近年、インクジェットプリンタの用途は、様々な分野へ広がっている。そして、用途の広がりに伴い、求められる印刷品質についても、様々な点で、高い精度が求められる場合が生じてきた。例えば、色に特徴があるコーポレートカラーや商標等のデザインを印刷する場合等に、予め指定された特定の色での印刷を高い精度で行うことが求められる場合がある。また、このような印刷を行う場合等において、更に、被印刷面の地の色のバラツキが大きな媒体を用い、かつ、印刷後の状態を特定の色に揃えることが求められる場合もある。
これに対し、例えば、従来の通常のインクジェットプリンタにようにCMYKインクを用いて印刷を行う場合、CMYKインクのそれぞれの吐出量を調整することにより、印刷後の色の調整を行えばよいようにも考えられる。しかし、CMYKインクを用いてカラー印刷を行う場合、お互いの色差が大きいCMYKインクの各色のインクの合成により様々な色を表現することになる。そのため、所望の特定の色に対し、高精度の色差の調整を行おうとしても、十分な精度での調整が行えないおそれがある。
また、CMYKインクを用いてカラー印刷を行う場合、印刷がされた領域を拡大して観察すると、所望の特定の色ではなく、CMYKインクの各色のインクのドットが並ぶ状態が観察されることとなる。そのため、近接した位置から観察した場合、所望の特定の色で印刷がされていないとの印象が生じるおそれがある。
更に、インクジェットプリンタにおいては、インクジェットヘッドの主走査動作(スキャン動作)の往路及び復路の両方において印刷を行うことが広く行われている。そして、この場合において、CMYKインクを用いてカラー印刷を行うと、インクジェットヘッドの往路において印刷がされた領域と、復路において印刷がされた領域との間で、各色のインクのドットが重なる順番が相違することとなる。また、その結果、観察される色についても、わずかに差が生じる場合もある。そのため、これらの点でも、CMYKインクを用いてカラー印刷を行う場合、高精度の色差の調整について、十分な精度での調整が行えないおそれがある。
また、このような色の調整に関する問題点は、被印刷面の地の色のバラツキが大きな媒体に対して印刷を行う場合に特に生じやすい。そして、被印刷面の地の色の影響を抑えるためには、例えば、多量のインクや、濃度の高いインク等を用い、媒体の被印刷領域を完全にインクで覆うように印刷を行うことにより、媒体の地の色の影響が生じないようにすることも考えられる。
しかし、印刷の目的によっては、媒体の被印刷面の風合いを生かすことが求められる場合がある。例えば、天然物の加工品等を媒体を用いる場合、天然物の風合いを生かした印刷を行うことが求められる場合がある。そのため、このような方法では、媒体の被印刷面の風合いが完全に隠されてしまい、所望の品質の印刷を行うことが困難になる。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる印刷装置及び印刷方法を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
(構成1)媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷装置であって、印刷により表現すべき色として予め設定された色である表現色と同系統の色である第1の色のインクのインク滴を吐出する第1インクジェットヘッドと、表現色と同系統の色であり、かつ、第1の色とは異なる第2の色のインクのインク滴を吐出する第2インクジェットヘッドと、第1インクジェット及び第2インクジェットヘッドのそれぞれによるインク滴の吐出を制御する制御部とを備え、制御部は、第1インクジェットヘッドにより第1の色のインクを媒体上へ吐出する吐出量と、第2インクジェットヘッドにより第2の色のインクを媒体上へ吐出する吐出量との比率を、予め算出された吐出比率に設定することにより、第1インクジェットヘッド及び第2インクジェットヘッドに、媒体上へ、表現色による印刷を行わせる。
このように構成した場合、例えば、互いに異なる第1の色、及び第2の色のインクを用いることにより、媒体上に印刷される色の調整を適切に行うことができる。また、第1インクジェットと第2インクジェットとの吐出比率について、例えば、媒体の色やテスト印刷の結果に基づいて予め算出した吐出比率に設定することにより、媒体上に印刷される色について、所望の表現色と適切に合わせることができる。
更には、所望の表現色と同系統の第1の色、及び第2の色のインクを用いることにより、例えば、CMYKインクのように全く異なる系統の複数色のインクを用いる場合と比べ、媒体上に印刷される色の調整をより高い精度で適切に行うことができる。そのため、このように構成すれば、例えば、所望の表現色による印刷を、高い精度で適切に行うことができる。
また、この場合、例えば、様々な色や風合いの媒体を用いる場合であっても、媒体の色や風合いに合わせて、媒体上の色を適切に調整することができる。また、これにより、例えば、媒体の色や風合いを生かした印刷を適切に行うことができる。
また、この場合、もともと表現色と近い色のインクを用いているため、例えば印刷がされた領域を拡大して観察したとしても、他の色のインクのドットが並んでいる印象は生じにくい。そのため、近接した位置から観察した場合であっても、表現色で適切に印刷がされているという印象を与えることができる。
また、このように構成した場合、第1の色と、第2の色とが近いため、例えばインクのドットが重なる順番が異なっても、観察される色への影響は小さくなる。そのため、例えば主走査動作(スキャン動作)の往路及び復路の両方において印刷を行ったとしても、観察される色に生じる影響を適切に抑えることができる。更に、第1の色と、第2の色とが近い場合、例えば媒体上でそれぞれのインクが混ざったとしても、滲んだ印象等は生じにくい。また、その結果、例えば、インクのドットを十分に平坦化(平滑化)したとしても、滲みの問題は生じにくい。そのため、このように構成すれば、例えば、インクのドットを十分に平坦化して、光沢感のある印刷を適切に行うこと等も可能となる。
尚、この構成において、第1インクジェットヘッドによる吐出量と、第2インクジェットヘッドによる吐出量との吐出比率とは、例えば、表現色で印刷すべき領域へ吐出するインクの量の比率である。この吐出比率は、例えば、所定の領域内に形成されるインクのドットの並びについての、第1インクジェットヘッドにより形成されるドットの数と、第2インクジェットヘッドにより形成されるドットの数との比であってよい。また、第1の色、及び第2の色について、表現色と同系統の色とは、例えば、表現色とこれらの色の色差ΔEが十分に小さく、当業者が同系統と通常判断する色であることである。
(構成2)第1の色と、第2の色との間の色差ΔEは、25.0以内である。このように構成すれば、例えば、第1の色、及び第2の色として、同系統の色を適切に用いることができる。また、これにより、所望の表現色による印刷をより適切に行うことができる。
尚、この色差の上限は、例えば、細分化された系統色名で区別ができる程度の色の差であり、この程度を超えると別の色名のイメージになる程度の色差である。第1の色と、第2の色との間の上記の色差ΔEは、例えば、JIS規格(例えば、JIS D 0202、JIS E 3701、JIS Z 8102、JIS Z 9101、JIS Z 9102、JIS Z 9107の規格等)において定義されるD級許容差以内の色差であってよい。
また、第1の色と、第2の色との間の色差ΔEは、より好ましくは、13.0以内(C級許容差以内)である。この色差の上限は、例えば、JIS標準色票、マンセル色票等の1歩度に相当する色差である。また、媒体上に表現される色について、例えば特に精密な調整を行う場合、第1の色と、第2の色との間の色差ΔEについて、通常の印象レベルでは同じ色として扱える範囲である6.5以内(B級許容差以内)や、色の離間比較では、ほとんど気付かれない色差のレベルである3.2以内(A級許容差以内)とすることも考えられる。また、必要に応じて、例えば、色の隣接比較で、わずかに色差が感じられるレベルである1.6以内(AA級許容差以内)とすること等も考えられる。これらの場合も、第1の色、及び第2の色として、同系統の色を適切に用いることができる。また、これにより、所望の表現色による印刷をより適切に行うことができる。
(構成3)第1の色と、第2の色との間の色差ΔEは、0.8以上である。このように構成すれば、例えば、第1の色のインク、及び、第2の色のインクとして、色の異なるインクを適切に用いることができる。また、これにより、例えば、媒体上に印刷される色について、所望の表現色への調整をより適切に行うことができる。
尚、この色差の下限は、例えば、目視判定の再現性からみて厳格な許容色差の規格を設定できる限界の色差(AAA級許容差)である。また、第1の色と、第2の色との間の色差ΔEは、例えば、表現色に対して許容される色差や、印刷された色に対して必要な調整の範囲等に応じた範囲とすることが好ましい。
例えば、印刷された色に対してある程度以上の調整を行う場合、第1の色と、第2の色との間の色差ΔEは、1.6以上とすることが好ましい。また、必要に応じて、第1の色と、第2の色との間の色差ΔEは、3.2以上や、6.5以上としてもよい。また、印刷の目的によっては、第1の色と、第2の色との間の色差ΔEを、例えば13.0以上とすることも考えられる。
(構成4)表現色と同系統の色であり、かつ、第1の色及び第2の色とは異なる第3の色のインクのインク滴を吐出する第3インクジェットヘッドを更に備える。このように構成すれば、例えば、媒体上に印刷される色について、所望の表現色への調整をより適切に行うことができる。
(構成5)媒体の色、又は媒体上に印刷された色の少なくともいずれかを検知する色検知センサを更に備え、吐出比率は、色検知センサにより検知した媒体の色、又は媒体上に印刷された色の少なくともいずれかに基づいて算出される。このように構成すれば、例えば、媒体上に印刷される色の調整をより適切に行うことができる。また、これにより、所望の表現色による印刷をより適切に行うことができる。
(構成6)色検知センサにより、印刷装置上における媒体の位置を更に検知する。このように構成すれば、例えば、媒体の位置検出用のセンサと、色検知センサとを、適切に兼用できる。また、これにより、印刷装置のコストを適切に低減できる。
(構成7)媒体は、被印刷面の色合いが、天然物の元の色を反映した色合いになっている媒体である。この媒体は、例えば被印刷面に天然物の風合いを残した天然物の加工品等であってよい。また、印刷装置は、例えば、媒体の被印刷領域を完全にインクで覆うことなく、媒体の被印刷面の風合いを反映した状態で印刷を行う。
媒体上にインクジェット方式で印刷を行う場合、媒体上に印刷された色は、通常、インクの色と、媒体の色とが合成された色となる。そのため、媒体の被印刷面の色合いが、天然物の元の色を反映した色合いになっている場合、被印刷面の色のバラツキが大きくなる結果、同じ色のインクで印刷を行っても、通常、媒体上に印刷された色のバラツキが大きくなる。
これに対し、このように構成すれば、例えば、媒体の被印刷面の色のバラツキに応じて、媒体上に印刷される色の調整を適切に行うことができる。また、これにより、所望の表現色による印刷をより適切に行うことができる。
(構成8)媒体は、天然皮革の加工品である。このような場合、被印刷面の色のバラツキが大きくなることが考えられる。これに対し、このように構成すれば、例えば、媒体の被印刷面の色のバラツキに応じて、媒体上に印刷される色の調整を適切に行うことができる。また、これにより、所望の表現色による印刷をより適切に行うことができる。
尚、印刷装置は、例えば、天然皮革の媒体の被印刷領域に対し、例えば離散的にインクのドットが並ぶように印刷を行う。このように構成すれば、天然皮革の風合いを生かした印刷を適切に行うことができる。また、この場合も、例えば、媒体上に印刷される色の調整を適切に行うことにより、天然皮革の色と、インクの色との合成により、所望の表現色を適切に実現することができる。
(構成9)第1の色のインク、及び、第2の色のインクのそれぞれは、シアン色(C)、マゼンタ色(M)、イエロー色(Y)、及び黒色(K)のうちの2以上のインクを予め混合することで製造されたインクである。このように構成すれば、例えば、広く用いられている一般的なインクを用いて、第1の色及び第2の色のインクを適切に製造できる。また、これにより、インクのコストを適切に低減することができる。
(構成10)媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷方法であって、第1インクジェットヘッドにより、印刷により表現すべき色として予め設定された色である表現色と同系統の色である第1の色のインクのインク滴を吐出し、第2インクジェットヘッドにより、表現色と同系統の色であり、かつ、第1の色とは異なる第2の色のインクのインク滴を吐出し、かつ、第1インクジェット及び第2インクジェットヘッドのそれぞれによるインク滴の吐出を制御し、インク滴の吐出の制御において、第1インクジェットヘッドにより第1の色のインクを媒体上へ吐出する吐出量と、第2インクジェットヘッドにより第2の色のインクを媒体上へ吐出する吐出量との比率を、予め算出された吐出比率に設定することにより、第1インクジェットヘッド及び第2インクジェットヘッドに、媒体上へ、表現色による印刷を行わせる。このように構成すれば、例えば、構成1と同様の効果を得ることができる。
本発明によれば、例えば、所望の表現色による印刷を適切に行うことができる。
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置10の構成の一例を示す。図1(a)(b)は、印刷装置10の要部の構成の一例を示す正面図及び上面図である。本例において、印刷装置10は、媒体50に対してインクジェット方式で印刷を行うインクジェットプリンタであり、複数のインクジェットヘッド12a〜c、紫外線照射部14、キャリッジ16、ガイドレール18、テーブル20、センサ部22、及び制御部24を備える。また、本例において、印刷対象となる媒体50としては、例えば、被印刷面の色合いが、天然物の元の色を反映した色合いになっている媒体を用いる。より具体的に、媒体50は、例えば、天然皮革の加工品の媒体(例えば、スウェード調の皮革の媒体)である。
複数のインクジェットヘッド12a〜cは、インクジェット方式でインク滴を吐出する印刷ヘッドである。また、本例において、インクジェットヘッド12a〜cは、第1〜第3インクジェットヘッドの一例であり、印刷により表現すべき色として予め設定された色である表現色と同系統の色であり、かつ、互いの異なる色のインク滴をそれぞれ吐出する。例えば、インクジェットヘッド12aは、表現色と同系統の色である第1の色のインクのインク滴を吐出する。また、インクジェットヘッド12bは、表現色と同系統の色であり、かつ、第1の色とは異なる第2の色のインクのインク滴を吐出する。インクジェットヘッド12cは、表現色と同系統の色であり、かつ、第1の色及び第2の色とは異なる第3の色のインクのインク滴を吐出する。
ここで、表現色と同系統の色とは、例えば、表現色とこれらの色の色差ΔEが十分に小さく、当業者が同系統と通常判断する色であることである。また、第1〜第3のインクの間で、色が異なるとは、例えば、インクの製造時等に生じるバラツキ等の範囲を超えて、実質的に色が異なることである。実質的に色が異なるとは、例えば、後に詳しく説明をする色の調整を行う目的に応じた精度で、当業者にとって色が異なると判断できる状態のことである。各インクの色の違いについては、後に更に詳しく説明をする。
また、第1〜第3のインクのそれぞれは、例えば、シアン色(C)、マゼンタ色(M)、イエロー色(Y)、及び黒色(K)のうちの2以上のインクを予め混合することで製造されたインクであってよい。これらのインクは、例えば、インクカートリッジ又はインクボトル等から、インクジェットヘッド12a〜cのそれぞれへ供給される。このように構成すれば、例えば、広く用いられている一般的なインクを用いて、第1〜第3の色のインクを適切に製造できる。また、これにより、インクのコストを適切に低減することができる。
また、本例において、インクジェットヘッド12a〜cから吐出するインクとしては、例えば、ソルベントUVインクを好適に用いることができる。ソルベントUVインクとは、例えば、UVインク(紫外線硬化型インク)を有機溶剤により希釈した構成のインクである。UVインクを有機溶剤により希釈した構成とは、例えば、モノマー又はオリゴマー等を含む通常のUVインクの成分に対し、更に有機溶剤を加えた構成である。インクジェットヘッド12a〜cから吐出するインクとしては、例えば通常のUVインクや、ソルベントインク等を用いることも考えられる。
紫外線照射部14は、紫外線の光源であり、インクとしてソルベントUVインクやUVインクが用いられる場合において、媒体50上に形成されたインクのドットに紫外線を照射する。これにより、紫外線照射部14は、媒体50上のインクを硬化させる。
キャリッジ16は、複数のインクジェットヘッド12a〜c、及び紫外線照射部14を媒体50と対向させる部材である。また、本例において、キャリッジ16は、更に、センサ部22を、媒体50と対向させて保持する。
ガイドレール18は、印刷装置10において予め設定されたY方向(主走査方向)へ延伸するレール部材であり、Y方向へ移動可能にキャリッジ16を保持することにより、印刷動作時において、印刷装置10に主走査動作を行わせる。主走査動作とは、例えば、複数のインクジェットヘッド12a〜cがY方向へ移動しつつインク滴を吐出する動作である。
また、ガイドレール18は、Y方向と直交するX方向(副走査方向)へ媒体50に対して移動することにより、印刷装置10に副走査動作を行わせる。副走査動作とは、例えば、主走査動作に合間において、媒体50に対して相対的にX方向へインクジェットヘッド12a〜cが移動する動作である。副走査動作において、印刷装置10は、例えば、ガイドレール18を移動させることにより、媒体50に対して相対的にX方向へインクジェットヘッド12a〜cを移動させる。また、副走査動作において、印刷装置10は、ガイドレール18及びインクジェットヘッド12a〜cの位置を固定して、媒体50の側を移動させてもよい。この場合、印刷装置10は、例えば、テーブル20を移動させることにより、媒体50に対して相対的にX方向へインクジェットヘッド12a〜cを移動させる。
テーブル20は、媒体50を載置する台状部材である。本例において、テーブル20は、上面に媒体50を載置することにより、インクジェットヘッド12a〜cと対向させて媒体50を保持する。
センサ部22は、印刷装置10上における媒体50の位置を更に検知するセンサであり、例えばテーブル20へ向けて光を照射し、その反射光を検知することにより、テーブル20上における媒体50の位置を検知する。また、本例において、センサ部22は、色検知センサの機能を更に有しており、媒体50の位置と合わせて、媒体50の色、又は媒体50上に印刷された色の少なくともいずれかを検知する。媒体50上に印刷された色とは、例えば、インクジェットヘッド12a〜cにより吐出されたインクにより媒体50上で実際に表現されている色のことである。媒体50上で実際に表現されている色とは、例えば、場媒体50の地の色と、インクの色との合成により表現されている色である。尚、印刷装置10の構成の変形例においては、例えば、媒体50の位置を検知するセンサとは別に、色検知センサを設けてもよい。
制御部24は、例えば印刷装置10のCPUであり、印刷装置10の各部の動作を制御する。例えば、制御部24は、印刷装置10の各部の動作を制御することにより、印刷装置10に、主走査動作及び副走査動作を行わせる。これにより、印刷装置10は、媒体50の各部に対して印刷を行う。
また、本例において、制御部24は、更に、複数のインクジェットヘッド12a〜cによるインク滴の吐出量を制御することにより、媒体50上に印刷される色の調整を行う。より具体的に、制御部24は、インクジェットヘッド12a〜cのそれぞれによって媒体50へ吐出するインクの吐出量の比率を、予め算出された吐出比率に設定することにより、インクジェットヘッド12a〜cに、媒体50上へ、所望の表現色による印刷を行わせる。
ここで、インクジェットヘッド12a〜cによる吐出量の吐出比率とは、例えば、表現色で印刷すべき領域へインクジェットヘッド12a〜cのそれぞれにより吐出するインクの量の比率である。この吐出比率は、例えば、所定の領域内に形成されるインクのドットの並びについての、インクジェットヘッド12a〜cのそれぞれにより形成されるドットの数との比であってよい。
また、この吐出比率は、例えば、センサ部22により検知した媒体50の色、又は媒体50上に印刷された色の少なくともいずれかに基づいて算出される。媒体50上に印刷された色とは、例えば、予め設定されたテストパターンの印刷(テスト印刷)を行った場合に実際に媒体50上で表現される色であってよい。また、吐出比率の算出は、例えば、印刷装置10の外部のコンピュータ等で行ってもよい。また、吐出比率の算出は、例えば、印刷工程のロット毎等の、一定量の印刷を行う毎に行ってもよい。このように構成すれば、例えば、一定量の印刷の単位毎に、色の調整を適切に行うことができる。また、これにより、色の調整を効率的に行うことができる。
図1(c)は、本例の印刷装置10による印刷結果の一例を示す図であり、媒体50上に、MIMAKIという文字を印刷した状態を示す。本例においては、上記のように、媒体50の各部に対し、適切に印刷を行うことができる。また、例えば、互いに異なる第1〜第3の色のインクを用いることにより、媒体50上に印刷される色の調整を適切に行うことができる。また、インクジェットヘッド12a〜cのそれぞれにより吐出比率について、例えば、媒体50の色やテスト印刷の結果に基づいて予め算出した吐出比率に設定することにより、媒体50上に印刷される色について、所望の表現色と適切に合わせることができる。
ここで、媒体50上に印刷された色は、インクの色と、媒体50の色とが合成された色となる。そのため、本例のように、媒体50の被印刷面の色合いが、天然物の元の色を反映した色合いになっている場合、被印刷面の色のバラツキが大きくなる結果、同じ色のインクで印刷を行っても、媒体50上に印刷された色のバラツキが大きくなると考えられる。これに対し、本例によれば、例えば、媒体50の被印刷面の色のバラツキに応じて、媒体50上に印刷される色の調整を適切に行うことができる。また、これにより、所望の表現色による印刷を適切に行うことができる。
また、印刷装置10は、例えば、媒体50の被印刷領域を完全にインクで覆うことなく、被印刷面の風合いを反映した状態で印刷を行ってもよい。この場合、印刷装置10は、例えば、天然皮革の媒体50の被印刷領域に対し、例えば離散的にインクのドットが並ぶように印刷を行う。このように構成すれば、天然皮革の風合いを生かした印刷を適切に行うことができる。また、この場合も、本例によれば、例えば、媒体50の被印刷面の色のバラツキに応じて、媒体50上に印刷される色の調整を適切に行うことができる。また、これにより、天然皮革の色と、インクの色との合成によって、所望の表現色による印刷をより適切に行うことができる。
尚、上記において説明をした点を除き、印刷装置10は、公知のインクジェットプリンタと同一又は同様であってよい。例えば、用いるインクや、インクジェットヘッド12a〜cに対する制御部24の制御の一部等以外の点について、本例の印刷装置10は、ミマキエンジニアリング社製のUJF−3042型又はUJF−6042型のインクジェットプリンタと同一、又は同様の構成を有してよい。
また、印刷装置10は、印刷の動作に必要な各種構成として、公知のインクジェットプリンタと同様の構成を更に備えてよい。例えば、インクジェットヘッド12a〜cから吐出するインクとしてソルベントUVインクを用いる場合、印刷装置10は、媒体50を加熱するヒータを更に備えることが好ましい。このヒータは、例えば、テーブル20内に設けられることにより、媒体50に着弾後のインクから有機溶剤を蒸発させる。このように構成すれば、例えば、複数のインクジェットヘッド12a〜cにより形成されるインクのドットについて、滲みが発生することを適切に抑えることができる。また、これにより、例えば、媒体上に印刷される色の調整をより適切に行うことができる。
続いて、本例において行う色の調整について、更に詳しく説明をする。図2は、色の調整の詳細を説明する図である。図2(a)、(b)は、媒体50においてインクが着弾した領域を拡大した様子の一例を示す。
インクジェット方式で印刷を行う場合、図2(a)に示すように、媒体50に印刷する画像のそれぞれの画素102の位置にインクが着弾するように印刷を行う。これにより、印刷する画像に応じて、必要な画素102の位置にインクのドットが形成される。また、図1を用いて説明した印刷装置10のように、複数のインクジェットヘッド12a〜cを用いて印刷を行う場合、インクのドットが形成される画素102の位置においては、一又は複数のインクのドットが形成される。
例えば、図2(b)の左側の図は、一の画素102の位置に、インクジェットヘッド12aにより一のドット202aが形成されている様子を示す。また、図2(b)の中央の図は、一の画素102の位置に、インクジェットヘッド12a、bにより2個のドット202a、bが形成されている様子を示す。図2(b)の右側の図は、一の画素102の位置に、インクジェットヘッド12a〜cにより3個のドット202a〜cが形成されている様子を示す。
ここで、上記のように、それぞれの画素の位置に、一又は複数のインクのドットが形成されることは、例えば従来のインクジェットプリンタのように、CMYKの各色のインクを用いて印刷を行う場合も同様である。そのため、CMYKインクを用いてカラー印刷を行う場合、各画素の位置には、印刷により表現されるべき色のインクではなく、CMYKインクのドットが形成される。また、その結果、CMYKインクを用いてカラー印刷を行う場合、印刷がされた領域を拡大して観察したり、近接した位置から観察すると、所望の特定の色で印刷がされていないとの印象が生じるおそれがある。
また、インクジェットプリンタにおいては、インクジェットヘッドの主走査動作(スキャン動作)の往路及び復路の両方において印刷を行うことが広く行われている。そして、この場合において、CMYKインクを用いてカラー印刷を行うと、インクジェットヘッドの往路において印刷がされた領域と、復路において印刷がされた領域との間で、各色のインクのドットの重なる順番が相違することとなる。また、その結果、観察される色についても、わずかに差が生じる場合もある。
これに対し、図1に関連しても説明をしたように、本例において、インクジェットヘッド12a〜cは、表現色と同系統の色のインク滴を吐出する。そのため、例えば印刷がされた領域を拡大して観察したとしても、他の色のインクのドットが並んでいる印象は生じにくい。また、例えば近接した位置から観察した場合であっても、表現色で適切に印刷がされているという印象を与えることができる。更に、同系統の複数のインクを用いているため、画素102の位置で複数のインクのドットが重なる場合においても、重なる順番によって観察される色に差が生じるという問題も生じにくい。
また、本例においては、同系統の複数のインクを用いているため、例えば媒体50上でそれぞれのインクが混ざったとしても、滲んだ印象等は生じにくい。また、その結果、例えば、インクのドットを十分に平坦化(平滑化)したとしても、滲みの問題は生じにくい。そのため、本例によれば、例えば、インクのドットを適切に平坦化して、光沢感のある印刷を適切に行うこと等も可能となるこのように、本例によれば、例えば、CMYKインクを用いる場合と比べ、より適切に、所望の表現色での印刷を行うことができる。
また、図1に関連して説明をしたように、本例においては、更に、複数のインクジェットヘッド12a〜cによるインク滴の吐出量を制御することにより、媒体50上に印刷される色の調整を行う。図2(c)は、媒体50上に印刷される色の調整について説明をする図であり、インクジェットヘッド12a〜cから吐出するインクの色A1〜A3と、所望の表現色A0との色空間上の関係の一例を示す。
本例において、インクジェットヘッド12aは、第1の色のインクのインク滴として、例えば、表現色A0と同系統の色であり、かつ、表現色A0との色差がΔE1である色A1のインクのインク滴を吐出する。また、インクジェットヘッド12bは、第2の色のインクのインク滴として、例えば、表現色A0と同系統、かつ、色A1とは異なる色であり、かつ、表現色A0との色差がΔE2である色A2のインクのインク滴を吐出する。インクジェットヘッド12cは、第3の色のインクのインク滴として、例えば、表現色A0と同系統、かつ、色A1、A2とは異なる色であり、かつ、表現色A0との色差がΔE3である色A3のインクのインク滴を吐出する。
尚、色A1〜A3のインクとは、例えば、媒体50に定着した状態での色がA1〜A3になるインクであってよい。また、本例において、色A1〜A3は、色空間上で色A1〜A3を示す点により囲まれる領域内に表現色A0が入るように設定される。
また、図1に関連して説明をしたように、印刷装置10の制御部24は、複数のインクジェットヘッド12a〜cによるインク滴の吐出量を制御することにより、媒体50上に印刷される色の調整を行う。この場合、図2(c)等から分かるように、媒体50上に印刷される色は、色空間上で色A1〜A3を示す点により囲まれる領域内で調整可能となる。そのため、本例によれば、媒体50上に印刷される色を、所望の表現色A0に適切に調整できる。
ここで、異なる複数色の色のインクを用いて所望の色を表現することについては、例えばCMYKインクを用いて行うことも考えられる。しかし、この場合、CMYKインクの各色のインクの間での色差は、上記の色A1〜A3と比べて遙かに大きくなる。また、用いるインクの色と所望の表現色との間の色差も、本例と比べて大きくなる。そのため、CMYKインクを用いてカラー印刷を行う場合、高精度の色差の調整について、十分な精度での調整が行えないおそれがある。
これに対し、本例においては、所望の表現色A0と同系統の色A1〜A3のインクを用いることにより、例えば、媒体50上に印刷される色の調整をより高い精度で適切に行うことができる。そのため、本例によれば、例えば、所望の表現色による印刷を、高い精度で適切に行うことができる。
また、本例においては、このような色の調整をすることにより、印刷装置10の機種毎の特性(機差)により生じる色のバラツキについても、適切に抑えることができる。そのため、本例によれば、この点でも、所望の表現色による印刷を、高い精度で適切に行うことができる。
ここで、色A1〜A3のそれぞれの間の色差ΔE(以下、インク間色差という)は、例えば、細分化された系統色名で区別ができる程度の色の差である25.0以内とすることが好ましい。このインク間色差は、図2(c)に示すように、例えば、色A1と色A2の色差ΔE12、色A1と色A3の色差ΔE13、及び、色A2と色A3の色差ΔE23のそれぞれの色差のことである。このように構成すれば、例えば、色A1〜A3として、同系統の色を適切に用いることができる。また、これにより、所望の表現色A0による印刷をより適切に行うことができる。
尚、色A1〜A3のそれぞれと、表現色A0との間の色差についても、例えば、色間色差と同様にすることが好ましい。このように構成すれば、例えば、色A1〜A3として、表現色A0と同系統の色を適切に用いることができる。
また、インク間色差は、より好ましくは、JIS標準色票、マンセル色票等の1歩度に相当する色差である13.0以内である。このように構成すれば、例えば、所望の表現色A0による印刷をより高精度に行うことができる。また、媒体50上に表現される色について、例えば特に精密な調整を行う場合、インク間色差について、通常の印象レベルでは同じ色として扱える範囲である6.5以内や、色の離間比較では、ほとんど気付かれない色差のレベルである3.2以内とすることも考えられる。また、必要に応じて、例えば、色の隣接比較で、わずかに色差が感じられるレベルである1.6以内とすること等も考えられる。これらの場合も、例えば、色A1〜A3として、同系統の色を適切に用いることができる。また、これにより、所望の表現色A0による印刷をより適切に行うことができる。
また、インク間色差は、例えば、目視判定の再現性からみて厳格な許容色差の規格を設定できる限界の色差である0.8以上とすることが好ましい。このように構成すれば、例えば、色A1〜A3のインクとして、色の異なるインクを適切に用いることができる。また、これにより、所望の表現色への調整を適切に行うことができる。
また、インク間色差は、例えば、表現色A0に対して許容される色差や、印刷された色に対して必要な調整の範囲等に応じた範囲とすることが好ましい。例えば、印刷された色に対してある程度以上の調整を行う場合、インク間色差は、1.6以上とすることがより好ましい。また、必要に応じて、インク間色差は、3.2以上や、6.5以上としてもよい。また、印刷の目的によっては、インク間色差を、例えば13.0以上とすることも考えられる。
続いて、本例のように天然皮革の加工品等の媒体50へ印刷を行う場合に必要な処理について、更に詳しく説明をする。図3は、天然皮革の加工品等の媒体50への印刷時に行う処理の一例について説明をする図である。
インクジェット方式で印刷を行う場合、媒体50へ吐出されたインクは、通常、図3の上側に示すように、媒体50の表面上において、ドット202のようにドット状に定着する。しかし、天然皮革の加工品等の媒体50へ印刷を行う場合、このような状態でインクを定着させると、媒体50の表面からインクが剥がれやすくなるおそれもある。例えば、印刷がされた媒体50の表面にテープを貼り付け、その後にテープを剥がした場合、インクのドット202も剥がれてしまうおそれがある。
そのため、このような媒体50へ印刷を行う場合、インクをより強固に定着させるための後処理を行うことが好ましい。また、このような後処理としては、例えば、印刷後の媒体50の表面を溶剤により処理して、インクを溶解又は膨潤させ、媒体50の内部へインクを浸透させることが考えられる。また、その後、例えば、必要な撥水処理等を行うこと等も考えられる。
このように構成すれば、例えば、図3の下側に示すように、媒体50の内部にインクが浸透した浸透部204を形成することができる。また、これにより、媒体50に対してより強固にインクを定着させることができる。そのため、このような処理を行えば、例えば、天然皮革の加工品等の媒体50に対し、所望の表現色による印刷をより適切に行うことができる。
ここで、このような各種処理を行う場合、所望の表現色への調整は、例えば、インクを定着させる後処理等が完了した最終段階で表現される色についての調整とすることが好ましい。また、天然皮革の加工品等の媒体50への印刷時に行う処理については、上記に限定されず、例えば、各種の公知の前処理や後処理等を行ってもよい。
以上のように、本例によれば、例えば、媒体50に対し、所望の表現色による印刷を適切に行うことができる。また、これにより、例えば、媒体50として、例えば天然皮革の加工品等の、被印刷面の色合いが天然物の元の色を反映した色合いになっている媒体等を適切に用いること等も可能になる。
また、上記においては、表現色として1色のみを考えた場合の構成(モノカラー印刷)について説明をした。しかし、本例の構成及び方法は、例えば、2以上の色を表現色として用いる場合(マルチカラー印刷)にも適用できる。
例えば、マルチカラー印刷を行う場合、複数の表現色のそれぞれについて、同系統の色のインク滴を吐出する複数のインクジェットヘッドを用いることが考えられる。より具体的には、例えば、一の表現色に対し、この一の表現色と同系統、かつ互いに異なる色のインク滴を吐出する複数のインクジェットヘッドを備え、更に、他の表現色に対し、この他の表現色と同系統、かつ互いに異なる色のインク滴を吐出する複数のインクジェットヘッドを備える構成が考えられる。このように構成すれば、例えば、一台の印刷装置10により、複数の表現色によるマルチカラー印刷を適切に行うことができる。
また、例えば図1を用いて説明をした構成と同一又は同様の構成を有し、1色の表現色でのモノカラー印刷を行う印刷装置10を複数台用意し、かつ、それぞれの印刷装置10で印刷する表現色を異ならせることも考えられる。このように構成すれば、例えば、複数台の印刷装置10を用いた印刷システムにより、複数の表現色によるマルチカラー印刷を適切に行うことができる。
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。