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ハイネズ(這杜松、学名: Juniperus conferta)は、裸子植物マツ綱ヒノキ科ビャクシン属(ネズミサシ属)の常緑針葉樹の1種である。ネズ(ネズミサシ)と同種とされることがあり、その場合は変種(Juniperus rigida var. conferta)として扱われる。は針葉で3輪生して密生し、触ると痛い(図1)。サハリンから九州の海岸に分布し、砂浜を這って広がる低木であり、しばしば大きな群落をつくる。観賞用にグランドカバーとして植栽されることがある。種小名の conferta は、ラテン語で「混み合った状態」を意味し、おそらく樹形を示している[7]

ハイネズ
1. ハイネズ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 裸子植物 gymnosperms
: マツ綱 Pinopsida
: ヒノキ目 Cupressales[注 1]
: ヒノキ科 Cupressaceae
亜科 : ヒノキ亜科 Cupressoideae
: ビャクシン属(ネズミサシ属) Juniperus
: Juniperus sect. Juniperus[4]
: ハイネズ J. conferta
学名
Juniperus conferta Parl. (1863)[5]
シノニム
英名
compact juniper[6], shore juniper[6]

特徴

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常緑低木であり、幹は地を這い、分枝して広がる[8][9][7](下図2a)。樹皮は灰白色[9]。小枝は赤褐色、葉を密につける[7]

は針葉で3輪生して密生し、長さ10–18ミリメートル (mm)、幅 1–2 mm、先端は硬く尖っており触ると痛い[8][9][7](下図2b)。葉の横断面は逆三角形、表面(向軸面)に溝状の白い気孔帯があり(下図2b)、裏面は濃緑色、裏側に樹脂道がある[8][9]

2a. 樹形
2b. 枝葉

雌雄異株、"花期"は4–5月[8][9]。"雄花"または"雌花"は、前年枝の新芽の腋に形成される[7]雄球花("雄花")[注 2]は楕円形、長さ 3–4 mm、黄緑色、卵形尖頭の小胞子葉がおおよそ3輪配列している[9][7]雌球花[注 3]は翌年の9–10月ごろに成熟し、裂開せず鱗片は合着して多肉質の漿質球果になり、球形、直径 10–12 mm でネズよりも大きく、はじめは緑色だが熟すと紫黒色になり、表面は白いロウ質で覆われる[8][9][13][7]。球果はふつう3種子を含み、種子は三角状卵形、約 6 × 3.5 mm、樹脂塊がついている[8][9]染色体数は 2n = 22[8][9]

分布

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サハリン南部、北海道本州九州に分布し、海岸の砂地に生育し、しばしば大きな群落を形成する[8][9][13]

保全状況評価

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日本全体としては絶滅危惧等の指定はないが、各都道府県では、以下のレッドリストの指定(統一カテゴリ名)を受けている(2023年現在)[14]

人間との関わり

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ハイネズは匍匐生の低木であり、グランドカバーとしてときに植栽される[15]。潮風にもよく耐えるなど、砂地などの過酷な環境に適している[16]。細根が少なく根張りも悪いので概して移植には向いていない[15]。日当たりと風通しの良い乾燥地を好む[15]。病害虫には強い[15]。先端部だけが勢いよく伸びるので、常に先端を剪定してバランスを取らないと密な樹形にはならない[15]。地面からの距離が低く、枝も粗いので雑草を防止する力は弱く、肥沃地では雑草に覆われて負けやすい[15]

ハイネズの園芸品種の例として、以下のようなものがある。

  • Juniperus conferta 'Blue Pacific'(ブルーパシフィック)(下図3a)
    ハイネズの代表品種。ほふく性のコニファーの中で、成長速度が速い最強健種のひとつ[17]。葉は青緑色[18][17][19]。日当たりを好み、乾燥には強い[17]。耐寒性はやや弱い[15]。移植は難しい[17]。挿し木で増やす[19]。海岸地の緑化にも用いられる[19]。鉢栽培にも向いている[15]
  • Juniperus conferta 'Sunsplash'(サンスプラッシュ)(下図3b)
    黄色の斑が入るブルーパシフィック[15][18]。成長速度はブルーパシフィックに大きく劣り、直射日光によって葉焼けすることもある[15]。鉢栽培にはあまり向いていない[15]
  • Juniperus conferta 'Silver Mist'(シルバーミスト)(下図3c)
    別名シルバーライニング[15]。葉が白緑色を帯びている[18]。成長は非常に遅いので接ぎ木で繁殖されることもある[20]。年間20cm程度しか伸びない[20]。鉢栽培も可能[15]
  • Juniperus conferta 'Aurea'(オーレア)
    新芽は黄金色だが、次第に黄緑色に変化する[18][21]
ハイネズの園芸品種
3a. ブルーパシフィック
3b. サンスプラッシュ
3c. シルバーミスト
3d. 'Emerald Ruffles'

分類

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ハイネズはネズ(ネズミサシ、Juniperus rigida)に近縁であり、ネズとハイネズは同種とされることも多い[4][22]。この場合、両者は変種レベルで分けられ、ネズは Juniperus rigida var. rigida、ハイネズは Juniperus rigida var. conferta とされる。またこの2種(2変種)の中間的な形態(幹や枝が立つ)を示し、雑種と考えられるものも知られており、オキアガリネズ(Juniperus ×pseudorigida (Makino) Hatus.)とよばれる[8]

房総半島三浦半島伊豆半島伊豆諸島に分布するハイネズに似た植物はオオシマハイネズとよばれ、葉が短く先端があまり尖らず、ハイネズの変種(Juniperus conferta var. maritima E.H.Wilson ex Nakai)とされたこともある[13]。しかし2023年現在では、オキナワハイネズJuniperus taxifolia var. lutchuensis (Koidz.) Satake)と同じものとされている[23]

脚注

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注釈

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  1. ^ ヒノキ科はイチイ科などとともにヒノキ目に分類されるが[1][2]マツ科(およびグネツム類)を加えた広義のマツ目(Pinales)に分類することもある[3]
  2. ^ "雄花"ともよばれるが、厳密にはではなく小胞子嚢穂(雄性胞子嚢穂)とされる[10]。雄性球花や雄性球果ともよばれる[11][12]
  3. ^ "雌花"ともよばれるが、厳密には花ではなく大胞子嚢穂(雌性胞子嚢穂)である[10][11]。送受粉段階の胞子嚢穂は球花とよばれ、成熟し種子をつけたものは球果とよばれる[11]

出典

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  1. ^ Stevens, P. F. (2001 onwards). “Cupressales”. Angiosperm Phylogeny Website. 2023年2月20日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・邑田仁 (2013). 維管束植物分類表. 北隆館. p. 44. ISBN 978-4832609754 
  3. ^ 大場秀章 (2009). 植物分類表. アボック社. p. 18. ISBN 978-4900358614 
  4. ^ a b Adams, R. P. & Schwarzbach, A. E. (2012). “Taxonomy of Juniperus section Juniperus: Sequence analysis of nrDNA and five cpDNA regions”. Phytologia 94 (2): 280-297. https://www.phytologia.org/uploads/2/3/4/2/23422706/942280-297adamsschwarzbach_junsectjunrev_4-30.pdf. 
  5. ^ a b c d e f g h i j Juniperus rigida var. conferta”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2024年1月5日閲覧。
  6. ^ a b GBIF Secretariat (2022年). “Juniperus rigida subsp. conferta (Parl.) Kitam.”. GBIF Backbone Taxonomy. 2024年1月5日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g Juniperus rigida subsp. conferta”. The Gymnosperm Database. 2024年1月5日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h i 大橋広好 (2015). “ネズミサシ”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. p. 40. ISBN 978-4582535310 
  9. ^ a b c d e f g h i j 中川重年 (2000). “ハイネズ”. 樹に咲く花 合弁花・単子葉・裸子植物. 山と渓谷社. p. 645. ISBN 978-4635070058 
  10. ^ a b 長谷部光泰 (2020). 陸上植物の形態と進化. 裳華房. p. 205. ISBN 978-4785358716 
  11. ^ a b c 清水建美 (2001). 図説 植物用語事典. 八坂書房. p. 260. ISBN 978-4896944792 
  12. ^ アーネスト M. ギフォードエイドリアンス S. フォスター『維管束植物の形態と進化 原著第3版』長谷部光泰鈴木武植田邦彦監訳、文一総合出版、2002年4月10日、332–484頁。ISBN 4-8299-2160-9 
  13. ^ a b c 大澤毅守 (1997). “ネズミサシ”. 週刊朝日百科 植物の世界 11. pp. 196–200. ISBN 9784023800106 
  14. ^ ハイネズ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2024年1月6日閲覧。
  15. ^ a b c d e f g h i j k l m コニファーガーデン―園主が教える選び方・育て方 (コツのコツシリーズ). 農山漁村文化協会. (2007). ISBN 978-4540051784 
  16. ^ 辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、57頁。ISBN 4-12-101238-0 
  17. ^ a b c d ブルーパシフィック”. 花と緑の図鑑 Garden vision. 2024年1月6日閲覧。
  18. ^ a b c d ハイネズ(シルバーミスト)の特徴や育て方、剪定の時期や方法などの紹介【コニファー】”. BEGINNERS GARDEN (2022年10月12日). 2024年1月6日閲覧。
  19. ^ a b c 尾上信行 (2006). コニファー きれいに育てる全テクニック 大人の園芸ブックス. 小学館. ISBN 978-4093052429 
  20. ^ a b 花工房 シルバーミスト
  21. ^ 栗原正芳 (2000). すてきなコニファーガーデン. 主婦と生活社. ISBN 978-4391124590 
  22. ^ Juniperus rigida”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2024年1月3日閲覧。
  23. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Juniperus conferta Parl. var. maritima E.H.Wilson ex Nakai”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年1月7日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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