JP2004186012A - 固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法及びその製造装置、並びにこれを用いた固体高分子形燃料電池 - Google Patents
固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法及びその製造装置、並びにこれを用いた固体高分子形燃料電池 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】ガス拡散層基材に撥水剤や親水剤等のような水偏在抑制剤を多孔質又は繊維状導電性基材に付着させるに際して、基材面内の部位による水偏在抑制剤付着量のばらつきを推定することができ、部位による通水性のばらつきや電極触媒付着量にばらつきのないガス拡散層を得ることができる固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法と、このようにして得られたガス拡散層前駆材から成る拡散層を備えた高性能の固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】多孔質又は繊維状の導電性基材に水偏在抑制剤を含む処理液を含浸させ、焼成した後、例えば焼成後の基材表面に塗布した水の残存保水量を測定することによって、測定された保水量から水偏在抑制剤の付着量を推定すると共に、水偏在抑制剤の付着量推定値に基づいて電極触媒の塗布条件を調整する。
【選択図】 図1
【解決手段】多孔質又は繊維状の導電性基材に水偏在抑制剤を含む処理液を含浸させ、焼成した後、例えば焼成後の基材表面に塗布した水の残存保水量を測定することによって、測定された保水量から水偏在抑制剤の付着量を推定すると共に、水偏在抑制剤の付着量推定値に基づいて電極触媒の塗布条件を調整する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フッ素樹脂系高分子のようなプロトンイオン伝導性固体高分子膜を電解質として使用した固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell、あるいはPEMFC:ProtonExchange Membrame Fuel Cell)のガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)として用いられるガス拡散層前駆材の製造技術に係わり、詳しくは部位による通水性のばらつきや電極触媒量のばらつきのないガス拡散層を得ることができる固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法及びその製造装置、さらには基材中における水偏在抑制剤の分布状態を推定することができ、その結果をフィードバックすることにより電極触媒担持量のばらつきを抑えることができる固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法、及びこれらの方法によって製造された前駆材から成るガス拡散層を備えた固体高分子形燃料電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池は、電解質を介して接触させた1組の電極の一方に水素のような燃料ガス、他方の電極に酸素や空気のような酸化剤ガスを供給し燃料の化学エネルギーを電気エネルギーとして直接取り出す装置であって、原理的に電極反応による生成物が水であるため、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムである。
このような燃料電池は、使用する電解質によっていくつかのタイプに分類されるが、これらのうち固体高分子形燃料電池は、100℃以下の低温作動が可能であることから、起動時間や周辺装置の耐熱性の点で有利なことから注目されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池においては、プロトンイオン伝導性固体高分子から成る電解質膜を挟んで1対の電極(酸素極と燃料極)に、水素を含有する燃料ガスと酸素を含有する酸化ガスとをそれぞれ供給することにより、次式で示される反応が生じ、電気エネルギーが取出される。
カソード反応(酸素極): 2H++2e−+(1/2)O2 → H2O
アノード反応(燃料極): H2 → 2H++2e−
この反応を行うためには、酸素極側では、反応により生成する水を速やかに排出して酸素極側に酸化ガスを連続的に供給することが必要である。また、プロトンイオン伝導性固体高分子膜が、高いプロトンイオン伝導性を発現するためには、膜が十分に加湿されていることが必要であり、そのため、酸化ガス、燃料ガスは一般的に加湿されて供給されるようになっており、これら加湿された酸化ガス及び燃料ガスは、それぞれのガス流路側からプロトンイオン伝導性固体高分子膜にまでむらなく拡散させる必要がある。
【0004】
このように、固体高分子形燃料電池の電極においては、加湿されたガスをプロトン伝導性固体高分子膜にむらなく供給することと、生成された水をガス流路側に効率よく速やかに排出させるという異なる特性が要求されることになり、このため、固体高分子形燃料電池用電極には、例えば撥水剤あるいは親水剤といった水偏在抑制剤を塗布したガス拡散層を設けることによりガスの拡散を促進させると共に、拡散層中における水分の移動をコントロールするようにしている。
【0005】
従来、ガス拡散層を形成する基材への水偏在抑制剤の塗布方法としては、例えば特開2001−57215号公報に記載されているように、カーボンペーパーから成る基材に、撥水化処理として撥水剤を含浸し、焼成することにより行っている。
また、特開2002−56851号公報には、ガス拡散層として電気伝導性とガス拡散性を兼ね備えた金属製多孔質基材やカーボン製多孔質基材等を用い、このような基材をフッ素樹脂の水性ディスパージョン、フッ素樹脂のアルコールディスパージョン等から成る撥水処理液中に適宜浸漬した後、浸漬した基材を撥水処理液から取り出し、予め昇温した乾燥器に設置し水分を蒸発させる工程が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特開2001−57215号公報記載の方法では、ガス拡散層基材の各部分に塗布された撥水剤の分布状態を把握することができないことから、塗布量にばらつきがあったとしてもこれに対応することができず、このような場合には、ガス拡散層内における水分の移動にばらつきが生じて、電解質への水分供給や生成水の排出が円滑に進まなくなるばかりでなく、その後の電極触媒塗布工程において触媒量にばらつきが生じてしまい、電極触媒層の厚さのムラが生じ、電池性能がばらついてしまうという問題があった。
また、特開2002−56851号公報記載の方法においても、ガス拡散層基材を撥水処理溶液に適宜浸漬させることにより、撥水処理溶液を基材内に含浸させ、浸漬させた基材を撥水処理溶液から引き上げた後、50℃〜120℃程度に予め昇温した乾燥器内に保持することにより水分を蒸発させ、基材を乾燥させていることから、乾燥後に基材内に含まれる撥水剤に面内分布が発生し、この結果、ガス拡散層面内で撥水剤の量に偏りのあるガス拡散層が製造され、このようなガス拡散層を用いて固体高分子形燃料電池を作製しても、同様に良好な電池特性が得られないという問題点があった。
【0007】
本発明は、固体高分子形燃料電池用電極に使用される従来のガス拡散層における上記課題に着目してなされたものであって、ガス拡散層基材に撥水剤や親水剤等のような水偏在抑制剤を均一に付着させることができ、面内の部位による通水性のばらつきや、電極触媒付着量にばらつきのないガス拡散層を得ることができる固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法とその製造装置、加えて基材内部の水偏在抑制剤の付着量の分布状態を推定することができ、推定結果に応じて電極触媒量のばらつきを防止することができるガス拡散層前駆材の製造方法、さらにはこのようにして得られた前駆材から成るガス拡散層を備えた高性能の固体高分子形燃料電池を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法は、多孔質又は繊維状の導電性基材に水偏在抑制剤を含む処理液を用いた燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法において、焼成の後工程として上記水偏在抑制剤付着量の分布状態を推定する工程、例えば焼成後の基材表面に塗布した水の残存保水量を測定することによって水偏在抑制剤の分布状態を推定する工程を含んでいることを特徴としている。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の第1の製造方法においては、従来の方法と同様に、例えばカーボンのような材料から成る多孔質あるいは繊維状の導電性基材に、含浸、乾燥、焼成によって、例えば親水剤や撥水剤等の水偏在抑制剤を塗布を行う。その後、基材に塗布された水偏在抑制剤の分布状態のばらつきを、例えば次のような方法によって推定するようにしている。
すなわち、焼成後の基材に水を付けたのち、所定条件での吸引処理を行って重量測定を行い、焼成後の重量と比較することにより、基材ガス拡散層に保持された水分量を求めることにより、基材中に付着した水偏在抑制剤の分布状態が推定できることになる。そして、求められた水分保持量が所定量以下であれば、基材の面内に均一に撥水性の水偏在抑制剤が塗布されたと推定し、また逆にある所定量以上であれば、基材面内に均一に親水性の水偏在抑制剤が塗布されたものと推定することができる。
【0010】
一般に、水偏在抑制剤の処理をガス拡散層基材に施した場合、処理液に浸漬し、必要に応じて乾燥した後、焼成し、焼成後に重量測定を行うことにより水偏在抑制剤が所定の目標量だけ付着したかどうかの管理を行うとしても、重量測定では、基材の面内で均一に水偏在抑制剤が付着した場合と、同一の部位に多量に付着し他の部位にはほとんど付着していない場合でも同様な値を示す場合があり、重量測定だけではガス拡散層基材の面内における水偏在抑制剤の分布状態を推定するのは不可能である。
一方、拡散層基材の面内における水偏在抑制剤の担持量分布を把握するために、水偏在抑制剤の処理工程から、サンプルを抜き取り、抜き取った基材を縦横にメッシュ状に切断し、それぞれの重量測定を行うことによって、それぞれのメッシュにおける水偏在抑制剤の担持量を求める方法がある。しかしながら、この方法では、あらかじめそれぞれのメッシュ毎の基材自身の重量データを求めておく必要がある(そのために何も処理していない基材を同様なメッシュ状に切断して、重量測定を行う必要がある。)し、抜き取りサンプルについては製品とならないため、製品歩留りが悪い。さらに、抜き取り検査であるからして、必ずしも個々の基材の塗布ムラを示しているわけでもないので、次工程の電極触媒の塗布条件についてそれぞれ一枚毎にフィードバックをかけることができず、電極触媒の塗布量を安定に行うことができない。
【0011】
本発明のガス拡散層前駆材の第1の製造方法においては、水偏在抑制剤処理を施したガス拡散層基材のそれぞれ一枚毎に処理後の水分保持量の測定を行い、塗布の分布状態の推定を行うようにしているので、それぞれの基材毎に電極触媒処理条件のフィードバックをかけることができ、安定して電極触媒の担持量のコントロールを行うことができる。また、非破壊で測定できるため、基材が無駄にならず、製品歩留りが向上することになる。
【0012】
水の塗布および吸引処理による水偏在抑制剤の塗布状態の推定方法は、ガス拡散層基材に撥水性の水偏在抑制剤が付着していれば、水を塗布した後、吸引処理を行うことによって水が除去されるためその分の水分量だけ減少する。一方、親水性の水偏在抑制剤が付着している場合には、水を塗布した後、吸引処理をしても水は除去されず水分量は減少しない。また、ある一部分に撥水性水偏在抑制剤が集中して付着し、それ以外の部分には付着していないような場合でも、ある程度の量だけ付着していれば、それ以上厚く付着していたとしても水の除去効果に差は認められないものと考えられることから、付着量が多い場合でも、吸引処理による水の減少量が少なくなくなることによって撥水剤の分布状態にムラがあると判断することが可能である。
【0013】
本発明の製造方法における好適形態としては、基材面内における水偏在抑制剤の分布状態をさらに精度よく測定できるように、ガス拡散層基材の面内を分割して、分割面ごとに水の塗布及び吸引処理を行うようにすることが好ましく、これによってより安定したフィードバックを行うことができるようになる。
【0014】
さらに、本発明のガス拡散層前駆材製造方法においては、水偏在抑制剤の分布状態を推定した後、電極触媒の塗布工程を加えることができる。
そして、このとき電極触媒を塗布する面の側から水を塗布し、その後に吸引処理を行うことも可能であって、実際に電極触媒を塗布する面での水偏在抑制剤の状態分布を求めることによって、実際の処理工程での精度向上を実現できることから望ましい。
【0015】
また、本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法においては、水偏在抑制剤処理の後工程において、当該水偏在抑制剤処理を施した基材に電極触媒を塗布するに際して、上記方法によって求めた水偏在抑制剤の付着量分布の推定値に基づいて電極触媒の塗布条件(例えば、電極触媒スラリーの水分量、塗布速度、塗布量など)、乾燥条件(例えば、乾燥温度及び時間など)、焼成条件(例えば焼成温度及び時間など)を制御することができ、これによって、燃料電池用ガス拡散層の触媒担持量が均一なものとなり、これを用いた固体高分子形燃料電池の性能が向上することになる。
【0016】
次に、本発明の上記製造方法の実施手順の形態例について説明する。
当該製造方法に用いる水偏在抑制剤としては、例えばパーフルオロエチレンやポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂からなる撥水性のものや、例えば有機高分子材料(例えばカルボキシルメチルセルロース系、ポリアクリル酸ソーダ架橋物、ポリビニルアルコール系や長鎖アルキル有機イオンなど)やノニオン系、アニオン系界面活性剤等の親水性のものを使用することができ、これらを水性ディスパージョンやアルコールディスパージョンなどの処理液として使用する。
処理液の含浸は、処理液に含まれる水偏在抑制剤の種類や付着させたい量により異なるが、通常、数分程度で行う。なお、水偏在抑制剤の種類は1種類とは限らず、例えば上記のような撥水剤と親水剤とを基材の部位に応じて塗り分けることも必要に応じて可能である。
【0017】
処理液の含浸を行ったのち、処理液から基材を引き上げ、乾燥器にて乾燥を行うが、乾燥方法としては通風して乾燥を行っても良いが、特にそれに限定されるわけではない。乾燥温度としては、室温から100℃程度の温度で行うが、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上である。
【0018】
乾燥後、引き続き焼成処理を行う。これも乾燥と同様に通風条件にて行ってよいが、特にそれに限定されるわけではない。焼成温度としては150℃以上の温度で行うが、好ましくは180℃から350℃の温度である。焼成後、重量測定を行い(Wh)、予め測定しておいた処理前の基材重量(Wo)との差を求め、水偏在抑制剤の担持量を算出する。
【0019】
重量測定の後、焼成後の基材に対して水の塗布を行う。水の塗布方法としては、基材の上面から水分を霧状に散布させて基材表面の全体に均一に散布する。水の散布時間については、基材の種類、大きさにより異なるが、通常、数分間程度である。時間が短いと、処理工程の時間は短くなるが、基材に均一に水が散布されない可能性があるため、少なくとも1分間程度の散布時間が好ましい。
水を散布後、基材の下面より、散布した水分をポンプによって吸引する。ポンプで吸引後、再度、重量測定を行い(Ww)、水偏在抑制剤処理後の重量(Wh)との差を求め、基材に保持されている水分量(Wf=Ww−Wh)を算出する。
【0020】
吸引処理により、基材面内に水偏在抑制剤として、例えば撥水剤が塗布されている部分では、散布した水が除去されるため、その分だけ基材に保持されている水分量が減少する。均一に撥水剤が塗布されている場合には、塗布した水分が吸引処理によってほとんど除去されるため、基材に保持されている水分量(保水量)Wfは、ある所定量Wcより少なくなる。仮に、この所定量より基材に保持されている水分量がこの所定量Wcより多い場合には、水偏在抑制剤(撥水剤)の分布にムラがあり、均一に処理されていないものと判断される。
【0021】
上記所定量Wcについては、数段階に区分され、撥水剤の分布状態のムラがひどく、次工程である電極触媒塗布工程の制御によってもリカバリー不可能な場合(Wcw以上)と、撥水剤の分布状態にムラがあるものの、電極触媒塗布工程の制御によってリカバリー可能な場合(Wcr以上)と、撥水剤の分布状態のムラがほとんどなく、問題がないと考えられる場合(Wco以下)とに分けられる。保水量WfがWcw以上の場合は、使用不可能なため次工程へは進まない。保水量WfがWcw未満Wcr以上の場合は、次工程での電極触媒塗布時の塗布スピード、塗布量、電極触媒スラリーの水分量、乾燥時の乾燥時間、乾燥温度、焼成時の焼成時間、焼成温度をWfの値に応じて変えて制御する。
具体的には、保水量Wfの値が大きい場合は、撥水剤の分布状態のムラが大きい傾向にあるため、塗布スピードを速い方向に、塗布量を少ない方向に、電極触媒のインクの水分量を多い方向に、乾燥時の乾燥時間を長い方向、乾燥温度を高い方向、焼成時の焼成時間を長い方向、焼成温度を高い方向に制御を行う。
【0022】
なお、水偏在抑制剤として、界面活性剤などの親水剤が用いられ、これが均一に塗布されている場合には、塗布した水分が吸引処理によっても保持されているため、基材に保持されている水分量(保水量)Wfがある所定量より多くなることから、所定量より多いかどうかによって親水剤が均一に塗布されているかどうかが推定できる。
【0023】
本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の第2の製造方法においては、多孔質又は繊維状の導電性基材を親水剤や撥水剤等の水偏在抑制剤を含む処理液に浸漬させた後、処理液から引き出し、当該処理液が含浸された基材の表面に上記処理を吸収する吸液性材を接触させるようにしていることから、親水剤や撥水剤等、水偏在抑制剤付着量のばらつきの原因となる余剰の処理液が基材表面から除去できることから、基材面内における水偏在抑制剤の付着量が均一なものとなり、部位による通水性のばらつきや、電極触媒の付着量にばらつきのないガス拡散層前駆材が得られ、これによって通水性や電極触媒の付着量にばらつきのない燃料電池用ガス拡散層が得られることになる。
【0024】
また、本発明のガス拡散層前駆材の第2の製造方法における好適形態として、基材を処理液から引き出した後、吸液性材に接触させる前に、処理液を液切りすることや、基材の片面のみならず両面を吸液性材に接触させること、さらには基材を吸液性材に接触させるに際して圧力を加えることが望ましく、これによって基材表面に付着した、あるいは基材内に含浸された余剰の処理液をより均一、かつ確実に除去できることから、基材面内における水偏在抑制剤の付着量がさらに均一なものとなる。
【0025】
本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造装置によれば、水偏在抑制剤を含む処理液を収納した処理槽、処理槽内の処理液中に多孔質又は繊維状導電性基材を浸漬する基材浸漬手段、処理液から導電性基材を引き出す基材引出手段と、導電性基材の表面に吸液性材を接触させて処理液を吸収する吸液手段を備えていることから、本発明の燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法を実施するのに好適なものとなる。
【0026】
また、本発明のガス拡散層前駆材製造装置の好適形態としては、上記装置にさらに、処理液から基材を引き出した後、基材に含浸された処理液を液切りする液切り手段を設けたり、上記吸液手段が導電性基材の両表面に吸液性材を接触させて処理液を吸収するようにしたり、吸液手段に導電性基材の表面に吸液性材を接触させながら圧力を印加する手段や、吸液性材を一定の乾燥状態で連続して供給する吸液性材供給手段を設けたり、当該吸液性材供給手段にエンドレスベルト状の吸液性材を回転させる手段を設けたりすることができ、このような装置を用いることによって、水偏在抑制剤付着量のばらつきが少ないより高品質の燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造がより容易に行われることになる。
【0027】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されることはない。また、当該実施例において、「%」は特記しない限り質量百分率を表わすものとする。
【0028】
(実施例1)
図1は、本発明の第1の実施例に係わるガス拡散層前駆材の製造方法手順を示すものである。
まず、製造を開始するに先立って、多孔質の導電性基材として60×60×0.3mmのカーボンペーパーを3枚(試料1〜3)準備し、その重量Woをあらかじめ測定しておく。
【0029】
次に、この実施例においては、水偏在抑制剤として撥水剤であるポリテトロフルオロエチレンの15%水溶液を調製して処理液とし、これを含浸槽に入れ、図1(a)に示すように、当該処理液中に上記各基材を3分間浸漬することにより、各基材に処理液を含浸する。
【0030】
撥水剤処理液の含浸を行ったのち、含浸槽から基材を引き上げ、図1(b)に示すように、80℃に保持した乾燥器内に移して乾燥する。
【0031】
乾燥後、図1(c)に示すように、350℃に昇温して、引き続き焼成処理を行う。このとき、あらかじめ350℃に保持しておいた別の焼成装置に移動させるようにしても良い。
焼成後、図1(d)に示すように、各基材の重量Whを測定し、撥水剤(水偏在抑制剤)の付着量をそれぞれ算出する(Wh−Wo)。所定の目標とする撥水剤量が塗布されていない場合は、再度、撥水剤の含浸を行ったのち乾燥、焼成を行う。
【0032】
そして、処理液の含浸、乾燥及び焼成を終えたそれぞれの基材に対して、図1(e)に示すように、上面から水を霧状に1.5分間散布し、当該基材全体に水を均一に塗布する。
【0033】
水を散布した後、図1(f)に示すように、基材の下面より、付着させた水分をポンプによって予め定められた所定の圧力で吸引する。吸引処理後、図1(g)に示すように再度、重量測定を行いそれぞれの基材に保持されている水分量、すなわち保水量Wf(=Ww−Wh)を算出し、算出結果に基づいて、各基材における撥水剤(水偏在抑制剤)付着量の分布状態が推定する。
【0034】
こののち、電極触媒の担持工程に移行し、触媒としての白金を担持させた炭素粉末と、固体高分子電解質のアルコール溶液と、水から成る電極触媒ペーストをそれぞれの条件の下に上記基材に塗布し、乾燥及び焼成することによって、ガス拡散層前駆材を得た。
このとき、各基材における撥水剤付着量の分布状態の推定結果に基づいて電極触媒ペーストの塗布条件、乾燥条件、焼成条件を調整した。すなわち、基材の保水量Wfの値が所定値より大きい場合は、撥水剤の分布状態にばらつきが大きいことになるので、その程度に応じて電極触媒ペーストの塗布スピードを速い側に、塗布量を減らす側に、電極触媒ペーストの水分量を増す側に、乾燥時間を長くする側に、乾燥温度を高い側に、焼成時間を長くする側に、あるいは焼成温度を高い側に制御するようにした。そして、各基材の触媒担持量を調査し、各試料間の触媒担持量のばらつきを求め、その結果を表1に示した。
【0035】
(比較例1)
同様の導電性基材3枚(試料1〜3)に、上記実施例1と同様の方法によって、上記撥水剤(水偏在抑制剤)を付着させた後、撥水剤の付着量分布状態の推定を行うことなく、各基材に対して、上記電極触媒ペーストを用いて塗布を行う。基材をフィルムコータの上に固定し、50×50mmの大きさの切り抜きのある0.25mm厚さのステンレス板を置き、その切り抜き部に上記電極触媒ペースとを所定量おき、均一になるようにローラを用いて薄く延ばして、塗布を行う。そののち、各基材の触媒担持量を調査し、各試料間の担持量のばらつきを求め、その結果を表1に併せて示した。
【0036】
(実施例2)
ポリテトロフルオロエチレンに代えて親水剤である橋かけポリアクリル酸塩系であるワンダーゲル(商品名)を水偏在抑制剤として使用し、この10%水溶液を処理液としたことを除いて、上記実施例1と同様の基材3枚(試料1〜3)に同様の工程によって上記親水剤をそれぞれ付着させた。
【0037】
次いで、同様に各基材の保水量Wfを測定することによって、上記親水剤(水偏在抑制剤)付着量の分布状態のばらつき具合を推定し、保水量Wfが所定の値よりも少ない場合には、その程度に応じて電極触媒ペーストの塗布条件、乾燥条件、焼成条件を調整しながら、各基材に塗布し、乾燥及び焼成することによって、ガス拡散層前駆材を得た。そして、各基材の触媒担持量をそれぞれ調査し、各試料間の触媒担持量のばらつきを求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0038】
(比較例2)
同様の導電性基材3枚(試料1〜3)に、上記実施例2と同様の方法によって、上記親水剤(水偏在抑制剤)を付着させた後、親水剤の付着量分布状態の推定を行うことなく、各基材に対して、上記電極触媒ペーストを比較例1と同様にして塗布したのち、各基材の触媒担持量を調査し、各試料間の担持量のばらつきを求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0039】
(実施例3)
図2は、本発明の第3の実施例におけるガス拡散層前駆材の製造手順を示すものであって、当該実施例においては、焼成後の基材に水を塗布するに際して、図2(e)に示すように、分割プレートによって各基材(試料1〜3)の面を9個のメッシュに分割した状態で水を散布し、各メッシュごとに親水剤の分布状態を測定するようにしており、これ以外については、上記実施例1と同様の操作を繰り返すことによってガス拡散層前駆材を得た。そして、各基材の触媒担持量をそれぞれ調査し、各試料間の触媒担持量のばらつきを求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0040】
(実施例4)
図3は、本発明の第4の実施例におけるガス拡散層前駆材の製造手順を示すものであって、当該実施例においては、焼成後の基材に水を塗布するに際して、図3(e)に示すように、次工程において電極触媒を塗布する側の面に水を散布し、図3(f)に示す吸引処理に移行する前に基材を反転することによって、電極触媒の塗布面の側から吸引するようにしたこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返すことによってガス拡散層前駆材を得た。そして、各基材の触媒担持量をそれぞれ調査し、各試料間の触媒担持量のばらつきを求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1の結果から明らかなように、各実施例においては、水偏在抑制剤の付着量の分布状態を求め、その結果に応じて電極触媒スラリーの塗布、乾燥、焼成の各条件を調整するようにしていることから、触媒層担持量のばらつきが少なくなっていることが確認された。なお、実施例4の結果については、吸引処理を水の塗布面から行うことにより、残留する水分量が多くなることでばらつきが他の実施例に比べて大きくなっているものと考えられる。
【0043】
次に、水偏在抑制剤の付着量のばらつき自体を軽減することができるガス拡散層前駆材の製造方法について、その実施例を示す。
(実施例5)
図4は、当該実施例に用いるガス拡散層前駆材の製造装置を示す概略図であって、図に示す製造装置は、処理槽10と、搬送装置20と、吸液装置30から主に構成されている。
【0044】
処理槽10は、例えば親水剤や撥水剤等の水偏在抑制剤を含む処理液11が収納されており、多孔質又は繊維状の導電体から成る基材1の全体が水平状態で十分に浸漬できる大きさと容量を備えている。また、処理液11中の水偏在抑制剤の沈降を防止したり、処理量の増加に伴う処理液の減少や濃度変化を防止したりすりために、当該処理層0に攪拌機能、溶液濃度測定機能、処理溶液供給調整機能などを付加することができる。
【0045】
搬送装置20は、基材1を処理槽10内の処理液11中に浸漬する基材浸漬手段と、処理液11から引き出す基材引出手段と、引き出した後に基材に含まれる処理液を液切りする液切り手段の機能を兼ね備えたものであって、基材1を水平に保持した状態で処理液11中に浸漬し、所定時間経過したのち引き上げ、吸液装置30にまで搬送する機能を有しており、当該基材1を処理液11外で所定時間保持し液切りする機能も備えている。また、処理液11外で、液切りを行うに際して、基材1の全体を水平に保ったまま上下に振動させることによって液切りを促進する機能を付加してもよい。
【0046】
吸液装置30は、基材1に含まれた余分の処理液11を吸収して除去する機能を有し、処理液11を吸収する吸液材である吸水紙31が一定の乾燥状態で、水平に保持されており、処理液11を含んだ基材1をその上に載置することによって、基材表面が均一に接触するように配置されている。この実施例では、長尺の吸水紙31の両端を連結してエンドレスベルト状となし、これをローラー32によって回転させると共に、エンドレスベルト状の吸水紙31の基材1に接触している側の反対側から乾燥ガスや熱風を当てることによって、常時一定の乾燥状態の吸水紙31を連続的に供給するようにしている。
このとき、吸水紙を搬送コンベア上に設置し、同様に乾燥させながらコンベア状に連続して供給するようにしてもよい。
【0047】
また、吸液装置30の吸水紙31に載置した基材1の他方の表面についても、吸水紙31が接するように、同様の吸液装置30を上下に2段配置して、基材1を表裏両面から接触するようにすることや、このときに所定の圧力を印加する手段を付加してもよい。さらには、基材1を連続して作製するために必要な吸水時間だけ吸水紙31上に基材10を載置されているように搬送させる機能を持たせてもよい。そして、次工程である乾燥工程及び焼成工程に吸液後の基材1を連続的に搬送するためのローラーコンベア35を設けることも可能である。
【0048】
図5は、上記製造装置を用いて燃料電池用のガス拡散層前駆材を製造する手順を示す工程図である。
はじめに、ガス拡散性と電気伝導性を兼ね備えたガス拡散層基材として導電性材料の多孔質基材である市販のカーボンペーパーまたはカーボンクロスを所定の大きさ(60×60×0.3mm)に打ち抜いた基材10を準備した。
【0049】
続いてこの基材1に撥水処理を施すべく水偏在抑制剤として、例えばダイキン工業製D−1を所定の濃度(PTFE60%溶液2と純水を6.5の重量比となるように)に調製したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水性ディスパージョン溶液11を用意し、処理槽10に収納した。
【0050】
次に、上記基材1を処理槽10中の処理液11中に入れ、基材1の全体が処理液11中に完全に没するように浸漬し、5分間保持することにより、当該基材1中に撥水処理液11を含浸させた。
【0051】
5分経過後、処理液11中に浸漬させた基材1を処理槽10から水平に引き上げ、基材1の表面及び内部に含まれる余分な処理液11を除去した。このとき、基材1の面内で撥水剤量の分布ムラが発生しないように、基材1を水平に引き上げ、処理液11が十分に液切れするまでそのまま処理槽10の上方位置に保持した。このとき、基材1を水平に保持したまま、上下に振動させることによって液切りを促進するようにしてもよい。
【0052】
続いて、十分に液切りされた基材1を吸液装置30に搬送し、当該吸液装置30の吸水紙31に載置し、基材1に含まれる撥水処理液11を吸水紙31に吸水させた。このとき、基材1と吸水紙31が互いに全面で接するようにし、基材面内の処理液11が面内で均一に吸収されるようにした。また、吸水紙31上で吸水させる時間は任意で良いがスループット上10分以下が好ましい。さらには、処理溶液吸収工程の安定性を考慮すると、1分〜5分程度である方が望ましい。
【0053】
このように、撥水処理液11中に浸漬した基材1を処理槽10から引き上げ、処理液11を液切りした後、基材1を吸水紙31上に載置して、基材面の全面から均一に処理液11を吸液することにより、基材1に最終的に焼成を施した後における撥水剤の面内分布が均一で良好なガス拡散層前駆材を製造することが可能となる。これは、焼成後の基材面内に含まれる撥水剤の量は、含浸後の製造工程である乾燥工程、焼成工程による影響に比べ、撥水処理液11中に浸漬し、引き上げた後に基材1中に含まれる撥水剤の量及び分布により多くの影響を受けることによる。言い換えれば、乾燥及び焼成工程に送る前の基材面内に付着している撥水剤の量及び分布によってガス拡散層前駆材完成時の撥水剤の量及び分布が決まることになる。
【0054】
また、この撥水処理液11から基材1を引き上げた後におけるの吸水紙31による基材1中に含まれる撥水処理液11の吸収は、導電性繊維で形成されているカーボンペーパー、カーボンクロスの各繊維間、各繊維の接触部・交差部に過剰に付着している撥水処理液11を基材面内で均一に吸水し、乾燥前の処理液11の分布状態を均一にすることができる。この繊維間や、繊維の接触部・交差部に過剰に付着している撥水処理液11の除去は、基材1の乾燥及び焼成後に、繊維間や、繊維の接触部及び交差部に付着する撥水剤の量を減少させることができる。さらに、撥水剤は導電性を有していないこと、当該ガス拡散層前駆材を形成している導電性繊維(基材1)は電流経路となることからこの繊維間、繊維の接触部、交差部に過剰に残る撥水剤の抑制は、当該前駆材から成るガス拡散層の電気抵抗を低減することもできる。
【0055】
続いて、この撥水処理液11を含浸させた基材1を大気中または、窒素雰囲気中で乾燥させた。乾燥温度は、100℃以下であればよいが、この実施例においては60℃の大気中で乾燥させた。その後、基材1に撥水剤を溶着させるために350℃程度で焼成することによって、撥水処理されたガス拡散層前駆材を作製した。
図6に、この方法で作製したガス拡散層前駆材の撥水剤の面内分布を示す。処理溶液に浸漬したのち、そのまま乾燥するようにした従来の方法で作製したガス拡散層前駆材における撥水剤分布を示した図10に比べ約1/2の面内均一性を示すことが確認された。
【0056】
次に、上記によって基材1に水偏在抑制剤としての撥水剤を付着させることによって得られたガス拡散層前駆材を用いて、図7に示すような固体高分子形燃料電池セルを作製した。
先ず、白金等の貴金属触媒を担持させた炭素粉末、ナフィオン等の固体高分子電解質のアルコール溶液、純水を所定の割合で混合、脱泡し、電極触媒ペーストを調製した。
【0057】
この電極触媒ペーストをナフィオン膜等の固体高分子電解質膜3の両面に、上記ガス拡散層前駆材2の厚さ以下で、所定の電極面積となるようにスクリーン印刷法により塗布した。
このとき、塗布した電極触媒層4が固体高分子電解質膜3を挟んでずれることなく同位置に配置されるように塗布した。固体高分子電解質膜3表面への電極触媒層4の形成はここでは、スクリーン印刷法を使用したがそれに限定されることなく、スプレー法、転写法等任意の方法で実施することができる。また、電極触媒層4の形成についても、ここでは固体高分子電解質膜3の上に形成したが、先に準備したガス拡散層前駆体2の表面に形成してもよい。このときは、2枚のガス拡散層前駆体2の一方の面上に電極触媒層4を形成する。
【0058】
そして、両表面に電極触媒層4を形成した固体高分子電解質膜3と、先に準備した撥水処理済みの基材1、すなわちガス拡散層前駆材2枚をそれぞれが固体高分子電解質膜3上の電極触媒層4と重なるように配置し、あるいは固体高分子電解質膜3と、別途準備した電極触媒層4が形成されたガス拡散層前駆材2枚のそれぞれの電極触媒層4が固体高分子電解質膜3の異なる面の表面と接するように配置する。続いて、ホットプレス法により140℃、圧力20kgf/cm2の条件で60秒間プレスし、固体高分子電解質膜3、電極触媒層4、ガス拡散層前駆材2を接合して一体化し、膜電極接合体5(MEA:Membrane Electrode Assembly)を形成した。
【0059】
その後、このMEAの両面にガス流路7aを備えたガスセパレータ7、及びシール材8を配置し、所定の面圧になるように締め付けることによって固体高分子形燃料電池の単セルとした。
このようにして固体高分子形燃料電池セルを作製することによって、ガス拡散層面内で撥水剤の分布に偏りがなく、ガス拡散層の抵抗及び燃料電池内部抵抗が低減することにより発電特性の優れた固体高分子形燃料電池を構成することが可能となる。
【0060】
(実施例6)
図8は、この実施例において、燃料電池用ガス拡散層前駆材を製造する手順を示す工程図である。
上記実施例5と同様に、所定の大きさに打ち抜いた基材1を準備し、同様の撥水処理液11で満たされた処理槽10の中に、同様に浸漬して基材1中に撥水処理液11を含浸させた。
【0061】
続いて実施例5と同様に、引き上げ、十分に液切りした後、基材1を吸液装置30に搬送し、吸液装置30の吸水紙31に載置し、さらにその上方から吸液装置30の吸水紙31を接触させると共に、当該基材1の全面に均一に圧力を印加した。印加した圧力は、撥水処理を行う基材1の素材、必要な撥水剤量により調整する必要があるが、この実施例においては、3g/cm2、1分間印加することによって、基材1中に含まれる余分な処理液11を吸水紙31に吸収させた。これによって、実施例5に記載の方法よりもさらに撥水剤の面内分布が良好なガス拡散層前駆材2を製造することが可能となると共に、基材1からの撥水処理液11の吸水量が増加し、より短時間で吸水処理が可能となる。
なお、必要な撥水剤量は、撥水処理液11の濃度や、吸水時間を調整することにより制御することも可能であるが、撥水処理工程の作業性、スループットを考慮すると印加する圧力を制御することによって、基材1に含まれる最終的な撥水剤量を制御するほうが好ましい。
【0062】
以下、上記実施例5と同様に、基材1を大気中または、窒素雰囲気中で乾燥し、焼成工程を経て撥水処理されたガス拡散層前駆材2を作製した。
図9は、この方法で作製したガス拡散層前駆材2の撥水剤の面内分布を示すものであって、当該製造方法、すなわち基材1の両面から吸水紙31を所定圧力で教示するように為すことによって、実施例5の方法で得られたものに比べて、さらに約2/3の面内均一性を示すことが確認された。
【0063】
このようにして得られたガス拡散層前駆材2は、上記同様の要領によってMEA5が形成され、さらにガスセパレータ7及びシール材を配置することによって、図7に示すような固体高分子形燃料電池セルが得られる。
【0064】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明による固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の第1の製造方法においては、水偏在抑制剤を含む処理液の含浸、必要に応じて乾燥、さらに焼成することによってガス透過性を有する導電性基材に水偏在抑制剤を付着させた後、例えば散布した水の残存保水量を測定することによって、水偏在抑制剤付着量の分布状態を推定するようにしていることから、その結果に基づいて電極触媒の塗布を中止したり、その担持条件を調整したりすることによって、触媒担持量のばらつきの少ないガス拡散層前駆材を得ることができる。
また、第2の製造方法によれば、処理液を含浸させた後の基材表面に、吸液性材を接触させるようにしていることから、基材に過剰に付着している余分な処理液を基材表面から除去することができ、水偏在抑制剤付着量の分布状態を均一なものとすることができ、このような前駆材によってガス拡散層を構成することによって高性能の固体高分子形燃料電池セルを得ることができる。
【0065】
そして、本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造装置は、処理液の入った処理槽と、この処理液中に基材を浸漬する手段と、処理液から引き出す手段と、上記基材の表面に吸液性材を接触させて処理液を吸収する手段を備えたものであるから、上記の製造方法を円滑に実施することができ、水偏在抑制剤がムラなく均一に分布した状態の燃料電池用ガス拡散層前駆材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例に係わるガス拡散層前駆材の製造手順を示す工程図である。
【図2】本発明の第3の実施例に係わるガス拡散層前駆材の製造手順を示す工程図である。
【図3】本発明の第4の実施例に係わるガス拡散層前駆材の製造手順を示す工程図である。
【図4】本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造装置の構造を示す概略図である。
【図5】本発明の第5の実施例に係わるガス拡散層前駆材の製造手順を示す工程図である。
【図6】本発明の第5の実施例によるガス拡散層前駆材における水偏在抑制剤の分布状態を示すグラフである。
【図7】本発明の第5の実施例よるガス拡散層前駆材を用いた固体高分子形燃料電池セルの構造を示す断面図である。
【図8】本発明の第6の実施例に係わるガス拡散層前駆材の製造手順を示す工程図である。
【図9】本発明の第6の実施例によるガス拡散層前駆材における水偏在抑制剤の分布状態を示すグラフである。
【図10】従来の製造方法によるガス拡散層前駆材における水偏在抑制剤の分布状態を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基材
2 固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材
3 電解質膜(固体高分子膜)
4 電極触媒層
10 処理槽
11 処理液
20 搬送装置(基材浸漬手段、基材引出手段、液切り手段)
30 吸液装置(吸液手段)
31 吸水紙(吸液性材)
【発明の属する技術分野】
本発明は、フッ素樹脂系高分子のようなプロトンイオン伝導性固体高分子膜を電解質として使用した固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell、あるいはPEMFC:ProtonExchange Membrame Fuel Cell)のガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)として用いられるガス拡散層前駆材の製造技術に係わり、詳しくは部位による通水性のばらつきや電極触媒量のばらつきのないガス拡散層を得ることができる固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法及びその製造装置、さらには基材中における水偏在抑制剤の分布状態を推定することができ、その結果をフィードバックすることにより電極触媒担持量のばらつきを抑えることができる固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法、及びこれらの方法によって製造された前駆材から成るガス拡散層を備えた固体高分子形燃料電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池は、電解質を介して接触させた1組の電極の一方に水素のような燃料ガス、他方の電極に酸素や空気のような酸化剤ガスを供給し燃料の化学エネルギーを電気エネルギーとして直接取り出す装置であって、原理的に電極反応による生成物が水であるため、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムである。
このような燃料電池は、使用する電解質によっていくつかのタイプに分類されるが、これらのうち固体高分子形燃料電池は、100℃以下の低温作動が可能であることから、起動時間や周辺装置の耐熱性の点で有利なことから注目されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池においては、プロトンイオン伝導性固体高分子から成る電解質膜を挟んで1対の電極(酸素極と燃料極)に、水素を含有する燃料ガスと酸素を含有する酸化ガスとをそれぞれ供給することにより、次式で示される反応が生じ、電気エネルギーが取出される。
カソード反応(酸素極): 2H++2e−+(1/2)O2 → H2O
アノード反応(燃料極): H2 → 2H++2e−
この反応を行うためには、酸素極側では、反応により生成する水を速やかに排出して酸素極側に酸化ガスを連続的に供給することが必要である。また、プロトンイオン伝導性固体高分子膜が、高いプロトンイオン伝導性を発現するためには、膜が十分に加湿されていることが必要であり、そのため、酸化ガス、燃料ガスは一般的に加湿されて供給されるようになっており、これら加湿された酸化ガス及び燃料ガスは、それぞれのガス流路側からプロトンイオン伝導性固体高分子膜にまでむらなく拡散させる必要がある。
【0004】
このように、固体高分子形燃料電池の電極においては、加湿されたガスをプロトン伝導性固体高分子膜にむらなく供給することと、生成された水をガス流路側に効率よく速やかに排出させるという異なる特性が要求されることになり、このため、固体高分子形燃料電池用電極には、例えば撥水剤あるいは親水剤といった水偏在抑制剤を塗布したガス拡散層を設けることによりガスの拡散を促進させると共に、拡散層中における水分の移動をコントロールするようにしている。
【0005】
従来、ガス拡散層を形成する基材への水偏在抑制剤の塗布方法としては、例えば特開2001−57215号公報に記載されているように、カーボンペーパーから成る基材に、撥水化処理として撥水剤を含浸し、焼成することにより行っている。
また、特開2002−56851号公報には、ガス拡散層として電気伝導性とガス拡散性を兼ね備えた金属製多孔質基材やカーボン製多孔質基材等を用い、このような基材をフッ素樹脂の水性ディスパージョン、フッ素樹脂のアルコールディスパージョン等から成る撥水処理液中に適宜浸漬した後、浸漬した基材を撥水処理液から取り出し、予め昇温した乾燥器に設置し水分を蒸発させる工程が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特開2001−57215号公報記載の方法では、ガス拡散層基材の各部分に塗布された撥水剤の分布状態を把握することができないことから、塗布量にばらつきがあったとしてもこれに対応することができず、このような場合には、ガス拡散層内における水分の移動にばらつきが生じて、電解質への水分供給や生成水の排出が円滑に進まなくなるばかりでなく、その後の電極触媒塗布工程において触媒量にばらつきが生じてしまい、電極触媒層の厚さのムラが生じ、電池性能がばらついてしまうという問題があった。
また、特開2002−56851号公報記載の方法においても、ガス拡散層基材を撥水処理溶液に適宜浸漬させることにより、撥水処理溶液を基材内に含浸させ、浸漬させた基材を撥水処理溶液から引き上げた後、50℃〜120℃程度に予め昇温した乾燥器内に保持することにより水分を蒸発させ、基材を乾燥させていることから、乾燥後に基材内に含まれる撥水剤に面内分布が発生し、この結果、ガス拡散層面内で撥水剤の量に偏りのあるガス拡散層が製造され、このようなガス拡散層を用いて固体高分子形燃料電池を作製しても、同様に良好な電池特性が得られないという問題点があった。
【0007】
本発明は、固体高分子形燃料電池用電極に使用される従来のガス拡散層における上記課題に着目してなされたものであって、ガス拡散層基材に撥水剤や親水剤等のような水偏在抑制剤を均一に付着させることができ、面内の部位による通水性のばらつきや、電極触媒付着量にばらつきのないガス拡散層を得ることができる固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法とその製造装置、加えて基材内部の水偏在抑制剤の付着量の分布状態を推定することができ、推定結果に応じて電極触媒量のばらつきを防止することができるガス拡散層前駆材の製造方法、さらにはこのようにして得られた前駆材から成るガス拡散層を備えた高性能の固体高分子形燃料電池を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法は、多孔質又は繊維状の導電性基材に水偏在抑制剤を含む処理液を用いた燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法において、焼成の後工程として上記水偏在抑制剤付着量の分布状態を推定する工程、例えば焼成後の基材表面に塗布した水の残存保水量を測定することによって水偏在抑制剤の分布状態を推定する工程を含んでいることを特徴としている。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の第1の製造方法においては、従来の方法と同様に、例えばカーボンのような材料から成る多孔質あるいは繊維状の導電性基材に、含浸、乾燥、焼成によって、例えば親水剤や撥水剤等の水偏在抑制剤を塗布を行う。その後、基材に塗布された水偏在抑制剤の分布状態のばらつきを、例えば次のような方法によって推定するようにしている。
すなわち、焼成後の基材に水を付けたのち、所定条件での吸引処理を行って重量測定を行い、焼成後の重量と比較することにより、基材ガス拡散層に保持された水分量を求めることにより、基材中に付着した水偏在抑制剤の分布状態が推定できることになる。そして、求められた水分保持量が所定量以下であれば、基材の面内に均一に撥水性の水偏在抑制剤が塗布されたと推定し、また逆にある所定量以上であれば、基材面内に均一に親水性の水偏在抑制剤が塗布されたものと推定することができる。
【0010】
一般に、水偏在抑制剤の処理をガス拡散層基材に施した場合、処理液に浸漬し、必要に応じて乾燥した後、焼成し、焼成後に重量測定を行うことにより水偏在抑制剤が所定の目標量だけ付着したかどうかの管理を行うとしても、重量測定では、基材の面内で均一に水偏在抑制剤が付着した場合と、同一の部位に多量に付着し他の部位にはほとんど付着していない場合でも同様な値を示す場合があり、重量測定だけではガス拡散層基材の面内における水偏在抑制剤の分布状態を推定するのは不可能である。
一方、拡散層基材の面内における水偏在抑制剤の担持量分布を把握するために、水偏在抑制剤の処理工程から、サンプルを抜き取り、抜き取った基材を縦横にメッシュ状に切断し、それぞれの重量測定を行うことによって、それぞれのメッシュにおける水偏在抑制剤の担持量を求める方法がある。しかしながら、この方法では、あらかじめそれぞれのメッシュ毎の基材自身の重量データを求めておく必要がある(そのために何も処理していない基材を同様なメッシュ状に切断して、重量測定を行う必要がある。)し、抜き取りサンプルについては製品とならないため、製品歩留りが悪い。さらに、抜き取り検査であるからして、必ずしも個々の基材の塗布ムラを示しているわけでもないので、次工程の電極触媒の塗布条件についてそれぞれ一枚毎にフィードバックをかけることができず、電極触媒の塗布量を安定に行うことができない。
【0011】
本発明のガス拡散層前駆材の第1の製造方法においては、水偏在抑制剤処理を施したガス拡散層基材のそれぞれ一枚毎に処理後の水分保持量の測定を行い、塗布の分布状態の推定を行うようにしているので、それぞれの基材毎に電極触媒処理条件のフィードバックをかけることができ、安定して電極触媒の担持量のコントロールを行うことができる。また、非破壊で測定できるため、基材が無駄にならず、製品歩留りが向上することになる。
【0012】
水の塗布および吸引処理による水偏在抑制剤の塗布状態の推定方法は、ガス拡散層基材に撥水性の水偏在抑制剤が付着していれば、水を塗布した後、吸引処理を行うことによって水が除去されるためその分の水分量だけ減少する。一方、親水性の水偏在抑制剤が付着している場合には、水を塗布した後、吸引処理をしても水は除去されず水分量は減少しない。また、ある一部分に撥水性水偏在抑制剤が集中して付着し、それ以外の部分には付着していないような場合でも、ある程度の量だけ付着していれば、それ以上厚く付着していたとしても水の除去効果に差は認められないものと考えられることから、付着量が多い場合でも、吸引処理による水の減少量が少なくなくなることによって撥水剤の分布状態にムラがあると判断することが可能である。
【0013】
本発明の製造方法における好適形態としては、基材面内における水偏在抑制剤の分布状態をさらに精度よく測定できるように、ガス拡散層基材の面内を分割して、分割面ごとに水の塗布及び吸引処理を行うようにすることが好ましく、これによってより安定したフィードバックを行うことができるようになる。
【0014】
さらに、本発明のガス拡散層前駆材製造方法においては、水偏在抑制剤の分布状態を推定した後、電極触媒の塗布工程を加えることができる。
そして、このとき電極触媒を塗布する面の側から水を塗布し、その後に吸引処理を行うことも可能であって、実際に電極触媒を塗布する面での水偏在抑制剤の状態分布を求めることによって、実際の処理工程での精度向上を実現できることから望ましい。
【0015】
また、本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法においては、水偏在抑制剤処理の後工程において、当該水偏在抑制剤処理を施した基材に電極触媒を塗布するに際して、上記方法によって求めた水偏在抑制剤の付着量分布の推定値に基づいて電極触媒の塗布条件(例えば、電極触媒スラリーの水分量、塗布速度、塗布量など)、乾燥条件(例えば、乾燥温度及び時間など)、焼成条件(例えば焼成温度及び時間など)を制御することができ、これによって、燃料電池用ガス拡散層の触媒担持量が均一なものとなり、これを用いた固体高分子形燃料電池の性能が向上することになる。
【0016】
次に、本発明の上記製造方法の実施手順の形態例について説明する。
当該製造方法に用いる水偏在抑制剤としては、例えばパーフルオロエチレンやポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂からなる撥水性のものや、例えば有機高分子材料(例えばカルボキシルメチルセルロース系、ポリアクリル酸ソーダ架橋物、ポリビニルアルコール系や長鎖アルキル有機イオンなど)やノニオン系、アニオン系界面活性剤等の親水性のものを使用することができ、これらを水性ディスパージョンやアルコールディスパージョンなどの処理液として使用する。
処理液の含浸は、処理液に含まれる水偏在抑制剤の種類や付着させたい量により異なるが、通常、数分程度で行う。なお、水偏在抑制剤の種類は1種類とは限らず、例えば上記のような撥水剤と親水剤とを基材の部位に応じて塗り分けることも必要に応じて可能である。
【0017】
処理液の含浸を行ったのち、処理液から基材を引き上げ、乾燥器にて乾燥を行うが、乾燥方法としては通風して乾燥を行っても良いが、特にそれに限定されるわけではない。乾燥温度としては、室温から100℃程度の温度で行うが、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上である。
【0018】
乾燥後、引き続き焼成処理を行う。これも乾燥と同様に通風条件にて行ってよいが、特にそれに限定されるわけではない。焼成温度としては150℃以上の温度で行うが、好ましくは180℃から350℃の温度である。焼成後、重量測定を行い(Wh)、予め測定しておいた処理前の基材重量(Wo)との差を求め、水偏在抑制剤の担持量を算出する。
【0019】
重量測定の後、焼成後の基材に対して水の塗布を行う。水の塗布方法としては、基材の上面から水分を霧状に散布させて基材表面の全体に均一に散布する。水の散布時間については、基材の種類、大きさにより異なるが、通常、数分間程度である。時間が短いと、処理工程の時間は短くなるが、基材に均一に水が散布されない可能性があるため、少なくとも1分間程度の散布時間が好ましい。
水を散布後、基材の下面より、散布した水分をポンプによって吸引する。ポンプで吸引後、再度、重量測定を行い(Ww)、水偏在抑制剤処理後の重量(Wh)との差を求め、基材に保持されている水分量(Wf=Ww−Wh)を算出する。
【0020】
吸引処理により、基材面内に水偏在抑制剤として、例えば撥水剤が塗布されている部分では、散布した水が除去されるため、その分だけ基材に保持されている水分量が減少する。均一に撥水剤が塗布されている場合には、塗布した水分が吸引処理によってほとんど除去されるため、基材に保持されている水分量(保水量)Wfは、ある所定量Wcより少なくなる。仮に、この所定量より基材に保持されている水分量がこの所定量Wcより多い場合には、水偏在抑制剤(撥水剤)の分布にムラがあり、均一に処理されていないものと判断される。
【0021】
上記所定量Wcについては、数段階に区分され、撥水剤の分布状態のムラがひどく、次工程である電極触媒塗布工程の制御によってもリカバリー不可能な場合(Wcw以上)と、撥水剤の分布状態にムラがあるものの、電極触媒塗布工程の制御によってリカバリー可能な場合(Wcr以上)と、撥水剤の分布状態のムラがほとんどなく、問題がないと考えられる場合(Wco以下)とに分けられる。保水量WfがWcw以上の場合は、使用不可能なため次工程へは進まない。保水量WfがWcw未満Wcr以上の場合は、次工程での電極触媒塗布時の塗布スピード、塗布量、電極触媒スラリーの水分量、乾燥時の乾燥時間、乾燥温度、焼成時の焼成時間、焼成温度をWfの値に応じて変えて制御する。
具体的には、保水量Wfの値が大きい場合は、撥水剤の分布状態のムラが大きい傾向にあるため、塗布スピードを速い方向に、塗布量を少ない方向に、電極触媒のインクの水分量を多い方向に、乾燥時の乾燥時間を長い方向、乾燥温度を高い方向、焼成時の焼成時間を長い方向、焼成温度を高い方向に制御を行う。
【0022】
なお、水偏在抑制剤として、界面活性剤などの親水剤が用いられ、これが均一に塗布されている場合には、塗布した水分が吸引処理によっても保持されているため、基材に保持されている水分量(保水量)Wfがある所定量より多くなることから、所定量より多いかどうかによって親水剤が均一に塗布されているかどうかが推定できる。
【0023】
本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の第2の製造方法においては、多孔質又は繊維状の導電性基材を親水剤や撥水剤等の水偏在抑制剤を含む処理液に浸漬させた後、処理液から引き出し、当該処理液が含浸された基材の表面に上記処理を吸収する吸液性材を接触させるようにしていることから、親水剤や撥水剤等、水偏在抑制剤付着量のばらつきの原因となる余剰の処理液が基材表面から除去できることから、基材面内における水偏在抑制剤の付着量が均一なものとなり、部位による通水性のばらつきや、電極触媒の付着量にばらつきのないガス拡散層前駆材が得られ、これによって通水性や電極触媒の付着量にばらつきのない燃料電池用ガス拡散層が得られることになる。
【0024】
また、本発明のガス拡散層前駆材の第2の製造方法における好適形態として、基材を処理液から引き出した後、吸液性材に接触させる前に、処理液を液切りすることや、基材の片面のみならず両面を吸液性材に接触させること、さらには基材を吸液性材に接触させるに際して圧力を加えることが望ましく、これによって基材表面に付着した、あるいは基材内に含浸された余剰の処理液をより均一、かつ確実に除去できることから、基材面内における水偏在抑制剤の付着量がさらに均一なものとなる。
【0025】
本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造装置によれば、水偏在抑制剤を含む処理液を収納した処理槽、処理槽内の処理液中に多孔質又は繊維状導電性基材を浸漬する基材浸漬手段、処理液から導電性基材を引き出す基材引出手段と、導電性基材の表面に吸液性材を接触させて処理液を吸収する吸液手段を備えていることから、本発明の燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法を実施するのに好適なものとなる。
【0026】
また、本発明のガス拡散層前駆材製造装置の好適形態としては、上記装置にさらに、処理液から基材を引き出した後、基材に含浸された処理液を液切りする液切り手段を設けたり、上記吸液手段が導電性基材の両表面に吸液性材を接触させて処理液を吸収するようにしたり、吸液手段に導電性基材の表面に吸液性材を接触させながら圧力を印加する手段や、吸液性材を一定の乾燥状態で連続して供給する吸液性材供給手段を設けたり、当該吸液性材供給手段にエンドレスベルト状の吸液性材を回転させる手段を設けたりすることができ、このような装置を用いることによって、水偏在抑制剤付着量のばらつきが少ないより高品質の燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造がより容易に行われることになる。
【0027】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されることはない。また、当該実施例において、「%」は特記しない限り質量百分率を表わすものとする。
【0028】
(実施例1)
図1は、本発明の第1の実施例に係わるガス拡散層前駆材の製造方法手順を示すものである。
まず、製造を開始するに先立って、多孔質の導電性基材として60×60×0.3mmのカーボンペーパーを3枚(試料1〜3)準備し、その重量Woをあらかじめ測定しておく。
【0029】
次に、この実施例においては、水偏在抑制剤として撥水剤であるポリテトロフルオロエチレンの15%水溶液を調製して処理液とし、これを含浸槽に入れ、図1(a)に示すように、当該処理液中に上記各基材を3分間浸漬することにより、各基材に処理液を含浸する。
【0030】
撥水剤処理液の含浸を行ったのち、含浸槽から基材を引き上げ、図1(b)に示すように、80℃に保持した乾燥器内に移して乾燥する。
【0031】
乾燥後、図1(c)に示すように、350℃に昇温して、引き続き焼成処理を行う。このとき、あらかじめ350℃に保持しておいた別の焼成装置に移動させるようにしても良い。
焼成後、図1(d)に示すように、各基材の重量Whを測定し、撥水剤(水偏在抑制剤)の付着量をそれぞれ算出する(Wh−Wo)。所定の目標とする撥水剤量が塗布されていない場合は、再度、撥水剤の含浸を行ったのち乾燥、焼成を行う。
【0032】
そして、処理液の含浸、乾燥及び焼成を終えたそれぞれの基材に対して、図1(e)に示すように、上面から水を霧状に1.5分間散布し、当該基材全体に水を均一に塗布する。
【0033】
水を散布した後、図1(f)に示すように、基材の下面より、付着させた水分をポンプによって予め定められた所定の圧力で吸引する。吸引処理後、図1(g)に示すように再度、重量測定を行いそれぞれの基材に保持されている水分量、すなわち保水量Wf(=Ww−Wh)を算出し、算出結果に基づいて、各基材における撥水剤(水偏在抑制剤)付着量の分布状態が推定する。
【0034】
こののち、電極触媒の担持工程に移行し、触媒としての白金を担持させた炭素粉末と、固体高分子電解質のアルコール溶液と、水から成る電極触媒ペーストをそれぞれの条件の下に上記基材に塗布し、乾燥及び焼成することによって、ガス拡散層前駆材を得た。
このとき、各基材における撥水剤付着量の分布状態の推定結果に基づいて電極触媒ペーストの塗布条件、乾燥条件、焼成条件を調整した。すなわち、基材の保水量Wfの値が所定値より大きい場合は、撥水剤の分布状態にばらつきが大きいことになるので、その程度に応じて電極触媒ペーストの塗布スピードを速い側に、塗布量を減らす側に、電極触媒ペーストの水分量を増す側に、乾燥時間を長くする側に、乾燥温度を高い側に、焼成時間を長くする側に、あるいは焼成温度を高い側に制御するようにした。そして、各基材の触媒担持量を調査し、各試料間の触媒担持量のばらつきを求め、その結果を表1に示した。
【0035】
(比較例1)
同様の導電性基材3枚(試料1〜3)に、上記実施例1と同様の方法によって、上記撥水剤(水偏在抑制剤)を付着させた後、撥水剤の付着量分布状態の推定を行うことなく、各基材に対して、上記電極触媒ペーストを用いて塗布を行う。基材をフィルムコータの上に固定し、50×50mmの大きさの切り抜きのある0.25mm厚さのステンレス板を置き、その切り抜き部に上記電極触媒ペースとを所定量おき、均一になるようにローラを用いて薄く延ばして、塗布を行う。そののち、各基材の触媒担持量を調査し、各試料間の担持量のばらつきを求め、その結果を表1に併せて示した。
【0036】
(実施例2)
ポリテトロフルオロエチレンに代えて親水剤である橋かけポリアクリル酸塩系であるワンダーゲル(商品名)を水偏在抑制剤として使用し、この10%水溶液を処理液としたことを除いて、上記実施例1と同様の基材3枚(試料1〜3)に同様の工程によって上記親水剤をそれぞれ付着させた。
【0037】
次いで、同様に各基材の保水量Wfを測定することによって、上記親水剤(水偏在抑制剤)付着量の分布状態のばらつき具合を推定し、保水量Wfが所定の値よりも少ない場合には、その程度に応じて電極触媒ペーストの塗布条件、乾燥条件、焼成条件を調整しながら、各基材に塗布し、乾燥及び焼成することによって、ガス拡散層前駆材を得た。そして、各基材の触媒担持量をそれぞれ調査し、各試料間の触媒担持量のばらつきを求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0038】
(比較例2)
同様の導電性基材3枚(試料1〜3)に、上記実施例2と同様の方法によって、上記親水剤(水偏在抑制剤)を付着させた後、親水剤の付着量分布状態の推定を行うことなく、各基材に対して、上記電極触媒ペーストを比較例1と同様にして塗布したのち、各基材の触媒担持量を調査し、各試料間の担持量のばらつきを求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0039】
(実施例3)
図2は、本発明の第3の実施例におけるガス拡散層前駆材の製造手順を示すものであって、当該実施例においては、焼成後の基材に水を塗布するに際して、図2(e)に示すように、分割プレートによって各基材(試料1〜3)の面を9個のメッシュに分割した状態で水を散布し、各メッシュごとに親水剤の分布状態を測定するようにしており、これ以外については、上記実施例1と同様の操作を繰り返すことによってガス拡散層前駆材を得た。そして、各基材の触媒担持量をそれぞれ調査し、各試料間の触媒担持量のばらつきを求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0040】
(実施例4)
図3は、本発明の第4の実施例におけるガス拡散層前駆材の製造手順を示すものであって、当該実施例においては、焼成後の基材に水を塗布するに際して、図3(e)に示すように、次工程において電極触媒を塗布する側の面に水を散布し、図3(f)に示す吸引処理に移行する前に基材を反転することによって、電極触媒の塗布面の側から吸引するようにしたこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返すことによってガス拡散層前駆材を得た。そして、各基材の触媒担持量をそれぞれ調査し、各試料間の触媒担持量のばらつきを求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1の結果から明らかなように、各実施例においては、水偏在抑制剤の付着量の分布状態を求め、その結果に応じて電極触媒スラリーの塗布、乾燥、焼成の各条件を調整するようにしていることから、触媒層担持量のばらつきが少なくなっていることが確認された。なお、実施例4の結果については、吸引処理を水の塗布面から行うことにより、残留する水分量が多くなることでばらつきが他の実施例に比べて大きくなっているものと考えられる。
【0043】
次に、水偏在抑制剤の付着量のばらつき自体を軽減することができるガス拡散層前駆材の製造方法について、その実施例を示す。
(実施例5)
図4は、当該実施例に用いるガス拡散層前駆材の製造装置を示す概略図であって、図に示す製造装置は、処理槽10と、搬送装置20と、吸液装置30から主に構成されている。
【0044】
処理槽10は、例えば親水剤や撥水剤等の水偏在抑制剤を含む処理液11が収納されており、多孔質又は繊維状の導電体から成る基材1の全体が水平状態で十分に浸漬できる大きさと容量を備えている。また、処理液11中の水偏在抑制剤の沈降を防止したり、処理量の増加に伴う処理液の減少や濃度変化を防止したりすりために、当該処理層0に攪拌機能、溶液濃度測定機能、処理溶液供給調整機能などを付加することができる。
【0045】
搬送装置20は、基材1を処理槽10内の処理液11中に浸漬する基材浸漬手段と、処理液11から引き出す基材引出手段と、引き出した後に基材に含まれる処理液を液切りする液切り手段の機能を兼ね備えたものであって、基材1を水平に保持した状態で処理液11中に浸漬し、所定時間経過したのち引き上げ、吸液装置30にまで搬送する機能を有しており、当該基材1を処理液11外で所定時間保持し液切りする機能も備えている。また、処理液11外で、液切りを行うに際して、基材1の全体を水平に保ったまま上下に振動させることによって液切りを促進する機能を付加してもよい。
【0046】
吸液装置30は、基材1に含まれた余分の処理液11を吸収して除去する機能を有し、処理液11を吸収する吸液材である吸水紙31が一定の乾燥状態で、水平に保持されており、処理液11を含んだ基材1をその上に載置することによって、基材表面が均一に接触するように配置されている。この実施例では、長尺の吸水紙31の両端を連結してエンドレスベルト状となし、これをローラー32によって回転させると共に、エンドレスベルト状の吸水紙31の基材1に接触している側の反対側から乾燥ガスや熱風を当てることによって、常時一定の乾燥状態の吸水紙31を連続的に供給するようにしている。
このとき、吸水紙を搬送コンベア上に設置し、同様に乾燥させながらコンベア状に連続して供給するようにしてもよい。
【0047】
また、吸液装置30の吸水紙31に載置した基材1の他方の表面についても、吸水紙31が接するように、同様の吸液装置30を上下に2段配置して、基材1を表裏両面から接触するようにすることや、このときに所定の圧力を印加する手段を付加してもよい。さらには、基材1を連続して作製するために必要な吸水時間だけ吸水紙31上に基材10を載置されているように搬送させる機能を持たせてもよい。そして、次工程である乾燥工程及び焼成工程に吸液後の基材1を連続的に搬送するためのローラーコンベア35を設けることも可能である。
【0048】
図5は、上記製造装置を用いて燃料電池用のガス拡散層前駆材を製造する手順を示す工程図である。
はじめに、ガス拡散性と電気伝導性を兼ね備えたガス拡散層基材として導電性材料の多孔質基材である市販のカーボンペーパーまたはカーボンクロスを所定の大きさ(60×60×0.3mm)に打ち抜いた基材10を準備した。
【0049】
続いてこの基材1に撥水処理を施すべく水偏在抑制剤として、例えばダイキン工業製D−1を所定の濃度(PTFE60%溶液2と純水を6.5の重量比となるように)に調製したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水性ディスパージョン溶液11を用意し、処理槽10に収納した。
【0050】
次に、上記基材1を処理槽10中の処理液11中に入れ、基材1の全体が処理液11中に完全に没するように浸漬し、5分間保持することにより、当該基材1中に撥水処理液11を含浸させた。
【0051】
5分経過後、処理液11中に浸漬させた基材1を処理槽10から水平に引き上げ、基材1の表面及び内部に含まれる余分な処理液11を除去した。このとき、基材1の面内で撥水剤量の分布ムラが発生しないように、基材1を水平に引き上げ、処理液11が十分に液切れするまでそのまま処理槽10の上方位置に保持した。このとき、基材1を水平に保持したまま、上下に振動させることによって液切りを促進するようにしてもよい。
【0052】
続いて、十分に液切りされた基材1を吸液装置30に搬送し、当該吸液装置30の吸水紙31に載置し、基材1に含まれる撥水処理液11を吸水紙31に吸水させた。このとき、基材1と吸水紙31が互いに全面で接するようにし、基材面内の処理液11が面内で均一に吸収されるようにした。また、吸水紙31上で吸水させる時間は任意で良いがスループット上10分以下が好ましい。さらには、処理溶液吸収工程の安定性を考慮すると、1分〜5分程度である方が望ましい。
【0053】
このように、撥水処理液11中に浸漬した基材1を処理槽10から引き上げ、処理液11を液切りした後、基材1を吸水紙31上に載置して、基材面の全面から均一に処理液11を吸液することにより、基材1に最終的に焼成を施した後における撥水剤の面内分布が均一で良好なガス拡散層前駆材を製造することが可能となる。これは、焼成後の基材面内に含まれる撥水剤の量は、含浸後の製造工程である乾燥工程、焼成工程による影響に比べ、撥水処理液11中に浸漬し、引き上げた後に基材1中に含まれる撥水剤の量及び分布により多くの影響を受けることによる。言い換えれば、乾燥及び焼成工程に送る前の基材面内に付着している撥水剤の量及び分布によってガス拡散層前駆材完成時の撥水剤の量及び分布が決まることになる。
【0054】
また、この撥水処理液11から基材1を引き上げた後におけるの吸水紙31による基材1中に含まれる撥水処理液11の吸収は、導電性繊維で形成されているカーボンペーパー、カーボンクロスの各繊維間、各繊維の接触部・交差部に過剰に付着している撥水処理液11を基材面内で均一に吸水し、乾燥前の処理液11の分布状態を均一にすることができる。この繊維間や、繊維の接触部・交差部に過剰に付着している撥水処理液11の除去は、基材1の乾燥及び焼成後に、繊維間や、繊維の接触部及び交差部に付着する撥水剤の量を減少させることができる。さらに、撥水剤は導電性を有していないこと、当該ガス拡散層前駆材を形成している導電性繊維(基材1)は電流経路となることからこの繊維間、繊維の接触部、交差部に過剰に残る撥水剤の抑制は、当該前駆材から成るガス拡散層の電気抵抗を低減することもできる。
【0055】
続いて、この撥水処理液11を含浸させた基材1を大気中または、窒素雰囲気中で乾燥させた。乾燥温度は、100℃以下であればよいが、この実施例においては60℃の大気中で乾燥させた。その後、基材1に撥水剤を溶着させるために350℃程度で焼成することによって、撥水処理されたガス拡散層前駆材を作製した。
図6に、この方法で作製したガス拡散層前駆材の撥水剤の面内分布を示す。処理溶液に浸漬したのち、そのまま乾燥するようにした従来の方法で作製したガス拡散層前駆材における撥水剤分布を示した図10に比べ約1/2の面内均一性を示すことが確認された。
【0056】
次に、上記によって基材1に水偏在抑制剤としての撥水剤を付着させることによって得られたガス拡散層前駆材を用いて、図7に示すような固体高分子形燃料電池セルを作製した。
先ず、白金等の貴金属触媒を担持させた炭素粉末、ナフィオン等の固体高分子電解質のアルコール溶液、純水を所定の割合で混合、脱泡し、電極触媒ペーストを調製した。
【0057】
この電極触媒ペーストをナフィオン膜等の固体高分子電解質膜3の両面に、上記ガス拡散層前駆材2の厚さ以下で、所定の電極面積となるようにスクリーン印刷法により塗布した。
このとき、塗布した電極触媒層4が固体高分子電解質膜3を挟んでずれることなく同位置に配置されるように塗布した。固体高分子電解質膜3表面への電極触媒層4の形成はここでは、スクリーン印刷法を使用したがそれに限定されることなく、スプレー法、転写法等任意の方法で実施することができる。また、電極触媒層4の形成についても、ここでは固体高分子電解質膜3の上に形成したが、先に準備したガス拡散層前駆体2の表面に形成してもよい。このときは、2枚のガス拡散層前駆体2の一方の面上に電極触媒層4を形成する。
【0058】
そして、両表面に電極触媒層4を形成した固体高分子電解質膜3と、先に準備した撥水処理済みの基材1、すなわちガス拡散層前駆材2枚をそれぞれが固体高分子電解質膜3上の電極触媒層4と重なるように配置し、あるいは固体高分子電解質膜3と、別途準備した電極触媒層4が形成されたガス拡散層前駆材2枚のそれぞれの電極触媒層4が固体高分子電解質膜3の異なる面の表面と接するように配置する。続いて、ホットプレス法により140℃、圧力20kgf/cm2の条件で60秒間プレスし、固体高分子電解質膜3、電極触媒層4、ガス拡散層前駆材2を接合して一体化し、膜電極接合体5(MEA:Membrane Electrode Assembly)を形成した。
【0059】
その後、このMEAの両面にガス流路7aを備えたガスセパレータ7、及びシール材8を配置し、所定の面圧になるように締め付けることによって固体高分子形燃料電池の単セルとした。
このようにして固体高分子形燃料電池セルを作製することによって、ガス拡散層面内で撥水剤の分布に偏りがなく、ガス拡散層の抵抗及び燃料電池内部抵抗が低減することにより発電特性の優れた固体高分子形燃料電池を構成することが可能となる。
【0060】
(実施例6)
図8は、この実施例において、燃料電池用ガス拡散層前駆材を製造する手順を示す工程図である。
上記実施例5と同様に、所定の大きさに打ち抜いた基材1を準備し、同様の撥水処理液11で満たされた処理槽10の中に、同様に浸漬して基材1中に撥水処理液11を含浸させた。
【0061】
続いて実施例5と同様に、引き上げ、十分に液切りした後、基材1を吸液装置30に搬送し、吸液装置30の吸水紙31に載置し、さらにその上方から吸液装置30の吸水紙31を接触させると共に、当該基材1の全面に均一に圧力を印加した。印加した圧力は、撥水処理を行う基材1の素材、必要な撥水剤量により調整する必要があるが、この実施例においては、3g/cm2、1分間印加することによって、基材1中に含まれる余分な処理液11を吸水紙31に吸収させた。これによって、実施例5に記載の方法よりもさらに撥水剤の面内分布が良好なガス拡散層前駆材2を製造することが可能となると共に、基材1からの撥水処理液11の吸水量が増加し、より短時間で吸水処理が可能となる。
なお、必要な撥水剤量は、撥水処理液11の濃度や、吸水時間を調整することにより制御することも可能であるが、撥水処理工程の作業性、スループットを考慮すると印加する圧力を制御することによって、基材1に含まれる最終的な撥水剤量を制御するほうが好ましい。
【0062】
以下、上記実施例5と同様に、基材1を大気中または、窒素雰囲気中で乾燥し、焼成工程を経て撥水処理されたガス拡散層前駆材2を作製した。
図9は、この方法で作製したガス拡散層前駆材2の撥水剤の面内分布を示すものであって、当該製造方法、すなわち基材1の両面から吸水紙31を所定圧力で教示するように為すことによって、実施例5の方法で得られたものに比べて、さらに約2/3の面内均一性を示すことが確認された。
【0063】
このようにして得られたガス拡散層前駆材2は、上記同様の要領によってMEA5が形成され、さらにガスセパレータ7及びシール材を配置することによって、図7に示すような固体高分子形燃料電池セルが得られる。
【0064】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明による固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の第1の製造方法においては、水偏在抑制剤を含む処理液の含浸、必要に応じて乾燥、さらに焼成することによってガス透過性を有する導電性基材に水偏在抑制剤を付着させた後、例えば散布した水の残存保水量を測定することによって、水偏在抑制剤付着量の分布状態を推定するようにしていることから、その結果に基づいて電極触媒の塗布を中止したり、その担持条件を調整したりすることによって、触媒担持量のばらつきの少ないガス拡散層前駆材を得ることができる。
また、第2の製造方法によれば、処理液を含浸させた後の基材表面に、吸液性材を接触させるようにしていることから、基材に過剰に付着している余分な処理液を基材表面から除去することができ、水偏在抑制剤付着量の分布状態を均一なものとすることができ、このような前駆材によってガス拡散層を構成することによって高性能の固体高分子形燃料電池セルを得ることができる。
【0065】
そして、本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造装置は、処理液の入った処理槽と、この処理液中に基材を浸漬する手段と、処理液から引き出す手段と、上記基材の表面に吸液性材を接触させて処理液を吸収する手段を備えたものであるから、上記の製造方法を円滑に実施することができ、水偏在抑制剤がムラなく均一に分布した状態の燃料電池用ガス拡散層前駆材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例に係わるガス拡散層前駆材の製造手順を示す工程図である。
【図2】本発明の第3の実施例に係わるガス拡散層前駆材の製造手順を示す工程図である。
【図3】本発明の第4の実施例に係わるガス拡散層前駆材の製造手順を示す工程図である。
【図4】本発明の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造装置の構造を示す概略図である。
【図5】本発明の第5の実施例に係わるガス拡散層前駆材の製造手順を示す工程図である。
【図6】本発明の第5の実施例によるガス拡散層前駆材における水偏在抑制剤の分布状態を示すグラフである。
【図7】本発明の第5の実施例よるガス拡散層前駆材を用いた固体高分子形燃料電池セルの構造を示す断面図である。
【図8】本発明の第6の実施例に係わるガス拡散層前駆材の製造手順を示す工程図である。
【図9】本発明の第6の実施例によるガス拡散層前駆材における水偏在抑制剤の分布状態を示すグラフである。
【図10】従来の製造方法によるガス拡散層前駆材における水偏在抑制剤の分布状態を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基材
2 固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材
3 電解質膜(固体高分子膜)
4 電極触媒層
10 処理槽
11 処理液
20 搬送装置(基材浸漬手段、基材引出手段、液切り手段)
30 吸液装置(吸液手段)
31 吸水紙(吸液性材)
Claims (18)
- 多孔質又は繊維状導電性基材に水偏在抑制剤を含む処理液を含浸させた後、焼成して形成する燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法であって、焼成の後工程として、上記水偏在抑制剤の分布状態を推定する工程を含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法。
- 水偏在抑制剤の分布状態を推定する工程において、上記導電性基材の表面に水を塗布した後、付着した水を所定圧力で吸引し、当該導電性基材における吸引後の保水量を測定して水偏在抑制剤の分布状態を推定することを特徴とする請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法。
- 導電性基材の保水量の測定を当該基材面の複数部分に分割して行い、上記水偏在抑制剤の分布状態を推定することを特徴とする請求項2に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法。
- 上記水偏在抑制剤の分布状態推定工程の後工程として、電極触媒の塗布工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法。
- 上記導電性基材の電極触媒を塗布する面に水を塗布して、吸引後の保水量を測定することを特徴とする請求項4に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法。
- 水偏在抑制剤の分布状態の推定値に基づいて電極触媒の塗布条件、乾燥条件及び焼成条件を制御することを特徴とする請求項4又は5に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法。
- 電極触媒スラリーの水分量、塗布スピード及び塗布量、乾燥温度及び時間、並びに焼成温度及び時間を制御することを特徴とする請求項6に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法。
- 多孔質又は繊維状導電性基材に水偏在抑制剤を含む処理液を含浸させた後、焼成する燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法において、上記導電性基材を水偏在抑制剤を含む処理液に浸漬後、当該処理液から引き出し、導電性基材の少なくとも一方の表面に上記処理液を吸収する吸液性材を接触させる工程を含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法。
- 水偏在抑制剤を含む処理液から引き出した後、導電性基材表面に吸液性材を接触させる工程に先立って、処理液の液切りを行うことを特徴とする請求項8に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法。
- 導電性基材の両表面に吸液性材を接触させることを特徴とする請求項8又は9に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法。
- 導電性基材の表面に吸液性材を接触させるに際して、圧力を印加することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造方法。
- 水偏在抑制剤を含む処理液を収納した処理槽と、処理槽内の処理液中に多孔質又は繊維状導電性基材を浸漬する基材浸漬手段と、処理液から上記導電性基材を引き出す基材引出手段と、導電性基材の少なくとも一方の表面に吸液性材を接触させて処理液を吸収する吸液手段を備えていることを特徴とする固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造装置。
- 処理液から上記導電性基材を引き出した後、当該基材に含浸された処理液を液切りする液切り手段をさらに備えていることを特徴とする請求項12に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造装置。
- 吸液手段が導電性基材の両表面に吸液性材を接触させて処理液を吸収することを特徴とする請求項12又は13に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造装置。
- 吸液手段が導電性基材の表面に吸液性材を接触させながら圧力を印加する手段を有していることを特徴とする請求項12〜14のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造装置。
- 吸液手段が吸液性材を一定の乾燥状態で連続して供給する吸液性材供給手段を有していることを特徴とする請求項12〜15のいずれか1つの項に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造装置。
- 吸液性材供給手段がエンドレスベルト状の吸液性材を回転させる手段を有していることを特徴とする請求項16に記載の固体高分子形燃料電池用ガス拡散層前駆材の製造装置。
- プロトンイオン伝導性を備えた固体高分子膜を挟持するアノード極及びカソード極の少なくとも1方のガス拡散層として請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法で製造したガス拡散層前駆材が用いてあることを特徴とする固体高分子形燃料電池セル。
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