以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。なお、本発明は、マスタシリンダからホイールシリンダやブレーキパッド、ディスクローター等から構成される制動力発生手段へのブレーキ液経路に設けられる流量制御弁の開度を調整することにより、ポンプにより加圧されたブレーキ液を制動力発生手段へ供給する制動装置に対して好適に適用できる。
本実施形態は、マスタシリンダと制動力発生手段との間におけるブレーキ液通路上に設けられる流量制御弁により、ポンプによって加圧されたブレーキ液を減圧することによって下り勾配で停止している車両の制動力を解除する場合には、前記勾配が大きくなるにしたがって、ブレーキ液を減圧する速度を小さくする点に特徴がある。
図1は、本実施形態に係る制動装置が搭載される車両を示す模式図である。車両100は、車輪10FL、10FR、10RL、10RRを備える。また、車両100は、車輪10FL、10FR、10RL、10RRに制動力(車輪制動力)を発生させる制動装置101を備える。制動装置101が車輪10FL、10FR、10RL、10RRに発生させる制動力は、機械的な制動力であり、より具体的には摩擦力を利用した制動力である。
制動装置101は、ブレーキ液の圧力により、それぞれの車輪10FL、10FR、10RL、10RRに、摩擦による機械的な車輪制動トルクを付与し、それぞれの車輪10FL、10FR、10RL、10RRに車輪制動力を発生させることにより、車両100を制動する力(車両制動力)を発生させる。ここで、FLは車両100の左前を表し、FRは車両100の右前を表し、RLは車両100の左後を表し、RRは車両100の右後を表す(以下同様)。
車両100は、駆動装置102を備える。駆動装置102は、動力発生手段である電動機60と、変速比変更手段である変速装置61とを含んで構成される。このように、車両100は、電動機60を動力発生手段とする電気自動車であるが、本実施形態においては、車両100はこれに限定されるものではない。
電動機60は、バッテリー4から電力の供給を受けて動力を発生する。バッテリー4からの電力は、駆動制御ECU(Electronic Control Unit)2によって制御される電力変換装置3によって調整されて電動機60に供給される。これによって、電動機60の出力(回転数とトルク)が調整される。電動機60の出力は、変速装置61を介して左前駆動軸62FL及び右前駆動軸62FRに伝達される。これによって、電動機60は、左前駆動軸62FLに取り付けられる車輪10FL及び右前駆動軸62FRに取り付けられる車輪10FRが駆動する。駆動制御ECU2は、車両100の運転条件に応じて電動機60及び変速装置61を制御して、適切な状態で車両100を走行させる。ここで、変速装置61は必ずしも設ける必要はない。
本実施形態において、制動装置101は、制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRと、ブレーキ液通路である制動力発生手段側ブレーキ液配管42FL、42FR、42RL、42RRと、踏力増加手段(以下ブレーキブースタという)43と、マスタシリンダ44と、ブレーキ液圧調節手段(以下、「ブレーキアクチュエータ」という)50と、を備える。
制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRは、機械式かつ摩擦式の制動手段で、それぞれの車輪10FL、10FR、10RL、10RRに設けたホイールシリンダやブレーキパッド、ディスクローター等から構成される。制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRは、例えば、ブレーキパッドとディスクローターとの間に発生する摩擦力で制動力(摩擦制動力)を発生させる、摩擦制動装置である。
ブレーキブースタ43は、運転者によりブレーキペダル20に入力されたペダル踏力を増加させる。ここで、ブレーキペダル20は、ブレーキブースタ43を介して運転者の踏力をマスタシリンダ44へ伝えるペダルアーム20Aと、ペダルアーム20Aに取り付けられて運転者の踏力をペダルアーム20Aへ伝達するペダル本体20Pとで構成される。運転者の踏力は、車輪10FL、10FR、10RL、10RRに車輪制動力を発生させるための力となる。マスタシリンダ44は、ブレーキブースタ43によって増加された踏力を、ブレーキ液の圧力(ブレーキ液圧)へと変換する。ブレーキアクチュエータ50は、変換されたブレーキ液圧をそのまま、又は調節してそれぞれの制動力発生手段側ブレーキ液配管42FL、42FR、42RL、42RRに伝える。
ブレーキアクチュエータ50と、それぞれの制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRとは、制動力発生手段側ブレーキ液配管42FL、42FR、42RL、42RRによって接続される。また、ブレーキアクチュエータ50とマスタシリンダ44とは、マスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45A及びマスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45Bによって接続されている。
マスタシリンダ44、制動力発生手段側ブレーキ液配管42FL、42FR、42RL、42RR、マスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45A、マスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45B及びブレーキアクチュエータ50内に設けられるブレーキ液通路には、ブレーキ液が満たされている。これによって、ブレーキペダル20から入力され、ブレーキブースタ43を介してマスタシリンダ44へ入力された踏力は、マスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45A、マスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45Bや制動力発生手段側ブレーキ液配管42FL、42FR、42RL、42RR等の内部のブレーキ液を介して、それぞれの制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRを構成するホイールシリンダへ伝達される。このように、制動装置101は、車両100が備える車輪10FL、10FR、10RL、10RRに制動力を発生させる制動力発生手段へ、ブレーキ液を介して、車両100が備える車輪に制動力を発生させるための力を伝達する。
本実施形態において、ブレーキアクチュエータ50は、それぞれの制動力発生手段側ブレーキ液配管42FL、42FR、42RL、42RRのブレーキ液圧を個別に調節できる機能を有する。ブレーキアクチュエータ50は、それぞれの車輪10FL、10FR、10RL、10RRに対して、それぞれ独立した大きさの車輪制動力を発生させることができる。そして、図1に示す制動装置の制御装置(以下制動制御装置という)1が、ブレーキアクチュエータ50を駆動制御することによって、いわゆるABS制御やブレーキアシスト制御等が行われる。
制動装置101は、制動制御装置1によってその動作が制御され、目標とする車両の制動力(目標車両制動力)に応じた車輪制動力を車輪10FL、10FR、10RL、10RRに発生させる。制動制御装置1は、例えば、マイクロコンピュータやメモリ等を組み合わせて構成され、車輪10FL、10FR、10RL、10RRに対する車輪制動力を制御するとともに、本実施形態に係る制動制御装置を実現する。制動制御装置1には、ブレーキの操作状態、すなわち、車両100の運転者によるブレーキペダル20の操作状態を検出する手段(ブレーキ操作検出手段)として、マスタシリンダ圧力センサ31、ストロークセンサ32、踏力検出スイッチ33が接続されている。制動装置101は、少なくとも一つのブレーキ操作検出手段を備える。なお、ストロークセンサ32は必ずしも備える必要はない。
また、制動制御装置1には、電流計34と、レゾルバ35と、第1出口側ブレーキ液圧センサ36Aと、第2出口側ブレーキ液圧センサ36Bと、傾斜角度センサ37とが接続されている。電流計34は、ブレーキアクチュエータ50内に備えられるブレーキ液加圧手段を駆動するブレーキ液加圧手段駆動手段である電動機の駆動電流を検出する電動機駆動電流検出手段である。また、レゾルバ35は、前記電動機の回転数(単位時間あたりの回転数)を検出する電動機回転数検出手段である。傾斜角度センサ37は、車両100が走行又は停止している路面の傾斜を求めるための情報を検出する路面勾配検出手段であり、本実施形態では、前記情報として、車両100が走行又は停止している路面の勾配を検出する。ブレーキアクチュエータ50の構成や、ブレーキアクチュエータ50が備えるブレーキ液加圧手段、ブレーキ液加圧手段駆動手段、第1出口側ブレーキ液圧センサ36Aと、第2出口側ブレーキ液圧センサ36Bについては後述する。
制動制御装置1は、制駆動力演算部1aと、路面勾配演算部1bと、ブレーキ液圧演算部1cと、制御条件判定部1dと、ブレーキ液圧減圧パラメータ演算部1eと、制動装置制御部(流量制御弁制御手段)1fと、記憶部1mと、を含んで構成される。なお、本実施形態において、傾斜角度センサ37は、制動制御装置1に含まれる。制駆動力演算部1aは、車両100の運転者が要求する制動力や車両100の駆動力を演算する。路面勾配演算部1bは、制動制御装置1に接続される傾斜角度センサ37から取得した情報に基づいて、車両100が走行又は停止する路面の勾配を演算する。ブレーキ液圧演算部1cは、本実施形態に係る制動制御において、ブレーキ液圧を演算する。制御条件判定部1dは、制動装置101の制動制御の条件を判定する。ブレーキ液圧減圧パラメータ演算部1eは、本実施形態に係る制動制御において、ブレーキ液圧を減圧してブレーキを解除する際に必要な制御パラメータを演算する。
制動装置制御部1fは、ブレーキアクチュエータ50の動作を制御して、いわゆるABS制御やブレーキアシスト制御、あるいは本実施形態に係る制動制御を実行する。このように、制動装置制御部1fは、それぞれの車輪10FL、10FR、10RL、10RRが目標とする車輪制動力(目標車輪制動力)を、それぞれの車輪10FL、10FR、10RL、10RRに発生させる。記憶部1mは、本実施形態に係る制動制御を実行するためのコンピュータプログラムや制御データ、あるいはABS制御やブレーキアシスト制御を実行するためのコンピュータプログラムや制御データが格納されている。また、制動制御装置1は、駆動制御ECU2と接続されており、相互に情報をやり取りして、制動制御装置1と駆動制御ECU2との間で協調して制御できるように構成される。
ここで、目標車両制動力とは、主として運転者によるブレーキペダル20の操作状態量に応じた、車両100の制動に要する目標値のことである。ブレーキペダル20の操作状態量は、ブレーキペダル20を操作したときの状態やブレーキペダル20に対する入力の状態を示すパラメータであり、例えば、ペダルストローク量、ペダルストローク位置、踏力、ペダル操作速度等である。また、目標車輪制動力とは、目標車両制動力を車両100に働かせるためにそれぞれの車輪10FL、10FR、10RL、10RRに分担させる制動力のことである。
制動装置制御部1fは、それぞれの車輪10FL、10FR、10RL、10RRに発生させる目標車輪制動力を、目標車両制動力が満たされるように求めるが、その際に、例えば車両100の前後方向における加速度、車両100の横方向における加速度、ヨーモーメントやそれぞれの車輪10FL、10FR、10RL、10RRのスリップ率等を考慮することが望ましい。すなわち、それぞれの車輪10FL、10FR、10RL、10RRの目標車輪制動力は、少なくとも車両100の挙動が不安定にならない範囲内で、目標車両制動力をそれぞれの車輪10FL、10FR、10RL、10RRに分担させることが好ましい。
図2は、本実施形態に係る制動装置が備えるブレーキアクチュエータの構成を示す装置構成図である。ブレーキアクチュエータ50は、マスタシリンダ44からのブレーキ液圧を制動力発生手段41FR、41RLへ伝達する第1液圧伝達系統51Aと、制動力発生手段41FL、41RRへ伝達する第2液圧伝達系統51Bとを備える。第1液圧伝達系統51Aは、ブレーキ液通路であるマスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45Aによってマスタシリンダ44と接続され、第2液圧伝達系統51Bは、ブレーキ液通路であるマスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45Bによってマスタシリンダ44と接続される。
第1液圧伝達系統51Aでは、マスタシリンダ44からのブレーキ液圧は、マスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45A、流量制御弁である第1マスタカット弁52A、ブレーキ液通路である第1高圧ブレーキ液配管58A、保持ソレノイド弁53FR、53RLを介して、制動力発生手段41FR、41RLへ伝えられる。保持ソレノイド弁53FR、53RLと制動力発生手段41FR、41RLとの間には、減圧ソレノイド弁54FR、54RLが設けられている。
保持ソレノイド弁53FR、53RL及び減圧ソレノイド弁54FR、54RLを動作させることにより、制動力発生手段41FR、41RLに作用するブレーキ液圧を増減させて、車輪10FR、10RLの制動力が調整される。例えば、保持ソレノイド弁53FR、53RL及び減圧ソレノイド弁54FR、54RLの開時間と閉時間とのデューティー比を変更することにより、制動力発生手段41FR、41RLに作用するブレーキ液圧を増減させる。
第2液圧伝達系統51Bでは、マスタシリンダ44からのブレーキ液圧は、マスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45B、流量制御弁である第2マスタカット弁52B、ブレーキ液通路である第2高圧ブレーキ液配管58B、保持ソレノイド弁53FL、53RRを介して、制動力発生手段41FL、41RRへ伝えられる。保持ソレノイド弁53FL、53RRと制動力発生手段41FL、41RRとの間には、減圧ソレノイド弁54FL、54RRが設けられている。
保持ソレノイド弁53FL、53RR及び減圧ソレノイド弁54FL、54RRを動作させることにより、制動力発生手段41FL、41RRに作用するブレーキ液圧を増減させて、車輪10FL、10RRの制動力が調整される。例えば、保持ソレノイド弁53FL、53RR及び減圧ソレノイド弁54FL、54RRの開時間と閉時間とのデューティー比を変更することにより、制動力発生手段41FL、41RRに作用するブレーキ液圧を増減させる。
流量制御弁である第1マスタカット弁52A及び第2マスタカット弁52B(以下、必要に応じてマスタカット弁52という)は、リニアソレノイド及びスプリングを有している。そして、マスタカット弁52は、ソレノイドが非通電時には開いた状態となり、また、ソレノイドへ供給する電流を調整することで、開度を調整可能な常開型の電磁流量制御弁である。マスタカット弁52は、リニアソレノイドを用いることにより、開度がリニアに変化する。これによって、マスタカット弁52は、開度を調整することにより、出口のブレーキ液圧Peと入口のブレーキ液圧Piとの間に差圧(マスタカット弁差圧)ΔP_SMC(=Pe−Pi)を作り出すことができるとともに、前記差圧ΔP_SMCをリニアに変化させることができる。
ここで、第1マスタカット弁52A、第2マスタカット弁52Bの出口側のブレーキ液圧は、それぞれ第1高圧ブレーキ液配管58A、第2高圧ブレーキ液配管58Bの内部におけるブレーキ液圧である。また、第1マスタカット弁52A、第2マスタカット弁52Bの入口側のブレーキ液圧は、それぞれマスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45A、マスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45B内部におけるブレーキ液圧である。第1マスタカット弁52Aのマスタカット弁差圧は、第1高圧ブレーキ液配管58A内のブレーキ液圧及びマスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45A内のブレーキ液圧から算出される。また、第2マスタカット弁52Bのマスタカット弁差圧は、第2高圧ブレーキ液配管58B内のブレーキ液圧及びマスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45B内のブレーキ液圧から算出される。なお、マスタカット弁差圧は、マスタカット弁52に供給する制御電流から求めることもできる。
第1マスタカット弁52A、第2マスタカット弁52Bの入口側の圧力は、マスタシリンダ圧力センサ31によって検出され、図1、図2に示す制動制御装置1に取得される。また、第1高圧ブレーキ液配管58A、第2高圧ブレーキ液配管58Bの内部におけるブレーキ液圧は、これらに取り付けられる第1出口側ブレーキ液圧センサ36A、第2出口側ブレーキ液圧センサ36Bによって検出されて、図1、図2に示す制動制御装置1に取得される。なお、第1出口側ブレーキ液圧センサ36A、第2出口側ブレーキ液圧センサ36Bは必ずしも設ける必要はない。
減圧ソレノイド弁54FR、54RLの出口及びマスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45Aは、第1ブレーキ液リザーバ57Aが接続される。また、減圧ソレノイド弁54FL、54RRの出口及びマスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45Bは、第2ブレーキ液リザーバ57Bに接続されている。第1ブレーキ液リザーバ57A及び第2ブレーキ液リザーバ57Bは、ブレーキ液を蓄えるブレーキ液貯留手段である。
ブレーキアクチュエータ50は、第1液圧伝達系統51Aの液圧を調整するため、第1液圧伝達系統51A内のブレーキ液を加圧する第1ポンプ56Aを備え、また、第2液圧伝達系統51Bの液圧を調整するため、第2液圧伝達系統51B内のブレーキ液を加圧する第2ポンプ56Bを備える。第1ポンプ56Aが第1液圧伝達系統51A内のブレーキ液を加圧することにより、制動力発生手段41FR、41RLへ与えられるブレーキ液の圧力、すなわち液圧が上昇する。同様に、第2ポンプ56Bが第2液圧伝達系統51B内のブレーキ液を加圧することにより、制動力発生手段41FL、41RRへ与えられる液圧が上昇する。このように、第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bは、ブレーキ液加圧手段として機能する。
第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bは、ブレーキ液加圧手段駆動手段であるポンプ駆動用電動機55によって駆動される。制動制御装置1は、電流計34から検出されるポンプ駆動用電動機55の駆動電流や、レゾルバ35から検出されるポンプ駆動用電動機55の回転角度に基づいて、ポンプ駆動用電動機55の動作を制御する。なお、レゾルバ35は必ずしも設ける必要はない。
第1マスタカット弁52A、第2マスタカット弁52Bを開いた状態とすると、第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bから吐出されるブレーキ液は、マスタカット弁52と第1ブレーキ液リザーバ57A、第2ブレーキ液リザーバ57Bとの間を循環する。このため、マスタカット弁差圧は発生しない。一方、第1マスタカット弁52A、第2マスタカット弁52Bへ制御電流を流し、これらの開度を小さくすると、マスタカット弁差圧が発生する。これによって、制動力発生手段41FR、41RL、41FL、41RRに作用するブレーキ液圧を、マスタシリンダ44内のブレーキ液圧以上に増圧できる。
図3は、本実施形態に係る制動制御の手順を示すフローチャートである。図4−1、図4−2は、車両が勾配で停止している状態を示す模式図である。図5、図6は、本実施形態に係る制動制御のタイミングチャートである。図7は、本実施形態に係る制動制御に用いる制御パラメータを記述したデータマップを示す模式図である。本実施形態に係る駆動制御は、制動制御装置1によって実行される。まず、車両100が停止するときにおける制御を説明する。
図1に示す車両100は、電動機60を動力発生源としているので、回生制動が可能である。すなわち、電動機60を発電機として用い、車両100の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して車両100を制動することができる。本実施形態に係る制動制御においては、車両100の駆動輪(車輪10FL、10FR)に加わる回生制動力と、車両100の駆動輪及び従動輪(車輪10RL、10RR)に加わる摩擦制動力、すなわち機械式ブレーキによる制動力との和が、車両100の運転者が要求する制動力(以下要求制動力という)となるようにする。これを、回生協調制御という。
図5に示す時間t=t0において、車速V1で走行していた車両100に対して制動要求がなされた、すなわち、車両100の運転者がブレーキペダル20を踏み込んだとする。ブレーキペダル20が操作されると、制動制御装置1の制御条件判定部1dは、ストロークセンサ32あるいは踏力検出スイッチ33で検出されたペダルの動作に基づき、要求制動力Fb_dを演算する。
車両100が通常の走行状態にある場合、ブレーキアクチュエータ50は、マスタカット弁52が開弁、保持ソレノイド弁53FR、53RL、53FL、53RRが開弁、減圧ソレノイド弁54FR、54RL、54FL、53RRが閉弁された状態にある。この状態では、運転者がブレーキペダル20を踏み込んだことによりマスタシリンダ44内のブレーキ液に生じたブレーキ液圧と同じ大きさのブレーキ液圧が、制動力発生装置41FR、41RL、41FL、41RRのホイールシリンダに作用する。このとき、車両100に発生する制動力を、マスタ圧制動力Fb_mとする。
制動制御装置1の制駆動力演算部1aは、要求制動力Fb_dからマスタ圧制動力Fb_mを減算した値を回生制動力Fb_rとして設定する。そして、制駆動力演算部1aは、駆動制御ECU2へ回生制動力Fb_rについての情報を送信する。駆動制御ECU2は、回生制動力Fb_rの情報に基づき、電動機60によって車両100の駆動輪(車輪10FL、10FR)に加えられる回生制動力が回生制動力Fb_rになるように、電動機60の駆動信号を生成する。そして、駆動制御ECU2は、電力変換装置3に前記駆動信号を送信し、電力変換装置3によって電動機60を制御する。これによって、電動機60は回生トルクTmで車両100の駆動輪(車輪10FL、10FR)から駆動され、電力を発生する。この電力は、電力変換装置3を介してバッテリー4に蓄えられる。
その後、回生制動力Fb_rとマスタ圧制動力Fb_mとの和の制動力により、車両100の車速が徐々に低下していき、図5に示す時間t=t1で基準車速V2以下になると、制動制御装置1の制動装置制御部1fは、すり替え制御を実行する。すり替え制御とは、回生制動力Fb_rを、図2に示すブレーキアクチュエータ50の第1ポンプ56A、第2ポンプ56Bによって加圧したブレーキ液のブレーキ液圧が、制動力発生装置41FR、41RL、41FL、41RRのホイールシリンダに作用することによって生ずるポンプ加圧制動力Fb_pに肩代わりさせる制御である。電動機60の特性により、車両100の車速が低くなるにしたがって、回生制動力Fb_rは低下するため、このようなすり替え制御が必要になる。
時間t=t1で滑らかにすり替え制御を開始するため、制動装置制御部1fは、時間t=t1よりも前に第1ポンプ56A、第2ポンプ56Bの駆動を開始し、ポンプ回転数を所定の回転数N1まで上昇させることが好ましい。第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bを回転させた場合、第1マスタカット弁52A及び第2マスタカット弁52Bの開度をそれまでよりも小さくすることにより、これらのマスタカット弁差圧ΔP_SMCが発生する。その結果、制動力発生手段41FR、41RL、41FL、41RRのホイールシリンダに作用するブレーキ液圧を、マスタシリンダ44内のブレーキ液圧以上に増圧できる。
制駆動力演算部1aは、駆動制御ECU2に指令を送信し、回生制動力Fb_rの値を徐々に減少させる。そして、回生制動力Fb_rの減少分をポンプ加圧制動力Fb_pで補うように、マスタカット弁差圧ΔP_SMCを設定する。本実施形態では、マスタカット弁差圧ΔP_SMCを目標差圧ΔP0まで上昇させる。
回生制動力Fb_rからポンプ加圧制動力Fb_pのすり替え制御が完了し(図5の回生トルクTmが0の時点)、車両100が停止したとする。このとき、車両100の車速は0になる。ここで、ブレーキアクチュエータ50は、いわゆる電子制御ブレーキシステムとは異なり、マスタシリンダ44と制動力発生手段41FR、41RL、41FL、41RRのホイールシリンダとの連通を遮断せず、マスタシリンダ44から前記ホイールシリンダへブレーキ液が供給されうる状態で制動力を制御する。
このため、運転者がブレーキペダル20を操作している最中に第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bを停止すると、マスタカット弁52を通過するブレーキ液の流量が減少することにともなって流体力が減少し、マスタカット弁52の開度が増加することがある。その結果、マスタカット弁52を通ってマスタシリンダ44へ流入するブレーキ液が増加して、ブレーキペダル20を運転者側に押し戻す現象が発生し、ブレーキペダル20の操作フィーリングを低下させるおそれがある。
このため、本実施形態に係る制動制御では、第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bが停止した場合には、マスタカット弁52の出口におけるブレーキ液圧と入口におけるブレーキ液圧との差圧(すなわちマスタカット弁差圧)を、第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bが停止する前よりも増加させる。より具体的には、車両100が停止した時点、すなわち時間t=tsで、制動装置制御部1fが第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bを停止する。そして、時間t=t2で第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bは完全に停止する。第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bを停止するにあたり、制動制御装置1のブレーキ液圧演算部1cは、マスタカット弁52の目標とする値を、現在のマスタカット弁差圧ΔP0よりも高いΔP2に設定する。そして、制動装置制御部1fは、時間t=tsでマスタカット弁差圧ΔP_SMCをΔP2となるように、マスタカット弁52を制御する。
これによって、マスタカット弁52を閉じる方向の力が、マスタカット弁52の開度を増加させる方向の力と打ち消し合い、マスタカット弁52の開度の変動を抑制できる。その結果、マスタカット弁52を通ってブレーキ液がマスタシリンダ44へ流入する現象を抑制できるので、上述したブレーキペダル20を運転者側に押し戻す現象を抑制できる。そして、ブレーキペダル20の操作フィーリングの低下が抑制される。
また、マスタカット弁52の開度が大きくなると、前記ホイールシリンダに作用するブレーキ液圧も低下する。しかし、本実施形態に係る制動制御により、マスタカット弁52を通ってブレーキ液がマスタシリンダ44へ流入する現象を抑制できるので、前記ホイールシリンダに作用するブレーキ液圧の低下を抑制できる。
次に、図5におけるt=t2以降における制動制御を説明する。本実施形態に係る制動制御では、第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bが停止した後は、マスタカット弁差圧ΔP_SMCを、0よりも大きい所定の値に保持する。
これによって、第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bが停止した後であっても、前記ホイールシリンダに作用するブレーキ液圧の低下を抑制できる。その結果、例えば、車両100が上り勾配や下り勾配で停止している場合でも、確実に車両100を停止させることができる。同時に、ブレーキペダル20の操作フィーリングの低下が抑制される。
この場合、第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bが停止した後は、マスタカット弁52と制動力発生手段41FR、41RL、41FL、41RRとの間におけるブレーキ液の圧力は、0よりも大きい値に保持される。所定の値は、例えば、車両100が勾配で停止している場合には、車両100をその勾配で停止させることができる制動力を発生可能なブレーキ液圧の大きさとする。次に、この制御内容を説明する。
ステップS101において、制動制御装置1の制駆動力演算部1aは、要求制動力の前回値F_last_break、及び車両100の状態に基づいて設定される制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧(以下指示ブレーキ液圧という)の前回値P_last_smcを記憶部1mに記憶させる。ここで、前回とは、今回の制御ルーチンの直前における制御ルーチンをいう。
ステップS102に進み、制駆動力演算部1aは、現時点における要求制動力F_brakeを求める。制駆動力演算部1aは、マスタシリンダ圧力センサ31、ストロークセンサ32あるいは踏力検出スイッチ33等からの情報を取得し、これらに基づいて要求制動力を求める。次に、ステップS103において、制駆動力演算部1aは、現時点における車両の駆動力(車両駆動力)F_driveを求める。制駆動力演算部1aは、図1に示す駆動制御ECU2から電動機60のトルク指令値、単位時間あたりの回転数(電動機回転数)、駆動輪である車両100の車輪10FL、10FRの半径等を取得し、これらの情報から車両駆動力F_driveを求める。
次に、ステップS104において、制動制御装置1の路面勾配演算部1bは、車両100が走行、あるいは停止している路面の勾配(路面勾配)を示す情報(路面勾配情報)αを求める。図4−1、図4−2に示すように、本実施形態において、路面勾配情報αは、水平線Hzに対する路面Sの傾斜角度(路面傾斜角度)である。なお、路面勾配情報αは、水平方向距離に対する垂直方向の距離の割合を用いてもよい。路面勾配演算部1bは、傾斜角度センサ37から取得した情報に基づいて、路面勾配情報αを求める。
ここで、車両100の前方fが傾斜の高い方を向く場合には、車両100が走行あるいは停止している路面Sが上り勾配であり、車両100の前方fが傾斜の低い方を向く場合には、車両100が走行あるいは停止している路面Sが下り勾配である。
次に、ステップS105に進み、制駆動力演算部1aは、勾配のある路面で、駆動力のない車両100を停止させるために必要な力(無駆動時勾配停止力)F_αを求める。無駆動時勾配停止力F_αの大きさは、図4−1、図4−2に示すように、車両の質量をM、重力加速度をgとした場合、路面Sに平行な方向における質量Mの分力Fdに等しい。すなわち、F_α=Fd=M×g×sinαである。なお、図4−1に示すように、車両100が走行あるいは停止している路面Sが上り勾配である場合、F_αは正の値であり、図4−2に示すように、車両100が走行あるいは停止している路面Sが下り勾配である場合、F_αは負の値である。
次に、ステップS106に進み、制動制御装置1のブレーキ液圧演算部1cは、勾配のある路面で車両100を停止するために必要なブレーキ液圧(勾配停止ブレーキ液圧)P_actを求める。なお、勾配停止ブレーキ液圧P_actは、図1に示す制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRを構成するホイールシリンダの圧力であり、例えば、マスタカット弁52の出口側における圧力を、前記ホイールシリンダの圧力とみなす。
勾配停止ブレーキ液圧P_actを求めるにあたり、まず、ブレーキ液圧演算部1cは、ステップS105で求めた無駆動時勾配停止力F_αとステップS103で求めた車両駆動力F_driveとの差である勾配停止力F_s(=F_α−F_drive)を求める。例えば、上り勾配において車両100の駆動力がない場合、勾配停止力F_sは無駆動時勾配停止力F_αに等しいが、車両100が駆動力(例えばクリープ力)を持つ場合、勾配停止力F_sは、その分だけ無駆動時勾配停止力F_αよりも小さくなる。
このようにして求めた勾配停止力F_sを車両100に与えれば、車両100を勾配のある路面で停止させることができる。勾配停止力F_sは、車両100に作用する力であるので、勾配停止力F_sは、車両100が備える制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRの制動力で発生させる。このため、ブレーキ液圧演算部1cは、制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRが勾配停止力F_sを発生させるために必要なブレーキ液圧、すなわち勾配停止ブレーキ液圧P_actを求める。
これは、例えば、車両100が備える車輪10FL、10FR、10RL、10RRそれぞれの制動力F_sp(総和がF_sになる)、半径R、制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRのホイールシリンダの受圧面積As、ディスクローターの半径r、ブレーキパッドとディスクローターとの間の摩擦係数μ等に基づいて求める。
なお、勾配停止ブレーキ液圧P_actは負の値はとらないので、勾配停止ブレーキ液圧P_actは0以上である。したがって、勾配停止力F_sに基づいて得られた勾配停止ブレーキ液圧P_actが負の値になった場合、勾配停止ブレーキ液圧P_act=0となる。また、下り勾配においては、勾配停止力F_sは負の値になるので、勾配停止ブレーキ液圧P_actを求める場合には勾配停止ブレーキ液圧P_actが正の値になるようにする。
勾配停止ブレーキ液圧P_actが求められたら、ステップS107に進む。ステップS107において、制動制御装置1の制御条件判定部1dは、図1に示すアクセル38PがOFF(アクセル38Pが踏まれていない、すなわちアクセル開度が0)であるか否かを判定する。これは、制御条件判定部1dが、駆動制御ECU2に接続されているアクセル開度センサ38から取得した情報に基づいて判定される。
ステップS107でYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部1dがアクセルはOFFであると判定した場合、ステップS108において、制御条件判定部1dは、ブレーキがONであるか否かを判定する。これは、図1に示すブレーキペダル20に対する操作があったか否かで判定される。制御条件判定部1dは、マスタシリンダ圧力センサ31、ストロークセンサ32、踏力検出スイッチ33から取得した情報に基づいて、ブレーキがONであるか否かを判定する。
ステップS108でYesと判定された場合、すなわち制御条件判定部1dがブレーキはONであると判定した場合、ステップS109において、制動制御装置1のブレーキ液圧減圧パラメータ演算部1eは、車両100の運転者がブレーキを緩めた量(ブレーキ戻し量)ΔF_dec1を求める。ブレーキ戻し量ΔF_dec1は、ステップS101で記憶された要求制動力の前回値F_last_breakと、ステップS102で得られた現時点における要求制動力F_brakeとの差分と、0とのうち大きい方である。すなわち、ΔF_dec1=max(F_last_break−F_brake、0)である。ここで、ΔF_dec1は、力である。
F_last_break−F_brakeが正の場合、すなわち、現時点における要求制動力が、その前におけるF_last_break−F_brakeよりも小さい場合、ブレーキペダル20の踏み込み量が減少している。この場合、ΔF_dec1=F_last_break−F_brakeとなる。一方、F_last_break−F_brakeが負の場合、すなわち、現時点における要求制動力が、その前におけるF_last_break−F_brakeよりも大きい場合、ブレーキペダル20の踏み込み量が増加している。この場合、ΔF_dec1=0となる。
次に、ステップS110において、ブレーキ液圧演算部1cは、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcを求める。現時点における指示ブレーキ液圧P_smcを求めるにあたって、ブレーキ液圧演算部1cは、ステップS109で求めたブレーキ戻し量ΔF_dec1をブレーキ液圧(ブレーキ戻しブレーキ液圧)ΔP_dec1に変換する。ブレーキ戻しブレーキ液圧ΔP_dec1は、例えば、車両100が備える車輪10FL、10FR、10RL、10RRそれぞれに対応するブレーキ戻し量ΔF_dec1_p(総和がΔF_dec1になる)、半径R、制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRのホイールシリンダの受圧面積As、ディスクローターの半径r、ブレーキパッドとディスクローターとの間の摩擦係数μ等に基づいて求める。
次に、ブレーキ液圧演算部1cは、ステップS101で取得された指示ブレーキ液圧の前回値P_last_smcとブレーキ戻しブレーキ液圧ΔP_dec1との差と、ステップS106で求めた勾配停止ブレーキ液圧P_actとのうち大きい方を、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcとする。すなわち、P_smc=max(P_last_smc−ΔP_dec1、P_act)となる。このように、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcは、前回の指示ブレーキ液圧からブレーキの戻し量を差し引いた値とするが、勾配停止ブレーキ液圧P_actよりも小さくはしない。これによって、ブレーキペダル20の操作に応じてブレーキを解除できるので、ブレーキの操作フィーリングが自然になり、車両100が勾配を走行中、あるいは勾配に停止中(すなわち、車両100が坂路にあるとき)であっても、ブレーキペダルの操作フィーリングの低下を抑制できる。また、車両100が勾配を走行中、あるいは勾配に停止中であっても車両100をより確実に停止させることができる。
現時点における指示ブレーキ液圧P_smcが得られたら、制動制御装置1の制動装置制御部1fは、制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRのホイールシリンダに作用するブレーキ液圧が、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcとなるように、マスタカット弁52の開度を調整する。この場合、制動装置制御部1fは、第1出口側ブレーキ液圧センサ36A、第2出口側ブレーキ液圧センサ36BがP_smcとなるように、マスタカット弁52の開度をフィードバック制御してもよい。また、マスタカット弁52の開度と、マスタカット弁52の出口側、すなわち制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRのホイールシリンダに作用するブレーキ液圧との関係を求めておき、これに基づいてマスタカット弁52の開度を調整してもよい。
制動装置制御部1fがマスタカット弁52の開度を調整したら、ステップS115に進む。ステップS115において、制御条件判定部1dは、ステップS110で得られた現時点における指示ブレーキ液圧P_smcが0であるか否かを判定する。ステップS115でYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部1dがP_smc=0であると判定した場合、本実施形態に係る制動制御を終了する。ステップS115でNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部1dがP_smc>0であると判定した場合、ステップS101に戻り、次の制御ルーチンを開始する。
ステップS101〜ステップS115が繰り返されることにより、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcは、勾配停止ブレーキ液圧P_actに近づく。これによって、マスタカット弁差圧ΔP_SMCは、図5のAで示すように低下する(t=t2〜t4)。すなわち、マスタカット弁差圧ΔP_SMCは、勾配停止ブレーキ液圧P_actに相当する差圧ΔP1に近づいていく。
ステップS107又はステップS108でNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部1dがアクセルはONである、又はブレーキはOFFであると判定した場合、車両100は停止、あるいは停止から発進しようとしている状態にあると判断できる。この場合、ステップS111に進み、制御条件判定部1dは、ステップS104で求めた路面勾配情報α(本実施形態では路面傾斜角度)が0より大きいか否かを判定する。
ステップS111でYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部1dがα>0であると判定した場合、車両100は上り勾配の路面で停止している(図5に示すt=t4以降)か、停止から発進しようとしているかのいずれかであると判断できる。この場合、ステップS112へ進み、ブレーキ液圧演算部1cは、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcをステップS106で求めた勾配停止ブレーキ液圧P_actとする。
現時点における指示ブレーキ液圧P_smcが得られたら、制動装置制御部1fは、制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRのホイールシリンダに作用するブレーキ液圧が、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcとなるように、マスタカット弁52の開度を調整する。これによって、車両100が上り勾配に停車していても、制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRのホイールシリンダに作用するブレーキ液圧は勾配停止ブレーキ液圧P_actに保持されるので、車両100をより確実に停止させることができる。
次に、ステップS115に進むが、ステップS115については上述した通りなので、説明を省略する。なお、アクセル38Pを踏み込んで車両100を発進させようとすれば、ステップS103の車両駆動力F_driveは増加していく。これによって、ある時点でステップS106で求める勾配停止ブレーキ液圧P_actの値は負の値となるが、上述したように、この場合には、勾配停止ブレーキ液圧P_act=0になるので、ステップS112における指示ブレーキ液圧P_smcは0になる。そして、P_smc=0である場合には、ステップS115においてYesと判定されて、本実施形態に係る制動制御が終了する。
ステップS111でNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部1dがP_act≦0であると判定した場合、車両100は下り勾配の路面で停止している(図6に示すt=t5までの期間)か、停止から発進しようとしているかのいずれかであると判断できる。この場合、ステップS113へ進み、ブレーキ液圧減圧パラメータ演算部1eは、ブレーキ液圧の減圧勾配ΔP_dec2を求める。
減圧勾配ΔP_dec2は、ブレーキアクチュエータ50が備える第1ポンプ56A及び第2ポンプ56Bによって加圧されたブレーキ液を減圧することによって、少なくとも下り勾配で停止している車両100の制動力を解除する場合に用いるパラメータである。減圧勾配ΔP_dec2は、この場合において、ブレーキ液の減圧速度を決定するものであり、車両100が停止している路面の勾配が大きくなるにしたがって、ブレーキアクチュエータ50内のブレーキ液を減圧する速度を小さくするように設定される。これについては、後述する。
減圧勾配ΔP_dec2が求められたら、ステップS114へ進み、ブレーキ液圧演算部1cは、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcを求める。現時点における指示ブレーキ液圧P_smcを求めるにあたって、ブレーキ液圧演算部1cは、ステップS101で取得された指示ブレーキ液圧の前回値P_last_smcとステップS113で求めた減圧勾配ΔP_dec2との差と、0とのうち大きい方を、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcとする。すなわち、P_smc=max(P_last_smc−ΔP_dec2、0)となる。このように、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcは、前回の指示ブレーキ液圧から減圧勾配ΔP_dec2を差し引いた値とするが、0よりも小さくはしない。
P_smc=max(P_last_smc−ΔP_dec2、0)とするので、減圧勾配ΔP_dec2を小さくすると、ブレーキアクチュエータ50内のブレーキ液を減圧する速度を小さくできる。本実施形態では、図7のデータマップ70に示すように、横軸に示す路面勾配情報αが大きくなるにしたがって、すなわち、路面傾斜角度(路面勾配検出手段である傾斜角度センサ37が検出した、車両100が停止又は走行している路面の勾配)が大きくなるにしたがって、減圧勾配ΔP_dec2が小さくなるように設定する。これによって、車両100が停止している路面(坂路)の路面傾斜角度が大きくなるにしたがって、すなわち前記路面の勾配が大きくなるにしたがって、ブレーキアクチュエータ50内のブレーキ液を減圧する速度を小さくできる。
このように現時点における指示ブレーキ液圧P_smcを設定することで、下り勾配に車両100が停車している状態から発進しようとする場合、路面の傾斜が大きくなるにしたがって車両100の制動力は、より緩やかに解除される。その結果、車両100をより確実に停止させるとともに、停止時において、車両100は、運転者の意図した通りの挙動を示すようになる。
現時点における指示ブレーキ液圧P_smcが得られたら、制動装置制御部1fは、制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRのホイールシリンダに作用するブレーキ液圧が、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcとなるように、マスタカット弁52の開度を調整する(図6のt=t5)。すると、図6のBで示すように、t=t5〜t6の間でマスタカット弁差圧ΔP_SMCが低下するので、ブレーキアクチュエータ50内のマスタカット弁52の出口側におけるブレーキ液圧が低下する。これによって、車両100の制動力は徐々に解除されるので、車両100の急激な飛び出しが抑制される。
上述したように、勾配が大きくなるにしたがって減圧勾配ΔP_dec2は小さく設定されるので、勾配が大きくなるにしたがって図6のBで示す傾斜が緩やかになり、t=t5〜t6の間の時間が長くなる。これによって、勾配が大きくなるほど車両100の制動力は緩やかに解除されるので、車両100の急激な飛び出しをより確実に抑制でき、安全性がより向上する。次に、ステップS115に進む。ステップS115において、ステップS114で求められた現時点における指示ブレーキ液圧P_smcが0よりも大きい場合(ステップS115:No)には次の制御ルーチンに入り、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcが0になると本実施形態に係る制動制御が終了する。
ここで、上述したステップS112は、車両100は上り勾配の路面で停止しているか、停止から発進しようとしているかのいずれかであると判断される場合に、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcを求める手順である。この手順において、上述した減圧勾配ΔP_dec2を用いて現時点における指示ブレーキ液圧P_smcを求めてもよい。
ステップS112において、減圧勾配ΔP_dec2を用いて現時点における指示ブレーキ液圧P_smcを求めるにあたって、ブレーキ液圧演算部1cは、ステップS101で取得された指示ブレーキ液圧の前回値P_last_smcとステップS113で求めた減圧勾配ΔP_dec2との差と、ステップS106で求めた勾配停止ブレーキ液圧P_actとのうち大きい方を、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcとする。すなわち、P_smc=max(P_last_smc−ΔP_dec2、P_act)となる。このように、現時点における指示ブレーキ液圧P_smcは、前回の指示ブレーキ液圧から減圧勾配ΔP_dec2を差し引いた値とするが、P_actよりも小さくはしない。これによって、車両100が上り勾配に停車している場合、制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRのホイールシリンダに作用するブレーキ液圧の最小値は勾配停止ブレーキ液圧P_actになるので、車両100をより確実に停止させるとともに、車両100は、運転者の意図した通りの挙動を示すようになる。
P_smc=max(P_last_smc−ΔP_dec2、0)とするので、減圧勾配ΔP_dec2を小さくすると、ブレーキアクチュエータ50内のブレーキ液を減圧する速度を小さくできる。本実施形態では、図7のデータマップ70に示すように、横軸に示す路面勾配情報αが大きくなるにしたがって、すなわち、路面傾斜角度が大きくなるにしたがって、減圧勾配ΔP_dec2が小さくなるように設定する。これによって、車両100が停止している路面(坂路)の路面傾斜角度が大きくなるにしたがって、すなわち前記路面の勾配が大きくなるにしたがって、ブレーキアクチュエータ50内のブレーキ液を減圧する速度を小さくできる。
このように現時点における指示ブレーキ液圧P_smcを設定することで、上り勾配に車両100が停車している状態から発進しようとする場合、路面の傾斜が大きくなるにしたがって車両100の制動力は、より緩やかに解除される。その結果、車両100のずり下がりを確実に抑制できるので、安全性が向上する。
以上、本実施形態では、マスタシリンダと制動力発生手段との間におけるブレーキ液通路上に流量制御弁を備える。そしてこの流量制御弁は、ポンプによって加圧されたブレーキ液を減圧することによって坂路(上り勾配又は下り勾配)で停止している車両の制動力を解除する場合には、前記勾配が大きくなるにしたがって、ブレーキ液を減圧する速度を小さくする。これによって、車両が上り勾配又は下り勾配に停車していても、制動力発生手段に作用するブレーキ液圧が徐々に解除されるので、車両をより確実に停止させ、また、運転者の意図した通りに車両を動かすことができる。また、路面の勾配が大きくなるにしたがって、制動力が解除される速度は低下するので、路面の勾配が大きくなっても、車両をより確実に停止させ、また、運転者の意図した通りに車両を動かすことができる。
さらに、マスタシリンダと制動力発生手段との間に流量制御弁を備え、ポンプによって吐出されたブレーキ液を流量制御弁の開度を調整して制動力発生手段へ供給する形式の制動装置を用いるため、いわゆるバイワイヤブレーキシステムと比較して、コストを低減できる。
また、本実施形態では、流量制御弁は、車両が停止した後は、流量制御弁と制動力発生手段との間のブレーキ液のブレーキ液圧を、0よりも大きい所定の圧力に保持する。この場合、所定の圧力は、路面上に車両が留まることができる程度の制動力を発生させるブレーキ液圧の大きさが好ましい。例えば、傾斜した路面に車両が停止する場合、傾斜路面に車両が留まることができる程度の制動力を発生できるブレーキ液圧とする。このように、車両の状態を考慮して、流量制御弁と制動力発生手段との間のブレーキ液のブレーキ液圧を調整するので、車両を確実に停止させることができる。同時に、ブレーキペダルの操作フィーリングの低下が抑制される。