本発明の実施の形態例について、以下具体的に説明する。本発明の酸素吸収組成物は、アリル水素および/または3級炭素と結合した水素を分子中に有する被酸化性化合物(A)と、酸化防止剤(B)と、酸化促進成分(C)とからなる。まず、これら成分について説明する。
[1]被酸化性化合物(A)
被酸化性化合物(A)は酸素吸収のための主剤であり、後述する酸化促進成分(C)が存在することによって加速された自動酸化反応により酸素吸収が生じる。酸素吸収性能に優れる被酸化性化合物(A)は、アリル水素及び/又は3級炭素と結合した水素を分子中に有することを要する。アリル水素と3級炭素に結合した水素は、一分子中にいずれか一方だけが存在しても良いし両方が存在しても良い。被酸化性化合物(A)は、酸素吸収組成物の主剤として、酸素吸収組成物のうち後述の酸化防止剤(B)、酸化促進成分(C)及びその他の成分以外の全量を占めるように用いればよい。
被酸化性化合物(A)の具体例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン/イソプレンコポリマー、スチレン/ブタジエンコポリマー、スチレン/イソプレンコポリマー、ブタジエン/イソプレン/スチレンターポリマー、エチレン及び環状アルキレンのコポリマー、シクロヘキセン基を含有する樹脂、ポリプロピレン、エチレン/プロピレンコポリマー、MXD6ポリアミド(メタキシレン/アジピン酸ナイロン)等からなる群より選ばれる少なくともひとつを主成分とする樹脂が例示される。ポリブタジエン、ポリイソプレン等のように、1,2−結合、1,4−結合が存在するものは両者、或いは、それらの混合体を含んでも良い。また、Cis−、Trans−構造が存在するものは、両者、或いはそれらの混合体を含んでも良い。また、不飽和二重結合を含む場合、水素添加していても構わない。
これらの内、酸素吸収性能の観点から、ポリブタジエンが好ましく、特に1,2−ポリブタジエンが好ましい。ここで1,2−ポリブタジエンとは、1,3−ブタジエンモノマーから重合されたポリブタジエン中に、1,2−結合を70%以上含むポリブタジエンをいう。また、イソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックといった異なる立体規則性をとるものは、両者、或いはそれらの混合体を含んでも良い。これらの内、酸素吸収性能の観点から、アタクチックの構造を有するものが好ましい。
また、エチレン及び環状アルキレンのコポリマー、シクロヘキセン基を含有する樹脂も好ましく、特に好ましくは、エチレン・ビニルシクロヘキセン共重合体、エチレン・シクロペンテン共重合体、エチレン・シクロペンテン・4−ビニルシクロヘキセン共重合体、エチレン/メチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートターポリマー、シクロヘキセニルメチルアクリレート/エチレンコポリマー、シクロヘキセニルメチルメタクリレート/スチレンコポリマー、シクロヘキセニルメチルアクリレートホモポリマーまたはメチルアクリレート/シクロヘキセニルメチルアクリレートコポリマー等が挙げられる。
特に好ましい被酸化性化合物(A)は、少なくとも共役ジエンとビニル芳香族炭化水素からなる共重合体の水添物であって、前記共重合体の前記共役ジエン由来部分と前記ビニル芳香族炭化水素由来部分の重量比が20/80〜95/5であり、前記共役ジエンに由来する炭素−炭素二重結合の水添率が20〜80%である共重合体の水添物である。
上記共重合体の水添物はランダム共重合体でもブロック共重合体であってもよいが、ビニル芳香族炭化水素のブロック率は50重量%以上、好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上であると、機械的強度に優れた酸素吸収組成物を得ることができる。上記共重合体の水添物に組み込まれているビニル芳香族炭化水素のブロック率は、水素添加前の共重合体を四酸化オスミウムを触媒としてターシャリーブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,etal.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)により得たビニル芳香族炭化水素重合体ブロック成分(但し平均重合度が約30以下のビニル芳香族炭化水素重合体成分は除かれている)を用いて、次の式から求めた値をいう。
ブロック率(重量%)=(共重合体中のビニル芳香族炭化水素重合体ブロック成分の重量/共重合体中の全ビニル芳香族炭化水素重合体成分の重量)×100
また、被酸化性化合物(A)は、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が10〜400であることが好ましい。例えば小袋用に粉体状の酸素吸収材とする場合、被酸化性化合物(A)を担持体に担持させなくとも被酸化性化合物(A)の形状を保持可能であり、優れた酸素吸収性能が発揮できる。また酸素吸収多層フィルム又はシートとする場合、押出ラミ、共押出時の加工性に優れる。好ましくはムーニー粘度(ML1+4(100℃))は20〜200である。ここでいうムーニー粘度は、被酸化性化合物(A)を溶解再沈法等により酸素吸収組成物より分離し、JIS K6300に従って予備加熱時間1分間、ロータの回転時間4分間、試験温度100℃の条件下にて、ムーニー粘度計(例えば東洋精機社製RLM−01型(商品名)テスター)で測定された値をいう。
ムーニー粘度は、ポリマーの分子量、分子量分布、分岐構造、絡み合い点密度、等の各種因子によって影響を受ける。これら各種因子は相互的に複雑に影響しあうため、ムーニー粘度の値だけからこれらを一意的に決定することは困難である。被酸化性化合物(A)に過酸化物を添加したり、被酸化性化合物(A)を加熱したり、さらには被酸化性化合物(A)に電子線や放射線等を照射することによって実質的に架橋させたものは、ムーニー粘度が400を超える。ここで「実質的に架橋させた」とは、架橋処理を行なった熱可塑性樹脂を25℃のトルエンに24時間浸漬しても溶解しない状態を指す。本発明の酸素吸収組成物は、トルエンに浸漬すると容易に溶解することが好ましい。
また、被酸化性化合物(A)は、優れた酸素吸収性能を発揮させる上で、示差走査熱量計(DSC)で測定したとき結晶融解ピークを有さないか、又は結晶融解ピークを有しても融点が75℃未満であることが好ましい。より好ましくは融点が65℃未満である。
また同様の理由により、被酸化性化合物(A)は、結晶融解エネルギーが好ましくは100mJ/mg未満であり、より好ましくは結晶融解エネルギーが20mJ/mg未満である。ここにいう結晶融解ピーク(融点)または結晶融解エネルギーとは、示差走査熱量分析で測定したDSC曲線から得られるものであり、この測定方法は次に示すとおりである。
被酸化性化合物(A)を、JIS K7121に準じ、試料10mgを−50℃から200℃の間で10℃/分の速度で昇温して5分間保持した後、200℃から−50℃の間で10℃/分の速度で降温して5分間保持した後、さらに50℃から200℃の間で10℃/分の速度で昇温した2度目の昇温で得られたDSC曲線の結晶融解ピーク温度を融点とする。また、JIS−K7122に準じ、このDSC曲線に融解開始温度から融解終了温度の間に引いた直線のベースラインで囲んだ面積の単位重量当たりのエネルギーを結晶融解エネルギーとした。
[2]酸化防止剤(B)
酸化防止剤(B)は、各成分を混練してペレット化する押出工程における各成分の劣化防止剤及び、押出工程を経て酸素吸収組成物としたあとの誘導期間の制御剤として使用する。ここで、誘導期間とは、酸素吸収組成物とした後、酸素吸収組成物若しくはそれを用いて成形された酸素吸収材が酸素吸収を開始するまでの時間のことを言う。この誘導期間は、一般的には1日から30日程度に制御するのが良いが、最終商品の消費期限が比較的長く、酸素吸収材の在庫期間が長くなるものについては7日から30日程度に制御するのが良く、また最終商品の消費期限が比較的短く、酸素吸収材の在庫期間も短いものについては1日から20日程度に制御すればよい。
酸素吸収組成物における酸化防止剤(B)の含有量を調整することにより、驚くべきことに、酸素吸収組成物の誘導期間が制御できることが判明した。その際、誘導期間は、酸素吸収組成物または酸素吸収材の保存雰囲気の酸素濃度によらないことも判明した。さらに、後述の望ましい製造方法を併用することにより、押出工程における酸素吸収組成物の劣化を確実に防止しつつ、誘導期間を任意に制御できることが判明した。
酸化防止剤(B)は、酸素吸収組成物が酸素吸収材として使用される段階において、誘導期間を制御する観点から、酸素吸収組成物に対して0.005重量%〜0.35重量%含まれていることが必要である。この範囲で実用的に意味のある長さの誘導期間が得られる。ここで、酸素吸収材として使用される段階とは、酸素吸収組成物が成形工程を経てシートやフィルム等に加工されて酸素吸収材として使用される段階、という意味である。つまり、後述の成形工程などを経た使用時点において、酸化防止剤(B)が上記の量だけ残存していることを要する。好ましくは0.02重量%〜0.25重量%、より好ましくは0.04重量%〜0.1重量%である。
酸化防止剤(B)の存在量が多すぎると酸素吸収組成物の酸素吸収反応を妨げるために、誘導期間が非常に長くなってしまう、酸素吸収性能に劣る、最終ユーザーが紫外線や電子線などを照射する等のトリガー処理を行わなければならない、等の問題が起こる。一方その存在量が少なすぎると、上述のように、シートやフィルム等に加工する成形工程においては、特別な設備無しに大気中で取り扱った場合、酸素と反応して酸素吸収性能が劣化してしまう、成形工程での熱により被酸化性化合物(A)が酸化反応や架橋反応等を起し、酸素吸収性能が低下してしまう、等の問題が起こる。
酸化防止剤(B)は、重合体の酸化分解または架橋を阻止する物質であればよいが、フェノール系酸化防止剤、リン酸系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、及びラクトン系酸化防止剤が好ましく例示出来る。好ましくはフェノール系酸化防止剤である。また、2種類以上の酸化防止剤を混合して使用しても良い。
フェノール系酸化防止剤を例示すれば、2,6−ビス(2′−ヒドロキシ−3′−t−ブチル−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、4,4−メチレン−ビス−(6−t−ブチル−2−メチルフェノール)、4,4−メチレン−ビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4,4′−チオ−ビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2′−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、n−オクタデシル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、2−t−ブチルハイドロキノン、n−オクタデシル−3−(4′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナムアミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、その他α−トコフェロール等のトコール誘導体等が挙げられる。
リン系酸化防止剤を例示すれば、トリフェニルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4′−イソプロピリデン−ジフェニル−ジホスファイト、トリラウリル−トリチオホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニレイティド−フェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジホスファイトが挙げられる。
イオウ系酸化防止剤を例示すれば、テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタン、Ni−ジブチル−ジチオ−カルバメート、Zn−ジブチル−ジチオ−カルバメート、Cd−エチル−フェニル−ジチオ−カルバメート、チオ尿素、2−メルカプト−ベンズイミダゾール、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等が挙げられる。
ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[{(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)}{((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物などが挙げられる。
ラクトン系酸化防止剤としては3−ヒドロキシ−5,7−ジ−t−ブチル−フラン−2−オンとo−キシレンとの反応生成物などが挙げられる。好ましくは、添加量と誘導期間との間に直線関係が得られるフェノール系酸化防止剤である。具体例にはオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
酸化防止剤(B)は、当初の配合量のまま酸素吸収材となるようにしても良いが、後述するように、真空ベント口を備えた押出機を用いた好ましい製造方法を用いて、水蒸気と共にある程度は吸引除去されるようにすることが好ましい。つまり、押出工程に入る時点では配合量を多めにし、その一部が押出工程で除去され、酸素吸収組成物に残存した酸化防止剤(B)の量が、上記の範囲になることが好ましい。そのため、酸化防止剤(B)の融点、沸点は低く、蒸気圧は高いことが好ましい。このようにすることで押出工程における劣化を防止する一方で、誘導期間を実用的に好ましい範囲に調整することが可能になる。そのためには、例えば、酸化防止剤(B)の融点は200℃以下が好ましく、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
ここで、酸素吸収材における酸化防止剤(B)の濃度と誘導期間との関係について図1にまとめて示し、誘導期間が酸化防止剤(B)の量によって制御できることを説明する。図1は、後述の実施例2において示すように、被酸化性成分(A)としてのスチレン−ブタジエン共重合体(旭化成ケミカルズ社製、アサプレンT420(商品名))と、酸化促進成分(C)として硫酸第一鉄を1.63%(鉄として0.33%)およびステアリン酸亜鉛を3.20%(亜鉛として0.33%)とを混合した組成物に、酸化防止剤(B)としてのオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートの添加量を変化させて誘導時間を測定した結果を示した図である。
図1では、縦軸に上記酸素吸収材の誘導期間を、横軸には酸化防止剤(B)の添加量をとっている。図中「◆」印のフェノール系酸化防止剤の添加量と誘導期間との間には直線関係が見られ、所望の誘導時間に制御することが容易であることが分かる。特にフェノール系酸化防止剤を用いた場合には、その添加量が0.005重量%〜0.35重量%の場合に誘導期間が1〜30日程度となり、実用上好ましい誘導期間が容易に得られる。
[3]酸化促進成分(C)
酸化促進成分(C)は、酸素の存在下において被酸化性化合物(A)の酸化を促進する触媒作用を有する。酸化促進成分(C)としては、通常の有機化合物の自動酸化において知られている遷移金属化合物、亜鉛化合物、アルミニウム化合物等の酸化触媒が好ましく用いられる。また、光開始剤、熱開始剤等の開始剤や発熱剤等も挙げられる。これにより水の不存在下で酸素吸収が生じる。
酸化促進成分(C)の含有量は、酸素吸収組成物に対して0.0001重量%〜10重量%であることが必要である。酸化促進成分(C)の含有量が0.0001重量%以上であれば、酸素吸収性能に優れる、最終ユーザーが紫外線や電子線などを照射する等のトリガー処理を行う必要が無くなる、等の利点がある。一方、その含有量が10重量%以下であれば、上述のように、シートやフィルム等に加工する成形工程においては、特別な設備無しに大気中で取り扱った場合にも、酸素と反応せず酸素吸収性能が劣化するようなことがない、各成形工程での熱により被酸化性化合物(A)が酸化反応や架橋反応等を起こさず、酸素吸収性能が維持される、等の利点がある。好ましくは0.001重量%〜7重量%、より好ましくは0.01重量%〜5重量%である。酸化促進成分(C)を金属の化合物とする場合は、金属含有量(配位子、対イオン等を除く)を基準にして、好ましくは0.0001重量%〜5重量%であり、より好ましくは0.001重量%〜2重量%である。
優れた酸素吸収性能を発揮させる上で、酸化促進成分(C)は揮発しにくい物質であることが好ましい。ここで「揮発しにくい」とは、溶融押出時、成型加工時における加工温度においても揮発し難いことを意味するものであり、特に制限されるものではないが、融点、沸点が高く、蒸気圧の低いものが好ましい。一例として、酸化促進成分(C)の融点は、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは300℃以上である。このように揮発しにくい酸化促進成分(C)を用いた場合は、後述する加熱溶融押出や成型加工中にも酸化促進成分が揮発して失われてしまうことは殆どなく、優れた酸素吸収性能を発現することができる。一方、揮発しやすい酸化促進成分(C)を用いた場合は、溶融押出時、成型加工時等に酸化促進成分(C)が揮発して失われてしまうために、酸素吸収組成物中の酸化促進成分(C)の添加量が少なくなりやすく、酸素吸収性能に劣る、誘導期間が長くなりすぎて使用しにくくなる等の問題が発生してしまう。特に、後述する酸素吸収組成物の好ましい製造法において、真空ベント口を備えた押出機を用いた場合などは、酸化促進成分(C)が揮発する可能性は高くなるため、揮発しにくい酸化促進成分(C)を用いることがより一層重要となってくる。
ここで遷移金属とは、周期表の第1、第2または第3遷移系列から選択された金属であり、少なくとも2種の酸化状態の間で容易に相互転化し得るものが好ましい。具体的には、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ロジウム、銀、チタン、クロムおよびルテニウム等が挙げられる。またその他の金属として亜鉛、アルミニウムが挙げられる。導入時の金属の酸化状態は、活性形状のものに限られない。
遷移金属化合物とする場合の適当な対イオンには、酸化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、炭酸イオン、塩素酸イオン、クロム酸イオン、4シクロヘキシル酪酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、リン酸イオン、よう素酸イオン、ヨウ化物イオン、乳酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、硫化物イオン、亜硫酸イオン、テトラフルオロほう酸イオン、チオシアン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、バナジン酸イオン、酢酸イオン、が例示できる。これらの塩として好ましくは、酸化物イオン、硫酸イオン、塩化物イオン、硝酸イオンが例示でき、より好ましくは酸化物イオン、硫酸イオンが挙げられる。
これらのうち特に好ましい例として、鉄、酸化鉄(II)、酸化鉄(II、III)、酸化鉄(III)、硫酸第一鉄(硫酸鉄(II)七水和物)、塩化鉄、酸化銀、酸化亜鉛が挙げられる。
アルミニウム化合物等の酸化触媒としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、トリ−n−オクチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム類等が、例示できる。
光開始剤としては、ラジカル系光重合開始剤、カチオン系光重合開始剤、アニオン系光重合開始剤などが挙げられ、好ましくはベンゾフェノン、アントラキノン、ナフトキノン、ベンゾキノン、より好ましくはアントラキノンが挙げられる。
また、酸化促進成分(C)として、銅、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、マンガンからなる群から選ばれる少なくとも一種の揮発性しにくい化合物(群P)と、亜鉛化合物、光開始剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質(群Q)の両者を含むことは好ましい。この理由として、完全に解明されたわけではないが、以下のように説明することができる。群Pは、酸化還元電位が金属として中程度のもの、すなわち価数の偏りが少ない、価数変動し易いものであり、酸化反応と還元反応がバランスよく起こり、自動酸化反応におけるハイドロパーオキサイド(ROOH)の分解反応が起こりやすくなる。群Pの物質は、被酸化性化合物(A)の自動酸化反応を継続的に起こりやすくするものであり、酸素吸収組成物の酸素吸収量を大きくする作用がある。一方、群Pの物質に加えて群Qを添加することで、上記の酸化反応と還元反応のバランスがさらによくなり自動酸化反応が効率的に回る作用がある。また、自動酸化反応における開始反応(ポリマーラジカルの発生反応)を起こりやすくする作用がある。このことにより、酸素吸収組成物の酸素吸収速度が向上するという効果があると考えられる。
群Pのなかでも、酸素吸収量、酸素吸収速度、安全性の観点から、銅、鉄が好ましく、より好ましくは鉄、さらに好ましくは鉄の無機塩、さらに好ましくは酸化鉄(II)、酸化鉄(II、III)酸化鉄(III)、硫酸第一鉄(硫酸鉄(II)七水和物)が挙げられる。
群Qのなかでも、酸素吸収速度、安全性の観点から亜鉛化合物、光開始剤が好ましく、より好ましくは亜鉛の無機塩および/又は有機塩、アントラキノン、ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケタール、さらに好ましくは酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛が挙げられる。
群Pと群Qの配合重量比(群P/群Q)は、1/1000〜1000/1の間で選択すればよい。好ましくは、1/100〜100/1、より好ましくは1/10〜10/1である。
[4]その他の成分
酸素吸収組成物またはこれから得られる酸素吸収材は、その各種特性を改善するため、本願発明の効果を損ねない範囲で脱臭剤、消臭剤、滑剤、防曇剤等を含んでもよい。
脱臭剤や消臭剤は、被酸化性化合物(A)の酸化反応が進行する際に発生する低分子量アルデヒド、ケトン、エステルなどの物質を取り除くのに適している。
脱臭剤としては、例えば活性炭、ゼオライト、アモルファスシリカ、シクロデキストリン、セピオライト、セラミックス、シリカゲル、ハイドロタルサイト等があり、活性炭にアミン類等の物質を化学処理したもの、例えば、日本エンバイロケミカルズ社製の粒状白鷺GAAx(商品名)は好ましい例である。
消臭剤としては、ポリエチレンイミン等のポリアルキレンイミン、ビタミンE、トコフェノール、酸化チタン、ヒドラジン誘導体、アミン化合物(ペンタエチレンヘキサミン、トリエチレンテトラミン、ポリビニルオキサゾリン、等)、無機塩基化合物(酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、等)、フラボノイド防臭剤、ポリフェノール、テレピン油、活性酸化アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、等が挙げられ、ポリエチレンイミン、アジピン酸ジヒドラジドは好ましい例として挙げられる。
[5]酸素吸収組成物の製造方法
酸素吸収組成物及の製造方法は、被酸化性化合物(A)、酸化防止剤(B)、酸化促進成分(C)を溶融・混練する方法、溶剤で溶解して混合する方法等が挙げられるが、好ましくは以下の工程(X)、工程(Y)及び工程(Z)からなる押出工程による方法である。
工程(X):上記被酸化性化合物(A)と酸化防止剤(B)と酸化促進成分(C)、必要により水をそれぞれ定量して混合し混合物を作成する工程、
工程(Y):工程(X)により作成された混合物を減圧又は真空ベント口を備えた押出し機に投入して、熱を加えて溶融・混練物を作り、ベント口から酸化防止剤(B)を排出して溶融・混練物から酸化防止剤(B)を減量化する工程、
工程(Z):工程(Y)により作成された溶融・混練物を、冷却してペレット状(可能ならシート状、フィルム状でもよい)に形成した酸素吸収組成物(または酸素吸収材)を得て、さらに低酸素雰囲気で保存する工程。
以下に、各工程について詳しく説明する。
[5−1]工程(X)
アリル水素および/または3級炭素と結合した水素を分子中に有する被酸化性化合物(A)、酸化防止剤(B)0.05重量%〜1重量%、酸化促進成分(C)0.0001重量%〜10重量%、及び好ましくは水0.1重量%〜10重量%をそれぞれ定量して混合し、混合物を作成する工程である。
酸化防止剤(B)は、工程(X)において添加しても良いし、被酸化性化合物(A)を製造する過程で添加されていても良い。仮に被酸化性化合物(A)を製造する過程で添加されている酸化防止剤(B)が多すぎる場合は、本発明の効果を得るために酸化防止剤(B)を所定量まで減らすことが必要である。そのためには、例えば、被酸化性化合物(A)を被酸化性化合物(A)の良溶媒で溶解させ、次いで被酸化性化合物(A)の貧溶媒でありかつ酸化防止剤(B)の良溶媒である物質を加えて、被酸化性化合物(A)のみを析出させる方法、いわゆる溶解再沈法、やソックスレー抽出装置等を用いた抽出手法なども有効である。
酸化防止剤(B)は、溶融・混練物を作る工程(Y)において被酸化性化合物(A)の酸化又は熱劣化を防止する上で必要なため、工程(X)では0.05重量%以上を配合することが好ましい。一方、工程(Y)において押出機のベント口から酸化防止剤(B)を吸引除去することで、酸化防止剤(B)を減量化して0.005重量%〜0.35重量%に調整するために、工程(X)では酸化防止剤(B)を1重量%以下となるように配合することが好ましい。工程(X)における酸化防止剤(B)の配合量は、好ましくは0.1重量%〜0.4重量%である。なお、工程(Y)において押出機のベント口から酸化防止剤(B)を吸引除去しない場合は、工程(X)では酸化防止剤(B)を0.005重量%〜0.35重量%の範囲内で配合すればよい。
水は、減圧または真空ベント口から酸化防止剤(B)を排出する際に、水蒸気となって共に酸化防止剤(B)の排出を助ける働きがある。また、混合する際に、酸化促進成分(C)を均一に分散させるために、流動パラフィン(例えば、松村石油研究所製のスモイル(商品名)等)、ミネラルオイル等を添加してもよい。
[5−2]工程(Y)
工程(X)により作成された混合物を押出機に、好ましくは減圧又は真空ベント口を備えた押出し機に投入して、熱を加えて溶融・混練物を作り、好ましくはベント口から酸化防止剤(B)を排出して溶融・混練物から酸化防止剤(B)を減量化する工程である。
溶融温度は、被酸化性化合物(A)が溶融状態になる温度であれば良いが、樹脂の劣化、架橋によるゲル化等を考慮に入れると好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下であることが望ましい。ベント口の圧力は、ベント口から酸化防止剤(B)を排出し易くする観点から、好ましくは50kPa以下、より好ましくは500Pa以下、さらに好ましくは5Pa以下である。
[5−3]工程(Z)
工程(Y)により作成された溶融・混練物を、冷却してペレット状に形成して酸素吸収組成物を得て、さらに低酸素雰囲気で保存する工程である。酸素吸収組成物は、塊状、ベール状、スラブ状、フレーク状、クラム状、パウダー状でも良い。さらには、綿状、繊維状であっても良い。これらはそのまま密封包装容器内に封入して酸素吸収材として利用しても良いし、さらに加熱溶融押出してシート状、フィルム状に成形して利用することも出来る。
シート状又はフィルム状にする場合には、プレス成形、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、圧縮成形、押出ラミネート法等による方法や、ロール延伸法、テンター延伸法、インフレーション法(ダブルバブル法を含む)等などの延伸成形などが挙げられる。特に、Tダイから溶融押出した後、冷却ロールにキャスティングしてシート状にする方法、該冷却シートを縦方向及び/又は横方向に延伸する方法、サーキュラーダイから溶融押出した後インフレーションして冷却する方法等が好ましい。溶融押出する場合、例えば酸素バリア樹脂やヒートシール性樹脂とを積層しても良い。さらにTダイから支持体上に溶融押出して多層化する方法も例示できる。
また出来たシート状又はフィルム状の酸素吸収材はそのまま密封包装容器内に封入して酸素吸収材として利用しても良いし珍味トレー、カップ、トレー等の成形容器や袋状に、さらに加工して用いても良い。またこれらの加工は以下の低酸素雰囲気で保存する工程の前に行なっても良い。
以上の方法により形成された酸素吸収材は、さらに低酸素雰囲気で保存することが好ましい。これにより、仮に酸素吸収材の誘導期間が保存中に経過してしまった場合でも、酸素吸収材を利用することが可能になる。ここで、「低酸素雰囲気で保存する」とは、例えば、バリア性包材を用いて包装し、必要に応じて不活性ガス置換法及び/又は他の酸素吸収材を利用して、該酸素吸収材を低酸素濃度雰囲気の状態で保存しておく工程のことである。ここで、低酸素濃度とは、酸素濃度が20%未満のことであり、好ましくは5%未満であり、さらに好ましくは1%未満である。
保存する期間は、保存する温度によっても異なってくるが、一般的には1日から30日程度である。最終商品の消費期限が長く酸素吸収材の在庫が長いものについては7日から30日程度であり、また最終商品の消費期限が短く酸素吸収材の在庫も短いものについては1日から20日程度である。保存時の温度は、一般的には0℃〜100℃、好ましくは5℃〜80℃、より好ましくは10℃〜60℃である。
[6]酸素吸収組成物の形態
酸素吸収組成物は、粉状または粒状に成形して通気性の小袋に入れた形態として用いたり、圧縮成形した小片や熱可塑性樹脂と混合した小片を小袋に入れ、ラベル、カード、パッキングなどの形態として用いたり、酸素吸収組成物を単独又は熱可塑性樹脂と混合してフィルムやシート等の酸素吸収材に成形し、脱酸素包装材料として包装袋や珍味トレー、カップ、トレー等の包装容器の一部または全部に種々の形態で用いたりすること等が可能である。
小袋に入れた形態にする場合は、酸素透過量が大きい重合体、例えばポリエチレン、プロピレンとオレフィンとの共重合体、エチレン−ビニルモノマー共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレンとオレフィンとの共重合体、ポリエステル等や、紙、またはこれらの多層体によって封入した状態にすることが挙げられる。これらの小袋には、通気性の観点から、穿孔が施されていることも好ましい。
フィルムやシートの形状とする場合は、酸素吸収組成物を含有する層(L1)のみで構成されたものであってよいが、他の材料からなる少なくとも一層(L2)以上の層とから構成された積層フィルムであってもよい。L2を構成する材料としては、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、熱可塑性ポリオレフィン樹脂(LDPE(低密度ポリエチレン)、VLDPE(超低密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、プロピレン系樹脂、ブテン−1系樹脂等)、ポリアミド樹脂、塩化ビニル、スチレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル、エチレン−(メタ)アクリル酸アルキル、エチレン−(メタ)アクリル酸およびエチレン−(メタ)アクリル酸アイオノマー等が挙げられる。
また、酸素吸収組成物を含有する層(L1)に酸素バリア性を有する層(L3)が積層されてなる積層フィルムは好ましい態様である。L1は、L3よりも、被包装物側に位置する構成とする。L3としては、EVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合体)、PVDC(ポリビニリデンクロライド)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PTT(ポリテトラメチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PVA(ポリビニルアルコール)、PAN(ポリアクリロニトリル)、PA(ポリアミド)及びこれらの共重合体等が例示出来、また例えばクレイ等の無機層状化合物を含有する樹脂組成物でも良い。また、フィルム表面あるいは中間層にバリア性有機材料や、アルミナ、シリカ、非晶質カーボンなどの無機系材料がコーティングされていても良い。
このように、小袋タイプの酸素吸収組成物や、酸素吸収組成物を成形して得られる上記フィルム又はシート等を用いたパウチ、トレーやカップ、蓋材等の包装材料は、金属製品、乾燥食品、医薬品、検査キット、写真フィルム、古文書、絵画、電子製品等の、水分を嫌う物品の脱酸素雰囲気下での保存に好適である。
以下本発明について、実施例等を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例等に示された具体的態様に限定されるものではない。まず、本発明に用いた各種物性の測定方法及び評価方法を以下にまとめて示す。
<酸化防止剤(B)の定量方法>
酸素吸収組成物の試料約3gに、後述する酸化防止剤AO1、AO2、AO3をそれぞれ標準添加して、クロロホルム/メタノール再沈し、濾液を濃縮乾燥固化後、メタノールで10mlにメスアップしてサンプルを作成した。このサンプルをWaters社製の液体クロマトグラフ装置600(商品名)を用い、カラムとしてWaters社製のマイクロボンダパックC18(商品名)、送液条件としてメタノール:水=80:20(開始時点)、リニアグラジエント(0〜5分)、メタノール:水=100:0(5〜20分)、流量は1ml/分、注入量は30μl、検出器としてWaters社製UV検出器996(商品名)(検出波長285nm)の条件にて、標準添加法による検量線を作成し、液体クロマトグラフ測定をして測定した。
<飽和酸素吸収量(Vos)>
酸素吸収材の試料約0.1gを、200cm3の体積を持つ壁面の厚みが80μmで酸素透過量が30cm3/(m2・day・MPa)未満であるポリ塩化ビニリデン製バリア性容器に入れ、該容器中を酸素容量21%、窒素79容量%の混合ガスで置換して密封した。その後、これらの容器を温度23℃、湿度17%RHの条件下におき、PBI社製ガス濃度測定装置Dansensor CheckMate9900(商品名)を用いて、容器中の酸素濃度の経時変化をモニタリングし、酸素吸収量を算出した。酸素濃度が飽和に達した時点での酸素吸収材1gあたりの酸素吸収量を、飽和酸素吸収量(Vos、単位はcc/g)として定義した。
<誘導期間>
上記酸素吸収量測定法において、測定開始時から容器中の酸素濃度が20.6%以下になるまでの期間(単位はhrまたはday)を誘導期間として定義した。
次に、実施例等で用いた被酸化性化合物(A)、酸化防止剤(B)及び酸化促進成分(C)の内容をまとめて示す。
<被酸化性化合物(A)>
SBR1:旭化成ケミカルズ社製、スチレン−ブタジエン共重合体(アサプレンT420(商品名))。ムーニー粘度が190、結晶融解ピークは有さない。共役ジエン由来部分とビニル芳香族炭化水素由来部分の重量比は30/70。
SBR2:旭化成ケミカルズ社製、部分水添スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(タフテックP1500(商品名))。ムーニー粘度160、結晶融解ピークは有さない。共役ジエン由来部分とビニル芳香族炭化水素由来部分の重量比は30/70。
SBR3:旭化成ケミカルズ社製、スチレン−ブタジエン共重合体(アサプレンT438(商品名))。ムーニー粘度が160、結晶融解ピークは有さない。共役ジエン由来部分とビニル芳香族炭化水素由来部分の重量比は35/65。
<酸化防止剤(B)>
AO1:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、フェノール系酸化防止剤(IRGANOX1076(商品名))、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、融点50℃。
AO2:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、フェノール系酸化防止剤(IRGANOX1010(商品名))、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]。融点120℃。
AO3:住友化学社製、イオウ系酸化防止剤(Sumilizer TPS(商品名))、ジステアリルチオジプロピオネート。融点59℃。
<酸化促進成分(C)>
CAT1:関東化学社製硫酸第一鉄(硫酸鉄(II)七水和物)。硫酸第一鉄は加熱すると結晶水を失い、80〜123℃で1水和物、300℃で無水和物となり、融点は300℃以上である。上述の群Pの物質。
CAT2:関東化学社製、酸化鉄(III)。融点1538℃。上述の群Pの物質。
CAT3:関東化学社製、鉄、融点1536℃。上述の群Pの物質。
CAT4:関東化学社製、ステアリン酸亜鉛。融点140℃。上述の群Qの物質。
CAT5:関東化学社製、酸化亜鉛。融点1975℃。上述の群Qの物質。
CAT6:関東化学社製、アントラキノン。融点286℃。上述の群Qの物質。
CAT7:関東化学社製、酸化銀(I)。222℃で銀と酸素に分解する(融点200℃以上)。
CAT8:和光純薬工業社製、ナフテン酸鉄(II)ミネラルスピリット溶液(Fe:5重量%)、常温23℃で液体(融点23℃以下)。
CAT9:関東化学社製、硫酸銅(II)。融点600℃以上。上述の群Pの物質。
[実施例1]
SBR1と、酸化防止剤(B)としてAO1を0.06重量%、CAT1を1.63重量%(鉄として0.33重量%)およびCAT4を3.20重量%(亜鉛として0.33重量%)含むように調整したもの(合計100重量%)を、ブレンダーにて均一になるまで混合した後に、これら混合物を、池貝鉄工社製のベンド口を備えた二軸押出機(PCM−45(商品名))を用いて、215℃で溶融押出した。ダイから出てきたストランド状樹脂組成物を水冷した後、勝製作所製水冷式ペレタイザー(KN−150(商品名))を用いてペレット状にカッティングした。次に、該ペレットを200℃に設定された熱プレス機でプレス成形して厚みが100μmの淡黄色透明なシート状の酸素吸収組成物(または酸素吸収材)を作成した後,酸素バリア性アルミ袋中にいれて密封保管した。該酸素吸収組成物について、上記方法にて評価を行った。
該酸素吸収組成物中の酸化防止剤(B)の含有量は0.06重量%であり、誘導期間は5日で、酸化防止剤(B)の含有量により誘導期間を制御することができた。酸化促進成分(C)であるCAT1は融点が300℃以上の物質であるため、215℃での溶融押出、200℃での熱プレス成形中に酸化促進成分が揮発することは無く、Vosは65cc/g(測定開始後15日後)で、良好な酸素吸収能を示した。
さらに該シート状酸素吸収組成物を、実際の製造における各加工工程での輸送や保管を想定して温度23℃、湿度17%RH、大気中にて4日間保管した後に、200℃に昇温された金型にて幅8cm、長さ8cm、深さ1cmの容器に成形したところ、ゲル等の発生が無い外観のきれいな淡黄色透明の容器が出来た。該容器の中に、幅1cm、長さ7cm、高さ7cmにカットした市販のカステラを1切れ入れて、酸素バリア性アルミ袋で密封した。該密封袋を23℃の条件下で1ヶ月保管した後酸素濃度を測定したところ、0.1%以下と優れた酸素吸収性能を発揮しており、またカステラにはカビは発生していなかった。
[比較例1]
実施例1において、酸化防止剤を溶解再沈法によって完全に除去した外は、実施例1同様な操作を繰り返してシート状の比較組成物を得た。比較組成物中の酸化防止剤の含有量は0.001重量%未満であった。また該シートは、溶融押出中および成型加工中にSBR1の架橋反応によるゲルが発生し、概観が悪化した。該シートのVosは55cc/g(測定開始後10日後)、誘導期間は1時間以下と短かった。
該シートを、実施例1同様に保管及び容器成形したところ、ゲルの多い概観の悪い容器になった。該容器の中に、市販のカステラ1切れを入れて酸素バリア性アルミ袋で密封した。該密封袋を23℃の条件下で1ヶ月保管した後酸素濃度を測定したところ20.3%であり、またカステラにはカビが発生していた。これは該シート状比較組成物の誘導期間が短すぎるために、容器成形の前もしくは最中にシート状の比較組成物が酸素吸収反応を起してしまい、成形後の容器が十分な酸素吸収性能を発揮しなかったためである。
[実施例2]
実施例1において、酸化防止剤(B)をAO1及びAO3に変更し、酸化防止剤(B)の含有量を変更した以外は、実施例1と同じ方法でシート状酸素吸収組成物を13種類作成した。各シート状酸素吸収組成物について、上記方法にて評価を行ったところ、それぞれ飽和に達するまでの時間は異なっていたが、全てのサンプルはVosが略65cc/g(測定開始後60日後)であった。
図1は、縦軸に該シート状酸素吸収組成物の誘導期間を、横軸には酸化防止剤(B)の含有量をとり、上記の13種類のシート状酸素吸収組成物について、それぞれの測定値をプロットした図である。図中「◆」印は、フェノール系酸化防止剤AO1を添加した場合について、「□」印は、イオウ系酸化防止剤AO3を添加した場合について示している。
図1において、酸化防止剤(B)の含有量によって誘導時間が制御できることがわかる。特に図中「◆」印のフェノール系酸化防止剤の場合には、フェノール系酸化防止剤の含有量と誘導期間との間には直線関係が見られ、所望の誘導時間に制御することが容易であることが分かる。またフェノール系酸化防止剤の場合には、その含有量が0.005重量%〜0.35重量%の場合に誘導期間が1〜30日程度と、実用的に意味のある期間であった。
[実施例3]
SBR1と、酸化防止剤(B)のAO1を0.55重量%、酸化促進成分(C)のCAT2を0.47重量%(鉄として0.33重量%)、および水2重量%とを含むように調整したものを、ブレンダーにて均一になるまで混合した後に、これら混合物を真空ベント口を備えた池貝鉄工社製二軸押出機(PCM−45(商品名))を用いて215℃で溶融押出した。溶融押出中は、真空ベント口を減圧状態とすることにより1Pa以下まで脱気を行った。ダイから出てきたストランド状樹脂組成物を水冷した後、上記水冷式ペレタイザーを用いてペレット状にカッティングした。次に、該ペレットを200℃に設定された熱プレス機でプレス成形して、厚みが100μmのシート状の酸素吸収組成物を作成した。
この酸素吸収組成物について、上記方法にて評価を行った。該酸素吸収組成物中の酸化防止剤の含有量は、0.31重量%であった。また誘導期間は28日、Vosは65cc/g(測定開始後40日後)であった。
[実施例4]
実施例3において、酸化促進成分(C)であるCAT2が0.47重量%を、CAT8が6.6重量%(鉄として0.33重量%)となるように代えた以外は、実施例3と同様な操作を繰り返してシート状の酸素吸収組成物を得た。この酸素吸収組成物中の酸化防止剤の含有量は0.32重量%で、Vosは65cc/g(測定開始後50日後)であった。また、誘導期間は40日であり、実用的にはやや長い。誘導期間が長くなったのは、酸化促進成分(C)であるCAT8の融点が23℃以下と低いため揮発しやすく、真空ベント口を減圧状態としたことにより、ベント口から水蒸気とともに除去されてしまったためと考えられる。
[比較例2]
実施例3において、溶融押出中は、真空ベント口を減圧脱気しないように替えた外は、実施例3と同様な操作を繰り返した。得られた該シート状酸素吸収組成物中の酸化防止剤の含有量は0.55重量%であり、Vosは65cc/g(測定開始後60日後)、誘導期間は50日と、実用的には長すぎる結果となった。
実施例3と比較すると、押出工程における被酸化性化合物(A)の安定性を増すために、酸化防止剤(B)が多く添加されている場合には、真空ベント口を1Pa以下まで減圧状態とすることにより、ベント口から酸化防止剤(B)を排出して溶融・混練物から酸化防止剤(B)を減量化することにより、誘導期間を好ましい範囲内に制御できることが分かる。
[実施例5]
SBR2と、AO1を0.07重量%、CAT2を0.47重量%(鉄として0.33重量%)、CAT4を3.20重量%(亜鉛として0.33重量%)、および水2重量%とを含有するように計量し、これらをブレンダーにて均一になるまで混合した後に、これら混合物を真空ベント口を備えた二軸押出機を用いて215℃で溶融押出した。溶融押出中は、真空ベント口を減圧状態とすることにより1Pa以下まで脱気を行った。ダイから出てきたストランド状樹脂組成物を水冷した後、水冷式ペレタイザーを用いてペレット状にカッティングした。
次に、該ペレットを200℃に設定された熱プレス機でプレス成形してシート状とし、このシートの両面を2枚のポリプロピレンシートで挟んで再度プレス成形して、層構成がポリプロピレン/酸素吸収組成物/ポリプロピレンで、厚みが25μm/100μm/25μmのピンク色の多層シート状の酸素吸収組成物を作成した。
該多層シートについて、上記方法にて評価を行った。該多層シートの酸素吸収組成物中の酸化防止剤の含有量は0.04重量%であり、誘導期間は5日、Vosは50cc/g(測定開始後15日後)であった。
さらに該多層シートを、実際の製造における各加工工程での輸送や保管を想定して温度23℃、湿度17%RHの条件に4日間おいた後に、220℃に設定された圧縮成形機でプレス成形して、縦115mm、横65mm、高さ5mmの珍味トレータイプ状の酸素吸収材に加工した。該珍味トレー状酸素吸収材に市販のチーズタラ100gを載せ、酸素バリア性アルミ袋で密封して23℃で3ヶ月保管した。保管後酸素濃度を測定したところ0.1%以下であり、またチーズタラにはカビは発生していなかった。
[実施例6〜11]
酸化促進成分(C)をそれぞれ表1に記載の処方に替えた外は、実施例5と同様な操作を行って、多層シート状の酸素吸収組成物を得た。このシート中の酸化防止剤の含有量は略0.04重量%であった。これらを実施例5と同様にして評価した。評価結果を表1にまとめて示す。
実施例6〜11の多層シート状の酸素吸収組成物は、全て誘導期間が所望の範囲内にありかつ酸素吸収量も50cc/gと優れていた。ここで、実施例7〜9、11の多層シート状の酸素吸収組成物の誘導期間は、実施例6、10の誘導期間よりも短かった。また、上記酸素吸収量測定法において酸素吸収量を縦軸に、経過時間を横軸にとった曲線(酸素吸収曲線)において、最大の傾きの大きさを最大酸素吸収速度(Ros、単位はcc/(g・hr))として定義すると、表1に示すように、実施例7〜9、11は、実施例6、10よりも最大酸素吸収速度Rosは大きかった。
このように、酸化促進成分(C)として、銅、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、マンガンからなる群から選ばれる少なくとも一種の揮発性しにくい化合物(群P)と、亜鉛化合物、光開始剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質(群Q)の両者を含むことは誘導期間を短縮・制御する観点、酸素吸収速度を向上する観点からより好ましい。また実施例7のRosは実施例11のRosよりも大きく、群Pと群Qと組み合わせた場合の酸素吸収速度の観点から、群Pのなかでも鉄や鉄の化合物がより好ましいことがわかる。
[実施例12]
SBR3と、酸化防止剤(B)としてAO2を0.25%、酸化促進剤(C)としてCAT7を1.07重量%(銀として1重量%)とを含有するように計量したものを、ブレンダーにて均一になるまで混合した後に、これら混合物を真空ベント口を備えた池貝鉄工社製二軸押出機(PCM−45(商品名))を用いて215℃で溶融押出した。溶融押出中は、真空ベント口を減圧状態とすることにより1Pa以下まで脱気を行った。ダイから出てきたストランド状樹脂組成物を水冷した後、水冷式ペレタイザーを用いてペレット状にカッティングした。次に、該ペレットをSPEX社製のフリーザーミル(SPEX6700(商品名))を用い凍結粉砕させた。具体的には、該ペレット2gを窒素ガスを充填した粉砕管に入れ、液体窒素で10分間冷却した後に5分間の凍結粉砕を行うことを繰り返し、粉状の酸素吸収組成物を得た。この酸素吸収組成物は、黄色の固体粉末で、常温に戻してもべた付かず、取扱い易い形状を有していた。該酸素吸収組成物中の酸化防止剤の含有量は、0.20重量%であった。該粉状酸素吸収組成物は、誘導期間が20日、Vosが80cc/g(40日後)であった。
該粉状酸素吸収組成物5gと日本エンバイロケミカルズ社製の粒状活性炭(粒状白鷺GAAx(商品名))2.5gを、ガーレー試験機法(JIS−P−8117)に準拠した透気度が8,000秒の袋材からなる小袋中に充填して小袋型の酸素吸収材を作成した。この酸素吸収材を、容積が300ccのバリア性アルミ袋に市販のスポンジケーキを100gと同封して密封し、1ヶ月放置した。1ヵ月後のアルミ袋内の酸素濃度は0.1%以下であり、スポンジケーキにはカビは発生していなかった。