以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
本発明の一実施形態に係る中空糸膜は、フッ化ビニリデン系樹脂を含む。そして、この中空糸膜は、純水透過係数Kが、1×10−15m2以上22×10−15m2以下であり、分画粒子径が、0.5μm以下である。
前記中空糸膜は、フッ化ビニリデン系樹脂を含むことによって、強度に優れたものになると考えられる。フッ化ビニリデン系樹脂については、後述する。
また、前記中空糸膜は、上述したように、純水透過係数Kが、1×10−15m2以上22×10−15m2以下である。ここで、純水透過係数Kは、中空糸膜に純水を通過させる際の透過係数であって、ダルシー(Darcy)の法則に従った、下記式(1)を用いて算出される透過係数(ダルシーの透過係数)である。
K=(μ・T・Q)/(ΔP・A) (1)
式(1)中、Kは、透過係数(m2)を示す。また、μは、粘度(Pa・秒)を示し、ここでは、純水の粘度(Pa・秒)を示す。また、Tは、膜厚(m)を示し、ここでは、中空糸膜の厚み(m)を示す。また、Qは、流量(m3/秒)を示し、ここでは、透水流量(m3/秒)を示す。また、ΔPは、膜間差圧(Pa)を示す。また、Aは、膜面積(m2)を示す。
次に、純水透過係数Kの測定方法について説明する。
純水透過係数Kは、上記式(1)により算出可能なものであれば、その測定方法は、特に限定されない。具体的には、純水透過係数Kの測定方法は、例えば、以下のような測定方法等が挙げられる。
まず、測定対象物である中空糸膜を、エタノール50質量%水溶液に15分間浸漬させ、その後、15分間純水で洗浄するといった湿潤処理を施す。この湿潤処理を施した中空糸膜の一端を封止した多孔中空糸膜モジュールを用い、原水として純水を利用し、ろ過圧力が100kPa、温度が25℃の条件で外圧濾過して、時間当たりの透水量を測定する。この測定した透水量から、単位膜面積、単位時間、単位圧力当たりの透水量に換算して、有効長10cm、15cm、20cm、25cm、30cmのそれぞれの、膜間差圧0.1MPaにおける透水量(L/m2/時)を得る。この得られた透水量の測定データから、Darcyの式に代入し、各有効長におけるダルシーの透過係数Kを算出する。
その後、横軸に有効長、縦軸にダルシーの透過係数Kをプロットし、得られたプロットの外挿値から有効長0cmにおけるダルシーの透過係数Kを算出し、これを本発明における純水透過係数Kとする。
次に、この純水透過係数Kについて説明する。
純水透過係数Kは、中空糸膜を純水が通過する時の通過抵抗の係数である。すなわち、算出した純水透過係数Kが大きいほど、中空糸膜の純水通過抵抗が小さく、水が流れやすい構造であることを示唆している。一方で、算出した純水透過係数Kが小さいほど、中空糸膜の純水通過抵抗が大きく、水が流れにくい構造であることを示唆している。より具体的には、中空糸膜が、その膜内に存在する細孔の1つ1つが大きく、空隙率が大きい圧力損失の少ない構造体である場合には、純水透過係数Kは大きくなる。一方で、中空糸膜が、その膜内に存在する細孔の1つ1つが小さく、空隙率の小さい緻密な構造体である場合には、純水透過係数Kは小さくなる。
また、純水透過係数Kは、中空糸膜の構造、特に、膜厚方向の構造が均一であれば、測定時の圧力の変動や、中空糸膜の通過部分の長さ(膜厚)によらず、一定値になる。一方で、純水透過係数Kが、膜厚によって変動するということは、中空糸膜の構造、例えば、空隙率、細孔径、細孔の形状等が膜厚方向に変化していることを示唆している。
具体的には、純水透過係数Kの小さい領域から純水透過係数Kの大きい領域に、膜厚方向に変化する非対称な構造を有する中空糸膜の純水透過係数Kは、以下のようになる。まず、純水透過係数Kの小さい領域のKを、Ksと、純水透過係数Kの大きい領域のKをKlとする。そして、純水透過係数Kの小さい領域の厚みを、Tsとし、純水透過係数Kの大きい領域の厚みを、Tlとし、中空糸膜全体の厚み(膜厚)を、Tとする。このような場合、中空糸膜の純水透過係数Kは、下記式(2)のように定義される。
T/K=Ts/Ks+Tl/Kl (2)
このことから、中空糸膜全体の膜厚に対して、純水透過係数Kの小さい領域と純水透過係数Kの大きい領域とのそれぞれが占める割合と、KsとKlとの絶対値の差の大きさによって、非対称構造の中空糸膜の純水透過係数Kが決定される。つまり、中空糸膜の純水透過係数Kは、中空糸膜の非対称度によって、変動する。具体的には、非対称度が小さい場合には、中空糸膜の純水透過係数Kは小さくなる傾向がある。また、非対称度が大きい場合には、中空糸膜の純水透過係数Kは大きくなる傾向がある。このように、中空糸膜の純水透過係数Kを求めることで、中空糸膜の純水透過性能や非対称度を評価することができる。具体的には、中空糸膜の純水透過係数Kが大きいと、純水透過性能が高く、中空糸膜の純水透過係数Kが変動すると、非対称度が変化したということができる。
ここで、本実施形態に係る中空糸膜の純水透過係数Kは、上述したように、膜構造に寄与する値である。この膜構造に寄与する純水透過係数Kは、1×10−15m2以上22×10−15m2以下であり、2×10−15m2以上17×10−15m2以下であることが好ましく、2.3×10−15m2以上10×10−15m2以下であることが最も好ましい。この純水透過係数Kが小さすぎる場合は、上述したように、純水の通過抵抗が大きくなり、充分な透過性能を発揮しにくくなる傾向がある。また、純水透過係数Kが大きすぎる場合は、優れた透過性能は発揮できるものの、分画特性が低下しすぎる傾向がある。これらのことから、純水透過係数Kが、上記範囲内であることによって、分画特性の低下を抑制しつつ、水を含む液体に対する透過性能が優れたものにすることができると考えられる。
また、本実施形態に係る中空糸膜は、分画粒子径が、0.5μm以下である。この分画粒子径は、中空糸膜の通過を阻止できる最小粒子の粒子径のことをいい、具体的には、例えば、中空糸膜による阻止率が90%となる粒子径等が挙げられる。このような分画粒子径は、小さければ小さいほど好ましいが、優れた透過性能を維持するためには、0.001μm程度が限度である。このため、分画粒子径の最小値は、0.001μm程度であり、透過性能の点から、0.01μm程度であることが好ましい。これらのことから、分画粒子径が、0.5μm以下であり、0.001〜0.5μmであることが好ましく、0.01〜0.5μmであることがより好ましく、0.02〜0.1μmであることがさらに好ましい。中空糸膜の分画粒子径が、大きすぎると、透過性能が高まったとしても、分画特性が低下してしまい、除去対象の適用範囲が狭くなってしまう傾向がある。このことから、中空糸膜の分画粒子径が、上記範囲内であれば、透過性能の低下を抑制しつつ、優れた分画特性を発揮できる。
また、中空糸膜は、分画粒子径によって、除去対象の適用範囲が異なる。具体的には、分画粒子径が0.05〜0.1μmであれば、精密ろ過膜として、微生物やウィルスの除去に適用できる。また、分画粒子径が0.001〜0.01μmであれば、限外ろ過膜として、微小病原菌やタンパク質の除去に適用できる。また、分画粒子径が0.002μm以下であれば、逆浸透膜として脱塩等に適用できる。
以上のことから、本実施形態に係る中空糸膜は、精密ろ過膜として微生物やウィルスの除去にも適用できるような優れた分画特性を有しつつ、求められる強度を実現できる膜厚においても優れた透過性能を発揮できる。
また、本実施形態に係る中空糸膜は、膜間差圧0.1MPaにおける透水量が、1000〜40000L/m2/時であることが好ましく、3000〜30000L/m2/時であることがより好ましく、3500〜20000L/m2/時であることがさらに好ましい。透水量が少なすぎると、透過性能が劣る傾向があり、透水量が多すぎると、分画特性が低下する傾向がある。このことから、透水量が上記範囲内であれば、透過性能及び分画特性により優れた中空糸膜が得られる。
また、本実施形態に係る中空糸膜は、純水透過係数が、前記中空糸膜の厚みがL(m)であるとき、0.4×10−11×L(m2)以上6×10−11×L(m2)以下であることが好ましく、0.8×10−11×L(m2)以上4×10−11×L(m2)以下であることがより好ましく、1×10−11×L(m2)以上3×10−11×L(m2)以下であることがさらに好ましい。すなわち、中空糸膜において、横軸に膜厚L(m)とし、縦軸に純水透過係数K(m2)としたときの傾きが、0.4×10−11〜6×10−11以下であることが好ましく、0.8×10−11〜4×10−11であることがより好ましく、1×10−11〜3×10−11であることがさらに好ましい。
純水透過係数Kは、上述したように、中空糸膜の膜内構造に依存する値であり、中空糸膜の膜内構造が、膜厚方向に対して均質であれば、膜厚が変動しても、変化しない値である。前記傾きが、上記範囲内であると、中空糸膜の構造が、好適に非対称になっていると考えられる。すなわち、一方の表面付近等に、分画特性に関与すると考えられる緻密な層状部分が存在し、その他の部分が、透過性の低下に寄与しにくい、その部分内に形成される細孔が比較的大きいものであると考えられる。この緻密な層状部分が、分離層として働き、その他の部分が支持層として働くと考えられる。そして、この支持層は、膜断面にマクロボイドと呼ばれる粗大な孔が存在せず、三次元どちらの方向に対しても、連通孔が存在する、いわゆる三次元網目構造であると考えられる。また、前記傾きが、上記範囲内であると、中空糸膜全体の厚みが変化しても、前記分離層として働く緻密な層状部分の厚みはほとんど変化せず、支持体として働く部分の厚みが変化すると考えられる。このため、中空糸膜の厚みが増しても、分画特性に関与すると考えられる緻密な層状部分は、厚くならずに、優れた分画特性を維持しつつ、透過性能により優れた中空糸膜を実現できると考えられる。すなわち、前記傾きが、上記範囲内であるということは、中空糸膜の厚みを増しても、中空糸膜全体の厚みに対する分離層の占める割合が低下する傾向にあるためであると考えられる。これらのことから、前記傾きが小さすぎると、膜厚方向における細孔等の非対称度が充分に高くなく、中空糸膜全体の厚みが厚くなると、充分な透過性能を発揮できない傾向がある。また、前記傾きが大きすぎると、前記非対称度が大きくなりすぎ、支持層として働く部分への、マクロボイド等の発生により、支持層として機能すべき部分が支持層として充分に機能しない傾向がある。すなわち、中空糸膜の強度が低下する傾向があり、場合によっては、中空糸膜を好適に製造しにくくなる傾向がある。よって、前記傾きが上記範囲内であれば、優れた分画特性を維持しつつ、透過性能により優れた中空糸膜が得られると考えられる。
また、前記中空糸膜は、上述したように、膜厚方向に変化する非対称な構造を有する中空糸膜であると考えられる。具体的には、前記中空糸膜は、膜内の気孔の孔径が、内外周面側の少なくとも一方の側に向かって漸次的に小さくなる傾斜構造を有すると考えられる。中空糸膜に形成される気孔としては、例えば、前記中空糸膜の外周面に形成された細孔の直径(外周側細孔径)は、内周面に形成された細孔の直径(内周側細孔径)より小さければ、特に限定されない。前記外周側細孔径は、具体的には、0.01〜1μmであることが好ましく、0.1〜0.5μmであることがより好ましく、0.1〜0.3μmであることがさらに好ましい。また、前記内周側細孔径も、特には限定されないが、具体的には、1〜20μmであることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましく、2〜8μmであることが好ましい。また、前記外周側細孔径に対する前記内周側細孔径の比(内周側細孔径/外周側細孔径)は、1より大きく、10〜100であることが好ましく、20〜50であることが好ましく、30〜50であることが好ましい。これらのことから、前記中空糸膜は、前記外周側細孔径や前記内周側細孔径を満たすように、内周面側から外周面側に向かって、膜内の気孔の大きさ(孔径)が厚み方向で漸次的に小さくなっていく傾斜構造を有するものであると考えられる。なお、ここでの直径は、直径の平均値であり、例えば、直径の算術平均値等が挙げられる。
また、本実施形態に係る中空糸膜は、単一層からなることが好ましい。すなわち、中空糸膜は、上述したように、膜厚方向に、細孔の大きさ等が異なる、非対称な構造であっても、その素材は、同一な層からなることが好ましい。より具体的には、前記中空糸膜は、前記のような分離層と支持層とを別々に形成し、それらを積層したものではなく、単一層からなることが好ましい。そうすることによって、透過性能及び分画特性により優れ、膜内に剥離等の損傷が発生しにくい中空糸膜が得られる。
このことは、以下のことによると考えられる。
上述したような分画特性に関与すると考えられる緻密な層状部分が、本実施形態に係る中空糸膜のように、透過性能が高い場合、薄いと考えられる。このような場合、このような緻密な層を別途作製しようとすると、好適に形成できない場合がある。これに対して、緻密な層状部分と、それ以外の部分とを同一の層、すなわち単一層で形成すると、緻密な層状部分を面方向に均一に形成できると考えられる。また、緻密な層状部分と、それ以外の部分とが単一層であれば、その界面での剥離等の発生を充分に抑制できると考えられる。
これらのことから、透過性能及び分画特性により優れ、膜内に剥離等の損傷が発生しにくい中空糸膜が得られると考えられる。
また、前記中空糸膜に含まれるフッ化ビニリデン系樹脂は、中空糸膜の主成分であり、具体的には、85質量%以上であることが好ましく、90〜99.9質量%であることが好ましい。
また、このフッ化ビニリデン系樹脂は、中空糸膜を構成することができるフッ化ビニリデン系樹脂であれば、特に限定されない。このフッ化ビニリデン系樹脂としては、具体的には、フッ化ビニリデンのホモポリマーや、フッ化ビニリデン共重合体等が挙げられる。このフッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンに基づく繰り返し単位を有する共重合体であれば、特に限定されない。フッ化ビニリデン共重合体としては、具体的には、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種とフッ化ビニリデンとの共重合体等が挙げられる。フッ化ビニリデン系樹脂としては、上記例示の中でも、フッ化ビニリデンのホモポリマーであるポリフッ化ビニリデンが好ましい。また、フッ化ビニリデン系樹脂としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、フッ化ビニリデン系樹脂の分子量は、中空糸膜の用途等によって異なるが、例えば、重量平均分子量で、50,000〜1,000,000であることが好ましい。分子量が小さすぎると、中空糸膜の強度が低下する傾向がある。また、分子量が大きすぎると、中空糸膜の製膜性が低下する傾向がある。また、薬液洗浄に晒される水処理用途に、中空糸膜が用いられる場合、その中空糸膜は、より高い性能が求められるので、強度に優れ、さらに、好適な中空糸膜を得るために、その製膜性に優れていることが求められる。このため、中空糸膜に含まれるフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、100,000〜900,000であることが好ましく、150,000〜800,000であることがより好ましい。
また、前記中空糸膜は、前記フッ化ビニリデン系樹脂だけではなく、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体を含むことが好ましい。前記中空糸膜は、フッ化ビニリデン系樹脂を含むので、疎水性が高くなる傾向があると考えられる。このような中空糸膜であっても、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体を含むことによって、親水性を高めることができると考えられる。また、ポリビニルピロリドン系樹脂を単に含むのではなく、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体を含むことによって、ポリビニルピロリドン系樹脂の脱落が抑制され、親水性を高めた効果を維持することができると考えられる。このように親水性を高めることによって、中空糸膜は、水を含む液体に対する透過性が高まると考えられる。また、親水性を高めることによって、耐汚染性も高めることができると考えられる。これらのことから、前記中空糸膜は、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体を含むことによって、優れた分画特性を維持しつつ、透過性能により優れ、さらに耐汚染性に優れた中空糸膜が得られると考えられる。
ここで、ポリビニルピロリドン系樹脂は、ビニルピロリドンを分子内に含む樹脂であれば、特に限定されない。このポリビニルピロリドン系樹脂としては、具体的には、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンとビニルアセテートとの共重合体、ビニルピロリドンとビニルカプロラクタムとの共重合体等が挙げられる。ポリビニルピロリドン系樹脂としては、上記例示の中でも、ポリビニルピロリドンが好ましい。また、ポリビニルピロリドン系樹脂としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の架橋度は、特に限定されない。架橋度としては、例えば、得られた中空糸膜に通水した場合のろ液からポリビニルピロリドン系樹脂が検出されない程度の架橋度等が挙げられる。ポリビニルピロリドン系樹脂が検出されない程度とは、具体的には、以下のような程度である。
まず、中空糸膜に純水を流して、フラッシング洗浄をした後に、この洗浄をした中空糸膜に、40体積%のエタノール水溶液を40℃で1時間循環させる。この循環させたエタノール水溶液の、ポリビニルピロリドン系樹脂濃度を測定する。このポリビニルピロリドン系樹脂濃度と、使用した中空糸膜の膜面積とから、膜面積1m2当たりのポリビニルピロリドン系樹脂の抽出量を算出する。この算出した、膜面積1m2当たりの抽出量が、300mg以下であることが好ましく、100mg以下であることがより好ましく、10mg以下であることがさらに好ましい。
また、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の含有量は、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体を含有することによる効果が充分に発揮できる量、すなわち、フッ化ビニリデン系樹脂を含む中空糸膜を好適に親水化できる量であれば、特に限定されない。具体的には、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の含有量は、中空糸膜の質量に対して、0.1質量%以上15質量%未満であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましく、0.5〜5質量%であることがさらに好ましい。前記含有量が少なすぎると、中空糸膜の親水性が充分に高まらない傾向がある。このため、耐汚染性が充分に高まらず、また、中空糸膜に、好適な気孔(細孔)を形成することができず、水を含む液体に対する透過性を充分に高めることができない傾向がある。また、前記含有量が多すぎると、透過性能が低下する傾向がある。これは、まず、中空糸膜の成型性が低下し、好適な中空糸膜が形成できにくい傾向があることによると考えられる。また、中空糸膜が、膜内のポリビニルピロリドン系樹脂が膨潤して、膜の細孔の閉塞等による透水性の低下が発生しやすくなるためと考えられる。これらのことから、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の含有量が、前記範囲内であれば、フッ化ビニリデン系樹脂を含む中空糸膜を、適度に親水化させることができ、膜の細孔の閉塞等による透水性の低下の発生を抑制しつつ、親水性を高めることができると考えられる。このため、優れた分画特性を維持しつつ、透過性能により優れ、さらに耐汚染性に優れた中空糸膜が得られると考えられる。
また、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の含有量の測定方法は、特に限定されないが、例えば、以下のように測定することができる。具体的には、得られた中空糸膜を微量窒素分析し、窒素(N)の存在量から測定することができる。より具体的には、まず、得られた中空糸膜と、ポリビニルピロリドン系樹脂単体とをそれぞれ微量窒素分析し、窒素(N)の存在量を測定する。この存在量から、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の含有量を算出する。
また、ポリビニルピロリドン系樹脂は、そのK値が、30〜120であることが好ましく、50〜120であることがより好ましく、60〜120であることがさらに好ましい。なお、このポリビニルピロリドン系樹脂のK値は、架橋前のポリビニルピロリドン系樹脂のK値である。また、K値は、分子量と相関する粘性特性値である。このK値は、例えば、カタログ等の記載からもわかるが、例えば、Fikentscherの式を用いて算出することができる。このK値は、例えば、毛細管粘度計により測定される、25℃における相対粘度値を下記のFikentscherの式に適用して算出することができる。
K値=(1.5logηrel−1)/(0.15+0.003c)+(300clogηrel+(c+1.5clogηrel )2)1/2/(0.15c+0.003c2)
式中、ηrelは、測定対象物であるポリビニルピロリドン系樹脂の水溶液の、水に対する相対粘度を示し、cは、測定対象物であるポリビニルピロリドン系樹脂の水溶液の、測定対象物の濃度(質量%)を示す。
ポリビニルピロリドン系樹脂のK値が小さすぎると、ポリビニルピロリドン系樹脂を架橋しても、フッ化ビニリデン系樹脂を含む中空糸膜内に、残存しにくく、中空糸膜の親水性を好適に維持しにくい傾向がある。また、ポリビニルピロリドン系樹脂のK値が大きすぎると、製膜性が低下し、好適な中空糸膜を製造しにくくなる傾向がある。これらのことから、このようなK値を有するポリビニルピロリドン系樹脂であれば、フッ化ビニリデン系樹脂を含む中空糸膜内に、適度に残存しやすく、中空糸膜を、適度に親水化させることができると考えられる。このため、膜の細孔の閉塞等による透水性の低下の発生を抑制しつつ、親水性を高めることができるため、水を含む液体の透過性を向上させることができると考えられる。よって、優れた分画特性を維持しつつ、透過性能により優れ、さらに耐汚染性に優れた中空糸膜が得られると考えられる。
また、前記中空糸膜の強度は、中空糸膜として使用できれば、特に限定されない。前記中空糸膜の強度は、具体的には、引張強度で、3〜15N/mm2であることが好ましく、3〜10N/mm2であることがより好ましく、3〜7N/mm2であることがさらに好ましい。また、前記中空糸膜の強度は、具体的には、引張伸度で、30〜250%であることが好ましく、50〜200%であることがより好ましく、70〜200%であることがさらに好ましい。前記中空糸膜の強度として、引張強度や引張伸度が、上記範囲内であれば、中空糸膜として好適に使用することができる。なお、引張強度は、所定の大きさに切った中空糸膜を、所定の速度で引っ張り、中空糸膜が破断したときの荷重から求められるものであり、引張伸度は、その破断したときの、中空糸膜の伸びを表したものである。
また、本実施形態に係る中空糸膜の形状は、特に限定されない。中空糸膜は、中空糸状であって、長手方向の一方側は開放し、他方側は、開放していても閉じていてもよい。中空糸膜の形状としては、例えば、中空糸状であって、長手方向の一方側を開放したままで、他方側を閉じた形状等が挙げられる。また、中空糸膜の開放した側の形状としては、例えば、図1に示すような形状である場合等が挙げられる。なお、図1は、本発明の実施形態に係る中空糸膜の部分斜視図である。
また、前記中空糸膜の外径R1は、0.5〜7mmであることが好ましく、1〜2.5mmであることがより好ましく、1〜2mmであることがさらに好ましい。このような外径であれば、中空糸膜を用いた分離技術を実現する装置に備える中空糸膜として、好適な大きさである。
また、前記中空糸膜の内径R2は、0.4〜3mmであることが好ましく、0.6〜2mmであることが好ましく、0.6〜1.2mmであることがさらに好ましい。中空糸膜の内径が小さすぎると、透過液の抵抗(管内圧損)が大きくなり、流れが不良になる傾向がある。また、中空糸膜の内径が大きすぎると、中空糸膜の形状を維持できず、膜の潰れやゆがみ等が発生しやすくなる傾向がある。
また、前記中空糸膜の膜厚Tは、0.2〜1mmであり、0.25〜0.5mmであることがより好ましく、0.25〜0.4mmであることがさらに好ましい。中空糸膜の膜厚が薄すぎると、強度不足により、ゆがみ等の変形が発生しやすくなる傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、マクロボイドの発生の抑制が困難になる等、好適な膜構造を得ることが困難になる傾向がある。場合によっては、強度が低下する場合もある。一方で、本実施形態に係る中空糸膜は、膜厚を変更しても、高い透水性を維持できるので、強度の観点から、モジュール等の使用環境に応じて比較的厚い膜厚の中空糸膜にすることも可能である。
前記中空糸膜の外径R1、内径R2、及び膜厚Tが、それぞれ上記範囲内であれば、中空糸膜を用いた分離技術を実現する装置に備える中空糸膜として、好適な大きさであり、前記装置の小型化が図れる。
また、本実施形態に係る中空糸膜の製造方法は、上述の構造を有する中空糸膜を製造することができれば、特に限定されない。この製造方法としては、例えば、以下のような製造方法が挙げられる。この製造方法としては、フッ化ビニリデン系樹脂と、前記フッ化ビニリデン系樹脂の貧溶剤と、ポリビニルピロリドン系樹脂とを含む製膜原液を調製する調製工程と、前記製膜原液を中空糸状に押し出す押出工程と、押し出された中空糸状の製膜原液を、外部凝固液と接触させて、中空糸膜を形成する工程とを備える方法等が挙げられる。ここで、前記フッ化ビニリデン系樹脂の貧溶剤とは、例えば、前記フッ化ビニリデン系樹脂と特定の温度以上で相溶して一相状態となり、かつ、温度低下による相溶性低下により相分離を起こしうる溶剤が挙げられる。そして、この製造方法において、前記外部凝固液の温度が、前記温度変化による相分離が開始する温度よりも高くする。すなわち、本発明の他の実施形態に係る中空糸膜の製造方法は、前記中空糸膜の製造方法であって、フッ化ビニリデン系樹脂と、前記フッ化ビニリデン系樹脂と特定の温度以上で相溶して一相状態となり、かつ、温度低下による相分離を起こしうる貧溶剤と、ポリビニルピロリドン系樹脂とを含む製膜原液を調製する調製工程と、前記製膜原液を中空糸状に押し出す押出工程と、押し出された中空糸状の製膜原液を、外部凝固液と接触させて、中空糸膜を形成する工程(形成工程)とを備え、前記外部凝固液の温度が、前記温度変化による相分離が開始する温度よりも高い製造方法である。
このような製造方法によって、前記中空糸膜を好適に製造することができる。
このことは、以下のことによると考えられる。まず、製膜原液を製造する際、フッ化ビニリデン系樹脂に対する良溶剤を用いるのではなく、上記のような、フッ化ビニリデン系樹脂に対する貧溶剤を用い、前記温度変化による相分離が起こらない状態で、中空糸状の製膜原液を外部凝固液と接触させる。そうすることで、製膜原液内の溶剤と外部凝固液との溶剤交換が起こり、製膜原液内の樹脂を凝固させる。このため、溶剤交換の速度が、良溶剤を用いた場合、いわゆる、従来のNIPS法より、好適な速度になると考えられる。よって、透過性能及び分画特性にともに優れた中空糸膜を、好適に製造することができると考えられる。
まず、本実施形態に係る製造方法における調製工程は、前記フッ化ビニリデン系樹脂と、前記貧溶剤と、前記ポリビニルピロリドン系樹脂とを含む製膜原液を調製することができれば、特に限定されない。調製工程としては、具体的には、例えば、製膜原液の原料を、加熱攪拌する方法等が挙げられる。また、加熱攪拌時に、混練することが好ましい。すなわち、製膜原液の原料である、前記フッ化ビニリデン系樹脂、前記貧溶剤、及び前記ポリビニルピロリドン系樹脂を所定の比率になるように混合し、加熱状態で混練する方法が好ましい。そうすることによって、製膜原液の原料である各成分が均一に分散された製膜原液が得られ、中空糸膜を好適に製造できると考えられる。また、混練の際に、例えば、二軸混練設備、ニーダー、及びミキサー等を用いることができる。
また、前記調製工程が、前記フッ化ビニリデン系樹脂の融点未満であり、かつ、前記温度低下による相分離が開始する温度より高い温度で行うことが好ましい。すなわち。この製膜原液の調製時の温度が、前記フッ化ビニリデン系樹脂の融点未満であり、かつ、前記温度低下による相分離が開始する温度より高い温度で行うことが好ましい。さらに、この製膜原液の調製時の温度としては、60℃以上前記フッ化ビニリデン系樹脂の融点未満であることがより好ましく、90〜140℃であることがさらに好ましい。この温度が低すぎると、製膜原液の粘度が増大し、好適な膜構造を有する中空糸膜が得られない傾向がある。具体的には、中空糸膜の支持層として働く層に、好適な三次元網目構造が形成できず、その層内に、球晶やマクロボイドが形成されやすく、得られた中空糸膜の強度が低下する傾向がある。また、この温度が高すぎても、好適な膜構造を有する中空糸膜が得られない傾向がある。具体的には、ポリビニルピロリドン系樹脂の熱劣化により、中空糸膜の支持層として働く層に、好適な三次元網目構造が形成できず、その層内に、マクロボイドが形成されやすかったり、反対に、緻密な層になってしまったりする傾向がある。その結果として、分画特性及び透過性能にともに優れた中空糸膜が得られにくい傾向がある。これらのことから、調製工程時の温度が、上記範囲内であれば、前記フッ化ビニリデン系樹脂と、前記貧溶剤と、前記ポリビニルピロリドン系樹脂とを含む製膜原液を、前記ポリビニルピロリドン系樹脂の、熱による損傷等の発生を抑制しつつ、好適に得ることができると考えられる。このため、好適な製膜原液が得られるので、透過性能及び分画特性に優れ、強度にも優れた中空糸膜を製造することができると考えられる。
また、ここで得られた製膜原液は、中空糸膜の製造に用いられる。その際、得られた製膜原液は、充分に脱気することが好ましい。そして、ギアポンプ等の計量ポンプで計量した後に、後述する中空糸膜の製造に用いられる。
また、前記フッ化ビニリデン系樹脂及び前記ポリビニルピロリドン系樹脂は、上述した樹脂を用いることができる。
また、前記貧溶剤は、前記フッ化ビニリデン系樹脂と特定の温度以上で相溶して一相状態となり、かつ、温度低下による相分離を起こしうる溶剤であれば、特に限定されない。また、前記貧溶剤としては、水溶性溶剤であることが好ましい。水溶性溶剤であれば、製膜後、中空糸膜から溶剤を抽出する際に、水を使用することが可能であり、抽出した溶剤は、生物処理等によって処分することが可能である。また、前記貧溶剤としては、例えば、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、メタノール、アセトン、及びカプロラクトン等が挙げられる。前記貧溶剤としては、前記例示の溶剤の中でも、環境負荷、安全面、及びコスト面等の観点からγ−ブチロラクトンが好ましい。また、前記貧溶剤としては、上記例示の溶剤樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、前記製膜原液における各成分の含有量としては、以下のようなものが挙げられる。まず、前記フッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、前記フッ化ビニリデン系樹脂と前記貧溶剤と前記ポリビニルピロリドン系樹脂との合計質量に対して、20〜35質量部であり、20〜30質量部であることがより好ましい。前記貧溶剤の含有量は、前記合計質量に対して、45〜70質量部であり、50〜70質量部であることがより好ましく、55〜65質量部であることがさらに好ましい。前記ポリビニルピロリドン系樹脂の含有量は、前記合計質量に対して、5〜20質量部であり、8〜20質量部であることがより好ましく、10〜15質量部であることがさらに好ましい。また、前記フッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、前記ポリビニルピロリドン系樹脂の含有量に対して、質量比で、1.54〜4.38であることが好ましく、1.6〜3.91であることがより好ましく、1.67〜3.13であることがさらに好ましい。
また、前記製膜原液は、前記フッ化ビニリデン系樹脂と前記貧溶剤と前記ポリビニルピロリドン系樹脂とを含んでいればよく、これらからなるものであってもよい。また、前記製膜原液としては、これらの3成分以外にも、他の成分を含んでいてもよい。この他の成分としては、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、染料、及び製膜原液の相分離を促進する添加剤等の各種添加剤等が挙げられる。また、製膜原液の相分離を促進する添加剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、テトラエチレングリコール、水、エタノール、メタノール等の、前記貧溶媒以外の溶媒、及びポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル等の樹脂等が挙げられる。この樹脂としては、上記各樹脂の共重合体であってもよい。また、製膜原液の相分離を促進する添加剤としては、上記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、本実施形態に係る製造方法における押出工程は、前記製膜原液を中空糸状に押し出す工程であれば、特に限定されない。前記押出工程としては、図2に示す中空糸成型用ノズルから前記製膜原液を押し出す工程等が挙げられる。なお、図2は、本発明の実施形態に係る製造方法で用いる中空糸成型用ノズルの一例を示す概略図である。また、図2(a)には、その断面図を示し、図2(b)には、中空糸成型用ノズルの、製膜原液を吐出する吐出口側を示す平面図である。具体的には、ここでの中空糸成型用ノズル21は、円環状の外側吐出口26と、前記外側吐出口26の内側に配置する円状又は円環状の内側吐出口27とを備える。そして、この中空糸成型用ノズル21は、製膜原液を流通させる流通管24の末端に備え、流通管24内を流動してきた製膜原液を、ノズル内の流路22を介して、外側吐出口26から吐出する。また、この中空糸成型用ノズル21は、この外側吐出口26からの製膜原液の吐出と同時に、内部凝固液を、流通管25に流通させ、ノズル内の流路23を介して、内側吐出口27から吐出する。そうすることによって、中空糸成型用ノズル21から押し出された中空糸状の前記製膜原液を前記内部凝固液と接触させる。
そして、この内部凝固液としては、フッ化ビニリデン系樹脂を含む中空糸膜を製造する際に用いることができる凝固液であれば、特に限定されない。内部凝固液としては、例えば、前記製膜原液との溶解度パラメータの距離(HSP距離)が、5〜200(MPa)1/2であることが好ましく、50〜200(MPa)1/2であることがより好ましく、100〜180(MPa)1/2であることがさらに好ましい。このようなHSP距離を有する内部凝固液を用いることによって、中空糸成型用ノズルから押し出された中空糸状の前記製膜原液の内周面からの凝固を好適に行うことができる。すなわち、中空糸成型用ノズルから押し出された中空糸状の製膜原液の内周面側と、内部凝固液との溶剤交換が、好適な速度で行われると考えられる。このため、内周面側付近の構造が好適な中空糸膜が得られ、透過性能及び分画特性にともに優れた前記中空糸膜をより好適に製造できると考えられる。よって、透過性能及び分画特性にともに優れた前記中空糸膜をより好適に製造できる。
ここで、HSP距離とは、ある物質と別の物質と親和性を評価するパラメータであり、Hansenの三次元溶解性パラメータ(dD,dP,dH)を用いて、下記式で定義される(詳しくは、非特許文献:Hansen,Charles(2007).Hansen Solubility Parameters: A user‘s handbook,Second Edition.Boca Raton,Fla:CRC Press.を参照)。
HSP距離=[4×(dD原液−dD溶剤)2+(dP原液−dP溶剤)2+(dH原液−dH溶剤)2]0.5
ここで、dDはファンデルワールス力、dPはダイポールモーメントの力、dHは水素結合力とされており、上記定義式によって計算される3次元座標上におけるHSP距離が0に近づくほど、その2つの成分は相溶性が高いと判断され、NIPS法における溶剤交換速度が遅くなり、接触面の細孔径は粗大化する。
なお、本明細書で用いている溶解性パラメータは、Hansenのパラメータであるが、Hansenのパラメータに記載されていないものについては、Hoyのパラメータを使用することができる。両方に記載されていないものは、Hansenのパラメータ式で推算することができる(Allan F.M.barton,”CRC Handbook of solubility parameters and other cohesion parameters” CRCCorp.1991を参照)。混合溶剤の場合には、各溶解性パラメータをその質量に基づいて加成法則により計算したパラメータを使用する。
また、溶解性パラメータの一例を、下記表1に示す。
また、本実施形態においては、上記HSP距離を満足するように、製膜原液に含まれる貧溶剤、ポリビニルピロリドン系樹脂、及び内部凝固液を選択することが好ましい。また、内部凝固液は、単一の溶剤からなるものであってもよいし、2種以上の溶剤を組み合わせて用いてもよい。2種以上の溶剤を組み合わせて用いる場合は、例えば、その内部凝固液として、製膜原液とHSP距離の遠い溶剤と、製膜原液とHSP距離の近い溶剤とを任意の比率で混合し、製膜原液とのHSP距離を調節した混合溶剤等が挙げられる。その際に混合する溶剤の種類や数に特に制限はない。なお、製膜原液とHSP距離の遠い溶剤としては、例えば、水やグリセリン等が挙げられる。また、製膜原液とHSP距離の近い溶剤としては、例えば、γ−ブチロラクトンやジメチルアセトアミド等が挙げられる。
内部凝固液として用いられる混合溶剤としては、例えば、ジメチルアセトアミドとグリセリンとの混合溶剤、γ−ブチロラクトンとグリセリンとの混合溶剤、γ−ブチロラクトンとエチレングリコールとの混合溶剤、γ−ブチロラクトンと水との混合溶剤、ジメチルアセトアミドと水との混合溶剤、ジメチルアセトアミドとエチレングリコールとの混合溶剤、ジメチルホルムアミドと水との混合溶剤等が挙げられる。この中でも、γ−ブチロラクトンとグリセリンとの混合溶剤やジメチルアセトアミドと水との混合溶剤が、中空糸膜の成形性が良いという点から好ましい。
また、内部凝固液の温度は、内部凝固液の均一性を確保するという観点から、40〜170℃であることが好ましい。すなわち、内部凝固液の温度としては、40〜170℃の間で調整されることが好ましい。
また、本実施形態に係る製造方法における形成工程は、押し出された中空糸状の製膜原液を、外部凝固液と接触させて、中空糸膜を形成する工程であれば、特に限定されない。この形成工程は、具体的には、前記押出工程で押し出された中空糸状の製膜原液を、外部凝固浴に貯留した外部凝固液に浸漬させる工程等が挙げられる。
前記外部凝固液は、押し出された中空糸状の製膜原液と接触することで、押し出された中空糸状の製膜原液を凝固させることができるものであれば、特に限定されない。前記外部凝固液としては、具体的には、水や、塩類又は溶剤を含有した水溶液等が挙げられる。ここでの塩類としては、例えば、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等の各種の塩類が挙げられる。この中でも、硫酸ナトリウムが好ましい。また、塩類を含有した水溶液は、その塩類濃度が、30〜300g/Lであることが好ましく、50〜300g/Lであることがより好ましく、100〜280g/Lであることがさらに好ましい。この濃度は、低すぎても、高すぎても、好適な膜構造の中空糸膜が得られにくくなる傾向がある。具体的には、この濃度が低すぎると、形成工程における溶剤交換速度が速くなり、得られた中空糸膜の緻密化が進みすぎて、透過性能が低下する傾向がある。また、この濃度が高すぎると、形成工程における溶剤交換速度が遅くなり、得られた中空糸膜の分画特性が低下する傾向がある。
また、前記外部凝固液の温度は、前記温度変化による相分離が開始する温度よりも高く、具体的には、45℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。また、前記外部凝固液の温度は、外部凝固液の沸点以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、85℃以下であることがさらに好ましい。前記外部凝固液の温度が低すぎると、得られた中空糸膜が緻密化し、非対称な構造が形成されにくくなる傾向がある。また、前記外部凝固液の温度は、前記温度変化による相分離が開始する温度以下になると、TIPS法になり、好適な中空糸膜が形成されにくくなる。また、前記外部凝固液の温度が高すぎると、製膜原液の粘度が低下することによって、分画特性が低下し、また、透水性能が高まりすぎてしまう傾向がある。さらに、前記外部凝固液の温度が、その沸点以上であると、外部凝固液が沸騰して振動するため、中空糸膜の製造が安定しない傾向がある。
また、相分離が開始する温度は、前記フッ化ビニリデン系樹脂と前記貧溶剤と前記ポリビニルピロリドン系樹脂とを含む溶液、例えば、前記製膜原液を、その温度を低下させて、相分離が開始する温度である。相分離が開始する温度としては、具体的には、以下のように測定する(詳しくは非特許文献;ポリマーアロイの構造・物性制御と最新技術, 扇澤敏明・瀬和則・今井昭夫,情報機構を参照)。まず、温度コントローラ付きの光学顕微鏡のステージ上にスライドガラスとカバーガラスとを置き、そのスライドガラスとカバーガラスとが120℃になるように加熱する。この加熱したスライドガラスとカバーガラスとの間に、均一相状態の製膜原液を挟み込む。そして、このスライドガラスとカバーガラスとの温度を、少しずつ降温又は昇温、例えば、3℃ずつの降温を行い、相分離した際に生じる白濁(2相の屈折率の差に起因)を目視で確認し、その確認した温度を測定する。この温度を、相分離が開始する温度とする。すなわち、この測定方法は、製膜原液が透明であれば均一相状態であり、白濁していれば相分離状態であるとし、部分的にでも白濁を確認した時点の温度を相分離が開始する温度(相分離開始温度)として、測定する方法である。
また、前記形成工程は、押し出された中空糸状の製膜原液を、外部凝固液に接触させる前に、気体、通常、空気中を走行してもよい。すなわち、前記形成工程は、前記押出工程で押し出された中空糸状の製膜原液を、気体中を走行した後、外部凝固液に接触させてもよい。気体中を走行する距離は、特に限定されず、例えば、5〜300mmであることが好ましい。この気体中の走行は、押し出された中空糸状の製膜原液と内部凝固液との溶剤交換を好適に行うことができ、中空糸形状が安定化し、紡糸性が向上する。なお、本実施形態に係る製造方法では、この気体中の走行を行わなくてもよい。
また、本実施形態に係る製造方法は、前記形成工程により形成された中空糸膜を、長手方向に延伸してもよい。この延伸方法は、特に限定されないが、例えば、水浴中、例えば、加温した水浴中での延伸処理等が挙げられる。なお、延伸後、延伸にかかる力を開放すると、長手方向に収縮する。このような延伸及び収縮を施すと、中空糸膜は、透過性能が向上する。このことは、膜内に存在する独立孔が開裂し、連通孔となり、膜内の連通性が向上し、透過性能が向上すると考えられる。さらに、このような延伸及び収縮を施すと、中空糸膜の繊維の方向が均質化し、強度が向上するという利点もある。なお、本実施形態に係る製造方法では、この延伸及び収縮を行わなくてもよい。
また、本実施形態に係る製造方法は、前記形成工程により形成された中空糸膜を、洗浄してもよい。洗浄方法としては、例えば、中空糸膜を、水浴中にて洗浄する方法等が挙げられる。この洗浄により、中空糸膜の親水性が好適に向上する。このことは、この洗浄により、中空糸膜内のポリビニルピロリドン系樹脂が、膜内で拡散することによると考えられる。
また、本実施形態に係る製造方法は、前記中空糸膜に含まれるポリビニルピロリドン系樹脂を架橋させる架橋工程を備えていてもよい。この架橋工程としては、例えば、中空糸膜(架橋前の中空糸膜)を、ラジカル開始剤を含む水溶液に浸漬させる工程、中空糸膜を強酸や強アルカリに浸漬させる工程、中空糸膜を熱処理する工程、及び中空糸膜に対して放射線処理する工程等が挙げられる。架橋工程としては、上記各工程の中でも、フッ化ビニリデン系樹脂の劣化を抑制でき、かつ、取り扱いが容易である点から、中空糸膜を、ラジカル開始剤を含む水溶液に浸漬させる工程が好ましい。
ラジカル開始剤を含む水溶液に浸漬させる工程は、その浸漬の際に、又は、浸漬後に、加熱処理をすることが好ましい。また、ラジカル開始剤を含む水溶液としては、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋反応を開始させることができるラジカル開始剤を含む水溶液であればよく、例えば、ラジカル開始剤の1質量%水溶液等が挙げられる。ラジカル開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、及び過酸化水素等が挙げられる。この中でも、透過性能の高い中空糸膜が得られやすいという点で、過酸化水素が好ましい。
また、熱処理する工程における加熱温度は、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋反応を開始させることができる温度であればよく、例えば、170〜200℃程度であることが好ましい。
また、本実施形態に係る中空糸膜は、膜ろ過に供することができる。具体的には、例えば、中空糸膜を用いて、以下のようにモジュール化し、このモジュール化されたものを用いて、膜ろ過に用いることができる。より具体的には、本実施形態に係る中空糸膜は、所定本数束ねられ、所定長さに切断されて、所定形状のケーシングに充填され、中空糸束の端部はポリウレタン樹脂やエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂によりケーシングに固定されて、モジュールとなる。なお、このモジュールの構造としては、中空糸膜の両端が開口固定されているタイプ、中空糸膜の一端が開口固定され、他端が密封されているが、固定されていないタイプ等、種々の構造のものが知られており、本実施形態に係る中空糸膜は、いずれのモジュールの構造においても使用可能である。
また、本実施形態に係る中空糸膜は、上記のようにモジュール化され、例えば、図3に示すような膜ろ過装置に組み込むことができる。なお、図3は、本発明の実施形態に係る中空糸膜を備えた膜ろ過装置の一例を示す概略図である。膜ろ過装置31は、上記のように中空糸膜をモジュール化した膜モジュール32を備える。そして、この膜モジュール32は、例えば、中空糸膜の上端部33は中空部を開口しており、下端部34は中空部をエポキシ系樹脂にて封止しているものが挙げられる。また、膜モジュール32は、例えば、有効膜長さ100cmの中空糸膜を70本用いてなるもの等が挙げられる。そして、この膜ろ過装置31は、導入口35から、処理対象物である液体を、膜モジュール32によるろ過が施された液体(ろ過水)等が導出口36から排出される。そうすることによって、中空糸膜を用いたろ過が実施される。なお、膜ろ過装置31に導入された空気は、空気抜き口37から排出される。
本実施形態に係る中空糸膜は、このようにモジュール化されて、浄水処理、飲料水製造、工業水製造、排水処理等の各種用途に用いられる。
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
まず、フッ化ビニリデン系樹脂として、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略することがある)(アルケマ株式会社製のKynar741)と、溶剤として、γ−ブチロラクトン(三菱化学株式会社製のGBL)と、ポリビニルピロリドン系樹脂として、ポリビニルピロリドン(BASFジャパン株式会社製のソカランK−90P、K値:90)とを、質量比25:62:13になるように混合物を調製した。なお、γ−ブチロラクトンは、ポリフッ化ビニリデンに対する貧溶剤である。
上記混合物を95℃の恒温下で溶解タンク内にて溶解して得られた製膜原液を、混練した後に、図2に示すような、外径1.6mm、内径0.8mmの二重環構造のノズル(中空糸膜形成用ノズル)から押し出した。このとき、内部凝固液として、γ−ブチロラクトン(三菱化学株式会社製のGBL)とグリセリン(花王株式会社製の精製グリセリン)とを65℃の恒温下で質量比15:85になるように混合し、製膜原液と同時吐出した。この内部凝固液は、製膜原液とのHSP距離は、163(MPa)1/2である。
この内部凝固液とともに押し出した製膜原液を、40mmの空走距離を経て、180g/L の硫酸ナトリウム水溶液からなる60℃の外部凝固液中に浸漬させた。そうすることによって、製膜原液が固化され、中空糸膜が得られる。なお、この外部凝固液は、ポリフッ化ビニリデンに対する非溶剤である。
次いで、得られた中空糸膜を、延伸、収縮処理をした後に、洗浄した。そうすることによって、溶剤(γ−ブチロラクトン)とポリビニルピロリドン系樹脂(ポリビニルピロリドン)とが、中空糸膜から抽出除去される。その後、得られた中空糸膜を、ポリビニルピロリドンを1%過酸化水素溶液中で加熱することによって、架橋化処理(架橋不溶化処理)を施した。このときのポリビニルピロリドンの架橋体の含有量は、1.9質量%であった。
このようにして得られた中空糸膜の外径は、1.3mm、内径は0.8mmであり、膜厚が、0.25mmであった。
得られた中空糸膜の純水透過係数Kを、上記の方法によって算出したところ、4×10−15m2であった。
また、製膜原液の吐出量を変更した以外は、同様にして、膜厚を変更した複数の中空糸膜を製造し、それぞれについて純水透過係数Kを算出した。その後、図4に示すように、膜厚変化に対する純水透過係数Kの変化をプロットし、そのときの傾きを算出した。その傾きが、2.29×10−11であった。なお、図4は、実施例1における、膜厚変化に対する純水透過係数Kの変化を示すグラフである。縦軸に、純水透過係数K(m2)を示し、横軸に、膜厚(m)を示す。
また、得られた中空糸膜の分画粒子径を、以下の方法で測定した。
異なる粒子径を有する少なくとも2種類の粒子(日揮触媒化成株式会社製の、カタロイドSI−550、カタロイドSI−45P、カタロイドSI−80P等)の阻止率を測定し、その測定値を元にして、下記の近似式において、Rが90となるSの値を求め、これを分画粒子径とした。
R=100/(1−m×exp(−a×log(S)))
上記式中のaおよびmは、中空糸膜によって定まる定数であって、2種類以上の阻止率の測定値をもとに算出される。なお、限外濾過膜領域については、90%以上除去することが可能であった標準ポリエチレンオキシド(トーソー株式会社製、TSKgel)の分子量(重量平均分子量)を記載した。
この測定方法により得られた分画粒子径が、0.02μmであった。
また、この中空糸膜を用いて図3に示すような膜ろ過装置31を作製した。膜ろ過装置31に装填されている膜モジュール32は、有効膜長さ100cm、中空糸本数70本からなり、上端部33をエポキシ系樹脂で封止されている。上端部33は中空糸膜の中空部が開口しており、下端部34は中空糸膜の中空部をエポキシ系樹脂にて封止されている。この膜ろ過装置31は、導入口35を経て、中空糸膜の外周面側より、濁度1.0NTU(HACH社製:2100Qにて測定)の河川水をろ過し、上端部の内周面側にある導出口36よりろ過水を得た。設定流量2.5m/日(設定流量は(m/日)は、ろ過流量(m3/日)を中空糸膜外面積m2)で割った値)で、30分間ろ過した後、導出口36より0.2MPaエアーにて、10秒間エアー押しを行い、同時に、モジュール下部の導入口35から0.1MPaのエアーにてエアースクラビングを60秒間行い、膜の汚れを洗浄した(導入エアーの抜き口は、空気抜き口37を開けることで確保した。)。洗浄した汚れは、導入口35より抜き取り、再びろ過を開始した。本結果を図5に示す。なお、図5は、中空糸膜を用いた長期試験の結果を示したグラフである。また、図5において、本実施例1に係る中空糸膜を用いた場合は、線41で示す。この線41の結果からわかるように、上記サイクルを続けても、30日以上安定した膜間差圧で運転可能であった。また、本発明の構成を満たさない中空糸膜(参考例2)を用いた場合は、線42として、合わせて図5に示す。
これらのことから、実施例1に係る中空糸膜は、純水透過係数Kが高く、また、分画粒子径が小さい、優れた透過性能と分画特性とを実現できた。
また、実施例1に係る中空糸膜の膜構造を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製のS−3000N)を用いて確認した。その結果を、図6〜11に示す。
まず、図6は、実施例1に係る中空糸膜の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。次に、図7は、実施例1に係る中空糸膜の断面における外周面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。また、図8は、実施例1に係る中空糸膜の断面における中央部付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。また、図9は、実施例1に係る中空糸膜の断面における内周面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。具体的には、図7は、図6に示す囲み線61を拡大して示す図である。図8は、図6に示す囲み線62を拡大して示す図である。図9は、図6に示す囲み線63を拡大して示す図である。
これらの図から、外周面付近には、緻密な層状部分が形成されており、それ以外の部分は、それより疎な部分が形成されていることがわかる。具体的には、図7に示す外周面付近の写真を、画像計測ソフト(株式会社プラネトロン製のImage−Pro Plus)を用いて二値化し、大津方式で閾値を決定して算出した空隙率が34%で、閾値210で算出した空隙率が67%であった。また、図9に示す内周面付近の写真を、同様に画像計測ソフト(株式会社プラネトロン製のImage−Pro Plus)を用いて二値化し、大津方式で閾値を決定して算出した空隙率が50%で、閾値210で算出した空隙率が78%であった。
また、図10は、実施例1に係る中空糸膜の外周面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図11は、実施例1に係る中空糸膜の内周面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。これらの図からも、外周面付近には、緻密な層状部分が形成されており、それ以外の部分は、それより疎な部分が形成されていることがわかる。
[実施例2]
外部凝固液の温度(外部凝固浴温度)を70℃とし、外部凝固液として230g/Lの硫酸ナトリウム水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。得られた中空糸膜のポリビニルピロリドンの架橋体の含有量は、0.5質量%であった。この得られた中空糸膜は、実施例1と同様、優れた透過性能と分画特性とを実現できた。
[実施例3]
外部凝固液の温度(外部凝固浴温度)を50℃とし、外部凝固液として140g/Lの硫酸ナトリウム水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。得られた中空糸膜のポリビニルピロリドンの架橋体の含有量は、8.2質量%であった。この得られた中空糸膜は、実施例1と同様、優れた透過性能と分画特性とを実現できた。
[実施例4]
外部凝固液の温度(外部凝固浴温度)を80℃とし、外部凝固液として280g/Lの硫酸ナトリウム水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。得られた中空糸膜のポリビニルピロリドンの架橋体の含有量は、0.2質量%であった。この得られた中空糸膜は、実施例1と同様、優れた透過性能と分画特性とを実現できた。
[比較例1]
製膜原液の溶剤として、ジメチルアセトアミド(三菱ガス化学株式会社製のDMAc)を使用したこと以外、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。なお、DMAcは、ポリフッ化ビニリデンに対する良溶剤である。調製した製膜原液の相分離開始温度は、測定可能な最も低い温度である10℃以下であった。試験結果のとおり、製膜原液の溶剤として、ポリフッ化ビニリデンに対する良溶剤を用いた場合には、溶剤交換速度が遅くなり、透過性能が低く、充分な非対称構造が得られなかった。得られた中空糸膜のポリビニルピロリドンの架橋体の含有量は、1.8質量%であった。
[比較例2]
外部凝固液の温度を、製膜原液の相分離開始温度以下である20℃で、中空糸膜を形成させたこと以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。この製造方法は、いわゆるTIPS法による製造方法である。試験結果のとおり、相分離開始温度以下となるとTIPSによる相分離が発現し、透過性能が低く、充分な非対称構造が得られなかった。得られた中空糸膜のポリビニルピロリドンの架橋体の含有量は、1.5質量%であった。
[比較例3]
内部凝固液として、質量比でDMAc:水=30:70の混合溶剤(この時の製膜原液とのHSP距離は347(MPa)1/2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。中空糸膜の内周面が緻密な構造となり、透過性能が低く、充分な非対称構造を得られなかった。得られた中空糸膜のポリビニルピロリドンの架橋体の含有量は、2.0質量%であった。
[参考例1]
内部凝固液として、質量比でGBL:Gly=97:3の混合溶剤(この時の製膜原液とのHSP距離は0)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして行った。しかしながら、この場合であれば、中空糸の内面側が充分に凝固せず、中空糸状に成型できなかった。
[参考例2]
参考例2は、分画特性が、上記各実施例同程度であるが、原理的に傾斜構造の勾配が小さくなるTIPS法を用いて製造された中空糸膜である。このような中空糸膜は、傾斜構造の勾配が小さいため、透過係数Kだけでなく、膜厚変更時の透過係数Kの傾きも、好適な範囲のものではない、すなわち、充分な非対称構造ではないことがわかる。なお、この参考例2は、以下の製造方法で製造した中空糸膜である。
フッ化ビニリデン系樹脂としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略記することがある)(ソルベイ ソレクシス株式会社製のSOLEF6010)と、溶剤としてγ−ブチロラクトン(三菱化学株式会社製のGBL)と、無機粒子としてシリカ(日本アエロジル株式会社製のアエロジル50)と、凝集剤としてポリエチレングリコール(三洋化成工業株式会社製のPEG200)とを、質量比で34:21:25:20の割合となるように混合物を調製した。
上記混合物を二軸押出機に供給、加熱混練(温度155℃)して得られた製膜原液を外径1.6mm、内径0.8mmの二重環構造のノズルから押出した。このとき内部凝固液として、ポリビニルアルコール(PVA−205、平均重合度:500、けん化度87〜89モル%、株式会社クラレ製)とジメチルアセトアマイド(三菱ガス化学株式会社製のDMAC)とグリセリン(花王株式会社製の精製グリセリン)とを質量比で2:58.8:39.2の割合からなる155℃の混合溶液と同時に吐出し、3cmの空中走行距離を経て、20質量%の硫酸ナトリウム水溶液からなる外部凝固浴中(温度80℃)に入れ、冷却固化させた。次いで、延伸処理をした後、得られた中空糸状物を熱水洗浄し、溶剤(γ−ブチロラクトン)、凝集剤(PEG200)、注入液(DMAC、グリセリン)、過剰のポリビニルアルコールの抽出除去を行った。このとき、ポリビニルアルコールの洗浄率は70%であった。その後、ポリビニルアルコールをアセタール化し不溶性にした。続いて、水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬して無機粒子(シリカ)を抽出除去し、乾燥させた。このようにして得られた中空糸膜の外径は1.2mm、内径は0.6mmであった。
また、参考例2に係る中空糸膜の膜構造を、走査型電子顕微鏡を用いて確認した。その結果を、図12〜14に示す。
まず、図12は、参考例2に係る中空糸膜の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図13は、参考例2に係る中空糸膜の外周面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図14は、参考例2に係る中空糸膜の内周面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。これらの図からも、中空糸膜が充分な非対称構造ではないことがわかる。
以上の各実施例、比較例及び参考例2における条件や純水透過係数等を下記表2に示す。なお、相分離開始温度が低い場合には、「<10」と示す。また、中空糸膜を好適に形成できなかった場合は、ポリビニルピロリドンの架橋体の含有量、純水透過係数や分画粒子径等は、「−」と示す。また、参考例2においては、相分離等に関する事項は、「−」と示す。また、横軸に膜厚L(m)とし、縦軸に純水透過係数K(m2)としたときの傾きを、単に「傾き」と表記し、その値が小さすぎる場合は、「<0.3」と示す。また、分画粒子径は、上述したように、限外ろ過領域であれば、「0.001」と示し、この粒子径だけではなく、90%以上除去することが可能な重量平均分子量も示し、また、限外ろ過領域より大きいが、その値が小さい場合には、「<0.01」と示す。
表2と上記の記載からわかるように、実施例1〜4は、比較例1〜3と比較して、透過性能及び分画特性に優れたものであることがわかる。なお、参考例1は、好適な中空糸膜を製造できなかった。