本明細書中で言及した特許および化学論文により、当業者に利用可能な知識が確立される。本明細書中で引用した発行米国特許、許可された出願、公開外国出願、および引用文献(GenBankデータベース配列が含まれる)は、それぞれが具体的且つ個別に参考として援用されるのと同程度に本明細書中で参考として援用される。
特に、本出願は、以下の特許出願のその全体を参考として援用する:2002年12月13日提出で発明の名称が’’Vimentin Detection−Based Methods for Diagnosing and Treating Damaged Cells,Neoplastic Cells and Multidrug Resistance’’の米国特許出願番号60/433,480号;2002年12月13日提出で発明の名称が"Nucleophosmin Detection−Based Methods for Diagnosing and Treating Damaged Cells,Neoplastic Cells and Multidrug Resistance"の米国特許出願番号60/433,351号ならびに2003年12月15日提出で発明の名称が’’Vimentin Directed Diagnostics and Therapeutics for Multidrug Resistant Neoplastic Disease’’の米国特許出願番号 YY/XXXXXX、2003年1月1日提出で発明の名称が’’HSC70 Detection−Based Methods for Diagnosing and Treating Damaged Cells,Neoplastic Cells and Multidrug Resistance’’の米国特許出願番号60/438,012号ならびに2003年12月15日提出で発明の名称が’’Nucleophosmin Directed Therapeutics and Diagnostics for Multidrug Resistant Neoplastic Disease’’の米国特許出願番号YY/XXXXXX号。
本発明は、癌の診断、検出、防止、および/または治療ならびに損傷細胞、非癌細胞、および癌細胞の天然に存在するMDR表現型および薬物誘導性MDR表現型発生の診断、検出、防止、および/または治療のための方法および試薬に関する。本発明により、多剤耐性腫瘍および病原体感染の臨床管理が改良される。さらに、本発明は、新生物細胞または損傷細胞(MDR細胞が含まれる)を有する患者を同定し、それにより多剤耐性癌ならびに病原体およびウイルスの感染の治療、モニタリング、診断、および医学的画像診断が改良される試薬を提供する。
したがって、本発明の態様は、試験損傷細胞中の多剤耐性の検出方法を提供する。方法は、特定の型の試験損傷細胞上の全長熱ショック同族タンパク質70(HSC70)の細胞表面発現レベルを測定する工程と、同一の細胞型の薬物感受性損傷細胞上のHSC70タンパク質の細胞表面発現レベルを測定する工程と、薬物感受性損傷細胞上に存在する細胞表面発現HSC70レベルと比較して細胞表面発現HSC70レベルの増加が認められる場合に試験損傷細胞が多剤耐性であるかどうかを決定する工程を含む。特定の実施形態では、試験損傷細胞および薬物感受性損傷細胞の細胞成分の画分への分離および細胞質膜または原形質膜を含む細胞画分中のHSC70の存在レベルの測定によって、細胞表面発現HSC70レベルを測定する。
一定の実施形態では、試験損傷細胞は病原体に感染している。特定の実施形態では、病原体は、ウイルス、細菌、または寄生虫である。ウイルスの例には、HIV、ウェストナイルウイルス、およびデングウルスが含まれるが、これらに限定されない。細菌の例には、マイコバクテリア、リケッチア、またはクラミジアが含まれるが、これらに限定されない。寄生虫の例には、プラスモジウム、リシューマニア、またはタキソプラズマが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、試験損傷細胞は、血液、骨髄、脾臓、リンパ節、肝臓、胸腺、腎臓、脳、皮膚、胃腸管、眼、乳房、前立腺、および卵巣からなる群から選択される組織に由来する。一定の実施形態では試験損傷細胞はヒトに由来する。特定の実施形態では、ヒトは、試験損傷細胞の存在に起因する疾患を罹患している。
本発明はまた、試験新生物細胞における多剤耐性の検出方法を提供する。方法は、特定の型の試験新生物細胞上の細胞表面発現HSC70レベルを測定する工程と、同一の細胞型の薬物感受性新生物細胞の細胞表面発現HSC70タンパク質レベルを測定する工程と、薬物感受性新生物細胞上の細胞表面発現HSC70レベルと比較して細胞表面発現HSC70レベルの増加が認められる場合に試験新生物細胞が多剤耐性であることを決定する工程を含む。特定の実施形態では、試験新生物細胞および薬物感受性新生物細胞の画分への分離および細胞の細胞質膜または原形質膜を含む細胞画分中のHSC70の存在レベルの測定によって、細胞表面発現HSC70レベルを測定する。
新生物細胞の例には、リンパ腫細胞、黒色腫細胞、肉腫細胞、白血病細胞、網膜芽腫細胞、肝癌細胞、骨髄腫細胞、神経膠腫細胞、中皮腫細胞、および癌腫細胞が含まれるが、これらに限定されない。一定の実施形態では、試験新生物細胞は、血液、骨髄、脾臓、リンパ節、肝臓、胸腺、腎臓、脳、皮膚、胃腸管、眼、乳房、前立腺、または卵巣からなる群から選択される組織に由来する。
一定の実施形態では、試験新生物はヒトに由来する。特定の実施形態では、ヒトは、試験新生物細胞の存在に起因する癌を罹患している。
本発明は、さらに、患者の多剤耐性細胞の検出方法を提供する。方法は、検出可能な標識に作動可能に連結されたHSC70タンパク質と特異的に結合する結合剤を投与する工程と、薬物感受性細胞表面上のHSC70タンパク質に結合した結合剤と比較して患者中の多剤耐性細胞表面上のHSC70タンパク質に特異的に結合した結合剤の結合の増加を検出する工程とを含む。本発明のこの実施形態では、医学的に画像診断デバイスまたはシステムにより、患者中の多剤耐性細胞の細胞表面に特異的に結合した結合剤を検出する。結合剤の例には、天然リガンド、合成小分子、化学物質、核酸、ペプチド、タンパク質、抗体、およびそのフラグメントが含まれるが、これらに限定されない。一定の実施形態では、結合剤は抗体である。
検出可能な標識の例には、フルオロフォア、化学染料、放射性化合物、化学発光化合物、磁性化合物、常磁性化合物、有色生成物を生成する酵素、化学発光生成物を生成する酵素、または磁性生成物を生成する酵素が含まれるが、これらに限定されない。一定の実施形態では、患者はヒトである。いくつかの実施形態では、多剤耐性細胞は、損傷細胞または新生物細胞である。特定の実施形態では、損傷細胞は病原体に感染している。病原体の例には、ウイルス、細菌、および寄生虫が含まれるが、これらに限定されない。ウイルスの例には、HIV、ウェストナイルウイルス、およびデングウルスが含まれるが、これらに限定されない。細菌の例には、マイコバクテリア、リケッチア、およびクラミジアが含まれるが、これらに限定されない。寄生虫の例には、プラスモジウム、リシューマニア、およびタキソプラズマが含まれるが、これらに限定されない。
特定の実施形態では、新生物細胞は、乳癌細胞、卵巣癌細胞、リンパ腫癌細胞、黒色腫癌細胞、肉腫癌細胞、白血病癌細胞、網膜芽腫癌細胞、肝臓癌細胞、神経膠腫癌細胞、中皮腫癌細胞、および癌腫癌細胞からなる群から選択される。特定の実施形態では、患者はヒトである。いくつかの実施形態では、患者は、多剤耐性細胞の存在に起因する疾患または障害を罹患している。
本発明はまた、新生物細胞の検出方法を提供する。方法は、癌と疑われる特定の細胞型の試験細胞上の細胞表面発現HSC70タンパク質レベルを測定する工程と、同一の型の正常な細胞上に存在する細胞表面発現HSC70タンパク質レベルと比較して細胞表面発現HSC70タンパク質レベルの増加が認められる場合に試験細胞が癌であることを決定する工程とを含む。いくつかの実施形態では、試験細胞は、血球(例えば、白血球、赤血球、星状細胞、またはナチュラルキラー細胞)、肝細胞、腎臓細胞、脳細胞、皮膚細胞、胃腸管由来の細胞、眼細胞、乳房細胞、卵巣細胞、または前立腺細胞である。
いくつかの実施形態では、試験細胞および正常細胞の細胞成分の画分への分離および細胞の細胞質膜画分または原形質膜画分中に存在するHSC70レベルの測定によって細胞表面発現HSC70を測定する。
一定の実施形態では、試験細胞は、血液、骨髄、脾臓、リンパ節、肝臓、胸腺、腎臓、脳、皮膚、胃腸管、眼、乳房、前立腺、および卵巣からなる群から選択される組織に由来する。1つの実施形態では、試験細胞はヒト由来である。
いくつかの実施形態では、試験細胞の細胞成分を、検出可能な結合剤と接触させ、同一の型の正常な細胞上に存在する細胞表面発現HSC70レベルと比較して試験細胞上に細胞表面発現HSC70レベルの増加が認められるかどうかを決定するために結合剤を検出する。特定の実施形態では、インタクトな新生物と疑われる細胞を、検出可能な結合剤に接触させる。
本発明により、このようなMDR新生物細胞または損傷細胞を有する患者も最初に同定される。例えば、このような細胞を有すると同定された患者は、感染症(例えば、B型肝炎)治療を受けているか感染症治療を受けていた無症候患者である場合、本発明により症状の回復前にこれらの患者を同定し、このようなMDR細胞が検出された場合に治療計画を変更することができるように薬物治療中にこれらの患者をモニタリングすることが可能である。同様に、このような細胞を有すると同定された患者が癌(例えば、乳癌または白血病患者)が緩和した患者であるか、癌を治療する場合、本発明により、その癌の回復および/または進行前にこれらの患者を同定し、治療計画を変更することができるように薬物での治療中にこれらの患者をモニタリングすることが可能である。
本発明は、細胞表面発現HSC70が細胞の多剤耐性のマーカーとして有用であるという認識に由来する。HSC70タンパク質細胞表面マーカーの重要な利点は、体内の正常細胞内で見出され、且つその細胞表面で発現しないという点である。この発現プロフィールは、異なる正常組織の細胞表面上に種々のレベルで存在する(肝臓、腎臓、幹細胞、および血液脳関門上皮細胞の表面上での高レベルでの存在が含まれる)P糖タンパク質およびMRPなどの他の公知のMDRマーカーを使用した条件と対照的である(Cordon−Cardo C.et al.,J.Histochem.Cytochem.38:1277−1287,1990;Nakamara T.et al.,Drug Metabolism & Disposition,30:4−6,2002)。結果として、P−糖タンパク質などのMDR癌細胞マーカーおよびMRPに対して指向する細胞傷害薬は、高レベルの細胞表面P−糖タンパク質およびMRPも発現する正常な細胞を死滅する副作用によって制限されている(例えば、FitzGerald,D.J.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.84:4288−4292,1987を参照のこと)。HSC70マーカーは、薬物感受性非癌性正常細胞上の非常に低いか無視できるレベルと比較して、MDR癌細胞およびMDR非癌性損傷細胞(例えば、ウイルス感染細胞)表面上で高レベルで発現し、薬物感受性癌細胞の細胞表面上で中程度のレベルで発現するので、本発明によりこの問題が克服される。したがって、本発明は、MDR新生物細胞または損傷細胞ならびに薬物感受性新生物細胞および損傷細胞を死滅させ、且つ正常な細胞が無傷のままである、細胞表面発現HSC70に指向する細胞傷害薬を提供する。
同一のMDR新生物細胞または損傷細胞は1つを超えるMDRマーカーを同時に発現することができるか(例えば、HSC70およびP−糖タンパク質の両方を発現することができる)、MDRマーカーを単独で発現することができることに留意すべきである。同一のMDR細胞上での異なるマーカーの同時発現(joint expression)により、1つを超える細胞表面MDRマーカーに指向する結合剤を組み合わせることが可能である。例えば、致死未満量のHSC70に特異的に結合する結合剤を、致死未満量のP−糖タンパク質に特異的に結合する結合剤と組み合わせることができる。正常な細胞がその細胞表面上でHSC70を発現しないので、これらの細胞はHSC70に特異的に結合する結合剤に悪影響を受けない。むしろ、細胞表面上にP−糖タンパク質およびHSC70の両方を発現するMDR細胞のみがこの併用療法で死滅する。
本明細書中で使用される、用語「多剤耐性の」および「多剤耐性」を、新生物細胞または損傷細胞における多数の異なる薬物(新生物細胞または損傷細胞に一度も曝露されていない薬物が含まれる)に対する耐性の発生をいうために使用する。例えば、ビンクリスチンで治療した白血病患者がビンクリスチンおよび患者が一度も投与されていない他の化学療法薬(例えば、メトトレキセートまたはメルカプトプリン)に耐性を示す白血球を発生する場合、患者の白血球は多剤耐性を示す。同様に、ペニシリンで治療した結核患者がペニシリンおよび患者が一度も投与されていない他の化学療法薬(例えば、エリスロマイシン)に耐性を示す結核菌感染細胞を発生する場合、患者の結核菌感染細胞は多剤耐性を示す。顕著には、多剤耐性(MDR)には、広範な薬物(元の薬物との構造またはさらには機能がほとんど類似しない薬物が含まれる)に耐性を示し、考慮される全ての薬剤の有効性が減少する獲得同時耐性が含まれ得る。
用語「多剤耐性の」および「多剤耐性」を、古典的経路(すなわち、P−糖タンパク質または別のMDRタンパク質を含む)またはP−糖タンパク質を含まない非定型機構(非古典的機構)(例えば、MRP1多剤耐性マーカーを含む非定型機構)のいずれかによって多剤耐性を示す新生物細胞または損傷細胞を説明するために使用することに留意のこと。さらに、本発明によれば、多剤耐性を生じる細胞(例えば、新生物細胞または損傷細胞)は、薬物への曝露(例えば、化学療法薬または抗生物質)またはこのようなMDRの天然の発生(すなわち、薬物に曝露しない)のいずれかによってこのようなMDR状態を生じることができる。
本明細書中で使用される、用語「MDRタンパク質」には、薬物(多剤)耐性に関与する任意のいくつかの内在性ABC型膜貫通糖タンパク質が含まれる。これらには、MDR1(P−糖タンパク質またはP−糖タンパク質1)(多剤耐性細胞中の薬剤蓄積の減少を担うエネルギー依存性流出ポンプ)が含まれる。MDR1の例には、ヒトMDR1(例えば、データベースコードMDR1_HUMAN,GenBankアクセッション番号P08183,1280アミノ酸(141.34kDa)を参照のこと)が含まれる。他のMDRタンパク質には、薬物蓄積を減少させるが、それ自体によって薬物耐性を付与することができないエネルギー依存性流出ポンプであるMDR3(またはP−糖タンパク質3)が含まれる。MDR3の例には、ヒトMDR3(例えば、データベースコードMDR3_HUMAN,GenBankアクセッション番号P21439,1279アミノ酸(140.52kDa)を参照のこと)が含まれる。他のMDR関連タンパク質は、薬物の細胞内小器官への能動輸送に関連する。ヒト由来の例には、MRP1(多剤耐性関連タンパク質1)データベースコードMRPJHUMAN,GenBankアクセッション番号P33527,1531アミノ酸(171.47kDa)が含まれる。
本発明によれば、多剤耐性を生じる細胞(例えば、新生物細胞または損傷細胞)は、薬物への曝露(例えば、化学療法薬または抗生物質)またはこのようなMDRの天然の発生(すなわち、細胞が耐性を生じる薬物に曝露しない)のいずれかによってこのようなMDR状態を生じることができる。この態様では、本発明により、新生物の治療前でさえも新生物の潜在的な多剤耐性特性を検出可能である。同様に、本発明により、例えば、新生物を治療して薬物耐性を示す前でさえも潜在的に多剤耐性を示す新生物を有効に治療可能である。
正常な細胞が死滅せず、それにより治療による副作用が軽減または排除されるので、細胞表面発現HSC70は、その細胞表面上のHSC70マーカーを有するMDR新生物細胞およびMDR損傷細胞を死滅させる治療法(免疫毒素療法など)で使用される優れたマーカーである。同様に、細胞表面HSC70マーカーを使用したMDR新生物細胞または損傷細胞の診断および画像診断はより高感度且つ正確であり、正常な組織上でも発現するP−糖タンパク質またはMRPなどのMDRマーカーを使用したMDR新生物細胞および損傷細胞の診断および画像診断と比較して擬陽性がより少ない。さらに、細胞表面HSC70は、その細胞表面にHSC70を発現する新生物細胞または損傷細胞組織に対する患者へのワクチン接種のための抗MDR癌ワクチン抗原または抗MDR損傷細胞ワクチン抗原として有用である。
本発明により、新生物細胞または損傷細胞が多剤耐性を獲得している患者の同定も可能である。いくつかの状況では、患者が治療に使用した薬物にもはや応答しない場合に患者を同定する。例えば、化学療法薬(例えば、ビンクリスチン)で治療して緩和した乳癌患者または白血病患者は、化学療法薬で継続的に治療しているにもかかわらず、突然緩和から脱し得る。不運なことに、このような患者は、他の化学療法薬(患者が最初から一度も治療されていない薬剤が含まれる)にも応答しないことがしばしば見出されている。勿論、これらの患者が多剤耐性を示した後、その再発した癌または損傷細胞によって発症した疾患を制御するためにこれらの患者を治療することは困難であり、放射線療法または手術(例えば、骨髄移植または壊死組織の切除)等のより根本的な治療法が必要であり得る。
本発明により、患者の新生物細胞または損傷細胞上のHSC70の細胞表面発現の検出による多剤耐性の早期診断が可能である。このような早期診断により、最初に薬物に応答して薬物治療に感受性を示す患者を最初に薬物に応答しない患者と区別することが可能である。したがって、薬物非応答患者を、より有効な治療で治療することができる。さらに、HSC70マーカーは、同一の癌細胞または損傷細胞上で他のMDRマーカーと共にまたは独立して生じ得るので、HSC70ならびに他のMDR癌マーカーおよび損傷マーカー(例えば、P−糖タンパク質およびMRP)に同時に指向する併用療法が可能である。
さらに、HSC70細胞表面発現を使用した診断手順を使用して、治療薬に耐性を示し、且つ一連の薬物治療時に誘発されるMDR新生物細胞または損傷細胞の発生および出現を追跡することもできる。例えば、このような手順は、AZTで治療し、その後広範な抗ウイルス薬、抗菌薬、および抗癌薬に対して多剤耐性を示すことが報告されているAIDS患者の治療に有用である(Gollapudi et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.171:1002−1007,1990;Antonelli et al.,AIDS Res.Human Retroviruses 8:1839−1844,1992を参照のこと)。
別の例では、HSC70細胞表面発現の診断アッセイは、新生物細胞または損傷細胞の治療法を含む臨床研究での患者の選択に有用である。したがって、患者の細胞の細胞表面上のHSC70の存在により、患者を所与の臨床研究に含めることが適格であるか判断される。
したがって、1つの態様では、本発明は、多剤耐性が疑われる試験損傷細胞における多剤耐性の検出方法を提供する。方法は、特定の細胞型の試験損傷細胞表面上の細胞表面発現HSC70タンパク質レベルを測定する工程と、薬物感受性損傷細胞上の細胞表面発現HSC70タンパク質レベルを測定する工程と、薬物感受性損傷細胞上の細胞表面発現HSC70レベルと比較して細胞表面発現HSC70レベルの増加が認められる場合に試験損傷細胞が多剤耐性を示すことを決定する工程とを含む。
別の態様では、本発明は、多剤耐性が疑われる試験新生物細胞における多剤耐性の検出方法を提供する。方法は、特定の細胞型である場合に試験新生物細胞表面上の細胞表面発現HSC70タンパク質レベルを測定する工程と、同一の型の薬物感受性新生物細胞上の細胞表面発現HSC70タンパク質レベルを測定する工程と、薬物感受性新生物細胞上の細胞表面発現HSC70レベルと比較して細胞表面発現HSC70レベルの増加が認められる場合に試験新生物細胞が多剤耐性を示すことを決定する工程とを含む。
別の態様では、本発明は、癌(すなわち、新生物)が疑われる試験細胞における癌の検出方法を提供する。方法は、試験細胞および正常な細胞(癌でないことが既知の細胞)の表面上の細胞表面発現HSC70タンパク質を測定する工程と、同一細胞型の正常な有核細胞上に存在する細胞表面発現HSC70レベルと比較して細胞表面発現HSC70レベルが増加する場合に試験細胞が癌性を示すことを決定する工程とを含む。
いくつかの実施形態では、試験損傷細胞または試験新生物細胞は、正常な細胞または非MDR損傷細胞もしくは非MDR新生物細胞上の熱ショック同族タンパク質70の細胞表面発現レベルよりも少なくとも2倍の量のHSC70をその細胞表面上に発現する。このような細胞表面発現レベルの決定を、多数の公知の方法(下記の方法が含まれるが、これらに限定されない)によって行うことができる。
本発明で使用される、「損傷細胞」を、非癌性であるが損傷している細胞を意味するために使用する。例えば、非新生物性損傷細胞は、ウイルス、細菌、または寄生虫などの病原体に感染した細胞であり得る。1つの非限定的な例では、細胞は、多細胞寄生虫による感染によって損傷を受けるか、寄生虫の感染の影響によって損傷を受け得る。このような非限定的な寄生虫には、プラスモジウム、リシューマニア、およびタキソプラズマが含まれる。このような非限定的なウイルスには、HIV、ウェストナイルウイルス、およびデングウルスが含まれ、このような非限定的な細菌には、マイコバクテリア、リケッチア、およびクラミジアが含まれる。
一定の実施形態では、試験損傷細胞は、組織(例えば、損傷組織(例えば、壊死組織)の生検)または病原体に感染した細胞型に由来する。例えば、B型肝炎ウイルスは、典型的には、肝細胞のみに感染するので、損傷細胞(すなわち、B型肝炎ウイルスに感染した肝細胞)は、組織(すなわち、肝臓)に由来する。同様に、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、典型的には、CD4+T細胞およびマクロファージのみに感染するので、損傷細胞(例えば、HIVに感染したCD4+T細胞)は、組織(すなわち、血液または骨髄)に由来する。
いくつかの限定された状況では、ウイルス感染により細胞が癌になり得ることに留意のこと。例えば、いくつかのB細胞は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)に感染した場合、癌になる。このような新生物性B細胞は、ウイルス感染によって損傷を受けているにもかかわらず、本明細書中では「新生物細胞」に含まれる。
本明細書中で使用される、「新生物細胞」は、細胞成長の増大などの異常な細胞成長を示す細胞である。新生物細胞は、過形成細胞(in vitroでの成長の接触阻害を欠く細胞)、in vivoで転移することができない腫瘍細胞、またはin vivoで転移することができる癌細胞であり得る。新生物細胞の制限されない例には、黒色腫細胞、乳癌細胞、卵巣癌細胞、前立腺癌細胞、肉腫細胞、白血病細胞、網膜芽腫細胞、肝臓癌細胞、骨髄腫細胞、神経膠腫細胞、中皮腫細胞、癌腫細胞、白血病細胞、リンパ腫細胞、ホジキンリンパ腫細胞、非ホジキンリンパ腫細胞、骨髄腫細胞、骨髄球細胞白血病細胞、Tリンパ芽球症候群細胞、リンパ芽球腫細胞、および胸腺腫細胞が含まれる。
一定の実施形態では、試験新生物細胞は、組織(例えば、過形成組織(乳房のしこり)の生検)に由来する。試験新生物細胞が由来し得る組織の非限定的な例には、血液、骨髄、脾臓、リンパ節、肝臓、胸腺、脾臓、腎臓、脳、皮膚、胃腸管、眼、乳房、前立腺、および卵巣が含まれるが、これらに限定されない。
本発明によれば、損傷細胞は、ヒトなどの患者に由来する。一定の実施形態では、患者は、損傷細胞の存在に起因する疾患または障害を罹患している。例えば、損傷細胞が病原体に感染している場合、疾患は、病原体に感染した損傷細胞の存在またはその非存在に起因する感染症である(例えば、HIVウイルスに感染したCD4+T細胞の欠如に起因するAIDS)。
本発明によれば、試験新生物細胞は、ヒトなどの患者に由来する。一定の実施形態では、患者は、新生物細胞の存在に起因する疾患または障害を罹患している。例えば、新生物細胞が新生物性黒色腫細胞である場合、疾患は、黒色腫細胞の癌である(すなわち、癌は、新生物細胞の異常な細胞成長および転移に起因する黒色腫である)。
本明細書中で使用される、「疾患または障害を罹患した患者」は、疾患または障害の臨床徴候および/または症状を有する患者を意味する。一定の状況では、疾患または障害を有する患者は、無症候であり、且つ疾患または障害の臨床徴候を依然として有し得る。例えば、白血病患者は症候性ではない可能性があるが(例えば、調子が悪くなく、弱ってもいない可能性がある)、患者は、年齢および体重が同じ健常な個体と比較して白血球数が非常に多いという点で臨床徴候を示す。別の非限定低的な例では、ウイルス(例えば、HIV)に感染した患者は、症候性ではない可能性があるが(例えば、CD4+T細胞数が減少しない可能性がある)、患者が抗HIV抗体を有するという点で臨床徴候を示す。
本発明によれば、癌となったこれらの新生物細胞は、細胞表面上の全長HSC70タンパク質発現の増加によって正常な有核細胞と識別可能である。
本発明によれば、多剤耐性を示すようになった損傷細胞または新生物細胞を、多剤耐性細胞の細胞表面上の全長HSC70タンパク質発現の増加によって多剤耐性を示さない細胞と区別可能である。HSC70の代表的なヌクレオチドおよびアミノ酸配列を、図14に示す(GI5729877およびGI1398297も参照のこと)。したがって、細胞成分を分離する場合、多剤耐性を示す細胞はその細胞質膜画分または原形質膜画分上にHSC70を含む。HSC70タンパク質の細胞表面発現を、FACS分析、細胞表面ビオチニル化およびその後の二次元ゲル、免疫沈降(実施例を参照のこと)、または固定臨床試料の免疫蛍光分析、および当業者によって実施される他の型の日常的方法などの非限定的方法によって日常的に検出することもできる。
いくつかの実施形態では、試験損傷細胞または試験新生物細胞の表面上のHSC70タンパク質発現レベルの測定は、試験細胞の細胞成分の画分への分離およびその後の原形質膜または細胞質膜を含む細胞画分中のHSC70レベルの測定を含む。
あるいは、試験損傷細胞または試験新生物細胞の表面上のHSC70発現レベルの測定は、試験細胞からの細胞表面発現HSC70タンパク質の酵素的消化生成物の分離を含む。1つの非限定的な例では、患者由来のインタクトな細胞を酵素で消化する。消化した表面曝露タンパク質由来のペプチドを、細胞の迅速なスピンによる沈殿および上清中の消化ペプチドの除去によって単離する。これらの消化ペプチドを、HSC70が細胞表面上に発現するかどうかを決定するための種々の方法(例えば、免疫学的方法または質量分析)によって分析することができる。
任意の標準的な分離手順(薄層クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ、高速液体クロマトグラフィ、ペーパークロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ、超臨界流体クロマトグラフィ、ゲル電気泳動、および以下の実施例に記載の手順が含まれるが、これらに限定されない)によって、細胞成分を分離することができる。分離手順は一般的に公知である(例えば、Scopes and Scopes,Protein Purification:Principles and Practice,Springer Verlag 1994を参照のこと)。
いくつかの実施形態では、試験損傷細胞表面上のHSC70タンパク質発現レベルの測定は、インタクトな試験損傷細胞または試験新生物細胞とHSC70タンパク質に特異的に結合する検出可能な結合剤との接触を含む。したがって、検出可能な結合剤は、その細胞表面上でHSC70を発現する細胞に特異的に結合する。
本発明によれば、正常な細胞はその細胞表面上にHSC70を全く発現しないか無視できる量で発現する一方で、新生物細胞または損傷細胞はその細胞表面上でより多くのHSC70を発現する。さらに、このような新生物細胞または損傷細胞が多剤耐性を示すようになった場合、これらはその細胞表面上にさらにより高レベルの完全な全長HSC70タンパク質を発現する。HSC70特異的結合剤は、全タンパク質が多剤耐性新生物細胞または損傷細胞の細胞表面上で発現するので、HSC70タンパク質の任意の部分に特異的に結合する。
勿論、HSC70は正常な細胞、薬物感受性新生物細胞、および薬物感受性損傷細胞の内部にも発現するので、このような正常な細胞および薬物感受性の新生物細胞または損傷細胞を最初に溶解するか、結合剤の添加前にその膜を透過処理する場合、結合剤は正常な細胞および薬物感受性の新生物細胞または損傷細胞中の細胞内HSC70にも結合する。
いくつかの実施形態では、その細胞表面上にHSC70を発現するMDR新生物細胞またはMDR損傷細胞は、MDR新生物細胞または損傷細胞が、新生物細胞または損傷細胞の起源組織由来の正常細胞よりも少なくとも2倍のレベルまたは起源組織由来の薬物感受性新生物細胞または損傷細胞よりも少なくとも2倍のレベルでその細胞表面上に全長HSC70タンパク質を発現するという点で、他の細胞型と識別可能である。例えば、白血病性T細胞は、正常なT細胞よりもその細胞表面上に多くのHSC70を発現する。さらに、下記のように、MDR白血病性T細胞は、多剤耐性を示さない白血病性T細胞よりもその細胞表面上に少なくとも2倍のHSC70を発現する。同様に、以下の実施例に記載のように、MDR乳癌細胞は、その薬物感受性対照物(すなわち、薬物感受性対照物は多剤耐性ではない)としてその細胞表面上に少なくとも2倍のHSC70を発現する。このような細胞の細胞成分を(例えば、膜画分およびサイトゾル画分に)分離する場合、非多剤耐性細胞が正常細胞、新生物細胞、または損傷細胞のいずれであるかに関係なく、その細胞表面にHSC70を発現するMDR新生物細胞または損傷細胞は、その膜画分中に多剤耐性を示さない同一の組織由来の他の細胞よりも2倍またはそれ以上のレベルのHSC70を含む。
別の態様では、本発明は、HSC70タンパク質に特異的に結合する結合剤を提供する。本明細書中で使用される、「特異的に結合する」は、結合剤(例えば、抗体)がHSC70タンパク質を認識して結合するが、サンプル中の他の分子を実質的に認識して結合しないことを意味する。したがって、本発明のこのような結合剤は、その細胞表面上でHSC70を発現するMDR細胞表面に結合する。HSC70タンパク質に特異的に結合する有用な結合剤は、水中、生理学的条件下、またはイオン強度に関して近似する条件下(例えば、140mM NaCl、5mM MgCl2)で、少なくとも106M-1、少なくとも107M-1、少なくとも108M-1、または少なくとも109M-1、の親和性でHSC70タンパク質と会合する。
「結合剤」は、HSC70タンパク質に特異的に結合する限り、いかなる特定のサイズもいかなる特定の構造も有する必要はない。したがって、「結合剤」は、HSC70タンパク質に優先的に結合する限り、任意の領域(例えば、三次元構造、アミノ酸配列、または特定の小化学基)に結合する分子である。結合剤の非限定的な例には、天然リガンド(ホルモンまたはGTPなど)、合成小分子、化学物質、核酸、ペプチド、およびホルモンなどのタンパク質、抗体、およびその一部が含まれる。典型的には、結合剤がエピトープに特異的に結合する能力は、高相補性構造に基づく。すなわち、結合剤の形状は、結合剤が特異的に結合する抗原上の一部に相補的な構造を含む。抗体が結合する抗原部分は、「エピトープ」と呼ばれる。
一定の実施形態では、結合剤は抗体である。HSC70タンパク質に特異的に結合する結合剤が抗体である場合、抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、遺伝子操作抗体、二重特異性抗体(二重特異性抗体の特異性の1つがHSC70タンパク質に特異的に結合する場合)、抗体フラグメント(「Fv」、「F(ab’)2」、「F(ab)」、および「Dab」が含まれるが、これらに限定されない)、抗体の反応部分を示す一本鎖(「SC−MAb」)であり得るが、これらに限定されない。抗体および他の結合剤の作製方法は周知である(例えば、Coligan et al.,Current Protocols in Immunology,John Wiley and Sons,New York City,NY,1991;Jones et al.,Nature 321:522−525,1986;Marx,Science 229:455−456,1985;Rodwell,Nature 342:99−100,1989;Clackson,Br.J.R1leumatol.3052:36−39,1991;Reichman et al.,Nature 332:323−327,1988;Verhoeyen,et al.,Science 239:1534−1536,1988を参照のこと)。
本明細書中で使用される、「検出可能に標識された」は、本発明の結合剤が検出可能な部分に作動可能に連結されることを意味する。「作動可能に連結された」は、一部が共有結合または非共有結合(例えば、イオン結合)のいずれかによって結合剤に結合することを意味する。共有結合の作製方法は公知である(一般的プロトコールについては、例えば、Wong,S.S.,Chemistry of Protein Conjugation and Cross−Linking,CRC Press 1991;Burkhart et al.,The Chemistry and Application of Amino Crosslinking Agents orAminoplasts,John Wiley & Sons Inc.,New York City,NY 1999を参照のこと)。
本発明によれば、検出可能に標識された結合剤には、検出可能部分に抱合した結合剤が含まれる。別の検出可能に標識された本発明の結合剤は、一方のパートナーが結合剤であり、他方のパートナーが検出可能な標識である融合タンパク質である。検出可能に標識された結合剤のなおさらなる非限定的な例は、結合剤および第2の部分に高親和性を示す第1の部分を含む第1の融合タンパク質ならびに第2の部分および検出可能な標識を含む第2の融合タンパク質である。例えば、HSC70タンパク質に特異的に結合する結合剤をストレプトアビジン部分に作動可能に連結することができる。第2の融合タンパク質と結合剤−ストレプトアビジン融合タンパク質との組み合わせにより検出可能に標識された結合剤(すなわち、検出可能な標識に作動可能に連結された結合剤)が得られる場合、フルオレセイン部分に作動可能に連結されたビオチン部分を含む第2の融合タンパク質を結合剤−ストレプトアビジン融合タンパク質に添加することができる。
本発明によれば、検出可能な標識は、検出することができる部分であり、フルオロフォア(例えば、フルオレセイン(FITC)、フィコエリトリン、ローダミン)、化学染料、放射性、化学発光性、磁性、常磁性、プロ磁性を示す化合物、有色性、化学発光性、および磁性を示し得る生成物を生成する酵素が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、検出可能な標識を、医学的画像診断デバイスまたはシステムによって検出する。例えば、医学的画像診断システムがX線装置である場合、X線装置で検出することができる検出可能な標識は放射性標識(例えば、32P)である。結合剤は検出可能な部分に直接抱合する必要がないことに留意のこと。例えば、それ自体が検出可能な二次結合剤(例えば、FITC標識ヤギ抗マウス二次抗体)に特異的に結合する結合剤(例えば、マウス抗ヒトHSC70抗体)を、検出可能部分(すなわち、FITC部分)に作動可能に連結する。
いくつかの実施形態では、試験損傷細胞表面上のHSC70タンパク質の発現レベルの測定は、インタクトな試験損傷細胞とHSC70タンパク質に特異的に結合する検出可能な結合剤との接触を含む。例えば、検出可能な結合剤フルオロフォアへの作動可能な連結によって検出可能に標識される場合、フルオロフォアで染色された細胞(すなわち、結合剤に特異的に結合した細胞)を、蛍光標示式細胞分取器(実施例を参照のこと)またはスライド上に調製した臨床試料の日常的蛍光顕微鏡法によって同定することができる。
検出可能部分に加えて、本発明の結合剤に作動可能に連結することができる他の非限定的な部分には、毒素(例えば、放射性同位体)、酵素、抗体(またはその一部)、細胞傷害薬、またはこれらの抱合体が含まれるが、これらに限定されない。毒素が本発明の結合剤に作動可能に連結される場合、本発明の結合剤に作動可能に連結することができる毒素の非限定的な例には、放射性同位体、ジフテリア毒素、ヌクレアーゼ(例えば、DNアーゼまたはRNアーゼ)、プロテアーゼ、分解酵素、シュードモナス外毒素(PE)、リシンA鎖またはB鎖、シュードモナス外毒素(PE)、およびリボヌクレアーゼAが含まれる(Fizgerald D.,Semin.Cancer Biol.7:87−95,1996)。
いくつかの実施形態では、結合剤は、免疫毒素(例えば、抗体−毒素抱合体または抗体−薬物抱合体)である。免疫毒素の非限定的な例には、抗体−アントラサイクリン抱合体(Braslawsky G.R.et al.,欧州特許第EP0398305号)、抗体−サイトカイン抱合体(Gilles S.D.,PCT公開番号WO9953958号)、およびモノクローナル抗体−PE抱合体(Roffler S.R.et al.,Cancer Res.51:4001−4007,1991)が含まれる。
さらなる態様では、本発明は、細胞傷害薬、HSC70タンパク質に特異的に結合する結合剤、および薬学的に許容可能なキャリアを含む治療組成物を提供する。このような薬学的に許容可能なキャリアの非限定的な例は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Gennaro et al.(eds),20th Edition,Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia,PA,2001(ISBN 0−683−306472)(標準的な参考書)により詳細に記載されている。一定の実施形態では、結合剤の結合は、薬物感受性または多剤耐性であるかに関係なく損傷細胞に有毒である。いくつかの実施形態では、結合剤の結合は、薬物感受性または多剤耐性であるかに関係なく新生物細胞に有毒である。一定の実施形態では、組成物の結合剤は、毒素に作動可能に連結される。
治療薬の実際の調製方法は、当業者に公知であるか明らかであり、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,2001(supra)およびPharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,6th ed.,Williams & Wilkins(1995)に詳述されている。本発明の治療組成物は、投与に適切な任意の形態(錠剤、カプセル、粉末、溶液、またはエリキシルの形態が含まれるが、これらに限定されない)であり得る。
本発明の治療組成物の細胞傷害薬は全ての細胞に細胞傷害性を示す必要はないことに留意のこと。いくつかの実施形態では、治療組成物を、損傷細胞の存在に起因する疾患を罹患した患者に投与する場合、治療組成物の細胞傷害薬は抗病原体薬または抗菌薬である。いくつかの実施形態では、損傷細胞が病原体(例えば、ウイルス、細菌、または多細胞寄生虫)に感染している場合、疾患は感染に起因する。損傷細胞が病原体に感染している場合、薬物の非限定的な例は、感染病原体によって異なるが、アシクロビル、アンフォテリシン、アンピシリン、アントラサイクリン、b−ラクタム抗生物質、セファロチン、クロラムフェニコール、クロロキン(CQ)、シドフォビル(CDV)、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、フルコナゾール、5−フルシトシン、フルオロキノロン、フォスカーネット、ガンシクロビル、ハロファントリン、イトラコナゾール、ラミブジン、マクロライド、メフロキン、メチシリン、メトロニダゾール、ミコナゾール、ネルフィナビル、オフロキサシン、ペニシリン、プリマキン、キノリン、ストレプトマイシン、スルホンアミド、テイコプラニン、テルビナフィン、テトラサイクリン、バンコマイシン、ボリコナゾールが含まれ得る。このような薬物の治療有効量は、熟練した医師および薬剤師に公知である。さらに、このような情報は、薬物の製造者またはPhysician’s Desk Reference,Medical Economics Co.(毎年発行)から得ることができる。
いくつかの実施形態では、治療組成物を新生物細胞の存在に起因する癌を罹患した患者に投与する場合、治療組成物の細胞傷害薬は抗癌薬である。このような抗癌薬には、化学療法薬および放射線治療薬が含まれるが、これらに限定されない。このような抗癌薬の非限定基的な例には、アクチノマイシン、アドリアマイシン(AR)、アルトレタミン、アスパラギナーゼ、ブレオマイシン、ブスルファン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン(DOX)、エポエチン、エトポシド、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、イリノテカン、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキセート、マイトマイシン(MITO)、ミトーテン、ミトキサントロン、パクリタキセル、ペントスタチン、プロカルバジン、タキソール、テニポシド、トポテカン、ビンブラスチン(VLB)、ビンクリスチン、およびビノレルビンが含まれる。このような薬物の治療有効量は、熟練した医師および薬剤師に公知である。さらに、このような情報は、薬物の製造者またはPhysician’s Desk Reference,Medical Economics Co.(毎年発行)から得ることができる。
別の態様では、本発明は、損傷細胞の存在に起因する疾患を罹患した患者の治療方法を提供する。この方法は、患者に治療有効量の薬物および治療有効量のHSC70タンパク質に特異的に結合する結合剤を投与する工程を含む。いくつかの実施形態では、結合剤が多剤耐性を示す損傷細胞を死滅させる一方で、薬物が薬物感受性を示す損傷細胞を死滅させる。勿論、HSC70タンパク質は薬物感受性損傷細胞上で中程度のレベルで発現するので、いくつかの実施形態で薬物と異なる結合剤もまた薬物感受性損傷細胞を死滅させる。この方法によれば、患者は非治療患者と比較して疾患の予後が改善される。薬物および結合剤を、異なる時間に任意の順序で個別に投与するか一度に投与することができる。いくつかの実施形態では、患者はヒトである。
一定の実施形態では、患者の損傷細胞は病原体(ウイルス、細菌、または寄生虫など)に感染している。
さらに別の態様では、本発明は、新生物細胞の存在に起因する疾患(例えば、癌)を罹患した患者の治療方法を提供する。この方法は、患者に治療有効量の薬物および治療有効量のHSC70タンパク質に特異的に結合する結合剤を投与する工程を含む。いくつかの実施形態では、結合剤が多剤耐性を示す新生物細胞を死滅させる一方で、薬物が薬物感受性を示す新生物細胞を死滅させる。HSC70タンパク質は薬物感受性新生物細胞上で発現するので、いくつかの実施形態で薬物と異なる結合剤もまた薬物感受性新生物細胞を死滅させる。この方法によれば、患者は非治療患者と比較して疾患の予後が改善される。薬物および結合剤(例えば、抗体)を、異なる時間に任意の順序で個別に投与するか一度に投与することができる。いくつかの実施形態では、患者はヒトである。
一定の実施形態では、患者の新生物細胞は、乳癌細胞、卵巣癌細胞、骨髄腫癌細胞、リンパ腫癌細胞、黒色腫癌細胞、肉腫癌細胞、白血病癌細胞、網膜芽腫癌細胞、肝臓癌細胞、神経膠腫癌細胞、中皮腫癌細胞、または癌腫癌細胞である。
一定の実施形態では、本発明の方法によって患者に投与される結合剤は抗体である。いくつかの実施形態では、結合剤は毒素に作動可能に連結されている。このような毒素の非限定的な例を上に記載する。
本明細書中で使用される、用語「治療有効量」を、損傷細胞の死滅に有効な投薬量および期間での薬物の公知の治療を示すために使用する。投与は、任意の経路(静脈内、非経口、経口、舌下、経皮、局所、鼻腔内、眼内、膣内、直腸内、動脈内、筋肉内、皮下、および腹腔内が含まれるが、これらに限定されない)であり得る。
医師が決定する場合、本発明の結合剤、薬物、および/または治療組成物の用量および投薬計画は、主に、疾患または癌の症状の程度、使用薬物の型(例えば、化学療法薬、放射線療法薬、または抗生物質)、患者(例えば、患者の性別、年齢、および/または体重)、患者の病歴、治療に対する患者の応答に依存する。結合剤、薬物、および/または治療組成物の用量は、単回用量または複数回用量であり得る。複数回用量を使用する場合、投与頻度(投薬計画)は、例えば、患者、応答の型、および使用薬の型に依存する。患者によっては1週間に1回の投与が有効であり得るのに対して、毎日、1日おき、または3日おきの投与が有効であり得る場合もある。当業者は、日常的実験においてどの投与経路および投与頻度が任意の特定の症例で最も有効であるかを確認することができる。
さらに別の態様では、本発明は、患者における多剤耐性細胞の検出方法を特徴とする。方法は、HSC70タンパク質に特異的に結合する結合剤を多剤耐性細胞を含むと疑われる患者に投与する工程と、結合剤が医学的画像診断デバイスまたはシステムによって検出可能な標識に作動可能に連結されることと、医学的画像診断デバイスまたはシステムで患者を試験する工程とを含む。本方法によれば、医学的画像診断デバイスまたはシステムにより、患者中の多剤耐性細胞の細胞表面に特異的に結合する結合剤(例えば、抗体)が検出される。
このようなシステムによって検出可能な標識である場合、医学的画像診断デバイスおよびシステムは公知である。上記で考察されるように、このようなシステムおよび標識の1つの非限定的な例は、放射性標識結合剤を検出することができるX線装置である。医学的画像診断システムの他の非限定的な例には、(a)X線ベースのコンピュータ断層撮影(CT)、陽電子放出断層撮影法(PET)、これらのテクノロジーの新規の組み合わせおよび改良型(PET+CT、スパイラルCT、単光子放出CT(SPECT)、高分解能PET(マイクロPET)、および免疫シンチグラフィ(放射性標識抗体を使用(Czernin et al.,Ann.Rev.Med.53:89−112,2002;Goldenberg,D.M.,Cancer 80(12):2431−2435,1997;Langer,S.G.et al.World J.Surg.25:1428−1437,2001;Middleton et al.,Postgrad Med.111(5):89−90,93−6,2002);(b)磁気共鳴画像診断法(MRI)(Helbich,T.H.,J.Radiol.34:208−219,2000;Langer,S.G.et al.,World J.Surg.25:1428−1437,2001;Nabi et al.,Oncol.J.Nuclear Med.Technol.30(1):3−9,2002);超音波画像診断法(US)(Harvey,C.J.et al.,Adv.Ultrasound Clin.Radiol.57:157−177,2002;Langer,S.G.et al.,World J.Surg.25:1428−1437,2001);(c)光ファイバー内視鏡(Shelhase D.E.,Curr.Opin.Pediatr.14:327−33,2002);(d)γシンチレーション検出器(γ線放出(例えば、192−Ir)を検出)、およびβシンチレーション検出器(β線放出(例えば、90−Sr/Y)を検出)(Hanefeld,C.et al.,Circulation 105:2493−6,2002)が含まれる。
一定の実施形態では、患者はヒトである。患者は、例えば、多剤耐性細胞の存在に起因する疾患を罹患した患者であり得る。例えば、患者は、多剤耐性新生物細胞の存在に起因する疾患を罹患した患者であり得る。このような多剤耐性新生物細胞には、卵巣癌細胞、骨髄腫癌細胞、リンパ腫癌細胞、黒色腫癌細胞、肉腫癌細胞、白血病癌細胞、網膜芽腫癌細胞、肝臓癌細胞、神経膠腫癌細胞、中皮腫癌細胞、または癌腫癌細胞が含まれるが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態では、多剤耐性細胞は損傷細胞であり、患者はこのような多剤耐性新生物細胞の存在に起因する疾患を罹患している。細胞が損傷し得る非限定的方法には、病原体による感染または新生物による損傷が含まれる。特定の実施形態では、損傷細胞は、病原体(例えば、ウイルス、寄生虫、または細菌)に感染している。例えば、患者は、マイコバクテリウム・ツベルクロシスの多剤耐性株に起因する結核に罹患し得る。
本発明の実施には、他で記載しない限り、当業者の範囲内である細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来の技術を使用する。このような技術は、文献で完全に説明されている。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual,2nd Ed.,ed.by Sambrook,Fritsch and Maniatis(Cold Spring Harbor Laboratory Press:1989);DNA Cloning,Volumes I and II(D.N.Glover ed.,1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait ed.,1984);Mullis et al.U.S.Pat.No:4,683,195;Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames & S.J.Higgins eds.1984);Transcription And Translation(B.D.Hames & S.J.Higgins eds.1984);Culture Of Animal Cells(R.I.Freshney,Alan R.Liss,Inc.,1987);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986);B.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);the treatise,Methods InEnzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.Miller and M.P.Calos eds.,1987,Cold Spring Harbor Laboratory);Methods In Enzymology,Vols.154 and 155(Wu et al.eds.),Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(Mayer and Walker,eds.,Academic Press,London,1987);Handbook Of Experimental Immunology,Volumes I−IV(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.,1986);Manipulating the Mouse Embryo,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986)を参照のこと。
HSC70抗体
本発明は、癌および損傷(例えば、病原体感染)細胞の検出、画像診断、および治療で使用するためのHSC70に指向する抗体を提供する。本発明で使用される抗HSC70抗体はいくつかの業者から市販されている。例えば、CHEMICON(Temecula,California)およびABR−Affinity Bioreagents(Golden,CO)は共にこのような抗ヒトHSC70マウスモノクローナル抗体および/またはウサギポリクローナル抗体を製造している。
用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、特に1つの抗HSC70モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体ならびにポリペプチド特異性を有する抗HSC70抗体フラグメント(例えば、Fab、F(ab)2、およびFv)および抗HSC70抗体組成物(結合および非結合抗体が含まれる)を対象とする。本明細書中で使用される、用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体集団から得た抗体(すなわち、集団を含む各抗体は少量で存在し得る天然に存在する変異の可能性を除いて同一である)をいう。モノクローナル抗体は、特異性が高く、1つの抗原部位に指向する。さらに、典型的に異なる決定基(エピトープ)に指向する異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物と対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の1つの決定基に指向する。新規のモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、原則的にIgM、IgG、IgD、IgE、IgAなどの全ての免疫グロブリンクラスまたはIgGサブクラスなどのサブクラスもしくはその混合物を意味する。IgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG3、またはIgGMなどのIgGおよびそのサブクラスが含まれる。IgGサブタイプであるIgG1/κおよびIgG2b/κも実施形態として含まれる。
本明細書中のモノクローナル抗体には、所望の生物活性を示す限り、種の起源または免疫グロブリンクラスまたはサブクラス名および抗体フラグメント(例えば、Fab、F(ab)2、およびFv)と無関係に、抗HSC70抗体の可変ドメイン(超可変ドメインが含まれる)と定常ドメインとのスプライシング(例えば、「ヒト化」抗体)、軽鎖と重鎖とのスプライシング、またはある種由来の鎖と別の種由来の鎖とのスプライシング、異種タンパク質との融合によって産生されたハイブリッド抗体および組換え抗体が含まれる(例えば、米国特許第4,816,567号およびMage & Lamoyi,in Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.79−97(Marcel Dekker,Inc.),New York(1987)を参照のこと)。したがって、修飾「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られた抗体の特徴を示すが、任意の特定の方法によって抗体が産生される必要があると解釈すべきではない。例えば、本発明で使用されるモノクローナル抗体を、Kohler and Milstein,Nature 256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製することができるか、組換えDNA法によって作製することができる(米国特許第4,816,567号)。「モノクローナル抗体」を、例えば、McCafferty et al.,Nature 348:552−554(1990)に記載の技術を使用して作製したファージライブラリーから単離することもできる。
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、特異的キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、または非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含むそのフラグメント(Fv、Fab、Fab’、F(ab)2、または抗体の他の抗原結合サブシーケンスなど)である。ほとんどの部分について、ヒト化抗体は、レシピエント抗体の相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、またはウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基で置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基を、対応する非ヒトFR残基に置換する。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体や輸送されたCDRまたはFR配列のいずれにも見出されない残基を含み得る。抗体の性能をさらに洗練および至適化するためにこれらの修飾を作製する。一般に、ヒト化抗体は、実質的に全ての少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインを含み、全てまたは実質的に全てのCDR領域は非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、全てまたは実質的に全てのFR残基はヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域である。ヒト化抗体はまた、任意選択的に、少なくとも免疫グロブリン定常領域の一部(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの一部を含む。
HSC70または抗HSC70モノクローナル抗体またはそのフラグメントは、原則的に、IgM、IgG、IgD、IgE、IgAなどの全ての免疫グロブリンクラスまたはIgGサブクラスなどのサブクラスもしくはその混合物を意味する。IgGおよびそのサブクラスは、IgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG3、またはIgGM、などである。IgGサブタイプIgG1/κおよびIgG2b/κも実施形態として含まれる。言及することができるフラグメントは、哺乳動物HSC70に対して結合性および結合活性が高い1つまたは2つの抗原相補結合部位を有する全ての短縮または修飾抗体フラグメント(抗体に対応し、且つ軽鎖および重鎖によって形成された結合部位を有する抗体の一部(Fv、Fab、もしくはF(ab’)2フラグメント、または一本鎖フラグメントなど)など)である。短縮二本鎖フラグメントは、Fv、Fab、またはF(ab’)2などである。これらのフラグメントを、例えば、パパインまたはペプシンなどの酵素での抗体のFc部分の除去による酵素的手段、化学的酸化、または抗体遺伝子の遺伝子操作によって得ることができる。遺伝子操作した非短縮フラグメントの使用も可能であり且つ有益である。抗HSC70抗体またはそのフラグメントを単独または混合物として使用することができる。
新規の抗体、抗体フラグメント、その混合物または誘導体は、HSC70に対して解離定数が約1×10-11M(0.01nM)〜約1×10-8M(10nM)または約1×10-10M(0.1nM)〜約3×1099M(3nM)の対数範囲以内の親和性を有することが有利である。
遺伝子操作のための抗体遺伝子を、例えば、当業者に公知の様式でハイブリドーマ細胞から単離することができる。この目的のために、抗体産生細胞を培養し、細胞の光学密度が十分になった時点で、チオシアン酸グアニジニウムでの細胞の溶解、酢酸ナトリウムでの酸性化、フェノール、クロロホルム/イソアミルアルコールでの抽出、イソプロパノールでの沈殿、およびエタノールでの洗浄によって公知の様式にてmRNAを細胞から単離する。次いで、逆転写を使用して、mRNAからcDNAを合成する。合成cDNAを、例えば、部位特異的変異誘発、適切な動物、真菌、細菌、またはウイルスベクターへの挿入、逆位、欠失、または塩基交換によって直接または遺伝子操作後に挿入し、適切な宿主生物中で発現することができる。遺伝子クローニングにはpBR322ベクター、pUC18/19ベクター、pACYC184ベクター、λベクターまたは酵母μベクターなどの細菌または酵母ベクターを用い、E.コリなどの細菌またはサッカロミセス・セレビシエなどの酵母で発現させることが好ましい。
さらに、本発明は、HSC70抗体を合成する細胞に関する。これらには、上記の形質転換後の動物細胞、真菌細胞、細菌細胞、または酵母細胞が含まれる。これらは、ハイブリドーマ細胞またはトリオーマ細胞が有利であり、ハイブリドーマ細胞が好ましい。これらのハイブリドーマ細胞を、例えば、公知の様式でHSC70で免役化した動物から産生し、その抗体産生B細胞を単離し、HSC70結合抗体についてこれらの細胞を選択し、その後例えばヒトまたは動物(例えば、マウス骨髄種細胞、ヒトリンパ芽球様細胞、またはヘテロハイブリドーマ細胞)にこれらの細胞を融合させるか(例えば、Koehler et al.,(1975)Nature 256:496を参照のこと)、これらの細胞に適切なウイルスを感染させて不死化細胞株を産生することができる。融合によって産生されたハイブリドーマ細胞株は特に有用であり、マウスハイブリドーマ細胞株は非常に有用である。本発明のハイブリドーマ細胞株は、IgG型の抗体を分泌する。本発明のmAb抗体は、HSC70と高親和性で結合する。
本発明は、さらに、好ましくはそのHSC70結合活性を保持しながら医薬品としてのその使用に関連する1つまたは複数の他の性質(例えば、血清の安定性または産生効率)が変化したこれらの抗HSC70の誘導体を含む。このような抗HSC70抗体誘導体の例には、固体または液体キャリア(ポリエチレングリコール、ガラス、合成ポリマー(ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなど)、天然ポリマー(セルロースなど)、セファロースまたはアガロースなど)に結合した抗体の抗原結合領域由来のペプチド、ペプチド模倣物、抗体、フラグメント、もしくはペプチド、または酵素、毒素、放射性マーカー、もしくは非放射性マーカー(3H、123I、125I、131I、32P、35S、14C、5lCr、36Cl、57Co、55Fe、59Fe、90Y、99mTc(テクネチウム99の準安定性イソ型)、75Seなど)との抱合体、または蛍光/化学発光標識(ローダミン、フルオレセイン、イソチオシアネート、フィコエリトリン、フィコシアニン、フルオレサミン、金属キレート、アビジン、ストレプトアビジン、またはビオチンなど)に共有結合した抗体、フラグメント、もしくはペプチドが含まれる。
新規の抗体、その抗体フラグメント、混合物、および誘導体を、直接、乾燥後(例えば、凍結乾燥)、上記キャリアへの結合後、または薬学的調製物を産生するための他の薬学的に活性な物質および補助物質での処方後に使用することができる。列挙することができる活性物質および補助物質の例は、他の抗体、一般に抗生物質などの抗菌もしくは静菌作用を有する抗生物質活性物質、スルホンアミド、抗腫瘍薬、水、緩衝液、生理食塩水、アルコール、脂肪、ワックス、不活性賦形剤、または非経口生成物に一般的な他の物質(アミノ酸など)、増粘剤、または糖である。これらの薬学的調製物を使用して、疾患、好ましくは関節障害、有利には関節軟骨を制御する。
本発明の抗HSC70抗体を、経口または非経口(皮下、筋肉内、静脈内、または腹腔内)で投与することができる。
抗体、抗体フラグメント、その混合物、または誘導体を、直接または上記の固体もしくは液体キャリア、酵素、毒素、放射性もしくは非放射性標識、または蛍光/化学発光標識への結合後に治療または診断で使用することができる。広範な種々の細胞型(特に、新生物細胞)においてHSC70を検出することができる。本発明のヒトHSC70モノクローナル抗体を以下のように得ることができる。当業者は、HSC70抗体を得るための他の等価な手順も利用可能であり、本発明に含まれることを認識する。
第1に、哺乳動物をヒトHSC70で免役化する。精製ヒトHSC70は、Sigma(St.Louis,MO,catalog A6152)および他の業者から市販されている。ヒトHSC70を、ヒト胎盤組織から容易に精製することができる。さらに、高度に精製されたHSC70免疫原を得るための免疫親和性精製方法が公知である(例えば、Vladutiu et al.,(1975)5:147−59 Prep.Biochem.を参照のこと)。抗ヒトHSC70抗体の惹起に使用される哺乳動物は制限されず、霊長類、マウス、ラット、もしくはウサギなどのげっ歯類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、またはイヌであり得る。
次に、脾臓細胞などの抗体産生細胞を、免役化動物から取出し、骨髄腫細胞と融合する。骨髄腫細胞は、当該分野で周知である(例えば、p3x63−Ag8−653、NS−0、NS−1、またはP3U1細胞を使用することができる)。周知の従来の方法によって細胞融合を操作することができる。
細胞融合操作に供した後、細胞を、ハイブリドーマを選択するためにHAT選択培地中で培養する。抗ヒトモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングする。このスクリーニングを、例えば、産生されたモノクローナル抗体をヒトHSC70が固定されたウェルに結合させるサンドイッチELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)などによって行うことができる。この場合、二次抗体として、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、またはβ−D−ガラクトシダーゼなどの酵素で標識した免役化動物の免疫グロブリンに特異的な抗体を使用することができる。標識酵素とその基質との反応および発色の測定によって標識を検出することができる。基質として、3,3−ジアミノベンジジン、2,2−ジアミノビス−o−ジアニシジン、4−クロロナフトール、4−アミノアンチピリン、またはo−フェニレンジアミンなどを産生することができる。
上記操作によって、抗ヒトHSC70抗体を産生するハイブリドーマを選択することができる。次いで、従来の限界希釈法または軟寒天法によって選択したハイブリドーマをクローン化する。所望ならば、クローン化したハイブリドーマを、血清含有培地または無血清培地を使用して大量に培養することができるか、マウスの腹腔に摂取して腹水から回収し、それによって多数のクローン化ハイブリドーマを得ることができる。
選択された抗ヒトHSC70モノクローナル抗体から、細胞表面HSC70に結合する能力を有するものをさらなる分析および操作のために選択する。
本明細書のモノクローナル抗体には、所望の生物活性を示す限り、抗HSC70抗体の可変ドメイン(超可変ドメインが含まれる)の定常ドメインとのスプライシング(例えば、「ヒト化」抗体)または軽鎖の重鎖とのスプライシング、またはある種由来の鎖と別の種由来の鎖とのスプライシング、異種タンパク質(種の起源または免疫グロブリンクラスもしくはサブクラスの指定と無関係)ならびに抗体フラグメント(例えば、Fab、F(ab)2、およびFv)との融合によって産生されたハイブリッドおよび組換え抗体がさらに含まれる(例えば、米国特許第4,816,567号およびMage & Lamoyi,in Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.79−97(Marcel Dekker,Inc.),New York(1987)を参照のこと)。
したがって、用語「モノクローナル」は、得られた抗体の特徴が実質的に均一な抗体集団に由来し、任意の特定の方法による抗体の産生が必要であると解釈されないことを示す。例えば、本発明で使用されるモノクローナル抗体を、Kohler and Milstein,Nature 256:495(1975)に最初に記載されたハイブリドーマ法で作製するか、組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)によって作製することができる。「モノクローナル抗体」を、例えば、McCafferty et al.,Nature 348:552−554(1990)に記載の技術を使用して作製したファージライブラリーから単離することもできる。
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含む特異的キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはそのフラグメント(Fv、Fab、Fab’、F(ab)2、または抗体の他の抗原結合サブシーケンスなど)である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエント抗体の相補性決定領域(CDR)由来の残基が所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、またはウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基に置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基を、対応する非ヒトFR残基と置換する。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体や移入されたCDRまたはFR配列のいずれにも見出されない残基を含み得る。抗体性能をさらに洗練および至適化するためにこれらの修飾を行う。一般に、ヒト化抗体は、全てまたは実質的に全てのCDR領域は非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、全てまたは実質的に全てのFR残基はヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR残基である、実質的に全ての少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインを含む。ヒト化抗体は、任意選択的に、少なくとも免疫グロブリン定常領域(Fc)の一部、典型的にはヒト免疫グロブリンの一部も含む。
非ヒト抗体のヒト化方法は当該分野で周知である。一般に、ヒト化抗体は、非ヒト供給源由来の抗体に移入された1つまたは複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基を、しばしば、「移入」残基といい、典型的には「移入」可変ドメインから受け継ぐ。本質的に、対応するヒト抗体配列のげっ歯類CDRまたはCDR配列への置換によるWinterandco−workersの方法(Jones et al.,(1986)Nature 321:522−525;Riechmann et al.,(1988)Nature,332:323−327;およびVerhoeyen et al.,(1988)Science 239:1534−1536)にしたがってヒト化を行うことができる。したがって、このような「ヒト化」抗体は、対応する非ヒト種由来の配列に置換されるインタクトなヒト可変ドメインに実質的に満たないキメラ抗体である。実際に、ヒト化抗体は、典型的には、いくつかのCDR残基およびおそらくいくつかのFR残基がげっ歯類抗体中の類似の部位由来の残基に置換されたヒト抗体である。
ヒト化抗体の作製で使用されるヒト可変ドメイン(軽鎖および重鎖の両方)の選択は、抗原性を減少するために非常に重要である。いわゆる「最良適合」法にしたがって、公知のヒト可変ドメイン配列の全ライブラリーに対してげっ歯類抗体の可変ドメイン配列をスクリーニングする。ヒト化抗体のヒトフレームワーク(FR)として、げっ歯類配列に最も密接なヒト配列が許容される(Sims et al.,(1993)J.Immunol.,151:2296;およびChothia and Lesk(1987)J.Mol.Biol.,196:901)。別の方法は、軽鎖または重鎖の特定の亜群の全ヒト抗体のコンセンサス配列由来の特定のフレームワークを使用する。いくつかの異なるヒト化抗体に同一のフレームワークを使用することができる(Carteret al.,(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA),89:4285;およびPresta et al.,(1993)J.Immunol.,151:2623)。
抗原に対する高親和性および他の好ましい生物学的性質を保持する抗体をヒト化することがさらに重要である。この目的を達成するために、本方法により、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを使用した親配列および種々の概念ヒト化産物の分析プロセスによってヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に利用可能であり、当業者に周知である。選択した候補免疫グロブリン配列の可能な三次元配座構造を例示および表示するコンピュータプログラムが利用可能である。これらの調査により、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の可能性の高い役割の分析(すなわち、候補免疫グロブリンがその抗原に結合する能力に影響を与える残基の分析)が示される。この方法では、標的抗原に対する親和性の増加などの所望の抗体特性が達成されるように、コンセンサスおよび移入配列からFR残基を選択して組み合わせることができる。一般に、CDR残基は、抗原結合に対する影響に直接且つほとんど実質的に関与する。
HSC70に指向するヒト抗体も本発明に含まれる。このような抗体を、例えば、ハイブリドーマ法によって作製することができる。ヒトモノクローナル抗体産生用のヒト骨髄腫細胞株およびマウス−ヒトヘテロミエローマ細胞株は、例えば、Kozbor(1984)J.Immunol.,133,3001;Brodeur,et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.51−63(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987);およびBoerner et al.,(1991)J.Immunol.,147:86−95に記載されている。例えば、ファージディスプレイ、トランスジェニックマウステクノロジー、および/またはin vitroディスプレイテクノロジー(リボゾームディスプレイまたは共有結合ディスプレイなど)を使用したこのようなヒト抗体の特定の作製方法が記載されている(Osbourn etal.(2003)Drug Discov.Today 8:845−51;Maynard and Georgiou(2000)Ann.Rev.Bionaed.Eng.2:339−76;ならびに米国特許第4,833,077号、同第5,811,524号、同第5,958,765号、同第6,413,771号、および同第6,537,809号を参照のこと)。
現在、免疫化の際に内因性免疫グロブリン産生の非存在下でヒト抗体の全レパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を産生することが可能である。例えば、キメラおよび生殖系列変異マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合性欠損によって内因性抗体産生が完全に阻害されることが記載されている。このような生殖系列変異マウスへのヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの導入により、抗原攻撃誘発時にヒト抗体が産生される(例えば、Jakobovits et al.,(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA),90:2551;Jakobovits etal.,(1993)Nature,362:255−258;およびBruggermann etal.,(1993)Year in Immuno.,7:33を参照のこと)。
あるいは、ファージディスプレイテクノロジー(McCafferty et al.,(1990)Nature,348:552−553)を使用して、非免役化ドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからヒト抗体および抗体フラグメントをin vitroで産生することができる。この技術にしたがって、抗体Vドメイン遺伝子を、糸状バクテリオファージの大または小外殻タンパク質遺伝子(M13またはfdなど)のいずれかにインフレームでクローン化し、ファージ粒子の表面上に機能的抗体フラグメントを表示する。糸状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含むので、抗体の機能特性に基づく選択によってもこれらの性質を示す抗体をコードする遺伝子が選択される。したがって、ファージは、B細胞のいくつかの特性を模倣する。種々の形式でファージディスプレイを行うことができる(概説については、例えば、Johnson et al.,(1993)Curr.Opin.in Struct.Bio.,3:564−571を参照のこと)。V遺伝子セグメントのいくつかの供給源を、ファージディスプレイに使用することができる。例えば、Clackson et al.,((1991)Nature,352:624−628)は、免役化マウスの脾臓由来のV遺伝子の小ランダム組み合わせライブラリーから抗オキサゾロン抗体の種々のアレイを単離した。非免役化ヒトドナー由来のV遺伝子レパートリーを構築し、本質的にMarks et al.,((1991)J.Mol.Biol.,222:581−597またはGriffith et al.,(1993)EMBO J.,12:725−734)に記載の技術にしたがって抗原の種々のアレイ(自己抗原が含まれる)に対する抗体を単離することができる。
天然の免疫応答では、抗体遺伝子は、高い比率で変異を蓄積する(体細胞超変異)。移入されたたいくつかの変化によってより高い親和性が付与され、高親和性表面免疫グロブリンを示すB細胞が優先的に複製され、その後の抗原攻撃誘発時に分化する。この天然のプロセスを、「鎖シャフリング」として公知の技術の使用によって模倣することができる(Marks et al.,(1992)Bio/Technol.,10:779−783を参照のこと)。この方法では、ファージディスプレイによって得られた「一次」ヒト抗体の親和性を、重鎖および軽鎖のV領域遺伝子の非免役化ドナーから得たVドメイン遺伝子の天然に存在する変異型のレパートリー(レパートリー)への連続的置換によって改良することができる。この技術により、nM範囲の親和性を有する抗体および抗体フラグメントが産生される。非常に巨大なファージ抗体レパートリーの作製ストラテジーは、Waterhouse et al.,((1993)Nucl.Acids Res.,21:2265−2266)に記載されている。
遺伝子シャフリングを使用して、げっ歯類抗体から出発げっ歯類抗体と類似の親和性および特異性を有するヒト抗体を誘導することもできる。「エピトープインプリンティング」とも呼ばれるこの方法によれば、ファージディスプレイ技術によって得られたげっ歯類抗体の重鎖または軽鎖のVドメイン遺伝子を、ヒトVドメイン遺伝子のレパートリーに置換してげっ歯類−ヒトキメラを作製する。抗原の選択によって、機能的抗原結合部位を保持することができる(すなわち、エピトープがパートナーの選択を支配する(インプリントする))ヒト可変領域を単離する。残存するげっ歯類Vドメインを置換するためにプロセスを繰り返すとヒト抗体が得られる(1993年4月1日公開のPCT を93/06213号を参照のこと)。CDRグラフティングによるげっ歯類抗体の伝統的なヒト化と異なり、この技術により、げっ歯類起源のフレームワークもCDR残基も含まない完全なヒト抗体が得られる。
本発明の上記モノクローナル抗体の使用により、サンプル中のヒトHSC70を検出または定量することができる。本発明のモノクローナル抗体とヒトHSC70との間の特異的結合反応を使用した免疫アッセイによって、サンプル中のヒトHSC70を検出または定量することができる。種々の免疫アッセイが当該分野で周知であり、任意のこれらを使用することができる。免疫アッセイの例には、一次抗体および二次抗体としてモノクローナル抗体および別のモノクローナル抗体をそれぞれ使用するサンドイッチ法、一次抗体および二次抗体としてモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を使用するサンドイッチ法、金コロイドを使用した染色法、凝集法、ラテックス法、および化学発光が含まれる。これらのうち、詳細にはサンドイッチELISAである。周知のように、この方法では、一次抗体は、例えば、ウェルの内壁に固定され、その後サンプルを固定化一次抗体と反応させる。洗浄後、二次抗体を、ウェル中に固定した抗原−抗体複合体と反応させる。洗浄後、固定化二次抗体を定量する。一次抗体として、ヒトHSC70と特異的に反応する抗体を使用することが好ましい。
二次抗体が得られる動物の免疫グロブリンに特異的な標識抗体(例えば、酵素標識抗体)と二次抗体との反応およびその後の標識の測定によって二次抗体を定量することができる。あるいは、標識(例えば、酵素標識)抗体を二次抗体として使用し、二次抗体上の標識の測定によって二次抗体を定量することができる。
HSC70結合剤
別の態様では、本発明は、HSC70タンパク質またはそのフラグメントに特異的に結合する結合剤を提供する。本明細書中で使用される、「特異的に結合する」は、結合剤がHSC70タンパク質またはそのフラグメントを認識して結合するが、サンプル中の他の分子を実質的に認識および結合しないことを意味する。したがって、本発明の結合剤は、その細胞表面上でHSC70を発現するMDR細胞表面に特異的に結合する。有用な結合剤は、生理学的条件下またはイオン強度に関して生理学的条件下に近い条件下(例えば、140mM NaCl、5mM MgCl2)で、水中で少なくとも約106M−1、少なくとも約107M−1、少なくとも約108M−1、または少なくとも約109M−1の親和性でHSC70タンパク質と会合する。本明細書中で使用される、「結合剤」は、HSC70タンパク質またはそのフラグメントに特異的に結合または付着する分子である。
結合剤は、HSC70タンパク質またはそのフラグメントに特異的に結合する限り、いかなる特定のサイズまたはいかなる特異的構造も有する必要はない。したがって、「結合剤」は、HSC70タンパク質またはそのフラグメントに特異的に結合する限り、任意の領域(例えば、三次元構造、アミノ酸配列、または特定の小化学基)に特異的に結合または付着する分子である。結合剤の非限定的な例には、天然のリガンド(ホルモンまたはGTPなど)、合成小分子、化学物質、核酸、ペプチド、ホルモンなどのタンパク質、抗体、およびその一部が含まれる。
当該分野で公知の非抗体HSC70結合剤の多数の例が存在する。当該分野で公知の非抗体HSC70結合剤の多数の例が存在する。例えば、アルツハイマーτタンパク質(Shimura et al.(2003)J.Biol.Chem.(Nov.10,2003 e−publication)、BAG−1(Takamura et al.(2003)Int.J.Oncol.23:1301−8)、小グルタミンリッチテトラトリコペプチド反復含有タンパク質(SGT)(Tobaben et al.J.Biol.Chem.77:7254−60)、ロタウイルスVP5タンパク質の(aa642〜658)(Zarate etal.(2003)J.Virol.77:7254−60)、オーキシリン(Jiang et al.(1997)J.Biol.Chem.272:6141−5)、および免疫抑制5−デオキシスペルグアリン(DSG)(Nadler et al.(1998)Biochem.Biophys.Res.Comm.253:176−80)。
HSC70ターゲティング診断
本発明により、さらに、このようなMDR新生物細胞または損傷細胞を有する患者を早期に同定する。例えば、このような細胞を有すると同定された患者が癌寛解患者であるか癌治療を受けている場合(例えば、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、白血病などの患者)、本発明により、癌の再発および/または進行前にこれらの患者を同定し、治療計画を変更することができるように薬物での治療中にこれらの患者をモニタリングすることが可能である。同様に、このような細胞を有すると同定された患者が感染症(例えば、B型肝炎)治療を受けているか感染症治療を受けていた無症候患者である場合、本発明により、症状の復活前にこれらの患者を同定し、このようなMDR細胞が検出された場合に治療計画を変更することができるように、薬物治療中のこれらの患者をモニタリングすることが可能である。さらに、本発明の診断への適用により、細胞表面HSC70マーカーを使用して、新生物細胞、MDR新生物細胞、または損傷細胞(例えば、病原体感染細胞)を早期に診断および画像診断することが可能である。
本発明の診断への適用は、抗HSC70抗体などのHSC70結合剤に連結するプローブおよび他の検出可能な薬剤を含む。本明細書中で使用される、用語「検出可能に検出された」は、本発明の結合剤が検出可能な部分に作動可能に連結されていることを意味する。「作動可能に連結された」は、共有結合または非共有結合(例えば、イオン結合)のいずれかによって一部が結合剤に結合していることを意味する。共有結合の作製方法は公知である(例えば、Wong,S.S.,Chemistry of Protein Conjugation and CrossLinking,CRC Press 1991;Burkhart et al.,The Chemistry and Application of Amino Crosslinking Agents or Aminoplasts,John Wiley & Sons Inc.,New York City,NY 1999に記載の一般的プロトコールを参照のこと)。
本発明によれば、本発明の検出可能に標識された結合剤には、検出可能な部分と抱合した結合剤が含まれる。本発明の別の検出可能に標識された結合剤は、一方のパートナーが結合剤であり、且つ他方のパートナーが検出可能な標識である融合タンパク質である。検出可能に標識された結合剤のなおさらなる非限定的な例は、結合剤および第2の部分に対する親和性が高い第1の部分を含む第1の融合タンパク質および第2の部分および検出可能な標識を含む第2の融合タンパク質である。例えば、HSC70タンパク質に特異的に結合する結合剤を、ストレプトアビジン部分に作動可能に連結することができる。蛍光部分に作動可能に連結されたビオチン部分を含む第2の融合タンパク質を、結合剤−ストレプトアビジン融合タンパク質に添加することができ、第2の融合タンパク質と結合剤−ストレプトアビジン融合タンパク質との組合わせにより、検出可能に標識された結合剤(すなわち、検出可能な標識に作動可能に連結された結合剤)が得られる。
本発明の検出可能な標識は、追跡することができる部分であり、フルオロフォア(例えば、フルオレセイン(FITC)、フィコエリトリン、ローダミン)、化学染料、放射性、化学発光性、磁性、常磁性、プロ磁性を示す化合物、有色性、化学発光性、および磁性を示し得る生成物を生成する酵素が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、検出可能な標識は、医学的画像診断デバイスまたはシステムで検出可能である。例えば、医学的画像診断システムがX線装置である場合、X線装置で検出することができる検出可能な標識は放射性標識(例えば、32P)である。結合剤は検出可能な部分に直接抱合する必要がないことに留意のこと。例えば、それ自体が検出可能な二次結合剤(例えば、FITC標識ヤギ抗マウス二次抗体)に特異的に結合する結合剤(例えば、マウス抗ヒトHSC70抗体)を、検出可能部分(すなわち、FITC部分)に作動可能に連結する。
いくつかの実施形態では、試験損傷細胞表面上のHSC70タンパク質の発現レベルの測定は、インタクトな試験損傷細胞とHSC70タンパク質に特異的に結合する検出可能な結合剤との接触を含む。例えば、検出可能な結合剤がフルオロフォアへの作動可能な連結によって検出可能に標識される場合、フルオロフォアで染色された細胞(すなわち、結合剤に特異的に結合した細胞)を、蛍光標示式細胞分取分析(実施例を参照のこと)またはスライド上に調製した臨床試料の日常的蛍光顕微鏡法よって同定することができる。
このようなシステムによって検出可能な標識である場合、医学的画像診断デバイスおよびシステムは公知である。上記で考察されるように、このようなシステムおよび標識の1つの非限定的な例は、放射性標識結合剤を検出することができるX線装置である。医学的画像診断システムの他の非限定的な例には、(a)X線ベースのコンピュータ断層撮影(CT)、陽電子放出断層撮影法(PET)、これらのテクノロジーの新規の組み合わせおよび改良型(PET+CT、スパイラルCT、単光子放出CT(SPECT)、高分解能PET(マイクロPET)、および免疫シンチグラフィ(放射性標識抗体を使用(Czernin,J.and M.E.Phelps(2002)Annual Reviews of Medicine 53:89−112;Goldenberg,D.M.(1997)Cancer 80(12):2431−2435;Langer,S.G.et al.(2001)World Journal of Surgery 25:1428−1437;Middleton ML and Shell EG(2002)Postgrad Med111(5):89−90,93−6);(b)磁気共鳴画像診断法(MRI)(Helbich,T.H,(2002)Journal of Radiologv 34:208−219;Langer,S.G.et al.(2001)World Journal of Surgery 25:1428−1437;Nabi,H.A.and Zubeldia,J.M.(2002)Oncology Journal of Nuclear Medicine Technology 30(1):3−9);超音波画像診断法(US)(Harvey,C.J,et al.(2002)Advances in Ultrasound Clinical Radiology 57:157−177;Langer,S.G.et al.(2001)World Journal of Surgery 25:1428− 1437);(c)光ファイバー内視鏡(Shelhase DE(2002)Curr Opin Pediatr 14:327−33);(d)γシンチレーション検出器(γ線放出(例えば、192−Ir)を検出)、およびβシンチレーション検出器(β線放出(例えば、90−Sr/Y)を検出)(Hanefeld C,Amirie,S.et al.(2002)Circulation 105:2493−6,2002)が含まれる。
HSC70ポリペプチドに特異的に結合する標識抗体ならびにその誘導体およびアナログを診断目的で使用して、細胞表面HSC70の異常発現に関連する疾患および/または障害を検出、診断、またはモニタリングすることができる。本発明は、(a)1つまたは複数のHSC70に特異的な抗体を使用して個体の細胞または細胞表面膜画分中の目的のポリペプチド発現をアッセイする工程と、(b)前記遺伝子発現レベルと標準的な遺伝子発現レベルとを比較し、それにより標準的な発現レベルと比較したアッセイした細胞表面HSC70発現レベルの増減が異常な発現の指標となることとを含む、細胞表面HSC70の異常な発現の検出を提供する。例えば、新生物細胞の多剤耐性を検出すべき場合、比較すべき「標準的発現レベル」は、同一または類似の起源または細胞型の非多剤耐性新生物細胞である。同様に、試験細胞中の新形成を検出すべき場合、比較すべき「標準的発現レベル」は、同一または類似の起源または細胞型の非新生物細胞である。さらに、試験細胞中の「損傷」(例えば、病原体感染)を検出すべき場合、比較すべき「標準的発現レベル」は、同一または類似の起源または細胞型の非損傷細胞(例えば、非感染細胞)である。
癌に関して、個体由来の生検組織または試験細胞中の比較的大量の細胞表面HSC70の存在は、疾患発症の素因を示し得るか、実際の臨床症状の出現前の疾患の検出手段を提供することができる。この型のより確実な診断により、医療従事者が予防措置またはより早期の積極的な治療を使用して癌の発症またはさらなる進行を防止可能である。
当業者に公知の古典的免疫組織学的方法を使用して生体サンプル中のタンパク質レベルをアッセイするために、本発明の抗体を使用することができる(例えば、Jalkanen,M.,et al.,(1985)J.Cell.Biol.101:976−985);Jalkanen,M.,et al.(1987)J.Cell.Biol.105:3087−3096を参照のこと)。HSC70タンパク質発現の検出に有用な他の抗体ベースの方法には、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および放射免疫アッセイ(RIA)などの免疫アッセイが含まれる。適切な抗体アッセイ標識は当該分野で公知であり、グルコースオキシダーゼなどの酵素標識;ヨウ素(125I、121I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(112In)、およびテクネチウム(99Tc)などの放射性同位体;ルミノールなどの発光標識;フルオレセインおよびローダミンなどの蛍光標識;およびビオチンが含まれる。
本発明の1つの態様は、哺乳動物(例えば、ヒト)などの動物中の細胞表面HSC70の異常な発現に関連する疾患または障害の検出および診断である。1つの実施形態では、診断は、a)有効量の標識抗HSC70抗体または動物中の細胞表面HSC70に特異的に結合する他のHSC70結合剤を被験体に投与する(例えば、非経口、皮下、または腹腔内)工程と、b)ポリペプチドが発現された被験体中の部位で標識分子を優先的に濃縮する(そして非標識分子をバックグラウンドレベルに除去する)ために投与後に一定間隔を置く工程と、c)バックグラウンドレベルを決定する工程と、d)被験体中の標識分子を検出する工程と、バックグラウンドレベルを超える標識分子の検出は、被験体が目的のポリペプチドの異常な発現に関連する特定の疾患または障害を有することを示すこととを含む。種々の方法(検出された標識分子の量と特定の系について以前に決定された標準値との比較が含まれる)によってバックグラウンドレベルを決定することができる。
放射性同位体(例えば、131I、111I、99mTc)、放射線不透過性物質、または核磁気共鳴によって検出可能な物質などの適切な検出可能な画像診断部分で標識したHSC70特異的抗体または抗体部分を障害を試験すべき哺乳動物に移入する(例えば、非経口、皮下、または腹腔内)。一般に、画像診断および検出に適切な放射性同位体には、α線、β線、またはγ線を放出する放射性同位体が含まれる。γ線は、特に現在のテクノロジーを使用して容易に画像診断することができる。例は、ガリウム、インジウム、テクネチウム、イットリウム、イッテルビウム、レニウム、白金、タリウム、およびアスタチン由来の放射性同位体(例えば、67Ga、111In、99mTc、90Y、86Y、169Yb、188Re、195mPt、201Ti、および211At)である。被験体のサイズおよび使用画像診断システムによって診断画像の作製に必要な画像診断部分の量が決定されることが当該分野で理解される。ヒト被験体のための放射性同位体部分の場合、99mTcの注入した放射線量は、通常は約5から20ミリキュリーまでの範囲である。次いで、標識抗体または抗体フラグメントは、細胞表面HSC70タンパク質を発現する細胞の位置で優先的に蓄積される。in vivo(すなわち、in situ)での腫瘍画像診断のための試薬および方法は当該分野で公知であり、例えば、S.W.Burchiel et al.(1982)"Immunopharmacokinetics of Radiolabeled Antibodies and Their Fragments."(Chapter 13 in Tumor Imaging.The Radiochemical Detection of Cancer,S.W.Burchiel and B.A.Rhodes,eds.,Masson Publishing Inc.)に記載されている。例えば、エンドカイン(endokine)αタンパク質のin vivo画像診断のための抗体標識またはマーカーには、X線撮影法、NMR、またはESRで検出可能なものが含まれる。X撮影法のための適切な標識には、検出可能な放射線を放射するが被験体に明らかに有害ではないバリウムまたはセシウムなどの放射性同位体が含まれる。NMRおよびESRのための適切なマーカーには、関連ハイブリドーマのための栄養素の標識によって抗体に組み込むことができるデュートリウムなどの検出可能な特徴的スピンを有するものが含まれる。
通常業務を使用して至適化することができるいくつかの可変要因(使用標識の型および投与様式が含まれる)に依存して、被験体中の部位で標識分子を優先的に濃縮するためおよび非標識分子をバックグラウンドレベルに除去するための投与後の時間間隔は、6時間〜48時間、6時間〜24時間、または6時間〜12時間である。別の実施形態では、投与後の時間間隔は、5日〜20日または5日〜10日である。
一定の実施形態では、例えば、最初の診断から1ヶ月後、最初の診断から6ヶ月後、または最初の診断から1年後などの疾患または障害の診断方法の繰り返しによって疾患または障害のモニタリングを行う。
有意には、in vivoスキャニングのための当該分野で公知の方法を使用して、患者中の標識抗HSC70抗体または他のHSC70結合の存在を検出することができる。これらの方法は、使用標識の型に依存する。当業者は、特定の標識の適切な検出方法を決定することができる。本発明の診断方法で使用することができる方法およびデバイスには、コンピュータ断層撮影(CT)、陽電子放出断層撮影法(PET)などの全身スキャン、磁気共鳴画像診断法(MRI)、および超音波検査法が含まれるが、これらに限定されない。
例えば、特定の実施形態では、抗HSC70抗体を、放射性同位体で標識し、放射線応答性手術装置を使用して患者中で検出する(Thurston et al.に付与された米国特許第5441,050号)。別の実施形態では、抗HSC70抗体を蛍光化合物で標識し、蛍光反応スキャニング装置を使用して患者中で検出する。別の実施形態では、抗HSC70抗体を陽電子放出金属で標識し、陽電子放出断層撮影法を使用して患者中で検出する。なおさらに別の実施形態では、抗HSC70抗体を常磁性体標識で標識し、磁気共鳴画像診断法(MRI)を使用して患者中で検出する。
HSC70ターゲティング療法
本発明は、HSC70タンパク質細胞表面マーカーは体内の正常細胞の表面上に無視できるレベルでのみ存在するが、新生物細胞、正確には、多剤耐性新生物細胞の細胞表面上に存在するという事実を巧みに利用する。対照的に、他のマーカー、特にP−糖タンパク質および多剤耐性タンパク質(MRP)などのMDRマーカーは、多数の異なる正常細胞および組織の表面上に種々のレベルで存在する(肝臓、腎臓、幹細胞、および血液脳関門上皮細胞の表面上での高レベルでの存在が含まれる)。したがって、本発明は、細胞表面HSC70に結合する結合剤を使用した治療薬の新生物細胞、特に多剤耐性新生物細胞の特異性の高いターゲティングを提供する。
本発明の方法によってHSC70にターゲティングすべき治療薬には、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキセート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン、5−フルオロウラシル、デカルバジン)、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオテパ、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、ロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、およびシス−ジクロロローダミ ン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(以前はダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、およびアントラマイシン(AMC))、および抗有糸分裂薬(例えば、ビンクリスチンおよびビンブラスチン)が含まれるが、これらに限定されない。
抗HSC70抗体
1つのアプローチでは、損傷細胞(例えば、病原体感染)、新生物細胞、およびMDR新生物細胞上で発現する細胞表面発現HSC70に特異的な抗HSC70抗体を、癌患者に全身投与する。腫瘍細胞への抗体の接着は、補体系の活性化(補体媒介細胞傷害性)またはT細胞の活性化(抗体依存性細胞媒介細胞傷害性)によって細胞を死滅させる。他の抗体誘導抗腫瘍効果には、アポトーシスの誘導、第2の薬剤(例えば、抗癌化学療法薬)の細胞傷害効果の増強、および抗イディオタイプネットワーク応答の誘導が含まれる。一定の実施形態では、ヒト化抗HSC70抗体を使用することができる。ヒト化抗体により、ヒト患者が抗動物(例えば、抗マウスまたは抗ラット)抗体を産生する潜在的問題が回避される。ヒト抗体からなるヒト化抗体は、非ヒト供給源由来の相補性決定領域を含む。
多数の症例で抗体ベースの療法が首尾よく使用されている。例えば、リツキシマブは、非ホジキンリンパ腫(NHL)(若年者および高齢者の両方が罹患する比較的一般的な悪性腫瘍)を治療するために使用される遺伝子操作されたモノクローナル抗CD20抗体である。典型的にはこれらのBリンパ腫上に存在するCD20抗原は、形質細胞、B細胞前駆体、幹細胞、または樹状細胞(抗原提示細胞)上に存在しないので、理想的なターゲティング抗原として役立つ。リツキシマブ抗体(またはリツキサン)は、NHL細胞によって放出も内在化もされず、抗原結合後に修飾されない。リツキサンは、再発性または難治性CD20陽性B細胞NHLおよび低悪性度または濾胞性リンパ腫の治療用として1997年にFDAで承認された(Abou−Jawde et al.(2003)Clin.Therap.25:2121−37;およびKim(2003)Am.J.Surg.186:264−68を参照のこと)。これは、抗体依存細胞傷害性の媒介、細胞成長の阻害、毒素および化学療法薬に対する化学抵抗性細胞の感作、および用量依存様式でのアポトーシスの誘導によって機能する(White et al.(2001)Annu.Rev.Med.52:125−45;Press(1999)Semin.Oncol.26(Suppl 14):58−65)。
抗腫瘍抗原抗体療法の別の例はアレムツズマブである。アレムツズマブは、B細胞慢性リンパ球性白血病(CLL)患者、流行形態の成人悪性腫瘍患者の治療用として2001年にFDAで承認されたヒト化抗CD52モノクローナル抗体である(Abou−Jawde et al.(2003)Clin.Therap.25:2121−37を参照のこと)。CD25機能が十分に同定されていないにもかかわらず、アレムツズマブは巨大病変の存在下でさえも腫瘍応答を誘発することが示されている(Ferrajoli et al.(2001)Expert Opin.Biol.Ther.1:1059−1065)。
抗腫瘍抗原抗体療法のさらに別の例は、トラツズマブ(ヘルセプチン)(転移性乳癌の治療用として1998年にFDAで承認された組換えヒト化抗HER2モノクローナル抗体)である(Abou−Jawde et al.(2003)Clin.Therap.25:2121−37;およびKim(2003)Am.J.Surs.186:264−68を参照のこと)。HER2は、多数の乳癌によって発現される上皮成長因子受容体(EGFR)ファミリーメンバーであるので、この抗体療法は充実性腫瘍に有効である。いくつかの無作為化比較研究を行い、トラツズマブで治療したHER2陽性乳癌患者の生活の質に有効性および改善が認められた(Vogel et al.(2002)J.Clin.Oncol.20:719−26)。
最後に、セツキシマブは、いくつかのHER1/erb−B1発現充実性腫瘍(直腸結腸癌、膵臓癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、および頭頸部癌が含まれる)の治療に有効なキメラ抗HER1モノクローナル抗体である(例えば、O’dwyer et al.(2002)Semin.Oncol.29(Suppl.14):10−17を参照のこと)。セツキシマブは、EGFR結合を競合し、内在化の刺激およびそれによる増殖成長および転移を担う細胞プロセスの破壊によって細胞膜から受容体を除去する(Abou−Jawde et al.(2003)Clin.Therap.25:2121−37を参照のこと)。
(HSC70ターゲティング抗体およびリガンド抱合体)上記の「裸の(naked)」抗体アプローチに加えて、抗体を、生物毒もしくは化学毒または放射性同位体に抱合するか「作動可能に」連結することができる。抗HSC70抗体またはその抗体フラグメントを、細胞毒素(例えば、細胞増殖抑制薬または細胞破壊薬)、治療薬、または放射性金属イオンなどの治療部分と抱合するか作動可能に連結することができる。「作動可能に連結された」は、共有結合または非共有結合(例えば、疎水性結合またはイオン結合)のいずれかによって治療部分を結合剤に結合することを意味する。共有結合の作製方法は公知である(例えば、Wong,S.S.,Chemistry of Protein Conjugation and Cross−Linking,CRC Press 1991;Burkhart et al.,The Chemistry and Application of Amino Crosslinking Agents orAminoplasts,John Wiley & Sons Inc.,New York City,NY 1999に記載の一般的プロトコールを参照のこと)。全身投与後、抗体によって治療を癌細胞(またはMDR癌細胞)または損傷(例えば、病原体感染)細胞にターゲティングする。
本発明は、さらに、HSC70ターゲティングエレメントおよび毒物(生物毒素、化学毒素、または放射性同位体など)から作製されたHSC70ターゲティング薬を含む。細胞毒素または細胞傷害薬には、細胞に有毒な任意の薬剤が含まれる。例には、パクリタキセル、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン、糖質コルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシンならびにそのアナログまたはホモログが含まれる。生物毒素は、抗体および他の腫瘍マーカー局在化薬に抱合されているかインフレームで遺伝的に融合されている。これらの生物毒素には、リシン、ジフテリア毒素、およびシュードモナス外毒素が含まれる。細胞表面HSC70への結合後、一般に、毒素は細胞膜を通過し、その後プロセシングされてターゲティングした細胞を死滅させることができる。毒作用は、典型的には、活性生物毒素によるタンパク質合成の阻害に起因する。
例えば、1つの実施形態では、抗HSC70抗体を、コブラ毒因子に抱合する。本発明によれば、コブラ毒因子に抱合したHSC70特異的抗体を使用して、癌(特に、ヒトの多剤耐性癌が含まれる)を治療する。コブラ毒因子への抗体の抱合方法は、米国特許第5,773,243号に教示されている。いくつかの実施形態によれば、結合剤は、免疫毒素(例えば、抗体−毒素抱合体または抗体−薬物抱合体)である。免疫毒素の非限定的な例には、抗体−アントラサイクリン抱合体(Braslawsky G.R.et al.,欧州特許第EP0398305号)、抗体−サイトカイン抱合体(Gilles S.D.,PCT 公開番号WO9953958号)、およびモノクローナル抗体−PE抱合体(Roffler S.R.et al.,Cancer Res.51:4001−4007,1991)が含まれる。
抗体への他の治療部分の抱合技術は当該分野で周知である(例えば、Arnon et al.,"Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy",in Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy,Reisfeldet al.(eds.),pp.243−56(Alan R.Liss,Inc.1985);Hellstrom et al.,"Antibodies For Drug Delivery",in Controlled Drug Delivery(2nd Ed.),Robinson et al.(eds.),pp.623−53(Marcel Dekker,Inc.1987);Thorpe,"Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy:A Review",in Monoclonal Antibodies’84:Biological And Clinical Applications,Pinchera et al.(eds.),pp.475−506(1985);"Analysis,Results,And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy",in Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy,Baldwin et al.(eds.),pp.303−16(Academic Press 1985),およびThorpeet al.,"The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody−Toxin Conjugates",Immunol.Rev.,62:119−58(1982)(それぞれ本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)。あるいは、Segalに付与された米国特許大4,676,980号(本明細書中で参考として援用される)に記載のように、抗体を二次抗体に抱合して抗体ヘテロ抱合体を形成することができる。
薬物結合
薬物および治療薬の結合および放出に対する多数のアプローチが文献に記載されており、可溶性ポリマー−薬物抱合体で使用されるストラテジーが最近概説された(Soyez,et al.,(1966)Adv.Drug Del.Rev.21: 81−106)。多数のこれらの抱合方法の化学(抗体の結合部位)は、テキストブックに記載されている(例えば、Ref.Wong(1991)CRC Press,Boca Raton,FL)。
最も使用されている部位は、反応性チオール基を導入することができるカルボジイミドなどのアミド結合形成試薬またはN−スクシニミジル1−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)などのヘテロ二官能性薬(Carlsson,et al.,(1978)Biochem J.173:723−737)による化学的使用に都合がよいリジン残基のε−アミノ基部位である。抗体は、抗体全体に広がった種々の数のリジン残基を有し、より反応性の高い残基の任意のサブセットについては明らかではない。その結果、活性部位のリジン残基は抗体活性を喪失させる任意の他の残基で修飾される可能性が高く、修飾リジン残基数が多いほど結合喪失の可能性が高くなる。リジンε−アミノ基への結合は他の効果も有し得る。最初のタンパク質上の正電荷の中和によって構造に影響を与えることができるか、抗体の溶解性に影響を与えることができるが(Hudecz,et al.,(1990)Bioconjug.Chem.1:197−204)、電荷を変えることなくチオール官能性を提供する2−イミノチオランなどの試薬の使用によってこれを克服することができる(Jue,et al.,(1978)Biochemistry 17:5399−5406)。最後に、修飾リジン残基数は統計に基づくので、残基の修飾範囲は抗体分子集団内で得られ、単一の調製物中の薬物結合量および結合活性の喪失量が様々となる(Firestone,et al.,(1996)BR96− Dox,J.Control 39:251−259)。
第2の修飾部位は、抗体のヒンジ領域に結合する糖残基である。これは抗体結合部位から離れて存在する固有の化学反応部位であるので、これは結合に有用な領域である。これは、多数のカップリング手順で使用することができるアルデヒド基を得るための糖の過ヨウ素酸塩酸化によっていくつかのグループで利用されている(O’Shanessy,et al.,(1984)Immunol.Lett.8:273−277;O’Shanessy,et al.,(1987)J.Immunol.Methods 99:153−161;and Rodwell,et al.,(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:2632−2636)。ノイラミニダーゼおよびグルコースオキシダーゼを含む酵素反応によって、免疫グロブリン上でアルデヒド基を作製することもできる(Rodwell,etal.,(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:2632−2636およびStan,et al.,(1999)Cancer Res.59:115−121)。抗体は、キャリア−薬物分子の結合のためにより好ましく位置づけられると報告されている新規のオリゴサッカリド部位を産生するための遺伝子工学によっても修飾されている(Qu,et al.,(1998)J.Immunol.Methods 213:131−144)。
第3の主要な結合可能性は、抗体内の内部ジスルフィド結合によるものである。ジスルフィド結合は、鎖間および鎖内結合の両方が得られる抗体の構造で重要な役割を果たす。抗体ドメイン構造を安定化する鎖内結合を、ジチオスレイトールにて抗体鎖を相互に保持する鎖間ジスルフィドに影響を与えることなく選択的に切断することができる。この手順は、より良好な結合活性を有し、且つ1抗体分子あたりの所定数の薬物を有するより溶解性の高い抱合体を得るために(Willner et al.,(1993)Bioconjug.Chem.4:521−527)によって利用されている。驚いたことに、この手順は、抗体の安定性および免疫反応性に検出可能な影響を与えなかった。抗体サブクラスに依存して利用することができる最大数の鎖内ジスルフィド部位が存在する。分岐鎖ヒドラゾンリンカーは、化学結合することができる薬物分子数の倍増によってこの結合部位をさらに利用することも記載されていなかった(King,et al.,(1999)Bioconjug.Chem.10:279−288)。
抗体フラグメントは、多くの薬物ターゲティング研究でも使用されている。抱合の観点から、薬物または他の高分子への結合に容易に使用することができる1つの遊離スルフヒドリル基を保有するFab’フラグメントは特に都合がよい(Hashida,et al.,(1984)J.Appl.Biochem.6:56−63)。
最も簡単な結合方法の1つは、カルボジイミドなどのペプチド結合形成試薬またはメトトレキセート(MTX)などのカルボキシル含有薬の結合に使用されている活性エステルの使用である。ポリリジン抱合体を使用した初期の研究は、生分解性MTX−ポリ(−L−リジン)はいくらか細胞傷害性を示すが、MTX−ポリ(−D−リジン)は無毒であり、ポリマーの切断によって遊離薬物が放出されたことが示唆されることが示された(Ryser,et al.,(1980)Cancer 45:1207−1211)。その場合には、本発明者らもアルブミンおよび免疫グロブリンなどの生体分子が切断されて遊離の薬物を放出すると予想する。この原理を使用したMTX−免疫グロブリン(Kanellos,et al.,(1985)J.Natl.Cancer Inst.75:319−332)およびMTX−HSA−免疫グロブリン(Garnett,et al.,(1983)Int.J.Cancer 31:661−670)抱合体が報告されている。これらの反応は、単一の生成物を手際よく生成せず、不安定なエステル結合および安定なアミド結合の混合物が形成される(Endo,et al.,(1988)Cancer Res.48:3330−3335およびHudecz,et al.,(1992)Biomed.Chromatogr.6:128−132)。エステル結合材料は、24%までの抱合薬物を形成することができ、4℃で20日間にわたる保存中の加水分解によって抱合体から段階的に放出される(Hudecz,et al.,(1992)Biomed.Chromatogr.6:128−132)。塩化アンモニウムならびにリソソームプロテアーゼインヒビターであるロイペプチンおよびE64による抱合体細胞傷害性の阻害(Garnett,et al.,(1985)Anti−Cancer Drug Design 1:3−12)により、リソソーム区画における分解によって遊離薬物が放出されることが示唆される。しかし、HSA−MTX抱合体からのMTXの放出に関する詳細な研究(Fitzpatrick et al.,(1995)Anti−Cancer Drug Design 10:11−24)は、ラット肝臓トリトソーム(tritosome)によって放出される低分子量薬物量は非常に少ない(55時間で5.6%)ことを示した。さらに、放出材料のたった約10%が遊離MTXであり、アミノ酸である残りは酵素によって薬物から容易に切断されず、未修飾メトトレキセートよりも細胞傷害性が有意に低い(Rosowsky,et al.,(1984)J Med.Chem.27:888−893)。これらのMTXのアミノ酸誘導体を放出するようにデザインした抱合体も遊離MTX放出抱合体よりも細胞傷害性が低かった。抗体−MTX抱合体からのMTXおよびMTX誘導体の放出はより低く、同期間で0.05%未満と評価され、これはメトトレキセートの低置換率(Rosowsky,etal.,(1984)J.Med.Chem.27:888−893)およびトリトソームによる抗体のFab領域の低分解性(Schneider,et al.,(1981)J.Cell.Biol.88:380−387)の両方に寄与する。したがって、抱合体から遊離薬物を特異的に放出するリンカーは、ターゲティングした薬物抱合体の重要な成分である。種々の結合型が報告されている。
アルデヒド/シッフ塩基結合を使用して、治療薬と抗体または他の局在化薬と結合することもできる。近接水酸基を有する糖残基を、過ヨウ素酸塩での酸化によってアルデヒド基に変換することができる(O’Shanessy,et al.,(1984)Immunol.Lett.8:273−277)。これにより、デキストランなどのポリサッカリド中の糖残基もしくは薬物中の糖部分(例えば、フルオロウリジン中のヌクレオチド糖基)またはダウノルビシン中のアミノ糖により有用なアルデヒド基を挿入することができる。アルデヒドは、ヒドラジドと容易に反応してヒドラゾンを形成するか、アミンと反応してシッフ塩基を形成する。シッフ塩基自体は比較的安定であり(Cordes,et al.,(1963)J.Am.Chem.Soc.85:2843−2848)、その出発材料を再形成することができるので、通常は結合を安定化するために水素化ホウ素ナトリウムまたはシアノボロ水素化ナトリウムなどの試薬で還元する。グルタルアルデヒドなどのジアルデヒドを使用して、薬物と高分子の間または高分子間を架橋することもできるが、この場合、生成物の結合は通常不可逆的である(Wong,(1991)CRC Press Boca Raton,FL 101−102)。架橋剤としてのグルタルアルデヒドの使用は、ホモ二官能性試薬であり、望ましくない架橋および凝集を容易に引き起こし得るという不都合もある。
スルフヒドリル結合を使用して、治療薬と抗体または他の局在化薬を結合することもできる。ジスルフィド結合は植物毒素鎖を連結することが見出されており、その活性に不可欠であので(Masuho,et al.,(1982)J.Biochem.91:1583−1591)、酵素A鎖が結合鎖から解離して原形質に侵入することができる。この結合の必要性により、これは、細胞内区画中の抗体またはポリマー分子から薬物を放出させることが可能な方法であることが示唆される。ジスルフィド結合を介したメトトレキセートとポリ(D−リジン)との抱合は細胞傷害性であることが示された(Shen,et al.,(1985)J.Biol.Chem.260:10905−10908)。これらの抱合体の切断は、細胞表面で最初に起こることが示されたが、エンドソームまたはリソソーム区画内で起こらなかった(Feener,et al.,(1990)J.Biol.Chem.265:18780−18785)。ゴルジ装置が切断部位である可能性が最も高いことが示唆された。細胞内で切断可能であるにもかかわらず、この結合は、循環時に不安定であることが示されているので、この問題を軽減するためにジスルフィド結合が阻止されている(Thorpe,et al.,(1987)Cancer Res.47:5924−5931およびWorrell,et al.,(1986)Anti−Cancer Drug Design 1:179−188)。抱合体について、スルフヒドリル基を介した安定な化学的に都合がよいカップリングが必要な場合、チオエーテル結合がより安定であり、マレイミド(Hashida,et al.,(1984)J.Appl.Biochem.6:56−63およびLau,et al.,(1995)Bioorg.Med.Chem.3:1299−1304)またはヨードアセテート(Rector,et al.,(1978)J.Immunol.Methods 24:321−336)カップリング剤の使用によって生成することができる。
酸不安定性結合を使用して、治療薬と抗体または他の局在化薬とを結合することもできる。化学的に不安定な結合を使用して、より酸性度の高い条件下で薬物を放出させることができる。これらの条件は、健康な組織および血液よりも0.5〜1のpH単位でより酸性度が高いことが報告されている腫瘍条件下(Lavie,et al.,(1991)Cancer Immunol.Immunther.33:223−230およびAshby(1966)Lancet ii:312−315)またはエンドソーム/リソソーム区画の通過時(それぞれpH6〜6.8および4.5〜5.5)のいずれかで起こり得る。酸不安定性結合使用の主な欠点は、切断速度がpHに比例し、各pH単位の減少によって速度が10倍異なると予想することができる速度依存性現象であることである。これは、加水分解が常に細胞内区画中の低pHでの高速と血清安定性のための低速との間の妥協であることを意味する。
記載の第1の酸感受性リンカーは、Shen and Ryser(Shen,et al.,(1981)Biochem.Biophys.Res.Commun.102:1048−1054)によって記載されたシス−アコニチル結合であった。ダウノルビシンが最初に無水シス−アコニット酸と反応し、その後水溶性カルボジイミドを使用してポリリジンとカップリングした。この結合の半減期は、pH4で3時間未満であり、pH6で96時間超であることが報告された。しかし、約50%の薬物しかaffi−gelマトリクスから放出されなかった。これは、ゲルマトリクスとこのリンカーからの酸感受性放出を担う残存シス−カルボキシル基との不適切な結合に起因し得る。この試薬の至適使用条件は、(Hudecz,et al.,(1990)Bioconjug.Chem.1:197−204)に詳細に記載されている。毒素分子のカップリングのためのヘテロ二官能性薬としてのこの放出機構の改良バージョンも(Blattler,et al.,(1985)Biochemistry 24:1517−1524)に記載されている。この方法では、シス−アコニット酸塩の第3のカルボキシルを介した抱合を、シス−カルボニル基の酸放出特性の不活化の可能性を排除する特定のマレイミド基に置換した。
オルトエステル、アセタール、およびケタールに基づいた毒素免疫抱合体を酸感受性放出させるように最初に調製した酸感受性ホモ−およびヘテロ二官能性薬の範囲は、Srinivasacharによって記載されている(Srinivasachur,et al.,(1989)Biochemistry 28:2501−2509)。これらはまた、潜在的に化学免疫抱合体の構築に有用であり得る。これらの試薬は、細胞内区画中で見出されるpHでのその加水分解速度が変化する。ヒドラゾン結合を使用して、抗体または他の局在化薬へ治療薬を結合することもできる。
ヒドラジド誘導体も酸不安定性であり、ビンデシン抱合体およびアドリアマイシン抱合体の両方の生成に使用されている(Laguzza,et al.,(1989)J.Med.Chem.32:548−555およびGreenfield,et al.,(1990)Cancer Res.50:6600−6607)。前者では(Laguzza,et al.,(1989)J.Med.Chem.32:548−555)、ビンデシンをヒドラジンと最初に反応させ、その後ヒドラジド誘導体を抗体の酸化糖残基と反応させる。アドリアマイシン抱合体では(Greenfield,et al.,(1990)Cancer Res.50:6600−6607)、チオール化抗体と反応させたSPDPヒドラジン誘導体を調製した。これらの両抱合体では、酸性条件下で低分子量の薬物が放出された。前者の場合、37℃で7日間にわたりpH5.3では約30%までのビンカヒドラジドが放出され、後者の場合、pH4.5〜5.5で未修飾アドリアマイシンが抱合体から急速に放出された。種々のリンカーの酸不安定性が、アシルヒドラジン>セミカルバジド>カルボン酸ジヒドラジド>チオセミカルバジド>カルボン酸ヒドラジン=アリールヒドラジド(全て唯一の生成物としてアドリアマイシンを放出する)であることを示す、アドリアマイシンの異なるヒドラゾン誘導体研究が報告されている(Kaneko,et al.,(1991)Bioconjug.Chem.2:133−141)。アリールヒドラジドを除いて、全てのこれらの化合物は、pH7.4で安定であった。アシルヒドラジドは、pH5.0、37℃、3時間で理論薬物量の85%を放出し、抗トランスフェリン受容体抗体に抱合した場合、遊離アドリアマイシンの細胞傷害性に近似した。血清中でより安定であり、且つ抗体中の還元鎖内ジスルフィド基に容易に結合することができるチオエーテル結合抱合体を得るために、マレイミドカプロイルヒドラゾン誘導体も合成した(Firestone,et al.,(1996)BR96−Dox.J.Control 39:251−259)。アントラサイクリンの抱合のためのさらなる長鎖アリールヒドラジドリンカーは、(Lau,et al.,(1995)Bioorg.Med.Chem.3:1299−1304)によって記載されている。
酵素分解性リンカーを使用して、抗体または他の局在化薬に治療薬を結合することもできる。結合および高分子からの薬物放出の判断基準は、血清中で安定であるが特定の酵素で細胞内切断することができるリンカーである。種々のアミノ酸を含むこのリンカー型が記載されている。これらのリンカーのうちのいくつかは、ターゲティングされた抗体との薬物抱合体で使用されているが、その他はポリマー−薬物抱合体のみで使用されている。ダウノルビシン(Dau)の切断可能なアミノ酸プロドラッグは、Levin and Sela(Levin,et al.,(1979)FEBS Lett.98:119−122)によって最初に生成されたが、これらは低分子量プロドラッグと命名された。リソソーム消化についてのアミノ酸の配列および長さを調査した第1の系統的研究が、(Masquelier et al.(1980)J.Med.Chem.23:1166−1170)によって報告された。これらの研究により、2時間のリソソーム加水分解酵素によって元の遊離薬物に変換することができるAla−Leu−Dau誘導体が同定された。活性は、リソソームジペプチドであるアミノペプチドに起因した。これらのジペプチド誘導体は、in vitroでDauよりもさらに強力でなく、これらはin vivoでより強力な有効性を示した(Baurain,et al.,(1980)J.Med.Chem.23:1171−1174)。このグループによって報告されたさらなる研究(Trouet,et al.,(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:626−629)により、1〜4つのアミノ酸のスペーサーアームによってダウノルビシンがスクシニル化血清アルブミンに結合した抱合体が得られた。最小トリまたはペプチドスペーサーは、良好な薬物放出に不可欠であることが見出された。血清の存在下で安定なAla−Leu−Ala−Leu−Dau結合を有するアルブミン抱合体(24時間で2.5%しか薬物を放出しない)を使用して、8時間で75%の遊離薬物が放出された。リソソーム酵素によってペプチドスペーサーを含まないスクシニル化血清アルブミンと抱合したDauから薬物は放出されなかった。
別のテトラペプチド治療スペーサーは、ポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]コポリマーからのモデル薬物としてのp−ニトロアニリンの放出を調査したDuncanとKopecekの長期共同研究に由来した(Duncan(Duncan,(1986)CRC Crit.Rev.Biocompat.2:127−145))に記載)。これらの研究により、リソソーム酵素の特異性および50時間のインキュベーションにわたり80%の結合p−ニトロアニリンが放出されるGly−Phe−Leu−Gly−Dauリンカーの開発がより深く理解された。その後、抗体キャリア薬物抱合体としてダウノルビシンをポリマー送達系に結合させた(Duncan,et al.,(1987)Br.J.Cancer 55:165−174)。
(Umemoto,et al.,(1989)Int.J.Cancer 43:677−684)によってテトラペプチドスペーサーをモノクローナル抗体−メトトレキセート抱合体に組み込んだ。これは、Trouetによって記載されたテトラペプチドベースのMTX−Leu−Ala−Leu−Ala−ヒドラジドリンカーである。しかし、Trouetの研究では、DauをペプチドのC末端に結合し、この抱合体では、MTXをペプチドのN末端に結合した。さらに、抱合体の薬物−リンカー部分をいくらか酸感受性に放出させることができる結合に組み込まれたヒドラジドも存在する。このリンカー上のリソソーム酵素の効果および放出された生成物は何か、および生成物の放出速度について報告した研究は存在しなかった。しかし、これらのリンカーは、直接結合したMTXと比較して抱合体の有効性を実質的に増加させ、ロイペプチンなどのインヒビターによって放出がリソソームにて媒介されることが示された。
HASキャリア分子のためのさらなるテトラペプチドスペーサーの開発は、(Fitzpatrick,et al.,(1995)Anti−Cancer Drug Design 10:1−9)によって記載されている。タンパク質への抱合モデルとしてε−アミノリジン残基へのペプチド鎖の末端残基の結合を使用した、リソソーム酵素分解系を使用して適切なスペーサーを開発した。この系を使用して、MTXのカルボキシル基に結合した種々のアミノ酸によって遊離薬物を放出することができ、遊離薬物の放出速度はスペーサーの長さに依存し、テトラペプチドスペーサーによって約90%の遊離薬物が放出されることが示された。HASへのMTX−テトラペプチドの抱合によって、48時間にわたる遊離薬物の放出速度が約30%にさらに減少した。これらの実験は、テトラペプチドスペーサーによってポリマー分子の立体障害が克服されるだけでなく、酵素活性部位への切断部位の結合効率も比例することを示す。
オキシム結合による有効且つ一般的なペプチドへのアントラサイクリンの結合方法は(Ingallinella,et al.,(2001)Bioorg.Med.Chem.Lett.11:1343−1346)によって記載されているが、この結合を使用した免疫抱合体は報告されていなかった。
一般に、最も簡単な免疫抱合体の産生方法は、抗体への薬物の直接結合である。これは、薬物の官能基と抗体上の1つの官能基との間の直接結合を含み得るか、抱合体のこれらの2つの部分の間へのリンカーまたはスペーサー基の介在を含み得る。リンカー基を単に使用して化学結合が可能であるが、薬物の特定の放出型が得られる第2の官能基を有し得る。放出が細胞内または細胞外のいずれかに存在する酵素によって媒介される場合、基はスペーサー基と呼ばれ、その目的は、酵素が関連する結合に適切に接近することができるように十分なスペースをあけるか立体障害を減少させることである。
メトトレキセートは、抗体に結合された第1の細胞傷害薬の1つであった。これらの初期の研究では、ジアゾ化または混合無水物手順のいずれかを介した結合を有する免疫血清(Marthe,et al.,(1958)C.R.Acad.Sci.246:1626−1628およびBurstein,etal.,(1977)J.Med.Chem.20:950−952)を使用する。これらの両方の手順によって、マウスモデル中に治療活性抱合体が得られた。
生成された抱合体は、多数の概説に記載されている(例えば、Magerstadt(1991)CRC Press Boca Raton,FL 77−215;Dubowchik,et al.,(1999)Pharmacol.Ther.83:67−123;およびPietersz,et al.,(1994)Adv.Immunol.56:301−387)。ビンブラスチン−抗体抱合体を使用した初期の研究では、薬物と抗体との種々の抱合方法が使用され、いくつかの報告では遊離薬物と比較した抱合体の細胞傷害性の増加が示されている(Johnson,et al.,(1981)Br.J.Cancer 44:372)。ビンブラスチン抱合体に関する臨床研究が報告されている。第1のこれらの研究は、至適化したDAVLBHYよりもむしろDAVLBのヘミコハク酸誘導体を使用したマウスモノクローナル抗体KS1/4との抱合体を含んでいた(Schneck,et al.,(1990)Clin.Pharmacol.Exp.47:36−41)。
抗体抱合体で使用した2つの主なアントラサイクリンは、ダウノマイシン(ダウノルビシンの同意語)およびアドリアマイシン(ドキソルビシンの同意語)であり、側鎖の末端C14のみが異なり、これらは前者がメチル基であり、後者が疎水性の低いメトキシル基である。ダウノルビシン(Dau)は、ドキソルビシン(Dox)よりも細胞傷害性が高いと報告されている。イダルビシンおよびエピルビシンは、DauまたはDoxと比較して細胞傷害性プロフィールが改良された細胞傷害性がわずかにより高い誘導体である(Arcamone,(1985)Cain Memorial Aware Lecture,Cancer Res.45:5995−5999)。モルホリノドキソルビシンおよびシアノモルホリノドキソルビシンは、細胞傷害性の高い誘導体であると報告されている(Newman,et al.,(1985)Science 228:1544−1546)。
アントラサイクリン(DauおよびDox)と免疫グロブリンとの免疫抱合体調製物を、以下のように評価した(Hurwitz,et al.,(1975)Cancer Res.35:1175−1181):(1)薬物の糖部分の過ヨウ素酸酸化、抗体のリシル基との抱合、およびその後のシッフ塩基還元による還元、(2)糖アミノ基と抗体のリシル基との間のグルタルアルデヒドカップリング。薬物活性はグルタルアルデヒド活性を使用して最良に保存されたが、過ヨウ素酸塩酸化およびグルタルアルデヒド結合抱合体は、標的細胞に対して良好な活性を示した。過ヨウ素酸塩酸化抱合体を、より詳細に評価し(Levy,et al.,(1975)Cancer Res.35:1182−1186)、遊離薬物の活性が約50%保持され、免疫抱合体への短時間の曝露を含む細胞傷害性アッセイにおいて特異性を有することが示された。PC5 B細胞白血病に対する抱合体の抗腫瘍効果は、遊離薬物よりも良好であった。
イダルビシン(Ida)免疫抱合体を、MRが1〜5の抗ly2.1抗体を使用して14−ブロモ−イダルビシンから調製した(Pietersz,et al.,(1988)Cancer Res.48:926−931)。
抱合体は、E3標的細胞に対して遊離薬物よりも低い活性を示す選択的細胞傷害性を示した(それぞれ、IC50=430および120nM)。Idaのみよりも高い腫瘍成長速度の減少によってE3胸腺腫異種移植片に対する抗腫瘍活性を示した。抗CD19抗体から調製したIDA免疫抱合体を使用したさらなる研究によって、遊離Idaの12nMと比較して免疫抱合体では240nMの活性が得られた(Rowland,et al.,(1993)Cancer Immunol.Immunother.37:195−202)。
アントラサイクリンは、ターゲティング送達のために一般に選択される。モルホリノ基は、抱合のために一般的に使用される糖アミノ基を利用不可能にするので、側鎖上のC13を介したリンカーを使用した。
スクシニル化FUDRの活性エステル誘導体と抗ly1.2モノクローナル抗体とを反応させてMRが7〜9の薬物と抗体との抱合体を得ることによって、5−フルオロ−2’−デオキシウリジン(FUDR)との免疫抱合体を構築した(Krauer,et al.,(1992)Cancer Res.52:132−137)。抗原陽性E3細胞株では、スクシニル化FUDRおよび免疫抱合体は共に遊離薬物(0.4M)の約1/10の類似の細胞傷害性を示した(それぞれ、IC50=5およびnM)。in vivoでは、免疫抱合体を使用したE3胸腺腫の腫瘍成長は、同量の遊離薬物を使用した場合よりも阻害された。
タキソール免疫抱合体は、Guillemard and Saragovi(Guillemard,et al.,(2001)Cancer Res.61:694−699)によって報告されている。薬物への切断可能なエステル結合を得るために、タキソールをグルタル酸無水物で最初に修飾し、その後カルボジイミドを使用して抗体に直接抱合した。抗マウスおよび抗ラットIgGとの免疫抱合体を、抗体に対するMRが1の薬物を使用して作製した。細胞傷害性試験により、抱合体は遊離薬物よりも細胞傷害性が高いことを示すようであった。in vivoでは、免疫抱合体は、神経芽細胞腫異種移植片に対して腫瘍成長を小さいが有意に減少させた。
抗体濃度は、薬物取り込み速度の重要な決定要因であるので、1抗体分子あたりより多数の薬物分子を抱合することができる場合、細胞傷害性が増加するはずである。しかし、抗体結合活性の喪失は、薬物分子数における律速因子であるので、ターゲティングした薬物抱合体のためのキャリア分子の使用によってこの問題が解決される。大部分はキャアリア分子としてデキストラン、ヒト血清アルブミン、またはヒドロキシプロピルメタクリルアミド(HPMA)ならびに薬物ドキソルビシンまたはメトトレキセートを使用して多数の抱合体型が調査されている。最も初期のキャリア抱合体は、45:1のモル置換比を示すポリグルタミン酸キャリアを介したフェニレンジアミンマスタードと抗体との抱合体であった(Rowland,et al.,(1975)Nature 255:487−488)。
癌細胞を死滅させるための十分な薬物分子の送達の困難さの別の解決法は、細胞を死滅させるための薬物分子がより少数しか必要ないより強力な薬物を使用することである。多数のこれらの分子が発見されており、潜在的な抗腫瘍薬として調査されている。これらには、デュオカルマイシンなどのCC−1065様アルキル化剤;エネジイン(ジネミシン(dynemicin)、カリケアミシン/エスペラミシン、および色素タンパク質が含まれる)(Borders,et al.,(1994)Marcel Dekker New York)(例えば、ネオカルジノスタチンおよびカリケアミシン)、ならびにゲルダナマイシンおよびメイタンシンなどのマクロライド系抗生物質が含まれる。
腫瘍ターゲティング細胞傷害性療法の適用は、多数の腫瘍抗原を首尾よく使用している。例えば、急性骨髄性白血病(AML)の治療に使用されるゲムツズマブ・オゾガミシンは、カリケアミシン(抗腫瘍化学療法薬)に結合した抗CD33抗体から構成される。CD33抗原は、骨髄系前駆細胞上に存在するが、造血幹細胞上に存在しないので、CD33ターゲティング療法はAML細胞に選択性を示す一方で、重要な正常細胞型を阻害しない。この薬剤のAML細胞上に存在するCD33抗原への結合により、細胞に内在化される複合体が形成される。内在後、この薬剤の抗腫瘍部分は、骨髄細胞に放出され、細胞を死滅させる(Naito et al.(2000)Leukemia 14:14636−43)。この薬物は、60歳を超える患者の再発性または難治性AMLの治療についてFDAで承認されている(Abou−Jawde et al.(2003)Clin.Therap.25:2121−37)。さらに、ゲムツズマブ・オゾガミシンは再発性AMSの治療に有利であるので、多数の患者を助けることができる。
免疫毒素
治療薬または薬物部分は、古典的な化学療法薬または放射線療法薬に制限されると解釈すべきではない。例えば、薬物部分は、所望の生物活性を有するタンパク質またはポリペプチドであり得る。このようなタンパク質には、例えば、アブリン、リシンA、シュードモナス外毒素、またはジフテリア毒素などの毒素に加えて、腫瘍壊死因子、α−インターフェロン、β−インターフェロン、神経成長因子、血小板由来成長因子、組織プラスミノゲンアクチベーター、血栓症薬、または抗血管形成薬(例えば、アンギオスタチンまたはエンドスタチン)などの生物活性を有する他のタンパク質;または例えば、リンホカイン、IL−l、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−12、IL−15、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM−CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G−CSF」)、または他の成長因子などの生物反応修飾物質が含まれ得る。
免疫毒素は、タンパク質毒素に結合する成長因子、モノクローナル抗体、または抗体のフラグメントなどのリガンドを含む。リガンドサブユニットが標的細胞表面に結合した後、分子は内在化し、毒素が細胞を死滅させる。癌細胞にターゲティングされた細菌毒素には、組換え一本鎖または二本鎖融合毒素形成に十分に適合したシュードモナス外毒素およびジフテリア毒素が含まれる。植物毒素には、リシン、アブリン、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、サポリンおよびゲロニンが含まれ、一般にジスルフィド結合化学によってリガンドに結合している。広範な種々の成長因子受容体および抗原を介した血液系の悪性腫瘍および充実性腫瘍をターゲティングするための免疫毒素が産生されている。
免疫毒素療法の目的は、細胞傷害薬を細胞傷害薬を内在化する細胞表面分子にターゲティングして細胞を死滅させることである。免疫毒素は化学療法薬とその作用様式および毒性プロフィールが非常に異なるので、免疫毒素によって腫瘍の全身治療が改善される。
免疫毒素を、毒素および抗体を含むタンパク質と簡単に定義することができる。本明細書中で概説した毒素には、標的細胞を死滅させる植物または細菌によって産生される触媒タンパク質が含まれる。用語「免疫毒素」は、一般に、インタクトなIgG、Fabフラグメント、もしくはFvフラグメントのいずれかによってターゲティングされた毒素をいい、成長因子もしくは他のリガンドによってターゲティングされた毒素を「キメラ毒素」ともいう。いくつかの免疫毒素またはキメラ毒素では、リガンドと毒素とを化学的に結合し、タンパク質を「化学的抱合体」ということができる。さもなければ、結合が遺伝子操作によって作製されたペプチド結合である場合、タンパク質を「組換え毒素」または「融合毒素」という。最後に、免疫毒素の選択基は、毒素に融合したFv配列を含み、免疫毒素および組換え毒素の両方であるこれらのタンパク質はしばしば「組換え免疫毒素」という。
その非常に高い有効性により、タンパク質毒素は十分に適合する。細胞質に注射した場合に1つまたは複数のタンパク質毒素分子で細胞を死滅させることができることが示されている(Yamaizumi,etal.,(1978)Cell 15:245−250およびEiklid,et al.,(1980)Exp.Cell Res.126:321−326を参照のこと)。
植物毒素は、完全毒素および半毒素として自然界に存在する。完全毒素(活性化タンパク質中のクラスIIリボゾームともいわれる)には、酵素ドメインとジスルフィド結合した結合ドメインを含むリシン、アブリン、ミスデトー(misdetoe)、レクチン、およびモデクチン(modeccin)が含まれる。ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質(PAP)、サポリン、およびゲロニンなどの半毒素は、酵素を含むが結合ドメインを含まない。
免疫毒素を作製するために、一般に、植物毒素をリガンドに化学的に抱合する(例えば、Kreitman,et al.,(1998)Adv.Drug Del.Rev..31:53−88を参照のこと)。
一般に、免疫毒素を作製するために使用した2つの細菌毒素には、緑膿菌によって産生されるシュードモナス外毒素(PE)、ジフテリア菌によって産生されるジフテリア毒素(DT)が含まれる。PEおよびDTは共に細胞質ゾル中のEF−2のADPリボシル化を触媒する(Carroll et al.,(1987)J.Biol Chem.262:8707−8711;Uchida et al.,(1972)Science 175:901−903;およびUchida et al.,(1973)J.Biol.Chem.248:3838−3844を参照のこと)。
DTおよびPEの変異形態および短縮形態を使用することもできる(Kreitman,et al.,(1998)Adv.Drug Del.Rev.,31:53−88を参照のこと)。例えば、毒素の結合ドメインが欠失されているか、変異によって機能性が喪失した変異毒素をデザインする。DTの場合、これを、毒素のトリプシン処理およびA鎖の精製によって化学的に行うことができる(Masuho,et al.,(1979)Biochem.Biophys.Res.Commun.90:320−326を参照のこと)。全長であり、且つ変異結合ドメインを含む組み換え毒素には、PEの57位、246位、247位、および249位に塩基性残基をグルタミン酸に置換したPE4E、DTの390位のロイシンおよび525位のセリンをフェニルアラニンに置換したCRM107が含まれる(Greenfield,et al.,(1987)Science 238:536−539およびChaudhary,et al.,(1990)J Biol.Chem.265:16306−16310を参照のこと)。
広範な種々の微量免疫毒素および組換え毒素を作製し、悪性腫瘍標的細胞に対して試験した(Kreitman,et al.,(1998)Adv.Drug Del.Rev.,31:53−88を参照のこと)。
次世代の免疫毒素には、組換え毒素、抗体または抗体フラグメントなどを含む免疫毒素が含まれ、毒素と化学的に抱合したFab’はいくつかの欠点を有する。第1に、その巨大なサイズ(100〜200kDa)のためにしばしば腫瘍浸透性が減少する。第2に、抗体への抱合のために、PE40およびPE38などの毒素を、リジン残基(その多くがカルボキシル末端付近に存在する)を修飾する試薬で誘導体化しなければならない。同様に、抗体には、抗原結合ドメイン内のリジン残基の誘導体化が必要であり得る。したがって、得られた免疫毒素は、抗体および毒素の結合部位ならびに1免疫グロブリン分子あたりの毒素および抗体成分の数に関して不均一な混合物である。最後に、毒素および抗体を個別に分離し、抱合し、生成物を再精製しなければならないので、化学抱合体は生成が困難である。
リガンドおよび毒素の両方が1つのポリペプチド単位として結合している場合、リガンドおよび毒素を化学的に抱合することなく毒素を細胞にターゲティングすることができる。
細菌毒素PEおよびDTは、各毒素がジスルフィドループ内に内在化後に残りの毒素から触媒ドメインを分離して細胞質ゾルに効率的に転位置させるタンパク質プロセシング部位を含むので、これらの融合毒素の作製に最適である(Chiron,et al.,1994)J.Biol.Chem.269:18167−18176);Fryling,et al.,(1992)Infect.Immun.60:497−502;Ogata,et al.,(1992)J.Biol.Chem.267:25396−25401;およびWilliams,et al.,(1990)J.Biol.Chem.265:20673−20677を参照のこと)。
1981年に、Mab B3/25を短縮DTまたはRTAに抱合し、ヌードマウスにおいてこれを使用してヒト黒色腫の成長が阻害されたことが報告された(Trowbridge,et al.,(1981)Nature 294:171−173を参照のこと)。これらおよび類似の免疫毒素は、種々の充実性腫瘍(胃腸腺癌、中皮腫、子宮頸癌、およびグリア芽腫が含まれる)に抗腫瘍活性を示した(Griffin,et al.,(1998)J.Biol.Response Mod.7:559−567;Griffin,et al.,(1987)Cancer Res.47:4266−4270;およびMartell,et al.,(1993)Cancer Res.53:1348−1353を参照のこと)。Mab HB21を全長PEに抱合し、ヒト卵巣癌を保有するマウスの生存率を増加させるために腹腔内に送達させた(FitzGerald,.et al.,(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:6627−6630を参照のこと)。HB21ならびにそのFab’、(Fab’)2、およびFvフラグメントも短縮PEまたはDTに抱合または融合し、種々のモデルで抗腫瘍活性を引き起こすことが示された(Batra,et al.,(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:8545−8549;Debinski,et al.,(1991)Cancer Res.52:5379−5385;およびBatra,et al.,(1991)Mol.Cell.Biol.11:2200−2205を参照のこと)。
種々の抗原をターゲティングする免疫毒素の標的である多数の細胞株は、化学療法薬に比較的耐性を示す。細胞からの化学療法薬の搬出の増加を担うp−糖タンパク質分子のターゲティングによっても、複数の化学療法薬に耐性を示す細胞を特異的にターゲティングするための免疫毒素が作製されている。PEと抱合したMab MRK16は、p−糖タンパク質の発現によって化学療法薬に最も高い耐性を示す細胞株に高い細胞傷害性を示した(FitzGerald,et al.,(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:4288−4292を参照のこと)。この免疫毒素は、MDRトランスジェニックマウスにおいて多剤耐性癌細胞も死滅させた(Mickisch,et al.,(1993)J.Urol.149:174−178を参照のこと)。この抗体をサポリンと抱合して骨髄から多剤耐性細胞を除去することができる免疫毒素も形成されている(Dinota,et al.,(1990)Cancer Res.50:291−4294を参照のこと)。
ターゲティング放射線療法
HSC70ターゲティング療法のための細胞傷害薬として放射性同位体を使用することもできる。本発明の抗HSC70抗体を1つまたは複数の治療薬と結合することができる。これに関する適切な薬剤には、放射性核種が含まれる。適切な放射性核種には、90Y、123I、125I、131I、186Re、188Re、211At、および212Biが含まれる。HSC70ターゲティング薬への結合を促進するための放射性核種薬に特異的なキャリアには、放射性ハロゲン化小分子およびキレート化化合物が含まれる。例えば、米国特許第4,735,792号は、代表的な放射性ハロゲン化小分子およびその合成を開示する。放射性核種キレートを、キレート化化合物(金属、金属酸化物、放射性核種への結合のためのドナー原子として窒素原子および硫黄原子を含むものが含まれる)から形成することができる。例えば、Davison et al.に付与された米国特許第4,673,562号は、代表的なキレート化化合物およびその合成を開示する。
理想的な放射性リガンド療法薬は、標的細胞中に選択的に蓄積される。放射線療法の有効性は、細胞DNAへの照射誘導性損傷に起因する分裂細胞の破壊に起因する(例えば、W.D.Bloomer et al.,(1977)"Therapeutic Application of Iodine−125 Labeled Iododeoxyuridine in an Early Ascites Tumour Model,"Current Topics in Radiation Research Quarterly 12:513−25を参照のこと)。治療および画像診断への適用の両方において、任意の非結合循環放射性リガンドは、排泄系によって迅速にクリアランスされて、正常な器官および組織の保護の一助となる。放射性リガンドを、遊離放射性同位体のクリアランスを増加させる体内プロセスによって分解することもできる(G.A.Wiseman et al.(1995)"Therapy of Neuroendocrine Tumors with Radiolabelled MIBG and Somatostatin Analogues,"Seminars in Nuclear Medicine,vol.XXV,No.3,pp.272−278を参照のこと)。
治療上の処置に最も適切な放射性同位体には、オージェ電子放射放射性同位体(例えば、125I、123I、124I、129I、131I、111In、77Br、および他の放射性標識ハロゲン)が含まれる。種々の要因(照射型、放射エネルギー、エネルギー付与距離、および放射性同位体の物理的半減期が含まれる)に基づいて、適切な放射性同位体の選択を至適化することができる。一定の例では、使用した放射性同位体は、HSC70ターゲティング療法の生物学的半減期に対応するかこれより長い放射能半減期を有するものである。例えば、一定の例では、放射性同位体の半減期は、約1時間と60日間の間、好ましくは5時間と60日間の間、より好ましくは12時間と60日間の間である。125Iは、患者の入院および隔離を必要とする高エネルギーγ線を発生する他の放射体(すなわち、111Inおよび131I)よりも有利である。125Iにより、身体より漏れ出す線量がかぎられていることに起因する外来患者ベースの治療を開発可能である。
放射性標識治療薬を、典型的には、静脈内注射、ボーラス注射によって投与した(例えば、H.P.Kalofonos et al.,(1989)"Antibody Guided Diagnosis and Therapy of Brain Gliomas using Radiolabeled Monoclonal Antibodies Against Epidermal Growth Factor Receptor and Placental Alkaline Phosphatase"The Journal of Nuclear Medicine vol.30,pp.163−645;L Virgolini et al.,(1994)"Vasoactive Intestinal Peptide−Receptor Imaging for the Localization of Intestinal Adenocarcinomas and Endocrine Tumors"The New England Journal of Medicine,vol.331,pp.,1116−21;G.A.Wiseman et al.,(1995)"Therapy of Neuroendocrine Tumors with Radiolabelled MIBG and Somatostatin Analogues"Seminars in Nuclear Medicine,vol.XXV,no.3,pp.272−78;S.W.J.Lamberts et al.,(1990)"Somatostatin−Receptor Imaging in the Localization of Endocrine Tumors"The New England Journal of Medicine vol.323,pp.126−49;E.P.Krenning et al.(1992)"Somatostatin Receptor Scintigraphy with Indium−111−DTPA−D−Phe−l−Octreotide in Man:Metabolism,Dosimetry and Comparison with Iodine−123−Tyr−3−Octreotide"The Journal of Nuclear Medicine vol.33,pp.652−58;E.P.Krenning et al.(1989)"Localisation of Endocrine−Related Tumours with Radioiodinated Analogue of Somatostatin,"The Lancet vol.1989,no.1,pp.242−244を参照のこと)。
ターゲティング遺伝子療法
HSC70ターゲティング療法のための細胞傷害薬として遺伝子ベクターを使用することもできる。例えば、腫瘍細胞内の抗体遺伝子(またはそのフラグメント)をコードする遺伝子ベクター。導入遺伝子発現産物は、細胞内タンパク質(例えば、癌遺伝子由来のもの)に結合し、それによって癌遺伝子のタンパク質発現を下方制御する。アデノウイルスベクターおよびレトロウイルスベクターをターゲティングするための二官能性架橋剤の使用、短いターゲティングペプチドおよびより巨大なポリペプチド結合ドメインの多数の異なるウイルスベクターの外殻タンパク質への挿入、ならびに複製コンピテントベクターの使用によって、ターゲティング遺伝子療法を容易にすることができる(Wand and Liu(2003)Acta Biochimica et Biophysica Sinica 35(4):311−6を参照のこと)。他の非ウイルス療法薬(DNA複合体および細菌賦形剤が含まれる)も開発されている。HSC70ターゲティング組成物のための遺伝子治療方法および本発明の方法を、当該分野で公知の遺伝子治療方法から適合させるか、米国特許第5,871,726号、同第5,885,806号、同第5,888,767号、同第5,981,274号、同第6,207,426号、同第6,210,708号、同第6,232,120号、同第6,498,033号、同第6,537,805号、同第6,555,107号、および同第6,569,426号から適合させることができる。
1つのアプローチでは、ターゲティング複製または非複製ウイルスベクターを使用して、遺伝子療法薬を送達することができる。例えば、アデノウイルス遺伝子療法ベクターを、新生物細胞のターゲティングに適合させる(Rots,et al.(2003)Journal of Controlled Release 87:159−165を参照のこと)。アデノウイルスベクターの選択的ターゲティングにより、より低用量のウイルスを使用することができるので、ウイルスベクターに対する炎症反応および免疫応答が制限されて治療の毒性が減少する。通常、アデノウイルス線維タンパク質(knowと呼ばれる)ならびに一次細胞受容体、コクサッキーBウイルス、およびアデノウイルス受容体(CAR)のC末端部分による標的細胞の結合によって、アデノウイルス感染を開始する。この工程後、ウイルスペントンベースタンパク質のRGD(arg−gly−asp)配列と細胞インテグリンとの相互作用によってウイルスが細胞に侵入する。アデノウイルスベクターの選択的ターゲティングを行うことができる。アデノウイルスベクターへのHSC70特異的抗体の結合(例えば、抱合)により、得られた構築物がHSC70発現新生物細胞、MDR新生物細胞、および損傷(例えば、病原体感染)細胞にターゲティングされる。例えば、このストラテジーは、上皮細胞接着分子(EGP−2)に対する抗体への中和抗線維タンパク質抗体の抱合による、腫瘍細胞上に存在するEGP−2抗原へのアデノウイルスのターゲティングに首尾よく適合させた(Heiderman e tal.(2001)Cancer Gene Ther.8:342−51)。得られたEGP−2アデノウイルスを、EGP−2を発現する癌細胞にターゲティングし、感染はCARと無関係であることが示された。別のストラテジーは、治療遺伝子送達ベクター(例えば、アデノウイルスベクター)に細胞表面HSC70を架橋するための二重特異性抗体の使用である(例えば、Haisma et al.(2000)Cancer Gene 7:901−4;Grill et al.(2001)Clin.Cancer Res.7:641−50;Krasnykh et al.(1998)J.Virol.72:1844−52;およびvan Beusechem et al.(2000)Gene Ther.7:1940−46を参照のこと)。
一般に、用語「ウイルスベクター」および「ウイルス」を、タンパク質合成機能またはエネルギー発生機構を持たない任意の偏性細胞内寄生体をいうために本明細書中で交換可能に使用する。ウイルスゲノムは、脂質膜の外殻タンパク質構造と共に含まれるRNAまたはDNAであり得る。用語「ウイルス」および「ウイルスベクター」を、本明細書中で交換可能に使用する。本発明の実施で有用なウイルスには、好ましくは、バキュロウイルス科、パルボウイルス科、ピコルナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、またはアデノウイルス科から選択される組換え改変包膜または非包膜DNAウイルスおよびRNAウイルスが含まれる。ウイルスは天然に存在するウイルスであり得るか、そのウイルスゲノムを、外因性導入遺伝子発現を含めるための組換えDNA技術によって改変することができ、複製欠損条件複製、または複製コンピテントであるように操作することができる。それぞれの親ベクターの特性の有利な要素を利用するキメラウイルスベクター(例えば、Feng,et al.(1997)Nature Biotechnology 15:866−870を参照のこと)はまた、本発明の実施で有用であり得る。本発明の実施にしたがって、ウイルス骨格がウイルスベクターのパッケージングに必要な配列のみを含み、且つ任意選択的に導入遺伝子発現カセットを含み得る最小ベクター系を産生することもできる。一般に治療すべき種由来のウイルスを使用することが好ましいが、いくつかの例では、好ましい病原体特性を有する異なる種由来のベクターを使用することが有利であり得る。例えば、ヒト遺伝子治療用のウマヘルペスウイルスベクターは、1998年8月5日公開のWO98/27216号に記載されている。ウマウイルスはヒトに対する病原性がないので、このベクターはヒトの治療に有用であると記載されている。同様に、ヒトアデノウイルスベクターに対する抗体を回避することが主張されているので、ヒツジアデノウイルスベクターをヒト遺伝子治療で使用することができる。このようなベクターは、1997年4月10日公開のWO97/06826号に記載されている。
用語「複製欠損」は、野生型哺乳動物中で複製することができないベクターをいう。このようなベクターを大量に産生するために、産生細胞株をヘルパーウイルスと同時トランスフェクトするか、失われた機能を補足するように改変しなければならない。例えば、293細胞を、293細胞中のE1欠失複製欠損アデノウイルスベクターを増殖させるアデノウイルスE1欠失を補足するように操作した。用語「複製コンピテントウイルスベクター」は、感染細胞の感染、DNA複製、パッケージング、および溶解が可能なウイルスベクターをいう。用語「条件付きで複製するウイルスベクター」を、特定の細胞型で選択的に発現する一方で、都合の悪い広範な感染を回避するようにデザインした複製コンピテントベクターをいうために本明細書中で使用する。このような条件付き複製を、初期遺伝子(例えば、アデノウイルスベクターのE1遺伝子)への組織特異的配列、腫瘍特異的配列、もしくは細胞型特異的配列、または他の選択的に誘導される調節配列の作動可能な連結によって行うことができる。
ターゲティングに加えて、ウイルス複製のリプレッサーを駆動する経路応答プロモーターの使用によって、ウイルスベクターとの細胞型の特異性を改良することができる。用語「経路応答性プロモーター」は、一定のタンパク質に結合して、近隣遺伝子を正常細胞内のタンパク質結合に対して転写的に応答させるDNA配列をいう。転写因子が結合する配列である応答エレメントの組み込みによって、このようなプロモーターを作製することができる。このような応答は、一般に誘導性であるが、タンパク質レベルの増加によって転写が減少する場合もある。経路応答プロモーターは、天然に存在するか合成であり得る。経路応答プロモーターを、典型的には、ターゲティングされる経路または機能タンパク質に関連して構築する。例えば、天然に存在するp53経路応答プロモーターには、p21またはbaxプロモーターなどの機能的p53の存在によって活性化される転写調節エレメントが含まれる。あるいは、最小プロモーター上流のp53結合部位(例えば、SV40 TATAボックス領域)を含む合成プロモーターを使用して、合成経路応答プロモーターを作製することができる。合成経路応答プロモーターを、一般に、コンセンサス結合モチーフに適合する1つまたは複数の配列コピーから構築する。このようなコンセンサスDNA結合モチーフを容易に決定することができる。このようなコンセンサス配列を、一般に、数個の塩基対によって分断された直接または頭−尾反復として配置する。
本発明の実施で有用な経路応答プロモーターの例には、コンセンサスインスリン結合配列を含む合成インスリン経路応答プロモーター(Jacob,et al.(1995)J.Biol.Chem.270:27773−27779)、サイトカイン経路応答プロモーター、糖質コルチコイド経路応答プロモーター(Lange,et al.(1992)J Biol.Chem.267:15673−80)、IL1およびIL6経路応答プロモーター(Won K.−A and Baumann H.(1990)Mol.Cell.Biol.10:3965−3978)、T3経路応答プロモーター、コンセンサスモチーフを含む甲状腺ホルモン経路応答プロモーター、TPA経路応答プロモーター(TRE)、TGF−β経路応答プロモーター(Grotendorst,et al.(1996)Cell Growth and Differentiation 7:469−480に記載)が含まれる。さらに、天然または合成のE2F経路応答プロモーターを使用することができる。E2F経路応答プロモーターの例は、4つのE2F結合部位を含むE2F−1プロモーターを記載しているParr,et al.(1997)Nature Medicine 3:1145−1149)に記載されており、報告によれば迅速に循環する腫瘍細胞で活性である。他の経路応答プロモーターの例は当該分野で周知であり、インターネットによってhttp://www.eimb.rssi.ru/TRRDでアクセス可能なDatabase of Transcription Regulatory Regions on Eukaryotic Genomesで同定することができる。
本発明の一定の適用では、ウイルスベクターはアデノウイルスである。用語「アデノウイルス」は、用語「アデノウイルスベクター」と同義であり、アデノウイルス科のウイルスをいう。用語「アデノウイルス科」は、集合的にマストアデノウイルス属の動物アデノウイルスをいい、ヒト、ウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ブタ、マウス、およびサルアデノウイルス亜属が含まれるが、これらに限定されない。特に、ヒトアデノウイルスには、A〜F亜属および各血清型が含まれ、各血清型およびA〜F亜属には、ヒトアデノウイルス1型、2型、3型、4型、4a型、5型、6型、7型、8型、9型、10型、11(AdllA and Ad 11P)型、12型、13型、14型、15型、16型、17型、18型、19型、19a型、20型、21型、22型、23型、24型、25型、26型、27型、28型、29型、30型、31型、32型、33型、34型、34a型、35型、35p型、36型、37型、38型、39型、40型、41型、42型、43型、44型、45型、46型、47型、48型、および91型が含まれるが、これらに限定されない。用語「ウシアデノウイルス」には、ウシアデノウイルス1型、2型、3型、4型、7型、および10型が含まれるが、これらに限定されない。用語「イヌアデノウイルス」には、イヌ1型(CLL株、Glaxo株、RI261株、Utrect株、Toronto26−61株)および2型が含まれるが、これらに限定されない。用語「ウマアデノウイルス」には、ウマ1型および2型が含まれるが、これらに限定されない。用語「ブタアデノウイルス」には、ブタ3型および4型が含まれるが、これらに限定されない。用語「ウイルスベクター」には、複製欠損ウイルスベクター、複製コンピテントウイルスベクター、および条件付き複製ウイルスベクターが含まれる。
ヒトアデノウイルス2型および5型由来のベクターが特に有用である。これらのベクターを、その治療潜在能力を増強するために特定の改変を行うことができる。例えば、これらには、E1およびE1b遺伝子の欠失が含まれ得る。特定の特徴を得るために、一定の他の領域を増強または欠失することができる。例えば、E3領域の上方制御により、ヒト被験体に投与したヒトアデノウイルスベクターに関連する免疫原性が減少すると説明される。E4領域は、CMVプロモーター由来の導入遺伝子の発現に重要と見なされているが、E4orf6タンパク質は、E1b巨大タンパク質の存在下で標的細胞中のp53を分解させると説明されている(Steegenga,et al.(1998)Oncogene 16:345−347)。
送達すべき治療遺伝子は、一般に、細胞傷害性遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、毒素遺伝子、プロアポトーシス遺伝子、プロドラッグ活性化遺伝子、またはサイトカイン遺伝子である。用語「細胞傷害性導入遺伝子」は、標的細胞内でのその発現により細胞の溶解またはアポトーシスを誘導するヌクレオチド配列をいう。用語「細胞傷害性導入遺伝子」には、腫瘍抑制遺伝子、毒素遺伝子、細胞増殖抑制遺伝子、プロドラッグ活性化遺伝子、またはアポトーシス遺伝子が含まれるが、これらに限定されない。本発明のベクターを使用して、IRESエレメントの使用または独立して調節されるプロモーターのいずれかによって縦列に1つまたは複数の治療導入遺伝子を産生することができる。
用語「腫瘍抑制遺伝子」は、標的細胞内でのその発現により新生物表現型の抑制および/またはアポトーシスの誘導が可能なヌクレオチド配列をいう。本発明の実施で有用な腫瘍抑制遺伝子の例には、p53遺伝子、APC遺伝子、DPC−4遺伝子、BRCA−1遺伝子、BRCA−2遺伝子、WT−1遺伝子、網膜芽細胞腫遺伝子(Lee,et al.(1987)Nature 329:642)、MMAC−1遺伝子、大腸腺腫性ポリポーシスタンパク質(米国特許第5,783,666号)、欠失結腸癌(deleted in colon carcinoma)(DCC)遺伝子、MMSC−2遺伝子、NF−1遺伝子、染色体3p21.3でマッピングされた鼻咽頭癌腫瘍抑制遺伝子(Cheng,et al.(1998)Proc.Nat.Acad.Sci.95:3042− 3047)、MTS1遺伝子、CDK4遺伝子、NF−1遺伝子、NF2遺伝子、およびVHL遺伝子が含まれる。
用語「毒素遺伝子」は、細胞内でのその発現により毒作用を生じるヌクレオチド配列をいう。このような毒素遺伝子の例には、シュードモナス外毒素、リシン毒素、およびジフテリア毒素などをコードするヌクレオチド配列が含まれる。
用語「プロアポトーシス遺伝子」は、その発現により細胞がプログラム細胞死するヌクレオチド配列をいう。プロアポトーシス遺伝子の例には、p53、アデノウイルスE3−11.6K、アデノウイルスE4orf4遺伝子、p53経路遺伝子、およびカスパーゼをコードする遺伝子が含まれる。
用語「プロドラッグ活性化遺伝子」は、その発現により非治療化合物を治療化合物に変換して外部要因によって細胞を死滅感受性にするか細胞内を有毒条件にすることができるタンパク質が産生されるヌクレオチド配列をいう。プロドラッグ活性化遺伝子の例は、シトシンデアミナーゼ遺伝子である。シトシンデアミナーゼは、5−フルオロシトシンを5−フルオロウラシル(強力な抗腫瘍薬)に変換する。腫瘍細胞の溶解により、腫瘍の局在点で5FCを5FUに変換して多数の周囲の腫瘍細胞を死滅させることができるシトシンデアミナーゼの局在化バーストが得られる。これにより、アデノウイルスを使用してこれらの細胞に感染させることなく多数の腫瘍細胞が死滅する(いわゆる「バイスタンダー効果」)。さらに、TK遺伝子産物を発現する細胞がガンシクロビルの投与による選択的死滅に感受性を示すチミジンキナーゼ(TK)遺伝子(米国特許第5,631,236号および同第5,601,818号を参照のこと)を使用することができる。
用語「サイトカイン遺伝子」は、細胞内での発現によりサイトカインを産生するヌクレオチド配列をいう。このようなサイトカインの例には、GM−CSF、インターロイキン(詳細には、IL−1、IL−2、IL−4、IL−12、IL−10、IL−19、IL−20)、インターフェロンα、β、およびγのサブタイプ(詳細には、インターフェロンα−2b)、およびインターフェロンα−2−α−1などの融合物が含まれる。
野生型タンパク質の機能的サブフラグメントをコードするための上記遺伝子に対する修飾および/または欠失を、本発明の実施での使用に容易に適合させることができる。例えば、p53遺伝子の参考例には、野生型タンパク質だけでなく修飾p53タンパク質も含まれる。このような修飾p53タンパク質の例には、核保持を増加するためのp53修飾、カルパインコンセンサス切断部位を排除するためのδ13〜19アミノ酸などの欠失、オリゴマー形成ドメインに対する修飾(Bracco,etal.PCT公開出願WO97/0492号または米国特許第5,573,925号に記載)が含まれる。
本発明は、さらに、遺伝子ターゲティング非ウイルスベクターの使用を含む。本発明のこの態様での使用のための「非ウイルスベクター」には、通常のゲノムと異なり、且つ標的細胞中でのDNA配列の発現に影響を与え得る非選択的条件下での細胞生存に不必要な自律複製染色体外環状DNA分子が含まれる。プラスミドは、細菌産生を促進するために細菌中で自律的に複製される。組換えベクターの存在について選択またはスクリーニングするために薬物耐性をコードする遺伝子などのさらなる遺伝子を含めることができる。このようなさらなる遺伝子には、例えば、ネオマイシン耐性、多剤耐性、チミジンキナーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、およびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が含まれ得る。
治療遺伝子を新生物細胞、MDR新生物細胞、および損傷(例えば、病原体感染)細胞にターゲティングするために、一定の例では、さらなるエレメントを細胞ターゲティングを容易にする非ウイルス遺伝子送達系に組み込むことが有利である。例えば、脂質カプセル化発現プラスミドは、ターゲティングを容易にするためにHSC70抗体またはリガンドを組み込むことができる。単純なリポソーム処方物を投与することができるが、本発明の所望の組成物を充填または与えられたリポソームを全身投与することができるか、目的の組織に指向させ、その後リポソームは選択された治療/免疫原性ペプチド組成物を送達する。この適用で使用するためのHSC70抗体およびリガンドには、抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、またはその機能的部分(Fv、Fab、Fab’)が含まれる。あるいは、Wu,et al.に付与された米国特許第5,166,320号および同第5,635,383号に記載のように、非ウイルスベクターを、ポリリジン部分を介してターゲティング部分に連結することができる。
リポソーム処方物
治療薬のHSC70ターゲティング送達のために使用することができる別のストラテジーは、免疫リポソームの使用である。免疫リポソームは、腫瘍関連抗原に対する抗体を他の不活性プロドラッグを活性化する治療薬または酵素を保有するリポソームに組み込む(例えば、Lasic et al.(1995)Science 267:1275−76を参照のこと)。多数の前臨床報告では、免疫リポソーム薬物を使用した首尾の良いターゲティングおよび抗癌有効性の増強が報告されている(Maruyama et al.(1990)J.Pharm.Sci.74:978−84);Maruyama et al.(1995)Biochim.Biophys.Acta 1234:74−80;Otsubo et al.(1998)Antimicrob.Agents Chemother.42:40−44;Lopes de Menezes et al.(1998)Cancer Res.58:3320−30)。
あるいは、修飾LDLなどの非抗体HSC70結合剤を、治療薬のリポソーム処方物のターゲティングにおける腫瘍特異的リガンドとして使用することができる。例えば、葉酸結合リポソームを使用して、葉酸受容体を過剰発現する腫瘍に治療薬をターゲティングすることができる。葉酸結合リポソームは、in vitroおよびin vivoで葉酸受容体過剰発現癌細胞に首尾よく送達された(Lee and Low(1994)J.Biol.Chem.269:3198−204;Lee and Low(1995)Biochim.Biophys.Acta 1233:134−44;Ruiet al.(1998)J.Am.Chem.Soc.120:11213−18;およびGabizonet al.(1999)Bioconj.Chem.10:289−98)。実際、いくつかの前臨床報告では、このようなリガンドに結合したリポソーム薬の首尾の良いターゲティングが記載されている(Ichinose et al.(1998)Anticancer Res.18:401−4;Yamamoto et al.(2000)Oncol.Rep.7:107−11;Rui et al.(1998)J.Am.Chem.Soc.120:11213−18;およびGabizon et al.(1999)Bioconi.Chem.10:289−98)。in vivoで種々の癌細胞型にリポソーム薬を指向させるためのターゲティングリガンドとしてトランスフェリンが使用されている(Ishida and Maruyama(1998)Nippon Rinsho 56:657−62;Kirpotin et al.(1997)Biochem.36:66−75)。PEGの遠位末端に結合した抗トランスフェリン抗体を含むPEG−免疫リポソームは、in vitroでC6神経膠腫(glima)細胞と優先的に会合し、ドキソルビシンを含む腫瘍特異的長期循環リポソームでの治療後に神経膠腫ドキソルビシン取り込みが有意に増加した(Eavarone et al.(2000)J.Biomed.Mater.Res.51:10−14)。
リポソームミセル/薬物処方物の形成方法は、当該分野で公知である。例えば、治療薬ミセルを、治療薬とホスファチジルグリセロール脂質誘導体(PGL誘導体)との組み合わせによって形成することができる。簡単に述べれば、治療薬およびPGL誘導体を、1:1〜1:2.1の範囲で混合して治療薬混合物を形成する。あるいは、治療薬:PGL誘導体比は、1:1.2、1:1.4、1:1.5、1:1.6、1:1.8、1:1.9、1:2.0、または1:2.1の範囲である。混合物を、有効量の少なくとも20%有機溶媒(エタノール溶液など)と組み合わせて、治療薬を含むミセルを形成させる。免疫リポソームを産生するための抗体または腫瘍ターゲティングリガンドのミセル処方物への封入方法は当該分野で公知であり、以下にさらに記載する。例えば、免疫リポソームの調製方法および使用は、米国特許第4,957,735号、同第5,248,590号、同第5,464,630号、同第5,527,528号、同第5,620,689号、同第5,618,916号、同第5,977,861号、同第6,004,534号、同第6,027,726号、同第6,056,973号、同第6,060,082号、同第6,316,024号、同第6,379,699号、同第6,387,397号、同第6,511,676号、および同第6,593,308号に記載されている。
本明細書中で使用される、用語「ホスファチジルグリセロール脂質誘導体(PGL誘導体)」は、ミセルを形成する能力を有し、且つ正味で負電荷の末端基を有する任意の脂質誘導体である。これには、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、およびジカプリルホスファチジルグリセロールが含まれるが、これらに限定されない。1つの態様では、10個〜28個の炭素鎖および不飽和脂肪族側鎖を含むホスファチジル誘導体は、本発明の範囲内である。正味が正電荷(1:1)、中性(1:2)、またはわずかに負電荷(1:2.1)の粒子が得られる分子比の変動物(variation)を有する負電荷のホスファチジルグリセロール脂質での治療薬の複合体化によって、投与後に体内の異なる組織をターゲティングすることが可能である。しかし、負電荷のPGLでの治療薬の複合体化は、多くの場合治療薬の溶解性を高めることが示されているので、有効な抗新生物療法に必要な薬物の体積が減少する。さらに、治療薬と負電荷PGLとの複合体形成により、カプセル化効率が非常に高くなるので、製造プロセス時の薬物損失が最小になる。これらの複合体は安定であり、沈殿を形成せず、4℃で少なくとも4ヶ月の保存後も治療有効性を保持する。細網内皮系(RES)による血液循環からの急速なクリアランスの回避によって最大の治療有効性を達成するために、免疫リポソーム薬処方物にポリエチレングリコール(PEG)などの成分を組み込むことができる(Klibanov et al.(1990)FEBS Lett.268:235−7;Mayuryama et al.(1992)Biochim.Biophys.Acta 1128:44−49;Allenet al.(1991)Biochim.Biophys.Acta 1066:29−36を参照のこと)。免疫リポソームへのPEG抱合は、血中リポソーム循環を延長し、リポソーム薬の治療有効性を増強することが示されている(Daemen et al.(1997)J.Control Rel.44:1−9;Storm et al.(1998)Clin.Cancer Res.4:111−115;Vaage et al.(1997)Br.J.Cancer 75:482−6;Gabizon et al.(1994)Cancer Res.54:987−92)。長期循環免疫リポソームを、以下の2つの型に分類することができる:脂質頭部の成長に関連する抗体を有するもの(Maruyama et al.(1990)J.Pharm.Sci.74:978−84);およびPEGの遠位末端に結合した抗体を含むもの(Maruyama et al.(1997)Adv.Drug Del.Rev.24:235−42)。一定の例では、PEG鎖の立体障害の回避よって有効な標的結合を得るために、PEGポリマーの遠位末端に腫瘍特異的抗体を位置づけることが有利であり得る。この免疫リポソーム処方物型は、肺(Maruyama et al.(1995)Biochim.Biophys.Acta 1234:74−80;脳(Huwyler et al.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:14164−69);および腫瘍(Allen et al.(1995)Biochem.Soc.Transact.23:1073−79)へのin vivoターゲティングにおいて首尾よく使用されている。
免疫リポソーム処方物による薬物の有効な送達を、一般に、エンドサイトーシスを介した結合免疫リポソームの能動的取り込みによって増強する。組み込まれた免疫リポソームの至適なターゲティングおよび送達を確実にするためのファージディスプレイライブラリー由来の腫瘍細胞への至適化された内在化のために、ヒトscFv抗体を選択することができる(Poul et al.(2000)J.Mol.Biol.301:1149−61;Schier et al.(1996)J.Mol.Biol.263:551−67を参照のこと)。
抗体媒介腫瘍ターゲティングに関する別のストラテジーは、腫瘍細胞膜から近位に高濃度の抗癌薬が得られるようにデザインした2工程治療アプローチである抗体指向性酵素プロドラッグ(antibody−directed enzyme pro−drug)(ADEPT)である(Springer et al.(1996)Adv.Drug Deliv.Rev.22:351−64)。このストラテジーを使用して、所与の腫瘍結合抗原と優先的に結合する酵素−抗体抱合体を最初に投与し、その後にターゲティングされた酵素の作用によって活性化される非毒性プロドラッグを注射する。酵素−抗体抱合体の代わりにプロドラッグ活性化酵素のターゲティングキャリアとして免疫リポソームを使用した改良ADEPTが開発および試験された(Storm et al.(1997)Adv.Deliv.Rev.24:225−31;Vingerhoeds et al.(1993)FEBS Lett.336:485−90)。
治療
本発明は、治療または予防有効量の抗HSC70抗体または前記抗体をコードする核酸分子の投与による、癌(新生物、腫瘍、転移、または制御不能の細胞成長によって特徴づけられる任意の疾患もしくは障害、特にその多剤耐性形態が含まれるが、これらに限定されない)の治療または防止を提供する。本発明のHSC70ターゲティング治療薬で治療される癌および増殖障害型の例には、白血病(例えば、骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、赤白血病、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病、および慢性リンパ球性白血病)、リンパ腫(例えば、ホジキン病および非ホジキン病)、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、血管肉腫、内皮肉腫、ユーイング腫瘍、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、腎細胞癌、肝細胞癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、乏突起膠腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、形成異常、および過形成が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、本発明の治療化合物を、前立腺癌(例えば、前立腺炎、良性前立腺肥大、良性前立腺過形成(BPH)、前立腺傍神経節腫、前立腺癌、前立腺上皮内新形成、前立腺−直腸瘻、および非定型前立腺間質病変)の男性に投与する。癌の治療および/または防止には、癌に関連する症状の緩和、癌進行の抑制、癌退行の促進、および免疫応答の促進が含まれるが、これらに限定されない。1つの実施形態では、市販または天然に存在する抗HSC70抗体、その機能的に活性なフラグメントもしくは誘導体を本発明で使用する。
HSC70治療薬を、単独または他の癌治療薬型(例えば、放射線療法薬、化学療法薬、ホルモン療法薬、免疫療法、および抗腫瘍薬)と組み合わせて投与することができる。抗腫瘍薬の例には、シスプラチン、イホスファミド、パクリタキセル、タキサン、トポイソメラーゼIインヒビター(例えば、CPT−11、トポテカン、9−AC、およびGG−211)、ゲムシタビン、ビノレルビン、オキサリプラチン、5−フルオロウラシル(5−FU)、ロイコボリン、ビノレルビン、テモダール、およびタキソールが含まれるが、これらに限定されない。1つの実施形態では、1つまたは複数の抗HSC70抗体を、癌の外科的切除後に動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)に投与する。別の実施形態では、1つまたは複数のHSC70抗体を、化学療法または放射線療法と組み合わせて動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)に投与する。別の実施形態では、癌の防止または治療のために、1つまたは複数の抗HSC70抗体を、動物の血漿への投与前(例えば、1分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、8時間前、12時間前、24時間前、2日前、または1週間前)、投与後(例えば、1分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後、24時間後、2日後、または1週間後)、または同時に動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)に投与する。
癌の防止または治療のために、本明細書中に記載の抗HSC70抗体および他のHSC70ターゲティング治療薬を、IgG抗体、IgM抗体、および/または1つまたは複数の補体成分の動物への投与前(例えば、1分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、8時間前、12時間前、24時間前、2日前、または1週間前)、投与後(例えば、1分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後、24時間後、2日後、または1週間後)、または同時に動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)に投与することができる。別の好ましい実施形態では、1つまたは複数の抗HSC70抗体を、1つまたは複数の癌細胞抗原に免疫特異的な抗体の投与前(例えば、1分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、8時間前、12時間前、24時間前、2日前、または1週間前)、投与後(例えば、1分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後、24時間後、2日後、または1週間後)、または同時に動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)に投与する。さらに別の好ましい実施形態では、癌の防止または治療のために、1つまたは複数の抗HSC70抗体を、現在癌治療で使用されている抗体の投与前(例えば、1分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、8時間前、12時間前、24時間前、2日前、または1週間前)、投与後(例えば、1分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後、24時間後、2日後、または1週間後)、または同時に動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)に投与する。このような抗体の例には、ヘルセプチン、レツキサン(Retuxan)、オバレックス、パノレックス、BEC2、IMC−C225、ビタキシン(Vitaxin)、キャンパスI/H、スマートMI95、リムホシド(LymphoCide)、スマートID10、およびオンコリム(Oncolym)が含まれるが、これらに限定されない。
本発明は、さらに、治療または予防有効量の本明細書中に記載の抗HSC70抗体もしくは前記抗体をコードする核酸分子または他のHSC70ターゲティング治療薬の投与を含む、動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)のウイルス感染症および他の病原体の感染症の治療または防止方法を提供する。本発明にしたがって治療または防止することができるウイルス感染症の例には、レトロウイルス(例えば、ヒトT細胞リンパ栄養ウイルス(HTLV)I型およびII型ならびにヒト免疫不全ウイルス(HIV))、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)I型およびII型、エプスタイン−バーウイルス、ならびにサイトメガロウイルス)、アレナウイルス(例えば、ラッサ熱ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、モルビリウイルス、ヒトRSウイルス、およびニューモウイルス)、アデノウイルス、ブニヤウイルス(例えば、ハンタウイルス)、コロナウイルス、フィロウイルス(例えば、エボラウイルス)、フラビウイルス(例えば、C型肝炎ウイルス(HCV)、黄熱ウイルス、および日本脳炎ウイルス)、ヘパドナウイルス(例えば、B型肝炎ウイルス(HBV))、オルトミクソウイルス(例えば、センダイウイルスおよびインフルエンザウイルスA、B、およびC)、パポーバウイルス(例えば、乳頭腫ウイルス)、ピコルナウイルス(例えば、ライノウイルス、エンテロウイルス、およびA型肝炎ウイルス)、ポックスウイルス、レオウイルス(例えば、ロタウイルス)、トガウイルス(例えば、風疹ウイルス)、およびラブドウイルス(例えば、狂犬病ウイルス)に起因するウイルス感染症が含まれるが、これらに限定されない。ウイルス感染症の治療および/または防止には、感染に関連する症状の緩和、ウイルス複製の阻害または抑制、および免疫応答の増強が含まれるが、これらに限定されない。
本明細書中に記載のHSC70ターゲティング治療薬を、単独または他の抗ウイルス薬型または他の病原体薬型と組み合わせて投与することができる。抗ウイルス薬の例には、サイトカイン(例えば、IFN−α、IFN−β、およびIFN−γ);逆転写酵素のインヒビター(例えば、AZT、3TC、D4T、ddC、ddI、d4T、3TC、アデフォビル、エファビレンツ、デラビルジン、ネビラピン、アバカビル、および他のジデオキシヌクレオシドまたはジデオキシフルオロヌクレオシド);リバビリンなどのウイルスmRNAキャッピングのインヒビター;このようなHIVインヒビターなどのプロテアーゼインヒビター(例えば、アンプレナビル、インジナビル、ネルフィナビル、リトナビル、およびサキナビル);アンホテリシンB;糖タンパク質プロセシングインヒビターとしてのカスタノスペルミン;インフルエンザウイルスノイラミニダーゼインヒビターなどのノイラミニダーゼインヒビター(例えば、ザナミビルおよびオセルタミビル);トポイソメラーゼIインヒビター(例えば、カンプトテシンおよびそのアナログ);アマンタジン、およびリマンタジンが含まれるが、これらに限定されない。例えば、ウイルス感染症の防止または治療のために、1つまたは複数の抗HSC70抗体−薬物抱合体を、動物への血漿の投与前(例えば、1分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、8時間前、12時間前、24時間前、2日前、または1週間前)、投与後(例えば、1分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後、24時間後、2日後、または1週間後)、または同時に動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)に投与する。
他の例では、ウイルス感染症の防止または治療のために、1つまたは複数のHSC70ターゲティング治療薬を、IgG抗体、IgM抗体、および/または1つまたは複数の補体成分の動物への投与前(例えば、1分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、8時間前、12時間前、24時間前、2日前、または1週間前)、投与後(例えば、1分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後、24時間後、2日後、または1週間後)、または同時に動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)に投与する。別の好ましい実施形態では、ウイルス感染症の防止または治療のために、抗HSC70抗体を、1つまたは複数のウイルス抗原に免疫特異的な抗体の投与前(例えば、1分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、8時間前、12時間前、24時間前、2日前、または1週間前)、投与後(例えば、1分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後、24時間後、2日後、または1週間後)、または同時に動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)に投与する。ウイルス抗原に免疫特異的な抗体の例には、シナギス(Synagis)、RTM、PRO542、オスタビル(Ostavir)、およびプロトビル(Protovir)が含まれるが、これらに限定されない。
本発明は、さらに、治療または予防有効量の抗HSC70ターゲティング治療薬の投与を含む、動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)の微生物感染症の治療または防止方法を提供する。本発明にしたがって治療または防止することができる微生物感染症の例には、酵母感染症、真菌感染症、原生動物感染症、および細菌感染症が含まれるが、これらに限定されない。微生物感染症を引き起こす細菌には、化膿連鎖球菌、ストレプトコッカス・ニューモニエ、淋菌、髄膜炎菌、ジフテリア菌、ボツリヌス菌、クロストリジウム・パーフリンジェンス、破傷風菌、インフルエンザ菌、肺炎桿菌、クレブシエラ・オザエナエ(Klebsiella ozaenae)、クレブシエラ・リノスクレロモティス(Klebsiella rhinoscleromotis)、黄色ブドウ球菌、コレラ菌、大腸菌、緑膿菌、カンピロバクター(ビブリオ)・フィタス、カンピロバクター・ジェジュニ、エロモナス・ヒドロフィラ、バチルス・セレウス、エドワージエラ・タルダ、腸炎エルシニア、ペスト菌、偽結核菌、シゲラ・ディゼンテリエ、シゲラ・フレキシネリ、シゲラ・ソンネイ、ネズミチフス菌、トレポネーマ・パリダム、フランベジアトレポネーマ、トレポネーマ・カラテノイム(Treponema carateneum)、ボレリア・ビンセンチイ(Borrelia vincentii)、ボレリア・ブルグドルフェリ、黄疸出血性レプストピラ、結核菌、トキソプラズマ・ゴンディ、ニューモシスチス・カリニイ、野兎病菌、ブルセラ・アボルタス、ブルセラ・スイス、ブルセラ・メリテンシス、マイコプラズマ属、腸チフスリケッチア、ツツガムシ病リケッチア、クラミジア属、およびヘリコバクター・ピロリが含まれるが、これらに限定されない。微生物感染症の治療および/または防止には、感染に関連する症状の緩和、複製の阻害もしくは抑制、および免疫応答の増強が含まれるが、これらに限定されない。
HSC70ターゲティング治療薬を、単独または他の抗菌薬型と組み合わせて投与することができる。抗菌薬の例には、ペニシリン、アモキシシリン、アンピシリン、カルベニシリン、チカルシリン、ピペラシリン、セファロスポリン、バンコマイシン、テトラサイクリン、エリスロマイシン、アンフォテリシンB、ナイスタチン、メトロイダゾール、ケトコナゾール、およびペンタミジンなどの抗生物質が含まれるが、これらに限定されない。1つの実施形態では、細菌感染症の防止または治療のために、HSC70ターゲティング治療薬を、血漿の動物への投与前(例えば、1分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、8時間前、12時間前、24時間前、2日前、または1週間前)、投与後(例えば、1分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後、24時間後、2日後、または1週間後)、または同時に動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)に投与する。
一定の場合、細菌感染症の防止または治療のために、1つまたは複数のHSC70ターゲティング治療薬を、IgG抗体、IgM抗体、および/または1つまたは複数の補体成分の動物への投与前(例えば、1分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、8時間前、12時間前、24時間前、2日前、または1週間前)、投与後(例えば、1分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後、24時間後、2日後、または1週間後)、または同時に動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)に投与する。他の例では、細菌感染症の防止または治療のために、1つまたは複数のHSC70ターゲティング治療薬を、1つまたは複数の細菌抗原に免疫特異的な抗体の投与前(例えば、1分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、8時間前、12時間前、24時間前、2日前、または1週間前)、投与後(例えば、1分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後、24時間後、2日後、または1週間後)、または同時に動物(好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト)に投与する。細菌抗原に免疫特異的な抗体の例には、LPSおよび莢膜性ポリサッカリド5/8に免疫特異的な抗体が含まれるが、これらに限定されない。一定の実施形態では、ウイルスまたは細菌感染リスクが増加した動物に、本発明の組成物を投与する。このような動物の例には、ヒト火傷患者、乳児、免疫無防備もしくは免疫不全のヒト、および高齢者が含まれるが、これらに限定されない。
キット
本発明は、さらに、新形成および多剤耐性新形成のための診断または予後および治療方法で使用するためのキットを提供する。診断キットは、例えば、患者サンプルまたは患者におけるin situで細胞表面HSC70発現新形成の検出および多剤耐性細胞の発生のモニタリングに有用である。例えば、患者に対する一連の化学療法時に、本明細書中に記載の細胞表面HSC70および他のMDR関連マーカーのモニタリングによって、治療有効性および多剤耐性発生の回避に関する貴重な情報が得られる。例えば、キットは、生体サンプル中の細胞表面HSC70タンパク質を検出することができる標識化合物または薬剤;サンプル中の細胞表面HSC70量の決定手段;およびサンプル中のHSC70の量と標準(例えば、通常の非新生物細胞または非MDR新生物細胞)の量との比較手段を含み得る。化合物または薬剤を、適切なコンテナにパッケージングすることができる。キットは、さらに、細胞表面HSC70タンパク質および他のMDR関連マーカーを検出するためのキットの使用説明書を含み得る。このようなキットは、例えば、細胞表面HSC70タンパク質の少なくとも一部に特異的に結合することができる1つまたは複数の抗体を含み得る。
HSC70ワクチン
免疫学的組成物(ワクチンが含まれる)およびHSC70タンパク質またはその一部を含む他の薬学的組成物は、本発明の範囲内に含まれる。ワクチン分野の当業者に公知の方法および材料を使用して、1つまたは複数のHSC70タンパク質またはその活性もしくは抗原性のフラグメント、またはその融合タンパク質を処方し、単独または他の抗原と組み合わせてパッケージングすることができる。治療または予防に免疫応答を使用することができ、Tリンパ球などによって産生される抗体免疫または細胞性免疫を得ることができる。
免疫原性を増強するために、タンパク質を、キャリア分子に抱合することができる。適切な免疫原性キャリアには、アルブミン、ヘモシアニン、チログロブリン、およびその誘導体などのタンパク質、ポリペプチド、またはペプチド(特に、ウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH))、ポリサッカリド、炭水化物、ポリマー、および固相が含まれる。他のタンパク質由来または非タンパク質由来の物質は、当業者に公知である。免疫原性キャリアの分子量は、典型的には少なくとも1,000ダルトン、好ましくは10,000ダルトンを超える。キャリア分子は、しばしば、ハプテンとの共有結合性抱合を容易にするための反応基を含む。アミノ酸のカルボン酸基またはアミン基または糖タンパク質の糖基をしばしばこの様式で使用する。このような基を欠くキャリアを、しばしば、これらを産生するために適切な化学物質と置換することができる。好ましくは、免疫原を動物(マウス、ウサギ、ラット、ヤギ、ヒツジ、モルモット、ニワトリ、および他の動物など、最も好ましくはマウスおよびウサギ)に注射した場合、免疫応答が得られる。あるいは、タンパク質もしくはポリペプチドの複数のコピーまたは抗原的または免疫学的に等価なポリペプチドを含む複数の抗原ペプチドは、キャリアを使用せずに免疫原性を改良するのに十分に抗原性を示し得る。
HSC70タンパク質またはその一部(コンセンサスまたは可変配列アミノ酸モチーフなど)またはタンパク質の組み合わせを、抱合体に対する免疫応答を増強するのに有効な量のアジュバントと共に投与することができる。ヒトで広く使用されている1つのアジュバントは、ミョウバン(リン酸アルミニウムまたは水酸化アルミニウム)である。サポニンおよびその精製成分(QuiA)、フロイント完全アジュバント、および研究および獣医学的適用で使用される他のアジュバントも利用可能である。ムラミルジペプチド、モノホスホリル脂質A、リン脂質抱合体などの化学的に定義された調製物(Goodman−Snitkoff et al.(1991)J.Immunol.147:410−415(本明細書中で参考として援用される)に記載されているものなど)、Miller et al.(1992)J.Exp.Med.176:1739−1744(本明細書中で参考として援用される)に記載のプロテオリポソーム内の抱合体のカプセル化、およびNovasome(商標)脂質小胞(Micro Vescular Systems,Inc.,Nashua,N.H.)などの脂質小胞中へのタンパク質のカプセル化も有用であり得る。
本発明は、図12Aに示すHSC70ポリペプチドフラグメントまたはインタクトなHSC70ポリペプチドのサブシーケンスを含む(配列番号1)。DNAワクチンの場合、このようなHSC70ポリペプチドサブシーケンスまたはこれらをコードする対応核酸配列を、免疫原性が高くなるように選択することが好ましい。抗HSC70ワクチンの産生目的のための抗原性の原理を、本明細書中に記載のHSC70ベースの診断および治療法で使用するための抗HSC70ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を作製するための免疫原として使用するためのHSC70ポリペプチド配列の使用にも適用する。
ポリペプチド配列の抗原性を予想するためのコンピュータ支援アルゴリズムを広範に利用可能である。例えば、「antigenic」は、Kolaskarの方法を使用して潜在的な抗原性領域を検索する(Kolaskar and Tongaonkar(1990)FEBS Letters 276:172−174"A semi−empirical method for prediction of antigenic determinants on protein antigens"を参照のこと)。その最初の研究では、Kolaskar and Tongaonkarは、169種の抗原性領域を実験的に試験した。1決定基あたり20個未満のアミノ酸を有する156種の領域を選択した(全部で2066残基)。抗原決定基中の各残基の出現頻度としてf(Ag)を計算した(f(Ag)=エピトープ_発生/2066)。親水性、近づき易さ、および可塑性の値は、Parker,et al.(Parker,et al.(1986)Biochemistry 25:5425−5432を参照のこと)に由来する。所与のタンパク質では、各七量体の平均を計算し、値を七量体の中央の残基に割り当てる。任意の七量体の値がタンパク質の平均を超える場合、残基は表面上に存在すると見なす。これらの結果を使用して、表面上のアミノ酸の出現頻度としてf(s)を得た。予測アルゴリズムは、以下の工程を含む:各重複七量体の平均傾向を計算して七量体の中央の残基(i+3)に結果を割り当てる工程と、全タンパク質の平均を計算する工程と、全タンパク質の平均が1.0を超える場合に1.0を超える全ての残基は潜在的に抗原性であることと、全タンパク質の平均が1.0未満である場合に全タンパク質の平均を超える全ての残基(注釈:元の論文ではここに式の残骸がある。)は潜在的に抗原性であることと、全残基が工程3によって選択された場合、六量体が見出されること。
ポリペプチドサブシーケンスの抗原性の別の決定方法は、Hopp and Woods((1981)Proc.Natl.Acad.Sci.86:152−6)のアルゴリズムである。ユーザー入力ポリペプチド配列のHopp and Woods分析および得られた分析物の都合の良いグラフィカルな出力についての公的に利用可能なウェブサイトが存在する(例えば、http://hometown.aol.com/_ht_a/lucatoldo/myhomepage/JaMBW/3/1/7を参照のこと)。図14Aに示す全長ヒトHSC70配列を分析するためにこのアルゴリズムを使用して、免疫原性に適切な長さのHopp and Woods抗原指数の高いいくつかの適切な配列が明らかとなった。これらには、HSC70アミノ酸残基:240〜260(すなわち、HFIAEFKRKHKKDISENKRAY);および480〜500(すなわち、IDANGILNVSAVDKSTGKENK)が含まれる。
さらに、本発明は、適切なアジュバントと組み合わせた本発明のHSC70タンパク質またはそのポリペプチドフラグメントを含む組成物を提供する。このような組成物は、本明細書中に記載の薬学的に許容可能なキャリア中に存在し得る。本明細書中で使用される、「アジュバント」または「適切なアジュバント」は、被験体が副作用を起こすことなく被験体の免疫応答を増強するためにHSC70タンパク質またはポリペプチドと組み合わせることができる物質を説明する。適切なアジュバントは、例えば、免疫刺激サイトカインである5%(wt/vol)のスクアレン(DASF,Parsippany,N.J.)、2.5%Pluronic,L121ポリマー(Aldrich Chemical,Milwaukee)、および0.2%ポリソルベート(Tween80、Sigma)を含むリン酸緩衝化生理食塩水から構成されるSYNTEXアジュバント処方物1(SAF−1)であり得るが、これらに限定されない。他の適切なアジュバントが当該分野で周知であり、QS−21、フロイントアジュバント(完全および不完全)、ミョウバン、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(CGP11637、ノル−MDPという)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(CGP19835A、MTP−PEという)、細菌由来の3つの抽出成分(モノホスホリル脂質A、トレハロースジミコレート(trealose dimycolate)、および細胞壁骨格)(MPL+TDM+CWS)を含む2%スクアレン/Tween80乳濁液を含むRIBIが含まれる。免疫刺激サイトカインなどのアジュバントを、HSC70タンパク質またはHSC70コード核酸の投与前、HSC70タンパク質またはHSC70コード核酸の投与と同時、HSC70タンパク質またはHSC70コード核酸の投与の5日後までに被験体に投与することができる。ミョウバン、完全フロイントアジュバント、SAFなどと同様に、QS−21を融合タンパク質投与の数時間以内に投与することができる。
本発明はまた、アジュバントの組合わせ(HSC70タンパク質またはHSC70コード核酸の投与前、投与後、または同時に被験体に投与された免疫刺激サイトカインなど)を使用することができる。例えば、免疫刺激サイトカインなどのアジュバントの組み合わせは、2つまたはそれ以上の本発明の免疫刺激サイトカイン(GM/CSF、インターロイキン−2、インターロイキン−12、インターフェロン−γ、インターロイキン−4、腫瘍壊死因子α、インターロイキン−1、造血因子flt3L、CD40L、B7.1同時刺激分子、およびB7.2同時刺激分子など)からなることができる。アジュバントまたはアジュバントの組み合わせの有効性を、本明細書中に記載の標準的手順を使用したアジュバントまたはアジュバントの組み合わせを使用するか使用しないHSC70ポリペプチドに指向する免疫応答の測定によって決定することができる。
さらに、本発明は、HSC70タンパク質またはHSC70コード核酸および免疫刺激サイトカインなどのアジュバントまたは免疫刺激サイトカインなどのアジュバントをコードする核酸を含む組成物を提供する。このような組成物は、本明細書中に記載の薬学的に許容可能なキャリア中に存在し得る。本発明で使用される免疫刺激サイトカインは、GM/CSF、インターロイキン−2、インターロイキン−12、インターフェロン−γ、インターロイキン−4、腫瘍壊死因子α、インターロイキン−1、造血因子flt3L、CD40L、B7.1同時刺激分子、およびB7.2同時刺激分子であり得るが、これらに限定されない。
本明細書中で使用される、用語「ワクチン」には、HSC70またはその抗原性部分(任意のコンセンサスまたは可変配列アミノ酸モチーフなど)をコードする核酸分子を含む薬学的組成物を患者に投与するDNAワクチンが含まれる。遺伝子免役化のために、当業者に公知の適切な送達方法には、プラスミドDNAの筋肉への直接注射(Wolff et al.(1992)Hum.Mol.Genet.1:363,)、特定のタンパク質キャリアと複合体化したDNAの送達(Wu et al.(1989)J.Biol.Chem.264:16985)、リン酸カルシウムでのDNAの同時沈殿(Benvenisty and Reshef(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.83:9551)、リポソームへのDNAのカプセル化(Kaneda et al.(1989)Science 243:375,)、粒子衝突(Tang et al.,(1992)Nature 356:152およびEisenbraun et al.(1993)DNA Cell Biol.12:791)、およびクローン化レトロウイルスベクターを使用したin vivo感染(Seeger etal.(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.81:5849)が含まれる。
別の実施形態では、本発明は、in vivoでの真核生物組織へのポリヌクレオチドの移入時にHSC70または免疫刺激遺伝子産物を産生するために発現することができる連続核酸配列を含むポリヌクレオチドである。コードされた遺伝子産物は、免疫応答を生じることができる免疫刺激物質または抗原のいずれかとして作用することが好ましい。したがって、本実施形態における核酸配列は、免疫原性エピトープ、および任意選択的にサイトカインまたはT細胞刺激エレメント(タンパク質のB7ファミリーのメンバーなど)をコードする。
遺伝子産物よりもむしろ遺伝子を使用した免疫化の利点には、以下が含まれる。第1に、免疫系に対して天然またはほぼ天然の抗原が存在することができ、比較的単純である。細菌、酵母、またはさらに哺乳動物細胞中で組換え発現される哺乳動物タンパク質には、しばしば、適切な抗原性を確実にするためのさらなる処理が必要である。DNA免疫化の第2の利点は、MHCクラスI経路に侵入して細胞傷害性T細胞応答を惹起する免疫原の可能性である。インフルエンザA核タンパク質(NP)をコードするDNAでのマウスの免疫化によって、NPに対するCD8+応答を惹起し、異種インフルエンザ株での攻撃誘発からマウスを防御した(Montgomery,D.L.et al.(1997)Cell Mol Biol 43(3):285−92およびUlmer,J.et al.(1997)Vaccine 15(8):792−794)。細胞媒介免疫は、感染の制御で重要である。DNA免疫化によって体液性および細胞性媒介免疫応答の両方を惹起することができるので、その最高の利点は、そのワクチンとしての潜在性について多数のHSC70遺伝子および遺伝子フラグメントを調査する比較的単純な方法が得られることであり得る。
本発明はまた、癌の治療または防止のための腫瘍抗原ワクチンの公知の調製および使用方法を含む。例えば、癌の治療または防止に有効な免疫系を誘発するためのタンパク質または核酸ワクチンのいずれかとして投与するケモカインおよび腫瘍抗原を含む融合ポリペプチドの使用を教示する米国特許第6,562,347号。ケモカインは、炎症刺激によって誘導され、炎症応答を媒介する血液感染性白血球の選択的移動、漏出、および活性化の統合に関与する通常小分泌タンパク質(7〜15kDa)のグループである(Wallack(1993) Annals New York Academy of Sciences 178を参照のこと)。ケモカインは、特異的細胞表面受容体タンパク質との相互作用によってその機能を媒介する(23)。CC、CXC、C、およびCX3C(Cはシステインであり、Xは任意のアミノ酸残基である)と呼ばれるシステイン特徴モチーフ(signature motif)によって定義された少なくとも4つのケモカインサブファミリーが同定されている。構造研究により、少なくともCXCおよびCCケモカインが非常に類似した三次構造(単量体)を共有するが、四次構造(二量体)が異なることが明らかとなった。ほとんどの部分について、高次構造の相違は、ループまたはN末端の切片に局在する。本発明では、例えば、ヒトHSC70ポリペプチド配列(図12Aに示すものなど)またはそのポリペプチドフラグメントおよびケモカイン配列を互いに融合し、免疫化ワクチンで使用する。融合物のケモカイン部分は、ヒト単球走化性タンパク質3、ヒトマクロファージ由来ケモカイン、またはヒトSDF−1ケモカインであり得る。融合物のHSC70部分は、好ましくは、日常的スクリーニングにおいて強力な抗原潜在性を有することが示された部分である。
薬学的処方物および治療方法
本発明は、新生物疾患を有する被験体の予防および治療方法を提供する。このような疾患のリスクがある被験体を、例えば、本明細書中に記載の診断アッセイまたは予後アッセイによって同定することができる。新生物の発達を防止するかその進行を遅延させるように、新生物に特徴的な症状の出現前に予防薬を投与することができる。一般に、予防または治療方法は、新生物細胞、特に多剤耐性新生物細胞上に存在する細胞表面HSC70に結合することができるHSC70ターゲティング成分を含み、治療成分に連結した有効量の化合物を被験体に投与する工程を含む。
HSC70ターゲティング成分の例には、モノクローナル抗HSC70抗体およびそのフラグメントが含まれる。適切な治療化合物の例には、アクチノマイシン、アドリアマイシン、アルトレタミン、アスパラギナーゼ、ブレオマイシン、ブスルファン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エポエチン、エトポシド、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、イリノテカン、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキセート、マイトマイシン、ミトーテン、ミトキサントロン、パクリタキセル、ペントスタチン、プロカルバジン、タキソール、テニポシド、トポテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、およびビノレルビンなどの伝統的な化学療法薬が含まれる。適切な治療成分の他の例には、シュードモナス外毒素、ジフテリア毒素、植物リシン毒素、植物アブリン毒素、植物サポリン毒素、植物ゲロニン毒素、およびヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質などの免疫毒素が含まれる。このような免疫毒素は、細胞表面HSC70の結合および細胞への取り込み時の治療化合物のHSC70ターゲティング成分によってHSC70発現新生物細胞または多剤耐性新生物細胞にターゲティングし、新生物細胞を死滅させるかその成長を遮断するように機能する。
有効用量
このような化合物の毒性および治療有効性を、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順(例えば、LD50(集団の50%致死用量)およびED50(集団の50%治療有効用量)の決定)によって決定することができる。毒作用と治療効果との間の用量比が治療指数であり、LD50/ED50比で示すことができる。治療指数の高い化合物が好ましい。副作用を示す化合物を使用することができるが、非感染細胞への潜在的損傷を最小にし、それにより副作用を減少させるために罹患組織部位にこのような化合物をターゲティングする送達系をデザインするように注意を払うべきである。
細胞培養アッセイおよび動物研究から得たデータを、ヒトへの使用のための投薬量範囲の処方で使用することができる。このような化合物の投薬量は、ほとんどまたは全く毒性がないED50を含む循環濃度範囲内であることが好ましい。投薬量は、使用した投薬形態および使用投与経路に依存してこの範囲内で変化し得る。本発明の方法で使用した任意の化合物のために、細胞培養アッセイから治療有効用量を最初に評価することができる。細胞培養で決定したIC50(すなわち、症状の最大阻害の半分を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するための動物モデルにおける用量を処方することができる。このような情報を使用して、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。例えば、高速液体クロマトグラフィによって血漿レベルを測定することができる。
処方物および使用
本発明で使用するための薬学的組成物を、1つまたは複数の生理学的に許容可能なキャリアまたは賦形剤を使用した従来の様式で処方することができる。例えば、注射、吸入もしくは吸息(insulation)投与(口または鼻のいずれかによる)または経口投与、口腔投与、非経口投与、または直腸投与による投与のために、化合物およびその生理学的に許容可能な塩および溶媒を処方することができる。
このような療法のために、本発明の化合物を、種々の投与負荷(全身および局所もしくは局部投与が含まれる)のために処方することができる。一般に、技術および処方を、Remmington’s Pharmaceutical Sciences,Meade Publishing Co.,Easton,Paに見出すことができる。全身投与には注射(筋肉内、静脈内、腹腔内、および皮下が含まれる)が好ましい。注射のために、本発明の化合物を、溶液中、好ましくはハンクス液またはリンゲル液などの生理学的に適合可能な緩衝液中に処方することができる。さらに、化合物を固体形態中に処方し、使用直前に再溶解または再懸濁することができる。凍結乾燥形態も含まれる。
経口投与のために、薬学的組成物は、例えば、結合剤(例えば、予めα化したトウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶性セルロース、またはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ);または崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの薬学的に許容可能な賦形剤を使用した従来の手段によって調製した錠剤またはカプセルの形態をとることができる。当該分野で周知の方法によって、錠剤をコーティングすることができる。経口投与用の液体調製物は、例えば、溶液、シロップ、または懸濁液の形態を取ることができるか、使用前の水または他の適切な賦形剤での構成のための乾燥生成物として存在することができる。このような液体調製物を、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または水素化食用脂肪);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水性賦形剤(例えば、アチオンドオイル(ationd oil)、油性エステル、エチルアルコール、または分留植物油);および防腐剤(例えば、メチルまたはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸)などの薬学的に許容可能な添加剤を使用した従来の手段によって調製することができる。必要に応じて、調製物は、緩衝塩、香味物質、着色料、および甘味料も含み得る。
経口投与用調製物を、活性化合物が徐放するように適切に処方することができる。口腔投与のために、組成物は、従来の様式で処方した錠剤またはロゼンジの形態をとることができる。吸入による投与のために、本発明で使用するための化合物を、適切な噴射剤(例えば、)を使用して加圧パックまたは噴霧器からエアゾールスプレーの形態で都合良く送達する。加圧エアゾールの場合、バルブから定量を送達させることによって投薬単位を決定することができる。化合物およびラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤から構成される粉末混合物を含む、吸入器または注入器用の例えばゼラチンのカプセルおよび薬包を処方することができる。
注射(例えば、ボーラス注射または持続注入)による非経口投与のための混合物を処方することができる。注射用処方物は、防腐剤を添加した単位投薬形態(例えば、アンプルまたは多用量コンテナ(multidose container))で存在することができる。組成物は、油性もしくは水性賦形剤を含む懸濁液、溶液、または乳濁液などの形態をとることができ、懸濁剤、安定剤、および/または分散剤などの処方薬を含み得る。あるいは、有効成分は、使用前の適切な賦形剤(例えば、滅菌無発熱物質水)で構成するための粉末形態であり得る
例えば、ココアバターまたは他のグリセリドなどの従来の座剤用基剤を含む座剤または保持浣腸剤などの直腸組成物中に化合物を処方することもできる。
前記処方物に加えて、化合物を持続性調製物として処方することもできる。このような長期作用処方物を、移植(例えば、皮下または筋肉内)または筋肉内注射によって投与することができる。したがって、例えば、適切な高分子材料もしくは疎水性材料(例えば、許容可能なオイルを含む乳濁液)、もしくはイオン交換樹脂を使用するかやや溶けにくい塩などのやや溶けにくい誘導体として化合物を処方することができる。他の適切な送達系には、長時間にわたり薬物を局所的に非浸襲性送達することが可能なミクロスフィアが含まれる。このテクノロジーは、冠動脈カテーテルを介して炎症または虚血を引き起こすことなく、例えば心臓または他の器官の任意の選択部分に注射することができる前毛細血管サイズのミクロスフィアを使用する。投与された治療薬は、これらのミクロスフィアからゆっくりと放出され、周辺組織細胞(例えば、内皮細胞)によって取り込まれる。
経粘膜手段または経皮手段によって全身投与を行うこともできる。経粘膜投与または経皮投与のために、処方物中で透過すべき関門に適切な浸透剤を使用する。このような浸透剤は、当該分野で一般に公知であり、例えば、経粘膜投与用胆汁塩およびフシジン酸誘導体が含まれ、さらに、透過を容易にするために界面活性剤を使用することができる。鼻腔用スプレーまたは座剤を使用して経粘膜投与を行うことができる。局所投与のために、本発明のオリゴマーを、当該分野で一般に公知の軟膏、蝋膏、ゲル、またはクリームに処方する。治癒を促進するために、損傷または炎症を治療するための洗浄液を局所的に使用することができる。
薬物使用状況下で、HSC70ターゲティング治療薬のための治療薬および遺伝子送達系を、任意の多数の方法(それぞれ当該分野で周知である)によって患者に導入することができる。例えば、HSC70ターゲティング治療薬の薬学的調製物を、例えば、静脈内注射によって全身に導入することができる。
本発明のHSC70ターゲティング治療化合物の薬学的調製物は、本質的に、化合物を含む許容可能な希釈剤からなり得るか、遺伝子送達賦形剤または化合物が包埋された徐放性基質を含み得る。
所望ならば、組成物は、有効成分を含む1つまたは複数の単位投薬形態を含み得るパックまたは調剤デバイス中に存在し得る。パックは、例えば、ブリスターパックなどの金属ホイルまたはプラスチックホイルを含み得る。パックまたは調剤デバイスは、投与説明書を同封することができる。
(実施例)以下の実施例によって本発明をさらに例示するが、これらは本発明を制限すると解釈すべきではない。本願で引用した全ての引用文献、特許、および公開特許出願の内容は、本明細書中で参考として援用される。本明細書中で参照した公的データベースに寄託したヌクレオチド配列およびアミノ酸配列も本明細書中で参照として援用される。当業者は、日常的実験のみを使用して、本明細書中に記載の特定の物質および手順の多数の等価物を認識するか確認することができる。このような等価物は、以下の実施例にしたがって特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。