JP2004305006A - 人工調製肺サーファクタント - Google Patents
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Abstract
【課題】安価に量産が可能であって、しかも病原菌等の感染の心配のない人工調製肺サーファクタントや、該人工調製肺サーファクタントに含有される肺サーファクタント活性を有する新規ペプチド、該ペプチドに特異的に結合する抗体、該ペプチドをコードするDNAを提供すること。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなるペプチドHel 13−5、Hel 11−7、Hel 7−11−P24、P24を含有する人工調製肺サーファクタント、特定のアミノ酸配列からなるペプチドHel 7−11−P24、該ペプチドに特異的に結合する抗体、該ペプチドをコードするDNAである。
【選択図】図1
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなるペプチドHel 13−5、Hel 11−7、Hel 7−11−P24、P24を含有する人工調製肺サーファクタント、特定のアミノ酸配列からなるペプチドHel 7−11−P24、該ペプチドに特異的に結合する抗体、該ペプチドをコードするDNAである。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、人工調製肺サーファクタントや、該人工調製肺サーファクタントに含有される肺サーファクタント活性を有するペプチド等に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)疾患に対しては、医薬品として、人工調製肺サーファクタントSurfacten(登録商標)が使用されている。肺胞細胞より生成分泌される肺サーファクタントは、肺胞の表面張力を低下することにより肺機能をつかさどる生命維持に必須の脂質−蛋白質複合体である。新生児医療の領域において、小児が出生時、この肺サーファクタントを、充分作り出すことができない疾病がある。ヒトでは、在胎34週頃より早期に出生した未熟児の肺サーファクタント生成が十分でないため、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)を発症する確率が極めて高い。RDSは死亡率が高く、また幸いその急性期を乗り切った場合も多くの後遺症を残す。1979年Fujiwaraらは、人工調製肺サーファクタントのヒトRDSに対する劇的な効果を報告し(例えば、非特許文献1参照。)、1987年にはSurfacten(登録商標)として、世界で初めてRDS治療薬として完成させた。Surfacten(登録商標)は、牛肺からのリン脂質(88%)、中性脂質(11%)、蛋白質(1%)よりなる活性成分を抽出し、調製されている。
【0003】
一方、肺サーファクタントが存在してもその機能が阻害される代表的疾患として急性呼吸窮迫症候群(ARDS)がある。これは様々な基礎疾患により肺胞に浮腫やサーファクタント活性阻害物質が出現することにより肺機能が低下し、重篤な呼吸障害をきたす疾患で、その発症は10万人あたり15〜20人と報告されている。急性期の治療に用いた人工換気、酸素による肺損傷のため、基礎疾患が治療できたにもかかわらず不幸な転帰をとる場合も多く、その死亡率は50%前後と極めて高い。ARDS早期に人工調製肺サーファクタントを大量(400mg/kg)に投与して肺機能を改善させ、肺損傷を最小に抑える治療法は、死亡率を対象群の43.8%から18.8%にまで低下させると報告されているが、同時に人工調製肺サーファクタントの$712/200mgという高価さも問題点として指摘されている。さらに、肺炎をはじめとする多くの呼吸器疾患で肺サーファクタントの生物物理学的活性が阻害されていることが報告されており、その重症例での人工調製肺サーファクタントの効果も確認されている。
【0004】
現在、人工調製肺サーファクタントの開発研究がなされており、いくつか肺サーファクタント蛋白質関連ペプチドの報告がある(例えば、非特許文献2参照。)。そのうち、1991年Cochraneらによって初めて報告され、現在臨床化されている配列番号5に示されるアミノ酸21残基からなる人工合成ぺプチドKL4とある種の脂質混合物(Surfaxin(登録商標)が、RDSやARDSに対する治療薬として期待されている(例えば、非特許文献3〜5参照。)が、まだその実用効果は完全とは言えない。
【0005】
【非特許文献1】
The Lancet・Saturday 12 January 1980
【非特許文献2】
Biochimica et Biophysica Acta 1408, 203−217, 1998
【非特許文献3】
Science, Vol.254, 566−568, 1991
【非特許文献4】
AMERICAN JOURNAL OF RESPIRATORY AND CRITICAL CARE MEDICINE VOL.160, 1188−1195, 1999
【非特許文献5】
Pedoatrics Vol.109, 1081−1087, (2002)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、人工調製肺サーファクタントは肺疾患の治療に重要であるが、Surfacten(登録商標)は12万円/120mg/バイアルと非常に高価である。1kgの未熟児を治療するには1バイアルもあれば十分であり、あまり問題とはならないが、大人の場合は1度にその50倍近くものサーファクタントを要するため、高額な費用が必要とされる。しかしながら、保険適用が認められているのはRDSのみである。また、他の呼吸器疾患はその効果が証明されているにもかかわらず、保険適用外である。さらに、Surfacten(登録商標)は牛由来の蛋白質を含んでいるため、その抗原性および未知の病原性によって、例えば狂牛病等の感染の可能性を含む問題もある。
本発明はかかる実状に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、安価に量産可能であって、しかも病原菌等の感染の心配のない人工調製肺サーファクタントや、該人工調製肺サーファクタントに含有される肺サーファクタント活性を有する新規ペプチド等を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、全く別の目的で開発してきた両親媒性ヘリックス構造を有する人工合成ペプチドに肺サーファクタント効果があることを見い出し、これらのペプチドの肺サーファクタント効果に関して鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明者らは、これまでに種々の疎水性・親水性バランスを持つ18残基からなるモデルペプチドHel 13−5等の脂質膜や生体膜との相互作用を研究している。これらは、図1に示すように、α−ヘリックス構造をとったとき、両親媒性構造をとるようにデザインされている(図1中、Kは親水性を呈するリジンを、LとWは疎水性を呈するロイシンとトリプトファンを、それぞれ表す。)。そして、その中で最も疎水性の強い配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるHel 13−5が、リン脂質と相互作用をしてナノチューブ状の超構造を取ることを明らかにした(Biophys. J., 76, 1457−1468 (1999))。その構造は、肺サーファクタント代謝の途中で形成され、肺表面に脂質が拡散するのに重要な役割を果たしている格子状の膜構造(tubular myelin structure)を彷彿させたため、肺サーファクタントの主な脂質組成でリポソームを作り、Hel 13−5と作用をさせたところ、格子構造は見られなかったが色々な形のチューブ構造が見られた(J. Biol. Chem., 276, 41224−41228 (2001))。これらチューブ構造が、膜表面での拡散等に果たす役割を調べる目的で、この混合物のモデル膜二次元相挙動を調べたところ、肺サーファクタント中に存在する蛋白質SP−B及びSP−Cの混合DPPC単分子膜のそれと非常によく似ていることを見い出し、Hel 13−5が肺サーファクタントの性質を持つ可能性が示された。
【0009】
肺サーファクタント中の蛋白質のSP−B及びSP−Cは、膜に対する作用様式が異なることが知られている。SP−Bは膜表面に存在し、SP−Cは膜を貫通していると言われており、Hel 13−5は、SP−Bに似た膜表在型のペプチドとみなすことができる。その脂溶性部分の役割を調べる目的でそれよりも親水性を高めた配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるHel 11−7を膜表在型のペプチドとしてとりあげた。これらのペプチドはすでに本発明者らがデザイン合成し、その詳細な物性も報告済みである(G., Biochemistry, 35, 13196−13204 (1996)、M., Biophys. J., 76, 1457−1468 (1999))。また、生体膜貫通型ペプチドとして、その物性がよく研究されているの配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドP24(Leu残基が24)をSP−C型として取り上げた(Biochemistry, 22, 5298−5305 (1983))。これまでの表面活性の研究から、SP−B及びSP−Cが共存して働くことで、高い肺サーファクタント効果が得られると考えられている。そのため、その結合型として、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる両親媒性ペプチドHel 7−11とペプチドP24結合させることによって、表在部と膜貫通部を合わせ持つ、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるHel 7−11−P24を新たにデザインした。膜表在型両親媒性ペプチドHel 7−11は、疎水生と親水性のバランスがHel 11−7のそれと逆であるため水溶性が高く、難溶性のペプチドP24との合成ペプチドの水溶性を高めることができ、合成物の精製が容易となる。
【0010】
すなわち本発明は、両親媒性ヘリックス構造を有し、ヘリックス構造をヘリックス車輪図で表すとき疎水性の偏りが大きいペプチドを所定量含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント(請求項1)や、ペプチドが、NH2−KLLKLLLKLWLKLLKLLL−COOH(配列番号1)であることを特徴とする請求項1記載の人工調製肺サーファクタント(請求項2)や、ペプチドが、NH2−KLLKLLLKLWKKLLKLLK−COOH(配列番号2)であることを特徴とする請求項1記載の人工調製肺サーファクタント(請求項3)や、両親媒性ヘリックス構造を有し、ヘリックス構造をヘリックス車輪図で表すとき両親媒性ヘリックス構造を有する部分と、生体膜を貫通しうる程度の疎水性残基を有する部分とを併せもつペプチドを所定量含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント(請求項4)や、ペプチドが、AcNH−KKLKKLLKKWKKLLKKLKGGGKKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号3)であることを特徴とする請求項4記載の人工調製肺サーファクタント(請求項5)や、両親媒性ヘリックス構造を有し、生体膜を貫通しうる程度の疎水性残基を有するペプチドを所定量含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント(請求項6)や、ペプチドが、AcNH−KKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号4)であることを特徴とする請求項6記載の人工調製肺サーファクタント(請求項7)や、配列番号1〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ肺サーファクタント活性を有するペプチドを所定量含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント(請求項8)や、置換が、L(ロイシン)から他の脂肪族疎水性残基への置換であることを特徴とする請求項8記載の人工調製肺サーファクタント(請求項9)や、置換が、W(トリプトファン)から他の脂肪族疎水性残基又は芳香族疎水性残基への置換であることを特徴とする請求項8又は9記載の人工調製肺サーファクタント(請求項10)や、置換が、K(リジン)から他の塩基性の親水性残基への置換であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか記載の人工調製肺サーファクタント(請求項11)に関する。
【0011】
また本発明は、請求項1〜11のいずれか記載のペプチド群から選ばれる2種以上のペプチド含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント(請求項12)や、リン脂質及び脂肪酸類を含有することを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の人工調製肺サーファクタント(請求項13)や、リン脂質が、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及びホスファチジルグリセロール(PG)であって、脂肪酸類がパルミチン酸(PA)であることを特徴とする請求項13に記載の人工調製肺サーファクタント(請求項14)や、肺サーファクタント活性を有するペプチドAcNH−KKLKKLLKKWKKLLKKLKGGGKKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号3)(請求項15)や、配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ肺サーファクタント活性を有するペプチド(請求項16)や、置換が、L(ロイシン)から他の脂肪族疎水性残基への置換であることを特徴とする請求項16記載の人工調製肺サーファクタント(請求項17)や、置換が、W(トリプトファン)から他の脂肪族疎水性残基又は芳香族疎水性残基への置換であることを特徴とする請求項16又は17記載の人工調製肺サーファクタント(請求項18)や、置換が、K(リジン)から他の塩基性の親水性残基への置換であることを特徴とする請求項16〜18のいずれか記載の人工調製肺サーファクタント(請求項19)や、請求項15〜19のいずれか記載のペプチドと、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合ペプチド(請求項20)や、請求項15〜19のいずれか記載のペプチドに特異的に結合する抗体(請求項21)や、以下の(a)又は(b)のペプチドをコードするDNA。
(a)肺サーファクタント活性を有するペプチドAcNH−KKLKKLLKKWKKLLKKLKGGGKKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号3)
(b)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ肺サーファクタント活性を有するペプチド(請求項22)に関する。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の人工調製肺サーファクタントとしては、NH2−KLLKLLLKLWLKLLKLLL−COOH(配列番号1;以下「Hel 13−5」ということがある)やNH2−KLLKLLLKLWKKLLKLLK−COOH(配列番号2;以下「Hel 11−7」ということがある)等の両親媒性ヘリックス構造を有し、ヘリックス構造をヘリックス車輪図で表すとき疎水性の偏りが大きいペプチドや、AcNH−KKLKKLLKKWKKLLKKLKGGGKKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号3;以下「Hel 7−11−P24」ということがある)等の両親媒性ヘリックス構造を有し、ヘリックス構造をヘリックス車輪図で表すとき両親媒性ヘリックス構造を有する部分と、生体膜を貫通しうる程度の疎水性残基を有する部分とを併せもつペプチドや、AcNH−KKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号4;以下「P24」ということがある)等の両親媒性ヘリックス構造を有し、生体膜を貫通しうる程度の疎水性残基を有するペプチドを、所定量含有する人工調製肺サーファクタントであれば特に制限されるものではなく、ここで、「両親媒性ヘリックス構造を有する」とは、ヘリックス構造をとったとき、分子全体に疎水性と親水性残基の偏りが見られることをいい、「ヘリックス車輪図で表すとき疎水性の偏りが大きい」とは、ヘリックスをN末端からC末端に投影したとき表される円の中心角において親水性より疎水性の残基の割合が大きいことをいい、「ヘリックス車輪図で表すとき両親媒性ヘリックス構造を有する」とは、前述の円において親水性と疎水性の残基に偏りがあることをいい、「生体膜を貫通しうる程度の疎水性残基を有する」とは、生体膜の種類にもよるが、ペプチド分子内に、14〜28の疎水性アミノ酸残基を有することをいう。また、これらペプチドを1種含有してもよいし、2種以上を含有していてもよい。併用の具体的としては、上記ペプチドHel 13−5とペプチドHel 11−7を共に含有する人工調製肺サーファクタントを例示することができる。
【0013】
また、本発明の人工調製肺サーファクタントとしては、上記配列番号1〜4に示されるいずれかのアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加により改変されたアミノ酸配列からなり、かつ肺サーファクタント活性を有するペプチドであれば特に制限されるものではなく、これらを1種含有してもよいし、上記配列番号1〜4に示されるいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドを含め2種以上を含有してもよい。ここで、肺サーファクタント活性とは、後述の実施例記載の表面拡散速度評価、表面張力−面積ダイアグラム評価、表面吸着速度評価において、配列番号1〜4に示されるアミノ酸配列のいずれかからなるペプチドと同効の測定結果を奏するものをいう。したがって、アミノ酸の「置換、欠失若しくは付加」の程度及びそれらの位置などは、改変されたペプチドが、配列番号1〜4に示されるアミノ酸配列のいずれかからなるペプチドと同様に、肺サーファクタント活性を有する同効物であれば特に制限されず、例えば、上記置換として、L(ロイシン)から他の脂肪族疎水性残基(イソロイシン、バリン、アラニン等)への置換や、W(トリプトファン)から他の脂肪族疎水性残基(イソロイシン、バリン、アラニン等)、芳香族疎水性残基(チロシン、フェニルアラニン等)又はプロリンへの置換や、K(リジン)から他の塩基性の親水性残基(アルギニン、ヒスチジン等)への置換を具体的に挙げることができる。アミノ酸配列の改変(変異)は、例えば突然変異や翻訳後の修飾などにより生じることもあるが、人為的に改変することもできる。本発明においては、このような改変・変異の原因及び手段などを問わず、上記特性を有する全ての改変ペプチドを包含する。これらのペプチドは、化学的又は遺伝子工学的手法により製造することができる。
【0014】
本発明の人工調製肺サーファクタントは、動物由来の蛋白質を含んでいないため、病原菌等による感染の心配がなく安心して使用することができると共に、人工合成ペプチドを用いるので安価に量産することが可能である。また、本発明の人工調製肺サーファクタントにおけるペプチドは残基数も少ないのでより容易かつ安価に製造することができる。具体的に、合成面からみると、Hel 11−7は特に容易に合成できるので好ましい。本発明の人工調製肺サーファクタントは、牛肺に依存しない新規人工調製肺サーファクタントとして、RDSやADRS疾患への適用、肺ガン等による重篤な末期症状の呼吸窮迫の緩和、その他、肺炎をはじめとする多くの呼吸器疾患の重症例への適用が可能である。
【0015】
また、本発明の人工調製肺サーファクタントは、リン脂質及び脂肪酸類を含有することが好ましい。リン脂質としては、1,2−ジパルミトイルグリセロ−(3)−ホスホコリン(ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC))、1,2−ジステアロイルグリセロ−(3)−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−ステアロイルグリセロ−(3)−ホスホコリン若しくは1−ステアロイル−2−パルミトイルグリセロ−(3)−ホスホコリン等の1,2−ジアシルグリセロ−(3)− ホスホコリン、1−ヘキサデシル−2−パルミトイルグリセロ−(3)−ホスホコリン若しくは1−オクタデシル−2−パルミトイルグリセロ−(3)−ホスホコリン等の1−アルキル−2−アシルグリセロ−(3)−ホスホコリン、1,2−ジヘキサデシルグリセロ−(3)−ホスホコリン等の1,2−ジアルキルグリセロ−(3)−ホスホコリン、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)等のホスファチジルエタノールアミン、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−(3)−リン酸(L−α−ホスファチジン酸)、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−(3)−ホスホ−L−セリン(ホスファチジルセリン)、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−(3)−ホスホ−sn−グリセロール(ホスファチジルグリセロール(PG))、ジホスファチジルグリセロール、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−(3)−ホスホ−(1)−L−myo−イノシトール(ホスファチジルイノシトール)等が挙げられる。また脂肪酸類としては、遊離脂肪酸、脂肪酸のアルカリ金属塩、脂肪酸アルキルエステル、脂肪酸グリセリンエステル若しくは脂肪酸アミド又はこれら2種以上からなる混合物が挙げられ、遊離脂肪酸としては、パルミチン酸(PA)、ミリスチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。本発明の人工調製肺サーファクタントにおいては、リン脂質としてジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及びホスファチジルグリセロール(PG)を用い、脂肪酸類としてパルミチン酸(PA)を用いることが特に好ましい。
【0016】
また、本発明の人工調製肺サーファクタントのペプチドの所定の含有量としては、含有されるペプチドの種類や、かかるペプチド以外の成分、例えば脂質の種類等によって最適量を適宜決定すればよいので特に制限されるものではなく、例えば、脂質としてジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及びホスファチジルグリセロール(PG)を用いた場合、脂質に対してw/w比で1〜70%程度が好ましい。具体的に、Hel 13−5/DPPC/PG/PAの場合、ペプチドHel 13−5を脂質に対してw/w比で3〜10%含有することが好ましい。また、Hel 11−7/DPPC/PG/PAの場合、ペプチドHel 11−7を脂質に対してw/w比で1〜70%含有することが好ましく、3〜20%含有することがより好ましく、12〜20%含有することがさらに好ましい。また、Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの場合には、ペプチドHel 7−11−P24を脂質に対してw/w比で1〜70%含有することが好ましく、1〜40%含有することがより好ましく、10〜20%含有することがさらに好ましい。さらに、P24/DPPC/PG/PAの場合、ペプチドP24を脂質に対してw/w比で1〜20%含有することが好ましく、1〜10%含有することがより好ましく、6〜10%含有することがさらに好ましい。また、Hel 13−5/Hel 11−7(1:1,w/w)/DPPC/PG/PAの場合、ペプチドHel 13−5及びペプチドHel 11−7の合計を脂質に対してw/w比で1〜70%含有することが好ましく、3〜6%含有することがより好ましい。このように、本発明の人工調製肺サーファクタントにおいては、ペプチドの使用量が比較的少なくてもよく、安価に量産することが可能となる。
【0017】
本発明のペプチドは、肺サーファクタント活性を有するペプチドHel 7−11−P24AcNH−KKLKKLLKKWKKLLKKLKGGGKKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号3)であれば特に制限されるものではなく、本発明のペプチドは膜表在部と膜貫通部をあわせもつので、人工調製肺サーファクタントの成分として有用である。
【0018】
本発明の肺サーファクタント活性を有するペプチドは、上記配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドの他に、該アミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加により改変されたアミノ酸配列からなり、かつ肺サーファクタント活性を有するペプチドであってもよい(以下、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド及び該アミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加により改変されたペプチドをあわせて「配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類」という)。ここで、アミノ酸の「置換、欠失若しくは付加」の程度及びそれらの位置などは、改変されたペプチドが、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドと同様に肺サーファクタント活性を有する同効物であれば特に制限されず、例えば、上記置換として、L(ロイシン)から他の脂肪族疎水性残基(イソロイシン、バリン、アラニン等)への置換や、W(トリプトファン)から他の脂肪族疎水性残基(イソロイシン、バリン、アラニン等)、芳香族疎水性残基(チロシン、フェニルアラニン等)又はプロリンへの置換や、K(リジン)から他の塩基性の親水性残基(アルギニン、ヒスチジン等)への置換を具体的に挙げることができる。アミノ酸配列の改変(変異)は、例えば突然変異や翻訳後の修飾などにより生じることもあるが、人為的に改変することもできる。本発明においては、このような改変・変異の原因及び手段などを問わず、上記特性を有する全ての改変ペプチドを包含する。
【0019】
本発明の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類は、化学的又は遺伝子工学的手法により製造することができる。化学的方法には、通常の液相法及び固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていくステップワイズエロゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含する。本発明の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類の合成は、そのいずれによることもできる。
【0020】
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、公知の各種方法に従うことができる。その具体例としては、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)、ウッドワード法等を例示できる。これら各方法に利用できる溶媒もこの種ペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0021】
尚、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸及至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p−メトキシベンジルエステル、p−ニトロベンジルエステルアラルキルエステル等として保護することができる。また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第三級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。更に例えばArgのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2−メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン−2−スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。上記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られる本発明の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類におけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸等を用いる方法等に従って、実施することができる。
【0022】
上記のようにして得られる本発明の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類は、通常の方法に従って、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用されている方法に従って、適宜その精製を行うことができる。
【0023】
本発明の融合ペプチドとしては、本件配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類とマーカータンパク質及び/又はペプチドタグとが結合しているものであればどのようなものでもよく、マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、アルカリフォスファターゼ、抗体のFc領域、HRP、GFPなどを具体的に挙げることができ、また本発明におけるペプチドタグとしては、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合ペプチド類は、常法により作製することができ、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用した配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類の精製や、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類の検出や、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類に対する抗体の定量や、その他当該分野の研究用試薬としても有用である。
【0024】
本発明の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類に特異的に結合する抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等の免疫特異的な抗体を具体的に挙げることができ、これらは上記配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類を抗原として用いて常法により作製することができるが、その中でもモノクローナル抗体がその特異性の点でより好ましい。かかるモノクローナル抗体等の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類に特異的に結合する抗体は、例えば、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類の肺サーファクタントの活性機構や分子機構を明らかにする上で有用である。
【0025】
配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類に対する抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外)に、該配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類、該ペプチド類と免疫原性を有するタンパク質との複合体、該ペプチド類を膜表面に発現したリポソーム等を投与することにより産生され、例えばモノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物により産生される抗体をもたらす、ハイブリドーマ法(Nature 256, 495−497, 1975)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today 4, 72, 1983)及びEBV−ハイブリドーマ法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY, pp.77−96, Alan R.Liss, Inc., 1985)など任意の方法を用いることができる。
【0026】
また、本発明のDNAとしては、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類をコードするDNAであれば特に制限されるものではない。これら本発明のDNAは、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類を遺伝子工学的手法を用いて常法により作製するときに有利に用いることができる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0028】
〈試薬〉
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルグリセロール(PG:ナトリウム塩、卵黄由来)及びパルミチン酸(PA)は、Sigma Chemical Co. (St. Louis. MO, USA)製のものを用いた。surfacten(登録商標)(Surfactant−TA)はMitsubishi−Tokyo Pharm.,Inc.(Tokyo, Japan)から購入して用いた。Fmoc−amino acids、ペプチド試薬は、渡辺化学工業株式会社製(広島)を用いた。
【0029】
実施例1:新規ペプチドHel 7−11−P24の合成
本発明に係る配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドHel 7−11−P24は、Perseptive Biosystem社製自動合成装置を用いたFmoc固相合成法で合成した。具体的には、Fmoc−PAL−PEG−PS(9−フルオレニルメトキシカルボニル−PAL−ポリエチレングリコール−ポリスチレン,0.25mol/g)樹脂を出発原料として、配列(sequence)に相当する9−フルオレニルメトキシカルボニルアミノ酸(用いた樹脂の4当量)を連続的に縮合した。縮合剤は、TBTU−HOBT(2−(1H−Benzotriazole−1−yl)−1,1,3,3−tetramethyluroniumtetafluoroborate−1−Hydroxybenzotriazole)を用い、脱保護にはピペリジンを用いた。最終縮合物をアセチル化後、m−クレゾール、1,2−エタンジチオール、チオアニソール(0.6:1.8:3.5(v/v))を含むトリフルオロ酢酸(TFA)でペプチドを脱樹脂した。得られた粗ペプチドを、30%酢酸を用いて、Sephadex G25クロマトグラフィーでゲル濾過、ペプチドを含む部分を凍結乾燥後、得られた粗粉末をRPHPLC(調製用Cosmosile 5C8 AR 30, NacalaiTesque,流出溶媒:5%TFA含有 Isopropanol−H20系)で精製し、再び凍結乾燥をすることによって、白色のフォーム状粉末(本発明に係る配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドHel 7−11−P24)を得た。収量は出発樹脂より16%であった。最終物は、分析RPHPLC(分析用Cosmosile 5C8 AR 30, NacalaiTesque)でピークが一つであること、及びTOF−Mass測定(MW peak, Theor. (K+) 5824.15, Anal; 5824.02))で相当物であることを確認した。なお、展開溶媒及び下相液に用いたNaClは、Nacalai Tasque,Inc.(Kyoto,Japan)製のものであり、その中に不純物として存在する表面活性物を取り除くために、約700℃(融点付近)で焼いて使用した。水は、三次蒸留水(pH=5.8)を用いた。
【0030】
実施例2:人工調製肺サーファクタント(ペプチド−脂質混合物)の製造
(ペプチドの合成)
ペプチドHel 7−11−P24は、実施例1に示す方法で製造した。また、ぺプチドHel 13−5、ペプチドHel 11−7及びペプチドP24は、Perseptive Biosystem社製自動合成装置によるFmoc固相合成法で以下に示すように合成した。なお、これらの純度は、TOF−Mass測定、及び分析逆相高速液体クロマトグラフィー(RPHPLC)で確認した。
【0031】
具体的には、FMOC−(Leu又はLys)−PEG−PS(ポリエチレングリコール−ポリスチレン)−樹脂(0.6g、0.12mmol)を出発原料としたFMOC(9−フルオレニルメトキシカルボニル)により、すべてのペプチドを合成した。その際、UV吸光度によってFMOC基の脱保護をモニターした。チオアニソール(3.5mL)、1,2−エタンジチオール(1.8mL)及びm−クレゾール(0.6mL)を含むトリフルオロ酢酸(22.4mL)で、かかる樹脂からの開裂を室温で2時間行った後、得られた粗ペプチドをセファデックスG−25ゲル濾過クロマトグラフィー(25mm×130cm)にかけた。その後、ペプチドの精製には、Hel 13−5はC8HPLCカラム(20mm×250mm、Cosmocil社製)を、Hel 13−5以外はC18HPLC調製カラム(20mm×250mm、YMC社製)を、0.1%のTFAを含む水−アセトニトリルの勾配系とともに用いた。精製後に得られた収量は、約30−200mgだった。C18RP−HPLC分析カラム(4.6mm×250mm、Cosmocil社製)を用いて確認した全ペプチドの精製度は、98%を超えていた。密閉した試験管に入れた、4%のチオグリコール酸及び0.6%のフェノールを含む5.7MのHCl中で、加水分解を110℃で24時間行った後、アミノ酸分析を行った。全ペプチドの分析データは理論上のデータとよく一致していた。
【0032】
(人工調製肺サーファクタントの製造)
まず、DPPC、PG及びPAをクロロホルム/メタノール(2:1(v/v))に溶解させた。そして、DPPC/PG/PA=75/25/10(w/w/w)となるように調製した脂質混合液に、上記合成した各ぺプチド溶液を加えた。このとき各ぺプチドは、脂質に対するw/w比で2、4、8、16、32、64%含まれるように調製した。そのペプチド−脂質混合液にN2ガスを吹き込み、一晩減圧乾燥させることによって完全に有機溶媒を揮発させ、試験管の壁面にフィルム(film)を形成させた。これに、生理食塩水(0.9%NaCl)を加え、氷水中で約30分間ソニケーション後、約5分間ボルテックスを行うことにより懸濁液とした。その脂質の最終濃度は10mg/mlである。
以上の操作により、
▲1▼Hel 13−5/DPPC/PG/PA(2、4、8、16、32、64%)
▲2▼Hel 13−5/Hel 11−7(1:1,w/w)/DPPC/PG/PA(2、4、8、16、32、64%)
▲3▼Hel 11−7/DPPC/PG/PA(2、4、8、16、32、64%)
▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PA(2、4、8、16、32、64%)
▲5▼P24/DPPC/PG/PA(2、4、8、16、32、64%)
を製造した。
【0033】
[評価]
評価は、実施例に係る上記▲1▼〜▲5▼の人工調製肺サーファクタントと、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PA及び▲7▼Surfacten(登録商標)について、表面拡散速度(評価1)、表面張力−面積ダイアグラム(評価2)、表面吸着速度(評価3)を調査することにより行った。
なお、参考例となる▲6▼KL4/DPPC/PG/PAは、上記と同様に、Perseptive Biosystem社製自動合成装置を用いたFmoc固相合成法で配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるペプチドKL4を合成した後、DPPC、PG及びPAの脂質混合液に加え、ペプチドKL4が脂質に対してw/w比で2、4、8、16、32、64%含まれるように調製し、生理食塩水を加えて懸濁液として用いた。また、▲7▼surfacten(登録商標)は、13.5mg/mlとなるように、生理食塩水で懸濁液とした。これらの懸濁液は、試験管内にN2ガスを封じ込め、−20℃で保管しておき、使用時には毎回ボルテックスして用いた。
【0034】
評価1:表面拡張速度
表面拡散速度の調査における表面張力の測定は、Acoma Wilhelmy Balance(Acoma Medical Industry Co.,LTD.,Tokyo,Japan)によって行った。その装置の主要な部分は、▲1▼検体を入れるフッ素樹脂(ポリ四フッ化エチレン)製の水槽(78×138×30mm)、▲2▼表面積を変化させるために水槽に沿って動く可動境界、▲3▼水槽中に垂直に懸垂された白金プレートにより構成される。白金プレートに作用する表面張力は、力変換器により電気信号に変換され、表面積の変化とともにX−Y記録計により自動的に連続記録しされる。
【0035】
まず、フッ素樹脂水槽と可動境界に沿ってフッ素樹脂テープをめぐらし、生理食塩水70mlをフッ素樹脂水槽に張り、閉鎖された液面を作る。その気−液界面に100μgの脂質を含む人工調製肺サーファクタントを展開し、自発的に拡がるまで3分間放置した。この間の表面張力の変化を表面拡張速度(surface spreading rate)として記録した。なお、測定時の室温は25±1℃、下相液の温度は24±1℃に設定して行った。
【0036】
図2に、実施例に係る▲5▼P24/DPPC/PG/PA(2%、4%、8%、16%、32%、64%)、及び参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PA(2%、4%、8%、16%、32%、64%)について、surfacten(登録商標)と比較した表面拡散の測定結果を示す。この表面拡散は、サーファクタント補充療法において投与されたサーファクタントが気管支、肺胞表面をいかに速く広がり、どの程度まで表面張力を低下させることが出来るかということを反映していると考えられている。図2より、参考例に係る天然蛋白質からなるSurfacten(登録商標)の表面拡散が最も速く、2分以内に表面張力は30mN/mにまで達している。実施例に係る▲5▼P24/DPPC/PG/PAについては、2,4,8,16%の系で表面拡散が進行し表面張力の低下がみられ、その中でも2,8,16%の系で表面張力の著しい低下がみられ、特に、8%の系においては、Surfacten(登録商標)より表面拡散力及び表面張力の低下が大きかった。一方、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PAはそれほど表面張力を低下させず、8%及び16%の系が最も良好で、2分後に約58mN/mとなっていた。
【0037】
また、図3に、実施例に係る▲1▼〜▲5▼の人工調製肺サーファクタントについて、気−液界面への試料展開から2分経過後を基準とした表面張力値をぺプチド濃度に対してプロットした結果を示す。図3より、実施例に係る▲2▼Hel 13−5/Hel 11−7の64%の系、▲5▼P24/DPPC/PG/PAの2%系及び8%の系における表面張力がSurfacten(登録商標)を下回っている。また、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PAと比較しても優れているものが多く、▲6▼KL4/DPPC/PG/PAの最も良好な8%系と比較しても、▲2▼Hel 13−5/Hel 11−7/DPPC/PG/PAの8,16,32%系、▲3▼Hel 11−7/DPPC/PG/PAの16,32,64%系、▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの4,16,32,64%、▲5▼P24/DPPC/PG/PAの16%系の計14系がこれよりも小さくなっていることが判明した。
【0038】
評価2:表面張力−面積ダイアグラム
次に、肺サーファクタント活性を調べるうえで、最もよく適用されている表面張力−面積ダイアグラムを示す。
評価1におけるのと同一の装置及び操作を行い試料を展開し、展開から3分経過後、可動性のバリヤー(barrier)を移動して形成された単分子膜を最大45cm2から最小9cm2(20%)までの表面積に、2.5分/サイクルの速度で圧縮・膨張を繰り返した。この循環は、もはやこれ以上変化は見られないというところまで続けて行った。測定時の室温は25±1℃、下相液の温度は24±1℃に設定して行った。
【0039】
表面張力−面積ダイアグラム(hysteresis loop)は、ヒステレシス曲線を描くことが特徴である。図4に、実施例に係る▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの16%系、並びに参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PA8%系、及びSurfacten(登録商標)についての7サイクル目までの表面張力−面積ダイアグラムを示す。Surfacten(登録商標)にみられるように、圧縮過程(表面積を小さくする)で急激に表面活性が低下し、膨張過程(表面積を大さくする)で急激に表面吸着が起こることが、良い表面活性剤の条件とされている。図4から明らかなように、実施例に係る▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの16%系は、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PA8%系に比較して、圧縮過程で急激に表面活性が低下し膨張過程で急激に表面吸着が起こることがわかる。
【0040】
また、図5に、実施例に係る▲1▼〜▲4▼の人工調製肺サーファクタントの4%系と、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PAの8%系及びSurfacten(登録商標)と、脂質成分として一般に用いられている脂質混合物DPPC/PG/PA(75:25:10,w/w)についての7サイクル目の表面張力−面積ダイアグラムの結果を示す。図5に示されるように、DPPC/PG/PAは圧縮膨張により、なだらかな表面張力の減少と増加を示すが、これに各ペプチドを加えた実施例に係る▲1▼〜▲4▼の人工調製肺サーファクタントの4%系は、圧縮過程で急激に表面活性が低下し、膨張過程で急激に表面吸着が起こっており、Surfacten(登録商標)には及ばないまでも、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PAの8%系より高い、又は匹敵する表面活性を持つことが明らかとなった。
【0041】
上記のような表面張力−面積ダイアグラムをもとに最大表面張力γmax、最小表面張力γmin、及び表面張力が10mN/mに達する相対表面積を読み取った。最大表面張力γmaxの結果を図6に示し、最小表面張力γminの結果を図7に示す。また、表1に、特定の実施例にかかる人工調製肺サーファクタントについての最大表面張力γmax、最小表面張力γmin、表面張力が10mN/mに達する相対表面積、表面拡散(評価1)、表面吸収(評価3)のデータをに示す。なお、最大表面張力γmax、最小表面張力γminは、それぞれ吸気時、呼気時の表面張力を反映し、表面張力が10mN/mに達する相対表面積は、呼気時にいかに速く表面張力が低下するかを反映している。
【0042】
【表1】
【0043】
図6、図7より、実施例に係る▲1▼〜▲5▼の人工調製肺サーファクタントは、γmax及びγminにおいて、DPPC/PG/PAに比較して低い値をとっているものが多かった。また、γmaxにおいてはSurfacten(登録商標)よりも低い値をとるものはなかったが、γminにおいてはSurfacten(登録商標)と同等の値あるいはそれよりも低い値をとる系が見られた。また、実施例に係る▲1▼Hel 13−5/DPPC/PG/PAの4%の系、▲3▼Hel 11−7/DPPC/PG/PAの4%の系、▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの2、4、16、32%系、及び▲5▼P24/DPPC/PG/PAの2、4、8、16%系の表面張力が10mN/mに達する相対表面積は、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PAで最も良好であった8%の系(約51%area)よりも大きく、圧縮過程で急激に表面活性が低下することが判明した。中でも、▲5▼P24/DPPC/PG/PAの8%の系は、約80%area(圧縮率20%)で10mN/mに達しており、Surfacten(登録商標)(約78%area)に匹敵する結果となっている(図示せず)。
【0044】
評価3:表面吸着速度
直径2cmの円形のフッ素樹脂水槽に3mlの生理食塩水を加え、閉鎖された液面を作った。脂質100μgを含む試料を、注意深くフッ素樹脂水槽の底部に注入し攪拌した。その時の表面張力の変化は、ストレインゲージで支持された白金プレートによって測定された。測定は約5分間行い、室温は25±1℃、下相液の温度は約22℃であった。
【0045】
表面吸着は、なんらかの理由で肺胞液内にサーファクタントが混合した場合でも、速やかに気−液界面に単分子膜を再形成することができるかどうかを検討するものである。図8に、実施例に係る▲1▼〜▲5▼の人工調製肺サーファクタントについて、底部への試料展開から2分経過後を基準とした表面張力値をぺプチド濃度に対してプロットした結果を示す。図8より、実施例に係る▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの16%系の表面張力は約35mN/mであり、▲5▼P24/DPPC/PG/PAの64%系の表面張力は約32mN/mであって、約40mN/mであるSurfacten(登録商標)に比してさらに良好な表面吸着を示している。また、▲6▼KL4/DPPC/PG/PAと比較してもより早く吸着膜を形成するものが多く、▲6▼KL4/DPPC/PG/PAで最も良好であった8%の系と比較しても、▲1▼Hel 13−5/DPPC/PG/PAの8、32%系、▲2▼Hel 13−5/Hel 11−7/DPPC/PG/PAの8、16%系、▲3▼Hel 11−7/DPPC/PG/PAの4、8、16、64%系、▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの2、4、8、32%系の計14系が、より早く吸着膜を形成することがわかる。
【0046】
以上の結果を総合すると、本実施例においては、▲1▼Hel 13−5/DPPC/PG/PAの4%系、▲2▼Hel 13−5/Hel 11−7/DPPC/PG/PAの4%系、▲3▼Hel 11−7/DPPC/PG/PAの4、16%系、▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの2、4、16、32%系がより好ましく、▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの16%系が特に好ましい。この▲4▼Hel 7−11−P24の16%系はSurfacten(登録商標)と比較しても、表面拡散速度において劣るもののそれ以外では同等又はそれ以上のものであった。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、安価に量産が可能であって、しかも病原菌等の感染の心配のない人工調製肺サーファクタントや、該人工調製肺サーファクタントに含有される肺サーファクタント活性を有する新規ペプチド、該ペプチドに特異的に結合する抗体、該ペプチドをコードするDNAを提供することができる。
【0048】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のペプチドHel 13−5及びHel 11−7のα−ヘリックス構造をとったときの構造を示すヘリックス車輪図、及びHel 13−5、Hel 11−7、Hel 7−11−P24、P24、KL4、Hel 7−11の各ペプチド配列を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係る▲5▼P24/DPPC/PG/PA(2%、4%、8%、16%、32%、64%)、及び参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PA(2%、4%、8%、16%、32%、64%)について、surfacten(登録商標)と比較した表面拡散の測定結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係る人工調製肺サーファクタントについて、気−液界面への試料展開から2分経過後を基準とした表面張力値をぺプチド濃度に対してプロットした結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係る▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの16%系、並びに参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PA8%系、及びSurfacten(登録商標)についての7サイクル目までの表面張力−面積ダイアグラムである。
【図5】本発明の実施例に係る▲1▼〜▲4▼の人工調製肺サーファクタントの4%系と、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PAの8%系及びSurfacten(登録商標)と、脂質成分として一般に用いられている脂質混合物DPPC/PG/PA(75:25:10,w/w)についての7サイクル目の表面張力−面積ダイアグラムである。
【図6】本発明の実施例に係る人工調製肺サーファクタントについて、7サイクル目の表面張力−面積ダイアグラムの最大表面張力値γmaxをぺプチド濃度に対してプロットした結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例に係る人工調製肺サーファクタントについて、7サイクル目の表面張力−面積ダイアグラムの最小表面張力値γminをぺプチド濃度に対してプロットした結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例に係る▲1▼〜▲5▼の人工調製肺サーファクタントについて、底部への試料展開から2分経過後を基準とした表面張力値をぺプチド濃度に対してプロットした結果を示すである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、人工調製肺サーファクタントや、該人工調製肺サーファクタントに含有される肺サーファクタント活性を有するペプチド等に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)疾患に対しては、医薬品として、人工調製肺サーファクタントSurfacten(登録商標)が使用されている。肺胞細胞より生成分泌される肺サーファクタントは、肺胞の表面張力を低下することにより肺機能をつかさどる生命維持に必須の脂質−蛋白質複合体である。新生児医療の領域において、小児が出生時、この肺サーファクタントを、充分作り出すことができない疾病がある。ヒトでは、在胎34週頃より早期に出生した未熟児の肺サーファクタント生成が十分でないため、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)を発症する確率が極めて高い。RDSは死亡率が高く、また幸いその急性期を乗り切った場合も多くの後遺症を残す。1979年Fujiwaraらは、人工調製肺サーファクタントのヒトRDSに対する劇的な効果を報告し(例えば、非特許文献1参照。)、1987年にはSurfacten(登録商標)として、世界で初めてRDS治療薬として完成させた。Surfacten(登録商標)は、牛肺からのリン脂質(88%)、中性脂質(11%)、蛋白質(1%)よりなる活性成分を抽出し、調製されている。
【0003】
一方、肺サーファクタントが存在してもその機能が阻害される代表的疾患として急性呼吸窮迫症候群(ARDS)がある。これは様々な基礎疾患により肺胞に浮腫やサーファクタント活性阻害物質が出現することにより肺機能が低下し、重篤な呼吸障害をきたす疾患で、その発症は10万人あたり15〜20人と報告されている。急性期の治療に用いた人工換気、酸素による肺損傷のため、基礎疾患が治療できたにもかかわらず不幸な転帰をとる場合も多く、その死亡率は50%前後と極めて高い。ARDS早期に人工調製肺サーファクタントを大量(400mg/kg)に投与して肺機能を改善させ、肺損傷を最小に抑える治療法は、死亡率を対象群の43.8%から18.8%にまで低下させると報告されているが、同時に人工調製肺サーファクタントの$712/200mgという高価さも問題点として指摘されている。さらに、肺炎をはじめとする多くの呼吸器疾患で肺サーファクタントの生物物理学的活性が阻害されていることが報告されており、その重症例での人工調製肺サーファクタントの効果も確認されている。
【0004】
現在、人工調製肺サーファクタントの開発研究がなされており、いくつか肺サーファクタント蛋白質関連ペプチドの報告がある(例えば、非特許文献2参照。)。そのうち、1991年Cochraneらによって初めて報告され、現在臨床化されている配列番号5に示されるアミノ酸21残基からなる人工合成ぺプチドKL4とある種の脂質混合物(Surfaxin(登録商標)が、RDSやARDSに対する治療薬として期待されている(例えば、非特許文献3〜5参照。)が、まだその実用効果は完全とは言えない。
【0005】
【非特許文献1】
The Lancet・Saturday 12 January 1980
【非特許文献2】
Biochimica et Biophysica Acta 1408, 203−217, 1998
【非特許文献3】
Science, Vol.254, 566−568, 1991
【非特許文献4】
AMERICAN JOURNAL OF RESPIRATORY AND CRITICAL CARE MEDICINE VOL.160, 1188−1195, 1999
【非特許文献5】
Pedoatrics Vol.109, 1081−1087, (2002)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、人工調製肺サーファクタントは肺疾患の治療に重要であるが、Surfacten(登録商標)は12万円/120mg/バイアルと非常に高価である。1kgの未熟児を治療するには1バイアルもあれば十分であり、あまり問題とはならないが、大人の場合は1度にその50倍近くものサーファクタントを要するため、高額な費用が必要とされる。しかしながら、保険適用が認められているのはRDSのみである。また、他の呼吸器疾患はその効果が証明されているにもかかわらず、保険適用外である。さらに、Surfacten(登録商標)は牛由来の蛋白質を含んでいるため、その抗原性および未知の病原性によって、例えば狂牛病等の感染の可能性を含む問題もある。
本発明はかかる実状に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、安価に量産可能であって、しかも病原菌等の感染の心配のない人工調製肺サーファクタントや、該人工調製肺サーファクタントに含有される肺サーファクタント活性を有する新規ペプチド等を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、全く別の目的で開発してきた両親媒性ヘリックス構造を有する人工合成ペプチドに肺サーファクタント効果があることを見い出し、これらのペプチドの肺サーファクタント効果に関して鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明者らは、これまでに種々の疎水性・親水性バランスを持つ18残基からなるモデルペプチドHel 13−5等の脂質膜や生体膜との相互作用を研究している。これらは、図1に示すように、α−ヘリックス構造をとったとき、両親媒性構造をとるようにデザインされている(図1中、Kは親水性を呈するリジンを、LとWは疎水性を呈するロイシンとトリプトファンを、それぞれ表す。)。そして、その中で最も疎水性の強い配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるHel 13−5が、リン脂質と相互作用をしてナノチューブ状の超構造を取ることを明らかにした(Biophys. J., 76, 1457−1468 (1999))。その構造は、肺サーファクタント代謝の途中で形成され、肺表面に脂質が拡散するのに重要な役割を果たしている格子状の膜構造(tubular myelin structure)を彷彿させたため、肺サーファクタントの主な脂質組成でリポソームを作り、Hel 13−5と作用をさせたところ、格子構造は見られなかったが色々な形のチューブ構造が見られた(J. Biol. Chem., 276, 41224−41228 (2001))。これらチューブ構造が、膜表面での拡散等に果たす役割を調べる目的で、この混合物のモデル膜二次元相挙動を調べたところ、肺サーファクタント中に存在する蛋白質SP−B及びSP−Cの混合DPPC単分子膜のそれと非常によく似ていることを見い出し、Hel 13−5が肺サーファクタントの性質を持つ可能性が示された。
【0009】
肺サーファクタント中の蛋白質のSP−B及びSP−Cは、膜に対する作用様式が異なることが知られている。SP−Bは膜表面に存在し、SP−Cは膜を貫通していると言われており、Hel 13−5は、SP−Bに似た膜表在型のペプチドとみなすことができる。その脂溶性部分の役割を調べる目的でそれよりも親水性を高めた配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるHel 11−7を膜表在型のペプチドとしてとりあげた。これらのペプチドはすでに本発明者らがデザイン合成し、その詳細な物性も報告済みである(G., Biochemistry, 35, 13196−13204 (1996)、M., Biophys. J., 76, 1457−1468 (1999))。また、生体膜貫通型ペプチドとして、その物性がよく研究されているの配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドP24(Leu残基が24)をSP−C型として取り上げた(Biochemistry, 22, 5298−5305 (1983))。これまでの表面活性の研究から、SP−B及びSP−Cが共存して働くことで、高い肺サーファクタント効果が得られると考えられている。そのため、その結合型として、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる両親媒性ペプチドHel 7−11とペプチドP24結合させることによって、表在部と膜貫通部を合わせ持つ、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるHel 7−11−P24を新たにデザインした。膜表在型両親媒性ペプチドHel 7−11は、疎水生と親水性のバランスがHel 11−7のそれと逆であるため水溶性が高く、難溶性のペプチドP24との合成ペプチドの水溶性を高めることができ、合成物の精製が容易となる。
【0010】
すなわち本発明は、両親媒性ヘリックス構造を有し、ヘリックス構造をヘリックス車輪図で表すとき疎水性の偏りが大きいペプチドを所定量含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント(請求項1)や、ペプチドが、NH2−KLLKLLLKLWLKLLKLLL−COOH(配列番号1)であることを特徴とする請求項1記載の人工調製肺サーファクタント(請求項2)や、ペプチドが、NH2−KLLKLLLKLWKKLLKLLK−COOH(配列番号2)であることを特徴とする請求項1記載の人工調製肺サーファクタント(請求項3)や、両親媒性ヘリックス構造を有し、ヘリックス構造をヘリックス車輪図で表すとき両親媒性ヘリックス構造を有する部分と、生体膜を貫通しうる程度の疎水性残基を有する部分とを併せもつペプチドを所定量含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント(請求項4)や、ペプチドが、AcNH−KKLKKLLKKWKKLLKKLKGGGKKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号3)であることを特徴とする請求項4記載の人工調製肺サーファクタント(請求項5)や、両親媒性ヘリックス構造を有し、生体膜を貫通しうる程度の疎水性残基を有するペプチドを所定量含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント(請求項6)や、ペプチドが、AcNH−KKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号4)であることを特徴とする請求項6記載の人工調製肺サーファクタント(請求項7)や、配列番号1〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ肺サーファクタント活性を有するペプチドを所定量含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント(請求項8)や、置換が、L(ロイシン)から他の脂肪族疎水性残基への置換であることを特徴とする請求項8記載の人工調製肺サーファクタント(請求項9)や、置換が、W(トリプトファン)から他の脂肪族疎水性残基又は芳香族疎水性残基への置換であることを特徴とする請求項8又は9記載の人工調製肺サーファクタント(請求項10)や、置換が、K(リジン)から他の塩基性の親水性残基への置換であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか記載の人工調製肺サーファクタント(請求項11)に関する。
【0011】
また本発明は、請求項1〜11のいずれか記載のペプチド群から選ばれる2種以上のペプチド含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント(請求項12)や、リン脂質及び脂肪酸類を含有することを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の人工調製肺サーファクタント(請求項13)や、リン脂質が、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及びホスファチジルグリセロール(PG)であって、脂肪酸類がパルミチン酸(PA)であることを特徴とする請求項13に記載の人工調製肺サーファクタント(請求項14)や、肺サーファクタント活性を有するペプチドAcNH−KKLKKLLKKWKKLLKKLKGGGKKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号3)(請求項15)や、配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ肺サーファクタント活性を有するペプチド(請求項16)や、置換が、L(ロイシン)から他の脂肪族疎水性残基への置換であることを特徴とする請求項16記載の人工調製肺サーファクタント(請求項17)や、置換が、W(トリプトファン)から他の脂肪族疎水性残基又は芳香族疎水性残基への置換であることを特徴とする請求項16又は17記載の人工調製肺サーファクタント(請求項18)や、置換が、K(リジン)から他の塩基性の親水性残基への置換であることを特徴とする請求項16〜18のいずれか記載の人工調製肺サーファクタント(請求項19)や、請求項15〜19のいずれか記載のペプチドと、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合ペプチド(請求項20)や、請求項15〜19のいずれか記載のペプチドに特異的に結合する抗体(請求項21)や、以下の(a)又は(b)のペプチドをコードするDNA。
(a)肺サーファクタント活性を有するペプチドAcNH−KKLKKLLKKWKKLLKKLKGGGKKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号3)
(b)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ肺サーファクタント活性を有するペプチド(請求項22)に関する。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の人工調製肺サーファクタントとしては、NH2−KLLKLLLKLWLKLLKLLL−COOH(配列番号1;以下「Hel 13−5」ということがある)やNH2−KLLKLLLKLWKKLLKLLK−COOH(配列番号2;以下「Hel 11−7」ということがある)等の両親媒性ヘリックス構造を有し、ヘリックス構造をヘリックス車輪図で表すとき疎水性の偏りが大きいペプチドや、AcNH−KKLKKLLKKWKKLLKKLKGGGKKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号3;以下「Hel 7−11−P24」ということがある)等の両親媒性ヘリックス構造を有し、ヘリックス構造をヘリックス車輪図で表すとき両親媒性ヘリックス構造を有する部分と、生体膜を貫通しうる程度の疎水性残基を有する部分とを併せもつペプチドや、AcNH−KKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号4;以下「P24」ということがある)等の両親媒性ヘリックス構造を有し、生体膜を貫通しうる程度の疎水性残基を有するペプチドを、所定量含有する人工調製肺サーファクタントであれば特に制限されるものではなく、ここで、「両親媒性ヘリックス構造を有する」とは、ヘリックス構造をとったとき、分子全体に疎水性と親水性残基の偏りが見られることをいい、「ヘリックス車輪図で表すとき疎水性の偏りが大きい」とは、ヘリックスをN末端からC末端に投影したとき表される円の中心角において親水性より疎水性の残基の割合が大きいことをいい、「ヘリックス車輪図で表すとき両親媒性ヘリックス構造を有する」とは、前述の円において親水性と疎水性の残基に偏りがあることをいい、「生体膜を貫通しうる程度の疎水性残基を有する」とは、生体膜の種類にもよるが、ペプチド分子内に、14〜28の疎水性アミノ酸残基を有することをいう。また、これらペプチドを1種含有してもよいし、2種以上を含有していてもよい。併用の具体的としては、上記ペプチドHel 13−5とペプチドHel 11−7を共に含有する人工調製肺サーファクタントを例示することができる。
【0013】
また、本発明の人工調製肺サーファクタントとしては、上記配列番号1〜4に示されるいずれかのアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加により改変されたアミノ酸配列からなり、かつ肺サーファクタント活性を有するペプチドであれば特に制限されるものではなく、これらを1種含有してもよいし、上記配列番号1〜4に示されるいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドを含め2種以上を含有してもよい。ここで、肺サーファクタント活性とは、後述の実施例記載の表面拡散速度評価、表面張力−面積ダイアグラム評価、表面吸着速度評価において、配列番号1〜4に示されるアミノ酸配列のいずれかからなるペプチドと同効の測定結果を奏するものをいう。したがって、アミノ酸の「置換、欠失若しくは付加」の程度及びそれらの位置などは、改変されたペプチドが、配列番号1〜4に示されるアミノ酸配列のいずれかからなるペプチドと同様に、肺サーファクタント活性を有する同効物であれば特に制限されず、例えば、上記置換として、L(ロイシン)から他の脂肪族疎水性残基(イソロイシン、バリン、アラニン等)への置換や、W(トリプトファン)から他の脂肪族疎水性残基(イソロイシン、バリン、アラニン等)、芳香族疎水性残基(チロシン、フェニルアラニン等)又はプロリンへの置換や、K(リジン)から他の塩基性の親水性残基(アルギニン、ヒスチジン等)への置換を具体的に挙げることができる。アミノ酸配列の改変(変異)は、例えば突然変異や翻訳後の修飾などにより生じることもあるが、人為的に改変することもできる。本発明においては、このような改変・変異の原因及び手段などを問わず、上記特性を有する全ての改変ペプチドを包含する。これらのペプチドは、化学的又は遺伝子工学的手法により製造することができる。
【0014】
本発明の人工調製肺サーファクタントは、動物由来の蛋白質を含んでいないため、病原菌等による感染の心配がなく安心して使用することができると共に、人工合成ペプチドを用いるので安価に量産することが可能である。また、本発明の人工調製肺サーファクタントにおけるペプチドは残基数も少ないのでより容易かつ安価に製造することができる。具体的に、合成面からみると、Hel 11−7は特に容易に合成できるので好ましい。本発明の人工調製肺サーファクタントは、牛肺に依存しない新規人工調製肺サーファクタントとして、RDSやADRS疾患への適用、肺ガン等による重篤な末期症状の呼吸窮迫の緩和、その他、肺炎をはじめとする多くの呼吸器疾患の重症例への適用が可能である。
【0015】
また、本発明の人工調製肺サーファクタントは、リン脂質及び脂肪酸類を含有することが好ましい。リン脂質としては、1,2−ジパルミトイルグリセロ−(3)−ホスホコリン(ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC))、1,2−ジステアロイルグリセロ−(3)−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−ステアロイルグリセロ−(3)−ホスホコリン若しくは1−ステアロイル−2−パルミトイルグリセロ−(3)−ホスホコリン等の1,2−ジアシルグリセロ−(3)− ホスホコリン、1−ヘキサデシル−2−パルミトイルグリセロ−(3)−ホスホコリン若しくは1−オクタデシル−2−パルミトイルグリセロ−(3)−ホスホコリン等の1−アルキル−2−アシルグリセロ−(3)−ホスホコリン、1,2−ジヘキサデシルグリセロ−(3)−ホスホコリン等の1,2−ジアルキルグリセロ−(3)−ホスホコリン、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)等のホスファチジルエタノールアミン、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−(3)−リン酸(L−α−ホスファチジン酸)、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−(3)−ホスホ−L−セリン(ホスファチジルセリン)、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−(3)−ホスホ−sn−グリセロール(ホスファチジルグリセロール(PG))、ジホスファチジルグリセロール、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−(3)−ホスホ−(1)−L−myo−イノシトール(ホスファチジルイノシトール)等が挙げられる。また脂肪酸類としては、遊離脂肪酸、脂肪酸のアルカリ金属塩、脂肪酸アルキルエステル、脂肪酸グリセリンエステル若しくは脂肪酸アミド又はこれら2種以上からなる混合物が挙げられ、遊離脂肪酸としては、パルミチン酸(PA)、ミリスチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。本発明の人工調製肺サーファクタントにおいては、リン脂質としてジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及びホスファチジルグリセロール(PG)を用い、脂肪酸類としてパルミチン酸(PA)を用いることが特に好ましい。
【0016】
また、本発明の人工調製肺サーファクタントのペプチドの所定の含有量としては、含有されるペプチドの種類や、かかるペプチド以外の成分、例えば脂質の種類等によって最適量を適宜決定すればよいので特に制限されるものではなく、例えば、脂質としてジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及びホスファチジルグリセロール(PG)を用いた場合、脂質に対してw/w比で1〜70%程度が好ましい。具体的に、Hel 13−5/DPPC/PG/PAの場合、ペプチドHel 13−5を脂質に対してw/w比で3〜10%含有することが好ましい。また、Hel 11−7/DPPC/PG/PAの場合、ペプチドHel 11−7を脂質に対してw/w比で1〜70%含有することが好ましく、3〜20%含有することがより好ましく、12〜20%含有することがさらに好ましい。また、Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの場合には、ペプチドHel 7−11−P24を脂質に対してw/w比で1〜70%含有することが好ましく、1〜40%含有することがより好ましく、10〜20%含有することがさらに好ましい。さらに、P24/DPPC/PG/PAの場合、ペプチドP24を脂質に対してw/w比で1〜20%含有することが好ましく、1〜10%含有することがより好ましく、6〜10%含有することがさらに好ましい。また、Hel 13−5/Hel 11−7(1:1,w/w)/DPPC/PG/PAの場合、ペプチドHel 13−5及びペプチドHel 11−7の合計を脂質に対してw/w比で1〜70%含有することが好ましく、3〜6%含有することがより好ましい。このように、本発明の人工調製肺サーファクタントにおいては、ペプチドの使用量が比較的少なくてもよく、安価に量産することが可能となる。
【0017】
本発明のペプチドは、肺サーファクタント活性を有するペプチドHel 7−11−P24AcNH−KKLKKLLKKWKKLLKKLKGGGKKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号3)であれば特に制限されるものではなく、本発明のペプチドは膜表在部と膜貫通部をあわせもつので、人工調製肺サーファクタントの成分として有用である。
【0018】
本発明の肺サーファクタント活性を有するペプチドは、上記配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドの他に、該アミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加により改変されたアミノ酸配列からなり、かつ肺サーファクタント活性を有するペプチドであってもよい(以下、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド及び該アミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加により改変されたペプチドをあわせて「配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類」という)。ここで、アミノ酸の「置換、欠失若しくは付加」の程度及びそれらの位置などは、改変されたペプチドが、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドと同様に肺サーファクタント活性を有する同効物であれば特に制限されず、例えば、上記置換として、L(ロイシン)から他の脂肪族疎水性残基(イソロイシン、バリン、アラニン等)への置換や、W(トリプトファン)から他の脂肪族疎水性残基(イソロイシン、バリン、アラニン等)、芳香族疎水性残基(チロシン、フェニルアラニン等)又はプロリンへの置換や、K(リジン)から他の塩基性の親水性残基(アルギニン、ヒスチジン等)への置換を具体的に挙げることができる。アミノ酸配列の改変(変異)は、例えば突然変異や翻訳後の修飾などにより生じることもあるが、人為的に改変することもできる。本発明においては、このような改変・変異の原因及び手段などを問わず、上記特性を有する全ての改変ペプチドを包含する。
【0019】
本発明の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類は、化学的又は遺伝子工学的手法により製造することができる。化学的方法には、通常の液相法及び固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていくステップワイズエロゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含する。本発明の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類の合成は、そのいずれによることもできる。
【0020】
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、公知の各種方法に従うことができる。その具体例としては、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)、ウッドワード法等を例示できる。これら各方法に利用できる溶媒もこの種ペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0021】
尚、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸及至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p−メトキシベンジルエステル、p−ニトロベンジルエステルアラルキルエステル等として保護することができる。また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第三級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。更に例えばArgのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2−メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン−2−スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。上記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られる本発明の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類におけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸等を用いる方法等に従って、実施することができる。
【0022】
上記のようにして得られる本発明の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類は、通常の方法に従って、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用されている方法に従って、適宜その精製を行うことができる。
【0023】
本発明の融合ペプチドとしては、本件配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類とマーカータンパク質及び/又はペプチドタグとが結合しているものであればどのようなものでもよく、マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、アルカリフォスファターゼ、抗体のFc領域、HRP、GFPなどを具体的に挙げることができ、また本発明におけるペプチドタグとしては、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合ペプチド類は、常法により作製することができ、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用した配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類の精製や、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類の検出や、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類に対する抗体の定量や、その他当該分野の研究用試薬としても有用である。
【0024】
本発明の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類に特異的に結合する抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等の免疫特異的な抗体を具体的に挙げることができ、これらは上記配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類を抗原として用いて常法により作製することができるが、その中でもモノクローナル抗体がその特異性の点でより好ましい。かかるモノクローナル抗体等の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類に特異的に結合する抗体は、例えば、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類の肺サーファクタントの活性機構や分子機構を明らかにする上で有用である。
【0025】
配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類に対する抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外)に、該配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類、該ペプチド類と免疫原性を有するタンパク質との複合体、該ペプチド類を膜表面に発現したリポソーム等を投与することにより産生され、例えばモノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物により産生される抗体をもたらす、ハイブリドーマ法(Nature 256, 495−497, 1975)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today 4, 72, 1983)及びEBV−ハイブリドーマ法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY, pp.77−96, Alan R.Liss, Inc., 1985)など任意の方法を用いることができる。
【0026】
また、本発明のDNAとしては、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類をコードするDNAであれば特に制限されるものではない。これら本発明のDNAは、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド類を遺伝子工学的手法を用いて常法により作製するときに有利に用いることができる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0028】
〈試薬〉
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルグリセロール(PG:ナトリウム塩、卵黄由来)及びパルミチン酸(PA)は、Sigma Chemical Co. (St. Louis. MO, USA)製のものを用いた。surfacten(登録商標)(Surfactant−TA)はMitsubishi−Tokyo Pharm.,Inc.(Tokyo, Japan)から購入して用いた。Fmoc−amino acids、ペプチド試薬は、渡辺化学工業株式会社製(広島)を用いた。
【0029】
実施例1:新規ペプチドHel 7−11−P24の合成
本発明に係る配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドHel 7−11−P24は、Perseptive Biosystem社製自動合成装置を用いたFmoc固相合成法で合成した。具体的には、Fmoc−PAL−PEG−PS(9−フルオレニルメトキシカルボニル−PAL−ポリエチレングリコール−ポリスチレン,0.25mol/g)樹脂を出発原料として、配列(sequence)に相当する9−フルオレニルメトキシカルボニルアミノ酸(用いた樹脂の4当量)を連続的に縮合した。縮合剤は、TBTU−HOBT(2−(1H−Benzotriazole−1−yl)−1,1,3,3−tetramethyluroniumtetafluoroborate−1−Hydroxybenzotriazole)を用い、脱保護にはピペリジンを用いた。最終縮合物をアセチル化後、m−クレゾール、1,2−エタンジチオール、チオアニソール(0.6:1.8:3.5(v/v))を含むトリフルオロ酢酸(TFA)でペプチドを脱樹脂した。得られた粗ペプチドを、30%酢酸を用いて、Sephadex G25クロマトグラフィーでゲル濾過、ペプチドを含む部分を凍結乾燥後、得られた粗粉末をRPHPLC(調製用Cosmosile 5C8 AR 30, NacalaiTesque,流出溶媒:5%TFA含有 Isopropanol−H20系)で精製し、再び凍結乾燥をすることによって、白色のフォーム状粉末(本発明に係る配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドHel 7−11−P24)を得た。収量は出発樹脂より16%であった。最終物は、分析RPHPLC(分析用Cosmosile 5C8 AR 30, NacalaiTesque)でピークが一つであること、及びTOF−Mass測定(MW peak, Theor. (K+) 5824.15, Anal; 5824.02))で相当物であることを確認した。なお、展開溶媒及び下相液に用いたNaClは、Nacalai Tasque,Inc.(Kyoto,Japan)製のものであり、その中に不純物として存在する表面活性物を取り除くために、約700℃(融点付近)で焼いて使用した。水は、三次蒸留水(pH=5.8)を用いた。
【0030】
実施例2:人工調製肺サーファクタント(ペプチド−脂質混合物)の製造
(ペプチドの合成)
ペプチドHel 7−11−P24は、実施例1に示す方法で製造した。また、ぺプチドHel 13−5、ペプチドHel 11−7及びペプチドP24は、Perseptive Biosystem社製自動合成装置によるFmoc固相合成法で以下に示すように合成した。なお、これらの純度は、TOF−Mass測定、及び分析逆相高速液体クロマトグラフィー(RPHPLC)で確認した。
【0031】
具体的には、FMOC−(Leu又はLys)−PEG−PS(ポリエチレングリコール−ポリスチレン)−樹脂(0.6g、0.12mmol)を出発原料としたFMOC(9−フルオレニルメトキシカルボニル)により、すべてのペプチドを合成した。その際、UV吸光度によってFMOC基の脱保護をモニターした。チオアニソール(3.5mL)、1,2−エタンジチオール(1.8mL)及びm−クレゾール(0.6mL)を含むトリフルオロ酢酸(22.4mL)で、かかる樹脂からの開裂を室温で2時間行った後、得られた粗ペプチドをセファデックスG−25ゲル濾過クロマトグラフィー(25mm×130cm)にかけた。その後、ペプチドの精製には、Hel 13−5はC8HPLCカラム(20mm×250mm、Cosmocil社製)を、Hel 13−5以外はC18HPLC調製カラム(20mm×250mm、YMC社製)を、0.1%のTFAを含む水−アセトニトリルの勾配系とともに用いた。精製後に得られた収量は、約30−200mgだった。C18RP−HPLC分析カラム(4.6mm×250mm、Cosmocil社製)を用いて確認した全ペプチドの精製度は、98%を超えていた。密閉した試験管に入れた、4%のチオグリコール酸及び0.6%のフェノールを含む5.7MのHCl中で、加水分解を110℃で24時間行った後、アミノ酸分析を行った。全ペプチドの分析データは理論上のデータとよく一致していた。
【0032】
(人工調製肺サーファクタントの製造)
まず、DPPC、PG及びPAをクロロホルム/メタノール(2:1(v/v))に溶解させた。そして、DPPC/PG/PA=75/25/10(w/w/w)となるように調製した脂質混合液に、上記合成した各ぺプチド溶液を加えた。このとき各ぺプチドは、脂質に対するw/w比で2、4、8、16、32、64%含まれるように調製した。そのペプチド−脂質混合液にN2ガスを吹き込み、一晩減圧乾燥させることによって完全に有機溶媒を揮発させ、試験管の壁面にフィルム(film)を形成させた。これに、生理食塩水(0.9%NaCl)を加え、氷水中で約30分間ソニケーション後、約5分間ボルテックスを行うことにより懸濁液とした。その脂質の最終濃度は10mg/mlである。
以上の操作により、
▲1▼Hel 13−5/DPPC/PG/PA(2、4、8、16、32、64%)
▲2▼Hel 13−5/Hel 11−7(1:1,w/w)/DPPC/PG/PA(2、4、8、16、32、64%)
▲3▼Hel 11−7/DPPC/PG/PA(2、4、8、16、32、64%)
▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PA(2、4、8、16、32、64%)
▲5▼P24/DPPC/PG/PA(2、4、8、16、32、64%)
を製造した。
【0033】
[評価]
評価は、実施例に係る上記▲1▼〜▲5▼の人工調製肺サーファクタントと、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PA及び▲7▼Surfacten(登録商標)について、表面拡散速度(評価1)、表面張力−面積ダイアグラム(評価2)、表面吸着速度(評価3)を調査することにより行った。
なお、参考例となる▲6▼KL4/DPPC/PG/PAは、上記と同様に、Perseptive Biosystem社製自動合成装置を用いたFmoc固相合成法で配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるペプチドKL4を合成した後、DPPC、PG及びPAの脂質混合液に加え、ペプチドKL4が脂質に対してw/w比で2、4、8、16、32、64%含まれるように調製し、生理食塩水を加えて懸濁液として用いた。また、▲7▼surfacten(登録商標)は、13.5mg/mlとなるように、生理食塩水で懸濁液とした。これらの懸濁液は、試験管内にN2ガスを封じ込め、−20℃で保管しておき、使用時には毎回ボルテックスして用いた。
【0034】
評価1:表面拡張速度
表面拡散速度の調査における表面張力の測定は、Acoma Wilhelmy Balance(Acoma Medical Industry Co.,LTD.,Tokyo,Japan)によって行った。その装置の主要な部分は、▲1▼検体を入れるフッ素樹脂(ポリ四フッ化エチレン)製の水槽(78×138×30mm)、▲2▼表面積を変化させるために水槽に沿って動く可動境界、▲3▼水槽中に垂直に懸垂された白金プレートにより構成される。白金プレートに作用する表面張力は、力変換器により電気信号に変換され、表面積の変化とともにX−Y記録計により自動的に連続記録しされる。
【0035】
まず、フッ素樹脂水槽と可動境界に沿ってフッ素樹脂テープをめぐらし、生理食塩水70mlをフッ素樹脂水槽に張り、閉鎖された液面を作る。その気−液界面に100μgの脂質を含む人工調製肺サーファクタントを展開し、自発的に拡がるまで3分間放置した。この間の表面張力の変化を表面拡張速度(surface spreading rate)として記録した。なお、測定時の室温は25±1℃、下相液の温度は24±1℃に設定して行った。
【0036】
図2に、実施例に係る▲5▼P24/DPPC/PG/PA(2%、4%、8%、16%、32%、64%)、及び参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PA(2%、4%、8%、16%、32%、64%)について、surfacten(登録商標)と比較した表面拡散の測定結果を示す。この表面拡散は、サーファクタント補充療法において投与されたサーファクタントが気管支、肺胞表面をいかに速く広がり、どの程度まで表面張力を低下させることが出来るかということを反映していると考えられている。図2より、参考例に係る天然蛋白質からなるSurfacten(登録商標)の表面拡散が最も速く、2分以内に表面張力は30mN/mにまで達している。実施例に係る▲5▼P24/DPPC/PG/PAについては、2,4,8,16%の系で表面拡散が進行し表面張力の低下がみられ、その中でも2,8,16%の系で表面張力の著しい低下がみられ、特に、8%の系においては、Surfacten(登録商標)より表面拡散力及び表面張力の低下が大きかった。一方、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PAはそれほど表面張力を低下させず、8%及び16%の系が最も良好で、2分後に約58mN/mとなっていた。
【0037】
また、図3に、実施例に係る▲1▼〜▲5▼の人工調製肺サーファクタントについて、気−液界面への試料展開から2分経過後を基準とした表面張力値をぺプチド濃度に対してプロットした結果を示す。図3より、実施例に係る▲2▼Hel 13−5/Hel 11−7の64%の系、▲5▼P24/DPPC/PG/PAの2%系及び8%の系における表面張力がSurfacten(登録商標)を下回っている。また、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PAと比較しても優れているものが多く、▲6▼KL4/DPPC/PG/PAの最も良好な8%系と比較しても、▲2▼Hel 13−5/Hel 11−7/DPPC/PG/PAの8,16,32%系、▲3▼Hel 11−7/DPPC/PG/PAの16,32,64%系、▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの4,16,32,64%、▲5▼P24/DPPC/PG/PAの16%系の計14系がこれよりも小さくなっていることが判明した。
【0038】
評価2:表面張力−面積ダイアグラム
次に、肺サーファクタント活性を調べるうえで、最もよく適用されている表面張力−面積ダイアグラムを示す。
評価1におけるのと同一の装置及び操作を行い試料を展開し、展開から3分経過後、可動性のバリヤー(barrier)を移動して形成された単分子膜を最大45cm2から最小9cm2(20%)までの表面積に、2.5分/サイクルの速度で圧縮・膨張を繰り返した。この循環は、もはやこれ以上変化は見られないというところまで続けて行った。測定時の室温は25±1℃、下相液の温度は24±1℃に設定して行った。
【0039】
表面張力−面積ダイアグラム(hysteresis loop)は、ヒステレシス曲線を描くことが特徴である。図4に、実施例に係る▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの16%系、並びに参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PA8%系、及びSurfacten(登録商標)についての7サイクル目までの表面張力−面積ダイアグラムを示す。Surfacten(登録商標)にみられるように、圧縮過程(表面積を小さくする)で急激に表面活性が低下し、膨張過程(表面積を大さくする)で急激に表面吸着が起こることが、良い表面活性剤の条件とされている。図4から明らかなように、実施例に係る▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの16%系は、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PA8%系に比較して、圧縮過程で急激に表面活性が低下し膨張過程で急激に表面吸着が起こることがわかる。
【0040】
また、図5に、実施例に係る▲1▼〜▲4▼の人工調製肺サーファクタントの4%系と、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PAの8%系及びSurfacten(登録商標)と、脂質成分として一般に用いられている脂質混合物DPPC/PG/PA(75:25:10,w/w)についての7サイクル目の表面張力−面積ダイアグラムの結果を示す。図5に示されるように、DPPC/PG/PAは圧縮膨張により、なだらかな表面張力の減少と増加を示すが、これに各ペプチドを加えた実施例に係る▲1▼〜▲4▼の人工調製肺サーファクタントの4%系は、圧縮過程で急激に表面活性が低下し、膨張過程で急激に表面吸着が起こっており、Surfacten(登録商標)には及ばないまでも、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PAの8%系より高い、又は匹敵する表面活性を持つことが明らかとなった。
【0041】
上記のような表面張力−面積ダイアグラムをもとに最大表面張力γmax、最小表面張力γmin、及び表面張力が10mN/mに達する相対表面積を読み取った。最大表面張力γmaxの結果を図6に示し、最小表面張力γminの結果を図7に示す。また、表1に、特定の実施例にかかる人工調製肺サーファクタントについての最大表面張力γmax、最小表面張力γmin、表面張力が10mN/mに達する相対表面積、表面拡散(評価1)、表面吸収(評価3)のデータをに示す。なお、最大表面張力γmax、最小表面張力γminは、それぞれ吸気時、呼気時の表面張力を反映し、表面張力が10mN/mに達する相対表面積は、呼気時にいかに速く表面張力が低下するかを反映している。
【0042】
【表1】
【0043】
図6、図7より、実施例に係る▲1▼〜▲5▼の人工調製肺サーファクタントは、γmax及びγminにおいて、DPPC/PG/PAに比較して低い値をとっているものが多かった。また、γmaxにおいてはSurfacten(登録商標)よりも低い値をとるものはなかったが、γminにおいてはSurfacten(登録商標)と同等の値あるいはそれよりも低い値をとる系が見られた。また、実施例に係る▲1▼Hel 13−5/DPPC/PG/PAの4%の系、▲3▼Hel 11−7/DPPC/PG/PAの4%の系、▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの2、4、16、32%系、及び▲5▼P24/DPPC/PG/PAの2、4、8、16%系の表面張力が10mN/mに達する相対表面積は、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PAで最も良好であった8%の系(約51%area)よりも大きく、圧縮過程で急激に表面活性が低下することが判明した。中でも、▲5▼P24/DPPC/PG/PAの8%の系は、約80%area(圧縮率20%)で10mN/mに達しており、Surfacten(登録商標)(約78%area)に匹敵する結果となっている(図示せず)。
【0044】
評価3:表面吸着速度
直径2cmの円形のフッ素樹脂水槽に3mlの生理食塩水を加え、閉鎖された液面を作った。脂質100μgを含む試料を、注意深くフッ素樹脂水槽の底部に注入し攪拌した。その時の表面張力の変化は、ストレインゲージで支持された白金プレートによって測定された。測定は約5分間行い、室温は25±1℃、下相液の温度は約22℃であった。
【0045】
表面吸着は、なんらかの理由で肺胞液内にサーファクタントが混合した場合でも、速やかに気−液界面に単分子膜を再形成することができるかどうかを検討するものである。図8に、実施例に係る▲1▼〜▲5▼の人工調製肺サーファクタントについて、底部への試料展開から2分経過後を基準とした表面張力値をぺプチド濃度に対してプロットした結果を示す。図8より、実施例に係る▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの16%系の表面張力は約35mN/mであり、▲5▼P24/DPPC/PG/PAの64%系の表面張力は約32mN/mであって、約40mN/mであるSurfacten(登録商標)に比してさらに良好な表面吸着を示している。また、▲6▼KL4/DPPC/PG/PAと比較してもより早く吸着膜を形成するものが多く、▲6▼KL4/DPPC/PG/PAで最も良好であった8%の系と比較しても、▲1▼Hel 13−5/DPPC/PG/PAの8、32%系、▲2▼Hel 13−5/Hel 11−7/DPPC/PG/PAの8、16%系、▲3▼Hel 11−7/DPPC/PG/PAの4、8、16、64%系、▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの2、4、8、32%系の計14系が、より早く吸着膜を形成することがわかる。
【0046】
以上の結果を総合すると、本実施例においては、▲1▼Hel 13−5/DPPC/PG/PAの4%系、▲2▼Hel 13−5/Hel 11−7/DPPC/PG/PAの4%系、▲3▼Hel 11−7/DPPC/PG/PAの4、16%系、▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの2、4、16、32%系がより好ましく、▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの16%系が特に好ましい。この▲4▼Hel 7−11−P24の16%系はSurfacten(登録商標)と比較しても、表面拡散速度において劣るもののそれ以外では同等又はそれ以上のものであった。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、安価に量産が可能であって、しかも病原菌等の感染の心配のない人工調製肺サーファクタントや、該人工調製肺サーファクタントに含有される肺サーファクタント活性を有する新規ペプチド、該ペプチドに特異的に結合する抗体、該ペプチドをコードするDNAを提供することができる。
【0048】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のペプチドHel 13−5及びHel 11−7のα−ヘリックス構造をとったときの構造を示すヘリックス車輪図、及びHel 13−5、Hel 11−7、Hel 7−11−P24、P24、KL4、Hel 7−11の各ペプチド配列を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係る▲5▼P24/DPPC/PG/PA(2%、4%、8%、16%、32%、64%)、及び参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PA(2%、4%、8%、16%、32%、64%)について、surfacten(登録商標)と比較した表面拡散の測定結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係る人工調製肺サーファクタントについて、気−液界面への試料展開から2分経過後を基準とした表面張力値をぺプチド濃度に対してプロットした結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係る▲4▼Hel 7−11−P24/DPPC/PG/PAの16%系、並びに参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PA8%系、及びSurfacten(登録商標)についての7サイクル目までの表面張力−面積ダイアグラムである。
【図5】本発明の実施例に係る▲1▼〜▲4▼の人工調製肺サーファクタントの4%系と、参考例に係る▲6▼KL4/DPPC/PG/PAの8%系及びSurfacten(登録商標)と、脂質成分として一般に用いられている脂質混合物DPPC/PG/PA(75:25:10,w/w)についての7サイクル目の表面張力−面積ダイアグラムである。
【図6】本発明の実施例に係る人工調製肺サーファクタントについて、7サイクル目の表面張力−面積ダイアグラムの最大表面張力値γmaxをぺプチド濃度に対してプロットした結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例に係る人工調製肺サーファクタントについて、7サイクル目の表面張力−面積ダイアグラムの最小表面張力値γminをぺプチド濃度に対してプロットした結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例に係る▲1▼〜▲5▼の人工調製肺サーファクタントについて、底部への試料展開から2分経過後を基準とした表面張力値をぺプチド濃度に対してプロットした結果を示すである。
Claims (22)
- 両親媒性ヘリックス構造を有し、ヘリックス構造をヘリックス車輪図で表すとき疎水性の偏りが大きいペプチドを所定量含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント。
- ペプチドが、NH2−KLLKLLLKLWLKLLKLLL−COOH(配列番号1)であることを特徴とする請求項1記載の人工調製肺サーファクタント。
- ペプチドが、NH2−KLLKLLLKLWKKLLKLLK−COOH(配列番号2)であることを特徴とする請求項1記載の人工調製肺サーファクタント。
- 両親媒性ヘリックス構造を有し、ヘリックス構造をヘリックス車輪図で表すとき両親媒性ヘリックス構造を有する部分と、生体膜を貫通しうる程度の疎水性残基を有する部分とを併せもつペプチドを所定量含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント。
- ペプチドが、AcNH−KKLKKLLKKWKKLLKKLKGGGKKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号3)であることを特徴とする請求項4記載の人工調製肺サーファクタント。
- 両親媒性ヘリックス構造を有し、生体膜を貫通しうる程度の疎水性残基を有するペプチドを所定量含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント。
- ペプチドが、AcNH−KKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号4)であることを特徴とする請求項6記載の人工調製肺サーファクタント。
- 配列番号1〜4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ肺サーファクタント活性を有するペプチドを所定量含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント。
- 置換が、L(ロイシン)から他の脂肪族疎水性残基への置換であることを特徴とする請求項8記載の人工調製肺サーファクタント。
- 置換が、W(トリプトファン)から他の脂肪族疎水性残基又は芳香族疎水性残基への置換であることを特徴とする請求項8又は9記載の人工調製肺サーファクタント。
- 置換が、K(リジン)から他の塩基性の親水性残基への置換であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか記載の人工調製肺サーファクタント。
- 請求項1〜11のいずれか記載のペプチド群から選ばれる2種以上のペプチド含有することを特徴とする人工調製肺サーファクタント。
- リン脂質及び脂肪酸類を含有することを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の人工調製肺サーファクタント。
- リン脂質が、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及びホスファチジルグリセロール(PG)であって、脂肪酸類がパルミチン酸(PA)であることを特徴とする請求項13に記載の人工調製肺サーファクタント。
- 肺サーファクタント活性を有するペプチドAcNH−KKLKKLLKKWKKLLKKLKGGGKKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号3)。
- 配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ肺サーファクタント活性を有するペプチド。
- 置換が、L(ロイシン)から他の脂肪族疎水性残基への置換であることを特徴とする請求項16記載の人工調製肺サーファクタント。
- 置換が、W(トリプトファン)から他の脂肪族疎水性残基又は芳香族疎水性残基への置換であることを特徴とする請求項16又は17記載の人工調製肺サーファクタント。
- 置換が、K(リジン)から他の塩基性の親水性残基への置換であることを特徴とする請求項16〜18のいずれか記載の人工調製肺サーファクタント。
- 請求項15〜19のいずれか記載のペプチドと、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合ペプチド。
- 請求項15〜19のいずれか記載のペプチドに特異的に結合する抗体。
- 以下の(a)又は(b)のペプチドをコードするDNA。
(a)肺サーファクタント活性を有するペプチドAcNH−KKLKKLLKKWKKLLKKLKGGGKKGLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLKKA−CONH2(配列番号3)
(b)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ肺サーファクタント活性を有するペプチド
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