このタイプのフロントガラスは、初めは、赤外線放射をフィルタリングする特性を授けるように開発されたものである。この場合、この組織は、誘電体層と組み合わされた、本質的に銀に基づく1つ以上の金属層を含み、これら誘電体層は、一方では金属層を保護し、かつ他方では、透過スペクトル、とりわけ反射スペクトルに対するこれらの層の影響を補正して、これらの色が可能な限り「無彩色」となるようにしている。
フロントガラスの曇りを取るまたはその霜を除去するためにフロントガラスを加熱するための層の導電性組織も、提案されている。この適用例では、よく知られた1つの問題は、適切なパワーを有することを可能にするために、抵抗が十分に低い層を達成する必要があることである。発生するパワーは、一方では、車両で利用可能な、概して12〜14Vの電圧によって制限され、他方では、可視波長領域での光透過率がこの分野での規制上の要件(これは、国によるが70%または75%である)を十分満たす範囲に留まるように、1つまたは複数の金属層の厚さを維持する必要があることに起因して、制限される。
適切な速度条件下で霜を除去するために必要なパワーを得ることは、特に最近のフロントガラスの寸法が大きくなっていることに起因して、技術力の限界であることが多い。光透過条件を満たす導電層の改良は、抵抗の点で、もはや、このサイズの増大についていくようには、十分に進化していない。
フロントガラスの表面に、単位表面積当たりのパワーがより高い領域を設ける必要があることによって、様々な解決法をもたらした。これらの中でも、いくつかの提案は、供給導体を近づけるというアイディアに依存しており、ここでは、供給導体は、もはやフロントガラスの縁部にはなく、通常、目視領域である領域に移動されている。ここで問題となるのは、例えば、その通常の位置に適切に位置決めされた「バスバー」から、1組の非常に細いワイヤを引き伸ばしている点である。
この解決法は、一部には、導電層のない構造に戻り、ワイヤ自体が、フロントガラスの全高にわたって一方のバスバーから他方のバスバーへ延在する加熱網を形成する。この解決法の欠点は、当然ながら、ワイヤが見えてしまうことであり、これは、これらワイヤが加熱に対し部分的に寄与するのみであるものの、見える状態はそのままであり、それゆえ一様な外観を損ない、それにより、好ましい加熱層になる。
さらに、バスバーを近づけるというアイディアを用いて、板ガラスの縁部であって、特にフロントガラスの上方部分を、完全な被覆から始まって縁部から離れるにつれて漸次的に変化するという不均一な分布によって覆う、エナメル条片を使用することも提案されている。ここで、この提案は、導電性のエナメル組成物を使用することである。この解決法は、他方のバスバーからこのエナメル領域の境界を実際に分ける距離を著しく短くできない。そうでなければ、目視領域自体が小さくされる。
本発明の目的は、上述の問題を解決することである。本発明によるフロントガラスは、請求項1に定義されている。
本発明は、フロントガラスの加熱は均一ではない可能性があるというアイディアに基づいている。製造者は、特に霜が消える温度を得るのに一定の速度を要求する。しかしながら、フロントガラスの全表面が必ずしも同時にこの温度に到達する必要はない。フロントガラスの表面にわたって、様々な領域は、常に、これらの領域が呈するべき目視条件(viewing condition)に従って、区別される。この区別は、国際連合規格R43に載っている。Aと呼ばれる領域は、目視への障害がない領域である。これらの領域に加えられるのは、これらの領域BおよびC、および任意選択的にDであり、これらに関しては、およびこの順序で、条件は緩やかになる。図1は、これらの領域A、B、Cの位置を概略的に示す。
これまでは、全表面にわたって可能な限り均一な加熱を得るように努力が行われてきたが(上述の解決法とは別に)、本発明では、可能な限り均一に加熱する必要性を無視することなく、最も迅速に加熱される領域の良好な位置設定を得ることが好ましい。これらの領域は、当然ながら、主目視領域、特に領域Aおよび領域Bである。これらの領域の優先加熱は、視界に、板ガラスの一様な外観を壊す要素を導入するべきではない。
フロントガラスの上部および底部にある従来から存在するバスバーに、本発明による、側面のある高さにわたって、および好ましくは本質的にこれら側面の上方部分に延在するバスバーを備えることによって、電流分布線を著しく変化させる。全表面にわたって品質が均一である導電層では、これらの電流分布線は、自然と、最短経路を辿る傾向がある。側面領域にこれらバスバーの部分が存在する場合、結果として、より強烈な加熱が、当該バスバーにすぐ連続する部分に限らず、横方向にも見られる。
特にここで提案されているフロントガラスに関し、フロントガラスに存在する複数の機能要素、例えば電子料金収受システム、レインセンサー、光センサー、赤外線カメラなどのための窓に起因して、加熱層は、もはや、フロントガラスの全表面にわたって均一に存在しないことに気付くことが注目に値する。これは、配置構成が既存の差異を最小限にしようと努力している場合でも、均一ではない加熱を生じる。特に、当該窓の位置に起因する均一性の欠如は、不連続性が2つの対向するバスバー間で、それゆえ、電流線の通路で生じているとき、主要な目視領域に及ぼす影響を避けられないことが強調されるべきである。
さらに、従来の態様においては、フロントガラスの縁部の近くに必然的に配置されているこれらの窓が存在することは、これらの窓の周囲に電流線を集中させることを避けられない。この集中は、従来技術でも述べている特定の措置を除いては、局所的な過熱を生じ、これは、フロントガラスの構成要素の優れた性能を損なう。温度上昇は、熱可塑性中間層製品の品質を損ない、かつ部分的な離層を生じ得る。
本発明による配置構成は、最も迅速に加熱される領域のより良好な位置設定をもたらすだけでなく、上述の全ての機能要素が配置される、フロントガラスの最も敏感な領域における、これらの局所的な過熱点の存在を減少させもする。
横方向に配置されるバスバーは、好ましくは、領域Aおよび好ましくは領域Bの境界とほぼ同じ高さレベルまで延在するフロントガラスの高さにわたって延在する。この手法は、例として示すように、特に、視界に関する条件が最低の領域である、領域Cにおける加熱を弱くする。
バスバーの配置構成に関するいくつかの構成は、本発明の目的に適合する。
従来の配置構成は、フロントガラスの上部および底部に、事実上その全幅にわたって延在するバスバーを含む。この配置構成に由来する本発明の一実施形態は、フロントガラスの高さ部分における縁部に沿って延在する複数の部分によって、最上位に配置されるバスバーを連続的に長くすることである。そこで、同じ電圧が、必然的に、上部および側面のバスバーの全てに印加される。フロントガラスの上方部分にあるバスバーと、横方向に配置されるバスバーの電源を分離することが可能である。これにより、適切な場合には、異なる電圧を印加することが可能になる。後者の場合には、上部バスバーを最高電位に保つことが好ましい。側面のバスバーへの印加電圧を低くすることにより、これらのバスバーの端部における加熱を弱くし、これらの端部におけるホットスポットを減少させるが、同時に、本発明に従って望まれる加熱を増大させるためにこれらのバスバーを存在させるという利点を低減させてしまう。それゆえ、あらゆる場合において、これら2つの傾向の間で妥協される。
側面のバスバーは、有利には、フロントガラスの軸に対して対称的である。それにもかかわらず、非対称的な配置構成が好ましいとし得る。この場合、好ましい配置構成は、運転手に面する目視領域を最も速く加熱する配置構成である。この特定の効果を得るために、運転手側の側面のバスバーは、唯1つであってもよいし、またはそうでなければ、最上位にあるバスバーから最も下まで延在するものであってもよい。この態様は、多かれ少なかれ加熱の非対称性を調整することを可能にする全ての変形例に役立つ。
バスバーの連続性は、第1に、印加される電圧の連続性である。実際のバスバーを形成するものとは必ずしも同じ組成ではない導体を介して、最上位のバスバーを1つまたは複数の側面のバスバーに接続することによって、電気的連続性のみを形成することが可能である。この配置構成は、バスバーが金属条片で形成されているとき、バスバーの適用を容易にする。これらの条片は、フロントガラスの隅部において、その外周を辿るのに、簡単には適さない。2つの金属条片要素間に延在する接合ワイヤは、この問題を回避する。さらに、バスバーの構造的連続性の欠如は、電流線の分布に関して、隅部がこれらの多数の線を支持しない限り、障害ではない。
最も一般的であるように、フロントガラスが、上述したような理由から加熱層のない領域を含むとき、これらの層のない領域の下側に小さなバスバーを局所的に配置することが好ましく、このバスバーは、好ましくは、最上位にある主バスバーに接続される。この追加的なバスバーは、有利には、側面のバスバーの底端部と同じ高さレベルに配置される。この場合、これらの様々なバスバーを同じ電位にすることが好ましい。
最上位にあるバスバーは、上述の通り、従来、フロントガラスの全幅にわたって延在している。この配置構成は、常に必要なわけではない。側面の要素に関して上述したように、互いに接続される個別のセクションを配置することが可能である。さらに、最上位では、バスバー、またはそれを形成する要素は、必ずしも、全幅にわたって延在するものではない。同様に上述したように、フロントガラスの上部「隅部」は、非常に強烈な電流線を有しておらず、必ずしも、これらのバスバーが真っ直ぐに隅部まで延在するものではない。
導電層によって覆われない領域が存在する場合、中断されすぎていない電流線の分配を維持するために、上述の通り、層に作られたこれらの「窓」の下側にバスバー要素を配置することが有利である。この要素は、エナメルによって視界からマスクされる複数の部分に隠され、エナメルは、このために適用される。適切な場合には、通常中心に見られるこの要素が、フロントガラスの幅部分に十分に延在し得る場合、この要素自体が単独で、フロントガラスの上部のバスバーを形成し得る。それにもかかわらず、ほとんどの場合、フロントガラスの上部の縁部に配置された主バスバーは、この追加的な要素と組み合わせられる。この場合、この要素に印加された電圧は、主バスバーの電圧と同じであってもよいし、またはこの電圧が実質的にそれよりも低く、それゆえ、この要素から始まる電流線が過度に高度に集中することを確実に制限するように調整されてもよい。特に、印加される電圧を、このバスバー要素が配置されるフロントガラスの幅にわたって多かれ少なかれ均一であるように調整することを試みることが可能である。
図面を参照して本発明を詳細に説明する。
図1のフロントガラスの表示は、本発明の説明に必要な要素に限られている。
多数の従来技術の公報で説明されているように、フロントガラス上には加熱層がある。最良の結果を達成する、すなわち誘電体層によって保護される複数組の金属層のシート抵抗を可能な限り最小にするという問題である。実施するのに最も良い組織は、2つ、3つまたはさらには4つの銀層を含む。最適条件下で、加熱層は、約1Ω/□以下のシート抵抗を達成する。これらの非常に小さい抵抗にもかかわらず、高さが1メートルを超えることが多いフロントガラスの実際の寸法では、製造者のニーズに適合するために必要なパワーを得ることが可能ではない。パワーは、自家用車で利用可能な電位(12〜14V)を使用して、約400W/m2である。
図1は、板ガラスの表面の実質的に全体にわたって延在する加熱層の従来の配置構成を示す。層の境界は、線1によって印が付けられている。板ガラスの縁部のみが導電層とは接触しておらず、環境湿度との接触により生じ得る損傷を回避している。
導電層はまた、従来存在している様々な装置の箇所において中断される。これは、例えば、電子料金収受システムタイプの、名前遠距離通信窓(name telecommunication window)2、3によって、または運転支援カメラ、特に夜間運転支援カメラ用の窓4によって通例示される場合である。当該窓は、層の加熱組織に組み込まれた導電層を横断しないまたはそれによって過度に減衰されない波、特に赤外線波を通過させるために作られている。
レインセンサー5の箇所などのフロントガラスの他の領域も、それらもまた赤外線放射によって動作するときには、これらの層を有していなくてもよい。一般的に、これら層の加熱組織は、赤外線透過のかなりの部分を遮断し、任意の機器が当該透過を必要とし、この機器が動作する領域は、これら層の組織を有していない。
これら層の組織に給電するために、フロントガラスは、導体で形成された「バスバー」6、7を含み、これらバスバーは、フロントガラスの加熱に使用される要素に直接利用可能なパワーを可能な限り節約するために、十分に弱い。これらバスバーは、従来、金属条片または導電性エナメルペーストの条片のいずれかである。
主バスバーは、シート1の上部縁部および底部縁部に位置決めされる。この配置構成は、これらバスバー間の抵抗を減少させるためにこれらを分離する距離を制限し、かつ利用可能な限られた電位差の単位表面積当たりの利用可能なパワーを増大させるように選択される。
バスバー6および7は、コネクタ(図示せず)によって電源に接続される。
底部にあるバスバー7は、板ガラスの下方縁部から、ある距離にあることが多く、上述の態様に従って、フロントガラスのワイパーを載置するための特定の加熱領域を生じる。これらの配置構成は、明瞭にするために示されていない。
フロントガラスは、通常、エナメル部分を含み、エナメル部分は、バスバー、およびフロントガラスを車体に取り付けるための接着剤のビーズの全てをマスクするためのものである。エナメルでマスキングされた領域は、従来の積層体アセンブリのガラスシートの面の指定に従って外側シートの位置2に位置決めされる。
エナメル領域は、内部バックミラーの支持体、およびカメラなどの他の装置を収容する箇所において、縁部を越えて延在し、この支持体は、フロントガラスに接着接合されることが多い。
加熱層のない様々な領域が存在することは、これらの領域の周囲、およびフロントガラスの底部に置かれたバスバー7の方向におけるその連続部分の電流線の分布をかなり著しく変更する。それゆえ、加熱は、これらの領域の近くにおいては均一にもたらすことができない。この均一性の欠如を最小限にするために、上述の配置構成によれば、エナメルによってマスクされかつ主要な層のない領域の下側の領域に、追加的なバスバー8が位置決めされる。バスバー8は、バスバー6に電気的に結合される。この結合は、さらに、バスバー8の電位に適応し得るため、これらの窓がない場合、多かれ少なかれ、その層がこの高さレベルにあるようにする。換言すると、フロントガラスの底部の方向において電流をある程度均一にするために、シートの全幅にわたって同じ電位を再確立しようと努めている。この結果を得るために、従来技術では、これらの同じバスバー間の層と実質的に同じ抵抗を有する導体を介して、バスバー6および8を接続することを提案している。
図1に、点線によって、規則に従って区別される目視領域を概略的に示す。これらは、それぞれ、運転手の視界に関し、最も直接的に影響を受ける領域Aである。領域Bは、先の領域よりも大きく、それを全体的に含む。この領域は、実際、マスクされない板ガラスの部分を全て覆う。表面の残りの部分は、領域Cに対応する。
上述の通り、本発明の目的は、加熱に違いをつけるのを支援することである。領域Aの加熱を可能な限り迅速に行うことが優先される。
本発明の実装例として、図2に示す従来のタイプのフロントガラスの動作と、図3の本発明に従うフロントガラスの動作との比較を行う。
図2に、様々なバスバーの電位を示している。バスバー7は接地されている(0V)。上方縁部のバスバー6は14Vである。追加的なバスバー8は約11Vである。
図3に示すように、同じフロントガラスが装備されている。この図では、上方バスバー6は、14Vの同じ電位である2つの部分9および10によって、側面にわたって延在する。同様に、バスバー8は14Vであり、一方においては9および10の端部と、他方においてはバスバー8の端部との等電位レベルの領域を、一定の方法で、再現させる傾向がある。
2つのフロントガラスは、それらの加熱条件下で比較される。
比較試験では、使用される複数層の加熱組織は、2011年4月12日出願のベルギー特許出願第2011/0218号明細書に説明されているものである。これは、数層の銀の薄層を含み、これら金属層を保護する誘電体層を備えるアセンブリである。層の抵抗R/□は0.786Ω/□である。
試験フロントガラスは、厚さが外側ガラスは2.1mmおよび内側ガラスは1.6mmである2枚のガラスシートと、厚さ0.76mmのPVBシートとで構成される。加熱層は、積層体中の位置3にある。
温度は、板ガラスの外側の表面で測定される。初期温度は20℃である。空気によってもたらされる外部および内部対流は、10W/m2Kのパワーを放散する。
図4および図5に結果を示す試験では、初期温度に対する温度変化が、板ガラスの全表面にわたって測定される。この測定は、8分間の加熱後に行われる。温度は、灰色の度合いで表わされる。これらの図には温度スケールが添付されている。
試験は、第1に、本発明による板ガラスに関して領域Aがより明るいことを示している。温度差は、本発明の板ガラスでは約5℃高い。同じように、一般的に、領域AおよびBの全体に対して温度上昇が観察される。
図6および図7は、一方では領域AおよびBの全体、他方ではフロントガラスの中心の双方の場合における、経時的な温度差の変化の結果を示している。全ての場合において、本発明による結果は、より大きな温度上昇を生じている。
さらに、図4および図5の比較は、板ガラスの上方部分における、本発明の場合の加熱が弱いことを示し、これは、この部分における電流線の役割が劣ること、側面のバスバー9および10からくる電流線の利点によって、簡単に説明される。
本発明による構造はまた、ホットスポットの位置に関する変更を導入する。側面のバスバー9および10の端部が、比較例には存在しないホットスポットの箇所であることは驚くことではない。追加的なバスバー8のすぐ下側に配置された領域もより熱く、およびこの領域を越えて温度上昇が続いて、板ガラスの中心の温度も改善する。
反対に、窓を含む部分全体は、比較例よりも実質的に冷たい。この領域への目視は実質的にゼロであるため、温度がより低くても、期待される振る舞いに影響を及ぼさない。
図8の配置構成は、図3の配置構成とは異なる。側面のバスバー要素11および12は、バスバー6とは直接連続していないが、導線によって電源に接続されており、その電位は、もはやバスバー6の電位ではない。フロントガラスの高さ方向においては、両側面の要素の端部がバスバー8よりも低く配置されているため、より低い10Vの電圧が印加される。図9は、図5のように、提案の配置構成が、図4からの比較態様におけるよりも実質的に効果的であることを示している。
図10のフロントガラスでは、全てのバスバーが同様に14Vの同じ電位にある。この構成では、フロントガラスの上方縁部を縁取るバスバーは、側面の縁部までは延在しない2つの部分13、14に分割されている。側面に配置される要素は、それらの下方端部が、多かれ少なかれ、バスバー8と同じ高さレベルにある。
図9では、ここでも、目視領域AおよびさらにはBが、図4の比較例よりも良好に加熱されることが観察される。反対に、この配置構成は、上方隅部、およびバスバー8の上側に配置される領域の加熱を、より制限する。