図1、図5、図8は本発明の三つの実施形態に従うマイクロ流体デバイス用のマイクロチューブ10をあらわす。図4、図7、図10は基板50をあらわし、各基板50は、マイクロチューブ10のうちの対応する一つを取り付けるように構成された表面52を持つ。図面では、機能的に同等の構造を示すために一致する参照番号が使用される。
マイクロチューブ10とその基板50を備えて作られたマイクロ流体デバイスの大まかな構造と動作は、Tadigadapaらの米国特許No. 6,477,901、およびSparksらの米国特許出願公開No. 2007/0151335、2007/0157739のマイクロ流体デバイスに類似しているが、改良された、もしくはさらに追加の、製造および動作上の特徴や性能を得るために、変更が加えられている。加えて、マイクロ流体デバイスとそのマイクロチューブ10および基板50のための製造プロセスは、概して、前述のTadigadapaらとSparksらの文献、ならびに、本願と同一譲受人に譲渡されたSparksの米国特許No. 6,647,778およびSparksらの米国特許No. 7,351,603、7,381,628で教示されているプロセスと同じであってもよい。マイクロチューブの製造プロセスに関するこれらの特許の内容は引用により本明細書に組み込まれる。マイクロチューブ10は、シリコン、ドープされたシリコン、もしくは別の半導体材料、石英、ガラス、セラミック、金属(例えばチタンと鋼の合金)、プラスチック、もしくは複合材料からマイクロマシニングされることが好ましい。本明細書で使用されるマイクロマシニングとは、基板(例えばシリコンウェハ)のバルクエッチングによって、もしくは表面薄膜エッチングによって、非常に小さな素子を形成するための技術であり、後者の表面薄膜エッチングは、一般的に、基板表面上の犠牲層(例えば酸化物層)上に薄膜(例えばポリシリコンもしくは金属)を堆積し、その後、堆積された薄膜を自由にするために犠牲層の部分を選択的に除去することを含む。マイクロチューブ10(“マイクロチューブ”という用語は、好ましくは2ミリメートル未満にマイクロマシニングされた寸法をあらわす)は、その基板50上に堆積された、選ばれた材料の層から大部分が製造されてもよいし、あるいは、基板50のエッチングによって一部製造されてもよい。基板50は、シリコンもしくは別の半導体材料、石英、ガラス、セラミック、金属、もしくは複合材料から形成され得る。マイクロチューブ10が取り付けられている基板50は、微小電気機械システム(MEMS)チップと呼ばれ得るものを形成する。MEMSチップを、関連する制御回路と信号調整回路とともに適切にパッケージングすることで、幅広い用途に適したマイクロ流体デバイスが得られる。そうした用途としては、例えば薬剤注入システム、燃料電池システム、薬剤と化学物質の混合システム、およびその他多数の用途といった、流体の供給、混合、検出用途を含むが、それらに限定はされない。
図1および図4を参照すると、図1のマイクロチューブ10が、中心に位置する底部12によって基板50の表面52(図4)より上に支持されるように構成される。底部12は平面図ではほぼX字形であるようにあらわされ、これは、マイクロチューブ10とその基板50の間の物理的接続をさらに補強するのに役立つが、他の形状も予見し得る。表面52は、マイクロチューブ10全体の下にある基板50中の凹部54によって画定される。一般的にU字形、C字形、D字形、もしくはオメガ形の構成をとる従来技術のマイクロチューブとは対照的に、図1のマイクロチューブ10は底部12に対してほぼ軸対称な形状をとり、外側のリング状の周辺領域14が、四つの放射状アーム16によって底部12から支持されている。
マイクロチューブ10は連続マイクロチャネル18を画定し、これを通って、流体は底部12からマイクロチューブ10へと流れ、その後マイクロチューブ10から出る際に底部12へと戻される(“マイクロチャネル”という用語は好ましくは2ミリメートル未満にマイクロマシニングされた寸法をあらわすように使用される)。マイクロチャネル18は、周辺領域14と、その支持アーム16の各々との内部に画定され、マイクロチャネル18の四つのほぼ同一な部分は、マイクロチューブ10の四分円ループ20A、20B、20C、20Dとあらわされ得る部分に位置している。ループ20A、20B、20C、20Dの各隣接ペアにおけるマイクロチャネル18の部分は、各アーム16内の分流器22によって分離され、この分流器22は各アーム16内に二つの別個の流路を作る。さらに、各ループ20A-Dにおけるマイクロチャネル18の一部分は、底部12内に位置する流れ反転チャネル24を介してマイクロチャネル18の少なくとも一つの他の部分へと流体的に接続される。
マイクロチューブ10を通る流路は、底部12において、底部12の脚28に位置する入口ポート26から出発する。入口ポート26は基板50の中の通路56(図4)に流体的に結合している。その後、流れは底部の脚28内の入口チャネル30を通って第一のループ20A内のマイクロチャネル18へと入る。すると、第一のループ20Aと第四のループ20Dに共有されるアーム16を通る半径方向外向きの方向へと流れを変え、そして第一のループ20Aの周辺領域14内のマイクロチャネル18の部分を通るほぼ円周の方向へと向かい、最終的には第一のループ20Aと第二のループ20Bに共有されるアーム16を通る半径方向内向きの方向へと向かう。流れはその後、第一のループ20Aと第二のループ20Bの内部のマイクロチャネル18の部分を接続している流れ反転チャネル22を通って第二のループ20Bへと入り、その後、このようにしてマイクロチャネル18を通って続き、マイクロチューブ10の第二のループ20B、第三のループ20C、そして最終的には第四のループ20Dを通って流れる。マイクロチューブ10を通る流路は、底部12内において、底部12の第二の脚34に位置する出口ポート32で終了する。流れは底部の脚34内の出口チャネル36を通って第四のループ20Dから出口ポート32へと入る。出口ポート32は基板50の中の第二の通路58(図4)に流体的に結合する。マイクロチューブ10の入口ポート26と出口ポート32、ならびに基板50の入口通路56と出口通路58は、マイクロチューブ10の周辺部分14によって囲まれているので、マイクロチューブ10の周囲の内側に位置しており、入口ポートと出口ポートがマイクロチューブのループの外側に位置する従来技術のマイクロ流体デバイスよりも空間を節約できる。
マイクロチューブ10の断面は、流体にとって適切な流れ容量をもたらすように、かつ、マイクロ流体デバイスを用いて評価される目的の流体にとって適切な振動パラメーターを持つように選ぶことができる。マイクロチューブ10を製造するためにマイクロマシニング技術が利用されるため、マイクロチューブ10のサイズは極めて小さくてもよく、例えば約250 Φm2の断面積であってもよいが、それよりも小さいサイズや大きいサイズのマイクロチューブも本発明の範囲内に含まれる。マイクロチューブ10の外幅(周辺部分14の向かい合って配置された外周縁にわたって測定される)もまた、評価される特定の流体や測定される特定の特性に合うよう適合させることができ、最大で約20ミリメートルの幅が多くの用途に適している。流体の流動特性は、マイクロチャネル18内の角を図示されているものよりも鋭くしたりなだらかにしたりすることでさらに調整でき、閉じ込められた気泡を減らし気泡核形成を減らすために、通常はなだらかな角が好ましい。さらに、マイクロチャネル18を通る圧力損失を軽減するために、より多くの入口ポート26と出口ポート32を備えることによって、マイクロチューブ10を通る流量を増加させることができる。例えば、ループ20A-Dのペアが一組の入口ポート26と出口ポート32を共有でき、あるいは、個々のループ20A-Dの各々が、各自の入口ポート26と出口ポート32を備えることができる。
Tadigadapaらの文献で教示されるように、図1のマイクロチューブ10は、コリオリの力の原理を用いて、マイクロチューブ10を通って流れる流体の質量流量と密度を計測するために、共振点もしくは共振点付近で振動させることができる。コリオリの力の原理は、マイクロチューブ10を通って流れる流体の体積流量、比重、化学物質濃度、粘度、潤滑性、およびその他の特性を確認するためにも使用できる。Tadigadapaらの文献と同様に、中心底部12は動かないアンカーの役目を果たし、マイクロチューブ10は基板50の表面52に対して垂直な方向に、好ましくは共振周波数もしくは共振周波数付近で振動させられる。マイクロチューブ10のループ20A-Dが上向きに動く、振動周期の半周期の間、ループ20A-Dとその中の流体は上向きの運動量を持ち、ループ20A-Dから流出する流体は、流体がループ20A-Dから出る際に通るマイクロチューブ10のアーム16を押し上げることにより、垂直方向の運動が減衰することに対して抵抗する。その結果生じる力が、ループ20A-Dをたわませ、このたわみが、図2A、2B、3A、3Bを参照して述べるような振動モードに応じて、マイクロチューブ10の一部もしくは全体をたわませたり、あるいはねじれさせたりし得る。振動周期の後半中にマイクロチューブ10が下向きに動く際、たわみは逆方向に生じる。この反応はコリオリ効果と呼ばれ、このコリオリ効果の結果として振動周期中にマイクロチューブ10がたわむ角度は、マイクロチューブ10を通って流れる流体の質量流量に相関し得る。一方流体の密度は、共振点における振動の周波数に比例する。マイクロチャネル18内の流体の密度に加えて、マイクロチューブ10の共振周波数はその機械的設計(形状、サイズ、構造、材料)によって影響される。図1にあらわされた構成をとるマイクロチューブの場合、共振周波数は概して約2 kHzから約100 kHzの範囲である。振動の振幅は、基板50に関して下記に述べるような、マイクロチューブ10を振動させるために使用される手段を通して調整されることが好ましい。
図1のマイクロチューブ10は、前述のTadigadapaら、Sparks、Sparksらの特許文献の場合のような、単純なU字形、C字形、D字形、もしくはオメガ形の構成をとらないので、マイクロチューブ10は先行技術では不可能な振動モードが可能である。図2A、図2B、図3A、図3Bはマイクロチューブ10の考えられる共振モードの幾つかを図示する。図2Aおよび図2Bでは、二つの隣接ループが同じ方向に、かつ他の二つの隣接ループとは反対側にたわむように、マイクロチューブ10は適切な駆動素子(図4およびそれに付随する下記の考察を参照)によって振動させられる。図2Aでは、ループ20Aと20Dは互いに同じ位相であり、ループ20Bおよび20Cとは位相がずれているが、これに対し、図2Bでは、ループ20Aと20Bは互いに同じ位相であり、ループ20Cおよび20Dとは位相がずれている。図2A、図2Bの“傾斜(tipping)”モードを作り出すためにマイクロチューブ10の片側を駆動することによって、コリオリ効果がマイクロチューブ10の反対側に運動を生じさせ、その結果、共振器のQ値により検出器出力信号を増幅し、Q値の増倍効果(Q multiplication)と呼ばれる効果によって検出器出力を大きく増大させる。
図3Aでは、四つのループ20A-D全てが一致して上下にたわむようにマイクロチューブ10が駆動される様があらわされ、図3Bは、向かい合う四分円のペア(例えば20Aと20C)が同じ方向にたわむが、他の向かい合う四分円のペア(20Bと20D)のたわみとは反対にたわむように、マイクロチューブ10が駆動される様を示す。これらの振動の“ねじれ”モードでは、図2Aおよび図2Bについて上述したQ値の増倍効果は得られないが、周波数もしくはゲインの観察、あるいはマイクロチューブ10の駆動といった別の機能のために使用できる。
図4は電極を持つ基板50をあらわし、この電極により、マイクロチューブ10の所望の振動が容量的に誘導され、制御され、検出され得る。図4にあらわされた実施形態では、駆動電極60A-Bが、第一のループ20Aと第二のループ20B、および第二のループ20Bと第三のループ20Cをそれぞれつないでいるマイクロチューブ10の二つの周辺部分14の真下にある基板50の表面52上に位置し、検出電極62A-Bが、第三のループ20Cと第四のループ20DB、および第四のループ20Dと第一のループ20Aをそれぞれつないでいるマイクロチューブ10の二つの周辺部分14の真下にある基板50の表面52上に位置する。図4は、基板50が追加の電極64A-Bと66A-Bを備える様もあらわし、これらの電極は駆動電極60A-Bと検出電極62A-Bの間に位置し、好ましい実施形態では平衡電極として機能する。ドープされたシリコンなどの導電性材料から形成される場合、マイクロチューブ10は駆動電極60A-Bと検出電極62A-Bに容量的に結合され得る電極としての役目を果たすことができ、電極60A-Bがマイクロチューブ10を静電的に駆動し、電極62A-Bがマイクロチューブ10を静電的に検出することを可能にする。しかしながら、マイクロチューブは非導電性材料から形成することもでき、マイクロチューブ10の上に形成された別の電極が、マイクロチューブ10を静電的に振動させたり検出したりするために、電極60A-Bと62A-Bに面してもよいことが推測できる。マイクロチューブ10とその電極60A-B、62A-B、64A-B、66A-Bとの間の容量性ギャップは、マイクロチューブ10の下面および/または基板50の表面を適切にマイクロマシニングすることによって確立できる。小さな容量性ギャップは高い容量性出力に対応し、より低い平衡電圧が必要になる。容量性の動作方式のための高インピーダンスバッファ/増幅器は、基板50の中に組み込むか、あるいは隣接するチップもしくはボードの構成部品上に置くことができる。
マイクロチューブ10では別の駆動技術も利用でき、例えばマイクロチューブ10の上面上の圧電素子を用いて、マイクロチューブ10の面と垂直な方向にマイクロチューブ10を曲げる交番力(alternating force)をマイクロチューブ10の面内に作り出すことが含まれる。さらに他の代替手段としては、磁気的、熱的、圧電抵抗的、熱的、光学的、もしくは別の駆動技術によってマイロチューブ10を駆動させる方法がある。
検出電極62A-Bは、それに隣接するマイクロチューブ10の周辺部分14の基板50に対するたわみを検出し、駆動電極60A-Bにフィードバックを与え、任意の適切なオンチップもしくは遠隔のマイクロプロセッサもしくはマイクロコントローラー(不図示)を用いて、振動周波数を制御できるようにする。検出電極62A-Bは、容量的、静電的、磁気的、圧電的、圧電抵抗的、熱的、光学的にマイクロチューブ10の近接性や運動を検出でき、あるいはマイクロチューブ10の近接性や運動を検出可能ないかなる他の適切な方法でも検出できる。さらに、コリオリ効果の結果として生じる振動周期中のマイクロチューブ10のたわみもしくはねじれの角度は、たわみの振幅、および/または、電極62A-Bによって検出されるマイクロチューブ10の周辺部分14の異なる領域間の位相差に基づいて、検出電極62A-Bによって検出できる。
マイクロチューブ10は開ループモードもしくは閉ループモードのいずれでも使用できる。開ループ動作は非線形になりやすいので好ましい方法ではない。検出電極62A-B、平衡電極64A-B、66A-Bを用いると、リングジャイロスコープとある程度類似したやり方でマイクロチューブ10の運動を制御することができる。図1から図4の実施形態では、コリオリ効果によって質量流量を検出するために、位相ではなく振幅が使用される。駆動電極60AはDCバイアスとAC信号を用いて振動の基本共振モードを駆動するために使用され、駆動電極60Bは閉ループフィードバックとして使用される。このループのAC振幅はマイクロチューブ10を通る流量である。駆動電極60Bは90度ループで検出電極62Bをゼロにし、ここで流量が検出される。
電極64A-Bと66A-Bは、マイクロチューブ10全体にかかる処理の差、パッケージングに関する応力、及び経年劣化の影響に由来する、出力誤差とドリフトにつながる誤差とを補償するために、平衡電極として使用できる。例えば、電極64A-Bはコース平衡のために使用でき、一方電極66A-Bは平衡ループで使用できる。電極64A-Bを用いるコース平衡は、検出器チップの較正中に設定できる。電極66A-Bの平衡ループには直交制御を使用でき、この検出システムの第三の制御ループをもたらす。平衡電圧は、0度の直交誤差をゼロにして出力(null-out)するために調整される。検出電極62Bは0度における平衡直交信号のためにも使用できる。図4にあらわされた平衡電極64A-Bと66A-Bの表面積は、平衡能力を改良するために変更できる。マイクロチューブ10に対するバイアスも変更でき、例えば製造されたマイクロチューブ10のより高い割合を平衡化できるように増加してもよい。
検出器出力にゼロフロー時のオフセット誤差を生じ得る製造上もしくは材料のばらつきの結果としてマイクロチューブ10に存在するねじれを補償するために、正バイアスを電極64Aおよび/または66Aに加えることができ、かつ/あるいは負バイアスを電極64Bおよび/または66Bに加えることができる。平衡制御ループはデバイスと併せてマイクロプロセッサ/マイクロコントローラに組み込むことができ、それによって、温度や時間とともに平衡電圧を変動させるために検出電極62A-Bの出力が使用され、マイクロチューブ10のループ20A-D間のこのオフセット差を補償する。この補償によって、マイクロ流体デバイスの基本ノイズフロアを大きく改善でき、出力解像度と精度を向上させることができる。オフセット補償は二段階プロセスで実現できる。検出器の較正中、大まかな平衡化もしくは補償をもたらすために平衡電極64A-Bと66A-Bのバイアスを調整することによって、いかなるオフセット誤差やオフセット差もゼロにされる。その後平衡制御ループが利用され、平衡電極64A-Bと66A-Bのバイアスのさらなる調整を行って補償プロセスを完了し、マイクロ流体デバイスの動作中に修正できるようにする。
電極64A-Bと66A-Bは、例えば評価される流体中に気泡、固体粒子、乳液相などが存在する場合など、二相条件による減衰を補償するためにも利用できる。ゲインもしくはQ値が減少した状態が検出されると、デバイスを伴うマイクロプロセッサ/マイクロコントローラは、減衰状態の増大を引き起こした気泡、固体粒子、乳液相、もしくは他の第二相を除去し排出する目的で、マイクロチューブ10の振幅を増加させるための追加駆動電極として電極64A-Bと66A-Bを操作できる。加えて、電極64A-Bと66A-Bの第二のセットを、駆動電極60A-Bとともに、もしくはそれの代わりに、駆動電極として利用でき、あるいは検出電極62A-Bを補うために検出電極として使用できる。電極64A-Bと66A-Bが検出用に使用される場合、検出電極62A-B、64A-B、66A-Bの任意のセットが、位相差および/または振幅測定値に基づいて動作できる。例えば、マイクロチューブ10の振動モード(例えば図2A、2B、3A、もしくは3B)に応じて、振幅測定値の方法はコリオリのフロー効果が最も顕著な電極によって用いられ、一方位相差の方法は他の場所にある残りの電極によって使用され得る。
電極60A-B、62A-B、64A-B、66A-Bへの入力信号と出力信号は、基板50の縁に沿ったボンドパッド68を通して作られ、好ましくは適切な信号調整回路(不図示)を用いて、マイクロプロセッサ/マイクロコントローラーへと伝達される。電極60A-B、62A-B、64A-Bを形成するために使用されるのと同じ金属層の中に接地コンタクト70が形成されている様が示され、この接地コンタクト70により、マイクロチューブ10もしくはマイクロチューブ10上に形成された電極を駆動電極60A-Bに容量的に結合できるように、チューブの底部12が電気的に接地される。図4は、基板50がドープされた領域72を持つ様をあらわし、このドープされた領域72は、接地コンタクト70を互いにつなぎ合わせ、また、電極60A-B、62A-B、64A-B、66A-Bとそれらのボンドパッド68との間の配線用の抵抗クロスオーバー74を含む二層金属の機能を可能にする。
温度を観察するために、基板50は温度検出素子76を備えるようにあらわされる。温度検出素子76にとって適切な構造としては、電極60A-B、62A-B、64A-B、66A-Bおよびそれらに関連する導電性ランナを形成するために利用されるタイプの一つ以上の金属層を利用できる。例えば、抵抗型温度検出素子76は、公知技術に従って、白金、パラジウム、ニッケル、または別の金属もしくは合金の薄膜金属層により形成することができる。温度検出素子76により、温度変化に起因するマイクロチューブ10の機械的特性の変化およびその中の流体特性の変化は、信号調整回路を用いて補償することができる。
前述のTadigadapaら、Sparks、Sparksらの特許文献のマイクロ流体デバイスと同様に、マイクロチューブ10とその基板50を用いて製造されたMEMSチップは、マイクロ流体デバイスパッケージを形成するためにキャッピングウェハ(不図示)によって囲まれ得る。キャッピングウェハの使用により、チューブ振動の空気減衰を軽減する真空パッケージングが可能になる。パッケージおよびウェハレベルの様々な方法が真空パッケージデバイスに存在する。こうした方法としては、はんだ付けもしくは溶接による密封パッケージ、ならびに、ガラスフリット、はんだ、共晶合金、接着剤、陽極接合を用いるウェハボンディングが含まれる。キャッピングウェハ用の典型的な材料はシリコンであり、これはシリコン‐シリコン接合技術を使用できるようにする。しかしながら、金属やガラス材料を含む他の様々な材料を使用できることが推測され、ガラス材料としては硼珪酸ガラス(例えばPyrex)が含まれる。さらに、マイクロチューブ10が低レベルの音響エネルギーをMEMSパッケージに伝達する能力を考慮すれば、プラスチックも本発明のためのパッケージング材料の候補となる。信号調整回路や、マイクロプロセッサもしくはマイクロコントローラーといった、マイクロ流体デバイス用の制御回路は、キャッピングウェハ上に置くことができる。例えばこうした回路は、ASIC(特定用途向け集積回路)の形でキャッピングウェハ上に置くことができ、あるいは、キャッピングウェハを集積回路ウェハとして、その上に回路を製造することができる。
本発明の好ましい実施形態では、キャッピングウェハと基板50の間の接合が密封され、得られる容器を真空にすることで、減衰することなく高いQ値で効率的にマイクロチューブ10を駆動することができる。そのような実施形態では、キャビティ圧力を減圧して低圧を維持するのを助けるために、ゲッター材が容器内に置かれることが好ましい。密封パッケージの代案として、必要な時にポンプを使用して真空状態にできるよう、マイクロチューブ10を収容してもよい。
図5から図10は、マイクロチューブ10とそれに対応する基板50の第二と第三の実施形態をあらわす(ここでも、機能的に同等の構造を示すために一致する参照番号が使用される)。これらのマイクロチューブ10とその基板50から構成されたマイクロ流体デバイスの大まかな構造と動作は、図1から図4の実施形態のものと同様である。従って、以下の考察は図1から図4の実施形態とは異なる図5から図10に示された態様と特徴を述べるにとどまる。
図1から図4の実施形態は直列な4つのフローループを備えるマイクロチャネル18を利用するが、図5から図10の二つの実施形態は並列な二重フローループを利用する。この二重フローループの中では、マイクロチャネル18を通る流れはループ20Aと20Bを通って流れるように入口ポート26で分割され、その後出口ループ32で再度一緒になる。この結果、マイクロチャネル18を通る圧力損失がおよそ半分に軽減される。図1から図4の実施形態と同様に、図5から図10に示された二重ループのマイクロチューブ10もまた、チップ空間の効率的な利用という利点を持つため、MEMSチップ全体のサイズの縮小化が可能になる。
図5では、底部12が二つのループ20Aと20Bにまたがり、入口ポート26を含む底部12の脚28はループ20Aに囲まれ、出口ポート32を含む底部12の脚34はループ20Bに囲まれている。図5のマイクロチューブ10は、底部12の脚28と34に対して直角な軸に対してほぼ対称な形状を持つ。図8では、底部12がループ20Aと20Bの間にあり、ポート26と32、および脚28と34の両方もまたループ20Aと20Bの間にあるようになっている。図8のマイクロチューブ10もほぼ対称な形状を持つが、対称軸は底部12の脚28と34に平行である。
図5および図8の実施形態と、図1の実施形態との間にあるその他の注目すべき構造上の差は、アーム16と分流器22の位置である。図5は、アーム16内の分流器22、および、入口ポート26と出口ポート32とを分離するための底部12内の追加分流器22を利用する。図8は、底部12内の分流器22を利用して、最初に入口ポート26からの入口フローを分割し、分割された入口フローをループ20Aと20Bの両方へと向け、ループ20Aと20Bから戻ってきた流れを出口ポート28に入る前に分離し、底部12内で入口フローと出口フローを分離する。図8では、底部12とループ20A、20Bとの間の支持アーム16は、他の実施形態のものよりもかなり短くなってもよく、アーム16の延長部17は、各ループ20Aおよび20B内においてマイクロチューブ10の周辺部分14へさらなる構造的な支えをもたらす。流体の流れはアーム16で生じるが、延長部17では生じない。図5および図8にあらわされた構成をとるマイクロチューブの場合、共振周波数は概して約2 kHzから約100 kHzの範囲である。
図6A‐C、図9A‐Dは、それぞれ図5および図8のマイクロチューブ10の考えられる共振モードの幾つかを図示し、これらの共振モードは、図7および図10に示され後述されるような適切な駆動素子で誘導できる。マイクロチューブ10の第一の実施形態について図3Aで示したものと同様に、図6Aおよび図9Aでは、両ループ20Aと20Bが一致して上下にたわむようにマイクロチューブ10が駆動される様があらわされている。図6Bおよび図9Bでは、ループ20Aと20Bが反対方向にたわむ“傾斜”モードを実現するようにマイクロチューブ10が振動される。マイクロチューブ10の第一の実施形態について図3Bで示したものと同様に、図6Cおよび図9Cでは、ループ20Aと20Bは“ねじれ”を誘導するように駆動され、このモードでは、ループ20Aと20Bの筋向いの角は互いに同じ位相で、ループ20Bと20Cの他の筋向いの角とは位相がずれている。最後に、図9Dは別の振動モードをあらわし、このモードでは、各ループ20Aと20Bのそれぞれの角は互いに同じ位相であるが、ループ20Aと20Bの筋向いの角は互いに位相がずれている。
図6Cおよび図9Cのねじれモードでマイクロチューブ10を駆動することにより、基板50とそのパッケージへの伝達によって失われる音響エネルギーが非常に小さくなる。従来技術の共振検出器では、プラスチックなどの低密度もしくは低音速材料が基板材料として使用された場合、共振器のQ値とゲインが減少するのが一般的である。その結果、ステンレス鋼やガラスなどの高密度、高質量の材料がよくMEMSチップで使用されてきた。図6Cおよび図9Cのねじれ駆動モードを用いることで、共振するマイクロチューブ10と基板50からMEMSパッケージへと伝達される音響エネルギーの量を減らし、クランピング損失(clamping loss)を低下させ、従来のマイクロマシンパッケージングで典型的に使用されていたものよりも特性が劣る材料を使用することができる。例えば、シリコン、ガラス、もしくは金属の代わりにプラスチック材料を使用できることが推測される。
図7および図10はそれぞれ駆動電極60A-Bと検出電極62A-Bの位置を図示する。平衡電極(図4の64A-Bおよび66A-Bなど)が使用されてもよいが図示していない。前述の実施形態と同様に、電極60A-Bと62A-Bはそれぞれ、マイクロチューブ10を静電的かつ容量的に駆動および検出するように適合されるが、図4に関して述べたように、他の駆動手段や検出手段が利用されてもよい。図10は、駆動電極60A-Bと検出電極62A-Bを実質的に囲むリング78を画定する追加の金属ランナを含む様を示す。リング78は、デバイス出力のノイズを減らすためにマイクロ流体デバイスの出力増幅器のVrefラインにつなぐことができる。
本発明は特定の実施形態に関して説明されているが、他の形態が当業者により採用され得ることは明らかである。従って、本発明の範囲は以下の請求の範囲によってのみ限定される。