JP2004122282A - 立体ワーク非接触吸着手段 - Google Patents
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Abstract
【課題】より大きな吸着力を得ることにある。
【解決手段】立体的形状のワークWkの表面Wkaに沿うように形成された吸着面11aを有し、この吸着面11aとワークWkの表面Wkaとの間の細隙11bに高速空気による負圧を生じさせてワークWkを吸着すべく吸着面11aの中央部に空気を細隙11bに供給する供給口13を設けた構成になっている。
【選択図】 図1
【解決手段】立体的形状のワークWkの表面Wkaに沿うように形成された吸着面11aを有し、この吸着面11aとワークWkの表面Wkaとの間の細隙11bに高速空気による負圧を生じさせてワークWkを吸着すべく吸着面11aの中央部に空気を細隙11bに供給する供給口13を設けた構成になっている。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、流体が高速で流れる際にその静圧が負圧になることを利用して、ワークを保持するように構成したものであって、特に立体的形状のワークを保持するための立体ワーク非接触吸着手段に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
立体的形状のワークを非接触で吸着する手段としては、例えば特許文献1に示す立体ワーク非接触吸着手段が知られている。
この立体ワーク非接触吸着手段は、流体の供給口の下側に段階的に拡径される2つのクッション室を設け、各クッション室の角部(凸部)に凸レンズが近接することによって生じるノズルによってエジェクタ効果を生じさせ、これによって上側のクッション室に負圧(大気圧未満の圧力)を生じさせることにより、上記凸レンズを吸着して保持するように構成されている。
【0003】
【特許文献1】
特開2000−226118号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記立体ワーク非接触吸着手段においては、エジェクタ効果を発揮させるための専用の部品を備えたものではないので、大きな吸着力を得ることができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に基づいてなされたものであり、より大きな吸着力を得ることのできる立体ワーク非接触吸着手段を提供することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、立体的形状のワークの表面に沿うように形成された吸着面を有し、この吸着面と上記ワークの表面との間の細隙に高速流体による負圧を生じさせて上記ワークを吸着すべく上記吸着面の中央部に上記流体を上記細隙に供給する供給口を設けたことを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記細隙から流出する流体の流出方向は、上記供給口から細隙に供給される流体の供給方向と一致する方向から当該供給方向に対して直交する方向までの間となるように設定されていることを特徴としている。
【0008】
上記のように構成された請求項1および2に記載の発明においては、流体が供給口から細隙に供給され高速で流れることによって、当該流体の圧力(静圧)が低下して大気圧より十分低い負圧の状態になる。このため、ワークは、吸着面側に吸引されることになる。ただし、ワークが吸引されて、上記細隙がさらに狭まると、今度は流路抵抗の増大に伴って流体の圧力が増加し、ワークを押し返す力が生じることになる。したがって、ワークは、吸着面に対して所定の細隙を介して非接触の状態で安定的に保持されることになる。
【0009】
また、上記負圧は大気圧に対して十分低いものとなるとともに、吸着面に沿うワークの表面の全体に作用することになるので、当該ワークに対して大きな吸着力が作用することになる。
さらに、ワークの表面と吸着面との間隔が一定であれば、常に一定の吸着力が得られ、上記間隔が部分的にでも異なれば、吸着力が変化することになることから、上記吸着力を測定することによって、ワークの表面形状の変化を検出することができる。したがって、ワークの表面形状の検査に利用することもできる。
【0010】
請求項2に記載の発明においては、細隙から流出する流体の流出方向が供給口から細隙へ供給される流体の供給方向と一致する方向であれば、その供給方向において、細隙に供給される流体の運動量と、細隙から流出する流体の運動量とがほぼ等しくなる。この場合、上記各運動量の差によって生じる力がほぼ零になるので、当該力がワークの吸着力に影響を及ぼすことがほとんどない。
【0011】
また、流出方向が上記供給方向に対して直交する方向になると、その供給方向において、細隙に供給される流体の運動量が所定の値であるのに対して、細隙から流出するその供給方向の流体の運動量成分が零になる。この場合、上記各運動量の差によって力が生じるとともに、その力がワークを吸着面から引き離す方向に作用することになる。すなわち、細隙に供給される流体の運動量が所定の値から零まで変化することによって生じる力分だけ吸着力が低下することになる。
【0012】
さらに、流出方向が上記供給方向に対して180度逆転した方向になると、供給方向において、細隙に供給される流体の運動量が所定の値であるのに対して、細隙から流出する流体の運動量が180度逆転した方向に所定の値のものとなる。この場合、細隙に供給される流体の運動量が所定の値から零まで変化することによって生じる力に加えて、細隙から流出する流体が零から所定の値まで変化することによって生じる力が上述した吸着力を低下させる方向に作用することになる。すなわち、細隙に供給される流体の運動量が所定の値から零まで変化することによって生じる力と、細隙から流出する流体が零から所定の値まで変化することによって生じる力との合計分だけ吸着力が低下することになる。
【0013】
ただし、請求項2に記載の発明においては、流出方向が供給方向と一致する方向から当該供給方向に対して直交する方向までの間となるように設定されているので、細隙から流出する流体の方向によって吸着力が低下するのを極力抑えることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
【0015】
この第1の実施の形態で示す立体ワーク非接触吸着手段1は、図1に示すように、立体的形状のワークWkの表面であって上方に凸となる半球面状の表面Wkaに沿うように形成された半球面状の吸着面11aを有する所定の厚さの吸着板11と、この吸着板11の外周面から当該吸着板11と同軸状に突出する円柱部12とにより一体的に形成されている。そして、吸着板11および円柱部12の軸心部には、吸着板11の吸着面11aとワークWkの表面Wkaとの間の細隙11bに高速の空気(流体)を供給して負圧を生じさせるための供給口13が形成されている。この供給口13は、吸着面11aの中央部に開口しているとともに、当該吸着面11aに直交する方向に延在している。
【0016】
また、細隙11bから流出する空気の流出方向は、供給口13から細隙11bに供給される空気の供給方向と一致する設定となっている。そして、当該立体ワーク非接触吸着手段1は、吸着面11aを下方に向けた状態でワークWkを吸着するようになっている。
【0017】
上記のように構成された立体ワーク非接触吸着手段1においては、空気が供給口13から細隙11bに供給され高速で流れるため、当該空気の圧力(静圧)が大気圧より十分低い負圧の状態となる。このため、ワークWkは、吸着面11a側に吸引されることになる。ただし、ワークWkが吸着面11aに近づき過ぎると、細隙11bがさらに狭まって今度は流路抵抗の増大により空気の圧力が増大することになる。したがって、ワークWkは、吸着面11aに対して所定の間隔をおいて非接触で安定的に吸着されることになる。
【0018】
また、上記負圧は吸着面11aに沿うワークWkの表面Wkaの全体に作用することになるので、当該ワークWkに対して大きな吸着力が作用することになる。
さらに、ワークWkの表面Wkaと吸着面11aとの間隔、すなわち細隙11bの間隔が一定であれば、常に一定の吸着力が得られ、上記間隔が部分的にでも異なってくれば、吸着力が変化することになることから、上記吸着力を測定することによって、ワークWkの表面Wkaの形状が変化していることを検出することができる。したがって、ワークWkの表面Wkaの形状、例えばレンズの表面形状等の検査に利用することもできる。
【0019】
また、細隙11bから流出する空気の流出方向が供給口13から細隙11bへ供給される空気の供給方向と一致する方向となっているので、その供給方向において、細隙11bに供給される空気の運動量と、細隙11bから流出する空気の運動量とがほぼ等しくなる。このため、これらの各運動量の差によって生じる力がほぼ零になるので、当該力がワークWkの吸着力に影響を及ぼすことがほとんどない。したがって、上記負圧による強力な吸着力を発揮することができる。
【0020】
(第1の他の例)
また、図2は、上記第1の実施の形態の第1の他の例として示した立体ワーク非接触吸着手段2である。
この立体ワーク非接触吸着手段2は、立体的形状のワークWkの表面であって下方に凹となる半球面状の表面Wkaに沿うように形成された半球面状の吸着面21aを有する半球状の吸着部21と、この吸着部21の上側の平端面から当該吸着部21と同軸状に突出する円柱部22とにより一体的に形成されている。そして、吸着部21および円柱部22の軸心部には、吸着部21の吸着面21aとワークWkの表面Wkaとの間の細隙21bに高速の空気を供給して負圧を生じさせるための供給口23が形成されている。この供給口23は、吸着面21aの中央部に開口しているとともに、当該吸着面21aに直交する方向に延在している。
【0021】
また、細隙21bから流出する空気の流出方向は、供給口23から細隙21bに供給される空気の供給方向に対して180度逆転した方向となる設定となっている。そして、当該立体ワーク非接触吸着手段2は、吸着面21aを下方に向けた状態でワークWkを吸着するようになっている。
【0022】
上記のように構成された第1の他の例の立体ワーク非接触吸着手段2においても、上記立体ワーク非接触吸着手段1と同様の作用効果を奏する。
【0023】
ただし、細隙21bから流出する空気の流出方向が供給口23から細隙21bへ供給される空気の供給方向に対して180度逆転した方向になっているので、細隙21bに供給される空気の運動量は零まで変化した後に、さらに逆転して細隙21bから流出する空気の運動量まで零から変化することになる。したがって、上記各運動量をそれぞれ零まで変化させるのに相当する力が発生するとともに、当該力が上述した吸着力を低下させる方向に作用することになる。
【0024】
(第2の他の例)
また、立体ワーク非接触吸着手段としては、図1の半球状の吸着板11に代えて、半円筒状の吸着板によって形成してもよい。この半円筒状の吸着板を有する立体ワーク非接触吸着手段を上記第1の実施の形態の第2の他の例とする。なお、この第2の他の例は図1を用いて説明できるので、この図1に記された符号をそのまま用いて当該第2の他の例を説明する。
【0025】
すなわち、吸着板11は、立体的形状のワークWkの表面であって上方に凸となる半円筒面状の表面Wkaに沿うように形成された半円筒面状の吸着面11aを有している。また、吸着板11には、その外周面に円柱部12が一体的に形成されている。この円柱部12は、吸着板11の周方向および軸方向の中央部に形成されている。そして、円柱部12の軸心部には、吸着板11の吸着面11aとワークWkの表面Wkaとの間の細隙11bに高速の空気を供給して負圧を生じさせるための供給口13が形成されている。この供給口13は、吸着面11aの中央部、すなわち吸着面11aの周方向および軸方向の中央部に開口しているとともに、当該吸着面11aに直交する方向に延在している。
【0026】
また、細隙11bから流出する空気の流出方向は、供給口13から細隙11bに供給される空気の供給方向と一致する方向から当該供給方向に対して直交する方向までの間の種々の方向になる。そして、当該第2の他の例の立体ワーク非接触吸着手段1は、吸着面11aを下方に向けた状態でワークWkを吸着するようになっている。
【0027】
上記のように構成された第2の他の例の立体ワーク非接触吸着手段1も上記第1の実施の形態の立体ワーク非接触吸着手段1と同様の作用効果を奏する。
【0028】
ただし、細隙11bから流出する空気の流出方向が供給口13から細隙11bへ供給される空気の供給方向と一致する方向から当該供給方向に対して直交する方向までの間の種々の方向となるので、上記供給方向において、細隙11bから流出する空気の運動量の変化量に相当する量の力が発生するとともに、当該力が上述した吸着力を低下させる方向に作用することになる。したがって、第2の他の例においては、上記第1の実施の形態の立体ワーク非接触吸着手段1の吸着力より若干低下したものとなる。
【0029】
(第3の他の例)
また、立体ワーク非接触吸着手段としては、図2の半球状の吸着部21に代えて、半円柱状の吸着部によって形成してもよい。この半円柱状の吸着部を有する立体ワーク非接触吸着手段を上記第1の実施の形態の第3の他の例とする。なお、この第3の他の例は図2を用いて説明できるので、この図2に記された符号をそのまま用いて当該第3の他の例を説明する。
【0030】
すなわち、吸着部21は、立体的形状のワークWkの表面であって下方に凹となる半円筒面状の表面Wkaに沿うように形成された半円筒面状の吸着面21aを有している。また、半円柱状の吸着部21には、この吸着部21の上側の平端面に円柱部22が一体的に形成されている。この円柱部22は、吸着部21の幅方向の中央部でかつ軸方向の中央部に形成されている。円柱部22の軸心部には、吸着部21の吸着面21aとワークWkの表面Wkaとの間の細隙21bに高速の空気を供給して負圧を生じさせるための供給口23が形成されている。この供給口23は、吸着面21aの中央部、すなわち吸着面21aの周方向および軸方向の中央部に開口しているとともに、当該吸着面21aに直交する方向に延在している。
【0031】
また、細隙21bから流出する空気の流出方向は、供給口23から細隙21bに供給される空気の供給方向に対して直交する方向から180度逆転する方向までの間の種々の方向になる。そして、当該第3の他の例の立体ワーク非接触吸着手段1は、吸着面21aを下方に向けた状態でワークWkを吸着するようになっている。
【0032】
上記のように構成された第3の他の例の立体ワーク非接触吸着手段も上記第1の他の例の立体ワーク非接触吸着手段2と同様の作用効果を奏する。
【0033】
ただし、細隙21bから流出する空気の流出方向は、供給口23から細隙21bに供給される空気の供給方向に対して直交する方向から180度逆転する方向までの間の種々の方向となるので、まず細隙21bに供給される空気の運動量が零まで変化する量に相当する量の力が発生するとともに、細隙21bから流出する空気が逆方向に流れることによる運動量の変化分に相当する量の力が発生することになる。そして、これらの力は、上述した吸着力を低下させる方向に作用することになる。ただし、これらの力の合計は、第1の他の例で発生する力より小さい。したがって、第3の他の例においては、上記第1の他の例の立体ワーク非接触吸着手段2の吸着力より若干向上したものとなる。
【0034】
(理論的解析)
上記第1の実施の形態およびその他の例に関して、さらに理論的に考察する。まず、上記第1の実施の形態の立体ワーク非接触吸着手段1に関し、吸着面11aとワークWkの表面Wkaとが同心状に位置し、細隙11bの半径方向の寸法であるクリアランスtが一定の場合について、図3を参照して説明する。
ワークWkの表面Wkaの中心を座標軸の原点とし、x軸を供給口13の延在する方向に対して直交する方向に設け、y軸を供給口13に延在する方向であって、当該供給口13に向かう方向に正となるように設けた。
【0035】
まず、吸着面11aおよびワークWkの表面Wkaの半径をともにRとし、y軸からの距離(供給口13の中心からの距離)をrとし、y軸とのなす角度をθとして示すと、y軸からr位置の細隙11b内の圧力(静圧)pは、次のようにモデル化できる。
p=po−CQ2 /r2 …(1)
ここに、
C=1/(8π2 ρt2 ) …(2)
ただし、poは供給口13から供給される空気の全圧、Qは供給口13から供給される空気の流量、ρは密度である。
【0036】
そして、
r=Rsinθ …(3)
より、
p=po−CQ2 /R2 sin2θ …(4)
となる。
【0037】
吸着面11aに沿って発生する最大吸着力Wmax,pは、圧力を供給口13の半径の角度θoから負圧が大気圧paに等しくなる位置の角度θcまで積分して得られる。すなわち、
Wmax,p=∫(pa−p)2πrRdθ−2πR2 (1−cosθo)(po−pa)
=2πCQ2 ln(tan(θc/2)/tan(θo/2))
−2πR2 (1−cosθc)(po−pa) …(5)
となる。
【0038】
実用的には、吸着面11aに沿った吸着力よりも吸着力のy成分、つまり、吊り下げ荷重の方に意義がある。この吸着力のy成分は、微分面積にcosθを乗じて上記と同様の積分を行うことによって求まる。すなわち、
Wmax,p=∫(pa−p)2πrRcosθdθ−2πR2 (1−cosθo)(po−pa)
=2πCQ2 ln(sinθc/sinθo)
−2πR2 (po−pa)((sin2 θc−sin2 θo)/2+(1−cosθo)) …(6)
【0039】
上記(4)式はRが小さいとθcが大きくなることを示しており、このことより上記(6)式第1項の吸引力はRが小さいほど大きくなる。また、第2項の反発力はRが減少するとその2乗に比例して小さくなる。結果として、球面吸着の場合、一定の流量Qに対して半径Rが小さくなる程吸着力は大きくなる。
【0040】
次に、実用的な使用環境ではサイズの異なる種々のワークWkに適用するケースが考えられることから、径が異なる2つの球面に対する吸着力について理論的な考察を行う。
【0041】
すなわち、吸着面11aおよびワークWkの表面Wkaの中心が図4に示すように、距離dで偏心しているものとして理論展開する。
この場合、吸着面11aの半径をRo、ワークWkの表面Wkaの半径をRiとすると、クリアランスtは角度θによって、
t(θ)=(Ro2 +d2 sin2 θ)1/2 −dcos2 θ−Ri …(7)
と表される。したがって、圧力分布は、
p=po−CoQ2 /t2 (θ)sin2θ …(8)
となる。ただし、
Co=1/(8π2 ρRi2 ) …(9)
である。
【0042】
よって、吸着面11aに沿って発生する最大吸着力Wmax,pは、圧力をθo〜θcの範囲で積分して求められる。すなわち、
Wmax,p=∫(pa−p)2πrRidθ−2πRi2 (1−cosθo)(po−pa)
=2πRi2 CoQ2 ∫dθ/sinθt2 (θ)
−2πRi2 (1−cosθo)(po−pa) …(10)
となる。
【0043】
上記(10)式の右辺の積分は複雑であり数値計算によって求める必要がある。また、吸着力のy成分は前述した場合と同様にcosθを加味して、
Wmax,p=∫(pa−p)2πrRi cosθdθ−2πRi2 (1−cosθo)(po−pa)
=2πRi2 CoQ2 ∫dθ/tanθt2 (θ)
−2πRi2 (po−pa)((sin2 θc−sin2 θo)/2+(1−cosθo))…(11)
となる。
【0044】
上記(11)式において、Roが大きくなると積分関数の値は小さくなる。このことから、ワークWkの表面Wkaと吸着面11aとが偏心した状態になると吸着力が減少することになり、RiとRoとが同心状に位置するとき、つまりクリアランスtが吸着面11aに沿って一定のときに吸着力が最大になることが分かる。
【0045】
次に、上記第1の実施の形態の第2の他の例で示した半円筒面状の吸着面11aで同じく半円筒面状のワークWkの表面Wkaを吸着するメカニズムについて考察する。
この場合には、流管断面積を形状パラメータで表すのが容易ではない。このため、円筒面の半径Dが十分大きく、細隙11bに供給された空気が負圧から大気圧に転換する点である負圧正圧転換点rcが比較的小さく曲率の影響が少ない場合に対して近似解を得ることを試みた。そこで、供給口13から下流域の圧力は、平板吸着面の場合と同様の分布をもって近似する。図5のように、平板の圧力分布を円筒面に等角写像し、その円筒面の微分面積に働く吸着力にcosψを乗じて最大吸着力のy軸成分を計算する。
【0046】
平板の圧力分布は(1)式および(2)式で与えられるから、y軸方向の最大吸着力Wmax,pは、次の(12)、(13)式を考慮して、(14)式によって表せる。
L=(r2 sin2 θ+D2 )1/2 …(12)
cosψ=D/L …(13)
Wmax,p=∫(pa−p)dA cosψ−πro2 (po−pa)
=∫(pa−p)rdθdrD/(r2 sin2 θ+D2 )1/2 −πro2 (po−pa)
=CDQ2 ∫drdθ/r(r2 sin2 θ+D2 )1/2
−(po−pa)∫rdrdθD/(r2 sin2 θ+D2 )1/2 −πro2 (po−pa)…(14)
ただし、roは供給口13の半径である。
【0047】
(14)式は、吸着面11aおよび表面Wkaの径である円筒径D=∞のとき、吸着面11aが平板状に形成された場合の吸着力を表す式(後述の(23)式)に帰結する。また、(14)式において、第1項は吸引力成分を表し、第2項および第3項は反発力成分を表す。第1項は、円筒径が1/Dのファクタで残るのでDが小さいほど、つまり円筒の曲率が大きいほど吸引力が大きくなることを示している。これに反し、第2項の反発力の場合は、Dのファクタで残るためDが小さくなるほど反発力は弱まる。したがって、トータルとしての吸着力は、円筒半径Dが小さいほど大きくなり、逆に、Dが大きくなるにしたがい吸着力が弱まり、その最小値が平面状の吸着面による吸着力に等しくなる。
【0048】
(運動量ベクトル)
また、ワークWkには上記空気の圧力に起因する吸引力の他に空気の運動量ベクトルの変化によって発生する力Fが作用することになるので、この力についても併せて理論解析を行う。
すなわち、実際には、上述した負圧による最大吸着力Wmax,pに対して上記力Fを考慮した値が最大吸着力になる。
なお、これまでの理論解析の中で表記した最大吸着力は空気の圧力に基づく吸着力成分を表すものであり、その意味で添字のpを付してWmax,pの記号を用いた。したがって、力Fを考慮した場合の最大吸着力としてはWmaxの記号を用いて表示する。
【0049】
すなわち、最大吸着力Wmaxは、
Wmax=Wmax,p−F …(15)
となる。ただし、力Fは、一般に最大吸着力Wmax,pを低減する方向に作用するので、上記(15)式のようにマイナスの符号を付して表した。
【0050】
上記力Fは、図6に示すように、入口と出口の空気(流体)の運動量に差が生じるシステムにおいて発生する力であり、
F=Q(v−v´cosθ) …(16)
で表される。ここに、vはシステムに流入する空気の流速であり、v´はシステムから流出する空気の流速であり、θは空気のシステムへの流入方向に対する当該空気の流出方向の角度である。また、力Fは、F>0のとき抗力を意味し、F<0のとき推力を意味する。
【0051】
上記(16)式を、図7(a)に示す吸着面およびワークの表面が平面状のもの、同図(b)に示す吸着面およびワークの表面が半球面状のもの(上記第1実施の形態に相当)、同図(c)に示す吸着面およびワークの表面が半円筒面状のもの(上記第1の実施の形態の第2の他の例に相当)のそれぞれに当てはめて、それぞれの力Ff、Fs、Fcを解析すると次のようになる。
【0052】
すなわち、図7(a)の場合の力Ffは、
Ff=Q(v−v´cos(π/2))
=Qv …(17)
となる。ただし、cos(π/2)=0である。
【0053】
図7(b)の場合の力Fsは、
Fs=Q(v−v´cos(0))
=Q(v−v´) …(18)
となる。ただし、cos(0)=1である。
【0054】
図7(c)の場合の力Fcは、
Fc=Qv−∫∫dQd(v´cosθ) …(19)
となる。
【0055】
図7のvおよびv´の方向から、
Ff>Fc>Fs …(20)
となることが分かる。
したがって、抗力としての上記各力Ff、Fs、Fcを考慮した場合の最大吸着力をそれぞれWmax,f(図7(a))、Wmax,s(図7(b))、Wmax,c(図7(c))として比較すると、
Wmax,s>Wmax,c>Wmax,f …(21)
となる傾向になることが分かる。
【0056】
同様にして、図1を参照して示した第1の実施の形態(下向き半球)や第2の他の例(下向き半円筒)の場合の上記力Fs、Fcを考慮した最大吸着力Wmax,Nと、図2を参照して示した第1の他の例(上向き半球)や第3の他の例(上向き半円筒)の場合の上記力Fs、Fcを考慮した最大吸着力Wmax,Rとを比較すると、
Wmax,N>Wmax,R
となる。これは、第1の実施の形態の場合および第2の他の例の場合には、それぞれθ=0度、θ=0〜90度となるのに対して、第1の他の例および第3の他の例場合には、それぞれθ=180度、θ=90〜180度となるからである。
【0057】
以上の結果から、θを90度以下に設定することによって、より大きな吸着力を得ることができるということが分かる。
【0058】
(第2の実施の形態)
次ぎに、この発明の第2の実施の形態を図8および図9を参照して説明する。この第2の実施の形態で示す立体ワーク非接触吸着手段3は、ワークWkとしてのボトルBの上部を非接触で吸着するように構成したものであり、ボトルBにおける胴部B0の上側に形成された肩部B1、この肩部B1の上側に形成された首部B2に設けられたキャップの側面部B3および同キャップの頂面部B4に沿うように形成された吸着面31aを有する吸着部31と、この吸着部31の外周面に設けられた整流板32とを備えている。
【0059】
すなわち、吸着面31aは、ボトルBにおける円板状に形成された頂面部B4、円筒状に形成された側面部B3および円筒状の胴部B0から円筒状の首部B2に向けて漸次縮径するテーパ状に形成された肩部B1からなる被吸着表面B5に沿うべく凹状に形成されている。
【0060】
そして、吸着部31には、吸着面31aと被吸着表面B5との細隙31bに高速の空気を供給して負圧を生じさせるための供給口33が形成されている。この供給口33は、吸着面31aの中央部であって頂面部B4の中央部に対応する位置に開口しているとともに、当該頂面部B4に対応する吸着面31aに直交する方向に延在している。
【0061】
また、吸着部31は、吸着面31aを被吸着表面B5に係合させた状態において、外周面が胴部B0の外周面よりわずかに大径に形成された円筒面になっている。
【0062】
整流板32は、円筒状に形成されたものであり、吸着部31の下部外周面に嵌合されてボルト34で固定されることにより、細隙31bから流出する空気を胴部B0の外周面に沿って、ボトルBの下方に案内するようになっている。
【0063】
上記立体ワーク非接触吸着手段3によってボトルBを吊り下げる場合のボトル肩部B1に働く最大吸着力Wmax,pは、
Wmax,p=2πCQ2 ln((ro+(rc−ro)cosθ)/ro)
−π(ro+(rc−ro)cosθ)2 (po−pa) …(22)
となる。ただし、roは頂面部B4の半径、rcは肩部B1を平板と仮定した場合のボトルBの中心から負圧正圧変換点の位置までの半径、θは肩部B1の傾斜角度である。
【0064】
上記(22)は、θ=0のとき平板の吸着ディスクによる最大吸着力Wmax,p(下記(23)式)となる。すなわち、吸着力は、θが零のとき平板吸着ディスクに一致して最大となり、θが大きくなるにしたがって減少することになる。このことを定量的に調べるため、吸着面が供給口から平面状に延在する場合と、吸着面が供給口から肩部B1のように円錐面状に延在する場合の吸着力について比較する。
【0065】
まず、平面状の場合の最大吸着力Wmax,p1は、
Wmax,p1=2πCQ2 ln(rc/ro)−πrc2 (po−pa) …(23)
となる。ただし、この場合のroは供給口の半径である。
【0066】
したがって、平面状の場合の最大吸着力に対する円錐面状の場合の最大吸着力の割合比Wmax,p/Wmax,p1を比較することができる。
簡単のため、(22)式と(23)式のそれぞれの第1項の吸引力の比をとってみる。
Wmax,pの第1項/Wmax,p1の第1項=ln(1+(rc−ro)cosθ/ro)/ln(rc/ro)…(24)
となる。
【0067】
例えばrc=20mmとし、平板とボトルのroの値をそれぞれ2.5mm、12mmとし、θ=60度とした場合には、円錐面の吸着力の吸引力成分は、平面の吸着力の吸引力成分の約1.4%になる。
したがって、ボトルBのうち肩部B1の円錐面の部分に作用する吸着力はそれほど大きくないことが分かるとともに、頂面部B4のような面積の狭い平面部であっても平板の吸着面となるように空気を供給して、吸着力の増加を図ることが好ましいことが分かる。
【0068】
上記のように構成された立体ワーク非接触吸着手段3においては、吸着面31aをボトルBの上部に係合させて、供給口33から空気を供給することにより、ボトルBを空気を介して間接的に保持することができる。しかも、流速の最も速い段階で平面状の頂面部B4を流れるので、大きな吸着力を効率よく得ることができる。
【0069】
また、整流板32によって、細隙31bから流出する空気の流れの方向を、供給口33から供給される空気の流れの方向と一致させることができるので、空気の運動量の変化によって吸着力が低下するのを極力抑えることができる。
【0070】
なお、上記第2の実施の形態においては、ボトルBとして胴部B0が円筒形状に形成され、肩部B1がテーパ状(円錐面状)に形成されたものを示したが、このボトルとしては、胴部が例えば4角筒などの多角形状の筒状に形成し、肩部も多角錐面状に形成されたものであってもよい。この場合には、吸着面は、ボトルにおけるキャップの平板状の頂面部、同キャップの円筒状の側面部やこのキャップを設ける円筒状の首部の側面部およびこの首部に向けて多角筒状の胴部から漸次縮径する多角錐面状の肩部からなる被吸着表面に沿うべく凹状に形成されることになる。
【0071】
【実施例】
以下、この発明の実施例を説明する。ここでは、図10に示す装置を用い、上記第1実施の形態に対応する第1実施例、上記第1の他の例に対応する第2実施例、上記第2の他の例に対応する第3実施例および上記第3の他の例に対応する第4実施例について、圧力、吸着力等を測定する実験を行った。
【0072】
1.実験条件
第1実施例〜第4実施例において、
吸着面の半径:50mm
ワークの表面の半径:49mm
供給口の半径:2.5mm
細隙に供給する流体:最大0.5MPaの工業用圧縮空気
静圧測定位置:供給口の中心から周方向に所定の間隔をおいて静圧測定用の孔を設けた。供給口を含めた各孔のピッチは、供給口から第4孔目までは5mm、4孔から外方は10mmである。
なお、各孔の圧力は、各継手E3を介して通常の歪み測定式の圧力計またはマノメータ(圧力が大気圧に対して微小の場合)を用いて検出した。
全圧測定位置:ワークにおける、供給口に対して同軸状に形成された孔を介して測定した。この場合、全圧はワークとなる側に設けられた継手E1または継手E2を介して測定することになる。
吸着力:最大吸着力Wmax(上述した力Fを含む値)を測定した。
【0073】
また、第3実施例および第4実施例において、
吸着面の軸方向の長さ:100mm
である。
【0074】
2.実験結果
(1)第1実施例および第2実施例の全圧と最大吸着力Wmaxとの関係
第1実施例(半球面状の吸着面下向き)および第2実施例(半球面状の吸着面上向き)について、吹出口から噴出する空気の全圧と、最大吸着力Wmax(この場合、空気の運動量に起因する上述した力Fが考慮されたものとなる)との関係を実験で求めた結果を図11に示す。
【0075】
なお、図11において、●印は第1実施例の実験結果であり、×印は第2実施例の実験結果である。
また、全圧および最大吸着力Wmaxの測定は、予め最大吸着力Wmaxとなる重さの荷重を荷重取付具G(図10)に取り付けておき、全圧を漸次低減することにより、ワークが吸着面から落下する直前の全圧を検出することによって行った。他の実験も同様である。
【0076】
図11の実験結果から、全圧がほぼ0.4MPa以上と高く細隙を流れる空気の流量が多く安定した状態においては、第1実施例の最大吸着力Wmaxは第2実施例の最大吸着力Wmaxの2倍以上の大きさになることが確認できる。これは、第2実施例の場合、上述したように、空気流の運動量ベクトルが180度向きを変えることに起因しているものと考察できる。なお、第1実施例の最大吸着力Wmaxのうち最大値は9kgf強となっており、平板の吸着面の場合(図示せず)の約2倍になっている。
【0077】
また、最大吸着力Wmaxは、全圧の増加とともに指数関数的に上昇することも確認できた。そして、第1実施例および第2実施例ともに、全圧が0.4MPaに達したあたりから、最大吸着力Wmaxが急激に上昇する傾向にあることが分かる。したがって、供給口に供給する空気の全圧としては0.4MPa以上に設定することが好ましい。
【0078】
(2)第3実施例および第4実施例の全圧と最大吸着力Wmaxとの関係
第3実施例(半円筒面状の吸着面下向き)および第4実施例(半円筒面状の吸着面上向き)について、吹出口から噴出する空気の全圧と、最大吸着力Wmaxとの関係を実験で求めた結果を図12に示す。なお、図12において、●印は第3実施例の実験結果であり、×印は第4実施例の実験結果である。
【0079】
図12の実験結果から、全圧がほぼ0.4MPa以上と高く細隙を流れる空気の流量が多く安定した状態においては、第3実施例の最大吸着力Wmaxが第4実施例の最大吸着力Wmaxより大きくなることが確認できる。これは、第4実施例の場合、上述したように、空気流の運動量ベクトルが部分的に180度向きを変えることに起因しているものと考察できる。
【0080】
また、第3実施例の最大吸着力Wmaxのうち最大値は6kgfとなっており、平板の吸着面の場合(図示せず)の約1.5倍になっている。これは、第3実施例の場合は、吸着面が半円筒面状となっており、空気の運動量の変化に関し、半球面の特性と平面の特性とを併せもっているためと考察できる。
【0081】
さらに、最大吸着力Wmaxは、全圧の増加とともに指数関数的に上昇することも確認できた。そして、第3実施例および第4実施例ともに、全圧が0.4MPaに達したあたりから、最大吸着力Wmaxが急激に上昇する傾向にあることが分かる。したがって、供給口に供給する空気の全圧としては0.4MPa以上に設定することが好ましい。
【0082】
(3)第1実施例および第2実施例の圧力分布
第1実施例(半球面状の吸着面下向き)および第2実施例(半球面状の吸着面上向き)についての圧力分布の測定結果をそれぞれ図13および図14に示す。
【0083】
図13の実験結果から、第1実施例は、半球面の中心角度で供給口の中心から約20度以内の範囲に大きな負圧が発生し、この範囲に強力な吸着力が発生していることが分かる。また、平面状の吸着面の場合の圧力分布(図示せず)に比べて負圧正圧転換点の位置が5mm程度供給口側に位置することが確認でき、負圧発生領域は半球面の方が平面の場合より狭くなることが分かる。
【0084】
また、第1実施例は、負圧正圧転換点より外側において、平面状の吸着面の場合に比べて、正圧方向にかなり大きなオーバーシュートが観測される。そして、図13には明瞭に表れていないが、測定データ上では、オーバーシュートの後、再び、約10mmH2O程度の負圧が吸着面の外縁まで発生している。この負圧も、最大吸着力に少なからず寄与しているものと思われる。
【0085】
一方、図14に示す第2実施例は、第1実施例のような正圧の強いオーバーシュート現象がほとんど発生せず、この点は平板の吸着面の場合と同様である。負圧の範囲は、供給口の中心から約24度以内となっており、第1実施例より広くなっている。ただし、吸着力は第1実施例の1/2以下となっており、上述したように、空気流の運動量ベクトルが180度向きを変えることに起因しているものと考察できる。
【0086】
(4)第3実施例および第4実施例の圧力分布
第3実施例(半円筒面状の吸着面下向き)および第4実施例(半円筒面状の吸着面上向き)についての圧力分布の測定結果をそれぞれ図15および図16に示す。
【0087】
図15の実験結果から、第3実施例は、圧力分布のプロファイルが第1実施例(図13)と同様の傾向になっている。ただし、正圧のオーバーシュートとその外側に発生する負圧は、ともに第1実施例の場合より弱くなっている。これは、最大吸着力が第1実施例よりも小さくなる要因の一つとなっている。
【0088】
一方、図16に示す第4実施例は、圧力分布が非常に整然とした挙動を示す結果となった。すなわち、吸着力が0.45kgfから3.01kgfへと大きくなるにつれて供給口の全圧が大きくなり、無次元圧力である(p−pa)/(po−pa)が負圧側にU字状に変化し、再び圧力零のラインに滑らかに戻る傾向を示している。
【0089】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1および2記載の発明によれば、流体が供給口から細隙に供給され高速で流れることによって、当該流体の圧力(静圧)が低下して大気圧より十分低い負圧の状態になるとともに、この負圧が吸着面に沿うワークの表面の全体に作用することになるので、当該ワークに対して大きな吸着力を作用させることができる。
【0090】
さらに、ワークの表面と吸着面との間隔が一定であれば、常に一定の吸着力が得られ、上記間隔が部分的にでも異なれば、吸着力が変化することになることから、上記吸着力を測定することによって、ワークの表面形状の変化を検出することができる。したがって、ワークとしての例えばレンズの表面形状の検査に利用することもできる。
【0091】
請求項2に記載の発明によれば、流体の流出方向が流体の供給方向と一致する方向から当該供給方向に対して直交する方向までの間となるように設定されているので、細隙から流出する流体の方向によって吸着力が低下するのを極力抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1の実施の形態として示した立体ワーク非接触吸着手段の断面図であるとともに、当該第1の実施の形態の第2の他の例として示した立体ワーク非接触吸着手段の断面図である。
【図2】上記第1の実施の形態の第1の他の例として示した立体ワーク非接触吸着手段の断面図であるとともに、当該第1の実施の形態の第3の他の例として示した立体ワーク非接触吸着手段の断面図である。
【図3】上記第1の実施の形態および上記第1の他の例の立体ワーク非接触吸着手段の理論解析のために用いた断面説明図である。
【図4】同立体ワーク非接触吸着手段の理論解析のために用いた断面説明図である。
【図5】上記第2の他の例および上記第3の他の例の立体ワーク非接触吸着手段の理論解析のために用いた説明図である。
【図6】流体の運動量ベクトル(運動量)の変化によって力が発生する概念を説明するための説明図である。
【図7】流体の運動量ベクトルの変化によって力が発生する概念を説明する図であって、(a)は吸着面が平面の場合の説明図であり、(b)は吸着面が半球面の場合の説明図であり、(c)は吸着面が半円筒面の場合の説明図である。
【図8】この発明の第2の実施の形態として示した立体ワーク非接触吸着手段の断面図である。
【図9】同立体ワーク非接触吸着手段の理論解析のために用いた断面説明図である。
【図10】この発明の実施例を示す図であり、実験に用いる立体ワーク非接触吸着手段の一例を示す断面説明図である。
【図11】同実施例のうち、第1実施例と第2実施例の実験結果を示す図であって、全圧と最大吸着力との関係を示す図である。
【図12】同実施例のうち、第3実施例と第4実施例の実験結果を示す図であって、全圧と最大吸着力との関係を示す図である。
【図13】同実施例のうち、第1実施例の圧力分布の実験結果を示す図である。
【図14】同実施例のうち、第2実施例の圧力分布の実験結果を示す図である。
【図15】同実施例のうち、第3実施例の圧力分布の実験結果を示す図である。
【図16】同実施例のうち、第4実施例の圧力分布の実験結果を示す図である。
【符号の説明】
11a、21a、31a 吸着面
11b、21b、31b 細隙
13、23、33 供給口
Wk ワーク
Wka 表面
【発明の属する技術分野】
本発明は、流体が高速で流れる際にその静圧が負圧になることを利用して、ワークを保持するように構成したものであって、特に立体的形状のワークを保持するための立体ワーク非接触吸着手段に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
立体的形状のワークを非接触で吸着する手段としては、例えば特許文献1に示す立体ワーク非接触吸着手段が知られている。
この立体ワーク非接触吸着手段は、流体の供給口の下側に段階的に拡径される2つのクッション室を設け、各クッション室の角部(凸部)に凸レンズが近接することによって生じるノズルによってエジェクタ効果を生じさせ、これによって上側のクッション室に負圧(大気圧未満の圧力)を生じさせることにより、上記凸レンズを吸着して保持するように構成されている。
【0003】
【特許文献1】
特開2000−226118号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記立体ワーク非接触吸着手段においては、エジェクタ効果を発揮させるための専用の部品を備えたものではないので、大きな吸着力を得ることができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に基づいてなされたものであり、より大きな吸着力を得ることのできる立体ワーク非接触吸着手段を提供することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、立体的形状のワークの表面に沿うように形成された吸着面を有し、この吸着面と上記ワークの表面との間の細隙に高速流体による負圧を生じさせて上記ワークを吸着すべく上記吸着面の中央部に上記流体を上記細隙に供給する供給口を設けたことを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記細隙から流出する流体の流出方向は、上記供給口から細隙に供給される流体の供給方向と一致する方向から当該供給方向に対して直交する方向までの間となるように設定されていることを特徴としている。
【0008】
上記のように構成された請求項1および2に記載の発明においては、流体が供給口から細隙に供給され高速で流れることによって、当該流体の圧力(静圧)が低下して大気圧より十分低い負圧の状態になる。このため、ワークは、吸着面側に吸引されることになる。ただし、ワークが吸引されて、上記細隙がさらに狭まると、今度は流路抵抗の増大に伴って流体の圧力が増加し、ワークを押し返す力が生じることになる。したがって、ワークは、吸着面に対して所定の細隙を介して非接触の状態で安定的に保持されることになる。
【0009】
また、上記負圧は大気圧に対して十分低いものとなるとともに、吸着面に沿うワークの表面の全体に作用することになるので、当該ワークに対して大きな吸着力が作用することになる。
さらに、ワークの表面と吸着面との間隔が一定であれば、常に一定の吸着力が得られ、上記間隔が部分的にでも異なれば、吸着力が変化することになることから、上記吸着力を測定することによって、ワークの表面形状の変化を検出することができる。したがって、ワークの表面形状の検査に利用することもできる。
【0010】
請求項2に記載の発明においては、細隙から流出する流体の流出方向が供給口から細隙へ供給される流体の供給方向と一致する方向であれば、その供給方向において、細隙に供給される流体の運動量と、細隙から流出する流体の運動量とがほぼ等しくなる。この場合、上記各運動量の差によって生じる力がほぼ零になるので、当該力がワークの吸着力に影響を及ぼすことがほとんどない。
【0011】
また、流出方向が上記供給方向に対して直交する方向になると、その供給方向において、細隙に供給される流体の運動量が所定の値であるのに対して、細隙から流出するその供給方向の流体の運動量成分が零になる。この場合、上記各運動量の差によって力が生じるとともに、その力がワークを吸着面から引き離す方向に作用することになる。すなわち、細隙に供給される流体の運動量が所定の値から零まで変化することによって生じる力分だけ吸着力が低下することになる。
【0012】
さらに、流出方向が上記供給方向に対して180度逆転した方向になると、供給方向において、細隙に供給される流体の運動量が所定の値であるのに対して、細隙から流出する流体の運動量が180度逆転した方向に所定の値のものとなる。この場合、細隙に供給される流体の運動量が所定の値から零まで変化することによって生じる力に加えて、細隙から流出する流体が零から所定の値まで変化することによって生じる力が上述した吸着力を低下させる方向に作用することになる。すなわち、細隙に供給される流体の運動量が所定の値から零まで変化することによって生じる力と、細隙から流出する流体が零から所定の値まで変化することによって生じる力との合計分だけ吸着力が低下することになる。
【0013】
ただし、請求項2に記載の発明においては、流出方向が供給方向と一致する方向から当該供給方向に対して直交する方向までの間となるように設定されているので、細隙から流出する流体の方向によって吸着力が低下するのを極力抑えることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
【0015】
この第1の実施の形態で示す立体ワーク非接触吸着手段1は、図1に示すように、立体的形状のワークWkの表面であって上方に凸となる半球面状の表面Wkaに沿うように形成された半球面状の吸着面11aを有する所定の厚さの吸着板11と、この吸着板11の外周面から当該吸着板11と同軸状に突出する円柱部12とにより一体的に形成されている。そして、吸着板11および円柱部12の軸心部には、吸着板11の吸着面11aとワークWkの表面Wkaとの間の細隙11bに高速の空気(流体)を供給して負圧を生じさせるための供給口13が形成されている。この供給口13は、吸着面11aの中央部に開口しているとともに、当該吸着面11aに直交する方向に延在している。
【0016】
また、細隙11bから流出する空気の流出方向は、供給口13から細隙11bに供給される空気の供給方向と一致する設定となっている。そして、当該立体ワーク非接触吸着手段1は、吸着面11aを下方に向けた状態でワークWkを吸着するようになっている。
【0017】
上記のように構成された立体ワーク非接触吸着手段1においては、空気が供給口13から細隙11bに供給され高速で流れるため、当該空気の圧力(静圧)が大気圧より十分低い負圧の状態となる。このため、ワークWkは、吸着面11a側に吸引されることになる。ただし、ワークWkが吸着面11aに近づき過ぎると、細隙11bがさらに狭まって今度は流路抵抗の増大により空気の圧力が増大することになる。したがって、ワークWkは、吸着面11aに対して所定の間隔をおいて非接触で安定的に吸着されることになる。
【0018】
また、上記負圧は吸着面11aに沿うワークWkの表面Wkaの全体に作用することになるので、当該ワークWkに対して大きな吸着力が作用することになる。
さらに、ワークWkの表面Wkaと吸着面11aとの間隔、すなわち細隙11bの間隔が一定であれば、常に一定の吸着力が得られ、上記間隔が部分的にでも異なってくれば、吸着力が変化することになることから、上記吸着力を測定することによって、ワークWkの表面Wkaの形状が変化していることを検出することができる。したがって、ワークWkの表面Wkaの形状、例えばレンズの表面形状等の検査に利用することもできる。
【0019】
また、細隙11bから流出する空気の流出方向が供給口13から細隙11bへ供給される空気の供給方向と一致する方向となっているので、その供給方向において、細隙11bに供給される空気の運動量と、細隙11bから流出する空気の運動量とがほぼ等しくなる。このため、これらの各運動量の差によって生じる力がほぼ零になるので、当該力がワークWkの吸着力に影響を及ぼすことがほとんどない。したがって、上記負圧による強力な吸着力を発揮することができる。
【0020】
(第1の他の例)
また、図2は、上記第1の実施の形態の第1の他の例として示した立体ワーク非接触吸着手段2である。
この立体ワーク非接触吸着手段2は、立体的形状のワークWkの表面であって下方に凹となる半球面状の表面Wkaに沿うように形成された半球面状の吸着面21aを有する半球状の吸着部21と、この吸着部21の上側の平端面から当該吸着部21と同軸状に突出する円柱部22とにより一体的に形成されている。そして、吸着部21および円柱部22の軸心部には、吸着部21の吸着面21aとワークWkの表面Wkaとの間の細隙21bに高速の空気を供給して負圧を生じさせるための供給口23が形成されている。この供給口23は、吸着面21aの中央部に開口しているとともに、当該吸着面21aに直交する方向に延在している。
【0021】
また、細隙21bから流出する空気の流出方向は、供給口23から細隙21bに供給される空気の供給方向に対して180度逆転した方向となる設定となっている。そして、当該立体ワーク非接触吸着手段2は、吸着面21aを下方に向けた状態でワークWkを吸着するようになっている。
【0022】
上記のように構成された第1の他の例の立体ワーク非接触吸着手段2においても、上記立体ワーク非接触吸着手段1と同様の作用効果を奏する。
【0023】
ただし、細隙21bから流出する空気の流出方向が供給口23から細隙21bへ供給される空気の供給方向に対して180度逆転した方向になっているので、細隙21bに供給される空気の運動量は零まで変化した後に、さらに逆転して細隙21bから流出する空気の運動量まで零から変化することになる。したがって、上記各運動量をそれぞれ零まで変化させるのに相当する力が発生するとともに、当該力が上述した吸着力を低下させる方向に作用することになる。
【0024】
(第2の他の例)
また、立体ワーク非接触吸着手段としては、図1の半球状の吸着板11に代えて、半円筒状の吸着板によって形成してもよい。この半円筒状の吸着板を有する立体ワーク非接触吸着手段を上記第1の実施の形態の第2の他の例とする。なお、この第2の他の例は図1を用いて説明できるので、この図1に記された符号をそのまま用いて当該第2の他の例を説明する。
【0025】
すなわち、吸着板11は、立体的形状のワークWkの表面であって上方に凸となる半円筒面状の表面Wkaに沿うように形成された半円筒面状の吸着面11aを有している。また、吸着板11には、その外周面に円柱部12が一体的に形成されている。この円柱部12は、吸着板11の周方向および軸方向の中央部に形成されている。そして、円柱部12の軸心部には、吸着板11の吸着面11aとワークWkの表面Wkaとの間の細隙11bに高速の空気を供給して負圧を生じさせるための供給口13が形成されている。この供給口13は、吸着面11aの中央部、すなわち吸着面11aの周方向および軸方向の中央部に開口しているとともに、当該吸着面11aに直交する方向に延在している。
【0026】
また、細隙11bから流出する空気の流出方向は、供給口13から細隙11bに供給される空気の供給方向と一致する方向から当該供給方向に対して直交する方向までの間の種々の方向になる。そして、当該第2の他の例の立体ワーク非接触吸着手段1は、吸着面11aを下方に向けた状態でワークWkを吸着するようになっている。
【0027】
上記のように構成された第2の他の例の立体ワーク非接触吸着手段1も上記第1の実施の形態の立体ワーク非接触吸着手段1と同様の作用効果を奏する。
【0028】
ただし、細隙11bから流出する空気の流出方向が供給口13から細隙11bへ供給される空気の供給方向と一致する方向から当該供給方向に対して直交する方向までの間の種々の方向となるので、上記供給方向において、細隙11bから流出する空気の運動量の変化量に相当する量の力が発生するとともに、当該力が上述した吸着力を低下させる方向に作用することになる。したがって、第2の他の例においては、上記第1の実施の形態の立体ワーク非接触吸着手段1の吸着力より若干低下したものとなる。
【0029】
(第3の他の例)
また、立体ワーク非接触吸着手段としては、図2の半球状の吸着部21に代えて、半円柱状の吸着部によって形成してもよい。この半円柱状の吸着部を有する立体ワーク非接触吸着手段を上記第1の実施の形態の第3の他の例とする。なお、この第3の他の例は図2を用いて説明できるので、この図2に記された符号をそのまま用いて当該第3の他の例を説明する。
【0030】
すなわち、吸着部21は、立体的形状のワークWkの表面であって下方に凹となる半円筒面状の表面Wkaに沿うように形成された半円筒面状の吸着面21aを有している。また、半円柱状の吸着部21には、この吸着部21の上側の平端面に円柱部22が一体的に形成されている。この円柱部22は、吸着部21の幅方向の中央部でかつ軸方向の中央部に形成されている。円柱部22の軸心部には、吸着部21の吸着面21aとワークWkの表面Wkaとの間の細隙21bに高速の空気を供給して負圧を生じさせるための供給口23が形成されている。この供給口23は、吸着面21aの中央部、すなわち吸着面21aの周方向および軸方向の中央部に開口しているとともに、当該吸着面21aに直交する方向に延在している。
【0031】
また、細隙21bから流出する空気の流出方向は、供給口23から細隙21bに供給される空気の供給方向に対して直交する方向から180度逆転する方向までの間の種々の方向になる。そして、当該第3の他の例の立体ワーク非接触吸着手段1は、吸着面21aを下方に向けた状態でワークWkを吸着するようになっている。
【0032】
上記のように構成された第3の他の例の立体ワーク非接触吸着手段も上記第1の他の例の立体ワーク非接触吸着手段2と同様の作用効果を奏する。
【0033】
ただし、細隙21bから流出する空気の流出方向は、供給口23から細隙21bに供給される空気の供給方向に対して直交する方向から180度逆転する方向までの間の種々の方向となるので、まず細隙21bに供給される空気の運動量が零まで変化する量に相当する量の力が発生するとともに、細隙21bから流出する空気が逆方向に流れることによる運動量の変化分に相当する量の力が発生することになる。そして、これらの力は、上述した吸着力を低下させる方向に作用することになる。ただし、これらの力の合計は、第1の他の例で発生する力より小さい。したがって、第3の他の例においては、上記第1の他の例の立体ワーク非接触吸着手段2の吸着力より若干向上したものとなる。
【0034】
(理論的解析)
上記第1の実施の形態およびその他の例に関して、さらに理論的に考察する。まず、上記第1の実施の形態の立体ワーク非接触吸着手段1に関し、吸着面11aとワークWkの表面Wkaとが同心状に位置し、細隙11bの半径方向の寸法であるクリアランスtが一定の場合について、図3を参照して説明する。
ワークWkの表面Wkaの中心を座標軸の原点とし、x軸を供給口13の延在する方向に対して直交する方向に設け、y軸を供給口13に延在する方向であって、当該供給口13に向かう方向に正となるように設けた。
【0035】
まず、吸着面11aおよびワークWkの表面Wkaの半径をともにRとし、y軸からの距離(供給口13の中心からの距離)をrとし、y軸とのなす角度をθとして示すと、y軸からr位置の細隙11b内の圧力(静圧)pは、次のようにモデル化できる。
p=po−CQ2 /r2 …(1)
ここに、
C=1/(8π2 ρt2 ) …(2)
ただし、poは供給口13から供給される空気の全圧、Qは供給口13から供給される空気の流量、ρは密度である。
【0036】
そして、
r=Rsinθ …(3)
より、
p=po−CQ2 /R2 sin2θ …(4)
となる。
【0037】
吸着面11aに沿って発生する最大吸着力Wmax,pは、圧力を供給口13の半径の角度θoから負圧が大気圧paに等しくなる位置の角度θcまで積分して得られる。すなわち、
Wmax,p=∫(pa−p)2πrRdθ−2πR2 (1−cosθo)(po−pa)
=2πCQ2 ln(tan(θc/2)/tan(θo/2))
−2πR2 (1−cosθc)(po−pa) …(5)
となる。
【0038】
実用的には、吸着面11aに沿った吸着力よりも吸着力のy成分、つまり、吊り下げ荷重の方に意義がある。この吸着力のy成分は、微分面積にcosθを乗じて上記と同様の積分を行うことによって求まる。すなわち、
Wmax,p=∫(pa−p)2πrRcosθdθ−2πR2 (1−cosθo)(po−pa)
=2πCQ2 ln(sinθc/sinθo)
−2πR2 (po−pa)((sin2 θc−sin2 θo)/2+(1−cosθo)) …(6)
【0039】
上記(4)式はRが小さいとθcが大きくなることを示しており、このことより上記(6)式第1項の吸引力はRが小さいほど大きくなる。また、第2項の反発力はRが減少するとその2乗に比例して小さくなる。結果として、球面吸着の場合、一定の流量Qに対して半径Rが小さくなる程吸着力は大きくなる。
【0040】
次に、実用的な使用環境ではサイズの異なる種々のワークWkに適用するケースが考えられることから、径が異なる2つの球面に対する吸着力について理論的な考察を行う。
【0041】
すなわち、吸着面11aおよびワークWkの表面Wkaの中心が図4に示すように、距離dで偏心しているものとして理論展開する。
この場合、吸着面11aの半径をRo、ワークWkの表面Wkaの半径をRiとすると、クリアランスtは角度θによって、
t(θ)=(Ro2 +d2 sin2 θ)1/2 −dcos2 θ−Ri …(7)
と表される。したがって、圧力分布は、
p=po−CoQ2 /t2 (θ)sin2θ …(8)
となる。ただし、
Co=1/(8π2 ρRi2 ) …(9)
である。
【0042】
よって、吸着面11aに沿って発生する最大吸着力Wmax,pは、圧力をθo〜θcの範囲で積分して求められる。すなわち、
Wmax,p=∫(pa−p)2πrRidθ−2πRi2 (1−cosθo)(po−pa)
=2πRi2 CoQ2 ∫dθ/sinθt2 (θ)
−2πRi2 (1−cosθo)(po−pa) …(10)
となる。
【0043】
上記(10)式の右辺の積分は複雑であり数値計算によって求める必要がある。また、吸着力のy成分は前述した場合と同様にcosθを加味して、
Wmax,p=∫(pa−p)2πrRi cosθdθ−2πRi2 (1−cosθo)(po−pa)
=2πRi2 CoQ2 ∫dθ/tanθt2 (θ)
−2πRi2 (po−pa)((sin2 θc−sin2 θo)/2+(1−cosθo))…(11)
となる。
【0044】
上記(11)式において、Roが大きくなると積分関数の値は小さくなる。このことから、ワークWkの表面Wkaと吸着面11aとが偏心した状態になると吸着力が減少することになり、RiとRoとが同心状に位置するとき、つまりクリアランスtが吸着面11aに沿って一定のときに吸着力が最大になることが分かる。
【0045】
次に、上記第1の実施の形態の第2の他の例で示した半円筒面状の吸着面11aで同じく半円筒面状のワークWkの表面Wkaを吸着するメカニズムについて考察する。
この場合には、流管断面積を形状パラメータで表すのが容易ではない。このため、円筒面の半径Dが十分大きく、細隙11bに供給された空気が負圧から大気圧に転換する点である負圧正圧転換点rcが比較的小さく曲率の影響が少ない場合に対して近似解を得ることを試みた。そこで、供給口13から下流域の圧力は、平板吸着面の場合と同様の分布をもって近似する。図5のように、平板の圧力分布を円筒面に等角写像し、その円筒面の微分面積に働く吸着力にcosψを乗じて最大吸着力のy軸成分を計算する。
【0046】
平板の圧力分布は(1)式および(2)式で与えられるから、y軸方向の最大吸着力Wmax,pは、次の(12)、(13)式を考慮して、(14)式によって表せる。
L=(r2 sin2 θ+D2 )1/2 …(12)
cosψ=D/L …(13)
Wmax,p=∫(pa−p)dA cosψ−πro2 (po−pa)
=∫(pa−p)rdθdrD/(r2 sin2 θ+D2 )1/2 −πro2 (po−pa)
=CDQ2 ∫drdθ/r(r2 sin2 θ+D2 )1/2
−(po−pa)∫rdrdθD/(r2 sin2 θ+D2 )1/2 −πro2 (po−pa)…(14)
ただし、roは供給口13の半径である。
【0047】
(14)式は、吸着面11aおよび表面Wkaの径である円筒径D=∞のとき、吸着面11aが平板状に形成された場合の吸着力を表す式(後述の(23)式)に帰結する。また、(14)式において、第1項は吸引力成分を表し、第2項および第3項は反発力成分を表す。第1項は、円筒径が1/Dのファクタで残るのでDが小さいほど、つまり円筒の曲率が大きいほど吸引力が大きくなることを示している。これに反し、第2項の反発力の場合は、Dのファクタで残るためDが小さくなるほど反発力は弱まる。したがって、トータルとしての吸着力は、円筒半径Dが小さいほど大きくなり、逆に、Dが大きくなるにしたがい吸着力が弱まり、その最小値が平面状の吸着面による吸着力に等しくなる。
【0048】
(運動量ベクトル)
また、ワークWkには上記空気の圧力に起因する吸引力の他に空気の運動量ベクトルの変化によって発生する力Fが作用することになるので、この力についても併せて理論解析を行う。
すなわち、実際には、上述した負圧による最大吸着力Wmax,pに対して上記力Fを考慮した値が最大吸着力になる。
なお、これまでの理論解析の中で表記した最大吸着力は空気の圧力に基づく吸着力成分を表すものであり、その意味で添字のpを付してWmax,pの記号を用いた。したがって、力Fを考慮した場合の最大吸着力としてはWmaxの記号を用いて表示する。
【0049】
すなわち、最大吸着力Wmaxは、
Wmax=Wmax,p−F …(15)
となる。ただし、力Fは、一般に最大吸着力Wmax,pを低減する方向に作用するので、上記(15)式のようにマイナスの符号を付して表した。
【0050】
上記力Fは、図6に示すように、入口と出口の空気(流体)の運動量に差が生じるシステムにおいて発生する力であり、
F=Q(v−v´cosθ) …(16)
で表される。ここに、vはシステムに流入する空気の流速であり、v´はシステムから流出する空気の流速であり、θは空気のシステムへの流入方向に対する当該空気の流出方向の角度である。また、力Fは、F>0のとき抗力を意味し、F<0のとき推力を意味する。
【0051】
上記(16)式を、図7(a)に示す吸着面およびワークの表面が平面状のもの、同図(b)に示す吸着面およびワークの表面が半球面状のもの(上記第1実施の形態に相当)、同図(c)に示す吸着面およびワークの表面が半円筒面状のもの(上記第1の実施の形態の第2の他の例に相当)のそれぞれに当てはめて、それぞれの力Ff、Fs、Fcを解析すると次のようになる。
【0052】
すなわち、図7(a)の場合の力Ffは、
Ff=Q(v−v´cos(π/2))
=Qv …(17)
となる。ただし、cos(π/2)=0である。
【0053】
図7(b)の場合の力Fsは、
Fs=Q(v−v´cos(0))
=Q(v−v´) …(18)
となる。ただし、cos(0)=1である。
【0054】
図7(c)の場合の力Fcは、
Fc=Qv−∫∫dQd(v´cosθ) …(19)
となる。
【0055】
図7のvおよびv´の方向から、
Ff>Fc>Fs …(20)
となることが分かる。
したがって、抗力としての上記各力Ff、Fs、Fcを考慮した場合の最大吸着力をそれぞれWmax,f(図7(a))、Wmax,s(図7(b))、Wmax,c(図7(c))として比較すると、
Wmax,s>Wmax,c>Wmax,f …(21)
となる傾向になることが分かる。
【0056】
同様にして、図1を参照して示した第1の実施の形態(下向き半球)や第2の他の例(下向き半円筒)の場合の上記力Fs、Fcを考慮した最大吸着力Wmax,Nと、図2を参照して示した第1の他の例(上向き半球)や第3の他の例(上向き半円筒)の場合の上記力Fs、Fcを考慮した最大吸着力Wmax,Rとを比較すると、
Wmax,N>Wmax,R
となる。これは、第1の実施の形態の場合および第2の他の例の場合には、それぞれθ=0度、θ=0〜90度となるのに対して、第1の他の例および第3の他の例場合には、それぞれθ=180度、θ=90〜180度となるからである。
【0057】
以上の結果から、θを90度以下に設定することによって、より大きな吸着力を得ることができるということが分かる。
【0058】
(第2の実施の形態)
次ぎに、この発明の第2の実施の形態を図8および図9を参照して説明する。この第2の実施の形態で示す立体ワーク非接触吸着手段3は、ワークWkとしてのボトルBの上部を非接触で吸着するように構成したものであり、ボトルBにおける胴部B0の上側に形成された肩部B1、この肩部B1の上側に形成された首部B2に設けられたキャップの側面部B3および同キャップの頂面部B4に沿うように形成された吸着面31aを有する吸着部31と、この吸着部31の外周面に設けられた整流板32とを備えている。
【0059】
すなわち、吸着面31aは、ボトルBにおける円板状に形成された頂面部B4、円筒状に形成された側面部B3および円筒状の胴部B0から円筒状の首部B2に向けて漸次縮径するテーパ状に形成された肩部B1からなる被吸着表面B5に沿うべく凹状に形成されている。
【0060】
そして、吸着部31には、吸着面31aと被吸着表面B5との細隙31bに高速の空気を供給して負圧を生じさせるための供給口33が形成されている。この供給口33は、吸着面31aの中央部であって頂面部B4の中央部に対応する位置に開口しているとともに、当該頂面部B4に対応する吸着面31aに直交する方向に延在している。
【0061】
また、吸着部31は、吸着面31aを被吸着表面B5に係合させた状態において、外周面が胴部B0の外周面よりわずかに大径に形成された円筒面になっている。
【0062】
整流板32は、円筒状に形成されたものであり、吸着部31の下部外周面に嵌合されてボルト34で固定されることにより、細隙31bから流出する空気を胴部B0の外周面に沿って、ボトルBの下方に案内するようになっている。
【0063】
上記立体ワーク非接触吸着手段3によってボトルBを吊り下げる場合のボトル肩部B1に働く最大吸着力Wmax,pは、
Wmax,p=2πCQ2 ln((ro+(rc−ro)cosθ)/ro)
−π(ro+(rc−ro)cosθ)2 (po−pa) …(22)
となる。ただし、roは頂面部B4の半径、rcは肩部B1を平板と仮定した場合のボトルBの中心から負圧正圧変換点の位置までの半径、θは肩部B1の傾斜角度である。
【0064】
上記(22)は、θ=0のとき平板の吸着ディスクによる最大吸着力Wmax,p(下記(23)式)となる。すなわち、吸着力は、θが零のとき平板吸着ディスクに一致して最大となり、θが大きくなるにしたがって減少することになる。このことを定量的に調べるため、吸着面が供給口から平面状に延在する場合と、吸着面が供給口から肩部B1のように円錐面状に延在する場合の吸着力について比較する。
【0065】
まず、平面状の場合の最大吸着力Wmax,p1は、
Wmax,p1=2πCQ2 ln(rc/ro)−πrc2 (po−pa) …(23)
となる。ただし、この場合のroは供給口の半径である。
【0066】
したがって、平面状の場合の最大吸着力に対する円錐面状の場合の最大吸着力の割合比Wmax,p/Wmax,p1を比較することができる。
簡単のため、(22)式と(23)式のそれぞれの第1項の吸引力の比をとってみる。
Wmax,pの第1項/Wmax,p1の第1項=ln(1+(rc−ro)cosθ/ro)/ln(rc/ro)…(24)
となる。
【0067】
例えばrc=20mmとし、平板とボトルのroの値をそれぞれ2.5mm、12mmとし、θ=60度とした場合には、円錐面の吸着力の吸引力成分は、平面の吸着力の吸引力成分の約1.4%になる。
したがって、ボトルBのうち肩部B1の円錐面の部分に作用する吸着力はそれほど大きくないことが分かるとともに、頂面部B4のような面積の狭い平面部であっても平板の吸着面となるように空気を供給して、吸着力の増加を図ることが好ましいことが分かる。
【0068】
上記のように構成された立体ワーク非接触吸着手段3においては、吸着面31aをボトルBの上部に係合させて、供給口33から空気を供給することにより、ボトルBを空気を介して間接的に保持することができる。しかも、流速の最も速い段階で平面状の頂面部B4を流れるので、大きな吸着力を効率よく得ることができる。
【0069】
また、整流板32によって、細隙31bから流出する空気の流れの方向を、供給口33から供給される空気の流れの方向と一致させることができるので、空気の運動量の変化によって吸着力が低下するのを極力抑えることができる。
【0070】
なお、上記第2の実施の形態においては、ボトルBとして胴部B0が円筒形状に形成され、肩部B1がテーパ状(円錐面状)に形成されたものを示したが、このボトルとしては、胴部が例えば4角筒などの多角形状の筒状に形成し、肩部も多角錐面状に形成されたものであってもよい。この場合には、吸着面は、ボトルにおけるキャップの平板状の頂面部、同キャップの円筒状の側面部やこのキャップを設ける円筒状の首部の側面部およびこの首部に向けて多角筒状の胴部から漸次縮径する多角錐面状の肩部からなる被吸着表面に沿うべく凹状に形成されることになる。
【0071】
【実施例】
以下、この発明の実施例を説明する。ここでは、図10に示す装置を用い、上記第1実施の形態に対応する第1実施例、上記第1の他の例に対応する第2実施例、上記第2の他の例に対応する第3実施例および上記第3の他の例に対応する第4実施例について、圧力、吸着力等を測定する実験を行った。
【0072】
1.実験条件
第1実施例〜第4実施例において、
吸着面の半径:50mm
ワークの表面の半径:49mm
供給口の半径:2.5mm
細隙に供給する流体:最大0.5MPaの工業用圧縮空気
静圧測定位置:供給口の中心から周方向に所定の間隔をおいて静圧測定用の孔を設けた。供給口を含めた各孔のピッチは、供給口から第4孔目までは5mm、4孔から外方は10mmである。
なお、各孔の圧力は、各継手E3を介して通常の歪み測定式の圧力計またはマノメータ(圧力が大気圧に対して微小の場合)を用いて検出した。
全圧測定位置:ワークにおける、供給口に対して同軸状に形成された孔を介して測定した。この場合、全圧はワークとなる側に設けられた継手E1または継手E2を介して測定することになる。
吸着力:最大吸着力Wmax(上述した力Fを含む値)を測定した。
【0073】
また、第3実施例および第4実施例において、
吸着面の軸方向の長さ:100mm
である。
【0074】
2.実験結果
(1)第1実施例および第2実施例の全圧と最大吸着力Wmaxとの関係
第1実施例(半球面状の吸着面下向き)および第2実施例(半球面状の吸着面上向き)について、吹出口から噴出する空気の全圧と、最大吸着力Wmax(この場合、空気の運動量に起因する上述した力Fが考慮されたものとなる)との関係を実験で求めた結果を図11に示す。
【0075】
なお、図11において、●印は第1実施例の実験結果であり、×印は第2実施例の実験結果である。
また、全圧および最大吸着力Wmaxの測定は、予め最大吸着力Wmaxとなる重さの荷重を荷重取付具G(図10)に取り付けておき、全圧を漸次低減することにより、ワークが吸着面から落下する直前の全圧を検出することによって行った。他の実験も同様である。
【0076】
図11の実験結果から、全圧がほぼ0.4MPa以上と高く細隙を流れる空気の流量が多く安定した状態においては、第1実施例の最大吸着力Wmaxは第2実施例の最大吸着力Wmaxの2倍以上の大きさになることが確認できる。これは、第2実施例の場合、上述したように、空気流の運動量ベクトルが180度向きを変えることに起因しているものと考察できる。なお、第1実施例の最大吸着力Wmaxのうち最大値は9kgf強となっており、平板の吸着面の場合(図示せず)の約2倍になっている。
【0077】
また、最大吸着力Wmaxは、全圧の増加とともに指数関数的に上昇することも確認できた。そして、第1実施例および第2実施例ともに、全圧が0.4MPaに達したあたりから、最大吸着力Wmaxが急激に上昇する傾向にあることが分かる。したがって、供給口に供給する空気の全圧としては0.4MPa以上に設定することが好ましい。
【0078】
(2)第3実施例および第4実施例の全圧と最大吸着力Wmaxとの関係
第3実施例(半円筒面状の吸着面下向き)および第4実施例(半円筒面状の吸着面上向き)について、吹出口から噴出する空気の全圧と、最大吸着力Wmaxとの関係を実験で求めた結果を図12に示す。なお、図12において、●印は第3実施例の実験結果であり、×印は第4実施例の実験結果である。
【0079】
図12の実験結果から、全圧がほぼ0.4MPa以上と高く細隙を流れる空気の流量が多く安定した状態においては、第3実施例の最大吸着力Wmaxが第4実施例の最大吸着力Wmaxより大きくなることが確認できる。これは、第4実施例の場合、上述したように、空気流の運動量ベクトルが部分的に180度向きを変えることに起因しているものと考察できる。
【0080】
また、第3実施例の最大吸着力Wmaxのうち最大値は6kgfとなっており、平板の吸着面の場合(図示せず)の約1.5倍になっている。これは、第3実施例の場合は、吸着面が半円筒面状となっており、空気の運動量の変化に関し、半球面の特性と平面の特性とを併せもっているためと考察できる。
【0081】
さらに、最大吸着力Wmaxは、全圧の増加とともに指数関数的に上昇することも確認できた。そして、第3実施例および第4実施例ともに、全圧が0.4MPaに達したあたりから、最大吸着力Wmaxが急激に上昇する傾向にあることが分かる。したがって、供給口に供給する空気の全圧としては0.4MPa以上に設定することが好ましい。
【0082】
(3)第1実施例および第2実施例の圧力分布
第1実施例(半球面状の吸着面下向き)および第2実施例(半球面状の吸着面上向き)についての圧力分布の測定結果をそれぞれ図13および図14に示す。
【0083】
図13の実験結果から、第1実施例は、半球面の中心角度で供給口の中心から約20度以内の範囲に大きな負圧が発生し、この範囲に強力な吸着力が発生していることが分かる。また、平面状の吸着面の場合の圧力分布(図示せず)に比べて負圧正圧転換点の位置が5mm程度供給口側に位置することが確認でき、負圧発生領域は半球面の方が平面の場合より狭くなることが分かる。
【0084】
また、第1実施例は、負圧正圧転換点より外側において、平面状の吸着面の場合に比べて、正圧方向にかなり大きなオーバーシュートが観測される。そして、図13には明瞭に表れていないが、測定データ上では、オーバーシュートの後、再び、約10mmH2O程度の負圧が吸着面の外縁まで発生している。この負圧も、最大吸着力に少なからず寄与しているものと思われる。
【0085】
一方、図14に示す第2実施例は、第1実施例のような正圧の強いオーバーシュート現象がほとんど発生せず、この点は平板の吸着面の場合と同様である。負圧の範囲は、供給口の中心から約24度以内となっており、第1実施例より広くなっている。ただし、吸着力は第1実施例の1/2以下となっており、上述したように、空気流の運動量ベクトルが180度向きを変えることに起因しているものと考察できる。
【0086】
(4)第3実施例および第4実施例の圧力分布
第3実施例(半円筒面状の吸着面下向き)および第4実施例(半円筒面状の吸着面上向き)についての圧力分布の測定結果をそれぞれ図15および図16に示す。
【0087】
図15の実験結果から、第3実施例は、圧力分布のプロファイルが第1実施例(図13)と同様の傾向になっている。ただし、正圧のオーバーシュートとその外側に発生する負圧は、ともに第1実施例の場合より弱くなっている。これは、最大吸着力が第1実施例よりも小さくなる要因の一つとなっている。
【0088】
一方、図16に示す第4実施例は、圧力分布が非常に整然とした挙動を示す結果となった。すなわち、吸着力が0.45kgfから3.01kgfへと大きくなるにつれて供給口の全圧が大きくなり、無次元圧力である(p−pa)/(po−pa)が負圧側にU字状に変化し、再び圧力零のラインに滑らかに戻る傾向を示している。
【0089】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1および2記載の発明によれば、流体が供給口から細隙に供給され高速で流れることによって、当該流体の圧力(静圧)が低下して大気圧より十分低い負圧の状態になるとともに、この負圧が吸着面に沿うワークの表面の全体に作用することになるので、当該ワークに対して大きな吸着力を作用させることができる。
【0090】
さらに、ワークの表面と吸着面との間隔が一定であれば、常に一定の吸着力が得られ、上記間隔が部分的にでも異なれば、吸着力が変化することになることから、上記吸着力を測定することによって、ワークの表面形状の変化を検出することができる。したがって、ワークとしての例えばレンズの表面形状の検査に利用することもできる。
【0091】
請求項2に記載の発明によれば、流体の流出方向が流体の供給方向と一致する方向から当該供給方向に対して直交する方向までの間となるように設定されているので、細隙から流出する流体の方向によって吸着力が低下するのを極力抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1の実施の形態として示した立体ワーク非接触吸着手段の断面図であるとともに、当該第1の実施の形態の第2の他の例として示した立体ワーク非接触吸着手段の断面図である。
【図2】上記第1の実施の形態の第1の他の例として示した立体ワーク非接触吸着手段の断面図であるとともに、当該第1の実施の形態の第3の他の例として示した立体ワーク非接触吸着手段の断面図である。
【図3】上記第1の実施の形態および上記第1の他の例の立体ワーク非接触吸着手段の理論解析のために用いた断面説明図である。
【図4】同立体ワーク非接触吸着手段の理論解析のために用いた断面説明図である。
【図5】上記第2の他の例および上記第3の他の例の立体ワーク非接触吸着手段の理論解析のために用いた説明図である。
【図6】流体の運動量ベクトル(運動量)の変化によって力が発生する概念を説明するための説明図である。
【図7】流体の運動量ベクトルの変化によって力が発生する概念を説明する図であって、(a)は吸着面が平面の場合の説明図であり、(b)は吸着面が半球面の場合の説明図であり、(c)は吸着面が半円筒面の場合の説明図である。
【図8】この発明の第2の実施の形態として示した立体ワーク非接触吸着手段の断面図である。
【図9】同立体ワーク非接触吸着手段の理論解析のために用いた断面説明図である。
【図10】この発明の実施例を示す図であり、実験に用いる立体ワーク非接触吸着手段の一例を示す断面説明図である。
【図11】同実施例のうち、第1実施例と第2実施例の実験結果を示す図であって、全圧と最大吸着力との関係を示す図である。
【図12】同実施例のうち、第3実施例と第4実施例の実験結果を示す図であって、全圧と最大吸着力との関係を示す図である。
【図13】同実施例のうち、第1実施例の圧力分布の実験結果を示す図である。
【図14】同実施例のうち、第2実施例の圧力分布の実験結果を示す図である。
【図15】同実施例のうち、第3実施例の圧力分布の実験結果を示す図である。
【図16】同実施例のうち、第4実施例の圧力分布の実験結果を示す図である。
【符号の説明】
11a、21a、31a 吸着面
11b、21b、31b 細隙
13、23、33 供給口
Wk ワーク
Wka 表面
Claims (2)
- 立体的形状のワークの表面に沿うように形成された吸着面を有し、この吸着面と上記ワークの表面との間の細隙に高速流体による負圧を生じさせて上記ワークを吸着すべく上記吸着面の中央部に上記流体を上記細隙に供給する供給口を設けたことを特徴とする立体ワーク非接触吸着手段。
- 上記細隙から流出する流体の流出方向は、上記供給口から細隙に供給される流体の供給方向と一致する方向から当該供給方向に対して直交する方向までの間となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の立体ワーク非接触吸着手段。
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---|---|---|---|
JP2002289048A JP2004122282A (ja) | 2002-10-01 | 2002-10-01 | 立体ワーク非接触吸着手段 |
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Country | Link |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2021017347A (ja) * | 2019-07-22 | 2021-02-15 | 不二輸送機工業株式会社 | 移載装置、移載方法、及びロボットハンド |
JP2022161793A (ja) * | 2021-04-09 | 2022-10-21 | 浙江大学 | 拡張放射流動機構 |
-
2002
- 2002-10-01 JP JP2002289048A patent/JP2004122282A/ja active Pending
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JP2022161793A (ja) * | 2021-04-09 | 2022-10-21 | 浙江大学 | 拡張放射流動機構 |
JP7262829B2 (ja) | 2021-04-09 | 2023-04-24 | 浙江大学 | 拡張放射流動機構 |
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