本発明の各実施形態は、活性層と、活性層の上に第1のクラッド層と第2のクラッド層とが順次形成された半導体レーザ装置に関し、第1のクラッド層の抵抗率を大きくすることにより、第1のクラッド層での電流の拡散を抑制する。まず、各実施形態に共通する概念について図面を参照しながら説明する。
本明細書において、AlGaInPとは、III 族元素にアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)及びインジウム(In)のうちの少なくとも1つを含み、且つV族元素にリン(P)を含む化合物のことである。また、AlGaInPにおいてAlを含まない場合を特にGaInPと表し、Gaを含まない場合を特にAlInPと表す。また、AlGaAsとは、III 族元素にAl及びGaのうちの少なくとも1つを含み、且つV族元素にヒ素(As)を含む化合物のことである。
図1は、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて、p型ドーパントを添加しながら形成したAlGaInPからなる半導体層(AlGaInP層)について、添加されるp型ドーパントの濃度と、形成されるAlGaInP層の抵抗率との関係を測定した実験結果を示すグラフである。図1において、p型ドーパントに亜鉛(Zn)を用いた場合のデータを四角(□)で表し、マグネシウム(Mg)を用いた場合のデータを丸(○)で表している。
ここで、図1に示す実験結果は、III 族化合物の原料ガスとして、トリエチルガリウム(TEG)、トリメチルアルミニウム(TMA)及びトリメチルインジウム(TMI)を用い、V族化合物の原料ガスとしてホスフィン(PH3 )及びアルシン(AsH3 )を用い、p型不純物の原料ガスとして、ジメチル亜鉛(Zn(CH3)2)又はビスシクロペンタジエニルマグネシウム((C5H5)2 Mg)ている。また成長条件として、原料ガスの圧力を約1.0×104 Pa(約76Torr)とし、基板温度を約750℃としている。
図1に示すように、AlGaInP層において、Zn及びMgのうちのいずれのp型ドーパントを用いた場合であっても、ドーピング濃度が高くなるのに伴って抵抗率は低下する。一般に、半導体の抵抗率は移動度とキャリア濃度との積に反比例する。ここで、移動度は半導体材料の組成によってほぼ決定される値であり、また、キャリア濃度はドーピング濃度の増加に伴い上昇する。半導体層内をキャリアが走行する際に、不純物によるキャリアの散乱が生じるため、AlGaInP層のキャリア濃度が大きくなると抵抗率が低下する。
図1から明らかなように、亜鉛(Zn)を添加した場合とマグネシウム(Mg)を添加した場合とを同じ濃度について比較すると、Znを添加した場合の方が抵抗率が小さくなることが分かる。これは、AlGaInP層の内部をキャリアが走行する際に、Znが添加されている場合と比べて、Mgが添加されている場合の方がAlGaInP層の移動度が低下することによる。
ところで、III-V族化合物半導体を半導体レーザ装置に用いる場合、半導体レーザ装置を構成する各半導体層の化合物組成及びドーピング濃度は、半導体レーザ装置が所望の電気的特性を実現できるように所定の値に設定される。従って、化合物組成及びドーピング濃度を変更すると半導体レーザ装置の電気的特性が劣化してしまうため、化合物組成及びドーピング濃度を変更して抵抗率が所望の値となるように調整することは困難である。
しかし、図1を用いて説明したように、ドーパント種を選択することによってAlGaInP層の抵抗率の値を調節することが可能であることが明らかである。以下の各実施形態の半導体レーザ装置では、移動度がほぼ同一の化合物半導体からなる第1のp型クラッド層及び第2のp型クラッド層のそれぞれに用いるドーパント種を選択することにより、化合物組成及びドーピング濃度を変更しなくても抵抗率を調節できるようにしている。
なお、図1に示す実験結果では、Znを添加する場合の方がMgを添加する場合よりもAlGaInP層の抵抗率が小さくなるが、成長条件によっては、Mgを添加する場合の方がZnを添加する場合よりもAlGaInP層の抵抗率が小さくなることもある。
また、図1では、AlGaInPからなる半導体層のドーパントについて説明したが、AlGaAsからなる半導体層については、炭素(C)と亜鉛(Zn)とを比較すると、炭素を添加した場合の方が抵抗率が大きくなる。
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図2は本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の構成断面を示している。図2において、矢印は半導体レーザ装置の駆動時における電流の移動経路を示している。
図2に示すように、厚さが約100μmのヒ化ガリウム(GaAs)からなるn型基板11の上には、膜厚が約2μmのn型 Al0.35Ga0.15In0.5Pからなるn型クラッド層12、アンドープのAlGaInPからなる多重量子井戸構造を有する活性層13、膜厚が約0.2μmのp型Al0.35Ga0.15In0.5P からなる第1のp型クラッド層14及び膜厚が約10nmのp型 Ga0.5In0.5P からなるエッチングストップ層15が順次結晶成長されている。また、エッチングストップ層15の上には、膜厚が約1μmのp型 Al0.35Ga0.15In0.5Pからなり、リッジ状に形成された第2のp型クラッド層16と膜厚が約50nmのp型Ga0.5In0.5Pからなる第1のコンタクト層17が形成されている。
エッチングストップ層15の上側における第2のp型クラッド層16及び第1のコンタクト層17の側方部分には、第2のp型クラッド層16及び第1のコンタクト層17の壁面に沿って、膜厚が約0.3μmのn型Al0.5In0.5Pからなる第1の電流ブロック層18及び膜厚が約0.3μmのn型GaAsからなる第2の電流ブロック層19が順次積層されている。さらに、第1のコンタクト層17及び第2の電流ブロック層19の上には膜厚が約3μmのp型GaAsからなる第2のコンタクト層20が形成されている。
また、n型基板11の下側には、例えばAu、Ge及びNiを含む合金からなり、n型基板11とオーミック接触する金属材料からなるn側電極21が形成されており、第2のコンタクト層20の上側には、Cr、Pt及びAuを含む合金からなり、第2のコンタクト層20とオーミック接触する金属材料からなるp側電極22が形成されている。
ここで、活性層13は、Ga0.5In0.5Pからなる膜厚が約6nmの井戸層及びAl0.25Ga0.25In0.5P からなる膜厚が約5nmの障壁層が交互に積層された多重量子井戸層13aと、該多重量子井戸層13aを上下に挟む膜厚が約30nmのAl0.25Ga0.25In0.5P からなる光ガイド層13bとによって構成されている。
n型クラッド層12、第1のp型クラッド層14及び第2のp型クラッド層16は、活性層13を構成する半導体層と比べてバンドギャップが大きい半導体材料により構成されており、活性層13にキャリアが閉じ込められる。AlGaInP系の半導体材料では、Alの組成を相対的に大きくすることによりバンドギャップを大きくすることができる。なお、第1のp型クラッド層及び第2のp型クラッド層には組成が同一の化合物半導体を用いているが、活性層13を構成する半導体層と比べてバンドギャップが大きくなるようにそれぞれのAlとGaとの組成比を調整してもよい。
第1の実施形態の半導体レーザ装置は、第2のp型クラッド層16がリッジ状に形成されることにより、n型クラッド層12、活性層13、第1のp型クラッド層14及びエッチングストップ層15における第2のp型クラッド層16の下側部分と第2のp型クラッド層16とが導波路となるいわゆるリッジストライプ型導波路構造である。また、第1の電流ブロック層18にAlInPを用いることにより、実屈折率型の導波路としている。
エッチングストップ層15は、第2のp型クラッド層16をリッジ状に形成する際に第1のp型クラッド層14がエッチングされないように、第2のp型クラッド層16とのエッチング選択比が大きくなるようにAlの組成が小さい半導体材料により構成されている。
また、第2のコンタクト層20は金属材料とのオーミック接触が容易となるようにGaAsが用いられ、第1のコンタクト層17は第2のp型クラッド層16と第2のコンタクト層20とバンド不連続を緩和する。
前述のように構成された半導体レーザ装置の各層における具体的なドーパント種及びドーパント濃度を表1に示す。
表1に示すように、第1の実施形態の半導体レーザ装置において、p型ドーパントとして、第1のp型クラッド層14及びエッチングストップ層15にはマグネシウム(Mg)が添加され、第2のp型クラッド層16、第1のコンタクト層17及び第2のコンタクト層20には亜鉛(Zn)が添加されている。また、第1のp型クラッド層14のドーピング濃度は約5×1017cm-3であり、第2のp型クラッド層16のドーピング濃度は約1×1018cm-3である。また、n型のドーパントには濃度が約1×1018のシリコン(Si)を用いている。
また、第2のコンタクト層20のドーパントにZnを用いている。これは、AlGaAs系の半導体のドーパントとしてMgを用いると、Mg原料の供給を開始しても半導体にMgが添加されないドーピング遅れと呼ばれる不具合又はMg原料の供給を停止した後にも半導体にMgが添加されるメモリ効果と呼ばれる不具合が生じて所定のドーピング濃度を得られないためである。なお、AlGaInP系の半導体からなる各半導体層のドーパントにMgを用いてもドーピング遅れ及びメモリ効果が生じることはなく、所望のドーピング濃度を得られる。
第1の実施形態の半導体レーザ装置は、n側電極21とp側電極22との間に所定の電圧を印加することにより、p側電極から注入された正孔が第1の電流ブロック層18及び第2の電流ブロック層19と第2のp型クラッド層16とのpn接合により狭窄されて、第1のp型クラッド層14を経て活性層13に到達する。これにより、活性層13における第2のp型クラッド層16の下側部分で高密度に正孔が注入され、n側電極21から注入される電子との発光性の再結合が生じて、井戸層のバンドギャップと対応する波長が約650nmのレーザ光を発振する。
第1の実施形態の特徴は、第1のp型クラッド層14に添加するドーパント(第1の不純物)としてMgを用い、第2のp型クラッド層16に添加するドーパント(第2の不純物)としてZnを用いることにある。
すなわち、図1を用いて説明したように、AlGaInPからなる半導体層において、p型不純物がキャリアを散乱する効果はZnよりもMgの方が大きいため、第1の実施形態の半導体装置では、第1のp型クラッド層14の抵抗率が、Znを用いた場合よりも大きくなる。
以下に、第1のp型クラッド層14の抵抗率を上昇することによる効果について図面を参照しながら説明する。
図3は、第1の実施形態の半導体レーザ装置において、第1のp型クラッド層14の抵抗率を変更した場合の半導体レーザ装置のしきい値電流の変化を示している。図3において、横軸は第1のp型クラッド層14の抵抗率を表し、縦軸は半導体レーザ装置のしきい値電流を示している。
図3に示すように、第1のp型クラッド層14の抵抗率が大きくなるほど半導体レーザ装置のしきい値電流が小さくなることが明らかである。これは、第1のp型クラッド層14の抵抗率が大きくなることにより、第1のp型クラッド層14の内部で電流が拡散し難くなるため、第2のp型クラッド層16から活性層13に到達する電流成分の経路のうち、第1のp型クラッド層14における第2のp型クラッド層16の外側部分を通る電流成分が減少するので、第2のp型クラッド層16の下側部分の電流密度が増大し、活性層13に効率良く電流が注入されるようになるためである。
つまり、図2において矢印で示すように、第1の電流ブロック層18及び第2の電流ブロック層19により狭窄された電流は、第2のp型クラッド層16から、第1のp型クラッド層14の内部でほとんど拡散されることがなく活性層13における第2のp型クラッド層16の下側部分に到達する。
これにより、活性層13における第2のp型クラッド層16の下側部分で効率良く発光性の再結合が生じるため、半導体レーザ装置のしきい値電流及び動作電流が低下し、高出力の半導体レーザ装置が実現可能である。
ここで、エッチングストップ層15にはMgが高濃度に添加されているが、その膜厚は約10nmであり極めて薄いため、不純物濃度を高くしても電流の側方への拡散はほとんど生じない。
また、AlGaInP系の半導体材料では、Znを添加する方がMgを添加するよりもキャリアの移動度が大きくなるため、第2のp型クラッド層16にZnを添加して低抵抗化が可能であり、半導体レーザ装置の直列抵抗を小さくすることができる。
具体的に、第1の実施形態の半導体レーザ装置では、AlGaInPからなる第1のp型クラッド層14に濃度が約5×1017cm-3のMgを添加することにより、その抵抗率が約0.3Ωcmとなるように設定されている。このとき半導体レーザ装置のしきい値は、図3に示すように、40mAよりも小さい値となり、環境温度が約70℃の条件においても出力が飽和することなく、120mWもの高出力で動作可能である。
なお、第1のp型クラッド層14に添加するMgの濃度は5×1016cm-3〜1×1018cm-3程度にすることが好ましい。Mgの濃度が5×1016cm-3よりも小さいと第1のp型クラッド層14における電子に対する電位障壁を十分に確保することができず、n側電極から注入された電子が、活性層13から第1のp型クラッド層14にオーバーフローしてしまう。また、Mgの濃度が1×1018cm-3よりも大きいと、第1のp型クラッド層14から活性層13への拡散し、活性層13の結晶性が劣化して半導体レーザ装置の信頼性が低下するおそれがある。
以上説明したように、第1の実施形態の半導体レーザ装置によると、第1のp型クラッド層14が相対的に高抵抗に形成されているため、第1のp型クラッド層14において側方への電流の拡散が生じにくい。これにより、半導体レーザ装置のしきい値電流及び動作電流が低下し、温度特性が向上すると共に高出力の動作が可能となる。
なお、第1の実施形態では第1のp型クラッド層14にMgを用い、第2のp型クラッド層16に亜鉛を用いているが、このような構成に限られず、第1のp型クラッド層14及び第2のp型クラッド層16に用いる不純物は、それぞれ、第1のp型クラッド層14においてはキャリアを散乱する効果が相対的に大きく、第2のp型クラッド層16においてはキャリアを散乱する効果が相対的に小さくなるような組み合わせであればよい。このようにすると、第1のp型クラッド層14の抵抗率を大きくして第1のp型クラッド層14における電流の拡散を防止できると共に、第2のp型クラッド層16の抵抗率を小さくして半導体レーザ装置の直列抵抗を低減することができる。
また、第1のp型クラッド層14の厚さ方向の全体にわたってMgが添加される必要はなく、第1のp型クラッド層14の下部にはMgをドーピングし、上部にはZnをドーピングするように構成してもよい。このようにしても、第1のp型クラッド層14の上部では電流が拡散するが、下部においては電流の拡散を抑制することができるため、Znのみを厚さ方向の全体にわたって添加する場合と比べて高密度の電流が活性層13に注入される。
また、第1の実施形態において、n型基板11に換えて、p型GaAsからなる基板を用いてもよい。
また、第1の実施形態ではAlGaInPからなる各半導体層において、n型基板11と格子整合するためにInの組成を約0.5としているが、Inの組成が0.45以上0.55以下の範囲にあればよい。このようにすると、AlGaInPからなる各半導体層を、n型基板11を構成するGaAsに対して格子整合するように形成することができる。
また、第1の電流ブロック層18の構成材料にAlInPに換えてGaAsを用いることにより、複素屈折率型の導波構造としてもよい。
また、活性層13は、多重量子井戸層13aを用いる構成に限られず、GaInPからなる井戸層を1層のみ形成する単一量子井戸構造の活性層又は単一構造のバルク活性層であってもよい。
(第1の実施形態の製造方法)
以下、第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図4(a)、図4(b)、図5(a)及び図5(b)は、第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法における工程順の断面構成を示している。なお、図4(a)、図4(b)、図5(a)及び図5(b)において、図1と同一の構成部材はと同一の符号を付すことにより説明を省略する。
まず、図4(a)に示すように、n型基板11の上に、例えば有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により、n型クラッド層12、活性層13、第1のp型クラッド層14、エッチングストップ層15、第2のp型クラッド層形成層16A、第1のコンタクト層形成層17A及びGaAsからなるキャップ層31を順次成長する。ここで、キャップ層31により、次のフォトリソグラフィ工程に移行するまでの間に第1のコンタクト層形成層17Aの表面が酸化されることを防止できる。
MOCVD法による各半導体層の形成工程おいて、III 族化合物の原料ガスとして、トリエチルガリウム(TEG)、トリメチルアルミニウム(TMA)及びトリメチルインジウム(TMI)、V族化合物の原料ガスとしてホスフィン(PH3 )及びアルシン(AsH3 )を用い、これらの原料ガスを、水素をキャリアガスとして石英からなる反応管に導入する。反応管内圧力が約1.0×104 Pa(約76Torr)、基板温度が約750℃の条件下において、供給する原料ガスの種類と供給量とを適宜切り替えることにより各半導体層を順次結晶成長させる。また、各半導体層の結晶成長中に、p型不純物の原料ガスとして、例えばジメチル亜鉛(Zn(CH3)2)又はビスシクロペンタジエニルマグネシウム((C5H5)2 Mg)を導入することにより、所望のp型不純物を半導体層中に添加できる。
次に、図4(b)に示すように、キャップ層31をエッチング除去した後、CVD法により第1のコンタクト層形成層17Aの上にマスクパターン形成用のシリコン酸化膜を形成し、形成したシリコン酸化膜をフォトリソグラフィ法及びドライエッチング法によりパターニングしてストライプ状のマスクパターン32を形成する。
次に、図5(a)に示すように、マスクパターン32を用いたエッチングにより、第1のコンタクト層形成層17A及び第2のp型クラッド層形成層16Aを順次選択的に除去することにより、第2のp型クラッド層形成層16Aからリッジ状の第2のp型クラッド層16を形成し、第1のコンタクト層形成層17Aから第2のp型クラッド層16の上面を覆う第1のコンタクト層17を形成する。
ここで、第1のコンタクト層17に対するエッチング剤として、例えば塩酸系のエッチング剤を用いればよい。また、第2のp型クラッド層16に対する選択的エッチングは、GaInPに対するAlGaInPのエッチング選択比が大きいエッチング剤として、例えば硫酸系のエッチング剤を用いることにより、下層であるエッチングストップ層15はほとんどエッチングされない。これにより、第2のp型クラッド層16をリッジ状に形成することができる。
次に、図5(b)に示すように、MOCVD法により、エッチングストップ層15の上に、第2のp型クラッド層16及び第1のコンタクト層17の側面とマスクパターン32の上面とを含むように、第1の電流ブロック層18及び第2の電流ブロック層19を順次結晶成長した後、マスクパターン32に対するリフトオフを行って、第1の電流ブロック層18及び第2の電流ブロック層19におけるマスクパターン32の上側部分をマスクパターン32と同時に除去して第1のコンタクト層17を露出する。
その後、MOCVD法により、第1のコンタクト層17及び第2の電流ブロック層19上に第2のコンタクト層20を結晶成長した後、例えば電子線蒸着法により、n型基板11の下側に金属材料を蒸着してn側電極21を形成し、同様に第2のコンタクト層20の上側に金属材料を蒸着してp側電極22を形成する。これにより、図1に示す第1の実施形態の半導体レーザ装置が完成する。
第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法の特徴は、第1のp型クラッド層14の抵抗率が第2のp型クラッド層16の抵抗率よりも大きくなるように互いに異なる不純物を添加することにあり、第1のp型クラッド層14の形成にはMgを添加しながら行い、第2のp型クラッド層16の形成時にはZnを添加しながら行う。
なお、各半導体層の形成はMOCVD法に限られず、分子線エピタキシ(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法を用いてもよい。
(第1の実施形態の第1変形例)
以下、第1の実施形態の第1変形例に係る半導体レーザ装置について説明する。
第1の実施形態の第1変形例の半導体レーザ装置は図2に示す第1の実施形態の半導体レーザ装置と同一の構成であり、第1のp型クラッド層14に添加するドーパントを、Znに加えてMgをも添加する点が異なっている。なお、各半導体層の化合物組成及び膜厚は表1に示すそれぞれの化合物組成及び膜厚と同一であり、第1のp型クラッド層14を除く各半導体層のドーパント及びドーピング濃度は表1に示すそれぞれのドーパント及びドーピング濃度と同一である。以下の説明では第1の実施形態との差異について説明する。
第1の実施形態の第1変形例の半導体レーザ装置では、第1のp型クラッド層14のドーパントとして、Mgに加えて、第3の不純物としてZnがさらに添加されている点が第1の実施形態と異なっている。なお、第1のp型クラッド層14において、ZnとMgと合わせたp型不純物の濃度が約1×1018cm-3であり、それぞれの濃度が約5×1017cm-3となるように、すなわち、ZnとMgとの混合比が1:1となるように添加されている。
AlGaInP系の半導体にMgとZnとが1:1の混合比で添加されている場合、AlGaInP層の移動度は、キャリアの散乱効果が大きいMgのみを添加した場合と比べてわずかに上昇する程度である。これは、半導体材料中に複数の不純物が存在する場合、不純物によるキャリアの散乱は、その効果が相対的に大きいドーパント種の濃度が反映されるためである。つまり、AlGaInPからなる半導体にp型ドーパントとしてZnとMgとを添加する場合、キャリアの散乱の効果はほぼMgの濃度によって決まると言える。従って、第1のp型クラッド層14の抵抗率は、濃度が約5×1017cm-3のMgを添加する場合とほぼ同じ値となる。
さらに、MgとZnとを約1×1018cm-3という高い濃度で第1のp型クラッド層14に添加することにより、第1のp型クラッド層14の活性層に対する電位障壁を大きくすることができるため、活性層13に注入された電子が第1のp型クラッド層14にオーバーフローすることを効果的に抑制できる。ここで、Znの濃度は約5×1017cm-3と十分に小さいため、第1のp型クラッド層14から活性層13へのZnの拡散が抑制されている。また、Mgは拡散係数が小さいドーパントであるため第1のp型クラッド層14から活性層13へのMgの拡散が抑制されている。このように、2種類のドーパントを用いることにより、第1のp型クラッド層14のドーピング濃度を第1の実施形態よりも大きくしても、活性層13に拡散する不純物の量はほとんど増大しない。
以上説明したように、第1の実施形態の第1変形例の半導体レーザ装置によると、第1のp型クラッド層14のドーパントとして、キャリアを散乱する効果が相対的に大きいドーパントであるMgに加えて、キャリアを散乱する効果がMgよりも小さいドーパントであるZnが添加されているため、高い抵抗率を確保しながらも、2種類のドーパントを用いて活性層13の電位障壁を第1の実施形態よりも大きくすることができ、半導体レーザ装置の信頼性を向上することが可能である。
なお、第1の実施形態の第1変形例において、第1のp型クラッド層14に添加するMgとZnとの混合比は1:1に限られない。例えば、Mgの比率を大きくすることにより、第1のp型クラッド層14の抵抗率を大きくして電流の拡散をさらに抑制できるようにしてもよい。
また、MgとZnとを合わせたp型不純物の濃度は1×1018cm-3以上且つ5×1018cm-3以下の範囲であることが好ましい。MgとZnとを合わせたp型不純物の濃度を1×1018cm-3以上とすることにより、第1の実施形態よりも電子のオーバーフローを抑制する効果が高くなる。また、5×1018cm-3以上とすると、第1のp型クラッド層14から活性層13にp型不純物が拡散し、半導体レーザ装置の信頼性が低下する。
また、第1の実施形態の第1変形例において、第1のp型クラッド層14に添加する不純物は、MgとZnとの組み合わせに限られず、いずれかの不純物が、第2のp型クラッド層16に添加される不純物よりもキャリアを散乱する効果が大きい不純物であればよい。このようにすると、第1のp型クラッド層14の抵抗率を大きくして第1のp型クラッド層14における電流の拡散を防止できると共に、第2のp型クラッド層16の抵抗率を小さくして半導体レーザ装置の直列抵抗を低減することができる。
(第1の実施形態の第2変形例)
以下、第1の実施形態の第2変形例に係る半導体レーザ装置について図面を参照しながら説明する。
図6は第1の実施形態の第2変形例に係る半導体レーザ装置の断面構成を示している。なお、図6において図1と同一の構成部材については同一の符号を付すことにより説明を省略する。
図6に示すように、n型基板11の上には、n型クラッド層12、多重量子井戸構造を有する活性層13、第1のp型クラッド層14及びエッチングストップ層15が順次結晶成長されている。エッチングストップ層15の上には、ストライプ状の溝部が形成された膜厚が約0.3μmのn型Al0.5In0.5Pからなる電流ブロック層41と、該電流ブロック層41の上に溝部を埋めるようにその下部がストライプ状に形成された膜厚が約2μmのp型Al0.35Ga0.15In0.5P からなる第2のp型クラッド層42とが形成されている。また、第2のp型クラッド層42の上には、膜厚が約50nmのp型Ga0.5In0.5Pからなる第1のコンタクト層43及び第2のコンタクト層20が順次積層されており、n型基板11の下側にはn側電極21が形成され、第2のコンタクト層20の上側にはp側電極22が形成されている。
第1の実施形態の第2変形例に係る半導体レーザ装置は、クラッド層の内部に電流ブロック層が形成された、いわゆる内部ストライプ型の導波路構造を有する半導体レーザ装置として形成されており、n側電極21とp側電極22との間に所定の電圧を印加することにより、p側電極から注入された電流が電流ブロック層41により狭窄されて活性層13に到達し、発光性の再結合が生じて活性層13の井戸層のバンドギャップと対応する波長が約650nmのレーザ光を発振する。
ここで、第1の実施形態では第2のp型クラッド層16がリッジ状に形成するため、その膜厚がリッジ上部の幅により制限されるのに対し、第1の実施形態の第2の変形例では内部ストライプ型の導波路構造とすることにより、第2のp型クラッド層42の膜厚を大きくすることができる。これにより、活性層13と第2のコンタクト層20との間の距離を大きくすることができるため、活性層13から発振されたレーザ光がGaAsからなる第2のコンタクト層20によって吸収されることによる吸収損失を低減することができる。
第1の実施形態の第2変形例に係る半導体レーザ装置において、第1のp型クラッド層14には濃度が約5×1017cm-3のMgが添加され、第2のp型クラッド層42には濃度が約1×1018cm-3のZnが添加されているため、第1のp型クラッド層14の抵抗率を大きくしてその内部を拡散することによって発生する無効電流を低減できると共に、第2のp型クラッド層42のドーピング濃度を大きくして半導体レーザ装置の直列抵抗を低減することが可能となる。
なお、第1のp型クラッド層14のドーパントとしてMgのみを用いる構成に限られず、MgとZnとを混合して用いてもよい。第1のp型クラッド層14にZnとMgとを添加することにより、第1のp型クラッド層14に高い抵抗率を確保しながらも、活性層13の電子に対する電位障壁を大きくすることが可能となり、半導体レーザ装置の信頼性が向上する。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態に係る半導体レーザ装置について図面を参照しながら説明する。
図7は第2の実施形態に係る半導体レーザ装置の断面構成を示している。なお、図7において図1と同一の構成部材については同一の符号を付すことにより説明を省略する。
図7に示すように、厚さが約100μmのn型GaAsからなるn型基板51の上には、厚さが約2.5μmのn型Al0.5Ga0.5Asからなるn型クラッド層52、多重量子井戸構造を有する活性層53、膜厚が約0.1μmのp型Al0.5Ga0.5Asからなる第1のp型クラッド層54、膜厚が約10nmのp型Al0.2Ga0.8Asからなるエッチングストップ層55及び膜厚が約1μmのp型Al0.5Ga0.5Asからなり、リッジ状に形成された第2のp型クラッド層56が順次結晶成長されている。第2のp型クラッド層56の側面上を含むエッチングストップ層55の上には、膜厚が約0.7μmのn型Al0.6Ga0.4Asからなる電流ブロック層57が形成されており、該電流ブロック層57及び第2のp型クラッド層56の上には厚さが約3μmのp型GaAsからなるコンタクト層58が形成されている。
また、n型基板51の下側には、例えばAu、Ge及びNiを含む合金からなり、n型基板51とオーミック接触するn側電極59が形成されており、コンタクト層58の上側には、Cr、Pt及びAuを含む合金からなり、コンタクト層58とオーミック接触するp側電極60が形成されている。
ここで、活性層53は、アンドープのGaAsからなる膜厚が約3nmの井戸層及びアンドープのAl0.3Ga0.7Asからなる膜厚が約8nmの障壁層が交互に積層された多重量子井戸層53aと、該多重量子井戸層53aを上下に挟むAl0.3Ga0.7Asからなり膜厚が約20nmの光ガイド層53bとによって構成されている。
第2の実施形態の半導体レーザ装置において活性層53は780nmの波長に対応するバンドギャップを持つ量子井戸構造を有し、電流ブロック層57の間を通過した電流が活性層53に到達すると、発振波長が780nmのレーザ光を放射する。
前述のように構成された半導体レーザ装置の各層における具体的なドーパント種及びドーパント濃度を表2に示す。
表2に示すように、第2の実施形態の半導体レーザ装置において、p型ドーパントは、第1のp型クラッド層54には炭素(C)が用いられ、エッチングストップ層55、第2のp型クラッド層56及びコンタクト層58には亜鉛(Zn)を用いている。また、第1のp型クラッド層54のドーピング濃度は約1×1018cm-3であり、第2のp型クラッド層56のドーピング濃度は約2×1018cm-3である。また、n型のドーパントには濃度が約1×1018のシリコン(Si)を用いている。
第2の実施形態の特徴として、第1のp型クラッド層54に添加するドーパント(第1の不純物)として炭素を用い、第2のp型クラッド層56に添加するドーパント(第2の不純物)としてZnを用いる。これにより、第1のp型クラッド層54の抵抗率が第2のp型クラッド層56の抵抗率よりも大きくなるため、半導体レーザ装置の直列抵抗を増大させることなく第1のp型クラッド層54に生じる横方向の無効電流を低減することが可能となる。これは、AlGaAs系の半導体において、炭素が添加された場合とZnが添加された場合とで、半導体のキャリア移動度に与える影響が炭素の方が大きいためである。
従って、第1の実施形態と同様に、第1のp型クラッド層54に注入されるキャリアがその内部を拡散し難くなるため、活性層53に効率良く電流が注入されると共に、第2のp型クラッド層56に2×1018cm-3という高い濃度に添加してその抵抗率を小さくすることが可能である。これにより、半導体装置のしきい値電流及び動作電流を低減することができ、高出力の半導体装置を得られる。
なお、AlGaAs系の半導体では、p型不純物にMgを用いると、Mg原料の供給を開始しても半導体にMgが添加されないドーピング遅れと呼ばれる不具合又はMg原料の供給を停止した後にも半導体にMgが添加されるメモリ効果と呼ばれる不具合が生じて所定のドーピング濃度を得られないため、第2の実施形態ではp型不純物にMgを用いていない。
また、第2の実施形態において、第1のp型クラッド層54に添加されるp型不純物は、炭素のみを用いる構成に限られず、炭素に加えて、第3の不純物としてZnをも用いてもよい。このようにすると、第1のp型クラッド層54の抵抗率を相対的に高くしながらもその不純物濃度を高くすることができるため、活性層53から第1のp型クラッド層54への電子のオーバーフローを効果的に防止することができる。
また、第2の実施形態において、第2のp型クラッド層56を第1のp型クラッド層の上にリッジ状に形成するリッジストライプ型の導波路を有する構成に限られず、内部ストライプ型の導波路を有する構成としてもよい。具体的には、第1のp型クラッド層54の上にストライプ状の溝部を有する電流ブロック層を形成し、電流ブロック層の溝部を埋めるように第2のp型クラッド層56をその下部がストライプ状となるように形成すればよい。