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JP2010511060A - 神経膠腫の診断及び治療方法 - Google Patents

神経膠腫の診断及び治療方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、哺乳動物の神経膠腫の診断、予後の予測、及び治療のための方法と組成物を目的とする。

Description

関連出願
この出願は、米国特許法第119条(e)に基づいて2006年11月29日に出願された米国特許出願番号第60/867761号の優先権を主張する。
発明の分野
本発明は、神経膠腫の診断、予後の予測及び治療の方法を目的とする。
発明の背景
神経膠腫は原発性脳腫瘍に最も多い種類であり、一般に重篤な予後に関連している。多形神経膠芽腫(GBM)及び未分化星状細胞腫(AA)を含む悪性度の高い星細胞腫は、成人の内因性脳腫瘍に最も多い。高悪性度の星細胞腫の分子遺伝学的理解は進歩したが、起源となる細胞種類は依然として不明確であり、疾病の病原力の分子的決定要因はよく分かっていない。これらの腫瘍の細胞起源及び分子的病変形成がもっとよく理解されれば、ほぼ一様に致死性であるこれらの腫瘍の治療の新規標的を同定することができる。
腫瘍の類別(グレード)は多くの場合正確な診断及び疾病の経過の予後予測にとって非常に重要であり、脳癌も例外ではない。数十年に亘る経験から、組織学に基づく神経膠腫の診断システムが導かれた。神経膠腫は、主にアストロサイトの形態を示すか、又はオリゴデンドログリアの形態を示すかによって組織学的に決定される。神経膠腫は、細胞性、核の非定形性、壊死、有糸分裂形、及び微小血管性増殖といった全て生物学的攻撃行動に関連する特徴によって類別される。このような診断システムは、数十年に亘る神経膠腫の臨床経験の末に開発されたもので、現在の神経腫瘍学の基礎となっている。Kleihues, P.等による、世界保健機構(「WHO」)の腫瘍の分類、Cancer 88:2887 (2000)参照。WHOによる星細胞種の分類の基本構想は、四(4)つのグレードに分けられる。悪性度の低い腫瘍はグレードI(毛様細胞性星細胞腫)及びグレードII(星状芽細胞腫)に分類され、一方それよりも悪性度の高い腫瘍はグレードIII(未分化星状細胞腫)とグレードIV(GBM)と定義される。乏突起膠腫及び混合膠腫(オリゴデンドログリア成分及びアストロサイト成分の両方を有する神経膠腫)は、悪性度の低い変異体(グレードII)と、それよりも悪性度の高い(グレードIII)変異体に生じる。
患者の予後及び治療上の決定は正確な病理学的類別に基づいて行われるため、一貫性は重要な属性である。大部分で再現性を示す一方で、現在の組織学に基づくシステムは、種類及び類別に関して神経病理学者の間で判断の実質的な相違を生じさせ得る。Louis, DN等, Am J. Pathol. 159: 779-86 (2001); Prayson RA等, J. Neurol. Sci. 175: 33-9 (2000); Coons等, Cancer 79:1381-93 (1997)。更に、類別の正確な方法は、時間の経過と共に変化する。最後に、このアプローチは、形態学(Burger, Brain Pathol. 12:257-9 (2002))、即ち分子的最終状態より生物学的最終状態に基づくため、組織学的アプローチの可能性のある新規化合物を同定する能力は限られている。様々な治療法に基づき、組織学的に同一の腫瘍に対する臨床的応答が大きく変動しうることが判明している。Mischelら、上掲;Cloughesy, TFら、Cancer 97:2381-6 (2003)。これは、病理組織学的評価が必ずしも根本的な分子生物学を明らかにしない様子を強調している。腫瘍学者が分子的に標的とする治療法に移行するとき、治療と診断両方のために、分子的に明確に規定されたサブグループの同定が益々重要になる。
マイクロアレイ分析は、同時に数千個もの個別の遺伝子の発現を評価できるため、公平で、定量的な、再現性のある腫瘍評価を行うことができるツールとして認識されている。この手法は、これまでに神経膠腫を含む多数の異なる癌に適用されている。Mischel, P.S.等, Oncogene 22: 2361-73 (2003); Kim, S.等, Mol. Cancer Ther. 1:1229-36 (2002); Ljubimova等, Cancer Res. 61: 5601-10 (2001); Nutt, CL等, Cancer Res. 63: 1602-7 (2003); Rickman, D.S.等, Cancer Res. 61: 6885-91 (2001); Sallinen, S.L.等, Cancer Res. 60: 6617-22 (2000); Shai, R.等, Oncogene 22: 4918-23 (2003)参照。組織学的評価と異なり、マイクロアレイ分析は、腫瘍に潜む遺伝的変異を同定することができ、よって腫瘍の分類と患者の予後の予測を改善させる。神経膠腫のマイクロアレイ分析を行った結果、分類されるグループの均質性が高まった。Freije等, Cancer Res. 64: 6503-6510 (2004)。更に、マイクロアレイ分析は、生存期間の予後診断手段として組織学的分類より優れた指標であることも分かっている。Freije等, 上掲。
悪性の神経膠腫の発現のプロファイリングにより、腫瘍グレードの進行、及び患者の生存に関連する遺伝子だけでなく、分子のサブタイプが同定された。GBMと星状細胞腫が引き続き組織学的な外観に基づいて定義されている一方で、発現のプロファイリングによる結果予測が組織学的特性より優れているという発見は、形態学に基づいて星状細胞腫及びGBMとして定義された腫瘍が、分子レベルを異にする細部タイプの混合を表わす場合があるという仮説を支持するものである。分子的に異なる疾病の実態は、標的とされる抗癌剤に対して異なる臨床的応答を示し得ると仮定すると、分子的に決定された腫瘍のサブセットの挙動が更に明らかとなれば、更に効果的な治療法の開発の助けとなり得る。
癌の治療及び診断の有効な細胞標的を発見する試みにより、非癌性細胞と比較して特定の種類の癌細胞に特異的に過剰発現されるポリペプチドの調査が行われている。シグナル伝達経路、細胞周期及びプログラムされた細胞死を制御するキナーゼは、細胞制御において重要である。これらの重要なキナーゼの過剰発現又は活性化変異は、細胞制御を乱し、腫瘍形成に繋がる可能性がある。全ての既知の癌遺伝子のうち20%はプロテインキナーゼである。適切なシグナル伝達経路を同定し、これらの癌遺伝子のキナーゼを特異的に阻害する薬剤を開発することが、長年に亘る癌研究の大きな目標である。高スループットスクリーニングにより、媒介的アデノシントリホスフェート結合部位との競合、基質結合の阻害、又は基質自体の修飾といった、様々な阻害モードを有する小分子が同定されている。特定の化合物が単一のキナーゼに高度に特異的であるのに対し、他の化合物は類似の結合構造により複数のキナーゼを阻害することができる(Busseら、Semin. Oncol. 28: 47-55 (2001))。例えば、チロシンキナーゼBcr−Ablは、慢性骨髄性白血病(CML)の原因として同定されている。小分子イマチニブメシル酸塩(Gleevec(TM)-Novartis Pharmaceuticals Corp、ニュージャージー州イーストハノーバー)は、CMLの治療用に最近認可されたもので、これは、シグナル伝達経路のキナーゼ成分の治療が癌の治療に有効であることを示すものである(Griffin, J. Semin. Oncol. 28: 3-8 (2001))。
時としてIGFRvIIIの変異の活性化を伴う遺伝子EGFRの増殖が、ヒトGBMの30〜50%に報告されている。Friedmanら、N. Engl. J. Med. 353: 1997-99 (2005); Nuttら、Cancer of the Nervous Sytem, 2d Ed., Ch. 59: 837-847 (2005)。他の増殖因子の変化によって誘導されるシグナル伝達のカスケードには、PDGFRα、PDGFRβ、PDGF及びc−Metレポーターの増幅及び/又は過剰発現が含まれ、このような変化は一般に、非増殖EGFRを有する神経膠腫に記述されている。Nuttら、Cancer of the Nervous System、第2編、Ch. 59: 837-847 (2005); Wullichら、Anticancer Res. 14: 577-79 (1994)。マウスモデルは、ヒト神経膠腫の組織病理学に非常に近い病巣形成を引き起こすp53又はINK4A/ARFの不活性化と協働する、神経前駆体におけるEGFR又はPDGFの発現能の、強力な証拠を提供する。Daiら、Genes Dev. 15: 1913-25 (2001); Hesselagerら、Cancer Res. 63: 4305-09 (2003); Hollandら、Genes Dev. 12: 3644-49 (1998); Shihら、Cancer Res. 64: 4783-89 (2004).
GBMには多くのゲノム変化が関連しているが、最も一般的な機能喪失型変異はPTENによるもので、これは全てのGBMの推定70〜90%で生じる。Nuttら、上掲。グレードの低い星状細胞腫では多くの場合見られないが、PTEN機能喪失は、新規に生じるGBMと、グレードの低い病変から発達したGBMの両方において頻繁に発生する。Rasheedら、Cancer Res. 57: 4187-90 (1997)。GBM症例におけるPTEN状況の予後値と共に、これらの発見[Phillipsら、Cancer Cell 9 (3): 157-173 (2006)]は、増殖及び/又は血管新生といった高度に侵襲性のグリア悪性腫瘍の特徴を増進するPI3K/Akt経路の重要性を示唆するものである。PI3キナーゼの触媒及び制御サブユニットに最近同定された遺伝子の変化は、ヒトGBMの増進におけるPI3K/Aktシグナル伝達の重要性を示す更なる証拠である。Mizoguchiら、Brain Pathol. 14: 372-77 (2004); Broderickら、Cancer Res. 64: 5048-50 (2004); Samuelsら、Science 304: 554 (2004)。更に、実験による証拠は、PTENの喪失が、自己再生する神経幹細胞のプールを増大させるものであり、且つ神経膠腫形成の間に起こる細胞周期の調節不全を暗示する現象である、増殖の恒常性制御の喪失を誘発することが示されている[Groszerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103: 111-116 (2006)]。総合すると、証拠のこのような増大は、PI3K/Aktシグナル伝達軸が、増殖因子及びそれらのレセプターの下流において関与し、神経発生及び神経膠腫形成両方の間において「主な制御因子」として機能することを示す。従って、PI3K/Aktシグナル伝達の阻害は、神経膠腫の治療において有望な方法である。
PIK3R3(p55PIK(p55γ)としても知られる)は、PI3−キナーゼ(PI3K)の制御サブユニットであり、IGFシグナル伝達経路に関連している(Ponsら、Mol. Cell Bio. 15: 4453-4465 (1995))。最初、PIK3R3は、脂肪細胞cDNAライブラリをスクリーニングすることによりマウスからクローニングされた。PIK3R3ポリペプチドは、インスリン刺激の間に新規モチーフ上でリン酸化されるチロシンであることが判明した(Ponsら、上掲)。ヒトPIK3R3は、インスリン様増殖因子レセプターI(IGFRI)の細胞内ドメインとの酵母ツーハイブリッド相互作用により、ヒトの胎児脳ライブラリからクローニングされた(Deyら、Gene 209: 175-183 (1998)。PIK3R3は、キナーゼに依存し、IGFRIと相互作用し、IGFRIを介してPI3Kの活性の別の経路を提供することが示された。Deyら、上掲。脳の発達において、PIK3R3は小脳に高レベルで発現され、プルキンエ細胞内で、IGF2のレセプターであるIGF1Rと共存する(Trejoら、J. Neurobio. 47: 39-50 (2001))。更に、IGFRIによって刺激された細胞内において、PIK3R3は、IGFRIと免疫共沈降する(Motheら、Mol. Endo. 11: 1911-1923 (1997))。高度に侵襲性のグリア癌に関連する細胞表現型の促進におけるPI3Kシグナル伝達の重要性が判明した今、PIK3R3がGBMにおいて何らかの役割を果たすかどうかの決定と、関連する治療学及び診断学の発見が重要である。
本発明者らは、IGF2を過剰発現するヒトGBMのサブセットをここに同定するものであり、これらのサブセットはEGFRを過剰発現する腫瘍と互いに排他的である。更に、IGF2がPIK3R3とIGFR1とを関連付け、且つ高度に侵襲性のヒトGBM腫瘍のサブセットの増殖の促進にIGF2−PIK3R3シグナル伝達軸を関与させることが示される。その結果、神経膠腫の診断と治療のために、IGF2−PIK3R3シグナル伝達に起因するAkt/PIK3活性化を標的とした治療が依然として必要である。
本発明は概して、神経膠腫の診断、予後の予測及び治療方法を提供する。具体的には、本発明は、腫瘍のうちの神経膠腫の重症度を診断するための代替マーカーとして、IGF2−PIK3R3の活性化を使用する方法を提供する。ある意味、本発明は、IGF2−PIK3R3シグナル伝達をアンタゴナイズすることにより神経膠腫を治療する方法を提供する。別の意味で、本発明は、神経膠腫細胞内のIGF2−PIK3R3シグナル伝達をアンタゴナイズすることによりAkt/PI3Kシグナル伝達をアンタゴナイズする方法を提供する。
一実施態様では、本発明は、神経膠腫腫瘍の増殖が少なくとも部分的にPIK3R3ポリペプチドの増殖増強効果に依存している場合に、PIK3R3ポリペプチドを発現する神経膠腫腫瘍の前記増殖を阻害する方法を目的とし、本方法では、神経膠腫腫瘍の細胞を有効量のPIK3R3アンタゴニストに接触させる。特定の態様では、神経膠腫腫瘍はEGFRポリペプチドを過剰発現しない。別の特定の態様では、神経膠腫腫瘍はIgF2ポリペプチドを過剰発現する。また別の特定の態様では、PIK3R3アンタゴニストはPIK3R3ポリペプチドをコードする核酸に結合することにより、Akt/PIK3シグナル伝達をアンタゴナイズし、よって神経膠腫細胞の増殖を阻害する。更なる特定の態様では、核酸はDNAである。更なる特定の態様では、核酸はRNAである。また別の特定の態様では、神経膠腫細胞の増殖は完全に阻害される。また別の特定の態様では、増殖の阻害により細胞の死が引き起こされる。また別の特定の態様では、PIK3R3アンタゴニストはPIK3R3 RNAiである。また別の特定の態様では、本方法は更に、神経膠腫腫瘍を、事前に、後で、又は同時に有効量のAkt及び/又はIgF2アンタゴニストに接触させることを含む。また別の特定の態様では、Aktアンタゴニストは、PIK3キナーゼの触媒ドメイン又は制御ドメインのアンタゴニストである。
別の実施態様では、本発明は、神経膠腫腫瘍がPIK3R3ポリペプチドを発現する場合に、哺乳動物の神経膠腫腫瘍を治療する方法を目的とし、本方法では、当該哺乳動物に対し、治療的有効量のPIK3R3アンタゴニストを投与する。特定の態様では、神経膠腫腫瘍はEGFRポリペプチドを過剰発現しない。特定の態様では、神経膠腫腫瘍はEGFRポリペプチドを過剰発現しない。別の特定の態様では、神経膠腫腫瘍はIgF2ポリペプチドを過剰発現する。また別の特定の態様では、PIK3R3アンタゴニストは、PIK3R3ポリペプチドをコードする核酸に結合することにより、Akt/PIK3シグナル伝達をアンタゴナイズする。また別の特定の態様では、PIK3R3アンタゴニストの投与により、神経膠腫腫瘍の増殖低下、容積の縮小又は死が引き起こされる。更なる特定の態様では、核酸はDNAである。更なる特定の態様では、核酸はRNAである。また別の特定の態様では、PIK3R3アンタゴニストはPIK3R3 RNAiである。また別の特定の態様では、本方法は更に、神経膠腫腫瘍に対し、事前に、後で、又は同時に、有効量のAkt及び/又はIgF2アンタゴニストを投与することを含む。特定の態様では、Aktアンタゴニストは、PIK3キナーゼの触媒ドメイン又は制御ドメインのアンタゴニストである。
別の実施態様では、本発明は、PIK3R3ポリペプチドを発現する哺乳動物の神経膠腫腫瘍の診断又は治療に有用な組成物を目的とし、本組成物は、有効量のPIK3R3アンタゴニストを含む。別の実施態様では、本発明は、PIK3R3ポリペプチドを発現する哺乳動物の神経膠腫腫瘍の診断又は治療のための薬物を製造するための、有効量のPIK3R3アンタゴニストの使用方法を目的とする。また別の実施態様では、本発明は、PIK3R3ポリペプチドを発現する哺乳動物の神経膠腫腫瘍の診断又は治療のための、有効量のPIK3R3アンタゴニストの使用方法を目的とする。特定の態様では、神経膠腫腫瘍はEGFRポリペプチドを過剰発現しない。別の特定の態様では、神経膠腫腫瘍はIgF2ポリペプチドを過剰発現する。また別の特定の態様では、PIK3R3アンタゴニストは、PIK3R3ポリペプチドをコードする核酸に結合することにより、Akt/PIK3シグナル伝達をアンタゴナイズする。また別の特定の態様では、PIK3R3アンタゴニストの投与により、神経膠腫腫瘍の増殖低下、容積の縮小又は死が引き起こされる。更なる特定の態様では、核酸はDNAである。更なる特定の態様では、核酸はRNAである。また別の特定の態様では、PIK3R3アンタゴニストはPIK3R3 RNAiである。また別の特定の態様では、本組成物は更に、治療的有効量のAkt及び/又はIgF2アンタゴニストを含む。特定の態様では、Aktアンタゴニストは、PIK3キナーゼの触媒ドメイン又は制御ドメインのアンタゴニストである。
また別の実施態様では、本発明は、哺乳動物における神経膠腫腫瘍の存在を診断する方法を目的とし、本方法は、(a)癌であることが予想される前記哺乳動物から採取した神経膠腫組織からなる試験試料と、(b)同じ組織を起源とする既知の正常細胞からなるコントロール試料とにおける、PIK3R3ポリペプチド、又はPIK3R3ポリペプチドをコードする核酸の発現のレベルを比較することを含み、コントロール試料よりも、試験試料におけるPIK3R3ポリペプチド又はPIK3R3ポリペプチドをコードする核酸の発現レベルの方が高い場合に、試験試料が採取された哺乳動物における神経膠腫腫瘍の存在が示される。特定の態様では、PIK3R3の発現レベルを比較する方法は、PIK3R3核酸、抗PIK3R3抗体、PIK3R3結合抗体断片、又はPIK3R3結合オリゴペプチド、PIK3R3小分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はPIK3R3 RNAiによって測定される。
また別の実施態様では、本発明は、哺乳動物の神経膠腫腫瘍の重症度を診断する方法を提供し、本方法は、(a)哺乳動物から採取した、前記神経膠腫腫瘍由来の細胞又はDNA、RNA、タンパク質又はその他遺伝子産物の抽出物からなる試験試料を、試料中のPIK3R3ポリペプチド又はPIK3R3ポリペプチドをコードする核酸に結合する試薬と接触させること、並びに(b)試験試料中における、試薬とPIK3R3コード化核酸又はPIK3R3ポリペプチドとの複合体形成量を測定することを含み、同様の組織を起源とする既知の健常試料のレベルと比較して、複合体形成のレベルが高い場合、侵襲性の腫瘍が示される。特定の態様では、PIK3R3核酸はDNAである。別の特定の態様では、PIK3R3核酸はRNAである。また別の特定の態様では、本方法は更に、神経膠腫腫瘍がEGFRポリペプチドを過剰発現しないかどうかを決定することを含む。また別の特定の態様では、本方法は更に、神経膠腫腫瘍がIgF2ポリペプチドを過剰発現するかどうかを決定することを含む。更なる特定の態様では、結合又は複合体形成の位置又は量の質的及び/又は量的な決定に有用であるように、試薬を検出可能に標識する、固体の支持体に付着させる等する。また別の特定の態様では、試薬は、抗PIK3R3抗体、PIK3R3に結合する抗体断片、又はPIK3R3結合オリゴペプチド、PIK3R3小分子、PIK3R3核酸、PIK3R3 RNAi又はアンチセンスオリゴヌクレオチドである。更なる特定の態様では、抗PIK3R3抗体はモノクローナル抗体、抗原に結合する抗体断片、キメラ抗体、ヒト化抗体又は一本鎖抗体である。
また別の実施態様では、本発明は、PIK3R3アンタゴニストのスクリーニング方法を目的とし、本方法は、(a)PIK3R3発現神経膠腫細胞に試験化合物を接触させること、及び(b)接触させた細胞のPIK3R3の発現を、接触させていないコントロール細胞と比較することを含み、接触させた細胞の発現の方が小さい場合、PIK3R3アンタゴニストであり、EGFRを過剰発現しない神経膠腫腫瘍の治療法であることが示される。
また別の実施態様では、本発明は、薬学的に許容可能な担体、賦形剤、又は安定剤と、治療的有効量の(i)PIK3R3アンタゴニストと(ii)IGF2アンタゴニストとの組み合わせに、随意で(iii)Aktアンタゴニストを組み合わせたものとを含んでなる組成物を目的とする。
また別の実施態様では、本発明は、容器及びPIK3R3アンタゴニストを具備する製造品であって、随意で更に前記容器内に収容されたAkt及び/又はIgF2アンタゴニストと、神経膠腫の治療、診断及び/又は予後の予測に使用するための指示とを備える。指示は更に、容器に貼付されるラベル、又は容器に含まれるパッケージ挿入物を含むことができる。特定の態様では、製造品は、更に、IGF2アンタゴニストと、随意でAktアンタゴニストを含む。
当業者には、本明細書を一読することにより、本発明の更に別の実施形態が明らかであろう。
一組のGBMにおけるEGFR(上方パネル)及びIGF2(下方パネル)についてのヒートマップディスプレイマイクロアレイデータである。それぞれ染色体7p及び11pにマップされる、EGFR又はIGF2に対するAffymetrix(登録商標)プローブについてZスコア正規化強度値を表す。 正常脳及びすべての原発性腫瘍について積み重ね棒グラフとして表したEGFR及びIGF2についてのAffymetrix(登録商標)強度値を表す。 グレードIII神経膠腫(●)及びGBM(○)のIGF2及びEGFRの強度値のScatterプロット線であり、EGFR-OE及びIGF2-OE例との間でオーバーラップを示さない。点線は、IGF2-OE(白色)及びEGFR-OE(濃い色)のカットオフ値に対応する。 12の選択症例においてTaqmanにより測定したEGFR及びIGF2の正規化したmRNAレベル(Rab14と関連する存在量)のグラフである。 発現値に対してEGFR CGH比を比較すると、増幅及び過剰発現間の強力な相関が示される。 発現に対するIGF2 CGH比は、見かけのゲノム獲得を示さないことを示す。結論として、図1A−Fは、EGFR-OE及びIGF2-OEがヒトGBM試料全体についてオーバーラップしていないことを示す。 図2A及び2Cは、IGF2 mRNA(A)又はセンス鎖コントロールプローブ(C)についてハイブリダイズしたTMAのホスフォイメージャースキャンを表す。図2B及び2Dは、(A)及び(C)において灰色の囲みで示す組織核の暗視野顕微写真である(バー=1mm)。図2A−Dでは、IGF2 mRNAは、33P標識のIGF2リボプローブを用いたインサイツハイブリダイゼーションによって検出した。図2E−GはEGFRポジティブ例からの組織切片であり、EGFR(E)、Ki−67(F)及びp−Akt(G)のIHCを示す。図2H−J。IGF2ポジティブ試料の例であり、IGF2(H)のISH、及びKi-67(I)及びp−Akt(J)のIHCの暗視野顕微鏡写真を示す。バー=100μm。結論として、図2A−Jは、IGF2ポジティブ腫瘍が非常に増殖的であり、p−Aktポジティブであることを示す。 コントロールニューロスフェア条件下で(上段)、20ng/mlのEGFの存在下で(中段)、又は20ng/mlのIGF2と共に(下段)生育させたG63細胞株(左パネル)である。右パネルは、急性的に分離したGBM組織から得られるニューロスフェアによって得られた類似の結果を示す。 IGF2の存在下で形成されたニューロスフェアからの細胞の増殖アッセイは、IGF2及びEGFがこれらの細胞のための等価物分裂促進因子であることを示す。 EGF由来のニューロスフェアも同様にいずれの増殖因子にも反応することを表す。 IGF1R遮断抗体(α-IR3、10μg/ml)が部分的にIGF2誘導細胞増殖を阻害することを示す(阻害はすべての示した濃度について有意である、p<0.03)。図3B−Dは3つの実験/細胞株の代表的な結果を示し、データを平均+/−S.D.として表す。結論として、図3A−Dは、IGF2が腫瘍由来のニューロスフェア成長を促すためのEGFの代わりとなりうることを示す。 PN(前神経)、Prolif(増殖性)及びMes(間充織)と示す、グレードの高い神経膠腫の3つの分子的サブタイプを表すように選択した、36の試料におけるIGF2及びEGFRの相対的な強度値を示す積み重ね棒グラフである。プロットした値は、すべての症例にわたって対応する遺伝子の平均強度に対して正規化した各腫瘍についてのEGFR又はIGF2の強度値を表す。 PIK3R3の過剰発現がPIK3R3ゲノム増加を有する症例において見られることを示す。 PCNA、TOP2A、CDK2及びSMC4L1についてのAffymetrix強度値が、PIK3R3遺伝子獲得のない例と比較してPIK3R3遺伝子獲得のある例において有意に上昇していることを示す(p<0.001、t試験、比較したすべて)。 PCNA、TOP2A、CDK2及びSMC4L1についてのAffymetrix強度値がIGF2−非過剰発現試料と比較してIGF2−OE例において有意に上昇していることを示す(p<0.05、t試験、比較したすべて)。図4B−Dにおいて表したデータは+/−SEMとして表す。結論として、図4A−DはIGF2及びPIK3R3が増殖性GBMにおいて過剰発現していることを裏付けるものである。 IGF2刺激後のG96細胞のPIK3R3免疫沈降物のウェスタンブロットである。G96細胞は、IGF2(20ng/ml、30分)、EGF(10ng/ml、30分)又は非刺激にて刺激した。ブロットは以下の抗体にて探索した:A.(上)IGF1Rキナーゼドメインに対する抗体;(下)PIK3R3に対する抗体。B.(上)ホスホ-IGF1R(PY1158/Y1162/Y1163)に対する抗体;(下)PIK3R3に対する抗体。C.(上) ホスホ-チロシンに対する抗体;(下)PIK3R3に対する抗体。結論として、図5A−Cは、IGF2が神経膠腫細胞におけるホスホ-IGF1R及びPIK3R3の間での会合を誘導することを示す。 G96(A)及びG63(B)それぞれにおけるPIK3R3ノックダウンを示すウエスタンブロット分析であり、コントロールshRNA処置細胞と比較して安定細胞株においてタンパク質レベルが減少している。shRNA2コンストラクト(アスタリスクにより示す)は、G63株の増殖研究のために選択した。 PIK3R3ノックダウン及びコントロール細胞についての代表的なニューロスフェアアッセイを表す。PIK3R3KDがG96及びG63細胞株においてEGF又はIGF2によって誘導される球(スフェア)形成及び/又は増殖を阻害することを示す。 最初のプレーティングの14日後の分離されたスフェアの生存率測定結果を表す。コントロールと比較してPIK3R3KD細胞の数の減少を示す。結果は、すべての増殖因子条件について有意であるが、IGF2刺激の条件下で最も明らかである。IGF2刺激スフェアについてのPIK3R3ノックダウンの効果の有意性は、G96ではp<0.005及びG63ではp<0.001である。EGF増殖ニューロスフェアでは、値は、G96ではp<0.005、G63ではp<0.05であり、IGF2又はEGFにさらされないスフェアでは、値は、G63ではp<0.05、G96ではP<0.01である。データは平均+/−SDとして示す。 増殖因子刺激のない条件下では、p−Aktレベルはコントロール細胞及びノックダウン細胞において同等であることを示す。IGF2(20ng/ml)刺激の下では、G96PIK3R3KD細胞におけるp−AktレベルはG96コントロール細胞と比較して視覚上減少している。結論として、図6A−Gは、PIK3R3「ノックダウン」は、神経膠腫由来のニューロスフェアのIGF2誘導増殖を阻害することを示す。 Ref Seq:NM_003629又はGenBank寄託:BC021622としても知られる、天然配列ヒトPIK3R3核酸配列(配列番号:1)を示す。開始コドン及び停止コドンは、図中の下線を付した太字で。 図7A−Bに示す核酸配列からコードされる完全長アミノ酸を含む天然配列PIK3R3ポリペプチド(配列番号:2)を示す。
好ましい実施態様の詳細な説明
I.定義
ここで使用される「PIK3R3ポリペプチド」及び「PIK3R3」という用語は、本明細書に記載の特定のポリペプチドを指す。「PIK3R3ポリペプチド」に言及する本明細書の全開示内容は、ポリペプチドの各々について個別に、且つ集合的に言及している。例えば、その調製、精製、誘導、それに対する抗体の形成、それに対するPIK3R3 RNAiの形成、それに対するPIK3R3結合小分子の形成、その投与、それを含んでなる組成物、それを用いた疾病の治療等は、本発明の各ポリペプチドに個別に関する。「PIK3R3ポリペプチド」という用語はまた、ここに記載のPIK3R3ポリペプチドの変異体を含む。「PIK3R3核酸」という用語は、PIK3R3ポリペプチド又はその断片をコードする核酸(例えば、DNA、RNA等)を指す。
「天然配列PIK3R3ポリペプチド」には、天然由来のPIK3R3ポリペプチドに対応する同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドが含まれる。このような天然配列PIK3R3ポリペプチドは、自然から単離することもできるし、組換え又は合成手段により生成することもできる。「天然配列PIK3R3ポリペプチド」という用語には、特に、特定のPIK3R3ポリペプチドの自然に生じる切断形態、自然に生じる変異形態(例えば、選択的にスプライシングされた形態)及びそのポリペプチドの自然に生じる対立遺伝子変異体、例えばPIK3R3ポリヌクレオチド配列によってコードされるものが含まれる。特定の実施態様では、天然配列PIK3R3ポリペプチドは、図8に示す完全長アミノ酸配列を含む成熟した又は完全長の天然配列ポリペプチドである。別の特定の態様では、天然配列PIK3R3ポリペプチドは、図7A−Bに示すPIK3R3ポリヌクレオチド配列によってコードされている。
「PIK3R3変異体」とは、PIK3R3ポリペプチド、好ましくは、ここに開示するような完全長天然配列PIK3R3ポリペプチド配列のいずれかと、少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性を有するここで定義するようなその活性な形態、並びに、ここに記載されるような完全長天然配列PIK3R3ポリペプチドポリペプチドの変異形態を意味する。このような変異体ポリペプチドには、例えば、完全長天然アミノ酸配列のN末端又はC末端において一又は複数のアミノ酸残基が付加、もしくは削除されたポリペプチドが含まれる。特定の態様では、このような変異体ポリペプチドは、ここに開示する完全長天然配列PIK3R3ポリペプチド配列ポリペプチドと、ここに開示する完全長天然配列PIK3R3ポリペプチドの変異形態に対して、少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、あるいは少なくとも約81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%のアミノ酸配列同一性を有している。特定の態様では、このような変異体ポリペプチドは、対応する配列天然ポリペプチと比較して、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、125、150、200、250、300又はそれ以上アミノ酸残基長が異なる。別の態様では、このような変異体ポリペプチドは、対応する天然ポリペプチド配列と比較して、一つ以下の保存的アミノ酸置換、あるいは天然ポリペプチド配列と比較して2、3、4、5、6、7、8、9、又は10以下の同類アミノ酸置換を有するにすぎない。
ここで同定したPIK3R3ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」とは、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入し、如何なる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした後の、特定のPIK3R3ポリペプチド配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウエアのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。しかし、ここでの目的のためには、%アミノ酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用することによって得られる。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック社によって作成され、米国著作権庁, ワシントンD.C., 20559に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087で登録されている。ALIGN-2プログラムはジェネンテック社、サウス サン フランシスコ, カリフォルニアから公的に入手可能である。ALIGN-2プログラムは、UNIX(登録商標)オペレーティングシステム、好ましくはデジタルUNIX(登録商標)V4.0Dでの使用のためにコンパイルされる。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され変動しない。
アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bへの、それとの、又はそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、与えられたアミノ酸配列Bへの、それとの、又はそれに対する或る程度の%アミノ酸配列同一性を持つ又は含む与えられたアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2のA及びBのプログラムアラインメントによって同一であると一致したスコアのアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なると認識されるであろう。%アミノ酸配列同一性の計算の例として、表2及び3は、「比較タンパク質」と称されるアミノ酸配列の「PIK3R3」と称されるアミノ酸配列に対する%アミノ酸配列同一性の計算方法を示し、ここで「PIK3R3」は対象の仮想PIK3R3ポリペプチドのアミノ酸配列を表し、「比較タンパク質」は対象の「PIK3R3」ポリペプチドと比較され、これに対するポリペプチドのアミノ酸配列を表し、「X」、「Y」及び「Z」は、それぞれ異なる仮定アミノ酸残基を表す。特に断らない限りは、ここで使用される全ての%アミノ酸配列同一性値は、ALIGN-2コンピュータプログラムを用いて直ぐ上の段落に記載されるようにして得られる。
「PIK3R3変異体ポリヌクレオチド」又は「PIK3R3変異体核酸配列」とは、ここで定義されるように、PIK3R3ポリペプチド、好ましくは活性PIK3R3ポリペプチドをコードし、且つここに開示する完全長天然配列PIK3R3ポリペプチド配列をコードする核酸配列か、又はここに開示する完全長PIK3R3ポリペプチド配列のその他あらゆる断片(例えば、完全長PIK3R3ポリペプチドの完全なコード化配列の一部のみを表す核酸によりコードされるもの)と、少なくとも約80%の核酸配列同一性を有する核酸分子を意味する。通常、PIK3R3変異体ポリヌクレオチドは、ここに開示する完全長天然配列PIK3R3ポリペプチド配列か、又はここに開示される完全長PIK3R3ポリペプチド配列のその他あらゆる断片をコードする核酸配列と、少なくとも約80%の核酸配列同一性、あるいは少なくとも約81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の核酸配列同一性を有している。別の態様では、PIK3R3変異体ポリヌクレオチドは、(a)ここに開示される完全長アミノ酸配列を有するPIK3R3ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、又はここに開示される完全長PIK3R3ポリペプチドアミノ酸配列のその他あらゆる特異的に画定された断片をコードするヌクレオチド配列か、或いは、(b)(a)のヌクレオチド配列の相補鎖にハイブリダイズする、単離された核酸分子を目的としている。このようなPIK3R3ポリヌクレオチド変異体は、ここに開示されるような、例えば診断プローブ、アンチセンスオリゴヌクレオチドプローブとして有用な、又は完全長PIK3R3ポリペプチドの断片をコードするために有用な、ハイブリダイゼーションプローブとしての用途を見出すことができる完全長PIK3R3ポリペプチドコード化配列の断片、又はその相補鎖とすることができる。
通常、PIK3R3変異体ポリヌクレオチドは、少なくとも約5ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約6、7、8、9、10、11、1−73、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、又は1000ヌクレオチド長であり、この文脈の「約」という用語は、表示ヌクレオチド配列長にその表示長の10%を加えるか又は減じたものを意味する。
ここに同定されるPIK3R3コード化核酸配列に対する「パーセント(%)核酸配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入し、対象のPIK3R3核酸配列のヌクレオチドと同一である候補配列中のヌクレオチドのパーセントとして定義される。パーセント核酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の知る範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウエアのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用することにより達成可能である。ここでの目的のためには、%核酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用することによって得られる。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック社によって作成され、米国著作権庁,ワシントン D.C.,20559に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087の下で登録されている。ALIGN-2プログラムはジェネンテック社、サウスサンフランシスコ、カリフォルニアから公的に入手可能である。ALIGN-2プログラムは、UNIX(登録商標)オペレーティングシステム、好ましくはデジタルUNIX(登録商標)V4.0Dでの使用のためにコンパイルされる。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され変動しない。核酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、与えられた核酸配列Cの、与えられた核酸配列Dとの、又はそれに対する%核酸配列同一性(あるいは、与えられた核酸配列Dと、又はそれに対して或る程度の%核酸配列同一性を持つ又は含む与えられた核酸配列Cと言うこともできる)は次のように計算される:
分率W/Zの100倍
ここで、Wは配列アラインメントプログラムALIGN-2のC及びDのアラインメントによって同一であると一致したスコアのヌクレオチドの数であり、ZはDの全ヌクレオチド数である。核酸配列Cの長さが核酸配列Dの長さと異なる場合、CのDに対する%核酸配列同一性は、DのCに対する%核酸配列同一性とは異なることは理解されるであろう。%核酸配列同一性の計算の例として、「PIK3R3 DNA」が対象となる仮説的PIK3R3コード化核酸配列を表し、「比較DNA」が対象となる「PIK3R3 DNA」核酸分子が比較されている核酸配列を表し、そして「N」、「L」及び「V」の各々が異なった仮想ヌクレオチドを表していて、表4及び5が「比較DNA」と称される核酸配列の「PIK3R3 DNA」と称される核酸配列に対する%核酸配列同一性の計算方法を示す。特に断らない限りは、ここでの全ての%核酸配列同一性値は、直ぐ上のパラグラフに示したようにALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られる。
他の実施形態では、PIK3R3変異体ポリヌクレオチドとは、PIK3R3ポリペプチドをコードする核酸分子であり、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション及び洗浄条件下で、ここに記載の完全長PIK3R3ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列とハイブリダイゼーションすることができる。PIK3R3変異体ポリペプチドは、PIK3R3変異体ポリヌクレオチドによってコードされているものであり得る。
「IgF2ポリペプチド」には、天然配列と、PIK3R3について上記したものと同様に定義される変異体とが含まれる。この定義に特に含まれるのは、参照配列番号NM_000612によってコードされるポリペプチド、及びその変異体であり、これはIgF1R又はIgF2Rに結合することができ、及び/又は神経膠腫細胞において、EGFRの不在下で、又はEGFRの発現が不十分な場合に、Akt−PIK3シグナル伝達を刺激することができる。
本明細書において開示される様々なPIK3R3ポリペプチドを記載するために使用される場合、「単離」とは、自然環境の成分から同定され及び分離及び/又は回収されたポリペプチドを意味する。その自然環境の汚染成分には、そのポリペプチドの診断又は治療への使用を典型的には妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。一部の好ましい実施形態では、ポリペプチドは、(1)スピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15残基のN末端あるいは内部アミノ酸配列を得るのに充分なほど、あるいは、(2)クーマシーブルー又は好ましくは銀染色を用いた非還元あるいは還元条件下で、SDS-PAGEにより均一になるまで精製される。単離されたポリペプチドには、PIK3R3ポリペプチドの自然環境の少なくとも一つの成分が存在しないため、組換え細胞内のインサイツのポリペプチドが含まれる。しかしながら、通常は、単離されたポリペプチドは少なくとも一つの精製工程により調製される。
「単離された」PIK3R3ポリペプチドコード化核酸又はその他ポリペプチドコード化核酸は、ポリペプチドをコードする核酸の天然源に通常付随している少なくとも一つの汚染核酸分子から同定され、分離されたポリペプチド又はオリゴペプチドをコードする核酸分子である。単離されたポリペプチドをコードする核酸分子は、天然に見出される形態あるいは設定以外のものである。故に、単離されたポリペプチドをコードする核酸分子は、天然の細胞中に存在する特異的なポリペプチドをコードする核酸分子とは区別される。しかし、ポリペプチドをコードする単離された核酸分子には、例えば、核酸分子が天然細胞のものとは異なった染色体位置にある、ポリペプチドを通常は発現する細胞に含まれるポリペプチドをコードする核酸分子が含まれる。
「コントロール配列」という用語は、特定の宿主生物において作用可能に結合したコード配列を発現するために必要なDNA配列を指す。例えば原核生物に好適なコントロール配列は、プロモーター、場合によってはオペレータ配列と、リボソーム結合部位を含む。真核生物の細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーを利用することが知られている。
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係にあるときに「作用可能に結合し」ている。
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は、当業者によって容易に決定され、一般的にプローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的な計算である。一般に、プローブが長くなると適切なアニーリングに必要な温度が高くなり、プローブが短くなるとそれに必要な温度は低くなる。ハイブリダイゼーションは、一般的に、相補鎖がその融点より低い環境に存在する場合に、変性DNAの再アニールする能力に依存する。プローブとハイブリダイゼーション配列の間で所望される相同性の程度が高くなればなるほど、用いることができる相対温度が高くなる。その結果、より高い相対温度は、反応条件をよりストリンジェントにすることになり、低い温度はストリンジェントを低下させることになる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーの更なる詳細及び説明については、Ausubel等, Current Protocols in Molecular Biology(Wiley Interscience Publishers, 1995)を参照のこと。
ここで定義される「ストリンジェント条件」又は「高度のストリンジェンシー条件」は、(1)洗浄に低イオン強度及び高温度を用いる、例えば、50℃で、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム;(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を用いる、例えば、42℃で、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、及び750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム;又は(3)42℃で、50%ホルムアミド、5×SSC(0.75MのNaCl、0.075Mのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%のピロリン酸ナトリウム、5×デンハード液、超音波処理サケ精子DNA(50μg/ml)、0.1%SDS、及び10%の硫酸デキストラン溶液を用い、42℃で、0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中にて洗浄、ついで55℃で、EDTAを含む0.1×SSCからなる高ストリンジェンシー洗浄を用いるものによって同定される。
「中程度のストリンジェント条件」は、Sambrook等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (New York: Cold Spring Harbor Press, 1989)に記載されているように同定され、上記のストリンジェントより低い洗浄溶液及びハイブリダイゼーション条件(例えば、温度、イオン強度及び%SDS)の使用を含む。中程度のストリンジェント条件の一例は、20%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%硫酸デキストラン、及び20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中にて37℃での終夜インキュベーション、次いで1×SSC中にて約37−50℃でのフィルターの洗浄といった条件である。当業者であれば、プローブ長などの因子に適合させる必要に応じて、どのようにして温度、イオン強度等を調節するかを認識する。
ここでの目的に対する「活性な」又は「活性」とは、天然又は天然に生じるPIK3R3ポリペプチドの生物学的及び/又は免疫学的活性を保持するPIK3R3ポリペプチドの形態を意味し、その中で、「生物学的」活性とは、天然又は天然発生PIK3R3ポリペプチドが保持する抗原性エピトープに対する抗体の生成を誘発する能力以外の、天然又は天然発生PIK3R3ポリペプチドによって引き起こされる生物機能(阻害又は刺激)を意味し、「免疫学的」活性とは、天然又は天然発生PIK3R3が保持する抗原性エピトープに対する抗体の生成を誘発する能力を意味する。ここで使用される活性なPIK3R3ポリペプチドは、神経膠腫を有さない同様の組織上のポリペプチドの発現と比較して、神経膠腫腫瘍に高いレベルで発現されるPIK3R3ポリペプチドである。別の態様では、活性なPIK3R3ポリペプチドは、IgF2が誘発するPIK3−Aktシグナル伝達に必要なPIK3R3ポリペプチドである。
「アンタゴニスト」なる用語は最も広い意味で用いられ、標的ポリペプチドの生物学的活性を部分的又は完全にブロック、阻害、又は中和する任意の分子が含まれる。「PIK3R3アンタゴニスト」は、PIK3R3の活性を部分的に又は完全にブロック、阻害又は中和することにより、Akt/PI3Kシグナル伝達を減じるあらゆる分子を含む。PIK3R3アンタゴニストの適切な例には、PIK3R3 RNAi分子、PIK3R3結合オリゴペプチド、PIK3R3結合小分子、PIK3R3アンチセンスオリゴヌクレオチド、抗PIK3R3抗体、及びそのPIK3R3結合断片等が含まれる。PIK3R3アンタゴニストを同定する方法は、PIK3R3を発現する細胞を含むPIK3R3ポリペプチドと、候補分子とを接触させ、そして通常はPIK3R3ポリペプチドに関連している一又は複数の生物学的活性(例えば、Akt/PIK3シグナル伝達)の検出可能な変化を測定することを含み得る。
「Aktアンタゴニスト」は、Aktシグナル伝達経路の生物学的活性を部分的に又は完全にブロック、阻害、又は中和する任意の分子である。適切なAktアンタゴニストには、アンタゴニスト抗体又はその抗原結合断片、Aktシグナル伝達経路の天然成分の断片又はアミノ酸配列変異体、ペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、有機小分子等が含まれる。Aktアンタゴニストを同定する方法は、Aktポリペプチドと、候補分子とを接触させること、及びAktポリペプチドに通常関連する一又は複数の生物学的活性の検出可能な変化を測定することを含み得る。更なる例示的Aktアンタゴニストは、akt1、akt2又はakt3を特異的に目的とするアンタゴニスト、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、PIK3CG、PIK3R1、PIK3R2、PIK3R4等の、PIK3キナーゼの触媒ドメイン又は制御ドメイン(互いの相互作用を含む)を目的とするアンタゴニスト、PDK1、FRAP(例えばラパマイシン)、RPS6KB1、SGK、EGFR、例えば、エルロチニブ タルセバ(登録商標)、IGFRを含む。別の態様では、Aktアンタゴニストは、PTEN、INPP5D又はINPPL1の活性をアゴナイズ、刺激又は回復する分子を含む。
「IgF2アンタゴニスト」は、IgF2ポリペプチドの生物学的活性を部分的に又は完全にブロック、阻害、又は中和する任意の分子である。適切なIgF2アンタゴニストには、抗体又はその抗原結合断片、断片又はアミノ酸断片、或いはIgF1R又はIgF2Rへの結合、及び/又はAkt−PIK3シグナル伝達軸においてIgF2が誘発するシグナル伝達を妨害するように、IgF2に結合するアミノ酸配列変異体が含まれる。IgF2アンタゴニストを同定する方法は、IgF2ポリペプチドと、候補分子とを接触させること、及びIgF2ポリペプチドに通常関連する一又は複数の生物学的活性の検出可能な変化を測定することを含み得る。
「治療する」又は「治療」又は「緩和」とは、治療上の処置及び予防的療法又は防護的療法の双方を称し、その目的は、神経膠腫の進行を防ぐか又は遅らせる(小さく)させることである。「予後を予測する」とは、神経膠腫腫瘍の予測される経過を決定すること又は予想することを意味する。「診断する」とは、神経膠腫腫瘍の際立った特徴を同定又は決定するプロセスを意味する。
治療、予後の予測又は診断を必要とする対象は、既に障害を有するものだけでなく、障害を得やすいもの、又は障害が予防されるべきものも含まれる。対象又は哺乳動物のPIK3R3ポリペプチド発現神経膠腫の「治療」は、本発明の方法によるPIK3R3アンタゴニストの治療的量の投与後、患者が、神経膠腫細胞の数の減少/消滅、腫瘍の大きさの低減、軟部組織及び骨への神経膠腫の拡散を含めた周辺器官への神経膠腫細胞の浸潤の阻害(つまり、或る程度遅らせ、好ましくは止める)、神経膠腫の転移の阻害(つまり、或る程度遅らせ、好ましくは止める)、腫瘍の増殖のある程度の抑制、及び/又は特定の癌に関連する一又は複数の症状の或る程度の軽減、罹患率及び死亡率の低下、及び生活の質の改善のうちの一又は複数において、観察可能な及び/又は測定可能な低減又は消滅を示した場合に、成功したものとみなされる。PIK3R3アンタゴニストは、既存の癌細胞の増殖を防ぐ、及び/又は同癌細胞を死滅させる範囲で、細胞分裂抑制性及び/又は細胞障害性であってよい。これらの徴候又は症状の低減は、患者にも感じられる。
疾患における成功裏の治療及び改善を評価することに関する上記のパラメータは、医師にとってよく知られている日常的手法によって容易に測定が可能である。癌治療では、有効性は、例えば、病気の進行までの時間(TTP)の算定及び/又は反応速度(RR)を確かめることによって測定できる。転移は、ステージング試験によって、骨のスキャン及び骨への広がりを確かめるためのカルシウムレベル及び他の酵素に関する試験によって確かめることができる。CTスキャンは、また、原発性腫瘍に直接隣接する領域の外側のへの広がりを探索することで行うことができる。ここに記載する発明は、PIK3R3の増幅及び発現の決定及び評価を伴う予後の予測、診断、及び/又は治療のプロセスに関する。
「慢性」投与とは、初期の治療効果(活性)を長期間にわたって維持するようにするために、急性態様とは異なり連続的な態様での薬剤の投与を意味する。「間欠」投与とは、中断無く連続的になされるのではなく、むしろ本質的に周期的になされる処理である。
癌の治療、癌の症状の緩和、又は癌の診断のための「哺乳動物」とは、哺乳動物に分類される任意の動物を意味し、ヒト、家畜用及び農場用動物、動物園、スポーツ、又はペット動物、例えばイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギ、フェレットなどを含む。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
一又は複数の更なる治療薬と「組み合わせた」投与とは、同時(同時期)及び任意の順序での連続した投与を含む。
ここで用いられる「担体」は、製薬的に許容されうる担体、賦形剤、又は安定化剤を含み、用いられる服用量及び濃度でそれらに曝露される細胞又は哺乳動物に対して非毒性である。生理学的に許容されうる担体は、水性pH緩衝溶液であることが多い。生理学的に許容されうる担体の例は、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸塩のバッファー;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;疎水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリジン;グルコース、マンノース又はデキストランを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/又は非イオン性界面活性剤、例えば、TWEEN(登録商標)、ポリエチレングリコール(PEG)、及びPLURONICS(登録商標)を含む。
「固相」又は「固体支持体」とは、本発明のPIK3R3アンタゴニストが接着又は付着できる非水性マトリクスを意味する。ここに包含される固相の例は、部分的又は全体的にガラス(例えば、径の調整されたガラス)、ポリサッカリド(例えばアガロース)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール及びシリコーンで形成されたものを含む。或る実施形態では、前後関係に応じて、固相はアッセイ用プレートのウェル;その他では精製用カラム(例えばアフィニティクロマトグラフィーカラム)を含むことができる。また、この用語は、米国特許第4275149号に記載されたような別々の粒子の不連続な固相も含む。
「リポソーム」は、哺乳動物へのRNAiの送達に有用な、脂質、リン脂質及び/又は界面活性剤を含む種々のタイプの小胞体である。リポソームの成分は、通常は細胞膜の脂質配向に類似した2層構造に配列される。
ここで定義されている「小」分子又は「小」有機分子とは、約500ダルトン未満の分子量である。
PIK3R3アンタゴニストの「有効量」とは、少なくとも、特に述べた目的を実施するために十分な量のことである。「有効量」は、述べられた目的に関連して、力価測定により、経験的及び常套的に決定することができる。例えば、神経膠腫腫瘍の増殖を阻害するPIK3R3アンタゴニストの有効量は、少なくとも、腫瘍の体積増加又は進行の低減を達成するのに必要な最小濃度である。
「治療的有効量」という用語は、少なくとも、患者又は哺乳動物の疾患又は疾病を「治療」するのに効果的なPIK3R3アンタゴニストm他派その他薬剤の量を指す。神経膠腫の場合、薬剤の治療的に有効量は、神経膠腫細胞の数を減じ;腫瘍の大きさを減じ;末梢器官への癌細胞の浸潤を阻害(すなわち、ある程度まで減速、好ましくは停止)し;腫瘍転移を阻害(すなわち、ある程度まで減速及び好ましくは停止)し;腫瘍成長をある程度まで阻害し;及び/又は癌に関連する一又は複数の症状をある程度まで緩和する。「治療する」のここでの定義を参照せよ。薬剤が既存の癌細胞の成長を妨げ及び/又は死滅させる程度まで、それは、細胞分裂停止及び/又は細胞障害性であり得る。
PIK3R3アンタゴニストの「増殖阻害量」は、細胞、特に腫瘍、例えば癌細胞の増殖をインビトロ又はインビボで阻害できる量である。腫瘍性細胞成長の阻害の目的のためのこのような「増殖阻害量」は、経験的及び常套的な形で決定することができる。
PIK3R3アンタゴニストの「細胞障害性量」は、細胞、特に腫瘍、例えば癌細胞をインビトロ又はインビボで破壊できる量である。腫瘍性細胞増殖の阻害の目的のためのこのような「細胞障害性量」は、経験的及び常套的な形で決定することができる。
「干渉RNA」又はRNAiとは、標的遺伝子の発現を低減する10〜50ヌクレオチド長のRNAであり、鎖の部分の相補性が十分である(例えば、標的遺伝子に対して少なくとも80%の同一性を有する)。RNA干渉の方法は、転写後のレベル(例えば翻訳)に起こる標的に特異的な遺伝子発現の抑制に関し、遺伝子発現のRNA媒介性の阻害の転写後及び転写メカニズムの全てを含み、その例はP.D. Zamore, Science 296: 1265 (2002)及びHannan and Rossi, Nature 431: 371-378 (2004)に記載されている。本明細書で使用する場合、RNAiは、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、及び/又はミクロRNA(miRNA)の形態でありうる。
このようなRNAi分子は、完全に又は部分的に相補的なRNA鎖の形態で発現されうる二本鎖RNA複合体であることが多い。二本鎖RNA複合体の設計方法は従来技術に周知である。例えば、適切なshRNA及びsiRNAの設計及び合成についての記載を、Sandyら、BioTechniques 39: 215-224 (2005)に見出すことができる。
「低分子干渉RNA」又はsiRNAは、標的遺伝子の発現を低減する10〜50ヌクレオチド長の二本鎖RNA(dsRNA)二本鎖であり、第1鎖は十分に相補的な部分を有している(例えば、標的遺伝子に対し、少なくとも80%の同一性を有する)。siRNAは、インターフェロン合成の増大、非特異的なタンパク質合成の阻害及び哺乳動物の細胞におけるRNAiの使用に関する細胞の自殺及び死に至ることが多い、RNA調節解除を特徴とする抗ウイルス応答を回避するために特異的に設計されている。Paddison etら、Proc Natl Acad Sci USA 99(3):1443-8. (2002)。
「ヘアピン」という用語は、7〜20ヌクレオチドのループ状のRNA構造を指す。
「低分子ヘアピン型RNA」又はshRNAは、標的遺伝子の発現を低減するヘアピンターンを特徴とする10〜50ヌクレオチド長の一本鎖RNAであり、RNA鎖は十分に相補的な部分を有する(例えば、標的遺伝子に対して少なくとも80%の同一性を有する)。
「ステムループ」という用語は、対にならない短いループとなる二重螺旋を形成し、棒つきキャンディー状の構造を提供する、同じ分子の塩基対の二つの領域の組み合わせを意味する。
「ミクロRNA」(以前はstRNAとして知られていたもの)は、「ステムループ」構造を特徴とするプレmiRNAとして最初に転写される、約10〜70ヌクレオチド長の一本鎖RNAであり、このRNAは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)により更に処理された後、次いで成熟miRNAに加工される。
「PIK3R3干渉RNA」又は「PIK3R3 RNAi」は、好ましくは特異的に、PIK3R3核酸に結合してその発現を減じる。これは、RNAiが存在しないコントロールにおけるPIK3R3分子の発現と比べてRNAiの存在下ではPIK3R3分子の発現が小さいことを意味する。PIK3R3 RNAiは、既知の方法を使用して同定及び合成することができる(Shi Y., Trends in Genetics 19(1):9-12 (2003)、国際公開2003056012号、国際公開2003064621号、国際公開2001/075164号、国際公開2002/044321号)。
「PIK3R3オリゴペプチド」は、レセプター、リガンド又はシグナル伝達成分をそれぞれ含む、ここで記載される様なPIK3R3ポリペプチドに好ましくは特異的に結合するオリゴペプチドである。このようなオリゴペプチドは、既知のオリゴペプチド合成方法論を用いて化学的に合成することができ、あるいは組み換え技術を用いて調製及び精製することができる。PIK3R3ポリペプチド結合オリゴペプチドは通常、少なくとも約5のアミノ酸長であり、或いは少なくとも約6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100のアミノ酸長以上である。このようなオリゴペプチドは、よく知られた技術を用いて過度の実験をすることなしに同定することができる。この点において、ポリペプチド標的に特異的に結合する能力のあるオリゴペプチドのオリゴペプチドライブラリを検索する技術は当分野でよく知られていることを注記する(例えば、米国特許第5556762号、同第5750373号、同第4708871号、同第4833092号、同第5223409号、同第5403484号、同第5571689号、同第5663143号;PCT公開第WO84/03506号、及びWO84/03564号;Geysen等, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81:3998-4002 (1984);Geysen等, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 82:178-182 (1985);Geysen等, in Synthetic Peptides as Antigens, 130-149 (1986);Geysen等, J. Immunol. Meth., 102:259-274 (1987);Schoofs等, J. Immunol., 140:611-616 (1988), Cwirla,S.E.等(1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:6378;Lowman,H.B.等 (1991) Biochemistry, 30:10832;Clackson,T.等 (1991) Nature, 352:624;Marks,J.D.等 (1991) J. Mol. Biol., 222:581;Kang,A.S.等 (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:8363、及びSmith, G.P. (1991) Current Opin. Biotechnol., 2:668参照)。
「PIK3R3小分子アンタゴニスト」又は「PIK3R3小分子」は、好ましくは特異的に、PIK3R3ポリペプチド及びPIK3R3/IgF2シグナル伝達経路を阻害する、ここに定義されるオリゴペプチド又は抗体以外の有機分子である。このようなPIK3R3/IgF2シグナル伝達の阻害は、好ましくは、PIK3R3ポリペプチドを発現する神経膠腫腫瘍細胞の増殖を阻害する。このような有機分子は、既知の方法論を用いて同定し、化学的に合成することができる(例えば、国際公開第2000/00823号及び同第2000/39585号参照)。このような有機分子の大きさは、通常、約2000ダルトン未満、或いは約1500、750、500、250又は200ダルトン未満であり、ここに記載のGDMポリペプチドに、好ましくは特異的に、結合することができ、且つ周知の技術を使用して過剰な実験をすることなく同定することができる。これに関し、ポリペプチド標的に結合できる分子について有機分子ライブラリをスクリーニングする技術は従来技術に周知である(例えば、国際公開第00/00823号及び同第00/39585号参照)。
対象の核酸、例えばPIK3R3ポリペプチドをコードする核酸に「結合する」PIK3R3アンタゴニストは、抗原を発現する細胞又は組織の標的化に診断及び/又は治療剤としてRNAiが有用であるのに十分な親和性を有する標的配列に結合するものであり、他の標的配列とは有意に交差反応しない。このような実施対応では、「非標的」配列に対するPIK3R3アンタゴニストの結合範囲は、ハイブリダイゼーションにより決定した場合、その特定の標的タンパク質に対するPIK3R3アンタゴニストの結合の約10%未満である。RNAiの結合に関して、特定の核酸への「特異的結合」、特定の核酸「に特異的に結合する」又は「に特異的な」、といった表現は、非特異的な相互作用とは測定可能な差異を有する結合を意味する。特異的結合は、例えば、通常は結合活性を有さない同様の構造を有する分子であるコントロール分子の結合と比較して分子の結合を決定することにより測定することができる。例えば、特異的結合は、標的、例えば標識していない過剰な量の標的に類似したコントロール分子との競合により決定することができる。この場合、プローブに対する標識した標的の結合が、標識していない過剰な量の標的により競合的に阻害された場合、特異的結合が示される。
「PIK3R3ポリペプチドを発現する腫瘍細胞の増殖を阻害する」PIK3R3アンタゴニスト、又は「増殖阻害性の」PIK3R3アンタゴニストは、適切なPIK3R3ポリペプチドを発現又は過剰発現する癌細胞の、測定可能な増殖阻害を引き起こすものである。好ましい増殖疎外性PIK3R3アンタゴニストは、通常はオリゴペプチド、RNAi又はその他試験される小分子による処置をしていない腫瘍細胞である適切なコントロールと比較して、20%以上、好ましくは約20〜約50%、更に好ましくは50%以上(例えば約50%〜約100%)だけ、PIK3R3を発現する腫瘍細胞の増殖を阻害する。インビボでの腫瘍細胞の増殖阻害は、後述する実験的実施例に記載するような様々な方法で決定することができる。
「アポトーシスを誘発する」PIK3R3アンタゴニストは、アネキシンVの結合、DNAの断片化、細胞収縮、小胞体の拡張、細胞断片化、及び/又は膜小胞の形成(アポトーシス体と呼ばれる)等により決定されるようなプログラム細胞死を誘発するものである。細胞は、通常、PIK3R3ポリペプチドを過剰発現しているものである。好ましくは、細胞は神経膠腫腫瘍である。アポトーシスに伴う細胞のイベントを評価するために種々の方法が利用できる。例えば、ホスファチジルセリン(PS)転位置をアネキシン結合により測定することができ;DNA断片化はDNAラダーリングにより評価することができ;DNA断片化に伴う細胞核/クロマチン凝結は低二倍体細胞の何らかの増加により評価することができる。好ましくは、アネキシン結合アッセイにおいて、PIK3R3アンタゴニストは、未処理細胞の約2〜50倍、好ましくは約5〜50倍、最も好ましくは約10〜50倍のアネキシン結合を誘発するという結果を生じるアポトーシスを誘発する。
「細胞死を誘発する」PIK3R3アンタゴニストは、生細胞を非生細胞にするものである。細胞は、PIK3R3ポリペプチドを発現するものであり、好ましくは同じ組織種類の正常細胞と比較してPIK3R3ポリペプチドを過剰発現する細胞である。好ましくは、細胞は神経膠腫癌細胞である。インビトロでの細胞死は、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)、又は相補鎖依存性細胞傷害(CDC)により誘発される細胞死を区別する相補鎖及び免疫エフェクター細胞の不在下で決定することができる。従って、細胞死のアッセイは、熱不活性化血清を用いて(つまり、相補鎖の不在下で)、且つ免疫エフェクター細胞の不在下で実行することができる。オリゴペプチド、RNAi又はその他小分子が細胞死を誘発することができるかどうかを決定するため、ヨウ化プロピジウム(PI)、トリパンブルー(Mooreら、Cytotechnology 17:1-11 (1995)参照)又は7AADの取り込みにより評価される、処理されていない細胞と比較した場合の膜完全性の喪失を評価することができる。好ましい細胞死誘発PIK3R3アンタゴニストは、BT474細胞におけるPI取り込みアッセイにおいてPI取り込みを誘発するものである。
「抗体」という用語は最も広い意味において使用され、例えば、単一の抗PIK3R3モノクローナル抗体(アゴニスト、アンタゴニスト、及び中和抗体を含む)、多エピトープ(polyepitopic)特異性を持つ抗PIK3R3抗体組成物、ポリクローナル抗体、一本鎖抗PIK3R3抗体、及び所望する生物学的又は免疫学的活性を示す限りは抗PIK3R3抗体の断片(下記を参照)を包含する。「免疫グロブリン」(Ig)という用語は、ここでの抗体と相互に置き換え可能に用いられる。
「単離された抗体」は、その自然環境の成分から同定され及び分離及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染成分は、その抗体の診断又は治療への使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質を含む。一部の好ましい実施形態では、抗体は、(1)ローリー法により決定した場合に抗体の95重量%を超えるまで、最も好ましくは99重量%を超えるまで、(2)スピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15残基のN末端あるいは内部アミノ酸配列を得るのに充分なほど、あるいは、(3)クーマシーブルー又は好ましくは銀染色を用いた非還元あるいは還元条件下で、SDS-PAGEにより均一になるまで精製される。単離された抗体には、抗体の自然環境の少なくとも一つの成分が存在しないため、組換え細胞内のインサイツの抗体が含まれる。しかしながら、通常は、単離された抗体は少なくとも一つの精製工程により調製される。
「抗体断片」は、無傷の抗体の一部、好ましくは無傷の抗体の抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例は、Fab、Fab’、F(ab')、及びFv断片;ダイアボディ(diabodies);直鎖状抗体(米国特許第5641870号、実施例2;Zapata等, Protein Eng. 8(10): 1057-1062 [1995]);単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
用語「神経膠腫」は、脳又は脊髄のグリア細胞又はそれらの前駆体から生じる腫瘍を指す。神経膠腫は、主に星状形態を示すか又は乏突起形態を示すかに基づいて組織学的に定義され、全て生物学的に侵襲性の挙動に関連する特性である細胞性、核非定型性、壊死、有糸分裂の形、及び微小血管の増殖によって類別される。星細胞腫には主に2つの種類、即ち、高悪性度と低悪性度がある。高悪性度の腫瘍は急速に増殖し、血管新生化が活発で、脳内に広がり易い。低悪性度の星細胞腫は、通常は局在性で、時間をかけてゆっくりと増殖する。低悪性度の腫瘍と比較して、高悪性度腫瘍の侵襲性は大きく、非常に集中的な治療を要し、これに関連する生存期間は短い。子供の星細胞腫の多くは低悪性度であり、成人の同腫瘍の多くは高悪性度である。これらの腫瘍は、脳及び脊髄のいずれにも発生し得る。より一般的な低悪性度の星細胞腫を幾つか挙げると、若年性毛細胞性星細胞腫(JPA)、繊維性星細胞腫、多形性黄色星状細胞腫(PXA)及びDesembryoplastic神経上皮腫瘍(DNET)である。最も一般的な2つの高悪性度の星細胞腫は、未分化星状細胞腫(AA)と多形神経膠芽腫(GBM)である。
ここで用いられる「腫瘍」は、悪性又は良性に関わらず、膠細胞由来の細胞又は膠細胞の近傍の細胞の全ての腫瘍形成細胞成長及び増殖、及び全ての前癌性及び癌性細胞及び組織を意味する。
所定のポリペプチドを「発現する」細胞は、そのような細胞に内在性であるか又は形質移入された、そのようなポリペプチドの測定可能な量を発現する細胞である。所定のポリペプチドを「発現する」神経膠腫は、そのようなポリペプチドを発現する細胞を含む神経膠腫である。そのようなポリペプチドを発現する神経膠腫細胞は、場合によって十分なレベルのそのような同ポリペプチドを産生し、よって同ポリペプチドに対するアンタゴニスト(例えば、PIK3R3、IGF2)はその成分に結合することができ、その結果治療効果を有する。一態様では、「PIK3R3を発現する神経膠腫」又は「IGF2を発現する神経膠腫」は、場合によって十分なレベルのPIK3R3遺伝子又はIGF2遺伝子をそれぞれ発現し、それによりPIK3R3 RNAi又はIGF2 RNAiがそれぞれ結合可能であるので、発現生成物の機能が抑制されて治療的効果が生まれる。所定のポリペプチド(例えば、(i)PIK3R3ポリペプチド、又は(ii)IGF2ポリペプチドそれぞれ)を「過剰発現する」癌は、同じ組織種類の非癌性細胞と比較した場合、そのようなポリペプチド(例えば、(i)そのPIK3R3ポリペプチド又はその他PIK3R3遺伝子産物、或いは(ii)そのIGF2ポリペプチド又はその他IGF2遺伝子産物それぞれ)のレベルが有意に高い。このような過剰発現は、遺伝子の増殖によって、或いは転写又は翻訳の増大によって引き起こされうる。ポリペプチドの過剰発現は、細胞中に存在するポリペプチドのレベルの上昇を評価することにより、診断アッセイ又は予後予測アッセイにおいて決定することができる(例えば、組換えDNA技術を用いて、そのようなポリペプチドをコードする単離された核酸から調製することが可能な同ポリペプチドの単離された形態に対して調製された抗体を用いた免疫組織学アッセイ、FACS分析等により)。別の態様では、又は追加的態様として、所望のポリペプチドをコードする細胞中の核酸又はmRNAのレベルの測定が、そのようなポリペプチド又はその相補鎖をコードする核酸に対応する核酸に基づくプローブを用いた蛍光インサイツハイブリダイゼーション法(FISH;1998年10月公開の国際公開第98/45479号参照)、サザンブロット法、ノーザンブロット法、又は例えば実時間定量的PCR(qRT−PCR)等のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術により可能である。当業者であれば、上記アッセイの他に、様々なインビボでのアッセイを利用することができる。例えば、患者の身体内部の細胞を、随意で放射性同位元素等の検出可能な標識により標識した抗体に曝し、患者の細胞に対する抗体の結合を、例えば外側から放射能のスキャンを行うことにより、又は事前に抗体に曝した患者から採取された組織診を分析することにより、評価することができる。
「標識」という語は、ここで用いられる場合、「標識化」抗体、オリゴペプチド又は他の小分子を作製するために、抗体、オリゴペプチド又は他の小分子に直接的又は間接的に結合させる検出可能な化合物又は組成物を意味する。標識はそれ自身によって検出可能でもよく(例えば、放射性同位体標識又は蛍光標識)、あるいは、酵素標識の場合には、検出可能な基質化合物又は組成物の化学的変換を触媒してもよい。
ここで用いられる「細胞障害性剤」という用語は、細胞の機能を阻害又は阻止し及び/又は細胞破壊を生ずる物質を指す。この用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32及びLuの放射性同位体)、化学治療薬、例えばメトトレキセート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロランブシル、ダウノルビシン又はその他インターカレート剤、酵素及びその断片、例えば核溶解性酵素、抗生物質、及び毒素、例えばその断片及び/又は変異体を含む小分子毒素又は細菌、糸状菌、植物又は動物起源の酵素的に活性な毒素、そして下記に開示する種々の抗腫瘍又は抗癌剤を含むように意図されている。他の細胞障害性薬が下記に記載されている。殺腫瘍性剤は、腫瘍細胞の破壊を引き起こす。
「有糸分裂阻害薬」は、細胞分裂中に起こる有糸分裂を部分的に又は完全に遮断、阻害又はそうでない場合そのような有糸分裂に干渉する分子を含む。そのような阻害薬の例には、テモゾロミド、BCNU、CCNU、ロムスチン、グリアデル、エトポシド、カルムスチン、イリノテカン、トポテカン、プロカルバジン、シスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシン、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、メトトレキサート、シタラビン、パクリタキセル、アウリスタチン、メイタンシノイドが含まれる。
「抗血管新生薬」は、特に疾病又は疾患に関連付けられる、血管新生又は血管形成の過程を部分的に又は完全に遮断、阻害又はそうでない場合中和する分子である。Brem, Cancer Control 6(5): 436-458 (1999)によってリスト化されたものを含め、多くの血管新生アンタゴニストが同定されており、従来技術に既知である。通常、血管新生アンタゴニストには、特定の血管新生因子又は血管新生経路を標的とする分子が含まれる。特定の態様では、血管新生アンタゴニストは、血管新生因子を標的とする抗体のようなタンパク質成分である。例示的な1の血管新生因子は、Leung等、Science, 246:1306 (1989)、及びHouck等、Mol. Endocrin., 5:1806 (1991)によって記載されたような、VEGF(時に「VEGF−A」としても知られる)、165アミノ酸血管内皮細胞増殖因子及び関連する121−、189−、及び206−アミノ酸血管内皮細胞増殖因子、並びにそれらの天然発生対立形質及び加工形態である。「VEGF」という用語は、165のアミノ酸ヒト血管内皮細胞成長因子のうちアミノ酸8〜109又は1〜109を含むポリペプチドの切断型を指す。このような天然VEGFの切断された種類は、天然VEGFと比較して、Flt−1(VEGF−R1)及びKDR(VEGF−R2)レセプターに対する結合親和性を有する。
例示的な抗血管新生因子は、抗VEGF抗体を中和する。「抗VEGF抗体」は、VEGFに特異的に結合する抗体である。好ましくは、本発明の抗VEGF抗体は、VEGF活性が関与する疾病又は状態の治療及びそのような疾病又は状態への干渉における治療薬として使用することができる。このような抗VEGF抗体は、通常、VEGF−B又はVEGF−C等の他のVEGF相同体に結合せず、PIGF、PDGF又はbFGF等の他の増殖因子にも結合しない。好ましい抗VEGF抗体は、ハイブリドーマATCC HB 10709によって産生されたモノクローナル抗VEGF抗体A4.6.1と同じエピトープに結合するモノクローナル抗体である。更に好ましくは、抗VEGF抗体は、マウスの抗hVEGFモノクローナル抗体A.4.6.1の変異したヒトIgG1フレームワーク領域及び抗原結合相補性決定領域を含み、Presta等、(1997) Cancer Res. 57:4593-4599 (1997)に従って生成される組換えヒト化抗VEGFモノクローナル抗体であり、ベバシズマブ(BV;アバスチン(登録商標)を含むがこれに限定されない。
或いは、抗血管新生薬は、1以上のVEGFレセプター(例えば、VEGFR1及びVEGFR2)への結合を含むVEGF活性を中和、遮断、阻害、抑制、低減するか、又はそのような活性に干渉することができるあらゆる小分子で有り得る。
ここで用いられる際の「成長阻害剤」は、細胞、特にPIK3R3を発現する癌細胞の成長をインビトロ又はインビボの何れかで阻害する化合物又は組成物を意味する。よって、成長阻害剤は、S期でPIK3R3発現細胞の割合を有意に減少させるものである。成長阻害剤の例は、細胞周期の進行を(S期以外の位置で)阻害する薬剤、例えばG1停止又はM期停止を誘発する薬剤を含む。古典的なM期ブロッカーは、ビンカス(ビンクリスチン及びビンブラスチン)、タキサン類、及びトポイソメラーゼII阻害剤、例えばドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、及びブレオマイシンを含む。またG1停止させるこれらの薬剤は、S期停止にも波及し、例えば、DNAアルキル化剤、例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、及びアラ-Cである。更なる情報は、The Molecular Basis of Cancer, Mendelsohn及びIsrael, 編, Chapter 1, 表題「Cell cycle regulation, oncogene, and antineoplastic drugs」, Murakami等, (WB Saunders: Philadelphia, 1995)、特に13頁に見出すことができる。タキサン類(パクリタキセル及びドセタキセル)は、共にイチイに由来する抗癌剤である。ヨーロッパイチイに由来するドセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、ローン・プーラン ローラー)は、パクリタキセル(TAXOL(登録商標)、ブリストル-マイヤー スクウィブ)の半合成類似体である。パクリタキセル及びドセタキセルは、チューブリン二量体から微小管の集合を促進し、細胞の有糸分裂を阻害する結果となる脱重合を防ぐことによって微小管を安定化にする。
「ドキソルビシン」は抗生物質のアントラサイクリンファミリーのメンバーである。ドキソルビシンの完全な化学名は、1−ジメチルアミノ−2,4a,5,7,12−ペンタヒドロキシ−11−メチル−4,6−ジオキソ−1,4a,11,11a,12,12a−ヘキサヒドロテトラセン−3−カルボキサミドである。ドキシサイクリンはTetRに結合し、TetOのTetR抑制を軽減する。
「サイトカイン」なる用語は、一つの細胞集団から放出され、他の細胞に細胞間メディエータとして作用するタンパク質の一般用語である。このようなサイトカインの例は、リンホカイン、モノカイン、及び伝統的なポリペプチドホルモンである。サイトカインに含まれるのは、成長ホルモン、例えばヒト成長ホルモン、N-メチオニルヒト成長ホルモン、及びウシ成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;チロキシン;インシュリン;プロインシュリン;レラキシン;プロレラキシン;糖タンパク質ホルモン、例えば濾胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、及び黄体化ホルモン(LH);肝臓成長因子;線維芽成長因子;プロラクチン;胎盤ラクトゲン;腫瘍壊死因子-α及び-β;ミューラー阻害因子;マウス生殖腺刺激ホルモン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子;インテグリン;トロンボポエチン(TPO);NGF-β等の神経成長因子;血小板成長因子;TGF-α及びTGF-β等のトランスフォーミング成長因子(TGFs);インシュリン様成長因子-I及びII;エリスロポエチン(EPO);骨誘発因子;インターフェロン-α、-β、及び-γ等のインターフェロン;コロニー刺激因子(CSFs)、例えばマクロファージ-CSF(M-CSF);顆粒球-マクロファージ-CSF(GM-CSF);及び顆粒球-CSF(G-CSF);インターロイキン(ILs)、例えばIL-1、IL-1a、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-11、IL-12;腫瘍壊死因子、例えばTNF-α及びTNF-β;及びLIF及びキットリガンド(KL)を含む他のポリペプチド因子である。ここで用いられる際、用語サイトカインには、天然供給源から、又は組換え細胞培養からのタンパク質、及び天然配列サイトカインの生物学的に活性な等価物が含まれる。
「パッケージ挿入物」という用語は、効能、用途、服用量、投与、配合禁忌及び/又はその治療薬の用途に関する警告についての情報を含む、治療薬の商業的包装を慣習的に含めた指示書を指す。
II.本発明の診断及び治療方法
増殖因子によって開始される異常なシグナル伝達とそれらのレセプターが、特定の腫瘍抑制因子の喪失と協働することにより神経膠腫の進行が開始及び維持される。EGFRの増殖は、ヒトGBMのサブクラスの特徴であり(Friedmanら、 N. Engl. J. Med. 353: 811-22 (2005); Nuttら、Cancer of the Nervous System, 2d Ed., Ch. 59: 837-847 (2005))、マウスモデル化実験により、p16の欠損と呼応させてEGFRの変異を活性化すると神経膠腫起源を促進できることが実証された。Hollandら、Genes Dev. 12: 3675-85 (1998)。現在の研究では、IGF2 OEは、EGFRの増殖を示さない高悪性度の神経膠腫のサブグループの新規分子マーカーとして同定されている。IGF2は、以前から、複数の種類の新生物の成長に関連付けられている。ヒトにおいて、IGF2は、以前から肺、前立腺、及び副腎の悪性腫瘍の進行に関連付けられている。Cuiら、Science 299: 1753-55 (2003); Giordanoら、Am. J. Pathol. 162: 521-31 (2003); Liら、Cell Tissue Res. 291: 469-79 (1998); Pollakら、Cancer Metastasis Rev. 17: 383-90 (1998)。IGF2の刷り込みの喪失は、結腸直腸癌及びウィルムス腫瘍を生じるリスクの増大と結び付けられている。Cuiら、上掲、Vuら、Cancer Res. 63: 1900-05 (2003)(24, 28)。マウスモデルにおいて、IGF2の過剰発現は肺腫瘍の発生に繋がることがあり(Fultsら、Neurosurg. Focus 19, E7 (2005); Mooreheadら、Oncogene 22: 853-57 (2003))、IGF2の刷り込みの喪失は腸腫瘍の発生を助長する(Sakataniら、Science 307: 1976-78 (2005))。更に、中央神経系の内部で、IGF2は、遺伝子改変されたマウスモデルにおける髄芽腫の誘発に必須の役割を果たすことが示された。Hahnら、J. Biol. Chem. 275: 28341-44 (2000); Hultbegら、Cancer 72: 3282-86 (1993)。これまでの発見により、髄膜腫におけるIGF2の過剰発現及び刷り込みの喪失が報告されているが(Hultbergら、Cancer 72: 3282-86 (1993); Mullerら、Eur. J. Cancer 36: 651-55 (2000))、神経膠腫におけるIGF2の発現に関する報告とは一貫性がない(Sandbergら、Neurosci. Lett 93: 114-9 (1988); Uyenoら、Cancer Res. 56: 5356-59 (1996))。EGFRの増殖を欠くGBMの分散した亜集団において、IGF2が強くOEされるという本発明者らによる発見は、IGF2が同じGBMの発達及び増殖を引き起こしうることを示唆するものである。
本研究では、EGFR増殖又はOEを欠く高悪性度の神経膠腫のサブセットにおいて、IGF2の強いOEが観察された。CGH分析により、調査したGBM症例の1/4においてEGFRが増殖することが確認されたが、IGF2座位に隣接するゲノムの増加に関しては何も証明されなかった。本発明の作業ではIGF2遺伝子の刷り込みの状況について直接調査はしなかったが、IGF2 OEの範囲及び強さによって、刷り込みの喪失だけではIGF2 mRNAのレベルの上昇は説明できないことが示唆された。つまり、現在のところ、どのような遺伝的又はエピジェネティック的事象が、一部の高悪性度の神経膠腫におけるIGF2 mRNAの強いOEを導くのかは不明である。IGF2の強いOEの原因となるメカニズムとは無関係に、グレードIVの星状細胞腫においてこの事象が高い確率で起こること、並びに高度に増殖性の表現型が伴うことは、共に、一部の高悪性度の神経膠腫の発生及び成長を助長するのにIGF2が重要な役割を果たしていることを示す。
本発明のデータは、IGF2を過剰発現するGBMが侵襲性の疾病の特徴である増殖性が高いこと、及びIGF2がGBM由来のニューロスフェアの増殖を支持することを示す。興味深いことに、最近の別のレポートにより、インサイツでのIGF2陽性の髄芽腫細胞が、強いKi−67染色を示す亜集団に限定されること、並びに培養された髄芽腫由来の細胞と小脳の神経細胞の前駆物質の増殖がIGF2によって刺激されることが示されている。Hartmannら、Am. J. Pathol. 166: 1153-62 (2005)。これらの発見は、IGF2が、共に神経幹細胞及び/又は前駆細胞から生じると仮定される中央神経系の悪性腫瘍の二つの形態である、髄芽腫と神経膠腫の両方の成長を助長する有効な分裂促進因子として機能しうることを示すものである。Singhら、Cancer Res. 63: 5821-28 (2003); Singhら、Nature 432: 396-401 (2004)。
最近の、脳腫瘍幹状細胞の同定により、神経膠腫起源と正常な脳の発達の間に存在する類似点が新たに注目されている。Singhら、Oncogene 23: 7267-73 (2004)。二つの最近の研究は、胚性の脳由来のニューロスフェアを用いて、PTEN(Groszerら、上掲)又はp53(Meletisら、Development 133: 363-39 (2006))の喪失により、神経幹細胞の再生及び拡大が亢進され、それらの、腫瘍の発生と進行の原因と考えられているメカニズムである、恒常性からの「逸脱」が促されることを実証した。EGFの影響下において、ニューロスフェアとして維持された、脳腫瘍に由来する神経幹細胞及び幹状細胞は、共に自己再生性であり、神経細胞又は膠細胞の分化系列に沿って分化する可能性を保っている。Galliら、Cancer Res. 64: 7011-21 (2004); Sanaiら、N. Engl. J. Med. 353: 811-22 (2005); Ignatovaら、Glia 39: 193-206 (2002); Doetschら、Neuron 36: 1021-34 (2002)。本研究において、IGF2が、GBM由来のニューロスフェアの増殖を、EGFと同じ程度まで支持しうることが初めて示され、更には、IGF2が誘発する効果は、少なくとも部分的に、IGF1Rにより媒介される。EGFとIGF2との同等性は、二つの因子に対する増殖反応が、最初に単離されて、いずれかの増殖因子の影響下において拡大されたニューロスフェアについて実質的に同じであるという発見により強調される。興味深いことに、IGF2自体はこれまでに神経幹細胞の拡大の支持に参画していることが実証されていないが、一方インスリン又はインスリン様増殖因子は培養液中に神経幹細胞を成功裏に維持するために必要とされ(Ignatovaら、上掲.; Arsenijevicら、J. Neurosci. 21: 7194-202 (2001))、IGF2は小脳の神経細胞の前駆物質の増殖を誘発することが示されている(Brookerら、J. Neurosci. Res. 59: 332-41 (2000))。胚形成の初期に、IGF2は神経堤誘導体と間葉系構造中に生成され(Dupontら、Birth Defects
Res. C. Embryo Today 69: 257-71 (2003))、一方インスリン様増殖因子IGF1R軸は、神経細胞及び膠細胞の発達に重要な役割を果たすことが報告されている。Saraら、Prog. Brain Res. 73: 87-99 (1988); Feldmanら、Neurobiol. Dis. 4: 201-14 (1997)。IGF1Rによるシグナル伝達も癌化に関連付けられており、小分子阻害因子及び中和抗体の両方が、このキナーゼを標的化するうえでのそのインビボでの有効性について現在試験されている。Cohenら、Clin. Cancer Res. 11: 2063-73 (2005); Garcia-Echeverriaら、Cancer Cell 5: 231-39 (2004); Mitsiadesら、Cancer Cell 5: 221-30 (2004); Wangら、Mol. Cancer Ther. 4: 1214-21 (2005)。
ここで、本発明者らは、独立した試料セットに複数の方法を用いることにより、過剰発現するEGFRとIGF2とが、悪性度の高い神経膠腫において互いに排他的であることを示し、いずれかを変調することで腫瘍の成長が支持されることを示唆する。本発明による原発と再発の症例の対に関する研究は、症例数は中程度であるものの、特に興味深いものである。IGF2もEGFRも過剰発現せずに生じた原発性の腫瘍は、やはり両要素のOEを欠く再発性の病変を常に生じ、これにより、病変の一部がEGFR又はIGF1Rシグナル伝達とは無関係なメカニズムにより発生し維持されることが示唆された。EGFR又はIGF2のOEを伴う原発性腫瘍の大部分は、同じ要素のmRNAのOEを示す再発を伴った。しかしながら、特筆すべき一症例は、当初のEGFR−OE/IGF2陰性の原発性腫瘍からIGF2−OE/EGFR陰性の再発性へと完全に切り換わった。これらの発見は、EGFR又はIGF2の影響下で生じた腫瘍には、腫瘍の成長を維持するための継続的な増殖因子のシグナル伝達が必要であること、並びにIGF2が誘発するシグナル伝達が腫瘍の成長を引き起こすうえでEGFRシグナル伝達の代わりになることを示唆するものである。総合すると、これらのデータは、GBMの発生及び成長において、IGF2のOEが、EGFR増殖の別の経路となりうることを支持するものである。PI3K/Aktシグナル伝達のカスケードの活性化におけるEGFとIGF2の安定した作用は、これらの因子が、悪性度の高い神経膠腫の成長を支持するうえで類似の作用を持つことが可能なメカニズムを示唆している。
PI3K−Akt経路は、複数の悪性腫瘍の成長を支持するうえで重要な役割を果たす。Chowら、Canc. Lett. 241 (2): 184-196 (2006); Cullyら、Nat. Rev. Cancer 6: 184-192 (2006)。この経路の陰性の制御因子であるPTENは、神経前駆物質の発達の「主要制御因子」(Groszerら、Science 294: 2186-89 (2001))とも、神経膠腫の有望な腫瘍抑制因子とも呼ばれている。複数の研究により、GBM患者にとってPTENの喪失が重要な負の予後因子であることが示されている(Phillipsら、上掲参照)。最近では、PI3キナーゼの様々な触媒的サブユニットの遺伝子変異(PIK3CA及びPIK3CD)が、ヒト神経膠芽腫について記載されており(Mizoguchiら、Brain Pathol. 14: 372-77 (2004); Broderickら、Cancr Res. 64: 5048-50 (2004); Samuelsら、Science 304: 554 (2004))、腫瘍形成に必須の複数のシグナルの統合装置としてのPI3K経路の役割を支持してしる。Cullyら、Nat. Rev. Cancer 6: 184-192 (2006)。本発明の作業において、PTENの喪失(CGHによる評価)及びPI3K−Akt軸の活性化(pAkt IHCによる評価)が、EGFR−OEとIGF2−OE腫瘍の両方において頻繁に発生することが示される。更に、神経腫におけるIGF2シグナル伝達の媒介に特定のPI3Kサブユニットが関連している証拠が提示される。
p55PIK(p55γ)としても知られる制御サブユニットPIK3R3が、リン酸化IRS−1と相互作用するタンパク質について発現ライブラリをスクリーニングすることにより単離され(Ponsら、Mol. Cell Biol. 15: 4453-65 (1995))、酵母ツーハイブリッドスクリーニング法を用いることでIGF1Rと相互作用することが判明した(Deyら、Gene 209: 175-83 (1998))。発達の間に、PIK3R3は小脳に高レベルで発現され、この場合IGF1R及びPIK3R3はプルキンエ細胞内に共存することが判明した。Trejoら、J. Neurobiol. 47: 39-50 (2001)。本発明の神経膠腫試料のCGH分析の間に、本発明者らは、PIK3R3のゲノム増加を示す増殖性の腫瘍のサブグループを同定し、これらの増加がこの分子のmRNAの発現の増加を伴うことを観察した。IGF2のOEを有するGBMと、PIK3R3の増加を有するGMBの両方が増殖性の表現型を示したことから、本発明者らは、PIK3R3が、GBM細胞上におけるIGF2の増殖促進効果の媒介に関与しうるかどうかの決定を試みた。形質移入されてPIK3R3を過剰発現するCHO細胞を用いたこれまでの研究により、増殖因子の刺激によりPIK3R3がIGF1R及びPDGFRと結合することが示された。ここで、本発明者らは、GBM細胞株において、IGF2刺激により内在性のPIK3R3が誘導されてリン酸化IGF1Rと結合し、チロシンリン酸化細胞内複合体の一部として現れることの証拠を提示する。加えて、神経膠腫由来のニューロスフェアを使用することにより、本発明者らは、IGF2(及びそれより小さい範囲ではあるがEGF)による増殖刺激とAktリン酸化の誘発が共に、PIK3R3の安定なノックダウンにより阻害されることを示す。重要なのは、本発明によるノックダウン実験は、二つの細胞株で、異なるshRNAコンストラクトを用いて実行されたことであり、これは、観察された影響の特異性を肯定的に主張するものである。PI3Kのその他の制御サブユニット(例えば、p85α及びp85β)のmRNAが実験した両方の細胞株に存在しており(データは示さない)、PIK3R3の作用を代替した可能性があったので、これらの結果は予想外であった。このような発見は更に、ヒトGBMにおけるIGF2の増殖促進効果の大部分はPIK3R3の関与により媒介されうるという仮定を支持するものである。
つまり、本発明の結果により、IGF2の強い発現が、EGFRの増殖を欠く悪性度の高い神経膠腫のサブセットのマーカーであり、PIK3R3の関与によるIGF2のシグナル伝達がインビトロでのGBM細胞の増殖を支持することの証拠となることが明らかとなった。これらの発見は、IGF2のOEがGBMの形成と増殖を引き起こすEGFRの増殖の別のメカニズムである可能性があること、並びにEGFRの過剰発現を欠く神経膠腫腫瘍において、PIK3R3及びIGF2のアンタゴニストが神経膠腫の治療に有用な治療法となることを示唆している。
II.本発明の組成物及び一般的方法
A.抗PIK3R3抗体
一実施形態では、本発明は、ここで診断薬としての用途が見出され得る抗PIK3R3抗体を提供する。例示的な抗体には、ポリクローナル、及びモノクローナル抗体、ならびにその断片が含まれる。
1.ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは、関連する抗原とアジュバントを複数回皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射することにより、動物に産生される。それは、免疫化されるべき種において免疫原性であるタンパク質へ、関連する抗原(特に、合成ペプチドが用いられる場合)を結合させるために有用である。例えば、この抗原を、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、又は大豆トリプシンインヒビターへ、二重官能性又は誘導体形成剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介する抱合)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基を介する抱合)、グルタルアルデヒド、及び無水コハク酸、SOCl、又はR及びRが異なるアルキル基であるRN=C=NRを用いて結合させることができる。
動物を、例えばタンパク質又はコンジュゲート100μg又は5μg(それぞれウサギ又はマウスの場合)を完全フロイントアジュバント3容量と併せ、この溶液を複数部位に皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、又は誘導体に対して免疫する。1ヶ月後、該動物を、完全フロイントアジュバントに入れた初回量の1/5ないし1/10のペプチド又はコンジュゲートを用いて複数部位に皮下注射することにより、追加免疫する。7ないし14日後に動物を採血し、抗体価について血清を検定する。動物は、力価がプラトーに達するまで追加免疫する。コンジュゲートはまた、タンパク融合として組換え細胞培養中で調製することができる。また、ミョウバンのような凝集化剤が、免疫反応の増強のために好適に使用される。
2.モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、Kohler等, Nature, 256:495 (1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法、又は組換えDNA法(米国特許第4816567号)によって作成することができる。
ハイブリドーマ法においては、マウス又はその他の適当な宿主動物、例えばハムスターを上記のように免疫し、免疫化に用いられたタンパク質と特異的に結合する抗体を産生する、又は産生することのできるリンパ球を導き出す。別法として、リンパ球をインビトロで免疫することもできる。免疫化の後、リンパ球を単離し、ポリエチレングリコールのような適当な融合剤を用いて骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 59-103頁(Academic Press, 1986))。
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、融合していない親の骨髄腫細胞(融合のパートナーとも呼ばれる)の増殖又は生存を阻害する一又は複数の物質を好ましくは含む適当な培地に蒔き、増殖させる。例えば、親の骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠失するならば、ハイブリドーマのための培地は、典型的には、HGPRT−欠失細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを含有するであろう(HAT培地)。
好ましい融合のパートナーである骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの発現を支援し、融合しない親細胞に対して選択する選択培地に対して感受性である細胞である。これらの中でも、好ましい骨髄腫株化細胞は、マウス骨髄腫ライン、例えば、ソーク・インスティテュート・セル・ディストリビューション・センター、サンディエゴ、カリフォルニア、USAより入手し得るMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍、及び、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、マナッサス、バージニア、USAより入手し得るSP-2又はX63-Ag8-653細胞から誘導されるものである。ヒト骨髄腫及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫株化細胞もまたヒトモノクローナル抗体の産生のために開示されている(Kozbor, J.Immunol., 133:3001 (1984);Brodeur等, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,51-63頁、(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
ハイブリドーマ細胞が生育している培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生について検定する。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降又はインビトロ結合検定、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着検定(ELISA)によって測定する。
例えば、モノクローナル抗体の結合親和性は、Munson等, Anal. Biochem., 107:220(1980)のスキャッチャード分析によって測定することができる。
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が確定された後、そのクローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 59-103頁(Academic Press, 1986))。この目的に対して好適な培地は、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地を包含する。また、このハイブリドーマ細胞は、動物の腹水症腫瘍として、例えばマウスへの細胞の腹腔内注射によって、インビボで増殖させることができる。
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えばアフィニティークロマトグラフィー(例えばプロテインA又はプロテインG-セファロースを用いる)又はイオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析等のような常套的な抗体精製法によって、培地、腹水、又は血清から上手く分離される。
モノクローナル抗体をコードするDNAは、常法を用いて(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)即座に分離されて、配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましい供給源となる。ひとたび分離されたならば、DNAを発現ベクター中に入れ、ついでこれを、この状況以外では抗体タンパク質を産生しない大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は骨髄腫細胞のような宿主細胞中に形質移入し、組換え宿主細胞におけるモノクローナル抗体の合成を獲得することができる。抗体をコードするDNAの細菌での組み換え発現に関する概説論文には、Skerra等, Curr. Opinion in Immunol., 5:256-262(1993)及びPluckthun, Immunol. Revs. 130: 151-188(1992)が含まれる。
3.抗体断片
ある状況下では、抗体全体よりも、抗体断片を用いることに利点がある。より小さな大きさの断片によって迅速なクリアランスが可能となり、固形腫瘍への接近の改良につながり得る。
抗体断片を産生するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、無傷の抗体のタンパク分解性消化によって誘導された(例えば、Morimoto等, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennan等, Science, 229:81(1985)を参照されたい)。しかし、これらの断片は、現在は組換え宿主細胞により直接産生することができる。Fab、Fv及びScFv抗体断片は、すべて大腸菌で発現させ分泌させることができ、従って、大量のこれら断片の産生が容易となった。抗体断片は、上で論じた抗体ファージライブラリから単離することができる。別法として、Fab'-SH断片は大腸菌から直接回収することができ、化学的に結合させてF(ab')断片を形成することができる(Carter等, Bio/Technology 10:163-167(1992))。他のアプローチ法では、F(ab')断片を組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。インビボ半減期が増した、サルベージレセプター結合性エピトープ残基を含むFab及びF(ab’)が、米国特許第5869046号に記載されている。抗体断片を生成するのための他の方法は、当業者には明らかであろう。他の実施形態では、選択する抗体は単鎖Fv断片(scFv)である。国際公開93/16185号;米国特許第5571894号;及び米国特許第5587458号を参照のこと。Fv及びsFvは、定常領域を欠く無傷の連結部位を有する唯一の種である;従って、インビボで使用している間の減少した非特異的結合に適している。sFv融合タンパク質は、sFvのアミノ又はカルボキシ末端のどちらかで、エフェクタータンパク質の融合体が生成されるように構成されてもよい。上掲のAntibody Engineering, Borrebaeck編を参照のこと。また、抗体断片は、例えば米国特許第5641870号に記載されているような「直鎖状抗体」であってもよい。そのような直鎖状抗体断片は単一特異性又は二重特異性であってもよい。
4.標識された抗体
本発明の抗体は、反応性官能基によって抗体に共有結合して付着されうる標識成分とコンジュゲートされてもよい(Singh等 (2002) Anal. Biochem. 304:147-15;Harlow E. and Lane, D. (1999) Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Springs Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY; Lundblad R.L. (1991) Chemical Reagents for Protein Modification, 2nd ed. CRC Press, Boca Raton, FL)。付着された標識は、(i) 検出可能なシグナルを提供する、(ii) 第二標識と反応して、例えばFRET(蛍光共鳴エネルギー転移)が生じるように第一又は第二標識によって生じる検出可能なシグナルを改変する、(iii) 抗原又はリガンドとの相互作用を安定させるか又は結合の親和性を増加する、(iv) 電荷、疎水性、形状又は他の物理学的なパラメータによって可動性、例えば電気泳動易動度又は細胞透過性に作用する、又は(v) キャプチャー成分を与えて、リガンド親和性、抗体/抗原結合又はイオン錯体形成を調節する、ように機能しうる。
標識した抗体は、例えば、特定の細胞、組織又は血清における対象の抗原の発現を検出するための診断的検査法に有用となりうる。診断用適用のために、抗体は一般的に検出可能な成分ににより標識されるであろう。多くの標識が利用可能であり、通常、以下のカテゴリに分類することができる:
(a) ラジオアイソトープ(放射性核種)、例えばH、11C、14C、18F、32P、35S、64Cu、68Ga、86Y、99Tc、111In、123I、124I、125I、131I、133Xe、177Lu、211At、又は213Bi。放射性同位体標識抗体は、レセプター標的撮像実験において有用である。抗体は、Immunology, Volumes 1 and 2, Coligen等, Ed. Wiley-Interscience, New York, New York, Pubs. (1991)のCurrent Protocolsに記載される技術を用いて、リガンド試薬が抗体の反応性求核試薬、例えばシステインチオール、リジンアミン、又はセリン、スレオニン又はチロシンヒドロキシル基と反応性がある場合に、キレートを結合するか、あるいはラジオアイソトープ金属と複合化する該リガンド試薬により標識することができる。金属イオンを複合化しうるキレートリガンドには、DOTA、DOTP、DOTMA、DTPA及びTETA(Macrocyclics, Dallas, TX)が含まれる。放射性核種は、本発明の抗体-薬剤コンジュゲートとの複合体化によりターゲティングされうる(Wu等 (2005) Nature Biotechnology 23(9): 1137-1146)。
造影実験のための抗体標識として好適な金属-キレート複合体は以下に開示される。Hnatowich等 (1983) J. Immunol. Methods 65:147-157;Meares等 (1984) Anal. Biochem. 142:68-78;Mirzadeh等 (1990) Bioconjugate Chem. 1:59-65;Meares等 (1990) J. Cancer1990, Suppl. 10:21-26;Izard等 (1992) Bioconjugate Chem. 3:346-350;Nikula等 (1995) Nucl. Med. Biol. 22:387-90;Camera等 (1993) Nucl. Med. Biol. 20:955-62;Kukis等 (1998) J. Nucl. Med. 39: 2105-2110;Verel等 (2003) J. Nucl. Med. 44: 1663-1670;Camera等 (1994) J. Nucl. Med. 21: 640-646;Ruegg等 (1990) Cancer Res. 50: 4221-4226;Verel等 (2003) J. Nucl. Med. 44: 1663-1670;Lee等 (2001) Cancer Res. 61: 4474-4482;Mitchell,等 (2003) J. Nucl. Med. 44: 1105-1112;Kobayashi等 (1999) Bioconjugate Chem. 10:103-111;Miederer等 (2004) J. Nucl. Med. 45: 129-137;DeNardo等 (1998) Clinical Cancer Research 4:2483-90;Blend等 (2003) Cancer Biotherapy & Radiopharmaceuticals 18:355-363;Nikula等 (1999) J. Nucl. Med. 40: 166-76;Kobayashi等 (1998) J. Nucl. Med. 39: 829-36;Mardirossian等 (1993) Nucl. Med. Biol. 20:65-74;Roselli等 (1999) Cancer Biotherapy & Radiopharmaceuticals, 14:209-20。
(b) 蛍光標識、例えば希有土類キレート(ユウロピウムキレート)、FITC、5-カルボキシフルオレセイン、6カルボキシフルオレセインを含むフルオレセイン種;TAMRAを含むローダミン種;ダンシル;リサミン;シアニン;フィコエリトリン;テキサスレッド;及びこれらの類似体。蛍光標識は、例えば、上記のImmunologyのCurrent Protocolsに開示される技術を用いて抗体にコンジュゲートすることができる。蛍光色素及び蛍光標識試薬には、Invitrogen/Molecular Probes (Eugene, OR)及びPierce Biotechnology, Inc. (Rockford, IL)から市販されているものが含まれる。
(c) 様々な酵素基質標識は利用可能であり、開示されてもいる(米国特許第4275149号)。一般に、酵素は、様々な技術を用いて測定することができる色素生産性基質の化学変化を触媒する。例えば、酵素は、分光測光法で測定することができる基質の変色を触媒するかもしれない。あるいは、酵素は、基質の蛍光又は化学発光を変えうる。蛍光の変化を定量化する技術は上記の通りである。化学発光基質は、化学反応によって電子的に励起され、測定することができる(例えば化学ルミノメーターを用いて)か、又はエネルギーを蛍光受容基に与える光を発しうる。酵素標識の例には、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4737456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタルアジネジオン(dihydrophthalazinediones)、リンゴ酸酵素、ウレアーゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)などのペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ(AP)、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リソチーム、サッカライドオキシダーゼ(例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ及びグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、複素環のオキシダーゼ(例えばウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ)、ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼなどが含まれる。抗体に酵素をコンジュゲートする技術は、O'Sullivan等, Methods for the Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for use in Enzyme Immunoassay, in Methods in Enzym. (ed J. Langone & H. Van Vunakis), Academic press, New York, 73:147-166 (1981)に記載されている。
酵素基質の組合せの例には、例えば以下のものが含まれる:
(i) 基質として水素ペルオキシダーゼを有する西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)、ここで水素ペルオキシダーゼが染料前駆(例えば、オルソフェニレン(orthophenylene)ジアミン(OPD)又は3,3',5,5'テトラメチルのベンジジン塩酸塩(TMB))を酸化する;
(ii) 色素生産性基質としてリン酸パラグラフ-ニトロフェニルを有するアルカリホスファターゼ(AP);及び
(iii) 色素生産性基質(例えばp-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシダーゼ)又は蛍光発生基質4-メチルウンベリフェリル(methylumbelliferyl)-β-D-ガラクトシダーゼを有するβ-D-ガラクトシダーゼ(β-D-Gal)。
多数の他の酵素基質の組合せは当業者にとって利用可能である。これらの一般的な概要については、米国特許第4275149号及び同第4318980号を参照。
標識は、抗体と間接的にコンジュゲートされてもよい。例えば、抗体は、ビオチンとコンジュゲートさせることができ、前述した大きな3つの分類のうちの何れかはアビジン又はストレプトアビジンとコンジュゲートさせることができ、その逆もまた可能である。ビオチンは選択的にストレプトアビジンと結合し、したがって、標識はこの間接的な方法で抗体にコンジュゲートさせることができる。あるいは、ポリペプチド変異体と標識とを間接的にコンジュゲートさせるために、ポリペプチド変異体は小ハプテン(例えばジゴキシン)とコンジュゲートさせ、前述した標識の異なるタイプのうちの1つは抗ハプテンポリペプチド変異体(例えば抗ジゴキシン抗体)とコンジュゲートさせる。したがって、ポリペプチド変異体と標識は間接的にコンジュゲートすることができる(Hermanson, G. (1996) in Bioconjugate Techniques Academic Press, San Diego)。
本発明のペプチド変異体は、任意の公知のアッセイ方法、例えばELISA、競合結合アッセイ、直接的及び間接的なサンドイッチアッセイ及び免疫沈降アッセイに用いられてもよい(Zola, (1987) Monoclonal Antibodies: A Manual of Techniques, pp.147-158, CRC Press, Inc.)。
検出標識は、結合又は認識事象を局所化し、視覚化して、数量化するために有用となりうる。本発明の標識抗体は細胞表面レセプターを検出しうる。検出可能に標識した抗体についての他の使用は、蛍光標識抗体とビーズをコンジュゲートさせ、リガンド結合時の蛍光シグナルを検出することを含む、ビーズに基づく免疫キャプチャの方法である。同様の結合検出方法論は、表面プラスモン共鳴(SPR)効果を利用して抗体-抗原相互作用を測定して検出するものである。
蛍光色素及び化学発光色素などの検出標識(Briggs等 (1997) "Synthesis of Functionalised Fluorescent Dyes and Their Coupling to Amines and Amino Acids," J. Chem. Soc., Perkin-Trans. 1:1051-1058)は検出可能なシグナルを提供し、通常、好ましくは以下のような特性により標識化抗体に応用することができる。(i) 標識抗体は、少量の抗体が無細胞アッセイ及び細胞に基づくアッセイにおいて敏感に検出されるように低いバックグランドで非常に高いシグナルを産生するものである、さらに、(ii) 標識抗体は、有意に写真を退色させることなく蛍光シグナルが観察され、モニターされ、記録されるように、光安定性を有するものである。膜又は細胞表面、特に生きている細胞への標識抗体の細胞表面結合を伴う用途では、標識は、(iii) 有効なコンジュゲート濃度と検出感度が達成されるように良好な水溶性であり、(iv) 細胞の正常な代謝過程が破壊されないか、又は早期に細胞死を引き起こさないように生きている細胞に対して毒性がないことが好ましい。
細胞性蛍光強度の直接の定量化と蛍光標識事象、例えば、ペプチド-色素コンジュゲートの細胞表面結合の算出は、生きている細胞又はビーズによる非放射性アッセイである、混合と読み取り(mix-and-read)を自動化するシステム(FMAT(登録商標) 8100 HTSシステム、Applied Biosystems, Foster City, Calif.)で実施してもよい(Miraglia, "Homogeneous cell- and bead-based assays for high throughput screening using fluorometric microvolume assay technology", (1999) J. of Biomolecular Screening 4:193-204)。また、標識抗体の使用には、細胞表面レセプター結合アッセイ、イムノキャプチャアッセイ、蛍光結合免疫吸着アッセイ(FLISA)、カスパーゼ切断(Zheng, "Caspase-3 controls both cytoplasmic and nuclear events associated with Fas-mediated apoptosis in vivo", (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:618-23;米国特許第6372907号)、アポトーシス(Vermes, "A novel assay for apoptosis. Flow cytometric detection of phosphatidylserine expression on early apoptotic cells using fluorescein labelled Annexin V" (1995) J. Immunol. Methods 184:39-51)及び細胞障害性アッセイが含まれる。蛍光定量的マイクロ体積アッセイ技術を用いて、細胞表面を標識とする分子によって上方制御又は下方制御を同定することができる(Swartzman, "A homogeneous and multiplexed immunoassay for high-throughput screening using fluorometric microvolume assay technology", (1999) Anal. Biochem. 271:143-51)。
本発明の標識抗体は、様々な方法及び以下のような生医学的かつ分子的撮像法の技術によってバイオマーカーやプローブを造影する際に有用である。(i) MRI(磁気共鳴画像法)、(ii) MicroCT(コンピューター断層撮影法)、(iii) SPECT(単一光子放射型コンピュータ断層撮影法)、(iv) PET(ポジトロン放出断層撮影) Chen等 (2004) Bioconjugate Chem. 15:41-49、(v) バイオルミネセンス、(vi) 蛍光、及び(vii) 超音波。イムノシンチグラフィは、放射性物質にによって標識された抗体が動物又はヒト患者に投与される造影手順であり、画像は抗体が局在する身体の部位のものである(米国特許第6528624号)。造影バイオマーカーは、客観的に測定され、正常な生物学的プロセス、病原性プロセス、又は治療的介入に対する薬理学的応答の指標として評価されてもよい。バイオマーカーはいくつかの種類がある。タイプ0は、疾患の自然な成長マーカーであって、公知の臨床指標、例えば関節リウマチの滑液炎症のMRI評価と縦方向に相関する。タイプIマーカーは、例えばメカニズムが臨床転帰と関係していなくても、作用のメカニズム(mechanism-of-action)の関係として介入の効果を捕らえる。タイプIIマーカーは代理のエンドポイントとして機能するものであり、該バイオマーカーの変化又は該バイオマーカーのシグナルから、関節リウマチの骨浸食をCTで測定するなどの目的の応答を「有効と認める」ために臨床的な利点を予測する。したがって、造影バイオマーカーは、(i) 標的タンパク質の発現、(ii) 標的タンパク質に対する治療用の結合、すなわち選択性、及び(iii) クリアランス及び半減期の薬物動態学的データについての薬物動態学的(PD)治療的情報を提供しうる。研究室ベースのバイオマーカーと比較したときのインビボ造影バイオマーカーの利点には、非侵襲性処置、定量化できる、全身評価、反復性投与及び評価、すなわち複数の時点の投与と評価、及び臨床前(小動物)の結果を臨床(ヒト)の結果に潜在的に置き換えることができる結果が含まれる。用途によっては、バイオイメージングは、前臨床研究の多くの動物実験の代替となるか又は最小化する。
放射性核種画像標識には、H、11C、14C、18F、32P、35S、64Cu、68Ga、86Y、99Tc、111In、123I、124I、125I、131I、133Xe、177Lu、211At、又は213Bi等の放射性核種が含まれる。放射性核種金属イオンはDOTA等のキレートリンカーと複合体化されうる。DOTA-マレイミド(4-マレイミドブチルアミドベンジル-DOTA)などのリンカー試薬は、イソプロピルクロロフォルメート(Aldrich)によって活性化される4-マレイミド酪酸(Fluka)とアミノベンジル-DOTAを反応させて、その後Axworthy等 (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97(4): 1802-1807の手順によって調製されうる。DOTA-マレイミド試薬は、抗体の遊離したシステインアミノ酸と反応して、抗体上の金属錯体形成リガンドを提供する(Lewis等 (1998) Bioconj. Chem. 9:72-86)。DOTA-NHS(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸モノ(N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)などのキレート化リンカー標識試薬は市販されている(Macrocyclics, Dallas, TX)。放射性核種標識抗体によるレセプター標的造影は、腫瘍組織の抗体の進行性蓄積の検出及び定量化によって経路活性化のマーカーとなりうる(Albert等 (1998) Bioorg. Med. Chem. Lett. 8:1207-1210)。コンジュゲートした放射性金属はリソソーム分解後に細胞内に残りうる。
ペプチド標識方法は周知である。Haugland, 2003, Molecular Probes Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals, Molecular Probes, Inc.; Brinkley, 1992, Bioconjugate Chem. 3:2;Garman, (1997) Non-Radioactive Labelling: A Practical Approach, Academic Press, London; Means (1990) Bioconjugate Chem. 1:2;Glazer等 (1975) Chemical Modification of Proteins. Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology (T. S. Work and E. Work, Eds.) American Elsevier Publishing Co., New York;Lundblad, R. L. and Noyes, C. M. (1984) Chemical Reagents for Protein Modification, Vols. I and II, CRC Press, New York;Pfleiderer, G. (1985) "Chemical Modification of Proteins", Modern Methods in Protein Chemistry, H. Tschesche, Ed., Walter DeGryter, Berlin and New York;及びWong (1991) Chemistry of Protein Conjugation and Cross-linking, CRC Press, Boca Raton, Fla.);De Leon-Rodriguez等 (2004) Chem.Eur. J. 10:1149-1155;Lewis等 (2001) Bioconjugate Chem. 12:320-324;Li等 (2002) Bioconjugate Chem. 13:110-115;Mier等 (2005) Bioconjugate Chem. 16:240-237を参照。
十分近接した蛍光レポーターとクエンチャーの2つの成分にて標識されたペプチドとタンパク質は、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を受ける。レポーター基は、一般的に、特定の波長で光に励起され、エネルギーをアクセプター又はクエンチャーに転移して、その結果、最大の明るさで発光するための適切なストークスシフトが生じる蛍光色素である。蛍光色素には、広範な芳香族性を有する分子、例としてフルオレセイン及びローダミン、ないしこれらの誘導体が含まれる。蛍光レポーターは、完全なペプチドのクエンチャー成分によって部分的あるいは有意に失活されうる。ペプチダーゼ又はプロテアーゼによるペプチドの切断時に、蛍光の検出可能な増加が測定されうる(Knight, C. (1995) "Fluorimetric Assays of Proteolytic Enzymes", Methods in Enzymology, Academic Press, 248:18-34)。
また、本発明の標識抗体は親和性精製剤として用いられてもよい。この方法では、標識抗体は、当分野で公知の方法を用いて、セファデックス樹脂又は濾紙などの固相に固定される。固定された抗体は、精製される抗原を含む試料と接触させ、その後、支持体を、精製される抗原以外の試料中の実質的にすべての物質を取り除く適切な溶媒にて洗浄し、固定されたポリペプチド変異体に結合させる。最後に、抗原をポリペプチド変異体から放すように、支持体を他の適切な溶媒、例えばグリシンバッファ、pH5.0にて洗浄する。
標識化試薬は、一般的に、(i) 標識抗体を形成するために抗体の反応性求核基と直接、(ii) リンカー-標識中間生成物を形成するためにリンカー試薬と、又は(iii) 標識抗体を形成するためにリンカー抗体と、反応しうる反応官能基を保持する。標識試薬の反応性官能基には、マレイミド、ハロアセチル、ヨードアセトアミドスクシンイミジルエステル(例えば、NHS、N-ヒドロキシスクシンイミド)、イソチオシアネート、スルホニルクロリド、2,6-ジクロロトリアジニル、ペンタフルオロフェニルエステル、及びホスホラミダイトが含まれるが、他の官能基も用いられてよい。
例示的な反応性官能基は、検出可能な標識、例えばビオチンや蛍光色素のカルボキシル置換基のN-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS)である。標識のNHSエステルを予め造っても、単離しても、及び/又は特徴付けてもよく、あるいはインサイツで形成して、抗体の求核基と反応させてもよい。典型的には、標識のカルボキシル型を、カルボジイミド試薬、例としてジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、又はユーロニウム試薬、例としてTSTU (O-(N-スクシンイミジル)-N,N,N',N'-テトラメチルユーロニウム テトラフルオロボレート)、HBTU (O-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルユーロニウム ヘキサフルオロホスフェート)、又はHATU (O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルユーロニウム ヘキサフルオロホスフェート)、標識のNHSエステルを与えるためのアクチベーター、例えば1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、及びN-ヒドロキシスクシンイミドのいくつかの組み合わせと反応させることによって活性化する。場合によって、標識のインサイツ活性化と抗体との反応によって標識と抗体をカップリングさせて、一工程で標識-抗体複合体を形成させてもよい。他の活性化試薬及びカップリング試薬には、TBTU (2-(1H-ベンゾトリアゾ-1-イル)-1-1,3,3-テトラメチルユーロニウム ヘキサフルオロホスフェート)、TFFH (N,N',N'',N'''-テトラメチルユーロニウム 2-フルオロ-ヘキサフルオロホスフェート)、PyBOP (ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-ピロリジノ-ホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート、EEDQ (2-エトキシ-1-エトキシカルボニル-1,2-ジヒドロ-キノリン)、DCC (ジシクロヘキシルカルボジイミド);DIPCDI (ジイソプロピルカルボジイミド)、MSNT (1-(メシチレン-2-スルホニル)-3-ニトロ-1H-1,2,4-トリアゾール、及びアリール スルホニル ハロゲン化物、例えばトリイソプロピルベンゼンスルホニル クロライドが含まれる。
B.PIK3R3結合オリゴペプチド
本発明のPIK3R3結合オリゴペプチドはここで記載される様なPIK3R3ポリペプチドに、好ましくは特異的に、結合するオリゴペプチドである。PIK3R3結合オリゴペプチドは、既知のオリゴペプチド合成法を用いて化学的に合成することができ、あるいは組換え技術を用いて調製及び生成することができる。PIK3R3結合オリゴペプチドは通常、少なくとも約5のアミノ酸長であり、或いは少なくとも約6、7、8、9、10、11、1−73、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100のアミノ酸長以上であり、このようなオリゴペプチドはここに記載される様なPIK3R3ポリペプチドに対して好ましくは特異的に結合する能力がある。PIK3R3結合オリゴペプチドは、よく知られた技術を用いて過度の実験をすることなしに同定することができる。この点において、ポリペプチド標的に特異的に結合する能力のあるオリゴペプチドのオリゴペプチドライブラリを検索する技術は当分野でよく知られていることを注記する(例えば、米国特許第5556762号、同第5750373号、同第4708871号、同第4833092号、同第5223409号、同第5403484号、同第5571689号、同第5663143号;PCT公開第WO84/03506号、及びWO84/03564号;Geysen等, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81:3998-4002 (1984);Geysen等, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 82:178-182 (1985);Geysen等, in Synthetic Peptides as Antigens, 130-149 (1986);Geysen等, J. Immunol. Meth., 102:259-274 (1987);Schoofs等, J. Immunol., 140:611-616 (1988), Cwirla,S.E.等(1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:6378;Lowman,H.B.等 (1991) Biochemistry, 30:10832;Clackson,T.等 (1991) Nature, 352:624;Marks,J.D.等 (1991) J. Mol. Biol., 222:581;Kang,A.S.等 (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:8363、及びSmith, G.P. (1991) Current Opin. Biotechnol., 2:668参照)。
この点において、バクテリオファージ(ファージ)ディスプレイは、大きなオリゴペプチドライブラリを検索して、ポリペプチド標的に特異的に結合する能力のあるこれらライブラリのメンバーを同定することを可能にするよく知られた技術の一つである。ファージディスプレイは、様々なポリペプチドがバクテリオファージ粒子の表面上のコートタンパク質に融合タンパク質として表示されることによる技術である(Scott,J.K.及びSmith G. P. (1990) Science 249:386)。ファージディスプレイの有用性は、選択的にランダム化されたタンパク質変異体(又はランダムクローンcDNA)の大きなライブラリを標的分子に高い親和性で結合するこれらの配列について素早く効果的に分類することができる点にある。ファージでのペプチド(Cwirla,S.E.等 (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:6378)又はタンパク質(Lowman,H.B.ら (1991) Biochemistry, 30:10832; Clackson,T.ら (1991) Nature, 352: 624; Marks,J.D.等 (1991), J. Mol. Biol., 222:581; Kang,A.S.等 (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:8363)ライブラーリのディスプレイは、特異的に結合する特性を有するものについて無数のポリペプチド又はオリゴペプチドをスクリーニングするために使用されている(Smith, G.P. (1991) Current Opin. Biotechnol., 2:668)。ランダム突然変異体のファージライブラリの分類は、多数の変異体を構築して増殖させる方法、標的レセプターを用いた親和性精製の方法、及び結合増強の結果を評価する手段を必要とする。米国特許第5223409号、同第5403484号、同第5571689号、及び同第5663143号。
ほとんどのファージディスプレイ法は繊維状ファージを使用していたが、λファージディスプレイシステム(国際公開第95/34683号;米国特許第5627024号)、T4ファージディスプレイシステム(Ren, Z-J.等 (1998) Gene, 215:439; Zhu, Z. (1997) CAN 33:534; Jiang, J.等 (1997) can 128:44380; Ren, Z-J.等 (1997) CAN 127:215644; Ren, Z-J. (1996) Protein Sci. 5:1833; Efimov, V.P.等 (1995), Virus Genes, 10:173)及びT7ファージディスプレイシステム(Smith, G.P.及びScott, Methods in Enzymology, 217, 228-257 (1993); 米国特許第5766905号)も知られている。
現在、基礎的なファージディスプレイ構想の多くの他の改良及び変形が開発されている。これらの改良は、選択された標的分子への結合についてペプチドライブラリをスクリーニングするための、及びこれらのタンパク質が所望の特性をスクリーニングする潜在能力で機能性タンパク質をディスプレイするためのディスプレイシステムの能力を増強する。ファージディスプレイ反応のための組み換え反応手段について記載があり(WO98/14277)及びファージディスプレイライブラリは二分子相互作用(WO98/20169;WO98/20159)及び拘束性へリックスペプチドの特性(WO98/20036)を分析及び制御するために使用されている。WO97/35196は、リガンドが標的分子に結合しうる第一の溶液、及び親和性リガンドが標的分子に結合しない第二の溶液とファージディスプレイライブラリを接触させて結合リガンドを選択的に単離する、親和性リガンドの単離方法を記載する。WO97/46251は、親和性精製抗体でランダムファージディスプレイライブラリをバイオパニングし、次いで結合ファージを単離し、続いてマイクロプレートのウェルでマイクロパニングして高親和性結合ファージを単離する方法を記載する。黄色ブドウ球菌(Staphlylococcus aureus)タンパク質Aの親和性タグとしての使用も報告されている(Li等, (1998) Mol Biotech., 9:187)。WO97/47314は、ファージディスプレイライブラリでもよいコンビナトリアルライブラリを用いて酵素特異性を識別するための基質サブトラクションライブラリの使用を記載している。ファージディスプレイに用いる洗浄剤における使用に適した酵素を選択する方法はWO97/09446に記載される。特異的に結合するタンパク質を選択する更なる方法は、米国特許第5498538号、同第5432018号、及びWO98/15833に記載されている。
ペプチドライブラリの作製及びこれらのライブラリのスクリーニングの方法は、米国特許第5723286号、同第5432018号、同第5580717号、同第5427908号、同第5498530号、同第5770434号、同第5734018号、同第5698426号、同第5763192号、及び同第5723323号に記載される。
PIK3R3ペプチドは、誘導系を介しても発現される。本発明は、誘導性選択可能ベクター系であるpHUSH−ProExを提供する。pHUSH−ProExはまた、活性なウイルス粒子にパッケージすることができる。pHUSH−ProExの有用性は、本発明のPIK3R3オリゴペプチド又はPIK3R3ポリペプチドの有用な断片と組み合わせ、PIK3R3断片又はPIK3R3オリゴペプチドを発現させて、PIK3R3ポリペプチド又はその断片が細胞増殖に対して持つ影響を阻害することにより見出される。
C.PIK3R3小分子
PIK3R小分子とは、ここに定義されるようなPIK3R3ポリペプチドに、好ましくは特異的に結合する、ここに定義されるようなオリゴペプチド又は抗体以外の小分子である。PIK3R3結合有機小分子は既知の方法(例えばPCT公開第WO00/00823及びWO00/39585号参照)を用いて同定され、化学的に合成されうる。PIK3R3結合小分子は通常、約500ダルトンの大きさであり、あるいは約1500、750、500、250又は200ダルトンの大きさであり、ここに記載される様なPIK3R3ポリペプチドに、好ましくは特異的に結合する能力のあるこのような有機小分子は、よく知られた技術を用いて過度の実験をすることなしに同定されうる。この点において、ポリペプチド標的に結合する能力のある分子の有機小分子ライブラリを検索する技術は当分野でよく知られていることを注記する(例えばPCT公開第WO00/00823及びWO00/39585号参照)。PIK3R3結合小分子は、例えばアルデヒド、ケトン、オキシム、ヒドラゾン、セミカルバゾン、カルバジド、一級アミン、二級アミン、三級アミン、N置換ヒドラジン、ヒドラジド、アルコール、エーテル、チオール、チオエーテル、ジスルフィド、カルボン酸、エステル、アミド、尿素、カルバミン酸塩、炭酸塩、ケタール、チオケタール、アセタール、チオアセタール、ハロゲン化アリール、アリールスルホン酸、ハロゲン化アルキル、アルキルスルホン酸、芳香族化合物、複素環化合物、アニリン、アルケン、アルキン、ジオール、アミノアルコール、オキサゾリジン、オキサゾリン、チアゾリジン、チアゾリン、エナミン、スルホンアミド、エポキシド、アジリジン、イソシアン酸塩、塩化スルホニル、ジアゾ化合物、酸塩化物等であり得る。
D.所望の特性を有するPIK3R3結合オリゴペプチド、PIK3R3小分子及びPIK3R3 RNAiのスクリーニング
PIK3R3ポリペプチドに結合する抗体、RNAi及び小分子を生成する技術を、上記にて記載した。所望するような、所定の生物学的特性を有する抗体、RNAi又は他の小分子をさらに選択することができる。
本発明のRNAi又は他の小分子の成長阻害効果を、例えば、内因的又はPIK3R3遺伝子によるトランスフェクション後のいずれかでPIK3R3ポリペプチドを発現する細胞を用いる当該分野で周知の方法によって評価することができる。例えば、適切な腫瘍細胞株及びPIK3R3ポリペプチド形質移入細胞は、数日間(例えば、2−7)、種々の濃度の本発明のPIK3R3 RNAi又は他の小分子で処理し、クリスタル・バイオレット又はMTTで染色、又は幾つかの他の比色アッセイによって分析し得る。増殖を測定するその他の方法は、本発明のPIK3R3 RNAi又はPIK3R3結合小分子の存在又は非存在下で処理した細胞のH-チミジン取り込みを比較することによる。処理の後、細胞を収集し、DNAへ取り込まれた放射能をシンチレーションカウンターで定量化した。適切なポジティブコントロールには、細胞株の成長を阻害することが知られている成長阻害抗体でその選択した細胞株を処理することが含まれる。インビボでの成長阻害は、当該分野で知られている種々の方法で確かめることができる。好ましくは、腫瘍細胞は、PIK3R3ポリペプチドを過剰発現するものである。好ましくは、PIK3R3 RNAi又はPIK3R3結合小分子は、ある実施形態では約0.5から30μg/mlの抗体濃度で、未処理腫瘍細胞と比べて約25−100%、より好ましくは約30−100%、そしてさらにより好ましくは約50−100%又は70−100%のPIK3R3を発現する腫瘍細胞の増殖をインビトロ又はインビボで阻害する。
細胞死を誘発するPIK3R3 RNAi又はPIK3R3結合小分子を選択するために、例えばヨウ化プロピジウム(PI)、トリパンブルー又は7AADの取込みにより示される膜インテグリティの損失度合いを対照と比較して求める。PI取込みアッセイは、相補鎖及び免疫エフェクター細胞の不在下で行われる。PIK3R3ポリペプチド発現細胞腫瘍細胞を、培地のみ、又は適切なPIK3R3 RNAi又はPIK3R3結合小分子を含有する培地でインキュベートする。細胞を約3日間インキュベートする。各処理に続いて、細胞を洗浄し、細胞凝塊除去のために35mmのストレーナキャップ付き12×75チューブ(チューブ当たり1ml、処理グループ当り3チューブ)に等分する。次いで、チューブへPI(10μg/ml)を与える。サンプルをFACSCAN(登録商標)フローサイトメータとFACSCONVERT(登録商標)セルクエスト(CellQuest)ソフトウエア(Becton Dickinson)を使用して分析してもよい。PI取込みによって測定されるような、統計的に有意なレベルの細胞死を誘発するPIK3R3 RNAi又はPIK3R3結合小分子は、細胞死誘発PIK3R3 RNAi又はPIK3R3結合小分子として選択することができる。
関心のある抗体が結合したPIK3R3ポリペプチド上のエピトープに結合するオリゴペプチド又は他の小分子をスクリーニングするために、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow及びDavid Lane編(1988)に記載されているような通常の交差ブロッキングアッセイを実施することができる。このアッセイを用いて、既知の抗PIK3R3抗体のように、試験オリゴペプチド又は他の小分子が同じ部位又はエピトープと結合するかどうかを決定することができる。
E.完全長PIK3R3ポリペプチド
本発明はまた、本明細書においてPIK3R3ポリペプチドと呼ばれるポリペプチドをコードする新規に同定されて単離されたヌクレオチド配列を提供する。特に、後述の実施例で開示されるように、様々なPIK3R3ポリペプチドをコードするcDNA(部分的な及び完全長の)が同定され、単離された。
後述の実施例で開示されるように、様々なcDNAクローンが記載される。常套的な技術を使用して、ヌクレオチド配列から、予測されるアミノ酸配列を決定することができる。ここに記載するPIK3R3ポリペプチド及びコード化核酸について、幾つかの事例で、本発明者らは、その時点で利用できる配列情報により最も同定可能であったリーディングフレームと思われるものを同定した。
F.PIK3R3ポリペプチド変異体
ここに記載した完全長天然配列PIK3R3ポリペプチドに加えて、PIK3R3ポリペプチド変異体も調製できると考えられる。PIK3R3ポリペプチド変異体は、コード化DNAに適当なヌクレオチド変化を導入することによって、及び/又は所望のポリペプチドを合成することによって調製できる。当業者は、アミノ酸変化がグリコシル化部位の数又は位置の変化あるいは膜固着特性の変化などのPIK3R3ポリペプチドの翻訳後プロセスを変え得るのを理解するであろう。
ここに記載したPIK3R3ポリペプチドの変異は、例えば、米国特許第5364934号に示す保存的及び非保存的変異に関する技術及び指針のいずれかを用いて作成することができる。変異は、結果として天然配列ポリペプチドと比較してアミノ酸配列の変化を生じる、ポリペプチドをコードする一又は複数のコドンの置換、欠失又は挿入であってもよい。場合によっては、変異は、PIK3R3ポリペプチドの一つ又は複数のドメインにおける、少なくとも一つのアミノ酸の他の任意のアミノ酸との置換による。どのアミノ酸残基が所望の活性に悪影響を与えることなく挿入、置換又は欠失され得るかを確かめる指針は、PIK3R3ポリペプチドの配列を既知の相同タンパク質分子の配列と比較し、相同性の高い領域内で生じたアミノ酸配列変化の数を最小にすることによって見出される。アミノ酸置換は、一のアミノ酸を類似した構造及び/又は化学特性を持つ他のアミノ酸で置換すること、例えばロイシンのセリンでの置換、即ち保存的アミノ酸置換の結果であるとすることができる。挿入及び欠失は、場合によっては1から5のアミノ酸の範囲内であり得る。許容され得る変異は、配列にアミノ酸の挿入、欠失又は置換を系統的に作成し、生じた変異体を、完全長又は成熟した天然配列によって示される活性に関して試験することによって確かめられる。
PIK3R3ポリペプチド断片がここで提供されている。そのような断片は、例えば完全長天然タンパク質と比較した時に、N末端又はC末端で切断しているか、又は内部残基を欠いている可能性がある。ある断片は、PIK3R3ポリペプチドの所望される生物学的活性にとって必修ではないアミノ酸残基を欠く。
PIK3R3ポリペプチド断片は、多くの従来技術のいずれかによって調製してもよい。所望のペプチド断片は化学合成してもよい。代替的方法には、酵素的消化、例えば特定のアミノ酸残基で確定した部位でタンパク質を切断することが知られた酵素によってタンパク質を処理することで、又は適当な制限酵素でDNAを消化して所望の断片を単離することによってポリペプチド断片を生成することが含まれる。さらにその他の好適な技術には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、所望のポリペプチド断片をコードするDNA断片を単離し増幅することが含まれる。DNA断片の所望の末端を確定するオリゴヌクレオチドは、PCRの5’及び3’プライマーで用いられる。好ましくは、PIK3R3ポリペプチド断片は、ここに開示した天然PIK3R3ポリペプチドと少なくとも1つの生物学的及び/又は免疫学的活性を共有する。
特定の実施形態では、対象とする保存的置換を、好ましい置換の項目で表5に示す。このような置換が生物学的活性の変化をもたらす場合、表5に例示的置換と名前を付けた又は以下にアミノ酸分類でさらに記載するように、より実質的な変化が導入され生成物がスクリーニングされる。
PIK3R3ポリペプチドの機能又は免疫学的同一性の実質的修飾は、(a)置換領域のポリペプチド骨格の構造、例えばシート又は螺旋配置、(b)標的部位の電荷又は分子疎水性、又は(c)側鎖の嵩を維持しながら、それらの効果において有意に異なる置換基を選択することにより達成される。共通の側鎖特性に基づいて天然に発生する残基をグループ分けすることができる:
(1)疎水性: ノルロイシン、Met, Ala, Val, Leu, Ile;
(2)中性親水性: Cys, Ser, Thr
(3)酸性: Asp, Glu;
(4)塩基性: Asn, Gln, His, Lys, Arg;
(5)鎖の方向に影響する残基: Gly, Pro;
(6)芳香性: Trp, Tyr, Phe
非保存的置換は、これらの分類の1つのメンバーを他の分類に交換することを必要とするであろう。また、そのように置換された残基は、保存的置換部位、又はより好ましくは、残された(非保存)部位に導入されうる。
変異は、オリゴヌクレオチド媒介(部位特異的)突然変異誘発、アラニンスキャンニング、及びPCR突然変異誘発等のこの分野で知られた方法を用いてなすことができる。部位特異的突然変異誘発[Carter等, Nucl. Acids Res., 13: 4331 (1986); Zoller等, Nucl. Acids Res., 10: 6487 (1987)]、カセット突然変異誘発[Wells等, Gene, 34: 315 (1985)]、制限的選択突然変異誘発[Wells等, Philos. Trans. R. Soc. London SerA, 317: 415 (1986)]又は他の知られた技術をクローニングしたDNAに実施して、PIK3R3ポリペプチド変異体DNAを作成することもできる。
また、隣接配列に沿って一又は複数のアミノ酸を同定するのにスキャンニングアミノ酸分析を用いることができる。好ましいスキャンニングアミノ酸は比較的小さく、中性のアミノ酸である。そのようなアミノ酸は、アラニン、グリシン、セリン、及びシステインを含む。アラニンは、ベータ炭素を越える側鎖を排除し変異体の主鎖構造を変化させにくいので、この群の中で典型的に好ましいスキャンニングアミノ酸である[Cunningham及びWells, Science, 244: 1081-1085 (1989)]。また、アラニンは最もありふれたアミノ酸であるため典型的には好ましい。さらに、それは埋もれた及び露出した位置の両方に見られることが多い[Creighton, The Proteins, (W.H. Freeman & Co., N.Y.); Chothia, J. Mol. Biol., 150: 1 (1976)]。アラニン置換が十分な量の変異体を生じない場合は、アイソテリック(isoteric)アミノ酸を用いることができる。
PIK3R3ポリペプチドの適切なコンフォメーションを維持することに関与していない任意のシステイン残基も、分子の酸化的安定性を向上させ、異常な架橋を防ぐために、概してセリンと置換され得る。逆に、PIK3R3ポリペプチドの安定性を向上させるために、それにシステイン結合(複数でも)を加えてもよい。
G.PIK3R3ポリペプチドの調製
以下の説明は、主として、PIK3R3ポリペプチドコード化核酸を含むベクターで形質転換又は形質移入された細胞を培養することによりPIK3R3ポリペプチドを産生させる方法に関する。勿論、当該分野においてよく知られている他の方法を用いてPIK3R3ポリペプチドを調製することができると考えられている。例えば、適切なアミノ酸配列、又はその一部分を、固相技術を用いた直接ペプチド合成によって生成してもよい[例えば、Stewart等, Solid-Phase Peptide Synthesis, W.H. Freeman Co., サン フランシスコ, カリフォルニア(1969);Merrifield, J. Am. Chem. Soc., 85:2149-2154 (1963)参照]。手動技術又は自動を使用することによってインビトロタンパク質合成を行ってもよい。自動合成は、例えば、アプライド・バイオシステムズ・ペプチド合成機(フォスター シティー, カリフォルニア)を用いて、製造者の指示によって実施してもよい。PIK3R3ポリペプチドの種々の部分を別々に化学的に合成し、化学的又は酵素的方法を用いて結合させて所望するPIK3R3ポリペプチドを生成させてもよい。
1.PIK3R3ポリペプチドをコードするDNAの単離
PIK3R3ポリペプチドをコードするDNAは、PIK3R3ポリペプチドmRNAを保有していてそれを検出可能なレベルで発現すると考えられる組織から調製されたcDNAライブラリから得ることができる。従って、ヒトPIK3R3ポリペプチドDNAは、ヒトの組織から調製されたcDNAライブラリから簡便に得ることができる。またPIK3R3ポリペプチド-コード化遺伝子は、ゲノムライブラリから又は公知の合成方法(例えば、自動核酸合成)により得ることもできる。
ライブラリは、対象となる遺伝子あるいはその遺伝子によりコードされるタンパク質を同定するために設計されたプローブ(少なくとも約20-80塩基のオリゴヌクレオチド等)によってスクリーニングできる。選択されたプローブによるcDNA又はゲノムライブラリのスクリーニングは、例えばSambrook等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual(New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に記載されている標準的な手順を使用して実施することができる。PIK3R3ポリペプチドをコードする遺伝子を単離する他の方法は、PCR法を使用するものである[Sambrook等,上掲;Dieffenbach等, PCR Primer:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1995)]。
cDNAライブラリをスクリーニングするための技術は、当該分野で良く知られている。プローブとして選択されたオリゴヌクレオチド配列は、疑陽性が最小化されるよう十分な長さであり、十分に明瞭でなければならない。オリゴヌクレオチドは、スクリーニングされるライブラリ内のDNAとのハイブリダイゼーション時に検出可能であるように標識されていることが好ましい。標識化の方法は当該分野において良く知られており、32P標識ATPのような放射線標識、ビオチン化あるいは酵素標識の使用を含む。中程度のストリンジェンシー及び高度のストリンジェンシーを含むハイブリダイゼーション条件は、上掲のSambrookら,に示されている。
このようなライブラリスクリーニング法において同定された配列は、GenBankらの公共データベース又は他の個人の配列データベースに寄託され利用可能となっている他の周知の配列と比較及びアラインメントすることができる。分子の決定された領域内の又は完全長配列に渡っての(アミノ酸又はヌクレオチドレベルのいずれかでの)配列同一性は、当該分野で知られた、及びここに記載した方法を用いて決定することができる。
タンパク質コード化配列を有する核酸は、初めてここで開示された推定アミノ酸配列を使用し、また必要ならば、cDNAに逆転写されていないmRNAの生成中間体及び先駆物質を検出する上掲のSambrook等に記述されているような従来のプライマー伸展法を使用して、選択されたcDNA又はゲノムライブラリをスクリーニングすることによって得られる。
2.宿主細胞の選択及び形質転換
宿主細胞を、ここに記載したPIK3R3ポリペプチド生成のための発現又はクローニングベクターで形質移入又は形質転換し、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために適当に変性された常套的栄養培地で培養する。培養条件、例えば培地、温度、pH等々は、過度の実験をすることなく当業者が選ぶことができる。一般に、細胞培養の生産性を最大にするための原理、プロトコール、及び実用技術は、Mammalian Cell Biotechnology: a Practical Approach, M.Butler編 (IRL Press, 1991)及び上掲のSambrook等に見出すことができる。
真核生物細胞形質移入及び原核生物細胞形質転換の方法、例えば、CaCl、CaPO、リポソーム媒介及びエレクトロポレーションは当業者に知られている。用いられる宿主細胞に応じて、その細胞に対して適した標準的な方法を用いて形質転換はなされる。前掲のSambrook等に記載された塩化カルシウムを用いるカルシウム処理又はエレクトロポレーションが、一般的に原核生物に対して用いられる。アグロバクテリウム・トゥメファシエンスによる感染が、Shaw等, Gene, 23:315(1983)及び1989年6月29日公開の国際公開89/05859に記載されているように、或る種の植物細胞の形質転換に用いられる。このような細胞壁のない哺乳動物の細胞に対しては、Graham及びvan der Eb, Virology, 52:456-457 (1978)のリン酸カルシウム沈降法が用いられる。哺乳動物細胞の宿主系形質転換の一般的な態様は米国特許第4399216号に記載されている。酵母菌中への形質転換は、典型的には、Van Solingen等, J. Bact., 130:946 (1977)及びHsiao等, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA), 76:3829 (1979)の方法に従って実施される。しかしながら、DNAを細胞中に導入する他の方法、例えば、核マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、無傷の細胞、又はポリカチオン、例えばポリブレン、ポリオルニチン等を用いる細菌プロトプラスト融合もまた用いることもできる。哺乳動物細胞を形質転換するための種々の技術については、Keown等, Methods in Enzymology, 185:527-537 (1990)及び Mansour等, Nature, 336:348-352 (1988)を参照のこと。
ここに記載のベクターにDNAをクローニングあるいは発現するために適切な宿主細胞は、原核生物、酵母菌、又は高等真核生物細胞である。適切な原核生物には、限定するものではないが、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性微生物、例えば大腸菌のような腸内細菌科が含まれる。種々の大腸菌株が公に利用可能であり、例えば、大腸菌K12株MM294(ATCC31446);大腸菌X1776(ATCC31537);大腸菌株W3110(ATCC27325)及びK5772(ATCC53635)である。他の好ましい原核動物宿主細胞は、大腸菌属、例えば大腸菌(E. coli)、エンテロバクター、エルビニア(Erwinia)、クレブシエラ(Klebsiella)、プロテウス(Proteus)、サルモネラ、例えばネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)、セラチア、例えばセラチア・マルセサンス(Serratia marcescans) 、及び赤痢菌、並びに桿菌、例えばバチルス・スブチルス(B. subtilis)及びバチルス・リチェニフォルミス(B. licheniformis)(例えば、1989年4月12日発行のDD266710に記載されたバチルス・リチェニフォルミス41P)、シュードモナス、例えば緑膿菌及びストレプトマイセスなどの腸内細菌科を含む。これらの例は限定ではなく例示である。株W3110は、組換えDNA生成物発酵のための共通の宿主株であるので一つの特に好ましい宿主又は親宿主である。好ましくは、宿主細胞は最小量のタンパク質分解酵素を分泌する。例えば、株W3110を、宿主にとって内因性のタンパク質をコードする遺伝子の遺伝子変異をもたらすように修飾してもよく、そのような宿主の例としては、完全な遺伝子型tonAを有する大腸菌W3110株1A2;完全な遺伝子型tonA ptr3を有する大腸菌W3110株9E4;完全な遺伝子型tonA ptr3 phoA E15 (argF−lac)169 degP ompT kanrを有する大腸菌W3110株27C7(ATCC 55,244);完全な遺伝子型tonA ptr3 phoA E15 (argF-lac)169 degP ompT rbs7 ilvG kanrを有する大腸菌W3110株37D6;非カナマイシン耐性degP欠失変異を持つ37D6株である大腸菌W3110株40B4;及び1990年8月7日発行の米国特許第4946783号に開示された変異周辺質プロテアーゼを有する大腸菌株を含む。あるいは、クローニングのインビトロ法、例えばPCR又は他の核酸ポリメラーゼ反応が好ましい。
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、抗PIK3R3抗体又はPIK3R3ポリペプチドコード化ベクターのための適切なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレヴィシアは、通常用いられる下等真核生物宿主微生物である。他に、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)(Beach及びNurse, Nature, 290: 140 [1981]; 1985年5月2日公開の欧州特許第139383号);クリュイベロミセス宿主(Kluyveromyces hosts)(米国特許第4943529号; Fleer等, Bio/Technology, 9: 968-975 (1991))、例えばクリュイベロミセスラクチス(K. lactis)(MW98-8C, CBS683, CBS4574; Louvencourt等, J. Bacteriol., 154(2): 737-742 [1983])、クリュイベロミセス・フラギリス(K. fragilis)(ATCC12424)、クリュイベロミセス・ブルガリクス(K. bulgaricus)(ATCC16045)、クリュイベロミセス・ウィケラミイ(K. wickeramii)(ATCC24178)、クリュイベロミセス・ワルチイ(K. waltii)(ATCC56500)、クリュイベロミセス・ドロソフィラルム(K. drosophilarum)(ATCC36906; Van den Berg等, Bio/Technology, 8: 135 (1990))、クリュイベロミセス・テモトレランス(K. thermotolerans)及びクリュイベロミセス・マルキシアナス(K. marxianus);ヤロウィア(yarrowia)(欧州特許第402226号);ピシア・パストリス(Pichia pastoris)(欧州特許第183070号; Sreekrishna等, J. Basic Microbiol, 28: 265-278 [1988]);カンジダ;トリコデルマ・レーシア(Trichoderma reesia)(欧州特許第244234号);アカパンカビ(Case等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76: 5259-5263 [1979]);シュワニオマイセス(Schwanniomyces)、例えばシュワニオマイセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)(1990年10月31日公開の欧州特許第394538号);及び糸状真菌、例えば、ニューロスポラ、ペニシリウム、トリポクラジウム(Tolypocladium)(1991年1月10日公開の国際公開91/00357);及びアスペルギルス宿主、例えばアスペルギルス・ニダランス(Ballance等, Biochem. Biophys. Res. Commun., 112: 284-289 [1983]; Tilburn等, Gene, 26: 205-221 [1983]; Yelton等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 1470-1474 [1984])及びアスペルギルス・ニガー(Kelly及びHynes, EMBO J., 4: 475-479 [1985])が含まれる。ここで好ましいメチロトロピック(C1化合物資化性、Methylotropic)酵母は、これらに限られないが、ハンセヌラ(Hansenula)、カンジダ、クロエケラ(Kloeckera)、ピシア(Pichia)、サッカロミセス、トルロプシス(Torulopsis)、及びロドトルラ(Rhodotorula)からなる属から選択されたメタノールで成長可能な酵母を含む。この酵母の分類の例示である特定の種のリストは、C. Anthony, The Biochemistry of Methylotrophs, 269 (1982)に記載されている。
グリコシル化PIK3R3ポリペプチドの発現に適した宿主細胞は、多細胞生物から由来のものである。非脊椎動物細胞の例には、植物細胞、例えば綿、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト及びタバコの細胞培養と同様に、ショウジョウバエS2及びヨトウ(spodoptera)Sf9等の昆虫細胞が含まれる。多くのバキュロウイルス株及び変異体、及びヨトウガ(Spodoptera frugiperda)(幼虫(caterpillar))、ネッタイシマカ(蚊)、ヒトスジシマカ(蚊)、キイロショウジョウバエ(ショウジョウバエ)、及びカイコ等の宿主に対応する許容性昆虫宿主細胞が同定されている。種々のトランスフェクション用のウイルス株、例えばオートグラファ・カルフォルニカ(Autographa californica)NPVのL−1変異株、カイコNPVのBm-5株が公に入手でき、このようなウイルスは、本発明に係るウイルスとして、特に、ヨトウガ細胞のトランスフェクションのために使用してもよい。
しかし、最大の関心は脊椎動物細胞に向けられ、培養(組織培養)した脊椎動物細胞の増殖がルーチン作業となった。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40(COS−7,ATCC CRL1651)で形質転換させたサル腎CV1細胞株;ヒト胚芽腎細胞株(293又は懸濁培養で成長するようにサブクローン化された293細胞,Graham等,J.Gen Virol.,36:59 (1977));ベビーハムスター腎細胞(BHK,ATCC CCL10);チヤイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO,Urlaub等, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216 (1980));マウスセルトリ細胞(TM4,Mather,Biol.Reprod.,23:243-251 (1980));サル腎細胞(CV1 ATCC CCL70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO−76,ATCC CRL-1587);ヒト頚管腫瘍細胞(HELA,ATCC CCL2);イヌ腎細胞(MDCK,ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A,ATCC CRL1442);ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL75);ヒト肝細胞(Hep G2,HB 8065);マウス乳房腫瘍細胞(MMT 060562,ATCC CCL51);TRI細胞(Mather等,Annals N.Y.Acad.Sci.,383:44-68 (1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝臓癌細胞(HepG2)である。
宿主細胞は、PIK3R3ポリペプチド生成のために上述の発現又はクローニングベクターで形質転換され、プロモーターを誘発し、形質転換体を選出し、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために適切に修正した通常の栄養培地で培養される。
3.複製可能なベクターの選択及び使用
PIK3R3ポリペプチドをコードする核酸(例えば、cDNA又はゲノムDNA)は、クローニング(DNAの増幅)又は発現のために複製可能なベクター内に挿入される。様々なベクターが公的に入手可能である。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス粒子、又はファージの形態とすることができる。適切な核酸配列が、種々の手法によってベクターに挿入される。一般に、DNAはこの分野で周知の技術を用いて適当な制限エンドヌクレアーゼ部位に挿入される。ベクター成分としては、一般に、これらに制限されるものではないが、一又は複数のシグナル配列、複製開始点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列を含む。これらの成分の一又は複数を含む適当なベクターの作成には、当業者に知られた標準的なライゲーション技術を用いる。
PIK3R3は直接的に組換え手法によって生成されるだけではなく、シグナル配列あるいは成熟タンパク質あるいはポリペプチドのN-末端に特異的切断部位を有する他のポリペプチドである異種性ポリペプチドとの融合ペプチドとしても生成される。一般に、シグナル配列はベクターの成分であるか、ポリペプチドの一部である。シグナル配列は、例えばアルカリフォスファターゼ、ペニシリナーゼ、lppあるいは熱安定性エンテロトキシンIIリーダーの群から選択される原核生物シグナル配列であってよい。酵母の分泌に関しては、シグナル配列は、酵母インベルターゼリーダー、アルファ因子リーダー(酵母菌属(Saccharomyces)及びクリュイベロミセス(Kluyveromyces)α因子リーダーを含み、後者は米国特許第5,010,182号に記載されている)、又は酸ホスフォターゼリーダー、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)グルコアミラーゼリーダー(1990年4月4日発行の欧州特許第362179号)、又は1990年11月15日に公開された国際公開90/13646に記載されているシグナルであり得る。哺乳動物細胞の発現においては、哺乳動物シグナル配列は、同一あるいは関連種の分泌ポリペプチド由来のシグナル配列並びにウイルス分泌リーダーのようなタンパク質の直接分泌に使用してもよい。
発現及びクローニングベクターは共に一又は複数の選択された宿主細胞においてベクターの複製を可能にする核酸配列を含む。そのような配列は多くの細菌、酵母及びウイルスについてよく知られている。プラスミドpBR322に由来する複製開始点は大部分のグラム陰性細菌に好適であり、2μプラスミド開始点は酵母に適しており、様々なウイルス開始点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV又はBPV)は哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。
発現及びクローニングベクターは、典型的には、選べるマーカーとも称される選択遺伝子を含む。典型的な選択遺伝子は、(a)アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートあるいはテトラサイクリンのような抗生物質あるいは他の毒素に耐性を与え、(b)栄養要求性欠陥を補い、又は(c)複合培地から得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードしており、例えばバシリのD-アラニンラセマーゼをコードする遺伝子がある。
哺乳動物細胞に適切な選べるマーカーの例は、DHFRあるいはチミジンキナーゼのように、PIK3R3ポリペプチド-コード化核酸を取り込むことのできる細胞成分を同定することのできるものである。野生型DHFRを用いた場合の好適な宿主細胞は、Urlaub等により, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980)に記載されているようにして調製され増殖されたDHFR活性に欠陥のあるCHO株化細胞である。酵母菌中での使用に好適な選択遺伝子は酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である[Stinchcomb等, Nature, 282:39(1979);Kingsman等, Gene, 7:141(1979);Tschemper等, Gene, 10:157(1980)]。trp1遺伝子は、例えば、ATCC番号44076あるいはPEP4-1のようなトリプトファンで成長する能力を欠く酵母菌の突然変異株に対する選択マーカーを提供する[Jones, Genetics, 85:12 (1977)]。
発現及びクローニングベクターは、通常、PIK3R3ポリペプチド-コード化核酸配列に作用可能に結合し、mRNA合成を方向付けるプロモーターを含む。種々の有能な宿主細胞により認識されるプロモーターが知られている。原核生物宿主との使用に適したプロモーターはβ-ラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系[Chang等, Nature, 275:615 (1978); Goeddel等, Nature, 281:544 (1979)]、アルカリフォスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系[Goeddel, Nucleic Acids Res., 8:4057 (1980); 欧州特許第36,776号]、及びハイブリッドプロモーター、例えばtacプロモーター[deBoer等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80:21-25 (1983)]を含む。細菌系で使用するプロモーターもまたPIK3R3ポリペプチドをコードするDNAと作用可能に結合したシャイン・ダルガーノ(S.D.)配列を有する。
酵母宿主との使用に適したプロモーター配列の例としては、3-ホスホグリセラートキナーゼ[Hitzeman 等, J. Biol. Chem., 255:2073 (1980)]又は他の糖分解酵素[Hess 等, J. Adv. Enzyme Reg., 7:149 (1968);Holland, Biochemistry, 17:4900(1978)]、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセレートムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオセリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼが含まれる。
他の酵母プロモーターとしては、成長条件によって転写が制御される付加的効果を有する誘発的プロモーターであり、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロムC、酸フォスファターゼ、窒素代謝と関連する分解性酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、及びマルトース及びガラクトースの利用を支配する酵素のプロモーター領域がある。酵母菌での発現に好適に用いられるベクターとプロモーターは欧州特許第73657号に更に記載されている。
哺乳動物の宿主細胞におけるベクターからのPIK3R3ポリペプチド転写は、例えば、ポリオーマウイルス、伝染性上皮腫ウイルス(1989年7月5日公開の英国特許第2211504号)、アデノウイルス(例えばアデノウイルス2)、ウシ乳頭腫ウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス及びサルウイルス40(SV40)のようなウイルスのゲノムから得られるプロモーター、異種性哺乳動物プロモーター、例えばアクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーター、及び熱衝撃プロモーターから得られるプロモーターによって、このようなプロモーターが宿主細胞系に適合し得る限り制御される。
より高等の真核生物によるPIK3R3ポリペプチドをコードするDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって増強され得る。エンハンサーは、通常は約10から300塩基対で、プロモーターに作用してその転写を増強するDNAのシス作動要素である。哺乳動物遺伝子由来の多くのエンハンサー配列が現在知られている(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン及びインスリン)。しかしながら、典型的には、真核細胞ウイルス由来のエンハンサーが用いられるであろう。例としては、複製開始点の後期側のSV40エンハンサー(100−270塩基対)、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製開始点の後期側のポリオーマエンハンサー及びアデノウイルスエンハンサーが含まれる。エンハンサーは、PIK3R3ポリペプチドコード化配列の5’又は3’位でベクター中にスプライシングされ得るが、好ましくはプロモーターから5’位に位置している。
また真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、又は他の多細胞生物由来の有核細胞)に用いられる発現ベクターは、転写の終結及びmRNAの安定化に必要な配列も含む。このような配列は、真核生物又はウイルスのDNA又はcDNAの通常は5’、時には3’の非翻訳領域から取得できる。これらの領域は、PIK3R3ポリペプチドをコードするmRNAの非翻訳部分にポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含む。
組換え脊椎動物細胞培養でのPIK3R3ポリペプチドの合成に適応化するのに適切な他の方法、ベクター及び宿主細胞は、Gething等, Nature, 293:620-625 (1981); Mantei等, Nature, 281:40-46 (1979); 欧州特許第117060号;及び欧州特許第117058号に記載されている。
4.宿主細胞の培養
本発明のPIK3R3ポリペプチドを生成するために用いられる宿主細胞は種々の培地において培養することができる。市販培地の例としては、ハム(Ham)のF10(シグマ)、最小必須培地((MEM),シグマ)、RPMI-1640(シグマ)及びダルベッコの改良イーグル培地((DMEM),シグマ)が宿主細胞の培養に好適である。また、Ham等, Meth. Enz. 58:44 (1979), Barnes等, Anal. Biochem. 102:255 (1980), 米国特許第4767704号;同4657866号;同4927762号;同4560655号;又は同5122469号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;又は米国特許再発行第30985号に記載された任意の培地も宿主細胞に対する培養培地として使用できる。これらの培地はいずれも、ホルモン及び/又は他の成長因子(例えばインスリン、トランスフェリン、又は表皮成長因子)、塩類(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、バッファー(例えばHEPES)、ヌクレオシド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、ゲンタマイシン(商品名)薬)、微量元素(マイクロモル範囲の最終濃度で通常は存在する無機化合物として定義される)及びグルコース又は同等のエネルギー源を必要に応じて補充することができる。任意の他の必要な補充物質もまた当業者に知られている適当な濃度で含まれてもよい。培養条件、例えば温度、pH等々は、発現のために選ばれた宿主細胞について以前から用いられているものであり、当業者には明らかであろう。
5.遺伝子増幅/発現の検出
遺伝子の増幅及び/又は発現は、ここで提供された配列に基づき、適切に標識されたプローブを用い、例えば、従来よりのサザンブロット法、mRNAの転写を定量化するノーザンブロット法[Thomas, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,77:5201-5205 (1980)]、ドットブロット法(DNA分析)、又はインサイツハイブリダイゼーションによって、直接的に試料中で測定することができる。
あるいは、遺伝子の発現は、遺伝子産物の発現を直接的に定量化する免疫学的な方法、例えば細胞又は組織切片の免疫組織化学的染色及び細胞培養又は体液のアッセイによって、測定することもできる。試料液の免疫組織化学的染色及び/又はアッセイに有用な抗体は、モノクローナルでもポリクローナルでもよく、任意の哺乳動物で調製することができる。簡便には、抗体は、天然配列PIK3R3ポリペプチドに対して、又はここで提供されるDNA配列をベースとした合成ペプチドに対して、又はPIK3R3 DNAに融合し特異的抗体エピトープをコードする外因性配列に対して調製され得る。
6.PIK3R3ポリペプチドの精製
PIK3R3ポリペプチドの発現に用いられる細胞は、凍結融解サイクル、超音波処理、機械的破壊、又は細胞溶解剤などの種々の化学的又は物理的手段によって破壊することができる。
PIK3R3ポリペプチドは、組換え細胞タンパク又はポリペプチドから精製することが望ましい。適切な精製手順の例である次の手順により精製される:すなわち、イオン交換カラムでの分画;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカ又はカチオン交換樹脂、例えばDEAEによるクロマトグラフィー;クロマトフォーカシング;SDS-PAGE;硫酸アンモニウム沈殿;例えばセファデックスG-75を用いるゲル濾過;IgGのような汚染物を除くプロテインAセファロースカラム;及びPIK3R3ポリペプチドのエピトープタグ形態を結合させる金属キレート化カラムである。この分野で知られ、例えば、Deutscher, Methods in Enzymology, 182 (1990);Scopes, Protein Purification: Principles and Practice, Springer-Verlag, New York (1982)に記載された多くのタンパク質精製方法を用いることができる。選ばれる精製過程は、例えば、用いられる生成方法及び特に生成される特定のPIK3R3ポリペプチドの性質に依存する。
H.製薬製剤
本発明に係るPIK3R3ポリペプチド結合オリゴペプチド、PIK3R3 RNAi、PIK3R3結合小分子及び/又はPIK3R3ポリペプチドの治療的製剤は、所望される程度の純度を持つポリペプチド、オリゴペプチド、RNAi又は小分子を凍結乾燥製剤又は水性溶液の形態で、最適な製薬上許容される担体、賦形剤又は安定化剤と混合することにより調製され保存される(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th 版, Osol, A. 編. [1980])。許容される担体、賦形剤、又は安定化剤は、用いられる用量及び濃度で受容者に非毒性であり、酢酸、Tris、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド;ヘキサメトニウムクロライド;ベンズアルコニウムクロライド、ベンズエトニウムクロライド;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;トレハロース及び塩化ナトリウムなどのトニシファイヤー;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖;ポリソルベート等の界面活性剤;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/又はトゥイーン(TWEEN)(登録商標)、プルロニクス(PLURONICS)(登録商標)、又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。
ここでの製剤は、また、治療すべき特定の徴候の必要に応じて一以上の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を持つものも含んでよい。例えば、PIK3R3結合オリゴペプチド、PIK3R3 RNAi、又はPIK3R3結合小分子に加えて、1つの製剤に、例えば、PIK3R3核酸上の異なる領域と結合する第二PIK3R3 RNAi等の、又は特定の癌の成長に影響を与える成長因子のような何らかの他の標的に対する、追加のRNAiを含めることは望ましい。あるいは、又はさらに、この組成物は、更に化学療法剤、細胞障害性剤、サイトカイン、成長阻害剤、抗-ホルモン剤、及び/又は心臓保護剤を含んでもよい。このような分子は、意図する目的にとって有効な量の組み合わせで適切に存在する。
また、活性成分は、例えばコアセルベーション技術により又は界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えば、各々ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル中、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミン小球、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)中、又はマイクロエマルション中に包括されていてもよい。これらの技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に開示されている。
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の好適な例は、抗体又はポリペプチドを含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスを含み、このマトリクスは成形された物品、例えばフィルム、又はマイクロカプセルの形状である。徐放性マトリクスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)又はポリ(ビニルアルコール))、ポリアクチド(米国特許第3773919号)、L-グルタミン酸及びγエチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(登録商標)(乳酸-グリコール酸コポリマーと酢酸リュープロリドの注射可能な小球)などの分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、ポリ-(D)-(-)-3-ヒドロキシブチル酸が含まれる。
インビボ投与に使用される製剤は無菌でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通した濾過により容易に達成される。
I.抗PIK3R3抗体、PIK3R3結合オリゴペプチド、PIK3R3 siRNA及びPIK3R3結合小分子を用いるPIK3R3の診断及び治療
癌におけるPIK3R3発現を定量するために、種々の診断アッセイが利用可能である。一実施形態では、PIK3R3ポリペプチド過剰発現は、免疫組織化学(IHC)によって分析される。腫瘍生検からのパラフィン包埋組織切片をIHCアッセイへ供してもよいし、次のようなPIK3R3タンパク質染色強度基準と合致させてもよい:
スコア0 - 染色が観察されないか、又は膜染色が腫瘍細胞の10%未満で観察される。
スコア1+ - わずかに/弱く認知できる程度の染色が腫瘍細胞の10%を越えて検出される。細胞はそれらの膜の一部のみが染色される。
スコア2+ - 弱いないしは中程度の完全な染色が腫瘍細胞の10%を超えて観察される。
スコア3+ - 中程度から強い完全な染色が腫瘍細胞の10%を超えて観察される。
PIK3R3ポリペプチド発現に関して0又は1+スコアの腫瘍は、PIK3R3が過剰発現していないことを特徴としうるものであるのに対し、2+又は3+スコアの腫瘍はPIK3R3が過剰発現していることを特徴としうる。
別に、又は付加的に、FISHアッセイ、例えばINFORM(登録商標)(Ventana, Arizonaから販売)又はPATHVISION(登録商標)(Vysis, Illinois)を、ホルマリン固定、パラフィン包埋された腫瘍組織で実施して、腫瘍におけるPIK3R3ポリペプチド過剰発現の程度(生じているならば)を測定してもよい。
PIK3R3過剰発現又は増幅は、インビボ診断アッセイを使用して評価することができ、例えば検出される分子に結合し、検出可能な標識(例えば、放射性同位体又は蛍光標識)が付けられた分子(例えば抗体、オリゴペプチド又は小分子)を投与し、標識の局在化について患者を外部スキャニングする。
上に記載したように、本発明の抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子には、種々の非治療的用途がある。本発明の抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子は、PIK3R3ポリペプチドを発現している癌の診断及び染色にとって有用である(例えば、ラジオイメージングで)。他の細胞の精製の工程として、混合細胞の集団からPIK3R3発現細胞を死滅させて除去するために、この抗体、オリゴペプチド又は小分子は、また、例えば、ELISA又はウエスタンブロットにおいて、インビトロでPIK3R3ポリペプチドの検出及び定量化のために、細胞からPIK3R3ポリペプチドを精製又は免疫沈降するのに有用である。
現在、癌の段階に応じて、癌の治療には、次の治療:外科手術による癌組織の除去、放射線治療、及び化学治療の一つ、又はそれらを組合せたものが含まれる。抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド、siRNA又は小分子による治療は、特に、化学治療における副作用や毒素に対する耐性がない老年の患者、及び放射線治療の有用性に限界がある転移性疾患において所望されている。本発明の腫瘍標的化抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド、siRNA又は小分子は、疾患の初期診断時及び再発中におけるPIK3R3発現癌の緩和に有用である。治療用途に関しては、抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド、siRNA又は小分子は、単独で、あるいは例えば、ホルモン、抗血管形成、又は放射標識された化合物と共に、又は外科手術、寒冷療法、及び/又は放射線治療と組み合わせてもよく、使用してもよい。抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子による治療は、従来的治療の前又は後のいずれかに連続させて、他の形態の従来的治療と共に実施することができる。化学療法剤、例えばタキソテレ(登録商標)(ドセタキセル)、タキソール(登録商標)(パリクタキセル)、エストラムスチン及びミトキサントロンは、癌、特に危険性の少ない患者の癌治療に使用される。癌を治療又は緩和するための本発明の方法において、上述した一又は複数の化学療法剤による治療と組合せて、癌患者に抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子を投与することができる。特に、パリクタキセル及び改変誘導体との組合せ治療が考えられる(例えば、欧州特許第0600517号を参照のこと)。抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子は治療的有効量の化学療法剤と共に投与されるであろう。他の実施形態では、抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド、siRNA又は小分子は化学療法剤、例えばパクリタキセルの活性及び効力を高めるための化学治療と組合せて投与される。医師用卓上参考書(PDR)には、種々の癌治療に使用されるこれらの薬剤の用量が開示されている。治療的に有効な上述の化学療法剤の投薬計画及び用量は、治療される特定の癌、疾患の程度、及び当該技術分野の医師によく知られている他の因子に依存し、医師が決定することができる。
特定の一実施形態では、細胞障害剤に結合した抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子を含有する毒素コンジュゲートを患者に投与する。好ましくは、PIK3R3タンパク質に結合した免疫コンジュゲートは細胞によりインターナリゼーションし、結果として、それが結合した癌細胞の殺傷性における免疫コンジュゲートの治療的効果が向上する。好ましい実施形態では、細胞障害剤は、癌細胞内の核酸を標的とするか、又はこれに干渉する。このような細胞障害剤の例は、上述されており、メイタンシノイド、カリケアマイシン、リボヌクレアーゼ及びDNAエンドヌクレアーゼを含む。
抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子又はその免疫コンジュゲートは、公知の方法、例えばボーラス、もしくは一定時間にわたる連続注入による静脈内投与、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液包内、くも膜下腔内、経口、局所的、又は吸入経路により、ヒトの患者に投与される。抗体、オリゴペプチド又は小分子の静脈内又は皮下投与が好ましい。
他の治療計画を抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子の投与と組合せてもよい。組合せ投与には、別々の製剤又は単一の医薬製剤を使用する同時投与、及び好ましくは両方(又は全ての)活性剤が同時にその生物学的活性を働かせる時間があるいずれかの順での連続投与が含まれる。このような組合せ治療により、結果として相乗的治療効果が生じることが好ましい。
また、特定の癌に関連した他の腫瘍抗原に対する抗体の投与と共に、抗PIK3R3抗体又は抗体類、オリゴペプチド又は小分子の投与を組合せることが望ましい。
他の実施形態では、本発明の治療方法は、異なる化学療法剤の混合物の同時投与を含む、抗PIK3R3抗体(又は抗体類)、オリゴペプチド又は小分子と一又は複数の化学療法剤又は成長阻害剤との組合せ投与を含む。化学療法剤には、リン酸エストラムスチン、プレドニムスチン、シスプラチン、5-フルオロウラシル、メルファラン、シクロホスファミド、ヒドロキシ尿素及びヒドロキシ尿素タキサン類(hydroxyureataxanes)(例えばパクリタキセル及びドキセタキセル)及び/又はアントラサイクリン抗生物質が含まれる。このような化学療法剤の調製及び投与スケジュールは製造者の注意書きに従い使用されるか、又は熟練した実務者により経験的に決定される。このような化学療法の調製及び投与スケジュールは、Chemotherapy Service編 M.C.Perry, Williams & Wilkins, Baltimore, MD(1992)にも記載されている。
抗体、オリゴペプチド又は小分子は、抗ホルモン化合物;例えばタモキシフェン等の抗-エストロゲン化合物;抗-プロゲステロン、例えばオナプリストン(onapristone)(欧州特許第616812号を参照);又は抗アンドロゲン、例えばフルタミドを、このような分子に対して既知の用量で組合せてもよい。治療される癌がアンドロゲン非依存性癌である場合、患者は予め抗アンドロゲン治療を受け、癌がアンドロゲン非依存性になった後、抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子(及び場合によってはここに記載した他の薬剤)を患者に投与してもよい。
しばしば、心臓保護剤(治療に関連する心筋の機能不全を防止又は低減するため)又は一又は複数のサイトカインを患者に同時投与することも有益なことである。上述した治療摂生に加えて、抗体、オリゴペプチド又は小分子治療の前、同時又は治療後に、外科的に癌細胞を取り除くか、及び/又は放射線治療を施してもよい。上述した任意の同時投与される薬剤の適切な用量は現在使用されている量であり、抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子と薬剤の組合せ作用(相乗作用)に応じてより少なくしてもよい。
疾患の予防又は治療のための投与量及び方式は、公知の基準に従い、医師により選択されるであろう。抗体、オリゴペプチド又は小分子の適切な用量は、上記のような治療される疾患の種類、疾患の重症度及び過程、抗体、オリゴペプチド又は小分子を予防目的で投与するのか治療目的で投与するのか、過去の治療、患者の臨床歴及び抗体、オリゴペプチド又は小分子の応答性、手当てをする医師の裁量に依存するであろう。抗体、オリゴペプチド又は小分子は一度に又は一連の処置にわたって患者に適切に投与される。好ましくは、抗体、オリゴペプチド又は小分子は静脈注入又は皮下注射により投与される。疾患の種類及び重症度に応じて、例えば一又は複数の別個の投与又は連続注入のいずれであれ、体重1kg当たり約1μgないし50mg(例えば0.1−15mg/kg/用量)の抗体を患者への最初の投与量の候補とすることができる。投薬計画は、約4mg/kgの初期負荷量、続いて1週間に約2mg/kgの維持用量の抗PIK3R3抗体を投与することからなってよい。しかしながら、他の投薬計画も有効であろう。上述した因子に応じて、典型的な一日の投与量は約1μg/kgから100mg/kgあるいはそれ以上の範囲である。数日間又はそれ以上の繰り返し投与の場合、状態によっては、疾患の徴候の望ましい抑制が生じるまで処置を維持する。この治療の進行状態は、医師又は他の当業者に公知の基準をベースにした通常の方法やアッセイで容易にモニターされる。
抗体タンパク質の患者への投与の他に、本出願は遺伝子治療による抗体の投与を考察する。抗体をコードする核酸の投与は「抗体を治療的有効量で投与する」という表現に含まれる。例えば、遺伝子治療を用いた細胞内抗体の産生に関する、1996年3月14日に公開された国際公開第96/07321号を参照のこと。
核酸(場合によってはベクター内に含まれたもの)を患者の細胞に入れるために:インビボ及びエキソビボという2つの主要な方法がある。インビボ送達では、核酸は、通常は抗体が必要とされている部位に直接注入される。エキソビボ処理では、患者の細胞を取り出し、核酸をこれらの単離された細胞に導入し、修飾された細胞を患者に、直接、又は例えば患者に埋め込まれる多孔性膜にカプセル化して投与する(米国特許第4892538号及び第5283187号参照)。核酸を生細胞に導入するために利用可能な種々の技術がある。これらの技術は、核酸が培養された細胞にインビトロで移入されるか、又は対象とする宿主にインビボで移入されるかによって異なる。哺乳動物細胞にインビトロで核酸を移入するのに適した技術は、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE-デキストラン、リン酸カルシウム沈降法などの使用を含む。遺伝子のエキソビボ送達に通常用いられるベクターはレトロウイルスベクターである。
現在好まれているインビボ核酸移入技術は、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、単純ヘルペスIウイルス、又はアデノ関連ウイルス)、及び脂質ベースの系(例えば、遺伝子の脂質媒介移入に有用な脂質は、DOTMA、DOPE、及びDC-Cholである)での形質移入を含む。現在知られている遺伝子マーキング及び遺伝子治療プロトコールの概説については、Anderson等, Science, 256:808-813 (1992)を参照のこと。また、国際公開第93/25673号及びそこに引用された参考文献も参照。
本発明の抗PIK3R3抗体は、ここでの「抗体」の定義により包含される様々な形態であってよい。よって、抗体には、完全長又は無傷抗体、抗体断片、天然配列抗体又はアミノ酸変異体、ヒト化、キメラ又は融合抗体、免疫コンジュゲート、及びそれらの機能的断片が含まれる。融合抗体において、抗体配列は異種ポリペプチド配列に融合している。抗体はFc領域が修飾されて、所望のエフェクター機能を提供することができる。以下の段落に詳細に記載されるように、適切なFc領域と共に、細胞表面に結合したそのままの抗体は、例えば抗体-依存性細胞障害(ADCC)を介して又は相補鎖依存性細胞障害において相補鎖を補充することにより、又は他のいくつかのメカニズムにより、細胞障害性を誘発し得る。また、副作用及び治療による合併症を最小にするようにエフェクター機能を除去又は低減することが望ましい場合には、所定の他のFc領域が使用される。
一実施形態では、抗体は、本発明の抗体と同じエピトープとの結合に関して競合するか、又はこれに実質的に結合する。また、本発明の抗PIK3R3抗体の生物学的特徴を有する抗体、特にインビボ腫瘍ターゲティング及び任意の細胞増殖阻害又は細胞障害特性を含むものが考察される。
上述した抗体の産生方法をここで詳細に記載する。
本抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド及び小分子は、哺乳動物におけるPIK3R3を発現する癌の治療、或いは、一又は複数の癌の症状の緩和に有用である。そのような癌には、GBM、神経膠腫、星状細胞腫及び未分化星状細胞腫が含まれる。癌は前述の癌が転移したものを含む。抗体、オリゴペプチド又は小分子は、哺乳動物においてPIK3R3ポリペプチドを発現している癌細胞の少なくとも一部に結合可能である。好ましい一実施形態では、抗体、オリゴペプチド又は小分子は、インビボ又はインビトロで、PIK3R3ポリペプチドに結合すると、PIK3R3を発現する腫瘍細胞を破壊又は死滅させるか、又はこのような腫瘍細胞の成長を阻害するのに効果的である。このような抗体には、裸の抗PIK3R3抗体(いかなる薬剤にも結合していない)が含まれる。細胞傷害性又は細胞成長阻害特性を有するネイキッド抗体は、細胞障害剤と併用すると、より強く腫瘍細胞を破壊することが可能である。例えば細胞障害剤と抗体とを結合させ、ここに記載するような免疫コンジュゲートを形成させることによって、細胞障害特性を抗PIK3R3抗体に付与することができる。この細胞障害剤又は成長阻害剤は、好ましくは小分子である。毒素、例えばカリケアマイシン又はメイタンシノイド、及びそれらの類似物又は誘導体を使用することが好ましい。
本発明は、本発明の抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド、siRNA又は小分子と担体を含有する組成物を提供する。癌の治療のために、組成物はその治療の必要性に応じて患者に投与することができ、ここで組成物は免疫コンジュゲート又は裸の抗体として存在する一又は複数の抗PIK3R3抗体を含有し得る。さらなる実施形態においては、組成物は、他の療法剤、例えば化学療法剤を含む成長阻害剤又は細胞障害剤とこれらの抗体、オリゴペプチド又は小分子を組合せて含有することもできる。また本発明は、本発明の抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子と担体を含有する製剤も提供する。一実施形態では、製剤は製薬的に許容可能な担体を含有する治療用製剤である。
本発明の他の態様は、抗PIK3R3抗体をコードする単離された核酸分子である。H及びL鎖、特に高頻度可変領域残基をコードする核酸、天然配列抗体及び変異体をコードする鎖、該抗体の修飾体及びヒト化形態を含む。
本発明は、抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子を治療的有効量、哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物におけるPIK3R3ポリペプチド発現癌の治療又は癌の一又は複数の徴候を緩和するのに有用な方法を提供する。抗体、オリゴペプチド又は小分子治療組成物は、医師の指示通りに、短い期間(急性)又は慢性的に、又は間欠的に投与することができる。また、PIK3R3ポリペプチドを発現する細胞の成長を阻害し、該細胞を殺傷する方法も提供される。
本発明は少なくとも一つの抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド、siRNA又は小分子を含有するキット又は製造品も提供する。抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド、siRNA又は小分子を含有するキットは、例えばPIK3R3細胞殺傷アッセイ、細胞からのPIK3R3ポリペプチドの精製又は免疫沈降における用途が見出されている。例えば、PIK3R3ドの単離及び精製のためには、キットはビーズ(例えばセファロースビース)に結合した抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子を含有することができる。インビトロにおけるPIK3R3ポリペプチドの検出及び定量化、例えばELISA又はウエスタンブロットにおける抗体、オリゴペプチド又は小分子を含有するキットを提供することもできる。検出に有用なこのような抗体、オリゴペプチド又は小分子は、蛍光又は放射標識などの標識が付されて提供され得る。
J.製造品及びキット
本発明の他の実施形態は、非ホジキンリンパ腫等の抗PIK3R3発現癌の治療に有用な物質を含有する製造品である。この製造品は容器と容器に付与又は添付されるラベル又はパッケージ挿入物を含んでなる。好適な容器は、例えば、ビン、バイアル、シリンジ等を含む。容器は、ガラス又はプラスチックなどの多様な材料から形成されてよい。容器は、癌の状態の治療に有効な組成物を収容し、無菌のアクセスポートを有し得る(例えば、容器は皮下注射針で貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグ又はバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも一つの活性剤は本発明の抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子である。ラベル又はパッケージ挿入物は、組成物が癌の治療のために使用されることを示す。ラベル又はパッケージ挿入物は、癌患者に抗体、オリゴペプチド又は小分子組成物を投与する際の注意書きをさらに含む。製造品はさらに、製薬的に許容可能なバッファー、例えば注射用の静菌水(BWFI)、リン酸緩衝塩水、リンガー液及びデキストロース溶液を含む第2の容器を具備してもよい。さらに、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針及びシリンジを含む商業的及び使用者の見地から望ましい他の材料を含んでもよい。
種々の目的、例えばPIK3R3発現細胞殺傷アッセイ、細胞からのPIK3R3ポリペプチドの精製又は免疫沈降に有用なキットも提供される。PIK3R3ポリペプチドの単離及び精製において、キットはビーズ(例えばセファロースビーズ)に結合した抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド、siRNA又は小分子を含むことが可能である。インビトロにおけるPIK3R3ポリペプチドの検出及び定量化、例えばELISA又はウエスタンブロットのための抗体、オリゴペプチド又は小分子を含むキットを提供することもできる。製造品と同様、キットも容器と容器に付与又は添付されるラベル又は能書を含んでなる。容器には少なくとも1つの本発明の抗PIK3R3抗体、オリゴペプチド又は小分子を含有する組成物が収容されている。希釈液及びバッファー、コントロール抗体等を収容する付加的な容器を具備していてもよい。ラベル又は能書は、組成物についての記載、並びに意図するインビトロ又は診断での使用に関する注意書きを提供するものである。
K.PIK3R3ポリペプチド及びPIK3R3-ポリペプチドコード核酸の用途
PIK3R3ポリペプチドをコードする核酸配列(又はそれらの相補鎖)は、ハイブリダイゼーションプローブとしての使用を含む分子生物学の分野において、染色体及び遺伝子マッピングにおいて、及びアンチセンスRNA、siRNA及びDNAプローブの生成において種々の用途を有している。また、PIK3R3コード化核酸は、ここに記載される組換え技術によるPIK3R3ポリペプチドの調製に有用であり、これらPIK3R3ポリペプチドは、例えば、ここで記載の抗PIK3R3抗体の調製において用途を見出し得る。
完全長天然配列PIK3R3遺伝子又はその一部は、完全長PIK3R3 cDNAの単離又はここに開示した天然PIK3R3配列に対して所望の配列同一性を持つ更に他のcDNA(例えば、PIK3R3の天然発生変異体又は他の種からのPIK3R3をコードするもの)の単離のために、cDNAライブラリ用のハイブリダイゼーションプローブとして使用できる。場合によっては、プローブの長さは約20〜約50塩基である。このハイブリダイゼーションプローブは、少なくとも部分的に完全長天然ヌクレオチド配列の新規な領域から誘導してもよく、それらの領域は、過度の実験をすることなく、天然配列PIK3R3のプロモーター、エンハンサー成分及びイントロンを含むゲノム配列から判定され得る。例えば、スクリーニング法は、PIK3R3遺伝子のコード化領域を周知のDNA配列を用いて単離して約40塩基の選択されたプローブを合成することを含む。ハイブリダイゼーションプローブは、32P又は35S等の放射性ヌクレオチド、又はアビディン/ビオチン結合系を介してプローブに結合したアルカリホスファターゼ等の酵素標識を含む種々の標識で標識され得る。本発明のPIK3R3遺伝子の配列に相補的な配列を有する標識されたプローブは、ヒトcDNA、ゲノムDNA又はmRNAのライブラリをスクリーニングし、そのライブラリの何れのメンバーにプローブがハイブッド形成するかを決定するのに使用できる。ハイブリダイゼーション技術を、以下の実施例において更に詳細に記載する。本出願に開示されている任意のEST配列は、ここに開示している方法を利用して、同じようにプローブとして用い得る。
PIK3R3コード核酸の他の有用な断片には、標的PIK3R3mRNA(センス)又はPIK3R3DNA(アンチセンス)配列と結合できる一本鎖核酸配列(RNA又はDNAのいずれか)を含むアンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。本発明によると、アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドは、PIK3R3 DNAのコード化領域の断片を含む。そのような断片は、一般的には少なくとも約14ヌクレオチド、好ましくは約14から30ヌクレオチドを含む。与えられたタンパク質をコードするcDNA配列に基づいて、アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドを得る能力は、例えば、Stein及びCohen(Cancer Res. 48:2659, 1988)及び van der Krol等(BioTechniques 6:958, 1988)に記載されている。
アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドの標的核酸配列への結合は二重鎖の形成をもたらし、それは、二重鎖の分解の促進、転写又は翻訳の未熟終止を含む幾つかの方法の一つ、又は他の方法により、標的配列の転写又は翻訳を阻止する。そのような方法は、本発明に含まれている。よって、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、PIK3R3タンパク質の発現を阻止するのに用いられ、それらPIK3R3タンパク質は、哺乳動物での癌の誘導を担い得る。アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドは、修飾糖−ホスホジエステル骨格(又は他の糖結合、国際公開91/06629に記載のもの等)を有するオリゴヌクレオチドを更に含み、そのような糖結合は内因性ヌクレアーゼ耐性である。そのような耐性糖結合を持つオリゴヌクレオチドは、インビボで安定であるが(つまり、酵素分解に耐えうるが)、標的ヌクレオチド配列に結合できる配列特異性は保持している。
センス又はアンチセンスオリゴヌクレオチドの他の例は、国際公開90/10048に記載されているもののような、有機部分、及びオリゴヌクレオチドの標的核酸配列への親和性を向上させる他の部分、例えばポリ-(L-リジン)に共有結合したオリゴヌクレオチドを含む。さらにまた、エリプチシン等の挿入剤及びアルキル化剤又は金属錯体をセンス又はアンチセンスオリゴヌクレオチドに結合させ、アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドの標的ヌクレオチド配列への結合特異性を改変してもよい。
アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、CaPO-媒介DNAトランスフェクション、エレクトロポレーションを含む任意の遺伝子転換方法により、又はエプスタイン-バーウイルスなどの遺伝子転換ベクターを用いることにより、標的核酸配列を含む細胞に導入される。好ましい方法では、アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドは、適切なレトロウイルスベクターに挿入される。標的核酸配列を含む細胞は、インビボ又はエキソビボで組換えレトロウイルスベクターに接触させる。好適なレトロウイルスベクターは、これらに限られないが、マウスレトロウイルスM-MuLVから誘導されるもの、N2(M-MuLVから誘導されたレトロウイルス)、又はDCT5A、DCT5B及びDCT5Cと命名されたダブルコピーベクター(国際公開90/13641参照)を含む。
また、センス又はアンチセンスオリゴヌクレオチドは、国際公開91/04753に記載されているように、リガンド結合分子との複合体の形成により標的ヌクレオチド配列を含む細胞に導入してもよい。適切なリガンド結合分子は、これらに限られないが、細胞表面レセプター、成長因子、他のサイトカイン、又は細胞表面レセプターに結合する他のリガンドを含む。好ましくは、リガンド結合分子の複合体形成は、リガンド結合分子がその対応する分子又はレセプターに結合する、あるいはセンス又はアンチセンスオリゴヌクレオチド又はその複合体の細胞への侵入を阻止する能力を実質的に阻害しない。
あるいは、センス又はアンチセンスオリゴヌクレオチドは、国際公開90/10448に記載されたように、オリゴヌクレオチド−脂質複合体の形成により標的核酸配列を含む細胞に導入してもよい。センス又はアンチセンスオリゴヌクレオチド−脂質複合体は、好ましくは内因性リパーゼにより細胞内で分解される。
アンチセンス又はセンスRNA又はDNA分子は、通常は少なくとも約5ヌクレオチド長、あるいは少なくとも約6、7、8、9、10、11、1−73、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、又は1000ヌクレオチド長であり、この文脈の「約」という用語は、参照ヌクレオチド配列長にその参照長の10%を加えるか又は減じたものを意味する。
あるいは、二本鎖RNAを精製することができる。30ヌクレオチド長未満の二本鎖RNAは、細胞に導入されると、特定の遺伝子の発現を阻害する。このメカニズムは、RNA媒介性の干渉(RNAi)として知られており、試薬として使用される小(30ヌクレオチド未満)RNAはsiRNAとして知られている。PIK3R3干渉RNAは、既知の方法を使用して同定及び合成できる(Shi Y., Trends in Genetics 19(1):9012 (2003)、国際公開2003056012号及び同2003064621号)。siRNAは、標的遺伝子の発現の低下が病態又は疾患を軽減する状態において、遺伝子の発現量を低減するのに有用である。
また、プローブをPCR技術に用いて、密接に関連したPIK3R3コード化配列の同定のための配列のプールを作成することができる。
また、PIK3R3をコードするヌクレオチド配列は、そのPIK3R3をコードする遺伝子のマッピングのため、及び遺伝子疾患を持つ個体の遺伝子分析のためのハイブリダイゼーションプローブの作成にも用いることができる。ここに提供されるヌクレオチド配列は、インサイツハイブリダイゼーション、既知の染色体マーカーに対する連鎖分析、及びライブラリでのハイブリダイゼーションスクリーニング等の周知の技術を用いて、染色体及び染色体の特定領域にマッピングすることができる。
PIK3R3のコード化配列が、別のタンパク質に結合するタンパク質をコードする場合(例えば、PIK3R3がレセプターである場合)、PIK3R3をアッセイに使用して、結合性相互作用に関与する他のタンパク質又は分子を同定することができる。このような方法により、レセプター/リガンド結合相互作用の阻害剤を同定することができる。また、このような結合性相互作用に含まれるタンパク質は、結合性相互作用のペプチド、小分子阻害剤又はアゴニストのスクリーニングに使用することができる。また、レセプターPIK3R3を使用して、相関するリガンドを単離することができる。天然PIK3R3又はPIK3R3のレセプターの生物学的活性を模倣するリード化合物を見出すために、スクリーニングアッセイを設計することができる。このようなスクリーニングアッセイは、化学ライブラリの高スループットスクリーニングを施すことができるアッセイを含み、それらアッセイを特に小分子薬剤候補の同定に適したものにする。考慮される小分子は、合成有機化合物又は無機化合物を含む。アッセイは、従来技術で特徴付けが確立されているタンパク質−タンパク質結合アッセイ、生化学スクリーニングアッセイ、免疫検定及び細胞に基づくアッセイを含む様々な種々の型式で実施することができる。
また、PIK3R3又はその修飾型をコードする核酸は、トランスジェニック動物又は「ノックアウト」動物のいずれかを産生することに使用でき、これらは治療的に有用な試薬の開発やスクリーニングに有用である。トランスジェニック動物(例えばマウス又はラット)とは、出生前、例えば胚段階で、その動物又はその動物の祖先に導入された導入遺伝子を含む細胞を有する動物である。導入遺伝子とは、トランスジェニック動物が発生する細胞のゲノムに組み込まれたDNAである。一実施形態では、PIK3R3をコードするcDNAは、PIK3R3をコードするDNAを発現する細胞を含むトランスジェニック動物を作製するために使用するゲノム配列及び確立された技術に基づいて、PIK3R3をコードするゲノムDNAをクローン化するために使用することができる。トランスジェニック動物、特にマウス又はラット等を産生する方法は、当該分野において常套的になっており、例えば米国特許第4736866号や第4870009号に記述されている。典型的には、特定の細胞を組織特異的エンハンサーでのPIK3R3導入遺伝子の導入の標的にする。胚段階で動物の生殖系列に導入されたPIK3R3をコードする導入遺伝子のコピーを含むトランスジェニック動物はPIK3R3をコードするDNAの増大した発現の影響を調べるために使用できる。このような動物は、例えばその過剰発現を伴う病理学的状態に対して保護をもたらすと思われる試薬のテスター動物として使用できる。本発明のこの態様においては、動物を試薬で治療し、導入遺伝子を有する未治療の動物に比べ病理学的状態の発症率が低ければ、病理学的状態に対する治療上の処置の可能性が示される。
あるいは、PIK3R3の非ヒト相同体は、動物の胚性細胞に導入されたPIK3R3をコードする変更ゲノムDNAと、PIK3R3をコードする内在性遺伝子との間の相同的組換えによって、PIK3R3をコードする欠陥又は変更遺伝子を有するPIK3R3「ノックアウト」動物を作成するために使用できる。例えば、PIK3R3をコードするcDNAは、確立された技術に従い、PIK3R3をコードするゲノムDNAのクローニングに使用できる。PIK3R3をコードするゲノムDNAの一部を欠失させたり、組み込みをモニターしたりするために使用する選択性マーカーをコードする遺伝子等の他の遺伝子で置換することができる。典型的には、ベクターは無変化のフランキングDNA(5’と3’末端の両方)を数キロベース含む[例えば、相同組換えベクターについてはThomas及びCapecchi, Cell, 51:503(1987)を参照のこと]。ベクターを胚幹細胞株に(例えばエレクトロポレーションによって)導入し、導入されたDNAが内在性DNAと相同的に組換えられた細胞を選択する[例えば、Li等, Cell, 69:915(1992)参照]。選択された細胞は次に動物(例えばマウス又はラット)の胚盤胞内に注入されて集合キメラを形成する[例えば、Bradley, Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical Approach, E. J. Robertson編 (IRL, Oxford, 1987), pp. 113-152参照のこと]。その後、キメラ胚を適切な偽妊娠の雌性乳母動物に移植し、期間をおいて「ノックアウト」動物を作り出す。胚細胞に相同的に組換えられたDNAを有する子孫は標準的な技術により同定され、それらを利用して動物の全細胞が相同的に組換えられたDNAを含む動物を繁殖させることができる。ノックアウト動物は、PIK3R3ポリペプチドの欠乏によるある種の病理的状態及びその病理的状態の進行に対する防御能力によって特徴付けられる。
また、PIK3R3ポリペプチドをコードする核酸は遺伝子治療にも使用できる。遺伝子治療用途においては、例えば欠陥遺伝子を置換するため、治療的に有効な遺伝子産物のインビボ合成を達成するために遺伝子が細胞内に導入される。「遺伝子治療」とは、1回の処理により継続的効果が達成される従来の遺伝子治療と、治療的に有効なDNA又はmRNAの1回又は繰り返し投与を含む遺伝子治療薬の投与の両方を含む。アンチセンスRNA及びDNAは、ある種の遺伝子のインビボ発現を阻止する治療薬として用いることができる。短いアンチセンスオリゴヌクレオチドを、細胞膜による制限された取り込みに起因する低い細胞内濃度にもかかわらず、それが阻害剤として作用する細胞中に移入できることは既に示されている(Zamecnik等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:4143-4146 [1986])。オリゴヌクレオチドは、それらの負に荷電したリン酸ジエステル基を非荷電基で置換することによって取り込みを促進するように修飾してもよい。
生細胞に核酸を導入するための種々の技術が存在する。これらの技術は、核酸が培養細胞にインビトロで、あるいは意図する宿主の細胞においてインビボで移入されるかに応じて変わる。核酸を哺乳動物細胞にインビトロで移入するのに適した技術は、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE-デキストラン、リン酸カルシウム沈殿法などを含む。現在好ましいインビボ遺伝子移入技術は、ウイルス(典型的にはレトロウイルス)ベクターでのトランスフェクション及びウイルス被覆タンパク質-リポソーム媒介トランスフェクションである(Dzau等, Trends in Biotechnology 11, 205-210(1993))。幾つかの状況では、核酸供給源を、細胞表面膜タンパク質又は標的細胞に特異的な抗体、標的細胞上のレセプターに対するリガンド等の標的細胞を標的化する薬剤とともに提供するのが望ましい。リポソームを用いる場合、エンドサイトーシスを伴って細胞表面膜タンパク質に結合するタンパク質、例えば、特定の細胞型向性のキャプシドタンパク質又はその断片、サイクルにおいてインターナリゼーションを受けるタンパク質に対する抗体、細胞内局在化を標的とし細胞内半減期を向上させるタンパク質が、標的化及び/又は取り込みの促進のために用いられる。レセプター媒介エンドサイトーシス技術は、例えば、Wu等, J. Biol. Chem. 262, 4429-4432 (1987); 及びWagner等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 3410-3414 (1990)によって記述されている。遺伝子作成及び遺伝子治療のプロトコールの概説については、Anderson等, Science 256, 808-813 (1992)を参照のこと。
ここに記載したPIK3R3ポリペプチド又はその断片をコードする核酸分子は、染色体の同定に有用である。この点において、実際の配列データに基づく染色体マーキング試薬は殆ど利用可能ではないため、目下のところ新規な染色体マーカーの同定の必要である。本発明の各PIK3R3核酸分子は染色体マーカーとして使用できる。
本発明のPIK3R3ポリペプチド及び核酸分子はまた、組織タイピングの診断に使用でき、本発明のPIK3R3ポリペプチドは、その他の組織と比較して1つの組織において、好ましくは同じ組織型の正常組織に比較して疾患性組織において特異的に発現する。PIK3R3核酸分子には、PCR、ノーザン分析、サザン分析及びウエスタン分析のプローブ生成のための用途が見出されるであろう。
この発明は、PIK3R3ポリペプチドを模倣するもの(アゴニスト)、又はPIK3R3ポリペプチドの効果を防ぐもの(アンタゴニスト)を同定するための化合物をスクリーニングする方法を含む。アンタゴニスト薬候補に関するスクリーニングアッセイは、ここで同定された遺伝子によってコードされたPIK3R3ポリペプチドと結合又は複合化する、さもなければコードされているポリペプチドと他の細胞タンパク質の相互作用を妨害する化合物、例えば、細胞からのPIK3R3ポリペプチドの発現を阻害するものを含む化合物を同定するように設計されている。そのようなスクリーニングアッセイには、化学的ライブラリの高スループットスクリーニングを施すことができるアッセイが含まれ、それらアッセイを特に小分子薬剤候補の同定に適したものにする。
このアッセイは、タンパク質-タンパク質結合アッセイ、生化学スクリーニングアッセイ、免疫アッセイ、そして細胞ベースアッセイを含む、当該分野で良く特徴付けられている種々の形式で行うことができる。
アンタゴニストに関する全てのアッセイは、薬候補をここで同定された核酸によってコードされているPIK3R3ポリペプチドと、これら両成分が相互作用するのに十分な条件下及び時間にわたって接触させることを必要とする点で共通である。
結合アッセイにおいて、相互作用は結合であり、形成された複合体は単離されるか、又は反応混合物中で検出される。特別な実施形態では、ここで同定される遺伝子によってコードされるPIK3R3ポリペプチド又は薬候補が、共有又は非共有結合により固相、例えばマイクロタイタープレートに固定化される。非共有結合は、一般的に固体表面をPIK3R3ポリペプチドの溶液で被覆し乾燥させることにより達成される。あるいは、固定化すべきPIK3R3ポリペプチドに特異的な固定化抗体、例えばモノクローナル抗体を固体表面に固着させるために用いることができる。アッセイは、固定化成分、例えば固着成分を含む被覆表面に、検出可能な標識で標識されていてもよい非固定化成分を添加することにより実施される。反応が完了したとき、未反応成分を例えば洗浄により除去し、固体表面に固着した複合体を検出する。最初の非固定化成分が検出可能な標識を有している場合、表面に固定化された標識の検出は複合体形成が起こったことを示す。最初の非固定化成分が標識を持たない場合は、複合体形成は、例えば、固定化された複合体に特異的に結合する標識抗体の使用によって検出できる。
候補化合物が相互作用するがここで同定される遺伝子によってコードされる特定のPIK3R3ポリペプチドに結合しない場合、そのポリペプチドとの相互作用は、タンパク質−タンパク質相互作用を検出するために良く知られた方法によってアッセイすることができる。そのようなアッセイは、架橋、同時免疫沈降、及び勾配又はクロマトグラフィーのカラムを通す同時精製などの伝統的な手法を含む。さらに、タンパク質-タンパク質相互作用は、Chevray及びNathans Proc.Natl. Acad. Sci. USA,89:5789-5793 (1991)に開示されているようにして、Fields及び共同研究者等[Fiels及びSong, Nature(London),340,:245-246(1989);Chien等, Proc.Natl. Acad. Sci. USA, 88:9578-9582 (1991)]に記載された酵母菌ベースの遺伝子系を用いることにより監視することができる。酵母菌GAL4などの多くの転写活性化剤は、2つの物理的に別個のモジュラードメインからなり、一方はDNA結合ドメインとして作用し、他方は転写活性化ドメインとして機能する。以前の文献に記載された酵母菌発現系(一般に「2-ハイブリッド系」と呼ばれる)は、この特性の長所を利用して、2つのハイブリッドタンパク質を用い、一方では標的タンパク質がGAL4のDNA結合ドメインに融合し、他方では、候補となる活性化タンパク質が活性化ドメインに融合している。GAL1-lacZリポーター遺伝子のGAL4活性化プロモーターの制御下での発現は、タンパク質-タンパク質相互作用を介したGAL4活性の再構成に依存する。相互作用するポリペプチドを含むコロニーは、β-ガラクトシダーゼに対する色素生産性物質で検出される。2-ハイブリッド技術を用いた2つの特定なタンパク質間のタンパク質-タンパク質相互作用を同定するための完全なキット(MATCHMAKER(商品名))は、Clontechから商業的に入手可能である。この系は、特定のタンパク質相互作用に含まれるタンパク質ドメインのマッピング、並びにこの相互作用にとって重要なアミノ酸残基の特定にも拡張することができる。
ここで同定されたPIK3R3ポリペプチドをコードする遺伝子と他の細胞内又は細胞外成分との相互作用を阻害する化合物は、次のように試験できる:通常は反応混合物は、遺伝子産物と細胞内又は細胞外成分を、それら2つの生成物が相互作用及び結合する条件下及び時間で調製される。候補化合物の結合阻害能力を試験するために、反応は試験化合物の不存在及び存在下で実施される。さらに、プラシーボを第3の反応混合物に添加してポジティブコントロールを提供してもよい。混合物中に存在する試験化合物と細胞内又は細胞外成分との結合(複合体形成)は上記のように監視される。試験化合物を含有する反応混合物ではなくコントロール反応における複合体の形成は、試験化合物が試験化合物とその反応パートナーとの相互作用を阻害することを示す。
アンタゴニストを検定するために、PIK3R3ポリペプチドを、特定の活性についてスクリーニングされる化合物とともに細胞に添加してもよく、PIK3R3ポリペプチド存在下で対象とする活性を阻害する当該化合物の能力が、当該化合物がPIK3R3ポリペプチドのアンタゴニストであることを示す。あるいは、アンタゴニストは、PIK3R3ポリペプチド及び潜在的アンタゴニストを、膜結合PIK3R3ポリペプチドレセプター又は組み換えレセプターと、競合的阻害アッセイに適した条件下で結合させることにより検出してもよい。PIK3R3ポリペプチドは、放射活性等で標識することができ、結合したPIK3R3ポリペプチド分子の数を潜在的アンタゴニストの有効性を決定するのに使用できる。好ましくは発現クローニングが用いられ、そこではポリアデニル化RNAがPIK3R3ポリペプチドに反応性の細胞から調製され、このRNAから生成されたcDNAライブラリがプールに分配され、COS細胞又は他のPIK3R3ポリペプチドに反応性でない細胞の形質移入に使用される。スライドガラスで成長させた形質移入細胞を、標識したPIK3R3ポリペプチドへ曝露する。PIK3R3ポリペプチドは、ヨウ素化又は部位特異的タンパク質キナーゼの認識部位の包含を含む種々の手段で標識できる。固定及びインキュベーションの後、スライドにオートラジオグラフ分析を施す。ポジティブプールを同定し、対話型サブプール化及び再スクリーニング法を用いてサブプールを調製して再形質移入し、最終的に推定レセプターをコードする単一のクローンを生成する。
結合同定の代替的方法として、標識したPIK3R3ポリペプチドをレセプター分子を発現する細胞膜又は抽出調製物に光親和性結合させることができる。架橋材料をPAGEで分離し、X線フィルムに曝す。結合したタンパク質を含む標識複合体を励起し、ペプチド断片に分離し、タンパク質マイクロシークエンシングを施してよい。マイクロシークエンシングから得たアミノ酸配列は、推定結合パートナーをコードする遺伝子を同定するcDNAライブラリをスクリーニングするディジェネレートオリゴヌクレオチドプローブの組の設計に用いられる。
アンタゴニストの他の検定では、レセプターを発現する哺乳動物細胞又は膜調製物を、候補化合物の存在下で標識PIK3R3ポリペプチドとともにインキュベートする。次いで、この相互作用を促進又は阻止する化合物の能力を測定する。
潜在的なアンタゴニストのより特別な例は、免疫グロブリンとPIK3R3ポリペプチドとの融合体に結合するオリゴヌクレオチド、特に、限られないが、ポリ-及びモノクローナル抗体及び抗体断片、一本鎖抗体、抗-イディオタイプ抗体、及びこれらの抗体又は断片のキメラ又はヒト化形態、並びにヒト抗体及び抗体断片を含む抗体を含んでいる。あるいは、潜在的アンタゴニストは、密接に関連したタンパク質、例えば、レセプターを認識するが効果を与えず、よってPIK3R3ポリペプチドの作用を競合的に阻害するPIK3R3ポリペプチドの変異形態であってもよい。
他の潜在的なPIK3R3ポリペプチドアンタゴニストは、アンチセンス技術を用いて調製されたアンチセンスRNA又はDNA作成物であり、例えば、アンチセンスRNA又はDNA分子は、標的mRNAにハイブリダイゼーションしてタンパク質翻訳を妨害することによりmRNAの翻訳を直接阻止するように作用する。アンチセンス技術は、三重螺旋形成又はアンチセンスDNA又はRNAを通して遺伝子発現を制御するのに使用でき、それらの方法はともに、ポリヌクレオチドのDNA又はRNAへの結合に基づく。例えば、ここでの成熟PIK3R3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の5'コード化部分は、約10から40塩基対長のアンチセンスRNAオリゴヌクレオチドの設計に使用される。DNAオリゴヌクレオチドは、転写に含まれる遺伝子の領域に相補的であるように設計され(三重螺旋−Lee等, Nucl, Acid Res., 6: 3073 (1979); Cooney等, Science, 241: 456 (1988); Dervan等, Science, 251: 1360 (1991)参照)、それによりPIK3R3ポリペプチドの転写及び生成を防止する。アンチセンスRNAオリゴヌクレオチドはインビボでmRNAにハイブリダイゼーションしてmRNA分子のPIK3R3ポリペプチドへの翻訳を阻止する(アンチセンス−Okano, Neurochem., 56: 560 (1991); Oligodeoxynucleotides as Antisense Inhibitors of Gene Expression (CRC Press: Boca Raton, FL, 1988))。また上記のオリゴヌクレオチドは、細胞に輸送され、アンチセンスRNA又はDNAをインビボで発現させて、PIK3R3ポリペプチドの産生を阻害することもできる。アンチセンスDNAが用いられる場合、翻訳開始部位、例えば標的遺伝子ヌクレオチド配列の−10から+10位置の間から誘導されるオリゴデオキシリボヌクレオチドが好ましい。
潜在的アンタゴニストは、PIK3R3ポリペプチドの活性部位、レセプター結合部位、又は成長因子又は他の関連結合部位に結合し、それによりPIK3R3ポリペプチドの正常な生物学的活性を阻止する小分子を含む。小分子の例は、これらに限られないが、小型ペプチド又はペプチド様分子、好ましくは可溶性ペプチド、及び合成非ペプチド有機又は無機化合物を含む。
PIK3R3の過剰発現又は増殖はインビボでの診断アッセイを用いて評価することができ、それは例えば、検出される分子に結合し、検出可能な標識でタグ付けされる分子(例えばRNAi、オリゴペプチド又は小分子)を投与し、標識の位置について外部から患者をスキャンすることにより行われる。
上述のように、本発明のRNAi及び小分子は様々な非治療的用途を有している。本発明のRNAi及び小分子は、PIK3R3ポリペプチドを発現する癌(例えば無線画像で)の診断及び病期決定に有用でありうる。このオリゴペプチド及び小分子はまた、細胞からのPIK3R3ポリペプチドの精製又は免疫沈降のため、例えばELISA又はウエスタンブロットにおいてインビトロでのPIK3R3ポリペプチドを検出及び定量化するため、他の細胞の精製の一行程として混合細胞の集団からPIK3R3を発現する細胞を殺して排除するために、有用である。
現在の癌治療では、癌のステージに応じて、癌性組織を除去する外科手術、放射線療法及び化学療法のうちの一つ又は組み合わせが行われる。RNAi又は小分子療法は、特に化学療法の毒性及び副作用にうまく耐えられない高齢の患者と、放射線治療の有効性が限定されている転移性の疾病とに望ましい。本発明の、腫瘍を標的とするRNAi及び小分子は、疾病が初回に診断された時又は再発の間に、PIK3R3を発現する癌を軽減するのに有用である。治療的用途として、RNAi又は小分子は、単独で、或いは、例えばホルモン、antiangiogen、又は放射標識した化合物、或いは外科手術、寒冷療法、及び/又は放射線療法と組み合わせて、使用することができる。RNAi又は小分子による治療は、他の形態の従来の治療法と併せて、従来の治療法の前又は後に連続して施すことができる。タキソテール(登録商標)(ドセタキセル)、タキソール(登録商標)(パクリタキセル)、エストラムスチン及びミトキサントロン等の化学療法剤は、特にリスクの高い患者の、癌治療に使用される。本発明による癌の治療又は軽減方法では、癌患者に、前述の化学療法剤の一又は複数による治療と組み合わせてRNAi又は小分子を投与することができる。特に、パクリタキセル及び改変誘導体(例えば、欧州特許第0600517号参照)との併用療法が考慮される。RNAi又は小分子は、治療的有効用量の化学療法剤と共に投与される。別の実施態様では、RNAi又は小分子は、パクリタキセル等の化学療法剤の活性及び有効性を増大させるための化学療法と併せて投与される。医師用卓上参考書(PDR)には、様々な癌の治療に使用されているこれら薬剤の用量が開示されている。上述したこれら化学療法剤の、治療的に有効な投与計画及び用量は、治療される癌の種類、疾病の範囲、及び当分野に技能を有する医師に周知のその他要因によって決まり、医師によって決定される。
ここで、単離されたPIK3R3ポリペプチド-コード化核酸は、ここに記載されているような当該分野で良く知られている技術を用いて、組み換え的にPIK3R3ポリペプチドを生成するために用いることが可能である。次に、生成されたPIK3R3ポリペプチドは、ここに記載されているような当該分野で良く知られている技術を用いて、抗PIK3R3抗体を生成するために用いることが可能である。
ここで同定されるPIK3R3ポリペプチドに特異的に結合する抗体、並びに上記に開示したスクリーニングアッセイによって同定された他の分子は、種々の疾患の治療のために、製薬組成物の形態で投与することができる。
PIK3R3ポリペプチドが細胞内にあるとき、取り込める抗体が好ましい。しかし、リポフェクション又はリポソームも抗体、又は抗体断片を細胞に搬送するために使用できる。抗体断片が用いられる場合、標的タンパク質の結合ドメインに特異的に結合する最小阻害断片が好ましい。例えば、抗体の可変領域配列に基づいて、標的タンパク質配列に結合する能力を保持したペプチド分子が設計できる。このようなペプチドは、化学的に合成でき、及び/又は組換えDNA技術によって生成できる。例えば、Marasco等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 7889-7893 (1993)参照。
ここでの製剤は、治療すべき特定の徴候に必要な場合に1つ以上の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を持つものも含んでよい。あるいは、又はそれに加えて、組成物は、細胞障害性薬、サイトカイン、化学療法剤、又は成長阻害剤のようなその機能を高める薬剤を含んでもよい。これらの分子は、適切には、意図する目的に有効な量の組み合わせで存在する。
以下の実施例は例示するためにのみ提供されるものであって、本発明の範囲を決して限定することを意図するものではない。
本明細書で引用した全ての特許及び参考文献の全体を、出典明示によりここに取り込む。
実施例で言及されている市販試薬は、特に示さない限りは製造者の使用説明に従い使用した。ATCC受託番号により以下の実施例及び明細書全体の中で特定されている細胞の供給源はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、マナッサス、バージニアである。
実施例1:IGF2は異なる群の多形神経膠芽腫(GBM)において発現される
以前の研究から、本発明者等は、GBM形成及び/又は増殖に寄与する他の遺伝子を探すために、核酸マイクロアレイを用いて、GBMの遺伝子プロファイリングを行った。何千もの遺伝子配列を含むことが多い核酸マイクロアレイは、それらの正常な相対物と比較して、患部組織において差次的に発現される遺伝子を同定するために有用である。核酸マイクロアレイを使用して、試験組織試料及びコントロール組織試料の試験mRNA試料及びコントロールmRNA試料を逆転写し、標識してcDNAプローブを生成する。次いで、cDNAプローブを固体支持体に固定した核酸のアレイにハイブリダイズさせる。アレイの各メンバーの配列及び位置が公知となるように、アレイを構成する。例えば、特定の疾患状態において発現されることが知られている遺伝子の選別は、固体支持体上に配列されてもよい。特定のアレイメンバーと標識プローブとのハイブリダイゼーションにより、プローブが由来する試料がその遺伝子を発現することを示す。試験(例えば疾患組織)試料からのプローブのハイブリダイゼーションシグナルが、コントロール(例えば正常組織)試料からのプローブのハイブリダイゼーションシグナルよりも大きい場合には、疾患組織において過剰発現する遺伝子(一又は複数)が同定される。この結果から、疾患組織において過剰発現するタンパク質が疾患状態の存在のための診断用マーカーとしてだけでなく、疾患状態の治療のための治療的標的としても有用であるということが示唆される。
核酸及びマイクロアレイ技術のハイブリダイゼーションの方法論は当分野で周知である。ある例では、ハイブリダイゼーション及びプローブのための核酸、スライド及びハイブリダイゼーション条件の特定の調製は、2001年3月30日に出願のPCT特許出願番号PCT/US01/10482号すべて詳述されており、出典明記によって本明細書に援用される。
特定のマイクロアレイ、比較ゲノムハイブリダイゼーション及びTaqmanアッセイは前述したように実行され、組織学的特徴に関する情報及び調査される症例の実態的人口統計学はPhillips et al., Cancer Cell 9:157-173 (2006)にて記載される通りである。さらに、8人の若い患者の新規症例も本実験に含まれる。以下の表1は、本研究に含まれる試料についての試料識別子と、EGFR及びIGF2についてのマイクロアレイ発現強度値とを示す。ROSETTA RESOLVER(登録商標)ソフトウェア(Rosetta Biosoftware, Seattle, WA 98109)を用いて、図1のヒートマップを生成した。マイクロアレイデータの定量分析は、Microarray Analysis Suiteバージョン5からのシグナル強度値を用いて行い、500のスケーリングファクターにより利用できた。EGFR過剰発現は、すべての腫瘍の中間値の5倍よりも多くの増加として定義した。IGF2では、過剰発現のより保存的な基準は、すべての腫瘍の中間値の50倍より多くの増加として定義した。
この手法を使用して、IGF2を過剰発現したGBMのサブセットを同定し、EGFR発現腫瘍と区別した。多くの高いグレードの腫瘍(194例中165が腫瘍を表す)は、13の正常脳試料をコントロールとして用いて、Affimetrix U133 A及びBチップにて性質を特定した。これらの試料のスクリーニングにより、EGFR発現GBMとは異なるIGF2発現GBMの群が明らかとなった。44の原発性グレードIII腫瘍の試料において、EGFR過剰発現は3例(7%)に見られ、1例(2%)はIGF2を過剰発現した。図1B及びCにグラフで示す。これら発現特性間に重複は見られなかった。121のグレードIVの腫瘍の分析ではこの優先性が目立った。分析した121のGBM症例の中で、13%はIGF2を過剰発現し、28%はEGFRを過剰発現した(図1B及びC)。これらの腫瘍の相違は互いに両立しないものであり、フィッシャーの正確試験を用いるとp<0.05の統計学的に有意な結果となる。
IGF2過剰発現は、EGFR過剰発現より強い。相対的な発現レベルに関するマイクロアレイの分析から、IGF2過剰発現が正常な脳又はIGF2ネガティブ腫瘍の最大500倍に増加していたことが示される。対照的に、EGFR過剰発現は、正常な脳の50倍の最大値であった。これらの結果を図1Bにグラフで示す。
EGFR GBMに対するIGF2 GBMの排他性は、EGFRのエキソン8及びIGF2配列のエキソン4に存在する18ヌクレオチド長のプローブを用いたTaqman分析を用いて確認した。Taqmanは、6つのIGF2過剰発現腫瘍と6つのEGFR過剰発現腫瘍について実施した。マイクロアレイデータと一致して、IGF2レベルはEGFR試料においてわずかであり検出されず、IGF2発現は非EGFR発現試料において高かった(図1D)。このデータから、EGFR及びIGF2は、各遺伝子について一致した相対的なRNA量を有する排他的なサブセットであることが確認される。この結果から、IGF2シグナル伝達が、EGFRによって供給されるチロシンキナーゼ活性の増加を欠く例において腫瘍増殖を支援し得、IGF2又はIGF2シグナル伝達カスケードのインヒビターがIGF2依存性GBM増殖を緩和する際に有用であることが示唆される。
実施例2:再発性腫瘍はIGF2排他性を維持する
原発性IGF2過剰発現腫瘍が再発性腫瘍においてこの発現特性を維持するか否かを決定するために、27対の一致する原発性腫瘍及び二次的な再発性腫瘍を分析した。EGFRを過剰発現する6つの原発性腫瘍の中で、5つの再発性腫瘍は強力なEGFR発現を維持した。EGFRネガティブ再発性腫瘍はIGF2の二次的な高い発現を示した。IGF2発現に関して、2つのIGF2過剰発現原発性腫瘍は、腫瘍の再発の際にも、IGF2過剰発現を示した。このデータは、IGF2及びEGFRがいくつかの高いグレードの神経膠腫の形成を作動する2つの主要な経路であることを示す。いずれかの経路は腫瘍増殖を定着し維持することができるが、互いに独立している。したがって、いずれかの経路に対するアンタゴニストは、GBMの形成又は再発に有用でありうる。
実施例3:GBMのゲノム分析
Misra et al., Genes Chromosomes Cancer 45: 20-30 (2006);Misra et al., Clin. Cancer Res. 11: 2907-18 (2005)において公開されるプロトコールに基づいて、Phillips et al., Cancer Cell 9:157-173(2006)に記載されるように、細胞における遺伝子のコピー数を決定する方法である比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)を行った。細胞における遺伝子のコピー数のゲノム増幅により、遺伝子の過剰発現又は制御されない発現が引き起こされうる。マイクロアレイプロファイリングに用いた88のGBM腫瘍のサブセットについて、CGH分析を行った。EGFR増幅を有する腫瘍と過剰発現との間に相関性があった(図1E及び表6)。EGFR増幅を示す21例の中で、20例は該当する過剰発現を示した。逆に、EGFR過剰発現を有する25例の中で、21例はEGFR増幅を示した。IGF2に関して、IGF2遺伝子座の近くに増幅は見られなかった(図1F)。しかしながら、PTENの試験は、IGF2発現GBM(73%)及びEGFR発現GBM(80%)においてPTEN喪失が頻繁にあることを示した。対照的に、IGF2又はEGFRについてネガティブな腫瘍は、PTENの適度な喪失(35%)に止まった。腫瘍群中のPTEN喪失の相違は統計学的に有意であった(p<0.05)。このデータは、EGFR及びIGF2は、PTENがない場合に腫瘍増殖を作動する際に最大の効果を有することを示す。IGF2もEGFRも、細胞周期成分網膜芽細胞腫(RB)、CDK4又はMDM2の染色体付加ないしは喪失に相関がなかった。しかしながら、p16の喪失とEGFR(64%)及びIGF2(27%)とは良好に相関していた。まとめると、CGHデータは、IGF2及びEGFRはPTEN喪失と協働し、PI3K/Akt経路の活性化によって細胞増殖を作動することを示す。
表6:CGH概要
表6。8遺伝子に関するゲノムコピー数の変化は、EGFR(EGFR−OE)とIGF2(IGF2−OE)のいずれか又はこの両方を過剰発現する全例のうちの割合として表す。
実施例4:組織学的分析によるIGF2/EGFR排他性の確認
GBM腫瘍の分子的相違を立証するために、GBM腫瘍からのコアからなる88の組織マイクロアレイの試料群を、インサイツハイブリダイゼーション(ISH)又は免疫組織化学法(IHC)を用いて試験した。IGF2 ISHは、既に記載されている方法(Philips et al., Endo. 127:965-967(1990))に従って実施した。プローブはIGF2の873bp断片からなる(bp468−1341 Genbank寄託番号NM_000612)。ISHのための組織はCureline (South San Francisco, CA)、Zymed (South San Francisco, CA)、Cybridi (Frederick, MD)及びPetaGen (Seoul, South Korea)等の商業的供給源から得た。IGF2は、採取したGBMの6%(5/88)においてポジティブであった。
既に記載されているように(Simmons et al., Can. Res. 61: 122-1128 (2001))、IHCはパラフィン包埋下腫瘍切片にについて実施した。一次抗体は、Cell Signaling Technology (Beverly, MA)の抗p−Akt(ser473)、抗Ki67(MIB−1、Dako, Carpinteria, CA)及び抗EGFR(Dako)とした。試料の識別を不明にして病理学者によって評価を行った。IHCは、EGFRがGBMの48%(41/88)においてポジティブであることを示した。マイクロアレイのデータと一致して、各分子の発現のパターンは互いに排他的であった。
各々の腫瘍サブタイプと関係している組織病理学を調べるために、74の完全な組織塊を分析した。正常な周囲脳組織と比較した場合に、IGF2はISHによって調べたGBM組織切片の19%(14/74)において過剰発現していた。IGF2についてポジティブな試料の中で、7%は非常に強いと評価された。その強い試料をIHCによりEGFR発現について試験した場合には、これら試料はいずれもEGFR染色についてポジティブではなかった。逆に、IGF2についてネガティブな20例をEGFR発現について調べると、46%はEGFRについて強い染色を示した。このデータは、2つの腫瘍サブセットが互いに排他的であることを示す。
実施例5:IGF2過剰発現は増殖と関係している
Ki-67は細胞増殖の一般的に用いられるマーカーである。図2B及び表7に示すように、Ki-67は、試験した大多数のIGF2 GBMにおいて非常にポジティブであるが、少数のEGFR例においてのみポジティブである。Ki-67発現についての平均評価は、EGFR発現GBM又はどちらのレセプターも発現していない例よりもIGF2例において有意に高かった。(両比較についてp<0.05)。このデータでは、PI3K/Akt経路の活性化も試験した。図2B及び表7に示されているように、ホスホ-Aktは、EGFR過剰発現GBMの31%において、そして、IGF2過剰発現GBMの62.5%において強いポジティブであることがわかった。蛍光体−Akt染色の平均強度は、IGF2又はEGFRポジティブ試料では異ならなかった。したがって、IGF2は、Ki-67発現によって定まる高い増殖性の指標を有するGBMと関係している。IGF2及びPI3Kが一般的なシグナル伝達経路の一部であるので、IGF2/PI3Kが細胞増殖の増加を作動する因子であるとこのデータから推測されうる。この増加した細胞増殖は、IGF2/PI3Kのインヒビターによって低減されうる。
表7:IHC概要
表7。28の前断面GBM切片のIHC及びISH分析の概略。IHC及びISHの評価は、0−2スケール(2−強いポジティブ、1−中程度のポジティブ、0−ネガティブ)で行った。ポジティブ例の割合の計算のために、2のスコアのみをポジティブとした。
実施例6:IGF2は神経膠腫由来の細胞の増殖を促しうる
ニューロスフェアは、CNS由来細胞を血清を含まない培地中で培養した場合にインビトロで形成する回転楕円体の細胞クラスターを表すために用いる技術用語である。ニューロスフェアアッセイは、レイノルズ及びワイスによってマウス細胞層(striatium)からのCNS細胞を用いて最初に開発されたが、近年では神経幹細胞を調べるために用いられている(Reynolds et al., J. Neurosci. 12: 4565-4574 (1992)、及びIgnatova et al., Glia 39:193-206 (2002))。近年、ニューロスフェアは、ヒトGBM(Ignatova supra and Phillips et al., Cancer Cell 9:157-173(2006))の脳腫瘍幹細胞等の癌幹細胞分野を徹底調査する実験に使われている。
先に述べたGBM細胞株を本インビトロ実験に用いられた(Hartman et al., Internat. J. Onc. 15: 975-982 (1999))。ニューロスフェア培養物をつくるために、製造業者の指示に従ってCD133細胞単離キット(Miltenyi Biotech)を用いて2つの細胞株(G63及びG69)を分類し、原発性GBM試料について記載されているように培養物を維持した(Singh et al., Nature 432: 396-401(2004))。すべてのニューロスフェア培養物は、N2補助剤(Invitrogen)及びNSF1(Cambrex)を有するNeurobasal培地(Invitrogen)にて維持した。増殖研究のために、EGF及びIGF2を20ng/mlの濃度で添加した。原発性GBMのニューロスフェアは、原発性腫瘍の分類されない分離物として得(M. Westphal博士及びK. Lamszuz博士, Univ. Hamburgから)、拡げ、細胞株由来のニューロスフェアについて記載されているのと同じ条件下で維持した。ニューロスフェアアッセイは3通り行った。
ニューロスフェアシステムを用いて、IGF2は、EGFに対する応答と区別がつかない増殖反応を誘導することが明らかとなった(図3A)。ニューロスフェアは、IGF2又はEGFの非存在下では増殖しなかったが、いずれの因子も20ng/mlの最大濃度では急速に増殖した。IGF2依存性ニューロスフェアを分離し、漸増濃度のEGF又はIGF2を用いた増殖アッセイに用いる場合、両増殖因子は急速な増殖を誘導した。増殖因子用量に基づく増殖速度により、各増殖因子について同じ増殖曲線が生じた(図3B)。逆に、EGF依存性ニューロスフェアを分離した場合、それらはEGF又はIGF2による処置後に同一である増殖率を示した(図3C)。原発性GBMから採取し、分離し、ニューロスフェア培養システムに用いた細胞も、EGF又はIGF2の添加により急速な増殖を示した(図3A)。これらの実験は、IGF2及びEGFが培養物内で同一でないにしても類似の細胞群に作用していること、及び、両因子がGBM細胞増殖を促進する際に有効であることを示す。原発性腫瘍におけるこの結果を確認するために、原発性GBM組織を分離し、類似濃度のIGF2又はEGFにて処理すると、これらの細胞も増殖した。
IGF2誘導性の増殖が特異的であったことを示すために、IGF1R遮断抗体を用いてレセプター-リガンド相互作用を遮断した。IGF2によって誘導される細胞増殖は、10ug/mlの抗IGF1R抗体にて遮断した。EGFによって刺激されるニューロスフェアは抗体による影響を受けなかった。
これらの実験は、IGF2がEGFと類似の増殖効果を有すること、そして、この経路が細胞増殖に重要であることを示し、ゆえに、IGF2経路を阻害することができる任意の治療は腫瘍増殖の低減に有用であることがわかるであろう。
実施例7:IGF2及びPIK3R3は増殖性GBMにおいて過剰発現する
高いグレードの神経膠腫は、前神経、増殖性及び間充織の3つの予測的サブクラスに分類され得、それぞれ異なる遺伝子サインに従って称される(Phillips et al., Cancer Cell 9:157-173 (2006))。各サブクラスからの12の試料の一群をマイクロアレイによって試験した。IGF2過剰発現は増殖性サブクラスに限定していたのに対して、EGFR過剰発現は増殖性及び間充織サブクラスにおいて観察された。IGF2が増殖を誘導するというKi-67の結果と併せると、IGF2シグナル伝達は高い増殖性GBMの発達に関与するという結論につながる。IGF2エフェクター遺伝子の突然変異又は増殖を活性化すると同じ悪性のGBM表現型となりうるので、この仮説から、IGF2経路の下流のエフェクター分子の研究につながる。GBMの分析は、PI3KのサブユニットであるPIK3R3(SwissProt寄託P55G_HUMAN)がそのそれぞれのゲノム遺伝子座でコピー数の増加を有することを示した。これにより有意なPIK3R3過剰発現が生じる。PIK3R3の過剰発現を有するGBMは、図4Cに示すように、増殖の4つのマーカー(PCNA、TOP2A、CDK2及びSMC4L1)の最終的に高い発現を示した。IGF2についてネガティブなGBMと比較して、これら4つのマーカーはIGF2を過剰発現するGBMにおいて増加した発現レベルを示した(図4D)。
PIK3R3増殖は6つのGBM例において見られ、これらの例のうちの5つはIGF2及びEGFRのいずれかの過剰発現を欠いていた。1つのPIK3R3増幅GBMも、IGF2過剰発現についてポジティブであった。したがって、IGF2及びPIK3R3の過剰発現はいずれも、高い増殖性のGBM表現型と関係しており、PIK3R3機能又は発現に対するアンタゴニストは高い増殖性のGBMを緩和する際に有用であろう。
実施例8:PIK3R3はヒトGBMのIGF2シグナル伝達のメディエーターである
前の結果がIGF2及びPIK3R3が高い増殖性のGBM表現型と関係していることを示すので、PIK3R3が「バイト」としてIGFR1を使用する酵母-2ハイブリッドシステムを用いてクローン化されるという結果を考えると、PIK3R3がGBMのIGF2シグナル伝達を媒介したことを確認することが必要である。これは、G63細胞株をニューロスフェアとして生育し、ニューロスフェアを分離して、そして無血清/無増殖因子の培地中で更に48時間細胞を生育させることによって確認した。次いで、組換えIGF2(R&D Systems, 292-G2)を20ng/mlの濃度で添加し、15分間細胞を刺激した。この時間の後、細胞を洗浄して、溶解した。細胞溶解物を抗PIK3R3抗体(Ab−253−2、Abcam, plc, Cambridge, UK)とカップリングしたプロテインG(Pierce Biotech, Rockford, IL)にて免疫沈降し、洗浄して、ローディングバッファ(Pierce)中で5分間煮沸し、SDS−PAGE genにて分解した。抗IGF1R抗体(SC−713、Santa Cruz)を用いるか、又はホスホ特異的抗IGF1Ra抗体(抗ppIGF1R/Y1162/Y1163、Novus Biologicals)を用いてウェスタンブロッティングを行った。抗ホスホチロシン(Upstate, 4G10)抗体を用いて、チロシンリン酸化タンパク質、例えばPIK3R3を検出した。抗アクチン作用抗体はAbcam(Ab-8277)から購入した。pAkt(ser473)は細胞シグナル伝達193H12抗体を用いて検出し、総Akt抗体は細胞シグナル伝達から得た。
免疫沈降は、内在性PIK3R3が物理的にIGF1Rと関連することを示した(図5A)。このデータはまた、リン酸化IGF1RがIGF2刺激細胞のPIK3R3と特に関係していたことも示した。IGF2(20ng/ml)、EGF(10ng/ml)又はインスリンにて刺激した場合、チロシンリン酸化PIK3R3を含む物理的な複合体が形成された(図5C)。結論として、このデータは、IGF2の刺激により、PIK3R3がホスホ−IGF1Rによって補充され、リン酸化によって活性化され、Aktのリン酸化等の下流の現象を媒介するという経路モデルを裏付けるものである。
実施例9:PIK3R3のRNAiノックダウンはIGF2及びEGF依存性細胞増殖を阻害する
細胞増殖におけるPIK3R3の役割を確認するために、短い阻害性RNA(RNAi)を合成して、細胞におけるPIK3R3の量を低減するか、又は「ノックダウン」した。ShRNAコンストラクトはOpen Biosystemsから購入した。いくつかのコンストラクトを一過性の形質移入において試験し、それらのうちの2つを安定性細胞株を生成する際に用いた。G96にはRHS1764-9494180、G63にはRHS164-9208343である。ナツメヤシAmpho(ATCC SD3443、レトロウイルス製造株、MMULベース)細胞をレトロウイルス産生に用い、5μg/mlポリブレンを添加したウイルス含有上清を用いて神経膠腫細胞を感染させた。ピューロマイシン耐性コロニーを選択し、角のない(polled)クローンを後の実験に用いた。G63及びG96のCD133分類細胞からのニューロスフェアを増殖応答について試験した。
N2及びNSF(Cambrex)を添加した神経基礎培地において生育させたニューロスフェア(G63、G96)由来の神経膠腫細胞を、漸増濃度のEGF又はIGF2にて、24時間ごとに3日間刺激した。示したように、α-IR3 IGF1R遮断抗体(Calbiochem, #GR11L)を増殖因子刺激の1時間前に培養物に加えた。アラマーブルー(Trek Biodiagnostic)を用いて細胞生存度を評価した。図6に示す細胞生存率アッセイは、最初のプレーティングの14日後に分離されたニューロスフェアを使用して実施した。すべての実験は、各細胞株ごとに少なくとも3回繰り返した。
ニューロスフェアはPIK3R3 RNAi発現コンストラクトによって安定して形質移入され(3通りで繰り返された)、その結果、G96細胞の81%、及びG63細胞の85%のPIK3R3 mRNAがノックダウンされた。この減少は、ウェスタンブロッティングによって、タンパク質レベル(前記のように)で確認した(図6A及び6B)。PIK3R3 RNAi安定株を、マーカーCD133について細胞分類し、次いでIGF2又はEGFによる刺激により細胞増殖についてアッセイした。図6C及び6Dは、PIK3R3のノックダウンにより細胞増殖が低減し、その後にIGF2又はEGFの存在下においてニューロスフェアの増殖が低減したことを示す。EGFに応答した細胞増殖は、G96 PIK3R3 RNAi株の14%、及び、G63 PIK3R3 RNAi株の35%が阻害された。しかしながら、最も目ざましい結果は、IGF2刺激細胞によって観察された。IGF2刺激PIK3R3 RNAi細胞株は、G96細胞では53%及びG63細胞の64%の増殖の低減を示した。対照的に、これらの増殖因子の非存在下では、PIK3R3 RNAi形質移入細胞は、細胞増殖に対してごく小さい効果しか示さなかった。
AktがPIK3R3の下流の標的であるので、PIK3R3 RNAi含有株を用いてAktに対する効果を調べた。PIK3R3 RNAi含有G96細胞をニューロスフェア条件下で生育させ、増殖因子を48時間取り除き、その後IGF2によって刺激した。5、15及び30分間、IGF2によって刺激したPIK3R3 RNAi株は、Aktリン酸化の減少を示す(図6G)。この結果は、G63 PIK3R3 RNAi細胞株において確認された。MAPK等のコントロールキナーゼは変化を示さなかった(データは示さない)。
このデータは、PIK3R3が、神経膠腫由来のニューロスフェアに対するIGF2によって発揮される細胞増殖性効果の重要なメディエーターであるという結論を裏付けるものである。したがって、PIK3R3のインヒビターは、IGF2−PIK3R3−Akt経路を阻害することによって発達する神経膠腫の腫瘍負荷を緩和する際に有用である。この結果は、IGF2経路がGBMの特定のサブセットに固有であることを示し、そして、データは、IGF2経路構成成分に対するインヒビターがGBMサブセットの腫瘍増殖と進行を阻害するであろうということを裏付けるものである。癌生物学における新しい傾向は、応答経路の複数のメンバーを阻害することが最も効果的でありうることを提案する。例えば、IGF2、PIK3R及びAktに対するインヒビターは、単一のインヒビターより有効であろう。
実施例10:神経膠腫におけるPIK3R3ポリペプチドの発現上方制御を検出するためのマイクロアレイ分析
多くの場合何千もの遺伝子配列を含む核酸マイクロアレイは、正常な相対物と比較して疾患組織に異なって発現する遺伝子の同定に有用である。核酸マイクロアレイを使用することによって、試験及びコントロール組織試料由来の試験及びコントロールmRNA試料を、cDNAプローブ生成のために逆転写し、標識する。次いでcDNAプローブを、固体支持体に固定化された核酸アレイにハイブリダイズさせる。アレイの各部位の配列と位置がわかるようにアレイを構築する。例えば、特定の疾患状態において発現されることが知られている選択された遺伝子を、固体支持体にアレイすることができる。標識されたプローブと特定のアレイ部位とのハイブリッド形成は、そのプローブが生成された試料がその遺伝子を発現することを示す。試験(疾患組織)試料由来のプローブのハイブリッド形成シグナルが、コントロール(正常組織)試料由来のハイブリッド形成シグナルよりも大きい場合に、疾患組織に過剰発現する遺伝子又は複数の遺伝子が同定される。この結果の意味するところは、疾患組織に過剰発現するタンパク質が疾患状態の診断マーカーとしてのみでなく、疾患状態の治療の治療標的としても有用だということである。
核酸ハイブリッド形成の方法論及びマイクロアレイ技術は当該技術者に周知である。本発明の例における、ハイブリッド形成及びプローブのための核酸の特異的調整、スライド、及びハイブリッド形成状態はすべて、2001年3月30日出願のPCT/US01/10482に詳述されており、出典明示によりこの明細書に包含する。
実施例11:PIK3R3mRNA発現の定量分析
このアッセイでは、5'ヌクレアーゼアッセイ(例えば、TaqMan(登録商標))及びリアルタイム定量PCR(例えば、ABI Prizm7700シーケンス検出システム(登録商標)(パーキンエルマー,Applied Biosystems Division ,フォスターシティー,カリフォルニア))を、他の癌性腫瘍又は正常な非癌性組織と比較し、癌性腫瘍又は腫瘍で顕著に過剰発現している遺伝子を見出すために使用した。5'ヌクレアーゼアッセイ反応は、Taq DNAポリメラーゼ酵素の5'エキソヌクレアーゼ活性を利用してリアルタイムでの遺伝子発現をモニターする蛍光PCR-ベース技術である。2つのオリゴヌクレオチドプライマー(その配列は、対象である遺伝子又はEST配列に基づく)を、PCR反応で典型的な単位複製配列を生成するために使用する。三番目のオリゴヌクレオチド、又はプローブを、2つのPCRプライマーの間に位置するヌクレオチド配列を検出するために設計する。このプローブは、Taq DNAポリメラーゼ酵素によって伸長可能ではなく、レポーター蛍光色素及びクエンチャー 蛍光色素で標識する。レポーター色素からのどんなレーザー誘導放射も、プローブ上で2つの色素が近接して位置する場合には、消光色素によって消光する。PCR増幅反応の間、Taq DNAポリメラーゼ酵素は、鋳型依存的にプローブを切断する。この結果生じるプローブ断片は溶液中で分離し、放出レポーター色素からの信号は、二番目の蛍光物質の消火効果とは無関係である。レポーター色素の1つの分子は、各新規合成分子のために遊離され、非消光レポーター色素の検出によって、データの定量的及び定量的解釈に関する根拠が提供される。このアッセイはよく知られており、当技術分野において、2つの異なるヒト組織試料間の遺伝子発現の差異を定量的に同定するために常套的に使用される。例えば、Higuchi等、Biotechnology 10:413-417 (1992); Livak等、PCR Methods Appl., 4:357-362 (1995); Heid等、Genome Res. 6:986-994 (1996); Pennica等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (25):14717-14722 (1998); Pitti等、Nature 396 (6712):699-703 (1998)及びBieche等、Int. J. Cancer 78:661-666 (1998)を参照のこと。
5’ヌクレアーゼ手法は、ABI Prism7700TMシーケンス検出のようなリアルタイム定量PCR装置で行われる。このシステムは、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合装置(CCD)カメラ及びコンピューターで構成される。このシステムでは、サーモサイクラー上の96-ウェルフォーマットで試料を増幅する。増幅の間、レーザー誘導蛍光信号が、すべての96ウェルの光ファイバー計測ケーブルを介してリアルタイムで集められ、CCDで検出される。このシステムには、装置を作動するため、そしてデータを分析するためのソフトウエアが含まれる。
スクリーニングのための出発材料は、種々の異なる癌性組織から単離したmRNAであった。このmRNAは、例えば蛍光定量的に、正確に定量化される。ネガティブコントロールとして、RNAを、試験される癌性組織と同じ組織型の種々の正常組織から単離した。多くの場合、腫瘍試料を、同じ組織種類の「対応する」正常試料と直接比較した。つまり、腫瘍試料と正常試料を同じ固体から取得した。
5’ヌクレアーゼアッセイデータは、最初にCt、又は閾値サイクルとして表される。これは、レポーター信号が蛍光のバックグラウンドレベルを超えて蓄積するサイクルとして定義される。ΔCt値は、癌のmRNAの結果を正常なヒトmRNAの結果と比較する場合に、核酸試料中の特定の標識配列の開始コピーの相対数の定量的測定として用いられる。1Ct単位は、1PCRサイクル、又は標準に対しておよそ2倍の相対増加に一致し、2単位は、4倍相対増加に一致し、3単位は8倍相対増加に一致する等々であり、2つ以上の異なる組織間のmRNA発現の相対倍数増加を定量的且つ定量的に測定できる。これに関し、本技術分野では、ヒト腫瘍試料中のmRNA発現の、正常なコントロールの2倍以上の増大を再現可能に検出するのに、このアッセイの技術的感度は十分であると認められている。
実施例12:インサイツハイブリダイゼーション
インサイツハイブリダイゼーションは、細胞又は組織調製物内での核酸配列の検出及び局在化のための強力で多用途の技術である。それは、例えば、遺伝子発現部位の同定、転写物の組織分布の分析、ウイルス感染の同定と局在化、特定のmRNA合成における変化の追跡及び染色体マッピングにおける補助に有用である。
インサイツハイブリダイゼーションは、Lu及びGillett, Cell Vision 1: 169-176 (1994)のプロトコルの最適化バージョンに従って、PCR生成33P-標識リボプローブを用いて実施される。簡単に述べると、ホルマリン固定、パラフィン包埋ヒト組織を切片化し、脱パラフィンし、プロテイナーゼK(20g/ml)で15分間37℃で脱タンパクし、さらに上掲のLu及びGillettに記載されたようにインサイツハイブリダイゼーションする。(33-P)UTP-標識アンチセンスリボプローブをPCR産物から生成し、55℃で終夜ハイブリダイゼーションする。スライドをKodak NTB2核トラックエマルションに浸漬して4週間露出する。
33P-リボプローブ合成
6.0μl(125mCi)の33P-UTP(Amersham BF 1002, SA<2000 Ci/mmol)をスピード真空乾燥させた。乾燥33P-UTPを含む各管に以下の成分を添加した:
2.0μlの5x転写バッファー
1.0μlのDTT(100mM)
2.0μlのNTP混合物(2.5mM: 各10μlの10mM GTP,CTP及びATP+10μlのHO)
1.0μlのUTP(50μM)
1.0μlのRNasin
1.0μlのDNAテンプレート(1μg)
1.0μlのH
1.0μlのRNAポメラーゼ(PCR産物についてT3=AS,T7=S,通常)
管を37℃で1時間インキュベートし、1.0μlのRQ1 DNaseを添加し、ついで37℃で15分間インキュベートした。90μlのTE(10mMトリスpH7.6/1mMのEDTApH8.0)を添加し、混合物をDE81紙にピペットした。残りの溶液をMicrocon−50限外濾過ユニットに充填し、プログラム10を用いてスピンさせた(6分間)。濾過ユニットを第2の管に変換し、プログラム2を用いてスピンさせた(3分間)。最終回収スピンの後、100μlのTEを添加した。1μlの最終生成物をDE81紙にピペットし6mlのBIOFLUOR IIで数えた。
プローブをTBE/尿素ゲル上で走らせた。1−3μlのプローブ又は5μlのRNA MrkIIIを3μlのローディングバッファーに添加した。加熱ブロック上で95℃に3分間加熱した後、プローブを即座に氷上に置いた。ゲルのウェルを流し、試料を充填し、180−250ボルトで45分間走らせた。ゲルをサランラップでラップし、−70℃冷凍機内で補強スクリーンを持つXARフィルムに1時間から終夜露出した。
33P-ハイブリダイゼーション
A.凍結切片の前処理
スライドを冷凍機から取り出し、アルミニウムトレイに配置して室温で5分間解凍した。トレイを55℃のインキュベータに5分間配置して凝結を減らした。スライドを蒸気フード内において4%パラホルムアルデヒド中で10分間固定し、0.5xSSCで5分間室温で洗浄した(25ml 20×SSC+975ml SQ HO)。0.5μg/mlのプロテイナーゼ中、37℃で10分間の脱タンパクの後(250mlの予備加熱RNase無しRNaseバッファー中の10mg/mlストック12.5μl)、切片を0.5xSSCで10分間室温で洗浄した。切片を、70%、95%、100%エタノール中、各2分間脱水した。
B.パラフィン包埋切片の前処理:
スライドを脱パラフィンし、SQ HO中に配置し、2xSSCで室温において各々5分間2回リンスした。切片を20μg/mlのプロテイナーゼK(250mlのRNase無しRNaseバッファー中10mg/mlを500μl;37℃、15分間)−ヒト胚又は8×プロテイナーゼK(250mlのRNaseバッファー中100μl、37℃、30分間)−ホルマリン組織で脱タンパクした。続く0.5×SSCでのリンス及び脱水は上記のように実施した。
C.プレハイブリッド:
スライドをBoxバッファー(4×SSC、50%ホルムアミド)−飽和濾紙で列を作ったプラスチックボックスに並べた。
D.ハイブリダイゼーション:
スライド当たり1.0×10cpmのプローブ及び1.0μlのtRNA(50mg/mlストック)を95℃で3分間加熱した。スライドを氷上で冷却し、スライド当たり48μlのハイブリダイゼーションバッファーを添加した。ボルテックスの後、50μlの33P混合物をスライド上のプレハイブリダイゼーション50μlに添加した。スライドを55℃で終夜インキュベートした。
E.洗浄:
洗浄は、2×10分間、2×SSC、EDTAで室温で実施し(400mlの20×SSC+16mlの0.25M EDTA、Vf=4L)、次いでRNaseA処理を37℃で30分間行った(250mlRNaseバッファー中10mg/mlを500μl=20μg/ml)。スライドを2×10分間、2×SSCEDTAで室温において洗浄した。ストリンジェントな洗浄条件は次の通りとすることができる:55℃で2時間、0.1×SSC、EDTA(20mlの20×SSC+16mlのEDTA、V=4L)。
F.オリゴヌクレオチド
ここに開示した様々なDNA配列についてインサイツ分析を実施した。これらの分析に対して用いたオリゴヌクレオチドは添付図に示した核酸(又はその相補鎖)に相補的であるように得られた。
実施例13:PIK3R3に結合する抗体の調整
モノクローナル抗体の生産のための技術は、この分野で知られており、例えば、上掲のGodingに記載されている。使用することができる免疫原には、精製PIK3R3ポリペプチド、PIK3R3ポリペプチドを含む融合タンパク質、及び細胞表面上に組換えPIK3R3ポリペプチドを発現する細胞が含まれる。免疫原の選択は、当業者が過度の実験をすることなくなすことができる。
Balb/c等のマウスを、完全フロイントアジュバントに乳化して皮下又は腹腔内に1−100マイクログラムで注入した上記免疫原で免疫化する。あるいは、免疫原をMPL−TDMアジュバント(Ribi Immunochemical Researh, Hamilton, MT)に乳化し、動物の後足蹠に注入してもよい。免疫化したマウスは、次いで10から12日後に、選択したアジュバント中に乳化した付加的免疫源で追加免疫する。その後、数週間、マウスをさらなる免疫化注射で追加免疫する。抗PIK3R3抗体の検出のためのELISAアッセイで試験するために、レトロオービタル出血からの血清試料をマウスから周期的に採取してもよい。
適当な抗体力価が検出された後、抗体に「ポジティブ(陽性)」な動物に、PIK3R3ポリペプチドの静脈内注射の最後の注入をすることができる。3から4日後、マウスを屠殺し、脾臓細胞を取り出した。次いで脾臓細胞を(35%ポリエチレングリコールを用いて)、ATCCから番号CRL1597で入手可能なP3X63AgU.1等の選択されたマウス骨髄腫株化細胞に融合させた。融合によりハイブリドーマ細胞が生成され、次いで、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン)培地を含む96ウェル組織培養プレートに蒔き、非融合細胞、骨髄腫ハイブリッド、及び脾臓細胞ハイブリッドの増殖を阻害した。
ハイブリドーマ細胞は、PIK3R3に対する反応性についてのELISAでスクリーニングされる。PIK3R3に対する所望のモノクローナル抗体を分泌する「ポジティブ(陽性)」ハイブリドーマ細胞の決定は、技術常識の範囲内である。
陽性ハイブリドーマ細胞を同系のBalb/cマウスに腹腔内注入し、抗PIK3R3モノクローナル抗体を含む腹水を生成させる。あるいは、ハイブリドーマ細胞を、組織培養フラスコ又はローラーボトルで成長させることもできる。腹水中に生成されたモノクローナル抗体の精製は、硫酸アンモニウム沈降、それに続くゲル排除クロマトグラフィ−を用いて行うことができる。あるいは、抗体のプロテインA又はプロテインGへの親和性に基づくアフィニティクロマトグラフィーを用いることもできる。
実施例14:腫瘍スクリーニング
PIK3R3ポリペプチドに対するアンタゴニストは、ヌードマウスモデルによってインビボで測定されうる哺乳動物細胞に、十分量のPIK3R3ポリペプチド発現プラスミドを形質移入し、細胞株中で高いレベルのPIK3R3ポリペプチドを生成させうる。既知の数の過剰発現細胞をヌードマウスの脇側に皮下注射してもよい。腫瘍が生育し、可視化されて測定可能(一般的に直径2〜3mm)になるために十分な時間経過した後に、マウスを、潜在的PIK3R3アンタゴニストにて処理してもよい。有益効果が生じたか否かを決定するために、腫瘍をVernierカリパスにてミリメーター単位で測定し、腫瘍負荷を算出する。腫瘍重量=(長さ×幅)/2 (Geran, et al., Cancer Chemotherapy Rep., 3: 1-104 (1972)。ヌードマウス腫瘍モデルは、腫瘍増殖速度と用量に依存する候補抗腫瘍薬による腫瘍増殖速度の低減を評価するための再現可能なアッセイである。例えば、候補プロテインキナーゼCβインヒビターである化合物317615−HCLは、このモデル用いて抗腫瘍効果を有することが明らかとされた(Teicher et al., Can. Chemo. Pharm. 49: 69-77(2002)。
上記の文書による明細書は、当業者に本発明を実施できるようにするために十分であると考えられる。寄託した実施物は、本発明のある態様の一つの例示として意図されており、機能的に等価なあらゆる構築物がこの発明の範囲内にあるため、寄託された構築物により、本発明の範囲が限定されるものではない。ここでの物質の寄託は、ここに含まれる文書による説明が、そのベストモードを含む、本発明の任意の態様の実施を可能にするために不十分であることを認めるものではないし、それが表す特定の例証に対して請求の範囲を制限するものと解釈されるものでもない。実際、ここに示し記載したものに加えて、本発明を様々に改変することは、前記の記載から当業者にとっては明らかなものであり、添付の特許請求の範囲内に入るものである。

Claims (41)

  1. PIK3R3ポリペプチドを発現する神経膠腫腫瘍の成長を阻害する方法であって、前記神経膠腫腫瘍の成長が、少なくとも部分的にPIK3R3ポリペプチドの成長増強効果に依存しており、神経膠腫腫瘍の細胞に有効量のPIK3R3アンタゴニストを接触させることを含む方法。
  2. 神経膠腫腫瘍がEGFRポリペプチドを過剰発現しない、請求項1に記載の方法。
  3. 神経膠腫腫瘍がIGF2ポリペプチドを過剰発現する、請求項1に記載の方法。
  4. 神経膠腫腫瘍のAkt/PIK3シグナル伝達がアンタゴナイズされる、請求項1に記載の方法。
  5. 成長が完全に阻害される、請求項1に記載の方法。
  6. 成長の阻害が細胞の死を引き起こす、請求項1に記載の方法。
  7. PIK3R3アンタゴニストがPIK3R3小分子アンタゴニストである、請求項1に記載の方法。
  8. PIK3R3アンタゴニストがPIK3R3ポリペプチドをコードする核酸に結合する、請求項1に記載の方法。
  9. 核酸がRNAである、請求項8に記載の方法。
  10. PIK3R3アンタゴニストがPIK3R3 RNAiである、請求項9に記載の方法。
  11. PIK3R3アンタゴニストの前に、後で、又は同アンタゴニストと同時に、神経膠腫腫瘍に対して有効量のAktアンタゴニストを接触させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
  12. AktアンタゴニストがPIK3キナーゼの触媒ドメイン又は制御ドメインのアンタゴニストである、請求項11に記載の方法。
  13. PIK3R3アンタゴニストの前に、後で、又は同アンタゴニストと同時に、神経膠腫腫瘍に対して有効量のIgF2アンタゴニストを接触させることを更に含む、請求項1又は11に記載の方法。
  14. PIK3R3ポリペプチドを発現する哺乳動物の神経膠腫腫瘍の治療方法であって、当該哺乳動物に対し、治療的有効量のPIK3R3アンタゴニストを投与することを含む方法。
  15. 神経膠腫腫瘍がEGFRポリペプチドを過剰発現しない、請求項14に記載の方法。
  16. 神経膠腫腫瘍がIgF2ポリペプチドを過剰発現する、請求項14に記載の方法。
  17. 神経膠腫腫瘍におけるAkt/PIK3シグナル伝達がアンタゴナイズされる、請求項14に記載の方法。
  18. PIK3R3アンタゴニストの投与が、腫瘍の成長低下又は腫瘍の成長縮小を引き起こす、請求項14に記載の方法。
  19. PIK3R3アンタゴニストの投与が腫瘍の死を引き起こす、請求項14に記載の方法。
  20. PIK3R3アンタゴニストがPIK3R3小分子アンタゴニストである、請求項14に記載の方法。
  21. PIK3R3アンタゴニストが、PIK3R3ポリペプチドをコードする核酸に結合する、請求項14に記載の方法。
  22. 核酸がRNAである、請求項21に記載の方法。
  23. PIK3R3アンタゴニストがPIK3R3 RNAiである、請求項22に記載の方法。
  24. PIK3R3アンタゴニストの前に、後で、又は同アンタゴニストと同時に、治療的有効量のAktアンタゴニストを投与することを更に含む、請求項14に記載の方法。
  25. AktアンタゴニストがPIK3キナーゼの触媒ドメイン又は制御ドメインのアンタゴニストである、請求項24に記載の方法。
  26. PIK3R3アンタゴニストの前に、後で、又は同アンタゴニストと同時に、神経膠腫腫瘍に対して有効量のIgF2アンタゴニストを接触させることを更に含む、請求項14又は24に記載の方法。
  27. 哺乳動物における神経膠腫腫瘍の存在を診断する方法であって、(a)癌であることが予測される前記哺乳動物から採取した神経膠腫組織からなる試験試料と、(b)同じ組織を起源とする既知の正常細胞からなるコントロール試料とにおける、PIK3R3ポリペプチド又はPIK3R3ポリペプチドをコードする核酸の発現レベルを比較することを含み、コントロール試料より試験試料の方がPIK3R3ポリペプチド又はPIK3R3ポリペプチドをコードする核酸の発現レベルが高い場合に、試験試料が採取された哺乳動物における神経膠腫腫瘍の存在が示される方法。
  28. 核酸がDNAである、請求項27に記載の方法。
  29. 核酸がRNAである、請求項27に記載の方法。
  30. PIK3R3ポリペプチドの発現を、抗PIK3R3抗体、PIK3R3に結合する抗体断片、PIK3R3結合オリゴペプチド、及びPIK3R3小分子からなる群より選択される試薬によって測定する、請求項27に記載の方法。
  31. PIK3R3ポリペプチドをコードする核酸の発現を、PIK3R3アンチセンスオリゴヌクレオチド及びPIK3R3 RNAiからなる群より選択される試薬によって測定する、請求項27に記載の方法。
  32. 哺乳動物における神経膠腫腫瘍の重症度を診断する方法であって、(a)哺乳動物から採取した前記神経膠腫腫瘍由来の細胞又はDNA、RNA、タンパク質又はその他遺伝子産物の抽出物からなる試験試料に対し、試料中のPIK3R3ポリペプチド又はPIK3R3ポリペプチドをコードする核酸に結合する試薬を接触させること、並びに、(b)試験試料中における、試薬と、PIK3R3コード化核酸又はPIK3R3ポリペプチドとの複合体形成の量を測定することを含み、同様の組織起源の既知の健常試料におけるレベルより高いレベルで複合体が形成されている場合に、侵襲性腫瘍が示される方法。
  33. 神経膠腫腫瘍がEGFRポリペプチドを過剰発現しないかどうかを決定することを更に含む、請求項32に記載の方法。
  34. 神経膠腫腫瘍がIGF2ポリペプチドを過剰発現するかどうかを決定することを更に含む、請求項32に記載の方法。
  35. 試薬が、抗PIK3R3抗体、PIK3R3に結合する抗体断片、PIK3R3結合オリゴペプチド、PIK3R3小分子、PIK3R3核酸、PIK3R3 RNAi及びPIK3R3アンチセンスオリゴヌクレオチドからなる群より選択される、請求項32に記載の方法。
  36. PIK3R3アンタゴニストをスクリーニングする方法であって、(a)PIK3R3を発現する神経膠腫細胞を試験化合物と接触させること、並びに(b)接触させた細胞におけるPIK3R3の発現を、接触させなかったコントロール神経膠腫細胞と比較することを含み、接触させた細胞における発現レベルの方が低い場合に、PIK3R3アンタゴニスト、及び神経膠腫腫瘍の治療の治療方法が示される方法。
  37. 薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は安定剤と、治療的有効量の(i)PIK3R3アンタゴニスト、(ii)IGF2アンタゴニスト、並びに随意で(iii)Aktアンタゴニストの組み合わせとを含んでなる組成物。
  38. PIK3R3アンタゴニストが、PIK3R3結合オリゴペプチド、PIK3R3小分子及びPIK3R3 RNAiからなる群より選択される、請求項37に記載の組成物。
  39. 容器及び容器内に収容されるPIK3R3アンタゴニストを備えた製造品であって、PIK3R3アンタゴニストと、神経膠腫の治療、診断及び/又は予後の予測におけるPIK3R3の使用に関する指示を含む製造品。
  40. 指示が、容器に貼付されるラベル、及び/又は容器内に含まれるパッケージ挿入物の形態である、請求項39に記載の製造品。
  41. IGF2アンタゴニストと、随意でAktアンタゴニストとを更に含む、請求項40に記載の製造品。
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