SORA-Q
SORA-Q(ソラキュー)は、JAXA、タカラトミー、ソニーグループ、同志社大学が共同開発した超小型の変形型月面ロボットの愛称。月着陸実証機SLIMに搭載された同機の正式名称はLunar Excursion Vehicle 2、略称:LEV-2である[1]。LEV-2は2024年1月20日にSLIM・LEV-1と共に月面着陸し、自律制御により展開・駆動し月面でSLIM等を撮影、世界初の完全自律ロボットによる月面探査、世界最小・最軽量の月面探査ロボットとなった[2]。
概要
[編集]2021年5月27日、2022年度中にispaceが実施予定の民間の月面探査プログラム「HAKUTO-R」によって月に輸送され、月面のデータ取得に利用されることが発表された[3]。HAKUTO-Rは2022年12月11日に打ち上げが成功し、2023年4月に民間機として世界初の月面着陸を目指していた[4]。しかし4月26日の着陸直前に通信が途絶え、月面に衝突した可能性が高いとされる[5]。
また2022年3月15日には、2022年度中にJAXAの小型月着陸実証機「SLIM」に、別の小型探査機「Lunar Excursion Vehicle 1(LEV-1)」と共に搭載され、月面でのデータ取得に利用されることが発表された[6][7]。打ち上げは2023年9月7日に実施され、SLIMの分離も確認された[8]。同年12月25日にSLIMの月周回軌道への投入に成功し、2024年1月20日に月に着陸する見込みとなった[9][10]。
2024年1月20日、SLIMは日本の探査機として初の月面着陸を成功させ、SORA-Qの分離も確認された[11]。1月25日、JAXAはSORA-Qが撮影したSLIMの実写画像を公開、この成果により、SORA-QおよびLEV-1が日本初の月面探査ロボットとなり、世界初の完全自律ロボットによる月面探査と、世界初の複数ロボットによる同時月面探査を達成、またSORA-Qは世界最小・最軽量の月面探査ロボットとなった[12][13]。
開発の経緯
[編集]タカラトミーは2007年に発売した「i-SOBOT」以降も継続してロボット開発をしていくことを考え、研究開発法人との共同開発を模索していた[7]。2015年夏に行われた産学連携のイノベーション展示会において小型昆虫型ロボットの開発を進めたいという研究開発法人を見つけ、2016年に公募されたJAXA の「宇宙探査イノベーションハブ」共同研究提案に応募したことで本プロジェクトが始動した[7]。その後、2019年にソニーグループ株式会社、2021年に同志社大学が共同開発に加わっている[1]。
SORA-Qの開発に当たっては、組立式駆動玩具の「ゾイド」シリーズ(1983年〜)や変形ロボットの「トランスフォーマー」(1984年〜)、二足歩行ヒューマノイド型ロボット「Omnibot 17μ i-SOBOT」(2007年)などで培ったタカラトミーの玩具開発のノウハウが活かされているという[7]。
計画と目的
[編集]HAKUTO-R ミッション1
[編集]2021年5月27日、JAXAは研究を進める月面でのモビリティ「有人与圧ローバ」の実現に向けて、株式会社ispaceが2022年度に実施予定の民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」に変形型月面ロボットを搭載して、月面でのデータ取得を行うことを決定したと発表した[14][15]。JAXAではこのミッションを、「民間企業の月着陸ミッションを活用した月面でのデータ取得(Lunar surface data Acquisition Mission for Pressurized rover Exploration)」、略して「LAMPE(ランプ)」と呼称した[16]。
2022年12月11日、ispaceのHAKUTO-R ミッション1の月着陸船を積んだスペースX社のファルコン9ロケットが、アメリカ・フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地からの打ち上げに成功した[4]。打ち上げから約45分後にロケットから月着陸船が分離されて所定の軌道へ投入された[4]。その後はゆっくりと航行を続け、2023年4月に民間機として世界初の月面着陸を目指した[4]。
ispace用のSORA-Qは、2022年6月時点では遠隔操縦になる予定とされていた[17]。2023年4月24日には、月面着陸後に計画されている探査に備えた訓練が行われた[18]。26日未明、月着陸船が月面着陸を試みるも通信が着陸直前で途絶した[19]。JAXAはispaceからの報告を受けてミッションの遂行を断念した[20]。
SLIM
[編集]LEV-2(SORA-Q) | |
---|---|
所属 | 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) |
状態 | 運用終了 |
設計寿命 | 約2時間 |
打上げ機 | H-IIA47号機 |
打上げ日時 | 2023年9月7日 |
軟着陸日 |
2024年1月19日 15:19:50(UTC、分離時刻) |
運用終了日 | 2024年1月19日(UTC) |
本体寸法 |
変形前:直径80mm 変形後:幅123×高さ90×奥行135mm |
質量 | 250g |
姿勢制御方式 | 車輪回転 |
搭載機器 | |
通信 | Bluetooth |
可視光カメラ | 前後2台 |
2022年3月15日、2022年度中にJAXAの小型月着陸実証機「SLIM」に、別の小型探査機「Lunar Excursion Vehicle 1(LEV-1)」と共に搭載され、月面でのデータ取得に利用されることが発表された[6]。
SORA-Qのミッションは、地球の6分の1という月面の低重力環境下での超小型ロボットの探査技術を実証することであるとし、その達成のためには、
- 月面に到達すること
- SLIMから分離して月面に着陸すること
- 月面のレゴリス上を走行し動作ログを取得、保存すること
- 着陸機周辺を撮影し、画像を保存すること
- 撮影した画像データ、走行ログ、ステータスをSLIMとは独立した通信系で地上に送信すること
SLIMに搭載予定のSORA-Qは自律で動作し、撮影した画像データはLEV-2(SORA-Q)からLEV-1へBluetooth通信で送信され、LEV-1を経由して地球へ送られる予定[7][1]。ミッション実行時間は1-2時間程度を予定しており、一次電池を消費して動作停止後は回収されずにそのまま月に残される[7]。
しかし2022年9月26日に、別の新型ロケットなどの打ち上げを優先するためにSLIMの打ち上げは2023年度へ延期されることが発表された[21]。当初は2023年5月の予定だったが何度か延期され[22]、2023年9月7日の実施となり、H2Aロケット47号機の打ち上げに成功、搭載されていたXRISMとSLIMの分離も確認された[23][24]。
SLIMはしばらく地球を周回した後、2023年10月4日に月の重力を利用したスイングバイを実施[25]、12月25日にSLIMの月周回軌道への投入に成功し、2024年1月20日に月に着陸する見込みとなった[26][27]。
2024年1月20日、SLIMは日本の探査機として初の月面着陸を成功させ、SORA-Qの分離も確認された[28]。なおLEV-1とSORA-Q(LEV-2)はSLIMが高度5メートル付近のときに放出され、LEV-1からの無線電波は和歌山大学の所持する口径12メートルのアンテナが受信した[29]。
1月25日、JAXAはSORA-Qが撮影した実写画像を公開[30]、公開された画像には4-5メートルほど離れた位置から撮影された月面に着陸したSLIMの姿、月面の様子と宇宙の空、そしてSORA-Q自身の車輪が1枚に収められていた[29]。この成果により、SORA-QおよびLEV-1が日本初の月面探査ロボットとなり、世界初の完全自律ロボットによる月面探査と、世界初の複数ロボットによる同時月面探査を達成、またSORA-Qは世界最小・最軽量の月面探査ロボットとなったことが証明された[12]。
名前の由来
[編集]SORA-Qの名称は2022年3月15日に発表された[6]。SORAは宇宙を意味する「宙(そら)」から、Qは宇宙に対する「Question(問い)」「Quest(探求)」、「探求」の「求」、「球体」であること、横からのシルエットが「Q」に似ていることなどから名付けられた[31][32][33]。
仕様
[編集]質量は約250グラム、変形前の球形状態での大きさは直径約8センチメートルである[34]。野球のボールとほぼ同じサイズ[35]。球体にしたことで月面までの輸送時の容積を小さくし、月面に放出・落下した際の耐衝撃性を高め、どのような角度で落下しても動作することを可能にした[36]。
月面に着陸後は外殻部分が左右に分かれて車輪となり(車輪となる外殻部分はバネ仕掛けで展開される[37]。)、中からカメラが立ち上がり、後方にはスタビライザーを伸ばして、月面のレゴリスの上を走行する計画である[34]。走行のための回転軸は偏心しており、左右の車輪を同時に動かす「バタフライ走行」、別々に動かす「クロール走行」の2種類のモードを駆使して最大で30度ほどまでの傾斜の移動に対応している[38][7]。走行の仕方は砂の上を這うハゼやウミガメの動きを参考にしたという[7]。
前後に1つずつカメラを搭載しており、前方のカメラで着陸機や周囲の状況を確認し、後方のカメラで月面を走行してできた轍などを撮影する[34]。内部のメインボードとカメラボードにはソニーの開発した「SPRESENSE」が搭載されており、AI技術を活用して良質な画像だけを選択するという[17]。
素材は車輪やメインボディには軽量で強度の高いアルミ系素材、カメラの外装には樹脂素材が使用されている[39]。
評価
[編集]2022年10月7日、2022年度のグッドデザイン賞を受賞し、ベスト100に選出された[36][40]。
2023年、『TIME』誌による「THE BEST INVENTIONS OF 2023」の200の発明品のうちの1つに選出された[41]。
一般公開
[編集]2022年6月16日、東京ビッグサイトで開催された東京おもちゃショーで一般向けに初めて公開された[38]。公開イベントには桝太一らが出席した[42]。展示されたSORA-Qは実際に月に行くフライトモデルではなく、開発で使われた動作検証モデルとなる[17]。また、同じサイズで同じ動きをするプロダクトモデル(商品名「SORA-Q Product Model」)をタカラトミーが発売する予定であることが発表された[17][43]。
2022年9月27日から10月10日まで九州佐賀国際空港の3階スペースパークで展示[44]。
2022年11月12日から27日まで岐阜県先端科学技術体験センター(サイエンスワールド)の「ミュージアムショップ理科ちゃん」で動作検証モデルを展示[45]。
2022年12月3日から2023年1月9日まで大阪市立科学館の展示場4階で開催されたミニ企画展「小型月着陸実証機『SLIM』展」で動作検証モデルを展示[46]。
2023年1月5日から21日まで宮崎科学技術館の1階展示室内で展示[47]。
2023年1月28日から5月8日まで岐阜かかみがはら航空宇宙博物館の企画展「ピンポイント・コンパクト・ SLIM ―日本、月へ。その先へ。―」で展示[48]。
2023年4月28日から6月25日までひらかたパークの「めっちゃ! 昆虫展」で展示[49]。
2023年12月23日から2024年4月14日まで、葛飾区郷土と天文の博物館の3階天文展示室で動作検証モデルを展示[50]。
2024年1月2日から3月4日まで、高知県南国市にある海洋堂SpaceFactoryなんこくの2階企画展示室で開催の「身近に感じる宇宙展〜高知から月へ〜」で動作検証モデルを展示[51]。
商品化
[編集]SORA-Q Flagship Model
[編集]2022年6月16日、東京ビッグサイトで開催された東京おもちゃショーで、同じサイズで同じ動きをするプロダクトモデル(商品名「SORA-Q Product Model」)をタカラトミーが発売する予定であることが発表された[17][43]。
2023年4月13日、タカラトミーはSORA-Qの1/1スケールモデル「SORA-Q Flagship Model」と、漫画『宇宙兄弟』とコラボレーションした300台限定のスペシャルモデル「SORA-Q Flagship Model-宇宙兄弟 EDITION-」を、9月2日に発売する予定であることを発表した[52]。東京都港区のスパイラルホールで行われた発表会には野口聡一、篠原ともえらが出席した[53]。希望小売価格はFlagship Modelが税込み27,500円、スペシャルモデルが税込み33,000円で、重量は実機の250グラムより軽い175グラムで、砂の上など屋外での利用は配慮されていない[54]。
2023年6月6日におこなわれた日本おもちゃ大賞2023でSORA-Q Flagship Modelがイノベイティブ特別賞を受賞した[55]。
トミカプレミアム SORA-Q & SLIM
[編集]タカラトミーは2024年4月23日、大人向けミニカーブランド「トミカプレミアム」から「SORA-Q & SLIM」を発売すると発表した[56]。事前申込による受注生産で、価格はセットで税込2750円で、2025年1月20日の発売を予定している[56]。SORA-Qは1/2.5スケール、SLIMは1/40スケールで、「JAXA LABEL DESIGN」付与商品となる[57]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d 飯塚直 (2022年3月16日). “タカラトミーの超小型変形型ロボット「SORA-Q」が月面探査へ”. CNET Japan. 2023年2月6日閲覧。
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関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- SORA-Q公式サイト - タカラトミー
- SORA-Q【公式】 (@SORAQ_official) - X(旧Twitter)