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JP2009204506A - 透光性部材、時計、および透光性部材の製造方法 - Google Patents

透光性部材、時計、および透光性部材の製造方法 Download PDF

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JP2009204506A
JP2009204506A JP2008048043A JP2008048043A JP2009204506A JP 2009204506 A JP2009204506 A JP 2009204506A JP 2008048043 A JP2008048043 A JP 2008048043A JP 2008048043 A JP2008048043 A JP 2008048043A JP 2009204506 A JP2009204506 A JP 2009204506A
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克己 鈴木
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Abstract

【課題】反射防止機能を備え、かつ硬度が十分に高く耐傷性が確保された透光性部材、時計、および透光性部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の透光性部材1は、透光性を有する基材10を備え、基材10の最表面には、F、H、B、SiおよびCから選択された少なくともいずれかのイオンが注入されて反射防止機能を有する無機膜13が形成され、無機膜13における前記イオンの濃度は、無機膜13の最表層部111で最大であり、最表層部111から無機膜13の内部に向かって次第に小さくなる。
【選択図】図3

Description

本発明は、カバーガラスなどの透光性部材、時計、および透光性部材の製造方法に関する。
従来、時刻表示などの視認性を高めるため、カバーガラス(風防)と呼ばれる透光性部材に反射防止膜(減反射膜)を形成することが知られている(特許文献1)。反射防止膜は、屈折率の異なる無機膜が数層〜数十層積層されて構成されることが一般的であり、カバーガラスのように高い硬度が求められる場合には、光透過率が高いうえ低屈折率でかつ比較的硬度が高いSiOが反射防止膜の最表層に成膜されることが多い。特許文献1には、SiOを最表層および最下層とし、SiO膜とSi膜とが交互に積層された反射防止膜が記載されている。
特開2004−271480号公報
ここで、カバーガラスに多用されるサファイア基板の硬度はISO14577準拠の測定値で約52269N/mm(5330kgf/mmを換算した値。以下同様)と高硬度であるが、SiO膜の硬度はISO14577準拠の測定値で約13700N/mm〜約19600N/mm程度と、耐傷性を確保するのに十分な硬度とは言い難い(EB蒸着によるSiO層は約13700N/mm(1400kgf/mm)、スパッタによるSiO層は約19600N/mm(2000kgf/mm))。また、このような反射防止膜をカバーガラスの外側の面に形成すると、外部からの衝撃等で膜が剥離するなどして光透過率が低下し、時刻表示等の視認性が低下するおそれがあるため、反射防止膜をカバーガラスの外側の面に形成することは難しい。このため、SiOを最表層とする反射防止膜が形成される箇所は、実質、カバーガラスの内側の面に限定されていた。すなわち、耐傷性が要求される部分への反射防止層の形成が難しかった。
一方、硬度が高いSi、AlおよびZrOなどの無機化合物は屈折率が高く、これらの無機化合物からなる無機膜では、反射防止機能に劣る。
以上に鑑みて、本発明の目的は、反射防止機能を備え、かつ硬度が十分に高く耐傷性が確保された透光性部材、時計、および透光性部材の製造方法を提供することにある。
本発明は、透光性を有する基材を備える透光性部材であって、前記基材の最表面には、F(フッ素)、H(水素)、B(ホウ素)、Si(ケイ素)およびC(炭素)から選択された少なくともいずれかのイオンが注入されて反射防止機能を有する無機膜が形成され、前記無機膜における前記イオンの濃度は、前記無機膜の最表層部で最大であり、前記最表層部から前記無機膜の内部に向かって次第に小さくなることを特徴とする。
ここで、本発明に係る無機膜は、注入された前記イオンが存在することにより反射防止機能を有する反射防止部分(以下、「反射防止層」ともいう。)を有する。この反射防止層は、無機膜の体表面から無機膜の内部に亘って所定深さで形成された層状の領域である。
なお、透光性部材の基材としては、サファイアガラス(以下、単に「サファイア」ともいう。)、石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
この発明では、無機膜に注入された前記イオンを含んで反射防止層が形成される。ここで、無機膜にイオンが注入されることにより形成された反射防止層の屈折率は、無機膜における反射防止層以外の部分(イオン非注入部)の屈折率よりも小さい。このため、無機膜と空気との屈折率の差を小さくでき、これによって光透過率を増大させることが可能となるので、反射率を低減することが可能となる。また、基材自体が高屈折率であったとしても、その上に、反射防止機能を有する無機膜が形成されるので、サファイア等の高屈折率基材にも適用が可能である。
また、本発明では、無機膜に前記イオンが注入されることにより無機膜の硬度が向上する。すなわち、耐傷性と反射防止機能とを併せ持つ透光性部材を実現できる。それ故、本発明の透光性部材をカバー部材として使用する場合に、そのカバー部材の外側の部分に反射防止機能と耐傷性を付与することが可能となる。
そして、本発明の透光性部材が機器の情報表示部のカバー部材として設けられる場合には、透光性部材の反射防止機能によって情報の視認性が向上する。この視認性は、透光性部材の耐傷性によって長期に亘り維持される。
また、本発明の透光性部材においては、前記無機膜における前記イオンの濃度は、前記無機膜(反射防止層)の最表層部で最大であり、前記最表層部から前記無機膜の内部に向かって次第に小さくなっている。
従って、この発明によれば、イオン濃度が無機膜の最表層部において最大であって最表層部から最下層部に向かって次第に小さくなるイオン分布により、反射防止層における屈折率が最表層部で最小となる。これは、例えば無機膜の体表面(深さゼロ)からの所定深さにのみ集中的にイオンが注入されているようなイオン分布の場合とは異なる。
ここで、空気と無機膜との界面における屈折率の差が小さいほど反射光の光強度を小さくできるので、本発明のように無機膜における屈折率が最表層部で最小であることにより、反射防止効果をより高くできる。
また、本発明のように無機膜の体表面からの深さに応じてイオン濃度が異なることで、微視的には無機膜における反射防止層の内部において、屈折率が互いに異なる複数の光学層が形成されたものと想定できる。これらの光学層により、屈折率が異なる多層構造の反射防止膜を形成することなく、広範囲な波長および広範囲な入射角の光に対応した反射防止効果が得られる。このような反射防止効果が本発明によって簡易にかつ安価に得られる。
本発明の透光性部材においては、前記無機膜が、SiO、MgF、LiF、NaAlF、NaF、CaF、LaF、NdF、Al、CeF、およびSiOで示されるいずれかの無機化合物からなることが好ましい。
無機膜を構成する無機化合物が上述のいずれかであると、それらの優れた基本特性(硬度や屈折率)を生かした上で、前記したイオン注入により、低屈折率かつ高硬度の無機膜を提供することが可能となる。また、上述した無機膜は、サファイア、石英ガラス、ソーダガラス等からなる基材との接着性に優れる点でも好ましい。特にサファイアを基材とする場合には、無機膜構成材料としてAlを選定することが好ましい。
本発明の透光性部材においては、前記イオンの濃度が前記最表層部における値の1/2となる前記無機膜の体表面からの深さは、50nm以上、150nm以下であることが好ましい。
本発明のようにイオンが基材の深い位置にまで、しかも高濃度に注入されることにより、微視的には反射防止層の内部で、反射防止機能に寄与する実効的な屈折率を有し、屈折率が互いに異なる多数の層が形成される。このような多層構造により、より広範囲な波長およびより広範囲な入射角の光に対応した反射防止効果が得られる。
ここで、本発明のように前記深さ(イオン注入深さ)が50nm〜150nmであることにより、可視光領域略全体に亘って良好に反射率を低減できる。これにより、透光性部材の無色透明化を図ることができる。
なお、前記イオン注入深さが50nm未満の場合には、特に青の帯域における反射率が大きい。また、前記イオン注入深さが150nmを超えた場合には、特に赤の帯域における反射率が大きい。
本発明の透光性部材においては、前記無機膜(反射防止層)の最表層部の屈折率は、1.63以下であることが好ましく、1.59以下であることがより好ましい。
この発明によれば、反射防止層の最表層部の屈折率が1.63以下と低く、これによってイオン注入前の無機膜と空気との界面における屈折率の差が小さくなるため、良好な反射防止効果が得られる。
本発明の透光性部材において、前記無機膜が形成された基材の表面硬度は、24500N/mm(約2500kgf/mm2)以上であることが好ましい。
この発明によれば、無機膜へのイオン注入によって、高い表面硬度が基材に付与されるので、携帯される腕時計、懐中時計などの時計や、携帯情報機器などにとって、実用上十分な耐傷性が得られる。
ここで、前記表面硬度は、ISO14577に準拠した方法で測定された値である。この測定には、圧子と、圧子への荷重を制御する荷重制御機構と、圧子の変位を検出するセンサとを有するナノインデンターが使用される。
本発明の透光性部材において、前記無機膜が形成された基材の表面硬度は、前記イオンの注入前の無機膜が形成された基材の硬度よりも大きいことが好ましい。
この発明では、無機膜にイオンが注入されることにより、無機膜が形成された基材の表面硬度が、イオン注入前の無機膜が形成された基材の硬度よりも大きい。これにより、透光性部材の耐傷性をより一層向上させることができる。例えば、イオン注入により無機膜の体表面部の圧縮応力を増大させることで、前記無機膜が形成された基材の表面硬度をイオン注入前の硬度よりも大きくすることができる。
本発明の透光性部材において、前記透光性部材は、カバー部材とされ、前記無機膜層は、前記カバー部材の内側の部分および外側の部分のうち、少なくとも外側の部分に形成されることが好ましい。
本発明によれば、カバー部材の外側から入射する光の反射を入射側で防止できるため、カバー部材の内側である射出側の部分に反射防止層が形成された場合よりも良好な反射防止効果が得られる。
また、外部に露出するためより高い耐傷性が要求されるカバー部材の外側の部分に反射防止層が形成されることで、耐傷性確保の意義を大きくできる。
本発明の透光性部材において、前記無機膜には、放電プラズマ状態下で発生した前記イオンが、前記基材への電荷印加によって注入されることが好ましい。
なお、サファイア等の基材は絶縁体であるため、基材の近傍に導体を配置し、この導体を電極として電圧を印加することにより、無機膜への電荷印加が可能となる。
この発明によれば、放電プラズマ状態下でイオンを発生させ、基材への電荷印加によってイオンを無機膜に注入することにより、前述したような無機膜(反射防止層)の最表層部においてイオン濃度が最大となるイオン分布や、前記イオン注入深さを容易に実現できる。すなわち、本発明によれば、電圧印加によりイオンを加速させるイオン打ち込み処理や、加熱によるイオン拡散処理などの他の方法によるイオン注入処理と比べて、イオンをより深い注入深さで高濃度に注入することが可能となる。
また、本発明の手法により、基材の平面方向において均一にイオンを注入することが可能となる。
本発明の時計は、前述の透光性部材を備え、前記透光性部材は、時計体を収容するケースに設けられることを特徴とする。
この発明によれば、前述の透光性部材を備えることにより、前述と同様の作用および効果を享受できる。ここで、透光性部材は、例えばカバーガラス(風防)としてケースに設けられる。
本発明の透光性部材の製造方法は、透光性を有する基材を備える透光性部材の製造方法であって、前記基材表面に無機膜を形成する無機膜形成工程と、F、H、B、SiおよびCから選択された少なくとも1種を含む原料ガスから、放電プラズマ状態下でイオンを発生させるイオン化工程と、前記基材の近傍に導体を配置し、この導体を電極として電圧を印加した際の前記基材への電荷印加によって前記イオンを前記無機膜に注入するイオン注入工程と、を備えることを特徴とする。
この発明によれば、基材表面に形成された無機膜が反射防止層となり、さらに無機膜の硬度も上がり、結果として基材の体表面の硬度が向上するため、耐傷性と反射防止機能とを併せ持つ透光性部材を実現できる。
また、放電プラズマ状態下でイオンを発生させ、基材への電荷印加によってイオンを無機膜に注入することにより、前述したような反射防止層の最表層部においてイオン濃度が最大となるイオン分布や、前述したイオン注入深さを容易に実現できる。本発明によれば、電圧印加によりイオンを加速させる半導体製造用のイオン打ち込み処理や、加熱によるイオン拡散処理などの他の方法によるイオン注入処理と比べて、イオンをより深い注入深さで高濃度に注入することが可能となる。
また、本発明により、基材表面に形成された無機膜の平面方向において均一にイオンを注入することが可能となる。
このような本発明によれば、反射防止機能と耐傷性とを併せ持つ透光性部材、これを備えた時計、および透光性部材の製造方法を提供できる。
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
〔1.プラズマイオン注入装置の構成〕
図1は、透光性部材としてのカバーガラス1を加工するプラズマイオン注入装置2(PBII:Plasma Based Ion Implantation)の概略構成を示す。このプラズマイオン注入装置2は、プラズマ生成用の高周波電源(RF電源)21と、イオン注入用の負の高電圧パルス源であるパルス発振器22と、これら高周波電源21およびパルス発振器22が接続され、インピーダンス整合を行う回路部23と、回路部23に接続された端子24と、内部に端子24が挿入されたSUS(ステンレス鋼)製のチャンバー25とを備える。
チャンバー25は、F、H、B、SiおよびCから選択された少なくとも1種を含む原料ガスの導入部251と、チャンバー25内の気体を排気する排気部252とを有する。また、チャンバー25内には、カバーガラス1を載置する導体9(本実施形態ではSUS製の板材)が電極として設置される。導体9は、接地されたチャンバー25から絶縁され、チャンバー25内の略中央に設置される。
〔2.カバーガラスの製造方法〕
図2に、本実施形態のカバーガラス1の製造方法に係る各工程を示す。また、図3には、この製造方法により得られたカバーガラス1の模式図を示す。カバーガラス1は、基材10と、その表面に形成された無機膜13とを含んで構成されるが詳細は後述する。
本実施形態の製造方法は、基材10の表面に無機膜13を形成する無機膜形成工程S1と、プラズマイオン原料ガスから放電プラズマ状態下でイオンを発生させるイオン化工程S2と、イオンをカバーガラス1の基材に注入するイオン注入工程S3とを備える。
なお、基材10の表面に無機膜13を形成する工程S1の前に、基材10を洗浄することが好ましい。本実施形態では、基材10を120℃の熱硫酸中に10分間浸漬し、純水でよくリンスした後、120℃に設定した大気中オーブンで30分間乾燥することによって基材10を洗浄する。
無機膜形成工程S1により基材10の表面に形成される無機膜13の構成材料としては、例えば、SiO、MgF、LiF、NaAlF、NaF、CaF、LaF、NdF、Al、CeF、およびSiOが挙げられる。
無機膜形成工程S1として適用可能な方法には、真空蒸着やスパッタリングなど薄膜形成法として知られる種々の方法が挙げられ、特に制限はないが、強い(剥がれにくい)膜とするためにはスパッタリングが好ましい。本実施形態では、スパッタリングにより無機膜13を形成する。
スパッタリングを行う際は、図示しないスパッタチャンバー内に、前述した無機化合物をターゲットとして載置し、対向して置かれた基材10に対して常法によりスパッタリングを行う。
無機膜13の厚みとしては、後述するイオン注入による反射防止層形成や表面硬度の向上を考慮して200nm〜1μmとすることが好ましい。
イオン化工程S2では、前述したプラズマイオン注入装置2を用いる。具体的には、排気部252から排気してチャンバー25内を例えば、4×10−4Paまで減圧したうえで、導入部251から原料ガスをチャンバー25内に導入する。そして、チャンバー25内のガス圧を例えば2.4Paとした状態で、高周波電源21からの高周波パルス(本実施形態では13.56MHz)を、回路部23を介して導体9と端子24との間に印加する。これによりチャンバー25内で気体放電によってプラズマが発生し、使用した原料ガスに応じてF、H、B、SiおよびCの少なくともいずれかの種類の正イオンが発生する。
ここで、原料ガスは、次の通り、注入するイオン種に応じて適宜決められる。
Fイオンを注入する場合には、例えばCFまたはFを原料ガスとして使用できる。
Hイオンを注入する場合には、例えばHを原料ガスとして使用できる。
Bイオンを注入する場合には、例えばBFまたはBHを原料ガスとして使用できる。
Siイオンを注入する場合には、例えばHMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)を原料ガスとして使用できる。
Cイオンを注入する場合には、例えばCHを原料ガスとして使用できる。
なお、例示を省略するが、F、H、B、SiおよびCから選択された2種以上のイオンを注入する場合の原料ガスについても、適宜決められる。
イオン化工程S2により放電プラズマ状態下でイオン化が行われたら、無機膜13へのイオン注入工程S3を実施する。このイオン注入工程S3では、パルス発振器22からの負の高電圧パルス(例えば、−10〜−30KV、パルス幅2μ秒、周波数1KHz)を、回路部23を介して導体9と端子24との間に印加することにより、導体9に載置されたカバーガラス1に電荷を印加する。これによってチャンバー25内のイオンが、カバーガラス1の基材10表面に形成された無機膜13に打ち込まれる。パルスの印加時間(注入時間)は、例えば5〜10分間である。
なお、印加パルスの電圧およびパルス印加時間は、基材10の体表面における単位面積あたりの注入イオン数を示すイオン注入量に基づいて決められる。このイオン注入量は、イオン注入状態を示す指標である。本実施形態におけるイオン注入量は、1.0E15〜1.0E21ions/cmに設定される。
〔3.カバーガラスの構成〕
図3は、上述の製造方法により製造された本実施形態のカバーガラス1を示す模式図である。図4は、カバーガラス1を備えた腕時計を示す。カバーガラス1は、時計体(ムーブメント)3を収容するケース4に設けられる。ケース4には裏蓋5が設けられている。
本実施形態のカバーガラス1では、サファイア製の基材10が用いられている。そして、上述のイオン注入処理は、基材10表面に形成された無機膜13の前面部10Aに対して行われる。なお、無機膜の構成材料としてAlを用いた場合、イオン注入処理前における基材10(無機膜13)の硬度は、約21575N/mm(2200kgf/mm)であり、イオン注入処理前における無機膜13の屈折率は1.62である。
ここで、本実施形態において、カバーガラス1は、基材10表面に形成された無機膜13の表層である前面部10A、後面部10B、および側面部10Cからなる。前面部10Aは、カバーガラス1の外側の部分に相当する。後面部10Bは、カバーガラス1の内側の部分に相当し、文字板6および指針7に対向する。
前面部10Aには、無機膜13にイオンが注入されることによって反射防止層11(図3)が形成されている。この反射防止層11は、無機膜13の体表面Aから無機膜13の内部に亘って所定深さで形成された層状の領域であり、無機膜13に注入された状態のイオンを含む。無機膜13は、この反射防止層11と、イオンが注入されていないイオン非注入部12とを有して構成される。
図5は、基材10の体表面(深さゼロ)からの深さ(反射防止層11の厚み方向の寸法)とイオン濃度との関係を模式的に示したものである。反射防止層11におけるイオン分布は、最表層部111でイオン濃度が最大値となり、最表層部111から最下層部112に向かってイオン濃度が次第に小さくなる傾向を有する。
このように最表層部111でイオン濃度が最大であるため、最表層部111で屈折率が最小となり、最表層部111における屈折率は1.63以下となる。この屈折率は1.59以下であることが反射防止効果の点で好ましい。
また、本実施形態では、イオン濃度が最大値の1/2(半値)となる体表面Aからの深さ(図5のイオン注入深さ)は、50nm以上150nm以下である。本実施形態のプラズマイオン注入により、イオンを加速させるイオンガンを使用した場合と比べて基材の深い位置にまでイオンを高濃度に注入できる。このように無機膜13の深い位置にまで、しかも高濃度に注入されることにより、微視的には、反射防止層11の内部で、反射防止機能に寄与する実効的な屈折率を有し、屈折率が互いに異なる多数の光学層が形成されるものと想定できる。このような多層構造によって光の波長や無機膜13表面への入射角への依存性が少なくなり、可視光領域略全体に亘って反射率を良好に低減できる。
なお、カバーガラス1の反射率は、例えば、カバーガラス1(無機膜13)に入射した光の強度と、カバーガラス1で反射する光の強度との割合に基づいて測定可能である。そして、標準光の反射率と視感感度とを可視光領域の各波長において掛け合わせた値の積算値に基づいて評価用の反射率を求め、この反射率を使用してカバーガラス1の光学特性を評価することが好ましい。これにより、目視の場合の反射防止性能を適切に評価できる。
イオンが注入された無機膜13の前面部10Aの表面硬度は、ナノインデンターを使用したISO14577準拠の測定値で24500N/mm(約2500kgf/mm)以上である。ここで、イオン注入により基材の体表面部の圧縮応力が増すことで、表面硬度がイオン注入前よりも大きくなる。
上述したような反射防止層11による反射防止機能により、カバーガラス1を通して文字板6および指針7がはっきりと視認可能となり、視認性が向上する。ここで、カバーガラス1の前面部10Aの表面硬度が腕時計の使用上十分な硬度(24500N/mm(約2500kgf/mm)以上)であるため、カバーガラス1は優れた耐傷性を有する。これにより、外部衝撃を受けた際に光学特性が変化して透過率が低下することなく、長期に亘って優れた視認性を維持できる。
なお、反射防止層11は無機膜13自体であり、外部衝撃で反射防止層11が無機膜から剥離し、透過率が低下するなどの問題は生じない。
〔4.本実施形態による効果〕
以上の本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
(1)カバーガラス1の反射防止層11は、基材10の表面に形成された無機膜13に注入された所定のイオンを含んで無機膜13の一部を構成する。それ故、反射防止層11の硬度が無機膜13自体の硬度となる。つまり、基材10の材質を直接改変せず、腕時計の実用に十分な硬度を確保しつつ、基材10に反射防止機能を付与することが可能となる。これにより、耐傷性と反射防止機能とを併せ持つカバーガラス1を実現できる。
(2)カバーガラス1の反射防止機能により、時刻情報の視認性が向上する。この視認性は、カバーガラス1の耐傷性によって長期に亘り維持できる。
(3)無機膜の体表面Aからの深さに応じてイオン濃度が異なることで、微視的には反射防止層11の内部において、屈折率が互いに異なる複数の光学層が形成されたものと想定できるため、高価な多層構造の反射防止膜を形成することなく、広範囲な波長および広範囲な入射角の光に対応した反射防止効果が得られる。このような反射防止効果が反射防止層11によって簡易にかつ安価に得られる。
(4)イオン濃度が反射防止層11の最表層部111において最大であって最表層部111から最下層部112に向かって次第に小さくなるイオン分布により、反射防止層11における屈折率が最表層部111で最小となるため、反射防止効果をより高くできる。
また、基材10の体表面Aからの深さに応じてイオン濃度が異なることで、微視的には反射防止層11の内部において、屈折率が互いに異なる複数の光学層が形成されたものと想定できるため、高価な多層構造の反射防止膜を形成することなく、広範囲な波長および広範囲な入射角の光に対応した反射防止効果が得られる。このような反射防止効果が反射防止層11によって簡易にかつ安価に得られる。
(5)イオン濃度が最表層部111における値の1/2となるような、無機膜13の体表面Aからのイオン注入深さが50nm以上、150nm以下であることにより、可視光領域略全体に亘って良好に反射率を低減できる。これにより、透光性部材の無色透明化を図ることができる。
(6)反射防止層11の最表層部111の屈折率が1.63以下と低く、これによって反射防止層11の屈折率と空気の屈折率「1」との差が小さくなる。このため、良好な反射防止効果が得られる。
(7)無機膜13(カバーガラス1)の前面部10Aの表面硬度が24500N/mm(約2500kgf/mm)以上であることにより、腕時計の実用に十分な硬度が得られる。
(8)カバーガラス1の前面部10Aに形成された反射防止層11によって、カバーガラス1の外側から入射する光の反射を入射側で防止できる。このため、カバーガラス1の後面部10Bに反射防止層が形成された場合よりも良好な反射防止効果が得られる。
(9)放電プラズマ状態下でイオンを発生させ、基材10への電荷印加によってイオンを無機膜13に注入することにより、前述したような反射防止層11の最表層部111においてイオン濃度が最大となるイオン分布や、前述したイオン注入深さを容易に実現できる。すなわち、本実施形態のようなプラズマイオン注入処理によれば、電圧印加によりイオンを加速させるイオン打ち込み処理や、加熱によるイオン拡散処理などの他の方法によるイオン注入処理と比べて、イオンをより深い注入深さで高濃度に注入することが可能となる。
また、本実施形態のプラズマイオン注入処理により、無機膜13の平面方向において均一にイオンを注入することが可能となる。
〔本発明の変形例〕
本発明は、以上述べた実施形態には限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で種々の改良および変形を行うことが可能である。
前記実施形態では、カバーガラス1の前面部10Aのみに反射防止層11が形成されていたが、後面部10Bに無機膜13を形成してイオン注入を行い、反射防止層を形成してもよい。このように後面部10Bにイオン注入を行う場合には、図1中、後面部10Bを上にした状態で導体9にカバーガラス1を載置する。ここで、前面部10Aと後面部10Bとの両方に反射防止層を形成することにより、カバーガラス1の反射防止性能をより一層高くできる。
前記実施形態では風防としてのカバーガラス1に本発明が適用された例を示したが、本発明の透光性部材は、風防としてのカバーガラスに限定されない。機械式時計などでは、裏蓋5(図4)が設けられる位置にカバー部材としての透光性部材が設けられ、この透光性部材を介して時計体の内部の機構を視認可能なシースルーバック仕様とされていることがある。このような場合、この透光性部材に本発明を適用できる。
なお、透光性部材の基材としては、高硬度のサファイアが好適であるが、このほか、石英ガラス、ソーダガラス等の使用も検討してよい。
ここで、石英ガラス、ソーダガラス等が使用され、サファイア等と比べて基材の硬度が低い場合でも、本発明に係る無機膜へのイオン注入によって無機膜の最表面部の硬度が大きくなるため、腕時計等の実用に十分な硬度を確保できる。
また、本発明の透光性部材は、時計に使用されるカバー部材に限らず、携帯電話、携帯情報機器、計測機器、デジタルカメラ、プリンタ、プロジェクタ、ダイビングコンピュータ、脈拍計等の各種機器における情報表示部のカバー部材として好適に使用できる。
なお、本発明の透光性部材は、カバー部材には限定されない。本発明に係る反射防止層は、透光性部材の基材において硬度確保と反射防止機能とが要求される任意の箇所に形成される。
以下に説明する実施例1〜6ではそれぞれ、前記実施形態と同様にサファイア製の基材を使用し、無機膜をスパッタリングにより基材表面に形成した後、プラズマイオン注入装置2(図1)を使用して前記実施形態と同様の方法で無機膜にイオンを注入することによってカバーガラスを製造した。
具体的には、前記実施形態と同様の方法で基材を洗浄した後、前記実施形態と同様に無機膜形成工程S1、イオン化工程S2およびイオン注入工程S3を実施することにより、F、B、H、およびSiのいずれかのイオン種を基材に注入した。これにより、カバーガラスの外側の部分に相当する基材(無機膜)の前面部に反射防止層を形成した。以下に、詳細に説明する。
〔実施例1〕
〔本実施例におけるカバーガラスの製造条件〕
(無機膜形成工程)
洗浄後の基材およびターゲット(Al)をスパッタリングチャンバー内に載置した後、Arガスを導入した。チャンバー内の圧力を0.02Paとした後、スパッタリングを行い、Alからなる無機膜を基材の表面に形成した。
(イオン化工程)
無機膜形成後の基材を、プラズマイオン注入装置内に載置した後、装置内を4×10−4Paまで排気し、所定の原料ガスを導入して装置内の圧力を2.4Paとした。その後、RF電力(13.56MHz)を印加してプラズマを発生させた。
(イオン注入工程)
パルス電圧(パルス幅2μ秒、周波数1KHz)を発生させ、下記の条件で基材に印加した。ここで、イオン注入状態の指標としてのイオン注入量は、1.0E15ions/cmである。
パルス電圧 :−10kV
パルス印加時間:10分間
〔カバーガラスの光学特性の評価〕
上記の製造条件で製造されたカバーガラスについて、光学特性の評価を行った。
下記の表1に、注入したイオン種と、原料ガスと、イオン注入状態の指標としての注入量(イオン注入量)と、注入深さ(イオン注入深さ)と、屈折率と、反射率と、表面硬度とをそれぞれ示す。なお、注入深さ、屈折率、反射率、および表面硬度のそれぞれの意味を下記に示す。
注入深さ(nm):無機膜についてその表面(体表面)から深さ方向に二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)で分析してイオン濃度を測定し、このイオン濃度に基づいて求めたイオン注入深さであり、イオン濃度が反射防止層の最表層部における値の1/2となる無機膜表面からの深さである。イオン濃度は、測定分解能に応じた深さごとのイオン数から求められる。
屈折率:反射防止層(無機膜)の最表層部の屈折率である。
反射率(%):無機膜表面に対して90°の入射角で入射する標準光の反射率を求め、この反射率と、入射角90°の場合の視感感度とを可視光領域の各波長において掛け合わせた値の積算値に基づいて算出した値である。
表面硬度(N/mm):ナノインデンターを使用して無機膜の体表面部の表面硬度を測定した値であり、ISO14577に準拠する。
ここで、表中の試験No.0は、イオンが注入されていない無機膜の屈折率、反射率、および表面硬度を示したものである(実施例2〜6においても同じ)。
上記表に示すように、本実施例では前記イオン注入深さは100nmである。上記表の通り、イオン注入によって無機膜表面(反射防止層の最表層部)の屈折率が低下するとともに、無機膜の反射率が低下する。
ここで、Fを注入した場合に低屈折率化の効果が最も大きい。また、屈折率が1.59以下であれば、反射率を3.4%以下にできることがわかる。
なお、本実施例では、Siを注入した場合(試験No.4)の反射率が他のイオン種を注入した場合の反射率と比べて劣る。
上記の表に示すように、イオン注入によって無機膜表面の硬度が注入前よりも大きくなる。これは、イオン注入により基材の体表面部の圧縮応力が増したためと考えられる。そこで、上記表1のNo.0〜4のそれぞれのカバーガラスについて、以下に示す耐傷性試験1および耐傷性試験2を行った。
〔耐傷性試験1〕
文具用カッターの刃を基材の表面に垂直に当て、当該カッターに980N(10kgf)の荷重をかけながら、カッターの刃で無機膜表面を切るように直線的に移動させる。このようなカッターの刃の移動動作を10回行った後、実体顕微鏡で基材表面の傷の有無を観察した。
(その試験結果)
上記表1におけるNo.0のカバーガラス(イオン注入を行っていない無機膜(Al単独膜))では、無機膜表面に傷が付いたが、No.1〜4のいずれのカバーガラスについても、傷はつかなかった。
〔耐傷性試験2〕
次のような落砂試験を行った。水平面に対してカバーガラスを45°の傾斜角度で配置する。この際、反射防止層が形成された側が上面側になるようにカバーガラスを配置する。このように配置したカバーガラスの反射防止層に向かって、水平面より1mの高さから砂を落下させる。その後、カバーガラスを洗浄し、試験前におけるカバーガラスの光線透過率と、試験後におけるカバーガラスの光線透過率との差ΔT(%)に基づいて、耐傷性を評価した。
なお、使用する砂の材質は、黒色炭化ケイ素インゴットおよび緑色炭化ケイ素インゴットを粉砕、分級して製造されたカーボランダムである。この試験では、中心粒径が600〜850μmのカーボランダム#24を800cm使用した。
(その試験結果)
上記表1におけるNo.0のカバーガラスでは、ΔTが2.1%であったが、No.1〜4のいずれのカバーガラスについても、ΔTは1.0%であった。
以上の耐傷性試験1および耐傷性試験2から、本実施例のカバーガラスはいずれも良好な耐傷性を有することがわかる。
〔実施例2〕
〔本実施例におけるカバーガラスの製造条件〕
イオン注入状態の指標としてのイオン注入量は、本実施例では1.0E15ions/cmである。本実施例における負の高電圧パルス(パルス幅2μ秒、周波数1KHz)の電圧および印加時間を下記に示す。
パルス電圧 :−10kV
パルス印加時間:5分間
〔カバーガラスの光学特性の評価〕
上記の製造条件で製造されたカバーガラスの光学特性の評価を行った結果を、下記の表2に示す。なお、表中の注入深さ、屈折率、反射率、および表面硬度のそれぞれの意味は、実施例1で既に述べた。
上記表に示すように、本実施例では前記イオン注入深さは50nmであった。上記表の通り、イオン注入によって無機膜表面の屈折率が低下するとともに、無機膜の反射率が低下するが、実施例1とのイオン注入深さの違いにより、低反射率化の効果が小さい。本実施例よりも注入深さが小さくなると反射率が増加してしまう。また、本実施例よりも注入深さが小さくなると青の帯域に反射が生じて基材の色付きが起こる。これらの点で、本実施例よりもイオン注入深さが小さくなると、無色透明のカバーガラスとしては不適である。
〔耐傷性の試験〕
上記表2のNo.0〜4のそれぞれのカバーガラスについて、実施例1で述べた耐傷性試験1および耐傷性試験2を行ったところ、実施例1と同様の試験結果が得られた。本実施例のカバーガラスはいずれも、良好な耐傷性を有することがわかる。
〔実施例3〕
〔本実施例におけるカバーガラスの製造条件〕
次に、実施例3を示す。
イオン注入状態の指標としてのイオン注入量は、本実施例では1.0E17ions/cmである。本実施例における負の高電圧パルス(パルス幅2μ秒、周波数1KHz)の電圧および印加時間を下記に示す。
パルス電圧 :−15kV
パルス印加時間:10分間
〔カバーガラスの光学特性の評価〕
上記の製造条件で製造されたカバーガラスの光学特性の評価を行った結果を、下記の表3に示す。なお、表中の注入深さ、屈折率、反射率、および表面硬度のそれぞれの意味は、実施例1で既に述べた。
上記表に示すように、本実施例では前記イオン注入深さは100nmであった。
本実施例ではイオン注入量が実施例1よりも多いので、実施例1よりも屈折率が低く、反射率も低い。特に、屈折率が1.51以下、反射率が2.2%以下である上記試験No.1〜3の光学特性が良好である。
〔耐傷性の試験〕
本実施例ではイオン注入量が実施例1よりも多いので、実施例1よりも無機膜の表面硬度が高い。上記表3のNo.0〜4のそれぞれのカバーガラスについて、実施例1で述べた耐傷性試験1および耐傷性試験2を行ったところ、実施例1と同様の試験結果が得られた。本実施例のカバーガラスはいずれも、良好な耐傷性を有することがわかる。
〔実施例4〕
〔本実施例におけるカバーガラスの製造条件〕
イオン注入状態の指標としてのイオン注入量は、本実施例では1.0E19ions/cmである。本実施例における負の高電圧パルス(パルス幅2μ秒、周波数1KHz)の電圧および印加時間を下記に示す。
パルス電圧 :−20kV
パルス印加時間:10分間
〔カバーガラスの光学特性の評価〕
上記の製造条件で製造されたカバーガラスの光学特性の評価を行った結果を、下記の表4に示す。なお、表中の注入深さ、屈折率、反射率、および表面硬度のそれぞれの意味は、実施例1で既に述べた。
上記表に示すように、本実施例では前記イオン注入深さは100nmであった。
本実施例ではイオン注入量が実施例1、3よりも多いので、実施例1、3よりも屈折率が低く、反射率も低い。上記試験No.1〜4のいずれにおいても、屈折率が1.47以下、反射率が2.3%以下となり、良好な光学特性が得られた。とりわけ、上記試験No.1のようにF注入によって屈折率が1.41、反射率が1.4%という顕著な反射防止効果が得られた。
〔耐傷性の試験〕
本実施例ではイオン注入量が実施例3よりもさらに多いので、実施例3よりも無機膜表面の硬度が大きい。上記表1におけるNo.0のカバーガラスでは、ΔTが2.1%であったが、No.1〜4のいずれのカバーガラスについても、ΔTは0.8%であった。
以上の耐傷性試験1および耐傷性試験2から、本実施例のカバーガラスはいずれも良好な耐傷性を有することがわかる。
〔実施例5〕
〔本実施例におけるカバーガラスの製造条件〕
イオン注入状態の指標としてのイオン注入量は、本実施例では1.0E21ions/cmである。本実施例における負の高電圧パルス(パルス幅2μ秒、周波数1KHz)の電圧および印加時間を下記に示す。
パルス電圧 :−30kV
パルス印加時間:10分間
〔カバーガラスの光学特性の評価〕
上記の製造条件で製造されたカバーガラスの光学特性の評価を行った結果を、下記の表5に示す。なお、表中の注入深さ、屈折率、反射率、および表面硬度のそれぞれの意味は、実施例1で既に述べた。
上記表に示すように、本実施例では前記イオン注入深さは100nmである。本実施例ではイオン注入量が実施例4よりも多く屈折率が低くなりすぎているため反射率は低減しない。
本実施例では上記試験No.1〜4のいずれにおいても、屈折率が1.42以下、反射率が2.4%以下となり、良好な光学特性が得られた。とりわけ、上記試験No.1のようにF注入によって屈折率が1.36、反射率が1.6%という顕著な反射防止効果が得られた。但し、イオン注入深さが本実施例よりも大きくなると赤の帯域に若干色付きを生じるため、本実施例よりもイオン注入深さが増加することはあまり好ましくない。
〔耐傷性の試験〕
上記表5のNo.0〜4のそれぞれのカバーガラスについて、実施例1で述べた耐傷性試験1および耐傷性試験2を行ったところ、No.0のカバーガラスでは、ΔTが2.1%であったが、No.1〜4のいずれのカバーガラスについても、ΔTは0.8%であった。以上の耐傷性試験1および耐傷性試験2から、本実施例のカバーガラスはいずれも良好な耐傷性を有することがわかる。
〔実施例6〕
〔本実施例におけるカバーガラスの製造条件〕
イオン注入状態の指標としてのイオン注入量は、本比較例では1.0E21ions/cmである。本比較例における負の高電圧パルス(パルス幅2μ秒、周波数1KHz)の電圧および印加時間を下記に示す。
パルス電圧 :−30kV
パルス印加時間:20分間
〔カバーガラスの光学特性の評価〕
上記の製造条件で製造されたカバーガラスの光学特性の評価を行った結果を、下記の表6に示す。なお、表中の注入深さ、屈折率、反射率、および表面硬度のそれぞれの意味は、実施例1で既に述べた。
上記表に示すように、本比較例では前記イオン注入深さは150nmである。そのため、本実施例では実施例5よりも低くなる。ただし、表面硬度は実施例5と変わらない。また、赤の帯域において大きな反射が認められ、可視光領域全体の反射率も大きくなっている。本実施例のカバーガラスは赤の色付きが大きいため、カバーガラスとしては使用上やや制限を受ける可能性がある。
〔耐傷性の試験〕
上記表6のNo.0〜4のそれぞれのカバーガラスについて、実施例1で述べた耐傷性試験1および耐傷性試験2を行ったところ、実施例5と同様の試験結果が得られた。
〔実施例1〜6のまとめ〕
以上の実施例1〜6から、イオン注入量が多いほどカバーガラスの無機膜(基材表面)の屈折率を低くできる。ここで、反射率には前記イオン注入深さが影響し、実施例2に示したイオン注入深さ50nmから、実施例6に示したイオン注入深さ150nmまでの範囲において、反射率を良好に低減できる。なお、前記したイオン注入深さの範囲において、屈折率が1.59以下の場合に実効的な反射防止効果が得られる。
また、イオン注入により、無機膜表面の硬度を大きくできるため、耐傷性を大きく向上させることができる。
本発明の一実施形態に係るプラズマイオン注入装置の概略構成を示す図。 前記実施形態のカバーガラス製造方法に係る製造工程を示す図。 前記実施形態に係るカバーガラスの前面部を示す模式図。 前記実施形態に係るカバーガラスを備えた時計の断面図。 カバーガラスの基材の体表面部からの深さとイオン濃度との関係を示す模式図。
符号の説明
1…カバーガラス(透光性部材)、2…プラズマイオン注入装置、5…裏蓋、6…文字板、7…指針、9…導体、10…基材、10A…前面部(体表面部)、10B…後面部、10C…側面部、11…反射防止層、12…イオン非注入部、13…無機膜、21…高周波電源、22…パルス発振器、23…回路部、24…端子、25…チャンバー、111…最表層部、112…最下層部、251…導入部、252…排気部、S1…無機膜形成工程、S2…イオン化工程、S3…イオン注入工程、A…体表面

Claims (10)

  1. 透光性を有する基材を備える透光性部材であって、
    前記基材の最表面には、F、H、B、SiおよびCから選択された少なくともいずれかのイオンが注入されて反射防止機能を有する無機膜が形成され、
    前記無機膜における前記イオンの濃度は、前記無機膜の最表層部で最大であり、前記最表層部から前記無機膜の内部に向かって次第に小さくなる
    ことを特徴とする透光性部材。
  2. 請求項1に記載の透光性部材において、
    前記無機膜が、SiO、MgF、LiF、NaAlF、NaF、CaF、LaF、NdF、Al、CeF、およびSiOで示されるいずれかの無機化合物からなる
    ことを特徴とする透光性部材。
  3. 請求項1または請求項2に記載の透光性部材において、
    前記イオンの濃度が前記最表層部における値の1/2となる前記無機膜の体表面からの深さは、50nm以上、150nm以下である
    ことを特徴とする透光性部材。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれかに記載の透光性部材において、
    前記無機膜の最表層部の屈折率は、1.63以下である
    ことを特徴とする透光性部材。
  5. 請求項1〜請求項4のいずれかに記載の透光性部材において、
    前記無機膜が形成された基材の表面硬度は、24500N/mm以上である
    ことを特徴とする透光性部材。
  6. 請求項1〜請求項5のいずれかに記載の透光性部材において、
    前記無機膜が形成された基材の表面硬度は、前記イオンの注入前の無機膜が形成された基材の硬度よりも大きい
    ことを特徴とする透光性部材。
  7. 請求項1〜請求項6のいずれかに記載の透光性部材において、
    前記透光性部材は、カバー部材とされ、
    前記無機膜は、前記カバー部材の内側の部分および外側の部分のうち、少なくとも外側の部分に形成される
    ことを特徴とする透光性部材。
  8. 請求項1〜請求項7のいずれかに記載の透光性部材において、
    前記無機膜には、放電プラズマ状態下で発生した前記イオンが、前記基材への電荷印加によって注入される
    ことを特徴とする透光性部材。
  9. 請求項1〜請求項8のいずれかに記載の透光性部材を備え、
    前記透光性部材は、時計体を収容するケースに設けられる
    ことを特徴とする時計。
  10. 請求項1〜請求項8のいずれかに記載の透光性部材の製造方法であって、
    前記基材表面に無機膜を形成する無機膜形成工程と、
    F、H、B、SiおよびCから選択された少なくとも1種を含む原料ガスから、放電プラズマ状態下でイオンを発生させるイオン化工程と、
    前記基材の近傍に導体を配置し、この導体を電極として電圧を印加した際の前記基材への電荷印加によって前記イオンを前記無機膜に注入するイオン注入工程と、を備える
    ことを特徴とする透光性部材の製造方法。
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