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JP2008119199A - カルシニューリン産生亢進を抑制する薬剤コーティングステント - Google Patents

カルシニューリン産生亢進を抑制する薬剤コーティングステント Download PDF

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Chuwa Tei
忠和 鄭
Masaaki Miyata
昌明 宮田
Narisato Hamada
成郷 濱田
Kohei Fukaya
浩平 深谷
Takuji Nishide
拓司 西出
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Kagoshima University NUC
Kaneka Corp
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Kagoshima University NUC
Kaneka Corp
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Abstract

【課題】本発明が解決しようとするところは、ステント留置後の再狭窄の発生を効率的に抑制し、ステント血栓症のような重篤な副作用を低減させる薬剤コーティングステントを容易に提供することである。また、本発明は病変へのステント導入時あるいはステント留置時に薬剤コーティングの割れや剥がれを最小化する薬剤コーティングステントの提供も目的としている。
【解決手段】基材から構成されるステントであって、前記ステントは前記基材の少なくとも一部の表面にカルシニューリン産生亢進を抑制する薬剤がコーティングされているステントを構成した。
【選択図】 なし

Description

本発明は血管の狭窄部分を拡張し、その状態を維持することを目的として留置されるステントに関する。特に、セリン/スレオニン脱リン酸化酵素であるカルシニューリン産生亢進を抑制する薬剤がコーティングされた薬剤コーティングステントに関する。
体内で血液が循環するための流路である血管に狭窄が生じ、血液の循環が滞ることにより、様々な疾患が発生することが知られている。特に血液の循環の源である心臓自身に血液を供給する冠状動脈に狭窄が生じると、狭心症、心筋梗塞等の重篤な疾病をもたらし、死に至る危険性が極めて高いことが知られている。このような血管の狭窄部分を治療する方法のひとつとして、バルーンカテーテルを用いて狭窄部分を拡張させる血管形成術(PTA、PTCA)があり、バイパス手術のような開胸術を必要としない低侵襲療法であることから広く行われている。しかし、血管形成術の場合、約40%の頻度で拡張した狭窄部分に再狭窄が生じ、大きな問題として指摘されている。再狭窄が発生する頻度(再狭窄率)を低減する治療法として、血管形成術に代わってステント留置術が広く行われている。
ステントは、血管、胆管、尿道などの生体内管腔が狭窄した場合に、狭窄部位を拡張し、その状態を維持することを目的として留置される医療用具である。一般的に、ステントは金属や高分子、あるいはそれらの複合体から構成され、最も一般的には、SUS316鋼、Co−Cr系合金、Ni−Ti系合金などの金属から構成される。
ステントの拡張機構は、ステント自体の形状記憶性や超弾性により拡張する自己拡張型とバルーンカテーテルにより拡張されるバルーン拡張型に大別される。冠状動脈狭窄部の治療には主にバルーン拡張型が使用される。
バルーン拡張型ステントにより冠状動脈の狭窄部分を治療する場合、ステントはバルーンカテーテルに保持された状態で挿入され、拡張される。ステント留置術後の再狭窄率は約20%から30%程度である。バルーンカテーテルのみによる血管形成術後と比べて有意に低減されているものの、依然として再狭窄は高い頻度で生じている。
ステントの留置により狭窄部分には物理的な損傷が生じる。この損傷の修復反応として生じる過度の新生内膜の肥厚がステント留置術後の再狭窄の原因とされている。新生内膜の肥厚は、血管中膜における平滑筋細胞の増殖、増殖した平滑筋細胞の内膜への遊走、T細胞やマクロファージの内膜への遊走等により生じる。
近年、特許文献1に示すようにステント留置術後の再狭窄率低減を目的として、各種の高分子を用いてステントに薬剤を被覆する技術が開示されている。薬剤を被覆したステントは薬剤コーティングステントと称され、抗凝固薬、抗血小板薬、抗菌薬、抗腫瘍薬、抗微生物薬、抗炎症薬、抗物質代謝薬等の多数の適応が検討されている。
また、特許文献2ではシロリムス(ラパマイシン)を被覆したステントが開示され、特許文献3では抗腫瘍薬であるタキソール(パクリタキセル)を被覆したステントが開示されている。さらに、特許文献4および特許文献5ではタクロリムス(FK506)を被覆したステントが開示されている。
タクロリムス(FK506)はCAS番号104987−11−3の化合物であり、例えば特許文献6で開示されている。タクロリムス(FK506)は細胞内のFK506結合蛋白(FKBP)と複合体を形成して、主として分化・増殖因子であるIL−2やINF−γなどのサイトカインのT細胞からの産生を阻害することが示されている。従って、臓器移植時の拒絶反応や自己免疫疾患の予防薬または治療薬として使用されている。また、非特許文献1には、タクロリムス(FK506)はヒト血管平滑筋細胞に対する抗増殖活性を有することが確認されている(非特許文献1)。
ステントに薬剤を保持する方法として、特許文献1では高分子を用いて薬剤を担持することが開示されており、生分解性高分子を用いることも開示されている。特許文献7にも生分解性高分子を用いることが開示され、ポリ乳酸等の高分子が具体的に例示されている。
非特許文献2において、生体内で分解しない高分子を用いてシロリムスやパクリタキセルを被覆したステントをこれらの高分子に対する過敏性を有する患者に留置した場合、慢性期においてステント血栓症のような重篤な副作用が生じることが報告されている。
非特許文献3において、新生内膜の肥厚は、薬剤コーティングステントの留置後3ヶ月程度から顕著になり、6ヶ月程度までは少なくとも継続することが示唆されている。
カルシニューリンは、Ca2+/カルモジュリン(CaM)依存性のセリン/スレオニン脱リン酸化酵素で、活性基を有する分子量61kDaのカルシニューリンA(CnA)と制御サブユニットである分子量19kDaのカルシニューリンB(CnB)からなるヘテロ二重体タンパク質である。
カルシニューリンは、免疫抑制剤であるシクロスポリンやタクロリムスの標的分子であり、これらの薬剤により活性が阻害されることが知られている。この活性阻害はシクロスポリンやタクロリムスがそれぞれに特異的なイムノフィリンと呼ばれる細胞内結合タンパク質と結合して複合体を形成することに起因する。この複合体はCnBを介してカルシニューリンと結合し脱リン酸化活性を阻害することで、T細胞の転写因子であるNF−AT(Nuclear Factor of Activated T−cell)を介したサイトカイン産生を抑制し免疫抑制作用を発現することが知られている。
近年、カルシニューリンおよびそのシグナル伝達メカニズムがバルーンによる血管損傷後の新生内膜肥厚に影響を与える可能性が示唆されているが、ステント留置後の再狭窄への関連性は明らかになっていない。
特表平5−502179号公報 特開平6−009390号公報 特表平9−503488号公報 国際公報第WO02/065947号公報 欧州特許出願公開第EP1254674号公報 特開昭61−148181号公報 特表2002−531183号公報 Paul J. Mohacsi MD, et al. The Journal of Heart and Lung Transplantation May 1997 Vol.16, No.5, 484−491 Jonathan R. Nebeker, et al. J Am Coll Cardiol. 2006年47巻175−181 R Virmani, et al. Heart. 2003年89巻133−138
本発明が解決しようとするところは、ステント留置後の再狭窄の発生を効率的に抑制し、ステント血栓症のような重篤な副作用を低減させる薬剤コーティングステントを容易に提供することである。また、本発明は病変へのステント導入時あるいはステント留置時に薬剤コーティングの割れや剥がれを最小化する薬剤コーティングステントの提供も目的としている。
上記の課題の解決のために本発明者らが鋭意検討した結果、以下の複数の特徴を有する本発明を完成するに至った。
(1)本発明の特徴の一つは、基材から構成されるステントであって、前記ステントは前記基材の少なくとも一部の表面にカルシニューリン産生亢進を抑制する薬剤がコーティングされている。
(2)本発明の別の特徴は、前記ステントを血管に留置して3ヶ月後に、前記ステントと接触する血管の内膜におけるカルシニューリン発現率が23%以下である。
(3)本発明の別の特徴は、前記ステントを血管に留置して3ヶ月後に、前記ステントと接触する血管の中膜におけるカルシニューリン発現率が25%以下である。
(4)本発明の別の特徴は、前記ステントを血管に留置して3ヶ月後に、前記内膜におけるカルシニューリン発現抑制率が77%以上である。
(5)本発明の別の特徴は、前記ステントを血管に留置して3ヶ月後に、前記中膜におけるカルシニューリン発現抑制率が68%以上である。
(6)本発明の別の特徴は、前記薬剤が免疫抑制剤である。
(7)本発明の別の特徴は、前記免疫抑制剤が、タクロリムス、シクロスポリン、ピメクロリムスもしくはこれらのアナログのいずれかである。
(8)本発明の別の特徴は、前記免疫抑制剤がタクロリムスである。
(9)本発明の別の特徴は、前記ステントの軸方向単位長さあたりにコーティングされる前記タクロリムス重量が、6μg/mm以上、15μg/mm以下である。
(10)本発明の別の特徴は、前記薬剤と共に高分子がコーティングされている。
(11)本発明の別の特徴は、前記高分子が生分解性高分子である。
(12)本発明の別の特徴は、前記生分解性高分子は、体積比率で35%のメタノールを含有し、pHが3.0以上、4.0以下である緩衝液中に当該生分解性高分子を浸漬して37℃に保持する浸漬条件下で、
(a)浸漬後6週間から12週間の期間のいずれかの時点において当該生分解性高分子の重量が浸漬前の重量の50%に減少する、および
(b)浸漬後14週間から18週間の期間のいずれかの時点において当該生分解性高分子の重量が浸漬前の重量の10%に減少する、
という特性を有する。
(13)本発明の別の特徴は、前記生分解性高分子は、前記浸漬条件下で、さらに
(c)浸漬後8週間から10週間の期間のいずれかの時点において当該生分解性高分子の重量が浸漬前の重量の50%に減少する、および
(d)浸漬後14週間から16週間の期間のいずれかの時点において当該生分解性高分子の重量が浸漬前の重量の10%に減少する、
という特性を有する。
(14)本発明の別の特徴は、前記生分解性高分子は、体積比率で35%のメタノールを含有し、pHが3.0以上、4.0以下である緩衝液中に当該生分解性高分子を浸漬して37℃に保持する浸漬条件下で、
(e)前記生分解性高分子の重量から算出した重量減少率が浸漬3週間後まで1日あたり2.0%を超えない、
という特性を有する。
(15)本発明の別の特徴は、前記生分解性高分子は、前記浸漬条件下で、さらに
(f)前記生分解性高分子の重量から算出した重量減少率が、当該生分解性高分子が完全に分解する時点までの期間中、1日あたり2.0%を超えない、
という特性を有する。
(16)本発明の別の特徴は、
(g)前記ステントの軸方向単位長さあたりの当該生分解性高分子重量が23μg/mm以上、25μg/mm以下であり、かつ、
(h)前記生分解性高分子をクロロホルムに0.5wt%から1wt%の濃度範囲内で溶解させた後、25℃から30℃の温度範囲内で測定した固有粘度が0.4dL/g以上、0.7dL/g以下である。
(17)本発明の別の特徴は、前記ステント表面にコーティングされる前記薬剤/前記高分子の重量比が0.20以上、0.70以下であることを特徴とする。
(18)本発明の別の特徴は、前記生分解性高分子が乳酸、グリコール酸、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、テトラメチレンカーボネート、ジオキサノンのいずれかからなる重合体であることを特徴とする。
(19)本発明の別の特徴は、前記生分解性高分子が乳酸、グリコール酸、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、テトラメチレンカーボネート、ジオキサノンのうち、少なくとも2種類からなる共重合体であることを特徴とする。
(20)本発明の別の特徴は、前記重合体がポリ乳酸である。
(21)本発明の別の特徴は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した前記ポリ乳酸の標準ポリスチレン換算重量平均分子量が40,000以上、100,000以下である。
(22)本発明の別の特徴は、前記共重合体が乳酸−グリコール酸共重合体である。
(23)本発明の別の特徴は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した前記乳酸−グリコール酸共重合体の標準ポリスチレン換算重量平均分子量が80,000以上、100,000以下であり、前記乳酸−グリコール酸共重合体に乳酸が80mol%以上、90mol%以下含まれ、グリコール酸が10mol%以上、20mol%以下含まれる。
(24)本発明の別の特徴は、前記ステントにコーティングされる前記薬剤と前記高分子が層状構造を形成する。
(25)本発明の別の特徴は、前記層状構造が単層構造である。
(26)本発明の別の特徴は、前記層状構造が内層および外層から構成される二層構造であり、前記内層および前記外層の両方に前記薬剤および前記高分子が含まれ、前記内層における薬剤/生分解性高分子重量比が、前記外層における薬剤/生分解性高分子重量比よりも高い。
本発明に係るステントにより、ステント留置後の再狭窄の発生を効率的に抑制し、ステント血栓症のような重篤な副作用を低減させる薬剤コーティングステントが容易に提供される。また、生分解性高分子を用いて薬剤をコーティングする場合であっても、生分解性高分子の分解による炎症反応を最小限に抑えることが可能になる。
以下、本発明に係る「ステント」を、実施形態に基づいて説明する。実施形態の「ステント」は、ほぼ管状体に形成され、その管状体の半径方向外方に伸長可能である。
1.基材
本発明の実施形態としての「基材」はステントの骨格を形成するものである。例えば、筒状の材料チューブをレーザーカット等によりステントデザインにカットすることで作製可能である。
本発明における「基材」は生体内で実質的に非分解性の材料から構成される。本発明で用いる「生体内で実質的に非分解性の材料」とは生分解性がないことを意味するが、生体内で全く分解しないことを要求するものではない。すなわち、5年から10年程度の長期間にわたり形状と機能を維持することが可能であれば足りるものであり、これらを含めて「生体内で実質的に非分解性の材料」と呼ぶ。
実施形態における「生体内で実質的に非分解性の材料」としては、ステンレススチール、Ni−Ti合金、Cu−Al−Mn合金、タンタリウム、Co−Cr合金、イリジウム、イリジウムオキサイド、ニオブ等の金属材料、セラミックス、ハイドロキシアパタイト等の無機材料が好適に使用される。
ステント基材の作製は、当業者が通常作製する方法が採用可能であり、例えば、前述したとおり、筒状の材料チューブをレーザーカット等によりステントデザインにカットすることで作製できる。レーザーカット後に電解研磨を施しても良い。また、実施形態における「生体で実質的に非分解性の材料」は、金属材料あるいは無機材料に限定されず、ポリオレフィン、ポリオレフィンエラストマー、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン等の高分子材料も使用され得る。これらの高分子材料を用いたステント基材の作製方法は、本発明の効果を制限するものではなく、それぞれの材料に適した加工方法を任意に選択することができる。尚、本発明のステント基材は生体内で実質的に非分解性の材料から構成されるため、ステント基材が生分解性の材料から構成されるステントと比較した場合、十分なステント強度が長期間にわたって維持され、狭窄部分の拡張維持効果は極めて高いものとなる。
2.コーティング
本発明のステントは、前記基材表面の少なくとも一部にカルシニューリン産生亢進を抑制する薬剤がコーティングされていればよいが、基材の外表面、内表面および側表面のほぼ全面にコーティングされていることが好ましい。基材のほぼ全ての表面にコーティング層を有することにより、ステント留置術後に前記ステントの表面に血小板が付着しにくくなる。このような血小板の付着の抑制により、ステント留置術後の急性期における過度の血栓形成や血管の閉塞が生じる危険性を著しく低減させることができる。
3.薬剤
本発明に用いられる薬剤はカルシニューリン産生亢進を抑制する特性を有するものである。前記薬剤は免疫抑制剤であることが好ましく、前記免疫抑制剤はタクロリムス、シクロスポリン、ピメクロリムスもしくはこれらのアナログのいずれかであることが好ましく、タクロリムスであることが特に好ましい。これらの薬剤を使用することでカルシニューリン産生亢進を効率的に抑制させることができ、ステント留置後の再狭窄が効率よく抑制される。
薬剤としてタクロリムスを使用する場合、ステントの軸方向単位長さあたりにコーティングされるタクロリムス重量は、6μg/mm以上、15μg/mm以下であることが好ましい。タクロリムス重量が6μg/mmを超えない場合はタクロリムス重量の絶対値が小さく、再狭窄を抑制することが困難になる。一方、タクロリムス重量が15μg/mmを超える場合、タクロリムスを前記ステントにコーティングするために使用する生分解性高分子重量は前記ステントの軸方向単位長さあたり23μg/mm以上、25μg/mm以下であるため、生分解性高分子重量に対するタクロリムス重量が大きくなり、結果としてタクロリムスのステントからの溶出が速くなり好ましくない。
4.カルシニューリン産生亢進の抑制
本発明にかかるステントはカルシニューリン産生亢進を抑制する薬剤がコーティングされていることを特徴とするが、前記ステントを血管に留置して3ヶ月後に、前記ステントと接触する血管の内膜におけるカルシニューリン発現率が23%以下であることが好ましい。また、前記ステントを血管に留置して3ヶ月後に、前記ステントと接触する血管の中膜におけるカルシニューリン発現率が25%以下であることが好ましい。カルシニューリン発現率を上述の範囲とすることで、ステント留置後の再狭窄が効率よく抑制される。
カルシニューリン発現率の評価方法は病理学的に一般的な免疫染色を利用した方法であり、その評価方法の種類は本発明の効果を妨げるものではない。一例を挙げると、ステントを実験動物の血管に留置して3ヶ月後に、血管ごとステントを摘出し、任意の固定液に浸漬して固定する。(浸漬固定)好適な固定液として中性緩衝ホルマリン溶液が使用され得る。また、固定方法は上記の浸漬固定に限定されず、血管ごとステントを摘出する前に固定液を血管内に潅流することで固定してもよい。(潅流固定)潅流固定時に使用する固定液の種類は特に限定されないが、中性緩衝ホルマリン溶液が好適に使用される。さらに、潅流固定と浸漬固定を組み合わせて実施してもよい。定法に従い、固定後の血管をパラフィンで包埋したブロックを作製する。当該ブロックからミクロトームを用いて連続した薄切切片を2枚作製する。薄切切片作製時に血管からステントを除去しても良いし、除去しなくても構わない。ステントの除去の有無は本評価方法に影響を与えるものではない。好適な切片の厚さは1μmから30μmである。
作製した当該切片のうちの1枚に対して定法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色(H.E.染色)を行う。残りの1枚に対して、カルシニューリンの抗体を使用した免疫染色を行う。H.E.染色を行った切片の染色像から、血管内膜または中膜に存在する全ての細胞数(以下、全細胞数)を顕微鏡下でカウントする。また、カルシニューリンの免疫染色を行った切片の染色像から、血管内膜または中膜に存在するカルシニューリン陽性の細胞数を顕微鏡下でカウントする。(以下、「細胞数カウント法」と呼称する。)式1に従って、血管内膜または中膜における発現率が算出される。
ここで血管内膜とは、一般的に三層構造を呈する動脈において、内弾性板より血管内腔側の部分に該当する。また、中膜とは、一般的に三層構造を呈する動脈において、内弾性板より外側で且つ外弾性板より内側の部分に該当する。
本発現率の評価方法において、実験動物として使用する動物種は問わないが、ブタの冠状動脈を使用することが好ましい。
(式1) 発現率(%)=[(カルシニューリンの陽性細胞数)/(内膜または中膜における全細胞数)]×100
また、別な方法として、得られた免疫染色像の画像から血管内膜または中膜の面積と染色部分の面積を測定する。各面積値から、式2に従ってそれぞれにおける発現率を算出してもよい。(以下、「面積測定法」と呼称する。)面積測定方法としては、コンピューターを使用した測定が好ましく市販の画像処理ソフトが使用可能であるが、好適なソフトとして、米国国立衛生研究所により開発された「NIH Image」が使用され得る。
(式2) 発現率(%)=[(カルシニューリンの免疫染色で染色された面積)/(内膜または中膜の総面積)]×100
また、本発明にかかるステントは、前記ステントを血管に留置して3ヶ月後に、前記内膜におけるカルシニューリン発現抑制率が77%以上であることが好ましい。さらに、前記ステントを血管に留置して3ヶ月後に、前記中膜におけるカルシニューリン発現抑制率が68%以上であることが好ましい。カルシニューリン発現抑制率を上述の範囲とすることで、ステント留置後の再狭窄が効率よく抑制される。
カルシニューリン発現抑制率の評価方法は本発明の効果を妨げるものではない。一例を挙げると上述した細胞数カウント法または面積測定法で内膜または中膜におけるカルシニューリン発現率を算出する。さらに、基材のみで構成されるステントを同様の方法で評価し、カルシニューリン発現率を算出する。式3に従ってカルシニューリン発現抑制率が求められる。
(式3) 発現抑制率(%)=[1−{(本発明にかかるステントにおける発現率)/(基材のみで構成されるステントにおける発現率)}]×100
5−1.高分子
実施形態のステントには前記薬剤と共に高分子がコーティングされていることが好ましい。高分子と共にコーティングすることにより、前記薬剤の放出が徐放化するだけでなく、ステントの拡張に伴うコーティング層の割れや剥がれの危険性を著しく低減できる。さらに、前記薬剤のみをコーティングする場合と比較して、より多くの薬剤量をコーティングすることも可能になる。尚、本願において「高分子」とは、高分子化合物を意味する。
前記高分子は生分解性高分子であることが好ましい。生分解性高分子を用いることでステント留置後の慢性期には前記高分子はすべて生分解により消失し、基材のみが体内に残留することになる。基材として実績のある材料、一例を挙げるとSUS316LやCo−Cr合金、Ni−Ti合金を使用することにより、慢性期においても安全性ならびに信頼性の高いステントを容易に実現可能である。
5−2.生分解性高分子の分解特性
実施形態の生分解性高分子は、体積比率で35%のメタノールを含有し、pHが3.0以上、4.0以下である緩衝液中に当該生分解性高分子を浸漬して37℃に保持する浸漬条件下で、以下の、(a)浸漬後6週間から12週間の期間のいずれかの時点において当該生分解性高分子の重量が浸漬前の重量の50%に減少する、(b)浸漬後14週間から18週間の期間のいずれかの時点において当該生分解性高分子の重量が浸漬前の重量の10%に減少する、という特性を有することが好ましい。
前記緩衝液としては、酸性リン酸緩衝液(pH3.4,NaCl:6.1g/L,NaH2PO・2HO:7.1g/L,HPO:263μL/L)が用いられる。
上記(a)および(b)の両方の特性を有する生分解性高分子を使用することで、ステント留置術後の生分解性高分子の分解による炎症反応を抑制できる。また、有効量の薬剤が長期にわたり溶出可能となる。
生分解性高分子の分解による炎症反応をより低く抑える観点からは、上記浸漬条件下で、(c)浸漬後8週間から10週間の期間のいずれかの時点において当該生分解性高分子の重量が浸漬前の重量の50%に減少する、(d)浸漬後14週間から16週間の期間のいずれかの時点において当該生分解性高分子の重量が浸漬前の重量の10%に減少する、という特性を有する生分解性高分子を使用することが好ましい。
一方、上記(a)の特性を満たさない場合、すなわち、浸漬後6週間から12週間のいずれかの期間において重量が浸漬前の50%まで減少しない場合は有効量の薬剤の溶出が起こらず、好ましくない。また、浸漬後6週間以前に重量が浸漬前の50%よりも少なくなる場合は、生分解性高分子の分解による炎症反応の惹起が大きくなり好ましくない。
さらに、上記(a)の特性は満たすが(b)の特性を満たさない場合、すなわち、浸漬後6週間から12週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の50%に減少する場合であっても、浸漬後14週間から18週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の10%まで減少しない場合は、有効量の薬剤の溶出が起こらず、好ましくない。また、浸漬後6週間から12週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の50%に減少する場合であっても、浸漬後14週間までに重量が浸漬前の10%よりも少なくなる場合は、生分解性高分子の分解による炎症反応の惹起が大きくなり好ましくない。
実施形態の生分解性高分子は、体積比率で35%のメタノールを含有し、pHが3.0以上、4.0以下である緩衝液中に当該生分解性高分子を浸漬して37℃に保持する浸漬条件下で、以下の、(e)1週間おきに測定した重量から算出した重量減少率が浸漬3週間後まで1日あたり2.0%を超えない特性を有することが好ましい。
浸漬3週間後まで1日あたり2.0%を超えない重量減少率を示す生分解性高分子を使用することで、ステント留置術後の生分解性高分子の分解による炎症反応を抑制できる。また、有効量の薬剤が長期にわたり溶出可能となる。浸漬21日後まで1日あたり2.0%を超える重量減少率を示す生分解性高分子を使用すると、生分解性高分子の分解に起因する炎症反応の惹起が大きくなり好ましくない。
さらに、コーティング層の強度を維持したまま長期にわたって有効量の薬剤が溶出可能とする観点からは、前記生分解性高分子は、上記浸漬条件下で、(f)1週間おきに測定した前記生分解性高分子の重量から算出した重量減少率が、当該生分解性高分子が完全に分解する時点までの期間中、1日あたり2.0%を超えない、という特性を有することが好ましい。また、この特性に加えて、前記生分解性高分子の重量が浸漬前の10%に減少する特性を有することが好ましい。この特性は、「(f’)生分解性高分子の重量が浸漬前の重量の10%に減少する時点までの期間中に、常に、重量減少率が2.0%を超えない」と表現することができる。
上述した特性を備えることにより、生分解性高分子の生分解に伴うコーティング層の強度低下を最小限に抑制し、コーティング層の割れや剥離などの危険性を著しく低減可能である。
一方、重量減少率が浸漬21日後まで1日あたり2.0%を超えない特性を有するものの、重量が浸漬前の10%に減少するまでの間に重量減少率が2.0%を超える特性を有する生分解性高分子の場合、生分解性高分子の生分解に起因する炎症反応の惹起は抑制されるものの、コーティング層の剥離がごく軽度に見られる。
5−3.生分解性高分子の固有粘度とコーティング量
実施形態における前記ステントの軸方向単位長さあたりの前記生分解性高分子重量は、23μg/mm以上、25μg/mm以下であり、かつ前記生分解性高分子をクロロホルムに0.5wt%から1wt%の濃度範囲内で溶解させた後、25℃から30℃の温度範囲内で測定した固有粘度が0.4dL/g以上、0.7dL/g以下であることが好ましい。このようなステントを構成することにより、有効な薬剤量をできるだけ少ない重量の生分解性高分子を用いてコーティングすることが可能となる。尚、1dL=100cmである。
前記ステントの軸方向単位長さあたりの前記生分解性高分子重量が23μg/mm未満、特に13μg/mm未満の場合、有効な薬剤量をコーティングするためには前記生分解性高分子重量に対して前記薬剤重量を高めに設定する必要がある。この場合、前記薬剤は前記ステントから極めて速く溶出してしまい好ましくない。また、前記生分解性高分子重量に対して前記薬剤重量を低めに設定することにより前記薬剤の溶出に徐放性を付与できるが、有効な薬剤量をコーティングすることができず好ましくない。
一方、前記ステントの軸方向単位長さあたりの前記生分解性高分子重量が25μg/mmを超える場合、特に40μg/mmを超える場合は、前記生分解性高分子の生分解による炎症反応が強く惹起され、前記薬剤による再狭窄抑制効果を上回るため再狭窄が生じやすく好ましくない。
生分解性高分子を含む一般的な高分子溶液の粘度から、当該高分子の分子量に関する情報が得られることが知られている。ウベローデ型、オストワルド型などの粘度形を用いることで高分子溶液の粘度が測定可能であり、ASTM D2857−95、ASTM D5225−98、ASTM D445−97、ISO 1628−1などの国際規格で粘度の測定方法が定められている。
このように測定した高分子溶液の粘度をη、溶媒の粘度をηとする場合、η/ηで定義される相対粘度から1を引いた値が比粘度ηspと呼ばれ、(η−η)/ηと表される。比粘度は溶媒に高分子を溶解させたことによる粘度の増加分に相当する。また、比粘度は溶解させた高分子の濃度の関数であり、比粘度を濃度ゼロに外挿して得られる値が固有粘度と呼ばれる。固有粘度は溶液中に溶解した高分子の粒径や分子量と関係付けられる値であり、固有粘度が大きいほど分子量は大きいと考えられる。
一般に、生分解性高分子を構成するモノマー種類および構成比率が等しい場合、分子量が大きいほど生分解速度は遅くなることが知られている。
本発明にかかるステントで使用される生分解性高分子はクロロホルムに0.5wt%から1wt%の濃度範囲内で溶解させた後、25℃から30℃の温度範囲内で測定した固有粘度が0.4dL/g以上、0.7dL/g以下であることが好ましい。前記固有粘度が0.4dL/gを下回る場合、前記生分解性高分子の分子量は比較的小さいため、前記生分解性高分子の分解速度がやや早くなる。結果として前記薬剤の溶出が比較的早くなり好ましくない。また、前記固有粘度が0.7dL/gを超える場合、前記生分解性高分子の分子量は比較的大きくなり、前記生分解性高分子の柔軟性が低下する。柔軟性の低下はステントの拡張に伴うコーティング層の割れや剥がれの原因となるため好ましくない。
5−4.生分解性高分子(重合体の例)
生分解性を示す高分子(生分解性高分子)の種類は多岐にわたるが、本発明にかかる生分解性高分子は、生分解性高分子自体の生体適合性、分解産物の安全性を考慮すると、乳酸、グリコール酸、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、テトラメチレンカーボネート、ジオキサノンのいずれかからなる重合体であることが好ましい。
ステントを拡張した際のコーティング層の割れや剥がれを防止する観点を考慮すると、前記重合体はポリ乳酸であることがより好ましい。
ポリ乳酸には、D−体の乳酸のみから構成されるポリ−D−乳酸、L−体の乳酸のみから構成されるポリ−L−乳酸、D−体の乳酸とL−体の乳酸から構成されるポリ−D,L−乳酸の3種類があるが、本発明の目的を達成するにはいずれのポリ乳酸でも構わない。
上記高分子の分子量は単分散ではなく分布があるため、分子量を表す指標として数平均分子量、重量平均分子量、Z−平均分子量、粘度平均分子量など複数の指標が存在し、複数の測定法が存在する。一例を挙げると、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される分子量分布から標準ポリマー換算値として数平均分子量、重量平均分子量、Z−平均分子量が求められる。希薄溶液の粘度測定からは粘度平均分子量が求められる。また、光散乱法、沈降速度法(超遠心法)では重量平均分子量が求められる。
前記ポリ乳酸の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定する場合、標準ポリスチレン換算値として40,000以上、100,000以下であることが好ましい。40,000以上、100,000以下のポリ乳酸を使用することで、目的とする分解特性を好適に達成できる。
40,000未満の場合は、浸漬後6週間から12週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の50%より少なくなるだけでなく、浸漬後14週間から18週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の10%より少なくなるため好ましくない。また、浸漬21日後までの重量減少率が1日あたり2.0%を超えてしまい、生分解性高分子の分解に起因する炎症反応の惹起が大きくなるため好ましくない。
100,000を超える場合は、浸漬後6週間から12週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の50%まで減少しないだけでなく、浸漬後14週間から18週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の10%まで減少しないため好ましくない。また、浸漬21日後までの重量減少率が1日あたり2.0%を超えないものの、ステントの拡張に伴うコーティング層の割れや剥離が生じやすくなり好ましくない。
5−5.生分解性高分子(共重合体の例)
また、本発明にかかる生分解性高分子は、生分解性高分子自体の生体適合性、分解産物の安全性を考慮すると、乳酸、グリコール酸、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、テトラメチレンカーボネート、ジオキサノンのうち、少なくとも2種類からなる共重合体であることが好ましい。
ステントを拡張した際のコーティング層の割れや剥がれを防止する観点を考慮すると、前記共重合体は乳酸−グリコール酸共重合体であることが好ましい。前記乳酸−グリコール酸共重合体に含まれる乳酸は、D−体の乳酸のみの場合、L−体の乳酸のみの場合、D−体の乳酸とL−体の乳酸の両方を含む場合があるが、本発明の目的を達成するにはいずれの乳酸を含む共重合体であってもよい。
前記乳酸−グリコール酸共重合体の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定する場合、標準ポリスチレン換算値として80,000以上、100,000以下であることが好ましく、且つ、前記乳酸−グリコール酸共重合体に乳酸が80mol%以上、90mol%以下含まれ、グリコール酸が10mol%以上、20mol%以下含まれることが好ましい。このような乳酸−グリコール酸共重合体を使用することで、目的とする重量変化特性を好適に達成できる。尚、前記組成は共重合体中に含まれる単量体のモル%を示す。共重合体中に含まれる単量体のモル%は1H NMR法を用いて測定することが可能である。
乳酸−グリコール酸共重合体の生分解挙動は、重量平均分子量と乳酸及びグリコール酸のモル比率によって決定される。重量平均分子量が一定の場合、乳酸が50mol%、グリコール酸が50mol%含まれる場合に最も分解速度が速くなり、乳酸が増加するほど、あるいはグリコール酸が増加するほど分解速度は遅くなる。また、乳酸及びグリコール酸のモル比が一定の場合、重量平均分子量が大きいほど分解速度は遅くなる。
乳酸−グリコール酸共重合体の重量平均分子量がゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定する場合、標準ポリスチレン換算値として80,000以上、100,000以下であっても、乳酸が90mol%よりも多く、グリコール酸が10mol%より少ない場合には、浸漬後6週間から12週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の50%まで減少しないだけでなく、浸漬後14週間から18週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の10%まで減少しないため好ましくない。
さらに、乳酸が80mol%より少なく、グリコール酸が20mol%より多い場合には、浸漬後6週間から12週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の50%より少なくなるだけでなく、浸漬後14週間から18週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の10%より少なくなるため好ましくない。また、浸漬21日後までの重量減少率が1日あたり2.0%を超えてしまい、生分解性高分子の分解に起因する炎症反応の惹起が大きくなるため好ましくない。
また、乳酸−グリコール酸共重合体に含まれる乳酸が80mol%以上、90mol%以下であり、グリコール酸が10mol%以上、20mol%以下であっても、重量平均分子量がゲル浸透クロマトグラフィーで測定する場合、標準ポリスチレン換算値として80,000未満の場合には、浸漬後6週間から12週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の50%より少なくなるだけでなく、浸漬後14週間から18週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の10%より少なくなるため好ましくない。加えて、浸漬21日後までの重量減少率が1日あたり2.0%を超えてしまい、生分解性高分子の分解に起因する炎症反応の惹起が大きくなるため好ましくない。
さらに、100,000を超える場合には、浸漬後6週間から12週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の50%まで減少しないだけでなく、浸漬後14週間から18週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の10%まで減少しないため好ましくない。加えて、ステントの拡張に伴うコーティング層の割れや剥離が生じる危険性が高くなり好ましくない。
6−1.コーティング層(単層構造)
前記コーティング層は、層状構造からなることが好ましい。そして、該層状構造は、以下に述べるように、単層構造、あるいは多層構造とすることができる。
前記コーティング層が単層構造の場合、前記コーティング層に含まれる薬剤の重量を前記コーティング層に含まれる生分解性高分子の重量で割った値として定義される薬剤/生分解性高分子重量比は0.20以上、0.70以下であることが好ましい。0.20を下回る場合、ステントへの薬剤保持量を高くするために必要なコーティング層の厚さが厚くなり、ステントの柔軟性が大きく低下するため好ましくない。また、0.70を超える場合、ステント拡張時にコーティング層の割れや剥がれが生じやすくなるため好ましくない。
6−2.コーティング層(二層構造)
前記コーティング層は内層および外層から構成される二層構造であってよく、前記内層および前記外層の両方に薬剤を含むとともに、前記内層および前記外層のそれぞれにおいて定義される薬剤/生分解性高分子重量比が前記内層の方が高いことが好ましい。薬剤/生分解性高分子重量比の低い外層のはたらきにより、ステント拡張時のコーティング層の割れや剥がれの発生は効果的に低減される。前記内層と比較して前記外層の薬剤/生分解性高分子重量比が低いため、ステント留置初期には薬剤の溶出が徐放化される。外層の薬剤が溶出し終わった後に内層の薬剤が溶出するため、外層に含まれる生分解性高分子がバリア層の役割を果たし、薬剤/生分解性高分子重量比が比較的高い内層の薬剤に関しても溶出の徐放化が実現される。また、内層の薬剤/生分解性高分子重量比が高いため、ステント全体としての薬剤保持量を高くすることが可能である。
前記内層と前記外層の重量比は目的とするステントの仕様に応じて任意に決定される。例えば、薬剤保持量を高くすることに主眼を置いた仕様の場合は、前記内層の重量を前記外層に比べて高めに設定することが好ましく、薬剤溶出の徐放性付与に主眼を置いた仕様の場合は、前記外層の重量を前記内層に比べて高めに設定することが好ましい。
前記内層および前記外層に含まれる薬剤重量の和を前記内層および前記外層に含まれる生分解性高分子重量の和で割った値として定義される薬剤/生分解性高分子重量比は0.20以上、0.70以下であることが好ましい。0.20を下回る場合、ステントへの薬剤保持量を高くするために必要なコーティング層の厚さが厚くなり、ステントの柔軟性が大きく低下するため好ましくない。また、0.70を超える場合、ステント拡張時にコーティング層の割れや剥がれが生じやすくなるため好ましくない。
さらなる薬剤保持量の増加、薬剤溶出の徐放性付与、ステント拡張時のコーティング層の割れや剥がれの抑制等を目的として、前記内層および前記外層以外の層を設けてもよい。一例をあげると、ステント拡張時のコーティング層の割れや剥がれを抑制するために前記内層とステント表面の間に中間層を設けてもよい。
7.コーティング層の形成方法
前記コーティング層が単層構造である場合、および前記コーティング層が内層および外層から構成される二層構造である場合のいずれであっても、各層を形成する方法は特に制限されない。
以下、前記コーティング層が内層および外層をから構成される二層構造の場合を例示して詳細に説明する。
コーティング層を形成する方法の好適な例として、前記内層を構成する薬剤および生分解性高分子を任意の溶媒に溶解し、溶液状態で前記ステント基材表面に付着させ溶媒を除去した後、前記外層を構成する薬剤および生分解性高分子を任意の溶媒に溶解し、溶液状態で前記内層の外面に付着させ溶媒を除去する方法が挙げられる。
また、前記内層を構成する薬剤および生分解性高分子からなるフィルムを別途作製しステント基材に貼り付けた後、前記外層を構成する薬剤および生分解性高分子からなるフィルムを別途作製し前記内層の外面に貼り付けてもよい。
もちろん、前記内層を構成する薬剤および生分解性高分子を任意の溶媒に溶解し、溶液状態で前記ステント基材表面に付着させ溶媒を除去した後、前記外層を構成する薬剤および生分解性高分子からなるフィルムを別途作製し前記内層の外面に貼り付けることで形成してもよく、前記内層を構成する薬剤および生分解性高分子からなるフィルムを別途作製しステント基材に貼り付けた後、前記外層を構成する薬剤および生分解性高分子を任意の溶媒に溶解し、溶液状態で前記内層の外面に付着させ溶媒を除去することで形成してもよい。前記内層および前記外層を形成する方法によって本発明の効果は制限されるものではなく、各種の方法が好適に使用できる。
前記内層および前記外層を構成する生分解性高分子および薬剤を任意の溶媒に溶解し溶液状態で付着させる場合、その方法は本発明の効果を制限するものではない。つまり、各溶液にステント基材をディッピングする方法、各溶液をスプレーによりステント基材に噴霧する方法等の各種の方法が使用可能である。使用する溶媒の種類は特に限定されない。所望の溶解度を有する溶媒が好適に使用可能であり、揮発性等を調整するために2種類以上の溶媒を用いた混合溶媒としてもよい。また、溶質である薬剤や生分解性高分子の濃度も特に制限を受けず、前記内層および前記外層の表面性等を勘案して任意の濃度とすることができる。前記表面性を調整するために、前記内層を構成する薬剤および生分解性高分子を任意の溶媒に溶解し溶液状態で付着させる途中または/および付着させた後、あるいは前記外層を構成する薬剤および生分解性高分子を任意の溶媒に溶解し溶液状態で付着させる途中または/および付着させた後に余剰な溶液を除去してもよい。除去する手段としては、振動、回転、減圧等が挙げられ、これらを複数組み合わせてもよい。
以下の各実施例および各比較例では、カルシニューリン産生亢進を抑制する薬剤としてタクロリムスを例示して説明する。ただし、タクロリムス以外の上述の薬剤、または免疫抑制剤を使用してもよい。
(実施例1)
(生分解性高分子:乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:85DG065、標準ポリスチレン換算重量平均分子量85,000、固有粘度0.6dL/g)、コーティング層:多層)
ステント基材は、当業者が通常作製する方法と同様に、ステンレス鋼(SUS316L)の内径1.50mm、外径1.80mmの筒状チューブをレーザーカットによりクローズドタイプのステントデザインにカットし、電解研磨を施すことで作製した。ステント長さが13mm、厚みが120μm、拡張後の公称径が3.5mmとなるデザインとした。ステント基材の内表面、外表面、側表面を合わせた全表面積は88.5mmである。
生分解性高分子として乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:85DG065、Absorbable Polymers International社、乳酸/グリコール酸=85mol%/15mol%、標準ポリスチレン換算重量平均分子量85,000)、薬剤としてタクロリムス(アステラス製薬株式会社)をクロロホルム(和光純薬株式会社)に溶解させ、薬剤濃度/生分解性高分子濃度=0.50wt%/0.50wt%である溶液を作製した。直径100μmのステンレス製ワイヤをステントの一端に固定し、他端を直径2mmのステンレス棒に固定した。ステントを接続していない側のステンレス棒端部をモーター攪拌機に接続することでステントを長さ方向に鉛直に保持した。モーター攪拌機を用いてステントを100rpmで回転させながら、ノズル径0.3mmのスプレーガンを用いて作製した溶液をステントに吹き付け、溶液をステントに付着させた。スプレーガンのノズルからステントまでの距離は75mm、吹き付け時のエアー圧力は0.15MPaとした。吹き付け後に室温で1時間真空乾燥した。スプレー時間を調整し、ステント1個あたりの生分解性高分子の重量が160μg、薬剤の重量が160μgの内層(薬剤/生分解性高分子重量比=1.00)を形成させた。
生分解性高分子として乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:85DG065、Absorbable Polymers International社、乳酸/グリコール酸=85mol%/15mol%、標準ポリスチレン換算重量平均分子量85,000)、薬剤としてタクロリムス(アステラス製薬株式会社)をクロロホルム(和光純薬株式会社)に溶解させ、薬剤濃度/高分子濃度=0.13wt%/0.50wt%である溶液を作製した。内層を形成させたステントの一端に直径100μmのステンレス製ワイヤを固定し、他端を直径2mmのステンレス棒に固定した。ステントを接続していない側のステンレス棒端部をモーター攪拌機に接続することでステントを長さ方向に鉛直に保持した。モーター攪拌機を用いてステントを100rpmで回転させながら、ノズル径0.3mmのスプレーガンを用いて作製した溶液をステントに吹き付け、溶液をステントに付着させた。スプレーガンのノズルからステントまでの距離は75mm、吹き付け時のエアー圧力は0.15MPaとした。吹き付け後に室温で1時間真空乾燥した。スプレー時間を調整し、ステント1個あたりの生分解性高分子の重量が139μg、薬剤の重量が36μgの外層(薬剤/生分解性高分子重量比=0.26)を形成させた。
得られたステント1個あたりの内層と外層を合わせた全体の生分解性高分子の重量は299μg、薬剤の重量は196μg(薬剤/生分解性高分子重量比=0.66)である。ステントは計5個作製した。
(実施例2)
(生分解性高分子:乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:85DG065、標準ポリスチレン換算重量平均分子量85,000、固有粘度0.6dL/g)、コーティング層:単層)
ステント基材は、実施例1と同様に作製した。
生分解性高分子として乳酸−グリコール酸共重合体(製品番号:85DG065、Absorbable Polymers International社、乳酸/グリコール酸=85mol%/15mol%、標準ポリスチレン換算重量平均分子量85,000)、薬剤としてタクロリムス(アステラス製薬株式会社)をクロロホルム(和光純薬株式会社)に溶解させ、薬剤濃度/生分解性高分子濃度=0.13wt%/0.50wt%である溶液を作製した。直径100μmのステンレス製ワイヤをステントの一端に固定し、他端を直径2mmのステンレス棒に固定した。ステントを接続していない側のステンレス棒端部をモーター攪拌機に接続することでステントを長さ方向に鉛直に保持した。モーター攪拌機を用いてステントを100rpmで回転させながら、ノズル径0.3mmのスプレーガンを用いて作製した溶液をステントに吹き付け、溶液をステントに付着させた。スプレーガンのノズルからステントまでの距離は75mm、吹き付け時のエアー圧力は0.15MPaとした。吹き付け後に室温で1時間真空乾燥した。スプレー時間を調整し、ステント1個あたりの生分解性高分子の重量が325μg、薬剤の重量が85μgのコーティング層(薬剤/生分解性高分子重量比=0.26)を形成させた。ステントは計5個作製した。
(実施例3)
(生分解性高分子:ポリ−D,L−乳酸(製品番号:100D040、標準ポリスチレン換算重量平均分子量40,000、固有粘度0.4dL/g)、コーティング層:単層)
生分解性高分子としてポリ−D,L−乳酸(製品番号:100D040、Absorbable Polymers International社、標準ポリスチレン換算重量平均分子量40,000)を使用した以外は実施例2と同様に作製し、ステント1個あたりの生分解性高分子の重量が313μg、薬剤の重量が82μgのコーティング層(薬剤/生分解性高分子重量比=0.26)を形成させた。ステントは計5個作製した。
(実施例4)
(生分解性高分子:ポリ−D,L−乳酸(製品番号:100D065、標準ポリスチレン換算重量平均分子量86,000、固有粘度0.7dL/g)、コーティング層:単層)
生分解性高分子としてポリ−D,L−乳酸(製品番号:100D065、Absorbable Polymers International社、標準ポリスチレン換算重量平均分子量86,000)を使用した以外は実施例2と同様に作製し、ステント1個あたりの生分解性高分子の重量が322μg、薬剤の重量が84μgのコーティング層(薬剤/生分解性高分子重量比=0.26)を形成させた。ステントは計5個作製した。
(比較例1)
ステント基材のみから構成されるステントを4個用意した。
(重量変化試験(薬剤なし))
重量変化試験として、以下に説明するように上記の各例で使用した生分解性高分子を用いたステントを作製した。ただし、上記各例とは異なり薬剤は用いていない。
ステント基材は、実施例1と同様のものを使用した。実施例1から実施例4の作製に使用した3種類の生分解性高分子のそれぞれをクロロホルム(和光純薬株式会社)に溶解させ、生分解性高分子=0.50wt%の溶液を3種類作製した。直径100μmのステンレス製ワイヤをステントの一端に固定し、他端を直径2mmのステンレス棒に固定した。ステントを接続していない側のステンレス棒端部をモーター攪拌機に接続することでステントを長さ方向に鉛直に保持した。
モーター攪拌機を用いてステントを100rpmで回転させながら、ノズル径0.3mmのスプレーガンを用いて作製した3種類の溶液をそれぞれ別のステントに吹き付け、溶液をステントに付着させた。スプレーガンのノズルからステントまでの距離は75mm、吹き付け時のエアー圧力は0.15MPaとした。吹き付け後に室温で1時間真空乾燥した。スプレー時間を調整し、ステントに生分解性高分子のみを含むコーティング層を形成させた。
ステント1個あたりの生分解性高分子の重量は、85DG065で305μg、100D040で400μg、100D065で420μgである。ステントは各生分解性高分子に対して3個ずつ作製した。
35vol%メタノールを含有する酸性リン酸緩衝液(pH3.4,NaCl:6.1g/L,NaHPO・2HO:7.1g/L,HPO:263μL/L)100mLに各ステント1個を浸漬させ、37℃水浴中で振盪させた。この浸漬条件下にて、一定時間経過後に緩衝液から各ステントを引き上げ、蒸留水で洗浄した。その後、室温で真空乾燥させ、生分解性高分子の重量を測定した。測定後のサンプルは元の緩衝液に浸漬し、37℃水浴中での浸漬を継続した。浸漬前の重量と比較して、重量の残存率を算出した。また、任意の測定日における1日あたりの重量減少率も合わせて算出した。結果を表1に示す。なお、重量の残存率測定は振盪開始1日後、3日後、7日後に行い、7日後以降は7日おきに実施し、1日あたりの重量減少率測定は振盪開始から7日ごとに実施した(1週間間隔で測定)。結果を表2に示す。
重量の残存率(%)=[(浸漬前の重量−真空乾燥後の重量)/(浸漬前の重量)]×100
1日あたりの重量減少率(%)=(7日前の重量の残存率−測定日における重量の残存率)/7
Figure 2008119199
Figure 2008119199
表1に示すように本発明にかかる実施例1から実施例4で使用されている生分解性高分子(製品番号:85DG065、100D040、100D065)は浸漬後6週間から12週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の50%に減少し、浸漬後14週間から18週間の期間のいずれかの時点において重量が浸漬前の10%に減少する特性を有することが示された。
また、表1および表2を参照すると、本発明にかかる実施例1から実施例4で使用されている生分解性高分子(製品番号:85DG065、100D040、100D065)は、1週間おきに測定した重量から算出した重量減少率が浸漬21日後まで1日あたり2.0%を超えない特性を有することが示された。さらに、実施例1および実施例2で使用されている生分解性高分子(製品番号:85DG065)は、重量減少率が、浸漬の開始時から少なくとも140日後の期間中、常に、1日あたり2.0%を超えずに重量が浸漬前の10%に減少する特性を有している。この結果に基づけば、一般的には、生分解性高分子(製品番号:85DG065)は、その生分解性高分子が完全に分解する時点(残存率0%の時点)までの期間中、常に、重量減少率が1日あたり2.0%を超えないものと推測される。
(ステント拡張試験)
実施例1から実施例4の各ステントを1個ずつ使用して、ステント拡張試験を実施した。(比較例1は基材のみのステントであるため、試験を実施していない。)37℃に保持した生理食塩水中で3.5×15mmのバルーンカテーテルのバルーン部分に保持させたステントを3.5mmになるように拡張した。拡張後にバルーンカテーテルをステントから抜去した。拡張したステントを生理食塩水中から取り出し、蒸留水で洗浄後に真空乾燥させた。走査型電子顕微鏡(S−3000N、株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて、コーティング層の割れや剥離の有無を評価した。結果を表3に示す。
Figure 2008119199
実施例1および実施例2ではコーティング層の割れや剥離は全く認められなかった。また、実施例3および実施例4ではコーティング層の割れがごく軽度に認められたものの、剥離には至らなかった。
(カルシニューリン発現率および発現抑制率の評価)
後述のミニブタへの留置実験で取得したステント留置冠動脈サンプル(10%中性緩衝ホルマリン溶液中で浸漬固定済)1個を用いて、パラフィンで包埋したブロックを作製した。当該ブロックより、肉厚5μmの薄切切片を連続で2枚取得した。取得に際し、ステントを切片から除去した。作製した当該切片の1枚に対して、H.E.染色を行い、もう1枚に対してカルシニューリンの抗体を使用した免疫染色を行った。それぞれの染色像をもとに血管内膜または中膜に存在する全細胞数、およびカルシニューリン陽性の細胞数を顕微鏡下でカウントし、発現率を式4から算出した。結果を表4に示す。また、基材のみのステント(比較例1)における発現率をもとに実施例1から4における発現抑制率を式5から算出した。結果を表5に示す。
(式4) 発現率(%)=[(カルシニューリン陽性細胞数)/(内膜または中膜における全細胞数)]×100
(式5) 発現抑制率(%)=[1−{(各実施例における発現率)/(比較例1における発現率)}]×100
Figure 2008119199
Figure 2008119199
表4に示すように、実施例1から4におけるカルシニューリン発現率は内膜において23%以下、中膜において25%以下であるのに対し、基材のみのステントである比較例1では内膜において98%、中膜において78%と高い値を示した。また、表5に示すように実施例1から4におけるカルシニューリン発現抑制率は内膜において76%以上、中膜において68%以上の値を示した。実施例1から4における低いカルシニューリン発現率および高いカルシニューリン発現抑制率はタクロリムスの効果によりカルシニューリンの産生亢進が抑制されているためと考えられる。
(ミニブタへの留置実験)
実施例1から実施例4および比較例1の各ステントを用いて、ミニブタ(クラウン、雌、月齢8から12ヶ月)へのステント留置実験を実施し、血管閉塞率の評価を行った。全てのステントはあらかじめバルーンサイズが3.5×15mmのバルーンカテーテルのバルーン部分に保持させた状態でEOG滅菌を行った。
麻酔下でミニブタの右大腿動脈に6Frのシースイントロデューサーを挿入し、シースから挿入した6Frのガイディングカテーテルの先端を左冠状動脈入口部にエンゲージさせた。ガイディングカテーテル経由で左冠状動脈前下行枝および左冠状動脈回旋枝へとステントをデリバリーした後、拡張・留置した。ガイディングカテーテルおよびシースを抜去した後、右大腿動脈を結紮し止血した。ステントを留置する部分は血管径が約2.80mmの部位とし、ステント拡張径を3.50mmとすることで留置部分におけるステント径/血管径の比を約1.25とした。血管径2.80mmの部位が選定できない場合には、ステントを拡張・留置する際のバルーンの拡張圧力を変化させ、ステント径/血管径の比を約1.25とするように調整した。本実験においては、ステントの内径をステント拡張径と定義した。血管径および血管走行上の問題により、左冠状動脈前下行枝あるいは左冠状動脈回旋枝にステントの拡張・留置が困難と判断された場合にはその部分へのステント留置を取りやめ、追加的に右冠状動脈に留置した。実施例および比較例のいずれもn=4で留置実験を行った。ミニブタは10頭使用し、1頭あたり2個のステントを留置した。
留置実験を実施する前日より剖検日まで、アスピリン330mg/day、チクロピジン250mg/dayを混餌投与した。留置3ヶ月後にミニブタを安楽死させ心臓を摘出した。ステントを留置した冠状動脈を心臓より摘出し、10%中性緩衝ホルマリン溶液中で浸漬固定した。固定した標本のうち3つについてポリメタクリル酸メチル系の樹脂を用い、樹脂包埋を行った。引き続いて、ミクロトームを用いて各ステントの中央部の薄切切片を作製し、H.E.染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)、およびE.V.G.染色(エラスチカ・ワン・ギーソン染色)を行い、拡大観察を実施した。なお、切片作製時にはステントごと薄切し、ステントを切片から除去しなかった。評価項目として、各ステント断面の血管内腔面積(LA:Lumen Area)、血管内弾性板内側面積(IELA:Area within the Internal Elastic Lamina)を測定した。血管内腔面積(LA)および血管内弾性板内側面積(IELA)を用いて各サンプルの血管閉塞率を次式に従い算出した。n=3の閉塞率の平均値を測定値とした。結果を表6に示す。
血管閉塞率(%)=[1−(LA/IELA)]×100
Figure 2008119199
表6に示すように実施例1から4では、血管閉塞率が40%を下回っており、良好な開存性が認められた。染色切片を詳細に検討した結果、生分解性高分子の分解に起因すると判断される炎症を示唆する所見は認められなかった。
また、表4および表6より、カルシニューリン発現率と血管閉塞率、カルシニューリン発現抑制率と血管閉塞率の間に相関が見られることから、ステント留置後の再狭窄においてもカルシニューリンの産生亢進が重要な役割を担っていることが強く示唆された。

Claims (26)

  1. 基材から構成されるステントであって、前記ステントは前記基材の少なくとも一部の表面にカルシニューリン産生亢進を抑制する薬剤がコーティングされていることを特徴とするステント。
  2. 前記ステントを血管に留置して3ヶ月後に、前記ステントと接触する血管の内膜におけるカルシニューリン発現率が23%以下であることを特徴とする請求項1記載のステント。
  3. 前記ステントを血管に留置して3ヶ月後に、前記ステントと接触する血管の中膜におけるカルシニューリン発現率が25%以下であることを特徴とする請求項1記載のステント。
  4. 前記ステントを血管に留置して3ヶ月後に、前記内膜におけるカルシニューリン発現抑制率が77%以上であることを特徴とする請求項1記載のステント。
  5. 前記ステントを血管に留置して3ヶ月後に、前記中膜におけるカルシニューリン発現抑制率が68%以上であることを特徴とする請求項1記載のステント。
  6. 前記薬剤が免疫抑制剤であることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載のステント。
  7. 前記免疫抑制剤が、タクロリムス、シクロスポリン、ピメクロリムスもしくはこれらのアナログのいずれかであることを特徴とする請求項6記載のステント。
  8. 前記免疫抑制剤がタクロリムスであることを特徴とする請求項7記載のステント。
  9. 前記ステントの軸方向単位長さあたりにコーティングされる前記タクロリムス重量が、6μg/mm以上、15μg/mm以下であることを特徴とする請求項8記載のステント。
  10. 前記薬剤と共に高分子がコーティングされていることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のステント。
  11. 前記高分子が生分解性高分子であることを特徴とする請求項10記載のステント。
  12. 前記生分解性高分子は、
    体積比率で35%のメタノールを含有し、pHが3.0以上、4.0以下である緩衝液中に当該生分解性高分子を浸漬して37℃に保持する浸漬条件下で、
    (a)浸漬後6週間から12週間の期間のいずれかの時点において当該生分解性高分子の重量が浸漬前の重量の50%に減少する、および
    (b)浸漬後14週間から18週間の期間のいずれかの時点において当該生分解性高分子の重量が浸漬前の重量の10%に減少する、
    という特性を有することを特徴とする請求項11記載のステント。
  13. 前記生分解性高分子は、前記浸漬条件下で、さらに
    (c)浸漬後8週間から10週間の期間のいずれかの時点において当該生分解性高分子の重量が浸漬前の重量の50%に減少する、および
    (d)浸漬後14週間から16週間の期間のいずれかの時点において当該生分解性高分子の重量が浸漬前の重量の10%に減少する、
    という特性を有することを特徴とする請求項12記載のステント。
  14. 前記生分解性高分子は、
    体積比率で35%のメタノールを含有し、pHが3.0以上、4.0以下である緩衝液中に当該生分解性高分子を浸漬して37℃に保持する浸漬条件下で、
    (e)前記生分解性高分子の重量から算出した重量減少率が浸漬3週間後まで1日あたり2.0%を超えない、
    という特性を有することを特徴とする請求項11記載のステント。
  15. 前記生分解性高分子は、前記浸漬条件下で、さらに
    (f)前記生分解性高分子の重量から算出した重量減少率が、当該生分解性高分子が完全に分解する時点までの期間中、1日あたり2.0%を超えない、
    という特性を有することを特徴とする請求項14記載のステント。
  16. 前記生分解性高分子は、以下の:
    (g)前記ステントの軸方向単位長さあたりの当該生分解性高分子重量が23μg/mm以上、25μg/mm以下であり、かつ、
    (h)前記生分解性高分子をクロロホルムに0.5wt%から1wt%の濃度範囲内で溶解させた後、25℃から30℃の温度範囲内で測定した固有粘度が0.4dL/g以上、0.7dL/g以下であることを特徴とする請求項11記載のステント。
  17. 前記ステント表面にコーティングされる前記薬剤/前記高分子の重量比が0.20以上、0.70以下であることを特徴とする請求項10記載のステント。
  18. 前記生分解性高分子が乳酸、グリコール酸、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、テトラメチレンカーボネート、ジオキサノンのいずれかからなる重合体であることを特徴とする請求項11から17のいずれかに記載のステント。
  19. 前記生分解性高分子が乳酸、グリコール酸、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、テトラメチレンカーボネート、ジオキサノンのうち、少なくとも2種類からなる共重合体であることを特徴とする請求項11から17のいずれかに記載のステント。
  20. 前記重合体がポリ乳酸であることを特徴とする請求項18記載のステント。
  21. ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した前記ポリ乳酸の標準ポリスチレン換算重量平均分子量が40,000以上、100,000以下である請求項20記載のステント。
  22. 前記共重合体が乳酸−グリコール酸共重合体であることを特徴とする請求項19記載のステント。
  23. ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した前記乳酸−グリコール酸共重合体の標準ポリスチレン換算重量平均分子量が80,000以上、100,000以下であり、前記乳酸−グリコール酸共重合体に乳酸が80mol%以上、90mol%以下含まれ、グリコール酸が10mol%以上、20mol%以下含まれることを特徴とする請求項22記載のステント。
  24. 前記ステントにコーティングされる前記薬剤と前記高分子が層状構造を形成する請求項10から23のいずれかに記載のステント。
  25. 前記層状構造が単層構造である請求項24に記載のステント。
  26. 前記層状構造が内層および外層から構成される二層構造であり、前記内層および前記外層の両方に前記薬剤および前記高分子が含まれ、前記内層における薬剤/生分解性高分子重量比が、前記外層における薬剤/生分解性高分子重量比よりも高いことを特徴とする請求項24記載のステント。
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