火星年代記
『火星年代記』(かせいねんだいき、英: The Martian Chronicles)は、レイ・ブラッドベリにより書かれたSF小説。単行本としては1950年に出版された。日本語版は早川書房から出版されている。
解説
[編集]26の独立した短編を連ねて一つの長編とした作品である。1940年代に『ウィアード・テイルズ』、『スリリング・ワンダー・ストーリーズ』など数誌に発表された短編群に、書き下ろし作品を加えて成立した。年代記の題名にたがわず、個々の短編には1999年1月から2026年10月までの年月が付されてその順の構成になっている。
地球人の火星への探検、それを受け入れない火星人との対立。突然の火星人絶滅、地球からの火星への植民、地球における全面核戦争と引き揚げ、そして火星に残った人々の人間模様といった、さまざまなエピソードが語られる。火星という舞台と各種SF的小道具を駆使しながらも内容は文明批評、特に当時のアメリカ合衆国を風刺した作品である。
また、1997年には改訂版が発表された。ブラッドベリはこの改訂版のために前書きを新たに書き下ろし、幾つかのエピソードを入れ替え、年代設定を変更している。
ストーリー
[編集]アメリカ合衆国は、火星探検隊をのせた宇宙船を打ち上げる。しかし第一次から第三次までの探検隊は、いずれも火星人の攻撃によって絶滅してしまう。
武装を整えて火星に乗り込んだ第四次探検隊は、廃墟と化した都市を発見する。先行した探検隊の持ち込んだ伝染病によって、火星人はほぼ絶滅してしまっていた。
やがて地球から火星への植民が本格化し、大勢の人々が移住してくる。彼らのほとんどは火星人や古代文明には関心を持たず、地球の価値観をそのまま火星に持込み、地球人の街を作っていく。
その後、地球で核戦争が勃発。ごく一部の例外を残して、人々は地球に戻ってしまう。核戦争は長期化し、地球上の街は壊滅していく。
長い時が経ち、地球から何とか脱出して火星にたどり着いた家族が、新たな「火星人」として生活を始める。
各編の題名(1950年版)
[編集]日本語訳は1から16までを小笠原豊樹、17から20までを木島始、21から26までを森優がそれぞれ担当した。
- 1999年1月 - ロケットの夏 (Rocket Summer)
- 1999年2月 - イラ (Ylla)
- 1999年8月 - 夏の夜 (The Summer Night)
- 1999年8月 - 地球の人々 (The Earth Men)
- 2000年3月 - 納税者 (The Taxpayer)
- 2000年4月 - 第三探検隊 (The Third Expedition)
- 2001年6月 - 月は今でも明るいが (—And the Moon Be Still as Bright)
- 2001年8月 - 移住者たち (The Settlers)
- 2001年12月 - 緑の朝 (The Green Morning)
- 2002年2月 - いなご (The Locusts)
- 2002年8月 - 夜の邂逅 (Night Meeting)
- 2002年10月 - 岸 (The Shore)
- 2003年2月 - とかくするうちに (Interim)
- 2003年4月 - 音楽家たち (The Musicians)
- 2003年6月 - 空のあなたの道へ (Way in the Middle of the Air)
- 2004-05年 - 名前をつける (The Naming of Names)
- 2005年4月 - 第二のアッシャー邸 (Usher II)
- 2005年8月 - 年老いた人たち (The Old Ones)
- 2005年9月 - 火星の人 (The Martian)
- 2005年11月 - 鞄店 (The Luggage Store)
- 2005年11月 - オフ・シーズン (The Off Season)
- 2005年11月 - 地球を見守る人たち (The Watchers)
- 2005年12月 - 沈黙の町 (The Silent Towns)
- 2026年4月 - 長の年月 (The Long Years)
- 2026年8月 - 優しく雨ぞ降りしきる (There Will Come Soft Rains)
- 2026年10月 - 百万年ピクニック (The Million-Year Picnic)
改訂版
[編集]改訂版では、「ロケットの夏」の年代が「2030年1月」に変更されたことをはじめ、各エピソードの年代がすべて旧版より31年繰り下げられた。また、「空のあなたの道へ」が削除されたうえ、『刺青の男』収録の「火の玉 (The Fire Balloons)」が「2033年11月 - 火の玉」として、『太陽の黄金の林檎』収録の「荒野 (The Wilderness)」が「2034年5月 - 荒野」として、それぞれ挿入された。
日本語版
[編集]- 火星人記録 (レイ・ブラッドベリ 斎藤静江訳 元々社・最新科学小説全集 1956年)
- 火星年代記 (小笠原豊樹訳(木島始訳、森優訳も含む。以降の版も同様) 早川書房 ハヤカワ・SF・シリーズ3047、1963年4月)
- 火星年代記 (小笠原豊樹訳 早川書房 世界SF全集13、1970年5月)
- 火星年代記 (小笠原豊樹訳 早川書房 ハヤカワ文庫NV114、1976年3月)ISBN 4-15-040114-4
- レイ・ブラッドベリ 著、小笠原豊樹 訳『火星年代記』(新)ハヤカワ文庫、2010(前記1997年刊の改訂版)。ISBN 9784150117641。
テレビ・ミニシリーズ
[編集]1979年にNBCとBBCによりテレビ・ミニシリーズ化された(原題:en:The Martian Chronicles (miniseries))。
脚本はSF作家でもあるリチャード・マシスン、監督はマイケル・アンダーソン。主演はロック・ハドソン。
上記の短編「火の玉」も含めて映像化されている。1980年には合計4時間以上の本編を3つのエピソードに分けてオンエアされ、日本でもTBS系列でスペシャルドラマとして放映された(邦題「火星年代記・そして地球は死んだ」)。
スタッフ
[編集]- 監督:マイケル・アンダーソン
- 脚本:リチャード・マシスン
- 製作:アンドリュー・ドナリー、ミルトン・サボツキー
- 製作総指揮:チャールズ・フライズ、ディック・バーグ
- 撮影:テッド・ムーア
- 音楽:スタンリー・マイヤーズ
キャスト
[編集]※括弧内は日本語吹き替え。(1981年11月23日に大阪・毎日放送、1983年1月8日にTBSで放送。2018年9月26日発売のDVDに収録。)
- ワイルダー:ロック・ハドソン(井上孝雄)
- パークヒル:ダーレン・マクギャヴィン(飯塚昭三)
- ジュヌビエーブ・セルサー:バーナデット・ピーターズ(白石冬美)
- ジェフ・スペンダー:バーニー・ケイシー(田中信夫)
- ストーン神父:ロディ・マクドウォール(千田光男)
- ペレグリン神父:フリッツ・ウィーヴァー(宮田光)
- ハサウェイ:バリー・モース(北川米彦)
- デビッド:マイケル・アンダーソン・ジュニア(安原義人)
- ルス・ワイルダー:ゲイル・ハニカット(朝井良江)
- ベン:クリストファー・コネリー(伊武雅刀)
- アナ:マリア・シェル(鈴木れい子)
- エルマ:ジョイス・ヴァン・パタン(加川紘子)
- 日本語版ナレーター(大木民夫)
関連項目
[編集]- アッシャー家の崩壊 - エドガー・アラン・ポーの短編小説。「第二のアッシャー邸」では、この作品を火星に再現する男が登場する。[1]
脚注
[編集]- ^ 山本弘 (2016年10月14日). “【連載3】アッシャー邸は滅びない - 火星年代記 など - シミルボン”. 2018年10月26日閲覧。