[go: up one dir, main page]

コンテンツにスキップ

民法第636条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法コンメンタール民法第3編 債権 (コンメンタール民法)

条文

[編集]

(請負人の担保責任の制限)

第636条
請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。

改正経緯

[編集]

2017年改正により以下の条項から改正。

(請負人の担保責任|担保責任に関する規定の不適用)

前二条の規定は、仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。
  • 前二条
    • 第634条 - 瑕疵の修補請求権(第1項)、瑕疵による損害賠償請求権(第2項)
    • 第635条 - 瑕疵による契約解除権

解説

[編集]

仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の、注文主の各種請求権については、2017年改正において、契約不適合責任として定立され、第559条を通して、以下の条項が準用される。

  • 第562条(買主の追完請求権)→「履行の追完の請求
  • 第563条(買主の代金減額請求権)→「報酬の減額の請求
  • 第564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)→「損害賠償の請求」及び「契約の解除

注文者が、請負人に対して材料の提供や指図がなされ、それに従って仕事をした場合、請負人は担保責任を負わない。

ただし、注文者の提供する材料や指図が不適当であることを、請負人が認識し、それを注文者に告げなかった場合、担保責任は免ぜられない。

2017年改正

[編集]

改正前の請負契約については、独自に『請負人の瑕疵担保責任』が、以下の通り定められており、第559条の適用はなく、従って、売買契約の『(隠れたる)瑕疵担保責任』は直接適用されなかった。

  • 旧・第634条:請負人の担保責任(瑕疵修補責任、損害賠償責任(代金減額請求権含む))
  • 旧・第635条:請負人の担保責任(解除、建物等に関する適用除外)
  • 旧・第636条:請負人の担保責任に関する規定の不適用(注文者の指図責任)
  • 旧・第637条:請負人の担保責任の存続期間
  • 旧・第638条:請負人の担保責任の存続期間(建物等)
  • 旧・第639条:担保責任の存続期間の伸長
  • 旧・第640条:担保責任を負わない旨の特約

売買の瑕疵担保責任と請負の瑕疵担保責任の主な差異は以下のとおりであった。各々、改正による影響を記す。

  1. 担保の対象は「隠れたる瑕疵」に限らない。
    →売買においても「隠れたる瑕疵」に限らず、契約不適合に関する責任となった。
  2. 注文者は瑕疵修補請求権を有するが買主にはない。
    →買主にも同様に追完請求権が認められるようになった。
  3. 目的物の瑕疵が注文者から提供されたものに起因する場合は担保責任がない。売買の場合は、売主の提供は想定されない。
    →注文主の指示に関する責任は継続。
  4. 建物等の請負については解除権はない。
    →建物等の請負に関する適用除外は無くなった。
  5. 請負の担保責任の存続期間の方が長い。
    →個別の規定は削除、第566条及び時効制度によることとなった。

(請負人の担保責任)

  1. 仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。
  2. 注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第533条の規定を準用する。
(改正前 解説)
第1項では、注文者の瑕疵修補請求権について定めている。
第2項では、瑕疵修補請求権と損害賠償請求権とは、注文者がどちらかを選択して行使することも、両方を行使することも注文者の任意であることを定めている。注文者が損害賠償を請求する場合において、注文者の損害賠償請求と請負人の報酬請求権とが同時履行の関係にあることを規定している。
  • 「請負人が建築した建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかはない場合」はどうか。
    構造の安全性、耐久性に重大な影響が及ぶ瑕疵がある建物を引き渡されたが、重大な瑕疵のあることを知りつつも注文者はしばらく使用せざるを得ず、ようやく別の建物を借りて建物を取り壊し新たに別の建物を建てて、かかった費用を損害賠償として請負人に請求した場合を考える。
    建て替え費用分の損害賠償をこの条文の修補に代わる損害賠償に含まれると解釈する。引渡しから5年以内(木造)あるいは10年以内(鉄筋やコンクリートの場合)に請求し(最判平成14年9月24日)、注文者の建物工事報酬債権と相殺することができる。重大な瑕疵のある建物を収去するのは公益的に大きな負担ではないから635条但書きに反しない。さらに解体工事費も請求できる。
    • では注文者がしばらく使用した分を損益相殺として賠償額から控除することが認められるか。
      請負契約ではなく宅建業者から譲り受けた事案で損益相殺は認められていない。

参照条文

[編集]

判例

[編集]

改正前関係判例

[編集]
  1. 請負代金請求(最高裁判決 昭和36年07月07日)
    請負契約の目的物の瑕疵修補に代る損害賠償請求と損害額算定の基準時
    請負契約における仕事の目的物の瑕疵につき、請負人に修補を請求したがこれに応じないので、修補に代る損害の賠償を請求する場合においては、右修補請求の時を基準として損害の額を算定するのが相当である。
  2. 損害賠償(最高裁判決 昭和54年03月20日) 民法第506条2項
    1. 民法506条2項の法意
      相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺をするに適するにいたつた時点に遡つて効力を生ずるものであり、その計算を双方の債務につき弁済期が到来し、相殺適状となつた時期を基準として双方の債権額を定め、その対等額において差引計算をすべきものである。
    2. 民法634条(旧)2項所定の損害賠償債権の発生時期及び期限の有無
      民法634条(旧)2項の損害賠償債権は、注文者が注文にかかる目的物の引渡を受けた時に発生する期限の定めのない債権である。
  3. 約束手形金本訴、損害賠償反訴(最高裁判決 昭和58年01月20日)
    造船の請負契約による建造船舶に比較的軽微な瑕疵があるがその修補に著しく過分の費用を要する場合において右修補に代えて改造工事費及び滞船料相当の金員につき損害賠償請求をすることが許されないとされた事例
    造船の請負契約によつて建造された船舶に存する瑕疵が比較的軽微であるが、その修補に著しく過分の費用を要するなど原判示の事実関係のもとにおいては、注文者は、請負人に対し、右修補に代えて、右修補に要する改造工事費及び滞船料に相当する金員を損害賠償として請求することはできない。
  4. 工事代金(最高裁判決 平成9年02月14日)民法第1条2項,民法第412条民法第533条
    請負契約の注文者が瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬全額の支払との同時履行を主張することの可否
    請負契約の目的物に瑕疵がある場合には、注文者は、瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等にかんがみ信義則に反すると認められるときを除き、請負人から瑕疵の修補に代わる損害の賠償を受けるまでは、報酬全額の支払を拒むことができ、これについて履行遅滞の責任も負わない。
  5. 請負工事代金請求、民訴法一九八条二項の裁判申立(最高裁判決 平成9年07月15日) 民法第412条民法第506条2項,民法第533条,民訴法198条2項,商法第514条
    請負人の報酬債権と注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償債権との相殺がされた後の報酬残債務について注文者が履行遅滞による責任を負う時期
    請負人の報酬債権に対し注文者がこれと同時履行の関係にある瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。
  6. 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成14年09月24日)民法第635条
    建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合に注文者が請負人に対し建物の建て替えに要する費用相当額の損害賠償を請求することの可否
    建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には,注文者は,請負人に対し,建物の建て替えに要する費用相当額の損害賠償を請求することができる。
  7. 請負代金請求事件(最高裁判決 平成15年10月10日)
    請負契約における約定に反する太さの鉄骨が使用された建物建築工事に瑕疵があるとされた事例
    建物建築工事の請負契約において,耐震性の面でより安全性の高い建物にするため,主柱について特に太い鉄骨を使用することが約定され,これが契約の重要な内容になっていたにもかかわらず,建物請負業者が,注文主に無断で,上記約定に反し,主柱工事につき約定の太さの鉄骨を使用しなかったという事情の下では,使用された鉄骨が,構造計算上,居住用建物としての安全性に問題のないものであったとしても,当該主柱の工事には,瑕疵がある。

前条:
民法第634条
(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
民法第635条
削除
民法
第3編 債権

第2章 契約

第9節 請負
次条:
民法第637条
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
このページ「民法第636条」は、まだ書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽にトークページへどうぞ。