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JP2008054975A - 癌凍結融解壊死療法における治療領域の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法 - Google Patents

癌凍結融解壊死療法における治療領域の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】癌の凍結融解壊死療法において、治療領域を推定する方法及び装置の提供。
【解決手段】癌の凍結融解壊死療法における施術対象器官の施術領域の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法であって、以下のステップからなる方法:
(1)凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した熱伝導シミュレータを用いて、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートし、施術対象器官における凍結用プローブを中心とした温度分布を求め、凍結領域を推定するステップ;
(2)凍結融解壊死療法装置により凍結融解壊死治療を施した器官のX線CT画像データと(1)のステップで推定した凍結領域を比較するステップ;及び
(3)(2)の比較により凍結融解壊死療法による治療部位を推定するステップ。
【選択図】なし

Description

本発明は、凍結融解壊死療法において、治療領域を推定する方法及び装置に関する。
凍結融解壊死療法は、Joule-Thompson効果を利用した凍結用プローブを経皮的に腫瘍に穿刺し、腫瘍の凍結融解を繰り返して局所壊死を得る低侵襲治療法である。この方法は、治療疼痛がなく、局所麻酔のみで治療が行うことができ、さらに重篤な合併症や副作用がないという利点がある。
近年増加する肺癌に対し、この治療法の臨床応用が進められている(非特許文献1及び2を参照)。術手技は、腫瘍や肺動静脈などの位置関係を即時的に把握できるX線CT透視下で行っている。標準的な臨床運用では、5〜10分の凍結と凍結用プローブ内温度が20℃になるまでの解凍のサイクルを2〜3回繰り返している。該方法において、凍結解凍後のX線CT画像に現れる出血による変化領域を治療領域と判断されてきた。この治療における術後一年の再発率は症例全体の約20%と高い。この高い再発率の一因はX線CTによる上記の治療領域判定に起因するものと考えられている。正確な治療領域を推定しながら治療を行うためには、術中の肺温度分布を知る必要がある。肺以外の実質臓器腫瘍に対する凍結融解壊死療法の治療領域推定には、組織の凍結領域を画像化できるMRIや超音波診断による画像診断法が用いられている(非特許文献3及び4を参照)。これらの画像診断法は肺の凍結領域を画像化できないため、肺癌凍結融解壊死療法の治療領域推定に用いることができない。穿刺タイプの温度センサーは、凍結用プローブとは別の穿刺経路を必要とし、侵襲が大きいことから臨床では使用できない。このような状況の下、術中の肺温度を得るための方法の開発が望まれていた。
中塚誠之 他、低温医学. 30(1): 9-15, 2004. Kawamura M. et al., Lung Cancer. 49(S2): S353, 2005. 原田潤太 他、Journal of Nippon Medical School. 69(5): 476-479, 2002. 若林剛 他、Japanese Journal of Interventional Radiology. 19(2): 113-116, 2004.
本発明は、癌の凍結融解壊死療法において、治療領域を推定する方法及び装置の提供を目的とする。
本発明者らは、術中の肺温度分布とX線CT画像変化領域、術後の治療効果の3つの対応関係を求め、X線CTによる術中の治療領域推定を行う方法の開発を目指し、鋭意検討を行った。本発明者らは、最初に、凍結装置の運用条件から術中の肺温度分布を推定する有限要素熱伝導シミュレータの構築を試みた。対照となる実験系をex vivoおよびin vivoで用意して、肺の冷却温度履歴を測定した。この際、簡便な2次元の有限要素モデルで計算した温度変化曲線と実験の結果得られた冷却温度履歴との比較によって熱伝導シミュレータのパラメータを調整した。具体的には、血流や呼吸などがない静的な状態のex vivo肺を用いた実験により肺の比熱、熱伝導率を調整したあとで、in vivo肺を用いた実験により血流や呼吸などによる熱流入を調整した。その結果、これらの調整により出血が起きていない1回目凍結時における健常肺の温度分布推定ができる熱伝導シミュレータを構築した。
さらに、本発明者らは、構築した熱伝導シミュレータを用いて施術する肺の温度分布を推定し、術後のX線CT画像と比較した。その結果、推定した肺の温度分布により、肺の治療領域を推定し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 有限要素解析により、癌の凍結融解壊死療法の施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法であって、凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率を用いてし、治療領域を推定有限要素法による熱伝導シミュレータを構築し、該熱伝導シミュレータにより熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法。
[2] 有限要素法による熱伝導解析における熱伝導率に関するパラメータを調整し、さらに血流及び代謝熱による熱流入に関するパラメータを調整し、有限要素法による熱伝導シミュレータを構築する、[1]の治療領域を推定する方法。
[3] 癌が肺癌、肝臓癌、腎臓癌及び前立腺癌からなる群から選択される[1]又は[2]の治療領域を推定する方法。
[4] 施術される個体ごとに施術対象器官の熱伝導率を決定し、熱伝導シミュレータを構築する、[1]〜[3]のいずれかの治療領域を推定する方法。
[5] 癌の凍結融解壊死療法における施術対象器官の施術領域の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法であって、少なくとも以下のステップ(1)から(3)が1回行なわれる方法:
(1)凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した熱伝導シミュレータを用いて、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートし、施術対象器官における凍結用プローブを中心とした温度分布を求め、凍結領域を推定するステップ;
(2)凍結融解壊死療法装置により凍結融解壊死治療を施した器官のX線CT画像データと(1)のステップで推定した凍結領域を比較するステップ;及び
(3)(2)の比較により凍結融解壊死療法による治療部位を推定するステップ。
[6] ステップ(1)から(3)が複数回繰り返される、[5]の治療領域を推定する方法。
[7] ステップ(1)から(3)が2又は3回繰り返される、[6]の治療領域を推定する方法。
[8] 癌が肺癌、肝臓癌、腎臓癌及び前立腺癌からなる群から選択される[5]〜[7]のいずれかの治療領域を推定する方法。
[9] 癌の凍結融解壊死療法において、治療領域を推定するための装置であって、
(a)凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートするための熱伝導シミュレータを格納する記憶手段、
(b)(a)の熱伝導シミュレータにより凍結用プローブを中心とした施術対象器官の温度分布を推定するための演算手段、及び
(c)(b)の演算手段により解析された温度分布を表示する手段、を含む装置。
[10] 癌の凍結融解壊死療法において、治療領域を推定するための装置であって、
(a)凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートするための熱伝導シミュレータを格納する記憶手段、
(b)(a)の熱伝導シミュレータにより凍結用プローブを中心とした施術対象器官の温度分布を推定するための演算手段、
(c)X線CT装置により得られたX線CT画像データを受け取る手段、及び
(d)(b)の演算手段により解析された温度分布と(c)で受け取ったX線CT画像データを比較して、その結果を表示する手段、を含む装置。
[11] 演算手段により解析された温度分布と受け取ったX線CT画像データを比較して、その結果を表示する手段がX線CT画像に温度分布を重ねて表示する手段である[10]の装置。
[12] 癌が肺癌、肝臓癌、腎臓癌及び前立腺癌からなる群から選択される[9]〜[11]のいずれかの治療領域を推定するための装置。
[13] さらに、X線CT装置及び/又は癌の凍結融解壊死療法装置を含む[9]〜[12]のいずれかの治療領域を推定するための装置。
[14] 癌の凍結融解壊死療法における施術部位の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定するためのプログラムであって、
コンピュータを、
(i)凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートするための熱伝導シミュレータを格納する記憶手段、
(ii)(i)の熱伝導シミュレータにより凍結用プローブを中心とした施術対象器官の温度分布を推定するための演算手段、及び
(iii)(ii)の演算手段により解析された施術器官における温度分布を表示する手段
として機能させるためのプログラム。
[15] さらに、コンピュータを(iv)X線CT画像データを受け取る手段、(v)(iii)の手段により解析された施術器官における温度分布と(iv)の手段により受け取られたX線CT画像データを比較する手段、及び(vi)(v)の手段により比較された結果を表示する手段として機能させるための、[15]の治療領域を推定するためのプログラム。
[16] 癌が肺癌、肝臓癌、腎臓癌及び前立腺癌からなる群から選択される[15]の治療領域を推定するためのプログラム。
本発明では、肺癌凍結融解壊死療法における術中の治療領域推定のために、肺温度分布を推定する有限要素熱伝導シミュレータの構築を行った。本発明者らは、対照実験で測定した肺の冷却温度履歴と、計算した温度変化曲線との比較により熱伝導パラメータを調整した。ex vivo実験により比熱、熱伝導率を調整した。肺の熱伝導率は肺密度に依存し、その関係を明らかにした。in vivo実験により組織内血流による熱流入と代謝発熱を熱伝導シミュレータに加味した。その結果、肺の凍結時(凍結開始から10分まで)における温度分布を2次元の熱伝導シミュレータによって模擬的に±3℃の精度で推定できた。構築した熱伝導シミュレータを用いることで、肺癌凍結融解壊死療法における術中の治療領域推定が可能になる。また、本方法により、肺癌以外の癌においても治療領域を推定することが可能になる。
本発明の、癌凍結融解壊死療法を行う際に施術対象器官の治療領域の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法において、対象とする癌は、限定されず、あらゆる癌が対象となる。ただし、効果的な治療法が十分確立されておらず、癌凍結融解壊死療法が他の治療法と比較して有効である肺癌、肝臓癌、腎臓癌、前立腺癌が好ましい。これらの癌のうちでも、現在の癌凍結融解壊死療法におけるX線CTによる画像診断による凍結領域の判定が困難である肺癌が特に好ましい。
凍結融解壊死療法においては、用いる凍結融解壊死療法装置(クライオサージェリー装置)の凍結用プローブを癌部位に刺入し、該プローブ部分を低温とし、プローブ周囲の癌領域を凍結融解壊死させる。本発明の癌凍結融解壊死療法において治療領域の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法においては、凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートし、凍結用プローブ周囲の癌領域の温度分布を推定する。得られた温度分布データにより、癌部の凍結した領域、すなわち治療領域を推定することができる。
本発明の治療領域の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法において採用される凍結融解壊死療法装置の種類は限定されず、アルゴンガス若しくはヘリウムガスを用いる装置、液体窒素を用いる装置のいずれをも採用することができる。凍結融解壊死療法装置としては市販のものを用いればよい。
本発明の治療領域の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法においては、癌を有する器官中の温度分布について2次元又は3次元の有限要素解析を行い有限要素モデルを作成し計算する。有限要素法による熱伝導計算は、熱伝導を計算しようとする対象を細かい要素に分割して、隣接する要素間でのみ熱の受け渡しが起こると仮定し、分割した要素の節点(ノード)における熱輸送方程式により熱伝導を計算する方法である。この際、市販の熱伝導計算プログラムを用いて施術対象である器官に特有なパラメータを導き出すことにより、該器官に対する熱伝導シミュレータを構築することができる。このようなプログラムとして例えば心筋に対する熱伝導に基づいて作成された2次元の有限要素熱伝導解析ソフトであるQuick Therm BIO(登録商標)(計算力学研究所)が挙げられ、該プログラムに施術対象である器官の物性パラメータを入力することにより、該器官に対する熱伝導シミュレータを構築することができる。この際、パラメータとして凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱移動に寄与するパラメータを特定し、凍結融解壊死療法により施術しようとする対象器官におけるパラメータを調整し、有限要素解析により凍結用プローブからの対象器官への熱伝導をシミュレートする。パラメータとしては対象器官に固有の熱伝導率及び対象器官における血流や代謝熱などによる施術領域への熱流入が挙げられる。パラメータの調整は、有限要素モデルにより、一定領域の温度変化を予測し、実際に器官又は器官のモデルを用いて得られた温度履歴を比較し行う。有限要素モデルの形状は、限定されないが、例えば、凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブの中心軸を通る器官の水平断面上の長方形や六角形とすればよい。実際の癌治療において、治療領域は3次元で把握する必要があるが、凍結融解壊死療法装置において凍結用プローブからの熱伝導は、凍結用プローブを中心に放射状に起こるため、2次元の有限要素解析により得られたモデルを回転させることにより、3次元の有限要素モデルを得ることができる。
対象器官の熱伝導率は、例えば、当該器官を採取し、実験的に求めることができ、その値を使用することができる。器官はヒトの器官を用いてもよいし、ブタ等の非ヒト動物の器官を用いてもよい。ただし、施術対象器官によっては個体により器官の密度が異なるので、密度から熱伝導率を求められるようにする必要がある。この場合、あらかじめ採取した施術対象器官の容積と重量から密度を求め、さらに該器官の一部を粉砕し該器官の比熱を実験により求め、熱伝導率を計算する。次いで、密度と熱伝導率の関係を求め、方程式を作成する等により密度から熱伝導率が算出できるようにする。X線CT画像のCT値から特定の個体の施術対象器官の密度を求め、既に得られている密度と熱伝導率の関係から特定の個体の熱伝導率を求めることができる。特に肺では個体による密度差が大きいので、密度を求めて個体ごとに熱伝導率を求めることが望ましい。肺以外の器官、例えば肝臓や腎臓においては、肺ほど個体間の密度差はなく、熱伝導率は個体間で大きな差はない。この場合、個体ごとの密度を求めてもよいし、個体ごとに熱伝導率を調整することなく採取した器官を用いてあらかじめ決定した熱伝導率や文献値を用いてもよい。
本発明の癌凍結融解壊死療法において治療領域の熱伝導をシミュレートするシミュレータにより凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブを中心とした温度分布を推定することができる。推定した温度分布をX線CT画像と重ね合わせることにより、凍結融解壊死療法により凍結した領域を推測することができ、該凍結した領域を治療領域と推定することができる。あらかじめ、X線CT装置により癌の領域を決定しておけば、癌領域において、凍結融解壊死療法により治療を行った領域を知ることができ、推定治療領域が癌の領域をカバーしているかどうかを判断することができる。推定治療領域が癌の領域をカバーしている場合に、癌治療が完了したものと推定して治療を終了することができる。
図11に、凍結融解壊死療法における治療領域推定の方法の概念を示す。
本発明の凍結融解壊死療法における施術領域の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法は以下のステップからなる。
(1)凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した熱伝導シミュレータを用いて、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートし、施術対象器官における凍結用プローブを中心とした温度分布を求め、凍結領域を推定するステップ、
(2)凍結融解壊死療法装置により凍結融解壊死治療を施した器官のX線CT画像データと(1)のステップで推定した凍結領域を比較するステップ、及び
(3)(2)の比較により凍結融解壊死療法による治療部位を推定するステップ。
凍結融解壊死療法において凍結は通常5分から10分間行われる。ステップ(1)においては、5〜10分間の凍結中の経時的な温度変化を推定することもでき、凍結融解壊死療法における温度履歴も推定することができる。
(1)のステップにおいて、例えば-20℃以下の領域を凍結領域と推定することができる。(1)のステップにおいて、施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入の調整は、あらかじめ行っておけば、本発明の方法を実施する度に熱伝導率、血流、代謝熱等のパラメータの調整を行う必要はない。ただし、施術対象器官が肺である場合、肺は個体により密度が異なり、そのため肺の熱伝導率も個体により異なる。従って、(1)のステップを実施する度に、熱伝導率を調整する必要がある。すなわち、施術対象器官が肺である場合、(1)のステップは、より詳細には、凍結融解壊死療法の施術対象肺の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整し、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートし、施術対象肺における凍結用プローブを中心とした温度分布を求め、凍結領域を推定するステップ、と表すことができる。この場合、上記のようにX線CT解析によるCT値から密度がわかり、個体ごとの熱伝導率は該密度から計算により求めることができる。
この際、熱伝導シミュレータを構築するに当たり、最初に施術対象器官の個体間密度差があるかどうかを判断し、個体間密度差があると判断される場合に、個体ごとの施術対象器官の熱伝導率を推定し、熱伝導計算式を調整すればよい。一方個体間密度差がないか若しくは少ないと判断される場合には、個体ごとの熱伝導率は考慮する必要はなく、予め定められたその器官に対する熱伝導率を採用すればよい。
(2)のステップにおけるX線CT画像データは画像として又は各ピクセルにおけるCT値データとして得られる。X線CT画像データと推定した凍結領域との比較は、例えばX線CT画像と凍結用プローブの周囲の凍結領域を示した画像を重ね合せればよい。表示はX線CT画像上に温度分布を重ねた状態で表示される。また、X線CT画像データにおける各ピクセルのCT値と各ピクセルに対応している熱伝導シミュレータによる有限要素解析により得られた各ノードにおける推定温度とを比較してもよい。比較の結果は表示される。例えば、X線CT画像に温度分を重ねあわせた状態で表示され、温度分布は例えば凍結用プローブを中心とした等温線で表される。これらの表示は、モニタ等の表示部で表示される。
(3)のステップにおいては、例えば、X線CT画像上に温度分布を重ねた状態で表示された画像から治療領域を推定することができ、癌領域中、凍結したと推定される領域が治療された領域であると推定することができる。
図12に本発明の熱伝導シミュレータを用いて、凍結融解壊死療法における治療領域を推定するための方法を概略的に表すフローチャートを示す。
本発明は、上記の熱伝導シミュレータを構築する方法及び構築した熱伝導シミュレータにより熱伝導をシミュレートする方法を包含する。熱伝導シミュレータを構築する方法は、有限要素解析により、癌の凍結融解壊死療法の施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートするシミュレータを構築する方法であって、凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率を用いて、有限要素法による熱伝導解析計算式における熱伝導率に関するパラメータを調整し、さらに血流及び代謝熱による熱流入に関するパラメータを調整し、有限要素法による熱伝導解析計算式を設定することを含む、熱伝導シミュレータを構築する方法である。さらに、構築した熱伝導シミュレータにより熱伝導をシミュレートする方法は、有限要素解析により、癌の凍結融解壊死療法の施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートする方法であって、凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率を決定し、有限要素法による熱伝導解析計算式における熱伝導率に関するパラメータを調整し、さらに血流及び代謝熱による熱流入を調整し、有限要素法による熱伝導シミュレータを構築し、該熱伝導計算式により熱伝導をシミュレートする方法である。
凍結融解壊死療法は、通常複数回繰り返して行われる。好ましくは5回以内、さらに好ましくは2又は3回繰り返して行なわれる。凍結融解壊死療法により1回目の凍結を行い融解した領域には出血が起こる。2回目の凍結を行う場合、出血の影響で熱伝導率が変化し、最初に用いた熱伝導シミュレータでは正確に凍結領域を推定できなくなってしまう。このために、凍結融解壊死療法において2回目以降の凍結を行う場合、出血による熱伝導率の変化を調整し熱伝導をシミュレートする必要がある。このためには、1回目の凍結を行った領域のX線CT画像を得て、出血領域を決定する。出血領域は、X線CT画像上すりガラス状に見えるので、非出血領域と判別することが可能である。また、X線CT装置においては、X線CT画像上のピクセルごとにCT値を得ることができ、CT値によっても出血領域を決定することができる。CT値からそれぞれのピクセルに対応する器官の位置における含気率を求めることができ、求めた含気率からその位置における熱伝導率が得られる。得られた熱伝導率を用いて熱伝導率を補正し、出血による影響を反映した熱伝導シミュレータを構築することができる。本発明は、出血が起きていない1回目の凍結による治療領域を推定するための熱伝導をシミュレートする方法だけではなく、2回目以降の凍結による治療領域を推定する熱伝導をシミュレートする方法であって、出血による熱伝導率の変化を反映した熱伝導をシミュレートする方法をも含む。この場合、推定された治療領域が癌領域をカバーしていると判断された場合に、治療を終了すればよく、推定された治療領域が癌領域をカバーしておらず、治療が十分でないと判断された場合に、凍結壊死療法を繰り返し行なえばよい。
例えば、凍結融解壊死療法が2回繰り返される場合、本発明の凍結融解壊死療法における施術部位の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法は以下のステップで行なわれる。
(1)1回目の凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した熱伝導シミュレータを用いて、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートし、施術対象器官における凍結用プローブを中心とした温度分布を求め、凍結領域を推定するステップ、
(2)1回目の凍結融解壊死療法装置により凍結融解壊死治療を施した器官のX線CT画像データと(1)のステップで推定した凍結領域とを比較するステップ、
(3)(2)の比較により凍結融解壊死療法による治療部位を推定するステップ、
(4)2回目の凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流、代謝熱及び凍結融解に伴う出血による熱流入を調整した熱伝導シミュレータを用いて、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートし、施術対象器官における凍結用プローブを中心とした温度分布を求め、凍結領域を推定するステップ、
(5)2回目の凍結融解壊死療法装置により凍結融解壊死治療を施した器官のX線CT画像データと(1)のステップで推定した凍結領域を比較するステップ、及び
(6)(5)の比較により凍結融解壊死療法による治療部位を推定するステップ。
凍結融解壊死療法をさらに繰り返す場合は、上記ステップの(4)から(6)を繰り返せばよい。
本発明は、さらに本発明の熱伝導シミュレータを用いて凍結融解壊死療法において、凍結領域すなわち、治療領域を推定するための装置をも含む。
該装置は、
(a)凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートするための熱伝導シミュレータを格納する記憶手段、
(b)(a)の熱伝導シミュレータにより凍結用プローブを中心とした施術対象器官の温度分布を推定するための演算手段、及び
(c)(b)の演算手段により解析された温度分布を表示する手段、を含む。
本発明の装置は、さらにX線CT装置により得られたX線CT画像を受け取り、(b)の演算手段により解析された温度分布と比較し、その結果を表示する手段を含んでいてもよい。この場合の装置は、
(a)凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートするための熱伝導シミュレータを格納する記憶手段、
(b)(a)の熱伝導シミュレータにより凍結用プローブを中心とした施術対象器官の温度分布を推定するための演算手段、
(c)X線CT装置により得られたX線CT画像データを受け取る手段、及び
(d)(b)の演算手段により解析された温度分布と(c)で受け取ったX線CT画像データを比較して、その結果を表示する手段、を含む。
(d)の比較の結果の表示により施術による治療領域を推定することができる。
本発明の上記装置は、さらに凍結融解壊死療法装置と組合せてもよく、さらにX線CT装置と組合せてもよい。この場合、凍結融解壊死療法装置を用いて施術した対象器官の画像をX線CT装置により画像データとして得て、該画像データを上記装置に転送する手段を含む。
すなわち、本発明は上記の(a)から(d)の手段を含む装置に、さらに凍結融解壊死療法装置及び/又はX線CT装置を組合せた装置も含む。
図13及び14に熱伝導シミュレータを用いて、凍結融解壊死療法における治療領域を推定するための装置の模式図を示す。図14には、X線CT装置及び凍結融解壊死療法装置の療法が含まれるが、これは例示であり、一方のみを含んでいてもよい。
本発明は、さらに上記の凍結融解壊死療法における施術部位の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定するプログラムをも含む。該プログラムは、凍結融解壊死療法において、凍結領域すなわち治療領域を推定するためにコンピュータを、
(i)凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートするための熱伝導シミュレータを格納する記憶手段、
(ii)(i)の熱伝導シミュレータにより凍結用プローブを中心とした施術対象器官の温度分布を推定するための演算手段、及び
(iii)(ii)の演算手段により解析された施術器官における温度分布を表示する手段
として機能させるためのプログラムである。
本発明のプログラムは、さらにコンピュータを(iv)X線CT画像データを受け取る手段、(v)(iii)の手段により解析された施術器官における温度分布と(iv)の手段により受け取られたX線CT画像データを比較する手段、及び(vi)(v)の手段により比較された結果を表示する手段として機能させるためのプログラムも包含する。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1 肺における熱伝導シミュレータの構築
1.熱伝導パラメータの調整方法
(1) ex vivo実験による比熱・熱伝導率の調整
肺密度は、肺の状態により0.1〜0.8×10-3g/mm3の範囲で変化することが知られている(Kalef EJ et al., Acta Radiologica. 40(3): 333-337, 1990)。肺の熱伝導率は肺密度に相関して変化すると考えられる。一方、肺の比熱は肺密度によって大幅な変化はないと予想される。そこで、比熱、熱伝導率の順で調整を行った。粉砕して遠心脱気したブタ肺を容器(100mm×100mm×50mm)に入れ(高さ40mm)、上面と深さ方向に5mm間隔で2点にT型熱電対(HYP-1、石川産業、東京)を設置した。液体窒素(-196℃)を冷媒とし、底面(20mm×60mm)をアルミ箔(厚さ12μm)とした冷却源を作成した。気泡が入らないように注意しながら肺組織液の上面にこの冷却源を設置して冷却を開始し、10分間の温度履歴を測定した。熱伝導計算には、2次元の有限要素熱伝導解析ソフトQuick Therm BIO(登録商標)(計算力学研究センター、東京)を用いた。この熱伝導解析の有効精度を検証するために、あらかじめ熱物性値既知の保冷材の冷却温度履歴と計算した温度変化曲線との比較検討を行い、±2℃の精度で温度分布を推定できることを確認した。有限要素モデルは長方形(100mm×40mm)に設定した。熱伝導率および凝固潜熱には水の値(0.6 mW/(mm・℃)(未凍結時)、2.0 mW/(mm・℃)(凍結時)(333 J/g)(Rewcastle JC et al, Physics in Medicine and Biology. 43(12): 3519-3534, 1998)を用いた。凝固潜熱は、組織凍結点(-2℃)(Duck FA: Physical Properties of Tissue-A Comprehensive Reference Book. Academic Press, London, 1990, pp. 9-41.)以下の10℃の範囲で等価比熱に変換して熱伝導シミュレータに設定した。有限要素モデルの境界条件は空気(室温23℃)である。冷却源と肺の境界温度に実測温度変化を設定し、各位置の冷却温度履歴と計算した温度変化曲線の各時刻における差が2℃以下になるような比熱を求めた。
熱伝導率の肺密度依存性を調べるために、注入空気量によりex vivoブタ肺の密度を0.1〜0.8×10-3g/mm3の範囲で変化させて同様に10分間の冷却温度履歴を測定し、これを用いて熱伝導率を調整した。測温には、肺胞直径0.3mmよりも大きくなるように測温点先端を改良した0.9mmφの熱電対を用いた。図1に実験系を示す。有限要素モデルの形状は肺断面を簡略化した長方形(110mm×80mm)とした。密度には各肺の容積と重量から求めた値、比熱には上記の粉砕した肺を用いた実験により調整した値を用いた。凝固潜熱は、肺密度による違いを考慮するために水の値に肺の比重を乗じた値を求め、比熱の調整時と同様にして熱伝導シミュレータに設定して計算を行った。
(2)in vivo実験による熱流入の調整
in vivo肺を用いた測温実験により、熱伝導シミュレータにおける組織内血流・呼吸による熱流入項を調整した。in vivo肺の温度分布推定時に考慮すべき素過程を選定するために、各過程による熱流量を文献より見積もってそのオーダーを比較した。組織内血流による熱輸送
Figure 2008054975
は以下のように生体熱伝導方程式の熱輸送項より求める(Pennes HH, Journal of Applied Physiology. 1(2): 93-122, 1948)。
Figure 2008054975
一方、呼吸による熱伝達
Figure 2008054975
は、熱換気量
Figure 2008054975
を肺胞壁全面で伝達すると仮定して下記の(2)式を立て、これを用いて求める。
Figure 2008054975
熱換気量
Figure 2008054975
はYokoyamaらの知見より(3)式で表される(Yokoyama S et al., Japanese Journal of Biometeorology. 20(1): 1-7, 1983)。
Figure 2008054975
単位体積(1mm3)の肺組織(20℃、0.3×10-3 g/mm3)への熱流入を考えた場合、(1)〜(3)式から血流による寄与は1.5mW、呼吸による寄与は1.1×10-3mW(室温26℃、相対湿度60%、肺胞(0.3mmφ)が面心最密充填で組織に存在していると仮定)と見積もられる。よって熱流入のうち呼吸による寄与は組織内血流による寄与と比較して3桁小さいため無視できる。熱流入以外の熱的要因として組織発熱である代謝熱
Figure 2008054975
がある。これは、以下のように表される(Chato JC: Thermal Properties of Tissue. In: Skalak R, Chien S ed, Handbook of Bioengineering. McGraw Hill, New York, 1987, pp. 9.1-9.13.)。
Figure 2008054975
である。以上より(1)および(4)式で示される組織内血流による熱輸送および代謝熱を熱伝導シミュレータで調整することにした。具体的には、組織内血流による熱輸送は(1)式内の組織血流量を調整し、代謝熱は(4)式より求めた熱量とした。熱伝導シミュレータには、血流による熱流入を熱伝達率
Figure 2008054975
代謝熱を発熱項として設定し、計算する。
熱伝導計算の対照とする冷却測温実験は、in vivo肺において行った。冷却には臨床用の凍結用プローブ(CRYO-Care Cryosurgical Unit、Endocare、USA)を用いた。家畜ブタ(オス、12週齢)を全麻酔及び人工呼吸器(ベンチレーターKV-1+1、木村医科器機、東京)(5L/min、O2:60%)で呼吸管理下におき、右胸部を開胸して肺を露出させた。肺への凍結用プローブの刺入は臨床と同様の手順を採った。8Gaugeのステンレス製外筒(ダイモン穿刺針、シルックス、埼玉)(外径4mm、内径3.5mm)を下葉の胸膜表面から25mm刺入した。外筒と凍結用プローブとの間の熱伝導を確保するために、外筒内に生理食塩水を注入した後で凍結用プローブ(外径3.4mm)を挿入した。図2に外筒と凍結用プローブの位置関係を示す。測温点は、外筒から10mm、15mm離れた同心円状の6点に置いた。測温にはT型のφ0.5mmシース型熱電対(SH304-T-05-G-200-1500M、接地型、石川産業、東京)を用いた。図3に凍結用プローブと熱電対の位置関係を示す。凍結開始から10分間の肺の温度変化を測定した。図4に測温中の凍結用プローブと熱電対の設置状況を示す。有限要素モデルは2次元とし、凍結用プローブの中心軸(φ3.4mm)を通る肺の水平断面を簡略化した六角形と設定した。図5に作成した有限要素モデルを示す。測温後の肺断面を観察したところ、胸膜表面から約40mm四方の範囲に出血が見られた。この範囲は温度変化量が大きいと考えられるため、有限要素モデルの要素間距離を周囲よりも短く(1.2mm×0.9mm)して計算分解能を高くした。肺密度は実験で用いていない上葉(呼気状態)の容積と重量から求めた値を用いた。比熱及び熱伝導率には上記1.(1)において調整した値を用いた。
2.結果
(1)比熱・熱伝導率の調整
調整した肺の比熱は、常温域で3.7 J/(g・℃)、凍結域で1.8 J/(g・℃)となった。肺組織の水の含有量は約80%(紺野邦夫, 島尾和男: 生化学データ. 医学書院, 東京, 1968, pp. 448-449)、水及び氷の比熱はそれぞれ4.2 J/(g・℃)(Chato JC: Thermal Properties of Tissue. In: Skalak R, Chien S ed, Handbook of Bioengineering. McGraw Hill, New York, 1987, pp. 9.1-9.13.)、2.0 J/(g・℃)(Rewcastle JC et al., Physics in Medicine and Biology. 43(12): 3519-3534, 1998)と報告されている。また肺組織のタンパク質(コラーゲン)含有量は約15%(紺野邦夫, 島尾和男: 生化学データ. 医学書院, 東京, 1968, pp. 448-449.)、常温域におけるタンパク質の比熱は1.09J/(g・℃)(Chato JC: Thermal Properties of Tissue. In: Skalak R, Chien S ed, Handbook of Bioengineering. McGraw Hill, New York, 1987, pp. 9.1-9.13.)と報告されている。常温域における肺の比熱は、肺の組成とその構成物質比熱からChatoの知見(Chato JC: Thermal Properties of Tissue. In: Skalak R, Chien S ed, Handbook of Bioengineering. McGraw Hill, New York, 1987, pp. 9.1-9.13.)を基に算出すると3.8 J/(g・℃)となる。よって調整した常温域の肺の比熱は推定値と近いことから妥当な値であると考えられる。低温域(0℃以下)におけるタンパク質の比熱については報告がない。凍結域における肺の比熱は、常温域での比熱を用いて同様に算出すると1.76 J/(g・℃)となった。よって調整した凍結域における肺の比熱も妥当な値であると考えられる。
図6に肺密度と調整した熱伝導率との関係を示す。肺の構造に似た多孔質物質の熱伝導率は空孔率のべき乗関数で表されることが報告されている(日本熱物性学会, 熱物性ハンドブック. 養賢堂, 東京, 1990, pp. 176-178.)。ここで、空孔率とは、多孔質物質の全体体積に占める空孔体積の割合をいい、以下の式で表わされる。
Figure 2008054975
この報告を基に空孔率を肺密度に代替し、調整した肺の熱伝導率に肺密度のべき乗関数を最小二乗法によりフィッティングさせた。調整した常温域および凍結域における肺の熱伝導率とフィッティングしたべき乗関数の相関係数は共に0.99であった。肺の熱伝導率の密度依存性についてはこれまでに報告がない。X線CT画像のCT値から肺密度を導出できるので(Kalef EJ et al., Acta Radiologica. 40(3): 333-337, 1990)、図6の関係を用いると術中患者の肺の熱伝導率を算出することができる。
(2)熱流入量の調整
一般に組織内血流は組織温度低下とともに減少し(中山昭雄: 温熱生理学. 理工学社, 東京, 1983, pp. 129-135.)、組織が凍結する温度(約-2℃)で停止すると考えられる。流れが層流状態で円管径が一定のとき、円管内を流れるニュートン性流体の流量は、流体の粘度変化に反比例する(ポアズイユ則)ことが知られている(日野幹夫: 流体力学. 朝倉書店, 東京, 2005, pp. 215-218.)。
ここで、ポアズイユ則とは、円管内を流れる流体の流量は、層流域(レイノルズ数2300以下)において、円管半径の4乗および管両端での圧力勾配に比例し、流体粘度に反比例するという法則である(日野幹夫: 流体力学. 朝倉書店, 東京, 2005, pp. 215-218)。管内の流れに関する式は、以下のように表される。
Figure 2008054975
組織内血流は心拍出に伴う拍動の影響は無視でき、層流状態であるという報告がある(岡小天: バイオレオロジー. 裳華房, 東京, 1982, p. 35.)。そこで本発明者らは、肺の組織内血流を上記の理想的な状態と仮定した。血液粘度の変化は文献値を用いた(Shorrock JET et al., Cryobiology. 5(5): 324-327, 1969)。図7に血液粘度と設定した血流量の関係を示す。また血流量減少は肺組織温度が15℃以下になったときから起きると仮定した。この仮定に基づいて血流量を変化させて計算した温度変化曲線を実測に合わせると、体温(36℃)における血流量の設定値は心拍出量より計算した最大値(72mm3/(g・s))の1.5倍になった。したがって血流量のみで実測値を説明することはできない。そこで仮に最大血流量を72mm3/(g・s)に設定し、(4)式より計算した値を代謝による発熱項として熱伝導計算に加味した。図8に冷却温度履歴と上記仮定によって計算した温度変化曲線を示す。各時刻における計算値と平均実測値の温度差は最大で3℃となった。他実質臓器の凍結融解壊死療法における熱伝導シミュレータでは、in vivoの実際の温度分布との比較による検証は行われていない(Zhang J et al., S Journal of Biomechanical Engineering. 127(2): 279-294, 2005; Zhang A et al., Cryobiology. 47(2): 143-154, 2003)。上記のようにin vivo実験により出血が起きていない健常肺の1回目凍結時における温度分布を推定できるように熱伝導シミュレータを調整した。構築した熱伝導シミュレータは図5に示すように2次元であるが、対照とする実験を3次元で行っているため3次元の温度分布を2次元で模擬的に計算することに相当している。凍結解凍後の組織の熱物性値は出血の影響で凍結前と異なるが、出血部分を有限要素モデルに設定すれば構築した熱伝導シミュレータにより2回目以降の凍結時の肺温度分布も推定できると考えられる。腫瘍が存在する場合は比熱や熱伝導率、血管分布が健常と異なると考えられる。これらに関しては別途検討する必要がある.
実施例2 術中のX線CT画像における治療領域の推定
臨床症例において、実施例1において構築した熱伝導シミュレータにより推定した温度分布と術中のX線CT画像を比較した。
対象は、転移性肺腫瘍の2症例であり、治療位置は右肺上葉に存在した。凍結治療装置は実施例1で用いたものを用い、凍結時間は5分又は7分であった。症例ごとに肺密度及び熱伝導率を設定した。比熱、血流量及び代謝熱は同値とした。図9にX線CT画像と有限要素モデルの例を示す。
実際のX線CT画像と熱伝導シミュレータにより推定した温度分布を重ね合せ比較した図を図10に示す。図10A及び図10Bは別々の症例についての図である。図には、凍結用プローブを中心にして熱伝導率シミュレータにより得られた温度分布を-2℃、-20℃及び-40℃の領域を線で示してある。矢印は凍結融解により出血した領域を示す。-40℃の領域は凍結による直接的な障害を受ける領域であり、-20℃の領域は出血により壊死する領域である(A.A.Gage et al., Cryobiology, Vol.37, No.3, pp.171-186, 1998)。
熱伝導率シミュレータにより推定した肺の凍結領域は、実際の出血領域より5〜10mm程度小さかった。また、1回目の凍結時の治療領域は、凍結用プローブから7mm程度までの範囲であると推定された。
熱伝導シミュレータにおける肺の熱伝導率調整のためのex vivo測温実験系を示す図である。 凍結用プローブと外筒の位置関係を示す図である。 in vivoブタ肺の冷却温度履歴測定時における凍結用プローブと熱電対の位置関係を示す図である。 in vivo冷却側温実験中の凍結用プローブと熱電対の設置状況を示す図である。 in vivo肺の冷却時の温度計算をするための有限要素モデルを示す図である。 熱伝導シミュレータにおいて調整した肺の熱伝導率と肺密度の関係を示す図である。 血液粘度と設定した血流量の関係を示す図である。 肺の冷却温度履歴と計算した温度変化曲線の比較を示す図である。 X線CT画像と有限要素モデルの例を示す図である。 実際のX線CT画像と熱伝導シミュレータにより推定した温度分布を重ね合せ比較した図である。 凍結融解壊死療法における治療領域推定の方法の概念を示す図である。 本発明の熱伝導シミュレータを用いて、凍結融解壊死療法における治療領域を推定するための方法を概略的に表すフローチャートを示す図である。 熱伝導シミュレータを用いて、凍結融解壊死療法における治療領域を推定するための装置の模式図である。 熱伝導シミュレータを用いて、凍結融解壊死療法における治療領域を推定するための装置であり、X線CT装置及び凍結融解壊死療法装置を含む装置の模式図である。

Claims (16)

  1. 有限要素解析により、癌の凍結融解壊死療法の施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法であって、凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率を用いて有限要素法による熱伝導シミュレータを構築し、該熱伝導シミュレータにより熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法。
  2. 有限要素法による熱伝導解析における熱伝導率に関するパラメータを調整し、さらに血流及び代謝熱による熱流入に関するパラメータを調整し、有限要素法による熱伝導シミュレータを構築する、請求項1記載の治療領域を推定する方法。
  3. 癌が肺癌、肝臓癌、腎臓癌及び前立腺癌からなる群から選択される請求項1又は2に記載の治療領域を推定する方法。
  4. 施術される個体ごとに施術対象器官の熱伝導率を決定し、熱伝導シミュレータを構築する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の治療領域を推定する方法。
  5. 癌の凍結融解壊死療法における施術対象器官の施術領域の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定する方法であって、少なくとも以下のステップ(1)から(3)が1回行なわれる方法:
    (1)凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した熱伝導シミュレータを用いて、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートし、施術対象器官における凍結用プローブを中心とした温度分布を求め、凍結領域を推定するステップ;
    (2)凍結融解壊死療法装置により凍結融解壊死治療を施した器官のX線CT画像データと(1)のステップで推定した凍結領域を比較するステップ;及び
    (3)(2)の比較により凍結融解壊死療法による治療部位を推定するステップ。
  6. ステップ(1)から(3)が複数回繰り返される、請求項5記載の治療領域を推定する方法。
  7. ステップ(1)から(3)が2又は3回繰り返される、請求項6記載の治療領域を推定する方法。
  8. 癌が肺癌、肝臓癌、腎臓癌及び前立腺癌からなる群から選択される請求項5〜7のいずれか1項に記載の治療領域を推定する方法。
  9. 癌の凍結融解壊死療法において、治療領域を推定するための装置であって、
    (a)凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートするための熱伝導シミュレータを格納する記憶手段、
    (b)(a)の熱伝導シミュレータにより凍結用プローブを中心とした施術対象器官の温度分布を推定するための演算手段、及び
    (c)(b)の演算手段により解析された温度分布を表示する手段、を含む装置。
  10. 癌の凍結融解壊死療法において、治療領域を推定するための装置であって、
    (a)凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートするための熱伝導シミュレータを格納する記憶手段、
    (b)(a)の熱伝導シミュレータにより凍結用プローブを中心とした施術対象器官の温度分布を推定するための演算手段、
    (c)X線CT装置により得られたX線CT画像データを受け取る手段、及び
    (d)(b)の演算手段により解析された温度分布と(c)で受け取ったX線CT画像データを比較して、その結果を表示する手段、を含む装置。
  11. 演算手段により解析された温度分布と受け取ったX線CT画像データを比較して、その結果を表示する手段がX線CT画像に温度分布を重ねて表示する手段である請求項10記載の装置。
  12. 癌が肺癌、肝臓癌、腎臓癌及び前立腺癌からなる群から選択される請求項9〜11のいずれか1項に記載の治療領域を推定するための装置。
  13. さらに、X線CT装置及び/又は癌の凍結融解壊死療法装置を含む請求項9〜12のいずれか1項に記載の治療領域を推定するための装置。
  14. 癌の凍結融解壊死療法における施術部位の熱伝導をシミュレートし、治療領域を推定するためのプログラムであって、
    コンピュータを、
    (i)凍結融解壊死療法の施術対象器官の熱伝導率、血流及び代謝熱による熱流入を調整した、施術対象器官における凍結融解壊死療法装置の凍結用プローブからの熱伝導をシミュレートするための熱伝導シミュレータを格納する記憶手段、
    (ii)(i)の熱伝導シミュレータにより凍結用プローブを中心とした施術対象器官の温度分布を推定するための演算手段、及び
    (iii)(ii)の演算手段により解析された施術器官における温度分布を表示する手段
    として機能させるためのプログラム。
  15. さらに、コンピュータを(iv)X線CT画像データを受け取る手段、(v)(iii)の手段により解析された施術器官における温度分布と(iv)の手段により受け取られたX線CT画像データを比較する手段、及び(vi)(v)の手段により比較された結果を表示する手段として機能させるための、請求項14記載の治療領域を推定するためのプログラム。
  16. 癌が肺癌、肝臓癌、腎臓癌及び前立腺癌からなる群から選択される請求項15記載の治療領域を推定するためのプログラム。
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