日本企業が長期保有する不動産の含み益を標的にし、その売却を求めるアクティビスト(物言う株主)は今や珍しくない。鉄道貨物を取り扱う通運事業者や、特別積み合わせ貨物運送(特積み)の事業者は、駅近や市街地に優良物件を多く持つ。特集『物流大戦』の#5で、不動産を巡る攻防戦を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)
ロジスティードが打ち出した
「アセットライト戦略」に波紋
今年2月、米投資ファンドKKR傘下のロジスティード(旧日立物流)が公表した「お知らせ」に、物流関係者の注目が集まった。
それは、ロジスティードが自社保有する国内33の物流センターを全て売却し、資産を流動化させるというものだ。売却先はKKR系のREIT(上場不動産投資信託)などで、約2000億円で売却後もリースバック契約で引き続き施設を利用する。
その狙いについてロジスティードは「グローバル物流企業の多くが推進するアセットライト事業モデルへの転換を図る」と説明する。アセットライトとは、資産(アセット)の保有を抑え、財務を軽く(ライト)する経営のことだ。その売却益を使い、ロジスティードは8月22日、同業のアルプス物流に対するTOB(株式公開買い付け)を始めた。
一連の戦略について、ローランド・ベルガーの小野塚征志パートナーは「不動産売却で得たキャッシュで収益性の高い同業を買う。それを繰り返すことで収益性と成長性が高まり、ROA(総資産利益率)が改善する。これまで日本の物流会社に見られなかった戦略だ」と指摘。SBSホールディングスの鎌田正彦社長も「ファンドだからこそできる技だ」と評する(本特集#2『ヤマトと佐川の牙城を崩せ!佐川出身「異能の経営者」SBS鎌田社長が目論む、1兆円企業への勝算』参照)。
実は物流業界には、不動産が潤沢で「アセットヘビー」な会社が多い。ロジスティードを買収したKKRジャパンの平野博文社長も「日本の物流会社は、自前の倉庫を持つことを売りにしているが、必ずしもアセットを自分で持つ必要はない」とダイヤモンド編集部の取材に語り、アセットライト化を進める必要があると指摘した。
アセットがヘビーで資本効率が悪い上場企業に対しては、アクティビスト(物言う株主)に限らず、国や東京証券取引所も改善要求を突き付ける時代だ。
物流業界にも、そんな問題を抱えた会社が存在する。狙われる物流会社はどこか。次ページで明らかにする。