JP2005061863A - 製鋼スラグの水和度評価方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】カルシウム及び/またはマグネシウムを含有する製鋼スラグを粉砕・微粉化した試料の水和処理前後の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ測定し、水酸化カルシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3643cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積、及び/または水酸化マグネシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3698cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積に基づいて、試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量を推定し、前記水和処理前後の試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量のそれぞれの差を製鋼スラグの水和度として評価する方法。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、製鉄プロセスにおいて大量に発生するスラグを骨材体として利用する技術において、水和に伴う成型体の亀裂発生、粉化、破壊を抑制するための評価技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄鋼生産の副生物であるスラグはその発生工程により高炉スラグと製鋼スラグの2つに大別される。
【0003】
製鋼スラグは溶銑予備処理やその他の製鋼工程で生じるスラグの総称であり、高炉スラグに比べてスラグのCaO含有量が多く、Fe酸化物を多く含むといった特徴を持っている。製鋼スラグには次式(1)に示される水和反応によって水酸化カルシウムCa(OH)2を生成する酸化カルシウムfree−CaOを多量に含有すると言われている。
【0004】
【化1】
【0005】
free−CaOは、水和してCa(OH)2となる時に体積が約2倍になる。従って、free−CaOを多量に含むスラグを、路盤材等に使用した場合には、水和反応による膨張のため、路盤に凹凸や亀裂を生じて車両の走行に支障が生じるなどの問題が生じる。また、特許文献1には、溶融スラグの塩基度(CaO/SiO2)を0.7以上、1.2以下の範囲に規制すると共に、酸化マグネシウム MgOの含有量が30wt%以上となるようにマグネシア含有原料を添加することからなるクロム鉱石の溶融還元方法が提案されている。この組成のスラグには、次式(2)に示される水和反応によって水酸化マグネシウムMg(OH)2を生成する酸化マグネシウムfree−MgOを多量に含有されていると考えられ、耐火物の損耗を低減するには効果があるが、free−CaOと同様、free−MgOも水和してMg(OH)2となる時に体積が約2倍に膨張するため、路盤に凹凸や亀裂を生じて車両の走行に支障が生じるなどの問題が生じる。
【0006】
【化2】
【0007】
このため、道路用製鋼スラグの物性として非特許文献1では、水浸膨張率を1.5%以下に制限しており、この規格を満足させることが重要である。
【0008】
従来、製鋼スラグの膨張の原因となるfree−CaOやfree−MgOを低減する方法として、次のような方法が知られている。
【0009】
(a) 自然エージング処理方法
この処理は、所定粒度に破砕した製鋼スラグを、山積みし、大気中の水分、雨水等によって(1)式の水和反応を行わせることにより、free−CaOをCa(OH)2、free−MgOをMg(OH)2として安定化する方法である。
【0010】
(b) 水蒸気エージング処理方法
この処理は、特許文献2に記載されているように、所定粒度に破砕した製鋼スラグを、山積みし、高温度で蒸気を吹き込み、大気中で48時間以上暴露することにより、free−CaOをCa(OH)2、free−MgOをMg(OH)2として安定化する方法である。
【0011】
(c) 温水エージング処理方法
この処理は、特許文献3に記載されているように、所定粒度に破砕した製鋼スラグを、温水に浸漬することにより、free−CaOをCa(OH)2、free−MgOをMg(OH)2として安定化する方法である。
【0012】
(d) 赤泥添加処理方法
この処理は、特許文献4に記載されているように、溶融状態の転炉スラグまたは電気炉スラグに赤泥を添加することにより、free−CaO及びfree−MgOを消失させ、スラグの膨張性を安定化する方法である。
【0013】
しかしながら、製鋼スラグ中のfree−CaOやfree−MgOは、スラグ塊の表面だけでなく、塊の内部にも取り込まれており、その存在状態は様々であるため、free−CaOやfree−MgOを含む製鋼スラグを路盤材として使用した場合の膨張現象は複雑なものとなっている。このため、自然エージング処理法では、free−CaOやfree−MgOを安定化するのに通常1年以上の長期間を要するという問題があった。
【0014】
また、水蒸気エージング処理法や温水エージング処理法でも、48時間以上のエージング時間を要するという問題があった。さらに、赤泥添加処理法は、溶融状態で赤泥を添加することから、スラグの塩基度が低下し、転炉等の耐火物を損耗させる原因になっていた。
【0015】
free−CaO、free−MgOの評価方法としては、特許文献5に示されるようにスラグ構成成分の状態図を基にfree−CaO及びfree−MgOを推定する方法、特許文献6に示される熱力学平衡計算手法であるThermocalcを用いてfree−CaO及びfree−MgOを推定する方法、非特許文献1に示される水浸膨張率から推定する方法、非特許文献2〜4に示されるエチレングリコール抽出法、トリブロムフェノール抽出法などが知られている。スラグ以外の材料の水和度評価方法としては、特許文献7に示されるMgOを主成分とする方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤の水和度の評価方法が知られている。
【0016】
【特許文献1】
特開平9−157765号公報
【特許文献2】
特開昭61−101441号公報
【特許文献3】
特開平3−13517号公報
【特許文献4】
特公昭57−2768号公報
【特許文献5】
特開2001−64714号公報
【特許文献6】
特開2002−68789号公報
【非特許文献1】
JIS A 5015「水浸膨張試験」
【非特許文献2】
鉄と鋼:Vol.63(1977)No.14 P50−59
【非特許文献3】
鉄と鋼:Vol.64(1978)No.10 P68−77
【非特許文献4】
鉄と鋼:Vol.68(1982)No.16 P97−104
【特許文献7】
特開2002−90300号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
スラグを利用する際にはfree−CaO、free−MgOの評価は非常に重要である。しかしながら、特許文献5に示される状態図を基に推定する方法、及び特許文献6に示される熱力学平衡計算手法であるThermocalcを用いて推定する方法は、推定値であり、実際にfree−CaO、free−MgO量を調べるには非特許文献1に示される水浸膨張率等を測定し、free−CaO及びfree−MgOの影響を評価しなければならないという問題があった。また非特許文献1に示される水浸膨張率から推定する方法は、被測定物の水和による膨張率を求めるもので、被測定物中のどの成分の水和によるものか判定できないという問題があった。さらに水和速度も成分によって異なるため、水和速度が遅い成分による影響を調べるためには、長時間の水浸試験が必要であるという問題があった。
【0018】
非特許文献2〜4に示されるエチレングリコール抽出法およびトリブロムフェノール抽出法は、スラグをエチレングリコールまたはトリブロムフェノールで抽出し、溶出したCa量を持ってfree−CaO量とする方法であるが、エチレングリコールまたはトリブロムフェノールに溶出するCaはCaOに限らず、Ca(OH)2からも溶出すること、またCaCO3のCaも一部溶出する可能性があることから、正確にfree−CaOを評価することができないという問題があった。
【0019】
特許文献7に示されるMgOを主成分とする方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤の水和度の評価方法は、Mg(OH)2以外の水和物を評価できないという問題があった。
【0020】
以上のように従来のfree−CaO、free−MgOの推定法及び水浸膨張率から推定する方法では、スラグの実際の水和度を評価することが極めて困難であることが明らかになった。本発明は、上記のような点を鑑みて、スラグの水和反応を適切に評価し、安定な性状が要求される路盤材等へのスラグの適用を可能とする評価方法を提供するものである。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、スラグ試料の赤外線吸収スペクトルで観測される波数約3643cm−1の吸収帯がCa(OH)2のO−H伸縮振動に起因すること、波数約3698cm−1の吸収帯がMg(OH)2のO−H伸縮振動に起因することを見出し、Ca(OH)2のO−H伸縮振動に起因する波数約3643cm−1の吸収帯のピーク高さ又はピーク面積と、Mg(OH)2のO−H伸縮振動に起因する波数約3698cm−1の吸収帯のピーク高さ又はピーク面積から、試料中のCa(OH)2量とMg(OH)2量を推定することができ、スラグの水和度を評価できることを突き止め、この知見をもとに本発明を完成したものである。
【0022】
本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
【0023】
(1) 酸化カルシウム及び/または酸化マグネシウムを含有する製鋼スラグを粉砕・微粉化した試料の水和処理前後の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ測定し、水酸化カルシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3643cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積、及び/または水酸化マグネシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3698cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積に基づいて、試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量を推定し、前記水和処理前後の試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量のそれぞれの差を製鋼スラグの水和度として評価する製鋼スラグの水和度評価方法。
【0024】
(2) 酸化カルシウム及び/または酸化マグネシウムを含有する製鋼スラグを粉砕・微粉化した試料の水和処理前後の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ測定し、水酸化カルシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3643cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積、及び/または水酸化マグネシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3698cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積に基づいて、予め測定した水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウムの検量線から、概試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量を求め、前記水和処理前後の試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量のそれぞれの差を製鋼スラグの水和度として評価することを特徴とする製鋼スラグの水和度評価方法。
【0025】
(3) 酸化カルシウム及び/または酸化マグネシウムを含有する製鋼スラグを粉砕・微粉化した試料に既知物質を内部標準試料として添加して水和処理前後の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ測定し、水酸化カルシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3643cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積、及び/または水酸化マグネシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3698cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積に基づいて、内部標準試料の特性吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積との比較から水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量を求め、前記水和処理前後の試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量のそれぞれの差を製鋼スラグの水和度として評価することを特徴とする製鋼スラグの水和度評価方法。
【0026】
(4) 酸化カルシウム及び/または酸化マグネシウムを含有する製鋼スラグを粉砕・微粉化した試料の水和処理前後の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ測定し、水酸化カルシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3643cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積、及び/または水酸化マグネシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3698cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積に基づいて、他の波数領域に観測される製鋼スラグ成分の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積との比較から水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量を推定し、前記水和処理前後の試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量のそれぞれの差を製鋼スラグの水和度として評価することを特徴とする製鋼スラグの水和度評価方法。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の詳細を説明する。
【0028】
赤外分光分析法は、試料に赤外線を照射し、分子振動のうち、双極子能率の変化を起こす振動に起因する吸収スペクトルを測定する方法で、有機化合物に対する官能基の定性及び定量分析、芳香族置換体の分析、高分子化合物の分析、一部無機化合物の分析に広く用いられている。Ca(OH)2の赤外線吸収スペクトルには、3643cm−1付近にCa(OH)2のO−H伸縮振動に起因する鋭い吸収帯が、Mg(OH)2の赤外線吸収スペクトルには、3698cm−1付近にMg(OH)2のO−H伸縮振動に起因する鋭い吸収帯が観測される。約3643cm−1、約3698cm−1の吸収帯は、各々Ca(OH)2、Mg(OH)2固有のもので、他の水酸化物、例えば水酸化アルミニウムとは全く異なる。このように、最大吸収波数、吸収帯の数や強度比、吸収帯の半値幅などのスペクトルパターンから化合物の定性分析が行われる。
【0029】
図1に製鋼スラグA(水和処理前、試料量2.0mg)と試薬のCa(OH)2(試料量0.1mg)、Mg(OH)2(試料量0.05mg)の赤外吸収スペクトルを示す。スラグAの組成は、CaO:40.9質量%、MgO:9.97質量%、SiO2:24.7質量%、Al2O3:16.4質量%、Fe2O3:2.45質量%、MnO:3.02質量%、P2O5:0.17質量%である。
【0030】
試薬のCa(OH)2は3643cm−1に、Mg(OH)2は3698cm−1にO−Hに起因する吸収帯が観測される。一方、スラグにおいても3643cm−1、3698cm−1付近に吸収帯が観測されるが、吸収帯の波数だけでこれらが各々Ca(OH)2およびMg(OH)2に相当すると判断するのは難しい。そこで、スラグAで観測される3643cm−1、3698cm−1の吸収帯が、各々Ca(OH)2、Mg(OH)2のものかどうかを検証するために、「鉄と鋼:Vol.88 (2002) No.9 P507−512」に示される高温赤外分光法で吸収帯の温度変化を観測した。特許文献7に示される方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤のように、MgOを主成分とする材料であれば、通常の赤外吸収スペクトルからMg(OH)2を検出することは容易であるが、製鋼スラグのようにMgO量が少なく、またCa等他の水和物が共存する材料では通常の赤外吸収スペクトルからMg(OH)2及びCa(OH)2を検出することは困難である。図2に製鋼スラグA、図3にCa(OH)2(試薬)、図4にMg(OH)2(試薬)の高温赤外吸収スペクトルを示す。スラグAで観測される3643cm−1、3698cm−1の吸収帯が、各々Ca(OH)2、Mg(OH)2のO−H吸収帯であるならば、Ca(OH)2、Mg(OH)2の脱水温度で吸収帯は消失するはずである。スラグAと試薬のCa(OH)2、Mg(OH)2の高温赤外吸収スペクトルを測定し、3643cm−1、3698cm−1の吸収帯強度の温度変化を検討した結果、スラグの3643cm−1の吸収帯は約400℃、3698cm−1の吸収帯は、約350℃で強度が減少し、各々試薬のCa(OH)2、Mg(OH)2の吸収帯強度の温度変化と一致した。
【0031】
一方、定量分析は吸収帯の強度がLambert−Beerの法則に従うことを利用する。
【0032】
【数1】
【0033】
ここで、I0は、照射(基準)光量、
Iは、透過(試料透過)光量、
log(I0/I)は、吸光度、
aは、吸光係数、
c、は濃度、
tは、光路長を示す。
【0034】
吸光度は無次元であり、吸光係数、濃度、光路長の単位は統一されていれば何を用いてもよい。例えば、濃度としてはmass%、mol/L、mg/mg等、光路長としてはm、cm、mm等が一般的である。吸光係数aは各吸収帯固有の係数で、一定である。光路長tは、固体試料測定の場合、試料量を意味するため、あらかじめ試料量を測定しておけば、既知となる。すなわち、吸収帯の強度を吸光度で測定すれば、その強度と濃度は比例関係となる。吸収帯の強度はピーク高さ、またはピーク面積の何れを用いても良い(前記(1)に係る本発明)。
【0035】
スラグのような固体試料の赤外線吸収スペクトル測定法としては、試料を粉末とし、その粉末試料の一定量を赤外線に透明な臭化カリウムや塩化ナトリウム、塩化カリウムなどと混合して加圧・成型する錠剤法、試料粉末と上記赤外線透明材料を混合して赤外線を照射し、拡散反射される赤外線を分光する拡散反射法、測定する吸収帯に影響を与えない吸収スペクトルを持つ液体(例えば流動パラフィンなどの炭化水素)と試料を混合してペーストを作り、ペーストを赤外線透過窓材に塗付、あるいは2枚の赤外線透過窓材で挟んで測定する液膜法があるが錠剤法が最も簡便で、定量性も良い。一般的な錠剤法は、試料と臭化カリウムを粉砕・混合して加圧・成型する。試料と臭化カリウムの量は、13mmφ程度の大きさの錠剤を成型する場合、臭化カリウム約300mgに対し、試料量0.1から10mg程度が良いが、錠剤の大きさ、試料中の測定する成分量、吸収帯のモル吸光係数などによって比率を変えても良い。
【0036】
吸収帯の強度からCa(OH)2量、Mg(OH)2量を求めるには、▲1▼あらかじめ試薬のCa(OH)2、Mg(OH)2量を用いて、試薬量とO−Hに起因する吸収帯の強度から検量線を作成しておき、次に一定量の試料を秤量して、その赤外線吸収スペクトルを測定し、試料中のCa(OH)2及び、Mg(OH)2に起因するO−H吸収帯の強度を算出し、検量線からこの吸収帯強度に相当するCa(OH)2量、Mg(OH)2量を求め、試料のスラグの重量に占める割合を算出する検量線法(前記(2)に係る本発明)、▲2▼既知の他物質を内部標準として一定量添加し、水酸化マグネシウムのO−H吸収帯の強度と内部標準との強度比から定量する内部標準法(前記(3)に係る本発明)、▲3▼製鋼スラグの構成成分で、Ca(OH)2、Mg(OH)2のO−H吸収帯と波数位置の異なる吸収帯を利用し、その強度とCa(OH)2及びMg(OH)2のO−H吸収帯の強度比から求める方法(前記(4)に係る本発明)などがあるが、検量線法が最も精度が良い。
【0037】
次にCa(OH)2量、Mg(OH)2量を求める方法を具体的に述べる。スラグを粉砕し、その一定量を秤量して赤外線吸収スペクトルを測定する。赤外吸収スペクトルの測定法は、前記記載の赤外線に透明な臭化カリウムや塩化ナトリウム、塩化カリウムなどと混合して加圧・成型する錠剤法、試料粉末と上記赤外線透明材料を混合して赤外線を照射し、拡散反射される赤外線を分光する拡散反射法、測定する吸収帯に影響を与えない吸収スペクトルを持つ液体(例えば、流動パラフィンなどの炭化水素)と試料を混合してペーストを作り、ペーストを赤外線透過窓材に塗付、あるいは2枚の赤外線透過窓材で挟んで測定する液膜法の何れでも良い。
【0038】
スラグ中にCa(OH)2、Mg(OH)2が生成すると、Ca(OH)2のO−H伸縮振動に起因する吸収帯が波数約3643cm−1に、Mg(OH)2のO−H伸縮振動に起因する吸収帯が波数約3698cm−1に観測される。吸収帯の波数は、測定装置の分解能条件、共存する成分などによって変動するが、変動範囲は一般的な測定条件である分解能4cm−1では±2cm−1程度である。
【0039】
吸収帯の強度は、Lambert−Beerの法則に従うため、この吸収帯の強度を測定すれば、一定試料量であれば試料間でCa(OH)2、Mg(OH)2量の比較ができ、試料中のCa(OH)2、Mg(OH)2量を推定することができる。あるいは、予め測定したCa(OH)2やMg(OH)2量の検量線から、概試料中のCa(OH)2、Mg(OH)2量を求めても良い。また、試料に既知物質を内部標準試料として添加して、Ca(OH)2のO−H伸縮振動に起因する約3643cm−1の吸収帯、Mg(OH)2のO−H伸縮振動に起因する波数約3698cm−1の吸収帯のピーク高さ又はピーク面積と内部標準試料の特性吸収帯のピーク高さ又はピーク面積との比較からCa(OH)2、Mg(OH)2量を求めても良い。さらに、Ca(OH)2、Mg(OH)2の吸収が無い波数領域、4000〜3800cm−1及び3600〜590cm−1に観測される製鋼スラグ成分の吸収帯、例えば炭酸イオンに起因する1450cm−1、酸化物に相当する986、940、866cm−1等のピーク高さ又はピーク面積との比較からCa(OH)2、Mg(OH)2量を求めても良い。以上のような方法により、スラグ中のCa(OH)2及びMg(OH)2量を測定することができる。
【0040】
次に製鋼スラグの水和度を評価する方法を述べる。従来よりスラグの評価に用いられているfree−CaOやfree−MgOは、水和してCa(OH)2やMg(OH)2を生じるCaOやMgOを表すもので、スラグを路盤材などに用いた際に膨張による、路盤の凹凸や亀裂の発生を予測するための指標となっている。前述したように、従来の方法ではfree−CaOやfree−MgOを直接測定することは困難であるが、スラグを完全に水和させた試料を調製し、本発明の上記の方法でCa(OH)2、Mg(OH)2量を求めておくと、free−CaOやfree−MgOに相当するCaO、MgOを測定することができる。すなわち、スラグを水和させた試料と水和させる前のCa(OH)2及びMg(OH)2量の差を水和度と定義すれば、水和度がCa(OH)2やMg(OH)2を生じるCaOやMgO、すなわちfree−CaO及びfree−MgOと等価となる。スラグを水和させる方法としては、JIS−R2211「塩基性耐火れんがの消化性の試験方法」に示されるオートクレーブ(高温・高圧容器)を用いた方法、非特許文献1に示される温水に浸漬する方法、特開昭61−101441号公報に示されるように高温度の蒸気の吹き込みによって加熱しながら、大気中で48時間以上暴露してエージングする方法など、何れの方法でも良い。
【0041】
以上の方法により、製鋼スラグの水和度を好適に評価することができる。
【0042】
【実施例】
組成の異なる3種類のスラグA、B、Cの水和処理前の赤外吸収スペクトルを測定し、試薬のCa(OH)2、Mg(OH)2を用いて作成した検量線により、スラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2量を測定した。スラグの組成とCa(OH)2、Mg(OH)2量の測定結果を表1に示す。Ca(OH)2量は、スラグのCaOと一致しないため、組成から推定することは困難である。一方、Mg(OH)2はMgO量と傾向が一致するものの必ずしも組成比とは一致していない。これはCa及びMgがすべてCaO、MgOの形態で存在しているのではなく、水和しない化合物形態を形成しているためと考えられる。化合物の形態を調べるには、X線回折による結晶構造解析が有効であるが、スラグはほとんどが非晶質なためX線回折法では形態を調べることはできない。従って、実際の水和物を直接検出する本発明が、スラグの水和度の評価に非常に有効である。
【0043】
【表1】
【0044】
次にスラグA、B、Cを水蒸気中で60時間水和させ、その後のスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2量を本発明により測定した。その結果を表2に示す。さらに表1の水和処理前のものと表2の水和処理後のCa(OH)2、Mg(OH)2量の差を水和処理前のスラグ中のfree−CaO、free−MgOとして算出した。
【0045】
【表2】
【0046】
水和処理によってCa(OH)2、Mg(OH)2とも増加するが、増加率はMg(OH)2が多い。これは、CaOの水和速度が速いため、Caは水和処理前でも水和が進んでいるためと考えられる。
【0047】
【発明の効果】
本発明により、製鋼スラグの水和度を高精度に評価することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】スラグAと、試薬のCa(OH)2及びMg(OH)2の赤外吸収スペクトルである。
【図2】スラグAの高温赤外吸収スペクトルである。
【図3】Ca(OH)2(試薬)の高温赤外吸収スペクトルである。
【図4】Mg(OH)2(試薬)の高温赤外吸収スペクトルである。
Claims (4)
- 酸化カルシウム及び/または酸化マグネシウムを含有する製鋼スラグを粉砕・微粉化した試料の水和処理前後の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ測定し、
水酸化カルシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3643cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積、及び/または水酸化マグネシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3698cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積に基づいて、試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量を推定し、
前記水和処理前後の試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量のそれぞれの差を製鋼スラグの水和度として評価することを特徴とする製鋼スラグの水和度評価方法。 - 酸化カルシウム及び/または酸化マグネシウムを含有する製鋼スラグを粉砕・微粉化した試料の水和処理前後の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ測定し、
水酸化カルシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3643cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積、及び/または水酸化マグネシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3698cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積に基づいて、予め測定した水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウムの検量線から、試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量を求め、
前記水和処理前後の試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量のそれぞれの差を製鋼スラグの水和度として評価することを特徴とする製鋼スラグの水和度評価方法。 - 酸化カルシウム及び/または酸化マグネシウムを含有する製鋼スラグを粉砕・微粉化した試料に既知物質を内部標準試料として添加して水和処理前後の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ測定し、
水酸化カルシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3643cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積、及び/または水酸化マグネシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3698cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積に基づいて、内部標準試料の特性吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積との比較から水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量を求め、
前記水和処理前後の試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量のそれぞれの差を製鋼スラグの水和度として評価することを特徴とする製鋼スラグの水和度評価方法。 - 酸化カルシウム及び/または酸化マグネシウムを含有する製鋼スラグを粉砕・微粉化した試料の水和処理前後の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ測定し、
水酸化カルシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3643cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積、及び/または水酸化マグネシウムのO−H伸縮振動に起因する波数約3698cm−1の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積に基づいて、他の波数領域に観測される製鋼スラグ成分の吸収帯のピーク高さ若しくはピーク面積との比較から水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量を推定し、
前記水和処理前後の試料中の水酸化カルシウム及び/または水酸化マグネシウム量のそれぞれの差を製鋼スラグの水和度として評価することを特徴とする請求項1に記載の製鋼スラグの水和度評価方法。
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