浄し、平衡状態が達成されるまで初めの流速を維持しながら、不純物を除去した。20mMトリス−HClおよび1M NaCl(pH7.0)からなる、緩衝液Bに必要とされる時間を設定することにより勾配を適用し、50分間で0%〜100%となるようにし、ハイトラップQカラムに結合したWTAを溶出させてから、試料を各ピークより回収した。その溶出の結果として、図6(A)に示されるように、2本のピーク(ピーク1および2)が得られた。溶出液を50mLの円錐管にアリコートして、各管にて10mL未満が含有されるようにし、冷アセトンで1時間沈殿させた。アセトン沈降の間に、ピーク1は15mgの収量を示し、ピーク2は0.88mgの収量を示した。溶出液を15,000rpmの遠心分離に25分間供してペレットを回収し、すべてのアセトンを蒸発により除去し、ペレットを注射水に溶かし、凍結乾燥させた。その凍結乾燥生成物をストック液に調製し(10mg/mL)、27%PAGEにより20μgの量で分離し、硝酸銀で染色した。その結果、ピーク1がピーク2よりも多くの数のリビトールを有し、また多量で有すると予測され(図6(B))、かくしてピーク1が可溶性WTAとして使用された。
実施例4:可溶性PGNの精製
<4−1>WTAを除去するためのTCA処理
PGNを凍結乾燥させた不溶性WTA−PGNから得るために、WTAをトリクロロ酢酸(TCA)で除去した。WTAを得るためにTCAを用いて処理した不溶性WTA−PGNを20mMクエン酸緩衝液(pH4.5;19mL)に添加して再懸濁させ、TCA(100mg/mL;1mL)をそれに加え、最終濃度を5mg/mLとした。得られた混合物を180rpmで攪拌しながら30℃のインキュベータにて12時間反応させ、10,000rpmの遠心分離に4℃で10分間供した。得られたペレットを滅菌蒸留水(30mL)に懸濁させ、10,000rpmの遠心分離に4℃で10分間供し、洗浄し、全工程を5回繰り返すことによりTCAを完全に除去した。得られた混合物を注射水(15mL)に懸濁させ、凍結乾燥させて不溶性PGNを得た。
<4−2>不溶性PGNを精製して可溶性PGNにするためのβ−溶菌酵素処理
凍結乾燥させた不溶性PGN(100mg)を20mMトリス−HCl(pH7.0;10mL)に懸濁させて10mg/mLの濃度とし、15,000rpmの遠心分離に4℃で10分間供し、得られたペレットを20mMトリス−HCl(pH7.0;30mL)で3回洗浄した。洗浄した不溶性PGNを20mMトリス−HCl(pH7.0;20mL)に懸濁させ、100mgの不溶性PGNに付き350μgの精製されたβ−溶菌酵素を添加し、pHが7.0となるように調整し、180rpmで攪拌しながら37℃のインキュベータで12時間反応させた。次に、不活性化のために、得られた混合物を100℃で10分間熱処理し、室温で少なくとも10分間冷却し、15,000rpmの遠心分離に4℃で10分間供した。得られた上清を0.45μmのフィルターを用いて濾過し、凍結乾燥させた。
<4−3>ゲル濾過クロマトグラフィーによる可溶性PGNの精製
凍結乾燥させて可溶化させたPGNを注射水に溶かして20mg/mLの濃度とし、次にイオン交換カラムであるハイトラップQに負荷し、その中に微量に含まれるWTAおよびWTA−PGNを除去した。HPLC条件については、平衡状態は、20mg/mLで添加された緩衝液Aである注射水で、1mL/分の流速、220nmの吸光度および1の感度の下で調節され、勾配は1M NaClを含有する緩衝液Bの注射水が30分間にわたって0%から100%となるように設定された。
溶出結果を図7に示す。図7に示されるように、通過した溶液(フラクションA)はWTAが取り除かれている可溶性PGNを含有するフラクションであると考えられ、1M NaClを含有する緩衝液Bで溶出するフラクション(フラクションB)はWTAが除去されていないWTA−PGNまたはWTAであると推測された。従って、フラクションAだけを集めて凍結乾燥させた。
次に、所定の長さのグリカンを有する可溶性PGNを精製するために、凍結乾燥させた生成物を注射水に溶かして20mg/mLの濃度とし、トヨパールHW55S(カタログ番号14686、TOSOH Bopscience, 日本)カラムに負荷し、ゲル濾過を行った。ゲル濾過条件に関して、平衡状態は注射水で調節され、0.5mL/分の流速、215nmの吸光度、1の感度、および50分間にわたる操作で実施された。ゲル濾過による溶出パターンを図8に示す。図8に示されるように、2本のピークがゲル濾過の間に確認された。そのピークの間で、ピークBが可溶性PGNであることを確認するために、昆虫のテネブリオ・モリトール(Tenebrio molitor)のプロフェノールオキシダーゼシステムを用いた。そのピークを連続して10倍にまで希釈した。正の対照としてβ−1,3を用い、基線として負の対照のOD値を考慮して比較する際に、ピークAとBの両方で活性が示されることを確認した(図8)。トヨパールHW55Sカラムの特徴により低分子量の物質が後にくるため、ピークBがピークAよりも分子量が小さい、すなわち少数の糖類の可溶性PGNであると確認され得る。ピークBを分離し、凍結乾燥させ、その後の実験に用いた。
実施例4:WTA−PGNおよびWTAの生化学的性質の検証
単離/精製されたWTA−PGNおよびWTAの生化学的性質を検証するために、27%PAGEおよび硝酸銀染色を行った。D−Alaの存在をシリカゲル薄層クロマトグラフィーにより分析し、WTAに存在するリン酸およびGlcNAc残基の量を既知の分析方法により定量した。
具体的には、D−Alaの存在を確認するために、2μLの同定用試料(10mg/mL)および1M NaOH(0.2μL)をマイクロ遠心分離管に加え、180rpmで攪拌しながら37℃のインキュベータ中で2時間培養した。薄層クロマトグラフィーのフィルムを5cm(長さ)x10cm(幅)の大きさに切断し、TLC溶液に直接触れないように試料(2μL)を頂部から約2cmに負荷し、1時間30分にわたって展開させた。次に、薄層クロマトグラフィーフィルムを完全に乾燥させ、ニンヒドリンスプレー試薬(1mL)を噴霧し、赤紫色のスポットが現れるまで、ヒートブロックにて熱処理した。
さらに、ホスファートを定量するために、試料(2μL〜4μL)、蒸留水(100μL)、および消化剤(175μL)をガラス管に加えてかき混ぜた。該管を外から加熱した後、試料の色が濃い黄色になったことを確認し、その色相が薄くなるまで該管を再び加熱した。得られた混合物を室温で10分間冷却し、蒸留水(125μL)および1%モリブデン酸アンモニウムを添加して攪拌した。次に、還元剤(50μL)をそこに添加し、定温水浴にて10分間加熱し、分光光度計を用いてOD値を750nmで測定した。標体としてホスファートを用いた。
さらに、GlcNAcを定量するために、マイクロ遠心分離により分離された試料、蒸留水、および6.45N HClを添加して最終容量を100μLとし、かき混ぜ、小型のガラス管(0.5cm(直径)x5cm(高さ))に移し、試料中に含まれる気泡をすべて真空ポンプ装置を用いて除去した。得られた試料を100℃のオーブンで3時間熱処理に付し、室温で冷却した。次に、その得られた試料をパスツールピペットを用いて大型のガラス管(1.8cm(直径)x18cm(高さ))に移し、それを真空下に置き、それによって試料を乾燥させることにより、真空状態を調製しながら加熱した。その後で、溶液(エタノール:蒸留水:トリエチルアミン=2:2:1)を50μLの量で各管に加え、2回乾燥させた。試料に含まれるHClそのものはすべて除去され、蒸留水(100μL)、無水酢酸(20μL)およびホウ酸塩緩衝液(100μL)を加えて混合し、95℃の定温水浴にて8分間煮沸し、室温で冷却した。p−ジメチルアミノベンズアルデヒド試薬(750μL)および2−エトキシエタノール(50μL)をそこに添加し、20℃の定温水浴にて15分間培養し、分光光度計を用いて585nmでOD値を測定した。標体として、N−アセチルグルコサミンを用いた。
結果として、図9Aに示されるように、精製されたWTAのゲル移動は精製されたWTA−PGNよりも速いことが明らかにされ、このことはWTAが、PGNを取り除くことにより、WTA−PGNよりも分子量が低いことを確認する。加えて、図9Bに示されるように、D−Ala残基はWTA−PGNとWTAの両方と結合することが示された。さらには、図9Cに示されるように、ホスファート含量は1μgのWTA−PGN中に1.5ナノモル、1μgのWTA中に1.8ナノモルであることが示され、GlcNAc含量は1μgのWTA−PGN中に2.5ナノモル、1μgのWTA中に2.2ナノモルであることが示された。
実施例5:WTA−PGNの効果を分析するための実験方法
<5−1>マウス実験および飼育の計画
実験動物として、5週齢の特定病原体除去(SPF)C57BL/6Jの雌のマウス(体重;15±0.5g)をコリア・リサーチ・インスティツート・オブ・バイオサイエンス・アンド・バイオテクノロジー(KRIBB)のバイオメディカル・マウス・リソース・センター(韓国、チュンチョンブクド、Ohchang Campus、rea遺伝子欠損)より入手した。実験用動物を、実験の前に、市販の固形飼料(カタログ番号5L79、Orient Bio Inc.、rea遺伝子欠損)を該動物に与えながら、動物実験の実験室環境(定温で定湿度の動物用ケージ、カタログ番号AAAC2051、JEIO TECH Co., Ltd.、rea遺伝子欠損;20℃ないし25℃の55%湿度)に1週間適合させた。マウスを体重により完全に無作為の計画で各群(一群6〜12匹のマウス)に割り当て、それらの動物を飼育ケージに入れ(6匹のマウス/群)、食餌および飲料水を自由に与えた。各実験動物の体重および食餌摂取量を一日に一回測定し、照明を12時間の間隔で切り換えた。
<5−2>インビボ感染の研究に使用され得るMRSA(エス・アウレウスUSA300菌株)およびMSSA(エス・アウレウスNRS184菌株)の調製
MRSA(エス・アウレウスUSA300菌株)およびMSSA(エス・アウレウスNRS184菌株)はドイツのテュービンゲン大学から提供された。グリセロールストック中−80℃で貯蔵された菌株をエル・ビー・ブロス・レンノックス(LB Broth LENNOX)(カタログ番号405.1、Bioshop, Canada)上に固定し、37℃のインキュベータにて少なくとも12時間平板培養した。次に、その培養した平板を4℃で貯蔵した。その菌株を用いる1日前に、バクト(Bacto)(登録商標)トリプシン・ソイ・ブロス・ソイビーン−カゼイン・ダイジェスト・メディウム(カタログ番号211825、BD、USA New Jersey;2mL)を14mLの丸底管に加え、1つのコロニーを接種し、37℃のインキュベータ中で少なくとも12時間攪拌しながら培養した。その後、動物を感染させる3時間前に、37℃で12時間培養した細菌培養ブロス(400μL)をTSB(20mL)に加え、37℃のインキュベータ中にて攪拌しながら培養し、対数中期へと発展させた。細菌培養ブロスを、培養の完了した後に、貯蔵して細胞増殖を防止し、さらに進化させた。第1に、得られた培養物を3,000rpmの速度の遠心分離に4℃で10分間供し、上清を取り除いた。得られた物をPBSに懸濁させ、15,000rpmの速度の遠心分離に4℃で1分間供した。遠心分離の後、上清を取り除き、PBS(1mL)に再度懸濁させ、分光光度計(カタログ番号206−25400−58、島津製作所、日本)を用いて600nmで吸光度を測定した。各動物モデルおよび感染方法に従って、必要とされる細胞数を考慮して懸濁液を希釈し、その実験に用いた。
<5−3>熱死滅菌の調製
IL−17Aの量は、表1に示される加熱殺菌されたエス・アウレウス菌株を用いて測定された。
(1)Novick RP、Ross HF、Projan SJ、Kornblum J、Kreiswirth B、Moghazeh S. (1993)「スタフィロコッカス病原性因子の合成の調節RNA分子により制御」(Synthesis of Staphylococcal Virulence Factors Is Controlled by a Regulatory Rna Molecule.)EMBO J. 12 (10): 3967-75;
(2)ドイツ、テュービンゲン大学、インターファカルティ・インスティテュート・オブ・マイクロバイオロジー・アンド・メジシン、セルラー・アンド・モレキュラー・バイオロジー・デビジョン(Molecular Microbiology Division、Interfaculty Institute of Microbiology and Infection Medicine、University of Tubingen、Germany)から入手
(3)Kurokawa K、Kim MS、Ichikawa R、Ryu KH、Dohmae N、Nakayama H、Lee BL. (2012)「スタフィロコッカス・アウレウスにおけるジアシルリポタンパク質のそのトリアシルカウンターパートより多くの環境介在的蓄積」(Environment-mediated accumulation of diacyl lipoproteins over their triacyl counterparts in Staphylococcus aureus) J Bacteriol. 194 (13): 3299-306;
(4)Park KH、Kurokawa K、Zheng L、Jung DJ、Tateishi K、Jin JO、Ha NC、Kang HJ、Matsushita M、Kwak JY、Takahashi K、Lee BL. (2010)「ヒト血清マンノース結合レクチンは、幼虫において制限される、スタフィロコッカス・アウレウスの細胞壁タイコ酸の糖重合体を感知する」(Human serum mannose-binding lectin senses wall teichoic acid Glycopolymer of Staphylococcus aureus、which is restricted in infancy) J Biol Chem. 285 (35): 27167-75;
(5)Nakayama M、Kurokawa K、Nakamura K、Lee BL、Sekimizu K、Kubagawa H、Hiramatsu K、Yagita H、Okumura K、Takai T、Underhill DM、Aderem A、Ogasawara K. (2012)「抑制性受容体のペア型Ig様受容体Bはスタフィロコッカス・アウレウスにより病原性について活用される」(Inhibitory receptor paired Ig-like receptor B is exploited by Staphylococcus aureus for virulence.) J Immunol. 189 (12): 5903-11;
(6)Kaito C、Sekimizu K. (2007)「スタフィロコッカス・アウレウスにて広がるコロニー」(Colony spreading in Staphylococcus aureus) J Bacteriol. 189 (6): 2553-7
(7)Takahashi K、Kurokawa K、Moyo P、Jung DJ、An JH、Chigweshe L、Paul E、Lee BL. (2013) PLoS One. 8 (8): e69739
LB10ブロス培地(2mL)に上記の表1に記載の菌株を用いて抗生物質を添加した。遺伝子型に関して、Ermはエリスロマイシン(カタログ番号E6376、米国、MO、セント・ルイス、Sigma-Aldrich Co. LLC.)を示し、Kmはカナマイシン(カタログ番号17924、米国、OH、USB(登録商標))を示し、それらは、各々、10μg/mLおよび50μg/mLの濃度で使用された。PhleOはフレオマイシン(カタログ番号P9564、米国、MO、セント・ルイス、Sigma-Aldrich Co.)を示し、菌株の調製の間に各変異型を分類および確認するために10μg/mLの濃度で使用されるが、細菌を培養するのに使用されなかった。各菌株のコロニーを植菌して12時間培養し、500mLのエルレンマイヤーフラスコにLB10(100mL)を調製することにより継代培養した各菌株の1mLの細菌培養ブロスをそこに添加し、180rpmの速度で攪拌しながら増殖温度で培養した。
OD600nmが1.2に達するまで細菌を培養し、得られた細菌培養物を10,000rpmの速度の遠心分離に4℃で10分間供した。得られた細菌ペレットを生理食塩水(0.9%NaCl;30mL)に懸濁させ、10,000rpmの速度の遠心分離に4℃で10分間供し、上清を取り除いた。生理食塩水で2回洗浄した後、ペレットを塩水(10mL)に再び懸濁させた。その懸濁液を50mLの試験管中にて希釈し、OD600nmを0.3に調整し、60℃で定温の水浴中に添加し、30分間の熱処理に付した。その熱処理に付した細菌を室温で十分に冷却し、10,000rpmの速度の遠心分離に4℃で10分間供し、上清を取り除き、そのペレットを注射水(30mL)に懸濁させる工程を繰り返し、注射水で2回洗浄した。該ペレットを注射水(2mL)に懸濁させ、凍結乾燥に付した後の重量を測定した。次に、得られた懸濁液を200μg/mLの濃度でマウスに腹腔内投与に供した。
<5−4>マウス実験においてWTA−PGNにより誘発される細胞性免疫
(i)WTA、PGNおよびWTA−PGNにより誘発される腹膜炎、細胞性免疫および免疫応答
加熱死菌またはWTA誘導体を、50μg、100μgおよび200μgの量で、100μLのPBS(カタログ番号17−516Q、米国、MD、LONDA、Bio Whittaker(登録商標))に懸濁させ、それをマウスに腹腔内注射し、それにより腹膜炎を誘発させか、またはマウスに免疫を付与し、各実験で必要ならば0、3、6、9、12、24、48および72時間の試料採取の時点でマウスを殺し、実験に使用した。腹膜炎の誘発および記憶応答の反復についての実験モデルは、100μgのWTA、PGNおよびWTA−PGN/PBS(100μL)にて、各々、0日目、7日目、および14日目に腹腔内注射を施し、21日間の回復期間を経て、35日目にMRSA(エス・アウレウスUSA300菌株、1x10CFU/100μL PBS)を腹腔内注射して感染させた。対照群のマウスに100μLのPBSを腹腔内注射し、ナイーブなマウスを対照として用いた。細菌の抗原攻撃の後、マウスを0、3、6、9、12、24、48および72時間の時点で殺し、感染の全身性レベルおよび免疫応答を評価した。その一方で、生存した群に、MRSA(エス・アウレウスUSA300菌株)およびMSSA(エス・アウレウスNRS184菌株)を5x10CFU/PBS(100μL)で腹腔内注射した。
(ii)腹膜流体浸出液と腹膜浸出細胞(PEC)の分離
マウス腹膜流体浸出液に関して、腹膜を2mLのPBS(カタログ番号17−516Q、米国、LONZA、Bio Whittaker(登録商標))で洗浄し、2,000rpmの遠心分離に10分間供した。上清を−80℃で貯蔵し、ELISAによるサイトカインの分析に用い、ペレットを完全RPMI1640培地(cRPMI;RPMI 1640:Gibco(登録商標);10% FBS:Gibco(登録商標);100mM L−グルタミン:Gibco(登録商標);および100mg/mLペニシリン/ストレプトマイシン:Gibco(登録商標))に懸濁させた。赤血球を除去するために、赤血球を赤血球溶血緩衝液(Cat. No. 420301、Bio legend、San Diego、CA、USA)を用いて溶血させ、細胞をcRPMIに再び懸濁させた。
(iii)ELISAによるサイトカイン分析
IL−17A、IL−23、IL−1β、IL−10およびINFγに関して、R&Dのデュオセット(Duoset)(登録商標)ELISAキット(米国、MN、ミネアポリス、R&D Systems Inc.)およびイーバイオサイエンスのELISA Ready-SET-Go! Kit(米国、CA、San Diego、eBioscience)を用い、腹膜流体浸出液の上清中にあるそれらを測定した。各サイトカインのELISAキットの情報を以下に示す。最後に、450nmで測定した吸光度をマイクロプレートリーダー(カタログ番号51119000、米国、MA、ウォルサム、Thermo Fisher Scientific Inc.)を用いて550nmで測定した吸光度に修正した。
(iv)フローサイトメトリー(FACS)
表面を染色するのに、細胞をPBSで洗浄し、フローサイトメトリーAbを用いて染色した。さらに、細胞内染色のために、細胞を集める前に、タンパク質輸送阻害剤であるゴルギストップ(GolgiStop)(カタログ番号554724、米国、CA、サンノゼ、BD Bioscience)を含むcRPMI1640培地の存在下で細胞を再び刺激した。集めた細胞をPBSで洗浄し、100μLの細胞内(IC)固定緩衝液(カタログ番号00−8222−49、米国、CA、サンディエゴ、eBioscience)を用いて30分間室温で固定し、次に透過化緩衝液(カタログ番号00−8333−56、米国、CA、サンディエゴ、eBioscience)で洗浄した。ついで、該細胞を100μLの透過化緩衝液で再び懸濁させ、細胞内染色性Abを用いて室温で20分間培養した。次に、細胞を各工程毎に透過化緩衝液およびPBSで洗浄し、PBSで再び懸濁させた。細胞をフローサイトメトリー(BD FACS Canto II、米国、CA、サンノゼ、BD Biosciences)により検出し、フロージョ(FlowJo)ソフトウェアvX0.7(米国、OR、アシュランド、FlowJo LLC.)を用いて解析した。表面分子および細胞内分子の各々の具体的情報を以下の表2に示す。
(v)細胞分取、ならびにWTA誘導体の免疫付与に供されるマクロファージ、樹状細胞、および精製されたγδ T細胞のインビトロにおける共培養
ナイーブなマウス、およびWTA誘導体の免疫処理に付したマウスのPECを上記されるように単離し、そのPECを96−ウェルの底部が平坦なプレートに移し(2〜3x10細胞/ウェル)、マクロファージおよび樹状細胞がそれと結合しうるように、cRPMI培地にて37℃、5%CO条件で(カタログ番号MCO−17A、日本、SANYOにて)1.5時間培養した。次に、培地を吸引により取り出し、抗生物質を含まないRPMIと置き換えた。
FACS分取は、マクロファージおよび樹状細胞ではネズミのPan T細胞分取用キットII(カタログ番号130−095−130、ドイツ、ベルギッシュグラートバハ、Miltenyi Biotec)を用い、γδ T細胞ではγδ TCR特異的Abを用いてCD3 T細胞の陰性選択を施すことによりなされた。
染色細胞をセルストレーナースナップ式キャップの丸底試験管(カタログ番号352235、米国、MA、Tewksbury)を通して加圧下に置き、フローセルソーター(MoFlo(登録商標)AstriosTMセルソーター、米国、CA、Beckman Coulter, Inc., South Kraemer Boulevard Brea)を用いて分取した。分取した細胞の純度は95%以上であった。
(vi)RNA単離、cDNA合成、および定量的リアルタイムPCR(qRT−PCR)
TRI Reagent(登録商標)(カタログ番号TR118、米国、OH、シンシナティ、Molecular Research Center, Inc.)を用いてトータルRNAを単離した。RNAの単離は製造業者のプロトコルに従ってなされ、cDNA合成では、RT−PCR装置(C1000TouchTMThermal Cycler、米国、WI、ハーキュリーズ、Bio-Rad)を用いて、オリゴ(dt)プライマー(カタログ番号C1101、米国、WI、マディソン、Promega Corporation)およびImprom−IIシステム(カタログ番号A3800、米国、WI、マディソン、Promega Corporation)を含め、20μLの総容量にて、mRNAがcDNAに逆転写された。転写されたcDNAはqRT−PCR装置(カタログ番号9001870、米国、CA、バレンシア、Rotor-Gene Q, QIAGEN Inc.)をRT−PCRと一緒に用いて増幅された。そのデータを、各条件について、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシル基転移酵素(HPRT)を用いて正規化した。各遺伝子についてのプライマー情報を以下の表3に示す。
<5−5>NZWウサギおよびモルモットの実験においてWTA−PGNにより誘発される細胞性免疫
(i)NZWウサギの皮膚にWTA−PGNで免疫付与することによるMRSA感染に対する保護効果の測定
実験動物として、体重が2±0.1kgのNZW雌ウサギ(Yac;NZW(KBL))をOrient Bio Inc.(韓国、キョンギド)より購入し、実験に入る前に、該動物に市販の固形飼料(カタログ番号38302−NM、Cargill Agri Purina、rea遺伝子欠損)を与えながら、該動物を1週間にわたり動物実験の実験室環境(ウサギ用ケージ、カタログ番号DJ117、韓国、Daejong Instrument Industry Co.,Ltd.;20℃〜25℃、55%湿度)に適合させた。実験動物を各ケージに一羽ずつ飼育ケージに入れ、飼料および飲料水を自由に与えた。各実験動物の体重および飼料摂取量を一日に一回測定し、照明を12時間間隔で切り換えた。
WTA−PGN免疫付与を施し、MRSA(USA300)をNZWウサギの皮膚に感染させる前に、NZWウサギの背部の毛を15cm(幅)x10cm(長さ)の大きさで電気カミソリ(カタログ番号ER806、日本、パナソニック株式会社)を用いて除き、その剃った領域を滅菌アルコールコットンおよびポビドンヨード溶液(カタログ番号P698900、カナダ、TRC)で消毒して実験に用いた。
動物を麻酔処理に供するのに、ゾレチル(Zoletil)(登録商標)50(韓国、Virbac Korea Co., Ltd.)および塩酸キシラジン(カタログ番号1251、米国、MO、セントルイス、Sigma-Aldrich Co. LLC.)を、各々、動物の体重を考慮して、30mg/0.6mL/2kgおよび9.328mg/0.4mL/2kgの濃度で混合し、筋肉内注射を施した。
毛を剃った面積を半分に分け(7.5cm(長さ)x10cm(幅))、区分化した。左側を対照として皮内注射によりPBS(100μL)で免疫付与し、右側をWTA−PGN(20μg/100μL)で免疫付与した。一羽のウサギを3時間後にUSA300(1x10CFU)で皮内注射することにより感染させ、もう一羽のウサギを6時間後にUSA300(1x10CFU)で皮内注射することにより感染させ、皮膚膿瘍の病変の大きさを幅(w)および長さ(l)で測定し、7日間の真皮壊死(dermonecrosis)の面積(cm)および膿瘍の体積(cm)を定量した。その膿瘍体積(cm)は、楕円球形についての式[v=(π/6)xlxw]により計算された。
(ii)モルモットの皮膚にWTA−PGNで免疫付与することによるMRSA感染に対する保護効果の測定
実験動物として、体重が2±0.1kgの雌のモルモット(CrlOri;HA)をOrient Bio Inc.(韓国、キョンギド)より購入し、実験に入る前に、該動物に市販の固形飼料(カタログ番号5026、韓国、Orient Bio Inc.)を与えながら、該動物を1週間にわたり動物実験の実験室環境(定温定湿度の動物用ケージ、カタログ番号AAAC2051、韓国、JEIO TECH Co., Ltd.;20℃〜25℃、55%湿度)に適合させた。実験動物を各ケージに一匹ずつ飼育ケージに入れ、飼料および飲料水を自由に与えた。各実験動物の体重および飼料摂取量を一日に一回測定し、照明を12時間間隔で切り換えた。
WTA−PGN免疫付与を施し、MRSA(USA300)をモルモットの皮膚に感染させる前に、モルモットの背部の毛を15cm(幅)x10cm(長さ)の大きさで電気カミソリ(カタログ番号ER806、日本、パナソニック株式会社)を用いて除き、その剃った領域を滅菌アルコールコットンおよびポビドンヨード溶液(カタログ番号P698900、カナダ、TRC)で消毒して実験に用いた。
動物を麻酔処理に供するのに、ゾレチル(登録商標)50(韓国、Virbac Korea Co., Ltd.)および塩酸キシラジン(カタログ番号1251、米国、MO、セントルイス、Sigma-Aldrich Co. LLC.)を、各々、動物の体重を考慮して、3mg/0.06mL/100gおよび0.9328mg/0.04mL/100gの濃度で混合し、筋肉内注射を施した。
毛を剃った面積を半分に分け(3cm(長さ)x6cm(幅))、区分化した。左側を対照として皮内注射によりPBS(100μL)で免疫付与し、右側をWTA−PGN(20μg/100μL)で免疫付与した。6時間後に、USA300(5x10CFU)で皮内注射することにより感染させ、皮膚膿瘍の病変の大きさを幅(w)および長さ(l)で測定し、7日間の真皮壊死の面積(cm)および膿瘍の体積(cm)を定量した。その膿瘍体積(cm)は、楕円球形についての式[v=(π/6)xlxw]により計算された。
(iii)モルモットの腹膜にWTA−PGNで免疫付与することによるMRSA感染に対する保護効果の測定
実験動物の飼育はII.5.2)に記載されるのと同様の方法にて行われた。モルモットを用いて、対照群(n=2)にPBS(100μL)を腹腔内注射することで免疫付与し、WTA−PGN群(n=2)にWTA−PGN(200μg/100μL)を腹腔内注射することにより免疫付与に供した。3時間後、そのモルモットにUSA300(1.5x10CFU)を腹腔内注射することで感染させ、体重、飼料摂取量、行動等を7日間にわたってモニター観察した。次に、そのモルモットを解剖し、膿瘍の存在およびその大きさ、器官の状態等を観察した。
<5−6>WTA−PGNにより誘発される体液性免疫
(i)WTA、PGNおよびWTA−PGNによる皮膚への免疫付与およびMRSA(USA300)感染
実験動物をPBS(カタログ番号17−516Q、米国, MD, Lonza Walkersville, Inc.)および20μgのWTA−PGN誘導体を、各々、50μLの量で、0日目、14日目、28日目、42日目および56日目に合計で5回皮内注射することにより免疫付与に供した。免疫付与に供する前に、および7日目、21日目、35日目、49日目および63日目、すなわち、個々に免疫付与した7日後に、尾部をカットすることで20μLの血液飼料を集めた。5回目の免疫付与した14日後の70日目に、USA300(1x10CFU/100μLのPBS)を静脈内注射することで動物を感染させ、その7日後の77日目に、動物を殺した。実験に用いられるタイムスケジュールを体系化し、図31に示した。殺す12時間前にはマウスを空腹状態とし、次に100mgの2,2,2-トリブロモエタノール(カタログ番号T48402、米国、MO、セントルイス、Sigma-Aldrich Co. LLC.)および200μLのt-アミルアルコール(カタログ番号152463、米国、MO、セントルイス、Sigma-Aldrich Co. LLC.)を0.9%NaCl溶液(カタログ番号S3014、米国、MO、セントルイス、Sigma-Aldrich Co. LLC.)に添加することで調製された麻酔剤(1μL/gBW)を用いてマウスに麻酔処理を施した。ついで、ヘパリン処理の滅菌シリンジを用いて心臓から血液試料を集め、8,000rpmの速度の遠心分離に10℃で10分間供し、こうして得られた血漿を試料として用いた。肝臓、脾臓、腎臓、心臓、肺等からの組織を摘出し、その重量を測定した。腎臓組織をCFU測定に用い、残りの組織を液体窒素に浸し、後で試料として用いるために−80℃で貯蔵した。
(ii)WTA誘導体で免疫付与に供した血清中の抗原特異的抗体のELISAによる定量化
96ウェルのマイクロプレートの各ウェルを5ナノモルのWTA−PGN(50μL)で処理し、ヤギ抗−マウスIgG−FC(カタログ番号G−202−C、米国、MN、ミネアポリス、R&D systems Inc.)をSTDと1:500の割合に希釈して用いて4℃で一夜被覆した。TBS緩衝液(200μLのブロッキング緩衝液(1%BSA(カタログ番号A2153、米国、MO、セントルイス、Sigma-Aldrich Co. LLC.)および140mM NaCl(カタログ番号SOD001.1、カナダ、Bioshop;pH7.4))を含有する10mMトリス−HCl(カタログ番号T3253、米国、MO、セントルイス、Sigma-Aldrich Co. LLC.)を各ウェルに添加することで各細胞を室温で2時間ブロックした後、各ウェルをTBS緩衝液(200μLの洗浄緩衝液(0.05%ツィーン(Tween)20;カタログ番号P9416、米国、MO、セントルイス、Sigma-Aldrich Co. LLC.)を含有する)を用いて室温で5回洗浄した。連続希釈したWTA、WTA−PGN、およびPBSで免疫処理した血漿(50μL)をそれに添加し、室温で2時間培養し、マウス対照血清(カタログ番号RS19−101、米国、TX、モンゴメリー、Bethyl Laboratories, Inc.)を標体として用いた。各細胞を洗浄緩衝液(200μL)を用いて室温で5回洗浄し、50μLのヤギ抗マウス−IgG(カタログ番号W4021、米国、WI、マディソン、Promega Corporation)で処理し、それを1:2500に希釈し、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合させ、室温で1時間インキュベートした。得られたウェルを洗浄緩衝液(200μL)で再び5回洗浄し、100μLの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(カタログ番号T0440、米国、MO、セントルイス、Sigma-Aldrich Co. LLC.)を基質として添加し、室温で10分間インキュベートし、それを停止緩衝液である50μLの2N H2SO4(カタログ番号258105、米国、MO、セントルイス、Sigma-Aldrich Co. LLC.)で処理し、450nmで測定した吸光度をマイクロプレートリーダー(カタログ番号51119000、米国、MA、ウォルサム、Thermo Fisher Scientific Inc.)を用いて550nmで測定した吸光度に修正した。
(iii)腎臓組織における細菌負荷の定量化
膿瘍形成が観察された腎臓組織を10mLの10mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA:カタログ番号EDT001.500、カナダ、Bioshop)および0.9%NaCl(カタログ番号14002、韓国、JW Pharmaceutical)を含有する溶液で均質にした。ホモジネートを連続して希釈させ、その希釈した50μLのホモジネートをヒツジ血液寒天培地(カタログ番号AM601−01、Asan Pharm Co., Ltd.、rea遺伝子欠損)上に広げ、37℃のインキュベータ(カタログ番号SB−9、日本、EYELA)中にて24時間培養し、コロニーの数を計数した。
(iv)腎臓組織における病理学的観察
実験で使用したマウス腎臓組織から、腎皮質および腎髄質の部分を集めた。皮質、ならびに多形核白血球、マクロファージおよびリンパ球における糸球体嚢の壊死を含め、免疫細胞の浸潤および膿瘍を確かめるのに、組織切片をヘマトキシリン−エオシン(H&S)染色に供した。
すなわち、集めた組織を10%ホルマリン(カタログ番号HT501128、米国、MO、セントルイス、Sigma-Aldrich Co. LLC.)に固定し、次にパラフィンブロックを調製した。そのパラフィンブロックを3μmの切片に調製し、スライドガラスの上部に載せ、60℃ないし70℃のオーブンで1時間乾燥させ、H&E染色に供した。操作の完了したスライドガラスを光学顕微鏡下に置き、200倍の写真において組織病理学的変化が観察された。
実施例6:γδ T細胞を媒介するインビボにおけるIL−17Aの分泌および精製されたWTA−PGN誘導体によるMRSA感染に対する保護作用
<6−1>WTA−PGN誘導体による細胞性免疫の誘発
(6−1−1)精製されたWTA−PGN、WTAおよびPGNをマウスに腹腔内注射すると、該マウスは12時間以内にIL−17AおよびIL−1βを分泌した。
精製されたWTA−PGN誘導体の生理活性を詳細に試験するために、単離/精製されたWTA−PGN誘導体を種々の濃度(100μLのPBS中に0、50、100および200μgの量)でマウスに腹腔内注射した時に、腹膜内で産生されるIL−17AおよびIL−1βの量を経時的に観察し、その各々の結果を図11Aおよび11Bに示す。IL−17AおよびIL−1βなどのサイトカインの発現に関する時間的な疫学的作用がELISAにより観察された。
WTA−PGN注射した3時間後からIL−17Aの発現の増加が始まり、6時間で最大限誘発され、その後は迅速に減少し、24時間ではIL−17Aは発現されなかった。WTAとPGNの等量の混合物を注射した場合に、あらゆる時点でIL−17Aは産生されず、かくしてIL−17Aを誘発するには、WTAとPGNが共有結合しているWTA−PGNの構造が不可欠であることを確認する。さらには、IL−17Aの発現が濃度依存的様式にて増加することを確認した(図11A)。
IL−1βの発現量がWTA−PGN誘導体を注射した3ないし6時間後に最大であることも示され、24時間で対照レベルにまで減少した。その一方で、WTAとPGNの混合物は注射した3時間後にIL−1βの最大の発現レベルを示したが、注射した6時間後にIL−1βの発現は迅速に減少した。IL−17Aと同様に、IL−1βの発現量も濃度依存的様式にて増加することが示された(図11B)。
宿主の特定の領域でのスタフィロコッカス・アウレウス感染がトキシンの分泌またはバイオフィルムの形成をもたらし、それにより好中球介在の食作用が阻害されうることは周知であるため、好中球を収集するサイトカインが感染の初期段階で分泌され、感染の定着する前にスタフィロコッカス・アウレウスの食作用による除去能のあることが示唆される。しかしながら、感染の初期段階でIL−17Aの分泌を選択的に誘発しうる免疫モジュレータはこれまでに同定されていない。
今日までの基本的な研究結果に起因して、Th17細胞がインビボにてIL−17Aを産生し得るT細胞として知られている。しかしながら、Th17細胞によるIL−17Aの持続的分泌は、特定の領域における好中球の過度な蓄積を惹起し、宿主での組織または器官を破壊して、それにより狼瘡、関節リウマチ等などの自己免疫疾患を誘発しうることが報告されている。したがって、Th17細胞が介在するIL−17A発現を誘発しうる物質は効果的なワクチンまたは免疫モジュレータとして使用され得ないことを示唆する。
(6−1−2)WTA−PGN誘導体による初期段階でのIL−17AおよびIL−1βの誘発は、抗炎症性サイトカインであるIL−10により制御された。
WTA−PGNを注射したマウスにてその12時間後にIL−17AおよびIL−1βが分泌されないことを説明するために、本発明者らは、単離/精製されたWTA−PGN誘導体(200μg/100μL)をマウスに注射した後の時間(0、3、6、9、24、48、72および96時間)に応じて、腹膜流体浸出液を集めることでIL−17A、IL−1βおよびIL−10の量を、抗炎症性サイトカインであるIL−10がこれらの炎症性サイトカインを制御しうるとの前提の下で分析した(図12)。
WTA−PGN誘導体を注射した3時間後に増大を開始するIL−17Aの産生は6時間で最大レベルを示すが、注射した9時間後から減少が始まり、12時間後には産生を示さなかった。IL−1βはIL−17Aの発現様式と同様の発現様式を示したが、IL−1βの発現は、注射した6時間後に最大レベルを示した後に、減少し始め、注射した12時間後まで相対的に高レベルを維持したが、24時間後には産生を示さなかった。しかしながら、興味深いことに、WTA−PGN誘導体を注射した後は、IL−10の産生は、注射した3時間後から徐々に増加し、12時間で最大レベルに達し、24時間から減少し始めるが、48時間まで高レベルを維持し、その後に迅速に減少し始め、72時間後にはIL−10の産生ははとんど示されない。
これらの結果は、スタフィロコッカス・アウレウスより精製されたWTA−PGN誘導体のマウスへの腹腔内注射が、3時間ないし6時間の短時間の期間内にIL−17AおよびIL−1βなどの炎症性ケモカインの分泌をマウスにて生じさせて好中球を集め、それによって食作用により炎症領域の周辺のスタフィロコッカス・アウレウスを除去することができるとの予想を惹起した。さらに、WTA−PGNによるIL−17Aの分泌は感染の12時間後に制御され得ることが示され、その後で、WTA−PGN誘導体が過剰なIL−17A分泌による自己免疫応答による宿主における組織または器官の喪失を誘発しない、新規な免疫モジュレータであることをこのように確認した。
(6−1−3)γδT誘導のIL−17AがWTA−PGN誘導体により産生された。
図13はフローサイトメトリーを用いて行われた実験の結果を示しており、それはWTA−PGNを注射した場合に産生されるIL−17AがγδT細胞より誘導されるIL−17Aであることを確認した。WTA−PGN注射の後で、腹膜にある細胞を時間通りに集め、まずCD3+T細胞を集めた。次に、γδT細胞受容体(γδ TCR)を有するT細胞を集め、これらのT細胞のT細胞全体に対する割合を試験した。結果として、WTA−PGN注射の6時間後に、その割合は、PBS群に比べて、12.2%に増えた。γδT細胞内で産生されるIL−17Aをモノクローナル抗体を用いて定量した場合に、注射して3時間後に腹膜に蓄積したγδT細胞の56%がIL−17A産生細胞であり、注射して6時間後に腹膜に蓄積したγδT細胞の78%がIL−17A産生細胞であることを確認した。
これらの結果はWTA−PGNがγδT細胞により選択的に媒介されるIL−17Aの発現を誘発しうる新規な免疫モジュレータであることを確認した。
(6−1−4)WTA−PGN誘導体はCD4およびCD8T細胞から誘導されるIL−17Aの産生を誘発できなかった。
WTA−PGN誘導体を注射することでCD4およびCD8T細胞より誘導されるIL−17Aの産生があることを試験するために、CD4およびCD8T細胞をフローサイトメトリーで分類し、これらの細胞より分泌されるIL−17Aの量を定量した。結果を図14に示す。
WTA−PGN注射の3時間および6時間後には、CD4およびCD8T細胞より誘導されるIL−17Aの産生は観察されなかった。これらの結果は、WTA−PGN誘導体が、CD4およびCD8T細胞より誘導される適応免疫に関連することなく、γδT細胞より誘導されるIL−17Aだけを産生することによって好中球による細胞性免疫応答を制御しうる新規な免疫モジュレータであることを確認した。
(6−1−5)WTA−PGN注射はγδTCR欠損のマウスにおいてIL−17AおよびIL−1β産生を誘発できなかった。
WTA誘導体はγδT細胞誘導のIL−17Aを産生するため、Vγ2/4遺伝子の欠損したVγ2/4−/−マウス(γδTCRの主な部分集合)および野生型マウスを用いて、WTA−PGNがγδT細胞から由来のIL−17AおよびIL−1βの発現を誘発しうるかどうかが試験された。
結果として、図15Aおよび15Bに示されるように、予想通り、IL−17AおよびIL−1βがWTA−PGNを注射した野生型マウスの群にて発現され、一方でこれらのサイトカインはVγ2/4−/−マウスの群では産生されなかった。WTAおよびPGNの混合物を注射した場合、IL−17AおよびIL−1βの発現は野生型マウスの群でもVγ2/4−/−マウスの群のいずれにおいても観察されなかった。これらの結果から、WTA−PGNが主たる部分集合であるVγ2/4を活性化することによりIL−17Aの産生を誘発しうることを確認した。
(6−1−6)WTA−PGNで予め処理することによる記憶(メモリ−)γδT細胞の産生および関連するサイトカイン発現の特徴
i)WTA−PGN誘導体で予め3回処理した後にMRSA細菌で再び感染させた後のサイトカイン発現様式を試験した結果
スタフィロコッカス・アウレウスの再感染について、記憶γδ T細胞の産生は、新規なワクチン候補材料が効果的な臨床的有用性を有するための必須要件であるか、あるいは新たなスタフィロコッカス・アウレウス感染に対する免疫モジュレータであるため、本発明者らは腹膜にてUSA300菌株(MRSA菌株)に再び感染したマウスが、1週間の間隔でWTA−PGN誘導体に3回感染させた21日後に、記憶γδ T細胞を産生し得るかどうかを試験した(図16)。
第一に、炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインにおける変化を、WTA−PGN、WTAおよびPGN誘導体で予め3回処理した、マウスにおいて試験した。その結果、IL−17Aの発現レベルはUSA300菌株に感染させた6時間後が最も高く、24時間でその発現量は対照群の発現量と同様のレベルまで減少することが判明した(図16A)。IL−17AをWTA−PGN、WTAおよびPGN誘導体で予め3回処理したマウスにおいて発現させたが、その発現レベルはWTA−PGNの発現レベルと比べて約半分であり、特に3回の予備処理は、1回の処理と比べて、IL−17A発現のレベルの約10倍増をもたらした。
IL−1βの産生量はUSA300感染の6時間後に最大の発現レベルに達し、その発現レベルは感染の24時間後には有意に減少した。予めWTAおよびPGNで処理した群は、感染の6時間後に、WTA−PGN群のIL−1β発現レベルと同様のレベルを示した。これらの結果はWTAおよびPGNで予め3回処理したマウスにおいてUSA300に再び感染することがWTA−PGN群の発現量と同様の発現量を示し得ることを確認した(図16B)。
興味のあることに、IL−23の産生がUSA300菌株に再び感染させた6時間後にWTA−PGN群だけで示され、その産生は24時間で示されなかった。これらの結果はIL−23の産生が、記憶γδ T細胞により媒介されるIL−17Aの産生と密接に関連付けられることを示唆する(図16C)。
IFNγの産生量は、WTAおよびPGNで予め処理したマウスにおいて、USA300菌株に感染した6時間後に最大発現レベルに達し、その発現レベルは感染から24時間後に有意に減少した。WTA−PGNで予め処理したマウスにおけるIFNγの発現は、IL−17Aの発現と異なり、WTA−PGN群の中で最も低いことが分かった。これらの結果はIFNγの産生が記憶γδ T細胞により媒介されるIL−17A産生と関係しないことを示唆する(図16D)。
その一方で、抗炎症性サイトカインであるIL−10の発現レベルがUSA300菌株に感染した3時間後に有意に増加し、感染から12時間後までわずかに減少し、24時間で再び最大レベルを示し、感染から48時間および72時間後にわずかに減少したが、なお高レベルを維持した。前に観察されるように、炎症性サイトカインである、IL−17A、IL−1βおよびIL−23の発現が感染の24時間後に最大レベルに達したことを考慮して、IL−10がIL−17Aの発現を効果的に阻害しうることが確認された(図16E)。
ii)WTA−PGNで予め3回処理したマウスは、CD44high/CD27lowマーカーを有する記憶γδ T細胞を産生した。
WTA−PGNで予め3回処理したマウス腹膜の記憶γδ T細胞の産生を試験するために、WTA−PGNで予め処理したマウスのγδ T細胞をUSA300感染の3時間後に集め、記憶γδ T細胞のマーカーである、CD44high/CD27lowγδ T細胞の発現を試験した。結果として、その発現レベルは予め処理していない群よりも高く、記憶γδ T細胞は対照群よりも高いIL−17Aの発現レベルを示したのに対して、IL−17Aの発現はCD27γδ T細胞にて観察されないことが確認された(図17Aおよび17B)。
iii)CD3γδ T細胞でのIL−17A産生
CD3γδ T細胞での細胞内および細胞外IL−17Aの発現が、WTA−PGNで予め3回処理し、それによりUSA300菌株に感染させることによって記憶γδ T細胞を産生したマウスにおいて、各々、FACSおよびELISAで観察された。結果として、WTA−PGNで予め処理したマウスは、感染の3時間ないし9時間後の間に、IL−17Aの高い発現レベルを示した(図18Aおよび18B)。これらの結果はWTA−PGNが記憶γδ T細胞を効果的に誘発することができ、その誘発された記憶γδ T細胞がIL−17Aを産生するための主たる細胞として作用しうることを確認する。
iv)CD4およびCD8T細胞でのIL−17A産生
WTA−PGNで予め処理した後にIL−17Aを産生する主たる細胞が、免疫応答を誘発するγδ T細胞であるとの上記の結果を再確認するために、IL−17Aの発現を適応免疫応答と関与するCD4およびCD8細胞から誘導させた(図19)。CD3γδ T細胞から由来のIL−17Aが90%以上で産生されるが、WTA−PGNで予め処理したマウスからCD4およびCD8T細胞を単離した後にIL−17Aの発現を試験した場合、発現は観察されなかった。これらの結果から、WTA−PGNで予め3回処理した後にマウスをMRSAに感染させた場合、CD4およびCD8T細胞などの適応免疫応答関連細胞の代わりに、細胞性免疫だけがγδ T細胞により誘発されることが再確認された。
v)WTA−PGNで予め処理することで分化されるγδ TCR部分母集団の検証
WTA−PGN誘導体で予め3回処理し、それにより記憶γδ T細胞を産生したマウスをUSA300菌株に感染させた場合に、γδ TCRのどのサブセットが増加するかを試験した。結果として、Vγ4サブセットが最も多く発現することを確認した(図20)。抗−Vγ4−Abは現在のところ市販のVγ4サブセットにて利用できないため、Vγ1.1とVγ2の二重否定の母集団領域がVγ4母集団としてゲートすること(gating)により確認された。USA300菌株感染の近年の研究の結果に従って、Vγ1.1とVγ2の迅速な流入が最初に観察され、γδ TCRサブセットのVγ1.1とVγ4γδ T細胞へのシフトが続いた。さらには、Vγ4細胞に関して、エス・アウレウス感染および記憶応答が持続的に誘発される場合に、母集団はさらにもっと増大し、IL−17Aの産生と直接関連付けられると報告された(J Immunol 2014;192: 3697-3708)。
vi)樹状細胞でのIL−23の発現
WTA−PGNで予め処理することにより発現されることが予め分かっているIL−23をいずれの細胞が発現するかを試験するために、本発明者らは、樹状細胞の可能性に焦点を当てて研究を行った(図21)。WTA−PGNで予め3回処理し、つづいてUSA300菌株に感染させた後に、樹状細胞内でのIL−23の発現を確認した。結果として、WTA−PGNで予め処理した群は、予め処理していない群と比べて、IL−23の発現の増加を示したが、感染から24時間後、発現は全く観察されなかった。これらの結果から、IL−23はMRSA感染の初期段階で樹状細胞にて産生され、それによりγδ T細胞がIL−17Aの発現を誘発するきっかけとなることを示唆した。
<6−2>WTA−PGN免疫付与によって誘発される記憶応答によるMRSA(エス・アウレウスUSA300菌株)およびMSSA(エス・アウレウスNRS184菌株)感染に対するインビボでの保護作用
マウスをWTA−PGNで腹腔内にて3回免疫付与に供し、35日目にUSA300菌株(1x10細胞)に感染させ、器官の形状が腹膜で生成され、膿瘍の形成が感染から72時間後に観察された。結果を図22に示す。
対照群において、膿瘍が腹膜において観察されたが、WTA−PGN群にて膿瘍は全く観察されず、このように、γδ T細胞により媒介されるIL−17Aの産生は好中球の蓄積を誘発し、食作用を増大させ、それにより宿主をUSA300感染から効果的に保護することを示唆する。その一方で、WTAで処理された群にて膿瘍は観察されなかったが、肝組織にて異常所見があった。PGNで処理された群は、膿瘍が観察されたが、対照群よりも状態は良さそうであった。
さらには、WTA−PGNで免疫付与することにより記憶応答が誘発されているマウスの生存率を試験するために、USA300菌株に感染させた後、マウスをWTA−PGNで腹腔内注射を通して3回免疫付与に供し、35日目にUSA300菌株(5x10細胞)に感染させ、9日間モニター観察した。結果を図23に示す。WTA−PGNの免疫付与に供された群のマウスはすべて生存したのに対して、PBS群、すなわち対照群のマウスはすべて8日目に死亡した。これらの結果から、WTA−PGNの免疫付与に供されたマウスは、感染の初期段階で細胞性免疫および記憶応答が誘発される結果、高濃度でのMRSA感染に対してインビボでの防御を効果的に行うことができる。
その一方で、MRSA感染に対して保護作用を示したWTA−PGNが、MSSA感染に対しても保護作用を示しうるかどうかを試験するために、マウスを腹腔内注射を通してWTA−PGNで3回免疫付与に供し、35日目にエス・アウレウスNRS184菌株(5x10細胞)に感染させ、腹膜における膿瘍の存在が7日目に観察された(図24Aおよび24B)。図24に示されるように、PBS群(対照群)では腹膜にて膿瘍の存在が観察されたが、WTA−PGNで予め処理された群では膿瘍はまったく観察されず、このように、WTA−PGNがMRSA菌株感染に対するのと同様に、MSSA菌株感染に対しても強力な保護作用を示し得ることを確認した。
<6−3>NZWウサギおよびモルモットにおけるMRSA感染に対する宿主におけるWTA−PGN免疫付与の保護効果
記憶γδ T細胞の産生に関するWTA−PGN免疫付与の効果およびMRSA感染に対する保護作用がマウス実験モデルにて確認されたため、WTA−PGNが、マウスモデルの代わりに、NZWウサギおよびモルモットなどの動物モデルにてWTA−PGN免疫付与に供した後にMRSA感染に対して保護作用を示し得るかどうかを試験した。
第一に、NZWウサギの皮膚を皮下注射により20μgのWTA−PGNで免疫付与に供し、免疫付与から3時間後に、皮下注射によりMRSA(1x10CFU、USA300)に感染させ、保護作用を観察した。結果を図25A〜25Cに示す。
その結果として、PBS(100μL)で免疫化した対照群と比べて、免疫付与に供したウサギの皮膚壊死領域および膿瘍体積の大きさは有意に小さく、速やかに回復し、かくして6日目には膿瘍組織はほとんど観察されなかった。これらの結果から、WTA−PGNはマウスモデルと同様にNZWウサギにおいてさえ細胞性免疫を誘発し、またMRSA感染に対して保護作用を示すことを確認した。
さらには、NZWウサギおよびモルモットを皮下注射によりWTA−PGN(20μgWTA−PGN/100μL PBS)で免疫付与に供し、免疫付与から6時間後、MRSA(5x10CFU、USA300)で皮下注射により感染させ、保護作用の存在を観察した。
その結果として、WTA−PGN(20μgのWTA−PGN/100μLのPBS)の免疫付与に供した、NZWウサギおよびモルモットの両方の動物において、膿瘍の大きさは有意に小さく、速やかに回復することも分かった(図26Aおよび26B)。従って、WTA−PGNが、ヒトの免疫系と似ている免疫系を有すると仮定される、NZWウサギおよびモルモットにおけるMRSA感染に対して保護作用を有することが確認され、かくして宿主はWTA−PGNで予め処理することによりMRSA感染より保護され得ることが確認された。
モルモットの腹膜にWTA−PGNを注射した後、MRSA感染に対する宿主の保護作用を観察するために、モルモットをPBSおよび200μgのWTA−PGNの各々で腹腔内注射による免疫付与に供し、その3時間後に、1.5x10CFUのUSA300に感染させた。免疫付与の7日後に、動物を解剖して組織を観察し、その結果として、膿瘍の大きさは、PBSで免疫を付与した対照群と比べて、WTA−PGNで免疫付与に供した動物では有意に減少し、MRSAによる溶血がほとんどなかった(図27)。
上記の結果から、マウスの腹膜をWTA−PGNで予め処理することによりMRSA感染に対して保護作用を示すWTA−PGNもまた、モルモットの腹膜を用いるモデル系にてMRSA感染に対して保護作用を有することが確認された。
<6−4>野生型マウス、TLR−9遺伝子欠損のマウス、およびカスパーゼ−1遺伝子欠損のマウスにおけるWTA−PGN免疫付与におけるIL−17AおよびIL−1βの産生
WTA−PGNがγδ T細胞から由来のIL−17Aをどのように産生するかについてシグナル伝達経路を研究するために、樹状細胞においてIL−23およびIL−1β発現の誘発に関与することが知られている、トール様受容体(TLR)経路およびインフラマソーム経路の各々で研究を行った。
ΔoatAΔlgtより単離されたWTA−PGNおよび野生型細菌より単離されたWTA−PGNを、野生型マウス、TLR−9遺伝子の欠損したマウス、およびカスパーゼ−1遺伝子の欠損したマウスに注射し、免疫付与に供した6時間後に、IL−17A産生を腹膜流体浸出液中で測定した。その結果として、IL−17AおよびIL−1βはΔoatAΔlgtより単離されたWTA−PGNを注射した一群のマウスにおいてのみ発現し、これらのサイトカインはTLR−9遺伝子の欠損したマウス、およびカスパーゼ−1遺伝子の欠損したマウスでは産生されないことが確認された(図28Aおよび28B)。
これらの結果は、ΔoatAΔlgtより単離されたWTA−PGNがγδ T細胞より由来のIL−17Aを産生する場合に、TLR−9経路およびインフラマソーム経路が関連付けられるであろうことを示唆した。
<6−5>マクロファージ、樹状細胞、およびγδ T細胞におけるWTA−PGNで予め処理した後に誘発されるサイトカインおよびケモカインの発現の特徴の比較
γδ T細胞に依存するIL−17Aの分泌に不可欠な高レベルのシグナル伝達系およびWTA−PGNの生物学的機能および機構を理解するために、マクロファージ、樹状細胞、およびγδ T細胞を腹膜浸出細胞(PEC)より分離し、これらの細胞より由来のサイトカインを試験した(図29)。
その結果として、WTA−PGNの免疫付与で、各々、IL−17Aがγδ T細胞にて発現され、IL−1βが樹状細胞およびγδ T細胞にて発現され、IL−12p40(IL−23)が樹状細胞にて発現され、そしてIFNγがγδ T細胞にて発現されることが確認された。
近年において、樹状細胞におけるIL−23およびIL−1βの発現が、非古典的なT細胞、すなわち、γδ T細胞においてIL−17Aの発現に重要な役割を有することを確認する多数の報告がある。従って、サイトカインが、WTA−PGNの免疫付与で、リガンドをどのようにして認識し、相互に作用するかについて、より具体的に研究する必要があると決定付けられた。
さらには、WTA−PGNの免疫付与は野生型マウスおよびNLRP3遺伝子の欠損したマウスを用いてなされ、マクロファージ、樹状細胞、およびγδ T細胞を分離し、NLRP3、サイトカインおよびTLR1ないしTLR9遺伝子の発現状態をqRT−PCRで試験した。その結果として、NLRP3は主として樹状細胞およびγδ T細胞にて産生され、何ら処理していない対照群で高度に発現され、野生型マウスおよびNLRP3遺伝子の欠損したマウスにてわずかに減少するが、その発現レベルは、NLRP3遺伝子の欠損したマウスの発現レベルと比べて、野生型マウスにおいて高いことが確認された(図30)。
一般に、NLRP3は樹状細胞内のインフラマソームにて発現されることが知られており、それによりIL−1βの産生に影響を及ぼす。IL−1βが前の実験にて樹状細胞およびγδ T細胞の両方で高く示されている結果、およびNLRP3遺伝子の発現レベルが樹状細胞およびγδ T細胞でほとんど同じであるとの結果を鑑みれば、NLRP3を含むインフラマソームもまたγδ T細胞中に存在してもよく、これらのことはこれまでに報告されたことのない新たな知見であると思われる(図30A)。
IL−17Aは対照群では全く発現されなかったが、WTA−PGNの免疫付与でIL−17Aの発現レベルは、野生型マウスおよびNLRP3遺伝子の欠損したマウスより得られるγδ T細胞だけで増加しており、IL−17Aの発現レベルはNLRP3遺伝子の欠損したマウス群と比べて、野生型マウスにおいてより高かった。これらの結果は、NLRP3遺伝子の欠損したマウスの場合には、IL−1βの産生が樹状細胞のインフラマソーム内で阻害され、かくしてγδ T細胞を刺激できず、それによりIL−17Aの発現レベルが低下することを示唆する(図30B)。
IL−23は、IL−12p40と、IL−23p19とからなるヘテロダイマーの形態を有する。これらの遺伝子の発現の試験に際し、IL−12p40はWTA−PGNの免疫付与に供された野生型マウスにおいて高度に発現され、IL−23p19はNLRP3遺伝子の欠損したマウスのマクロファージおよび樹状細胞にて高度に発現されたが、IL−23p19の発現レベルはIL−12p40の発現レベルと比べて無視できる程度であった(図30Cおよび30D)。
IL−1βはWTA−PGNの免疫付与に供された対照群にて全く発現されなかったが、IL−1βの発現レベルは、野生型マウスの群にて樹状細胞>γδ T細胞>マクロファージの順序で高度に示され、NLRP3遺伝子の欠損したマウスにてγδ T細胞>樹状細胞>マクロファージの順序で高度に示された(図30E)。IFNγ発現はWTA−PGNの免疫付与に供された野生型マウスの群において有意に阻害されたが、対照群およびNLRP3遺伝子の欠損したマウスのγδ T細胞にて高度に発現された(図30F)。
上記の結果から、γδ T細胞でのIL−17Aの発現と、樹状細胞でのIL−23の発現との間に密接な関係があるであろうし、それに対してγδ T細胞でのIFNγ発現とIL−17A発現は相互に相反する関係にあることが示唆された。
さらには、γδ T細胞に依存するIL−17Aの分泌に不可欠な高級シグナル伝達系を理解するために、TLR1ないしTLR9遺伝子の発現を確認した。TLR3、4、5および6遺伝子は確認されず、TLR1、2、7および9遺伝子の場合においてさえ、対照群と、WTA−PGNの免疫付与に供された野生型マウスの群、NLRP3遺伝子の欠損したマウスの群の間でも何ら有意な違いは観察されなかった(図30Gないし30J)。特に、ΔoatAΔlgt変異体より単離されたWTA−PGNの場合には、エンドソームに存在するTLR9により認識され、それによりIL−23を分泌することが期待された。しかしながら、上記の図面に示されるように、野生型がWTA−PGNで免疫付与に供されると、TLR9遺伝子はほとんど示されず、かくして別のより高級なシグナル伝達系が存在すると考えられた。
実施例7:WTA−PGN誘導体による体液性免疫
<7−1>マウスモデルにおけるWTAおよびWTA−PGN産生の抗−WTA−IgGによる皮下免疫付与
WTAおよびWTA−PGNでの免疫付与に供した後、各々の抗原特異的抗体の産生を確認するために、96ウェルプレートをWTAおよびWTA−PGNで被覆し、抗−WTA−IgGおよび抗−WTA−PGN−IgGの産生量を免疫付与に供したマウスの血清を用いて滴定した(図32)。
その結果として、WTAの場合には、免疫付与に5回供した時に、抗−WTA−IgGの血中量は約3倍に増加した。それに対して、WTA−PGNの場合には、免疫付与に3回供した時に、抗−WTA−PGN−IgGは約5倍の量に有意に増加した(図32)。
これらの結果は、WTA−PGN誘導体を用いる免疫付与が、抗原特異的抗体を産生し、古典的補体経路を活性化し、オプソニン貪食作用を誘発して、それにより保護作用を提供するであろうとの考えを可能とした。そこで、WTAおよびWTA−PGNでの免疫付与に5回供したマウスを尾静脈を通してMRSA菌株に感染させ、宿主での保護作用を試験した。
<7−2>WTA−PGN誘導体を皮下注射して免疫付与に供した後のMRSA感染による体重の変化
WTA−PGN誘導体での免疫付与に5回供した後、70日目に動物をUSA300菌株(1x10CFU)に感染させ、体重を1週間にわたってモニター観察した結果を図33に示す。
PBSを注射した群は、注射した後に、2日目に15%以上の体重の減少を示し、持続して低体重を維持した。対照的に、WTA群およびPGN群はPBS群と比べて体重の減少速度が低く、WTA−PGN群は最初に5%の体重減を示したが、6日目には元の体重を回復した。
上記の結果は、MRSA感染では、抗原特異的抗体の産生によって、オプソニン貪食作用が誘発され、感染の初期段階の中に細菌を除去することによりマウス保護作用が示されたことを示唆する。
<7−3>WTA−PGNの免疫付与による宿主でのMRSA保護作用
スタフィロコッカス・アウレウスの細胞壁より単離したWTA、PGN、およびWTA−PGN誘導体での免疫付与に供した後、70日目にUSA300菌株を静脈内注射することでマウスを感染させ、腎臓を単離し、そのマウスの腎臓にあるUSA300のCFUと、膿瘍形成の存在とを試験した。結果を図34Aおよび34Bに示す。
マウスの腎臓で膿瘍形成の存在を観察した結果として、図34Aに示されるように、WTA−PGN群が、PBS対照群と比べて、膿瘍形成について有意な阻害を示すことが確認された。腎臓を粉砕し、その腎臓中に存在するMRSA菌株のCUFを計算すると(図34B)、予想通り、WTA−PGN群がマウスにてMRSA感染に対して保護作用を有する抗原として作用する物質であると仮定された。
一方で、マウスの腎臓の組織病理学的現象について観察した結果を図35に示す。腎皮質においては糸球体嚢の壊死が確認されるのに対して、腎髄質においては膿瘍、ならびに多形核白血球、マクロファージおよびリンパ球を含有する免疫細胞の浸出液が観察された。皮質の場合には、WTA−PGNでの免疫付与に供したマウスの群にて糸球体嚢が対照群のマウスの形状と同様の形状を維持するのに対して、PBSおよびPGNでの免疫付与に供したマウスの群において糸球体嚢の壊死が観察された。髄質の場合には、WTA−PGNでの免疫付与に供したマウスの群において少量の免疫細胞の浸出液が観察され、対照群のマウスの特徴とほとんど同じ特徴が示されたが、膿瘍はまったく認められず、正常な組織のパターンに近いパターンを示した。その一方で、PBS群およびPGN群においては大きな膿瘍が観察され、腎臓の損傷度は、皮質および髄質の両方において、WTA−PGN>WTA>PGN>PBSの群の順序で減少した。
スタフィロコッカス・アウレウス感染病の例として、軟部組織感染症、化膿性関節炎、化膿性骨髄炎、中耳炎、肺炎、敗血症、急性呼吸器感染症、カテーテル関連感染症、術後感染症、菌血症、心内膜炎および食中毒が挙げられてもよいが、それらに限定されない。

Claims (15)

  1. 細胞壁タイコ酸結合ペプチドグリカン(WTA−PGN)を活性成分として含む、スタフィロコッカス・アウレウス感染病の予防または治療用組成物。
  2. WTA−PGNが、下記の一般式1:
    [式中、nは10〜50の整数であり;mは1〜3の整数であり;AはN−アセチルマンノサミン(ManNAc)であり;BはN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)であり;OおよびPは、各々独立して、0〜5の整数であり;R〜Rは、各々独立して、ヒドロキシ、テトラペプチドまたはペンタペプチドであり;およびRはヒドロキシまたはN−アセチルムラミン酸(MurNAc)である]
    で示される、請求項1に記載の組成物。
  3. AとBが相互にβ位で結合している、請求項2に記載の組成物。
  4. nが35〜45の整数であり;mが3であり;AがN−アセチルマンノサミン(ManNAc)であり;BがN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)であり;OおよびPが、各々独立して、0〜5の整数であり;R〜Rが、各々独立して、ヒドロキシ、テトラペプチドまたはペンタペプチドであって;RがヒドロキシまたはN−アセチルムラミン酸(MurNAc)である、請求項2に記載の組成物。
  5. nが40であり;mが3であり;AがN−アセチルマンノサミン(ManNAc)であり;BがN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)であり;OおよびPが、各々独立して、0〜5の整数であり;RおよびRが、各々独立して、テトラペプチドであり;Rがヒドロキシ、テトラペプチドまたはペンタペプチドであって;RがヒドロキシまたはN−アセチルムラミン酸(MurNAc)である、請求項4に記載の組成物。
  6. テトラペプチドがA−A−A−Aであって、ここでAがAlaまたはGlyであり、AがGluまたはAspであり、AがLys、ArgまたはHisであって、AがAlaまたはGlyである、請求項5に記載の組成物。
  7. テトラペプチドが−(L−Ala)−(D−Glu)−(L−Lys)−(D−Ala)である、請求項5に記載の組成物。
  8. スタフィロコッカス・アウレウスが、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)、メチシリン感受性スタフィロコッカス・アウレウス(MSSA)または病原性スタフィロコッカス・アウレウスである、請求項1に記載の組成物。
  9. スタフィロコッカス・アウレウス感染病が、軟部組織感染症、化膿性関節炎、化膿性骨髄炎、中耳炎、肺炎、肺血症、急性呼吸器感染症、カテーテル関連感染症、術後感染症、菌血症、心内膜炎および食中毒からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
  10. 一の対象でのスタフィロコッカス・アウレウス感染病の予防または治療方法であって、その必要とする対象に請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物を投与することを含む、方法。
  11. オプソニン貪食作用および食作用を同時に誘発する、請求項10に記載の方法。
  12. 組成物を対象に投与した後の24時間以内に、該対象においてγδ−T細胞の数、IL−17Aの産生量およびIL−1βの産生量を増大させる、請求項10に記載の方法。
  13. 組成物を投与した12時間後に、対象においてIL−10の産生量を増大させる、請求項10に記載の方法。
  14. 可溶性細胞壁タイコ酸結合ペプチドグリカン(WTA−PGN)の調製方法であって、
    (1)リポタンパク質ジアシルグリセロールトランスフェラーゼ(lgt)およびO−アセチルトランスフェラーゼ(oatA)遺伝子が野生型スタフィロコッカス・アウレウスから欠失されている二重変異菌株を得る工程;
    (2)二重変異の菌株を破壊し、その破壊した菌株から不溶性WTA−PGNを得る工程;
    (3)不溶性WTA−PGNをβ−溶菌酵素で処理する工程;
    (4)工程(3)における酵素処理産物から可溶性WTA−PGNを含むフラクションを得る工程;
    (5)可溶性WTA−PGNを含むフラクションをリゾチームまたはムタノリシンで処理する工程;および
    (6)工程(5)における酵素処理産物から可溶性WTA−PGNを得る工程
    を含む、方法。
  15. 可溶性WTA−PGNを精製する工程を工程(6)の後にさらに含む、請求項14に記載の方法。
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