JP2002129071A5 - - Google Patents
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Description
【書類名】 明細書
【発明の名称】 可消色性組成物及びその製造方法及び可消色性着色剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくともマトリックス材料、顕色剤、前記顕色剤との分子間相互作用により発色する呈色性化合物、及び前記顕色剤と前記呈色性化合物との分子間相互作用よりも強く、前記顕色剤と分子間相互作用する消色剤からなる可消色性組成物であって、
(1)該組成物が粒子状可消色性着色剤として用いられる場合は、前記粒子状可消色性着色剤中では、前記消色剤は、常に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記粒子状可消色性着色剤の直径を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、
(2)該組成物が薄膜状画像形成材として用いられる場合は、前記薄膜状画像形成材中では、前記消色剤は、常に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記薄膜状画像形成材の膜厚を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、
(3)該組成物が繊維状着色剤として用いられる場合は、前記繊維状着色剤中では、前記消色剤は、常に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記繊維状着色剤の繊維断面の直径を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、
上記のいずれの場合においても、発色状態においては、前記顕色剤は前記マトリックス材料中に前記呈色性化合物と分子間相互作用して存在し、消色状態においては、前記顕色剤は前記呈色性化合物と分子間相互作用せずに、微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在する前記消色剤の表面に吸着されて前記消色剤と分子間相互作用して存在することを特徴とする可消色性組成物。
【請求項2】 前記消色剤の表面が非平滑である請求項1に記載の可消色性組成物。
【請求項3】 粒子状である請求項2に記載の可消色性組成物。
【請求項4】 少なくともマトリックス材料、顕色剤、前記顕色剤との分子間相互作用により発色する呈色性化合物、及び前記顕色剤と前記呈色性化合物との分子間相互作用よりも強く、前記顕色剤と分子間相互作用する消色剤からなる可消色性組成物の製造方法であって、前記マトリックス材料、前記顕色剤、前記呈色性化合物、及び前記消去剤からなる混合物を混練りする混練りする工程において、前記消色剤を前記混合物中に、その形状を球で近似したときの平均直径が下記の(1)乃至(3)の群から選択される値を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在するよう分散させることを特徴とする可消色性組成物の製造方法。
(1)該組成物が粒子状可消色性着色剤として用いられる場合は、前記粒子状可消色性着色剤の形状を球で近似したときの平均直径、
(2)該組成物が薄膜状可消色性画像形成材として用いられる場合は、前記薄膜状画像形成材の膜厚、
(3)該組成物が繊維状可消色性着色剤として用いられる場合は、前記繊維状着色剤の繊維断面の直径。
【請求項5】 前記混練り工程において、前記混合物が摩擦熱による発熱で溶融・流動状態に至るまでの期間に渡り、前記混合物へ単位時間に印加する単位重量当たりの平均仕事率を2乃至30kW/kgとする請求項4に記載の可消色性組成物の製造方法。
【請求項6】 請求項1又は請求項3に記載の可消色性組成物からなるトナー。
【請求項7】 請求項1又は請求項3に記載の可消色性組成物の微粒子を水を含む溶剤系中に分散させてなることを特徴とする可消色性水性着色剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、発色状態の呈色性化合物を無色の消色状態へ変えることのできる可消色性組成物及びその製造方法及び可消色性着色剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、コンピューター、プリンター、複写機、ファクシミリなどの普及により、紙による情報の出力が増加している。紙への出力を削減すべく「情報の電子化によるペーパーレス化」が叫ばれるものの、視認性の良さ、高い携帯性、ページめくりによる情報検索の手軽さ、などの特徴から、紙へのハードコピーの要望は絶えることがない。その結果、紙の原料となる天然資源の保護及びゴミ処理量の低減・二酸化炭素排出量の削減が解決すべき課題となるに至っている。「紙の再生・再利用」は、天然資源の保護及びゴミ処理量の低減・二酸化炭素排出量の削減の各局面において、極めて今日的な課題である。
【0003】
このような事情から、紙へ印刷・印字するための画像形成材料(各種印刷インキ、トナー、ジェットインクなど)を印刷・印字後に無色化する技術は、紙の再生・再利用を推進する上で極めて重要である。即ち、従来の紙の再生方法においては、回収紙を水で再解膠した後、いわゆる「脱墨工程」においてインク部分を浮遊分離する方法や漂白剤を用いて脱色する方法が用いられており、これらが、新規に製紙する場合に比べて工程経費を高くする要因となっている。
従って、発色状態の呈色性化合物を無色の消色状態へ変えることのできる可消色性着色剤を用いた画像形成材料によって印刷された紙は、従来のような手間の掛かる脱墨工程を経ることなしに、再利用或いは再生することが可能になると期待される。
【0004】
近年、可消色性着色剤について種々検討が行われ、熱を加えることにより消色可能な可消色性着色剤が、例えば、特開平7−81236号公報や特開平10−88046号公報に開示されている。前者の公開公報には、ロイコ染料などの呈色性化合物と、顕色剤と、消色作用を有する有機リン酸化合物とを含有する可消色性着色剤が、又、後者の公開公報には、ロイコ染料などの呈色性化合物と顕色剤との組み合わせに対して、熱を加えることによって消色作用を示す消色剤としてコール酸、リトコール酸、テストステロン、コルチゾンなどのステロール化合物を使用する可消色性着色剤が開示されている。
【0005】
又、有機溶剤と接触させることにより消色可能な可消色性着色剤が、例えば特開2000−109896号公報に開示されている。この可消色性着色剤は、ロイコ染料などの呈色性化合物、顕色剤、及び、消色剤からなるものであり、消色剤として、顕色剤を物理的又は化学的に吸着することが可能な電子供与性基を有する高分子化合物(例えば、デンプン、デンプン誘導体、セルロース誘導体など)を用いることが特徴であり、可消色性着色剤の製造方法としては、バインダー樹脂としてのポリスチレン、呈色性化合物、顕色剤、及び、消色剤からなる混合物をニーダーを用いて混練りし、この混練り物を粉砕機で粉砕する方法が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来の可消色性着色剤は、各々特長がある反面、発色性の良さと消色性の良さを両立することが容易でなかったり、印刷物としての実使用条件における耐久性に乏しかったり、コストが高いなどの欠点があり、本格的実用化のためには一層の性能向上が望まれているのが実状である。
従って、本発明の目的は、消色可能な、印刷物としての実使用条件における発色状態が良好且つ安定で、画像形成材料として印刷・印字などに用いられた後で、加熱や有機溶剤との接触などの消色処理によって簡単に消色することができ、且つ、その消色状態を安定に維持することができる可消色性組成物及びその製造方法を提供することである。
本発明者は、従来の技術において、可消色性着色剤の発色及び消色が不充分になる原因を種々検討した結果、可消色性着色剤中の消色剤の存在形態及び顕色剤との分子間相互作用が重要な支配要因であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、少なくともマトリックス材料、顕色剤、前記顕色剤との分子間相互作用により発色する呈色性化合物、及び前記顕色剤と前記呈色性化合物との分子間相互作用よりも強く、前記顕色剤と分子間相互作用する消色剤からなる可消色性組成物であって、
(1)該組成物が粒子状可消色性着色剤として用いられる場合は、前記粒子状可消色性着色剤中では、前記消色剤は、常に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記粒子状可消色性着色剤の直径を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、
(2)該組成物が薄膜状画像形成材として用いられる場合は、前記薄膜状画像形成材中では、前記消色剤は、常に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記薄膜状画像形成材の膜厚を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、
(3)該組成物が繊維状着色剤として用いられる場合は、前記繊維状着色剤中では、前記消色剤は、常に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記繊維状着色剤の繊維断面の直径を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、
上記のいずれの場合においても、発色状態においては、前記顕色剤は前記マトリックス材料中に前記呈色性化合物と分子間相互作用して存在し、消色状態においては、前記顕色剤は前記呈色性化合物と分子間相互作用せずに、微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在する前記消色剤の表面に吸着されて前記消色剤と分子間相互作用して存在することを特徴とする可消色性組成物である。
【0008】
又、本発明は、少なくともマトリックス材料、顕色剤、前記顕色剤との分子間相互作用により発色する呈色性化合物、及び前記顕色剤と前記呈色性化合物との分子間相互作用よりも強く、前記顕色剤と分子間相互作用する消色剤からなる可消色性組成物の製造方法であって、前記マトリックス材料、前記顕色剤、前記呈色性化合物、及び前記消去剤からなる混合物を混練りする混練りする工程において、前記消色剤を前記混合物中に、その形状を球で近似したときの平均直径が下記の(1)乃至(3)の群から選択される値を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在するよう分散させることを特徴とする可消色性組成物の製造方法である。
(1)該組成物が粒子状可消色性着色剤として用いられる場合は、前記粒子状可消色性着色剤の形状を球で近似したときの平均直径、
(2)該組成物が薄膜状可消色性画像形成材として用いられる場合は、前記薄膜状画像形成材の膜厚、
(3)該組成物が繊維状可消色性着色剤として用いられる場合は、前記繊維状着色剤の繊維断面の直径。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に発明の好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
本発明の可消色性組成物が加工されて粒子状可消色性着色剤として用いられる場合、その粒子の大きさは、着色剤としての用途に応じて最適な大きさが選定される。例えば、ポスターカラーとして数cm乃至数十cmの大きさの文字の筆記に使われたり、ポスター全面に塗工されたりする場合は、形状を球で近似したときの平均直径として数十μm乃至百数十μmという比較的大きなサイズであっても使用可能である。本発明の粒子状可消色性着色剤が複写機やプリンターのトナーとして使用される場合は、粒子の形状を球で近似したときの平均直径として10μm前後乃至7μm程度の大きさが好適である。本発明の粒子状可消色性着色剤を分散して筆記具用水性インクやインクジェットプリンターのインク(ジェットインク)として使用する場合は、粒子の形状を球で近似したときの平均直径として、筆記具用水性インクでは8μm以下、ジェットインクでは2μm以下にすることが好ましい。
【0010】
本発明の可消色性組成物が加工されて薄膜状可消色性画像形成材として用いられる場合は、その薄膜の厚さは、着色剤としての用途に応じて最適な値が選定される。例えば、大判の掲示物のための画像形成材として用いられる場合、薄膜としての厚さは数十μm乃至百数十μmという比較的大きな値であっても使用可能である。一方、熱転写プリンターのインクリボンとして用いられる場合は、薄膜としての厚さは数μm乃至十数μmであることが好ましい。
従って、本発明の可消色性組成物が加工されて繊維状可消色性着色剤として用いられる場合は、その繊維断面の直径は、着色剤としての用途に応じて最適な値が選定される。例えば、紙に漉き混み、紙に可消色性の着色を施す場合には、繊維断面の直径は数μm乃至十数μmであることが好ましい。
【0011】
以下、本発明の可消色性組成物を構成するマトリックス材料、呈色性化合物、顕色剤、及び消色剤について順次詳細に説明する。
[マトリックス材料]
本発明の可消色性組成物に用いられるマトリックス材料としては、有機高分子化合物又は低分子化合物を使用することができる。以下、必要に応じて、有機高分子化合物からなるマトリックス材料を高分子マトリックス材料、又低分子化合物からなるマトリックス材料を低分子マトリックス材料と呼ぶこととする。
【0012】
本発明の可消色性組成物に用いられる高分子マトリックス材料は、本可消色性組成物を画像形成材料として用いる際に通常追加して使用される結着剤樹脂と同一でも、異なっても良い。
例えば、ジェットインク(インクジェットプリンター用のインク)のように粒子状可消色性着色剤を、そのまま、溶剤(水又は有機溶剤)に分散させた形態の画像形成材料の場合、追加して使用される結着剤樹脂乃至分散剤は、前記溶剤に可溶であって、一方、可消色性組成物に用いられるマトリックス材料は前記溶剤に不溶性・不膨潤性であることが必要である。
【0013】
又、例えば、オフセットインキのように粒子状可消色性着色剤をワニスに分散させて使用する場合には、可消色性組成物に用いられるマトリックス材料は、ワニスの溶剤である亜麻仁油、大豆油、高沸点の石油系溶剤などに不溶性・不膨潤性であることが必要である。
更に、例えば、クレヨン、クレパス、熱転写インク、複写機用トナーに本発明の可消色性組成物を用いる場合には、可消色性組成物に用いられるマトリックス材料は、本可消色性組成物を画像形成材料として用いる際に追加して使用される結着剤樹脂と同一であっても良い。
【0014】
高分子マトリックス材料としては、本発明の可消色性組成物のインクジェットインク、印刷インクなどの使用形態に応じ、公知の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の中から、可消色性組成物が色素として発色状態で使用される温度範囲おいて、呈色性化合物及び顕色剤を固溶化(溶解して分子分散させる)することができ、且つ、消色剤を上記サイズの微粒子乃至ミクロ相分離状態として分散させることができ、更に粒子としての形態を維持することのできる樹脂を適宜選択して使用することができ、特に制限されない。
【0015】
具体的には、例えば、呈色性化合物としてロイコ色素、顕色剤としてフェノール化合物、消色剤としてデンプンを用いる場合、次のような有機高分子化合物をマトリックス材料として好適に使用することができる。即ち、例えば、ケトン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリインデン、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリビニルピリジン、ポリオキシメチレン、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリプロピオン酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、
【0016】
ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルベンジルエーテル、ポリビニルメチルケトン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ベンジル、ポリメタクリル酸シクロヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アミド、ポリメタクリロニトリル、ポリアセトアルデヒド、ポリクロラール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート類(ビスフェノール類+炭酸)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリ(ジエチレングリコール・ビスアリルカーボネート)類、
【0017】
6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロン、6,12−ナイロン、ポリアスパラギン酸エチル、ポリグルタミン酸エチル、ポリリジン、ポリプロリン、ポリ(γ−ベンジル−L−グルタメート)、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アセチルセルロース、セルローストリアセテート、セルローストリブチレート、アルキド樹脂(無水フタル酸+グリセリン)、脂肪酸変性アルキド樹脂(脂肪酸+無水フタル酸+グリセリン)、不飽和ポリエステル樹脂(無水マレイン酸+無水フタル酸+プロピレングリコール)、エポキシ樹脂(ビスフェノール類+エピクロルヒドリン)、エポキシ樹脂(クレゾールノボラック+エピクロルヒドリン)、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、フラン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂などの樹脂、ポリ(フェニルメチルシラン)などの有機ポリシラン、有機ポリゲルマン及びこれらの共重合・共重縮合体を好適に使用することができる。
【0018】
更に、例えば、呈色性化合物としてロイコ色素、顕色剤としてフェノール化合物、消色剤としてデンプンを用いて得られる本発明の可消色性組成物を、複写機、又はプリンター用のトナーに用いる場合には、可消色性組成物のマトリックス材料兼画像形成材料の結着剤樹脂として、例えば、ポリスチレン、ポリスチレンとアクリル樹脂とのブレンドポリマー、スチレン−アクリル系共重合体、ポリエステル、エポキシ樹脂などを特に好適に用いることができる。ここで、スチレン−アクリル系共重合体を構成するアクリル系モノマーとしては、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ブチル、N−(エトキシメチル)アクリルアミド、メタクリル酸エチレングリコール、メタクリル酸4−ヘキサフルオロブチルなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリレートモノマーは1種又は2種以上を用いることができる。共重合体中のスチレンの割合は50重量%以上であることが好ましい。又、スチレン及びアクリル系モノマーの他に、ブタジエン、マレイン酸エステル、クロロプレンなどを共重合させても良いが、これらの成分は10重量%以下とすることが好ましい。ここで、ポリスチレンとアクリル樹脂とのブレンドポリマーをマトリックスとして用いる場合、アクリル樹脂としては上記共重合の場合に例示したものを1種又は2種以上用いることができる。尚、ブタジエン、マレイン酸エステル、クロロプレンなどを10重量%以下の割合で含有する共重合体を用いても良い。マトリックス中のポリスチレンの割合は50重量%以上であることが好ましい。
【0019】
更に、カルボン酸と多価アルコールから合成されるポリエステルも使用可能である。カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、フマル酸、マレイン酸、こはく酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、ピロメリット酸、シトラコン酸、グルタコン酸、メサコン酸、イタコン酸、テラコン酸、フタル酸、イソフタル酸、ヘミメリト酸、メロファン酸、トリメシン酸、プレーニト酸、トリメリット酸などが挙げられる。これらの内1種又は2種以上を用いることができる。多価アルコールとしては、例えば、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルジオール、ヘキサメチレンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ペンタグリセロール、ペンタエリトリトール、シクロヘキサンジオール、シクロペンタンジオール、ピナコール、グリセリン、エーテル化ジフェノール、カテコール、レゾルシノール、ピロガロール、ベンゼントリオール、フロログルシノール、ベンゼンテトラオールなどが挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。又、2種類以上のポリエステルのブレンドポリマーを用いても良い。
【0020】
又、エピクロルヒドリンと多価のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物から合成されるエポキシ樹脂も使用できる。多価フェノール系化合物としては、例えば、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ビスフェノールS、エーテル化ジフェノール、カテコール、レゾルシン、ピロガロール、ベンゼントリオール、フロログルシノール、ベンゼンテトラオールなどが挙げられる。これらの1種又は2種以上が用いられる。又、エポキシ樹脂に対して、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラニン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンなどを15重量%以下の割合でブレンドしても良い。
【0021】
低分子マトリックス材料としては、低分子可塑剤、低分子滑剤、低分子ワックスなどの低分子化合物を用いることができる。即ち、可消色性組成物が色素として発色状態で使用される温度範囲において、呈色性化合物及び顕色剤を固溶化(溶解し分子分散させる)することができ、且つ、消色剤を微粒子乃至ミクロ相分離状態として分散させることができ、更に粒子としての形態を維持することのできる低分子化合物を適宜選択して低分子マトリックス材料として使用することができる。
具体的には、例えば、呈色性化合物としてロイコ色素、顕色剤としてフェノール化合物、消色剤としてデンプンを用いてクレヨンを作成する場合、低分子化合物(ワックス)として、例えば、1−ドコサノールを好適に使用することができる。
【0022】
[呈色性化合物]
本発明で用いられる呈色性化合物としては、例えば、ロイコオーラミン類、ジアリールフタリド類、ポリアリールカルビノール類、アシルオーラミン類、アリールオーラミン類、ローダミンBラクタム類、インドリン類、スピロピラン類、フルオラン類などの有機化合物を挙げることができる。
具体的な呈色性化合物として、例えば、クリスタルバイオレットラクトン(CVL)、マラカイトグリーンラクトン、2−アニリノ−6−(N−シクロヘキシル−N−メチルアミノ)−3−メチルフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−(N−メチル−N−プロピルアミノ)フルオラン、3−[4−(4−フェニルアミノフェニル)アミノフェニル]アミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、2−アニリノ−6−(N−メチル−N−イソブチルアミノ)−3−メチルフルオラン、2−アニリノ−6−(ジブチルアミノ)−3−メチルフルオラン、3−クロロ−6−(シクロヘキシルアミノ)フルオラン、
【0023】
2−クロロ−6−(ジエチルアミノ)フルオラン、7−(N,N−ジベンジルアミノ)−3−(N,N−ジエチルアミノ)フルオラン、3,6−ビス(ジエチルアミノ)フルオラン−γ−(4′−ニトロアニリノ)ラクタム、3−ジエチルアミノベンゾ[a]−フルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−キシリジノフルオラン、3−(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−ジエチルアミノ−7−クロロアニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7,8−ベンゾフルオラン、
【0024】
3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,6−ジメチルエトキシフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メトキシ−7−アミノフルオラン、2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、クリスタルバイオレットカルビノール、マラカイトグリーンカルビノール、N−(2,3−ジクロロフェニル)ロイコオーラミン、N−ベンゾイルオーラミン、ローダミンBラクタム、N−アセチルオーラミン、N−フェニルオーラミン、2−(フェニルイミノエタンジリデン)−3,3−ジメチルインドリン、N,3,3−トリメチルインドリノベンゾスピロピラン、8’−メトキシ−N,3,3−トリメチルインドリノベンゾスピロピラン、
【0025】
3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−メトキシフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−ベンジルオキシフルオラン、1,2−ベンゾ−6−ジエチルアミノフルオラン、3,6−ジ−p−トルイジノ−4,5−ジメチルフルオラン、フェニルヒドラジド−γ−ラクタム、3−アミノ−5−メチルフルオランなどを好適に使用することができる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。言うまでもなく、呈色性化合物を適宜選択すれば多様な色の発色状態が得られ、マルチカラー化が可能である。
【0026】
これらの呈色性化合物は、例えば、一例を以下に化学式で示すように、無色型と発色型の両形態をとることの可能な互変異性化合物である。
【化1】
【0027】
[顕色剤]
上記のような互変異性を表す化学式において、下側に示される分子内塩型の化学構造が「発色型」に対応することが知られている。そして、このようなイオン性分子内塩型の構造をプロトンの授受乃至水素結合の形成、或いは金属錯塩の形成によって安定化することによって、発色型を安定化することのできる化合物が、いわゆる顕色剤である。
本発明で用いられる顕色剤としては、例えば、フェノール及びフェノール誘導体、フェノール誘導体の金属塩、カルボン酸誘導体の金属塩、サリチル酸及びサリチル酸金属塩、ベンゾフェノン及びベンゾフェノン誘導体、スルホン酸類、スルホン酸塩類、リン酸類、リン酸金属塩類、酸性リン酸エステル類、酸性リン酸エステル金属塩類、亜リン酸類、亜リン酸金属塩類、ハロゲン化亜鉛などを挙げることができる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
顕色剤として用いることのできるフェノール誘導体の具体例を以下に化学式で例示する。
【0028】
【化2】
【0029】
これらのフェノール誘導体は、例えば、以下に化学式で示すように発色型の呈色性化合物のカルボン酸残基と分子間で相互作用して水素結合を形成することによって、発色状態を安定化することができる。このような呈色性化合物と顕色剤の分子間相互作用は、両者がともにマトリックス材料中に固溶化(溶解して分子分散)している場合であっても起こりうる。
【0030】
【化3】
【0031】
上記化学式に例示されるようにマトリックス材料中で呈色性化合物と顕色剤とが分子間で相互作用し、呈色性化合物が発色型になった系において、後述するような「消色剤」が、(1)非晶性(アモルファス)で、マトリックス材料中にミクロ相分離した微粒子状態で存在している場合、及び(2)結晶性で、マトリックス材料中に微結晶として分散している場合には、加熱や消色助剤処理による活性化が行われなければ、顕色剤と消色剤との分子間相互作用(化学平衡論的には呈色性化合物と顕色剤の相互作用よりも強い)は、速度論的制御によって「凍結」されて事実上起こり得ず、顕色剤による呈色性化合物発色型の安定化は維持される。
【0032】
[消色剤]
本発明の可消色性組成物における消色剤とは、呈色性化合物と顕色剤の分子間相互作用よりも強く、顕色剤との間で分子間相互作用する化合物であって、且つ、可消色性組成物の発色状態においてはマトリックス材料中に、又、消色状態においては溶融又は膨潤又は溶解した混合物中に微粒子(消色剤が結晶の場合)乃至ミクロ相分離状態(消色剤がアモルファス状態の場合)として分散して存在することが可能な化合物である。
消色剤と顕色剤の間に働きうる分子間相互作用としては、水素結合、イオン結合、疎水性結合、立体化学的な包接現象などを利用することができる。即ち、分子中に1個以上のアルコール性水酸基、遊離のカルボン酸基、カルボン酸塩残基、環式飽和炭化水素残基、などを有する化合物の中から、使用するマトリックス材料への溶解性及びその温度依存性を目安として、消色剤として利用可能なものを選択することができる。
【0033】
本発明で使用される消色剤の具体例としては、例えば、コーンスターチ、タピオカスターチ、片栗粉などのデンプン、デンプンを主成分とする穀物粉体(例えば、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、米粉など)、デンプンの誘導体(例えば、メチル化スターチ、エチル化スターチ、アセチル化スターチ、ニトロ化スターチなど)、セルロース、セルロース誘導体(例えば、酢酸セルロース、メチル化セルロース、エチル化セルロース、ニトロ化セルロース)、多糖類およびその誘導体(例えば、デキストリン、デキストラン、マンナン、アミロペクチン、アミロース、キシラン、グリコーゲン、イヌリン、リケニン、キチン、ヘミセルロース、ペクチン、植物ゴム、アガロース、カラゲニン、サポニンなど)などを好適に用いることができる。
【0034】
本発明の可消色性組成物は、少なくともマトリックス材料、呈色性化合物、顕色剤、及び粒子サイズの調整された消色剤から構成されるが、好ましい配合比は以下の通りである。
マトリックス材料は、呈色性化合物1重量部に対して、通常、0.1乃至1000重量部、好ましくは0.5乃至100重量部、更に好ましくは1乃至20重量部の割合である。顕色剤は、呈色性化合物1重量部に対して、通常、0.1乃至10重量部、好ましくは1乃至2重量部の割合である。顕色剤が0.1重量部未満の場合には、呈色性化合物と顕色剤との相互作用による可消色性組成物の発色が不充分になる。顕色剤が10重量部を超える場合には両者の相互作用を充分に減少させることが困難となる。消色剤は、呈色性化合物1重量部に対して、通常、1乃至200重量部、好ましくは10乃至100重量部の割合である。消色剤が1重量部未満では、可消色性組成物の発色状態と消色状態との間の状態変化を起こさせることが困難になる。消色剤が200重量部を超えると、可消色性組成物の発色が不充分になる。
【0035】
本発明の可消色性組成物においては、発色状態或いは消色状態によらず、可消色性組成物中では、消色剤は常に微粒子乃至ミクロ相分離状態として分散されて存在する。消色剤の微粒子乃至ミクロ相分離状態としての大きさは、その形状を球で近似したときの平均直径が所定の大きさの前記可消色性組成物の直径を超えない大きさであることが必要である。仮に可消色性組成物中において消色剤の微粒子乃至ミクロ相分離状態としての大きさが、その形状を球で近似したときの平均直径として前記可消色性組成物の直径を超えたとすると、その粒子は実質的には消色剤のみからなる粒子である。即ち、可消色性組成物を製造するに当たり、消色剤の粒子の大きさに留意せず、マトリックス材料、呈色性化合物、顕色剤及び粗大粒子状消色剤を上記の組成で調合し、混練し、粉砕・分級しただけでは、結果的に「マトリックス材料、呈色性化合物、及び顕色剤からなり、実質的に消色剤を含まない粒子」と「実質的に消色剤のみからなる粒子」の混合物が得られる。このような粒子混合物からなる可消色性着色剤は、発色状態における発色濃度の点では問題がないものの、本発明の製造方法で得られる可消色性組成物に比べ、画像形成材料として用いた場合の解像度が劣ったり、消色特性が劣ったり、インクとして用いた場合の流動性や長期保存安定性に問題が生じたりする。
【0036】
本発明の可消色性組成物においては、発色状態或いは消色状態によらず、可消色性組成物中では、消色剤は常に微粒子乃至ミクロ相分離状態として、非平滑な表面を持って分散されて存在することが好ましい。ここで「非平滑な表面を持つ消去剤」とは、表面が凹凸を持つことによって、同じ重量の球体の表面積よりも大きな表面積を持つ、微粒子乃至ミクロ相分離状態の消去剤を意味する。このような非平滑な表面を持つ消去剤は、顕色剤と相互作用するための表面が大きな表面積を有することから、優れた消色特性を発揮する。
尚、本発明の可消色性組成物には、その機能を損なわない限りにおいて、必要に応じて、低分子化合物からなる可塑剤、ワックス、滑剤、離型剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電制御剤などの添加剤を適量、含有させることができる。
【0037】
以下に本発明の可消色性組成物の製造方法について説明する。
[可消色性組成物の製造方法]
本発明の可消色性組成物の製造方法は、マトリックス材料、顕色剤、呈色性化合物、及び消去剤からなる混合物を混練りする工程において、前記消色剤を前記混合物中に、その形状を球で近似したときの平均直径が所定の値を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在するよう分散させることが特徴である。
本発明の可消色性組成物を製造するに際しては、バンバリーミキサーのように15強い剪断力を有する混練り装置が好適に用いられる。即ち、混練り装置の強い剪断力によって、消色剤は文字通り引きちぎられ、所定の大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在するように分散させられる。
【0038】
混練り工程における「練り」の強さは、混練り物の単位重量当たり、単位時間に印加されるエネルギー量(仕事率)として定義することができる。鋭意検討の結果、前記組成の混練り物(混合物)が摩擦熱による発熱で溶融・流動状態に至るまでの期間に渡って、混練り物の単位重量当たりに印加される平均仕事率が2乃至30kW/kgであると、前記消色剤を前記混合物中に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記可消色性組成物の直径を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として、(非平滑な表面を持って)存在するよう分散させることができることが明らかとなった。ここで、「平均仕事率」とは、前記組成の混練り物(混合物)が摩擦熱による発熱で溶融・流動状態に至るまでの期間に渡る仕事率を平均した値である。尚、混練り装置の種類・構造にもよるが、平均仕事率に対して、仕事率のピーク値は2倍以上に達することがある。混練り物の単位重量当たりに印加される平均仕事率が2kW/kg未満では、消色剤が剪断力によって引きちぎられる割合が減じ、原料として仕込んだ際の粒子形態のまま分散されて存在する割合が増加し、結果的に消色特性が悪化する。一方、混練り物の単位重量当たりに印加される平均仕事率が30kW/kgを超えると、摩擦熱による局所的温度上昇が顕著になり、可消色性着色剤の一部が熱分解乃至炭化してしまい好ましくない。尚、摩擦熱による局所的温度上昇は極めて短時間に起こるため、混練り装置の外壁部分やローター部分から冷却しても熱分解を防ぐことは容易でない。
【0039】
本発明の可消色性組成物を加工して、粒子状可消色性着色剤、薄膜状可消色性画像形成材、或いは繊維状可消色性着色剤を製造するには、公知の方法を適宜適用することができ、特に限定されない。但し、製造工程の途中で、凍結されている消色作用が発現しないよう、諸条件を設定する必要があることは言うまでもない。
【0040】
可消色性組成物中において消色剤が前記の大きさの微粒子或いはミクロ相分離状態として、非平滑な表面を持って存在することは、以下に述べるような種々の分析手段を用いて確認することができる。
例えば、消色性色素組成物をそのまま薄膜に加工し、この薄膜を光学顕微鏡、又は共焦点型レーザー顕微鏡などで観察することによって、消色剤の微粒子乃至ミクロ相分離状態としての大きさを確認することができる。この際、観察される「微粒子乃至ミクロ相分離状態」が消色剤に帰属されるものであることは、呈色性化合物/マトリックス材料、顕色剤/マトリックス材料、呈色性化合物及び顕色剤/マトリックス材料、消色剤/マトリックス材料、及びその他の添加剤を使用している場合はその他の添加剤/マトリックス材料という組み合わせの組成物を上記の場合と同等の条件で薄膜に加工し、光学顕微鏡又は共焦点型レーザー顕微鏡で比較観察することによって確認することができる。又、消色剤が微粒子(結晶)として存在しているか、ミクロ相分離状態(アモルファス)で存在しているかは、X線回析法によって確認することができる。
【0041】
分散されて存在する前記消色剤の主要成分の微粒子乃至ミクロ相分離状態としての大きさが、球で近似したときの平均直径として0.1μm未満の場合は、
(1)X線小角散乱法、(2)薄膜試料についての透過型電子顕微鏡観察(画像を明確にするため、必要に応じて四酸化オスミウム染色などの手法を併用)、又は(3)薄膜試料表面についての走査型電子顕微鏡観察(適当な溶剤を用いて試料表面から消色剤のみを溶かし出すなどの手法を併用)などによって微粒子乃至ミクロ相分離状態としての大きさを確認することができる。この場合も、観察される微粒子乃至ミクロ相分離状態の帰属は、消色剤を含まない試料との比較によって確認することができる。
微粒子乃至ミクロ相分離状態として分散されて存在する前記消色剤の表面が非平滑であることは、(A)可消色性組成物の消色剤以外の成分を適当な溶剤に溶解し、消色剤のみを取り出して、その表面を走査型電子顕微鏡で観察する方法、或いは(B)可消色性組成物を溶融させた薄膜の表面から適当な溶剤によって消色剤のみを溶かし出して、その痕跡を走査型電子顕微鏡で観察する方法などによって確認することができる。
【0042】
[水を含む溶剤系]
本発明の可消色組成物は、可消色性水性着色剤として使用することができる。水性媒体としては、例えば、水、又は、水及び水と相溶性のある有機溶剤の混合溶剤を挙げることができる。水と相溶性のある有機溶剤の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、イソペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンなど、アルコール性水酸基を有する溶剤を挙げることができる。水及び水と相溶性のある有機溶剤の混合溶剤における好ましい水の存在比率は10乃至99重量%である。水の存在比率が10重量%を下回ると、有機溶剤成分がマトリックス樹脂を侵すおそれがある。又、水の存在比率が99重量%を越えると、有機溶剤を混合する効果、例えば揮発性の向上効果或いは乾燥防止効果が発揮されない。
【0043】
[結着剤]
本発明の可消色性組成物を可消色性水性着色剤として塗工液、印刷インキ、ジェットインク、或いは、筆記具のインクとして使用するにあたっては、成膜性或いは印刷適正を付与するために、可消色性水性着色剤の一成分として結着剤を必要とする。尚、結着剤自身が分散剤として作用する場合以外は、通常、後述の分散剤と併用される。又、可消色性水性着色剤中で、結着剤は溶液又はエマルジョンとして使用される。
可消色性水性着色剤の結着剤としては、公知の結着剤の中から次に示す条件を満足するものを適宜選択して使用することができる。尚、以下の条件を全て同時に満足する必要はない。
【0044】
(1)可消色性水性着色剤中の微粒子状可消色性着色剤成分(マトリックス樹脂、呈色性化合物、及び顕色剤からなる)を、発色状態を保ったまま分散し、成膜性或いは印刷適正を付与することのできる樹脂又は低分子化合物であること。
(2)画像を形成した後、可消色性着色剤を消色状態とするために加熱処理した際、溶融する樹脂又は低分子化合物であること。
(3)画像を形成した後、可消色性着色剤を消色状態とするために消色助剤処理した際、消色助剤によって膨潤するか、或いは、消色助剤の透過・浸透を妨げない樹脂又は低分子化合物であること。
(4)画像を形成した後、可消色性着色剤を消色状態とするために消色助剤処理した際、消色助剤に溶解する樹脂又は低分子化合物であること。
【0045】
結着剤の具体例としては、マトリックス樹脂としてのポリスチレン、呈色性化合物としてのロイコ染料、及び顕色剤としての没食子酸n−プロピルからなる微粉末を可消色性着色剤として用い、消色剤としてはデンプンを用いる場合、結着剤として、例えばアクリル酸或いはメタクリル酸エステル共重合体の水系エマルジョン;ポリビニルアルコール;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースなどの水溶性セルロース誘導体;アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、カルボキシル化アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムなどのアクリロニトリル−ブタジエン系共重合ゴムラテックス;メチルメタクリレート−ブタジエン共重合ゴム、カルボキシル化メチルメタクリレート−ブタジエン共重合ゴムなどのメチルメタクリレート−ブタジエン系共重合ゴムラテックス;スチレン−ブタジエン共重合ゴム、カルボキシル化スチレン−ブタジエン共重合ゴムなどのスチレン−ブタジエン系共重合ゴムラテックス;アクリレート系ゴムラテックス、塩化ビニル系ゴムラテックス、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合ゴムラテックス;ポリクロロプレンゴムラテックス等などを好適に使用することができる。
【0046】
[分散剤]
可消色性水性着色剤を塗工液、印刷インキ、ジェットインク、或いは、筆記具のインクとして使用するに当たっては、分散安定性を付与するために、可消色性水性着色剤の成分として、結着剤と合わせて分散剤を使用することが好ましい。 可消色性水性着色剤の分散剤としては、公知のものの中から次に示す条件を全て同時に満足するものを適宜選択して使用することができる。
(1)可消色性水性着色剤中の微粒子状可消色性着色剤成分(マトリックス樹脂、呈色性化合物、及び顕色剤からなる)を、発色状態を保ったまま分散し、分散安定性を付与することのできる樹脂又は低分子化合物であること。
(2)消色剤が溶剤可溶性である場合、消色剤を溶解しないこと。
(3)顕色剤を全く溶解しないこと。
(4)マトリックス樹脂を溶解したり、膨潤させたりしないこと。
(5)分散剤自身が消色剤として作用しないこと。
【0047】
分散剤の具体例としては、マトリックス樹脂としてのポリスチレン、呈色性化合物としてのロイコ染料、及び顕色剤としての没食子酸n−プロピルからなる微粉末を可消色性水性着色剤として用い、消色剤としてはデンプンを用い、結着剤としてはアクリル酸或いはメタクリル酸エステル共重合体の水系エマルジョンを用いる場合、例えば、末端に芳香族環基を有するポリエチレンオキシド誘導体などのノニオン系界面活性剤を好適に使用することができる。
【0048】
上記のような成分からなる可消色性水性着色剤の成分組成比については、通常の湿式着色剤を製造する場合の組成比を援用すれば良く、特に制限されない。又、このような組成の可消色性水性着色剤を製造するには、通常の塗工液、印刷インキ、ジェットインク、或いは筆記具のインクの製造方法を援用することができる。
本発明の可消色性組成物を可消色性水性着色剤として使用する場合には、上記必須成分以外に、必要に応じて他の添加剤を用いることもできる。但し、言うまでもなく、これらの添加剤は、可消色性水性着色剤の発色及び消色に悪影響を及ぼさないものを選択しなければならない。具体的には、グリセリン、尿素等の保湿剤;安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等の防腐剤;ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、エチレンジアミン四酢酸等の防錆剤;リノール酸カリウム、オレイン酸ナトリウムなどの潤滑剤;紫外線吸収剤、pH調節剤などを添加することが可能である。更に、ペン体内部にインク流動調節部材を備えない簡易な構造の水性ボールペンに本発明の可消色性水性着色剤を適用する場合には、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン等の多糖類を添加することによって揺変性を付与させた粘性のインクとして用いる。これら多糖類を添加する場合の添加量は、可消色性水性着色剤組成中0.1〜0.8重量%の範囲であることが好ましい。
【0049】
[消色方法]
発色状態にある可消色性組成物を消色状態にする、即ち消色するには、可消色性組成物を加熱・溶融して消色する方法と、可消色性組成物の一部又は全部を溶解又は膨潤させる液体又は気体の消色助剤に接触させて消色する方法とがある。 可消色性組成物を加熱・溶融することによって、速度論的に凍結されていた顕色剤の分子運動が活発になり、該組成物の溶融状態混合物中を移動して微粒子乃至ミクロ相分離状態で存在している可消色性組成物の非平滑な表面に吸着し、呈色性化合物と顕色剤の分子間相互作用よりも強く、顕色剤と消色剤との間で強い分子間相互作用を起こすこととなり、その結果、呈色性化合物の発色状態は不安定化し、消色状態となる。上記のような消色状態は平衡論的に安定であるため、加熱を止めても継続する。
【0050】
可消色性組成物を消色するための加熱手段はどのような形態でも良く、例えば、サーマルプリンターヘッド(TPH)、サーマルバー、ホットスタンプ、ヒートローラーなどを用いることができる。又、赤外線ランプや熱風により加熱しても良い。本発明の可消色性組成物を用いた画像形成材料によって文字・画像が形成された紙を一度に大量に消色処理する際には、箱形温風乾燥機や送風式恒温機を好適に使用することができる。
【0051】
加熱によって可消色性組成物を消色処理する際の加熱温度は可消色性組成物が該組成物として混合溶融状態となる温度(「混合による融点降下」の現象によって可消色性組成物構成成分単独の場合の融点乃至軟化点よりも低い温度である)以上である。加熱によって可消色性組成物を消色処理する際の加熱温度の上限は、可消色性組成物成分の熱分解開始温度の内、最も低い温度である。尚、呈色性化合物、顕色剤、消色剤、及びマトリックス材料の種類又は組み合わせによっては、加熱によって前記成分が熱分解したり、好ましくない副反応を起こして非消色性の有色化合物を形成したりすることがある。このような場合は、消色方法として、次に述べる消色助剤を用いる方法を適用することが好ましい。
【0052】
発色状態の可消色性組成物の一部又は全部を溶解又は膨潤させる液体の消色助剤(有機溶剤)と接触させて消色を行う場合には、速度論的に凍結されていた顕色剤の分子運動が消色助剤によって活発になり、溶解又は膨潤した該組成物中を移動して微粒子乃至ミクロ相分離状態で存在している可消色性組成物の表面に吸着し、呈色性化合物と顕色剤の分子間相互作用よりも強く、顕色剤と消色剤との間で強い分子間相互作用を起こすこととなり、その結果、呈色性化合物の発色状態は不安定化し、消色状態となる。上記のような消色状態は平衡論的に安定であるため、液体の消色助剤が取り除かれても継続する。このような消色の機構から明らかなように、室温よりも高温、例えば50℃乃至80℃でこの方法を実施することは極めて効果的である。
【0053】
発色状態の可消色性組成物を膨潤させる気体の消色助剤(有機気体)と接触させて消色を行う場合にも、速度論的に凍結されていた顕色剤の分子運動が消色助剤によって活発になり、膨潤乃至溶解した該組成物中を移動して微粒子乃至ミクロ相分離状態で存在している可消色性組成物の表面に吸着し、呈色性化合物と顕色剤の分子間相互作用よりも強く、顕色剤と消色剤との間で強い分子間相互作用を起こすこととなり、その結果、呈色性化合物の発色状態は不安定化し、消色状態となる。上記のような消色状態は平衡論的に安定であるため、気体の消色助剤を取り除き、膨潤状態でなくした後も継続する。このような消色の機構から明らかなように、室温よりも高温、例えば50℃乃至80℃でこの方法を実施することは極めて効果的である。
【0054】
発色状態の可消色性組成物を膨潤させる気体の消色助剤と接触させて消色を行う方法において消色助剤として用いられる気体は、可消色性組成物の内部にまで浸透しやすく膨潤させる性質を有する必要がある。具体的にはエチレン、アセチレン、ジメチルエーテルなど常温常圧で気体の有機化合物、及び、ナフタレン、p−ジクロロベンゼンなど常温常圧で昇華して気体になる有機化合物を好適に使用することができる。
【0055】
発色状態の可消色性組成物を膨潤又は溶解させる液体の消色助剤と接触させて消色を行う方法において消色助剤として用いられる有機溶剤は、(A)顕色剤と消色剤との間の水素結合の形成を助ける性質を有することが好ましく、更に、(B)マトリックス材料との親和性が高く、可消色性組成物の内部にまで浸透しやすい性質を有することが好ましい。上記の(A)の性質を満たす溶剤は単独で使用することができる。又、2種以上の溶剤を混合して上記の2つの性質を満たすようにしても良い。
【0056】
第1類の溶剤、即ち、上記の(A)及び(B)の両方の性質を有する溶剤としては、エーテル、ケトン、エステルなどが挙げられる。具体的には、例えば、エチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルイソプロピルエーテル、イソペンチルメチルエーテル、ブチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチルイソペンチルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジヘキシルエーテルなどの飽和エーテル;エチルビニルエーテル、アリルエチルエーテル、ジアリルエーテル、エチルプロパルギルエーテルなどの不飽和エーテル;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンなどの2価アルコールのエーテル;オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキソラン、ジオキサン、トリオキサンなどの環状エーテル;アセトン、メチルエチルケトン、
【0057】
メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、イソプロピルメチルケトン、ブチルメチルケトン、エチルプロピルケトン、イソブチルメチルケトン、ピナコロン、メチルペンチルケトン、ブチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ヘキシルメチルケトン、イソヘキシルメチルケトン、へプチルメチルケトン、ジブチルケトンなどの飽和ケトン;エチリデンアセトン、アリルアセトン、メシチルオキシドなどの不飽和ケトン;シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノンなどの環状ケトン;ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、ギ酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸sec−アミル、酢酸ヘキシル、酢酸アリル、酢酸2−メトキシエチル、酢酸2−エトキシエチル、1,2−ジアセトキシエタン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、
【0058】
プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ペンチル、プロピオン酸イソペンチル、プロピオン酸sec−アミル、酢酸2−メトキシプロピル、酢酸2−エトキシプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸ペンチル、酪酸イソペンチル、酪酸sec−アミル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸ブチル、イソ酪酸ペンチル、イソ酪酸イソペンチル、イソ酪酸sec−アミル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、吉草酸イソプロピル、吉草酸ブチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、吉草酸イソプロピル、吉草酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸プロピル、ヘキサン酸イソプロピルなどのエステルなどである。上記以外の溶剤として、ジクロロメタン、γ−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルイソインドリノン、ジメチルスルホキシドなどがある。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いても良い。混合溶剤を用いる場合、混合比は任意に設定できる。
【0059】
第2類の溶剤、即ち、上記(A)の性質を有するが、マトリックスとの親和性が低い溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、イソペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンなどを挙げることができる。
【0060】
第3類の溶剤、即ち、上記(A)の性質を持たないが、マトリックスとの親和性が高い溶剤(B)としては、例えば、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジエチルベンゼン、メシチレン、キシレン、クレゾール、エチルフェノール、ジメトキシベンゼン、ジメトキシトルエン、ベンジルアルコール、トリルカルビノール、クミルアルコール、アセトフェノン、プロピオフェノン、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘプタン、シクロオクタン、石油留分(石油エーテル、ベンジンなど)などを挙げることができる。
【0061】
上述したように第1類の溶剤は単独で良好に使用することができる。第2類の溶剤は、単独でも使用できるが、第1類の溶剤と混合しても良い。この場合、いずれの類の溶剤も消色能を持っているので任意の混合比で使用することができる。第2類の溶剤と第3類の溶剤との混合溶剤を用いる場合、充分な消色能が得られれば両者の混合比は特に限定されないが、第3類の溶剤を20乃至80重量%とすることが好ましい。第3類の溶剤は第1類の溶剤と混合して用いても良い。この場合、第3類の溶剤を90重量%以下とすれば良い。又、第1類から第3類の溶剤を混合して用いても良い。この場合、第3類の溶剤を80重量%以下とすることが好ましい。
【0062】
可消色性着色剤を効率的に消色するためには溶剤を予め加熱しておいても良い。この場合、溶剤の沸点を超えない範囲で、溶剤の温度を40℃以上に加熱することが好ましい。又、溶剤による消色方法を用いる場合、溶剤に消色剤を添加することもできる。
【0063】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0064】
実施例1
消色剤としてのデンプンは市販のコーンスターチ(粒子の外径約9乃至15μm)をそのまま用いた。尚、デンプンの粒子径は、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いて電解質を含んだ水中に超音波分散させた試料をコールターカウンターTA−II型(コールター社製)にて測定して求めた。又、図1に使用したデンプンの走査型電子顕微鏡写真を示す。図1から明らかなように、市販のデンプン粒子の表面は非平滑である。
【0065】
呈色性化合物として感熱色素PSD−184(日本曹達株式会社製)2重量部、顕色剤として没食子酸プロピル1重量部、消色剤としてデンプン(数平均粒子径9μm、且つ体積平均粒子径15μm)17重量部、マトリックス材料として79重量部のポリスチレン、及び、帯電制御剤としてLR−147(日本カーリット株式会社製)1重量部を予め混合し、合計1.2kgの混合物をバンバリーミキサーを用いて混練りしたところ、摩擦熱により約2分で溶融・流動状態となった。この間、前記混合物の単位重量当たり、単位時間に印加された平均仕事率は(以下では単に平均仕事率と称する)6.67kW/kgであり、ピーク値は8.33kW/kgであった。混練り物を冷却し、実施例1の黒色の混練り物(可消色性組成物)を得た。
【0066】
実施例1の可消色性組成物約10mgをホットプレート上で100℃に加熱したスライドガラスの上に置き、100℃に加熱したもう1枚のスライドガラスを重ねて圧着した後冷却し、ガラス板の間に挟まれた厚さ約20μmの薄膜試料を作製した。100℃で溶融した場合、実施例1の可消色性着色剤は黒色を保っていることが確認された。又、この溶融させて作製した薄膜を顕微鏡観察したところ、消色剤のデンプンに帰属される粒子はほとんど観察できなかった。
【0067】
そこで、実施例1の可消色性組成物約10gをテトラヒドロフラン100mlに溶解し、四フッ化エチレン製メンブランフィルター(孔径0.1μm)を用いて不溶物(デンプン)を濾別し、テトラヒドロフラン200mlを用いて充分洗浄した。得られた灰白色の不溶物がデンプンであることは、赤外線吸収スペクトルにて確認した。得られた不溶物(デンプン)をテトラヒドロフランに分散して走査型電子顕微鏡観察用の導電性基板上に塗布し、乾燥し、カーボンを蒸着して走査型電子顕微鏡で観察した。視野の中には直径5μm前後の粗大な粒子も観察されるものの、デンプンの大部分は、図2に一例を示すように直径2μm未満の微細粒子として存在していることが確認された。図1と図2の比較から、バンバリーミキサーを用いた混練りの際の強い剪断力によって、デンプン粒子が引きちぎられて微粒子化されたことが判る。
【0068】
次に、加熱による消色を行うため、本実施例の可消色性組成物の上記の薄膜試料を、200℃で10分間加熱し、室温まで冷却したところ、黒色の発色状態は消色され、薄膜は乳白濁状態になった。消色した薄膜が透明にならず、乳白濁状態に見えるのは、マトリックス材料中にデンプン微粒子が分散しているためである。比較のために、消色剤のデンプンを含まな以外は本実施例と同様にして、呈色性化合物、顕色剤、帯電調整剤、及びマトリックス材料からなる混練り物を製造し、これをガラス板に挟み100℃で溶融製膜して黒色の薄膜を得、更に200℃で10分間加熱し、室温まで冷却したが、消色は起こらなかった。
【0069】
以上の観察から、消色剤としてデンプンを使用した場合の消色の機構は、呈色性化合物と水素結合していた顕色剤が加熱によってマトリックス材料中を移動して消色剤であるデンプン微粒子の表面へ到達し、そこへ吸着されて分子間相互作用し、その結果、呈色性化合物の発色状態が不安定化し、消色するものと推測される。
【0070】
実施例1の混練り物をカッター刃回転式粉砕機で粒子外径1mmまで粗粉砕し、次いで、これをサイクロン式分級機を備えた循環式エアジェット粉砕機で最大粒子径20μm以下まで粉砕し、更に、これを別のサイクロン式分級機を用いて分級し、数平均粒子径8μm、且つ体積平均粒子径12μmの微粒子として、実施例1の粒子状可消色性着色剤を得た(収率81%)。尚、粒子径は前記と同様にして測定した。尚、又、粉砕・分級工程の収率は、損失としての、装置内に滞留し取り出すことのできない部分(仕込量によらず一定)及びサイクロン分級機で捕集できない部分(仕込量に比例)の影響を受けるため、上記の値は一例であるが、粉砕・分級工程の収率として妥当な値を達成可能である。
【0071】
以上のように製造された実施例1の粒子状可消色性着色剤(数平均粒子径8μm、且つ体積平均粒子径12μm;内部のデンプン粒子は直径2μm未満)100重量部に対して1重量部の疎水性シリカを添加して、実施例1のトナーを調製した。
得られたトナーを電子写真方式複写機のトナーカートリッジに入れ、試験用画像(テストチャート)を複写機用中性紙(反射率0.08)にコピーした。得られたコピー画像は充分な画像濃度であり、解像度は上記粒子径のトナー画像として標準的なものであり、通常の使用条件で高い耐久性を示し、又、100℃で30分間加熱しても画像は維持された。尚、可消色性組成物からなるトナーの熱定着過程は、冷却完了まで含めて秒オーダーの速度で行われるため、可消色性組成物中における消色剤又は顕色剤の物質移動及び消色剤と顕色剤との分子間相互作用は速度論的に抑制され、結果的に、充分な濃度の画像を形成することができる。このコピー画像は190℃以上まで加熱するか、或いは、液体又は気体の消色助剤に接触させることで消色することができる。
【0072】
実施例1の可消色性組成物からなるトナーによってコピー画像が形成された紙100枚を、束ねた状態で190℃に温度調節された送風式恒温器(ヤマト科学製DN83型)に入れ、同温度で12時間放置した後、取り出した。その結果、100枚の紙に形成されたコピー画像は全て消色され、肉眼では確認できなくなった。消色後の可消色性画像記録紙各々の反射濃度を測定したところ、全て0.10であった。即ち、優れた消色特性を発揮することが確認された。加熱消色によってコピー画像が消色された紙を60℃で300時間放置したが、画像が再び現れることはなかった。
【0073】
実施例1の可消色性組成物からなるトナーによってコピー画像が形成された紙をメチルイソブチルケトン(MIBK)に浸漬した。その結果、紙にコピーされた画像が消色され肉眼では確認できなくなった。消色後の紙の反射濃度を測定したところ0.08であった。即ち、優れた消色特性を発揮することが確認された。消色後の紙の反射濃度の数値を加熱による消色と溶剤処理による消色とで比較すると、溶剤処理の場合の方が若干良い値であった。これは、溶剤処理による消色の場合、可消色性着色剤が消色すると同時に紙にしみ込んで紙の表面からなくなるのに対して、加熱消色の場合、消色した可消色性着色剤溶融物が紙の表面に残留し、反射濃度測定に若干の影響を与えるためであり、消色された紙を再利用する上では全く問題にならない。
【0074】
溶剤処理による消色過程を確認するため、トナーをMIBKと接触させたところ、瞬時に膨潤・溶解した。この液体をガラス板上に薄く塗工し、室温で、溶剤を蒸発させ、更に0.001パスカルの真空下、100℃で24時間加熱処理して溶剤を完全に除去した。溶剤を除去しても消色状態は維持された。
以上の観察から、溶剤を用いて消色した場合も、呈色性化合物と水素結合していた顕色剤が溶剤によって活性化して溶解乃至膨潤した混合物中を移動して消色剤であるデンプン微粒子の表面へ到達し、そこへ吸着されて分子間相互作用し、その結果、呈色性化合物の発色状態が不安定化し、消色するものと推測される。
【0075】
溶剤処理によってコピー画像が消色された紙を60℃で300時間放置したが、画像が再び現れることはなかった。その後、画像を溶剤処理で消色した紙に、別の画像を転写し、溶剤処理で消色するプロセスを9回繰り返した。その後に転写した10回目の画像は1回目の画像と同等の品質であった。更に、コピー及び消色を50回まで繰り返した。その結果、紙は機械的に痛んだが、コピーされた画像の品質及び消色状態の品質は良好であった。
【0076】
比較例1
実施例1におけるバンバリーミキサーの代わりに、同一容量の加圧式ニーダーを用いて、加圧圧力を調節しながら混練りを行ったところ、摩擦熱により約8分で溶融・流動状態となった。この間、前記混合物に印加された平均仕事率は1.25kW/kgであり、ピーク値は2.5kW/kgであった。尚、加圧式ニーダーの加圧圧力を高くすると、前記混合物へ印加される平均仕事率は大きな値となる。得られた混練り物を冷却し、比較例1の可消色性組成物を得た。
【0077】
比較例1の可消色性組成物の薄膜を実施例1と同様にして作製した。薄膜は黒色を保っていることが確認された。この溶融薄膜を顕微鏡観察したところ、消去剤のデンプンに帰属される粒子が明確に観察された。
次に、実施例1と同様にして比較例1の可消色性組成物から不溶物(赤外線吸収スペクトルにてデンプンであることを確認した。)を分離し、走査型電子顕微鏡で観察したところ視野の大部分には図1に見られるような球形のデンプン粒子が観察された。視野の中には、図3に一例を示すような直径約10μmの球形デンプン粒子が数個に破断されたものも確認された。図1と図3の比較から、加圧式ニーダーを用いた混練り(混合物へ印加された平均仕事率は1.25kW/kg)においては、デンプン粒子が数個に破断される程度の剪断力は働くものの、バンバリーミキサーを用いた場合(実施例1における平均仕事率は6.67kW/kg)ほどではないため、デンプン粒子が微粒子化されるには至らなかったことが判る。
そこで、加圧式ニーダーの加圧圧力を徐々に高めて、混合物へ印加される平均仕事率の値を大きくする実験を繰り返したところ、混合物へ印加される平均仕事率が2kW/kg以上のとき、消色剤・デンプン粒子の微細化が円滑に進行することが確認された。
【0078】
比較例1の可消色性組成物を用いる他は実施例1と同様にして、該組成物を粒子外径1mmまで粗粉砕し、次いで、サイクロン式分級機を備えた循環式エアジェット粉砕機で最大粒子径20μm以下まで粉砕し、更に、これを別のサイクロン式分級機を用いて分級し、数平均粒子径8μm、且つ体積平均粒子径12μmの粒子状可消色性着色剤を収率80%で得た。尚、粒子径は実施例1の場合と同様にして測定した。
比較例1の上記の薄膜(微粉砕前の該組成物を使用)及び上記の粒子状可消色性着色剤の溶融薄膜を顕微鏡観察したところ、直径数μm乃至10μm以上のデンプン粒子(電子顕微鏡観察による図3の粒子に相当するもの)が多数存在していることが確認された。即ち、粒子状可消色性着色剤としての粒子サイズとデンプン粒子の大きさが相等しくなっている領域が存在していることから、比較例1の粒子状可消色性着色剤の中には、実質的に消色剤であるデンプンだけからなる粒子が混在していると推定される。又、粒子状可消色性着色剤の中に、実質的にデンプンだけからなる粒子が混在していると、その他のデンプン粒子ではない粒子状可消色性着色剤中には、消色剤成分(デンプン)が設計値よりも不足することとなる。
【0079】
以上のように製造、解析された比較例1の粒子状可消色性着色剤(数平均粒子径8μm、且つ体積平均粒子径12μm;実質的にデンプンのみからなる粒子を含む)100重量部に対して1重量部の疎水性シリカを添加してトナーを調製した。
得られたトナーを電子写真方式複写機のトナーカートリッジに入れ、試験用画像(テストチャート)を複写機用中性紙(反射率0.08)にコピーした。得られたコピー画像の濃度は実施例1の場合と同等であったが、解像度は上記粒子径のトナー画像としては劣るもので細線の所々にかすれが認められた。又、加熱消色を行ったところ、明らかに、実施例1の可消色性組成物からなるトナーを用いた実施例1の場合よりも劣る結果となった。即ち、比較例1の可消色性組成物からなるトナーによってコピー画像が形成された紙100枚を、実施例1の場合と同様に190℃で12時間加熱した後、取り出した。その結果、100枚の紙に形成されたコピー画像は全て消色されたが、肉眼で残像が確認された。消色後の可消色性画像記録紙各々の反射濃度を測定したところ、0.25前後であった。即ち、実施例1の可消色性組成物からなるトナーによって形成されたコピー画像に比べて、加熱による消色特性が著しく悪いことが判った。これらの原因は、前述のように比較例1の可消色性組成物は、原料のデンプン粒子が微粒子化されていないため、実質的にデンプンのみからなる粒子を含み、且つ、設計値よりも消色剤含有量の少ない可消色性組成物を含むためであると推定される。
【0080】
実施例2
消色剤としてのデンプンは実施例1と同じ市販のコーンスターチ(粒子の外径約9乃至15μm)をそのまま用いた。
呈色性化合物としてクリスタルバイオレットラクトン4重量部、顕色剤として没食子酸プロピル2重量部、消色剤としてデンプン(数平均粒子径9μm、且つ体積平均粒子径15μm)8重量部、マトリックス材料として85重量部のポリスチレン、及び帯電制御剤としてLR−147(日本カーリット株式会社製)1重量部を予め混合し、合計66kgの混合物をバンバリーミキサーを用いて混練りしたところ、摩擦熱により約2分で溶融・流動状態となった。この間、前記混合物へ印加された平均仕事率は2.44kW/kgであり、ピーク値は4.27kW/kgであった。混練り物を冷却し、実施例2の混練り物(可消色性組成物)を得た。
【0081】
この可消色性組成物を実施例1と同様にして100℃まで加熱、溶融させて薄膜化し、光学顕微鏡で観察したが、デンプンの粒子はごく僅かしか観察されなかった。
この組成物から実施例1と同様にして不溶物(赤外線スペクトルからでんぷんであることが確認された。)分離し、これを走査型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1の場合(図2)と同様に微粒子化されていることが確認された。但し、視野内に見られる直径5μm前後の粒子数は、実施例1の場合よりも多かった。これは、混合物へ印加された平均仕事率の値の相違を反映しているものと推測される。
【0082】
実施例2の可消色性組成物を用いる他は実施例1と同様にして、数平均粒子径8μm、且つ体積平均粒子径12μmの粒子(内部のデンプン粒子は直径5μm以下)として実施例2の粒子状可消色性組成物を製造した。収率は実施例1の場合と同等であった。尚、粒子径は実施例1と同様にして測定した。
実施例2の粒子状可消色性組成物100重量部に対して1重量部の疎水性シリカを添加して、実施例2のトナーを調製した。
得られたトナーを電子写真方式複写機のトナーカートリッジに入れ、試験用画像(テストチャート)を複写機用中性紙(反射率0.08)に転写した。得られた青紫色の画像は充分な画像濃度であり、通常の使用条件で高い耐久性を示し、又、100℃で30分間加熱しても画像は維持された。この画像は190℃以上まで加熱するか、或いは、液体又は気体の消色助剤に接触させることで消色することができる。
画像がコピーされた紙をメチルイソブチルケトン(MIBK)に浸漬すると、紙にコピーされた画像が消色され、肉眼では確認できなくなった。消色後の紙の反射濃度を測定したところ0.08であった。即ち、優れた消色特性を発揮することが確認された。
【0083】
実施例3
実施例1の可消色性組成物をカッター刃回転式粉砕機で粒子外径1mmまで粗粉砕し、次いで、これをサイクロン式分級機を備えた循環式エアジェット粉砕機で最大粒子径10μm以下まで粉砕し、更に、これを別のサイクロン式分級機を用いて分級し、数平均粒子径3.0μm且つ体積平均粒子径6.0μmの微粒子(内部のデンプン微粒子の直径は2μm以下)として、実施例3の粒子状可消色性組成物を得た。尚、粒子径は実施例1と同様にして測定した。
【0084】
実施例3の粒子状可消色性組成物20部を、結着剤メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル−アクリル酸(アンモニウム塩)共重合体20重量部、ノニオン系分散剤2重量部、プロピレングリコール10重量部、及び水48重量部を含む結着剤溶液へ、3本ロールを用いて分散させ、実施例3の可消色性水性着色剤を作製した。
【0085】
バーコーターを用いてこの可消色性水性着色剤を複写機用中性紙(反射率0.08)の片面全面に塗工し、乾燥した。この紙をメチルイソブチルケトン(MIBK)に浸漬した。その結果、この可消色性水性着色剤は消色され、肉眼では色は確認できなくなった。消色後の紙の反射濃度を測定したところ0.08であった。即ち、優れた消色特性を発揮することが確認された。
【0086】
繊維束を樹脂で結着させてなるペン体を固定したペン体ホルダーを弁機構を介して先端に嵌着したアルミニウム円筒体からなり、マーキング時にペン先を紙面に押しつけて弁を開放させて筒内のインクをペン先に導出するタイプのマーキングペンのペン体を用意し、これに上記の可消色性水性着色剤を充填し、応用例として筆記具を作成した。この筆記具を用いて複写機用中性紙(反射率0.08)に筆記した。得られた描線は充分な濃度であり、通常の使用条件で高い耐久性を示し、又100℃で30分間加熱しても描線は維持された。この描線は190℃以上に加熱するか、或いは、消色助剤に接触させることで消色することができた。
【0087】
すなわち、この筆記具で筆記された紙をメチルイソブチルケトン(MIBK)に浸漬した。その結果、実施例3の可消色性組成物を用いた可消色性水性着色剤で筆記された描線が消色され肉眼では確認できなくなった。
実施例3の可消色性組成物を用いた可消色性水性着色剤による描線が溶剤処理で消色された紙を60℃で300時間放置したが、描線が再び現れることはなかった。その後、描線を消色した紙に、上記の筆記具で描線を筆記し、溶剤処理で消色するプロセスを9回繰り返した。その後に筆記した10回目の描線は1回目の描線と同等の品質であり、消色された描線の上でとぎれるようなことはなかった。更に、筆記及び消色を50回まで繰り返した。その結果、筆記された描線の品質及び消色状態の品質は良好であった。
【0088】
本発明の実施例3の可消色性組成物を用いた可消色性水性着色剤の保存安定性を試験するため、(a)ガラス瓶中、及び(b)実施例3の筆記具中にそれぞれ密閉した状態で、50℃における長期保存試験を行った。その結果、50℃で6ヶ月間保存しても、発色状態及び分散状態に変化は認められず、又、紙の上に塗工或いは描画した後の消色特性にも劣化は認められなかった。
【0089】
比較例2
比較用に消色剤を含まない組成の色素組成物粒子を作成するため、呈色性化合物としてロイコ色素PSD−184(日本曹達株式会社製)2重量部、顕色剤として没食子酸プロピル1重量部、及び、マトリックス材料として79重量部のポリスチレンを予め混合し、ニーダーを用いて100℃を超えない温度で充分に混練した後、冷却して黒色に発色した色素組成物を製造した。
この混練物(色素組成物)をカッター刃回転式粉砕機で粒子外径1mmまで粗粉砕し、次いで、これをサイクロン式分級機を備えた循環式エアジェット粉砕機で最大粒子径10μm以下まで粉砕し、更に、これを別のサイクロン式分級機を用いて分級し、数平均粒子径3.0μm、且つ体積平均粒子径6.0μmの色素組成物粒子を得た。
【0090】
この粒子状色素組成物83重量%に対して消色剤として微粉砕したデンプン(数平均粒子径3.0μm、且つ体積平均粒子径6.0μm)17重量%の割合で混合したもの(ロイコ色素、顕色剤、及び、消色剤の成分組成は実施例3の可消色性水性着色剤の場合と同一)20重量部を、結着剤としてメタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル−アクリル酸(アンモニウム塩)共重合体20重量部、ノニオン系分散剤2重量部、プロピレングリコール10重量部、及び水48重量部を含む結着剤溶液へ、3本ロールを用いて分散させ、比較例2の可消色性水性着色剤を作成した。これを実施例3と同じペン体に充填して比較例2の筆記具を作製した。
【0091】
比較例2の可消色性水性着色剤を紙に塗工したもの、及び、比較例2の筆記具を用いて紙上に筆記した描画は、作成直後に試験した場合、実施例3の応用例の場合と同等の消色特性を発揮した。
ところが、比較例2の可消色性水性着色剤の保存安定性を実施例3と同様にして試験した結果、50℃で1週間保存しただけでデンプン微粒子の凝集が起こり、比較例2の可消色性水性着色剤を塗工することは困難となり、一方、比較例2の筆記具は筆記不能になった。このような不具合の原因は、消色剤であるデンプンの微粒子がマトリックス材料によって保護されていないためであると推定される。
【0092】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の可消色性組成物及びその製造方法によれば、紙の上に安定な画像を形成し、形成された画像を優れた消色特性で消色することのできる可消色性組成物を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1で用いた原料のデンプンを走査型電子顕微鏡で観察した図である。図に挿入された白線の長さは10μmである。
【図2】 実施例1の可消色性組成物から取り出したデンプンを走査型電子顕微鏡で観察した図である。図に挿入された白線の長さは5μmである。
【図3】 比較例1の可消色性組成物から取り出したデンプンを走査型電子顕微鏡で観察した図である。図に挿入された白線の長さは5μmである。
【発明の名称】 可消色性組成物及びその製造方法及び可消色性着色剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくともマトリックス材料、顕色剤、前記顕色剤との分子間相互作用により発色する呈色性化合物、及び前記顕色剤と前記呈色性化合物との分子間相互作用よりも強く、前記顕色剤と分子間相互作用する消色剤からなる可消色性組成物であって、
(1)該組成物が粒子状可消色性着色剤として用いられる場合は、前記粒子状可消色性着色剤中では、前記消色剤は、常に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記粒子状可消色性着色剤の直径を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、
(2)該組成物が薄膜状画像形成材として用いられる場合は、前記薄膜状画像形成材中では、前記消色剤は、常に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記薄膜状画像形成材の膜厚を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、
(3)該組成物が繊維状着色剤として用いられる場合は、前記繊維状着色剤中では、前記消色剤は、常に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記繊維状着色剤の繊維断面の直径を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、
上記のいずれの場合においても、発色状態においては、前記顕色剤は前記マトリックス材料中に前記呈色性化合物と分子間相互作用して存在し、消色状態においては、前記顕色剤は前記呈色性化合物と分子間相互作用せずに、微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在する前記消色剤の表面に吸着されて前記消色剤と分子間相互作用して存在することを特徴とする可消色性組成物。
【請求項2】 前記消色剤の表面が非平滑である請求項1に記載の可消色性組成物。
【請求項3】 粒子状である請求項2に記載の可消色性組成物。
【請求項4】 少なくともマトリックス材料、顕色剤、前記顕色剤との分子間相互作用により発色する呈色性化合物、及び前記顕色剤と前記呈色性化合物との分子間相互作用よりも強く、前記顕色剤と分子間相互作用する消色剤からなる可消色性組成物の製造方法であって、前記マトリックス材料、前記顕色剤、前記呈色性化合物、及び前記消去剤からなる混合物を混練りする混練りする工程において、前記消色剤を前記混合物中に、その形状を球で近似したときの平均直径が下記の(1)乃至(3)の群から選択される値を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在するよう分散させることを特徴とする可消色性組成物の製造方法。
(1)該組成物が粒子状可消色性着色剤として用いられる場合は、前記粒子状可消色性着色剤の形状を球で近似したときの平均直径、
(2)該組成物が薄膜状可消色性画像形成材として用いられる場合は、前記薄膜状画像形成材の膜厚、
(3)該組成物が繊維状可消色性着色剤として用いられる場合は、前記繊維状着色剤の繊維断面の直径。
【請求項5】 前記混練り工程において、前記混合物が摩擦熱による発熱で溶融・流動状態に至るまでの期間に渡り、前記混合物へ単位時間に印加する単位重量当たりの平均仕事率を2乃至30kW/kgとする請求項4に記載の可消色性組成物の製造方法。
【請求項6】 請求項1又は請求項3に記載の可消色性組成物からなるトナー。
【請求項7】 請求項1又は請求項3に記載の可消色性組成物の微粒子を水を含む溶剤系中に分散させてなることを特徴とする可消色性水性着色剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、発色状態の呈色性化合物を無色の消色状態へ変えることのできる可消色性組成物及びその製造方法及び可消色性着色剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、コンピューター、プリンター、複写機、ファクシミリなどの普及により、紙による情報の出力が増加している。紙への出力を削減すべく「情報の電子化によるペーパーレス化」が叫ばれるものの、視認性の良さ、高い携帯性、ページめくりによる情報検索の手軽さ、などの特徴から、紙へのハードコピーの要望は絶えることがない。その結果、紙の原料となる天然資源の保護及びゴミ処理量の低減・二酸化炭素排出量の削減が解決すべき課題となるに至っている。「紙の再生・再利用」は、天然資源の保護及びゴミ処理量の低減・二酸化炭素排出量の削減の各局面において、極めて今日的な課題である。
【0003】
このような事情から、紙へ印刷・印字するための画像形成材料(各種印刷インキ、トナー、ジェットインクなど)を印刷・印字後に無色化する技術は、紙の再生・再利用を推進する上で極めて重要である。即ち、従来の紙の再生方法においては、回収紙を水で再解膠した後、いわゆる「脱墨工程」においてインク部分を浮遊分離する方法や漂白剤を用いて脱色する方法が用いられており、これらが、新規に製紙する場合に比べて工程経費を高くする要因となっている。
従って、発色状態の呈色性化合物を無色の消色状態へ変えることのできる可消色性着色剤を用いた画像形成材料によって印刷された紙は、従来のような手間の掛かる脱墨工程を経ることなしに、再利用或いは再生することが可能になると期待される。
【0004】
近年、可消色性着色剤について種々検討が行われ、熱を加えることにより消色可能な可消色性着色剤が、例えば、特開平7−81236号公報や特開平10−88046号公報に開示されている。前者の公開公報には、ロイコ染料などの呈色性化合物と、顕色剤と、消色作用を有する有機リン酸化合物とを含有する可消色性着色剤が、又、後者の公開公報には、ロイコ染料などの呈色性化合物と顕色剤との組み合わせに対して、熱を加えることによって消色作用を示す消色剤としてコール酸、リトコール酸、テストステロン、コルチゾンなどのステロール化合物を使用する可消色性着色剤が開示されている。
【0005】
又、有機溶剤と接触させることにより消色可能な可消色性着色剤が、例えば特開2000−109896号公報に開示されている。この可消色性着色剤は、ロイコ染料などの呈色性化合物、顕色剤、及び、消色剤からなるものであり、消色剤として、顕色剤を物理的又は化学的に吸着することが可能な電子供与性基を有する高分子化合物(例えば、デンプン、デンプン誘導体、セルロース誘導体など)を用いることが特徴であり、可消色性着色剤の製造方法としては、バインダー樹脂としてのポリスチレン、呈色性化合物、顕色剤、及び、消色剤からなる混合物をニーダーを用いて混練りし、この混練り物を粉砕機で粉砕する方法が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来の可消色性着色剤は、各々特長がある反面、発色性の良さと消色性の良さを両立することが容易でなかったり、印刷物としての実使用条件における耐久性に乏しかったり、コストが高いなどの欠点があり、本格的実用化のためには一層の性能向上が望まれているのが実状である。
従って、本発明の目的は、消色可能な、印刷物としての実使用条件における発色状態が良好且つ安定で、画像形成材料として印刷・印字などに用いられた後で、加熱や有機溶剤との接触などの消色処理によって簡単に消色することができ、且つ、その消色状態を安定に維持することができる可消色性組成物及びその製造方法を提供することである。
本発明者は、従来の技術において、可消色性着色剤の発色及び消色が不充分になる原因を種々検討した結果、可消色性着色剤中の消色剤の存在形態及び顕色剤との分子間相互作用が重要な支配要因であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、少なくともマトリックス材料、顕色剤、前記顕色剤との分子間相互作用により発色する呈色性化合物、及び前記顕色剤と前記呈色性化合物との分子間相互作用よりも強く、前記顕色剤と分子間相互作用する消色剤からなる可消色性組成物であって、
(1)該組成物が粒子状可消色性着色剤として用いられる場合は、前記粒子状可消色性着色剤中では、前記消色剤は、常に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記粒子状可消色性着色剤の直径を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、
(2)該組成物が薄膜状画像形成材として用いられる場合は、前記薄膜状画像形成材中では、前記消色剤は、常に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記薄膜状画像形成材の膜厚を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、
(3)該組成物が繊維状着色剤として用いられる場合は、前記繊維状着色剤中では、前記消色剤は、常に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記繊維状着色剤の繊維断面の直径を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在し、
上記のいずれの場合においても、発色状態においては、前記顕色剤は前記マトリックス材料中に前記呈色性化合物と分子間相互作用して存在し、消色状態においては、前記顕色剤は前記呈色性化合物と分子間相互作用せずに、微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在する前記消色剤の表面に吸着されて前記消色剤と分子間相互作用して存在することを特徴とする可消色性組成物である。
【0008】
又、本発明は、少なくともマトリックス材料、顕色剤、前記顕色剤との分子間相互作用により発色する呈色性化合物、及び前記顕色剤と前記呈色性化合物との分子間相互作用よりも強く、前記顕色剤と分子間相互作用する消色剤からなる可消色性組成物の製造方法であって、前記マトリックス材料、前記顕色剤、前記呈色性化合物、及び前記消去剤からなる混合物を混練りする混練りする工程において、前記消色剤を前記混合物中に、その形状を球で近似したときの平均直径が下記の(1)乃至(3)の群から選択される値を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在するよう分散させることを特徴とする可消色性組成物の製造方法である。
(1)該組成物が粒子状可消色性着色剤として用いられる場合は、前記粒子状可消色性着色剤の形状を球で近似したときの平均直径、
(2)該組成物が薄膜状可消色性画像形成材として用いられる場合は、前記薄膜状画像形成材の膜厚、
(3)該組成物が繊維状可消色性着色剤として用いられる場合は、前記繊維状着色剤の繊維断面の直径。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に発明の好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
本発明の可消色性組成物が加工されて粒子状可消色性着色剤として用いられる場合、その粒子の大きさは、着色剤としての用途に応じて最適な大きさが選定される。例えば、ポスターカラーとして数cm乃至数十cmの大きさの文字の筆記に使われたり、ポスター全面に塗工されたりする場合は、形状を球で近似したときの平均直径として数十μm乃至百数十μmという比較的大きなサイズであっても使用可能である。本発明の粒子状可消色性着色剤が複写機やプリンターのトナーとして使用される場合は、粒子の形状を球で近似したときの平均直径として10μm前後乃至7μm程度の大きさが好適である。本発明の粒子状可消色性着色剤を分散して筆記具用水性インクやインクジェットプリンターのインク(ジェットインク)として使用する場合は、粒子の形状を球で近似したときの平均直径として、筆記具用水性インクでは8μm以下、ジェットインクでは2μm以下にすることが好ましい。
【0010】
本発明の可消色性組成物が加工されて薄膜状可消色性画像形成材として用いられる場合は、その薄膜の厚さは、着色剤としての用途に応じて最適な値が選定される。例えば、大判の掲示物のための画像形成材として用いられる場合、薄膜としての厚さは数十μm乃至百数十μmという比較的大きな値であっても使用可能である。一方、熱転写プリンターのインクリボンとして用いられる場合は、薄膜としての厚さは数μm乃至十数μmであることが好ましい。
従って、本発明の可消色性組成物が加工されて繊維状可消色性着色剤として用いられる場合は、その繊維断面の直径は、着色剤としての用途に応じて最適な値が選定される。例えば、紙に漉き混み、紙に可消色性の着色を施す場合には、繊維断面の直径は数μm乃至十数μmであることが好ましい。
【0011】
以下、本発明の可消色性組成物を構成するマトリックス材料、呈色性化合物、顕色剤、及び消色剤について順次詳細に説明する。
[マトリックス材料]
本発明の可消色性組成物に用いられるマトリックス材料としては、有機高分子化合物又は低分子化合物を使用することができる。以下、必要に応じて、有機高分子化合物からなるマトリックス材料を高分子マトリックス材料、又低分子化合物からなるマトリックス材料を低分子マトリックス材料と呼ぶこととする。
【0012】
本発明の可消色性組成物に用いられる高分子マトリックス材料は、本可消色性組成物を画像形成材料として用いる際に通常追加して使用される結着剤樹脂と同一でも、異なっても良い。
例えば、ジェットインク(インクジェットプリンター用のインク)のように粒子状可消色性着色剤を、そのまま、溶剤(水又は有機溶剤)に分散させた形態の画像形成材料の場合、追加して使用される結着剤樹脂乃至分散剤は、前記溶剤に可溶であって、一方、可消色性組成物に用いられるマトリックス材料は前記溶剤に不溶性・不膨潤性であることが必要である。
【0013】
又、例えば、オフセットインキのように粒子状可消色性着色剤をワニスに分散させて使用する場合には、可消色性組成物に用いられるマトリックス材料は、ワニスの溶剤である亜麻仁油、大豆油、高沸点の石油系溶剤などに不溶性・不膨潤性であることが必要である。
更に、例えば、クレヨン、クレパス、熱転写インク、複写機用トナーに本発明の可消色性組成物を用いる場合には、可消色性組成物に用いられるマトリックス材料は、本可消色性組成物を画像形成材料として用いる際に追加して使用される結着剤樹脂と同一であっても良い。
【0014】
高分子マトリックス材料としては、本発明の可消色性組成物のインクジェットインク、印刷インクなどの使用形態に応じ、公知の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の中から、可消色性組成物が色素として発色状態で使用される温度範囲おいて、呈色性化合物及び顕色剤を固溶化(溶解して分子分散させる)することができ、且つ、消色剤を上記サイズの微粒子乃至ミクロ相分離状態として分散させることができ、更に粒子としての形態を維持することのできる樹脂を適宜選択して使用することができ、特に制限されない。
【0015】
具体的には、例えば、呈色性化合物としてロイコ色素、顕色剤としてフェノール化合物、消色剤としてデンプンを用いる場合、次のような有機高分子化合物をマトリックス材料として好適に使用することができる。即ち、例えば、ケトン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリインデン、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリビニルピリジン、ポリオキシメチレン、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリプロピオン酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、
【0016】
ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルベンジルエーテル、ポリビニルメチルケトン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ベンジル、ポリメタクリル酸シクロヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アミド、ポリメタクリロニトリル、ポリアセトアルデヒド、ポリクロラール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート類(ビスフェノール類+炭酸)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリ(ジエチレングリコール・ビスアリルカーボネート)類、
【0017】
6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロン、6,12−ナイロン、ポリアスパラギン酸エチル、ポリグルタミン酸エチル、ポリリジン、ポリプロリン、ポリ(γ−ベンジル−L−グルタメート)、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アセチルセルロース、セルローストリアセテート、セルローストリブチレート、アルキド樹脂(無水フタル酸+グリセリン)、脂肪酸変性アルキド樹脂(脂肪酸+無水フタル酸+グリセリン)、不飽和ポリエステル樹脂(無水マレイン酸+無水フタル酸+プロピレングリコール)、エポキシ樹脂(ビスフェノール類+エピクロルヒドリン)、エポキシ樹脂(クレゾールノボラック+エピクロルヒドリン)、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、フラン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂などの樹脂、ポリ(フェニルメチルシラン)などの有機ポリシラン、有機ポリゲルマン及びこれらの共重合・共重縮合体を好適に使用することができる。
【0018】
更に、例えば、呈色性化合物としてロイコ色素、顕色剤としてフェノール化合物、消色剤としてデンプンを用いて得られる本発明の可消色性組成物を、複写機、又はプリンター用のトナーに用いる場合には、可消色性組成物のマトリックス材料兼画像形成材料の結着剤樹脂として、例えば、ポリスチレン、ポリスチレンとアクリル樹脂とのブレンドポリマー、スチレン−アクリル系共重合体、ポリエステル、エポキシ樹脂などを特に好適に用いることができる。ここで、スチレン−アクリル系共重合体を構成するアクリル系モノマーとしては、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ブチル、N−(エトキシメチル)アクリルアミド、メタクリル酸エチレングリコール、メタクリル酸4−ヘキサフルオロブチルなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリレートモノマーは1種又は2種以上を用いることができる。共重合体中のスチレンの割合は50重量%以上であることが好ましい。又、スチレン及びアクリル系モノマーの他に、ブタジエン、マレイン酸エステル、クロロプレンなどを共重合させても良いが、これらの成分は10重量%以下とすることが好ましい。ここで、ポリスチレンとアクリル樹脂とのブレンドポリマーをマトリックスとして用いる場合、アクリル樹脂としては上記共重合の場合に例示したものを1種又は2種以上用いることができる。尚、ブタジエン、マレイン酸エステル、クロロプレンなどを10重量%以下の割合で含有する共重合体を用いても良い。マトリックス中のポリスチレンの割合は50重量%以上であることが好ましい。
【0019】
更に、カルボン酸と多価アルコールから合成されるポリエステルも使用可能である。カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、フマル酸、マレイン酸、こはく酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、ピロメリット酸、シトラコン酸、グルタコン酸、メサコン酸、イタコン酸、テラコン酸、フタル酸、イソフタル酸、ヘミメリト酸、メロファン酸、トリメシン酸、プレーニト酸、トリメリット酸などが挙げられる。これらの内1種又は2種以上を用いることができる。多価アルコールとしては、例えば、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルジオール、ヘキサメチレンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ペンタグリセロール、ペンタエリトリトール、シクロヘキサンジオール、シクロペンタンジオール、ピナコール、グリセリン、エーテル化ジフェノール、カテコール、レゾルシノール、ピロガロール、ベンゼントリオール、フロログルシノール、ベンゼンテトラオールなどが挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。又、2種類以上のポリエステルのブレンドポリマーを用いても良い。
【0020】
又、エピクロルヒドリンと多価のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物から合成されるエポキシ樹脂も使用できる。多価フェノール系化合物としては、例えば、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ビスフェノールS、エーテル化ジフェノール、カテコール、レゾルシン、ピロガロール、ベンゼントリオール、フロログルシノール、ベンゼンテトラオールなどが挙げられる。これらの1種又は2種以上が用いられる。又、エポキシ樹脂に対して、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラニン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンなどを15重量%以下の割合でブレンドしても良い。
【0021】
低分子マトリックス材料としては、低分子可塑剤、低分子滑剤、低分子ワックスなどの低分子化合物を用いることができる。即ち、可消色性組成物が色素として発色状態で使用される温度範囲において、呈色性化合物及び顕色剤を固溶化(溶解し分子分散させる)することができ、且つ、消色剤を微粒子乃至ミクロ相分離状態として分散させることができ、更に粒子としての形態を維持することのできる低分子化合物を適宜選択して低分子マトリックス材料として使用することができる。
具体的には、例えば、呈色性化合物としてロイコ色素、顕色剤としてフェノール化合物、消色剤としてデンプンを用いてクレヨンを作成する場合、低分子化合物(ワックス)として、例えば、1−ドコサノールを好適に使用することができる。
【0022】
[呈色性化合物]
本発明で用いられる呈色性化合物としては、例えば、ロイコオーラミン類、ジアリールフタリド類、ポリアリールカルビノール類、アシルオーラミン類、アリールオーラミン類、ローダミンBラクタム類、インドリン類、スピロピラン類、フルオラン類などの有機化合物を挙げることができる。
具体的な呈色性化合物として、例えば、クリスタルバイオレットラクトン(CVL)、マラカイトグリーンラクトン、2−アニリノ−6−(N−シクロヘキシル−N−メチルアミノ)−3−メチルフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−(N−メチル−N−プロピルアミノ)フルオラン、3−[4−(4−フェニルアミノフェニル)アミノフェニル]アミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、2−アニリノ−6−(N−メチル−N−イソブチルアミノ)−3−メチルフルオラン、2−アニリノ−6−(ジブチルアミノ)−3−メチルフルオラン、3−クロロ−6−(シクロヘキシルアミノ)フルオラン、
【0023】
2−クロロ−6−(ジエチルアミノ)フルオラン、7−(N,N−ジベンジルアミノ)−3−(N,N−ジエチルアミノ)フルオラン、3,6−ビス(ジエチルアミノ)フルオラン−γ−(4′−ニトロアニリノ)ラクタム、3−ジエチルアミノベンゾ[a]−フルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−キシリジノフルオラン、3−(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−ジエチルアミノ−7−クロロアニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7,8−ベンゾフルオラン、
【0024】
3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,6−ジメチルエトキシフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メトキシ−7−アミノフルオラン、2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、クリスタルバイオレットカルビノール、マラカイトグリーンカルビノール、N−(2,3−ジクロロフェニル)ロイコオーラミン、N−ベンゾイルオーラミン、ローダミンBラクタム、N−アセチルオーラミン、N−フェニルオーラミン、2−(フェニルイミノエタンジリデン)−3,3−ジメチルインドリン、N,3,3−トリメチルインドリノベンゾスピロピラン、8’−メトキシ−N,3,3−トリメチルインドリノベンゾスピロピラン、
【0025】
3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−メトキシフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−ベンジルオキシフルオラン、1,2−ベンゾ−6−ジエチルアミノフルオラン、3,6−ジ−p−トルイジノ−4,5−ジメチルフルオラン、フェニルヒドラジド−γ−ラクタム、3−アミノ−5−メチルフルオランなどを好適に使用することができる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。言うまでもなく、呈色性化合物を適宜選択すれば多様な色の発色状態が得られ、マルチカラー化が可能である。
【0026】
これらの呈色性化合物は、例えば、一例を以下に化学式で示すように、無色型と発色型の両形態をとることの可能な互変異性化合物である。
【化1】
【0027】
[顕色剤]
上記のような互変異性を表す化学式において、下側に示される分子内塩型の化学構造が「発色型」に対応することが知られている。そして、このようなイオン性分子内塩型の構造をプロトンの授受乃至水素結合の形成、或いは金属錯塩の形成によって安定化することによって、発色型を安定化することのできる化合物が、いわゆる顕色剤である。
本発明で用いられる顕色剤としては、例えば、フェノール及びフェノール誘導体、フェノール誘導体の金属塩、カルボン酸誘導体の金属塩、サリチル酸及びサリチル酸金属塩、ベンゾフェノン及びベンゾフェノン誘導体、スルホン酸類、スルホン酸塩類、リン酸類、リン酸金属塩類、酸性リン酸エステル類、酸性リン酸エステル金属塩類、亜リン酸類、亜リン酸金属塩類、ハロゲン化亜鉛などを挙げることができる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
顕色剤として用いることのできるフェノール誘導体の具体例を以下に化学式で例示する。
【0028】
【化2】
【0029】
これらのフェノール誘導体は、例えば、以下に化学式で示すように発色型の呈色性化合物のカルボン酸残基と分子間で相互作用して水素結合を形成することによって、発色状態を安定化することができる。このような呈色性化合物と顕色剤の分子間相互作用は、両者がともにマトリックス材料中に固溶化(溶解して分子分散)している場合であっても起こりうる。
【0030】
【化3】
【0031】
上記化学式に例示されるようにマトリックス材料中で呈色性化合物と顕色剤とが分子間で相互作用し、呈色性化合物が発色型になった系において、後述するような「消色剤」が、(1)非晶性(アモルファス)で、マトリックス材料中にミクロ相分離した微粒子状態で存在している場合、及び(2)結晶性で、マトリックス材料中に微結晶として分散している場合には、加熱や消色助剤処理による活性化が行われなければ、顕色剤と消色剤との分子間相互作用(化学平衡論的には呈色性化合物と顕色剤の相互作用よりも強い)は、速度論的制御によって「凍結」されて事実上起こり得ず、顕色剤による呈色性化合物発色型の安定化は維持される。
【0032】
[消色剤]
本発明の可消色性組成物における消色剤とは、呈色性化合物と顕色剤の分子間相互作用よりも強く、顕色剤との間で分子間相互作用する化合物であって、且つ、可消色性組成物の発色状態においてはマトリックス材料中に、又、消色状態においては溶融又は膨潤又は溶解した混合物中に微粒子(消色剤が結晶の場合)乃至ミクロ相分離状態(消色剤がアモルファス状態の場合)として分散して存在することが可能な化合物である。
消色剤と顕色剤の間に働きうる分子間相互作用としては、水素結合、イオン結合、疎水性結合、立体化学的な包接現象などを利用することができる。即ち、分子中に1個以上のアルコール性水酸基、遊離のカルボン酸基、カルボン酸塩残基、環式飽和炭化水素残基、などを有する化合物の中から、使用するマトリックス材料への溶解性及びその温度依存性を目安として、消色剤として利用可能なものを選択することができる。
【0033】
本発明で使用される消色剤の具体例としては、例えば、コーンスターチ、タピオカスターチ、片栗粉などのデンプン、デンプンを主成分とする穀物粉体(例えば、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、米粉など)、デンプンの誘導体(例えば、メチル化スターチ、エチル化スターチ、アセチル化スターチ、ニトロ化スターチなど)、セルロース、セルロース誘導体(例えば、酢酸セルロース、メチル化セルロース、エチル化セルロース、ニトロ化セルロース)、多糖類およびその誘導体(例えば、デキストリン、デキストラン、マンナン、アミロペクチン、アミロース、キシラン、グリコーゲン、イヌリン、リケニン、キチン、ヘミセルロース、ペクチン、植物ゴム、アガロース、カラゲニン、サポニンなど)などを好適に用いることができる。
【0034】
本発明の可消色性組成物は、少なくともマトリックス材料、呈色性化合物、顕色剤、及び粒子サイズの調整された消色剤から構成されるが、好ましい配合比は以下の通りである。
マトリックス材料は、呈色性化合物1重量部に対して、通常、0.1乃至1000重量部、好ましくは0.5乃至100重量部、更に好ましくは1乃至20重量部の割合である。顕色剤は、呈色性化合物1重量部に対して、通常、0.1乃至10重量部、好ましくは1乃至2重量部の割合である。顕色剤が0.1重量部未満の場合には、呈色性化合物と顕色剤との相互作用による可消色性組成物の発色が不充分になる。顕色剤が10重量部を超える場合には両者の相互作用を充分に減少させることが困難となる。消色剤は、呈色性化合物1重量部に対して、通常、1乃至200重量部、好ましくは10乃至100重量部の割合である。消色剤が1重量部未満では、可消色性組成物の発色状態と消色状態との間の状態変化を起こさせることが困難になる。消色剤が200重量部を超えると、可消色性組成物の発色が不充分になる。
【0035】
本発明の可消色性組成物においては、発色状態或いは消色状態によらず、可消色性組成物中では、消色剤は常に微粒子乃至ミクロ相分離状態として分散されて存在する。消色剤の微粒子乃至ミクロ相分離状態としての大きさは、その形状を球で近似したときの平均直径が所定の大きさの前記可消色性組成物の直径を超えない大きさであることが必要である。仮に可消色性組成物中において消色剤の微粒子乃至ミクロ相分離状態としての大きさが、その形状を球で近似したときの平均直径として前記可消色性組成物の直径を超えたとすると、その粒子は実質的には消色剤のみからなる粒子である。即ち、可消色性組成物を製造するに当たり、消色剤の粒子の大きさに留意せず、マトリックス材料、呈色性化合物、顕色剤及び粗大粒子状消色剤を上記の組成で調合し、混練し、粉砕・分級しただけでは、結果的に「マトリックス材料、呈色性化合物、及び顕色剤からなり、実質的に消色剤を含まない粒子」と「実質的に消色剤のみからなる粒子」の混合物が得られる。このような粒子混合物からなる可消色性着色剤は、発色状態における発色濃度の点では問題がないものの、本発明の製造方法で得られる可消色性組成物に比べ、画像形成材料として用いた場合の解像度が劣ったり、消色特性が劣ったり、インクとして用いた場合の流動性や長期保存安定性に問題が生じたりする。
【0036】
本発明の可消色性組成物においては、発色状態或いは消色状態によらず、可消色性組成物中では、消色剤は常に微粒子乃至ミクロ相分離状態として、非平滑な表面を持って分散されて存在することが好ましい。ここで「非平滑な表面を持つ消去剤」とは、表面が凹凸を持つことによって、同じ重量の球体の表面積よりも大きな表面積を持つ、微粒子乃至ミクロ相分離状態の消去剤を意味する。このような非平滑な表面を持つ消去剤は、顕色剤と相互作用するための表面が大きな表面積を有することから、優れた消色特性を発揮する。
尚、本発明の可消色性組成物には、その機能を損なわない限りにおいて、必要に応じて、低分子化合物からなる可塑剤、ワックス、滑剤、離型剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電制御剤などの添加剤を適量、含有させることができる。
【0037】
以下に本発明の可消色性組成物の製造方法について説明する。
[可消色性組成物の製造方法]
本発明の可消色性組成物の製造方法は、マトリックス材料、顕色剤、呈色性化合物、及び消去剤からなる混合物を混練りする工程において、前記消色剤を前記混合物中に、その形状を球で近似したときの平均直径が所定の値を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在するよう分散させることが特徴である。
本発明の可消色性組成物を製造するに際しては、バンバリーミキサーのように15強い剪断力を有する混練り装置が好適に用いられる。即ち、混練り装置の強い剪断力によって、消色剤は文字通り引きちぎられ、所定の大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として存在するように分散させられる。
【0038】
混練り工程における「練り」の強さは、混練り物の単位重量当たり、単位時間に印加されるエネルギー量(仕事率)として定義することができる。鋭意検討の結果、前記組成の混練り物(混合物)が摩擦熱による発熱で溶融・流動状態に至るまでの期間に渡って、混練り物の単位重量当たりに印加される平均仕事率が2乃至30kW/kgであると、前記消色剤を前記混合物中に、その形状を球で近似したときの平均直径が前記可消色性組成物の直径を超えない大きさの微粒子乃至ミクロ相分離状態として、(非平滑な表面を持って)存在するよう分散させることができることが明らかとなった。ここで、「平均仕事率」とは、前記組成の混練り物(混合物)が摩擦熱による発熱で溶融・流動状態に至るまでの期間に渡る仕事率を平均した値である。尚、混練り装置の種類・構造にもよるが、平均仕事率に対して、仕事率のピーク値は2倍以上に達することがある。混練り物の単位重量当たりに印加される平均仕事率が2kW/kg未満では、消色剤が剪断力によって引きちぎられる割合が減じ、原料として仕込んだ際の粒子形態のまま分散されて存在する割合が増加し、結果的に消色特性が悪化する。一方、混練り物の単位重量当たりに印加される平均仕事率が30kW/kgを超えると、摩擦熱による局所的温度上昇が顕著になり、可消色性着色剤の一部が熱分解乃至炭化してしまい好ましくない。尚、摩擦熱による局所的温度上昇は極めて短時間に起こるため、混練り装置の外壁部分やローター部分から冷却しても熱分解を防ぐことは容易でない。
【0039】
本発明の可消色性組成物を加工して、粒子状可消色性着色剤、薄膜状可消色性画像形成材、或いは繊維状可消色性着色剤を製造するには、公知の方法を適宜適用することができ、特に限定されない。但し、製造工程の途中で、凍結されている消色作用が発現しないよう、諸条件を設定する必要があることは言うまでもない。
【0040】
可消色性組成物中において消色剤が前記の大きさの微粒子或いはミクロ相分離状態として、非平滑な表面を持って存在することは、以下に述べるような種々の分析手段を用いて確認することができる。
例えば、消色性色素組成物をそのまま薄膜に加工し、この薄膜を光学顕微鏡、又は共焦点型レーザー顕微鏡などで観察することによって、消色剤の微粒子乃至ミクロ相分離状態としての大きさを確認することができる。この際、観察される「微粒子乃至ミクロ相分離状態」が消色剤に帰属されるものであることは、呈色性化合物/マトリックス材料、顕色剤/マトリックス材料、呈色性化合物及び顕色剤/マトリックス材料、消色剤/マトリックス材料、及びその他の添加剤を使用している場合はその他の添加剤/マトリックス材料という組み合わせの組成物を上記の場合と同等の条件で薄膜に加工し、光学顕微鏡又は共焦点型レーザー顕微鏡で比較観察することによって確認することができる。又、消色剤が微粒子(結晶)として存在しているか、ミクロ相分離状態(アモルファス)で存在しているかは、X線回析法によって確認することができる。
【0041】
分散されて存在する前記消色剤の主要成分の微粒子乃至ミクロ相分離状態としての大きさが、球で近似したときの平均直径として0.1μm未満の場合は、
(1)X線小角散乱法、(2)薄膜試料についての透過型電子顕微鏡観察(画像を明確にするため、必要に応じて四酸化オスミウム染色などの手法を併用)、又は(3)薄膜試料表面についての走査型電子顕微鏡観察(適当な溶剤を用いて試料表面から消色剤のみを溶かし出すなどの手法を併用)などによって微粒子乃至ミクロ相分離状態としての大きさを確認することができる。この場合も、観察される微粒子乃至ミクロ相分離状態の帰属は、消色剤を含まない試料との比較によって確認することができる。
微粒子乃至ミクロ相分離状態として分散されて存在する前記消色剤の表面が非平滑であることは、(A)可消色性組成物の消色剤以外の成分を適当な溶剤に溶解し、消色剤のみを取り出して、その表面を走査型電子顕微鏡で観察する方法、或いは(B)可消色性組成物を溶融させた薄膜の表面から適当な溶剤によって消色剤のみを溶かし出して、その痕跡を走査型電子顕微鏡で観察する方法などによって確認することができる。
【0042】
[水を含む溶剤系]
本発明の可消色組成物は、可消色性水性着色剤として使用することができる。水性媒体としては、例えば、水、又は、水及び水と相溶性のある有機溶剤の混合溶剤を挙げることができる。水と相溶性のある有機溶剤の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、イソペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンなど、アルコール性水酸基を有する溶剤を挙げることができる。水及び水と相溶性のある有機溶剤の混合溶剤における好ましい水の存在比率は10乃至99重量%である。水の存在比率が10重量%を下回ると、有機溶剤成分がマトリックス樹脂を侵すおそれがある。又、水の存在比率が99重量%を越えると、有機溶剤を混合する効果、例えば揮発性の向上効果或いは乾燥防止効果が発揮されない。
【0043】
[結着剤]
本発明の可消色性組成物を可消色性水性着色剤として塗工液、印刷インキ、ジェットインク、或いは、筆記具のインクとして使用するにあたっては、成膜性或いは印刷適正を付与するために、可消色性水性着色剤の一成分として結着剤を必要とする。尚、結着剤自身が分散剤として作用する場合以外は、通常、後述の分散剤と併用される。又、可消色性水性着色剤中で、結着剤は溶液又はエマルジョンとして使用される。
可消色性水性着色剤の結着剤としては、公知の結着剤の中から次に示す条件を満足するものを適宜選択して使用することができる。尚、以下の条件を全て同時に満足する必要はない。
【0044】
(1)可消色性水性着色剤中の微粒子状可消色性着色剤成分(マトリックス樹脂、呈色性化合物、及び顕色剤からなる)を、発色状態を保ったまま分散し、成膜性或いは印刷適正を付与することのできる樹脂又は低分子化合物であること。
(2)画像を形成した後、可消色性着色剤を消色状態とするために加熱処理した際、溶融する樹脂又は低分子化合物であること。
(3)画像を形成した後、可消色性着色剤を消色状態とするために消色助剤処理した際、消色助剤によって膨潤するか、或いは、消色助剤の透過・浸透を妨げない樹脂又は低分子化合物であること。
(4)画像を形成した後、可消色性着色剤を消色状態とするために消色助剤処理した際、消色助剤に溶解する樹脂又は低分子化合物であること。
【0045】
結着剤の具体例としては、マトリックス樹脂としてのポリスチレン、呈色性化合物としてのロイコ染料、及び顕色剤としての没食子酸n−プロピルからなる微粉末を可消色性着色剤として用い、消色剤としてはデンプンを用いる場合、結着剤として、例えばアクリル酸或いはメタクリル酸エステル共重合体の水系エマルジョン;ポリビニルアルコール;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースなどの水溶性セルロース誘導体;アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、カルボキシル化アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムなどのアクリロニトリル−ブタジエン系共重合ゴムラテックス;メチルメタクリレート−ブタジエン共重合ゴム、カルボキシル化メチルメタクリレート−ブタジエン共重合ゴムなどのメチルメタクリレート−ブタジエン系共重合ゴムラテックス;スチレン−ブタジエン共重合ゴム、カルボキシル化スチレン−ブタジエン共重合ゴムなどのスチレン−ブタジエン系共重合ゴムラテックス;アクリレート系ゴムラテックス、塩化ビニル系ゴムラテックス、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合ゴムラテックス;ポリクロロプレンゴムラテックス等などを好適に使用することができる。
【0046】
[分散剤]
可消色性水性着色剤を塗工液、印刷インキ、ジェットインク、或いは、筆記具のインクとして使用するに当たっては、分散安定性を付与するために、可消色性水性着色剤の成分として、結着剤と合わせて分散剤を使用することが好ましい。 可消色性水性着色剤の分散剤としては、公知のものの中から次に示す条件を全て同時に満足するものを適宜選択して使用することができる。
(1)可消色性水性着色剤中の微粒子状可消色性着色剤成分(マトリックス樹脂、呈色性化合物、及び顕色剤からなる)を、発色状態を保ったまま分散し、分散安定性を付与することのできる樹脂又は低分子化合物であること。
(2)消色剤が溶剤可溶性である場合、消色剤を溶解しないこと。
(3)顕色剤を全く溶解しないこと。
(4)マトリックス樹脂を溶解したり、膨潤させたりしないこと。
(5)分散剤自身が消色剤として作用しないこと。
【0047】
分散剤の具体例としては、マトリックス樹脂としてのポリスチレン、呈色性化合物としてのロイコ染料、及び顕色剤としての没食子酸n−プロピルからなる微粉末を可消色性水性着色剤として用い、消色剤としてはデンプンを用い、結着剤としてはアクリル酸或いはメタクリル酸エステル共重合体の水系エマルジョンを用いる場合、例えば、末端に芳香族環基を有するポリエチレンオキシド誘導体などのノニオン系界面活性剤を好適に使用することができる。
【0048】
上記のような成分からなる可消色性水性着色剤の成分組成比については、通常の湿式着色剤を製造する場合の組成比を援用すれば良く、特に制限されない。又、このような組成の可消色性水性着色剤を製造するには、通常の塗工液、印刷インキ、ジェットインク、或いは筆記具のインクの製造方法を援用することができる。
本発明の可消色性組成物を可消色性水性着色剤として使用する場合には、上記必須成分以外に、必要に応じて他の添加剤を用いることもできる。但し、言うまでもなく、これらの添加剤は、可消色性水性着色剤の発色及び消色に悪影響を及ぼさないものを選択しなければならない。具体的には、グリセリン、尿素等の保湿剤;安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等の防腐剤;ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、エチレンジアミン四酢酸等の防錆剤;リノール酸カリウム、オレイン酸ナトリウムなどの潤滑剤;紫外線吸収剤、pH調節剤などを添加することが可能である。更に、ペン体内部にインク流動調節部材を備えない簡易な構造の水性ボールペンに本発明の可消色性水性着色剤を適用する場合には、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン等の多糖類を添加することによって揺変性を付与させた粘性のインクとして用いる。これら多糖類を添加する場合の添加量は、可消色性水性着色剤組成中0.1〜0.8重量%の範囲であることが好ましい。
【0049】
[消色方法]
発色状態にある可消色性組成物を消色状態にする、即ち消色するには、可消色性組成物を加熱・溶融して消色する方法と、可消色性組成物の一部又は全部を溶解又は膨潤させる液体又は気体の消色助剤に接触させて消色する方法とがある。 可消色性組成物を加熱・溶融することによって、速度論的に凍結されていた顕色剤の分子運動が活発になり、該組成物の溶融状態混合物中を移動して微粒子乃至ミクロ相分離状態で存在している可消色性組成物の非平滑な表面に吸着し、呈色性化合物と顕色剤の分子間相互作用よりも強く、顕色剤と消色剤との間で強い分子間相互作用を起こすこととなり、その結果、呈色性化合物の発色状態は不安定化し、消色状態となる。上記のような消色状態は平衡論的に安定であるため、加熱を止めても継続する。
【0050】
可消色性組成物を消色するための加熱手段はどのような形態でも良く、例えば、サーマルプリンターヘッド(TPH)、サーマルバー、ホットスタンプ、ヒートローラーなどを用いることができる。又、赤外線ランプや熱風により加熱しても良い。本発明の可消色性組成物を用いた画像形成材料によって文字・画像が形成された紙を一度に大量に消色処理する際には、箱形温風乾燥機や送風式恒温機を好適に使用することができる。
【0051】
加熱によって可消色性組成物を消色処理する際の加熱温度は可消色性組成物が該組成物として混合溶融状態となる温度(「混合による融点降下」の現象によって可消色性組成物構成成分単独の場合の融点乃至軟化点よりも低い温度である)以上である。加熱によって可消色性組成物を消色処理する際の加熱温度の上限は、可消色性組成物成分の熱分解開始温度の内、最も低い温度である。尚、呈色性化合物、顕色剤、消色剤、及びマトリックス材料の種類又は組み合わせによっては、加熱によって前記成分が熱分解したり、好ましくない副反応を起こして非消色性の有色化合物を形成したりすることがある。このような場合は、消色方法として、次に述べる消色助剤を用いる方法を適用することが好ましい。
【0052】
発色状態の可消色性組成物の一部又は全部を溶解又は膨潤させる液体の消色助剤(有機溶剤)と接触させて消色を行う場合には、速度論的に凍結されていた顕色剤の分子運動が消色助剤によって活発になり、溶解又は膨潤した該組成物中を移動して微粒子乃至ミクロ相分離状態で存在している可消色性組成物の表面に吸着し、呈色性化合物と顕色剤の分子間相互作用よりも強く、顕色剤と消色剤との間で強い分子間相互作用を起こすこととなり、その結果、呈色性化合物の発色状態は不安定化し、消色状態となる。上記のような消色状態は平衡論的に安定であるため、液体の消色助剤が取り除かれても継続する。このような消色の機構から明らかなように、室温よりも高温、例えば50℃乃至80℃でこの方法を実施することは極めて効果的である。
【0053】
発色状態の可消色性組成物を膨潤させる気体の消色助剤(有機気体)と接触させて消色を行う場合にも、速度論的に凍結されていた顕色剤の分子運動が消色助剤によって活発になり、膨潤乃至溶解した該組成物中を移動して微粒子乃至ミクロ相分離状態で存在している可消色性組成物の表面に吸着し、呈色性化合物と顕色剤の分子間相互作用よりも強く、顕色剤と消色剤との間で強い分子間相互作用を起こすこととなり、その結果、呈色性化合物の発色状態は不安定化し、消色状態となる。上記のような消色状態は平衡論的に安定であるため、気体の消色助剤を取り除き、膨潤状態でなくした後も継続する。このような消色の機構から明らかなように、室温よりも高温、例えば50℃乃至80℃でこの方法を実施することは極めて効果的である。
【0054】
発色状態の可消色性組成物を膨潤させる気体の消色助剤と接触させて消色を行う方法において消色助剤として用いられる気体は、可消色性組成物の内部にまで浸透しやすく膨潤させる性質を有する必要がある。具体的にはエチレン、アセチレン、ジメチルエーテルなど常温常圧で気体の有機化合物、及び、ナフタレン、p−ジクロロベンゼンなど常温常圧で昇華して気体になる有機化合物を好適に使用することができる。
【0055】
発色状態の可消色性組成物を膨潤又は溶解させる液体の消色助剤と接触させて消色を行う方法において消色助剤として用いられる有機溶剤は、(A)顕色剤と消色剤との間の水素結合の形成を助ける性質を有することが好ましく、更に、(B)マトリックス材料との親和性が高く、可消色性組成物の内部にまで浸透しやすい性質を有することが好ましい。上記の(A)の性質を満たす溶剤は単独で使用することができる。又、2種以上の溶剤を混合して上記の2つの性質を満たすようにしても良い。
【0056】
第1類の溶剤、即ち、上記の(A)及び(B)の両方の性質を有する溶剤としては、エーテル、ケトン、エステルなどが挙げられる。具体的には、例えば、エチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルイソプロピルエーテル、イソペンチルメチルエーテル、ブチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチルイソペンチルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジヘキシルエーテルなどの飽和エーテル;エチルビニルエーテル、アリルエチルエーテル、ジアリルエーテル、エチルプロパルギルエーテルなどの不飽和エーテル;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンなどの2価アルコールのエーテル;オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキソラン、ジオキサン、トリオキサンなどの環状エーテル;アセトン、メチルエチルケトン、
【0057】
メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、イソプロピルメチルケトン、ブチルメチルケトン、エチルプロピルケトン、イソブチルメチルケトン、ピナコロン、メチルペンチルケトン、ブチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ヘキシルメチルケトン、イソヘキシルメチルケトン、へプチルメチルケトン、ジブチルケトンなどの飽和ケトン;エチリデンアセトン、アリルアセトン、メシチルオキシドなどの不飽和ケトン;シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノンなどの環状ケトン;ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、ギ酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸sec−アミル、酢酸ヘキシル、酢酸アリル、酢酸2−メトキシエチル、酢酸2−エトキシエチル、1,2−ジアセトキシエタン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、
【0058】
プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ペンチル、プロピオン酸イソペンチル、プロピオン酸sec−アミル、酢酸2−メトキシプロピル、酢酸2−エトキシプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸ペンチル、酪酸イソペンチル、酪酸sec−アミル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸ブチル、イソ酪酸ペンチル、イソ酪酸イソペンチル、イソ酪酸sec−アミル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、吉草酸イソプロピル、吉草酸ブチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、吉草酸イソプロピル、吉草酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸プロピル、ヘキサン酸イソプロピルなどのエステルなどである。上記以外の溶剤として、ジクロロメタン、γ−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルイソインドリノン、ジメチルスルホキシドなどがある。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いても良い。混合溶剤を用いる場合、混合比は任意に設定できる。
【0059】
第2類の溶剤、即ち、上記(A)の性質を有するが、マトリックスとの親和性が低い溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、イソペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンなどを挙げることができる。
【0060】
第3類の溶剤、即ち、上記(A)の性質を持たないが、マトリックスとの親和性が高い溶剤(B)としては、例えば、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジエチルベンゼン、メシチレン、キシレン、クレゾール、エチルフェノール、ジメトキシベンゼン、ジメトキシトルエン、ベンジルアルコール、トリルカルビノール、クミルアルコール、アセトフェノン、プロピオフェノン、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘプタン、シクロオクタン、石油留分(石油エーテル、ベンジンなど)などを挙げることができる。
【0061】
上述したように第1類の溶剤は単独で良好に使用することができる。第2類の溶剤は、単独でも使用できるが、第1類の溶剤と混合しても良い。この場合、いずれの類の溶剤も消色能を持っているので任意の混合比で使用することができる。第2類の溶剤と第3類の溶剤との混合溶剤を用いる場合、充分な消色能が得られれば両者の混合比は特に限定されないが、第3類の溶剤を20乃至80重量%とすることが好ましい。第3類の溶剤は第1類の溶剤と混合して用いても良い。この場合、第3類の溶剤を90重量%以下とすれば良い。又、第1類から第3類の溶剤を混合して用いても良い。この場合、第3類の溶剤を80重量%以下とすることが好ましい。
【0062】
可消色性着色剤を効率的に消色するためには溶剤を予め加熱しておいても良い。この場合、溶剤の沸点を超えない範囲で、溶剤の温度を40℃以上に加熱することが好ましい。又、溶剤による消色方法を用いる場合、溶剤に消色剤を添加することもできる。
【0063】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0064】
実施例1
消色剤としてのデンプンは市販のコーンスターチ(粒子の外径約9乃至15μm)をそのまま用いた。尚、デンプンの粒子径は、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いて電解質を含んだ水中に超音波分散させた試料をコールターカウンターTA−II型(コールター社製)にて測定して求めた。又、図1に使用したデンプンの走査型電子顕微鏡写真を示す。図1から明らかなように、市販のデンプン粒子の表面は非平滑である。
【0065】
呈色性化合物として感熱色素PSD−184(日本曹達株式会社製)2重量部、顕色剤として没食子酸プロピル1重量部、消色剤としてデンプン(数平均粒子径9μm、且つ体積平均粒子径15μm)17重量部、マトリックス材料として79重量部のポリスチレン、及び、帯電制御剤としてLR−147(日本カーリット株式会社製)1重量部を予め混合し、合計1.2kgの混合物をバンバリーミキサーを用いて混練りしたところ、摩擦熱により約2分で溶融・流動状態となった。この間、前記混合物の単位重量当たり、単位時間に印加された平均仕事率は(以下では単に平均仕事率と称する)6.67kW/kgであり、ピーク値は8.33kW/kgであった。混練り物を冷却し、実施例1の黒色の混練り物(可消色性組成物)を得た。
【0066】
実施例1の可消色性組成物約10mgをホットプレート上で100℃に加熱したスライドガラスの上に置き、100℃に加熱したもう1枚のスライドガラスを重ねて圧着した後冷却し、ガラス板の間に挟まれた厚さ約20μmの薄膜試料を作製した。100℃で溶融した場合、実施例1の可消色性着色剤は黒色を保っていることが確認された。又、この溶融させて作製した薄膜を顕微鏡観察したところ、消色剤のデンプンに帰属される粒子はほとんど観察できなかった。
【0067】
そこで、実施例1の可消色性組成物約10gをテトラヒドロフラン100mlに溶解し、四フッ化エチレン製メンブランフィルター(孔径0.1μm)を用いて不溶物(デンプン)を濾別し、テトラヒドロフラン200mlを用いて充分洗浄した。得られた灰白色の不溶物がデンプンであることは、赤外線吸収スペクトルにて確認した。得られた不溶物(デンプン)をテトラヒドロフランに分散して走査型電子顕微鏡観察用の導電性基板上に塗布し、乾燥し、カーボンを蒸着して走査型電子顕微鏡で観察した。視野の中には直径5μm前後の粗大な粒子も観察されるものの、デンプンの大部分は、図2に一例を示すように直径2μm未満の微細粒子として存在していることが確認された。図1と図2の比較から、バンバリーミキサーを用いた混練りの際の強い剪断力によって、デンプン粒子が引きちぎられて微粒子化されたことが判る。
【0068】
次に、加熱による消色を行うため、本実施例の可消色性組成物の上記の薄膜試料を、200℃で10分間加熱し、室温まで冷却したところ、黒色の発色状態は消色され、薄膜は乳白濁状態になった。消色した薄膜が透明にならず、乳白濁状態に見えるのは、マトリックス材料中にデンプン微粒子が分散しているためである。比較のために、消色剤のデンプンを含まな以外は本実施例と同様にして、呈色性化合物、顕色剤、帯電調整剤、及びマトリックス材料からなる混練り物を製造し、これをガラス板に挟み100℃で溶融製膜して黒色の薄膜を得、更に200℃で10分間加熱し、室温まで冷却したが、消色は起こらなかった。
【0069】
以上の観察から、消色剤としてデンプンを使用した場合の消色の機構は、呈色性化合物と水素結合していた顕色剤が加熱によってマトリックス材料中を移動して消色剤であるデンプン微粒子の表面へ到達し、そこへ吸着されて分子間相互作用し、その結果、呈色性化合物の発色状態が不安定化し、消色するものと推測される。
【0070】
実施例1の混練り物をカッター刃回転式粉砕機で粒子外径1mmまで粗粉砕し、次いで、これをサイクロン式分級機を備えた循環式エアジェット粉砕機で最大粒子径20μm以下まで粉砕し、更に、これを別のサイクロン式分級機を用いて分級し、数平均粒子径8μm、且つ体積平均粒子径12μmの微粒子として、実施例1の粒子状可消色性着色剤を得た(収率81%)。尚、粒子径は前記と同様にして測定した。尚、又、粉砕・分級工程の収率は、損失としての、装置内に滞留し取り出すことのできない部分(仕込量によらず一定)及びサイクロン分級機で捕集できない部分(仕込量に比例)の影響を受けるため、上記の値は一例であるが、粉砕・分級工程の収率として妥当な値を達成可能である。
【0071】
以上のように製造された実施例1の粒子状可消色性着色剤(数平均粒子径8μm、且つ体積平均粒子径12μm;内部のデンプン粒子は直径2μm未満)100重量部に対して1重量部の疎水性シリカを添加して、実施例1のトナーを調製した。
得られたトナーを電子写真方式複写機のトナーカートリッジに入れ、試験用画像(テストチャート)を複写機用中性紙(反射率0.08)にコピーした。得られたコピー画像は充分な画像濃度であり、解像度は上記粒子径のトナー画像として標準的なものであり、通常の使用条件で高い耐久性を示し、又、100℃で30分間加熱しても画像は維持された。尚、可消色性組成物からなるトナーの熱定着過程は、冷却完了まで含めて秒オーダーの速度で行われるため、可消色性組成物中における消色剤又は顕色剤の物質移動及び消色剤と顕色剤との分子間相互作用は速度論的に抑制され、結果的に、充分な濃度の画像を形成することができる。このコピー画像は190℃以上まで加熱するか、或いは、液体又は気体の消色助剤に接触させることで消色することができる。
【0072】
実施例1の可消色性組成物からなるトナーによってコピー画像が形成された紙100枚を、束ねた状態で190℃に温度調節された送風式恒温器(ヤマト科学製DN83型)に入れ、同温度で12時間放置した後、取り出した。その結果、100枚の紙に形成されたコピー画像は全て消色され、肉眼では確認できなくなった。消色後の可消色性画像記録紙各々の反射濃度を測定したところ、全て0.10であった。即ち、優れた消色特性を発揮することが確認された。加熱消色によってコピー画像が消色された紙を60℃で300時間放置したが、画像が再び現れることはなかった。
【0073】
実施例1の可消色性組成物からなるトナーによってコピー画像が形成された紙をメチルイソブチルケトン(MIBK)に浸漬した。その結果、紙にコピーされた画像が消色され肉眼では確認できなくなった。消色後の紙の反射濃度を測定したところ0.08であった。即ち、優れた消色特性を発揮することが確認された。消色後の紙の反射濃度の数値を加熱による消色と溶剤処理による消色とで比較すると、溶剤処理の場合の方が若干良い値であった。これは、溶剤処理による消色の場合、可消色性着色剤が消色すると同時に紙にしみ込んで紙の表面からなくなるのに対して、加熱消色の場合、消色した可消色性着色剤溶融物が紙の表面に残留し、反射濃度測定に若干の影響を与えるためであり、消色された紙を再利用する上では全く問題にならない。
【0074】
溶剤処理による消色過程を確認するため、トナーをMIBKと接触させたところ、瞬時に膨潤・溶解した。この液体をガラス板上に薄く塗工し、室温で、溶剤を蒸発させ、更に0.001パスカルの真空下、100℃で24時間加熱処理して溶剤を完全に除去した。溶剤を除去しても消色状態は維持された。
以上の観察から、溶剤を用いて消色した場合も、呈色性化合物と水素結合していた顕色剤が溶剤によって活性化して溶解乃至膨潤した混合物中を移動して消色剤であるデンプン微粒子の表面へ到達し、そこへ吸着されて分子間相互作用し、その結果、呈色性化合物の発色状態が不安定化し、消色するものと推測される。
【0075】
溶剤処理によってコピー画像が消色された紙を60℃で300時間放置したが、画像が再び現れることはなかった。その後、画像を溶剤処理で消色した紙に、別の画像を転写し、溶剤処理で消色するプロセスを9回繰り返した。その後に転写した10回目の画像は1回目の画像と同等の品質であった。更に、コピー及び消色を50回まで繰り返した。その結果、紙は機械的に痛んだが、コピーされた画像の品質及び消色状態の品質は良好であった。
【0076】
比較例1
実施例1におけるバンバリーミキサーの代わりに、同一容量の加圧式ニーダーを用いて、加圧圧力を調節しながら混練りを行ったところ、摩擦熱により約8分で溶融・流動状態となった。この間、前記混合物に印加された平均仕事率は1.25kW/kgであり、ピーク値は2.5kW/kgであった。尚、加圧式ニーダーの加圧圧力を高くすると、前記混合物へ印加される平均仕事率は大きな値となる。得られた混練り物を冷却し、比較例1の可消色性組成物を得た。
【0077】
比較例1の可消色性組成物の薄膜を実施例1と同様にして作製した。薄膜は黒色を保っていることが確認された。この溶融薄膜を顕微鏡観察したところ、消去剤のデンプンに帰属される粒子が明確に観察された。
次に、実施例1と同様にして比較例1の可消色性組成物から不溶物(赤外線吸収スペクトルにてデンプンであることを確認した。)を分離し、走査型電子顕微鏡で観察したところ視野の大部分には図1に見られるような球形のデンプン粒子が観察された。視野の中には、図3に一例を示すような直径約10μmの球形デンプン粒子が数個に破断されたものも確認された。図1と図3の比較から、加圧式ニーダーを用いた混練り(混合物へ印加された平均仕事率は1.25kW/kg)においては、デンプン粒子が数個に破断される程度の剪断力は働くものの、バンバリーミキサーを用いた場合(実施例1における平均仕事率は6.67kW/kg)ほどではないため、デンプン粒子が微粒子化されるには至らなかったことが判る。
そこで、加圧式ニーダーの加圧圧力を徐々に高めて、混合物へ印加される平均仕事率の値を大きくする実験を繰り返したところ、混合物へ印加される平均仕事率が2kW/kg以上のとき、消色剤・デンプン粒子の微細化が円滑に進行することが確認された。
【0078】
比較例1の可消色性組成物を用いる他は実施例1と同様にして、該組成物を粒子外径1mmまで粗粉砕し、次いで、サイクロン式分級機を備えた循環式エアジェット粉砕機で最大粒子径20μm以下まで粉砕し、更に、これを別のサイクロン式分級機を用いて分級し、数平均粒子径8μm、且つ体積平均粒子径12μmの粒子状可消色性着色剤を収率80%で得た。尚、粒子径は実施例1の場合と同様にして測定した。
比較例1の上記の薄膜(微粉砕前の該組成物を使用)及び上記の粒子状可消色性着色剤の溶融薄膜を顕微鏡観察したところ、直径数μm乃至10μm以上のデンプン粒子(電子顕微鏡観察による図3の粒子に相当するもの)が多数存在していることが確認された。即ち、粒子状可消色性着色剤としての粒子サイズとデンプン粒子の大きさが相等しくなっている領域が存在していることから、比較例1の粒子状可消色性着色剤の中には、実質的に消色剤であるデンプンだけからなる粒子が混在していると推定される。又、粒子状可消色性着色剤の中に、実質的にデンプンだけからなる粒子が混在していると、その他のデンプン粒子ではない粒子状可消色性着色剤中には、消色剤成分(デンプン)が設計値よりも不足することとなる。
【0079】
以上のように製造、解析された比較例1の粒子状可消色性着色剤(数平均粒子径8μm、且つ体積平均粒子径12μm;実質的にデンプンのみからなる粒子を含む)100重量部に対して1重量部の疎水性シリカを添加してトナーを調製した。
得られたトナーを電子写真方式複写機のトナーカートリッジに入れ、試験用画像(テストチャート)を複写機用中性紙(反射率0.08)にコピーした。得られたコピー画像の濃度は実施例1の場合と同等であったが、解像度は上記粒子径のトナー画像としては劣るもので細線の所々にかすれが認められた。又、加熱消色を行ったところ、明らかに、実施例1の可消色性組成物からなるトナーを用いた実施例1の場合よりも劣る結果となった。即ち、比較例1の可消色性組成物からなるトナーによってコピー画像が形成された紙100枚を、実施例1の場合と同様に190℃で12時間加熱した後、取り出した。その結果、100枚の紙に形成されたコピー画像は全て消色されたが、肉眼で残像が確認された。消色後の可消色性画像記録紙各々の反射濃度を測定したところ、0.25前後であった。即ち、実施例1の可消色性組成物からなるトナーによって形成されたコピー画像に比べて、加熱による消色特性が著しく悪いことが判った。これらの原因は、前述のように比較例1の可消色性組成物は、原料のデンプン粒子が微粒子化されていないため、実質的にデンプンのみからなる粒子を含み、且つ、設計値よりも消色剤含有量の少ない可消色性組成物を含むためであると推定される。
【0080】
実施例2
消色剤としてのデンプンは実施例1と同じ市販のコーンスターチ(粒子の外径約9乃至15μm)をそのまま用いた。
呈色性化合物としてクリスタルバイオレットラクトン4重量部、顕色剤として没食子酸プロピル2重量部、消色剤としてデンプン(数平均粒子径9μm、且つ体積平均粒子径15μm)8重量部、マトリックス材料として85重量部のポリスチレン、及び帯電制御剤としてLR−147(日本カーリット株式会社製)1重量部を予め混合し、合計66kgの混合物をバンバリーミキサーを用いて混練りしたところ、摩擦熱により約2分で溶融・流動状態となった。この間、前記混合物へ印加された平均仕事率は2.44kW/kgであり、ピーク値は4.27kW/kgであった。混練り物を冷却し、実施例2の混練り物(可消色性組成物)を得た。
【0081】
この可消色性組成物を実施例1と同様にして100℃まで加熱、溶融させて薄膜化し、光学顕微鏡で観察したが、デンプンの粒子はごく僅かしか観察されなかった。
この組成物から実施例1と同様にして不溶物(赤外線スペクトルからでんぷんであることが確認された。)分離し、これを走査型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1の場合(図2)と同様に微粒子化されていることが確認された。但し、視野内に見られる直径5μm前後の粒子数は、実施例1の場合よりも多かった。これは、混合物へ印加された平均仕事率の値の相違を反映しているものと推測される。
【0082】
実施例2の可消色性組成物を用いる他は実施例1と同様にして、数平均粒子径8μm、且つ体積平均粒子径12μmの粒子(内部のデンプン粒子は直径5μm以下)として実施例2の粒子状可消色性組成物を製造した。収率は実施例1の場合と同等であった。尚、粒子径は実施例1と同様にして測定した。
実施例2の粒子状可消色性組成物100重量部に対して1重量部の疎水性シリカを添加して、実施例2のトナーを調製した。
得られたトナーを電子写真方式複写機のトナーカートリッジに入れ、試験用画像(テストチャート)を複写機用中性紙(反射率0.08)に転写した。得られた青紫色の画像は充分な画像濃度であり、通常の使用条件で高い耐久性を示し、又、100℃で30分間加熱しても画像は維持された。この画像は190℃以上まで加熱するか、或いは、液体又は気体の消色助剤に接触させることで消色することができる。
画像がコピーされた紙をメチルイソブチルケトン(MIBK)に浸漬すると、紙にコピーされた画像が消色され、肉眼では確認できなくなった。消色後の紙の反射濃度を測定したところ0.08であった。即ち、優れた消色特性を発揮することが確認された。
【0083】
実施例3
実施例1の可消色性組成物をカッター刃回転式粉砕機で粒子外径1mmまで粗粉砕し、次いで、これをサイクロン式分級機を備えた循環式エアジェット粉砕機で最大粒子径10μm以下まで粉砕し、更に、これを別のサイクロン式分級機を用いて分級し、数平均粒子径3.0μm且つ体積平均粒子径6.0μmの微粒子(内部のデンプン微粒子の直径は2μm以下)として、実施例3の粒子状可消色性組成物を得た。尚、粒子径は実施例1と同様にして測定した。
【0084】
実施例3の粒子状可消色性組成物20部を、結着剤メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル−アクリル酸(アンモニウム塩)共重合体20重量部、ノニオン系分散剤2重量部、プロピレングリコール10重量部、及び水48重量部を含む結着剤溶液へ、3本ロールを用いて分散させ、実施例3の可消色性水性着色剤を作製した。
【0085】
バーコーターを用いてこの可消色性水性着色剤を複写機用中性紙(反射率0.08)の片面全面に塗工し、乾燥した。この紙をメチルイソブチルケトン(MIBK)に浸漬した。その結果、この可消色性水性着色剤は消色され、肉眼では色は確認できなくなった。消色後の紙の反射濃度を測定したところ0.08であった。即ち、優れた消色特性を発揮することが確認された。
【0086】
繊維束を樹脂で結着させてなるペン体を固定したペン体ホルダーを弁機構を介して先端に嵌着したアルミニウム円筒体からなり、マーキング時にペン先を紙面に押しつけて弁を開放させて筒内のインクをペン先に導出するタイプのマーキングペンのペン体を用意し、これに上記の可消色性水性着色剤を充填し、応用例として筆記具を作成した。この筆記具を用いて複写機用中性紙(反射率0.08)に筆記した。得られた描線は充分な濃度であり、通常の使用条件で高い耐久性を示し、又100℃で30分間加熱しても描線は維持された。この描線は190℃以上に加熱するか、或いは、消色助剤に接触させることで消色することができた。
【0087】
すなわち、この筆記具で筆記された紙をメチルイソブチルケトン(MIBK)に浸漬した。その結果、実施例3の可消色性組成物を用いた可消色性水性着色剤で筆記された描線が消色され肉眼では確認できなくなった。
実施例3の可消色性組成物を用いた可消色性水性着色剤による描線が溶剤処理で消色された紙を60℃で300時間放置したが、描線が再び現れることはなかった。その後、描線を消色した紙に、上記の筆記具で描線を筆記し、溶剤処理で消色するプロセスを9回繰り返した。その後に筆記した10回目の描線は1回目の描線と同等の品質であり、消色された描線の上でとぎれるようなことはなかった。更に、筆記及び消色を50回まで繰り返した。その結果、筆記された描線の品質及び消色状態の品質は良好であった。
【0088】
本発明の実施例3の可消色性組成物を用いた可消色性水性着色剤の保存安定性を試験するため、(a)ガラス瓶中、及び(b)実施例3の筆記具中にそれぞれ密閉した状態で、50℃における長期保存試験を行った。その結果、50℃で6ヶ月間保存しても、発色状態及び分散状態に変化は認められず、又、紙の上に塗工或いは描画した後の消色特性にも劣化は認められなかった。
【0089】
比較例2
比較用に消色剤を含まない組成の色素組成物粒子を作成するため、呈色性化合物としてロイコ色素PSD−184(日本曹達株式会社製)2重量部、顕色剤として没食子酸プロピル1重量部、及び、マトリックス材料として79重量部のポリスチレンを予め混合し、ニーダーを用いて100℃を超えない温度で充分に混練した後、冷却して黒色に発色した色素組成物を製造した。
この混練物(色素組成物)をカッター刃回転式粉砕機で粒子外径1mmまで粗粉砕し、次いで、これをサイクロン式分級機を備えた循環式エアジェット粉砕機で最大粒子径10μm以下まで粉砕し、更に、これを別のサイクロン式分級機を用いて分級し、数平均粒子径3.0μm、且つ体積平均粒子径6.0μmの色素組成物粒子を得た。
【0090】
この粒子状色素組成物83重量%に対して消色剤として微粉砕したデンプン(数平均粒子径3.0μm、且つ体積平均粒子径6.0μm)17重量%の割合で混合したもの(ロイコ色素、顕色剤、及び、消色剤の成分組成は実施例3の可消色性水性着色剤の場合と同一)20重量部を、結着剤としてメタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル−アクリル酸(アンモニウム塩)共重合体20重量部、ノニオン系分散剤2重量部、プロピレングリコール10重量部、及び水48重量部を含む結着剤溶液へ、3本ロールを用いて分散させ、比較例2の可消色性水性着色剤を作成した。これを実施例3と同じペン体に充填して比較例2の筆記具を作製した。
【0091】
比較例2の可消色性水性着色剤を紙に塗工したもの、及び、比較例2の筆記具を用いて紙上に筆記した描画は、作成直後に試験した場合、実施例3の応用例の場合と同等の消色特性を発揮した。
ところが、比較例2の可消色性水性着色剤の保存安定性を実施例3と同様にして試験した結果、50℃で1週間保存しただけでデンプン微粒子の凝集が起こり、比較例2の可消色性水性着色剤を塗工することは困難となり、一方、比較例2の筆記具は筆記不能になった。このような不具合の原因は、消色剤であるデンプンの微粒子がマトリックス材料によって保護されていないためであると推定される。
【0092】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の可消色性組成物及びその製造方法によれば、紙の上に安定な画像を形成し、形成された画像を優れた消色特性で消色することのできる可消色性組成物を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1で用いた原料のデンプンを走査型電子顕微鏡で観察した図である。図に挿入された白線の長さは10μmである。
【図2】 実施例1の可消色性組成物から取り出したデンプンを走査型電子顕微鏡で観察した図である。図に挿入された白線の長さは5μmである。
【図3】 比較例1の可消色性組成物から取り出したデンプンを走査型電子顕微鏡で観察した図である。図に挿入された白線の長さは5μmである。
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