JP2004211172A - 耐食性超硬合金 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、海水,化学薬品,腐食性ガスなどの腐食性環境下で使用する耐摩耗部品、高温で腐食性ガスが発生するプラスチック成形用金型などに最適な高硬度,高強度かつ耐食性を大幅に向上させた耐食性超硬合金の提供を目的とする。
【解決手段】5〜15重量%のクロムと1〜10重量%のボロンとを含有し、かつ非晶質化したNi−Cr−B系合金を結合相として用いた耐食性超硬合金は、耐食性に優れるとともに、硬さ、強度、靱性などの機械的性質にも優れる。
【解決手段】5〜15重量%のクロムと1〜10重量%のボロンとを含有し、かつ非晶質化したNi−Cr−B系合金を結合相として用いた耐食性超硬合金は、耐食性に優れるとともに、硬さ、強度、靱性などの機械的性質にも優れる。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、海水,化学薬品,腐食性ガスなどの腐食性環境下で使用する耐摩耗部品、高温で腐食性ガスが発生するプラスチック成形用金型などに最適な耐食性超硬合金に関し、具体的には、金属結合相をニッケル−クロム−ボロン系の合金とし、高硬度,高強度かつ耐食性を大幅に向上させた耐食性超硬合金に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
耐食性超硬合金の従来技術としては、Coおよび/またはNiからなる結合相中にクロムおよび炭化物の標準生成自由エネルギーが常温〜1200℃の範囲において常に−30,000cal/gmolより大きく、かつ1200℃以下のある温度範囲においてクロムのdGfより小さい第4の元素を添加した耐食および耐摩耗性超硬合金がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、WとCoおよび/またはNiと炭素を含む複合化合物でなる分散相を含有した耐摩耗性硬質焼結合金がある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、結合相が0.35〜3.0重量%のCと、3.0〜30.0重量%のMnと、3.0〜25.0重量%のクロムとを含有したFeからなる鉄基超硬合金がある(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
また、Coおよび/またはNiの結合相中に8〜12重量%のCr+Moを含有し、総炭素量が6.13―(0.05±0.007)×結合相含有量(重量%)の範囲内とする耐食性超硬合金がある(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
さらに、10〜20重量%のNi結合相に対して、金属の硼化物を0.2〜5.0重量%と、クロムの炭化物を50〜150重量%の範囲で含有させた超硬合金がある(例えば、特許文献5参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平8−199284号公報
【特許文献2】特開平10―130771号公報
【特許文献3】特開2001−81526号公報
【特許文献4】特表2001−515961号公報
【特許文献5】特開2001−294969号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
Coおよび/またはNiからなる結合相中にクロムおよび炭化物の標準生成自由エネルギーが常温〜1200℃の範囲において常に−30,000cal/gmolより大きく、かつ1200℃以下のある温度範囲においてクロムのdGfより小さい第4の元素を添加した耐食および耐摩耗性超硬合金は、結合相中にCa,Vなどを含有させることによって耐食性の改善を試みたものではあるが、炭化物,酸化物,硫化物などを形成し易いために結合相中への固溶量が著しく少なく、結合相の耐食性を改善する効果が少ないという問題がある。
【0009】
WとCoおよび/またはNiと炭素を含む複合化合物でなる分散相を含有した耐摩耗性硬質焼結合金は、合金炭素量を大幅に低減することによってCo3W3C,Ni2W4Cなどの複合化合物を分散させ、結合相中のタングステン固溶量を最大にすることによって耐食性向上を狙ったものではあるが、強度低下が著しく、結合相の耐食性が不十分であるという問題がある。
【0010】
結合相が0.35〜3.0重量%のCと、3.0〜30.0重量%のMnと、3.0〜25.0重量%のクロムとを含有したFeからなる鉄基超硬合金は、鉄系合金からなる結合相の耐食性を改善したものではあるが、ニッケル系合金に比べて本質的に耐食性に劣り、また強度・靱性が低いという問題がある。
【0011】
Coおよび/またはNiの結合相中に8〜12重量%のCr+Moを含有し、総炭素量が6.13―(0.05±0.007)×結合相含有量(重量%)の範囲内とする耐食性超硬合金は、合金炭素量の範囲限定により結合相中のタングステン固溶量を制限することによって、耐食性と強度の安定化を図ったものではあるが、Cr+Moでは結合相の耐食性が不十分であるという問題がある。
【0012】
10〜20重量%のNi結合相に対して、金属の硼化物を0.2〜5.0重量%と、クロムの炭化物を50〜150重量%の範囲で含有させた超硬合金は、金属硼化物による焼結性と硬さの向上、およびクロム炭化物の添加による耐食性,耐摩耗性の改善を狙ったものではあるが、脆弱な金属硼化物の残留,複合硼化物の生成,多量のクロム炭化物の残留・析出によって強度や靱性が著しく低下し、また結合相中へのホウ素の固溶量が少ないために、クロムの固溶のみでは耐食性が不十分であるという問題がある。
【0013】
本発明は、上記のような問題点を解決したもので、具体的には、ニッケル結合相中に必然的に固溶するタングステン以外に、少なくともクロムとボロンの適量を同時に固溶させることにより、結合相を非晶質化して硬さ,強度,靱性を改善すると共に、耐食性を大幅に向上させた耐食性超硬合金の提供を目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者は、長年に亘り、耐食性に優れた超硬合金について検討していたところ、ニッケル結合相中にクロムとボロンを同時に固溶させると結合相が非晶質化すると共に、多種類の酸や塩溶液中での耐食性が格段に向上するという知見を得て、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
すなわち、本発明の耐食性超硬合金は、ニッケルを主成分とする結合相を含有する耐食性超硬合金であって、該結合相は、該結合相全体に対して5〜30重量%のタングステンと、該結合相全体に対して5〜15重量%のクロムと、該結合相全体に対して1〜10重量%のボロンとを含有していることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の耐食性超硬合金において、結合相は非晶質化しているが、非晶質化した結合相は結晶構造を有する結合相よりも耐食性が格段に優れ、硬さ,強度,靱性,ヤング率などが高い。従来の超硬合金においてニッケルを主成分とする結合相は、面心立方構造を有する結晶であるため、結合相のX線回折図形はシャープである。しかし、結合相が非晶質化すると、結合相のX線回折図形はブロードになり、X線回折強度は低下する。
【0017】
結合相の非晶質化の程度を示す指標として、WCの(101)面におけるX線回折強度をhWC、ニッケルの(111)面におけるX線回折強度をhb、耐食性超硬合金全体に対する結合相の体積割合をvbと表した場合に、1式で定義される結晶化係数Kを用いると好ましい。
【1式】K=hb/(hWC×vb)
結晶化係数Kは、結合相の結晶化度を表すものであり、Kが小さいほど結合相の結晶性は低下する。1式は、WC(101)面のX線回折強度hWCに対するニッケル(111)面のX線回折強度hbの比を表すが、耐食性超硬合金に含まれる結合相が少ないとニッケル(111)面のX線回折強度hbが低くなるため、耐食性超硬合金全体に対する結合相の体積割合vbで補正している。結晶化係数Kが0.3以下であると、耐食性に優れるため非常に好ましい。
【0018】
ニッケルを主成分とした結合相は、結合相中のボロン量が増加すると共に非晶質化する。例えば結合相組成が、Ni−10Cr−10B,Ni−5Cr−10B−5Si,Ni−10Cr−5B−5Fe(重量%)であると、非晶質化する。ニッケルを主成分とする結合相を非晶質化させる要因として、結合相中のボロン固溶量が最も重要であるが、クロム固溶量,タングステン固溶量,焼結後の冷却速度の影響も大きい。非晶質化するためには結合相中へのクロムおよびタングステンの固溶は必須である。ニッケルを主成分とした結合相の非晶質化を促進するには、結合相に含まれるボロン量およびクロム量を増加させ、合金炭素量の低減することによりタングステン量を増加させ、急速冷却して過飽和にクロムとタングステンとを固溶させるとよい。
【0019】
ニッケルを主成分とする結合相は、結合相全体に対して5〜30重量%のタングステンと、結合相全体に対して5〜15重量%のクロムと、結合相全体に対して1〜10重量%のボロンとを含有する。具体的には、結合相全体に対して5〜30重量%のタングステンと、結合相全体に対して5〜15重量%のクロムと、結合相全体に対して1〜10重量%のボロンと、残部がニッケルとからなるNi−W−Cr−B系の合金が挙げられる。
【0020】
ニッケルを主成分とした結合相と炭化タングステンとを含む超硬合金においては、結合相にタングステンが必然的に固溶する。結合相中のタングステン量が結合相全体に対して5重量%未満では、耐食性超硬合金中に遊離炭素が析出し強度が低下する。結合相中のタングステン量が30重量%を超えると、耐食性超硬合金中にNi2W4Cを析出し強度が低下する。そこで結合相中のタングステン量は結合相全体に対して5〜30重量%と定めた。
【0021】
結合相中のクロム量は、結合相全体に対して5重量%未満では結合相の耐食性を改善する効果が少なく、逆に15重量%を超えて固溶させることは通常の焼結条件では困難であり、添加量が多いと粗大なCr7C3の凝集体が析出して強度が低下する。したがって結合相中のクロム量は、結合相全体に対して5〜15重量%と定めた。
【0022】
結合相中のボロン量は、結合相全体に対して1重量%未満では結合相の非晶質化を助長して耐食性を改善する効果が少なく、逆に10重量%を超えて大きくなると複合ホウ化物(NiW2B2)の析出により強度が低下するために、結合相全体に対して1〜10重量%と定めた。
【0023】
結合相に、タングステン,クロム,ボロン以外の元素として、結合相全体に対して30重量%以下のコバルト、結合相全体に対して10重量%以下の鉄,結合相全体に対して5重量%以下のモリブデン、および/または結合相全体に対して10重量%以下のシリコンを、ニッケルに置換して含有させると、硬さ,靱性,強度などの機械的性質や耐食性が改善されるので好ましい。具体的には、鉄,モリブデン,シリコンは耐熱性、耐食性などを改善し、コバルトは硬さ,強度などを改善する。しかし、これらを過剰に添加した場合には、結合相が非晶質化し難くなって耐食性が逆に低下すると共に、結合相の脆化や脆弱で粗大な化合物の析出などにより強度が低下する場合がある。
【0024】
耐食性超硬合金は、ニッケルを主成分とする結合相、
周期律表4a,5a,6a族金属,鉄族金属の炭化物,窒化物およびこれらの相互固溶体の中の少なくとも1種からなる分散相、炭化タングステンから構成される。なお、本発明の耐食性超硬合金は、結合相と炭化タングステンを必須成分とするが、分散相を任意成分として含有してもよい。なお、鉄族金属は鉄、ニッケル、コバルトを示す。
【0025】
耐食性超硬合金に含まれる結合相は、耐食性超硬合金全体に対して10体積%未満では焼結が困難となって巣孔が発生して硬さと強度が低下し、逆に50体積%を超えて大きくなると硬さの低下する。以上のことから、耐食性超硬合金に含まれる結合相は、耐食性超硬合金全体に対して10〜50体積%が好ましい。
【0026】
耐食性超硬合金に含まれる分散相は、周期律表4a,5a,6a族金属,鉄族金属の炭化物,窒化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種以上からなる化合物であり、具体的には、VC,NbC,TaC,ZrN,(Ti,W)C,(Ti,Ta,W)C,(Ti,Mo,W)(C,N),Cr7C3,Cr(Ni)23C6,Ni2W(Cr)4Cなどを挙げることができる。耐食性超硬合金中の分散相量は、耐食性超硬合金全体に対して45体積%を超えて多くなると相対的に炭化タングステン量あるいは結合相量が減少し、耐食性超硬合金の強度と靱性が低下する。したがって、耐食性超硬合金に含まれる分散相量は耐食性超硬合金全体に対して0〜45体積%が好ましい。
【0027】
なお、分散相は、立方晶化合物および/または非立方晶化合物からなる。立方晶化合物は周期律表4a,5a,6a族金属の炭化物,窒化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種以上からなる立方晶化合物であり、具体的にはVC,TaC、TiC,TiN,ZrN,(Ti,W)C,(Ti,Ta,W)C,(Ti,Mo,W)(C,N)などが挙げられる。その中で、VC,TaCは炭化タングステンの粒成長抑制剤として作用し、TiC,TiN,ZrNなどは耐溶着性,耐摩耗性,耐酸化性などの向上させる作用をする。
【0028】
非立方晶化合物としては、クロムの炭化物,ニッケルとタングステンの複合炭化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種からなる非立方晶炭化物がある。非立方晶炭化物として具体的には、Cr7C3,Cr(Ni)23C6,Ni2W(Cr)4Cなどが挙げられる。Cr(Ni)23C6は結合相中のクロム量がやや過剰な場合に析出し、Ni2W(Cr)4Cは合金炭素量が低い場合に形成される。いずれも合金中に均一・微細に分散しているものの、耐食性超硬合金全体に対して5体積%を超えて多くなると硬さ,強度とも低下する傾向が見られるため、非立方晶炭化物の含有量は、耐食性超硬合金全体に対して5体積%以下が好ましい。
【0029】
耐食性超硬合金に含まれる炭化タングステンの平均粒径については、平均粒径が0.3μm未満では耐衝撃性が低下する傾向が見られ、10μmを超えると耐摩耗性が低下する傾向が見られるため、炭化タングステンの平均粒径は0.3〜10μmが好ましい。
【0030】
本発明の耐食性超硬合金の製造方法として、原料粉末の混合、加圧成形、焼結の各工程を含む粉末冶金法を挙げることができる。本発明品を得るためには、焼結後の冷却速度は大きいほど好ましい。結合相の主な成分であるNi−Cr−B−W系合金が液相から固相に凝固する温度まで冷却速度は15℃/min以上であることが好ましく、具体的には焼結温度1300〜1400℃から液相凝固温度1100〜1200℃までは15℃/min以上で冷却することが好ましい。
【0031】
【実施例1】
市販されている平均粒子径が0.5μmのWC(WC/Fと記す),2.1μmのWC(WC/Mと記す),5.1μmのWC(WC/Cと記す),0.5μmのW,1.4μmのNi,1.2μmのCr3C2,3μmのB(非晶質ボロン) ,1.0μmのTaC,1.7μmのVC,1.0μmのMo,2μmのSi,1.2μmのFe,1.0μmのCo,1.2μmの(W,Ti,Ta)C(重量比でWC/TiC/TaC=50/30/20),3μmのMn,0.05μmのカーボンブラック(Cと記す),2.3μmのWB,1.7μmのCrB2,2μmのNiB(15.3重量%B),1.5μmのTiB2の各粉末を用いて、表1および表2に示す配合組成に秤量し、ステンレス製ポットにアセトン溶媒と超硬合金製ボールと共に挿入し、48時間の混合・粉砕を行った後、加熱・乾燥しながら2重量%のパラフィンワックスを添加して混合粉末を得た。ここで、配合炭素量は、焼結後に低炭素合金であるがNi2W4C,Co3W3Cを析出しない健全相領域に入るように、WあるいはCの添加により調整した。但し、本発明品10と比較品8では、意識的に低炭素にしてNi2W4Cを析出させている。
【0032】
これらの粉末を金型に充填し、196MPaの圧力でもって約5.5×9.5×29mmの圧粉成形体を作製し、アルミナとカーボン繊維からなるシート上に設置し、雰囲気ガスを導入できる焼結炉に挿入し、雰囲気圧力;10Paの真空中で表3および表4に記載した温度でもって1時間加熱保持した後、1100℃までは表3および表4に記載した冷却速度でもって冷却して、本発明品1〜15および比較品1〜12の超硬合金を得た。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
*冷却速度の内、10℃/minは真空中での炉冷を、25℃/minは50kPaのヘリウムガスを導入した強制急冷を表す。
【0036】
【表4】
*冷却速度の内、10℃/minは真空中での炉冷を、25℃/minは50kPaのヘリウムガスを導入した強制急冷を表す。
【0037】
こうして得た本発明品1〜15および比較品1〜12の超硬合金を#230のダイヤモンド砥石で湿式研削加工し、4.0×8.0×25.0mmの形状に作製し、JIS法による抗折力を測定して、その結果を表5および表6に示した。また、同試料の1面を0.3μmのダイヤモンドペーストでラップ加工した後、ビッカース圧子を用いた荷重:490Nでの硬さおよび破壊靱性値K1C(IM法)を測定し、その結果を表5および表6に記載した。さらに、各試料のラップ面について電界放射型走査電子顕微鏡にて組織写真を撮り、画像処理装置にて、WC,結合相、および非立方晶炭化物、立方晶化合物,ホウ化物など分散相の体積をそれぞれ求めた。その結果を表7および表8に記載した。なお、非立方晶炭化物の存在は、X線回折と走査電子顕微鏡による微少部分析で確認した。
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
【表7】
【0041】
【表8】
【0042】
次に、各試料のラップ面についてX線回折(管球:Cu,管電圧;50kV,管電流;250mA)を行い、WC(101)面と結合相(111)面のピーク強度を測定し、単位体積当たりの結合相のWCに対するピーク強度比を求めた。具体的には、WCの(101)面のX線回折強度をhWC、結合相のニッケルの(111)面のX線回折強度をhb、結合相の含有量(体積割合)をvbと表した場合の結晶化係数K=hb/(hWC×vb)を求めた。結晶化係数Kは、結合相の結晶化の程度を相対的に表すものである。各試料について測定した結晶化係数Kを表9および表10に示す。各試験片を超硬合金製乳鉢中で100#以下に粉砕し、これを5Nの塩酸と共にビーカーに入れて50℃で48時間保持することによって、超硬合金中の結合相成分のみを溶解・抽出した。各抽出液から原子吸光分析装置を用いて成分元素を測定し、結合相の成分量を求めた。その結果を表9および表10に記載した。
【0043】
【表9】
【0044】
【表10】
【0045】
【実施例2】
実施例1で得られた本発明品1〜15および比較品1〜12の抗折力試片(1面をラップ加工)を使用し、A〜Eの下記条件で耐食性試験を行った。
A;2Nの塩酸溶液中に浸漬し、液を攪拌しながら室温で5時間放置。
B;2Nの硝酸溶液中に浸漬し、液を攪拌しながら室温で1時間放置。
C:2Nの蟻酸溶液中に浸漬し、液を攪拌しながら50℃で10時間放置。
D;1Nの食塩溶液中に浸漬し、超音波振動を加えながら50℃で24時間放置。
E;1Nの水酸化ナトリウム溶液中に浸漬し、攪拌しながら室温で5時間放置。
【0046】
耐食性試験を終了した各試片は、アルコール洗浄と乾燥後に、ラップ面の腐食程度(曇り具合)を肉眼で相対的に比較した。また、試片を切断、研磨した後、断面を光学顕微鏡で観察し、ラップ表面からの腐食深さを測定した。これらの結果を基に、耐食性の評価基準を下記の様に設定した。表11および表12に耐食性試験の結果を示す。
優(◎);曇りが認められず、腐食深さは0.05μm以下。
良(○);やや曇りが認めら、腐食深さは0.1〜0.3μm程度。
劣(△);明らかに曇りが認めら、腐食深さは0.5〜2μm程度。
不可(×);完全に白濁し、腐食深さは5μm以上。
【0047】
【表11】
【0048】
【表12】
【0049】
【発明の効果】
本発明の耐食性超硬合金は、従来のNi−Cr,Ni−Cr−Mo,Ni−Cr−V系合金を結合相とした超硬合金、あるいは炭化クロム,Ni2W4C,金属ホウ化物などを分散させた超硬合金に比べて耐食性に優れるとともに、硬さ、強度、靱性などの機械的性質にも優れる。本発明品は特に塩素イオンに対する耐食性に優れる。本発明品は、結合相に固溶したクロムが耐食性を向上させる作用をし、ボロンが結合相を非晶質化して耐食性,硬さ,強度,靱性などを向上させる作用をするものである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、海水,化学薬品,腐食性ガスなどの腐食性環境下で使用する耐摩耗部品、高温で腐食性ガスが発生するプラスチック成形用金型などに最適な耐食性超硬合金に関し、具体的には、金属結合相をニッケル−クロム−ボロン系の合金とし、高硬度,高強度かつ耐食性を大幅に向上させた耐食性超硬合金に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
耐食性超硬合金の従来技術としては、Coおよび/またはNiからなる結合相中にクロムおよび炭化物の標準生成自由エネルギーが常温〜1200℃の範囲において常に−30,000cal/gmolより大きく、かつ1200℃以下のある温度範囲においてクロムのdGfより小さい第4の元素を添加した耐食および耐摩耗性超硬合金がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、WとCoおよび/またはNiと炭素を含む複合化合物でなる分散相を含有した耐摩耗性硬質焼結合金がある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、結合相が0.35〜3.0重量%のCと、3.0〜30.0重量%のMnと、3.0〜25.0重量%のクロムとを含有したFeからなる鉄基超硬合金がある(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
また、Coおよび/またはNiの結合相中に8〜12重量%のCr+Moを含有し、総炭素量が6.13―(0.05±0.007)×結合相含有量(重量%)の範囲内とする耐食性超硬合金がある(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
さらに、10〜20重量%のNi結合相に対して、金属の硼化物を0.2〜5.0重量%と、クロムの炭化物を50〜150重量%の範囲で含有させた超硬合金がある(例えば、特許文献5参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平8−199284号公報
【特許文献2】特開平10―130771号公報
【特許文献3】特開2001−81526号公報
【特許文献4】特表2001−515961号公報
【特許文献5】特開2001−294969号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
Coおよび/またはNiからなる結合相中にクロムおよび炭化物の標準生成自由エネルギーが常温〜1200℃の範囲において常に−30,000cal/gmolより大きく、かつ1200℃以下のある温度範囲においてクロムのdGfより小さい第4の元素を添加した耐食および耐摩耗性超硬合金は、結合相中にCa,Vなどを含有させることによって耐食性の改善を試みたものではあるが、炭化物,酸化物,硫化物などを形成し易いために結合相中への固溶量が著しく少なく、結合相の耐食性を改善する効果が少ないという問題がある。
【0009】
WとCoおよび/またはNiと炭素を含む複合化合物でなる分散相を含有した耐摩耗性硬質焼結合金は、合金炭素量を大幅に低減することによってCo3W3C,Ni2W4Cなどの複合化合物を分散させ、結合相中のタングステン固溶量を最大にすることによって耐食性向上を狙ったものではあるが、強度低下が著しく、結合相の耐食性が不十分であるという問題がある。
【0010】
結合相が0.35〜3.0重量%のCと、3.0〜30.0重量%のMnと、3.0〜25.0重量%のクロムとを含有したFeからなる鉄基超硬合金は、鉄系合金からなる結合相の耐食性を改善したものではあるが、ニッケル系合金に比べて本質的に耐食性に劣り、また強度・靱性が低いという問題がある。
【0011】
Coおよび/またはNiの結合相中に8〜12重量%のCr+Moを含有し、総炭素量が6.13―(0.05±0.007)×結合相含有量(重量%)の範囲内とする耐食性超硬合金は、合金炭素量の範囲限定により結合相中のタングステン固溶量を制限することによって、耐食性と強度の安定化を図ったものではあるが、Cr+Moでは結合相の耐食性が不十分であるという問題がある。
【0012】
10〜20重量%のNi結合相に対して、金属の硼化物を0.2〜5.0重量%と、クロムの炭化物を50〜150重量%の範囲で含有させた超硬合金は、金属硼化物による焼結性と硬さの向上、およびクロム炭化物の添加による耐食性,耐摩耗性の改善を狙ったものではあるが、脆弱な金属硼化物の残留,複合硼化物の生成,多量のクロム炭化物の残留・析出によって強度や靱性が著しく低下し、また結合相中へのホウ素の固溶量が少ないために、クロムの固溶のみでは耐食性が不十分であるという問題がある。
【0013】
本発明は、上記のような問題点を解決したもので、具体的には、ニッケル結合相中に必然的に固溶するタングステン以外に、少なくともクロムとボロンの適量を同時に固溶させることにより、結合相を非晶質化して硬さ,強度,靱性を改善すると共に、耐食性を大幅に向上させた耐食性超硬合金の提供を目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者は、長年に亘り、耐食性に優れた超硬合金について検討していたところ、ニッケル結合相中にクロムとボロンを同時に固溶させると結合相が非晶質化すると共に、多種類の酸や塩溶液中での耐食性が格段に向上するという知見を得て、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
すなわち、本発明の耐食性超硬合金は、ニッケルを主成分とする結合相を含有する耐食性超硬合金であって、該結合相は、該結合相全体に対して5〜30重量%のタングステンと、該結合相全体に対して5〜15重量%のクロムと、該結合相全体に対して1〜10重量%のボロンとを含有していることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の耐食性超硬合金において、結合相は非晶質化しているが、非晶質化した結合相は結晶構造を有する結合相よりも耐食性が格段に優れ、硬さ,強度,靱性,ヤング率などが高い。従来の超硬合金においてニッケルを主成分とする結合相は、面心立方構造を有する結晶であるため、結合相のX線回折図形はシャープである。しかし、結合相が非晶質化すると、結合相のX線回折図形はブロードになり、X線回折強度は低下する。
【0017】
結合相の非晶質化の程度を示す指標として、WCの(101)面におけるX線回折強度をhWC、ニッケルの(111)面におけるX線回折強度をhb、耐食性超硬合金全体に対する結合相の体積割合をvbと表した場合に、1式で定義される結晶化係数Kを用いると好ましい。
【1式】K=hb/(hWC×vb)
結晶化係数Kは、結合相の結晶化度を表すものであり、Kが小さいほど結合相の結晶性は低下する。1式は、WC(101)面のX線回折強度hWCに対するニッケル(111)面のX線回折強度hbの比を表すが、耐食性超硬合金に含まれる結合相が少ないとニッケル(111)面のX線回折強度hbが低くなるため、耐食性超硬合金全体に対する結合相の体積割合vbで補正している。結晶化係数Kが0.3以下であると、耐食性に優れるため非常に好ましい。
【0018】
ニッケルを主成分とした結合相は、結合相中のボロン量が増加すると共に非晶質化する。例えば結合相組成が、Ni−10Cr−10B,Ni−5Cr−10B−5Si,Ni−10Cr−5B−5Fe(重量%)であると、非晶質化する。ニッケルを主成分とする結合相を非晶質化させる要因として、結合相中のボロン固溶量が最も重要であるが、クロム固溶量,タングステン固溶量,焼結後の冷却速度の影響も大きい。非晶質化するためには結合相中へのクロムおよびタングステンの固溶は必須である。ニッケルを主成分とした結合相の非晶質化を促進するには、結合相に含まれるボロン量およびクロム量を増加させ、合金炭素量の低減することによりタングステン量を増加させ、急速冷却して過飽和にクロムとタングステンとを固溶させるとよい。
【0019】
ニッケルを主成分とする結合相は、結合相全体に対して5〜30重量%のタングステンと、結合相全体に対して5〜15重量%のクロムと、結合相全体に対して1〜10重量%のボロンとを含有する。具体的には、結合相全体に対して5〜30重量%のタングステンと、結合相全体に対して5〜15重量%のクロムと、結合相全体に対して1〜10重量%のボロンと、残部がニッケルとからなるNi−W−Cr−B系の合金が挙げられる。
【0020】
ニッケルを主成分とした結合相と炭化タングステンとを含む超硬合金においては、結合相にタングステンが必然的に固溶する。結合相中のタングステン量が結合相全体に対して5重量%未満では、耐食性超硬合金中に遊離炭素が析出し強度が低下する。結合相中のタングステン量が30重量%を超えると、耐食性超硬合金中にNi2W4Cを析出し強度が低下する。そこで結合相中のタングステン量は結合相全体に対して5〜30重量%と定めた。
【0021】
結合相中のクロム量は、結合相全体に対して5重量%未満では結合相の耐食性を改善する効果が少なく、逆に15重量%を超えて固溶させることは通常の焼結条件では困難であり、添加量が多いと粗大なCr7C3の凝集体が析出して強度が低下する。したがって結合相中のクロム量は、結合相全体に対して5〜15重量%と定めた。
【0022】
結合相中のボロン量は、結合相全体に対して1重量%未満では結合相の非晶質化を助長して耐食性を改善する効果が少なく、逆に10重量%を超えて大きくなると複合ホウ化物(NiW2B2)の析出により強度が低下するために、結合相全体に対して1〜10重量%と定めた。
【0023】
結合相に、タングステン,クロム,ボロン以外の元素として、結合相全体に対して30重量%以下のコバルト、結合相全体に対して10重量%以下の鉄,結合相全体に対して5重量%以下のモリブデン、および/または結合相全体に対して10重量%以下のシリコンを、ニッケルに置換して含有させると、硬さ,靱性,強度などの機械的性質や耐食性が改善されるので好ましい。具体的には、鉄,モリブデン,シリコンは耐熱性、耐食性などを改善し、コバルトは硬さ,強度などを改善する。しかし、これらを過剰に添加した場合には、結合相が非晶質化し難くなって耐食性が逆に低下すると共に、結合相の脆化や脆弱で粗大な化合物の析出などにより強度が低下する場合がある。
【0024】
耐食性超硬合金は、ニッケルを主成分とする結合相、
周期律表4a,5a,6a族金属,鉄族金属の炭化物,窒化物およびこれらの相互固溶体の中の少なくとも1種からなる分散相、炭化タングステンから構成される。なお、本発明の耐食性超硬合金は、結合相と炭化タングステンを必須成分とするが、分散相を任意成分として含有してもよい。なお、鉄族金属は鉄、ニッケル、コバルトを示す。
【0025】
耐食性超硬合金に含まれる結合相は、耐食性超硬合金全体に対して10体積%未満では焼結が困難となって巣孔が発生して硬さと強度が低下し、逆に50体積%を超えて大きくなると硬さの低下する。以上のことから、耐食性超硬合金に含まれる結合相は、耐食性超硬合金全体に対して10〜50体積%が好ましい。
【0026】
耐食性超硬合金に含まれる分散相は、周期律表4a,5a,6a族金属,鉄族金属の炭化物,窒化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種以上からなる化合物であり、具体的には、VC,NbC,TaC,ZrN,(Ti,W)C,(Ti,Ta,W)C,(Ti,Mo,W)(C,N),Cr7C3,Cr(Ni)23C6,Ni2W(Cr)4Cなどを挙げることができる。耐食性超硬合金中の分散相量は、耐食性超硬合金全体に対して45体積%を超えて多くなると相対的に炭化タングステン量あるいは結合相量が減少し、耐食性超硬合金の強度と靱性が低下する。したがって、耐食性超硬合金に含まれる分散相量は耐食性超硬合金全体に対して0〜45体積%が好ましい。
【0027】
なお、分散相は、立方晶化合物および/または非立方晶化合物からなる。立方晶化合物は周期律表4a,5a,6a族金属の炭化物,窒化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種以上からなる立方晶化合物であり、具体的にはVC,TaC、TiC,TiN,ZrN,(Ti,W)C,(Ti,Ta,W)C,(Ti,Mo,W)(C,N)などが挙げられる。その中で、VC,TaCは炭化タングステンの粒成長抑制剤として作用し、TiC,TiN,ZrNなどは耐溶着性,耐摩耗性,耐酸化性などの向上させる作用をする。
【0028】
非立方晶化合物としては、クロムの炭化物,ニッケルとタングステンの複合炭化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種からなる非立方晶炭化物がある。非立方晶炭化物として具体的には、Cr7C3,Cr(Ni)23C6,Ni2W(Cr)4Cなどが挙げられる。Cr(Ni)23C6は結合相中のクロム量がやや過剰な場合に析出し、Ni2W(Cr)4Cは合金炭素量が低い場合に形成される。いずれも合金中に均一・微細に分散しているものの、耐食性超硬合金全体に対して5体積%を超えて多くなると硬さ,強度とも低下する傾向が見られるため、非立方晶炭化物の含有量は、耐食性超硬合金全体に対して5体積%以下が好ましい。
【0029】
耐食性超硬合金に含まれる炭化タングステンの平均粒径については、平均粒径が0.3μm未満では耐衝撃性が低下する傾向が見られ、10μmを超えると耐摩耗性が低下する傾向が見られるため、炭化タングステンの平均粒径は0.3〜10μmが好ましい。
【0030】
本発明の耐食性超硬合金の製造方法として、原料粉末の混合、加圧成形、焼結の各工程を含む粉末冶金法を挙げることができる。本発明品を得るためには、焼結後の冷却速度は大きいほど好ましい。結合相の主な成分であるNi−Cr−B−W系合金が液相から固相に凝固する温度まで冷却速度は15℃/min以上であることが好ましく、具体的には焼結温度1300〜1400℃から液相凝固温度1100〜1200℃までは15℃/min以上で冷却することが好ましい。
【0031】
【実施例1】
市販されている平均粒子径が0.5μmのWC(WC/Fと記す),2.1μmのWC(WC/Mと記す),5.1μmのWC(WC/Cと記す),0.5μmのW,1.4μmのNi,1.2μmのCr3C2,3μmのB(非晶質ボロン) ,1.0μmのTaC,1.7μmのVC,1.0μmのMo,2μmのSi,1.2μmのFe,1.0μmのCo,1.2μmの(W,Ti,Ta)C(重量比でWC/TiC/TaC=50/30/20),3μmのMn,0.05μmのカーボンブラック(Cと記す),2.3μmのWB,1.7μmのCrB2,2μmのNiB(15.3重量%B),1.5μmのTiB2の各粉末を用いて、表1および表2に示す配合組成に秤量し、ステンレス製ポットにアセトン溶媒と超硬合金製ボールと共に挿入し、48時間の混合・粉砕を行った後、加熱・乾燥しながら2重量%のパラフィンワックスを添加して混合粉末を得た。ここで、配合炭素量は、焼結後に低炭素合金であるがNi2W4C,Co3W3Cを析出しない健全相領域に入るように、WあるいはCの添加により調整した。但し、本発明品10と比較品8では、意識的に低炭素にしてNi2W4Cを析出させている。
【0032】
これらの粉末を金型に充填し、196MPaの圧力でもって約5.5×9.5×29mmの圧粉成形体を作製し、アルミナとカーボン繊維からなるシート上に設置し、雰囲気ガスを導入できる焼結炉に挿入し、雰囲気圧力;10Paの真空中で表3および表4に記載した温度でもって1時間加熱保持した後、1100℃までは表3および表4に記載した冷却速度でもって冷却して、本発明品1〜15および比較品1〜12の超硬合金を得た。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
*冷却速度の内、10℃/minは真空中での炉冷を、25℃/minは50kPaのヘリウムガスを導入した強制急冷を表す。
【0036】
【表4】
*冷却速度の内、10℃/minは真空中での炉冷を、25℃/minは50kPaのヘリウムガスを導入した強制急冷を表す。
【0037】
こうして得た本発明品1〜15および比較品1〜12の超硬合金を#230のダイヤモンド砥石で湿式研削加工し、4.0×8.0×25.0mmの形状に作製し、JIS法による抗折力を測定して、その結果を表5および表6に示した。また、同試料の1面を0.3μmのダイヤモンドペーストでラップ加工した後、ビッカース圧子を用いた荷重:490Nでの硬さおよび破壊靱性値K1C(IM法)を測定し、その結果を表5および表6に記載した。さらに、各試料のラップ面について電界放射型走査電子顕微鏡にて組織写真を撮り、画像処理装置にて、WC,結合相、および非立方晶炭化物、立方晶化合物,ホウ化物など分散相の体積をそれぞれ求めた。その結果を表7および表8に記載した。なお、非立方晶炭化物の存在は、X線回折と走査電子顕微鏡による微少部分析で確認した。
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
【表7】
【0041】
【表8】
【0042】
次に、各試料のラップ面についてX線回折(管球:Cu,管電圧;50kV,管電流;250mA)を行い、WC(101)面と結合相(111)面のピーク強度を測定し、単位体積当たりの結合相のWCに対するピーク強度比を求めた。具体的には、WCの(101)面のX線回折強度をhWC、結合相のニッケルの(111)面のX線回折強度をhb、結合相の含有量(体積割合)をvbと表した場合の結晶化係数K=hb/(hWC×vb)を求めた。結晶化係数Kは、結合相の結晶化の程度を相対的に表すものである。各試料について測定した結晶化係数Kを表9および表10に示す。各試験片を超硬合金製乳鉢中で100#以下に粉砕し、これを5Nの塩酸と共にビーカーに入れて50℃で48時間保持することによって、超硬合金中の結合相成分のみを溶解・抽出した。各抽出液から原子吸光分析装置を用いて成分元素を測定し、結合相の成分量を求めた。その結果を表9および表10に記載した。
【0043】
【表9】
【0044】
【表10】
【0045】
【実施例2】
実施例1で得られた本発明品1〜15および比較品1〜12の抗折力試片(1面をラップ加工)を使用し、A〜Eの下記条件で耐食性試験を行った。
A;2Nの塩酸溶液中に浸漬し、液を攪拌しながら室温で5時間放置。
B;2Nの硝酸溶液中に浸漬し、液を攪拌しながら室温で1時間放置。
C:2Nの蟻酸溶液中に浸漬し、液を攪拌しながら50℃で10時間放置。
D;1Nの食塩溶液中に浸漬し、超音波振動を加えながら50℃で24時間放置。
E;1Nの水酸化ナトリウム溶液中に浸漬し、攪拌しながら室温で5時間放置。
【0046】
耐食性試験を終了した各試片は、アルコール洗浄と乾燥後に、ラップ面の腐食程度(曇り具合)を肉眼で相対的に比較した。また、試片を切断、研磨した後、断面を光学顕微鏡で観察し、ラップ表面からの腐食深さを測定した。これらの結果を基に、耐食性の評価基準を下記の様に設定した。表11および表12に耐食性試験の結果を示す。
優(◎);曇りが認められず、腐食深さは0.05μm以下。
良(○);やや曇りが認めら、腐食深さは0.1〜0.3μm程度。
劣(△);明らかに曇りが認めら、腐食深さは0.5〜2μm程度。
不可(×);完全に白濁し、腐食深さは5μm以上。
【0047】
【表11】
【0048】
【表12】
【0049】
【発明の効果】
本発明の耐食性超硬合金は、従来のNi−Cr,Ni−Cr−Mo,Ni−Cr−V系合金を結合相とした超硬合金、あるいは炭化クロム,Ni2W4C,金属ホウ化物などを分散させた超硬合金に比べて耐食性に優れるとともに、硬さ、強度、靱性などの機械的性質にも優れる。本発明品は特に塩素イオンに対する耐食性に優れる。本発明品は、結合相に固溶したクロムが耐食性を向上させる作用をし、ボロンが結合相を非晶質化して耐食性,硬さ,強度,靱性などを向上させる作用をするものである。
Claims (4)
- ニッケルを主成分とする結合相を含有する耐食性超硬合金であって、該結合相は、該結合相全体に対して5〜30重量%のタングステンと、該結合相全体に対して5〜15重量%のクロムと、該結合相全体に対して1〜10重量%のボロンとを含有している耐食性超硬合金。
- 前記耐食性超硬合金は、以下の(A)、(B)、(C)を満足する請求項1に記載の耐食性超硬合金。
(A)前記結合相:該耐食性超硬合金全体に対して10〜50体積%
(B)周期律表4a,5a,6a族金属,鉄族金属の炭化物,窒化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種からなる分散相:該耐食性超硬合金全体に対して0〜45体積%
(C)炭化タングステン:残部 - クロムの炭化物、ニッケルとタングステンの複合炭化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種からなる非立方晶炭化物の含有量が前記耐食性超硬合金全体に対して5体積%以下である請求項1または2に記載の耐食性超硬合金。
- 前記炭化タングステンのWC(101)面におけるX線回折強度をhWC、前記結合相に含まれるニッケルの(111)面におけるX線回折強度をhb、前記耐食性超硬合金全体に対する該結合相の体積割合をvbと表した場合に、1式で定義される結晶化係数Kが0.3以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐食性超硬合金。
【1式】K=hb/(hWC×vb)
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