この発明の対象となる転がり軸受ユニットの荷重測定装置は、例えば、自動車、鉄道車両等の車両の車輪を支持する為の転がり軸受ユニットに負荷される荷重(ラジアル荷重とアキシアル荷重との一方又は双方)を測定し、上記車両の走行安定性確保を図る為に利用する。
例えば自動車の車輪は懸架装置に対し、複列アンギュラ型の転がり軸受ユニットにより回転自在に支持する。又、自動車の走行安定性を確保する為に、アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)、更にはビークルスタビリティコントロールシステム(VSC)等の車両用走行安定装置が使用されている。この様な各種車両用走行安定装置を制御する為には、車輪の回転速度、車体に加わる各方向の加速度等の信号が必要になる。そして、より高度の制御を行なう為には、車輪を介して上記転がり軸受ユニットに加わる荷重(ラジアル荷重とアキシアル荷重との一方又は双方)の大きさを知る事が好ましい場合がある。
この様な事情に鑑みて、特許文献1には、ラジアル荷重を測定自在な、荷重測定装置付転がり軸受ユニットが記載されている。この従来構造の第1例の荷重測定装置付転がり軸受ユニットは、ラジアル荷重を測定するもので、図6に示す様に構成している。懸架装置に支持される、外輪相当部材であり静止輪である外輪1の内径側に、車輪を結合固定する、内輪相当部材であり回転輪であるハブ2を支持している。このハブ2は、車輪を固定する為の回転側フランジ3をその外端部(車両への組み付け状態で幅方向外側となる端部で、図1の下端部、図6〜8の左端部)に有するハブ本体4と、このハブ本体4の内端部(車両への組み付け状態で幅方向中央側となる端部で、図1の上端部、図6〜8の右端部)に外嵌されてナット5により抑え付けられた内輪6とを備える。そして、上記外輪1の内周面に形成した複列の外輪軌道7、7と、上記ハブ2の外周面に形成した複列の内輪軌道8、8との間に、それぞれ複数個ずつの転動体9a、9bを配置して、上記外輪1の内径側での上記ハブ2の回転を自在としている。
上記外輪1の軸方向中間部で複列の外輪軌道7、7の間部分に、この外輪1を直径方向に貫通する取付孔10を、この外輪1の上端部にほぼ鉛直方向に形成している。そして、この取付孔10内に、荷重測定用のセンサである、円杆状(丸棒状)の変位センサ11を装着している。この変位センサ11は非接触式で、先端面(下端面)に設けた検出面は、ハブ2の軸方向中間部に外嵌固定したセンサリング12の外周面に近接対向させている。上記変位センサ11は、上記検出面と上記センサリング12の外周面との距離が変化した場合に、その変化量に対応した信号を出力する。
上述の様に構成する従来の荷重測定装置付転がり軸受ユニットの場合には、上記変位センサ11の検出信号に基づいて、転がり軸受ユニットに加わる荷重を求める事ができる。即ち、車両の懸架装置に支持した上記外輪1は、この車両の重量により下方に押されるのに対して、車輪を支持固定したハブ2は、そのままの位置に止まろうとする。この為、上記重量が嵩む程、上記外輪1やハブ2、並びに転動体9a、9bの弾性変形に基づいて、これら外輪1の中心とハブ2の中心とのずれが大きくなる。そして、この外輪1の上端部に設けた、上記変位センサ11の検出面と上記センサリング12の外周面との距離は、上記重量が嵩む程短くなる。そこで、上記変位センサ11の検出信号を制御器に送れば、予め実験等により求めた関係式或はマップ等から、当該変位センサ11を組み込んだ転がり軸受ユニットに加わるラジアル荷重を求める事ができる。この様にして求めた、各転がり軸受ユニットに加わる荷重に基づいて、ABSを適正に制御する他、積載状態の不良を運転者に知らせる。
尚、図6に示した従来構造は、上記転がり軸受ユニットに加わる荷重に加えて、上記ハブ2の回転速度も検出自在としている。この為に、前記内輪6の内端部に回転速度検出用エンコーダ13を外嵌固定すると共に、上記外輪1の内端開口部に被着したカバー14に回転速度検出用センサ15を支持している。そして、この回転速度検出用センサ15の検知部を、上記回転速度検出用エンコーダ13の被検出部に、測定隙間を介して対向させている。
上述の様な回転速度検出装置を組み込んだ転がり軸受ユニットの使用時、車輪を固定したハブ2と共に上記回転速度検出用エンコーダ13が回転し、この回転速度検出用エンコーダ13の被検知部が上記回転速度検出用センサ15の検知部の近傍を走行すると、この回転速度検出用センサ15の出力が変化する。この様にして回転速度検出用センサ15の出力が変化する周波数は、上記車輪の回転数に比例する。従って、この回転速度検出用センサ15の出力信号を図示しない制御器に送れば、ABSやTCSを適切に制御できる。
上述の様な従来構造の第1例の荷重測定装置付転がり軸受ユニットは、転がり軸受ユニットに加わるラジアル荷重を測定する為のものであるが、転がり軸受ユニットに加わるアキシアル荷重を測定する構造も、特許文献2等に記載されて、従来から知られている。図7は、この特許文献2に記載された、アキシアル荷重を測定する為の荷重測定装置付転がり軸受ユニットを示している。この従来構造の第2例の場合、内輪相当部材であり回転輪であるハブ2aの外端部外周面に、車輪を支持する為の回転側フランジ3aを固設している。又、外輪相当部材であり静止輪である外輪1aの外周面に、この外輪1aを懸架装置を構成するナックル16に支持固定する為の、固定側フランジ17を固設している。そして、上記外輪1aの内周面に形成した複列の外輪軌道7、7と、上記ハブ2aの外周面に形成した複列の内輪軌道8、8との間に、それぞれ複数個ずつの転動体9a、9bを転動自在に設ける事により、上記外輪1aの内径側に上記ハブ2aを回転自在に支持している。
更に、上記固定側フランジ17の内側面複数個所で、この固定側フランジ17を上記ナックル16に結合する為のボルト18を螺合する為のねじ孔19を囲む部分に、それぞれ荷重センサ20を添設している。上記外輪1aを上記ナックル16に支持固定した状態でこれら各荷重センサ20は、このナックル16の外側面と上記固定側フランジ17の内側面との間で挟持される。
この様な従来構造の第2例の転がり軸受ユニットの荷重測定装置の場合、図示しない車輪と上記ナックル16との間にアキシアル荷重が加わると、上記ナックル16の外側面と上記固定側フランジ17の内側面とが、上記各荷重センサ20を、軸方向両面から強く押し付け合う。従って、これら各荷重センサ20の測定値を合計する事で、上記車輪と上記ナックル16との間に加わるアキシアル荷重を求める事ができる。又、図示はしないが、特許文献3には、一部の剛性を低くした外輪相当部材の振動周波数から転動体の公転速度を求め、更に、転がり軸受に加わるアキシアル荷重を測定する方法が記載されている。
前述の図6に示した従来構造の第1例の場合、変位センサ11により、外輪1とハブ2との径方向に関する変位を測定する事で、転がり軸受ユニットに加わる荷重を測定する。但し、この径方向に関する変位量は僅かである為、この荷重を精度良く求める為には、上記変位センサ11として、高精度のものを使用する必要がある。高精度の非接触式センサは高価である為、荷重測定装置付転がり軸受ユニット全体としてコストが嵩む事が避けられない。
又、上述の図7に示した従来構造の第2例の場合、ナックル16に対し外輪1aを支持固定する為のボルト18と同数だけ、荷重センサ20を設ける必要がある。この為、荷重センサ20自体が高価である事と相まって、転がり軸受ユニットの荷重測定装置全体としてのコストが相当に嵩む事が避けられない。又、特許文献3に記載された方法は、外輪相当部材の一部の剛性を低くする必要があり、この外輪相当部材の耐久性確保が難しくなる可能性がある。又、この外輪相当部材の振動周波数から転動体の公転速度を求める為、この公転速度を正確に測定できないと言った問題もある。
この様な事情に鑑みて、特願2003−171715号、172483号には、複列アンギュラ型玉軸受である転がり軸受ユニットを構成する1対の列の転動体(玉)の公転速度に基づいて、この転がり軸受ユニットに加わるラジアル荷重又はアキシアル荷重を測定する、転がり軸受ユニットの荷重測定装置に関する発明が開示されている。図8は、この先発明の転がり軸受ユニットの荷重測定装置を示している。この先発明に係る構造の場合、外輪相当部材であり静止輪である外輪1の軸方向中間部で複列の外輪軌道7、7の間部分に形成した取付孔10aにセンサユニット21を挿通し、このセンサユニット21の先端部22を、上記外輪1の内周面から突出させている。この先端部22には、1対の公転速度検出用センサ23a、23bと、1個の回転速度検出用センサ15aとを設けている。
そして、このうちの各公転速度検出用センサ23a、23bの検出部を、複列に配置された各転動体9a、9bを回転自在に保持した各保持器24a、24bに設けた、公転速度検出用エンコーダ25a、25bに近接対向させて、各転動体9a、9bの公転速度を検出自在としている。又、上記回転速度検出用センサ15aの検出部を、内輪相当部材であるハブ2の中間部に外嵌固定した回転速度検出用エンコーダ13aに近接対向させて、このハブ2の回転速度を検出自在としている。この様な構成を有する先発明に係る転がり軸受ユニットの荷重測定装置によれば、上記ハブ2の回転速度の変動に拘らず、上記外輪1と上記ハブ2との間に加わる荷重(ラジアル荷重とアキシアル荷重との一方又は双方)を求められる。
即ち、上述の様な先発明に係る転がり軸受ユニットの荷重測定装置の場合、図示しない演算器が、上記各センサ23a、23b、15aから送り込まれる検出信号に基づいて、上記外輪1と上記ハブ2との間に加わるラジアル荷重とアキシアル荷重とのうちの一方又は双方の荷重を算出する。例えば、このラジアル荷重を求める場合に上記演算器は、上記各公転速度検出用センサ23a、23bが検出する両列の転動体9a、9bの公転速度の和を求め、この和と、上記回転速度検出用センサ15aが検出する上記ハブ2の回転速度との比に基づいて、上記ラジアル荷重を算出する。又、上記アキシアル荷重は、上記各公転速度検出用センサ23a、23bが検出する両列の転動体9a、9bの公転速度の差を求め、この差と、上記回転速度検出用センサ15aが検出する上記ハブ2の回転速度との比に基づいて算出する。この点に就いて、図9を参照しつつ説明する。尚、以下の説明は、アキシアル荷重Fyが加わらない状態での、上記両列の転動体9a、9bの接触角αa 、αb が互いに同じであるとして行なう。
図9は、上述の図8に示した車輪支持用の転がり軸受ユニットを模式化し、荷重の作用状態を示したものである。複列の内輪軌道8、8と複列の外輪軌道7、7との間に複列に配置された転動体9a、9bには予圧F0 、F0 を付与している。又、使用時に上記転がり軸受ユニットには、車体の重量等により、ラジアル荷重Fzが加わる。更に、旋回走行時に加わる遠心力等により、アキシアル荷重Fyが加わる。これら予圧F0 、F0 、ラジアル荷重Fz、アキシアル荷重Fyは、何れも上記各転動体9a、9bの接触角α(αa 、αb )に影響を及ぼす。そして、この接触角αa 、αb が変化すると、これら各転動体9a、9bの公転速度nc が変化する。これら各転動体9a、9bのピッチ円直径をDとし、これら各転動体9a、9bの直径をdとし、上記各内輪軌道8、8を設けたハブ2の回転速度をni とし、上記各外輪軌道7、7を設けた外輪1の回転速度をno とすると、上記公転速度nc は、次の式で表される。
nc ={1−(d・cosα/D)・(ni /2)}+{1+(d・cosα/D)・(no /2)}
この式から明らかな通り、上記各転動体9a、9bの公転速度nc は、これら各転動体9a、9bの接触角α(αa 、αb )の変化に応じて変化するが、上述した様にこの接触角αa 、αb は、上記ラジアル荷重Fz及び上記アキシアル荷重Fyに応じて変化する。従って上記公転速度nc は、これらラジアル荷重Fz及びアキシアル荷重Fyに応じて変化する。本例の場合、上記ハブ2が回転し、上記外輪1が回転しない為、具体的には、上記ラジアル荷重Fzに関しては、大きくなる程上記公転速度nc が遅くなる。又、アキシアル荷重Fyに関しては、このアキシアル荷重Fyを支承する列の公転速度が速くなり、このアキシアル荷重Fyを支承しない列の公転速度が遅くなる。従って、この公転速度nc に基づいて、上記ラジアル荷重Fz及びアキシアル荷重Fyを求められる事になる。
但し、上記公転速度nc の変化に結び付く上記接触角αは、上記ラジアル荷重Fzと上記アキシアル荷重Fyとが互いに関連しつつ変化するだけでなく、上記予圧F0 、F0 によっても変化する。又、上記公転速度nc は、上記ハブ2の回転速度ni に比例して変化する。この為、これらラジアル荷重Fz、上記アキシアル荷重Fy、予圧F0 、F0 、ハブ2の回転速度ni を総て関連させて考えなければ、上記公転速度nc を正確に求める事はできない。このうちの予圧F0 、F0 は、運転状態に応じて変化するものではないので、初期設定等によりその影響を排除する事は容易である。これに対して上記ラジアル荷重Fz、アキシアル荷重Fy、ハブ2の回転速度ni は、運転状態に応じて絶えず変化するので、初期設定等によりその影響を排除する事はできない。
この様な事情に鑑みて先発明の場合には、前述した様に、ラジアル荷重Fzを求める場合には、前記各公転速度検出用センサ23a、23bが検出する両列の転動体9a、9bの公転速度の和を求める事で、上記アキシアル荷重Fyの影響を少なくしている。又、アキシアル荷重Fyを求める場合には、上記両列の転動体9a、9bの公転速度の差を求める事で、上記ラジアル荷重Fzの影響を少なくしている。更に、何れの場合でも、上記和又は差と、前記回転速度検出用センサ15aが検出する上記ハブ2の回転速度ni との比に基づいて上記ラジアル荷重Fz又は上記アキシアル荷重Fyを算出する事により、上記ハブ2の回転速度ni の影響を排除している。但し、上記アキシアル荷重Fyを、上記両列の転動体9a、9bの公転速度の比に基づいて算出する場合には、上記ハブ2の回転速度ni は、必ずしも必要ではない。尚、上記各公転速度検出用センサ23a、23bの信号に基づいて上記ラジアル荷重Fzとアキシアル荷重Fyとのうちの一方又は双方の荷重を算出する方法は、他にも各種存在するが、この様な方法に就いては、前述の特願2003−171715号、172483号に詳しく説明されているので、詳しい説明は省略する。
何れにしても、上述の様な先発明に係る転がり軸受ユニットの荷重測定装置により、上記外輪1と上記ハブ2との間に加わる荷重を求める為には、ハブ2の回転速度ni 及び上記両列の転動体9a、9bの公転速度nca、ncbと、上記ラジアル荷重Fz又は上記アキシアル荷重Fyとの関係(零点及びゲイン特性)を、正確に把握しておく必要がある。しかしながら、上記公転速度nca、ncbは、上記転がり軸受ユニットの転動体9a、9bに付与した予圧の値等によって微妙に変化する。この為、総ての転がり軸受ユニットの公転速度の零点及びゲイン特性を一致させる事は困難である。
例えば、転がり軸受ユニットに外部からの荷重が加わっていない状態では、上記両列の転動体9a、9bに加わる予圧荷重は互いに等しい。但し、これら各転動体9a、9bの直径、或はこれら各転動体9a、9bが転がり接触する各外輪軌道7、7及び各内輪軌道8、8の寸法及び形状には、僅かとは言え差が存在し、この差に基づいて上記両列の転動体9a、9bの公転速度も、僅かとは言え異なる場合が多い。この様な原因で生じる、これら両列の転動体9a、9b同士の間での公転速度の差は、上記外輪1と上記ハブ2との間に加わる荷重を求める場合の誤差に結び付く。従って、この荷重を精度良く求める為には、個々の転がり軸受ユニット毎での、上記各転動体9a、9bの直径、或は上記各外輪軌道7、7及び各内輪軌道8、8の寸法及び形状の相違に基づく、上記両列の転動体9a、9b同士の間での公転速度の差が、上記荷重測定に影響を及ぼさない様にする事が必要である。
特開2001−21577号公報
特開平3−209016号公報
特公昭62−3365号公報
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、個々の転がり軸受ユニットに関して、各転動体の直径、或は各外輪軌道及び各内輪軌道の寸法及び形状が微妙に異なる場合でも、上記転がり軸受ユニットに加わる荷重を正確に求められる荷重測定装置を実現すべく発明したものである。
本発明の転がり軸受ユニットの荷重測定装置のうち、請求項1に記載した転がり軸受ユニットの荷重測定装置に於いては、演算器は、公転速度検出用センサ及び回転速度検出用センサから送り込まれる検出信号と、メモリに記憶した、荷重と公転速度及び回転速度との関係とに基づいて、この荷重を算出するものである。そして、上記メモリに記憶した上記荷重と上記公転速度及び上記回転速度との関係は、外輪相当部材と内輪相当部材とを相対回転させつつこれら両部材同士の間に既知の大きさの荷重を付与する事で求められたものである。
又、請求項7に記載した転がり軸受ユニットの荷重測定装置に於いては、演算器は、1対の公転速度検出用センサから送り込まれる検出信号と、メモリに記憶した、荷重と両列の公転速度との関係とに基づいて、この荷重を算出するものである。そして、上記メモリに記憶した上記荷重と上記両列の公転速度との関係は、外輪相当部材と内輪相当部材とを、これら両部材同士の間に、アキシアル荷重と使用時に加わるラジアル荷重とほぼ同じラジアル荷重とを付与した状態でこれら両部材を相対回転させる作業を、上記アキシアル荷重を異ならせつつ複数回行なう事で得られる信号を処理する事により求められる、マップ又は近似式として、上記メモリに記憶されている。又、このマップ又は近似式は、上記両列の公転速度の差と同じく公転速度の和との比と、荷重との関係を表わすものである。更に、上記演算器は、上記両公転速度検出用センサの検出信号から上記両列の公転速度の差と同じく公転速度の和との比を求め、更にこの比から上記マップ又は近似式に基づき、上記外輪相当部材と上記内輪相当部材との間に加わるアキシアル荷重を求める。
上述の様に構成する本発明の転がり軸受ユニットの荷重測定装置は、転動体の公転速度を検出する事により、転がり軸受ユニットに負荷される荷重を測定できる。即ち、玉軸受の如き転がり軸受ユニットに荷重が負荷されると、転動体(玉)の接触角が変化し、これら各転動体の公転速度が変化する。そこで、この公転速度を検出すれば、外輪相当部材と内輪相当部材との間に作用する荷重を求められる。
更に、本発明の転がり軸受ユニットの荷重測定装置によれば、個々の転がり軸受ユニット同士の間に、各部の寸法誤差や形状誤差等に応じて存在する、転動体の公転速度と荷重との関係(零点及びゲイン特性)の相違に拘らず、上記外輪相当部材と内輪相当部材との間に作用する荷重を正確に求められる。
即ち、本発明の転がり軸受ユニットの荷重測定装置の場合には、個々の転がり軸受ユニット毎に演算器に付属のメモリ中に、各転がり軸受ユニット毎に異なる各部の寸法並びに形状誤差の影響を含んだ上で求められる、転動体の公転速度(及び回転輪の回転速度)と荷重との関係を記憶している。そして、実際に各転がり軸受ユニットに加わる荷重を求める場合には、上記メモリ中に記録された、これら各転がり軸受ユニット毎に異なる上記関係に基づいて、上記転動体の公転速度(及び回転輪の回転速度)から上記荷重を求める。この結果、上記関係の相違に拘らず、上記各転がり軸受ユニットに加わる荷重を正確に求められる。
請求項1に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した様に、荷重と公転速度及び回転速度との関係を、マップ又は近似式として、メモリに記憶する。又、このマップ又はメモリを作成するのに、外輪相当部材と内輪相当部材とを、これら両部材同士の間に、アキシアル荷重と使用時に加わるラジアル荷重とほぼ同じラジアル荷重とを付与した状態でこれら両部材を相対回転させる作業を、上記アキシアル荷重を異ならせつつ複数回行なう。そして、この複数回の作業により得られる信号を処理する事により、上記マップ又は近似式を得る。
この様に構成すれば、個々の転がり軸受ユニット毎に存在する、各部の寸法誤差や形状誤差等に拘らず、これら各転がり軸受ユニットに加わる荷重と公転速度及び回転速度との関係を、正確に且つ能率良く求め、上記メモリに記憶させる事ができる。
そして、上記請求項2に記載した発明を実施する場合には、例えば請求項3に記載した様に、マップ又は近似式を、公転速度と回転速度との比と、荷重との関係を表すものとする。そして、演算器に、公転速度検出用センサの検出信号と回転速度検出用センサの検出信号とから上記公転速度と回転速度との比を求め、更にこの比から上記マップ又は近似式に基づき、外輪相当部材と内輪相当部材との間に加わるアキシアル荷重を求める機能を持たせる。
この様に構成すれば、回転輪の回転速度の変化に拘らずに利用できる上記マップ或は近似式を、正確に且つ能率良く求め、上記メモリに記憶させる事ができる。
或は、請求項4〜5に記載した様に、外輪相当部材の内周面に設けられた複列の外輪軌道と内輪相当部材の外周面に設けられた複列の内輪軌道との間に、各列毎に複数個ずつの転動体を、両列同士の間で接触角の方向を互いに逆方向にして設ける。又、これら両列の転動体の公転速度をそれぞれ検出する為の1対の公転速度検出用センサを設ける。
この場合に、例えば請求項4に記載した様に、マップ又は近似式を、上記両列の公転速度の差と回転速度との比と、荷重との関係を表わすものとする。そして、演算器に、上記両公転速度検出用センサの検出信号と回転速度検出用センサの検出信号とから上記両列の公転速度の差と回転速度との比を求め、更にこの比から上記マップ又は近似式に基づき、上記外輪相当部材と上記内輪相当部材との間に加わるアキシアル荷重を求める機能を持たせる。
或は、請求項5に記載した様に、マップ又は近似式を、各列毎の公転速度と回転速度との比と、荷重との関係を表わすものとする。そして、演算器に、上記両公転速度検出用センサの検出信号と回転速度検出用センサの検出信号とから上記各列毎の公転速度と回転速度との比を求め、更にこれらの比から上記マップ又は近似式に基づき、上記外輪相当部材と上記内輪相当部材との間に加わるアキシアル荷重を求める機能を持たせる。
この様に構成すれば、剛性の高い転がり軸受ユニットを対象とし、回転輪の回転速度の変化に拘らずに利用できる上記マップ或は近似式を、正確に且つ能率良く求め、上記メモリに記憶させる事ができる。
又、請求項1〜5に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項6に記載した様に、演算器に、回転速度検出用センサの検出信号から求められる回転輪の回転速度が規定値以上であって、且つ、この回転速度と公転速度検出用センサの検出信号から求められる転動体の公転速度との関係が、メモリに記憶されたマップ又は近似式から所定値以上外れた場合に、何れかの速度検出用センサに異常が生じた事を示す信号を発する機能を持たせる。
この様に構成すれば、上記公転速度検出用センサ又は回転速度検出用センサの故障を素早く検知して修理を行なう事ができる。
一方、請求項7に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項8に記載した様に、演算器に、1対の公転速度検出用センサの検出信号から求められる、両列の公転速度の差と同じく公転速度の和との関係が、メモリに記憶されたマップ又は近似式から所定値以上外れた場合に、何れかの公転速度検出用センサに異常が生じた事を示す信号を発する機能を持たせる。
この様に構成すれば、上記公転速度検出用センサの故障を素早く検知して修理を行なう事ができる。
又、請求項1〜8に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項9に記載した様に、演算器に、複数設けた速度検出用センサのうちの一部の速度検出用センサからのみ検出信号が送り込まれる場合に、何れかの速度検出用センサに異常が生じた事を示す信号を発する機能を持たせる。
この様に構成すれば、何れかの速度検出用センサの故障を素早く検知して修理を行なう事ができる。
又、請求項1〜9に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項10に記載した様に、演算器に、算出した荷重の大きさを表す信号を、シリアルデータ又はパラレルデータとして、この信号を利用する制御器に送り出す機能を持たせる。
或は、請求項11に記載した様に、演算器に、算出した荷重の大きさを表す信号を、ディジタル信号からアナログ信号又はPWM信号に変換して、この信号を利用する制御器に送り出す機能を持たせる。
この様に構成すれば、算出した荷重の大きさを表す信号を制御器に向け、この制御器が利用し易い状態で送り出せる。
又、請求項1〜11に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項12に記載した様に、外輪相当部材と、内輪相当部材とのうちで使用時にも回転しない静止輪を自動車の懸架装置に支持し、同じく使用時に回転する回転輪に車輪を支持固定する。
この様に構成すれば、自動車の車輪を懸架装置に回転自在に支持すると共に、この車輪に加わる荷重を求めて、この自動車の走行安定性を確保する制御を効果的に行なえる。
図1〜5は、本発明の実施例を示している。尚、本実施例の特徴は、前述の図8に示した先発明の構造の様に、複列に配置された各転動体9a、9bの公転速度、延いては転がり軸受ユニットに加わる荷重を正確に求められる転がり軸受ユニットの荷重測定装置を実現すべく、個々の転がり軸受ユニット同士の間に存在する特性の差の影響をなくす点にある。その他の部分の構成及び作用は、前述の図8〜9で説明した先発明の場合と同様であるから、同等部分に関する説明は省略若しくは簡略にし、以下、上記先発明の構造と異なる部分、並びに本実施例の特徴部分を中心に説明する。
本実施例の場合、ハブ本体4aの内端部に設けた円筒部を径方向外方に塑性変形する事により形成したかしめ部26により、上記ハブ本体4aの内端部に外嵌固定した内輪6の内端面を抑え付けている。本実施例の場合、この様にして互いに結合固定したハブ本体4aと内輪6とにより、ハブ2bを構成している。この様なハブ2bは、外輪1の内径側に、複列に配置された転動体(玉)9a、9bにより、回転自在に支持している。これら各転動体9a、9bには、背面組み合わせ型の接触角を付与すると共に、それぞれ保持器24a、24bにより、転動自在に保持している。これら両保持器24a、24bのうち、互いに対向するリム部の側面にそれぞれ公転速度検出用エンコーダ25a、25bを添設し、上記ハブ2bの中間部外周面でこれら両公転速度検出用エンコーダ25a、25b同士の間部分に回転速度検出用エンコーダ13aを外嵌固定している。
又、上記外輪1の軸方向中間部に形成した取付孔10aに挿入したセンサユニット21の先端部22に設けた公転速度検出用センサ23a、23bを上記両公転速度検出用エンコーダ25a、25bに、同じく回転速度検出用センサ15aを上記回転速度検出用エンコーダ13aに、それぞれ0.5〜2mm程度の検出隙間を介して近接対向させている。以上の構成は、上記ハブ本体4aに対する上記内輪6の結合構造を除き、前述した先発明の場合と同様である。
一方、上記外輪1の内端開口部を塞いだカバー14aに、上記各速度検出用センサ23a、23b、15aの信号を処理する為のプリント基板27を支持固定している。これら各速度検出用センサ23a、23b、15aの信号は、ケーブル28とコネクタ29とを介して、上記プリント基板27に送り込む様にしている。又、このプリント基板27には、IC等の複数の電子部品30、30を組み付けている。これら各電子部品30、30には、少なくとも次の(1) 〜(5) の機能を有するものが含まれる。但し、これら(1) 〜(5) の機能を果たす電子部品30、30は、必ずしも互いに独立している必要はない。1個の電子部品30が、上記(1) 〜(5) の機能のうちの複数の機能を果たしても良い。
(1) 上記両公転速度検出用センサ23a、23bの検出信号から前記各転動体9a、9bの公転速度を求める機能。
(2) 上記回転速度検出用センサ15aの検出信号から上記ハブ2bの回転速度を求める機能。
(3) 上記外輪1と上記ハブ2bとの間に加えられる、それぞれが既知で互いに異なる大きさを有する複数段のアキシアル荷重と、上記各転動体9a、9bの公転速度及び上記ハブ2bの回転速度との関係を求める機能。
(4) この(3) の機能により求められた関係を記憶する、メモリとしての機能。
(5) 上記外輪1と上記ハブ2bとの間に未知のアキシアル荷重が加わって上記両公転速度及び上記回転速度が変化した場合に、上記(4) の機能で記憶された関係に基づいて、上記未知のアキシアル荷重を算出する機能。
又、上記(5) の機能により算出したアキシアル荷重は、第二のコネクタ31と第二のケーブル32とを介して、車体側に設けた、ABS、TCS、VSC等を制御する為の図示しない演算器に送る様にしている。
本実施例の場合、上記(3) の機能を実現させる為に、上記外輪1と上記ハブ2bとの間に、荷重付与装置33により、それぞれが既知の大きさを有するラジアル荷重及びアキシアル荷重を付加自在としている。尚、これら両種類の荷重のうち、ラジアル荷重は、使用時、即ち自動車の懸架装置に組み付けて車体の重量が加わった状態で加わるラジアル荷重とほぼ同じ、単一の大きさとしている。尚、このラジアル荷重の大きさは、実際の使用状態で加わるラジアル荷重の大きさと完全に一致させる事が好ましいが、組み付ける自動車の仕様の差(例えばオプションの有無)や積載状態(乗員数)の差等により、完全に一致させる事は難しい場合がある。従って、上記「ほぼ同じ」とは、実際の使用状態で加わるラジアル荷重を想定した標準ラジアル荷重に対して±20%以内、より好ましくは±10%以内の状態を言う。これに対して、上記アキシアル荷重は、複数段階の大きさのものを、上記外輪1と上記ハブ2bとの間に付加する。このアキシアル荷重の大きさの段階の数は、荷重測定の正確さを期する面からは多い程良いが、過度に多くしても上記(3) の機能を実現する為の作業が面倒になる。そこで、使用状態で加わると考えられるアキシアル荷重の最大値と最小値(0)とその中央値とを含む、3〜5段階程度の値を使用する事が好ましい。
上記荷重付与装置33は、上記ハブ2bを支持固定した状態で回転する回転支持板34と、上記外輪1を掴んでこの外輪1に荷重を付与する為の把持腕35とから成る。このうちの回転支持板34は、図示しない回転駆動装置により回転駆動されるもので、上記ハブ2bの外周面外端寄り部分に形成した回転側フランジ3を、その上面に載置自在としている。この為に上記回転支持板34の中央部に、上記ハブ2bの外端部で上記回転側フランジ3よりも突出した部分を受け入れる為の逃げ孔36を形成している。又、上記回転支持板34のうちでこの逃げ孔36の周囲部分には、上記回転側フランジ3にそれぞれの基端部を固定した複数本のスタッド37を挿入する為の複数の通孔38を形成している。上記(3) の機能を実現すべく、上記ハブ2bと上記外輪1との間に荷重を付与する際には、上記各スタッド37の先端部で上記回転支持板34の下面から突出した部分にナット39を螺合し更に緊締する事で、上記ハブ2bを上記回転支持板34に支持固定する。
一方、上記把持腕35は、径方向に関して遠近動自在に組み合わせた複数の素子40、40から成る。これら各素子40、40は、それぞれの内周面に上記外輪1の外周面に形成した固定側フランジ17aを進入させられる係止凹部41、41を形成している。上記(3) の機能を実現すべく、上記ハブ2bと上記外輪1との間に荷重を付与する際には、上記各素子40、40を互いに近づけ合う事で、上記固定側フランジ17aを上記各係止凹部41、41内に入り込ませ、上記把持腕35により上記外輪1を外径側から強く把持する。そして、この把持腕35からこの外輪1と上記ハブ2bとの間に所定のラジアル荷重を付与した状態のまま、上記把持腕35からこれら外輪1と上記ハブ2bとの間にアキシアル荷重を付与する。これら両荷重の大きさは何れも既知の値であるが、ラジアル荷重が前述した通り単一の大きさであるのに対して、アキシアル荷重の大きさは複数段階に変化させる。
本実施例の転がり軸受ユニットの荷重測定装置は、上述の様な荷重付与装置33を利用して、前記各電子部品30、30のうちのメモリ機能を備えた電子部品30に、上記外輪1と上記ハブ2bとの間に加えられるアキシアル荷重の大きさと、上記各転動体9a、9bの公転速度及び上記ハブ2bの回転速度との関係を記憶させる。この作業を行なう場合、上記把持腕35により上記外輪1と上記ハブ2bとの間に、前述した様な所定のラジアル荷重及びアキシアル荷重を付与しつつ、前記回転支持板34を介して上記ハブ2bを回転させる。この結果、前記各公転速度検出用センサ23a、23b及び前記回転速度検出用センサ15aから、図2に示す様な検出信号が送り出される。この図2中、最上段の破線aは上記回転速度検出用センサ15aの検出信号を、2段目の一点鎖線bは外側列の公転速度検出用センサ23aの検出信号を、3段目の二点鎖線cは内側列の公転速度検出用センサ23bの検出信号を、それぞれ表している。更に、最下段の実線dは、これら各センサ15a、23a、23bの検出信号の周期を測定する為のクロックパルスである。
前記プリント基板27に組み込んだ複数の電子部品30、30のうちの何れかの電子部品30が構成するCPUには、上記3個のセンサ15a、23a、23bに対応して3個のカウンタを設けている。これら各カウンタは、常時図2の最下段に実線dで示したクロックパルスをカウントしている。そして、この図2の破線a、一点差線b、二点鎖線cで示した上記各センサ15a、23a、23bの検出信号の立ち上がりの時点で上記CPUに対して割り込み要求が発生し、その時点のカウント値をこのCPUに取り込むと同時に、当該カウンタをリセットする。このカウンタは、この瞬間から、カウントを(0から)再開する。上記CPUは、上記各センサ15a、23a、23bの検出信号が立ち上がる毎に、その時点のカウント値に基づいて、これら各センサ15a、23a、23bの検出信号の周期Tr 、Tc1、Tc2をCPUに取り込む。
本実施例の場合、この様にして処理した、図2に示す様な上記各センサ15a、23a、23bの検出信号を、図3のフローチャートに示す様な手順で処理する。そして、上記メモリ機能を備えた電子部品30に、上記アキシアル荷重の大きさと、上記公転速度及び上記回転速度との関係を記憶させる。以下、この関係を上記電子部品30に記憶させる行程に就いて説明する。尚、この作業の際、前記回転支持板34を介して前記ハブ2bを、一定速度で回転させる。
前記荷重付与装置33を利用した荷重設定が開始されると、ステップ1(S1)で上記CPUは、前記把持腕35に付加している荷重F(k)に関する情報を、この把持腕35に付与する荷重を制御している、図示していない荷重制御装置から取り込む。尚、この荷重制御装置は上記把持腕35に、使用時に加わるのとほぼ同じ大きさのラジアル荷重と、大きさが異なる複数段階の大きさのアキシアル荷重とを付加するが、上記ステップ1では、このうちの各段のアキシアル荷重に関する情報を、上記荷重F(k)に関する情報として取り込む。アキシアル荷重がn段階である場合、このkは、1〜nを表している。ラジアル荷重は、使用状態に即した、単一の大きさのもののみであるから、上記荷重制御装置から上記CPUに取り込む必要はない。
この様にして上記荷重に関するデータをこのCPUに取り込んだならば、続くステップ2(S2)で、各センサ15a、23a、23bの検出信号の周期Tr 、Tc1、Tc2を上記CPUに取り込む。本実施例の場合、これら各センサ15a、23a、23bの検出信号の周期Tr 、Tc1、Tc2をそれぞれ規定回数分ずつ取り込んで、各々の平均値Cr 、Cc1、Cc2を求める。この理由は、前記各エンコーダ13a、25a、25bの被検出面に存在するS極とN極との着磁ピッチの誤差の影響を抑える為である。
この様にして上記各センサ15a、23a、23bの検出信号の周期Tr 、Tc1、Tc2を上記CPUに取り込んだならば、続くステップ3(S3)で、前記各列の転動体9a、9bの公転速度(1/Cc1、1/Cc2)と前記ハブ2bの回転速度(1/Cr )との比R1 (Cr /Cc1)、R2 (Cr /Cc2)を計算する。そして、続くステップ4(S4)で、これら各比R1 、R2 と、上記ステップ1で取り込んだ荷重F(k)とを、対のデータ{F(k)、R1 }、{F(k)、R2 }として記録する。この様な対のデータの取り込み作業は、n段階分のアキシアル荷重に就いて行なう。そして、ステップ5(S5)で、n段階分のアキシアル荷重に就いて上記対のデータの取り込み作業を終了したと判定した場合に、次のステップ6(S6)に移る。
このステップ6では、前記外輪1と上記ハブ2bとの間に加わるアキシアル荷重Fの大きさと、上記各列の転動体9a、9bの公転速度及び上記ハブ2bの回転速度との関係を表す近似式を決定する。尚、上記アキシアル荷重Fとこれら各速度とは、図4に示す様に、比較的簡単な関係にある。従って、上記各速度同士の比R1 、R2 と上記アキシアル荷重Fとの関係を示す近似式、即ち、F=f1 (R1 )及びF=f2 (R2 )は、2次乃至3次関数で十分である。例えば、f1 (x)=a3 ・x3 +a2 ・x2 +a1 ・x+a0 、f2 (x)=b3 ・x3 +b2 ・x2 +b1 ・x+b0 と置いた上で、最小自乗法により、各n個の自乗誤差|F−f1 (R1 )|2 及び|F−f2 (R2 )|2 の総和が最小になる様に、上記各式中の未知の係数(a0 、a1 、a2 ・a3 )及び(b0 、b1 、b2 、b3 )を決定する。この為には、上記ステップ4で記録した、対のデータを用いて二つの4元連立方程式の係数を求め、この係数を、CPU中のプログラムに組み込まれている4元連立方程式の解の公式に代入する事により、上記2組の未知の係数{(a0 、a1 、a2 ・a3 )及び(b0 、b1 、b2 、b3 )}を求める。尚、上記図4は、アキシアル荷重を支承しない側の列の転動体にも、十分な予圧が残留する(反負荷側の予圧が喪失しない)場合に就いて示している。反負荷側の予圧が喪失した場合には、この反負荷側で上記各速度同士の比R1 (R2 )は、アキシアル荷重の変動に応じては変化しなくなる。この場合でも、負荷側では、上記各速度同士の比R2 (R1 )は、アキシアル荷重の変動に応じて変化するので、負荷側の比R2 (R1 )に基づいてアキシアル荷重を求める事はできるが、後述する様なフェイルセーフは行なえない。
この様にして、上記近似式が決定されたならば、ステップ7(S7)で、この近似式が決定された事を、外部の荷重制御装置に報告する。この報告があったならば、この近似式の妥当性を確認する作業に移る。この確認作業は、前記荷重付与装置33により上記外輪1と上記ハブ2bとの間に既知のラジアル荷重と既知のアキシアル荷重とを付加しつつ、前記各センサ15a、23a、23bの検出信号と上記決定した近似式とを使用して、上記外輪1と上記ハブ2bとの間に加わるアキシアル荷重を算出し、この算出値と実際に付加しているアキシアル荷重の値とを比較する事で行なう。尚、この確認作業時に上記外輪1と上記ハブ2bとの間に付加する荷重のうち、ラジアル荷重は、上記近似式を決定する場合と同じく、実際の使用状態で加わる大きさとする。これに対してアキシアル荷重は、既知の大きさではあるが、上記近似式を決定する際に付与した荷重とは異なる荷重を設定する事が、確認作業の信頼性確保の面から好ましい。又、確認の為のアキシアル荷重の大きさも、複数段階とする事が、この信頼性確保の面から好ましい。
図3のフローチャート中のステップ8〜ステップ13(S8〜S13)が、上記確認作業の工程を示しているが、このうちのステップ8〜ステップ10(S8〜S10)は、上記近似式を決定する際のステップ1〜3と同じ作業である。
上記確認作業では、続くステップ11(Sll)で、荷重制御装置から実際に上記外輪1と上記ハブ2bとの間に付加されているアキシアル荷重の値F(k)と、上記近似式、即ち、f1 (R1 )及びf2 (R2 )に、上記ステップ8〜ステップ10で求めた、各列の転動体9a、9bの公転速度とハブ2bの回転速度との比R1 及びR2 を代入して得られるアキシアル荷重の値とを比較する。そして、上記近似式を使用して得られるアキシアル荷重の値f1 (R1 )及びf2 (R2 )が、実際に付加したアキシアル荷重の値F(k)と、ほぼ等しいか否か(両荷重同士の差が妥当な範囲内に納まっているか否か)を判定する。
上記両荷重同士の差が妥当な範囲内に納まっている(近似式が満足できるものである)場合には、上記荷重制御装置から上記外輪1と上記ハブ2bとの間に付加するアキシアル荷重の大きさを変えて同様の確認作業を、ステップ12で、上記複数段階のアキシアル荷重の総てに就いて確認したとされるまで行なう。これに対して、上記ステップ11で、上記近似式を使用して得られるアキシアル荷重の値f1 (R1 )及びf2 (R2 )と実際に付加したアキシアル荷重の値F(k)との間に、許容できない程の差が存在した場合には、荷重制御装置にエラーの報告をして終了する。この様な転がり軸受ユニットの荷重測定装置は、廃棄するか組み直すかする。
上述の様にして、前記メモリ機能を備えた電子部品30に、上記アキシアル荷重の大きさと、上記公転速度及び上記回転速度との関係を記憶させた転がり軸受ユニットの荷重測定装置は、図5のフローチャートの様にして、上記アキシアル荷重を求める。先ず、この図5の(a)に示す様に、ステップ1(P1)で、ABS、TCS、VSC等、自動車の走行安定性を確保する為の装置の制御器(ECU)等から、その時点で車輪に加わるアキシアル荷重の出力要求を行なう。そして、続くステップ2(P2)で、前記各速度検出用センサ15a、23a、23bの出力信号から求められる、前記周期Tr 、Tc1、Tc2に関するデータのうち、最新のデータに基づき、各列の転動体9a、9bに関して、公転速度と前記ハブ2bの回転速度との比R1 (Cr /Cc1)、R2 (Cr /Cc2)を計算する。
この様な処理を行なう為に、何れかの電子部品30が構成するCPUには、上記各速度検出用センサ15a、23a、23bから送られて来る出力信号の立ち上がり時点で、これら各出力信号の周期データの最新値Cr 、Cc1、Cc2を取り込んでおく(最新の値Cr 、Cc1、Cc2に更新して登録する)。この為に、図5の(b)に示す様に、何れかの速度検出用センサ15a、23a、23bの検出信号の立ち上がりに対応して、上記CPUに割り込み要求が発生すると、これら各速度検出用センサ15a、23a、23bに対応するカウンタから、これら各速度検出用センサ15a、23a、23bの検出信号の周期を表す値(Tr 、Tc1、Tc2)を取り込み、ノイズ及び前記エンコーダ13a、23a、23bの着磁ピッチの誤差の影響を除去する為にディジタルフィルタリングを施す。このディジタルフィルタリングは、現在と過去の周期を表す値Tr 、Tc1、Tc2を平均する事で求めても良いが、直線的位相特性のローパスフィルタリングを施す事がより好ましい。そして、この様なディジタルフィルタリングの結果求められた値Cr 、Cc1、Cc2を、最新の値として登録し、上記割り込み処理から戻る。
そして、続くステップ3(P3)で、上述の様にして計算した1対の比R1 、R2 の値が、予め設定した範囲内にあるか否かを判定する。複列転がり軸受ユニットの場合、アキシアル荷重が加わった場合に、前述の図4に示す様に、一方の列の転動体の公転速度が早くなると同時に他方の列の公転速度が遅くなる。但し、この様に公転速度が変化する程度は10%程度であり、極端に大きく変化する事はない。従って、何れかの比R1 、R2 が極端に大きく変化した場合には、当該列の転動体の転動面と外輪軌道及び内輪軌道との接触部で著しい公転滑りが発生したか、何れかの速度検出用センサが故障したと考えられる。何れにしろ、その様な比R1 、R2 を利用しても、上記アキシアル荷重を正確に求める事はできない。従って、この様な場合には、ステップ7(P7)のエラー処理に進む。尚、上記各R1 、R2 の標準値と比較は、それぞれの公転速度及び回転速度が十分に大きくない限り、十分な信頼性を担保できない(公転速度及び回転速度の絶対値が小さい場合、上記各R1 、R2 の誤差が大きくなる)。又、上記公転速度及び回転速度が小さい場合には、ABS、TCS、VSC等、自動車の走行安定性を確保する為の装置を作動させる必要性は乏しい。従って、上記ステップ3の判定は、上記回転速度が規定値以上である場合に限って行なう。
このステップ3で、上記1対の比R1 、R2 の値が、予め設定した範囲内にある(適正である)と判断した場合には、次のステップ4(P4)で、前述の様にして求めた近似式{f1 (R1 )、f2 (R2 )}に上記各比R1 、R2 を代入して、転がり軸受ユニットに加わるアキシアル荷重F1 、F2 を算出する。
この様にして求めたアキシアル荷重F1 、F2 は、続くステップ5(P5)で、上記2種類の近似式により求めたアキシアル荷重F1 、F2 が実質的に等しい(F1 ≒F2 である)か否かを判定する。この点に就いて、以下に説明する。
本実施例の場合、請求項5に記載した発明に対応させるべく、上記外輪1と上記ハブ2bとの間に加わるアキシアル荷重を求める近似式を2通り(それぞれの列毎に)求める様にしている。即ち、前述の図4に示した2本の曲線のそれぞれに就いて、上記アキシアル荷重と、転動体9a、9a(9b、9b)の公転速度とハブ2bの回転速度との比との関係を、上記2通りの近似式として求めている。図4から明らかな通り、これら2通りの近似式により求めたアキシアル荷重は、本来等しくなる。従って、単にアキシアル荷重を求めるだけであれば、何れかの列の転動体の公転速度とハブの回転速度との比のみで足りる。但し、両列の転動体の公転速度とハブの回転速度との比からそれぞれアキシアル荷重を求め、それぞれの結果を比較すれば、各部の故障、損傷等を発見できる。即ち、上記2通りの近似式により求めたアキシアル荷重同士の間に無視できない程の差が生じた場合には、何れかの列の転動体の転がり接触部分又は何れかの速度検出用センサに何らかの異常が発生したと判定できる。この場合に、荷重に基づく車両の安定性確保の為の制御を停止すると共に警報を発する等の適切な処置をとる(フェイルセーフを行なう)事ができる。
上述の様な目的で行なう上記ステップ5で、アキシアル荷重F1 、F2 が実質的に等しいと判定した場合には、続くステップ6(P6)で、このアキシアル荷重F1 、F2 を表す{例えば(F1 +F2 )/2の}データを、前記制御器(ECU)に送り出して、次の指令(前記ステップ1)を待つ。これに対して、上記ステップ5で、F1 ≒F2 が成り立たないと判定した場合には、前記各比R1 、R2 が不適正である場合と同様に、ステップ7のエラー処理に進み、これらのデータ(F1 、F2 )と共にエラーフラグを送り出す。
尚、上述の様にして求めた、上記アキシアル荷重F1 、F2 を表す値は、ディジタル値である。従って、例えば、このアキシアル荷重F1 、F2 を算出する為のCPUの1個乃至複数のパラレルポートを通してパラレルデータとして、或はこのCPUのシリアルポートを通してシリアルデータとして、上記制御器(ECU)に送り出す。又は、上記CPUに内蔵した、或は周辺に設置したカウンタを用いて、2チャンネル並列又は2チャンネル時分割のPWM信号に変換したり、或は上記CPUの周辺に設置した2チャンネルのD/A変換器によりアナログ信号に変換してから、上記制御器(ECU)に送り出す事もできる。更には、自動車用の車輪を回転自在に支持する為の転がり軸受ユニットの様に、ABS或はTCSの制御の為に、ハブの回転速度に関する情報が必要とされる場合には、この情報を上記アキシアル荷重F1 、F2 を表わす信号とは別に出力しても良い。
本発明を実施する場合に、転動体の公転速度とハブの回転速度とから転がり軸受ユニットに加わるアキシアル荷重を求める方法は、上述した実施例に限らず、特許請求の範囲に記載した方法を含め、他の方法を採用する事もできる。例えば、何れか一方の列の転動体に関してのみ公転速度検出用センサを設けて上記アキシアル荷重を求める事もできる。又、図3に示したステップ3及びステップlOで、両列の転動体の公転周波数(公転周期の逆数)の差△fc とハブの回転周波数(回転周期の逆数)fr との比R(図4参照)を求め、このR(=△fc /fr )に基づいて上記アキシアル荷重を求める事もできる。更には、アキシアル荷重を求めるのに回転速度検出用センサを省略する事もできる。例えば、図4に記載した2本の曲線のデータを足し合わせて得られる曲線は、アキシアル荷重の変化に拘らずあまり変化しない、曲率が小さい(直線に近い)、ほぼ水平な曲線となる。そこで、上記図3に示したステップ3及びステップlOで、このほぼ水平な曲線に対応した値fo を分母とし、公転周波数の差△fc を分子とする比R(=△fc /fo )を求め、この比Rに基づいて上記アキシアル荷重を求める事もできる。
本発明の実施例を、メモリに記憶させる近似式を造り出す為、転がり軸受ユニットを運転する状態で示す断面図。
この状態での各速度検出用センサの出力信号を示す線図。
メモリに記憶させる近似式を造り出す行程を示すフローチャート。
アキシアル荷重と、両列の転動体の公転速度とハブの回転速度との比との関係を示す線図。
公転速度及び回転速度とメモリに記憶した近似式とからアキシアル荷重を求める行程を示すフローチャート。
従来から知られている、ラジアル荷重測定用のセンサを組み込んだ転がり軸受ユニットの断面図。
従来から知られている、アキシアル荷重測定用のセンサを組み込んだ転がり軸受ユニットの断面図。
先発明に係る転がり軸受ユニットの荷重測定装置の断面図。
転がり軸受ユニットに加わる荷重を求められる理由を説明する為の模式図。
符号の説明
1、1a 外輪
2、2a、2b ハブ
3、3a 回転側フランジ
4、4a ハブ本体
5 ナット
6 内輪
7 外輪軌道
8 内輪軌道
9a、9b 転動体
10、10a 取付孔
11 変位センサ
12 センサリング
13、13a 回転速度検出用エンコーダ
14、14a カバー
15、15a 回転速度検出用センサ
16 ナックル
17、17a 固定側フランジ
18 ボルト
19 ねじ孔
20 荷重センサ
21 センサユニット
22 先端部
23a、23b 公転速度検出用センサ
24a、24b 保持器
25a、25b 公転速度検出用エンコーダ
26 かしめ部
27 プリント基板
28 ケーブル
29 コネクタ
30 電子部品
31 第二のコネクタ
32 第二のケーブル
33 荷重付与装置
34 回転支持板
35 把持腕
36 逃げ孔
37 スタッド
38 通孔
39 ナット
40 素子
41 係止凹部